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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】光検知式化学センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/21 20060101AFI20240513BHJP
【FI】
G01N21/21 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020132418
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029193
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】591108178
【氏名又は名称】秋田県
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 治起
(72)【発明者】
【氏名】山川 清志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸希
(72)【発明者】
【氏名】三浦 聡
(72)【発明者】
【氏名】重村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】世古 暢哉
(72)【発明者】
【氏名】住吉 研
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-172993(JP,A)
【文献】特開2019-152523(JP,A)
【文献】特開2016-053503(JP,A)
【文献】特開2013-250117(JP,A)
【文献】米国特許第9097677(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
G01N 21/75 - G01N 21/83
G01N 33/00 - G01N 33/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、検知素子と、光検出器とを有し、
前記検知素子が、化学検知層と光干渉層とハーフミラー層とを含む積層膜が透明基板の上に形成された積層体で構成され、
前記積層体を構成する前記化学検知層、前記光干渉層、あるいは、前記ハーフミラー層の少なくとも一つが、磁性材料を含み、
前記光源から出射された光を前記検知素子に照射するときに、前記積層体が形成されていない前記透明基板の裏面から、かつ前記積層体で発生する多重反射によって磁気光学効果が増強する条件で前記光源からの光を照射し、
前記化学検知層の反応による光学物性の変化に伴う前記積層体からの反射光の変化を示す磁気光学信号を前記光検出器によって検出することにより、検知対象を検知することを特徴とする光検知式化学センサ。
【請求項2】
前記磁気光学信号は、前記積層体からの反射光の偏光角の変化、強度の変化、あるいは、楕円率の変化を示すことを特徴とする請求項1に記載の光検知式化学センサ。
【請求項3】
前記積層体を構成する前記化学検知層が、水素ガスと接触することで光学特性が変化する水素ガス検知層であることを特徴とする請求項1に記載の光検知式化学センサ。
【請求項4】
前記積層体を構成する前記化学検知層が、パラジウムを主成分とする薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の光検知式化学センサ。
【請求項5】
前記積層体を構成する前記化学検知層の厚さが、20nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の光検知式化学センサ。
【請求項6】
前記積層体に含有する前記磁性材料が、膜面法線方向に磁化容易軸を有する垂直磁化膜であることを特徴とする請求項1に記載の光検知式化学センサ。
【請求項7】
前記積層体に含有する前記磁性材料が、コバルトと白金との合金であることを特徴とする請求項6に記載の光検知式化学センサ。
【請求項8】
前記透明基板が、前記光源からの光を照射する裏面側に反射防止膜が形成、あるいは、プリズムとの光学結合が施されていることを特徴とする請求項1に記載の光検知式化学センサ。
【請求項9】
前記光検出器が、偏光子を通過した光の強度を測定する光計測器で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光検知式化学センサ。
【請求項10】
前記光検出器が、偏光分割器によって2つに分けられた光の強度をそれぞれ測定する2つの光計測器で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光検知式化学センサ。
【請求項11】
前記積層体の磁化を制御する磁場印加機構を備えたことを特徴とする請求項1に記載の光検知式化学センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質を検知する化学センサに関し、詳細には、透明基板の上に形成された化学検知層とハーフミラー層と光干渉層とを含む積層体における磁気光学効果を用いた光検知式化学センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学物質の種類や濃度を検知する化学センサが開発されている。例えば、燃料電池や水素自動車などの分野では、次世代のエネルギー源として水素ガスが注目されており、当該分野では、水素を検知する水素ガスセンサが化学センサとして開発されている。水素ガスは、拡散性が高く、漏洩しやすく、そして、万が一漏洩した場合には、爆発の危険性が非常に高いガスである。水素を安全に使用するためには、様々な場所への設置を想定した利便性と、高い信頼性とを兼ね備えた水素ガスセンサが不可欠である。
【0003】
水素ガスの漏洩を検知する水素ガスセンサとしては、検知方法の違いによって、接触燃焼式、半導体式、気体熱伝導式、電気化学式、光学式など様々な種類のセンサが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
