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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】逆止弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 15/06 20060101AFI20240513BHJP
   F16K 27/02 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
F16K15/06
F16K27/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019187607
(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2021063531
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】595086328
【氏名又は名称】株式会社光明製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114764
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】金村 哲志
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-096265(JP,A)
【文献】特開2019-027147(JP,A)
【文献】特開2009-058055(JP,A)
【文献】特開2007-056942(JP,A)
【文献】特開2011-190867(JP,A)
【文献】米国特許第06220282(US,B1)
【文献】特開平03-209077(JP,A)
【文献】特開2010-144788(JP,A)
【文献】特開2014-047872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 15/00 - 15/20
F16K 27/00 - 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が内部を流通する弁箱と、
前記弁箱内の流体の流れを一方向に規制するために前記弁箱内に着脱可能に収容される弁体カートリッジと、
前記弁体カートリッジと別体でかつ前記弁箱内に着脱可能に収容されるスペーサとを備え、
前記弁箱は、前記弁体カートリッジおよび前記スペーサを収容可能な収容室と当該収容室を介して同軸状に連なる入口部および出口部とを含む弁箱本体と、前記収容室を開放または閉鎖するために前記弁箱本体に着脱可能に取り付けられる蓋部材とを有し、
前記弁箱本体は、前記入口部および出口部の中心軸が水平方向を向く姿勢で前記弁箱が設置された場合に上向きに開口する上面開口を有し、
前記蓋部材は、前記上面開口を覆う位置に取り付けられ、
前記弁体カートリッジは、前記収容室における上流側の一部の領域に収容されるカートリッジ本体と、前記流体の流通を止める上流寄りの閉止位置と当該閉止位置から下流側に離れた開放位置との間で移動可能なように前記カートリッジ本体に支持される弁体と、弁体を前記閉止位置に向けて弾性的に押圧する弾性部材とを有し、
記スペーサは、前記収容室の下流側の縦壁と前記カートリッジ本体との間に挿入可能な差込み部を有し、
前記収容室の上流側の縦壁は、その上端部に凹状の切欠きを有し、
前記カートリッジ本体は、前記切欠きと対向する位置に当該切欠きと嵌合可能な突起を有する、ことを特徴とする逆止弁。
【請求項2】
請求項1に記載の逆止弁において、
前記弁体カートリッジは、前記収容室の上流側の縦壁と前記カートリッジ本体との間をシールするシール部をさらに備え、
前記弁体は、前記閉止位置において前記シール部に密着しかつ前記開放位置において前記シール部から離間するように、前記カートリッジ本体に移動可能に支持されている、ことを特徴とする逆止弁
【請求項3】
請求項2に記載の逆止弁において、
前記差込み部の上流側の面は、当該差込み部の上下流方向の厚みが下側ほど小さくなるように傾斜しており、
前記カートリッジ本体における前記差込み部と対向する面は、前記差込み部の上流側の面と同様の角度で傾斜している、ことを特徴とする逆止弁
【請求項4】
請求項2または3に記載の逆止弁において、
前記弁体は、前記シール部に密着可能な弁部と、弁部から下流側に延びる軸部とを有し、
前記カートリッジ本体は、前記軸部が移動可能に挿入される挿通孔を有し、
前記スペーサは、前記弁体が前記開放位置にあるときに前記挿通孔の下流端に対応する前記カートリッジ本体の端面から突出した前記軸部を囲む囲繞壁を有し、当該囲繞壁は下向きに開放された逆U字状を呈する、ことを特徴とする逆止弁。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の逆止弁において、
前記スペーサは、前記差込み部の上部から上流側に突出するとともに前記収容室の上面を覆うように形成された庇部を有する、ことを特徴とする逆止弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管を流通する流体の逆流を防止するための逆止弁に関する。
【背景技術】
【0002】
逆止弁として、図16(a)に示す単式逆止弁201が広く知られている。この単式逆止弁201は、配管軸L1と同心のシートリング203を内蔵した弁箱202と、シートリング203に対し上下流方向に離接可能なように弁箱202内に設けられた弁体204と、弁体204をシートリング203に弾性的に押し付けるリターンスプリング205とを備えている。なお、図16(a)では弁体204がシートリング203に押し付けられた状態が示されているが、上流側配管から流体が供給されたときには、流体の圧力を受けた弁体204が下流側(図中の左側)に移動してシートリング203から離間し、これによって図中の破線矢印で示すような流体の流れが許容される。
【0003】
単式逆止弁201は、弁箱202内での流体の流れを比較的単純にできるため、圧力損失を低く抑えることができる。しかしながら、メンテナンスのために弁体204やリターンスプリング205を交換する際には、逆止弁201を配管から取り外す必要があり、メンテナンスに要する時間が長期化し易いという問題がある。
【0004】
