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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】汗パラメータの決定
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20240510BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20240510BHJP
   G01N 1/12 20060101ALI20240510BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A61B5/00 N
G01N1/10 V
G01N1/12 B
G01N37/00 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023536405
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2021084886
(87)【国際公開番号】W WO2022128711
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】20214477.0
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン マーク トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ファン リースハウト ロン マルティヌス ラウレンチウス
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト ルツ クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ペルセルス エドゥアルド ゲラルド マリエ
【審査官】山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03649941(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0163656(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの汗パラメータを決定するデバイスであって、
第1の皮膚領域からの汗を収集する収集チャンバ、及び前記第1の皮膚領域からの汗から汗パラメータを決定するセンサを含むマイクロ流体構造であって、前記マイクロ流体構造は、マイクロ流体チャネルを介して前記収集チャンバ及び前記センサと接続された第1の吸収体を含み、前記第1の吸収体は、前記センサを通過した、前記第1の皮膚領域からの汗を受け取る、当該マイクロ流体構造と、
前記マイクロ流体構造に流体接続され、第2の領域において収集された流体を利用して前記マイクロ流体構造の前記収集チャンバ及び前記センサを湿らせる蒸発制御チャンバと、
を含み、
前記第2の領域は、前記デバイスによって放出された蒸気を凝縮する凝縮要素の表面であり、前記表面は、前記凝縮要素を介して前記マイクロ流体構造に接続されたベントを持ち、前記センサは、前記センサからの汗を前記マイクロ流体構造へ放出する排出部を含み、
前記蒸発制御チャンバは、前記第1の吸収体に直接接続され、前記第1の吸収体を湿らせる、
デバイス。
【請求項2】
前記蒸発制御チャンバは、前記センサの前記排出部に直接接続され、前記センサの前記排出部を湿らせる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記第2の領域は、第2の皮膚領域をさらに含み
前記蒸発制御チャンバは、
前記第2の皮膚領域から収集され、且つ前記マイクロ流体構造を湿らせる流体を受け取る第2の吸収体と、
前記第2の皮膚領域から前記第2の吸収体へ流体の液滴を輸送する流体輸送体と、
を含む、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記蒸発制御チャンバは、ヒータを使用して、前記第2の皮膚領域から収集された前記流体を蒸発させる、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記デバイスは、
