(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】炭化燃焼材料、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C10L 5/48 20060101AFI20240513BHJP
B01J 20/24 20060101ALI20240513BHJP
C10L 5/44 20060101ALI20240513BHJP
C10B 53/07 20060101ALI20240513BHJP
C10B 53/02 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
C10L5/48
B01J20/24 C
C10L5/44
C10B53/07
C10B53/02
(21)【出願番号】P 2021161749
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2020168049
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)集会の開催日:令和2年10月3日 エコテックグランプリ (2)集会の開催日:令和2年10月29日 イッカクプロジェクト中間報告会 (3)発行日:令和2年10月1日 びわ湖東北部地域の産学官連携ハンドブック vol.2,第24頁~25頁,びわ湖東北部地域連携協議会 (4)集会の開催日:令和2年11月9日 情報機構セミナー(オンライン) (5)集会の開催日:令和2年11月11日 しが水環境ビジネスフォーラム (6)ウェブサイトの掲載日:令和3年2月8日 https://ikkaku.lne.st/team/ (7)ウェブサイトの掲載日:令和3年2月8日 https://novelgen.jp/2021/02/08/「プロジェクト・イッカク」二期リーダー機関と/ (8)集会の開催日:令和2年11月28日 アントレプレナーラボツアー (9)集会の開催日:令和3年2月10日 環境・農水常任委員会 (10)ウェブサイトの掲載日:令和3年2月10日 https://www.shigaken-gikai.jp/voices/cgi/voiweb.exe?ACT=200&KENSAKU=1&SORT=0&KTYP=1,2,3,0&FBKEY1=%8F%AC%91q%8F%7E&FBMODE1=SYNONYM&FBMODE2=SYNONYM&FBMODE3=SYNONYM&FBMODE4=SYNONYM&FBCHK=AND&KGTP=1,2,3&TITL_SUBT=%97%DF%98a%81@%82R%94N%81@%82Q%8C%8E%82P%82O%93%FA%8A%C2%8B%AB%81E%94_%90%85%8F%ED%94C%88%CF%88%F5%89%EF%81%7C02%8C%8E10%93%FA-01%8D%86&KGNO=1366&FINO=2540&HUID=194000&UNID=K_R03021012011 https://www.shigaken-gikai.jp/voices/GikaiDoc/attach/Nittei/Nt15346_01.pdf (11)ウェブサイトの掲載日:令和3年3月4日 https://minsaku.com/articles/post704/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (12)集会の開催日:令和3年4月28日 藤森科学技術振興財団授与式(オンライン) (13)集会の開催日:令和3年7月21日 福島アクセラレーションプログラムキックオフシンポジウム(オンライン) (14)集会の開催日:令和3年9月30日 マイクロプラスチック問題の実態・影響評価とその除去・回収技術~微細藻類の利用、社会実装・事業化への取り組み~(オンライン) https://www.monodukuri.com/seminars/detail/18918
(73)【特許権者】
【識別番号】520385537
【氏名又は名称】株式会社ノベルジェン
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】小倉 淳
(72)【発明者】
【氏名】田端 裕正
