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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】スポーツ用パンツ
(51)【国際特許分類】
   A41D 1/08 20180101AFI20240513BHJP
   A41B 11/14 20060101ALI20240513BHJP
   A41D 1/06 20060101ALI20240513BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
A41D1/08
A41B11/14 E
A41B11/14 B
A41D1/06 501Z
A41D1/06 502Z
A41D1/06 503Z
A41D13/00 115
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020123500
(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公開番号】P2022020155
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】515014440
【氏名又は名称】有限会社スタイルワイズマン
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】平間 裕司
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-051747(JP,A)
【文献】登録実用新案第3143210(JP,U)
【文献】特開2000-328305(JP,A)
【文献】特開2011-168904(JP,A)
【文献】特開2008-002014(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0183606(US,A1)
【文献】国際公開第2013/153624(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D1/08
A41D13/00-13/12
A41C1/00-1/02
A41B9/02
A41B11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者のウエスト部から大腿部以下の下半身にフィットするように形成された伸縮弾性生地製のスポーツ用パンツにおいて、
前記伸縮弾性生地は、前記下半身の全部または大部分を覆う伸縮弾性生地と、下半身の要部を覆う前記伸縮弾性生地より強弾性の低伸度生地とからなり、
ウエスト部の環状ベルトに係止され、ウエスト部の両脇から体幹に沿って股上最下端と同じ高さまで下方に延びる前記低伸度生地製の側部支持帯を設け、
腰部背面側の股上最下端の左右に帯状に延びて大臀筋下部を包み、前記帯状の両端部を前記側部支持帯に接続した低伸度生地製の大臀筋支持帯を設け、
この大臀筋支持帯に係止されて左右のハムストリングに沿ってそれぞれ下方に延びる低伸度生地製のハムストリング支持帯を設け、
このハムストリング支持帯の下端部と接続され、大腿部に沿って内転筋及び大腿四頭筋を斜めに横切って上方に延びる低伸度生地製の大腿部支持帯を設け、
この大腿部支持帯の上端を腰部の両脇でそれぞれ前記側部支持帯に接続することにより、前記大腿部支持帯と前記側部支持帯と前記大臀筋支持帯とを三叉状に連結して設けたことを特徴とするスポーツ用パンツ。
【請求項2】
上記スポーツ用パンツが、腰から膝上までを覆うハーフパンツ、腰から膝下までを覆うスパッツ、腰から足首までを覆うレギンス、または腰から足先までを覆うタイツである請求項1に記載のスポーツ用パンツ。
【請求項3】
上記強弾性の低伸度生地が、上記伸縮弾性生地に重ねて伸縮自在に設けられた強弾性の低伸度生地である請求項1または2に記載のスポーツ用パンツ。
【請求項4】
上記強弾性の低伸度生地が、メッシュ状の強弾性の低伸度生地である請求項1~3のいずれかに記載のスポーツ用パンツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スポーツをする者の下半身に密着して身体の動きを安定させるようサポート機能を有するスポーツ用パンツに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、スポーツする際に、身体の動きや姿勢をできるだけ良好な動きや安定した姿勢に誘導する機能性のある衣服として、身体に密着するようにフィットする伸縮性のある衣服が周知である。