前記デバイスから蒸気を放出する前記ベントと、
前記ベント及び前記マイクロ流体構造に接続され、且つ蒸気を凝縮する前記凝縮要素とを含み、
前記デバイスは、
前記収集チャンバ及び前記センサにおいて第1の材料で構成され、前記第1の材料は、第1の熱抵抗を有し、
前記ベント及び前記凝縮要素において第2の材料で構成され、前記第2の材料は、第2の熱抵抗を有し、
前記ベントを通じて前記デバイスから放出される前に、前記凝縮要素において蒸気を凝縮するために、前記第1の熱抵抗は、前記第2の熱抵抗よりも高い、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項6】
ユーザの汗パラメータを決定する方法であって、前記方法は、
第1の皮膚領域から発生する汗を収集するステップと、
デバイスのマイクロ流体構造を湿らせるために、第2の領域において流体を収集するステップであって、前記デバイスは、第1の皮膚領域からの汗から汗パラメータを決定するセンサと、前記マイクロ流体構造に流体接続された蒸発制御チャンバであって、第2の領域において収集された流体を利用して前記マイクロ流体構造の収集チャンバ及び前記センサを湿らせるように構成された当該蒸発制御チャンバとを有し、前記マイクロ流体構造は、マイクロ流体チャネルを介して前記収集チャンバ及び前記センサと接続された第1の吸収体を含み、前記第1の吸収体は、前記センサを通過した、前記第1の皮膚領域からの汗を受け取り、前記第2の領域は、前記デバイスによって放出された蒸気を凝縮する凝縮要素の表面であり、前記表面は、前記凝縮要素を介して前記マイクロ流体構造に接続されたベントを持ち、前記センサは、前記センサからの汗を前記マイクロ流体構造へ放出する排出部を含み、前記蒸発制御チャンバは、前記第1の吸収体に直接接続され、前記第1の吸収体を湿らせる、収集するステップと、
前記センサを使用して、前記第1の皮膚領域から発生する汗からの汗パラメータを決定するステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの汗パラメータを決定するデバイス及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康で安心なことを示すバイオマーカの非侵襲的で、半連続的、且つ長期的なモニタリングが求められている。このようなバイオマーカモニタリングは、例えば、脱水症、ストレス、睡眠、小児の健康の評価において、また、周術期のモニタリングにおいて有用である。汗は、目立たないやり方でアクセス可能な生物流体であり、被検者の生理機能や代謝に関する豊富な情報源である。
【0003】
汗中の臨床的に関連性のあるバイオマーカのいくつかの例としては、脱水症のモニタリングや嚢胞性線維症の診断のためのNa+、CF、又はK+イオン、(敗血症に関連する)炎症の早期警告としての乳酸、糖尿病患者や新生児のためのグルコース、皮膚状態や脱水症のモニタリングのための尿素、アルコールを使用したモニタリング用のエタノール、代謝障害のアンモニウム、及びストレスモニタリングのためのコルチゾールが挙げられる。
【0004】
信頼性の高い汗検知の開発は、早くも1940年代及び1950年代には臨床業務によって有望な結果が示されていたにもかかわらず、いくつかの問題によって妨げられてきた。これまで、汗分析の有効な適用は、主に嚢胞性線維症の診断や、薬物及びアルコール乱用検査に限定されている。
【0005】
Mena-Bravo及びde Castroによって「Sweat:A sample with limited present applications and promising future in metabolomics」(J.Pharm.Biomed.Anal.90、139-147(2014))で要約されているように、汗のセンシングから得られる結果は非常に変化しやすく、血液サンプル及び汗サンプルから決定される値の相関関係は、様々なバイオマーカでは不十分であることが分かっている。
【0006】