(72)【発明者】
【氏名】河田 吉弘
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0206571(US,A1)
【文献】特開2017-132828(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0056124(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105542896(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0361371(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/48
B01J 20/24
C10L 5/44
C10B 53/07
C10B 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロプラスチックを吸着させた藻類を炭化させた炭化物を含む炭化燃焼材料。
【請求項2】
前記マイクロプラスチックが、マイクロプラスチックを含有する被処理水から前記藻類により吸着回収されたマイクロプラスチックである、請求項1に記載の炭化燃焼材料。
【請求項3】
前記藻類が淡水藻類である、請求項1又は2に記載の炭化燃焼材料。
【請求項4】
前記藻類が、粘着性物質を分泌する藻類である、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭化燃焼材料。
【請求項5】
前記粘着性物質が多糖類である、請求項4に記載の炭化燃焼材料。
【請求項6】
前記藻類が、珪藻、褐藻、渦べん毛藻、クロララクニオン藻、緑藻、紅藻、接合藻、ユーグレナ藻及び藍藻から選択される少なくとも一種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の炭化燃焼材料。
【請求項7】
炭化前の無水重量を基準とする、前記マイクロプラスチック及び前記藻類の各含有率の和が、20~80wt%である、請求項1~6のいずれか1項に記載の炭化燃焼材料。
【請求項8】
セルロースの炭化物をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の炭化燃焼材料。
【請求項9】
前記炭化燃焼材料の形状がペレット状である、請求項1~8のいずれか1項に記載の炭化燃焼材料。
【請求項10】
マイクロプラスチックを吸着した藻類を含む被炭化物を炭化する炭化工程を含む炭化燃焼材料の製造方法。
【請求項11】
前記炭化工程の前工程として、マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類を、マイクロプラスチックを含有する被処理水中に存在させる吸着工程をさらに含む、請求項10に記載の炭化燃焼材料の製造方法。
【請求項12】
前記藻類が淡水藻類である、請求項10又は11に記載の炭化燃焼材料の製造方法。
【請求項13】
前記藻類が、粘着性物質を分泌する藻類である、請求項10~12のいずれか1項に記載の炭化燃焼材料の製造方法。
【請求項14】
前記粘着性物質が多糖類である、請求項13に記載の炭化燃焼材料の製造方法。
【請求項15】
前記藻類が、珪藻、褐藻、渦べん毛藻、クロララクニオン藻、緑藻、紅藻、接合藻、ユーグレナ藻及び藍藻から選択される少なくとも一種である、請求項10~14のいずれか1項に記載の炭化燃焼材料の製造方法。
【請求項16】
前記炭化工程における温度が200~400℃である、請求項10~15のいずれか1項に記載の炭化燃焼材料の製造方法。
【請求項17】
前記炭化工程の後工程として、前記炭化燃焼材料を圧縮成形する成形工程をさらに含む、請求項10~16のいずれか1項に記載の炭化燃焼材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化燃焼材料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスは、燃料等のエネルギーとして利用できる動植物由来の有機物である。例えば、木材、乾燥草木、農産廃棄物、畜産廃棄物、下水汚泥等がこれに該当する。近年、石油等の枯渇性資源の代替として、これらをエネルギー源として利用する方法が模索されている。特許文献1には、バイオマス資源を用いた藻類産生油の製造方法が開示されている。
