(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】スペクトル暗視野イメージング
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20240101AFI20240510BHJP
A61B 6/46 20240101ALI20240510BHJP
【FI】
A61B6/00 533
A61B6/46 506B
(21)【出願番号】P 2022575197
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 EP2021064895
(87)【国際公開番号】W WO2021249855
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-11-02
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヤロシェンコ アンドリー
(72)【発明者】
【氏名】ケーラー トーマス
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-512080(JP,A)
【文献】国際公開第2018/192909(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0289350(US,A1)
【文献】特表2017-532986(JP,A)
【文献】特表2017-530827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/58
G01N 23/00 -23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医用
のX線イメージング装置から、患者の身体の関心領域を表す画像データを受信する入力部であって、前記画像データは、第1のX線スペクトルについて得られた第1の暗視野画像と、第2のX線スペクトルについて得られた第2の暗視野画像とを含み、前記第1のX線スペクトルと前記第2のX線スペクトルとは異なっている、入力部と、
前記第1の暗視野画像と前記第2の暗視野画像とを合成することによって、状態マップを表す合成画像を提供する合成ユニットと、
を含む、画像処理デバイス。
【請求項2】
前記関心領域は胸郭領域であり、前記状態マップは肺状態マップである、請求項1に記載の画像処理デバイス。
【請求項3】
前記合成ユニットは、前記合成画像をベクトル値画像として構成し、前記ベクトル値画像の成分は、前記第1の暗視野画像及び前記第2の暗視野画像に対応するか、又は前記第1の暗視野画像及び前記第2の暗視野画像に基づいて計算される、請求項1又は2に記載の画像処理デバイス。
【請求項4】
前記合成ユニットは、前記合成画像内のピクセル位置について、光子エネルギーの関数として、又は相関長の関数として暗視野信号を決定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の画像処理デバイス。
【請求項5】
前記合成ユニットは、前記第1の暗視野画像と前記第2の暗視野画像との偏差の尺度を計算し、前記合成画像のピクセル値は、前記偏差の尺度に対応している、請求項1から4のいずれか一項に記載の画像処理デバイス。
【請求項6】
前記X線イメージング装置に接続されたときに、前記画像データを取得するため、前記X線イメージング装置の動作を制御するコントローラをさらに含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の画像処理デバイス。
【請求項7】
前記コントローラは、
前記X線イメージング装置の位相ステッパ機構を制御することによって、複数の位相ステップをステップスルーし、複数の位相ステップの各々について前記X線イメージング装置の画像検出器から画像データを取得し、
前記X線イメージング装置のX線源を制御することによって、前記複数の位相ステップのうちの少なくとも1つについての前記第1のX線スペクトルと前記複数の位相ステップのうちの少なくとも別の位相ステップについての前記第2のX線スペクトルとを切り替え
る、請求項6に記載の画像処理デバイス。
【請求項8】
関心構造を識別するために、前記第1の暗視野画像、前記第2の暗視野画像、前記合成画像、及び/又は前記入力部を介して受信した別の画像をセグメント化するセグメンタを含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載の画像処理デバイス。
【請求項9】
識別された各関心構造を、分類器ラベルでラベル付けする分類器を含み、前記分類器ラベルは、前記合成画像に基づいて複数の分類器ラベルのうちから前記分類器によって選択され、前記複数の分類器ラベルは異なる状態に対応している、請求項
8に記載の画像処理デバイス。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか一項に記載の画像処理デバイスと、
対応する複数のX線スペクトルについて、患者の身体の関心領域の複数のX線暗視野画像を取得し、前記複数のX線暗視野画像を前記画像処理デバイスの入力部に提供するX線イメージング装置と、
を含む、イメージングシステム。
【請求項11】
前記X線イメージング装置は、X線源及びX線検出器を含む、請求項
10に記載のイメージングシステム。
【請求項12】
前記X線検出器は、エネルギー分解光子計数検出器である、請求項
11に記載のイメージングシステム。
【請求項13】
前記X線イメージング装置は、差動位相コントラスト及び暗視野イメージングのための格子干渉計配置を含む、請求項
10から
12のいずれか一項に記載のイメージングシステム。
【請求項14】
画像データを処理する方法であって、前記方法は、
医用
のX線イメージング装置から、患者の身体の関心領域を表す画像データを得るステップであって、前記画像データは、第1のX線スペクトルについて得られた第1の暗視野画像と、第2のX線スペクトルについて得られた第2の暗視野画像とを含み、前記第1のX線スペクトルと前記第2のX線スペクトルとは異なっている、画像データを得るステップと、
前記第1の暗視野画像と前記第2の暗視野画像とを合成することによって、状態マップを表す合成画像を提供するステップと、
を含む、方法。
【請求項15】
プロセッサ上で実行するときに、請求項
14に記載の方法を実行するためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断応用などにおける暗視野イメージングの分野に関する。具体的には、本発明は、例えば様々な肺状態の検出及び診断を支援するために、医用診断イメージングのための画像処理デバイス、画像処理方法、イメージングシステム、及び関連するコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