このうち一般に市販されているのは、はじめの3種類である。接触燃焼式センサは、水素の接触による触媒燃焼に伴う生成熱をPt線コイルの抵抗値の変化として水素ガスを検知する。ガス濃度に比例した出力が得られるため定量性に優れ、高濃度の水素ガスの漏洩検知に適している。半導体式センサは、SnOなど酸化物半導体の表面での水素還元反応に起因する電気抵抗の変化により水素ガスを検知し、低濃度の検知に適している。また、気体熱伝導式センサは、対象とするガスと標準ガス(通常は空気)との熱伝導の差を利用する。水素ガスの熱伝導率が、他の可燃性ガスに比べて非常に高いという特性を利用するものであり、高濃度の水素検知に利用されている。これらセンサの応答時間は、おおむね1秒から数十秒程度である。
【0004】
ここで、実用化に至っているこれらの水素ガスセンサは、応答速度の向上やクリーニング効果などのために高い動作温度を必要とするものが一般的であり、200℃程度以上の高温動作を基本としている。また、いずれのセンサも、素子の応答を電気信号としてとらえるため、水素ガスと接触する電気回路における過電流やスパークが着火源となる危険性がある。
【0005】
この電気回路が関与する爆発の危険性という問題を回避できるセンサとして、光学的な手法により、水素ガスの漏洩を検知する光検知式水素ガスセンサが提案されている(例えば、特許文献1~5参照)。
【0006】
特許文献1~3には、水素ガスが触れると吸光度が変化する検知触媒に、光を照射し、検知触媒からの透過光又は反射光を受光することで水素ガスを検知する技術が開示されている。また、特許文献4には、レーザ光を照射した場合に、水素ガスから発生するラマン散乱光を検出する技術が開示されている。特許文献1~4に開示されているこれらの水素ガスセンサでは、透過光や反射光、あるいは、ラマン散乱光など光強度の変化を検知信号として検出する。したがって、光源の出力が変動した場合や、埃などが測定光の光路に侵入することによっても検知信号に変動が生じ、誤作動に繋がってしまう。
【0007】
この光源の出力変動や、埃などの影響による誤動作という問題点を回避できる光検知式水素ガスセンサとして、特許文献5には、磁気光学効果を用いて水素ガスの漏洩を検知する光学式水素ガスセンサが提案されている。
【0008】
特許文献5に開示されている水素ガスセンサは、水素ガス検知層と磁性層と光干渉層と反射層とを含む薄膜の積層体で構成された検知素子を有する。そして、水素ガス検知層が形成されている検知素子の表面から、かつ前記積層体で発生する多重反射によって入射光の磁気光学効果(例えば、偏光角の変化)が増強する条件で光を照射し、検知素子からの反射光である磁気光学信号を計測することで、水素ガスを検知する。水素ガス検知層が水素ガスに触れると、前記積層体で発生する多重反射の状態が変わり、磁気光学信号が大きく変化するため、水素ガスを高感度に検知することができる。磁気光学信号(例えば、偏光角の変化)は、計測光の強度の変動に影響されることはないため、本方式のセンサでは、光源の出力変動などが生じても、誤動作することなく、水素ガスの漏洩を安定して検知することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】電気化学会 化学センサ研究会編、「先進化学センサ-ガス・バイオ・イオンセンシングの最新技術-」、第1版、株式会社ティー・アイ・シィー、2008年6月10日、p.5-365
【特許文献】
【0010】
【文献】特公平3-67218号公報
【文献】特開2007-71866号公報
【文献】特開2007-120971号公報
【文献】特開2011-158307号公報
【文献】特開2017-172993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献5に開示されている光検知式水素ガスセンサでは、検知素子の表面に形成されている水素ガス検知層の厚さが、数nmと非常に薄く、しかも検知素子の光学特性が、検知素子の表面状態に非常に敏感であるため、検知性能が、時間の経過とともに変化してしまい、長期間での信頼性といった点で改善が求められている。さらに、水素ガスを検知するための光を、水素ガス検知層が形成されている検知素子の表面側から照射するため、光源および光検出器と、検知素子とは、水素ガスを含有する被測定雰囲気を挟んで、対向させて配置する必要がある。このことから、検知対象である水素ガスを検知するためのデバイス構成が複雑となり、簡略化といった点での改善も求められている。
【0012】
上記では水素ガスを検知する水素ガスセンサについて説明しているが、化学センサは、水素ガスを検知する水素ガスセンサに限られず、pH(水素イオン指数)センサに代表されるイオンセンサ、酸素、二酸化炭素、塩素、窒素酸化物などのガスを検知するガスセンサ、DNA(デオキシリボ核酸)や酵素などのバイオ分子を検知するバイオセンサなどがある。これらイオンセンサ、ガスセンサ、バイオセンサにおいても、水素ガスセンサと同様に、検知対象であるpH、酸素、二酸化炭素、塩素、窒素酸化物などのガス、DNA、酵素などを簡便かつ高精度に検知するためには、デバイス構成の簡略化や、検知性能の向上といった点での改善が求められている。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、デバイス構成が簡単かつ、検知対象を安定して検知することが可能な信頼性の高い光検知式化学センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記問題点を解決するために、本発明にかかる光検知式化学センサは、光源と検知素子と光検出器を有し、前記検知素子は、透明基板の上に形成された化学検知層と光干渉層とハーフミラー層とを含む積層体で構成され、前記化学検知層、光干渉層あるいはハーフミラー層の少なくとも一つは磁性材料を含有する。