(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ(HUD)用プロジェクションアセンブリ
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20240510BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20240510BHJP
B60J 1/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
B60J1/00 H
B60J1/02 M
(21)【出願番号】P 2022562829
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2021056299
(87)【国際公開番号】W WO2021209201
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-12-05
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【氏名又は名称】日浅 里美
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ハーゲン
(72)【発明者】
【氏名】ポリーヌ ジラール
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/046157(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/179683(WO,A1)
【文献】特開2019-182738(JP,A)
【文献】特開平10-148787(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100991(WO,A1)
【文献】特開2018-24561(JP,A)
【文献】特開2019-91040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C27/12
B60J1/00-1/20
G02B27/01
C03C17/34-17/42
B32B27/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 熱可塑性の中間層(3)を介して互いに連結された外側のペイン(1)及び内側のペイン(2)を含む複合ペイン(10)であって、HUD領域(B)を有する複合ペイン;
- 前記中間層(3)に面する、前記外側のペイン(1)若しくは前記内側のペイン(2)の表面(II,III)上の、又は前記中間層(3)内の、p偏光放射線を反射するのに適しているHUD反射層;
- 前記HUD領域(B)に向けられており、p偏光放射線を放出するHUDプロジェクター(4);及び
- 前記内側のペイン(2)の、前記中間層(3)とは反対側の表面(IV)上の、少なくとも1.7の屈折率を有する高屈折率コーティング(30)
を少なくとも含むヘッドアップディスプレイ(HUD)用プロジェクションアセンブリであって、
前記高屈折率コーティング(30)が、ゾル-ゲルコーティングであ
り、
前記高屈折率コーティング(30)の屈折率が勾配を有し、この屈折率は、前記複合ペイン(10)の下側端部(U)から上側端部(O)の方向に減少する、ヘッドアップディスプレイ(HUD)用プロジェクションアセンブリ。
【請求項2】
- 熱可塑性の中間層(3)を介して互いに連結された外側のペイン(1)及び内側のペイン(2)を含む複合ペイン(10)であって、HUD領域(B)を有する複合ペイン;
- 前記中間層(3)に面する、前記外側のペイン(1)若しくは前記内側のペイン(2)の表面(II,III)上の、又は前記中間層(3)内の、p偏光放射線を反射するのに適しているHUD反射層;
- 前記HUD領域(B)に向けられており、p偏光放射線を放出するHUDプロジェクター(4);及び
- 前記内側のペイン(2)の、前記中間層(3)とは反対側の表面(IV)上の、少なくとも1.7の屈折率を有する高屈折率コーティング(30)
を少なくとも含むヘッドアップディスプレイ(HUD)用プロジェクションアセンブリであって、
前記高屈折率コーティング(30)が、ゾル-ゲルコーティングであり、
前記複合ペイン(10)が、前記外側のペイン(1)の、前記中間層(3)とは反対側の表面(I)に高屈折率コーティング(30)をさらに備える、ヘッドアップディスプレイ(HUD)用プロジェクションアセンブリ。
【請求項3】
前記プロジェクター(4)の前記放射線が、58°~72°、好ましくは62°~68°の入射角で前記複合ペイン(10)に当たる、請求項1
又は2に記載のプロジェクションアセンブリ。
【請求項4】
前記高屈折率コーティング(30)の屈折率が、少なくとも1.8、好ましくは少なくとも1.9、特に好ましくは少なくとも2.0である、請求項1
~3のいずれか一項に記載のプロジェクションアセンブリ。
【請求項5】
前記高屈折率コーティング(30)が、窒化ケイ素、混合ケイ素-金属窒化物、窒化アルミニウム、酸化スズ、酸化マンガン、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化ビスマス、酸化チタン、混合スズ-亜鉛酸化物、酸化ジルコニウム、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化ランタン、又は酸化セリウムを含有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載のプロジェクションアセンブリ。
【請求項6】
前記高屈折率コーティング(30)の厚さが、最大で100nm、好ましくは最大で50nm、特に好ましくは最大で30nm、最も特に好ましくは最大で10nmである、請求項1~
5のいずれか一項に記載のプロジェクションアセンブリ。
【請求項7】
前記高屈折率コーティング(30)が、酸化チタン又は酸化ジルコニウムを含有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載のプロジェクションアセンブリ。
【請求項8】
反射係数R
20/R
IVが少なくとも50:1であり、それぞれ、R
20は、p偏光放射線に対する前記反射層の反射率であり、R
IVは、p偏光放射線に対する前記高屈折率コーティング(30)を備える前記表面(IV)の反射率である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のプロジェクションアセンブリ。
【請求項9】
前記高屈折率コーティング(30)が、前記内側のペイン(2)の前記表面(IV)全体にわたっては適用されていないが、少なくとも、前記HUD領域(B)を含有する前記表面(IV)の領域には適用されている、請求項1~
8のいずれか一項に記載のプロジェクションアセンブリ。
【請求項10】
前記HUD反射層が、少なくとも1つの電気伝導性層、好ましくは銀に基づく電気伝導性層を含む薄膜スタックとして実装されたHUD反射コーティング(20)である、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロジェクションアセンブリ。
【請求項11】
前記HUD反射層が、誘電体層だけを含有する薄膜スタックとして実装されたHUD反射コーティング(20)である、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロジェクションアセンブリ。
【請求項12】
前記HUD反射層が、複数のポリマープライを含むポリマーフィルムであり、より高い屈折率を有するプライとより低い屈折率を有するプライが、交互に配置されている、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロジェクションアセンブリ。
【請求項13】
前記外側のペイン(1)及び前記内側のペイン(2)が、ソーダ石灰ガラスでできている、請求項1~1
2のいずれか一項に記載のプロジェクションアセンブリ。
【請求項14】
前記複合ペイン(10)が、乗用車のフロントガラスである、請求項1~1
3のいずれか一項に記載のプロジェクションアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイ用のプロジェクションアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
現代の自動車には、ますますいわゆるヘッドアップディスプレイ(HUD)が装備されている。プロジェクターにより、典型的にはダッシュボードの領域において、画像が、フロントガラス(ウィンドシールド)の上に投影され、そこで反射され、ドライバーによって(ドライバーの視点から)フロントガラスの後ろの仮想イメージとして知覚される。したがって、重要なデータ、例えば現在の走行速度、ナビゲーション、又は警告メッセージをドライバーの視野へ投影することができ、ドライバーは、道路から視線をそらす必要なくこれらを知覚することができる。したがって、ヘッドアップディスプレイは、交通安全の向上に大きく貢献できる。
