(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】管継手
(51)【国際特許分類】
F16L 19/065 20060101AFI20240513BHJP
F16L 19/10 20060101ALI20240513BHJP
F16L 21/08 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
F16L19/065
F16L19/10
F16L21/08 D
(21)【出願番号】P 2020074496
(22)【出願日】2020-04-20
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000151025
【氏名又は名称】株式会社タブチ
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 宗美
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特公昭54-041252(JP,B2)
【文献】特開2009-156335(JP,A)
【文献】特開2011-021678(JP,A)
【文献】実開昭59-045391(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 19/065
F16L 19/10
F16L 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の管の端部に内嵌して該端部を拡径するテーパー状外面を有するインナーコアと、前記管を挿入可能な開口部に前記インナーコアのテーパー状外面と傾斜方向が逆向きとなるテーパー状内面を有する継手本体と、該継手本体のテーパー状内面と同一の傾斜方向となるテーパー状外面を有するとともに前記管に外嵌される締め付けリングと、該締め付けリングを前記継手本体のテーパー状内面に沿って前記管の先端側へ移動させることで前記管を縮径させる袋ナットと、を備えた管継手であって、
前記締め付けリングは、該締め付けリングの移動方向において先端縁よりも手前側の内面に該先端縁の内径よりも内径側に位置する山折れ部を備え
、前記締め付けリングの先端縁と前記山折れ部との間が、先端側ほど拡径するテーパー面に構成されていることを特徴とする管継手。
【請求項2】
合成樹脂製の管の端部に内嵌して該端部を拡径するテーパー状外面を有するインナーコアと、前記管を挿入可能な開口部に前記インナーコアのテーパー状外面と傾斜方向が逆向きとなるテーパー状内面を有する継手本体と、該継手本体のテーパー状内面と同一の傾斜方向となるテーパー状外面を有するとともに前記管に外嵌される締め付けリングと、該締め付けリングを前記継手本体のテーパー状内面に沿って前記管の先端側へ移動させることで前記管を縮径させる袋ナットと、を備えた管継手であって、
前記締め付けリングは、該締め付けリングの移動方向において先端縁よりも手前側の内面に該先端縁の内径よりも内径側に位置する山折れ部を備え、前記締め付けリングの先端縁と前記山折れ部とを通る仮想内周側テーパー面が、前記インナーコアのテーパー状外面と略平行であることを特徴とする管継手。
【請求項3】
前記締め付けリングの前記管の先端側への移動方向において前記山折れ部よりも手前側の該締め付けリングの内面が、該締め付けリングの軸方向と略平行なストレート面に構成されていることを特徴とする請求項1
又は2に記載の管継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製の管を接続するための管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
上記管継手は、
図10に示すように、合成樹脂製の管6の端部に内嵌して該端部を拡径するテーパー状外面21Bを有するインナーコア21と、前記管6を挿入可能な開口部32Kに前記インナーコア21のテーパー状外面21Bと傾斜方向が逆向きとなるテーパー状内面32Aを有する継手本体3と、該継手本体3のテーパー状内面32Aと同一の傾斜方向となるテーパー状外面40Bを有するとともに前記管6に外嵌される締め付けリング40と、該締め付けリング40を前記継手本体3のテーパー状内面32Aに沿って前記管6の先端側へ移動させることで前記管6を縮径させる袋ナット5と、を備えている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
前記構成の管継手では、