例えば、スポーツをする者の下半身の動きを安定させるようにするため、下半身に密着させて履く二股に分かれた衣服であるパンツの要部に、着圧性や弾力性の異なる複数の生地を組み合わせれた衣料品が知られている。
【0003】
図5及び図6に示すスポーツ用パンツ(スポーツ用下半身衣料)Bは、着用者の左右の脚部における大腿四頭筋を外側下部から内側上部へ斜めに横切るように延びているテーピングライン10を下半身用衣料本体よりも伸び難く縮み易い材料によって設け、さらに着用者の左右の脚部のハムストリングの上端にそれぞれ対応する脚筒部の対応位置から、ハムストリングに沿うように脚筒部の膝裏の内外両側に向かって広がる逆V字形テーピングライン11を設け、さらに大臀筋の下縁に沿って設けたテーピングライン12を脚筒部の上端にまで延ばしたものである(特許文献1)。
【0004】
また、図7及び図8に示すように、本体部よりも高い緊締力を有する部分として、着用者の左右それぞれの腰部に第1緊締部13を備え、第1緊締部13の前部から着用者の大腿部の前側を通って膝部の内側に延びる第2緊締部14を備え、第1緊締部13の下部から大腿部の後側を通って膝部の内側に延びる第3緊締部15を備えたスポーツ用パンツ(スポーツ用下半身衣料)Cが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-35453号公報
【文献】特開2018-35453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されているスポーツ用の下半身衣料は、着用者の大腿四頭筋を外側下部から内側上部へ斜めに横切るように延びているテーピングライン10が、大腿四頭筋に沿ったものではないので、着用者の大腿部の動きを充分に抑制できるものではない。
【0007】
また、左右の大臀筋の下縁に沿って設けたテーピングライン12は、大臀筋の一部を支持することは可能であるが、保持力が不充分であるので、走っているときなどに大臀筋の大部分が揺れやすく、その揺れは腰部を揺らして姿勢を不安定にする可能性があった。
【0008】
また特許文献1に記載されたテーピングラインでは、着用者が大腿部を真っすぐに伸ばし、大臀筋および大腿四頭筋が弛んだ状態になったとき、テーピングライン11の緊張力によって、大臀筋や大腿四頭筋を保持するテーピングライン10、12の位置ずれを起こしやすく、位置ずれしたテーピングライン10、12には充分な緊張力が生じないことになる。
【0009】
また、特許文献2に記載される衣類では、大臀筋を充分に保持するための緊締部またはテーピングラインなどがなく、大臀筋は弛緩した状態では左右それぞれに振動しやすく、体幹や体肢の適切な動きを妨げることになる。
【0010】
特許文献1または特許文献2に記載のスポーツ用衣料は、多くの筋肉に対しサポート用のテーピングが施されているので、それらの筋肉の動きを個別に規制することによって、複雑に連携する一連の筋肉による身体の所定動作を妨げることにもなり、例えば足上げの高さや歩幅を減少させる場合もあった。
【0011】
そこで、この発明の課題は、上記した問題を解決し、着用者の運動状態で大腿四頭筋及び内転筋の揺れを充分に抑制でき、しかも左右の大臀筋をそれぞれ揺れ難くして腰部その他の体幹を揺らし難く、着用者が姿勢を安定させて筋肉を効率よく動かして体幹や体肢を運動させることができるスポーツ用パンツを創製することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明では、着用者のウエスト部から大腿部以下の下半身にフィットするように形成された伸縮弾性生地製のスポーツ用パンツにおいて、
前記伸縮弾性生地は、前記下半身の全部または大部分を覆う伸縮弾性生地と、下半身の要部を覆う前記伸縮弾性生地より強弾性の低伸度生地とからなり、
ウエスト部の環状ベルトに係止され、ウエスト部の両脇から体幹に沿って股上最下端と同じ高さまで下方に延びる前記低伸度生地製の側部支持帯を設け、