【0003】
一方、近年、プラスチックが砕ける等して生成したマイクロプラスチックが環境に与える影響が問題になっている。マイクロプラスチックは、食物連鎖や様々な経路から人の体内に侵入し、少しずつ蓄積していくといわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、環境中のマイクロプラスチックを利用した、新規なバイオマス由来の燃焼材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題について鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の第一の態様によれば、マイクロプラスチックの炭化物と、前記マイクロプラスチックを吸着した藻類の炭化物と、を含む炭化燃焼材料が提供される。
【0008】
本発明の第二の態様によれば、マイクロプラスチックを吸着した藻類を含む被炭化物を炭化する炭化工程を含む炭化燃焼材料の製造方法が提供される。
【0009】
前記第一の態様において、前記マイクロプラスチックが、マイクロプラスチックを含有する被処理水から前記藻類により吸着回収されたマイクロプラスチックであってもよい。
【0010】
前記第一の態様及び第二の態様において、前記藻類が淡水藻類であってもよい。
【0011】
前記第一の態様及び第二の態様において、前記藻類が、粘着性物質を分泌する藻類であってもよい。
【0012】
前記第一の態様及び第二の態様において、前記粘着性物質が多糖類であってもよい。
【0013】
前記第一の態様及び第二の態様において、前記藻類が、珪藻、褐藻、渦べん毛藻、クロララクニオン藻、緑藻、紅藻、接合藻、ユーグレナ藻及び藍藻から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0014】
前記第一の態様において、炭化前の無水重量を基準とする、前記マイクロプラスチック及び前記藻類の各含有率の和が、20~80wt%であってもよい。
【0015】
前記第一の態様において、セルロースの炭化物をさらに含んでもよい。
【0016】
前記第一の態様において、前記炭化燃焼材料の形状がペレット状であってもよい。
【0017】
前記第二の態様において、前記炭化工程の前工程として、マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類を、マイクロプラスチックを含有する被処理水中に存在させる吸着工程をさらに含んでもよい。
【0018】
前記第二の態様において、前記炭化工程における温度が200~400℃であってもよい。
【0019】
前記第二の態様において、前記炭化工程の後工程として、前記炭化燃焼材料を圧縮成形する成形工程をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、家庭用発電及び石炭火力発電等に有用な、環境中のマイクロプラスチックを利用した、新規なバイオマス由来の燃焼材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、藻類が分泌する粘着性物質の量の測定手順を示した図である。
【
図2】
図2は、炭化サンプル並びに炭化前の濾過残渣及び混合物の、含水基準における各含有成分を示した図である。
【
図3】
図3は、炭化サンプル並びに炭化前の濾過残渣及び混合物の、無水基準における各含有成分を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳述する。以下、本実施形態に係る炭化燃焼材料の製造方法について説明し、次いで、前記製造方法により得られる、本実施形態に係る炭化燃焼材料を説明する。
【0023】
≪炭化燃焼材料の製造方法≫
本実施形態に係る炭化燃焼材料の製造方法は、マイクロプラスチックを吸着した藻類を含む被炭化物(炭化燃焼材料用組成物)を炭化する炭化工程を含む。
【0024】
<マイクロプラスチック>