図10の拡大図に示すように、前記締め付けリング40の内面40Aが、先端縁から後端縁まで軸方向と平行な面に形成されている。前記締め付けリング40の先端縁40Tには、該締め付けリング40の先端面40Tと内面40Aとのなす角度が90度となるエッジ部40Eを備えている。そして、管6に引っ張りや圧縮が複数回作用すると、管6が締め付けリング40に対して軸方向に往復移動する。このとき、エッジ部44Eが管6の内径側へ深く入り込んだ状態になって管6が往復移動する(
図11参照)。このため、管6の外面を損傷させて(削って)しまう。その結果、止水性能が低下して水漏れが発生することになり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、管に引っ張りや圧縮が複数回作用しても、水漏れが発生することを抑制することができる管継手を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の管継手は、前述の課題解決のために、合成樹脂製の管の端部に内嵌して該端部を拡径するテーパー状外面を有するインナーコアと、前記管を挿入可能な開口部に前記インナーコアのテーパー状外面と傾斜方向が逆向きとなるテーパー状内面を有する継手本体と、該継手本体のテーパー状内面と同一の傾斜方向となるテーパー状外面を有するとともに前記管に外嵌される締め付けリングと、該締め付けリングを前記継手本体のテーパー状内面に沿って前記管の先端側へ移動させることで前記管を縮径させる袋ナットと、を備えた管継手であって、前記締め付けリングは、該締め付けリングの移動方向において先端縁よりも手前側の内面に該先端縁の内径よりも内径側に位置する山折れ部を備えていることを特徴としている。
【0007】
本発明によれば、管の端部がインナーコアで拡径されることにより、継手本体からの管の抜けが阻止される。この状態において袋ナットで締め付けリングを継手本体のテーパー状内面に沿って管の先端側へ移動させることで、管の外面に締め付けリングの内面を圧接(圧着)して管と締め付けリングとの間をシールする。この状態から、管に引っ張りや圧縮が複数回作用しても、先端縁の内径よりも内径側に位置する山折れ部に管が当接する、又は該山折れ部と先端縁とに管が当接するため、先端縁が管の内径側へ入り込んで管が削られるといったことを抑制することができる。
【0008】
又、本発明の管継手は、前記締め付けリングの前記管の先端側への移動方向において前記山折れ部よりも手前側の該締め付けリングの内面が、該締め付けリングの軸方向と略平行なストレート面に構成されていてもよい。
【0009】
上記のように、山折れ部よりも手前側の内面のストレート面で管の挿入をスムーズに行いながらも、山折れ部における手前側と先端側との間の角度を大きくすることができ、山折れ部から先端縁までの間で管が削られるといったことを確実に抑制することができる。
【0010】
又、本発明の管継手は、前記締め付けリングの先端縁と前記山折れ部との間が、先端側ほど拡径するテーパー面に構成されていてもよい。
【0011】
上記のように、締め付けリングの先端縁と前記山折れ部との間が、テーパー面に構成されていれば、リングを締め付けると、テーパー面が管の表面に当たってテーパー面で管が抜ける方向の圧力を受ける。この圧力がテーパー面で分散されることによって、管が削られ難くなる。
【0012】
又、本発明の管継手は、前記締め付けリングの先端縁と前記山折れ部とを通る仮想内周側テーパー面が、前記インナーコアのテーパー状外面と略平行であってもよい。
【0013】
上記のように、締め付けリングの先端縁と山折れ部とを通る仮想内周側テーパー面が、インナーコアのテーパー状外面と略平行であれば、山折れ部と先端縁とで均等に管を締め付けることができ、管が削られるといったことをより一層確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、締め付けリングに、締め付けリングの移動方向において先端縁よりも手前側の内面に先端縁の内径よりも内径側に位置する山折れ部を備えることによって、管に引っ張りや圧縮が複数回作用しても、水漏れが発生することを抑制することができる管継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の管継手を示す一部を断面にした側面図であり、管を接続する前の状態を示している。
【
図2】管継手に備える締め付けリングの一部を断面にした側面図である。
【
図5】管を継手本体に配置した状態を示す一部を断面にした管継手の側面図である。
【
図6】袋ナットを締め付けて管が継手本体に固定された状態を示す一部を断面にした管継手の側面図である。
【
図7】管に引っ張りや圧縮が複数回作用した後の状態を示す一部を断面にした管継手の側面図である。
【
図8】別の形態の締め付けリングの要部の断面図である。
【
図9】別の形態の締め付けリングの要部の断面図である。
【