当技術分野において知られているように、X線暗視野イメージングは、医用診断応用などに有用で非常に汎用性の高い電離放射線画イメージングモダリティである。特に、イメージングシステムの空間分解能限界を下回るスケールで、構造に関するX線暗視野画像データから情報を収集できる点で有利である。
【0003】
このイメージングモダリティを使用して、肺障害の検出においてなど、高感度な検出を達成できることが知られている。肺イメージングの代表的な例を考えると、血液と吸入空気とのガス交換を担う肺の肺胞が、特に小さくて繊細な構造であることに留意すべきである。これらの肺胞は、直接(少なくとも非侵襲的なイメージングによって)イメージングすることが困難である(又は不可能でさえある)が、小角散乱について肺胞の電離放射線の散乱特性によって、肺胞に関する有用な情報(また、潜在的にはその障害)を伝えることができる。これらの小角散乱特性は、X線暗視野イメージングによって特徴付けることができ、したがって、このモダリティは肺障害の正確な検出に特に有用である。残念ながら、X線暗視野イメージングによって検出される観察信号変化には特異性がない場合がある。例えば肺障害の種類は、暗視野信号のみに依存するだけでは容易に判断できない。したがって、当技術分野において、異なる肺障害を明確化することを可能にする一方で、好ましくは、それに付随して、暗視野イメージングの肺障害に対する高検出感度を維持する(例えば先行技術の暗視野イメージング方法に少なくとも匹敵する感度にある)優れた手段及び方法を提供することが求められている。
【0004】
当技術分野で知られている方法で得られるX線暗視野放射線画像は、臨床医が肺の予想される健康な状態からの偏差を検出することを可能にするが、暗視野画像からは様々な種類の肺障害を区別することはできない。このような障害の多くは、X線暗視野信号の局所的な減少など、非常に類似した変化を引き起こすためである。例えば肺気腫は肺胞の大きさを大幅に増加させ、急性炎症は病変部の肺胞を体液又は細胞物質で埋める。それにもかかわらず、どちらの障害もX線暗視野信号の類似の減少を示すため、通常、鑑別診断には、したがって、患者に適した療法、治療、又は疾患管理のアプローチを決定するには、追加のデータが必要になる。
【0005】
米国特許出願公開第2018/271465号は、患者の肺検査でX線暗視野イメージング情報を使用する先行技術の方法を開示している。このアプローチでは、肺セグメンテーション及び骨抑制アルゴリズムが適用された後、減衰画像データから肺深度マップが計算される。そして、空間的に対応する推定肺厚値を使用してX線暗視野画像が正規化されて、慢性閉塞性肺障害(COPD)などの肺疾患を示すマップが得られる。COPDは通常、従来のX線減衰画像では可視ではないが、正規化された暗視野画像は、肺胞の微細構造に影響を与えるそのような疾患に特に敏感である。
【0006】
本説明では、代表的な例及び応用として肺イメージングに注目するが、実施形態による方法及びデバイスを異なる応用により広範に適用できることは、当業者によって理解されるであろう。例えば骨構造は、肺構造と多くの類似性を有し、肺胞の小角散乱挙動は骨梁上の散乱に類似していると考えられる。さらに、人間や動物の体の複雑な構造は、類似した特徴を持つ多くの構造を包含しており、本開示の教示を適用できる。同様の散乱挙動を示す可能性のある微細構造の別の例は、腎臓のネフロンである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、例えば肺障害の鑑別診断を支援するように、異なる障害及び/又は医学的状態を明確化することを可能にするために、診断画像を処理するための簡単で、効果的で、効率的、かつ/若しくは優れた手段及び/又は方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態の利点は、当技術分野で現在達成可能である暗視野イメージングの肺又は他の障害に対する高い検出感度を、本発明の実施形態による方法及び/又はデバイスと有利に組み合わせて、複数の異なる状態又は障害(様々な肺障害など)に対する優れた検出特異性(及び/又は選択性)を達成できる点である。
【0009】
本発明の実施形態の利点は、実施形態による方法及び/又はデバイスが、容易に入手可能なX線イメージングデバイスとの動作に容易に適応できる点、並びに/又は確立された医用イメージング方法論及び/若しくはワークフローに容易に含めることができる点である。
【0010】
本発明の実施形態の利点は、マルチスペクトル(例えば二重エネルギー)X線減衰情報を画像のセグメント化、骨の抑制、及び/又はピクセル値の正規化に使用できる一方で、(通常、付随的に取得される)マルチスペクトルX線暗視野情報を使用して様々な種類の肺障害を検出し、明確化できる点である。
【0011】
本発明の実施形態の利点は、肺内の肺胞の正常又は異常な機能の状態に関連する肺状態を検出し、異なるが、類似しているそのような状態から識別できる点である。
【0012】
本発明の実施形態の利点は、骨粗鬆症や骨浮腫などの異なる骨状態を検出し、互いから識別できる点である。
【0013】
本発明の実施形態の利点は、単一ピーク光子エネルギー(即ち、単一スペクトル)で取得した従来の暗視野X線画像では類似するか若しくはほぼ同一の画像を提示する、又は少なくともそのような画像において区別することが難しい異なる状態を、本発明の実施形態に従ってより容易に区別できる点である。
【0014】
本発明の実施形態の利点は、肺胞の正常又は異常な機能、及びそれに関連する肺障害に関する情報を、そのような肺胞を個別にイメージングする又はそのような肺胞の微細構造を詳細にイメージングするには不十分である空間検出閾値(例えば空間分解能)を有する(例えば有しているにも関わらず)イメージングモダリティによって得られた画像から収集できる点である。
【0015】
本発明の実施形態によるデバイス、方法、システム、及びコンピュータプログラム製品は、上記の目的を達成する。
【0016】
第1の態様では、本発明は、医用X線イメージング装置から患者の身体の関心領域を表す画像データを受信する入力部を含む画像処理デバイスに関する。画像データは、第1のX線スペクトルについて得られた第1の暗視野画像と、第2のX線スペクトルについて得られた第2の暗視野画像とを含み、第1のX線スペクトルと第2のX線スペクトルとは(大幅に)異なっている。画像処理デバイスは、第1の暗視野画像と第2の暗視野画像とを合成することによって、状態マップを表す合成画像を提供する合成ユニットを含む。例えば状態マップは、解剖学的、生理学的、及び/又は疾患状態のマップであり、例えばこれらの状態は関心領域に(必ずしもそうである必要はないが)固有である。
