(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】半月板インプラント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/38 20060101AFI20240513BHJP
【FI】
A61F2/38
(21)【出願番号】P 2022551998
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034616
(87)【国際公開番号】W WO2022065312
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2020159865
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名:IEEE Access(Volume:7)、第140084頁-140101頁 発行日 :2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515126721
【氏名又は名称】シンガポール・ユニバーシティ・オブ・テクノロジー・アンド・デザイン
【氏名又は名称原語表記】Singapore University of Technology and Design
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山子 剛
(72)【発明者】
【氏名】帖佐 悦男
(72)【発明者】
【氏名】スリラム,ドゥライサミ
(72)【発明者】
【氏名】サブラジ,カルパサミー
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-514612(JP,A)
【文献】特開平02-195955(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0202672(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0060834(US,A1)
【文献】国際公開第2019/200235(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有するシェルと、該シェルよりも高い剛性を有するコアとを備えた半月板インプラントであって、
前記シェルは、ヒトの半月板の解剖学的形状に成形され、
前記コアは、前記シェルに埋設され、前記解剖学的形状に合わせた湾曲形状を有し、
前記シェルは、前端部と後端部に前記コアが埋設されていない非補強部を有
し、
前記コアの前記湾曲形状の径方向における寸法は、該径方向における前記シェルの寸法の半分以下である、
ことを特徴とする半月板インプラント。
【請求項2】
前記シェルおよび前記コアの素材は、生体適合性高分子材料であり、
前記コアのヤング率は、前記シェルのヤング率の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の半月板インプラント。
【請求項3】
前記シェルのヤング率は、11[MPa]であり、前記コアのヤング率は17[MPa]であることを特徴とする請求項2に記載の半月板インプラント。
【請求項4】
前記シェルは、前端から後端へ向けて前角、前節、中節、後節、および後角を有し、
前記コアは、前記前節から前記後節まで前記シェルの中心部に埋設され、
前記非補強部は、前記前角と前記後角を含むことを特徴とする請求項1に記載の半月板インプラント。
【請求項5】
前記コアは、前記径方向における寸法が均一な円弧状の形状を有していることを特徴とする請求項
1に記載の半月板インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半月板インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半月板プロテーゼに関する発明が知られている(下記特許文献1)。特許文献1に記載された半月板プロテーゼは、補強部分を含む主要部および固定部分を含む2つの端部を有する弧状半月板プロテーゼ本体を含む(同要約、請求項1、第0011段落、
図1等)。
【0003】
弧状半月板プロテーゼ本体の主要部は、2つの端部間に延在する第1の生体適合性の非吸収性材料から形成された部分を含む。補強部分および固定部分は、第2の生体適合性の非吸収性材料から形成される。補強部分は、固定部分間に延在する。固定部分は、貫通孔を有している。第1の生体適合性の非吸収性材料は、ISO527-1によって決定される最大でも100MPaの引張係数を有する。また、第2の生体適合性の非吸収性材料は、ISO527-1によって決定される少なくとも101MPaの引張係数を有している。
【0004】
