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特許7486763安定なアジルサルタン微細結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】安定なアジルサルタン微細結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 413/10 20060101AFI20240513BHJP
   A61K 31/4245 20060101ALN20240513BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20240513BHJP
   A61P 9/12 20060101ALN20240513BHJP
【FI】
C07D413/10
A61K31/4245
A61P43/00 111
A61P9/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019115627
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2021001140
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】500515071
【氏名又は名称】金剛化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100175075
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康子
(72)【発明者】
【氏名】八田 直也
(72)【発明者】
【氏名】山田 明広
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 亮平
(72)【発明者】
【氏名】西角 浩
(72)【発明者】
【氏名】吉川 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】横田 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】金森 俊樹
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-172635(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110041320(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108912109(CN,A)
【文献】特開2018-080119(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008219(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108774217(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折方式粒度分布計により測定して、平均粒子径が3~18μmであるアジルサルタン粒子の製造方法であって、
再結晶工程を含まずに、アジルサルタン粉末と、アジルサルタン粉末に対して3~20倍体積量のエタノールとを、攪拌温度0℃~溶媒還流温度、攪拌時間5分~30時間で攪拌してアジルサルタン粒子を得て、
得られたアジルサルタン粒子を乾燥する工程からなり、
ここで、乾燥後に得られたアジルサルタン粒子は、50℃で1ヵ月間放置したあとにHPLCで測定した場合、デスエチル体の増加率が0.01%以下であり、かつ、エチルエステル体の増加率が0.01%以下である、製造方法。
【請求項2】
再結晶工程を含まずに、アジルサルタン粉末と、アジルサルタン粉末に対して3~20倍体積量のエタノールとを、攪拌温度0℃~溶媒還流温度、攪拌時間5分~30時間で攪拌してアジルサルタン粒子を得て、
得られたアジルサルタン粒子を乾燥する工程からなる、
レーザー回折方式粒度分布計により測定した平均粒子径が3~18μmの範囲となる、所望の平均粒子径を有するアジルサルタン粒子を製造する方法。
【請求項3】
溶媒の量が、アジルサルタン粉末に対して5倍体積量である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
撹拌時間が、30分~30時間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
攪拌温度が0℃~80℃、または0℃~70℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
攪拌温度が50~60℃である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジルサルタン微細結晶を工業的に製造する方法に関する。詳しくは、製剤化の際に粉砕を行わずにそのまま使用できる安定なアジルサルタンの微細結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アジルサルタン[2-エトキシ-1-[[2’-(2,5-ジヒドロ-5-オキソ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル]-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸:一般式(I)]:
【化1】
は、血管平滑筋のアンジオテンシンII(AT)受容体の拮抗剤であり、アンジオテンシンIIとAT受容体との間の結合を選択的に抑制することにより、血管収縮及びアルドステロン分泌作用を抑制して血圧を低下させる(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
アジルサルタンメドキソミル[2-エトキシ-1-[[2’-(2,5-ジヒドロ-5-オキソ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル]-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸(5-メチル-2-オキソ-1,3-ジオキソール-4-イル)メチル:一般式(II)]:
【化2】