そして、本発明の光検知式化学センサによれば、前記光源から出射された光を前記検知素子に照射するときに、前記積層体が形成されていない前記透明基板の裏面から、かつ前記積層体で発生する多重反射によって磁気光学効果が増強する条件で前記光源からの光を照射する。このとき、検知対象との反応に伴う前記化学検知層の光学特性の変化を、前記積層体からの反射光の変化を示す磁気光学信号として前記光検出器で測定することによって、検知対象を検知することを特徴としている。この場合、磁気光学信号は、照射する光の強さには影響されることはないため、光源の出力が変動した場合にも、安定した検知対象の検知が可能である。また、前記化学検知層は、例えば、数十nm以上に厚くすることができるため、検知信号における化学検知層の表面状態の変動の影響を低減することができ、より安定した検知対象の検知が可能である。さらに、本発明の光検知式化学センサを構成する前記光源、検知素子および光検出器は、検知対象を含有する被測定雰囲気に対して、片側のみに配置することができるため、デバイス構成の簡略化が可能である。以上により、デバイス構成が簡単で、かつ検知対象を安定して検知することが可能な信頼性の高い光検知式化学センサの提供が可能となる。
【0015】
また、本発明にかかる光検知式化学センサは、前記光源、検知素子および光検出器に、磁場印加機構を加えた構成とすることも可能である。そして、前記検知素子は、透明基板に形成された化学検知層と光干渉層とハーフミラー層とを含む積層体で構成され、前記化学検知層、光干渉層あるいはハーフミラー層の少なくとも一つは磁性材料を含有する。前記光源から出射された光を前記検知素子に照射するときに、前記積層体が形成されていない前記透明基板の裏面から、かつ前記積層体で発生する多重反射によって磁気光学効果が増強する条件で前記光源からの光を照射する。このとき、前記磁場印加機構によって前記積層体に含有する磁性材料の磁化を制御することにより、前記積層体からの反射光の変化を示す磁気光学信号に変調を加えることを特徴としている。かかる構成によれば、検出信号における雑音の影響が低減でき、より高い検知精度を有する光検知式化学センサの提供が可能となる。
【0016】
さらに、前記積層体に含有する前記磁性材料としては、垂直磁化材料であることが好ましく、特に、CoPt(コバルトと白金との)合金であることが好ましい。かかる構成によれば、前記積層体で発生する多重反射による磁気光学信号を大きく増強することができ、検知対象を高感度に検知できるという効果を奏する。
【0017】
さらに、前記光源から光を照射する前記透明基板の裏面には、反射防止膜あるいはプリズム等を用いて、前記透明基板から反射される光を少なくできる構成とすることが好ましい。かかる構成によれば、測定光における検知信号の割合を大きくすることができるため、より高い感度で検知対象を検知できるという効果を奏する。
【0018】
さらに、本発明にかかる光検知式化学センサが、水素ガスを検知する水素ガスセンサである場合には、前記検知素子を構成する前記化学検知層としては、水素ガスが触れると室温で光学特性が変化するPd(パラジウム)を主成分とする薄膜であることが好ましく、特に、前記化学検知層は20nm以上の厚さであることが好ましい。かかる構成によれば、室温にて水素ガスを検知することが可能となり、加熱機構を必要としないため、安全かつ、低消費電力にて水素ガスを安定に検知できるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる光検知式化学センサは、光源と、検知素子と、光検出器とを有し、前記検知素子が、透明基板に形成された化学検知層と光干渉層とハーフミラー層とを含む積層体で構成され、前記化学検知層、光干渉層あるいはハーフミラー層の少なくとも一つは磁性材料を含有する。そして、前記光源から出射された光を前記検知素子に照射するときに、前記積層体が形成されていない前記透明基板の裏面から、かつ前記積層体で発生する多重反射によって、磁気光学効果が増強する条件で前記光源から光を照射し、前記化学検知層の検知対象との反応に伴う屈折率あるいは吸収係数などの光学特性の変化による前記積層体からの反射光の変化を示す磁気光学信号を、前記光検出器により検出することで、検知対象を検知する。そのため、本発明にかかる光検知式化学センサでは、磁気光学信号は、照射する光の強さには影響されないため、検知対象の検知に使用する光源の出力が変動した場合にも、安定した検知対象の検知が可能となる。さらに、本発明にかかる光検知式化学センサは、前記光源、検知素子および光検出器に、磁場印加機構を加えた構成とすることが出来る。そして、前記磁場印加機構によって、前記積層体に含有する磁性材料の磁化を制御することで、前記積層体からの反射光を示す磁気光学信号に変調を加える。これにより、同期検出等の手法が適用可能となり、検出信号における雑音の影響を低減できるため、より高い精度で検知対象の検知が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1の実施形態の光検知式水素ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図2】第1の実施形態の他の光検知式水素ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図3図1図2に示した光検知式水素ガスセンサを構成する検知素子の磁気光学特性および水素ガスの検知原理を示す説明図である。
図4】実施例1の光検知式水素ガスセンサを構成する検知素子を模式的に示す断面図および特性図である。
図5図4に示した検知素子による水素ガスの検知を計算機シミュレーションにより示す特性図である。
図6】第2の実施形態の光検知式水素ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図7図6に示した光検知式水素ガスセンサを構成する検知素子の磁気光学特性および水素ガスの検知原理を示す説明図である。
図8】実施例2の光検知式水素ガスセンサを構成する検知素子を模式的に示す断面図である。
図9図8に示した検知素子による水素ガスの検知を示す特性図である。