上記のような問題を改善するためのものとして、下記特許文献1に記載されるリフト式逆止弁が知られている。このリフト式逆止弁の典型例を図16(b)に示す。本図に示されるリフト式逆止弁301は、中心軸が上下方向を向くシートリング303を内蔵した弁箱302と、シートリング303に対し上下方向に離接可能なように弁箱302内に設けられた弁体304と、弁体304をシートリング303に弾性的に押し付けるリターンスプリング305とを備えている。なお、図16(b)では弁体304がシートリング303に押し付けられた状態が示されているが、上流側配管から流体が供給されたときには、流体の圧力を受けた弁体304が上方に移動してシートリング303から離間し、これによって図中の破線矢印で示すような流体の流れが許容される。
【0005】
リフト式逆止弁301の弁箱302は、弁体304の上方にあたる位置に開口を有する弁箱本体302aと、弁箱本体302aの当該開口を閉止する着脱可能な蓋部材302bとを備えている。このため、メンテナンス時には、弁体304およびリターンスプリング305の交換を、弁箱本体302aから蓋部材302bを取り外した状態で容易に行うことができる。言い換えると、リフト式逆止弁301では、蓋部材302bを取り外すだけで弁体304等の交換が可能になるので、当該交換作業のために逆止弁301を配管から取り外すことが不要になり、メンテナンス性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-101684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、上述したリフト式逆止弁301では、シートリング303の中心軸が配管軸L2と直交することから、図16(b)において破線矢印で示すように、流体の流れがシートリング303の前後で2度大きく屈曲することになる。このように、リフト式逆止弁では、流体の流れが複雑になることから、圧力損失が大きくなり易いという問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、メンテナンス性の向上と圧力損失の低減とを両立することが可能な逆止弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためのものとして、本発明の一局面に係る逆止弁は、流体が内部を流通する弁箱と、前記弁箱内の流体の流れを一方向に規制するために前記弁箱内に着脱可能に収容される弁体カートリッジと、前記弁体カートリッジと別体でかつ前記弁箱内に着脱可能に収容されるスペーサとを備え、前記弁箱は、前記弁体カートリッジおよび前記スペーサを収容可能な収容室と当該収容室を介して同軸状に連なる入口部および出口部とを含む弁箱本体と、前記収容室を開放または閉鎖するために前記弁箱本体に着脱可能に取り付けられる蓋部材とを有し、前記弁箱本体は、前記入口部および出口部の中心軸が水平方向を向く姿勢で前記弁箱が設置された場合に上向きに開口する上面開口を有し、前記蓋部材は、前記上面開口を覆う位置に取り付けられ、前記弁体カートリッジは、前記収容室における上流側の一部の領域に収容されるカートリッジ本体と、前記流体の流通を止める上流寄りの閉止位置と当該閉止位置から下流側に離れた開放位置との間で移動可能なように前記カートリッジ本体に支持される弁体と、弁体を前記閉止位置に向けて弾性的に押圧する弾性部材とを有し、記スペーサは、前記収容室の下流側の縦壁と前記カートリッジ本体との間に挿入可能な差込み部を有し、前記収容室の上流側の縦壁は、その上端部に凹状の切欠きを有し、前記カートリッジ本体は、前記切欠きと対向する位置に当該切欠きと嵌合可能な突起を有する、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0010】
本発明の逆止弁では、弁体カートリッジが収容される収容室を介して入口部および出口部が同軸状に連なるので、弁箱内の流体の流れ、つまり収容室を通じた入口部から出口部への流体の流れが単純になり、圧力損失を低減することができる。詳しくは、入口部に上流側配管から流体が供給されたときに、供給された流体の圧力により弁体がリターンスプリングの弾発力に抗して下流側(開放位置)に移動することにより、収容室を通じて入口部から出口部へと流体が流れることが許容される。このとき、入口部から流入してきた流体は、弁体の後退に伴い生じた隙間を通じて出口部へと流出するが、入口部と出口部とが収容室を介して同軸状に連なることにより、流体の流れが大きく屈曲するような事態が回避される。これにより、弁箱内の流体の流れを比較的単純なものにすることができ、逆止弁を通過する際の流体の圧力損失を低く抑えることができる。
【0011】
また、収容室にアクセスするために弁箱本体の上面に設けられた上面開口が着脱式の蓋部材により覆われるので、逆止弁のメンテナンス時には、蓋部材を弁箱本体から取り外して上面開口を開放することにより、開放された上面開口を通じて弁体カートリッジを容易に交換することができる。しかも、上面開口を覆う蓋部材は、逆止弁(弁箱)を配管に取り付けた状態のまま取り外すことができるので、メンテナンスのために逆止弁を取り外すことが不要になり、メンテナンスの作業効率を格段に向上させることができる。
【0012】
さらに、収容室には弁体カートリッジに加えてこれと別体のスペーサが収容されるので、メンテナンス時には、弁体カートリッジおよびスペーサを順次着脱することにより、弁体カートリッジの交換を容易に行うことができる。すなわち、収容室における上流側の一部の領域に弁体カートリッジが収容されるとともに、収容室の残りの領域にスペーサが収容されるので、弁体カートリッジを取り外す際には、まずスペーサを収容室から抜き出すことにより、その後の弁体カートリッジの抜き出しを容易化することができる。また、弁体カートリッジを取り付ける際には、スペーサの挿入に先んじて弁体カートリッジを挿入することにより、スペーサの存在しない収容室に弁体カートリッジを容易に挿入できるとともに、これに続いて挿入されるスペーサの差込み部を収容室の下流側の縦壁とカートリッジ本体との間に差し込むことにより、弁体カートリッジを収容室内の定位置に安定的に保持することができる。
さらにまた、収容室の上流側の縦壁の上端部に凹状の切欠きが形成されるとともに、カートリッジ本体における当該切欠きと対向する位置に突起が形成されるので、弁体カートリッジの取り付けの際に突起を切欠きに嵌合させることにより、収容室内において弁体カートリッジの位置決めを図ることができる。また、突起を切欠きの位置に合わせるよう作業者を促すことができるので、弁体カートリッジの取り付け向きを間違うミスが起きる可能性を低減することができる。