腰部背面側の股上最下端の左右に帯状に延びて大臀筋下部を包み、前記帯状の両端部を前記側部支持帯に接続した低伸度生地製の大臀筋支持帯を設け、
この大臀筋支持帯に係止されて左右のハムストリングに沿ってそれぞれ下方に延び股下に達する低伸度生地製のハムストリング支持帯を設け、
このハムストリング支持帯の下端部と股下で接続され、大腿部に沿って内転筋及び大腿四頭筋を斜めに横切って上方に延びる低伸度生地製の大腿部支持帯を設け、
この大腿部支持帯の上端を腰部の両脇でそれぞれ前記側部支持帯に接続することにより、前記大腿部支持帯と前記側部支持帯と前記大臀筋支持帯とを三叉状に連結して設けたことを特徴とするスポーツ用パンツとしたのである。
【0013】
上記したように構成されるこの発明のスポーツ用パンツは、環状ベルトにその上端を係止されている側部支持帯が下方への張力を受けるとき、側部支持帯の下部における大臀筋支持帯と大腿部支持帯との三叉状の連結部において、3方向から引っ張られる張力が釣り合う。
【0014】
このとき大臀筋支持帯は、腰部の両脇の連結部と股上最下端との間で左右に帯状に延びているから、大臀筋下部を包む適切な位置に安定して、常に安定した張力で大臀筋下部を保持する。
【0015】
このようにして大臀筋支持帯は、大腿部の動きに連動して伸びたり弛んだりする大臀筋に密接し、その弾性力でもって適宜に着圧を強めることができるから、左右の大臀筋は、常に揺れ動かないように保持される。
【0016】
また、ハムストリング支持帯は、上記のように安定した位置に維持されている大臀筋支持帯に係止されているから、特に筋肉を上方に引き上げる方向の張力を安定して発揮する。
【0017】
例えば着用者が走っているときに、大腿部を上方に引き上げたときにハムストリングは弛んだ状態になるが、安定した位置に維持される大臀筋支持帯に係止されているハムストリング支持帯は、緊張の緩んだハムストリングを揺れ動かないように保持し、ハムストリングの筋肉の揺れや振動を効率よく防止する。
【0018】
また、大腿部支持帯は、その上端を腰部両脇の所定位置にある連結部で前記側部支持帯に連続または連結されている。このため、着用者が走っている状態で足を伸ばして着地させたとき、大腿四頭筋および内転筋は緊張力が緩められて弛んだ状態になるが、所定位置にある連結部に連続する大腿部支持帯は、緊張の緩んだ大腿四頭筋および内転筋を揺れ動かないように安定して保持し、これらの筋肉の揺れや振動を充分に防止する。
【0019】
このように大腿部支持帯と側部支持帯と大臀筋支持帯とが腰部の両脇で三叉状に連結されていることにより、前記3つの支持帯が一体となって緩んだ筋肉に対する保持力を充分に発揮できる。
【0020】
また大腿部支持帯は、大腿骨外転作用のある大臀筋と共に大腿骨の動きを安定させるから、これらの筋肉についてパワーロスを防ぐことができる作用もある。
【0021】
このようにしてこの発明のスポーツ用パンツは、着用者の大腿部の動きを充分に抑制でき、しかも左右の大臀筋がそれぞれ個別に揺れた場合にも腰部その他の体幹を揺らし難く、着用者が安定した姿勢を保って効率よく体幹や体肢を運動させることができる。
【0022】
上述した作用効果は、着用者のウエスト部から大腿部以下の下半身にフィットするように形成された伸縮弾性生地製のスポーツ用パンツであれば、特に形態を問わずに得られるため、上記スポーツ用パンツが、例えば腰から膝上までを覆うハーフパンツ、腰から膝下までを覆うスパッツ、腰から足首までを覆うレギンス、または腰から足先までを覆うタイツであってもよい。
【0023】
特に、上記強弾性の低伸度生地が、メッシュ状の強弾性の低伸度生地であるものを採用すれば、所要の弾力性を有すると共に、軽量でありかつ通気性の良い生地構成のスポーツ用パンツが得られる。
【発明の効果】
【0024】
この発明は、所定位置に大腿部支持帯と側部支持帯と大臀筋支持帯とを配置すると共に、これらを所定位置で一体に連結したことにより、着用者の運動状態で大腿四頭筋及び内転筋の揺れを充分に抑制でき、しかも左右の大臀筋をそれぞれ揺れ難くして腰部その他の体幹を揺らし難く、着用者が安定した姿勢を保って効率よく体幹や体肢を運動させることができるスポーツ用パンツとなる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態のスポーツ用パンツの着用状態を示す正面図
