(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】揚重用吊り天秤
(51)【国際特許分類】
B66C 1/14 20060101AFI20240513BHJP
B66C 1/10 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B66C1/14 G
B66C1/10 A
(21)【出願番号】P 2020098507
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-01-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 販売日:令和2年2月27日、販売場所:大阪港埠頭ターミナル株式会社 配布日:令和2年5月27日、配布場所:淀鋼商事株式会社 配布日:令和2年5月28日、配布場所:阪和流通センター大阪株式会社 配布日:令和2年5月29日および6月4日、配布場所:兵機海運株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591172799
【氏名又は名称】港製器工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】趙 恩基
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-306291(JP,A)
【文献】登録実用新案第3058509(JP,U)
【文献】実開平04-034284(JP,U)
【文献】実開昭50-033464(JP,U)
【文献】特開平01-181691(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0067266(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/14
B66C 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺に形成され、その長手方向中央部に揚重機器のフックと係合する主吊り部(12a)が設けられた天秤本体(12)と、その天秤本体(12)の長手方向両端部のそれぞれ
にスリング材(14)を介して吊下された
左右一対のハッカー(16)とを備えた揚重用吊り天秤であって、
上記の天秤本体(12)の長手方向にて互いに隣接する上記ハッカー(16)の上端部背面側には、ハッカー位置決めパイプ(18)の長手方向両端部がそれぞれ係止されると共に、該ハッカー(16)の下部背面側に設けられた操作棒係合部(16X)には、両者を連結するハッカー操作棒(20)が係合される、ことを特徴とする揚重用吊り天秤。
【請求項2】
請求項1の揚重用吊り天秤において、
前記の天秤本体(12)の長手方向両端部に、左右一対のバランサー(22)が設けられると共に、そのバランサー(22)から引き伸ばされたロープ(22a)が、直下に配設された前記ハッカー(16)に連結され、当該ハッカー(16)がその自重よりもやや強い引張力にて上方へ付勢される、ことを特徴とする揚重用吊り天秤。
【請求項3】
請求項1または2の揚重用吊り天秤において、
前記の天秤本体(12)の下面には、当該天秤本体(12)に前記ハッカー(16)を吊下したまま自立できるスタンド(24)が一体的に取り付けられる、ことを特徴とする揚重用吊り天秤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚重用吊り天秤に関し、とりわけ鋼板などの板材の吊り上げ・運搬に好適な揚重用吊り天秤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板などの幅広の板材を吊り上げ・運搬する際には、ハッカーと称される吊り具(フック)を用いて4点吊りにて行うのが通常であるが、その際、吊り荷の安定を図るために、揚重用吊り天秤が用いられる。
この種の揚重用吊り天秤には、従来では、下記の特許文献1(日本国・特開2003-306291号公報)に記載されたものがある。その従来技術は、次のように構成されている。
クレーンフックに長尺のフレーム(いわゆる天秤)を吊下し、このフレームの長手方向両端部にそれぞれ一対のワイヤロープなどのスリング材を掛け、そのスリング材の下端にシャックルを介してハッカーを連結する。そして、上記フレームと上記ハッカーとを補助ロープを介して連結し、該補助ロープによって上記ハッカーを該ハッカーの重量よりも少し強い引張力にて上へ引っ張られるようにしている。
【0003】
かかる技術によれば、ハッカーが常に上方へと付勢されているので、ハッカーと鋼板等の重量物との係合作業が容易になる。また、両者の外れるおそれをなくして重量物を常に安全に吊り上げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術には次の問題がある。すなわち、板材を4点吊りする各ハッカーそれぞれが独自の動きをするものであることから、板材への玉掛け作業の際に、各ハッカーのそれぞれを別個に板材の4点に係合させなければならない。このため、一人作業の際には玉掛け作業に時間が掛かり、作業時間を短縮させるためには、複数で作業しなければならないという問題があった。
それゆえに、本発明の主たる課題は、複数のハッカーを備えているにも拘わらず、一人作業であっても短時間且つ簡単に玉掛け作業を完了することができる揚重用吊り天秤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するため、本発明は、例えば、
