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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20240513BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20240513BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20240513BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240513BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20240513BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20240513BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20240513BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240513BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20240513BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20240513BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60L15/20 K
B60L50/16
B60W10/00 102
B60W10/02
B60W10/02 900
B60W10/06
B60W10/08
B60W20/15
B60W20/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020146637
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041440
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】福田 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 忠志
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-529451(JP,A)
【文献】特開2010-149783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/48
B60K 6/547
B60W 10/02
B60W 20/15
B60W 20/40
B60L 50/16
B60L 15/20
B60W 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記クラッチを解放状態に設定して、前記エンジンのトルクを用いずに前記モータのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、前記クラッチを締結状態に設定して、少なくとも前記エンジンのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、前記ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、
前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、
前記モータ制御手段による制御後に、前記モータのトルクが前記クラッチを介して前記エンジンに伝達されるように、前記クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、
前記クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、前記エンジンを始動させるために前記モータによって前記エンジンをクランキングするクランキング制御手段と、
を有
前記モータ制御手段は、前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、前記ハイブリッド車両の運転者による当該ハイブリッド車両の運動に関する操作がある場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、前記操作がない場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う、
ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記クラッチを解放状態に設定して、前記エンジンのトルクを用いずに前記モータのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、前記クラッチを締結状態に設定して、少なくとも前記エンジンのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、前記ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、
前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、
前記モータ制御手段による制御後に、前記モータのトルクが前記クラッチを介して前記エンジンに伝達されるように、前記クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、
前記クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、前記エンジンを始動させるために前記モータによって前記エンジンをクランキングするクランキング制御手段と、
を有し、
前記モータ制御手段は、前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、前記ハイブリッド車両のアクセル開度の変化量が所定量以上である場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、前記アクセル開度の変化量が所定量以上ではない場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う
イブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記クラッチを解放状態に設定して、前記エンジンのトルクを用いずに前記モータのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、前記クラッチを締結状態に設定して、少なくとも前記エンジンのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、前記ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、
前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、
前記モータ制御手段による制御後に、前記モータのトルクが前記クラッチを介して前記エンジンに伝達されるように、前記クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、
前記クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、前記エンジンを始動させるために前記モータによって前記エンジンをクランキングするクランキング制御手段と、
を有し、
前記モータ制御手段は、前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、前記ハイブリッド車両のブレーキペダルの操作が検出された場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、前記ブレーキペダルの操作が検出されない場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う、
ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記クラッチを解放状態に設定して、前記エンジンのトルクを用いずに前記モータのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、前記クラッチを締結状態に設定して、少なくとも前記エンジンのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、前記ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、