【0003】
HUDプロジェクターは、典型的には約65°の入射角でフロントガラスを照射し、これは、フロントガラスの設置角度、及び乗り物中のプロジェクターの位置に起因する。この入射角は、空気/ガラス遷移のブリュースター角(ソーダ石灰ガラスについておよそ56.5°)に近い。従来のHUDプロジェクターは、そのような入射角でガラス表面によって効果的に反射されるs偏光放射線を放出する。プロジェクター画像がフロントガラスの両方の外表面で反射されるという問題が生じる。その結果として、所望の一次画像に加えて、わずかにオフセットした二次画像、いわゆるゴースト画像(「ゴースト」)も現れる。この問題は、通常、表面を互いに対して角度をつけて配置することによって、特に、一次画像及びゴースト画像が互いの上に重ねられるように、複合ペインとして実装されるフロントガラスのラミネート加工にウェッジ状(くさび状)の中間層を用いることによって、緩和される。HUD用のウェッジフィルムを含む複合ガラスは、例えば、WO2009/071135A1、EP1800855B1、又はEP1880243A2により知られている。
【0004】
ウェッジフィルムは高価であるため、HUD用のそのような複合ペインの製造にはかなりのコストがかかる。したがって、ウェッジフィルムを用いないフロントガラスで作動するHUDプロジェクションアセンブリに対する必要がある。例えば、ペイン表面によってあまり反射されないp偏光放射線でHUDプロジェクターを作動させることが可能である。代わりに、フロントガラスは、p偏光放射線のための反射面として反射コーティング、特に、金属層及び/又は誘電体層を有する。このタイプのHUDプロジェクションアセンブリは、例えば、DE102014220189A1、US2017242247A1、WO2019046157A1、WO2019179682A1、及びWO2019179683A1により知られている。
【0005】
しかし、入射角がブリュースター角と正確に等しい場合に限り、p偏光放射線の反射はガラス表面上で完全に抑制される。およそ65°の典型的な入射角はブリュースター角に近いが、それから著しく外れているため、ガラス表面からのプロジェクター放射の一定の残留反射が生じる。外側のペインの外側表面からの反射は、反射コーティングにおける放射反射の結果として減衰するが、反射が、弱いながらもなお気を散らすゴースト画像として特に内側のペインの内側表面に現れることがある。加えて、65°の入射角は、フロントガラス上の1点のみを指す。しかし、HUDプロジェクターは、フロントガラス上のより大きいHUD領域を照射するため、より大きい入射角、例えば最大68°又は最大72°のより大きい入射角が局所的に生じることがある。そこでは、ブリュースター角からのずれがさらに顕著であるため、ゴースト画像がさらに強く現れる。加えて、自動車メーカー間で、フロントガラスをより浅く設置する顕著な傾向がある。これにより、入射角が大きくなり、したがってブリュースター角からのずれも大きくなる。
【0006】
WO2019179682A1、WO2019179683A1、WO2019206493A1、及びUS20190064516A1は、内側表面の反射率を低減するために内側表面に反射防止コーティングを備える、HUDプロジェクションアセンブリ用のフロントガラスを開示する。
【0007】
EP0844507A1は、フロントガラスがp偏光放射線を用いて照射される別のHUDプロジェクションアセンブリを開示する。ブリュースター角を入射角に適合させて、それによりペインの表面での残留反射を回避するために、光学的に高屈折率のコーティング(「ブリュースター角調整フィルム」)が内側のペインの内側表面に適用される。コーティングは酸化チタンでできており、ペインの表面の上にスパッタリングされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、HUD画像が反射コーティングからのp偏光放射線の反射によって生成され、ガラス表面からの干渉残留反射が低減された、改善されたHUDプロジェクションアセンブリを提供することである。
【0009】
本発明の目的は、請求項1に係るプロジェクションアセンブリによって本発明により達成される。好ましい実施態様は、従属クレームにおいて開示される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
以下において、本発明は、図面及び例示的な実施態様を参照して詳細に説明される。図面は概略図であり、縮尺どおりではない。図面は本発明を制限するものではない。
【0011】
それらは、次のものを表す:
【
図1】
図1は、一般的なプロジェクションアセンブリの複合ペインの平面図である。
【
図2】
図2は、一般的なプロジェクションアセンブリの断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係るプロジェクションアセンブリの複合ペインの断面図である。
【
図4】
図4は、(それ自体はクレームされていない)内側のペイン上の本発明に係る反射コーティングの実施態様の断面図である。
【
図5】
図5は、(それ自体はクレームされていない)内側のペイン上の本発明に係る反射コーティングの別の実施態様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ガラス表面、特に内側のペインの内側表面からのp偏光放射線のわずかな反射によって引き起こされるゴースト画像をより気を散らしにくいものにするために、所望の反射と望ましくない反射との間のコントラストを増加させることが必要である。したがって、反射コーティングからの反射と内側表面からの反射との比は、前者の反射に有利になるように推移させる必要がある。直観的には、この目的のために、この内側表面からの反射を低減するために、内側表面に反射防止コーティングを適用することは明らかであるように思われる。代わりに、本発明は、内側のペインの内側表面上の光学的に高屈折率のコーティングに基づき、これは、実際に全体的な反射を増加させるのに適している。したがって、それは反射増強コーティングとも呼ばれる。内側表面の全体的な反射率は増加するが、p偏光放射線では、ゴースト画像は、所望の一次画像に対してあまり目立たなく見える。当業者にとって、これは最初は予想外で驚くべきものである。
【0013】
本発明者らによる説明によれば、効果は、高屈折率コーティングに由来する内側表面の屈折率の増加に基づく。これは、界面でのブリュースター角αブリュースターを増加させる。なぜならば、これは、αブリュースター=arctan(n2/n1)(式中、n1は空気の屈折率であり、n2は放射線が当たる材料の屈折率である。)として決定されることが知られているためである。高い屈折率を有する高屈折率コーティングは、ガラス表面の有効屈折率の増加をもたらし、したがってブリュースター角を、コーティングされていないガラス表面と比較してより大きい値にシフトさせる。その結果として、乗り物におけるHUDプロジェクションアセンブリの従来の幾何学的な関係において、入射角とブリュースター角との差はより小さくなり、その結果、内側表面からのp偏光放射線の反射が抑制され、それによって生成されるゴースト画像が弱められる。これは、本発明の主な利点である。
【0014】
ヘッドアップディスプレイ(HUD)用の本発明に係るプロジェクションアセンブリは、複合ペイン及びHUDプロジェクターを含む。HUDには通例のように、プロジェクターは複合ペインの領域を照射し、そこでは、放射線が見る人の方向に反射されて仮想イメージを生成し、見る人は、それを自分の視点からフロントガラスの後ろにあるように知覚する。プロジェクターが照射することができるフロントガラスの領域は、HUD領域と呼ばれる。プロジェクターのビーム方向は、見る人の高さに投影を適合させるために、典型的には、ミラーによって、特に垂直方向に変更することができる。所与のミラー位置で、見る人の目が位置していなければならない領域は、「アイボックスウィンドウ」と呼ばれる。このアイボックスウィンドウは、ミラーの調節によって垂直方向にシフトさせることができ、したがって利用可能な全体の領域(すなわちあらゆる可能なアイボックスウィンドウの重ね合わせ)は、アイボックスと呼ばれる。アイボックス内に位置する見る人は、仮想イメージを知覚することができる。これは、当然、全身ではなく見る人の目が、アイボックス内に位置していなければならないことを意味する。
【0015】