図10】従来例の管継手を示し、袋ナットを締め付けて管が継手本体に固定された状態を示す一部を断面にした管継手の側面図である。
【
図11】従来例の管継手を示し、管に引っ張りや圧縮が複数回作用した後の状態を示す一部を断面にした管継手の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、合成樹脂製の管を接続する前の本発明の管継手1を示している。
【0017】
管継手1は、インナーコア2と、継手本体3と、締め付けリング4と、袋ナット5と、を備えている。
【0018】
インナーコア2は、金属で構成され、円筒状部分21と、円筒状部分21の一端から径方向外側に延びる円環状のフランジ部22と、を備えている。円筒状部分21の外面には、管6に引き抜きの力が作用した時に、管6の内面6Aに食い込む断面形状のこぎり刃状の複数の食い込み歯21Vが軸方向に沿って連続して形成されている。これら複数の食い込み歯21Vは、フランジ部22側ほど突出量が大きくなっている。したがって、食い込み歯21Vは、管6の端部に内嵌したときに該端部を拡径するテーパー状外面21Bを構成している。また、管6が引っ張られたときに、食い込み歯21Vが管6の内面6Aに食い込むことで継手本体3からの管6の抜けを阻止することができる(
図7参照)。
【0019】
継手本体3は、金属で構成され、軸方向一端(
図1の左側)に向けて延びる円筒状の第1本体部31と、軸方向他端(
図1の右側)に向けて延びるとともに第1本体部31よりも内径及び外径が大きい寸法の円筒状の第2本体部32と、を備えている。
【0020】
第1本体部31の外面には、他の配管等を螺合により接続するための雄螺子部31Nが形成されている。第2本体部32の端部には、管6を挿入可能な開口部32Kにインナーコア2のテーパー状外面21Bと傾斜方向が逆向きとなるテーパー状内面32Aが形成されている。また、第2本体部32の端部の外面には、後述する袋ナット5の雌螺子部51Nが螺合する雄螺子部32N(
図5参照)が形成されている。
【0021】
締め付けリング4は、筒状に構成され、例えばポリアセタール(POM)から構成され、先端縁4Tの外面に角の取れた面取り部41と、面取り部41から締め付けリング4の移動方向とは反対方向に延びるテーパー状外面42と、テーパー状外面42の後端から後方へ軸方向と平行に延びる平面43と、を備えている。テーパー状外面42は、継手本体3のテーパー状内面32Aと同一の傾斜方向で、かつ、同一の傾斜角度(異なる傾斜角度でもよい)にしている。尚、締め付けリング4は、ポリアセタール(POM)以外の剛性のある各種の合成樹脂で構成してもよく、同等の剛性を有するものであれば、どのような材料で構成してもよい。
【0022】
また、締め付けリング4は、
図2及び
図3に示すように、締め付けリング4の移動方向において先端縁4Tよりも手前側の内面に先端縁4Tの内径よりも内径側に位置する山折れ部44を備えている。先端縁4Tは、締め付けリング4の先端面4Aと内面(後述する仮想内周側テーパー面45)とで形成されるエッジである。また、山折れ部44は、後記する仮想内周側テーパー面45と後述する内面46との境界にある曲点である。前記山折れ部44と締め付けリング4の先端縁4Tとを通る仮想内周側テーパー面45が、インナーコア2のテーパー状外面21Bと略平行である。山折れ部44と締め付けリング4の先端縁4Tとの距離L1が、締め付けリング4の全長L2に対して20%以下、好ましくは10%以下に設定している。具体的には、締め付けリング4の全長L2が25mmに対して山折れ部44と締め付けリング4の先端縁4Tとの距離L1を2mmとしている。また、軸方向に対するインナーコア2のテーパー状外面21Bの角度が、軸方向に対するテーパー面45の角度θ(
図2の拡大図参照)と同一であり、具体的には、1度~5度の間の任意の角度にしているが、軸方向に対するインナーコア2のテーパー状外面21Bの角度が変更になれば、軸方向に対する仮想内周側テーパー面45の角度θもテーパー状外面21Bの角度と同一角度又は略同一角度に変更することが好ましい。締め付けリング4の山折れ部44の位置は、管6の外径の大きさや管6の材質等に応じて変更することが好ましい。
【0023】
また、締め付けリング4の管6の先端側への移動方向において山折れ部44よりも手前側の締め付けリング4の内面46が、軸方向と平行なストレート面に構成されている。締め付けリング4の内面46を、軸方向と平行なストレート面に構成しているが、軸方向と略平行なストレート面に構成してもよい。尚、軸方向と略平行とは、軸方向に対して少し傾いたストレート面を含む。また、締め付けリング4の移動方向略中央部から移動方向とは反対の後端にかけて周方向に所定間隔(等間隔)を置いて複数(4個)の切欠き4Kが軸方向に延びるように形成されている(