【0017】
本発明の実施形態による画像処理デバイスにおいて、関心領域は胸郭領域であり、状態マップは肺状態マップである。
【0018】
本発明の実施形態による画像処理デバイスにおいて、関心領域は骨領域であり、状態マップは骨粗鬆症や骨浮腫などの骨状態マップである。
【0019】
本発明の実施形態による画像処理デバイスでは、合成ユニットは、合成画像をベクトル値画像として構成し、ベクトル値画像の成分は、第1の暗視野画像及び第2の暗視野画像に対応するか、又は第1の暗視野画像及び第2の暗視野画像に基づいて計算される。
【0020】
本発明の実施形態による画像処理デバイスでは、合成ユニットは、合成画像内のピクセル位置について、光子エネルギーの関数として、又は相関長の関数として暗視野信号を決定する。
【0021】
本発明の実施形態による画像処理デバイスでは、合成ユニットは、第1の暗視野画像と第2の暗視野画像との偏差の尺度を計算し、合成画像のピクセル値は、偏差の尺度に対応している。
【0022】
本発明の実施形態による画像処理デバイスでは、入力部は、画像データを受信し、画像データは、対応する少なくとも3つの異なるX線スペクトルについて得られた少なくとも3つの暗視野画像を含む。
【0023】
本発明の実施形態による画像処理デバイスは、X線イメージング装置に接続されたときに、画像データを取得するためになど、X線イメージング装置の動作を制御するコントローラを含む。
【0024】
本発明の実施形態による画像処理デバイスでは、コントローラは、X線イメージング装置の位相ステッパ機構を制御することによって、複数の位相ステップをステップスルーし、複数の位相ステップの各々についてX線イメージング装置の画像検出器から画像データを取得し、複数の位相ステップのうちの少なくとも1つについての第1のX線スペクトルと複数の位相ステップのうちの少なくとも別の位相ステップについての第2のX線スペクトルとを切り替えるためになど、X線イメージング装置のX線源を制御する。
【0025】
本発明の実施形態による画像処理デバイスは、関心の肺構造などの構造を識別するために、第1の暗視野画像、第2の暗視野画像、合成画像、及び/又は入力部を介して受信した別の画像をセグメント化するセグメンタを含む。
【0026】
本発明の実施形態による画像処理デバイスは、識別された各関心構造を、分類器ラベルでラベル付けする分類器(即ち、分類ユニット)を含み、分類器ラベルは、合成画像に基づいて複数の分類器ラベルのうちから分類器によって選択され、複数の分類器ラベルは異なる状態(例えば異なる肺状態)に対応している。
【0027】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の実施形態による画像処理デバイスと、対応する複数のX線スペクトルについて、患者(の胸部又は骨領域)の関心領域の複数のX線暗視野画像を取得し、X線暗視野画像を画像処理デバイスの入力部に提供するX線イメージング装置とを含むイメージングシステムに関する。
【0028】
本発明の実施形態によるイメージングシステムでは、X線イメージング装置は、X線源とX線(例えば画像)検出器とを含む。
【0029】
本発明の実施形態による画像処理デバイスでは、X線検出器はエネルギー分解光子計数検出器である。
【0030】
本発明の実施形態による画像処理デバイスでは、X線イメージング装置は、二重エネルギーイメージング装置又はスペクトルイメージング装置である。
【0031】
本発明の実施形態による画像処理デバイスは、画像の取得間の患者の動きを補償するためなど、複数のX線暗視野画像を空間的に位置合わせする位置合わせユニットを含む。
【0032】
本発明の実施形態による画像処理デバイスでは、X線イメージング装置は、差動位相コントラスト及び暗視野イメージングのための格子干渉計配置を含む。
【0033】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の実施形態による画像処理デバイスを含む臨床ワークステーションに関する。
【0034】
第4の態様では、本発明は、画像データを処理するための方法、例えばコンピュータ実施方法に関する。方法は、医用X線イメージング装置から患者の患者の身体の関心領域を表す画像データを得るステップを含む。画像データは、第1のX線スペクトルについて得られた第1の暗視野画像と、第2のX線スペクトルについて得られた第2の暗視野画像とを含み、第1のX線スペクトルと第2のX線スペクトルとは実質的に異なっている。方法は、第1の暗視野画像と第2の暗視野画像とを合成して、状態マップを表す合成画像を提供するステップを含む。
【0035】
本発明の実施形態による方法では、関心領域は胸郭領域である。状態マップは肺状態マップである。
【0036】
第5の態様では、本発明は、適切なプロセッサ上で実行するときに、本発明の第4の態様による(例えばコンピュータ実施)方法を実行するためのコンピュータプログラム製品に関する。
【0037】
第6の態様では、本発明は、第1のX線スペクトルについて得られた第1の暗視野画像と第2のX線スペクトルについて得られた第2の暗視野画像との合成を含む、患者の身体(胸部領域、骨領域、…)の関心領域の医用診断画像に関し、第1のX線スペクトルと第2のX線スペクトルとは(実質的に)異なっている。
【0038】
第1のスペクトル及び第2のスペクトルが実質的に異なる(即ち、十分に異なる)と言及される場合、これは、第1のX線スペクトルと第2のX線スペクトルとが、これらの異なるスペクトルについて得られた画像から補完的な情報を得るのに十分に異なることを意味することを当業者によって理解されるであろう。したがって、スペクトルは、スペクトルの平均エネルギー又はピークエネルギー(kVp)において、少なくとも1kV、好ましくは少なくとも5kVだけ異なり、好ましくは少なくとも10kV、例えば少なくとも20kV、又はより大きな差(例えば少なくとも50kV)だけ異なる。スペクトルは、同じピーク光子エネルギー(kVp)であっても、例えば異なるビーム調整フィルタでフィルタリングされること、即ち、異なるビームフィルタの選択によって実質的に異なる可能性があることに留意されたい。
【0039】
また、本発明の実施形態は、第1のX線スペクトル、第2のX線スペクトル、任意選択で第3のX線スペクトル、任意選択で第4のX線スペクトルなどについてそれぞれ得られた複数の暗視野画像を含む、取得及び/又は使用される画像データにも等しく関連することが理解されるであろう。言い換えれば、異なるスペクトルについて得られた暗視野画像の数は、例えば特定の応用が必要とするか恩恵を受けるように、任意の数(1より大きい数)に拡張できる。使用するスペクトルの数は、より多くの画像を合成することによって精度が増し及び/又は情報をさらに区別できることと、複雑さ及びコスト(動作時間、処理リソース、エネルギー消費量、及び/又は臨床医による評価時間におけるコストなど)の増加とのトレードオフに基づいて選択されることを当業者は理解するであろう。