HUDの分野からの本開示で用いられる技術用語は、当業者に通常知られている。詳細なプレゼンテーションについては、ミュンヘン工科大学のコンピュータ科学協会のAlexander Neumannの論文“Simulation-Based Measurement Technology for Testing Head-Up Displays”(ミュンヘン:ミュンヘン工科大学の大学図書館)、特に、第2章“The Head-Up Display”を参照されたい。
【0016】
本発明に係る複合ペインは、好ましくは、乗り物、特に自動車、例えば乗用車又はトラックのフロントガラスである。プロジェクター放射をフロントガラスで反射させて、ドライバー(見る人)に知覚可能な画像を生成するHUDは、特に一般的である。しかし、原理的には、HUD投影を他のペイン、特に乗り物のペイン、例えばサイドウィンドウ又はリヤウインドウの上に投影することも考えられる。サイドウィンドウのHUDは、例えば、衝突が差し迫っている人又は他の乗り物に、その位置がカメラ又は他のセンサーによって検出された際に印をつけることができる。リヤウインドウのHUDは、後退する際に、ドライバーに情報を提供することができる。
【0017】
複合ペインは、熱可塑性の中間層を介して互いに連結される外側のペイン及び内側のペインを含む。複合ペインは、乗り物の窓開口部において、外部環境から内部を分離することが意図される。本発明の文脈において、用語「内側のペイン」は、乗り物の内部に面する複合ペインのペインを指す。用語「外側のペイン」は、外部環境に面するペインを指す。
【0018】
複合ペインは、上側端部及び下側端部、並びにそれらの間に延在する2つの側端部を有する。「上側端部」は、設置位置において上方へ向くことが意図される端部を指す。「下側端部」は、設置位置において下方へ向くことが意図される端部を指す。フロントガラスの場合、上側端部は「ルーフ端部」と呼ばれることも多く;下側端部は「エンジン端部」と呼ばれることも多い。
【0019】
外側のペイン及び内側のペインは、それぞれ、外側表面及び内側表面、並びにそれらの間に延在する周囲側端部を有する。本発明の文脈において、「外側表面」は、設置位置において、外部環境に面することが意図される主面を指す。本発明の文脈において、「内側表面」は、設置位置において、内部に面することが意図される主面を指す。外側のペインの内側表面及び内側のペインの外側表面は互いに面しており、熱可塑性の中間層により互いに連結される。
【0020】
プロジェクター(HUDプロジェクター)は、複合ペインのHUD領域に向けられる。プロジェクターは複合ペインの内側に配置され、内側のペインの内側表面を介して複合ペインを照射する。プロジェクターの放射は、少なくとも部分的にp偏光され、p偏光放射線成分は、好ましくは少なくとも80%である。プロジェクターの放射は、好ましくは完全に、又はほとんど完全にp偏光される(本質的に純粋にp偏光される)p偏光放射線成分は、100%であるか、そこからわずかだけ外れる。偏向方向の指標は、複合ペイン上の放射線の入射面に基づく。表現「p偏光放射線」は、電場が入射面において振動する放射線を指す。「S偏光放射線」は、電場が入射面に対して垂直に振動する放射線を指す。入射面は、入射のベクトル、及び照射領域の幾何学的中心における複合ペインの表面法線によって生成される。
【0021】
HUDの動作中に、プロジェクターによって放出されたp偏光放射線は、HUD投影を生成するためにHUD領域を照射する。プロジェクターの放射は、電磁スペクトルの可視スペクトル範囲にある-典型的なHUDプロジェクターは、波長473nm、550nm、及び630nm(RGB)にて動作する。HUDプロジェクションアセンブリの典型的な入射角が、空気/ガラス遷移のブリュースター角(56.5°~56.6°、ソーダ石灰ガラス、n2=1.51~1.52)に比較的近いため、p偏光放射線は、ペイン表面でほとんど反射されない。したがって、内側のペインの内側表面及び外側のペインの外側表面からの反射によるゴースト画像は、低い強度でのみ生じる。ゴースト画像の回避に加えて、p偏光放射線の使用はさらに、HUD画像が、典型的にはp偏光放射線だけを通過させ、s偏光放射線をブロックする偏光選択的なサングラスの着用者にとって認識可能であるという利点を有する。
【0022】
プロジェクター放射の入射角は、プロジェクター放射の入射のベクトル及び内側表面法線(すなわち複合ペインの内側外表面上の表面法線)間の角度である。典型的なHUDアセンブリでは、複合ペインへのプロジェクター放射の入射角はほぼ65°である。特に、この値は、乗用車の典型的なフロントガラスの設置角度(65°)と、プロジェクターが正確に下からペインを照射する;すなわち、プロジェクター放射は実質的に垂直に放出されるという事実に由来する。通常、HUD領域の幾何学的中心を用いて入射角が決定される。しかし、照射されるのは単一の点ではなくむしろ領域(すなわち、HUD領域)であり、加えて、HUD画像が様々な高さの見る人によって知覚されることができるように、プロジェクター放射は、一定の範囲内で(レンズ及びミラーなどの投影要素を介して)調節することができるため、実際には、HUD領域において、入射角の分布がある。この入射角の分布は、プロジェクションアセンブリの設計の基礎として用いられる必要がある。生じる入射角は、典型的には58°~72°、好ましくは62°~68°である。これらの値は、HUD領域のどの点においても、言及された範囲の外側の入射角が存在しないように、HUD領域全体を参照する。
【0023】
(反射係数R20/RIV(R20をRVIで割ったもの)として表される)反射コーティングのp偏光放射線に対する反射率R20と、反射増強コーティングを有する内側のペインの内側表面のp偏光放射線に対する反射率RIVとの比は、具体的にはHUD領域で生じるすべての入射角において、好ましくは少なくとも50:1であり、特に好ましくは少なくとも100:1である。反射率は、反射されるp偏光放射線の合計の割合を記述する。それは、(100%の入射放射に対する)パーセンテージ、又は(入射放射に対して規格化された)0~1の単位がない数として示される。波長の関数としてプロットされると、それは反射スペクトルを形成する。反射率に関するデータは、100%の規格化された放射強度で380nm~780nmのスペクトル範囲において均一に放射する発光体Aの光源を用いた反射率測定に基づく。
【0024】
ガラス表面での低い反射にもかかわらずHUD画像を作り出すために、本発明に係る複合ペインは反射層を備える。反射層は、プロジェクターの放射を反射する目的で提供される。このために、反射層は、特に、p偏光放射線を反射するのに適している。その結果として、仮想イメージがプロジェクター放射から生成され、見る人(特に、乗り物のドライバー)は、その画像を自分の視点から複合ペインの後ろにあるように知覚することができる。本発明によれば、反射層は、複合ペインの内部に配置される。それは、中間層に面する外側のペインの内側表面、又は中間層に面する内側のペインの外側表面に反射コーティングとして配置することができる。代わりに、反射層は、例えば2つの結合フィルムの間に配置されたキャリアフィルムに適用された反射コーティングとして、又はコーティングのない反射性ポリマーフィルムとして、中間層内に配置することができる。典型的なキャリアフィルムはPETでできており、例えば50μmの厚さを有する。
【0025】
反射層は透明であり、これは、本発明の文脈において、それが、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%の可視スペクトル範囲における平均透過率を有し、したがって複合ペインを通しての視覚を実質的に制限しないことを意味する。原理的には、複合ペインのHUD領域が反射層を備えていれば十分である。しかし、他のエリアも反射層を備えていてよく、複合ペインは、実質的にその表面全体にわたって反射層を備えていてよく、このことは、製造技術上の理由から好ましい場合があり、特に、反射層が反射コーティングとして実装される場合に好ましい場合がある。本発明の1つの実施態様において、ペイン表面の少なくとも80%が反射コーティングを備える。特に、反射コーティングは、ペイン表面に、周囲端部領域を除いて、その表面全体にわたって適用され、任意選択的に、通信ウィンドウ、センサーウィンドウ、又はカメラウィンドウとしてフロントガラスを通る電磁放射線の透過率を保証することが意図される局所的な領域は、したがって反射コーティングを備えていない。周囲のコーティングされていない端部領域は、例えば最大で20cmの幅を有する。それは、反射コーティングと周囲大気との直接の接触を防止し、その結果、反射コーティングは、複合ペインの内部で腐食及び損傷から保護される。
【0026】