図1~2に示すように、揚重用吊り天秤を次のように構成した。
すなわち、長尺に形成され、その長手方向中央部に揚重機器CのフックHと係合する主吊り部12aが設けられた天秤本体12と、その天秤本体12の長手方向両端部のそれぞれ
にスリング材14を介して吊下された
左右一対のハッカー16とを備える。上記の天秤本体12の長手方向にて互いに隣接する上記ハッカー16の上端部背面側には、ハッカー位置決めパイプ18の長手方向両端部がそれぞれ係止される。また、該ハッカー16の下部背面側に設けられた操作棒係合部16Xには、両者を連結するハッカー操作棒20が係合される。
【0007】
本発明では、天秤本体12の長手方向にて互いに隣接する上記ハッカー16の上端部背面側には、ハッカー位置決めパイプ18の長手方向両端部がそれぞれ係止されると共に、該ハッカー16の下部背面側に設けられた操作棒係合部16Xには、両者を連結するハッカー操作棒20が係合されているので、玉掛け作業者は、このハッカー操作棒20を持って操作するだけで、天秤本体12の長手方向にて互いに隣接する2つのハッカー16を同時に操作することができる。
【0008】
本発明においては、前記の天秤本体12の長手方向両端部に、左右一対のバランサー22を設けると共に、そのバランサー22から引き伸ばしたロープ22aを直下に配設された前記ハッカー16に連結し、当該ハッカー16をその自重よりもやや強い引張力にて上方へ付勢するのが好ましい。
この場合、板材Bへのハッカー16の玉掛け作業がより一層容易となるのに加え、板材Bに係合させたハッカー16が外れるおそれがなくなるので、重量物である板材Bを常に安全に吊り上げることができる。
【0009】
また、本発明においては、前記の天秤本体12の下面に、当該天秤本体12に前記ハッカー16を吊下したまま自立できるスタンド24を一体的に取り付けるのが好ましい。
この場合、本発明の揚重用吊り天秤を玉掛け作業に使用していない時に、安全に待機させることができる
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数のハッカーを備えているにも拘わらず、一人作業であっても短時間且つ簡単に玉掛け作業を完了することができる揚重用吊り天秤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態の揚重用吊り天秤における使用態様の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2Aは、本発明の一実施形態の揚重用吊り天秤を示す左側面図である。
図2Bは、本発明の一実施形態の揚重用吊り天秤を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態の揚重用吊り天秤10における使用状態の一例を示す斜視図である。この図が示すように、本実施形態の揚重用吊り天秤10は、揚重機器CのフックHに吊下げられて使用され、重量物とりわけ鋼板などの板材Bが積層されたものを安全に吊り上げ・運搬するための装置であり、大略、天秤本体12,スリング材14,ハッカー16,ハッカー位置決めパイプ18及びハッカー操作棒20などで構成される。
【0013】
天秤本体12は、平行する2辺が上下を向くように配置されたH形鋼からなる長尺のベースフレーム30を有する。このベースフレーム30の長手方向中央部の上面には、揚重機器CのフックHと係合する主吊り部12aが一体的に設けられる。また、このベースフレーム30の長手方向両端部には、左右両側それぞれに、金属製で2枚一組のデルタプレート32が溶接されている。なお、このデルタプレート32は、
図2Bに示すように、ベースフレーム30の長手方向両端部それぞれにおける末端(先端)とその末端から中央側に距離を置いた位置の2カ所に設けられる。そして、2枚一組のデルタプレート32それぞれの間に、抜け止め(ラッチ)付きのフック34が揺動自在に取り付けられる。
【0014】
また、上記ベースフレーム30の長手方向両端部それぞれにおいて同長手方向にて2カ所設けられた隣接するデルタプレート32組の間には、該ベースフレーム30の長手方向と直交する左右方向に延ばされた水平棹36が取り付けられており、この水平棹36の左右の先端部には、それぞれ左右一対のバランサー22が取り付けられる。本実施形態の場合、このバランサー22として、容量70kg前後のスプリングバランサーが用いられている。
【0015】
そして、ベースフレーム30の長手方向中央部下面には、金属角材を枠組みして形成され、天秤本体12にハッカー16を吊下したままの状態で自立できるスタンド24が一体的に取り付けられている。
【0016】
スリング材14は、上記の天秤本体12に後述するハッカー16を吊下して両者を連結させるための部材である。本実施形態では、このスリング材14として、線径13mm以上のチェーンを用いているが、このスリング材14は、ハッカー16とこのハッカー16にて吊持される板材Bとを安全且つ確実に吊持できるものであれば如何なる態様であってもよく、例えば、図示しないが、鋼線ワイヤーなどを用いるようにしてもよい。
【0017】
このスリング材14の上端は、上述したフック34の何れかに着脱可能にて引っ掛けられ、その下端は、後述するハッカー16の上端に回動自在にて取り付けられたシャックル38に接続される。
【0018】
ハッカー16は、クレーンなどの揚重機器Cで板材Bを吊持する際に用いられる鉤状部材で、