図10】第3の実施形態の光検知式水素ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図11】実施例3の光検知式水素ガスセンサを構成する検知素子を模式的に示す断面図である。
図12図11に示した検知素子による水素ガスの検知を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の光検知式化学センサでは、検知対象を検知する検知素子は、透明基板の上に形成された化学検知層とハーフミラー層と光干渉層とを含む積層体で構成され、化学検知層、光干渉層あるいはハーフミラー層のいずれか一つは磁性材料を含有する。そして、積層体が形成されていない透明基板の裏面から検知素子に光を照射し、かつ積層体での多重反射によって磁気光学信号が増強する効果を利用することで、検知対象の検知を行う。光検知式化学センサの検知対象は、例えば、pH、水素、酸素、二酸化炭素、塩素、窒素酸化物などのガス、DNA、酵素などであり、光検知式化学センサは、例えば、pHを検知する光検知式イオンセンサ、ガスを検知する光検知式ガスセンサ、DNA、酵素を検知する光検知式バイオセンサである。以下の実施形態では、水素ガスを検知する光検知式水素ガスセンサを一例に挙げて詳細な説明をする。
【0022】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
[第1の実施形態]
図1図2は、本発明の第1の実施形態にかかる光検知式水素ガスセンサ10および30を模式的に示す構成図である。図中の矢印破線は光路であり、光検知式水素ガスセンサ10および30は、垂直入射光学系を基本とし、水素ガスを実際に検知する積層体14が形成されていない透明基板18の裏面から、かつ透明基板18に対して法線方向から光を照射することで、水素ガスを検知する。本実施形態では、光検知式水素ガスセンサ10および30は、直線偏光の光を透明基板18の上に形成された積層体14に照射するための光源11と、透明基板18を介して積層体14から出射された光を光検出器20、あるいは、光検出器20および21に導くための光分割器12と、積層体14での磁気光学効果による反射光の偏光角における変化を検出するための偏光子19あるいは偏光分割器22と、偏光子19あるいは偏光分割器22を透過した光の強度における変化を検出するための光検出器20、あるいは、光検出器20および21によって構成される。
【0023】
直線偏光の光を出射する光源11としては、半導体レーザ、あるいは、ガスレーザなどの単一の波長の光を出射する単色光源が用いられ、特に、グラントムソンプリズムなどの偏光子を用いて、直線偏光特性を向上させるようにすることが好ましい。
【0024】
検知素子13は、図1および図2に示すように、透明基板18に、ハーフミラー層17と光干渉層16と水素ガス検知層15とを、この順番で積層した積層体14により構成され、水素ガスとの接触による水素ガス検知層15の屈折率あるいは吸収係数などの光学特性の変化によって生じる反射光の偏光角の変化を示す磁気光学信号を測定することで、水素ガスを検知する。ここで、積層体14を構成するハーフミラー層17、光干渉層16、あるいは、水素ガス検知層15の少なくとも一つは磁性材料を含有する。また、光干渉層16は、積層体14に照射された光が、積層体14の内部で多重反射を生じる厚さである必要があり、具体的には、ハーフミラー層17と光干渉層16のそれぞれの厚さと屈折率とを乗じて加算した値が、照射する光の波長に対して1/4程度より厚いことが好ましい。さらに、ハーフミラー層17は、積層体14に照射された光が、積層体14の内部に侵入できる厚さである必要があり、具体的には、30nm以下の厚さであることが好ましい。また、水素ガス検知層15は、積層体14の内部に侵入した光を反射させるのに十分な厚さである必要があり、具体的には、20nm以上の厚さであることが好ましい。
【0025】
水素ガス検知層15に用いる材料としては、水素ガスと反応することで屈折率あるいは吸収係数等の光学特性が変化する材料であればいかなる材料を用いることも可能であるが、特に、水素ガスが接触することで、光学特性が大きく変化するPd(パラジウム)を主成分とする薄膜を用いるのが好ましい。さらにこの場合、Pdは、室温での水素ガスの吸蔵および放出特性を有するため、室温での動作が可能であり、かつ高い検知感度を有する水素ガスセンサを提供できるといった効果を奏する。
【0026】
光干渉層16に用いる材料としては、SiO(二酸化ケイ素),ZnO(酸化亜鉛),MgO(酸化マグネシウム),TiO(酸化チタン),AlN(窒化アルミニウム),MgF(弗化マグネシウム)等の一般的な透明酸化物、透明窒化物あるいは透明弗化物が挙げられ、光源11から照射される光の波長に対して、高い透過率を有することが好ましい。また、ハーフミラー層17に用いる材料としては、Ag(銀),Al(アルミニウム),Au(金),Cu(銅)等の金属やそれらを成分とする合金等からなる一般的な金属材料が挙げられ、光源11から照射される光の波長において、高い反射率を有することが好ましい。
【0027】
積層体14を構成する水素ガス検知層15、光干渉層16、あるいは、ハーフミラー層17の少なくとも一つに含有する磁性材料としては、Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル)等の金属や合金等、あるいは、Feを主成分とするフェライト等の酸化物といった一般的な磁性材料が挙げられるが、特に、CoPt(コバルト 白金)合金膜,FePt(鉄 白金)合金膜,Co/Pd(コバルト/パラジウム)多層膜,Co/Pt(コバルト/白金)多層膜等の垂直磁化膜であることが好ましい。この場合、積層体で発生する多重反射によって磁気光学信号を大きく増強できるため、水素ガスを高い感度で検知できるという効果を奏する。
【0028】
次に、本実施形態の光検知式水素ガスセンサ10および30による水素ガスの検知原理について図3を使って説明する。
【0029】