図2】実施形態のスポーツ用パンツの着用状態を示す背面図
図3図1における着用者の下半身要部の筋肉を模式的に示す説明図
図4図2における着用者の下半身要部の筋肉を模式的に示す説明図
図5】特許文献1に記載されたスポーツ用下半身衣料の正面図
図6】特許文献1に記載されたスポーツ用下半身衣料の背面図
図7】特許文献2に記載されたスポーツ用下半身衣料の正面図
図8】特許文献2に記載されたスポーツ用下半身衣料の背面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1-4に示すように、実施形態のスポーツ用パンツAは、着用者のウエスト部から大腿部以下の下半身にフィットするように形成された伸縮弾性生地製のスポーツ用パンツAであり、下半身の全部または大部分を覆う伸縮弾性生地a1と、下半身の要部を覆う伸縮弾性生地aより強弾性の低伸度生地aとからなる。
【0027】
これらの生地の配置を説明すると、ウエスト部の環状ベルト1に係止され、ウエスト部の両脇から体幹に沿って股上最下端2と同じ高さまで下方に延びる低伸度生地aで形成された側部支持帯3が設けられている。
【0028】
そして、図2及び図4に示すように、腰部背面側の股上最下端2の左右に帯状に延びて大臀筋下部4Mを包み、帯状の両端部を側部支持帯3の下部に接続した低伸度生地aからなる大臀筋支持帯4を設けている。
【0029】
この大臀筋支持帯4に係止され、左右のハムストリング5Mに沿ってそれぞれ下方に延びるハムストリング支持帯5についても股下に延びる低伸度生地aで形成されている。
また、図2に示されるハムストリング支持帯5の下端部と股下で接続される大腿部支持帯6(図1図3参照)も低伸度生地aで形成されている。
【0030】
図3に示されるように大腿部支持帯6は、大腿部に沿って内転筋6M1及び大腿四頭筋6M2に沿って配置され、それらの下部で斜めに横切ってから上方に延びるように配置されている。
【0031】
そして図2に示すように、大腿部支持帯6の上端を腰部の両脇でそれぞれ側部支持帯3の下部の連結部3Cで接続することにより、大腿部支持帯6と側部支持帯3と大臀筋支持帯4とを連結部3Cで三叉状に連結して設けている。
【0032】
側部支持帯3は、環状ベルト1にその上端を係止されているから、スポーツ用パンツAの着用状態では、側部支持帯3が下方への張力を受けた場合に、側部支持帯3の連結部3Cで連続している大臀筋支持帯4と大腿部支持帯6とは、三叉状の連結部3Cで3方向から引っ張られる張力が釣り合うため、三叉状の連結部3Cは、腰部両脇の定位置に配置される。
【0033】
この実施形態では、下半身の全部または大部分を覆う伸縮弾性生地a1は、基材としてストレッチ性のある伸縮弾性生地を用いており、これは特に限定された繊維や限定された編織組織からなる生地ではなく、通常良く知られた弾性的な復元力(引張応力)を有する繊維素材を選択して用いることができる。
【0034】
例えば、主要な繊維としてナイロンやポリエステルを用いて紡糸した糸、およびポリウレタン弾性繊維を用いたポリウレタン糸を用い、生地構成を後者が10~15%とした天竺編素材やトリコット素材等の編織生地とすることができ、これにより1.5~2.5倍程度の伸長が可能であってインナーウェアとして使用に耐える引張強度を有し、比較的高伸度の伸縮弾性生地を用いることができる。
【0035】
これに対して強弾性の低伸度生地aは、例えば前記した主な繊維にポリウレタン弾性繊維を5~10%程度を混ぜて編織することにより、1.2~1.8倍程度の伸長が可能な伸縮弾性生地を用いることができる。このような低伸度生地は、パワーメッシュと通称される強弾性の低伸度生地を採用することが、伸縮弾性生地の全体を軽量にし、また通気性を良くするために好ましい。
【0036】
下半身の全部または大部分を覆う伸縮弾性生地と、下半身の要部を覆う前記低伸度生地とは、それぞれを区分けしてパッチワークのように縫着して設けることもできるが、できるだけ製造工程を簡単にして、効率よく製造できるようにするためには、上記強弾性の低伸度生地を、上記伸縮弾性生地の裏面または表面に重ねて設けることが適切な製造方法である。
【0037】