ウェアラブルセンサを皮膚から出てくる汗とほぼ即座に接触させることによって、これらの問題に対処する努力がなされている。その一例が、Gao他によって「Fully integrated wearable sensor arrays for multiplexed in situ perspiration analysis」(Nature529、509~514(2016))において提示されているウェアラブルパッチである。パッチには、Na+、K+、グルコース、乳酸、及び皮膚の温度を測定するセンサアレイが含まれている。しかし、この研究の焦点はセンサ自体の開発及び統合にある。これは明らかに重要であるが、汗収集に関する問題には対処していない。後者は主に、皮膚とセンサとの間に数cmほどの面積を有する吸収性パッドを配置することによって行われる。十分な汗が生成され(したがって、激しい運動に従事している個人に対してテストが行われる)、パッドが分析のために汗を吸収し、新しく生成された汗がパッドに補充され、古い汗を「洗い流す」と仮定される。しかしながら、蓄積効果のために、センサの時間依存の応答が時間の経過に伴う実際のバイオマーカレベルを直接反映していない可能性が高いため、長期間にわたって信頼性の高いセンシングを継続することは困難である。このようなパッチはまた、安静している人や熱的快適性にある人(0.03~0.1nL/分/腺の範囲にある)が通常生成する微量の汗を取り扱うようには設計されていない場合もある。
【0007】
EP3649941A1は、汗腺から放出された汗中の検体濃度を推定するデバイス、システム、及び方法に関連している。更に、汗腺から放出された汗中の検体濃度をセンシングするスイッチングセンサデバイスや、汗腺から放出された汗中の検体濃度をセンシングするトリガセンサデバイスにも関連している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、継続的な汗測定にはかなりの注目が向けられている。解決が必要な大きな問題の1つは、温度調節のための生理学的メカニズムによって、皮膚上の小さな汗液滴が素早く蒸発されてしまうことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、独立請求項によって規定される。有利な実施形態は、従属請求項に規定される。
【0010】
ユーザの汗パラメータを決定するデバイスが、不要な汗の蒸発を減らす特徴を含む場合は有利である。これらの問題のうちの1つ以上に対処するために、本発明の第1の態様では、ユーザの汗パラメータを決定するデバイスが提供される。このデバイスは、
第1の皮膚領域からの汗を収集する収集チャンバ、及び第1の皮膚領域からの汗から汗パラメータを決定するセンサを含むマイクロ流体構造と、
マイクロ流体構造に流体接続され、第2の領域において収集された流体を利用してマイクロ流体構造を湿らせる蒸発制御チャンバとを含み、第2の領域は、第2の皮膚領域、及び/又はデバイスによって放出された蒸気を凝縮する凝縮要素の表面である。
【0011】
デバイスは、被検者の特定の皮膚領域、即ち、第1の皮膚領域から汗を収集し、センサを使用して、その第1の皮膚領域から収集された汗から被検者の汗パラメータを決定する。
【0012】
第2の領域は第2の皮膚領域であり得る。第1の皮膚領域を含まない被検者の任意の他の皮膚領域が、第2の皮膚領域であり、第1の皮膚領域に隣接していてもよい。第1の皮膚領域は、デバイスの収集チャンバと接触する皮膚領域として定義される。収集チャンバに接触していない任意の他の皮膚領域が、第2の皮膚領域である。流体、即ち、汗や経皮水分(TEW)が第2の皮膚領域に分泌される。このデバイスは、この汗又はTEWを湿気の源として利用して、マイクロ流体構造を湿らせ、マイクロ流体構造内の蒸気圧を高め、汗パラメータを決定するために使用される汗、つまり、第1の皮膚領域から発生する汗の蒸発を減らす。
【0013】
第1の皮膚領域からの汗の蒸発を減らすことで、センサに到達する液体汗の利用可能な量が増加し、汗から乾燥成分が蓄積することでデバイス内の信頼性の高い再現性のある流れが妨げられることが阻止される。更に、汗の蒸発は、液体汗の総量が減少することで、センサに到達する液体汗中のバイオマーカの濃度を変化させる可能性がある。また、汗の蒸発によって発汗速度の決定も妨げられる可能性がある。そのため、汗の蒸発を減らすことで、汗センサの測定結果を向上させることもできる。
【0014】
デバイスはウェアラブルデバイスであり得る。ウェアラブルデバイスは、使いやすさを向上させ、長時間着用する被検者にとって快適であり、数日や数週間などの長時間の連続測定に適している。