【0014】
好ましくは、前記弁体カートリッジは、前記収容室の上流側の縦壁と前記カートリッジ本体との間をシールするシール部をさらに備え、前記弁体は、前記閉止位置において前記シール部に密着しかつ前記開放位置において前記シール部から離間するように、前記カートリッジ本体に移動可能に支持される(請求項2)。
この構成によれば、上流側配管から流体が供給されないときに逆流防止のためのシール性を良好に確保しつつ、上流側配管から流体が供給されたときには、弁体とシール部との間に生じる隙間を通じて流体の流れを適正に許容することができる。
【0016】
前記構成において、より好ましくは、前記差込み部の上流側の面は、当該差込み部の上下流方向の厚みが下側ほど小さくなるように傾斜しており、前記カートリッジ本体における前記差込み部と対向する面は、前記差込み部の上流側の面と同様の角度で傾斜している(請求項3)。
この構成によれば、収容室の下流側の縦壁とカートリッジ本体との間にスペーサの差込み部を挿入することにより所謂くさび効果が発揮されて、カートリッジ本体が上流側に押し付けられる。これにより、シール部を収容室の上流側の縦壁に密着させることができ、シール性を高めることができる。
【0017】
好ましくは、前記弁体は、前記シール部に密着可能な弁部と、弁部から下流側に延びる軸部とを有し、前記カートリッジ本体は、前記軸部が移動可能に挿入される挿通孔を有し、前記スペーサは、前記弁体が前記開放位置にあるときに前記挿通孔の下流端に対応する前記カートリッジ本体の端面から突出した前記軸部を囲む囲繞壁を有し、当該囲繞壁は下向きに開放された逆U字状を呈する(請求項)。
【0018】
この構成によれば、カートリッジ本体からの弁体の軸部の突出がスペーサの囲繞壁によって阻害されることがなく、上流側配管から流体が供給されたときに弁体を円滑に開放位置へと移動させることができる。
【0019】
しかも、スペーサの囲繞壁は下向きに開放された逆U字状を呈するので、逆止弁のメンテナンス時に、仮に弁体が開放位置で固着していたとしても、スペーサを支障なく収容室から上方に抜き出すことができる。すなわち、スペーサを抜き出す必要のあるメンテナンス時に、弁体の開放位置での固着によってその軸部がカートリッジ本体から突出する位置に保持されていたとしても、この突出した軸部は、囲繞壁の下側の開放端を相対的に通過することが可能である。このため、突出した軸部によってスペーサの抜き出しが阻害されることがなく、スペーサを支障なく取り外すことが可能になる。
【0022】
好ましくは、前記スペーサは、前記差込み部の上部から上流側に突出するとともに前記収容室の上面を覆うように形成された庇部を有する(請求項)。
この構成によれば、上流側配管から流体が供給されたときに、入口部から収容室に流入した流体が当該収容室の上方空間に入り込むことが庇部によって抑制されるので、流体の流れが複雑化して圧力損失が増大するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、メンテナンス性の向上と圧力損失の低減とを両立することが可能な逆止弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態にかかる逆止弁の据付例を示すシステム図である。
図2】逆止弁の外観を示す斜視図である。
図3】非通水時の逆止弁の状態を示す断面図である。
図4】通水時の逆止弁の状態を示す断面図である。
図5】逆止弁の分解斜視図である。
図6】蓋部材を取り外した状態の逆止弁を示す斜視図である。
図7】弁箱本体を単体で示す図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
図8】弁体カートリッジとスペーサとを組み付けた状態を示す図であり、(a)は斜め前方から見た斜視図、(b)は斜め後方から見た斜視図である。
図9】弁体カートリッジおよびスペーサの分解斜視図である。
図10】カートリッジ本体を単体で示す図であり、(a)は斜視図、(b)は背面図、(c)は(b)のc-c線に沿った断面図である。
図11】スペーサを単体で示す図であり、(a)は斜視図、(b)は背面図、(c)は(b)のc-c線に沿った断面図である。
図12】逆止弁を組み立てる手順を説明するための図であり、(a)は弁体カートリッジの取り付けを、(b)はスペーサの取り付けを、(c)は蓋部材の取り付けを、それぞれ示している。
図13】弁体カートリッジの交換手順を説明するための図であり、(a)は蓋部材の取り外しを、(b)はスペーサの取り外しを、(c)は弁体カートリッジの取り外しを、それぞれ示している。
図14】本発明の効果を確認するために行った圧力損失の測定実験の結果を示すグラフである。
図15】本発明の効果を確認するために行った弁体交換時間の測定実験の結果を示す表である。
図16】従来型の逆止弁の構造を示す図であり、(a)は単式逆止弁を、(b)はリフト式逆止弁を、それぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(1)逆止弁の据付例
図1は、本発明の一実施形態にかかる逆止弁1の据付例を示すシステム図である。この図1の例において、逆止弁1は、水道メータユニット100の下流側に取り付けられている。水道メータユニット100は、水道メータ101と胴部102とを備えており、胴部102の下流側の端部に逆止弁1が接続されている。また、逆止弁1の下流側にはナット103を介して給水管104が接続されている。言い換えると、逆止弁1は、上流側配管としての水道メータユニット100(胴部102)と下流側配管としての給水管104との間に介設されている。このような位置に設けられた逆止弁1は、給水管104から水道メータユニット100に水が逆流するのを防止する機能を果たす。なお、図1において符号105で示される要素は、不図示の水道本管から水道メータユニット100へと流れる水の通水/止水を切り替えるための止水栓である。
【0027】
図1に示す据付例において、逆止弁1は、配管軸方向(後述する入口流路R1および出口流路R2の中心軸)が水平方向を向く横置きの姿勢で設置されている。このことは、下記(2)以降の逆止弁1に関する説明でも踏襲する。すなわち、本明細書では、逆止弁1が図1のような横置きの姿勢で設置された場合を前提として逆止弁1の説明を進める。ただし、逆止弁1の設置姿勢を横置きに限定する趣旨ではなく、逆止弁1は横置き以外の種々の姿勢でも設置可能である。