本実施形態に係る被炭化物は、マイクロプラスチックを含む。「マイクロプラスチック」とは、0.1μm以上5000μm以下のプラスチック粒子を指す(最大長部分)。ただし、本実施形態に係る被炭化物に存在する(又は存在する可能性のある)プラスチックとしては、マイクロプラスチックのみならず、0.1μm未満や5000μmを超えるプラスチック粒子を含んでいても構わない。また、マイクロプラスチックの実態としては、大半(例えば、全粒子個数の80%以上、90%以上、95%以上)が、例えば、0.1μm以上、0.5μm以上、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、10μm以上、50μm以上、100μm以上、500μm以上、1000μm以上、2500μm以上;2500μm以下、1000μm以下、500μm以下、100μm以下、50μm以下、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4μm以下、3μm以下である(最大長部分)。なお、周知のように、マイクロプラスチックとしては、一次マイクロプラスチック(マイクロサイズで製造されたプラスチック:例えば、洗顔剤、柔軟剤、緩効性肥料のカプセル等に利用)及び二次マイクロプラスチック(大きなプラスチックが、自然環境で破砕細分化されてマイクロサイズになったもの)とがある。
【0025】
<藻類>
本実施形態に係る被炭化物は、藻類を含む。本実施形態に係る藻類は、マイクロプラスチック吸着回収能を有する。「マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類」とは、藻類を存在させた場合における被処理水中のマイクロプラスチック濃度が、藻類を存在させない場合における被処理水中のマイクロプラスチック濃度と比較し、所定量(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%)以上低下させることが可能な藻類を指す(被処理水については、後述する)。ここで、このような性質を有する藻類としては、例えば、粘着性物質を分泌するストラメノパイルに属する珪藻・褐藻、アルベオラータに属する渦べん毛藻、リザリアに属するクロララクニオン藻、アーケプラスチダに属する緑藻・紅藻、接合藻、エクスカバータに属するユーグレナ藻、 真正細菌に属する藍藻;マイクロプラスチックを捕捉する物理的構造(例えば、多孔質構造、凹凸構造)を有する藻類(例えば、珪藻);マイクロプラスチックと逆電荷に帯電した藻類、を挙げることができる。例えば、微細藻類は形状もサイズも様々だが、表面積の大きな多孔性藻類や、糸状の群体を形成する藻類が存在する。このような構造にもマイクロプラスチックをからめとる機能がある。ここで、藻類は細胞外に様々な粘着性物質を放出することが知られており、本実施形態に係る藻類が分泌し得る粘着性物質は、典型的には多糖類であり、例えばテングサ等の紅藻、接合藻類であればアガロースやポルフィラン、コンブ等の褐藻類であればアルギン酸やフコース含有多糖といった物質である。
【0026】
本実施形態に係る藻類の大きさは、特に限定されない。ただし、吸着されるマイクロプラスチックのサイズが0.1μm以上5000μm以下であることを踏まえると、5000μm以上であること(例えば、連なったり群がったりした藻類の場合、これら連なったり群がったりした大きさ)が好適である。但し、藻類の大きさを被処理水に存在するマイクロプラスチックの主たる大きさに依存させてもよく、この場合、想定される藻類の大きさは、例えば、0.1μm以上、1μm以上、2μm以上、5μm以上、10μm以上、50μm以上、100μm以上、500μm以上、1000μm以上、2500μm以上、5000μm以下、2500μm以下、1000μm以下、500μm以下、250μm以下、100μm以下、50μm以下、25μm以下、20μm以下、10μm以下、5μm以下、1μm以下である。尚、ここでの「大きさ」は、最大径部分(例えば、棒状の藻類である場合には、長径部分)を指す。また、系内には様々な大きさの藻類が存在するが、ここでいう「大きさ」は、ランダムに取得した100個の藻類の大きさの平均値を指す。
【0027】