【0015】
デバイスのマイクロ流体構造を湿らせるために使用される第2の皮膚領域からの流体、即ち、汗又はTEWからの流体は、本発明の実施形態によって、液体状態でも、蒸気状態でもよい。例えば上記流体は、蒸発制御チャンバに接続されている(即ち、流体接続されている)マイクロ流体構造内の湿度を上げるために、蒸発制御チャンバ内で蒸発させることができる。別の実施例では、上記流体を蒸発制御チャンバに収集し、液体状態でマイクロ流体構造に輸送して、センサやマイクロ流体構造の他の構成要素を湿らせ、デバイス内に湿度の高い環境を維持する。
【0016】
第1の皮膚領域からの汗は収集チャンバに収集される。収集チャンバは円錐形のピラーを含んでいてもよい。円錐形のピラーは、収集チャンバ内の流体移動の総量及び影響を低減して、収集チャンバを充填する時間を短縮する。収集チャンバはヒドロゲル又はウィッキング材料を含んでいてもよい。
【0017】
更に、マイクロ流体構造は、マイクロ流体チャネルを介して収集チャンバ及びセンサと接続されている第1の吸収体を含んでいてもよい。第1の皮膚領域からの汗は、収集チャンバに収集され、汗腺の圧力と毛細管作用のために、センサに沿って、最終的には第1の吸収体の中へ輸送される。或いは、汗は、離散化された液滴輸送に基づいて(例えばパッシブ化学勾配やエレクトロウェッティング技法に基づいて)、マイクロ流体チャネルに沿って移動させることもできる。第1の吸収体が受け取る汗は既にセンサを通過しているため、測定には不要になり、蓄えられて蒸発させることができる。第1の吸収体を湿らせることでマイクロ流体チャネルを湿らせたままにするので、まだセンサを通過していない第1の皮膚領域の汗の蒸発を減らすのに役立つ。第1の吸収体から汗を徐々に蒸発させることは、マイクロ流体チャネル内に圧力勾配を作成するのにも役立つので、収集チャンバからセンサへ、最終的に吸収体への汗の輸送を助ける。
【0018】
蒸発制御チャンバからマイクロ流体構造を湿らせることは、第1の吸収体からの汗の蒸発速度を低下させる。第1の吸収体からの汗の蒸発が望ましいが、第1の吸収体からの汗の急速な蒸発はマイクロ流体チャネル内での汗の急速な蒸発にもつながり、センサに到達する前に汗が蒸発するため、この蒸発速度は制限されることも望まれる。
【0019】
更に、センサには、センサに入った汗を放出するための排出部が含まれている。排出部は、汗がセンサ内に蓄積しないように汗を除去するため、センサが受け入れ、測定するための新しい汗のためのスペースが確保される。第1の吸収体と同じ理由で、排出部を通じてセンサから汗を除去することが望ましいが、除去速度が制限されることも望まれる。
【0020】
一連の実施例では、蒸発制御チャンバは、マイクロ流体構造の第1の吸収体又はセンサの排出部と直接接続されている。この実施例では、第2の皮膚領域の流体(蒸気状態、液体状態、又は両方の状態)は、第1の吸収体、センサの排出部、又は第1の吸収体及びセンサの排出部の両方に直接流れる。マイクロ流体チャネルに接続された構成要素である第1の吸収体又はセンサの排出部を直接湿らせると、第1の皮膚領域からの汗がセンサに到達するように移動するマイクロ流体チャネル内の汗の蒸発が減少する。
【0021】
別の実施例では、蒸発制御チャンバは、第2の吸収体を含む。第2の吸収体は、第2の皮膚領域から収集された流体を受け取り、マイクロ流体構造を湿らせる。蒸発制御チャンバはまた、流体の液滴を第2の吸収体に輸送する流体輸送体を含んでいてもよい。
【0022】
流体輸送体(例えばパッシブ化学勾配又はエレクトロウェッティングに基づいて離散化された液滴を移動する輸送体)によって、毛細管作用よりも流体が速く輸送される。第2の吸収体の利点は、流体の蒸発を可能な限り速く刺激して、マイクロ流体構造を湿らせる速度が速くなることである。
【0023】
更なる実施例では、蒸発制御チャンバは、流体の液滴を第1の吸収体に輸送する流体輸送体を含む。
【0024】
別の実施例では、蒸発制御チャンバはまた、ヒータを含む。皮膚温度は、蒸発制御チャンバ内に十分な蒸発を発生させるのに十分であるが、ヒータによって生成される熱エネルギーによって、第2の皮膚領域から発生する流体の蒸発を刺激することが有益である。
【0025】