は、生体内で速やかにアジルサルタンへ加水分解されるプロドラック(Pro-drug)であり、カリウム塩の形態で高血圧の治療薬としてアメリカ食品医薬品局(FDA)に認可された。特許文献2にはアジルサルタンメドキソミル及びアジルサルタンメドキソミルカリウム塩の薬理学応用及び薬理学活性が開示されている。
【0004】
アジルサルタンの水に対する溶解性は、一般的に非常に低いため、医薬品として製剤化する際には、溶解性向上のための微粒子化操作が必要となる。
【0005】
特許文献2には、微粉化するために通常実施される粉砕により、アジルサルタンの分解物、特に式(III)で示されるアジルサルタンデスエチル体が生成することが記載されている。
【化3】
【0006】
特許文献3には、平均粒子径48.35μmのアジルサルタンを高速粉砕機により粉砕することで3.27μmと5.22μmを調製している。これら粉砕品を温度約25℃、湿度約60%で6ヵ月保管した場合、式(III)で示されるデスエチルアジルサルタン及び式(IV)で示されるアジルサルタンエチルエステルが増加することが記載されている。
【化4】
【0007】
さらに特許文献3には、粉砕操作によるアジルサルタンの分解を回避した安定な微細結晶の製造方法が記載されている。すなわち、アジルサルタンをテトラヒドロフラン、アセトニトリル、トルエン等で懸濁撹拌、濾過、乾燥した後、アルコール系溶媒あるいはアセトンによる再結晶で、平均粒子径5.19~8.66μmの優れた安定性を有するアジルサルタンが得られることが記載されている。しかし、この製造方法では粒度調節がされていないため、所望の粒度有するアジルサルタンを製造することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第2645962号
【文献】中国特許103831159号
【文献】中国特許108774217号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Journal of Medicinal Chemistry. 1996, 39, 5228.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、所望の粒度のアジルサルタンの簡便かつ効率的な製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、保管中にデスエチルアジルサルタン、及びアジルサルタンエチルエステルの増加による品質低下を起こすことのない、高品質と高い安定性を維持可能なアジルサルタン微細結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、粒度分布が、平均粒子径で3~18μmである安定なアジルサルタンの製造方法において、アジルサルタン原体粉末と、アジルサルタン原体粉末に対して1~40倍体積量の溶媒とを、攪拌温度0℃~溶媒還流温度、攪拌時間5分~100時間で攪拌する工程を含み、かつ再結晶工程を含まない製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、平均粒子径が3~18μmである高品質のアジルサルタンを、簡便かつ高収率で製造することができる。さらに、保管中にデスエチルアジルサルタン、及びアジルサルタンエチルエステルの増加が少なく安定性の高いアジルサルタン微細結晶を得ることができる。また本発明により、製剤化の際に粉砕なしで利用可能なアジルサルタン微細結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】製造例1で得られたアジルサルタン原体粉末の粒度分布を示す。
図2】実施例1で得られたアジルサルタンの粒度分布を示す。
図3】実施例2で得られたアジルサルタンの粒度分布を示す。
図4】実施例3で得られたアジルサルタンの粒度分布を示す。
図5】実施例4で得られたアジルサルタンの粒度分布を示す。
図6】実施例5で得られたアジルサルタンの粒度分布を示す。
図7】実施例6で得られたアジルサルタンの粒度分布を示す。
図8】比較例1で得られたアジルサルタンの粒度分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき詳述する。
【0015】
本発明の製造方法は、粒度分布が、平均粒子径で3~18μmである安定なアジルサルタンの製造方法において、アジルサルタン原体粉末と、アジルサルタン原体粉末に対して1~40倍体積量の溶媒とを、攪拌温度0℃~溶媒還流温度、攪拌時間5分~100時間で攪拌する工程を含み、かつ再結晶工程を含まない製造方法である。
【0016】
原料として使用するアジルサルタン原体は、文献記載の方法(例えば、特許文献1、非特許文献1等)に従って製造したアジルサルタン、あるいは市販されているアジルサルタンを使用することができる。このようなアジルサルタン原体の平均粒子径はおよそ18μmより大きく、本発明の原料として使用するアジルサルタン原体粉末を準備するためには、あらかじめ微細化する。微細化方法は特に制限はなく、目的に応じ適宜選択することができる。微細化は、例えば、ジェットミル、ピンミル、フェザーミル、ボールミル、ハンマーミル、あるいは乳鉢等を用いて行う。
【0017】
アジルサルタン原体粉末の撹拌に使用する溶媒は、水、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、及びtert-ブタノール等)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、及び酢酸tert-ブチル等)、エーテル系溶媒(例えば、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、及び1,4-ジオキサン等)、炭化水素系溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、及びn-へプタン等)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、及び2-ブタノン等)、またはハロゲン系溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、及び1,2-ジクロロエタン等)を単一あるいは混合して使用することができる。好ましい溶媒は、エタノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、アセトン、アセトニトリル、及びクロロホルムから選ばれる一以上であり、より好ましくはエタノールである。