本実施形態に係る藻類が分泌する粘着性物質の量は、細胞サイズに比べて、細胞外に分泌した粘着性物質の容積が0.25倍以上であることが好適である。尚、粘着性物質の容積の測定方法は下記の通りである。スライドガラス上に微細藻類培養液10μL添加する。さらに5倍に希釈した墨汁を10μL添加して、墨汁と微細藻類培養液をよく混ぜ、カバーガラスをかけて顕微環境下で微細藻類の細胞容積と細胞外粘質物の容積を測定する。Kishimoto et al.の手法{Kishimoto N., Ichise S., Suzuki K., Yamamoto C.: Analysis of long-term variation in phytoplankton biovolume in the northern basin of Lake Biwa. Limnology 14: 117-128(2013)}に則り、各藻類を楕円柱、楕円形、直方体及びこれらの組み合わせで近似し、細胞容積の算出を行う。細胞外粘質物容積に関しては、墨汁で染色されなかった部分を含む容積を算出し、細胞容積を除算することによって細胞外粘質物容積を求める。
図1は、上記手順を示した図である。また、系内には様々な大きさの藻類が存在するが、ここでいう「量」は、ランダムに取得した100個の藻類の大きさの平均値を指す。
【0028】
本実施形態に係る藻類の生育場所は、海水、淡水、汽水等が挙げられ、特に限定されないが、淡水で生息可能なものが好ましい。淡水中で生育させた藻類は塩素等の不純物の含有量が少ないため、炭化工程の際に有害なガス等が発生しにくい。淡水中で生育可能な藻類であれば、本来の生育場所は特に限定されないが、成長効率が良いことから淡水藻類が好ましい。淡水藻類としては、例えば、珪藻、緑藻、褐藻、渦鞭毛藻、接合藻、ユーグレナ藻等が挙げられる。また、本実施形態に係る藻類は、藻類組成物であってもよい。具体的には、同種又は異種の藻類の群れであってもよい。
【0029】
本実施形態に係る藻類は、水中から回収した直後の藻類であっても、回収後に乾燥させた藻類であってもよい。藻類の乾燥には、公知の方法を利用できる。藻類の乾燥方法としては例えば、風乾、濾過、遠心分離、凍結乾燥、スプレードライ等が挙げられる。
【0030】
本実施形態に係る被炭化物中の藻類及びマイクロプラスチックの各含有率の和の下限値は、炭化前の無水重量を基準として、20wt%以上が好ましく、30wt%以上がより好ましく、40wt%以上がさらに好ましい。一方、本実施形態に係る被炭化物中の藻類及びマイクロプラスチックの各含有率の和の上限値は、炭化前の無水重量を基準として、80wt%以下が好ましく、70wt%以下がより好ましく、60wt%以下がさらに好ましい。
被炭化物中の藻類及びマイクロプラスチックの各含有率の和の下限値を上記値とすることにより、藻類及びマイクロプラスチックを十分に活用した炭化燃焼材料を得ることができる。また、被炭化物中の藻類及びマイクロプラスチックの各含有率の和の上限値を上記値とすることにより、藻類及びマイクロプラスチックの使用量を抑えつつ、炭化燃焼材料を得ることができる。被炭化物中の藻類の含有量は、炭化前の無水重量を基準として20~80wt%が好ましく、30~60wt%がさらに好ましい。
【0031】
本実施形態に係る被炭化物中の藻類の含有率とマイクロプラスチックの含有率との比は、藻類によるマイクロプラスチックの回収量によるが、典型的には、0.001:1~0.5:1である。
【0032】
<その他の被炭化物>
本実施形態に係る被炭化物に含み得る成分としては、炭化燃焼材料の炭素源となるセルロースが挙げられる。セルロースを含む材料としては、例えば、木質材料、農産廃棄物、畜産廃棄物、下水汚泥等が挙げられ、供給が安定している木片及び竹片がさらに好ましい。セルロースを含む木質材料及び農産廃棄物としては、具体的に例えば、製材時に排出される樹皮、おがくず、木粉(おが粉ともいう)、間伐材、及び稲藁等が挙げられる。藻類は炭化水素を多く含む一方、水分を含み得る。そのため、炭化工程を穏やかに進行するためには、おがくず等の吸水性又は保湿性を有する材料により被炭化物における含水率を下げることが好ましい。被炭化物における含水率としては、40~70wt%が好ましく、50~60wt%がさらに好ましい。被炭化物における含水率がこのような範囲であると、吹きこぼれ等が起きにくく、炭化工程を穏やかに進行させることができる。
【0033】