【0028】
(2)逆止弁の構成
図2は、逆止弁1の外観を示す斜視図であり、図3図5は、逆止弁1の構造を示す断面図および分解斜視図である。本図に示すように、逆止弁1は、弁箱2と、弁体カートリッジ3と、スペーサ4と、付属ナット5とを備えている。弁箱2は、逆止弁1の上下流の配管(図1の例では水道メータユニット100と給水管104)の間に介設されるケーシングであり、その内部には水が流通する。弁体カートリッジ3は、弁箱2内を流通する水の流れを一方向に規制する(逆流を防止する)ためのものであり、弁箱2の内部に着脱可能に収容される。スペーサ4は、弁箱2内での弁体カートリッジ3の位置を固定するためのものであり、弁体カートリッジ3とともに弁箱2の内部に着脱可能に収容される。
【0029】
弁箱2は、弁箱本体11と、蓋部材12とを備えている。弁箱本体11は、弁箱2の主要部分を構成するものであり、水が流通する流路を内側に有している。蓋部材12は、弁箱本体11の上面に着脱可能に取り付けられるものである。
【0030】
図6は、弁箱本体11から蓋部材12を取り外した状態の逆止弁1を示す斜視図であり、図7は、弁箱本体11を単体で示す平面図および断面図である。これら図6図7および先の図2図5に示すように、弁箱本体11は、弁体カートリッジ3およびスペーサ4を収容可能な胴部14と、胴部14から上流側に延びる第1管部15と、胴部14から下流側に延びる第2管部16とを一体に有している。
【0031】
胴部14は、第1管部15および第2管部16が両側に結合される筐体17と、筐体17の上側に一体に形成された短円筒状の上筒部18とを有している。筐体17の内部には、弁体カートリッジ3およびスペーサ4を収容するための収容室Sが形成されている。上筒部18の上面には上面開口18bが形成されている。
【0032】
蓋部材12は、弁箱本体11の収容室Sを開放または閉鎖するためのものであり、上面開口18bを覆う位置(上筒部18の上面部)に取り付けられる。蓋部材12は、上面開口18bを覆う円板状の閉止板部21と、閉止板部21から下方に突出する短円筒状の挿入部22と、閉止板部21の上面に突設された一対の突起部23とを有している。挿入部22の外周面にはネジ部22a(図5)が形成されている。このネジ部22aは、上筒部18の内周面に形成されたネジ部18aと螺合可能である。すなわち、蓋部材12は、そのネジ部22aが上筒部18のネジ部18aと螺合することにより、弁箱本体11に対し着脱可能に装着される。蓋部材12の挿入部22と上筒部18との間には、シール用のOリング19(図3)が取り付けられる。
【0033】
弁箱本体11に装着された蓋部材12を取り外すには、蓋部材12を回転させてネジ部18a,22aの嵌合を解除すればよい。蓋部材12に備わる一対の突起部23は、この蓋部材12の回転操作の際につまみとして利用される。蓋部材12が取り外されて上面開口18bが開放されると、図6に示すように、胴部14の内部の収容室Sに上面開口18bを通じてアクセスできるようになる。
【0034】
第1管部15は、上下流方向に延びる入口流路R1(本発明における「入口部」に相当)を内側に形成する円管状の部材である。入口流路R1は、上流側配管(例えば図1に示した水道メータユニット100)から流入してきた水が流れる流路であり、収容室Sに上流側から連通している。第1管部15の上流側の端部には、付属ナット5がOリング25(図3)を介して外嵌されている。付属ナット5は、上流側配管と弁箱本体11とをネジ嵌合により結合するためのものである。
【0035】
第2管部16は、上下流方向に延びる出口流路R2(本発明における「出口部」に相当)を内側に形成する円管状の部材である。出口流路R2は、下流側配管(例えば図1に示した給水管104)に流出する水が流れる流路であり、収容室Sに下流側から連通している。第2管部16の下流側の端部には、下流側配管と弁箱本体11とをネジ嵌合により結合するためのネジ部16aが形成されている。
【0036】
第1管部15および第2管部16は、それぞれの中心軸が一致もしくは略一致するように設けられている。言い換えると、第1管部15内の入口流路R1と第2管部16内の出口流路R2とは、収容室Sを介して同軸状に連なるように形成されている。
【0037】
収容室Sは、平面視(上面視)で矩形状を呈するように区画された空間である。言い換えると、筐体17は、収容室Sを区画する平面状の4つの壁部、つまり前壁W1、後壁W2、および左右一対の側壁W3,W4を有している(特に図7参照)。前壁W1は、収容室Sの上流側の縦壁を構成するものであり、上下流方向と直交する面に沿って形成されている。後壁W2は、収容室Sの下流側の縦壁を構成するものであり、上下流方向と直交する面に沿って形成されている。一対の側壁W3,W4は、収容室Sの左右の縦壁を構成するものであり、上下流方向と平行な面に沿って形成されている。前壁W1の上端部における中央位置には、V字状に凹んだ切欠きZが形成されている。
【0038】
図8は、弁体カートリッジ3およびスペーサ4を互いに組み付けた状態で示す斜視図であり、図9はその分解斜視図である。以下、弁体カートリッジ3およびスペーサ4の説明においては、組み付け状態において上流側に配置される側を「前」、下流側に配置される側を「後」とする。図8および図9に示すように、弁体カートリッジ3は、カートリッジ本体31と、カートリッジ本体31に前後方向に移動可能に支持された弁体32と、弁体32を弾性的に前方に押圧するリターンスプリング33(本発明における弾性部材に相当)と、弁体32の前側に設けられたシール部34とを備えている。
【0039】
図10は、カートリッジ本体31を単体で示す斜視図、背面図、および断面図である。この図10および先の図8および図9に示すように、カートリッジ本体31は、前側リング部41と、前側リング部41よりも後方に位置する後側リング部42と、後側リング部42の内側に形成された保持筒43と、前側リング部41と後側リング部42とを前後方向に連結する4つの接続リブ44~47と、上側の接続リブ44から上方に延びる延出部48とを一体に有している。
【0040】
前側リング部41は、前後方向(上下流方向)に延びる軸を中心とする円形のリング状に形成されている。前側リング部41は、その外周面に、シール部34を取り付けるための複数の段差を有している。
【0041】
後側リング部42は、前側リング部41と同心の円錐リング状を呈し、後側ほど内外径が小さくなるように形成されている。後側リング部42の外径の最大値は、前側リング部41の内径よりも小さい。