前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、
前記モータ制御手段による制御後に、前記モータのトルクが前記クラッチを介して前記エンジンに伝達されるように、前記クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、
前記クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、前記エンジンを始動させるために前記モータによって前記エンジンをクランキングするクランキング制御手段と、
を有し、
前記モータ制御手段は、前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、前記ハイブリッド車両における変速指示操作が検出された場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、前記変速指示操作が検出されない場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う、
ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記クラッチを解放状態に設定して、前記エンジンのトルクを用いずに前記モータのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、前記クラッチを締結状態に設定して、少なくとも前記エンジンのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、前記ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、
前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、
前記モータ制御手段による制御後に、前記モータのトルクが前記クラッチを介して前記エンジンに伝達されるように、前記クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、
前記クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、前記エンジンを始動させるために前記モータによって前記エンジンをクランキングするクランキング制御手段と、
を有し、
前記モータ制御手段は、前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、前記ハイブリッド車両のスポーツモードスイッチが操作された場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、前記スポーツモードスイッチが操作されていない場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う、
ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記クラッチを解放状態に設定して、前記エンジンのトルクを用いずに前記モータのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、前記クラッチを締結状態に設定して、少なくとも前記エンジンのトルクを用いて前記ハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、前記ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、
前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、
前記モータ制御手段による制御後に、前記モータのトルクが前記クラッチを介して前記エンジンに伝達されるように、前記クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、
前記クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、前記エンジンを始動させるために前記モータによって前記エンジンをクランキングするクランキング制御手段と、
を有し、
前記モータ制御手段は、前記走行モード判定手段により前記ハイブリッド車両の走行モードを前記第1走行モードから前記第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、前記ハイブリッド車両においてスポーツモードがオンにされている場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、前記スポーツモードがオンにされていない場合には、前記モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う、
ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記ハイブリッド車両は、前記エンジン及び前記モータと駆動輪との間の動力伝達経路上に設けられ、遊星歯車を備える自動変速機を更に有する、請求項1から6の何れか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、モータと、これらエンジンとモータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン及びモータを動力源として備え、エンジンの駆動力及びモータの駆動力の少なくとも一方によって駆動されるハイブリッド車両において、モータによってエンジンをクランキングしてエンジンを始動させる技術が提案されている。例えば、特許文献1には、モータのトルクにより走行するモードからエンジン及びモータのトルクにより走行するモードへの移行時に、エンジンとモータとの間に設けられたクラッチの伝達トルクに基づきモータのトルクを変化させることで、クラッチの接続に伴ってトルクショックが車両に生じることを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-30507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来、回転数が高くなるほど、発生するトルクが徐々に小さくなるという特性を有するモータ(典型的には永久磁石モータ)が広く用いられている。そのような特性を有するモータをハイブリッド車両に適用すると、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる走行モード(以下では適宜「第1走行モード」と呼ぶ。)から、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる走行モード(以下では適宜「第2走行モード」と呼ぶ。)へと切り替える場合に、エンジンを始動させるときにハイブリッド車両において比較的大きな減速度が発生することがある。その理由は以下の通りである。
【0005】
上述した特性を有するモータを用いると、第1走行モード中においてモータの回転数が比較的高いときには、モータの発生可能なトルクが比較的小さくなる。このように第1走行モード中においてモータの発生可能なトルクが比較的小さいと、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え時において、モータのトルクを利用してエンジンを始動させるときに(つまりモータによってクランキングを行ってエンジンを始動させるとき)、モータがエンジンを始動させるのに必要なトルクを十分に発生できない場合がある。この場合には、走行しているハイブリッド車両の運動エネルギーがエンジンを始動させるために用いられる、つまり車両側からエンジンへのトルクの引き込みが生じる。その結果、第1走行モードから第2走行モードに切り替えるときに、ハイブリッド車両の運動エネルギーの減少に伴い比較的大きな減速度が発生し、ドライバに違和感を与えてしまう場合がある。