この従来の半月板プロテーゼの利点は、半月板プロテーゼが植え込まれた後にこのプロテーゼに対する応力および膝関節の荷重に耐えるのに十分な強度であり、かつ膝関節の周囲軟骨の損傷を防止するのに十分な柔軟性であることである(同第0012段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された半月板プロテーゼは、弧状半月板プロテーゼ本体の前端と後端に固定部分が設けられ、補強部分は固定部間に延在している。このような構成の半月板プロテーゼを埋め込んだ膝関節では、内側コンパートメントの接触応力が十分に低下せず、半月板に損傷がないときの脛骨回転運動の再現性が低下するおそれがある。
【0007】
本開示は、膝関節の内側コンパートメントの接触応力を低下させ、半月板に損傷がないときの脛骨回転運動の再現性を向上させることが可能な半月板インプラントを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、柔軟性を有するシェルと、該シェルよりも高い剛性を有するコアとを備えた半月板インプラントであって、前記シェルは、ヒトの半月板の解剖学的形状に成形され、前記コアは、前記シェルに埋設され、前記解剖学的形状に合わせた湾曲形状を有し、前記シェルは、前端部と後端部に前記コアが埋設されていない非補強部を有することを特徴とする半月板インプラントである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、膝関節の内側コンパートメントの接触応力を低下させ、半月板に損傷がないときの脛骨回転運動の再現性を向上させることが可能な半月板インプラントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の半月板インプラントの一実施形態を示す上面図。
【
図2】
図1の半月板インプラントのコアを示す上面図。
【
図3A】ヒトの膝関節のMRIに基づく3Dモデル。
【
図3B】ヒトの膝関節の6自由度の運動を示す斜視図。
【
図4A】歩行周期全体における脛骨内側プラトーのピーク接触圧。
【
図4B】歩行周期の立脚期における脛骨内側軟骨の接触圧の分布。
【
図4C】歩行周期全体における脛骨内側軟骨のピーク圧縮応力。
【
図4D】歩行周期の立脚期における脛骨内側軟骨表面の最小主応力の分布。
【
図4E】歩行周期全体における脛骨内側軟骨表面のピークせん断応力。
【
図4F】歩行周期の立脚期における脛骨内側軟骨表面のせん断応力の分布。
【
図4G】歩行周期全体における脛骨内側プラトーの総接触面積。
【
図5A】歩行周期全体における脛骨外側プラトーのピーク接触圧。
【
図5B】歩行周期の立脚期における脛骨外側軟骨の接触圧の分布。
【
図5C】歩行周期全体における脛骨外側軟骨のピーク圧縮応力。
【
図5D】歩行周期の立脚期における脛骨外側軟骨表面の最小主応力の分布。
【
図5E】歩行周期全体における脛骨外側軟骨表面のピークせん断応力。
【
図5F】歩行周期の立脚期における脛骨外側軟骨表面のせん断応力の分布。
【
図5G】歩行周期全体における脛骨外側プラトーの総接触面積。
【
図6A】歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の前-後並進運動。
【
図6B】歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の上-下並進運動。
【
図6C】歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の内側-外側並進運動。
【
図6D】歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の外反-内反回転運動。
【
図6E】歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の外-内回転運動。
【
図6F】歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の屈曲-伸展回転運動。
【
図7】複合半月板インプラントの製造方法の一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本開示の複合半月板インプラントの実施形態を説明する。
【0012】
図1は、本開示の半月板インプラントの一実施形態を示す上面図である。
図2は、
図1の半月板インプラント1のコア3を示す上面図である。
【0013】
本実施形態の半月板インプラント1は、たとえば、患者の損傷した半月板に置き換えられ、患者の膝関節に埋め込まれる人工半月板インプラントである。本実施形態の半月板インプラント1は、柔軟性を有するシェル2と、そのシェル2よりも高い剛性を有するコア3とを備えた複合半月板インプラントである。
【0014】
