(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】サンプルに対する光誘起力を改善するためにセンサ分子を用いるスキャニングプローブ顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/24 20100101AFI20240513BHJP
G01N 21/3563 20140101ALI20240513BHJP
G01N 21/21 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
G01Q60/24
G01N21/3563
G01N21/21 Z
(21)【出願番号】P 2021516551
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 US2019034058
(87)【国際公開番号】W WO2019227078
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-24
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518372822
【氏名又は名称】モレキュラー・ビスタ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MOLECULAR VISTA, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【氏名又は名称】芦北 智晴
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・アール・アルブレヒト
(72)【発明者】
【氏名】デレク・ノワック
(72)【発明者】
【氏名】ジョンフン・チャン
(72)【発明者】
【氏名】ソン・アイ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ウンソン・リー
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/089022(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/101429(WO,A1)
【文献】特表2013-534323(JP,A)
【文献】特表2015-535601(JP,A)
【文献】特開平05-087559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00-90/00
G01N 21/3563
G01N 21/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキャニングプローブ顕微鏡において、
誘電定数εを有する少なくとも1つの材料を含むサンプルとインターフェースするための金属プローブチップを有するカンチレバーと、
電磁放射を金属プローブチップとサンプルとの間のインターフェースに伝送するための光源と、
前記カンチレバーを振動させる前記カンチレバーに結合された振動駆動装置と、
前記金属プローブチップと前記サンプルの表面との間の共鳴センサ材料と、
前記共鳴センサ材料による電磁放射の吸収を検出するための検出システムであって、前記共鳴センサ材料による電磁放射の吸収は、前記サンプルの少なくとも1つの材料の誘電定数εに依存する、前記検出システムとを含む、スキャニングプローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記検出システムは、前記サンプルとインターフェースされる時、前記プローブチップに作用する光誘起力または力の勾配を測定することにより、前記共鳴センサ材料による前記電磁放射の吸収を検出する、請求項1に記載のスキャニングプローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記検出システムは、前記プローブチップと前記サンプルとのインターフェースにおいて、前記プローブチップ、前記共鳴センサ材料および前記サンプルの組み合わせによって散乱した前記電磁放射を検出することにより、前記共鳴センサ材料による前記電磁放射の吸収を検出する、請求項1に記載のスキャニングプローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記光源は、調整可能なレーザを含み、前記共鳴センサ材料は、前記調整可能なレーザの波長範囲内で吸収共鳴を有する、請求項1に記載のスキャニングプローブ顕微鏡。
【請求項5】
前記共鳴センサ材料は、前記プローブチップに付着する、請求項1に記載のスキャニングプローブ顕微鏡。
【請求項6】
前記光源は、調整可能なレーザを含み、前記共鳴センサ材料は、前記調整可能なレーザの波長範囲内で吸収共鳴を有する、請求項5に記載のスキャニングプローブ顕微鏡。