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、エンジンとモータとこれらの間に設けられたクラッチとを有するハイブリッド車両に関して、モータを用いる走行モードからエンジンを用いる走行モードへの切り替え時において、減速度の発生によりドライバに与える違和感を適切に抑制することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、エンジンと、モータと、エンジンとモータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、クラッチを解放状態に設定して、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、クラッチを締結状態に設定して、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、モータ制御手段による制御後に、モータのトルクがクラッチを介してエンジンに伝達されるように、クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、エンジンを始動させるためにモータによってエンジンをクランキングするクランキング制御手段と、を有し、モータ制御手段は、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、ハイブリッド車両の運転者による当該ハイブリッド車両の運動に関する操作がある場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、操作がない場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う
【0008】
このように構成された本発明では、ハイブリッド車両の制御装置は、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるときに、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行った後に、クラッチを解放状態から締結状態に移行させると共に、モータによってエンジンをクランキングしてエンジンを始動させる。つまり、ハイブリッド車両の制御装置は、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え時に、エンジンを始動させる前に、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行って、ハイブリッド車両の進行方向加速度を予め所定量減少させておく。
【0009】
このような本発明によれば、走行モードの切り替えのためにエンジンを始動させるときに、エンジンを始動させるのに必要なトルクをモータが十分に発生できない場合でも、そのモータの出力トルクの不足量に相当する減速度までハイブリッド車両の進行方向加速度が減少するときの加速度変化を小さくすることができる。これにより、第1走行モードから第2走行モードへの切り替えに伴うエンジンの始動時に、ハイブリッド車両が突然後方に引きずられたような違和感をドライバに与えることを抑制できる。
【0010】
そして、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え時であっても、ハイブリッド車両の運動に関するドライバの操作がある場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わないようにすることで、エンジンを速やかに始動させて、ハイブリッド車両の運動に関するドライバからの要求を適切に実現することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、ハイブリッド車両は、エンジン及びモータと駆動輪との間の動力伝達経路上に設けられ、遊星歯車を備える自動変速機を更に有する。
遊星歯車を備える自動変速機ではイナーシャが大きいために、走行モードの切り替え時における進行方向加速度の減少が発生しやすいが、そのような自動変速機を備えるハイブリッド車両に対して、上述したような本発明に係る制御を適用することで、進行方向加速度が減少するときの加速度変化を小さくすることができ、ハイブリッド車両が突然後方に引きずられたような違和感をドライバに与えることを抑制できる。
【0012】
また、本発明の別の側面によるハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、モータと、エンジンとモータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、クラッチを解放状態に設定して、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、クラッチを締結状態に設定して、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、モータ制御手段による制御後に、モータのトルクがクラッチを介してエンジンに伝達されるように、クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、エンジンを始動させるためにモータによってエンジンをクランキングするクランキング制御手段と、を有し、モータ制御手段は、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、ハイブリッド車両のアクセル開度の変化量が所定量以上である場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、アクセル開度の変化量が所定量以上ではない場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う
また、本発明の別の側面によるハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、モータと、エンジンとモータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、クラッチを解放状態に設定して、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、クラッチを締結状態に設定して、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、モータ制御手段による制御後に、モータのトルクがクラッチを介してエンジンに伝達されるように、クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、エンジンを始動させるためにモータによってエンジンをクランキングするクランキング制御手段と、を有し、モータ制御手段は、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、ハイブリッド車両のブレーキペダルの操作が検出された場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、ブレーキペダルの操作が検出されない場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う
また、本発明の別の側面によるハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、モータと、エンジンとモータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、クラッチを解放状態に設定して、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、クラッチを締結状態に設定して、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、モータ制御手段による制御後に、モータのトルクがクラッチを介してエンジンに伝達されるように、クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、エンジンを始動させるためにモータによってエンジンをクランキングするクランキング制御手段と、を有し、モータ制御手段は、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、ハイブリッド車両における変速指示操作が検出された場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、変速指示操作が検出されない場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う