シェル2は、ヒトの半月板の解剖学的形状に成形されている。具体的には、たとえば、膝の病気や怪我の既往のない骨格的に成熟した健康なボランティアの膝の磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging:MRI)に基づいて、膝関節の3次元(3D)モデルを作成した。
【0015】
図3Aは、MRIに基づいて作成したヒトの膝関節KJの3Dモデルである。
図3Bは、ヒトの膝関節KJの6自由度の運動を示す斜視図である。
【0016】
膝関節KJは、たとえば、大腿骨FEと、脛骨TIと、腓骨FIと、膝蓋骨PAと、大腿軟骨FCと、脛骨外側軟骨LTCと、膝蓋軟骨PCと、脛骨内側軟骨MTCと、外側半月板LMと、内側半月板MMと、を含んでいる。また、膝関節KJは、四頭筋腱QTと、膝蓋腱PTと、外側側副靱帯LCLと、内側側副靱帯MCLと、前十字靱帯ACLと、後十字靱帯PCLと、図示を省略する前外側靭帯と、を含む。
【0017】
膝関節KJは、
図3Bに示すように、非直交関節座標系による6自由度の運動が可能である。より具体的には、膝関節KJは、前-後並進APT、上-下並進SIT、内側-外側並進MLT、外反-内反回転VVR、外-内回転EIR、屈曲-伸展回転FERの6自由度の運動が可能である。詳細については後述するが、本実施形態の半月板インプラント1は、損傷した内側半月板MM(または外側半月板LM)に置き換えて膝関節KJに埋め込まれる。これにより、本実施形態の半月板インプラント1は、膝関節KJの運動状態を、内側半月板MM(または外側半月板LM)に損傷のない元の膝関節KJに近い運動状態に回復させることが可能である。
【0018】
シェル2は、たとえば、
図3Aに示すような3Dモデルに基づいて、ヒトの膝関節KJの内側半月板MMの解剖学的形状に成形されている。なお、シェル2は、たとえば、外側半月板LMの解剖学的形状に成形されてもよい。より具体的には、
図3Aに示すような膝関節KJの3Dモデルから内側半月板MMまたは外側半月板LMの3D形状データを取得し、その3D形状データに基づいて金型を製作し、その金型にシェル2の材料を流し込んで成形する。
【0019】
これにより、シェル2を、内側半月板MMまたは外側半月板LMの解剖学的形状に成形することができる。シェル2の素材としては、たとえば、生体適合性高分子材料を用いることができる。生体適合性高分子材料としては、たとえば、ポリカーボネートウレタンを使用することができる。シェル2のヤング率は、たとえば、約11[MPa]程度に設定することができる。
【0020】
図1に示す例において、シェル2は、たとえば、内側半月板MMの解剖学的形状に成形され、前端から後端へ向けて前角21、前節22、中節23、後節24、および後角25を有している。シェル2は、前端部と後端部にコア3が埋設されていない非補強部20を有している。
図1に示す例において、シェル2の非補強部20は、シェル2の前角21と後角25を含んでいる。
【0021】
また、
図1に示す例において、シェル2は、前側の幅W2aよりも、後側の幅W2pが広く、後側の幅W2pよりも前後方向の長さL2が大きい。また、シェル2は、前後方向の長さL2と比較して厚みT2が小さい細長い半円弧状の形状を有している。特に限定はされないが、シェル2は、たとえば、厚みT2が約5.2[mm]前後であり、長さL2が約38[mm]前後であり、前側の幅W2aが約20.3[mm]前後であり、後側の幅W2pが約21.6[mm]前後である。また、シェル2の厚みT2および長さL2に直交する方向の高さは、たとえば、約4.6[mm]前後である。
【0022】
コア3は、シェル2に埋設され、ヒトの半月板の解剖学的形状に合わせた湾曲形状を有している。
図1に示す例において、コア3は、内側半月板MMの解剖学的形状に合わせた円弧状または楕円弧状の形状を有している。コア3の素材は、たとえば、シェル2と同様の生体適合性高分子材料である。コア3のヤング率は、シェル2のヤング率の1.5倍以上である。前述のように、シェル2のヤング率が約11[MPa]である場合、コア3のヤング率は、たとえば、約17[MPa]に設定することができる。
【0023】
コア3は、シェル2の前端部と後端部を除く部分に埋設されている。
図1に示す例において、コア3は、シェル2の前角21と後角25を除き、前節22から後節24までシェル2の中心部に埋設されている。
図1に示す例において、コア3はシェル2の内部に完全に埋設され、コア3の表面が2の表面に露出していない。コア3は、たとえばインサート成形によってシェル2の内部に埋設される。
【0024】
図1および
図2に示す例において、コア3の湾曲形状の径方向における寸法T3は、たとえば、その径方向におけるシェル2の寸法T2の半分以下である。コア3は、たとえば、湾曲形状の径方向における寸法である厚みT3が均一な円弧状の形状を有している。