前記したウエスト部の環状ベルト1は、上記した低伸度生地と同程度または、それ以上の強いゴム状弾性のある生地を3~5cm程度の幅の帯状に形成し、スポーツ用パンツAの上端部に一体に設けた袋帯状の部分に挿入して設けることができる。また、環状ベルト1はウエスト部に係止できるものであればよく、例えば骨盤の両脇から外側に突出する大転子の部分に対応する、いわゆる腰骨や腰の括れ部分に係止可能であるように長さ調節可能な帯紐状のベルト等であってもよい。
【0038】
前記低伸度生地aからなる側部支持帯3は、ウエスト部の両脇の環状ベルト1に上端部が縫着等により確実に連結又は重ね合わせて接続されており、その下部はスポーツ用パンツAの着用者の腰部の体幹形状に沿うように延長され、股上最下端2と同じ高さまで下方に帯状に延びるように設けられている。
【0039】
股上最下端2は、一般的なズボン等の下半身衣料としてのパンツの股上部分の最下端に相当する部分であり、換言すれば股下の最上端の部分である。
【0040】
このような股上最下端2の部分は、腰部と大腿部の境界部分に相当するので、腰部に対して大腿部が屈曲する際には、大腿四頭筋及び内転筋が最も弛んで膨らみ易い部分とほぼ同じ高さ(体幹の身長方向における高さ)に位置する部分である。
【0041】
そのため、この部分まで延びている低伸度生地a製の側部支持帯3から、さらに大腿部に沿って内転筋6M1及び大腿四頭筋6M2を斜めに横切っている大腿部支持帯6が弾性力を発揮すると、左右の大腿四頭筋6M2および内転筋6M1は、それぞれ弛んだ状態において揺れ動かないように保持される。
【0042】
一方、腰部背面側で側部支持帯3の下部の連結部3Cに接続した低伸度生地aからなる大臀筋支持帯4は、股上最下端2の左右の両側方に帯状に広がり、大臀筋下部4Mを揺れ動かないように包むに充分な幅で設けられている。
【0043】
大臀筋支持帯4は、スポーツ用パンツの着用された状態で、中央部が最も位置ずれし難い部位である股上最下端2に縫着等で接続されており、両端部は位置ずれし難い連結部3Cに接続されているので、大臀筋下部4Mを包む位置に安定して設けられ、常に安定した弾性力を発揮できる。
【0044】
このように設けられた大臀筋支持帯4は、例えばスポーツ用パンツAの着用者が走っている際に、大腿部を上下に動かすとき、大臀筋およびその周囲の皮下脂肪は、左右交互に弛んで揺れ動き、言い換えれば大臀筋及びその付近は身体の動きに連動して振動しやすいが、大臀筋支持帯4は腰部背面で位置ずれせずに大臀筋下部4Mを安定した弾性力で保持するので、大臀筋下部4Mは常に揺れ動かない状態にホールドされる。
【0045】
ハムストリング支持帯5は、左右のハムストリング5Mに沿ってそれぞれ下方に延びているが、上記のように安定した位置を維持する大臀筋支持帯4にその上端が縫着等により接続されているので、特に上方に引き上げる張力が安定して発揮されやすい。
【0046】
例えば着用者が走って大腿部を上方に引き上げたとき、ハムストリング支持帯5は、緊張の緩んだハムストリング5Mを揺れ動かないように上方に引き上げるように緊張し、その弾性力でハムストリングの筋肉の揺れや振動を防止する。
【0047】
また、大腿部支持帯6は、その上端を腰部の両脇における定点の連結部3Cで側部支持帯3と接続されている。
このため、着用者が走っている状態で足を伸ばして着地するとき、大腿四頭筋6M2および内転筋6M1は緊張力が緩められて弛んだ状態になるが、大腿部支持帯6が、緊張の緩んだ大腿四頭筋6M2および内転筋6M1を揺れ動かないように上方に引き上げて保持されやすく、これらの筋肉の揺れや振動を充分に防止する。
【0048】
このようにして大腿部支持帯6と側部支持帯3と大臀筋支持帯4と、ハムストリング支持帯5が所定位置で一体に連結して配置されるので、それらが一体となって連携し、大腿部支持帯6は着用者の大腿部の動きを充分に抑制し、しかも左右の大臀筋がそれぞれ個別に揺れた場合にも大臀筋支持帯4がそれらを確実に保持し、ハムストリング支持帯5も大臀筋支持帯4に係止されて安定したホールド作用を発揮するから、腰部その他の体幹を揺らし難くし、着用者が安定した姿勢を保って効率よく体幹や体肢を運動させることができるスポーツ用パンツとなる。
【0049】