また、本発明の別の側面によるハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、モータと、エンジンとモータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、クラッチを解放状態に設定して、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、クラッチを締結状態に設定して、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、モータ制御手段による制御後に、モータのトルクがクラッチを介してエンジンに伝達されるように、クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、エンジンを始動させるためにモータによってエンジンをクランキングするクランキング制御手段と、を有し、モータ制御手段は、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、ハイブリッド車両のスポーツモードスイッチが操作された場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、スポーツモードスイッチが操作されていない場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う
また、本発明の別の側面によるハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、モータと、エンジンとモータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、クラッチを解放状態に設定して、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第1走行モードから、クラッチを締結状態に設定して、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる第2走行モードへと、ハイブリッド車両の走行モードを切り替えるか否かを判定する走行モード判定手段と、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときに、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行うモータ制御手段と、モータ制御手段による制御後に、モータのトルクがクラッチを介してエンジンに伝達されるように、クラッチを解放状態から締結状態へと移行させるクラッチ制御手段と、クラッチ制御手段による制御中及び/又は制御後に、エンジンを始動させるためにモータによってエンジンをクランキングするクランキング制御手段と、を有し、モータ制御手段は、走行モード判定手段によりハイブリッド車両の走行モードを第1走行モードから第2走行モードへと切り替えると判定されたときにおいて、ハイブリッド車両のスポーツモードがオンにされている場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行わず、スポーツモードがオンにされていない場合には、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う
【発明の効果】
【0013】
本発明のハイブリッド車の制御装置によれば、モータを用いる走行モードからエンジンを用いる走行モードへの切り替え時において、減速度の発生によりドライバに与える違和感を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御装置が適用されたハイブリッド車両の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の走行モード切替制御を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態によるエンジン始動制御を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。
図6】従来技術によりハイブリッド車両の制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御装置を説明する。
【0016】
<装置構成>
図1は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御装置が適用されたハイブリッド車両の概略構成図である。
【0017】
図1に示すように、ハイブリッド車両1は、主に、ハイブリッド車両1を駆動するためのトルクを発生するエンジン2(例えばガソリンエンジン)と、ハイブリッド車両1の動力伝達経路上においてエンジン2よりも下流側に設けられ、ハイブリッド車両1を駆動するためのトルクを発生するモータ4と、図示しないインバータ等を介してモータ4との間で電力の授受を行うバッテリ5と、ハイブリッド車両1の動力伝達経路上においてモータ4よりも下流側に設けられ、エンジン2及び/又はモータ4による回転速度を変速する変速機6と、変速機6からのトルクを下流側に伝達する動力伝達系8と、動力伝達系8からのトルクによって駆動輪12を駆動するドライブシャフト10と、当該駆動輪12と、を有する。
【0018】
エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸とは、断接可能な第1クラッチCL1を介して軸AX1によって同軸状に連結されている。この第1クラッチCL1により、エンジン2とモータ4との間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えられるようになっている。例えば、第1クラッチCL1は、モータ(図示略)によりクラッチ作動油流量及びクラッチ作動油圧を連続的又は段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチによって構成されている。
【0019】
モータ4の回転軸と変速機6の回転軸とは、軸AX2によって同軸状に連結されている。変速機6は、典型的には、サンギヤS1、リングギヤR1、ピニオンギヤP1(遊星歯車)及びキャリアC1を含む1つ以上のプラネタリギヤセットと、クラッチやブレーキ等の摩擦締結要素とを内部に備えており、車速やエンジン回転数などに応じてギヤ段(変速比)を自動的に切り替える機能を備えた自動変速機である。リングギヤR1はサンギヤS1と同心円上に配置され、ピニオンギヤP1はサンギヤS1及びリングギヤR1に噛み合うようにサンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されている。キャリアC1は、ピニオンギヤP1を自転可能且つサンギヤS1の周りを公転可能に保持する。また、変速機6は、断接可能な第2クラッチCL2を内部に備え、この第2クラッチCL2により、変速機6の上流側(エンジン2及びモータ4)と変速機6の下流側(駆動輪12など)との間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えられるようになっている。例えば、第2クラッチCL2も、モータ(図示略)によりクラッチ作動油流量及びクラッチ作動油圧を連続的又は段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチによって構成されている。なお、第2クラッチCL2は、実際には、変速機6において種々のギヤ段を切り替えるために用いられる多数のクラッチによって構成される。また、図1では単純化のためプラネタリギヤセットを1つだけ示しているが、実際には変速機6は複数のプラネタリギヤセットを備えている。第2クラッチCL2により代表される複数のクラッチや図示しない複数のブレーキ等の摩擦締結要素を選択的に締結して、各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えることにより、例えば複数の前進変速段と1段の後退速段とを実現可能となっている。
【0020】
動力伝達系8は、変速機6の出力軸AX3を介してトルクが入力される。動力伝達系8は、駆動力を左右一対の駆動輪12に対して分配するデファレンシャルギヤや、ファイナルギヤなどを含んで構成されている。
【0021】
上記のハイブリッド車両1は、第1クラッチCL1の締結と解放とを切り替えることで、走行モードを切り替えることができる。すなわち、ハイブリッド車両1は、第1クラッチCL1を解放状態に設定して、エンジン2のトルクを用いずにモータ4のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第1走行モードと、第1クラッチCL1を締結状態に設定して、少なくともエンジン2のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第2走行モードと、を有する。第1走行モードは、所謂EV走行モードであり、第2走行モードは、エンジン2のトルクのみを用いてハイブリッド車両1を走行させるエンジン走行モード、及びエンジン2及びモータ4の両方のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させるハイブリッド走行モードを含む。