更なる実施例では、デバイスは、デバイスから蒸気を放出するベントと、ベント及びマイクロ流体構造に接続され、且つ蒸気を凝縮する凝縮要素とを含む。更に、デバイスは、収集チャンバ及びセンサにおいて、第1の熱抵抗を有する第1の材料で構成され、ベント及び凝縮要素において、第2の熱抵抗を有する第2の材料で構成される。更に、デバイスから放出される前に蒸気を凝縮するために、第1の熱抵抗は第2の熱抵抗よりも高い。
【0026】
ベントは、デバイスから蒸気を放出してデバイス内の圧力を低下させ、第1の皮膚領域からの新しい汗を収集してセンサに輸送できるようにする。マイクロ流体構造内、したがって、マイクロ流体チャネル内での第1の皮膚領域からの汗の急速な蒸発を防ぐために、湿度は高いままにする必要がある。したがって、ベントを通じてデバイスを出る前に、蒸気の凝縮を容易にするために温度勾配が作成される。温度勾配を作成するために、デバイスは、収集チャンバ及びセンサを取り囲むデバイスの一部に使用される第1の材料で構成される。第1の材料は第1の熱抵抗を有する。デバイスは、ベントと凝縮要素を取り囲む一部において第2の材料で構成される。第2の材料は第2の熱抵抗を有し、第1の熱抵抗は第2の熱抵抗よりも高い。
【0027】
ベント及び凝縮要素において使用される材料よりも高い熱抵抗を有する第1の材料は温度勾配を作成し、皮膚の近く、即ち、収集チャンバにおける温度は、ベント及び凝縮要素における温度よりも高い。ベント及び凝縮要素における第2の材料の熱抵抗がより低いことによって、それらの温度は環境温度に近くなり、蒸気よりも低温になる。蒸気と冷たい表面とが接触すると、蒸気の一部が凝縮する。したがって、凝縮した蒸気はデバイスに逆流し、デバイス内からの湿度損失を低減する。
【0028】
実施例では、第2の領域は凝縮要素の表面である。この実施例では、デバイスは第2の皮膚領域から流体を収集する必要がない。蒸気の形でセンサを通過した第1の皮膚領域からの汗は、マイクロ流体構造内の湿度を上げる。これらの蒸気は凝縮要素の表面で凝縮され、デバイスに逆流し、デバイス内からの湿度の損失を低減する。
【0029】
デバイスは更に、ベントと凝縮要素の冷却を増加させ、それにより、デバイスを出る前に蒸気の凝縮を増加させるために、冷却ブロックなどのパッシブ冷却要素やペルチェ要素などのアクティブ冷却要素を含む。
【0030】
本発明はまた、ユーザの汗パラメータを決定する方法も提供する。この方法は、
第1の皮膚領域から発生する汗を収集するステップと、
第1の皮膚領域からの汗から汗パラメータを決定するセンサを有するデバイスのマイクロ流体構造を湿らせるために、第2の領域において発生する流体を収集するステップであって、マイクロ流体構造に流体接続された蒸発制御チャンバは、第2の領域において収集された流体を利用してマイクロ流体構造を湿らせ、第2の領域は、第2の皮膚領域、及び/又はデバイスによって放出された蒸気を凝縮する凝縮要素の表面である、収集するステップと、
センサを使用して、第1の皮膚領域から発生する汗からの汗パラメータを決定するステップとを含む。
【0031】
本方法は、センサを含むデバイス内の湿度を高め、したがって、汗の蒸発を減少させることによって、センサが汗パラメータを決定するために利用可能な汗を増加させることを目的としている。
【0032】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に説明される実施形態から明らかになり、また、当該実施形態を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明をより深く理解し、本発明がどのように実行されるかをより明確に示すために、ほんの一例として添付の図面を参照する。
【0034】
図1a-1b】図1a及び図1bは、本発明によるデバイスの第1の実施例を示す。
図2図2は、本発明によるデバイスの第2の実施例を示す。
図3図3は、本発明によるデバイスの第3の実施例を示す。
図4図4は、本発明によるデバイスの第4の実施例を示す。
図5a-5b】図5a及び図5bは、本発明によるデバイスの第5の実施例を示す。