【0040】
独立請求項及び従属請求項に、本発明の具体的かつ好ましい特徴を説明している。従属請求項の特徴は、独立請求項の特徴や他の従属請求項の特徴と適宜組み合わせることができ、必ずしも請求項に明示的に記載されているものだけではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態によるデバイスを概略的に示す。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態ニョルシステムを示す。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態の態様を例示するために、異なる種類の微細構造の相関関数を示す。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態による方法を示す。
【0042】
図面は、概略的であり、限定的ではない。図面内の要素は、必ずしも縮尺どおりに提示されているわけではない。本発明は、必ずしも図面に示す本発明の具体的な実施形態に限定されるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0043】
例示的な実施形態を以下に説明するが、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。添付の特許請求の範囲は、この詳細な説明に明示的に組み込まれており、特許請求の範囲において、各請求項、及び請求項によって定義された依存関係構造によって許容される請求項の各組み合わせは、本発明の別個の実施形態を形成する。
【0044】
特許請求の範囲で使用される場合、「含む」という語は、以降に説明する特徴、要素、又はステップに限定されず、また、追加の特徴、要素、又はステップを排除するものではない。したがって、これにより、1つ以上の特徴のさらなる存在又は追加を排除せずに、前述の特徴の存在が規定される。
【0045】
この詳細な説明では、様々な具体的な詳細が提示される。本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細なしに実施できる。さらに、本開示の明瞭さ及び簡潔さのために、よく知られている特徴、要素、及び/又はステップについては必ずしも詳細に説明するわけではない。
【0046】
第1の態様では、本発明は医用画像処理デバイスに関する。この医用画像処理デバイスは、例えば二重エネルギー又はスペクトルX線イメージングシステムを使用して、2つ以上の異なるX線スペクトルについて取得した暗視野画像情報を有利に使用して、所定の関心領域(肺又は別の臓器若しくは身体構造など)をむしばむ疾患の評価における診断目的のためのX線暗視野イメージングの特異性を増加させる。例えば異なる肺障害が肺胞に異なる影響を与える可能性があり、これらの異なる影響は、本発明の実施形態による医用画像処理デバイスで処理した後、相互に検出し、識別できる。
【0047】
図1を参照すると、本発明の実施形態による例示的な画像処理デバイス1が示されている。画像処理デバイス1は、例えば、説明するようにデバイスの機能を実施するために特にプログラミングされているコンピュータを含む。このようなコンピュータは、入力部及び出力部(例えばデータ担体及び/又は通信ネットワークインターフェースを介してデータを送受信する通信インターフェースなど)を含む。このような入力部及び出力部はまた、ユーザインターフェースハードウェア、例えば人間であるユーザからの入力を受信するためのヒューマンインタラクションデバイス(キーボード、マウス、音声インタプリタ、タッチインターフェース、ジャイロスコープ、又は加速度計など)、ユーザに情報を提示するためのモニタ、スピーカ、紙などの物理担体上に情報をレンダリングするためのプリンタ、データの3次元物理モデルを生成するための3次元プリンタ、及び当技術分野で知られている他のそのような要素も含む。
【0048】
コンピュータは、命令(コンピュータコードなど)を実行するための汎用プロセッサと、そのような命令を保存するためのメモリとを含む。コンピュータは、例えば命令に従ってデータを操作するためのデータを保存するためのメモリを含む。デバイスは、汎用コンピュータに必ずしも限定されず、特定用途向け集積回路(ASIC)及び/又はフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などの構成可能な処理ハードウェアも含み得る。さらに、デバイス1は、コンピュータなどの単一の処理デバイスに含まれていてもよいが、相互に接続された複数のデバイスに分散されていてもよい。それにより、例えば、本明細書に説明する処理は、サーバとクライアントデバイスとの共同動作、又はコンピューティングクラスタのような並列処理システムの共同動作によって実行される。
【0049】
第2の態様では、本発明は医用イメージングシステムにも関連している。
図2は、本発明の実施形態によるそのようなシステム10を概略的に示している。システム10は、本発明の第1の態様の実施形態による画像処理デバイス1を含む。システム10は、画像処理デバイス1の入力部2に画像データを供給するX線イメージング装置100も含む。「入力部」は、例えば信号配線、コネクタなどを使用した物理的な接続であり得るが、動作上の接続のみを必要とし、例えばデータ通信ネットワークを介した接続、ワイヤレス接続、又は、画像データを受信及び保存するためにイメージング装置100に接続し、保存されたデータへのアクセスを提供するために処理デバイス1に(例えばその後に)接続することができるリムーバブルデータ担体を介した接続さえも指すことが理解されるであろう。さらに、画像処理デバイス1は、イメージング装置100の処理及び/又は制御コンポーネントとともに、例えばコンピューティングデバイス上で実行されるソフトウェアコンポーネントとして統合され、当該ソフトウェアコンポーネントは、イメージング装置の他の機能も実行するために使用できる。例えば「入力部」2は、共有メモリ(揮発性又は不揮発性)を単に指す場合がある。これを介して、イメージングシステムの一部が画像データを処理デバイス1(例えばイメージングシステムの別の部分の形にあり、場合によってはソフトウェアのみを含む)に利用できるようにする。
【0050】