図4参照)。尚、これら複数の切欠き4Kは、場合によっては、省略してもよい。
【0024】
袋ナット5は、金属で構成され、締め付けリング4を継手本体3のテーパー状内面32Aに沿って管6の先端側へ移動させて管6の外面に締め付けリング4の内面を圧接(圧着)して管6と締め付けリング4との間をシールするものである。具体的には、袋ナット5は、第2本体部32の雄螺子部32Nに螺合する雌螺子部51Nを内側に備える円筒部51と、円筒部51の後端部から斜め後方に傾斜した環状で板状の傾斜部52と、を備えている。袋ナット5を第2本体部32の雄螺子部32Nに螺合させることによって、傾斜部52が締め付けリング4の後端面47(
図4参照)を押して締め付けリング4を管6の端部側へ移動させることができる。
【0025】
前記のように構成された管継手1に管6を接続する手順について説明する。
【0026】
まず、袋ナット5を継手本体3から外し、外した袋ナット5を管6に外挿する。続いて、締め付けリング4を継手本体3から外し、外した締め付けリング4を管6に外装する。次に、管6の端部の内部にインナーコア2を圧入する。こののち、継手本体3にインナーコア2が圧入された管6の端部を内嵌した後、締め付けリング4を継手本体3に内嵌してから、袋ナット5を継手本体3に螺合する。続いて、袋ナット5を締め込んでいくことにより、締め付けリング4が管6の先端側へ移動し、締め付けリング4のテーパー状外面42が継手本体3のテーパー状内面32Aからの押圧力を受けることで締め付けリング4が軸方向に移動しつつ径方向内側に次第に移動する。これにより拡径された管6の外面と締め付けリング4の内面とが密着されることにより、シールされた状態で管6が継手本体3に抜け止め可能に固定される(
図6参照)。
【0027】
前記のように管継手1に管6が接続された後、管6に引っ張りや圧縮が複数回作用すると、
図7に示すように、管6が管継手1から抜ける側に少しだけ移動している。これは、締め付けリング4を締め付けたときに、山折れ部44と先端縁4Tとの間の仮想内周側テーパー面45が管6の表面(外面)6Bに当たって仮想内周側テーパー面45で管6が抜ける方向の圧力を受ける。この圧力が仮想内周側テーパー面45で分散されることによって、
図10に示すように、先端縁4Tが管6の内径側へ大きく入り込んで管6が削られるといったことを抑制することができる。
【0028】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0029】
上記実施形態では、山折れ部44と先端縁4Tとの間に仮想内周側テーパー面45を形成したが、
図8に示すように、山折れ部44を90度折れ曲がった段部48に構成してもよい。この場合、管6の外面に、先端縁4Tと段部48の角部である山折れ部44の2箇所が当接することになる。また、前記段部48を1箇所だけでなく、軸方向に複数個所設けてもよい。この場合、先端縁4Tから離れる段部ほど内径側に位置するように設けて、先端縁4Tと複数の段部の角部を結んだ直線が、インナーコア2のテーパー状外面21Bと略平行になるように複数の段部を構成することが望ましい。
【0030】
また、上記実施形態では、先端縁4Tが直角の角部に形成されているが、
図9に示すように、角のない丸い形状に構成してもよい。また、
図9では、先端縁4Tと山折れ部44との間が、径方向内側に凸となる湾曲したテーパー面53に形成されている。このテーパー面53は、先端縁4T側ほど拡径している。尚、
図9で説明しなかった部分は、
図3と同一の符号を付すとともに、説明を省略する。したがって、締め付けリング4の先端縁4Tと山折れ部44との間が、先端側ほど拡径する直線状のテーパー面(
図3の符号45)、又は先端側ほど拡径する湾曲状のテーパー面(
図9の符号53)に形成される。
【0031】
また、上記実施形態では、袋ナット5に傾斜部52を備えているが、径方向に向かう垂直部から構成してもよい。この場合、締め付けリング4に垂直部を備えた形状にすることになる。
【符号の説明】
【0032】
1…管継手、2…インナーコア、3…継手本体、4…締め付けリング、4A…先端面、4K…切欠き、4T…先端縁、5…袋ナット、6…管、6A…内面、6B…外面、21…円筒状部分、21B…テーパー状外面、21V…食い込み歯、22…フランジ部、31…第1本体部、32…第2本体部、31N…雄螺子部、32A…テーパー状内面、32K…開口部、32N…雄螺子部、40…締め付けリング、40A…内面、41…面取り部、42…テーパー状外面、43…平面、44…山折れ部、45…テーパー面、46…内面、47…後端面、48…段部、48A…角部、51…円筒部、51N…雌螺子部、52…傾斜部、53…テーパー面、L1…距離、L2…全長、θ…角度