【0042】
保持筒43は、後側リング部42よりも小径でかつ後側リング部42と同心の円筒状を呈し、後側リング部42の後端部から前方に大きく突出するように形成されている。すなわち、保持筒43は、後側リング部42の後端部から、後側リング部42の内側を通って、後側リング部42の前端よりも前方の位置(前側リング部41と後側リング部42との間の位置)まで延びるように形成されている。保持筒43は、前後方向に貫通する挿通孔43aを有している。
【0043】
4つの接続リブ44~47は、周方向に等ピッチで配分された上下左右の4箇所において前側リング部41と後側リング部42とを連結している。すなわち、前側リング部41と後側リング部42とは、上側の接続リブ44と、下側の接続リブ45と、左右一対の接続リブ46,47とによって、前後方向に連結されている。上側の接続リブ44と下側の接続リブ45とは、前側および後側リング部41,42の中心軸を含む鉛直面に沿って形成され、左右の接続リブ46,47は、同中心軸を含む水平面に沿って形成されている。接続リブ44~47はそれぞれ、後側リング部42の外周面と前側リング部41の後面とを互いに結合するように形成されている。
【0044】
延出部48は、上側の接続リブ44から上方に延びる板状の縦板部48aと、縦板部48aの前端に形成された突起48bと、縦板部48aの上端に形成されたつまみ部48cとを有している。縦板部48aは、接続リブ44の後側の一部を除く領域から、前側および後側リング部41,42の中心軸を含む鉛直面に沿って上方に延びるように形成されている。言い換えると、カートリッジ本体31は、縦板部48aの後面と接続リブ44の後部上面とからなるL字状の壁に囲まれた凹部Xを有している。また、縦板部48aは、接続リブ44の前端(前側リング部41)よりもさらに前方まで張り出す部分を有しており、当該部分の上端につまみ部48cが形成されている。つまみ部48cは、縦板部48aの前部上端から左右に張り出す形状を有している。突起48bは、縦板部48aの前面の下端部に形成されている。突起48bは、収容室Sの前壁W1に形成された上述した切欠きZ(図6図7)に嵌合可能なように、V字状に突出するように形成されている。
【0045】
図10(a)(c)および図3に示すように、カートリッジ本体31の下部の後面、詳しくは後側リング部42の後面とその周囲の接続リブ44~47の後面とは、全体として鉛直面に対しやや傾斜するように形成されている。具体的に、カートリッジ本体31の下部(42,44~47)の後面は、前後方向と直交する鉛直面をやや前方に傾けた傾斜面(上側ほど前方に位置するように傾斜した傾斜面)に沿って形成されている。これは、後述するスペーサ4の差込み部71の形状(下側ほど前後方向の厚みが小さくなる形状)に対応したものである。
【0046】
弁体32は、図3および図9等に示すように、前後方向(上下流方向)に延びる軸部51と、軸部51の前端部から径方向に張り出す弁部52とを一体に有している。軸部51は、中空の筒状部材であり、カートリッジ本体31の保持筒43の内部(挿通孔43a)に前方(上流側)から挿入されることにより、前後方向に移動可能な状態でカートリッジ本体31に支持される。弁部52は、前方に向けて先細る比較的扁平な円錐状(傘状)に形成されている。弁部52の外径(最大径)は、カートリッジ本体31の前側リング部41の内径(あるいは接続リブ44~47の上下/左右の離間距離)と略一致するように設定されている。
【0047】
弁体32は、軸部51が保持筒43の挿通孔43aに挿入されることにより、弁部52の外周部がシール部34(より詳しくは後述する内側シール部材61)に密着する図3に示す位置と、弁部52がシール部34から後方に離間した図4に示す位置との間で移動可能に支持されている。以下では、弁部52がシール部34に密着する図3の位置を閉止位置といい、図4のように弁部52がシール部34から離間した位置を開放位置という。なお、弁体32は、その弁部52の後端がカートリッジ本体31の後側リング部42に当接するまで後方に移動可能であり、図4にはこの状態が示されている。
【0048】
リターンスプリング33は、弁体32とカートリッジ本体31との間に介装されるコイルスプリングである。リターンスプリング33は、カートリッジ本体31の保持筒43に外挿されており、弁体32の軸部51は、保持筒43に外挿されたリターンスプリング33の内側を通って保持筒43の内部(挿通孔43a)に挿入されている。これにより、リターンスプリング33は、カートリッジ本体31の後側リング部42と弁体32の弁部52との間に圧縮状態で取り付けられ、弁体32を前方の閉止位置に向けて弾性的に押圧する。
【0049】
図3図8、および図9等に示すように、シール部34は、内側シール部材61と、カートリッジ押え62と、外側シール部材63とを有する。内側シール部材61は、合成ゴム等からなるリング状の弾性体であり、カートリッジ本体31の前側リング部41の前端部に嵌着されている。カートリッジ押え62は、カートリッジ本体31と同一材料からなるリング状の部材であり、前側リング部41との間に内側シール部材61を挟み込んだ状態で前側リング部41の前端部に嵌着されている。外側シール部材63は、合成ゴム等からなるリング状の弾性体であり、カートリッジ押え62の前端部に嵌着されている。
【0050】
図3に示すように、弁体カートリッジ3およびスペーサ4が弁箱2の収容室Sに収容された状態で、外側シール部材63は収容室Sの前壁W1に弾性的に当接(密着)する。これにより、カートリッジ本体31の前端部(前側リング部41)と収容室Sの前壁W1との間の隙間がシール部34により水密に閉塞され、当該隙間を通って水が流れることが阻止される。
【0051】
図11は、スペーサ4を単体で示す斜視図、背面図、および断面図である。この図11および先の図8図9等に示すように、スペーサ4は、差込み部71と、差込み部71の上部から前方(上流側)に突出する庇部72と、差込み部71および庇部72の上側に形成された延出部73とを一体に有している。
【0052】