X線画像取得デバイスなどのX線イメージング装置100は、X線源と、X線検出器とを含む。X線イメージング装置は、例えば異なるX線スペクトルについて、異なる代表エネルギーにおいて患者の胸部のX線暗視野情報を取得する。ほとんどのX線イメージングシステムには、調整可能な光子エネルギー設定(kVpなど)があるが、X線イメージング装置は、特に、異なるスペクトルについてX線暗視野情報を付随して、即ち、同時に又は少なくとも高速で連続して(例えば10秒未満、好ましくは1秒未満、より好適には100ms未満、さらにより好適には10ms未満の遅延で)取得することに留意されたい。X線イメージング装置はまた、X線減衰情報及び/又はX線位相コントラスト情報を付随して取得する。X線イメージング装置はまた、比較的低速で連続して(例えば異なるスペクトル取得間で10秒超の遅延で)異なる代表エネルギーでX線暗視野画像情報を取得できることにも留意されたい。X線イメージング装置100又はデバイス1は、取得間の患者の動きを補正するため(即ち、異なる画像における対応する画像特徴の適切な位置合わせを確保するためなど、第1の暗視野画像及び/又は第2の暗視野画像を補正するため)の位置合わせユニットを含む。後者は、X線イメージング装置が、異なるスペクトル(エネルギー範囲又はビンなど)についての画像の同時取得や、高速スイッチング速度でのスペクトルの切り替えに特に適応されていない場合に特に有用である。
【0051】
デバイス1は、例えば患者の胸部又はその一部である患者の胸郭領域などの患者の身体の関心領域を表す画像データを医用X線イメージング装置100から受信するための入力部2を含む。画像データは、第1のX線スペクトルについて取得された第1の暗視野画像と、第2のX線スペクトルについて取得された第2の暗視野画像とを含む。第2のX線スペクトルは、第1のX線スペクトルと実質的に異なる。「画像データ」とは、X線イメージング装置から生じ、患者の胸郭領域の関心領域(又はその撮像された一部)の視覚的表現を構築するために使用するのに適した任意のタイプの情報(通常はデジタルデータなど)を指す。つまり、この用語は、ピクセルデータのマトリックスのみを指すものとして狭く解釈されるべきではなく、等しく、処理された形式(セグメント化された画像データ、注釈付き画像データなど)、生形式(画像センサ又は検出器によって直接記録されたデータ信号など)、ベクトル値形式(ピクセルごとに複数の値を含むマトリックスなど)、及び/又はパラメトリック表現(画像内の等強度(等値)曲線、セグメント化された輪郭、及び/又は表面のパラメトリック記述など)の圧縮、暗号化、及び/又はエンコードされた画像データなどである。
【0052】
第1の暗視野画像及び第2の暗視野画像は、例えば異なるピークエネルギー及び/又は材料ろ過パラメータに従って生成される異なる線源スペクトルの小角X線散乱情報を収集することによって得られるか、又は、異なるX線スペクトルに敏感になるように構成が異なる検出器による放射線検出により、小角X線散乱情報を収集することで得られる。したがって、第1の暗視野画像及び第2の暗視野画像は、異なる線源スペクトルについて得られた暗視野画像に対応するか、又は異なる検出器応答関数(例えば光子エネルギーの関数としての検出器感度)に従って取得された生検出器データから得られるか、又は、これらの組み合わせ(例えば異なる放射線源スペクトルと収集検出器応答関数)に対応する。例えば暗視野画像は、エネルギー分解検出器(例えばエネルギー分解光子計数検出器)の異なるエネルギーチャネルか、又はそのようなエネルギーチャネルの(実質的に)異なる組み合わせに対応する。
【0053】
当業者によって明確に理解できるように、第1の暗視野画像及び第2の暗視野画像はともに、例えば1回の胸部イメージング検査における実質的に同じ時間インスタントにおける同じ患者の同じ領域(胸部領域など)を表しており、好ましくは、例えば実質的に同じイメージング幾何学的配置で、かつ実質的に同じ瞬間に得られて(ただし、当然ながら、当技術分野において一般的に理解されているように、イメージング幾何学的配置における小さく有意でない差、及び/又は異なるスペクトルについての画像取得間の短い時間間隔は、システム設計の選択によって結果として生じる可能性がある)自然に共通に位置合わせされている。
【0054】
例えばX線イメージング装置100は、2つの異なる(異なる平均又は異なるピークの)光子エネルギーで患者(又は少なくとも患者の胸郭領域)をイメージングする二重エネルギーイメージング装置である。
【0055】
X線イメージング装置100はまた、対応する異なる代表光子エネルギーで3つ以上の異なる画像を取得することもでき、例えば3つ以上の異なるエネルギー画像を取得できるスペクトルイメージング装置であってもよい。したがって、入力部は、3つ以上の異なるX線スペクトルに対してそれぞれ得られた3つ以上の暗視野画像を含む画像データを受信することもできる。
【0056】
このイメージング装置は、暗視野イメージング及び/又は位相コントラストイメージングに対応している。例えばシステムは、例えば2つ以上の格子を含む格子干渉計を含む。例えば当技術分野で知られているように、3格子干渉計配置を使用してもよい。このアプローチは、その実装がX線源101及び検出器102に煩雑な制約を課すことがなく、例えば原理上は、従来の減衰X線イメージングに適している従来のX線源101及び検出器102とともに使用できるため、特に有利である。例えばイメージング装置は、例えばタルボ・ロー(Talbot-Lau)型干渉計を使用する差動位相コントラストイメージングに適応している。例えばX線イメージング装置100は、通常、デバイスの使用時にX線源101とイメージング対象物106(患者の胸部など)との間に位置決めされる線源格子103と、位相格子104と、吸収(又はアナライザ)格子105とを含む。位相格子104及び吸収格子105は、通常、対象物106と検出器102との間に位置決めされる。格子は通常、明確に画定された格子線周期を有し、また、当技術分野で確立された知識に従って、互いに対し、線源に対し、及び検出器に対して明確に画定された距離に位置決めされて所望の効果が得られる。線源格子は、個々にコヒーレントであるが相互に非コヒーレントである仮想線源のアレイを作成する。しかし、X線ビームレットの同じ又は同様のコヒーレンスを達成するための代替手段が存在することが理解されるであろう。位相格子は、ビームをその1次回折次数に分割するように作用する。アブゾーバ格子は透過マスクとして作用し、局所的なフリンジ変動を検出可能な強度値に変換する。このようなフリンジパターンはタルボ効果によって作成される(例えば特に位相格子とアナライザ格子との間の距離がタルボ距離に相当する場合)。
【0057】
X線イメージング装置100は、位相格子をアナライザ格子に対して(又は反対も同様)、例えば小さなステップで平行移動させる位相ステッピング機構を含む。これにより、位相ステップごとに生画像検出器データが収集され、そこからX線減衰画像、位相コントラスト画像、及び暗視野画像を、当技術分野で知られている方法を使用して再構築できる。