図2に示す例において、コア3は、横方向における幅W3よりも前後方向における長さL3が大きく、前後方向の長さL3と比較して厚みT3が小さい細長い部分円弧状の形状を有している。
【0025】
特に限定はされないが、
図2に示す例において、コア3は、たとえば、厚みT3が約2[mm]前後であり、長さL3が約31[mm]前後であり、幅W3が約9.5[mm]前後である。また、コア3の厚みT3および長さL3に直交する方向の高さは、たとえば、約1[mm]前後である。コア3の高さは、たとえば、シェル2の高さの1/4以下である。コア3は、シェル2の厚みT2および高さに沿う断面において、たとえば、シェル2の中心部に埋設することができる。
【0026】
以下、本実施形態の半月板インプラント1の作用を説明する。
【0027】
まず、
図3Aに示すように、膝関節KJのMRIから3Dモデルを作成した。さらに、この3Dモデルを用いて、有限要素法に基づく膝関節KJの有限要素モデルを作成した。有限要素モデルの詳細については、学会誌(Duraisamy Shriram, Go Yamako, Etsuo Chosa, and Karupppasamy Subburaj, “Biomechanical Evaluation of Isotropic and Shell-Core Composite Meniscal Implants for Total Meniscus Replacement: A Nonlinear Finite Element Study,” IEEE Access, 2019.)に示されている。
【0028】
ここでは、次の5種類の膝関節KJの有限要素モデルを作成した。(i)内側半月板MMに損傷のない膝関節KJの有限要素モデル。(ii)内側半月板MMの後根断裂を伴う膝関節KJの有限要素モデル。(iii)内側半月板MMを除去する内側半月板切除術を施した膝関節KJの有限要素モデル。(iv)内側半月板MMが等方性半月板インプラントに置換された膝関節KJの有限要素モデル。(v)内側半月板MMが本実施形態の半月板インプラント1に置換された膝関節KJの有限要素モデル。
【0029】
なお、上記(iv)の膝関節KJの有限要素モデルに含まれる等方性半月板インプラントは、内側半月板MMの解剖学的形状を有するが、本実施形態の半月板インプラント1のようなコア3を有しない、シェル2のみの半月板インプラントである。これに対し、上記(v)の膝関節KJの有限要素モデルに含まれる本実施形態の半月板インプラント1は、柔軟性を有するシェル2と、そのシェル2よりも高い剛性を有するコア3とを備えた複合半月板インプラントである。
【0030】
図4A~
図4Gは、上記(i)から(v)までの膝関節KJの有限要素モデルに基づく膝関節KJの内側コンパートメントの生物力学の比較である。
図5A~
図5Gは、上記(i)から(v)までの膝関節KJの有限要素モデルに基づく膝関節KJの外側コンパートメントの生物力学の比較である。
図6A~
図6Fは、上記(i)から(v)までの膝関節KJの有限要素モデルに基づく歩行周期全体の大腿骨FEに対する脛骨TIの6自由度の運動状態を示すグラフである。
【0031】
図4A、
図4C、
図4E、および
図4G、ならびに、
図5A、
図5C、
図5E、および
図5G、ならびに、
図6A~
図6Aにおいて、実線は、上記(i)の内側半月板MMに損傷のない膝関節KJの有限要素モデルの結果である。また、破線は、上記(ii)の内側半月板MMの後根断裂を伴う膝関節KJの有限要素モデルの結果であり、点線は、上記(iii)の内側半月板切除術を施した膝関節KJの有限要素モデルの結果である。また、二点鎖線は、上記(iv)の等方性半月板インプラントを含む膝関節KJの有限要素モデルの結果であり、一点鎖線は、上記(v)の本実施形態の半月板インプラント1を含む膝関節KJの有限要素モデルの結果である。
【0032】
まず、
図4Aに示す歩行周期全体における脛骨内側プラトーのピーク接触圧について説明する。内側半月板MMの後根断裂を伴う上記(ii)の膝関節KJと、内側半月板切除術を施した上記(iii)の膝関節KJにおいて、脛骨内側プラトーのピーク接触圧は、内側半月板MMに損傷のない上記(i)の膝関節KJと比較して増加した。より具体的には、
図4Aに示す第1ピークP1において、上記(ii)と(iii)の膝関節KJのピーク接触圧は、上記(i)の膝関節KJと比較して、それぞれ、15[%]と12[%]の比率で増加した。また、
図4Aに示す第2ピークP2において、上記(ii)と(iii)の膝関節KJのピーク接触圧は、上記(i)の膝関節KJと比較して、双方とも18[%]の比率で増加した。
【0033】
また、
図4Cと
図4Eにそれぞれ示すように、歩行周期全体における脛骨内側軟骨のピーク圧縮応力と脛骨内側軟骨表面のピークせん断応力を参照すると、これらピーク圧縮応力とピークせん断応力においても、
図4Aに示すピーク接触圧と同様の傾向が見られた。