図2Aに示すように、側面視で略起立ヘ字状の本体16aの下端が内向きに折り曲げられてハッカー爪16bが形成される。この本体16aの上端部には、上述したようにシャックル38が取り付けられる。
【0019】
ここで、天秤本体12の長手方向にて互いに隣接するハッカー16それぞれの本体16aの上端部背面側には、
図1及び
図2Bに示すように、ハッカー位置決めパイプ18の長手方向両端部がそれぞれ係止されると共に、必要に応じて、直上のバランサー22から引き伸ばされたロープ22aの先端が連結され、当該ハッカー16の自重よりもやや強い引張力にて上方へと付勢される。
【0020】
また、各ハッカー16における本体16aの下部背面側には、角カン状に形成され、ハッカー操作棒20が係合する操作棒係合部16Xが設けられる。なお、この操作棒係合部16Xは、ハッカー操作棒20が係合できるものであれば、如何なる態様であってもよく、上記形態のものに限定されるものではない。
【0021】
ハッカー位置決めパイプ18は、天秤本体12の長手方向にて互いに隣接するハッカー16の上端部の位置を規制する部材であり、
図2Bに示すように、天秤本体12の長手方向内側にて互いに対向するフック34の距離と略同等の長さを有する基幹パイプ18aと、当該基幹パイプ18aの長手方向両端の開口それぞれに対して突出没入可能に取り付けられ、その先端が当該ハッカー位置決めパイプ18の全長を規定する内挿パイプ18bとを有する。このうち、前後一対の内挿パイプ18bそれぞれの先端が、天秤本体12の長手方向にて互いに隣接するハッカー16の上端部に係止される。
【0022】
なお、この基幹パイプ18aに対して内挿パイプ18bを最大限突出させた際のハッカー位置決めパイプ18の全長は、天秤本体12の長手方向両端に取り付けられたフック34間の長さと略同等である。
【0023】
また、図示しないが、基幹パイプ18aと内挿パイプ18bとは、両者が離脱しないように外れ止めワイヤーで連結されている。
【0024】
ハッカー操作棒20は、天秤本体12の長手方向にて互いに隣接するハッカー16それぞれの操作棒係合部16Xに係合して両者を連結し、これら連結したハッカー16の回転を防止すると共に、両ハッカー16を同時に操作するための部材であり、ハッカー位置決めパイプ18の最大全長と略同等の長さの棒本体20aを有する。
図2Bに示すように、この棒本体20aにおける天秤本体12長手方向のフック34取付位置に対応する位置に、当該棒本体20aの径方向に突出して操作棒係合部16Xを両側から挟持する2本一組の係止突起20bが突設される。このため、ハッカー16を吊下げるフック34の位置を変更したとしても、ハッカー16の操作棒係合部16Xを何れかの係止突起20bで挟持して両者を連結することができる。
【0025】
次に、以上のように構成された揚重用吊り天秤10を使用する際には、先ず始めに、揚重機器Cを操作して、天秤本体12の主吊り部12aに揚重機器CのフックHを掛けて揚重用吊り天秤10を吊り上げた後、鋼板が積層された重量物となった吊り荷の板材Bの直上に持って来る。
【0026】
続いて、揚重機器Cを操作して、ハッカー16を板材Bに係合できる高さまで揚重用吊り天秤10を降ろし、然る後、玉掛け作業者が、天秤本体12の幅方向一方側へと回ってハッカー操作棒20を手にすると共に、このハッカー操作棒20を押し下げて前後一対のハッカー16のハッカー爪16bを板材Bの幅方向一方の外側縁2点に係合させて当該ハッカー操作棒20から手を放す。すると、バランサー22の上方への引張力によって板材Bとハッカー16との係合状態が保持される。つまり、玉掛け作業者は1回の動作で吊り荷である板材Bの2点にハッカー16を係合させることができる。
【0027】
そして、玉掛け作業者が天秤本体12の幅方向他方側へと回って上記と同様の操作をすることによって、
図1に示すような板材Bへの揚重用吊り天秤10の玉掛け作業が完了する。
【0028】
本実施形態の揚重用吊り天秤10によれば、天秤本体12の長手方向にて互いに隣接するハッカー16の上端部背面側には、ハッカー位置決めパイプ18の長手方向両端部がそれぞれ係止されると共に、該ハッカー16の下部背面側に設けられた操作棒係合部16Xには、両者を連結するハッカー操作棒20が係合されているので、玉掛け作業者は、上述のように、このハッカー操作棒20を持って操作するだけで、天秤本体12の長手方向にて互いに隣接する2つのハッカー16を同時に操作することができ、一人作業であっても短時間且つ簡単に玉掛け作業を完了することができる。また、ハッカー操作棒20がハッカー16の下部背面側に係止されるため、玉掛け作業者が吊り荷の下に手を持っていく必要がなく、安全に玉掛け作業をすることができる。
【0029】
なお、上述の実施形態では、天秤本体12の長手方向にて互いに隣接するハッカー16の間隔を可変できるものを示したが、その間隔を可変することなく、固定するものであってもよい。
【0030】
また、上述の実施形態では、天秤本体12の下面に所定のスタンド24を一体的に取り付ける場合を示したが、このようなスタンド24が必要なければ、当該スタンド24を省略することもできる。
その他に、当業者が想定できる範囲で種々の変更を行えることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
10:揚重用吊り天秤,12:天秤本体,12a:主吊り部,14:スリング材,16:ハッカー,16X:操作棒係合部,18:ハッカー位置決めパイプ,20:ハッカー操作棒,22:バランサー,22a:ロープ,24:スタンド,C:揚重機器,H:フック,B:板材.