ここでは、前記検知素子13を構成する積層体14に、波長λの直線偏光の光を照射したときに、積層体14の内部での多重反射によって、積層体14から出射する光の偏光角の変化が最も大きくなる構成である場合について考える。
【0030】
前記構成の積層体14において、含有する磁性材料の磁化を一方向に飽和させた状態で直線偏光の光を照射した場合、図3(a)に示すように、照射された光は積層体14の内部での多重反射によって大きな磁気光学効果を受け、結果として、大きな偏光角(+θK1)を持って出射される。このとき、積層体14は、図3(c)に示すように、測定光の特定の波長(共鳴波長)において、磁気光学効果の符号が急峻に反転する磁気光学共鳴スペクトルを持つ。次に、この状態で、水素ガス検知層15に水素ガスが接触した場合、図3(b)に示すように、水素ガス検知層の屈折率あるいは吸収係数等の光学特性が変化することにより、積層体14での光の干渉状態が変化する。つまり、水素ガスの導入にともなって、磁気光学共鳴スペクトルは、例えば、図3(c)および図3(d)に示すように、長波長領域(同図で右方向)にシフトする。このとき、多重反射の影響は小さくなるため、結果として、出射された光の偏光角の大きさ(+θK2)は、水素ガスが無い初期状態に比較して小さくなる(θK1>θK2)。
【0031】
磁気光学共鳴スペクトルがシフトする大きさは、水素ガスの濃度に依存する。したがって、積層体14から反射される光の偏光角を示す磁気光学信号を計測することによって、水素ガスの濃度を検知することが可能となる。
【0032】
具体的には、図1に示すように、積層体14から出射された光を、光分割器12によって光検出器20の方向に導く。この時、光検出器20の前に所定の検出角に設定された偏光子19を配置することにより、偏光子19を透過する光の強度が、積層体14から出射された光の偏光角に応じて異なるため、偏光角の変化を示す磁気光学信号を光の強度における変化として計測でき、この計測結果に基づいて水素ガスの有無を光検出器20で検知することが可能となる。
【0033】
さらに、磁気光学信号の計測精度の向上を図る一つの手法として、図2に示すように、差動検出法を用いるのが有効である。この場合、偏光子19に替わって偏光ビーム分割器22が用いられる。積層体14からの反射光は、偏光ビーム分割器22を通過することでp偏光の光とs偏光の光の2つの光に分割される。分割されたそれぞれの光を2台の光検出器20および21で検出し、各光検出器20,21で検出された光の強度の差分を取ることで偏光角の変化を測定する。本手法では、特に、埃が光路に侵入した場合や、光源11から出射される光の強度が変動した場合にも、磁気光学信号を低いノイズで計測することができ、水素ガスの濃度を高精度で検知することが可能となる。
【0034】
また、以上のような光検知式水素ガスセンサ10,30においては、光源11から積層体14に照射する光の強度を周期的に変えて、光検出器20、あるいは、光検出器20および21で検出する磁気光学信号を周期的に変化させることで、同期検出あるいはフーリエ解析を行うことは、磁気光学信号のノイズ低減による検知感度の向上に有効である。
【0035】
なお、本実施形態においては、偏光角の減少を計測することで水素ガスを検知する場合について説明したが、これに限定されるものではない。異なる波長の光源を用いる、あるいは、積層体14を構成する各層の厚さや材料を変えることにより、水素ガス検知層15が水素ガスと接触することで、偏光角が増大する条件に設定することも可能である。
【0036】
[実施例1]
図4は、本実施形態の実施例1にかかる光検知式水素ガスセンサを構成する検知素子40を模式的に示す断面図、および、計算機シミュレーションによる特性図である。
【0037】
本実施例の検知素子40は、図4(a)に示すように、ハーフミラー層44と光干渉層43と水素ガス検知層42が、透明基板45の上に形成された積層体41によって構成される。具体的には、積層体41は、ハーフミラー層44として磁性材料である厚さが6nmのCoPt合金薄膜、光干渉層43として厚さが100nmのAl(酸化アルミニウム)薄膜、および、水素ガス検知層42として厚さが10~200nmのPd(パラジウム)薄膜が、ガラス基板の上にこの順番で積層された構造体により構成されている。
【0038】
図4(b)および図4(c)は、積層体41が形成されていない透明基板45の裏面から、検知素子40に光を照射したときの、積層体41の特性を示す計算機シミュレーションの結果である。図4(b)は、図3で示した磁気光学共鳴スペクトルにおいて、水素ガスを検知するPd薄膜の厚さを変えたときの、磁気光学効果の符号が反転する共鳴波長の変化の様子を示している。水素ガス検知層42の表面状態の影響を示す特性図であり、Pd層の厚さが20nm以上からは、共鳴波長に大きな変動は見られない。つまり、水素ガス検知層42の厚さを20nm以上とすることで、水素ガス検知層42の表面状態に起因する変動を低減でき、水素ガスを安定して検知することが可能となる。一例として、図4(c)に、厚さが100nmのPd層で構成された検知素子40において、Pd層の表面に炭素薄膜(C)を形成したときの、磁気光学特性への影響を示す。つまり、本計算機シミュレーションでは、検知素子40の表面での模擬的な汚染の要因として、炭素薄膜を形成した。炭素薄膜の厚さを0,10nm,20nm,30nm,50nmの場合を示しているが、この5つの場合においてシミュレーション結果が重なっており、磁気光学共鳴スペクトルに違いは見られず、本検知素子40は、表面汚染によって大きな影響を受けることはないことが推察できる。
【0039】