【請求項7】
前記共鳴センサ材料は、前記プローブチップの少なくとも頂点に付着した材料の薄膜を含む、請求項5に記載のスキャニングプローブ顕微鏡。
【請求項8】
前記共鳴センサ材料は、前記プローブチップの少なくとも頂点に付着する材料の自己組織化単分子膜を含む、請求項5に記載のスキャニングプローブ顕微鏡。
【請求項9】
前記共鳴センサ材料は、前記プローブチップの長さに沿って前記プローブチップの軸に平行な方向に50nmより厚くない、請求項5に記載のスキャニングプローブ顕微鏡。
【請求項10】
前記共鳴センサ材料は、シロキサン含有材料を含み、前記光源からの電磁放射は、前記シロキサン含有材料の少なくとも1つの吸収共鳴を生成できる、請求項5に記載のスキャニングプローブ顕微鏡。
【請求項11】
前記共鳴センサ材料の吸収共鳴は、波長の赤外線または可視光波長範囲内にある、請求項1に記載のスキャニングプローブ顕微鏡。
【請求項12】
スキャニングプローブ顕微鏡を動作する方法において、
金属プローブチップが誘電定数εを有する少なくとも1つの材料を含むサンプルとインターフェースするように振動させるために前記スキャニングプローブ顕微鏡の金属プローブチップでカンチレバーを駆動するステップと、
電磁放射で前記プローブチップと前記サンプルとの間のインターフェースを照射する光源を変調するステップであって、共鳴センサ材料は、前記金属プローブチップと前記サンプルの表面との間に位置する、前記光源を変調するステップと、
前記共鳴センサ材料による電磁放射の吸収を検出するステップであって、前記共鳴センサ材料による電磁放射の吸収は、前記サンプルの少なくとも1つの材料の誘電定数εに依存する、前記電磁放射の吸収を検出するステップとを含む、スキャニングプローブ顕微鏡を動作する方法。
【請求項13】
前記電磁放射の吸収を検出するステップは、前記サンプルとインターフェースされる時、前記プローブチップに作用する光誘起力または力の勾配を測定するステップを含む、請求項
12に記載のスキャニングプローブ顕微鏡を動作する方法。
【請求項14】
前記電磁放射の吸収を検出するステップは、前記プローブチップと前記サンプルとのインターフェースにおいて、前記プローブチップ、前記共鳴センサ材料および前記サンプルの組み合わせによって散乱した前記電磁放射を検出するステップを含む、請求項
12に記載のスキャニングプローブ顕微鏡を動作する方法。
【請求項15】
前記光源を変調するステップは、調整可能なレーザを変調するステップを含み、前記共鳴センサ材料は、前記調整可能なレーザの波長範囲内で吸収共鳴を有する、請求項
12に記載のスキャニングプローブ顕微鏡を動作する方法。
【請求項16】
前記共鳴センサ材料は、前記プローブチップに付着する、請求項
12に記載のスキャニングプローブ顕微鏡を動作する方法。
【請求項17】
前記共鳴センサ材料は、前記プローブチップの少なくとも頂点に付着する材料の自己組織化単分子膜を含む、請求項
16に記載のスキャニングプローブ顕微鏡を動作する方法。
【請求項18】
前記共鳴センサ材料は、シロキサン含有材料を含み、前記光源を変調するステップは、前記電磁放射時、前記シロキサン含有材料の少なくとも1つの吸収共鳴を生成できる波長範囲で生成されるように前記光源を変調するステップを含む、請求項
16に記載のスキャニングプローブ顕微鏡を動作する方法。
【請求項19】
前記サンプルを前記共鳴センサ材料でコーティングするステップをさらに含む、請求項
12に記載のスキャニングプローブ顕微鏡を動作する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年5月25日付で出願された米国仮特許出願第62/676,878号の優先権(benefit)を受けることができ、これは本明細書において参照として組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
光誘起力顕微鏡(photo-induced force microscopy;PiFM)は、金属コーティングされた原子間力顕微鏡(atomic force microscopy;AFM)プローブチップ(probe tip)を用いて、AFMプローブチップとチップ頂点の下にあるサンプルの局所的な光学的偏光性を測定するための、サンプルの間で作用する光誘起力および/または力の勾配(force gradient)を検出する。信号の強度を決定する重要な要素は、金属コーティング、プローブチップの形状、および励起光のP偏光(チップ軸と略平行な光の電場)によるフィールドエンハンスメント(field enhancement)である。エンハンスメントされたフィールドは、頂点で最も強く、頂点から距離が遠くなるにつれて(~10s nmで)急速に減衰する。