【0022】
本実施形態において適用するモータ4は、回転数が高くなるほど、発生するトルクが小さくなるという特性を有する。換言すると、モータ4は、回転数が低くなるほど、発生するトルクが大きくなるという特性を有する。特に、モータ4は、回転数が所定値未満において、トルクが概ね最大となり、回転数が所定値以上になると、回転数が高くなるほど、トルクが小さくなる。例えば、このようなモータ4には永久磁石モータが適用される。
【0023】
次に、図2は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0024】
図2に示すように、コントローラ20には、エンジン2の回転数を検知するエンジン回転数センサSN1からの信号と、モータ4の回転数を検知するモータ回転数センサSN2からの信号と、ドライバによるアクセルペダルの踏込み量に対応するアクセル開度を検知するアクセル開度センサSN3からの信号と、ハイブリッド車両1の車速を検知する車速センサSN4からの信号と、ハイブリッド車両1の前後方向の加速度を検知する加速度センサSN5からの信号と、バッテリ5の充電状態を示すSOC(State of Charge)を検知するSOCセンサSN6からの信号と、が入力されるようになっている。
【0025】
コントローラ20は、1つ以上のプロセッサ20a(典型的にはCPU)と、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如きメモリ20bと、を備えるコンピュータにより構成される。コントローラ20は、本発明における「ハイブリッド車両の制御装置」の「走行モード判定手段」、「モータ制御手段」、「クラッチ制御手段」及び「クランキング制御手段」として機能する。
【0026】
具体的には、コントローラ20は、上述したセンサSN1~SN6からの検知信号に基づき、主に、エンジン2、モータ4、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2に対して制御信号を出力し、これらを制御する。例えば、コントローラ20は、エンジン2の点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量を調整する制御や、モータ4の回転数、トルクを調整する制御や、第1及び第2クラッチCL1、CL2のそれぞれの締結と解放とを切り替える制御などを行う。なお、実際には、コントローラ20は、エンジン2の点火プラグや燃料噴射弁やスロットル弁などを制御し、インバータを介してモータ4を制御し、油圧制御回路を介して第1及び第2クラッチCL1、CL2を制御する。
【0027】
<ハイブリッド車両の制御>
次に、本発明の実施形態において、コントローラ20が行う制御内容について説明する。本実施形態では、コントローラ20は、モータ4のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第1走行モード(EV走行モード)から、少なくともエンジン2のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第2走行モード(エンジン走行モード又はハイブリッド走行モード)へと切り替えるときに、エンジン2を始動させるための制御(エンジン始動制御)を行う。この場合、コントローラ20は、エンジン2、モータ4、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2を制御することで、エンジン始動制御を実施する。
【0028】
最初に、本実施形態によるエンジン始動制御の概要について説明する。上述したように、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるときに、ハイブリッド車両1において比較的大きな減速度が発生する場合がある。これは、第1走行モードから第2走行モードに切り替えるときに、モータ4のトルクを利用してエンジン2を始動させるが(つまりモータ4によってクランキングを行ってエンジン2を始動させる)、エンジン2を始動させるのに必要なトルク(エンジン2の抵抗や第1クラッチCL1のばらつきや変速機6でのロスを含むトルクである。以下同様とする。)をモータ4が十分に発生できない場合があるからである。この場合、走行しているハイブリッド車両1の運動エネルギーがエンジン2を始動させるために用いられる。その結果、ハイブリッド車両1において、エンジン2の始動に必要なトルクに対するモータ4の出力トルクの不足量に相当する減速度まで、進行方向加速度が減少する。このときの加速度変化が大きいと、ハイブリッド車両1が突然後方に引きずられたような違和感をドライバに与えてしまう場合がある。
【0029】
上記のような問題に対処すべく、本実施形態では、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるときに、モータ4の出力トルクを所定量減少させる制御を行った後に、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態に移行させると共に、モータ4によってエンジン2をクランキングしてエンジン2を始動させる。つまり、本実施形態では、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え時に、エンジン2を始動させる前に、モータ4の出力トルクを所定量減少させておく。
【0030】
これにより、走行モードの切り替えのためにエンジン2を始動させる前に、モータ4の出力トルクの減少によりハイブリッド車両1の進行方向加速度を予め所定量減少させることができる。その結果、エンジン2を始動させるのに必要なトルクをモータ4が十分に発生できない場合でも、そのモータ4の出力トルクの不足量に相当する減速度まで進行方向加速度が減少するときの加速度変化を小さくすることができる。これにより、第1走行モードから第2走行モードへの切り替えに伴うエンジン2の始動時に、ハイブリッド車両1が突然後方に引きずられたような違和感をドライバに与えることを抑制できるようになる。
【0031】
一方で、本実施形態では、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え時であっても、ハイブリッド車両1の運動に関するドライバの操作がある場合(典型的にはドライバによるアクセルペダルの操作に対応するアクセル開度の変化量が所定量以上である場合)には、上述したようなモータ4の出力トルクを所定量減少させる制御を行わないようにする。この場合には、コントローラ20は、モータ4の出力トルクを減少させることなく、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態に移行させると共に、モータ4によってエンジン2をクランキングしてエンジン2を始動させる。こうするのは、上述したような加速度変化の抑制よりも、ドライバの操作に対する応答性を優先させるべく、エンジン2を速やかに始動させるためである。
【0032】
また、本実施形態では、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え時であっても、モータ4の出力トルクの不足量に相当する減速度まで進行方向加速度が減少するときの加速度変化が所定値(例えばドライバに違和感を与えない程度の加速度変化)以下である場合には、モータ4の出力トルクを減少させる制御を行わないようにする。つまり、この場合にも、コントローラ20は、モータ4の出力トルクを減少させることなく、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態に移行させると共に、モータ4によってエンジン2をクランキングしてエンジン2を始動させる。例えば、コントローラ20は、モータ回転数が低くモータ4がほぼ最大トルクを発生可能な状態であり、且つエアコン等の補機類が非動作状態でエンジン2のクランキングに必要なトルクをモータ4だけで出力可能である場合、モータ4の出力トルクを減少させることなく、モータ4によってエンジン2をクランキングしてエンジン2を始動させる。この場合には、モータ4の出力トルクが不足しないので進行方向加速度の減少が発生せず、ドライバに違和感を与えることがないからである。
【0033】