【0034】
また、
図4B、
図4D、
図4Fにそれぞれ示す、脛骨内側軟骨の接触圧の分布と、脛骨内側軟骨表面の最小主応力の分布と、脛骨内側軟骨表面のせん断応力の分布を参照する。なお、これらの各図では、歩行周期の立脚期の25%に対応する第1ピークP1における分布を上に示し、歩行周期の立脚期の80%に対応する第2ピークP2における分布を下に示している。上記(i)の膝関節KJは、接触応力を広い表面積に分散した。しかし、上記(ii)と(iii)の膝関節KJは、脛骨内側プラトーの前脛骨領域における接触面積が減少し、より高い接触応力の軟骨ノードの数を増加させた。
【0035】
また、
図4Gに示す歩行周期全体における脛骨内側プラトーの総接触面積を参照すると、上記(ii)と(iii)の膝関節KJは、上記(i)の膝関節KJと比較して脛骨内側プラトーの総接触面積が減少した。より具体的には、第1ピークP1において、上記(ii)と(iii)の膝関節KJは、上記(i)の膝関節KJと比較して、それぞれ、61[%]と63[%]の比率で脛骨内側プラトーの総接触面積が減少した。また、第2ピークP2において、上記(ii)と(iii)の膝関節KJは、上記(i)の膝関節KJと比較して、それぞれ、42[%]と61[%]の比率で脛骨内側プラトーの総接触面積が減少した。
【0036】
一方、等方性半月板インプラントを含む上記(iv)の膝関節KJと、本実施形態の半月板インプラント1を含む上記(v)の膝関節KJは、
図4Aから
図4Gに示すように、内側コンパートメントの接触力学を上記(i)の膝関節KJと同様の接触力学に回復させた。また、
図4Aに示すように、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、上記(iii)の膝関節KJと比較して、ピーク接触圧を減少させた。
【0037】
具体的には、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、第1ピークP1において、上記(iii)の膝関節KJと比較して、それぞれ10[%]と18[%]の比率でピーク接触圧を減少させた。また、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、第2ピークP2において、上記(iii)の膝関節KJと比較して、それぞれ21[%]と30[%]の比率でピーク接触圧を減少させた。また、
図4Cおよび
図4Eに示すピーク圧縮応力およびピークせん断応力でも、
図4Aに示すピーク接触圧と同じ傾向が見られた。
【0038】
また、
図4Gに示すように、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、上記(iii)の膝関節KJと比較して、脛骨内側プラトーの総接触面積を増加させた。具体的には、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、第1ピークP1において、上記(iii)の膝関節KJと比較して、それぞれ40[%]と42[%]の比率で脛骨内側プラトーの総接触面積を増加させた。また、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、第2ピークP2において、上記(iii)の膝関節KJと比較して、それぞれ33[%]と38[%]の比率で脛骨内側プラトーの総接触面積を増加させた。
【0039】
次に、
図5Aに示す歩行周期全体における脛骨外側プラトーのピーク接触圧について説明する。内側半月板MMの後根断裂を伴う上記(ii)の膝関節KJと、内側半月板切除術を施した上記(iii)の膝関節KJにおいて、脛骨外側プラトーのピーク接触圧は、内側半月板MMに損傷のない上記(i)の膝関節KJと比較して増加した。より具体的には、
図5Aに示す第1ピークP1において、上記(ii)と(iii)の膝関節KJのピーク接触圧は、上記(i)の膝関節KJと比較して、それぞれ、35[%]と43[%]の比率で増加した。また、
図5Aに示す第2ピークP2において、上記(ii)と(iii)の膝関節KJのピーク接触圧は、上記(i)の膝関節KJと比較して、それぞれ、42[%]と53[%]の比率で増加した。
【0040】
また、
図5Cと
図5Eにそれぞれ示すように、歩行周期全体における脛骨外側軟骨のピーク圧縮応力と脛骨外側軟骨表面のピークせん断応力を参照すると、これらピーク圧縮応力とピークせん断応力においても、
図5Aに示すピーク接触圧と同様の傾向が見られた。
【0041】
また、
図5B、
図5D、
図5Fにそれぞれ示す、脛骨外側軟骨の接触圧の分布と、脛骨外側軟骨表面の最小主応力の分布と、脛骨外側軟骨表面のせん断応力の分布を参照する。なお、これらの各図では、歩行周期の立脚期の25%に対応する第1ピークP1における分布を上に示し、歩行周期の立脚期の80%に対応する第2ピークP2における分布を下に示している。上記(ii)と(iii)の膝関節KJは、上記(i)の膝関節KJと比較して、脛骨外側プラトーの接触面積が減少し、より高い接触応力の軟骨ノードの数を増加させた。