図6図6は、本発明による方法の実施例のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、図を参照して説明される。詳細な説明及び具体的な実施例は、デバイス及び方法の模範的な実施形態を示しているが、説明のみを目的としたものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。本発明のデバイス及び方法のこれら及び他の特徴、態様、並びに利点は、次の説明、添付の特許請求の範囲、及び添付の図面からよりよく理解されるようになるであろう。図は単なる概略図であり、縮尺どおりに描かれていない。また、図全体で同じ参照番号を使用して、同じ部分又は類似の部品を示すことが理解されるべきである。
【0036】
図1a及び図1bは、本発明の実施例を示している。デバイス1は、第1の皮膚領域iからの汗が収集される収集チャンバ16と、第1の皮膚領域iからの汗パラメータを決定するセンサ12とを有するマイクロ流体構造10を含む。デバイス1はまた、蒸発制御チャンバ14も含む。蒸発制御チャンバ14は、マイクロ流体構造10に接続され、第2の領域iiから流体を収集する。図1aでは、第2の領域iiは第2の皮膚領域である。図1bでは、第2の領域はデバイス内の領域である。
【0037】
第1の皮膚領域iからの汗の蒸発は、センサ12に必要な汗の可用性を制限する可能性がある。マイクロ流体構造10内の湿度は、蒸発制御チャンバ14によって制御されて比較的高い湿度に維持され、これにより、収集チャンバ16に収集された第1の皮膚領域iからの汗のごく一部しか蒸発しないようにされる。
【0038】
第2の領域から収集された流体は、液体状態でも、蒸気状態でもよい。流体は、マイクロ流体構造10に直接流れ込んでもよいし、又は、例えば蒸気の場合はデバイス内の空間を埋める。蒸発制御チャンバ14がマイクロ流体構造10に接続されているため、マイクロ流体構造10の空間も埋めることができる。このように、マイクロ流体構造10内では湿度の高い環境が維持され、汗パラメータの決定に使用される第1の皮膚領域iから発生する汗の蒸発が抑制される。マイクロ流体構造の湿度の高い環境では、例えば屋内環境における典型的な相対湿度(RH)値を上回るRHを有し、例えば80~90%である。
【0039】
センサ12によって決定される汗パラメータは、汗中のバイオマーカの濃度及び任意選択で発汗速度である。バイオマーカの濃度を決定するセンサは、例えば電気分析技法(クロノアンペロメトリ、電位差測定法、ボルタンメトリ、電気化学インピーダンス分光法、圧電気など)や光学的技法(比色分析法、蛍光光度法など)に基づいて動作する。人の発汗速度を示すパラメータをセンシングできるセンサの例としては、皮膚応答(GSR)センサ、熱量測定フローセンサ、マイクロバランスセンサ、又は共鳴センサが挙げられる。
【0040】
図1a及び図1bには図示していないが、デバイス1は、決定された汗パラメータをユーザに伝達するためのディスプレイなどの出力部、及び/又は外部出力デバイスと接続して、決定された汗パラメータをユーザに伝達するための通信構成要素を含んでいてもよい。
【0041】
図2は、本発明の別の模範的な実施形態を示している。デバイス2は、マイクロ流体構造10と、蒸発制御チャンバ14とを含む。マイクロ流体構造10は、収集チャンバ16と、マイクロ流体チャネル22を介して接続されたセンサ12とを含む。
【0042】
任意選択で、デバイス2は、マイクロ流体チャネルに接続され、センサ12を通過した第1の皮膚領域iからの汗を受け取る第1の吸収体20を含む。
【0043】
任意選択で、センサ12は、センサ12からマイクロ流体構造10の中へ汗を放出する排出部21を含む。
【0044】
任意選択で、収集チャンバ16は円錐形のピラー24を含む。円錐形のピラー24は、汗が収集チャンバ16内でセンサ12に向かって移動するのを妨げないように構成されている。
【0045】
図2では、汗腺から皮膚上に排出される、第1の皮膚領域iからの汗は、収集チャンバ16に収集される。マイクロ流体チャネル22の毛細管作用によって支援される汗腺の圧力によって、第1の皮膚領域iから収集された汗は、マイクロ流体チャネル22を通ってセンサ12に向かい、最後にオプションの第1の吸収体20に輸送される。センサ12を通過するときに、センサは汗パラメータを測定する。第2の皮膚領域iiからの流体は、蒸発制御チャンバ14に収集され、マイクロ流体構造10を湿らせるために使用される。