本発明は、反射層がプロジェクター放射の反射に適している限り、特定の反射層に制限されない。高い強度を作り出すために、反射層は、p偏光放射線に対して、特に450nm~650nmのスペクトル範囲において高い反射率を有するのがよく、この範囲は、HUDディスプレイに関連する(HUDプロジェクターは、典型的には波長473nm、550nm、及び630nm(RGB)で動作する)。反射層を備える複合ペインは、好ましくは、450nm~650nmのスペクトル範囲において、少なくとも15%の、特に好ましくは少なくとも20%のp偏光放射線に対する平均反射率を有する。これにより、十分に高い強度の投影画像が生成される。反射率が、示されたスペクトル範囲内のどの点でも示された値を下回らないように、450nm~650nmのスペクトル範囲全体における反射率が、少なくとも15%、好ましくは少なくとも20%である場合に、特に良好な結果が達成される。データは、100%の規格化された放射強度で、検討中のスペクトル範囲において均一に放射する光源を用いて測定された、内側表面法線に対して65°の入射角で測定された反射率に基づく。
【0027】
可能な限りカラーニュートラルなプロジェクター画像の表示を得るために、反射スペクトルは、p偏光放射線に対して可能な限り滑らかであるのがよく、顕著な極小値と極大値を有さないのがよい。この点に関して好ましい実施態様では、450nm~650nmのスペクトル範囲において、最大で生じる反射率と反射率の平均との差、及び最小で生じる反射率と反射率の平均との差は、最大で3%、特に好ましくは最大で2%であるのがよい。得られた差は、平均に対するパーセンテージ偏差としてではなく、(%において報告される)反射率の絶対偏差として理解されたい。代わりに、反射スペクトルの滑らかさの尺度として、450nm~650nmのスペクトル範囲における標準偏差を用いることができる。それは、好ましくは1%未満、特に好ましくは0.9%未満、最も特に好ましくは0.8%未満である。
【0028】
本発明の1つの実施態様において、反射層は反射コーティングである。反射コーティングは、好ましくは薄膜スタック、すなわち薄い個々の層の層シーケンスである。所望の反射特性は、特に、個々の層の材料及び厚さの選択によって達成される。したがって、反射コーティングは、適切に調節することができる。
【0029】
本発明の1つの実施態様において、反射コーティングは、反射効果の主な原因である少なくとも1つの電気伝導性層を有する。電気伝導性層は、金属含有層であっても、透明な伝導性酸化物(TCO)に基づく層であってもよい。金属含有層は、例えば、銀、金、アルミニウム、又は銅に基づくことができる。一般的なTCOは、特に、インジウムスズ酸化物(ITO)である。
【0030】
典型的に、誘電体の層又は層シーケンスは、電気伝導性層の上方及び下方に配置される。反射コーティングが複数の伝導性層を含む場合、各伝導性層は、それぞれ、好ましくは、誘電体の層又は層シーケンスが隣接した伝導性層間に配置されるように、典型的には2つの誘電体の層又は層シーケンス間に配置される。したがって、コーティングは、n個の電気伝導性層と、(n+1)個の誘電体の層又は層シーケンスとを含む薄膜スタックであり、nは自然数であり、それぞれ、下側誘電体の層又は層シーケンスの後に、伝導性層及び誘電体の層又は層シーケンスが交互に続く。そのようなコーティングは、太陽光保護コーティング、及び加熱可能なコーティングとして知られている。少なくとも1つの電気伝導性層により、反射コーティングはIRを反射する特性を有し、その結果、それは、熱放射の反射によって乗り物の内部の加熱を低減する太陽光保護コーティングとして機能する。反射コーティングは、それが電気的に接触される場合に、反射コーティングを加熱する電流がそれを通って流れるような加熱コーティングとして用いることもできる。
【0031】
好ましい実施態様において、反射コーティングは、銀(Ag)に基づく少なくとも1つの電気伝導性層を有する。伝導性層は、好ましくは少なくとも90質量%の銀、特に好ましくは少なくとも99質量%の銀、最も特に好ましくは少なくとも99.9質量%の銀を含有する。銀層は、ドーパント、例えば、パラジウム、金、銅、又はアルミニウムを有することができる。銀層の厚さは、通常5nm~20nmである。
【0032】
そのような薄膜スタックの一般的な誘電体層は、例えば、以下である:
- 可視光の反射を低減し、したがってコーティングされたペインの透過率を増加させる反射防止層、例えば、窒化ケイ素、ケイ素-ジルコニウム窒化物等の混合ケイ素-金属窒化物、酸化チタン、窒化アルミニウム、又は酸化スズに基づく反射防止層、層の厚さは、例えば、10nm~100nm;
- 電気伝導性層の結晶性を改善する整合層、例えば、酸化亜鉛(ZnO)に基づく整合層、層の厚さは、例えば、3nm~20nm;
- 重なる層の表面構造を改善する平滑化層、例えば、スズ、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、亜鉛、ガリウム、及び/又はインジウムの非晶質の酸化物に基づく平滑化層、特に、混合スズ-亜鉛酸化物(ZnSnO)に基づく平滑化層、層の厚さは、例えば、3nm~20nm。
【0033】
少なくとも1つの電気伝導性層により、そのようなコーティングは、可視スペクトル範囲における反射特性を有し、これは、p偏光放射線に対して常に一定の程度で生じる。p偏光放射線に対する反射は、具体的には層の厚さ、特に、誘電体層シーケンスの層の厚さの適切な選択によって最適化することができる。
【0034】
電気伝導性層及び誘電体層に加えて、反射コーティングは、ブロッキング層をさらに含むことができ、それは伝導性層を変質から保護する。ブロッキング層は、典型的には、ニオブ、チタン、ニッケル、クロム、及び/又はアロイに基づく非常に薄い金属含有層であり、その層厚さは、例えば0.1nm~2nmである。
【0035】
反射コーティングは、必ずしも電気伝導性層を含む必要はない。本発明の別の実施態様において、薄膜スタック全体は、誘電体層から形成される。層シーケンスは、高屈折率層及び低屈折率層を交互に含む。そのような層シーケンスの反射挙動は、具体的には、干渉効果の結果として、材料及び層の厚さの適切な選択によって調節することができる。したがって、可視スペクトル範囲におけるp偏光放射線に対する効果的な反射を有する反射コーティングを実装することが可能である。高屈折率層(光学的に高屈折率の層)は、好ましくは1.8を超える屈折率を有する。低屈折率層(光学的に低屈折率の層)は、好ましくは1.8未満の屈折率を有する。薄膜スタックの最上層及び最下層は、好ましくは光学的に高屈折率の層である。光学的に高屈折率の層は、好ましくは、窒化ケイ素、スズ-亜鉛酸化物、ケイ素-ジルコニウム窒化物、又は酸化チタンに基づき、特に好ましくは窒化ケイ素に基づく。光学的に低屈折率の層は、好ましくは酸化ケイ素に基づく。高屈折率層及び低屈折率層の総数は、好ましくは3~15、特に、8~15である。これにより、層構造を複雑にしすぎることなく、反射特性の適切な設計が可能となる。誘電体層の層厚さは、好ましくは、30nm~500nm、特に好ましくは50nm~300nmであるのがよい。
【0036】
別の実施態様において、本発明に係る反射層は、反射コーティングを有さないが、代わりに、本質的に反射する特性を有するポリマーフィルムとして実装される。この目的のために、ポリマーフィルムは、好ましくは異なる屈折率を有する複数のポリマープライ(層)を含み、より高い屈折率を有するプライとより低い屈折率を有するプライが、交互に配置される。この場合、同様に、反射効果は、特に、高屈折率のポリマープライと低屈折率のポリマープライが交互になっていることにより生じる干渉効果に基づく。
【0037】
本発明によれば、複合ペインは、光学的に高い屈折率のコーティングを備え、それは、内側のペインの、中間層とは反対側の内側表面に配置される。本発明の文脈において、高屈折率コーティングは、それが典型的にはコーティング表面の全体的な反射率を増加させるため、反射増強コーティングとも呼ばれる。本発明によれば、反射増強コーティングは、反射増強効果の基礎となる少なくとも1.7の屈折率を有する。驚くべきことに、反射増強コーティングは、内側のペインの内側表面からのHUDゴースト画像の任意の増強をもたらさないが、代わりに、反射コーティングからの所望の反射がより高いコントラストで現われるように、それを弱める。
【0038】
用語「反射増強コーティング」は、反射増強効果がp偏光放射線に関連することを意味すると解釈されるべきでない。反射増強コーティングは、検討中の入射角におけるプロジェクターのp偏光放射線に対する反射を増加させることを意図したものではない。代わりに、その高い屈折率のために、反射増強コーティングは、特に、ブリュースター角から著しく外れる入射角において、可視スペクトル範囲における全体的な反射の増加を生じさせる。より明瞭な概念の区別のために、反射コーティングを「HUD反射コーティング」;反射増強コーティングを「全反射増強コーティング」と呼ぶこともできる。
【0039】