ここで、本実施形態では、コントローラ20は、モータ4の出力トルクを予め減少させる場合とそうでない場合との両方とも、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え要求があったときに、最初に、第2クラッチCL2を締結状態からスリップ状態へと移行させる制御を行う。このように第2クラッチCL2をスリップ状態にするのは、エンジン2を始動させるに当たって、走行しているハイブリッド車両1の運動エネルギーがエンジン2側に伝達されてエンジン2を始動させるために用いられ、進行方向加速度が減少することをできる限り抑制するためである。
【0034】
第2クラッチCL2を完全に解放状態にすれば、ハイブリッド車両1の運動エネルギーがエンジン2側に伝達されることを確実に抑制できる。だが、そのように第2クラッチCL2を完全な解放状態に一旦設定すると、この後に第2クラッチCL2を締結状態に切り替えるのに時間がかかるため、走行モードの切り替えを迅速に行えなくなる。したがって、本実施形態では、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え要求があった場合、第2クラッチCL2をスリップ状態に設定する。なお、第2クラッチCL2は、エンジン2の着火後に完全締結される。
【0035】
しかしながら、第2クラッチCL2をスリップ状態に設定していても、第2クラッチCL2のイナーシャに起因して、ハイブリッド車両1の進行方向加速度の減少が発生してしまう。具体的には、完全な解放状態ではなくスリップ状態にある第2クラッチCL2においてある程度トルクが伝達されるときに、変速機6内の遊星歯車の公転速度を上昇させるためにもハイブリッド車両1の運動エネルギーが用いられ、進行方向加速度が減少する。
【0036】
これに対し、本実施形態では、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え時に、エンジン2を始動させる前にモータ4の出力トルクを予め所定量減少させ、ハイブリッド車両1の進行方向加速度を予め所定量減少させる。その結果、エンジン2を始動させ且つ変速機6内の遊星歯車の公転速度を上昇させるのに必要なトルクをモータ4が十分に発生できない場合でも、そのモータ4の出力トルクの不足量に相当する減速度まで進行方向加速度が減少するときの加速度変化を小さくすることができる。これにより、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え時に、ハイブリッド車両1が突然後方に引きずられたような違和感をドライバに与えることを抑制できるようになる。
【0037】
次に、図3及び図4を参照して、本発明の実施形態による走行モード切替制御について具体的に説明する。図3は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両1の走行モード切替制御を示すフローチャートである。この走行モード切替制御は、走行モードを第1走行モードから第2走行モードへ切り替えるための処理であり、コントローラ20によって所定の周期で繰り返し実行される。図4は、走行モード切替制御において実行される、本発明の実施形態によるエンジン始動制御を示すフローチャートである。
【0038】
まず、図3に示す走行モード切替制御が開始されると、ステップS11において、コントローラ20は、上述したセンサSN1~SN6からの検知信号に対応する情報も含めて、ハイブリッド車両1の種々の情報を取得する。そして、コントローラ20は、ステップS12に進む。
【0039】
ステップS12において、コントローラ20は、現在の走行モードが第1走行モード(EV走行モード)であるか否かを判定する。例えば、コントローラ20は、モータ4、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2に出力している制御信号に基づき、当該判定を行う。この例では、コントローラ20は、第1クラッチCL1を解放し且つ第2クラッチCL2を締結し尚且つモータ4からトルクを出力させている場合に、現在の走行モードが第1走行モードであると判定する。コントローラ20は、現在の走行モードが第1走行モードであると判定した場合(ステップS12:Yes)、ステップS13に進む。これに対して、コントローラ20は、現在の走行モードが第1走行モードでないと判定した場合(ステップS12:No)、典型的には現在の走行モードが第2走行モードである場合、走行モード切替制御を終了する。この場合には、エンジン2が運転状態にあるので、エンジン始動制御を実行してエンジン2を始動させる必要はない。
【0040】
ステップS13において、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え要求があるか否かを判定する、換言するとエンジン2を始動させる要求があるか否かを判定する。1つの例では、コントローラ20は、SOCセンサSN6によって検出されたバッテリ5のSOCが所定値(例えば、バッテリ5の保護等の観点から定められた、バッテリ5の充電を実行すべきSOCの下限値や、バッテリ5の電力持ち出しが禁止されるSOCなど)未満である場合に、第2走行モードへの切り替え要求があると判定する。他の例では、コントローラ20は、ドライバによってハイブリッド車両1のエアコンスイッチがオンにされた場合に、第2走行モードへの切り替え要求があると判定する。更に他の例では、コントローラ20は、ドライバから比較的大きな加速要求がある場合に(例えばドライバによりアクセルペダルが大きく踏み込まれた場合)、第2走行モードへの切り替え要求があると判定する。コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え要求があると判定した場合(ステップS13:Yes)、ステップS14に進む。これに対して、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え要求がないと判定した場合(ステップS13:No)、走行モード切替制御を終了する。この場合には、第1走行モードが維持されるので、エンジン始動制御を実行してエンジン2を始動させる必要はない。
【0041】
ステップS14において、コントローラ20は、ドライバによるハイブリッド車両1の運動に関する操作があるか否かを判定する。1つの例では、コントローラ20は、アクセル開度センサSN3によって検出されたアクセル開度の変化量が所定量以上である場合に、ハイブリッド車両1の運動に関する操作があると判定する。他の例では、コントローラ20は、ブレーキペダルセンサ(図示せず)によりブレーキペダルの操作が検出された場合や、シフトレバーやパドルシフトによる変速指示操作が検出された場合、ステアリングホイールが操作された場合、スポーツモードスイッチが操作された場合などに、ハイブリッド車両1の運動に関する操作があると判定する。更に別の例では、スポーツモードスイッチによりスポーツモードがオンにされている場合、ドライバにより常に高い応答性が要求されているものとし、ハイブリッド車両1の運動に関する操作があると判定する。コントローラ20は、ドライバによるハイブリッド車両1の運動に関する操作があると判定した場合(ステップS14:No)、ステップS17に進み、エンジン始動制御を実行する。この場合には、コントローラ20は、エンジン2を速やかに始動させて、ドライバからの要求を優先させるべく、モータ4の出力トルクを予め減少させることなくエンジン始動制御を実行する。これに対して、コントローラ20は、ドライバによるハイブリッド車両1の運動に関する操作がないと判定した場合(ステップS14:Yes)、ステップS15に進む。
【0042】
ステップS15において、コントローラ20は、エンジン始動制御を実行した場合におけるハイブリッド車両1の進行方向加速度の推定減少量(推定加速度減少量)が、進行方向加速度の減少量の最大許容値(許容加速度減少量)より大きいか否かを判定する。
【0043】
許容加速度減少量は、エンジン始動制御中に許容される進行方向加速度の減少量の最大値である。具体的には、ドライバに違和感を与えない加速度減少量の範囲やハイブリッド車両1の信頼性上要求される加速度減少量の範囲に基づき、許容加速度減少量が予め決定されている。本実施形態においては、例えば、許容加速度減少量は0.02Gである。また、推定加速度減少量は、現在の加速度と、エンジン始動制御を実行した場合にハイブリッド車両1に発生すると推定される推定減速度との差分として算出することができる。推定減速度は、モータ4が出力可能なトルクから、エンジン2の始動に必要なトルク及び走行抵抗を打ち消すために必要なトルクを減算して得られるトルク収支に、所定の係数を掛けることで算出することができる。この所定の係数は、変速機6の現在のギヤ段やタイヤ径、ハイブリッド車両1の重量等に基づき決定される。本実施形態では、便宜的に、トルク収支の10Nmがハイブリッド車両1の加速度0.01Gに相当することとする。即ち、例えばトルク収支が-15Nmの場合には、推定減速度は-0.015Gとなる。また、コントローラ20は、モータ4の回転数と出力可能なトルクとの関係を表したマップ(予めコントローラ20のメモリ20bに記憶されている)を参照することにより、モータ回転数センサSN2により検知されたモータ4の回転数に基づいてモータ4が出力可能なトルクを求めることができる。また、本実施形態では、便宜的に、エンジン2の始動に必要なトルクを90Nm、走行抵抗を打ち消すために必要なトルクを10Nmとするが、これらの値はハイブリッド車両1のエンジン2の構成や車速等に応じて適宜設定することができる。