本実施形態に係る被炭化物に含み得る成分としては、炭化燃焼材料の炭素源となるヘミセルロース、リグニンが挙げられる。上述したセルロースを含む各材料は、いずれもヘミセルロース及びリグニンを含む。
【0034】
本実施形態に係る被炭化物に含み得る材料としては、上述したマイクロプラスチックのサイズに該当しないプラスチックが挙げられる。プラスチックの炭化物は、後述するマイクロプラスチックの炭化物と同様に、固定炭素を多く含む。そのため、プラスチックの炭化物を含む炭化燃焼材料は高い熱量を有する。プラスチックには、例えば、プラスチックごみを利用することができる。
【0035】
<炭化工程>
被炭化物の炭化は、公知の方法を利用できる。炭化の方法としては、例えば、無酸素又は低酸素状態を実現可能な炉の中に被炭化物を配置し、一定期間、無酸素又は低酸素状態で加熱する方法が挙げられる。本実施形態に係る炭化は、比較的高温である高温炭化(加熱時の炉内温度が、例えば600~800℃)でも、比較的低温である低温炭化(加熱時の炉内温度が、例えば200~400℃)でもよいが、有害ガスが発生しにくくなる低温炭化が好ましい。具体的には、加熱時の炉内温度が、200~400℃であることが好ましく、250~400℃であることがさらに好ましい。また、加熱時間は被炭化物及び目標含水率によって変動し、任意に設定できる。加熱時間は、例えば、10分以上、20分以上、30分以上、1時間以上、3時間以上にすることができる。
【0036】
本実施形態に係る被炭化物に含まれる藻類等は、揮発性有機物を含み得る。短時間の低温炭化(半炭化ともいう)の場合、沸点が炉内温度以上の揮発性有機物が炭化物に残留するため、エネルギー収率(原料及び投入エネルギーに対する燃料エネルギーの比)が向上する。一方、炭化時に揮発した揮発性有機物(燃焼ガスともいう)を別途回収して、液性燃焼材料として利用することもできる。
【0037】
<吸着工程>
本実施形態に係る炭化燃焼材料の製造方法は、炭化工程の前工程として、マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類を、マイクロプラスチックを含有する被処理水中に存在させる吸着工程をさらに含み得る。すなわち、本実施形態に係る炭化燃焼材料の製造方法によれば、環境中のマイクロプラスチックを回収でき、且つ、回収したマイクロプラスチック及び使用した藻類を炭化燃焼材料として再利用することができる。
【0038】
「被処理水」とは、特に限定されず、例えば、マイクロプラスチックが存在する水又は存在する可能性のある水であり、海水、淡水、汽水等を挙げることができる。被処理水の具体的な例としては、工業用水、工業廃水、下水処理水、生活排水、農業排水等が挙げられる。より具体的な例としては、ごみ処理場の排水及び発電所の排水が挙げられる。上述の通り、本実施形態に係る藻類は淡水藻類が好ましく、被処理水は淡水であることが好ましい。
【0039】
系内における好適な藻類濃度は、マイクロプラスチック濃度、マイクロプラスチックの大きさ、使用する藻類の種類等により変動する。
【0040】
系内における好適な吸着時間は、マイクロプラスチック濃度、マイクロプラスチックの大きさ、使用する藻類の種類、低減目標とするマイクロプラスチック濃度等により変動する。この条件設定は、例えば実施例に記載されたモデル実験を実行することにより決定可能である。吸着後の藻類は、系内に設置したフィルター等を用いて回収することができる。
【0041】
上述した実施形態では、藻類により被処理水からマイクロプラスチックが除去されるが、藻類の細胞内に取り込める化合物であれば、被処理水から除去される化合物に限定はない。たとえば、カドミウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マンガン等の重金属、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素等の放射性物質、還元型リン化合物やリン酸エステル化合物等のリン化合物、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素等の窒素化合物を被処理水から除去し、水処理(水質浄化)を図ることが可能である。
【0042】
<成形工程>