【0042】
また、
図5Gに示す歩行周期全体における脛骨外側プラトーの総接触面積を参照すると、上記(ii)の膝関節KJ(破線)と上記(iii)の膝関節KJは、上記(i)の膝関節KJと比較して脛骨外側プラトーの総接触面積が減少した。より具体的には、第1ピークP1において、上記(ii)と(iii)の膝関節KJは、上記(i)の膝関節KJと比較して、それぞれ、20[%]と24[%]の比率で脛骨外側プラトーの総接触面積が減少した。また、第2ピークP2において、上記(ii)と(iii)の膝関節KJは、上記(i)の膝関節KJと比較して、それぞれ、43[%]と56[%]の比率で脛骨外側プラトーの総接触面積が減少した。
【0043】
一方、等方性半月板インプラントを含む上記(iv)の膝関節KJと、本実施形態の半月板インプラント1を含む上記(v)の膝関節KJは、
図5Aから
図5Gに示すように、内側コンパートメントの接触力学を大幅に改善させた。また、
図5Aに示すように、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、上記(iii)の膝関節KJと比較して、ピーク接触圧を減少させた。
【0044】
具体的には、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、第1ピークP1において、上記(iii)の膝関節KJと比較して、それぞれ42[%]と31[%]の比率でピーク接触圧を減少させた。また、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、第2ピークP2において、上記(iii)の膝関節KJと比較して、それぞれ26[%]と13[%]の比率でピーク接触圧を減少させた。また、
図5Cおよび
図5Eに示すピーク圧縮応力およびピークせん断応力でも、
図5Aに示すピーク接触圧と同じ傾向が見られた。
【0045】
また、
図5B、
図5D、
図5F、
図5Gに示すように、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、上記(iii)の膝関節KJと比較して、脛骨外側プラトーの総接触面積を増加させ、接触応力が高い軟骨ノードを減少させた。具体的には、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、第1ピークP1において、上記(iii)の膝関節KJと比較して、それぞれ22[%]と16[%]の比率で脛骨外側プラトーの総接触面積を増加させた。また、上記(iv)と(v)の膝関節KJは、第2ピークP2において、上記(iii)の膝関節KJと比較して、それぞれ94[%]と83[%]の比率で脛骨内側プラトーの総接触面積を増加させた。
【0046】
次に、
図6A~
図6Fに示す歩行周期全体の大腿骨FEに対する脛骨TIの6自由度の運動状態を示すグラフを説明する。
【0047】
まず、
図6Aに示す歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の前-後並進APTの運動を参照すると、上記(iv)および(v)の膝関節KJは、上記(ii)および(iii)の膝関節KJと比較して、上記(i)の膝関節KJに近い運動状態に回復している。上記(ii)および(iii)の膝関節KJの前-後並進APTの運動は、上記(i)の膝関節KJの前-後並進APTの運動と比較して、それぞれ、最大2.8[mm]および8.1[mm]の増加をもたらした。この変化は、歩行周期の荷重応答期、立脚中期、遊脚終期で顕著であった。
【0048】
次に、
図6Bに示す歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の上-下並進SITの運動を参照すると、歩行周期の立脚期において、上記(i)から(v)のすべての膝関節KJで同様の運動状態であった。
【0049】
また、
図6Cに示す歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の内側-外側並進MLTの運動を参照すると、上記(ii)および(iii)の膝関節KJにおいて、上記(i)の膝関節KJと比較して、それぞれ、最大8[mm]および8.6[mm]の増加をもたらした。この変化は、歩行周期のすべての段階で顕著であった。これに対し、上記(iv)および(v)の膝関節KJは、大腿骨に関する脛骨の内側-外側並進MLTの運動を、上記(i)の膝関節KJに近い運動状態に回復させている。
【0050】
また、
図6Aから