【0058】
暗視野イメージングでは、必ずしも位相ステッピング機構は必要ではない。例えば空間フリンジスキャン法などのフリンジ解析法を用いることができる。さらに、異なるスペクトルについての異なる暗視野画像は、必ずしも同じ手法を使用して取得されるわけではない。例えばあるエネルギースペクトルに対しては位相ステッピングを使用し、別のエネルギースペクトルには空間フリンジスキャン法を使用できる。画像のうちの1つの画像の空間分解能が低い場合でも、取得時間は短縮される。例えば最も高い空間分解能で取得した画像を使用して、関心特徴(肺の異常など)を検出でき、他の画像又は空間分解能の低い画像を使用して、検出された後に異常の種類を判定できる。
【0059】
また、取得時間は、各スペクトルについて位相ステッピング曲線全体(即ち、固定数の位相ステップポイント)を個別に収集するのではなく、位相ステッピング曲線を収集しながらスペクトルを変更する(例えば線源エネルギーを切り替える)ことによっても短縮できる。したがって、例えば位相ステップを経ている間に、2つのスペクトル(エネルギー)を交互に入れ替える。また、各スペクトルについての位相ステッピングサンプルポイント数は同じである必要がないことにも留意されたい。例えば1つのスペクトル(例えば参照スペクトル)に対して多数の位相ステップを決定でき、別のスペクトル(及び場合によってはさらなるスペクトル)に対しては少数の位相ステップのみを使用する。例えば暗視野信号の決定に必要な位相ステップサンプルの数は、位相コントラスト信号の決定に必要な位相ステップサンプルの数よりも少ない。したがって、参照スペクトルを使用して高品質の減衰画像、位相コントラスト画像、及び暗視野画像が得られるが、さらなるスペクトル(又はさらなる複数のスペクトル)を使用して、空間分解能が低いか又はノイズが多い追加の暗視野画像のみが得られる。
【0060】
デバイス1は、X線イメージング装置100の動作を制御するコントローラ7を含む。つまり、画像データを取得するためになど、デバイスがX線イメージング装置に接続されているときに動作を制御する。例えばコントローラ7は、X線源及び/又はX線画像検出器を制御する。さらに、コントローラ7は、X線イメージング装置の位相ステッパ機構を制御する。例えばコントローラ7は、複数の位相ステップの各々について画像検出器から(生)画像データを取得する。例えば各画像が取得される前に位相ステップを取るために位相ステッパ機構を制御する。当技術分野で知られているように、暗視野画像、減衰画像、及び位相コントラスト画像は、複数の位相ステップについて収集されたこのような生画像データから計算できる。そのため、デバイス1はピクセル値計算機を含み、生画像データから各画像ピクセルについての暗視野信号値(及び場合によっては減衰値及び/又は位相コントラスト値)を決定できる(例えば異なる検出された信号値は、位相ステップの各々に対応している)。コントローラ7は、複数の位相ステップのうちの少なくとも1つ(例えば第1のセット)についての第1のX線スペクトルと、複数の位相ステップのうちの少なくとも別(例えば第2のセット)についての第2のX線スペクトルとを切り替えるなど、X線源を制御する。例えばコントローラは位相ステップを繰り返しながら2つのX線スペクトルを交互に入れ替える。
【0061】
しかし、位相コントラスト及び/又は暗視野画像情報を得る他のアプローチ(例えば異なる格子干渉計の設計又は格子干渉計の設計以外の位相コントラスト/暗画像イメージングシステム)は、当技術分野で知られており、本発明の実施形態では必ずしも除外されていない。暗視野イメージングシステム及びコントラストイメージングシステムは、当技術分野ではよく知られいてると考えられるため、詳細には議論しない。
【0062】
通常、コントラストイメージング情報及び暗視野ドイメージング情報は、取得した生画像データの特定の、しかし異なる処理によって、同じシステムによって同時に得られることに留意されたい。同様に、減衰画像データも通常、同じ画像データから得られる。しかし、本出願の目的のためには、X線イメージング装置100は、暗視野画像情報、又は生データ(そこから暗視野画像情報を導出できる)を生成できる必要がある。しかしながら、厳密には必要ではないが、位相コントラスト情報及び減衰情報も(実質的に)同時に得られ、本発明の実施形態によるデバイスを使用する臨床医などのユーザに有用な情報として提示される場合があることが理解されるであろう。当技術分野で知られているように、暗視野画像情報は、微小構造上の複数の屈折などの超小角散乱によって生成されるが、減衰画像コントラストは、光子吸収の局所的な違いによって引き起こされ、位相コントラストは電子密度の変化に敏感であり、例えば屈折特性(屈折率など)の局所的な変動によって引き起こされる。
【0063】
これら3つの異なる相補的な画像モダリティ(有利には付随して得られる)は、イメージングされた対象物の異なる特性に関する洞察を提供することが理解されるであろう。暗視野イメージングコンポーネントは、イメージングされた対象物(肺組織など)の構造的特性に関する洞察を提供する。これらの特性は、イメージングシステムの空間分解能よりも大幅に小さい、即ち、システムの空間検出閾値よりも小さいスケールで生じる。
【0064】
暗視野信号V(例えば所与の幾何学的光線又はピクセル位置について)は、いわゆる相関長
【数1】
の関数である。
【0065】
【数2】
では、tはサンプルの厚さ(すく近くの光線で経験される)であり、σは単位長さあたりの散乱確率の合計で、次式:
【数3】
で表される。さらに、微分断面積は、次式:
【数4】
のように表現できる。
【0066】
相関関数は、次式:
【数5】
として計算でき、通常、相関長は次式:
【数6】
として計算でき、λは波長であり、p
2は吸収格子の格子周期であり、
【数7】
はサンプルと吸収格子との間の距離である。
【0067】
格子周期は通常、事前に決められ固定されている。さらに、サンプルと吸収(アナライザ)格子との間の距離もまた、好ましくは、例えば一定の倍率を維持するために固定されている。しかし、二重エネルギーイメージング装置(これに限定されない)といったスペクトルイメージングシステムは、X線ビームの異なる波長(又はスペクトル成分)を独立して検出できる。したがって、暗視野信号は(実質的に)同時に(又は少なくとも付随して)異なる相関長について決定できる。
【0068】