反射増強コーティングの屈折率は、好ましくは少なくとも1.8、特に好ましくは少なくとも1.9、最も特に好ましくは少なくとも2.0である。これにより特に良好な結果が達成される。屈折率は、好ましくは最大で2.5である-屈折率のさらなる増加は、p偏光放射線の点でさらなる改善をもたらさないが、全体的な反射率を増加させる。
【0040】
本発明の文脈において、屈折率は、原則として、550nmの波長に基づいて規定される。別段の示唆がない限り、層の厚さ又は厚さの表示は、層の幾何学的な厚さを指す。
【0041】
反射増強コーティングは、好ましくは単層から形成され、この層の下方又は上方に他の層を有さない。単層は、本発明に係る効果を達成するのに十分であり、層スタックを適用するより技術的に簡単である。しかし、原理的には、反射増強コーティングは、複数の個々の層を含むこともでき、これは、個々の場合での特定パラメータを最適化するのに望ましい場合もある。
【0042】
反射増強コーティングに適している材料は、窒化ケイ素(Si3N4)、混合ケイ素-金属窒化物(例えば、ケイ素-ジルコニウム窒化物(SiZrN)、混合ケイ素-アルミニウム窒化物、混合ケイ素-ハフニウム窒化物、又は混合ケイ素-チタン窒化物)、窒化アルミニウム、酸化スズ、酸化マンガン、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化ビスマス、酸化チタン、混合スズ-亜鉛酸化物、及び酸化ジルコニウムである。加えて、遷移金属酸化物(たとえば酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化タンタル又はランタニド酸化物(たとえば酸化ランタン又は酸化セリウム))を用いることもできる。反射増強コーティングは、好ましくは、これらの材料の1種又はそれより多くを含有するか、これらの材料に基づく。
【0043】
反射増強コーティングは、その機能を果たすのに特に厚い必要はない。光学特性、特に光透過率の点、及び生産コストの点では、反射増強コーティングは可能な限り薄いことが有利である。しかし、複合ペインの全体的な美観を最適化するために、より高い層厚さが望まれることもある。有利な実施態様において、反射増強コーティングの厚さは、最大で100nm、好ましくは最大で50nm、特に好ましくは最大で30nm、最も特に好ましくは最大で10nmである。反射増強コーティングの最小厚さは、好ましくは5nmである。
【0044】
原理的には、そのような反射増強コーティングは、物理又は化学気相堆積によって適用することができる、すなわち、そのような反射増強コーティングは、PVD又はCVDコーティング(PVD:物理気相堆積、CVD:化学気相堆積)であってよい。そのようなコーティングは、特に高い光学的品質、及び特に薄い厚さで製造することができる。PVD又はCVDコーティングの厚さは、例えば、最大で30nm、又は最大で15nm、又は最大で10nmである。適している材料は、特に、窒化ケイ素、混合ケイ素-金属窒化物(例えば、ケイ素-ジルコニウム窒化物、混合ケイ素-アルミニウム窒化物、混合ケイ素-ハフニウム窒化物、又は混合ケイ素-チタン窒化物)、窒化アルミニウム、酸化スズ、酸化マンガン、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化ビスマス、酸化チタン、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、又は混合スズ-亜鉛酸化物である。PVDコーティングはカソードスパッタリング(「スパッター」)により適用されたコーティング、特に、マグネトロン増強カソードスパッタリング(「マグネトロンスパッター」)により適用されたコーティングであってよい。
【0045】
本発明によれば、他方で、反射増強コーティングはゾル-ゲルコーティングである。湿式化学的手法としてのゾル-ゲル法の利点は、柔軟性が高いことであり、それは、例えば、簡単な方法で、ペイン表面の一部にのみコーティングを提供でき、カソードスパッタリングなどの他の気相堆積法と比較して低コストである。しかし、ゾル-ゲルコーティングは、通常、スパッターコーティングほど薄く適用することができない。ゾル-ゲルコーティングの厚さは、好ましくは最大で100nm、特に好ましくは最大で50nm、最も特に好ましくは最大で30nmである。ゾル-ゲルコーティングは、好ましくは、本発明に係る屈折率を達成するために、酸化チタン又は酸化ジルコニウムを含有する。
【0046】
ゾル-ゲル法において、最初に、コーティングの前駆体を含有するゾルが提供され、熟成される。熟成は、前駆体の加水分解、及び/又は前駆体間の(部分的な)反応を含むことができる。前駆体は、通常、溶媒、好ましくは水、アルコール(特にエタノール)、又は水-アルコール混合物中に存在する。
【0047】
1つの実施態様において、ゾル-ゲルコーティングは、酸化チタン又は酸化ジルコニウムに基づく。この場合、ゾルは、酸化チタン又は酸化ジルコニウムの前駆体を含有する。
【0048】
別の実施態様において、ゾル-ゲルコーティングは、屈折率を増強する添加剤を伴う酸化ケイ素に基づく。この場合、ゾルは、好ましくは溶媒中に酸化ケイ素前駆体を含有する。前駆体は、好ましくはシラン、特に、テトラエトキシシラン又はメチルトリエトキシシラン(MTEOS)である。しかし、代わりに、シリケート、特に、ナトリウム、リチウム、又はカリウムのシリケート、例えば、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、テトライソプロピルオルトシリケート、又は一般式R2
nSi(OR1)4-nのオルガノシランも前駆体として用いることができる。ここで、R1は好ましくはアルキル基であり;R2は、アルキル、エポキシ、アクリレート、メタクリレート、アミン、フェニル、又はビニル基であり;nは0~2の整数である。ケイ素のハロゲン化物又はアルコキシドも用いることができる。酸化ケイ素前駆体は、酸化ケイ素のゾル-ゲルコーティングをもたらす。コーティングの屈折率を本発明に係る値に増加させるために、屈折率を増強する添加剤、好ましくは酸化チタン及び/若しくは酸化ジルコニウム、又はそれらの前駆体が、ゾルに加えられる。完成したコーティングにおいて、屈折率を増強する添加剤は、酸化ケイ素マトリクス中に存在する。酸化ケイ素と屈折率を増強する添加剤とのモル比は、所望の屈折率の関数として自由に選択することができ、例えばおよそ1:1である。
【0049】
ゾルは、特に、湿式化学的手法、例えば、ディップコーティング、スピンコーティング、フローコーティングによって、ローラー若しくはブラシを用いた適用によって、又はスプレーコーティングによって、又はプリント法、例えば、パッドプリント若しくはスクリーンプリントによって、内側のペインの内側表面に適用される。これに続いて、溶媒を蒸発させる乾燥を行うことができる。この乾燥は、環境温度で、又は単独の加熱(例えば最大で120℃の温度で)によって、実施することができる。コーティングを基材に適用する前に、表面は、通常、それ自体知られている方法によって洗浄される。
【0050】
次に、ゾルは縮合される。縮合は、例えば最大で500℃の単独の温度処理として、又は典型的には600℃~700℃の温度でのガラス折り曲げプロセスの一部として実施することができる温度処理を含むことができる。前駆体がUV架橋性官能基(例えば、メタクリレート、ビニル、又はアクリレート基)を有する場合、縮合は、UV処理を含んでよい。代わりに、適切な前駆体(例えば、シリケート)について、縮合は、IR処理を含んでよい。任意選択的に、溶媒は、例えば最大で120℃の温度で蒸発させることができる。
【0051】
必要に応じて、適切な細孔形成剤をゾルに加えることにより多孔率を調節することができる。特に、多孔率は、選択的に屈折率を調節するために用いることができる。ポリマーナノ粒子は、例えば、細孔形成剤として用いることができ、好ましくはPMMAナノ粒子(ポリメチルメタクリレート)であり、しかし、代わりに、ポリカーボネート、ポリエステル、若しくはポリスチレン、又はメチル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸のコポリマーのナノ粒子を用いることもできる。ポリマーナノ粒子の代わりに、油のナノ液滴をナノエマルジョンの形態で用いてもよく、界面活性剤又はコアシェル粒子を用いてもよい。当然、異なる細孔形成剤を用いることも考えられる。細孔形成剤は、例えば、細孔形成剤の分解をもたらす熱処理によって、又は溶媒でそれらを溶解することによって、ゾルの縮合の後に任意選択的に除去することができる。特に、有機細孔形成剤は、熱処理中に炭化される。多孔性は、ゾル-ゲルナノ粒子を堆積させることによって作り出すこともできる。
【0052】
本発明の文脈において、第一の層が第二の層「の上に」配置される場合、これは、第一の層が、コーティングが適用される基材から第二の層よりさらに離れて配置されることを意味する。本発明の文脈において、第一の層が第二の層「の下に」配置される場合、これは、第二の層が、第一の層より基材から離れて配置されることを意味する。