図6Cに示すように、上記(iv)および(v)の膝関節KJの大腿骨に関する脛骨の並進運動の範囲は、上記(i)の膝関節KJの大腿骨に関する脛骨の並進運動の範囲に近似している。また、
図6Aから
図6Cに示す大腿骨に関する脛骨の並進運動は、本実施形態の半月板インプラント1を含む上記(v)の膝関節KJにおいて、内側半月板MMに損傷のない上記(i)の膝関節KJと最も合致している。
【0051】
次に、
図6Dに示す歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の外反-内反回転VVRの運動を参照すると、上記(ii)および(iii)の膝関節KJは、上記(i)の膝関節KJと比較して、それぞれ、最大3.5[deg]および3.9[deg]の増加をもたらした。この変化は、歩行周期の立脚終期および遊脚期に顕著であった。これに対し、上記(iv)および(v)の膝関節KJは、大腿骨に関する脛骨の外反-内反回転VVRの運動を、上記(i)の膝関節KJに近い運動状態に回復させている。
【0052】
次に、
図6Eに示す歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の外-内回転EIRの運動を参照すると、上記(ii)および(iii)の膝関節KJは、上記(i)の膝関節KJと比較して、それぞれ、最大12[deg]および17[deg]の増加をもたらした。この変化は、歩行周期の立脚期と遊脚終期に顕著であった。上記(ii)および(iii)の膝関節KJで見られた大腿骨に関する脛骨の外-内回転EIRの運動の増加傾向は、上記(iv)および(v)の膝関節KJにおいて回復した。
【0053】
次に、
図6Fに示す歩行周期全体における大腿骨に関する脛骨の屈曲-伸展回転FERの運動を参照すると、この回転運動が境界条件として有限要素モデルに組み込まれたため、上記(i)から(v)のすべての膝関節KJにおいて同様であった。
図6Dおよび
図6Eに示すように、大腿骨に関する脛骨の回転運動は、本実施形態の半月板インプラント1を含む上記(v)の膝関節KJにおいて、内側半月板MMに損傷のない上記(i)の膝関節KJと最も合致している。
【0054】
以上のように、本実施形態の半月板インプラント1は、柔軟性を有するシェル2と、そのシェル2よりも高い剛性を有するコア3とを備えている。シェル2は、ヒトの半月板の解剖学的形状に成形されている。コア3は、シェル2に埋設され、ヒトの半月板の解剖学的形状に合わせた湾曲形状を有している。シェル2は、前端部と後端部にコア3が埋設されていない非補強部20を有している。
【0055】
この構成により、本実施形態の半月板インプラント1は、大きな表面積に荷重を分散させることにより、脛骨大腿骨コンパートメントのピーク接触応力と、より高い接触応力の軟骨ノードの数の双方を低減させることができる。これにより、脛骨大腿骨コンパートメントを、内側半月板MMに損傷のない膝関節KJの通常の関節運動および接触状態に回復させることができる。
【0056】
また、本実施形態の半月板インプラント1を埋め込んだ膝関節KJは、膝関節KJの内側コンパートメントでの接触応力の最大の減少をもたらし、内側半月板MMの損傷のない膝関節KJの通常の脛骨回転運動との最良の一致を提供することができる。半月板インプラント1の柔軟性を有するシェル2は、荷重分布に関与し、シェル2よりも高い剛性を有するコア3は、構造の安定性を維持することができる。
【0057】
また、本実施形態の半月板インプラント1において、シェル2およびコア3の素材は、生体適合性高分子材料である。コア3のヤング率は、シェル2のヤング率の1.5倍以上である。この構成により、コア3による構造の安定性をより向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態の半月板インプラント1において、シェル2のヤング率は、11[MPa]であり、コア3のヤング率は17[MPa]である。この構成により、半月板インプラント1の柔軟性を有するシェル2によって、荷重を効率よく分散させ、シェル2よりも高い剛性を有するコア3により構造の安定性を維持することができる。
【0059】
また、本実施形態の半月板インプラント1において、シェル2は、前端から後端へ向けて前角21、前節22、中節23、後節24、および後角25を有している。コア3は、前節22から後節24までシェル2の中心部に埋設されている。シェル2の非補強部20は、シェル2の前角21と後角25を含んでいる。この構成により、本実施形態の半月板インプラント1を埋め込んだ膝関節KJは、膝関節KJの内側コンパートメントでの接触応力を減少させ、内側半月板MMの損傷のない膝関節KJの通常の脛骨回転運動との最良の一致を提供することができる。
【0060】
また、本実施形態の半月板インプラント1において、コア3の湾曲形状の径方向における寸法である厚みT3は、同径方向におけるシェル2の寸法である厚みT2の半分以下である。この構成により、シェル2の柔軟性が必要以上に低下するのを防止しつつ、コア3により構造の安定性を維持することができる。