X線放射線画像が(少なくとも)2つの異なるX線スペクトルで得られた場合、異なるX線エネルギーによって暗黒線信号は異なる相関長のために変化する。測定された暗視野信号に関数を適合させると、サンプルの微細構造に関する追加情報が得られる。つまり、単一光子エネルギー又は単一スペクトルで得られた暗視野信号によってすでに提供されている微細構造に関する情報と相補的な情報が得られる。例えばこの追加情報によって微細構造をよりよく特徴付けることができる。例えば、外殻球(健康状態の肺胞)と固体球(線維性組織など)の相関関数は大きく異なり、以下に示す。
図3は、球31と球状外殻32との相関関数G(z)を示している。X軸は球(及び外殻)半径Rの単位z/Rに正規化されている。この例では、外殻の内径(プロットライン32)は、外殻Rの0.9倍に相当する。このように、例えば体液で満たされた肺胞又は線維性組織によって散乱が引き起こされる場合など、肺の特定の状態は、固体球の例とよく(又はそれ以上に)対応し、肺の他の状態は、健康状態の肺胞など、中空殻の例とよく(又はそれ以上に)対応する。しかし、これは異なる微細構造が大幅に異なる相関関数に対応し、したがって、異なる相関長、即ち、異なるスペクトル、例えば異なるエネルギーについての暗視野画像に基づいて区別できることを説明するための例に過ぎないことに留意されたい。
【0069】
X線イメージング装置100は、X線源101と、X線検出器102とを含む。X線源及び/又はX線検出器は、二重エネルギー及び/又はスペクトルイメージングに適している。即ち、同じ対象物(患者の胸郭など)を異なる代表光子エネルギーで、かつ実質的に同時(又は、異なるエネルギーで自然に整列され、位置合わせされた画像を得るために、無視できるごくわずかな時間で分離された取得)にイメージングするのに適している。例えばX線源は、例えばピークエネルギー(kVp)を高いスイッチングレートで異なる設定間で変化させることによって、少なくとも2つの異なる光子スペクトル間を迅速に切り替える。異なるスペクトルはまた、(代替的に又は追加的に)異なるピークエネルギーだけでなく、例えば異なるX線ろ過、陽極ターゲット特性、スポットサイズなどの他の特徴によっても特徴付けられる。X線検出器は、異なるX線スペクトルに選択的に敏感になるように異なる応答特性を切り替えるか、又は例えば同じ空間点に対して複数の異なるエネルギーウィンドウを分解することによって、異なるエネルギースペクトルについて(生)画像データを同時に取得する。例えばX線検出器は、入射X線放射線に対する感度が(本質的に又はフィルタ設計によって)異なる異なるセンサ要素を有するか、又は、入射光子のエネルギーを直接決定できる。なお、二重エネルギー又はスペクトルイメージング装置は、当技術分野で知られているように、X線源101、X線検出器102、又は線源と検出器の両方をこの目的に適したように特別に調整することによって達成できることに留意されたい。二重エネルギー及びスペクトルイメージングシステムは当技術分野でよく知られているため、本説明では詳細には説明しない。
【0070】
X線イメージング装置100は、コンピュータ断層撮影システムである場合があり、例えばイメージングされる対象物(例えば患者)の周りで、線源、検出器、及びさらなる画像形成要素(干渉計格子など)を回転させるガントリを含む。このようなシステムはまた、検出器によって、例えばガントリの異なる向きに対応している複数の異なる投影角度から取得した画像データから、断層撮影画像を再構成するプロセッサ又はコンピュータデバイスである画像再構成器を含む。しかしながら、X線イメージング装置100は、デジタル投影ラジオグラフィシステムであってもよく、例えば必ずしも断層撮影再構成機能を備えているとは限らない。例えばX線イメージング装置100は、患者の胸郭領域の単一の投影像で、第1の暗視野画像及び第2の暗視野画像を取得する(前後方向(AP)又は後前方向(PA)の投影像画像取得など)。当然ながら、ユーザ(放射線科医など)が、異なる角度から複数のビューを捕捉することを決定することもできるが、本発明の実施形態によるX線イメージング装置100は、必ずしも調整された(例えば自動化された)断層撮影スキャン、例えばヘリカルスキャンを実行する機能を必要としない。したがって、本開示において言及される(第1の、第2の、さらなる…)暗視野画像は、投影画像を指す場合があるが、断層撮影による再構成画像を指す場合もある。
【0071】
デバイス1は、第1の暗視野画像と第2の暗視野画像との合成画像(肺状態マップなど)を計算する合成ユニット3を含み、例えばこれにより、ユーザは合成画像を評価する際に、様々な肺状態を簡単に識別できる。例えば合成画像では、肺気腫、COPD、及び/又は急性炎症など(これらに限定されない)、異なる肺状態が示される。
【0072】
合成ユニット3は、第1の暗視野画像と、第2の暗視野画像と、任意選択でさらなる暗視野画像とからベクトル値画像を構成できる。例えばこのようなベクトル値画像は、異なる色成分が異なる暗視野画像におけるピクセルに対応するカラー画像である。ただし、この画像におけるベクトル値は、より複雑なアルゴリズムによって構成することもできる。例えば色相-彩度-値表現では、例えば暗視野画像の平均をピクセル強度(「値」)として示し、暗視野画像間の差を色相又は彩度として示すことができる。さらなる画像が得られた場合は、データの視覚化を可能にするために様々な合成を検討できる。例えば位相コントラスト又は減衰画像を1つの色成分(例えば「値」又は「赤」)として使用し、暗視野画像を他の色成分(「色相及びと「彩度」、又は「緑」及び「青」)で符号化できる。
【0073】
合成ユニット3は、合成画像内のピクセル位置について、光子エネルギー(例えば平均又はピークエネルギー)の関数として、又は相関長の関数として暗視野信号の表現を決定する。例えば限られた数の暗視野画像を視覚的評価のためのベクトル値画像に合成できるが、より多くの暗視野画像では、そのような合成はあまり適していない場合がある。例えば、人間の視覚の制約のために限られた数の特徴の選択が必要になる。しかし、合成画像は、例えば少なくとも関心のピクセル又は領域について、そのような詳細な機能的表現を含み、それによりユーザは画像内の点を選択して対応する機能グラフを確認できる。
【0074】
例えば入力部2は画像データを受信する。画像データは、対応する複数の(異なる)X線スペクトルについて得られた複数の暗視野画像(例えば3つ以上、例えば少なくとも4つ、例えば少なくとも8つ、例えば少なくとも16、例えば少なくとも32、例えば少なくとも64、例えば少なくとも128、例えば少なくとも256、・・・)を含む。例えば画像データは、エネルギー分解検出器から得られる。例えば各画像はエネルギー分解検出器によって収集された異なるエネルギービン(又はビンのセット)に基づいて計算された暗視野成分を含む。したがって、エネルギーの関数としての暗視野信号の表現は、エネルギービンの各々について得られた暗視野値によって指定された関数を含むが、このデータから決定された関数のパラメトリック定義も含む。例えばこのようなパラメトリック定義は、スプライン表現、フーリエ表現、一次、二次、又は三次補間グラフ、ガウス混合表現、又は別の適当な形式を含む。例えば合成ユニットは、各ピクセルについて得られたデータにパラメトリックモデルを適合させ、得られたパラメータを合成画像に保存する。