【0046】
更なる実施例では、収集された流体は、オプションの第1の吸収体20又はセンサ12のオプションの排出部21に直接接続されている。第1の吸収体20又はセンサ12の排出部21を直接湿らせることで、マイクロ流体チャネル22内の汗の蒸発の減少が早くなる。第1の皮膚領域iからの汗がマイクロ流体チャネル22内を移動してセンサ12に到達する。
【0047】
図3は、本発明の別の模範的な実施形態を示している。図1及び図2と同様に、デバイス3は、マイクロ流体構造10と、マイクロ流体構造10に接続した蒸発制御チャンバ14とを含む。マイクロ流体構造10は、任意選択で円錐形のピラー24を含む収集チャンバ16と、任意選択で排出部21を有するセンサ12と、マイクロ流体チャネル22を介して接続された第1の吸収体20とを含む。図3では、蒸発制御チャンバ14はヒータ28a、28b、又は28cを含む。デバイス3はまた、ベント26を含む。オプションのヒータ28bは、湿気がマイクロ流体構造10に向かって通過することを可能にする。
【0048】
蒸発制御チャンバ14は、第2の皮膚領域iiからの流体、即ち、汗やTEWを蒸発させ、この流体の局所的な蒸発によって湿気が生成され、この湿気はマイクロ流体構造10内で分散してマイクロ流体構造10内の蒸発を最小限に抑える。余分の湿気は、ベント26を通ってデバイスから排出される。ベント26は湿気透過性膜を含んでいてもよい。
【0049】
皮膚の温度は、蒸発制御チャンバ14内で十分な蒸発をもたらすのに十分であるが、オプションのヒータ28a、28b、及び/又は28cを使用して、湿気の生成を刺激することが有益な場合がある。
【0050】
図4は、本発明の別の模範的な実施形態を示している。図4では、デバイス4のマイクロ流体構造10は、図3に示す実施形態と同じ特徴を含み、動作する。蒸発制御チャンバ14は、流体輸送体34と、第2の吸収体30と、任意選択でヒータ32とを含む。流体輸送体34は、第2の皮膚領域iiから発生する汗及び/又はTEWを第2の吸収体30に輸送する。第2の吸収体30に蓄積された汗及び/又はTEWは、任意選択でヒータ32によって支援されて蒸発する。生成された湿気はマイクロ流体構造10内で分散し、それによってマイクロ流体構造10内の蒸発が減少する。
【0051】
図5a及び図5bは、本発明の別の模範的な実施形態を示している。デバイス5は、マイクロ流体チャネル22を介して第1の皮膚領域iからの汗を受け取るセンサ12を有するマイクロ流体構造10を含む。センサ12は、センサ12からマイクロ流体構造10の中へ汗を放出する排出部21を含む。マイクロ流体構造10は、センサ12を通過した汗を受け取る第1の吸収体20を含む。デバイス5は、ベント26と、凝縮要素42と、任意選択で冷却要素44とを含む。蒸発制御チャンバ14はマイクロ流体構造10に接続している。ベントは凝縮要素42を介してマイクロ流体構造に接続されている。
【0052】
図5bでは、第2の領域iiは凝縮要素42の表面である。蒸発制御チャンバ14は凝縮要素42である。更なる実施例では、デバイスは2つの第2の領域ii、即ち、第2の皮膚領域及び凝縮要素42の表面を含む。
【0053】
デバイス5は、第1の断熱性を有する第1の材料46と、第2の断熱性を有する第2の材料48とで構成されている。第1の断熱性は第2の断熱性よりも高い。第1の材料46は、マイクロ流体チャネル22、センサ12、及びオプションの第1の吸収体20を取り囲むデバイス5の一部に使用される。第2の材料48は、デバイスのベント26、凝縮要素42、及びオプション冷却要素体44を取り囲むデバイス5の一部に使用される。任意選択で、第1の材料46及び第2の材料48は、ハウジングの前述の部分でのみ使用され、残りのハウジングは第3の材料を含む。図5aに示す実施例では、第1の材料46は、マイクロ流体構造10及び蒸発制御チャンバ14を取り囲むデバイス5の一部に使用され、第2の材料48は、ベント26、凝縮要素42、及びオプションの冷却要素44があるデバイス5の部品に使用される。
【0054】