次に、図5は、厚さが100nmのPd層で構成された検知素子40による水素ガスの検知についての計算機シミュレーションによる特性図である。Pdは、水素ガスを吸蔵して光学特性(屈折率および吸収係数)が変化することが知られている。したがって、検知素子40が水素ガスに触れると、検知素子40の表面に形成されているPd層の光学特性が変化し、図2で説明したように、磁気光学共鳴スペクトルは、長波長領域(図5で右方向)にシフトする。図5(a)は、Pd層に吸蔵される水素ガスの濃度を0%,4%,10%,20%,40%,60%,100%に変化させたときの、積層体41の磁気光学共鳴スペクトルの変化を示している。磁気光学共鳴スペクトルのシフト量は、水素濃度に応じて変化するため、図5(b)に示すように、積層体41から反射される光(例えば、波長が610nm)の偏光角は、水素濃度の増加に応じて減少する。図1あるいは図2を使って説明した方法を用いて、検知素子40からの反射光の偏光角の変化を示す磁気光学信号を計測することで、水素ガスの濃度を検知することが可能である。
【0040】
なお、本実施例においては、積層体41を構成するハーフミラー層44が、金属磁性材料であるCoPt合金薄膜の場合について説明したが、これに限定されるものではない。ハーフミラー層44が、非磁性金属薄膜と磁性薄膜との積層膜で構成される場合や、光干渉層43の中に磁性微粒子が埋め込まれている場合など、水素ガス検知層42、光干渉層43あるいはハーフミラー層44の少なくとも一つが磁性材料を含有すれば、同様の手法を用いて、水素ガスを検知することが可能である。
【0041】
[第2の実施形態]
図6は、本発明の第2の実施形態にかかる光検知式水素ガスセンサ50を模式的に示す構成図である。図中の破線は光路であり、光検知式水素ガスセンサ50は、第1の実施形態と同様に、垂直入射光学系を基本とし、水素ガスを実際に検知する積層体14が形成されていない透明基板18の裏面から、かつ透明基板18に対して法線方向から光を照射することで、水素ガスを検知する。本実施形態では、光検知式水素ガスセンサ50は、直線偏光の光を積層体14に照射するための光源11と、透明基板18を介して積層体14から反射された光を光検出器20に導くための光分割器12と、積層体14での磁気光学効果による反射光の偏光角における変化を計測するための偏光子19と、偏光子19を透過した光の強度における変化を検出するための光検出器20と、磁場印加機構23によって構成される。したがって、本実施形態の光検知式水素ガスセンサ50は、磁場印加機構23を備えること以外は、図1で示した第1の実施形態と同様である。
【0042】
本実施形態の光検知式水素ガスセンサ50の検知素子13は、第1の実施形態の場合と同様に、透明基板18に、ハーフミラー層17と光干渉層16と水素ガス検知層15とをこの順番で積層した積層体14により構成され、さらに、ハーフミラー層17、光干渉層16、あるいは、水素ガス検知層15の少なくとも一つは磁性材料を含有する。そして、積層体14の構造ならびに積層体14を構成する各層の材料および厚さは、第1の実施形態の場合と同じ理由により、第1の実施形態の場合と同様であることが好ましい。
【0043】
本実施形態の光検知式水素ガスセンサ50においても、第1の実施形態と同様に、水素ガスとの接触による水素ガス検知層15の光学特性の変化を、積層体14から出射される光の変化を示す磁気光学信号として検出することにより、水素ガスを検知する。このとき、磁場印加機構23から発生する磁場を用いて、積層体14に含有する磁性材料の磁化の方向を周期的に変えることで、光検出器20で検出される磁気光学信号に変調を加えることが、第1の実施形態と異なっている。
【0044】
次に、本実施形態の光検知式水素ガスセンサ50による水素ガスの検知原理について図7を使って説明する。
【0045】
ここでは、前記検知素子13を構成する積層体14が、直線偏光の光を照射したときに、積層体14の内部での多重反射によって、反射される光の偏光角が最も大きくなる構成である場合について考える。
【0046】
前記構成の積層体14において、含有する磁性材料の磁化を一方向とすることが可能な所定の強度の磁場(+Hあるいは-H)を磁場印加機構23により印加した状態で直線偏光の光を照射した場合、図7(a)に示すように、照射された光は積層体14の内部での多重反射によって大きな磁気光学効果を受ける。結果として、印加する磁場の向きに応じて、符号が異なり、かつ大きな偏光角(+θK1あるいは-θK1)を持って出射される。次に、図7(b)に示すように、磁場(+Hあるいは-H)を印加した状態で、水素ガスが水素ガス検知層15に接触した場合、水素ガス検知層の屈折率あるいは吸収係数などの光学特性が変化することにより、積層体14での光の干渉条件が変化する。多重反射の影響は小さくなり、結果として、出射された光の偏光角の大きさ(|θK2|)は、水素ガスが無い初期状態に比較して小さくなる(|θK1|>|θK2|)。積層体14から出射される光の偏光角は、積層体14に含有する磁性材料の磁化の向き、および、水素ガスの有無によって異なるため、積層体14に印加する磁場の大きさと向きを変化させたときの磁気光学曲線は、それぞれ、図7(c)および図7(d)となる。
【0047】
したがって、磁場印加機構23により所定の強度で周期的に変化する磁場(±H)を積層体14に印加しながら、積層体14から出射された光の偏光角の変化を示す磁気光学信号を検出することにより、水素ガスの有無を検知することが可能となる。具体的には、積層体14から出射された光を、図6で示した光分割器12によって光検出器20の方向に導く。この時、光検出器20の前に所定の検出角で設定された偏光子19を配置することで、偏光子19を透過する光の強度は、積層体14から出射された光の偏光角に応じて異なるため、偏光角の変化を示す磁気光学信号を光の強度における変化として光検出器20で計測することが可能となる。
【0048】
さらに、この時、光検出器20で検出される磁気光学信号は、磁場印加機構23から積層体14に印加する磁場と同期して検出される。したがって、コイルに交流電流を流すなどして周期的に変化する磁場を用いて、同期検出あるいはフーリエ解析を行うことは、磁気光学信号のノイズ低減による検知感度の向上に有効である。
【0049】