【0044】
コントローラ20は、推定加速度減少量が許容加速度減少量以下であると判定した場合(ステップS15:No)、ステップS17に進み、エンジン始動制御を実行する。この場合には、直ちにエンジン始動制御を実行したとしてもドライバに違和感を与えることがないと考えられるので、コントローラ20は、モータ4の出力トルクを予め減少させることなくエンジン始動制御を実行する。これに対して、コントローラ20は、推定加速度減少量が許容加速度減少量より大きいと判定した場合(ステップS15:Yes)、ステップS16に進む。
【0045】
ステップS16において、コントローラ20は、推定加速度減少量が許容加速度減少量以下となるように、モータ4の出力トルクを減少させる。具体的には、コントローラ20は、ハイブリッド車両1の進行方向加速度を、推定加速度減少量と許容加速度減少量との差分に相当する量だけ減少させるように、モータ4の出力トルクを減少させる。例えば、推定加速度減少量が0.03G、許容加速度減少量が0.02Gである場合、その差分(即ち推定加速度減少量の超過分)は0.01Gである。この場合、この差分0.01Gに相当するトルクは10Nmであるので、コントローラ20は、モータ4の出力トルクを10Nm減少させる。そして、コントローラ20は、ステップS17に進む。
【0046】
ステップS17において、コントローラ20は、エンジン始動制御を実行する。エンジン始動制御によりエンジン2が始動した後、コントローラ20は、走行モード切替制御を終了する。
【0047】
次に、図4を参照して、本発明の実施形態によるエンジン始動制御について説明する。このエンジン始動制御は、図3のステップS17において実行されるものである。
【0048】
エンジン始動制御が開始されると、ステップS21において、コントローラ20は、エンジン始動中において第2クラッチCL2をスリップ状態にするときに第2クラッチCL2に適用すべきトルク(以下では「第2クラッチ目標スリップトルク」と呼ぶ。)を設定する。具体的には、コントローラ20は、変速機6に現在設定されているギヤ段と、モータ4の現在のトルクとに基づき、第2クラッチ目標スリップトルクを求める。ここで、ギヤ段に応じて、スリップ状態において第2クラッチCL2に適用可能な最小のトルク(以下では「第2クラッチ最小トルク」と呼ぶ。)が決まる。そのため、典型的な例では、コントローラ20は、ギヤ段と第2クラッチ最小トルクとの関係(事前に規定したマップなど)に基づき、現在のギヤ段に応じた第2クラッチ最小トルクを求め、この第2クラッチ最小トルクを第2クラッチ目標スリップトルクとして設定する。
【0049】
なお、第2クラッチ最小トルクが変速機6のギヤ段に依存するのは、上述したように、第2クラッチCL2が、変速機6において種々のギヤ段を切り替えるための多数のクラッチに相当するものであるからである。つまり、ギヤ段に応じて第2クラッチCL2を構成するクラッチが変わるため、それにより、第2クラッチCL2による最小のスリップトルクも変わるからである。
【0050】
次いで、ステップS22において、コントローラ20は、第2クラッチCL2を徐々にスリップ状態に移行させるように、第2クラッチCL2を制御する。具体的には、コントローラ20は、第2クラッチCL2のトルクが、ステップS21において設定された第2クラッチ目標スリップトルクに達するまで、締結状態にある第2クラッチCL2を解放側に向けて移行させていく。そして、コントローラ20は、第2クラッチ目標スリップトルクが適用された第2クラッチCL2の状態(スリップ状態)を保持する。
【0051】
次いで、ステップS23において、コントローラ20は、第1クラッチCL1を徐々にスリップ状態に移行させるように、第1クラッチCL1を制御する。つまり、コントローラ20は、解放状態にある第1クラッチCL1を締結側に向けて移行させていく。例えば、コントローラ20は、第1クラッチCL1を完全締結の手前の所定のスリップ状態まで移行させる。また、コントローラ20は、このように第1クラッチCL1をスリップ状態に移行させていき、モータ4のトルクを第1クラッチCL1を介してエンジン2側に伝達させることで、このモータ4のトルクによってエンジン2をクランキングしてエンジン回転数を上昇させていく。この場合、コントローラ20は、モータ4の回転数をほぼ維持した状態において、モータ4のトルクを徐々に上昇させる制御を行う。典型的には、コントローラ20は、現在の回転数において出力可能な最大なトルクまで、モータ4のトルクを上昇させる。この後、エンジン2側に伝達されるトルク(つまり第1クラッチCL1に付与されるトルク)がエンジン2の始動に必要なトルクに達することとなるが、コントローラ20は、エンジン2を着火させるべきタイミングになるまで、第1クラッチCL1を所定のスリップ状態に保持する。
【0052】
次いで、ステップS24において、コントローラ20は、エンジン2を着火可能なタイミングになると、エンジン2を着火させるようにエンジン2を制御する。つまり、コントローラ20は、点火プラグによる点火を実行することで、エンジン2内の混合気を燃焼させる。そして、ステップS25において、コントローラ20は、スリップ状態にある第1クラッチCL1を完全締結するように、第1クラッチCL1を制御する。具体的には、コントローラ20は、エンジン回転数とモータ回転数とがほぼ一致したタイミングにおいて、第1クラッチCL1を完全締結する。そして、ステップS26において、コントローラ20は、スリップ状態にある第2クラッチCL2を完全締結するように、第2クラッチCL2を制御する。具体的には、コントローラ20は、エンジン回転数(モータ回転数に一致)と、車速をギヤ比換算した回転数とが一致したタイミングにおいて、第2クラッチCL2を完全締結する。そして、コントローラ20は、エンジン始動制御を終了する。
【0053】
<作用効果>
次に、本発明の実施形態によるハイブリッド車の制御装置の作用及び効果について説明する。
【0054】
図5は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両1の制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。図6は、従来技術により走行モードの切替を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。図5及び図6において、上側のタイムチャートは、ハイブリッド車両1の加速度(減速度含む)の時間変化を示し、下側のタイムチャートは、モータ4やエンジン2などのトルク(具体的にはモータ4の出力軸におけるトルク)を示している。
【0055】
ここでは、本実施形態による走行モード切替制御による作用及び構成を説明するために、図5に本実施形態による走行モード切替制御を行った場合の結果を示すと共に、図6に従来技術により走行モードの切替を実行した場合の結果を比較例として示す。図5及び図6中の各グラフは、以下のパラメータの時間変化を示す。
・グラフG10:ハイブリッド車両1の加速度
・グラフG11:モータ4の出力トルク
・グラフG12:走行抵抗を打ち消すために必要なトルク(負値)
・グラフG13:エンジン2の始動に必要なトルク(負値)
・グラフG14:始動後のエンジン2の出力トルク
・グラフG15:トルク収支(G11~G14の合計値)
・グラフG20:ハイブリッド車両1の加速度
・グラフG21:モータ4の出力トルク
・グラフG22:走行抵抗を打ち消すために必要なトルク(負値)
・グラフG23:エンジン2の始動に必要なトルク(負値)
・グラフG24:始動後のエンジン2の出力トルク
・グラフG25:トルク収支(G21~G24の合計値)
【0056】
図6に示す従来技術の例では、ハイブリッド車両1が第1走行モードで走行している時刻t1以前から第2走行モードで走行している時刻t5以降にわたって、走行抵抗を打ち消すために必要なトルクは、-10Nmで一定である(グラフG22参照)。また、時刻t1以前においてモータ4の出力トルクは25Nmである(グラフG21参照)。したがって、トルク収支は15Nmとなり(グラフG25参照)、このトルク収支に対応するハイブリッド車両1の加速度は0.015Gとなっている(グラフG20参照)。