差込み部71は、リング状の外側壁部71aと、外側壁部71aの内側に設けられた逆U字状の内側壁部71b(本発明における囲繞壁に相当)と、内側壁部71bの上端部と外側壁部71aの上端部とを上下方向に連結する縦リブ71cとを有している。外側壁部71aは、カートリッジ本体31の前側リング部41と略同一の外径をもった円を基調とするリング状を呈するが、その下端部は所定の小角度に亘って切り欠かれている。すなわち、差込み部71は、その下端部に切欠きQを有している。内側壁部71bは、当該切欠きQを挟んで対向する外側壁部71aの周方向の各端部から上方に立ち上がる一対の縦壁と各縦壁の上端どうしを連結する円弧状の連結壁とを有することにより、全体として下向きに開放された逆U字状を呈するように形成されている。内側壁部71bの上端部にあたる円弧状の上記連結壁は、外側壁部71aと同心円状に形成されている。内側壁部71bの上端部(連結壁)は、外側壁部71aの上端部の内面と所定の距離をあけて対向するように形成され、これら対向する両者が縦リブ71cによって互いに結合されている。縦リブ71cは、外側壁部71aの中心軸を含む鉛直面に沿うように形成されている。
【0053】
庇部72は、差込み部71の外側壁部71aにおける上側の一部の領域から前方(上流側)に突出するように形成された円弧状のカバー部材である。庇部72は、延出部73の前端よりもさらに前方に突出するように形成されている。延出部73の直前方にあたる庇部72の中央部には、前方に開放された切欠きPが形成されている。
【0054】
延出部73は、差込み部71の外側壁部71aの上端部から上方に延びる縦板部73aと、縦板部73aの上端に形成されたつまみ部73bとを有している。縦板部73aは、外側壁部71aの上端部(換言すれば外側壁部71aと縦リブ71cとの交差位置)から、外側壁部71aの中心軸を含む鉛直面に沿って上方に延びるように形成されている。また、縦板部73aは、外側壁部71aの上端部よりも前方に張り出すように形成されている。つまみ部73bは、縦板部73aの上端部から左右に張り出す形状を有している。
【0055】
図11(c)および図3に示すように、スペーサ4の差込み部71は、前後方向(上下流方向)の厚みが下側ほど小さくなるように形成されている。すなわち、差込み部71の後面が前後方向と直交する鉛直面に沿って形成されるとともに、差込み部71の前面が当該鉛直面をやや前方に傾けた傾斜面(上側ほど前方に位置するように傾斜した傾斜面)に沿って形成されることにより、差込み部71の前後方向の厚みが下側ほど小さくなるように設定されている。
【0056】
(3)逆止弁の組み立て
図12(a)~(c)は、逆止弁1を組み立てる手順、つまり弁体カートリッジ3およびスペーサ4を弁箱2に組み付ける手順を示す図である。逆止弁1の組み立て時には、まず図12(a)に示すように、蓋部材12が取り外された状態の弁箱本体11に対し、その上面開口18bを通じて弁体カートリッジ3を挿入する。すなわち、弁体カートリッジ3を上面開口18bを通じて弁箱本体11内に挿入し、上面開口18bの下方に位置する収容室Sに弁体カートリッジ3を収容する。このとき、弁体カートリッジ3を収容室S内で上流側に寄せておく。この弁体カートリッジ3の上流側への寄せは、カートリッジ本体31(延出部48)の前端の突起48bが収容室Sの前壁W1の切欠きZ(図6等参照)に挿入(嵌合)されるまで行うのが好ましい。これにより、弁体カートリッジ3の姿勢が安定化する。この状態における弁体カートリッジ3は、収容室Sにおける上流側の一部の領域を占めるように配置され、弁体カートリッジ3と収容室Sの後壁W2(下流側の縦壁)との間には所定の隙間(スペーサ4に対応する隙間)が形成される。
【0057】
次いで、図12(b)に示すように、上面開口18bを通じてスペーサ4を弁箱本体11内に挿入する。具体的には、先に挿入された弁体カートリッジ3のカートリッジ本体31の下部後面と収容室Sの後壁W2との隙間に差込み部71が入り込むように、収容室Sの下流側の部位にスペーサ4を挿入する。このとき、図8等に示すように、スペーサ4の庇部72に形成された切欠きPにカートリッジ本体31の延出部48が挿入されるように、スペーサ4を弁体カートリッジ3に組み付ける。また、スペーサ4の延出部73は、その前部(差込み部71よりも前方に張り出した部分)がカートリッジ本体31の後側の凹部X(図9)に配置されるように、カートリッジ本体31の延出部48の後側にごく近接して配置される。
【0058】
この状態で、スペーサ4の差込み部71は、図8(b)に示すように、その内側壁部71bの上部がカートリッジ本体31の挿通孔43aの下流側開口を囲むような位置に配置される。これは、使用時における弁体32の下流側への移動を阻害しないためである。すなわち、図4に示したように、弁体32が下流側の開放位置へと移動するとき、当該弁体32の軸部51は、挿通孔43aの下流端が開口する後側リング部42の後面から突出しようとする。このとき、差込み部71の内側壁部71bが上記のような位置に配置されることにより、軸部51は、内側壁部71bの内側を通って支障なく下流側に移動(突出)することが可能である。言い換えると、内側壁部71bは、弁体32が開放位置にあるときに後側リング部42の後面から突出する軸部51を取り囲むような形状を有している。
【0059】
以上のようにして弁体カートリッジ3およびスペーサ4がこの順に弁箱2に組み付け(収容室Sに挿入)されると、スペーサ4は、その差込み部71の形状に由来したくさび効果によって弁体カートリッジ3を上流側に押圧する。すなわち、図3および図11等に示したように、差込み部71の前面(上流側の面)は、差込み部71の前後方向(上下流方向)の厚みが上側ほど大きくなるように(つまり鉛直面に対し前方に傾くように)傾斜している。一方、差込み部71の前面と対向するカートリッジ本体31の下部(後側リング部42および接続リブ44~47)の後面も同様に傾斜している。このため、カートリッジ本体31の下部と収容室Sの後壁W2との隙間に差込み部71が挿入されたときには、その挿入が進行するにつれて(差込み部71が下方に移動するにつれて)、差込み部71からカートリッジ本体31に対し上流側に向かう力が作用し、弁体カートリッジ3が上流側に押圧される。この押圧は、弁体カートリッジ3のシール部34(外側シール部材63)を収容室Sの前壁W1に密着させ、これにより弁体カートリッジ3と収容室Sの前壁W1との隙間が水密に閉塞される。
【0060】
最後に、図12(c)に示すように、蓋部材12を弁箱本体11に装着する。すなわち、蓋部材12の挿入部22を弁箱本体11の上筒部18に挿入しつつ、挿入部22の外周面のネジ部22aを上筒部18の内周面のネジ部18aに螺合させることにより、上筒部18の上面開口18bを閉鎖する位置に蓋部材12を固定する。この蓋部材12の装着(ねじ込み)の際には、蓋部材12の上面の突起部23がつまみとして利用される。
【0061】
(4)逆止弁の機能