【0075】
合成ユニット3は、第1の暗視野画像と第2の暗視野画像との偏差の尺度を計算し、この偏差の尺度を合成画像におけるピクセル値(又はピクセル値の成分)として保存する。例えばこのような偏差の尺度は、差、絶対差、比率、差の対数、及び/又は2つの値を(絶対又は相対的に)比較するための別の適切な演算である。比率は、比較的低い光子エネルギー(例えばより長い波長、より長い相関長)について得られた暗視野信号を、比較的高い光子エネルギー(例えばより短い波長、より短い相関長)について得られた暗視野信号(対応するピクセル位置)で割った有用な尺度であることがわかる。このような比率は相関関数の傾きの近似又は代替として使用され、基礎となる状態の性質に関する有用な情報を符号化できる(例えば
図3のz/R=0付近の実質的に異なる傾きを参照)。
【0076】
合成画像は、ユーザ(放射線科医など)への提示に適している場合があるが、画像セグメンテーションなどのさらなる画像処理に使用するための技術的画像でもある。
【0077】
また、デバイス1は、画像をセグメント化して、異常な肺状態によって影響を受けている領域など、関心の肺構造を識別するセグメンタ4を含む。このセグメンタで使用される画像は、暗視野画像、合成画像、又は入力部を介して受信した別の画像(減衰画像又は位相コントラスト画像など)のいずれかである。セグメンタはまた、例えばステップセグメンテーションアプローチにおいて、又はベクトル値複合画像として、異なる画像を使用することもできる。例えばX線減衰情報を使用して、肺マスク画像を、例えば合成画像に基づいて異なる関心の肺構造のさらなるセグメント化を制限するマスクなどとして決定できる。
【0078】
米国特許出願公開第2018/271465号を参照すると、デバイスはまた、正規化のために肺深度マップを使用して、第1の暗視野画像、第2の暗視野画像、及び/又は任意のさらなる暗視野画像を正規化する正規化ユニットを含む。このような肺深度マップは、前述の特許出願で詳述されているように、骨抑制アルゴリズム(これは、例えば第1の暗視野画像及び第2の暗視野画像を計算するために取得した同じ生検出器データにおいてすでに利用可能であるスペクトル減衰情報に基づいて、有利に実行できる)を適用することによって、また、骨のない肺画像データに放射線減衰モデルを適用することによって計算される。
【0079】
また、デバイス1は、合成画像に基づいて複数の分類子ラベルを用いて、セグメント化された肺構造にラベル付けする分類器5を含む。分類器のラベルは、例えば炎症性肺組織、肺気腫、肺がん結節、COPD、嚢胞性線維症、気管支拡張症、胸膜浸出など(から選択される2つ以上)の様々な肺状態に対応している。分類器は、ラベル付けされたセグメント化された肺構造を有する合成画像に注釈を付けて、注釈付き画像を得る。
【0080】
したがって、分類器5は、検出された肺構造ごとに、合成画像に基づいて、複数の可能なラベルのうちの1つを選択する。しかしながら、分類器5はまた、1つ以上の(例えば異なるスペクトルについての)減衰画像、1つ以上の(例えば異なるスペクトルについての)位相コントラスト画像、又は異なるモダリティ(例えば好ましくは使用される他の画像に共通に位置合わせされる)によって得られる画像など、他の画像情報も考慮に入れることができる。
【0081】
デバイス1は、合成画像、セグメント化画像、及び/又は注釈付き画像を出力する出力部6を含む。出力部は、データストレージデバイス、ネットワーク接続、データバス若しくは別のタイプのデジタル通信及び/又はストレージインターフェースを含む。出力部はまた、合成画像を表示するために、コンピュータモニタ、プリンタなどのユーザインターフェースデバイスも含む。このようなユーザインターフェースはまた、当技術分野で知られているように、ユーザから(例えばインタラクティブ)コマンドを受信する手段も含む。したがって、合成画像は、レビューするユーザ(放射線科医など)に提示される。異なるX線エネルギー(異なるスペクトル)についての暗視野画像を合成することにより、追加のイメージング(異なるイメージングモダリティを使用したさらなる検査など)又はさらなる検査(機能性肺検査、生検など)を必要とせずに、ユーザが異なる肺状態をより簡単に区別できるという利点がある。
【0082】
第3の態様では、本発明は、上記の画像処理デバイス1を含む臨床ワークステーションに関する。臨床ワークステーションは、視覚情報を提示し、例えばイメージング視覚化ワークステーションである。ワークステーションは、1つ以上のグラフィカルディスプレイデバイス(モニタなど)、ユーザインターフェースデバイス(キーボード、マウス、及び/又は当技術分野で知られている他のヒューマンインターフェースデバイスなど)、及びプロセッサを含む。ワークステーションは、コンピュータ、スマートフォン、タブレット、ネットワークサーバコンピュータ、及び/又はこれらの組み合わせによって具現化され得る。このような臨床ワークステーションは、放射線科スイート、生検ラボスイート、手術室スイート、放射線治療計画及び/又は実施システムなどに適しているか、又はこれらに統合されている場合がある。
【0083】
図4を参照すると、第4の態様では、本発明は、画像データを処理するための方法20、例えばコンピュータ実施方法に関する。方法20は、医用X線イメージング装置から患者の関心領域を表す画像データを取得すること(21)を含む。画像データは、第1のX線スペクトルについて得られた第1の暗視野画像と、第2のX線スペクトルについて得られた第2の暗視野画像とを含み、第1のX線スペクトルと第2のX線スペクトルとは実質的に異なっている。この方法では、第1の暗視野画像と第2の暗視野画像とを合成して、肺状態マップを表す合成画像を提供すること(22)を含む。
【0084】
本発明の実施形態による方法の他の特徴、又は上記の特徴の詳細は、本発明の実施形態によるデバイス及び/又はシステムに関する上記の説明を考慮して明らかになるであろう。
【0085】
第5の態様では、本発明は、適切なプロセッサ上で実行するときに、本発明の実施形態による(例えば、コンピュータ実施)方法を実行するためのコンピュータプログラム製品に関する。
【0086】
第6の態様では、本発明は、第1のX線スペクトルについて得られた第1の暗視野画像と第2のX線スペクトルについて得られた第2の暗視野画像との合成を含む、患者の胸部領域の医用診断画像に関し、第1のX線スペクトルと第2のX線スペクトルは異なっている。