以上のような光検知式水素ガスセンサ50において、検知精度をさらに向上する一つの手法として、第1の実施形態において図2を用いて説明したように、差動検出法を用いるのは有効である。この場合、偏光子19に替えて偏光ビーム分割器が用いられる。積層体14から出射された光は、偏光ビーム分割器を通過することでp偏光の光とs偏光の光の2つの光に分割される。分割されたそれぞれの光を2台の光検出器で検出し、各光検出器で検出された光の強度の差分を取ることで磁気光学信号を計測する。本手法では、光源11から出射される光の強度の変動に対して、特に、低いノイズでの検出が可能となり、水素ガスの検出精度をさらに高くすることが可能となる。
【0050】
[実施例2]
図8は、本実施形態の実施例2にかかる光検知式水素ガスセンサ50を構成する検知素子60を模式的に示す断面図である。
【0051】
本実施例の検知素子60は、透明基板66に、厚さが5nmのZnO薄膜からなる下地層65を形成し、その上に実際に水素ガスを検知する積層体61を形成している。積層体61は、ハーフミラー層64として磁性材料である厚さが5nmのCoPt合金薄膜、光干渉層63として厚さが75nmのZnO薄膜、さらに、水素ガス検知層62として厚さが25nmのPd薄膜が、透明基板66であるガラス基板の上にこの順番で積層された構造体により構成されている。さらに、積層体61が形成されていない透明基板66の裏面には、透明基板66から反射される光を小さくするため、反射防止膜67が形成されている。反射防止膜67は、高屈折率層68として厚さが122nmのZnO薄膜と、低屈折率層として厚さが92nmのSiO薄膜が、ガラス基板の上にこの順番で積層された構造体により構成されている。
【0052】
図9は、この検知素子60を用いて、実際に、窒素と4%水素との混合ガスを検知した実験結果である。磁気光学信号を計測する光源11としては、波長が658nmの半導体レーザを使用し、偏光子を透過させることで直線偏光とした光を、反射防止膜67が形成されているガラス基板の裏面から、かつガラス基板に対して法線方向から検知素子60に照射した。図9(a)は、左側が窒素ガス雰囲気、右側が4%水素混合ガス雰囲気において、印加する磁場を-2.0kOe(図7で下向き方向)から+2.0kOe(図7で上向き方向)まで変化させたときの、検知素子60の磁気光学効果の特性図である。検知素子60からの反射光の偏光角は、積層体61を構成するCoPt磁性金属層の磁化の方向に応じて、変化している。そして、検知素子60が、水素ガスと接触することで、水素ガス検知層62であるPdの光学特性が変化し、積層体61での多重反射の状態が変わり、結果として、検知素子60から出射される光の偏光角の変化量は小さくなっている。
【0053】
さらに、図9(b)は、検知素子に、-1.5kOeおよび+1.5kOeの強度のパルス磁場を交互に印加した状態で、時系列的に、純窒素ガスと、窒素と4%水素との混合ガスを交互に流した時の、検知素子60から出射される光の偏光角の大きさの変化を示している。図9(a)からも分かるように、積層体を構成するCoPt合金薄膜の磁化方向は、印加する磁場の符号に応じて、上向きもしくは下向きのどちらか一方向となる。図9(b)では、水素ガスの導入および遮断に応じた磁気光学信号が観測でき、検知素子60が、実際に、水素ガスセンサとして機能することが確認できる。
【0054】
[第3の実施形態]
図10は、本発明の第3の実施形態にかかる光検知式水素ガスセンサ70を模式的に示す構成図である。図中の破線は光路であり、光検知式水素ガスセンサ70は、斜入射光学系を基本とし、水素ガスを実際に検知する積層体14が形成されていない透明基板18の裏面から、プリズム24を介して斜め方向から光を照射することで、水素ガスを検知する。本実施形態では、光検知式水素ガスセンサ70は、検知素子13に、プリズム24を介して、直線偏光の光を斜め方向から照射するための光源11と、検知素子13から出射される光の偏光角における変化を計測するための偏光ビーム分割器22と、偏光ビーム分割器22を透過した光の強度における変化を検出するための光検出器20および21によって構成される。したがって、本実施形態の光検知式水素ガスセンサ70は、プリズム24を用いて検知素子13に斜め方向から光を照射すること以外は、図2に示した第1の実施形態と同様である。
【0055】
本実施形態の光検知式水素ガスセンサ70の検知素子13は、第1および第2の実施形態の場合と同様に、透明基板18に、ハーフミラー層17と光干渉層16と水素ガス検知層15とをこの順番で積層した積層体14により構成され、さらに、ハーフミラー層17、光干渉層16、あるいは、水素ガス検知層15の少なくとも一つは磁性材料を含有する。そして、積層体14の構造ならびに積層体14を構成する各層の材料および厚さは、第1および第2の実施形態の場合と同じ理由により、第1および第2の実施形態の場合と同様であることが好ましい。
【0056】
本実施形態の光検知式水素ガスセンサ70においても、図3を用いて説明した第1の実施形態と同様に、水素ガスとの接触による水素ガス検知層15の光学特性の変化を、検知素子から出射される光の変化を示す磁気光学信号として検出することにより、水素ガスを検知する。具体的には、プリズム24を介して積層体14からの反射光を、偏光ビーム分割器22によってp偏光の光とs偏光の光の2つの光に分割し、分割されたそれぞれの光を2台の光検出器20および21で検出し、各光検出器20,21で検出された光の強度の差分を取ることで偏光角の変化を計測する。
【0057】
以上のような光検知式水素ガスセンサ70において、検知精度をさらに向上する一つの手法として、第2の実施形態で説明したように、コイル等を用いて積層体14に含有する磁性材料の磁化の方向を変えることで、磁気光学信号に変調を加えることは有効である。また、光源11から積層体14に照射する光の強度を周期的に変化させて、光検出器20および21で検出する磁気光学信号に変調を加えることも有効であり、同期検出あるいはフーリエ解析を行うことは、第1および第2の実施形態と同様に、磁気光学信号のノイズ低減による検知感度のさらなる向上に有効である。
【0058】
[実施例3]
図11は、本実施形態の実施例3にかかる光検知式水素ガスセンサ70を構成する検知素子80を模式的に示す断面図である。