以上のような手順で組み立てられた逆止弁1は、上流側配管と下流側配管との間(例えば図1に示した水道メータユニット100と給水管104との間)に取り付けられる。この状態において、上流側配管からの水の供給が停止されると、図3に示すように、リターンスプリング33の作用により弁体32が上流側に弾性的に押圧され、弁体32の弁部52がシール部34(内側シール部材61)に密着する閉止位置に弁体32が保持される。これにより、弁箱2内における入口流路R1と出口流路R2との間の収容室Sを介した連通が遮断され、下流側配管から上流側配管に水が逆流することが防止される。
【0062】
一方、上流側配管から水が供給される通水時は、供給される水の圧力がリターンスプリング33の弾発力に抗して弁体32を下流側に押し戻し、図4に示す開放位置まで移動させる。これにより、弁部52とシール部34との間に隙間が形成されるとともに、当該隙間を通じた水の流通が可能になる。この結果、図4において破線の矢印で示すように、入口流路R1から収容室Sを通じて出口流路R2に水が流れるようになり、上流側配管から下流側配管への水の供給が許容される。このように、逆止弁1は、内部を流通する水の流れを一方向に規制する役割を果たす。
【0063】
(5)逆止弁のメンテナンス
ここで、逆止弁1が長期間にわたり使用されると、リターンスプリング33の劣化等が進行し、逆止弁1の本来の機能が損なわれるおそれがある。このような事態を避けるため、弁体カートリッジ3を定期的に新品のものに交換するメンテナンスを行うことが望まれる。図13(a)~(c)はこのメンテナンス(弁体カートリッジ3の交換)の手順を示す図である。メンテナンスは、逆止弁1を配管(上流側配管と下流側配管との間)に取り付けた状態のままで行うことができる。
【0064】
メンテナンス時には、まず図13(a)に示すように、弁箱本体11から蓋部材12を取り外し、弁箱本体11の上面開口18bを開放する。
【0065】
次いで、図13(b)に示すように、弁箱本体11の収容室Sから上面開口18bを通じてスペーサ4を抜き出す。これにより、スペーサ4による弁体カートリッジ3の上流側への押し付けが解除される。スペーサ4の抜き出しは、その上端のつまみ部73bを持ちながら行うこれができ、これによって抜き出しが容易化される。
【0066】
次いで、図13(c)に示すように、弁箱本体11の収容室Sから上面開口18bを通じて弁体カートリッジ3を抜き出す。これにより、弁体カートリッジ3およびスペーサ4の双方が取り外され、収容室Sが空の状態になる。弁体カートリッジ3の抜き出しは、その上端のつまみ部48cを持ちながら行うことができ、これによって抜き出しが容易化される。
【0067】
次いで、新たに用意した弁体カートリッジ3およびスペーサ4を弁箱本体11の収容室Sに挿入する。その手順は、既に図12(a)~(c)を用いて示した手順と同様である。以上により、弁体カートリッジ3およびスペーサ4の交換が完了する。
【0068】
(6)作用効果等
以上説明したように、当実施形態の逆止弁1では、弁体カートリッジ3が収容される収容室Sを介して入口流路R1と出口流路R2とが同軸状に連なるので、弁箱2内の水の流れ、つまり収容室Sを通じた入口流路R1から出口流路R2への水の流れが単純になり、圧力損失を低減することができる。詳しくは、通水時に上流側配管から入口流路R1に水が供給されたときに、供給された水の圧力により弁体32がリターンスプリング33の弾発力に抗して下流側(開放位置)に移動することにより、収容室Sを通じて入口流路R1から出口流路R2へと水が流れることが許容される。このとき、入口流路R1から流入してきた水は、弁体32の後退に伴い生じた隙間を通じて出口流路R2へと流出するが、入口流路R1と出口流路R2とが収容室Sを介して同軸状に連なることにより、水の流れが大きく屈曲するような事態が回避される。これにより、例えば図4に破線の矢印で示したように、弁箱2内の水の流れを比較的単純なものにすることができ、逆止弁1を通過する際の水の圧力損失を低く抑えることができる。
【0069】
また、収容室Sにアクセスするために弁箱本体11の上面に設けられた上面開口18bが着脱式の蓋部材12により覆われるので、逆止弁1のメンテナンス時には、蓋部材12を弁箱本体11から取り外して上面開口18bを開放することにより、開放された上面開口18bを通じて弁体カートリッジ3を容易に交換することができる。しかも、上面開口18bを覆う蓋部材12は、逆止弁1(弁箱2)を配管に取り付けた状態のまま取り外すことができるので、メンテナンスのために逆止弁1を取り外すことが不要になり、メンテナンスの作業効率を格段に向上させることができる。
【0070】
さらに、収容室Sには弁体カートリッジ3に加えてこれと別体のスペーサ4が収容されるので、メンテナンス時には、弁体カートリッジ3およびスペーサ4を順次着脱することにより、弁体カートリッジ3の交換を容易に行うことができる。すなわち、収容室Sにおける上流側の一部の領域に弁体カートリッジ3が収容されるとともに、収容室Sの残りの領域にスペーサ4が収容されるので、弁体カートリッジ3を取り外す際には、例えば図13に示したように、まずスペーサ4を収容室Sから抜き出すことにより、その後の弁体カートリッジ3の抜き出しを容易化することができる。また、弁体カートリッジ3を取り付ける際には、例えば図12に示したように、スペーサ4の挿入に先んじて弁体カートリッジ3を挿入することにより、スペーサ4の存在しない収容室Sに弁体カートリッジ3を容易に挿入できるとともに、これに続いて挿入されるスペーサ4の差込み部71を収容室Sの下流側の縦壁(後壁W2)とカートリッジ本体31との間に差し込むことにより、弁体カートリッジ3を収容室S内の定位置に安定的に保持することができる。
【0071】
また、上記実施形態では、カートリッジ本体31の上流側の端部(前側リング部41)と収容室Sの上流側の縦壁(前壁W1)との間をシールするシール部34が弁体カートリッジ3に備わるとともに、シール部34(内側シール部材61)に密着する上流寄りの閉止位置とシール部34から離れた下流寄りの開放位置との間で移動可能なように弁体32がカートリッジ本体31に支持される(図3図4図8図9等参照)。この構成によれば、上流側配管から水が供給されない非通水時に逆流防止のためのシール性を良好に確保しつつ、上流側配管から水が供給される通水時には、弁体32とシール部34との間に生じる隙間を通じて水の流れを適正に許容することができる。
【0072】