本実施形態に係る炭化燃焼材料の製造方法は、炭化工程の後工程として、前記炭化燃焼材料を圧縮成形する成形工程をさらに含み得る。成形は、公知任意の方法を利用できる。成形の方法としては、例えば、ペレット成形機を利用できる。本実施形態に係るペレット状の炭化燃焼材料とは、例えば、概略円柱形状であり、直径Dが3~20mm、長さLが3~50mm、かさ密度BDが500~900kg/m3であり得る。本実施形態に係るペレット状の炭化燃焼材料は、日本木質ペレット協会が規定する木質ペレット品質規格に準じた直径(D:6±1mm又は8±1mm)、長さ(3.15mm<L≦40mm)、及びかさ密度(650kg/m3≦BD≦750kg/m3)であることが好ましい。炭化燃焼材料がこのような範囲であると、ペレットストーブ、業務用ボイラー等の汎用的なペレット燃焼機器に使用できる。
【0043】
≪炭化燃焼材料≫
本実施形態に係る炭化燃焼材料は、マイクロプラスチックの炭化物と、前記マイクロプラスチックを吸着した藻類の炭化物と、を含む炭化燃焼材料である。本実施形態に係る炭化燃焼材料における、マイクロプラスチック及び藻類は上述の通りである。本実施形態に係る炭化燃焼材料は、上述した製造方法により取得できる。
【0044】
本実施形態に係る炭化燃焼材料の含水率は30wt%以下が好ましく、20wt%以下がより好ましく、10wt%以下がさらに好ましい。含水率がこのような範囲であると、炭化燃焼材料を燃焼させた際に大きなエネルギーを得ることができる。
【0045】
本実施形態に係る炭化燃焼材料は、炭化により水分及び揮発性有機物が減少し、固定炭素の割合は、例えば、無水基準で10wt%以上、20wt%以上、30wt%以上、40wt%以上、50wt%以上、60wt%以上であり得る。炭化燃焼材料における固定炭素の含有量は、例えば、JIS M 8812:2004に準拠して測定することができる。本実施形態に係る炭化燃焼材料は、マイクロプラスチックの炭化物及び該マイクロプラスチックを吸着した藻類の炭化物を含む。マイクロプラスチックを炭化すると、炭化水素、一酸化炭素、及び水素等のガスと固定炭素を主成分とする炭化物が生成される。また、藻類は上述した通り、炭化水素を多く含み、その他に水分及び揮発性有機物を含み得る。藻類を炭化すると、水分及び一部の揮発性有機物が揮発し、炭化物が生成され、さらに残りの揮発性有機物が残留する。炭化後の炭化物中の固定炭素の割合は、無水基準で40wt%以上が好ましい。固定炭素がこのような割合である炭化燃焼材料は、高い熱量を有する。このようなバイオマス資源を利用した炭化燃焼材料は、ガソリン等の化石燃料の代替として使用することができる。
【0046】
本実施形態に係る炭化燃焼材料は、無水基準で10~20メガJ/kgの熱量を有し、従来の木質炭化ペレットと同等の熱量を有する。炭化燃焼材料の熱量は、例えば、JIS M 8814:2003に準拠して測定することができる。本実施形態に係る炭化燃焼材料は、例えば、家庭用小型発電機、木炭ストーブ等の家庭用発電や、大型ボイラー等を用いた石炭火力発電に利用することができる。
【0047】
本実施形態に係る炭化燃焼材料の形状は、ペレット状であり得る。ペレット状の炭化燃焼材料は圧密化されており、体積当たりの燃焼効率が高いため、運搬効率に優れる。
【0048】
また、本実施形態に係る炭化燃焼材料は、土壌改良資材としても利用できる。細孔を有する炭化燃焼材料は、土壌の透水性及び通気性を向上させることができる。また、土壌の酸性度を目的pHに調節することもできる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0050】
<藻類の培養>
珪藻(Skeletonema tropicum)を、まず、500mL細胞培養フラスコを用いて前培養した。培地としては、f/2培地(組成は表1に記載;f/2培地に含まれるf/2metalsの組成は表2に記載)を用い、200mLの当該培地に、培養開始時の藻類細胞が7000cells/mLになるように藻類を播種した。これを20℃人工気象器に入れ、14日間静置培養して前培養フラスコとした。この前培養フラスコを20本作製し、合計4Lの種母培養液を用意した。続いて、500L培養槽2槽にそれぞれ400Lの人工海水を作製した。該培養槽には、エアーポンプ(ゼンスイ RLP-100)を二分岐して接続し、2槽合計140L/分の風量で空気を吹き込み攪拌した。4Lの種母培養液を一方の500L培養槽に添加し、7日間エアーにより攪拌しながら培養した。最後に、500L培養槽2槽に、マイクロプラスチックとして、粒径約120μmのPVC(ポリ塩化ビニル)粉末5gをそれぞれ添加し、3日間エアーにより攪拌しながら培養を継続して、藻類培養液及びコントロールを得た。