【0053】
層が材料に基づく場合、層は、大部分がこの材料からなり、特に、任意の不純物又はドーパントに加えて、この材料から実質的になる。言及された酸化物及び窒化物は、(よりよく理解するために、化学量論的な分子式が記載されているとしても)化学量論的に、亜化学量論的に、又は過化学量論的に堆積することができる。それらは、ドーパント、例えば、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、又はホウ素を有してよい。
【0054】
HUD投影に対する有利な効果を達成するために、反射増強コーティングは、少なくとも内側のペインの内側表面上のHUD領域において配置されなければならない。コーティングは、内側表面全体上の全表面に対して配置することもできる。有利な実施態様において、反射増強コーティングは、内側表面全体上の全表面に対して適用されないが、代わりに、例えば、最大で全表面の5%、好ましくは最大で50%に対応する内側表面のサブ領域にのみ適用される。このサブ領域は、HUD領域全体を含有し、任意選択的に、HUD領域に隣接する他の領域を含むことができる。したがって、例えば、下側端部に隣接する複合ペインの下側サブ領域のみ、特に、複合ペインの下半分のみに、全面的に又は部分的に反射増強コーティングを提供することができる。一方で、全表面にわたって反射増強コーティングを完全には配置しないことによって、材料を節約することができる。他方で、複合ペインの他の機能領域、例えば、典型的には上側端部の近くに配置されるカメラ又はセンサーの領域は、コーティングがないままであってよく、したがって、悪影響を受けないでよい。
【0055】
全面的でない表面コーティングは、気相堆積(例えば、カソードスパッタリング)の場合、マスキング法によって、又はコーティングの後の(例えばレーザー照射、又は機械的研磨による)部分的な除去によって得ることができる。本発明に係るゾル-ゲルコーティングの場合において、全面的でない表面コーティングは、例えば、パッドプリント、スクリーンプリント、ロール若しくはブラシを用いた部分的な適用によって、又はスプレーコーティングによって、又はマスキング技術によって、ゾルが所望の領域にのみ適用されるという点で達成するのがさらに容易である。
【0056】
反射増強コーティングの屈折率は、勾配を有することができる。この場合、屈折率は、好ましくは、複合ペインの下側端部から上側端部(「下から上まで」)の方向に減少する。これは、有利には、屈折率をHUD放射の入射角に局所的に適合させることを可能にし、HUD放射の入射角も典型的には下から上へ減少する。屈折率のそのような勾配は、例えば、本発明に係るゾル-ゲル法において生成することができる。ゾルに、例えば、デカンテーションによって前駆体濃度の勾配を提供することができ、したがってペイン表面に適用することができる。代わりに、例えば、異なる前駆体濃度を有する2つ又はそれより多くのゾルを互いに隣接して接触して適用することができ、濃度勾配が、ゾルが縮合される前に、界面を横切る拡散によって形成される。代わりに、いわゆる「自己層化」システムに基づいて勾配を形成する方法が知られている。
【0057】
反射増強コーティングは、その厚さの点で勾配を有することもできる。例えば、反射増強コーティングの厚さを下側端部から上側端部の方向に(「下から上に」)、又は逆に(「上から下に」)に増加させることができる。厚さ勾配は、例えば、本発明に係るゾル-ゲル法によって作り出すことができ、ここで、ゾルは、適切に設計されたメッシュを通してスクリーンプリントすることによってペイン表面の上にプリントされる。厚さ勾配は、適切なマスクを用いたカソードスパッタリングによって達成することもできる。
【0058】
本発明に係る内側表面への反射増強コーティングの配置は、望ましくないゴースト画像を大いに弱める。原理的には、プロジェクター放射の一定の反射は外側表面にも生じ、同様にゴースト画像をもたらす。しかし、放射線の強度は、この反射の前に反射コーティングでの反射によって既に低減されているため、このゴースト画像はそれほど強く現われず、外側のペインの外側表面での反射は、それほど重大ではない。一次画像に対するこのゴースト画像の相対強度をさらに低減するために、本発明の特に有利な実施態様において、複合ペインは、外側のペインの、中間層とは反対側の外側表面に別の反射増強コーティング(高屈折率コーティング)を備える。したがって、複合ペインは、2つの反射増強コーティングを有し、その具体的な設計は、互いに独立して選択することができる。さらなる反射増強コーティングは、ゾル-ゲルコーティング、又はPVD若しくはCVDコーティングであってもよい。
【0059】
プロジェクター放射の反射は、主として反射コーティングから生じる。ペイン外表面から発せられる残留反射は、反射増強コーティングによってさらに低減される。したがって、ゴースト画像を回避するために、ペイン外表面を互いに対して角度をつけて配置することは必要ではない。したがって、複合ペインの外表面(すなわち、内側のペインの内側表面及び外側のペインの外側表面)は、好ましくは実質的に互いに平行に配置される。この目的のために、熱可塑性の中間層は、好ましくはウェッジ状に実装されず、代わりに、特に、ちょうど内側のペイン及び外側のペインのように、複合ペインの上側端部と下側端部との間の垂直経路においてさえ、実質的に一定の厚さを有する。対照的に、ウェッジ状の中間層は、可変の厚さ、特に、増加する厚さを有する。中間層は、典型的には、少なくとも1つの熱可塑性フィルムから形成される。標準フィルムはウェッジフィルムより著しく経済的であるため、複合ペインの製造は著しくより経済的である。
【0060】
外側のペイン及び内側のペインは、好ましくはガラス、特に、窓ペインで一般的であるソーダ石灰ガラスでできている。しかし、原則として、ペインは、他の種類のガラス(例えば、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス)、又は透明なプラスチック(例えば、ポリメチルメタクリレート又はポリカーボネート)で製造することもできる。外側のペイン及び内側のペインの厚さは、大きく変更することができる。好ましく用いられるのは、0.8mm~5mm、好ましくは1.4mm~2.5mmの範囲の厚さを有するペインであり、例えば1.6mm又は2.1mmの標準厚さを有するものである。
【0061】
内側のペイン、外側のペイン、及び熱可塑性の中間層は、透明で、無色であってよいが、染色されているか着色されていてもよい。好ましい実施態様において、(反射コーティングを含む)フロントガラスの全透過率は70%より大きい(発光体タイプA)。用語「全透過率」は、ECE-R 43、Annex 3、§9.1で指定される自動車窓の光線透過性の試験方法に基づく。外側のペイン及び内側のペインは、互いに独立して、プレストレス処理されていないか、部分的にプレストレス処理されているか、プレストレス処理されていてよい。ペインの少なくとも1つがプレストレス処理されている場合、これは熱又は化学的プレストレス処理であってよい。
【0062】
複合ペインは、好ましくは、自動車の窓ペインに慣用されているように、1又は複数の空間方向に屈曲しており、典型的な曲率半径はおよそ10cm~およそ40mの範囲である。しかし、複合ペインは、例えば、それがバス、列車、又はトラクター用のペインとして意図される場合、平坦であってもよい。
【0063】
熱可塑性の中間層は、少なくとも1種の熱可塑性ポリマー、好ましくは、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、又はポリウレタン(PU)、又はこれらの混合物若しくはコポリマー若しくは誘導体、特に好ましくはPVBを含有する。中間層は、典型的には熱可塑性フィルム(結合フィルム)から形成される。中間層の厚さは、好ましくは0.2mm~2mmであり、特に好ましくは0.3mm~1mmである。
【0064】
複合ペインは、それ自体知られている方法によって製造することができる。外側のペイン及び内側のペインは、中間層を介して、例えば、オートクレーブ法、減圧バッグ法、減圧リング法、カレンダ法、減圧ラミネート装置、又はこれらの組み合わせによって、ともにラミネートされる。外側のペイン及び内側のペインの結合は、通常、熱、減圧、及び/又は圧力の作用の下で行われる。
【0065】
反射層が反射コーティングとして実装される場合、反射コーティングは、好ましくは、ラミネート加工の前に物理気相堆積(PVD)によって、特に好ましくはカソードスパッタリング(スパッタリング)によって、最も特に好ましくはマグネトロン増強カソードスパッタリング(マグネトロンスパッタリング)によって、1つのペイン表面に適用される。1つのペイン表面へ反射コーティングを適用する代わりに、原理的には、それを、中間層中、特に2つの結合フィルム間に配置されたキャリアフィルムに提供することができる。通例のキャリアフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)でできており、10μm~100μm、例えば、50μmの厚さを有する。