【0057】
図6の従来技術の例では、時刻t1において、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え要求があると判定されると、直ちにエンジン始動制御が開始される。そして、時刻t1からt3の間、エンジン2の始動に必要なトルクの大きさが90Nmまで増大する(グラフG23参照。エンジン2の始動に必要なトルクを負値として表しているのでグラフ上では減少している)。時刻t1から時刻t2までの間は、エンジン2の始動に必要なトルクの増大に合わせてモータ4の出力トルクも増大するので(グラフG21参照)、トルク収支は15Nmで一定に保たれる(グラフG25参照)。即ち、ハイブリッド車両1の加速度に変化は生じない。しかしながら、時刻t2においてモータ4の出力トルクが最大値85Nmに達した後、モータ4の出力トルクは増大しない。したがって、時刻t2から時刻t3までの間は、エンジン2の始動に必要なトルクの増大に合わせてトルク収支が減少する(グラフG25参照)。そして、時刻t3においてエンジン2の始動に必要なトルクの大きさが最大値90Nmに到達したとき、トルク収支は85-10-90=-15Nmとなる(グラフG25参照)。このトルク収支に対応するハイブリッド車両1の加速度は-0.015Gである(グラフG20参照)。したがって、エンジン始動制御が開始された時刻t1における加速度0.015Gからの加速度減少量は0.03Gになる。即ち、図6に例示した従来技術では、エンジン始動制御中のハイブリッド車両1の進行方向加速度の減少量が、ドライバに違和感を与えない許容加速度減少量である0.02Gを超えているので、ドライバに違和感を与える可能性がある。
【0058】
一方、図5に例示した本実施形態でも、ハイブリッド車両1が第1走行モードで走行している時刻t1以前から第2走行モードで走行している時刻t6以降にわたって、走行抵抗を打ち消すために必要なトルクは、-10Nmで一定である(グラフG12参照)。また、時刻t1以前においてモータ4の出力トルクは25Nmである(グラフG11参照)。したがって、時刻t1以前のトルク収支は15Nmとなり(グラフG15参照)、このトルク収支に対応するハイブリッド車両1の加速度は0.015Gとなっている(グラフG10参照)。
【0059】
図5の本実施形態の例においても、図6に示した従来技術の例と同様に、時刻t1において、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え要求があると判定される。しかしながら、従来技術の例のように時刻t1に直ちにエンジン始動制御が開始されると、エンジン始動制御中のハイブリッド車両1の進行方向加速度の減少量が0.03Gに達し、ドライバに違和感を与える可能性がある。そこで、図5の本実施形態の例では、コントローラ20は、エンジン始動制御を実行する前に、時刻t1からt2の間、モータ4の出力トルクを所定量減少させる。図5の例では、推定加速度減少量が0.03G、許容加速度減少量が0.02Gであるので、その差分(即ち推定加速度減少量の超過分)は0.01Gである。即ち、この差分0.01Gに相当するトルクは10Nmであるので、コントローラ20は、時刻t1からt2の間に、モータ4の出力トルクを10Nm減少させて15Nmとする(G11参照)。これにより、時刻t2の時点におけるトルク収支は、15-10=5Nmとなり、このトルク収支に対応するハイブリッド車両1の加速度は0.005Gとなる(グラフG10参照)。
【0060】
その後、時刻t2からt4の間、エンジン2の始動に必要なトルクの大きさが90Nmまで増大する(グラフG13参照。エンジン2の始動に必要なトルクを負値として表しているのでグラフ上では減少している)。時刻t2から時刻t3までの間は、エンジン2の始動に必要なトルクの増大に合わせてモータ4の出力トルクも増大するので(グラフG11参照)、トルク収支は5Nmで一定に保たれる(グラフG15参照)。即ち、ハイブリッド車両1の加速度に変化は生じない。しかしながら、時刻t3においてモータ4の出力トルクが最大値85Nmに達した後、モータ4の出力トルクは増大しない。したがって、時刻t3から時刻t4までの間は、エンジン2の始動に必要なトルクの増大に合わせてトルク収支が減少する(グラフG15参照)。そして、時刻t4においてエンジン2の始動に必要なトルクの大きさが最大値90Nmに到達したとき、トルク収支は85-10-90=-15Nmとなる(グラフG15参照)。このトルク収支に対応するハイブリッド車両1の加速度は-0.015Gである(グラフG10参照)。したがって、エンジン始動制御が開始された時刻t2における加速度0.005Gからの加速度減少量は0.02Gになる。即ち、図5に示した本実施形態の例では、エンジン始動制御中のハイブリッド車両1の進行方向加速度の減少量が、ドライバに違和感を与えない許容加速度減少量である0.02G以下なので、ドライバに与える違和感を抑制できる。
【0061】
上記した時刻t4の後、時刻t5において、エンジン2が着火され、この後、時刻t6までの間に第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2が完全締結されて、時刻t6においてハイブリッド車両1の走行モードが第2走行モードに切り替わることとなる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態では、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへと切り替えるときに、モータ4の出力トルクを所定量減少させる制御を行った後に、第1クラッチCL1を解放状態から締結状態に移行させると共に、モータ4によってエンジン2をクランキングしてエンジン2を始動させる。つまり、本実施形態では、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え時に、エンジン2を始動させる前に、モータ4の出力トルクを所定量減少させる制御を行って、ハイブリッド車両1の進行方向加速度を予め所定量減少させておく。
【0063】
これにより、走行モードの切り替えのためにエンジン2を始動させるときに、エンジン2を始動させるのに必要なトルクをモータ4が十分に発生できない場合でも、そのモータ4の出力トルクの不足量に相当する減速度までハイブリッド車両1の進行方向加速度が減少するときの加速度変化を小さくすることができる。これにより、第1走行モードから第2走行モードへの切り替えに伴うエンジン2の始動時に、ハイブリッド車両1が突然後方に引きずられたような違和感をドライバに与えることを抑制できるようになる。
【0064】
また、本実施形態によれば、コントローラ20は、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え時であっても、ハイブリッド車両1の運動に関するドライバの操作がある場合には、モータ4の出力トルクを所定量減少させる制御を行わないようにする。これにより、エンジン2を速やかに始動させて、ハイブリッド車両1の運動に関するドライバからの要求を適切に実現することができる。
【0065】
また、本実施形態は、遊星歯車を備える変速機6(自動変速機)を備えるハイブリッド車両1に適用される。遊星歯車を備える変速機6(自動変速機)ではイナーシャが大きいために、上記したような走行モードの切り替え時における進行方向加速度の減少が発生しやすい。しかしながら、本実施形態によれば、エンジン2を始動させる前に、モータ4の出力トルクを所定量減少させる制御を行って、ハイブリッド車両1の進行方向加速度を予め所定量減少させておくことにより、エンジン2を始動させ且つ変速機6内の遊星歯車の公転速度を上昇させるのに必要なトルクをモータ4が十分に発生できない場合でも、そのモータ4の出力トルクの不足量に相当する減速度まで進行方向加速度が減少するときの加速度変化を小さくすることができる。これにより、第1走行モードから第2走行モードへの切り替え時に、ハイブリッド車両1が突然後方に引きずられたような違和感をドライバに与えることを抑制できるようになる。
【符号の説明】
【0066】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
4 モータ
6 変速機
12 駆動輪
20 コントローラ
20a プロセッサ
20b メモリ
CL1 第1クラッチ
CL2 第2クラッチ
P1 ピニオンギヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6