【0051】
【0052】
【0053】
<マイクロプラスチック回収試験>
上述した<藻類の培養>で得られた藻類培養液及びコントロールから、それぞれ50mLずつ採取した。これを、旋回とピペッティングにより懸濁した。50mLチューブに50μmセルストレーナー(pluriStrainer 50μm)を、コネクターリングを使いセットした。続いて、採取した藻類培養液及びコントロールを、それぞれセルストレーナーでシリンジを使い減圧濾過した。濾過により得た一次濾過サンプルは蓋をして実験台に保管した。検量線用のPVC希釈系列を作成した。具体的には、PVC未添加の人工海水をPVC濃度0として、1.00×107PVC/mL(1mL中のPVC粉の数)のPVC溶液から1/2希釈を繰り返して、3.13×105PVC/mL、6.25×105PVC/mL、1.25×106PVC/mL、2.50×106PVC/mL、5.00×106PVC/mLのPVC溶液を調製した。
【0054】
<マイクロプラスチック濃度測定>
紫外可視光分光光度計BioSpec-Mini(島津製作所)を使用してPVCの蛍光である267nmの吸光度測定を行った。この際、PVC濃度を算出するため検量線用のPVC希釈系列を測定し、検量線を作成して一次回帰式を得た。続いて一次濾過サンプルの吸光度測定を行い、検量線によって得られた一次回帰式から一次濾過サンプル中のPVC濃度を算出した。なお、紫外可視光分光光度計で吸光度(OD267)を測定する際のベースライン補正用として、珪藻を加えていない、よく懸濁した人工海水を200mL程度用意し、ベースライン補正を実施した。藻類を培養した培養液中のPVC濃度とコントロール中のPVC濃度から、藻類によるPVC回収率を算出した。このときの藻類によるPVC回収率は、29.4%であった。
【0055】
<炭化サンプルの作製>
上述した<藻類の培養>で得られた藻類培養液から、表層の藻類を回収した。当該藻類を、漏斗型フィルターを用いて濾過した。当該濾過残渣15.14g及びおが粉5.12gを混合した。このとき、含水率計を用いて測定した各含水率は、それぞれ、濾過残渣が83.3wt%、おが粉が13.5wt%であった。なお、PVC重量は約0.5g以下であり、当該混合物におけるマイクロプラスチック及び藻類の各含有量の和は、無水重量において36wt%であった。当該混合物をるつぼに入れて蓋をし、マッフル炉(光洋リンドバーグ KBF-748)内に静置した。炉内温度を300℃に設定し、1時間加熱して、炭化サンプルを得た。同様の方法で、炉内温度300℃で30分、炉内温度400℃で1時間それぞれ加熱し、炭化サンプルを得た。各炭化サンプルの重量を測定し、重量収率を測定した。このときの結果を表3に示す。
【0056】
【0057】
<炭化物の分析>
上記<炭化サンプルの作製>で得られた各炭化サンプルについて、ペレタイザーにより日本木質ペレット協会が規定する木質ペレット品質規格に準じた形状(直径及び長さ)及びかさ密度に成形した。当該各炭化サンプル並びに炭化前の濾過残渣及び混合物の含有成分を、JIS M 8812:2004に準拠して測定した。具体的には、サンプルを107℃で1時間加熱した際の減量分を水分とした。続いて、当該サンプルを蓋つきのるつぼに入れて900℃で1時間強熱した際の減量分を揮発分とした。最後に、当該サンプルを500~815℃で3時間加熱した際の減量分を固定炭素とし、加熱後の残渣を灰分とした。このときの各含有成分比の結果を
図2に示す。
図2より、いずれの炭化サンプルも含水率は10wt%以下であった。また、このときの無水基準での各含有成分比の結果を
図3に示す。
図3より、いずれの炭化サンプルも、炭化物中の固定炭素の割合は無水基準で約60wt%であった。さらに、炉内温度300℃で30分炭化した炭化サンプルについて、JIS M 8814:2003に準拠して発熱量分析を行った。その結果、当該サンプルは無水基準で17.1メガJ/kgの熱量を有していた。