また、この発明の実施形態のスポーツ用パンツAは、側部支持帯3で大腿部支持帯6と大臀筋支持帯4とを連結し、また後の二つの支持帯に対してハムストリング支持帯5を係止するというシンプルな構造によって、大臀筋、ハムストリング、内転筋及び大腿四頭筋という所定の筋肉に対するホールド作用が他の筋肉の動きを規制せずに奏されるので、ランニングなどに必要な一連の筋肉の連携した動きを妨げることがなく、例えば足上げの高さや歩幅を減少させないものになる。
【0050】
そのため、この発明の実施形態のスポーツ用パンツAは、歩行やランニングに際し、所定の筋肉群に対して最小限のサポート機能による最大限の運動量を効率よく発揮する効果を期待できるものであり、例えばマラソン等の競走、競歩、その他の競技にも使用可能なスポーツ用パンツであるとも言える。
【実施例
【0051】
上述の実施形態において、基材となる伸縮弾性生地としてポリエステルとポリウレタンを交編した2倍伸のトリコット素材を採用し、強弾性の低伸度生地として同様のトリコット素材で1.5倍伸のものを採用し、これらを一体に縫製して図1~4に示されるスポーツ用パンツ(実施例)を作製した。
【0052】
この実施例または比較例のスポーツ用パンツを、被験者A(男性、35歳、身長168cm、体重62kg)及び被験者B(女性、39歳、身長168cm、体重53kg)に試着させ、23℃、湿度50%の室内で以下の測定試験によって筋肉の運動性を調べ、これらの結果を表1にまとめて示した。比較例のスポーツ用パンツとしては、実施例と同じ基材を用いているが低伸度生地によるテーピングが無く、着圧効果のみがあるものを用いた。
【0053】
<運動状態での筋電位測定試験>
所定ランニング速度(男性被験者A:6km/h、女性被験者B:4km/h)で駆動されているトレッドミル上をランニングしている状態での被験者A,Bの大腿四頭筋及び腓腹筋の筋電位(mV・msec)を測定し、筋肉活動量を調べた。
【0054】
<運動状態での呼気代謝測定試験>
上記同条件でトレッドミル上をランニングしている状態及びランニング前の安静状態で、それぞれ被験者A,Bの呼気代謝を呼気ガス分析装置で測定し、運動時と安静時の呼気代謝量(kcal/day)の差から筋肉運動による疲労程度を評価した。
【0055】
<歩幅の測定試験(歩行動作の解析)>
約7mの直線状コースに沿って歩行する被験者A,Bの動作を解析し、同コース後半部分での歩幅を計測した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示される試験結果からも明らかなように、被験者A、Bのランニング状態の大腿四頭筋の筋電位は、実施例を着用した場合の方が、比較例を着用した場合に比べて0.5~4.7%高かった。また、実施例を着用すると、直接にはサポートされていない「ふくらはぎ」の腓腹筋の筋電位も1.5~8.2%高められていることから、副次的効果も認められた。
【0058】
また、同ランニング状態における被験者A、Bの呼気代謝量は、実施例を着用した場合の方が、比較例着用の場合に比べて4.5~13.3%少なくなっていることから、少ない消費カロリーで効率よく筋肉が使用されていることが分かり、このことから実施例のスポーツ用パンツに疲労の軽減作用のあることが分かった。
【0059】
さらにまた、歩行動作の解析結果からは、実施例を着用した場合に大腿四頭筋、ハムストリング、大臀筋等の筋肉運動が制限されるにも拘わらず、歩幅は殆ど減少せず、歩行動作を妨げないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
この発明のスポーツ用パンツは、各種競技の基本運動となるランニングなど、トラック競技等の陸上競走に有効である他、他の体操や球技などの各種競技にも利用可能なものであり、例えば、野球、フットボール、ラグビー、アメリカンフットボール、クリケット、ソフトボールなどのあらゆる球技にも有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 環状ベルト
2 股上最下端
3 側部支持帯
3C 連結部
4 大臀筋支持帯
4M 大臀筋下部
5 ハムストリング支持帯
5M ハムストリング
6 大腿部支持帯
6M1 内転筋
6M2 大腿四頭筋
10、11、12 テーピングライン
13 第1緊締部
14 第2緊締部
15 第3緊締部
A,B,C スポーツ用パンツ
1 伸縮弾性生地
2 低伸度生地
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8