【0061】
また、本実施形態の半月板インプラント1において、コア3は、湾曲形状の径方向における寸法T3が均一な円弧状の形状を有している。この構成により、シェル2の柔軟性が必要以上に低下するのを防止しつつ、コア3により構造の安定性を維持することができる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、膝関節KJの内側コンパートメントの接触応力を低下させ、内側半月板MMに損傷がないときの脛骨回転運動の再現性を向上させることが可能な半月板インプラント1を提供することができる。
【0063】
最後に、
図7を参照して半月板インプラント1の製造方法の一例を説明する。
図7は、複合半月板インプラントの製造方法の一例を説明する図である。半月板インプラント1は、たとえば、シェル2とコア3の二色成形によって製造することができる。
【0064】
本実施形態の複合半月板インプラントの製造方法では、まず、樹脂製の第1成形型FD1を3Dプリンタによって成形する。第1成形型FD1は、中央部に溝状の凹部26aを有するシェル2の上部26の形状に対応する形状のキャビティーを有する。なお、
図7では、キャビティーを形成する一対の第1成形型FD1のうち、シェル2の上部26に凹部26aを形成するための凸部を有する一方の第1成形型FD1の図示を省略している。
【0065】
次に、第1成形型FD1にシェル2の材料を流し込んで成形する。これにより、
図7の上部の斜視図および断面図に示すように、凹部26aを有するシェル2の上部26を成形することができる。ここで、第1成形型FD1は樹脂製であるため、シェル2の上部26を取り出すときに、第1成形型FD1を容易に壊すことができ、シェル2の上部26の取り出しを容易にすることができる。
【0066】
次に、樹脂製の第2成形型FD2を3Dプリンタによって成形する。第2成形型FD2は、シェル2の上部26の凹部26aにコア3が配置された中間複合材27の形状に対応する形状のキャビティーを有する。次に、第2成形型FD2のキャビティーにシェル2の上部26を配置した後に、第2成形型FD2にコア3の材料を流し込み、シェル2の上部26に形成された凹部26aにコア3の材料を充填して成形する。
【0067】
なお、コア3の材料の溶融温度は、シェル2の材料の溶融温度よりも低いが、シェル2の上部26に形成された凹部26aにコア3の材料が充填されることで、シェル2の上部26とコア3とが結合する。その結果、
図7の中段の斜視図および断面図に示すように、シェル2の上部26に形成された凹部26aにコア3が収容されて一体化された中間複合材27を成形することができる。ここで、第2成形型FD2は樹脂製であるため、中間複合材27を取り出すときに、第2成形型FD2を容易に壊すことができ、中間複合材27の取り出しを容易にすることができる。
【0068】
次に、樹脂製の第3成形型FD3を3Dプリンタによって成形する。第3成形型FD3は、たとえば、両端部にアタッチメント部1aを有する半月板インプラント1の形状に対応する形状のキャビティーを形成する。なお、
図7では、キャビティーを形成する一対の第3成形型FD3のうち、シェル2の下部28を成形するための凹部を有する一方の第3成形型FD3の図示を省略している。
【0069】
次に、第3成形型FD3のキャビティーに中間複合材27を配置した後に、第3成形型FD3にシェル2の材料を流し込み、コア3の全体がシェル2に埋め込まれ、両端部にアタッチメント部1aを有する半月板インプラント1を成形する。ここで、第3成形型FD3は樹脂製であるため、半月板インプラント1を取り出すときに、第3成形型FD3を容易に壊すことができ、半月板インプラント1の取り出しを容易にすることができる。
【0070】
以上のように、本実施形態の半月板インプラントの製造方法によれば、
図7の下部に示すような半月板インプラント1を成形することができる。なお、
図7に示す例において、アタッチメント部1aは、第3成形型FD3の突起部に対応する位置に、貫通孔を有している。また、アタッチメント部1aを成形するためのキャビティーは、第1成形型FD1に形成してもよい。また、第1成形型FD1から第3成形型FD3までの各成形型は、アルミニウムなどの金属材料によって製作してもよく、機械加工によって製作してもよい。
【0071】
以上、図面を用いて本開示に係る半月板インプラントの実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
1 半月板インプラント
2 シェル
3 コア
20 非補強部
21 前角
22 前節
23 中節
24 後節
25 後角
LM 外側半月板(半月板)
MM 内側半月板(半月板)
T2 厚み(寸法)
T3 厚み(寸法)