【0059】
本実施例の検知素子80は、透明基板89に、厚さが30nmのZnO薄膜からなる下地層88を形成し、その上に実際に水素ガスを検知する積層体81を形成している。積層体81は、ハーフミラー層87として厚さが8nmのAg薄膜、光干渉層83として[ZnO/CoPt/Al]積層薄膜、さらに、水素ガス検知層82として厚さが200nmのPd-Cu-Si合金薄膜が、透明基板89であるガラス基板の上にこの順番で積層された構造体により構成されている。光干渉層83は、誘電体層86である厚さが3nmのZnO薄膜と、他の誘電体層84である厚さが148nmのAl薄膜との間に、磁性層85である厚さが3nmのCoPt薄膜が挿入された積層膜により構成されている。つまり、本実施例では、積層体81を構成する光干渉層83が磁性材料を含有する。そして、積層体81が形成されていない透明基板89の裏面には、透明基板89から反射される光を小さくするために、光学結合オイル90を用いてプリズム91が光学結合されている。光学結合オイル90は、透明基板89とプリズム91との界面での光の反射を低減するものである。
【0060】
図12は、検知素子80を用いて、実際に、窒素と4%水素との混合ガスを検知した実験結果である。磁気光学信号を計測する光源11としては、波長が658nmの半導体レーザを使用し、偏光子を透過させることで直線偏光とした光を、プリズム91を介してガラス基板の裏面から、かつ法線方向から45度の角度で検知素子80に照射した。図12(a)は、窒素ガス雰囲気、および、4%水素混合ガス雰囲気において、印加する磁場を-1.2kOe(図11で下向き方向)から+1.2kOe(図11で上向き方向)まで変化させたときの、検知素子80の磁気光学効果の特性図である。水素ガス検知層82が、水素ガスと接触することで、積層体81での多重反射の条件が変化し、結果として、検知素子80から出射される光の偏光角の変化量が大きくなっていることが分かる。
【0061】
さらに、図12(b)は、検知素子80に、磁場を印加していない状態で、純窒素ガス雰囲気から、窒素と4%水素との混合ガス雰囲気に変えた時の、反射光の偏光角の変化を示している。水素ガスの導入および遮断に応じた磁気光学信号が観測でき、検知素子80が、実際に、水素ガスセンサとして機能することが確認できる。
【0062】
なお、本実施例では、偏光角の増加を計測することで水素ガスを検知する場合について説明したが、これに限定されるものではない。異なる波長の光源を用いる、あるいは、積層体81を構成する各層の厚さを調整あるいは材料を選定することで、実施例1あるいは実施例2と同様に、水素ガス検知層83が水素ガスと接触することで、偏光角が減少する条件に設定することも可能である。
【0063】
以上、第1、第2および第3の実施形態および実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、磁場印加機構を用いて積層体に印加する磁場の方向は、磁性材料を含有する積層体の表面に対して垂直方向としているが、これに限定されるものではない。積層体に照射した光が、多重反射によって磁気光学信号の増強が生じる条件であれば、積層体の表面に対して水平方向としてもよく、この場合、積層体に含有する磁性材料としては、面内方向に磁化容易軸を持つFe,Co,Ni、あるいは、これらの合金などを用いるのが好ましい。さらに、本発明では、磁気光学信号として、直線偏光の光を磁性材料に照射した場合に生じる偏光角の変化を用いて説明したが、これに限定されるものではない。直線偏光あるいは円偏光の光を磁性材料に照射した場合に生じる、反射光の強度の変化あるいは楕円率の変化といった、他の磁気光学信号を用いることも可能である。また、本発明では、透明基板としてガラス基板を用いて説明したが、これに限定されるものではない。計測に用いる光に対して透明であれば他の材料の基板を用いることも可能であり、例えば、赤外領域の光源を用いる場合には、SiやGaAsといった半導体基板を使用することも可能である。さらに、光源から検知素子に光を照射、および、検知素子からの反射光を光検出器に導く方法として、複数本の光プローブで構成された光ファイバ反射プローブを用いることも可能である。この場合、光プローブの先端に検知素子を直接形成した構成とすることも可能である。
【0064】
上記実施形態では、光検知式化学センサの一例として光検知式水素ガスセンサを挙げて説明したが、本発明の光検知式化学センサは、光検知式水素ガスセンサに限るものではなく、例えば、pHを検知する光検知式イオンセンサ、ガスを検知する光検知式ガスセンサ、DNA、酵素を検知する光検知式バイオセンサにも適用可能である。このように、pHを検知する光検知式イオンセンサ、ガスを検知する光検知式ガスセンサ、DNA、酵素を検知する光検知式バイオセンサにも適用しても上記実施形態と同様な効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明にかかる光検知式化学センサは、水素、酸素、二酸化炭素、塩素、窒素酸化物等のガスの濃度の計測や、漏洩を検知するガスセンサ、pHを検知するイオンセンサ、及びDNAや酵素等を検知するバイオセンサとして利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
10、30、50、70 光検知式水素ガスセンサ
11 光源
12 光分割器
13、40、60、80 検知素子
14、41、61、81 積層体
15、42、62、82 水素ガス検知層
16、43、63、83 光干渉層
17、44、64、87 ハーフミラー層
18、45、66、89 透明基板
19 偏光子
20、21 光検出器
22 偏光ビーム分割器
23 磁場印加機構
24、91 プリズム
65、88 下地層
67 反射防止膜
68 高屈折率層
69 低屈折率層
84、86 誘電体層
85 磁性層
90 光学結合オイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12