【0066】
上に既に記載されているように、反射増強コーティングは、ゾル-ゲル法を用いて、内側のペインの内側表面に適用される。これは、ラミネート加工の前又は後に行うことができる。好ましくは、反射増強コーティングの適用は、ラミネート加工及び任意の折り曲げプロセスの前に行われる。なぜならば、コーティングは、平坦な基材に対してより容易により良好な品質で適用することができるためである。しかし、特に、パッドプリントプロセスは、曲がったペインにも困難なく用いることができる。
【0067】
複合ペインを曲げる場合、外側のペイン及び内側のペインは、好ましくはラミネート加工の前に、好ましくは任意のコーティングプロセスの後に、折り曲げプロセスに供される。好ましくは、外側のペイン及び内側のペインは、ともに一緒に(すなわち、同時に同じツールによって)曲げられる。なぜならば、したがって、ペインの形状が、後に行われるラミネート加工に最適に適合するためである。ガラス折り曲げプロセスについて典型的な温度は、例えば、500℃~700℃である。この温度処理により透過率はさらに増加し、反射コーティングのシート抵抗は低減する。
【0068】
本発明に係るプロジェクションアセンブリを製造するために、内側のペインがプロジェクターに面し、プロジェクターがHUD領域に向くように、複合ペイン及びHUDプロジェクターは互いに対して配置される。
【0069】
本発明はさらに、自動車、特に乗用車又はトラックにおけるHUDとしての本発明に係るプロジェクションアセンブリの使用を含む。
【0070】
図1及び
図2は、それぞれ、HUD用の一般的なプロジェクションアセンブリの詳細を表す。プロジェクションアセンブリは、複合ペイン10、特に、乗用車のフロントガラスを含む。プロジェクションアセンブリは、複合ペイン10の領域に向けられるHUDプロジェクター4をさらに含む。プロジェクター4の放射は完全にp偏光である。通常HUD領域Bと呼ばれるこの領域において、プロジェクター4は、見る人5(乗り物のドライバー)によって、その目がいわゆるアイボックスE内に位置しているときに、見る人とは反対側の複合ペイン10の側に仮想イメージとして知覚される画像を生成することができる。
【0071】
複合ペイン10は、熱可塑性の中間層3を介して互いに連結された外側のペイン1及び内側のペイン2から構成される。その下側端部Uは、乗用車のエンジンの方向に下向きに配置され;その上側端部Oは、ルーフの方向に上向きに配置される。設置位置において、外側のペイン1は外部環境に面し;内側のペイン2は乗り物内部に面する。
【0072】
図3は、本発明に係る実装された複合ペイン10の実施態様を表す。外側のペイン1は、設置位置で外部環境に面する外側表面Iと、設置位置で内部に面する内側表面IIとを有する。同様に、内側のペイン2は、設置位置で外部環境に面する外側表面IIIと、設置位置で内部に面する内側表面IVとを有する。外側のペイン1及び内側のペイン2は、例えばソーダ石灰ガラスでできている。外側のペイン1は、例えば2.1mmの厚さを有し;内側のペイン2は、1.6mm又は2.1mmの厚さを有する。中間層3は、例えば、0.76mmの厚さのPVBフィルムでできている。PVBフィルムは、当分野で一般的な任意の表面粗さは別として、実質的に一定の厚さを有し、それは、いわゆる「ウェッジフィルム」としては実装されない。
【0073】
内側のペイン2の外側表面IIIは、p偏光プロジェクター放射の反射面として意図される本発明に係る反射層を備える。図示された場合において、反射層は反射コーティング20として実装される。
【0074】
反射コーティング20は、p偏光放射線を反射するために最適化される。それは、プロジェクター4の放射がHUD投影を生成するための反射面として機能する。しかし、プロジェクター放射の入射角はわずかにブリュースター角から外れているため、プロジェクター放射の幾らかの反射が、空気/ガラス遷移でも生じ、これは、低強度であるが、依然として気を散らす可能性があるゴースト画像の形成をもたらすことがある。特に、ここでは内側のペイン2の内側表面IVからの反射が重要である可能性がある。なぜならば、反射された放射線の強度が、(外側のペイン1の外側表面Iからの反射とは対照的に)反射コーティング20を通過することによってまだ減衰していないためである。本発明の目的は、このゴースト画像を低減することである。
【0075】
反射低減コーティング(反射防止コーティング)によって内側表面IVからの反射が減少することは直観的に明らかであるが、反射増強(高屈折)コーティング30を備える本発明に係る内側のペイン2の内側表面IVは、それとは全く反対であり、それは、その全体的な反射率を増加させる。反射増強コーティング30は、少なくとも1.7の屈折率を有する。内側表面IVの全体的な反射率が増加するにもかかわらず、反射増強コーティング30は、反射増強コーティング30を備える表面IVの反射率RIVで割った反射コーティング20の反射率R20に由来する反射係数R20/RIVが増加するという事実をもたらす(それぞれ、p偏光放射線に対する反射率)。内側表面IVからの反射に対する反射コーティング20からの反射の相対強度(「コントラスト」)が増大し、望ましくないゴースト画像に対する所望の一次画像の強度が増大する。
【0076】
図4は、反射コーティング20の例示的な実施態様の層シーケンスを表す。反射コーティング20は、薄膜のスタックである。反射コーティング20は、銀に基づく電気伝導性層21を含む。金属のブロッキング層24は、電気伝導性層21の上方に直接配置される。その上に配置されるのは、下から上に、上側整合層23b、上側屈折率増強層23c、及び上側反射防止層23aからなる上側誘電体層シーケンスである。電気伝導性層21の下方に配置されるのは、上から下に、下側整合層22b、下側屈折率増強層22c、及び下側反射防止層22aからなる下側誘電体層シーケンスである。
【0077】
表1は、個々の層の材料及び幾何学的な層厚さとともに、内側のペイン2の外側表面III上の反射コーティング20を含む複合ペイン10の層シーケンスを示す。誘電体層は、互いに独立して、例えばホウ素又はアルミニウムによりドープすることができる。
【0078】
【実施例】
【0079】
例
反射係数R20/RIVが、表1に係る複合ペインについて決定され、それは、内側表面IVからの望ましくない反射と比較して、反射コーティング20からの所望のHUD反射がどの程度強く表れるかの尺度を提供する。
【0080】
- 本発明に係る例において、複合ペインは、ゾル-ゲル法を用いて適用された70nmの層厚さを有する酸化チタン(屈折率2.4)に基づく単層として実装された内側表面IV上の本発明に係る反射増強コーティング30を有していた;
- 比較例1において、複合ペインは、内側表面IV上のコーティングを有さなかった;
- 比較例2において、複合ペインは、ゾル-ゲル法において適用された100nmの厚さのナノポーラスSiO2-層(屈折率1.3)として実装された内側表面IV上の反射防止コーティングを有していた;
- 比較例3において、複合ペインは、マグネトロン増強カソード堆積を用いて適用された10nmの層厚さを有するアルミニウムドープ窒化ケイ素(屈折率2.0)に基づく単層として実装された内側表面IV上の高屈折率コーティング30を有していた。
【0081】
例及び比較例についてのp偏光放射線に対する反射率R20及びRIV、並びにそれに由来する反射係数R20/RIVが、様々な入射角αについて表2に要約される。値は、共通ソフトウェアCODEを用いてシミュレートされた。
【0082】
【0083】
コーティングされていないペイン(比較例1)と比較して、より大きい入射角αにおいて、本発明に係る反射増強コーティング30が反射係数R20/RIVの著しい増加をもたらすことは、表2から理解することができる。その結果として、ゴースト画像と比較して、反射コーティング20からのHUD反射は、大いにより知覚可能である。それとは対照的に、反射低減コーティングは内側表面IVからの反射を弱め、したがって反射係数R20/RIVを増加させることが最初に直観的に想定されるものの、反射低減コーティング(比較例2)は、すべての入射角αにおいて反射係数R20/RIVの低減をもたらす。
【0084】