【0018】
溶媒の量は、アジルサルタン原体粉末に対して1~40倍体積量とすることができる。好ましい溶媒の量は、3~20倍体積量である。
【0019】
アジルサルタン原体粉末と溶媒との攪拌温度は、0℃~溶媒還流温度の範囲であり、好ましくは、0~80℃、0~70℃、または50~60℃である。ここで、「溶媒還流温度」とは、溶媒が、大気圧下に還流または沸騰する温度を意味する。
【0020】
アジルサルタン原体粉末と溶媒との撹拌時間は、5分~100時間であり、好ましくは5分~48時間、5分~30時間、または30分~30時間とすることができる。
【0021】
本発明の製造方法は、再結晶工程を含まない。これは、アジルサルタン原体粉末を溶媒中で撹拌することにより、再結晶工程を経ることなく所望の粒度(平均粒子径3~18μm)を有する安定なアジルサルタンへ変換することができるためである。
【0022】
本発明のより好ましい態様は、アジルサルタン原体粉末と、アジルサルタン原体粉末に対して3~20倍体積量のエタノールとを、攪拌温度50~60℃で攪拌する方法である。攪拌時間は、5分~100時間、5分~48時間、5分~30時間、または30分~30時間とすることができる。
【0023】
本発明により得られるアジルサルタンの粒度分布は、平均粒子径で3~18μmである。本発明においては、製造条件、特に攪拌時間と攪拌温度を調整することにより、所望の粒度分布を有するアジルサルタンを自在に得ることができる。得られるアジルサルタンの粒度分布は、例えば、約3μm以上、約4μm以上、約7μm以上、約9μm以上、約13μm以上、または約17μm以上であり、かつ約18μm以下、約14μm以下、約11μm以下、約8μm以下、約5μm以下、または4μm以下とすることができる。粒子径は、従来公知の方法、例えばレーザー回折方式粒度分布計で測定することができる。
【実施例
【0024】
以下、本発明をさらに下記の実施例で詳しく説明するが、これらは単なる実例であって本発明を限定するものではなく、また本発明の範囲を変化させても良い。また、比較例として特許文献3記載の方法に準じてアジルサルタンを製造した。製造例、実施例、並びに比較例で得られたアジルサルタンの純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、また粒子径はレーザー回折方式粒度分布計により測定した。
【0025】
(製造例1)
非特許文献1記載の方法に従って製造したアジルサルタン原体を乳鉢ですりつぶし、平均粒子径が2.3μmのアジルサルタン原体粉末を得た。得られたアジルサルタン原体粉末の粒度分布を図1に示す。
【0026】
(実施例1)
製造例1で得た平均粒子径が2.3μmのアジルサルタン原体粉末6.00gにエタノール30.00gを加え、0℃で30分間撹拌した。結晶をろ取し、得られた結晶をエタノールで洗浄した後、40℃で乾燥してアジルサルタン4.44gを得た。得られたアジルサルタンの粒度分布は、平均粒子径が3.2μmであった。このアジルサルタンの粒度分布を図2に示す。
【0027】
(実施例2)
製造例1で得た平均粒子径が2.3μmのアジルサルタン原体粉末6.00gにエタノール30.00gを加え、50℃で2時間撹拌した。結晶をろ取し、得られた結晶をエタノールで洗浄した後、40℃で乾燥してアジルサルタン5.00gを得た。得られたアジルサルタンの粒度分布は、平均粒子径で4.6μmであった。このアジルサルタンの粒度分布を図3に示す。
【0028】
(実施例3)
製造例1で得た平均粒子径が2.3μmのアジルサルタン原体粉末6.00gにエタノール30.00gを加え、50℃で6時間撹拌した。結晶をろ取し、得られた結晶をエタノールで洗浄した後、40℃で乾燥してアジルサルタン5.25gを得た。得られたアジルサルタンの粒度分布は、平均粒子径で7.9μmであった。得られたアジルサルタンの粒度分布を図4に示す。
【0029】
(実施例4)
製造例1で得た平均粒子径が2.3μmのアジルサルタン原体粉末6.00gにエタノール30.00gを加え、50℃で14時間撹拌した。結晶をろ取し、得られた結晶をエタノールで洗浄した後、40℃で乾燥してアジルサルタン5.25gを得た。得られたアジルサルタンの粒度分布は、平均粒子径で10.0μmであった。得られたアジルサルタンの粒度分布を図5に示す。
【0030】
(実施例5)
製造例1で得た平均粒子径が2.3μmのアジルサルタン原体粉末6.00gにエタノール30.00gを加え、50℃で26時間撹拌した。結晶をろ取し、得られた結晶をエタノールで洗浄した後、40℃で乾燥してアジルサルタン4.82gを得た。得られたアジルサルタンの粒度分布は、平均粒子径で13.5μmであった。得られたアジルサルタンの粒度分布を図6に示す。
【0031】
(実施例6)
製造例1で得た平均粒子径が2.3μmのアジルサルタン原体粉末6.00gにエタノール30.00gを加え、60℃で48時間撹拌した。結晶をろ取し、得られた結晶をエタノールで洗浄した後、40℃で乾燥してアジルサルタン5.64gを得た。得られたアジルサルタンの粒度分布は、平均粒子径で17.1μmであった。得られたアジルサルタンの粒度分布を図7に示す。
【0032】
(比較例1)
非特許文献1記載の方法に従って製造したアジルサルタン原体25.00gを、特許文献3の実施例3に記載の方法に従って製造し、アジルサルタン21.95gを得た。得られたアジルサルタンの平均粒子径は22.2μm、90%粒子径は48.4μmであった。このアジルサルタンの粒度分布を図8に示す。
【0033】
(試験例1)保存安定性試験
製造例1、実施例1~6、及び比較例1で得られたアジルサルタンをそれぞれ褐色瓶に入れ、密封後、50℃の恒温槽中に1ヵ月間放置した。サンプルを7日目、14日目及び30日目に取り出し、HPLCで純度を測定した。結果を表1に示す。
【0034】
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により、所望の粒度分布を有し、製剤化の際に粉砕を行わずにそのまま使用できる安定なアジルサルタンの微細結晶を提供することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8