マイクロ流体構造10内の第1の皮膚領域iからの汗の蒸発を減らすためには、マイクロ流体構造10内の湿度が高くなければならない。マイクロ流体構造内の湿度を上げるために、図5aでは、第2の皮膚領域iiからの流体(汗や経皮水分(TEW)など)が、図5bでは、第1の皮膚領域iからの汗を蒸発して、温度を上げる必要がある。しかし、温度の上昇はまた、オプションの第1の吸収体20及び/又はセンサ12内からの汗の蒸発を高速化させ、排出部21から出て、最終的にベント26を通ってデバイスから放出される。
【0055】
第1の吸収体20及び/又は排出部21からの蒸発を通じてマイクロ流体チャネル22全体からの液体の損失につながるデバイスからの湿度の損失を防ぐために、湿度を高いままにする必要がある。したがって、凝縮を促進するために、皮膚表面(より高い温度)からデバイスのベント(より低い温度)への方向で温度勾配が作られる。温度勾配は、第2の材料48よりも高い断熱性を有する第1の材料46を使用して作られる。したがって、デバイスと外部環境との熱伝達は皮膚近傍で低減され、デバイスと環境との熱伝達はベント26及び凝縮要素42ではより高い。したがって、皮膚に近いデバイスの温度は、ベント26及び凝縮要素42に近いデバイスの温度よりも高い。蒸気が凝縮要素42のより冷たい表面に接触すると、蒸気の一部が凝縮し、凝縮した蒸気はデバイスに逆流し、マイクロ流体構造10内の湿度の損失を低減する。
【0056】
ベント及び凝縮要素42の冷却は、任意選択でパッシブ冷却要素(冷却ブロックなど)又はアクティブ冷却要素(ペルチェなど)を追加することで増大できる。
【0057】
図6は、ユーザの汗パラメータを決定する方法600の実施例を示している。この方法は、第1の皮膚領域iから発生する汗を収集するステップ610と、マイクロ流体構造10を湿らせるために利用される流体を第2の領域iiにおいて収集するステップ620と、第1の皮膚領域iから発生する汗から汗パラメータを決定するステップ630とを含む。マイクロ流体構造10は、第1の皮膚領域iから発生する汗から汗パラメータを決定するために使用されるセンサ12を含む。
【0058】
決定された汗パラメータは、第1の皮膚領域iからの汗中のバイオマーカの濃度及び任意選択で発汗速度である。
【0059】
第2の領域iiは第2の皮膚領域iiであってもよい。別の実施例では、第2の領域は、方法を実施するために使用されるデバイスによって放出された蒸気を凝縮する凝縮要素によって形成される。
【0060】
この方法は更に、決定された汗パラメータを有する出力をユーザに提供することを含んでいてもよい。
【0061】
要約すると、本発明は、ユーザの汗パラメータを決定するデバイスを提供する。このデバイスは、第1の皮膚領域iからの汗を収集する収集チャンバ16と、第1の皮膚領域iからの汗から汗パラメータを決定するセンサ12とを有するマイクロ流体構造10を含む。このデバイスはまた、マイクロ流体構造10に接続され、第2の領域iiにおいて収集された流体を利用してマイクロ流体構造10を湿らせる蒸発制御チャンバ14を含む。マイクロ流体構造10を湿らせることは、マイクロ流体構造10内の湿度を高め、したがって、汗の蒸発を減少させることによって、センサが汗パラメータを決定するために利用可能な汗を増加させることを目的としている。ユーザの汗パラメータを決定する方法600も提供されている。
【0062】
上記の実施形態は、本発明を限定するのではなく、説明するものであり、当業者は、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、多くの代替実施形態を設計できることに留意されたい。特許請求の範囲では、括弧内の任意の参照符号は、特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。「含む」という語は、請求項に列挙されている要素又はステップ以外の要素又はステップの存在を除外するものではない。単数形の要素は、当該要素が複数存在することを除外するものではない。本発明は、いくつかの異なる要素を含むハードウェアによって、及び/又は適切にプログラムされたプロセッサによって実装され得る。いくつかの手段を列挙するデバイス請求項において、これらの手段のうちのいくつかは、まったく同一のハードウェアアイテムによって具体化されてもよい。相互に異なる従属請求項に記載される手段、有利に組み合わせて使用されてもよい。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6