また、上記実施形態では、スペーサ4の差込み部71の前面(上流側の面)が、差込み部71の前後方向(上下流方向)の厚みが下側ほど小さくなるように傾斜するとともに、カートリッジ本体31における差込み部71と対向する面、つまりカートリッジ本体31の下部(後側リング部42および接続リブ44~47)の後面が、差込み部71の前面と同様の角度で傾斜している(図3図10図11等参照)。この構成によれば、差込み部71の挿入により所謂くさび効果が発揮されて、カートリッジ本体31が上流側に押し付けられる。これにより、シール部34を収容室Sの前壁W1に密着させることができ、シール性を高めることができる。
【0073】
また、上記実施形態では、カートリッジ本体31の下部(保持筒43)に形成された挿通孔43aに弁体32の軸部51が移動可能に挿入されるとともに、弁体32の下流側に配置されるスペーサ4の内側壁部71bが、弁体32の開放位置への移動に伴いカートリッジ本体31から下流側に突出する軸部51を囲むような逆U字状に形成されている(図4図8(b)等参照)。この構成によれば、カートリッジ本体31からの軸部51の突出がスペーサ4の内側壁部71bによって阻害されることがなく、上流側配管から水が供給される通水時に弁体32を円滑に開放位置へと移動させることができる。
【0074】
しかも、内側壁部71bは下向きに開放された逆U字状を呈するので、逆止弁1のメンテナンス時に、仮に弁体32が開放位置で固着していたとしても、スペーサ4を支障なく収容室Sから上方に抜き出すことができる。すなわち、スペーサ4を抜き出す必要のあるメンテナンス時に、弁体32の開放位置での固着によってその軸部51がカートリッジ本体31から突出する位置に保持されていたとしても、この突出した軸部51は、内側壁部71bの下側の開放端(切欠きQ)を相対的に通過することが可能である。このため、突出した軸部51によってスペーサ4の抜き出しが阻害されることがなく、スペーサ4を支障なく弁箱2から取り外すことが可能になる。
【0075】
また、上記実施形態では、収容室Sの前壁W1の上端部に凹状の切欠きZが形成されるとともに、当該切欠きZと対向するカートリッジ本体31(延出部48)の前端に突起48bが形成されている(図3図6図7図10等参照)。この構成によれば、弁体カートリッジ3の取り付けの際に突起48bを切欠きZに嵌合させることにより、収容室S内において弁体カートリッジ3の位置決めを図ることができる。また、突起48bを切欠きZの位置に合わせるよう作業者を促すことができるので、弁体カートリッジ3の取り付け向きを間違うミスが起きる可能性を低減することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、差込み部71の上部から上流側に突出する庇部72がスペーサ4に備わっている(図8図9図11等参照)。この構成によれば、上流側配管から水が供給される通水時に、入口流路R1から収容室Sに流入した水が当該収容室Sの上方空間(上筒部18の内部)に入り込むことが庇部72によって抑制されるので(図4参照)、水の流れが複雑化して圧力損失が増大するのを防止することができる。
【0077】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定して解釈されるべきでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、水が流通する配管(水道用の配管)に逆止弁1が取り付けられる場合について説明したが、本発明の逆止弁の適用対象は水道用の配管に限られず、水以外の流体が流通する種々の配管に本発明の逆止弁を適用することが可能である。
【実施例
【0078】
図1図13に示した構造を有する逆止弁1を実際に製造したものを実施例として用意し、その性能を従来型の逆止弁(比較例)と比較する実験を行った。具体的には、図16(a)に示した単式逆止弁201を比較例1として用意するとともに、図16(b)に示したリフト式逆止弁301を比較例2として用意し、両比較例1,2と実施例(図1図13)とのそれぞれについて、圧力損失を測定する実験と、弁体の交換時間を測定する実験とを行った。
【0079】
図14は、圧力損失(圧損)を測定する実験の結果を示すグラフである。本図に示すように、実験では、20~60L/minの複数の流量条件において圧力損失を測定した。その結果、いずれの流量条件においても、比較例2、比較例1、実施例の順に圧力損失が小さくなることが分かった。比較例2(リフト式逆止弁)の圧力損失が最も大きいのは、既に説明したとおり、水の流れが不可避的に複雑化することに起因する。逆に、比較例1(単式逆止弁)および実施例(図1図13の構造の逆止弁)の圧力損失が比較例2よりも小さいのは、水の流れが単純化することの効果によるものである。特に、実施例の圧力損失は、20~60L/minのいずれの条件においても最も小さくなるが、これは、流れの単純化による効果に加えて、弁体カートリッジ(特にカートリッジ本体および弁体)の形状、構造に起因するものと考えられる。
【0080】
図15は、弁体の交換に要する時間を測定する実験の結果を示す表である。本図に示すように、弁体の交換時間は、実施例1(単式逆止弁)が顕著に大きくなる。これは、逆止弁を配管から取り外さないと弁体を交換できないことに起因する。一方、実施例2(リフト式逆止弁)および実施例(図1図13の構造の逆止弁)では、実施例1に比べて交換時間が大幅に短縮される。これは、逆止弁を配管に取り付けた状態のまま弁体(実施例では弁体カートリッジ)を交換できるからである。
【0081】
以上より、本発明の逆止弁について、低圧力損失およびメンテナンス性のいずれの面においても優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0082】
1 :逆止弁
2 :弁箱
3 :弁体カートリッジ
4 :スペーサ
11 :弁箱本体
12 :蓋部材
18b :上面開口
31 :カートリッジ本体
32 :弁体
33 :リターンスプリング(弾性部材)
34 :シール部
43a :挿通孔
48b :突起
51 :(弁体の)軸部
52 :(弁体の)弁部
71 :差込み部
71b :内側壁部(囲繞壁)
72 :庇部
R1 :入口流路(入口部)
R2 :出口流路(出口部)
S :収容室
W1 :前壁(収容室の上流側の縦壁)
W2 :後壁(収容室の下流側の縦壁)
Z :切欠き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16