窒化ケイ素のスパッタリングされた高屈折率コーティング(比較例3)と比較して、本発明に係る反射増強コーティング30は、同様に、大きな入射角αにおいて、反射係数R20/RIVの増加をもたらす。したがって、本発明に係る例は、より大きい入射角αをもたらすフロントガラスの設置角度が非常に浅い場合に特に適している。観察の理由は、比較例3(窒化ケイ素:2.0)と比較して、例(酸化チタン:2.4)の屈折率が高いためである。さらに、ゾル-ゲルコーティングを用いて、より小さい入射角に対する反射係数の最適化を、材料の適切な選択により達成することができる。特に、例えば、TiO2又はZrO2などの屈折率を増強する添加剤を含むSiO2に基づくゾル-ゲルコーティングを用いることによって、特定の用途における要件に合わせて屈折率を選択的に調節することができ、屈折率を増強する添加剤の割合によって屈折率を調節することが可能である。
【0085】
表3は、本発明に係る例及び比較例についての色彩値を要約する。これらは、L*a*b*色空間における色彩値a*及びb*として示され、これは、D65光源の照射下で測定される。角度仕様は、観察角度(光線が網膜に当たる角度)を記述する。比較例とは対照的に、例では負の色彩値だけが観察される。これは、自動車メーカー及びエンド顧客によってより受け入れられる、それほど目立たない配色に対応する。
【0086】
【0087】
図5は、反射コーティング20の別の実施態様の層シーケンスを表す。この場合、反射コーティング20は金属層を有さないが、代わりに、純粋に誘電体層から構成される。反射コーティング20は、内側のペイン2に交互に堆積した合計6つの誘電性の、光学的に高屈折率の層25(25.1、25.2、25.3、25.4、25.5、25.6)、及び5つの誘電性の、光学的に低屈折率の層26(26.1、26.2、26.3、26.4、26.5)を含む薄膜のスタックである。光学的に高屈折率の層25.1、25.2、25.3、25.4、25.5、25.6は、2.0の屈折率を有する窒化ケイ素に基づく。光学的に低屈折率の層26.1、26.2、26.3、26.4、26.5は、1.5の屈折率を有する酸化ケイ素に基づく。
【0088】
層シーケンスは、図において概略的に見ることができる。表4において、内側のペイン2の外側表面IIIに反射コーティング20を有する複合ペイン10の層シーケンスも、個々の層の材料及び層厚さとともに示される。
本開示は以下も包含する。
<態様1>
- 熱可塑性の中間層(3)を介して互いに連結された外側のペイン(1)及び内側のペイン(2)を含む複合ペイン(10)であって、HUD領域(B)を有する複合ペイン;
- 前記中間層(3)に面する、前記外側のペイン(1)若しくは前記内側のペイン(2)の表面(II,III)上の、又は前記中間層(3)内の、p偏光放射線を反射するのに適しているHUD反射層;
- 前記HUD領域(B)に向けられており、p偏光放射線を放出するHUDプロジェクター(4);及び
- 前記内側のペイン(2)の、前記中間層(3)とは反対側の表面(IV)上の、少なくとも1.7の屈折率を有する高屈折率コーティング(30)
を少なくとも含むヘッドアップディスプレイ(HUD)用プロジェクションアセンブリであって、
前記高屈折率コーティング(30)が、ゾル-ゲルコーティングである、ヘッドアップディスプレイ(HUD)用プロジェクションアセンブリ。
<態様2>
前記プロジェクター(4)の前記放射線が、58°~72°、好ましくは62°~68°の入射角で前記複合ペイン(10)に当たる、上記態様1に記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様3>
前記高屈折率コーティング(30)の屈折率が、少なくとも1.8、好ましくは少なくとも1.9、特に好ましくは少なくとも2.0である、上記態様1又は2に記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様4>
前記高屈折率コーティング(30)が、窒化ケイ素、混合ケイ素-金属窒化物、窒化アルミニウム、酸化スズ、酸化マンガン、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化ビスマス、酸化チタン、混合スズ-亜鉛酸化物、酸化ジルコニウム、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化ランタン、又は酸化セリウムを含有する、上記態様1~3のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様5>
前記高屈折率コーティング(30)の厚さが、最大で100nm、好ましくは最大で50nm、特に好ましくは最大で30nm、最も特に好ましくは最大で10nmである、上記態様1~4のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様6>
前記高屈折率コーティング(30)が、酸化チタン又は酸化ジルコニウムを含有する、上記態様1~5のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様7>
反射係数R
20
/R
IV
が少なくとも50:1であり、それぞれ、R
20
は、p偏光放射線に対する前記反射層の反射率であり、R
IV
は、p偏光放射線に対する前記高屈折率コーティング(30)を備える前記表面(IV)の反射率である、上記態様1~6のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様8>
前記高屈折率コーティング(30)が、前記内側のペイン(2)の前記表面(IV)全体にわたっては適用されていないが、少なくとも、前記HUD領域(B)を含有する前記表面(IV)の領域には適用されている、上記態様1~7のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様9>
前記高屈折率コーティング(30)の屈折率が勾配を有し、この屈折率は、前記複合ペイン(10)の下側端部(U)から上側端部(O)の方向に減少する、上記態様1~8のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様10>
前記HUD反射層が、少なくとも1つの電気伝導性層、好ましくは銀に基づく電気伝導性層を含む薄膜スタックとして実装されたHUD反射コーティング(20)である、上記態様1~9のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様11>
前記HUD反射層が、誘電体層だけを含有する薄膜スタックとして実装されたHUD反射コーティング(20)である、上記態様1~9のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様12>
前記HUD反射層が、複数のポリマープライを含むポリマーフィルムであり、より高い屈折率を有するプライとより低い屈折率を有するプライが、交互に配置されている、上記態様1~9のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様13>
前記複合ペイン(10)が、前記外側のペイン(1)の、前記中間層(3)とは反対側の表面(I)に高屈折率コーティング(30)をさらに備える、上記態様1~12のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様14>
前記外側のペイン(1)及び前記内側のペイン(2)が、ソーダ石灰ガラスでできている、上記態様1~13のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
<態様15>
前記複合ペイン(10)が、乗用車のフロントガラスである、上記態様1~14のいずれかに記載のプロジェクションアセンブリ。
【0089】
【符号の説明】
【0090】
(10) 複合ペイン
(1) 外側のペイン
(2) 内側のペイン
(3) 熱可塑性の中間層
(4) HUDプロジェクター
(5)見る人/乗り物のドライバー
(20) HUD反射コーティング
(21) 電気伝導性層
(22a)第一の下側誘電体層/反射防止層
(22b)第二の下側誘電体層/整合層
(22c)第三の下側誘電体層/屈折率増強層
(23a)第一の上側誘電体層/反射防止層
(23b)第二の上側誘電体層/整合層
(23c)第三の上側誘電体層/屈折率増強層
(24) 金属のブロッキング層
(25)光学的に高屈折率の層
(25.1)、(25.2)、(25.3)、(25.4)、(25.5)、(25.6) 1.、2.、3.、4.、5.、6.光学的に高屈折率の層
(26)光学的に低屈折率の層
(26.1)、(26.2)、(26.3)、(26.4)、(26.5) 1.、2.、3.、4.、5.光学的に低屈折率の層
(30)高屈折率コーティング/反射増強コーティング
(O) フロントガラス10の上側端部
(U) フロントガラス10の下側端部
(B) フロントガラス10のHUD領域
(E) アイボックス
(I) 外側のペイン1の外側表面
(II) 外側のペイン1の内側表面
(III) 内側のペイン2の外側表面
(IV) 内側のペイン2の内側表面