金属は通常、波長の関数として赤外線(IR)励起ソースに対する平坦な応答(flat response)を有するのに対し、サンプルは、サンプルの化学的構成(chemical makeup)に関連する振動共鳴に相応する少なくとも1つの目立った応答(pronounced response)を有することができ;やや頻度が少なく、プローブチップとサンプルはまた、プラズモン共鳴(plasmon resonance)といったよりエキゾチックな共鳴(exotic resonance)を有することができる。PiFMは、共鳴に関連するこれらの波長において強い信号を記録する。振動共鳴の波長が特定の分子組成(molecular composition)に関係するので、PiFMスペクトルは、nmスケールの空間分解能(nm-scale spatial resolution)でサンプルの局所的な化学的組成を示すことができる。
【0003】
サンプルの化学的構成を研究するために、振動およびプラズモン共鳴に依存する他のタイプのナノスケール機器(nanoscale instrument)は、励起光の吸収がサンプルの熱膨張を誘起する光熱誘起共鳴(photo-thermal induced resonance;PTIR)を含み、これによって、AFMカンチレバー(cantilever)の偏向信号および散乱スキャニング近接場光学顕微鏡(scattering scanning near-field optical microscope;s-SNOM、aperture less near-field optical microscopeともいう)が変更され、ここで、プローブチップからの散乱した近接場光子は遠距離光検出器によって収集される。このようなすべての技術(PiFM、PTIRおよびs-SNOM)で、サンプルの共鳴が検出される。したがって、このようなすべての技術はIR活性的でないサンプルではほとんど役に立たず、すなわち、赤外線励起は振動共鳴を励起しない。IR活性的でなかったり、使用中の赤外線レーザソースにより振動共鳴にアクセスできない重要なサンプルは多くある。特に、十分な量の電力で持続的に調整可能なIR光を生成する量子カスケードレーザは通常約5ミクロンから13ミクロンまでの範囲である。このようなスペクトル範囲でIR活性的でない特定の例の一部は、多くの2次元材料、シリコン、多様な金属およびシリコン-ゲルマニウム(SiGe)のような誘電体である。このような材料のほとんどは多様な応用分野で活発に使用され、ナノスケールの空間分解能でこれを強調できるものが良い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スキャニングプローブ顕微鏡および顕微鏡を動作する方法は、金属プローブチップとサンプルの表面との間に誘電定数εを有する少なくとも1つの材料がある共鳴材料を使用する。光源からの電磁放射(electromagnetic radiation)が金属プローブチップとサンプルとの間のインターフェースに伝送される時、サンプルの少なくとも1つの材料の誘電定数に依存する共鳴センサ材料による電磁放射の吸収が検出される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施例によるスキャニングプローブ顕微鏡は、誘電定数εを有する少なくとも1つの材料を含むサンプルとインターフェースするための金属プローブチップを有するカンチレバーと、電磁放射を金属プローブチップとサンプルとの間のインターフェースに伝送するための光源と、カンチレバーを振動させるカンチレバーに連結された振動駆動装置と、金属プローブチップとサンプルの表面との間の共鳴センサ材料と、共鳴センサ材料による電磁放射の吸収を検出するための検出システムとを含むが、共鳴センサ材料による電磁放射の吸収は、サンプルの少なくとも1つの材料の誘電定数εに依存する。
【0006】
本発明の一実施例によりスキャニングプローブ顕微鏡を動作する方法は、金属プローブチップが誘電定数εを有する少なくとも1つの材料を含むサンプルとインターフェースするように振動させるためにスキャニングプローブ顕微鏡の金属プローブチップでカンチレバーを駆動するステップと、電磁放射でプローブチップとサンプルとの間のインターフェースを照射する(irradiate)光源を変調するステップであって、共鳴センサ材料は、金属プローブチップとサンプルの表面との間に位置する、前記光源を変調するステップと、共鳴センサ材料による電磁放射の吸収を検出するステップであって、共鳴センサ材料による電磁放射の吸収は、サンプルの少なくとも1つの材料の誘電定数εに依存する、前記電磁放射の吸収を検出するステップとを含む。
【0007】
本発明の他の態様および利点は、本発明の原理の例として示された添付図面とともに後述する詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例によるスキャニングプローブ顕微鏡のブロック図である。
【
図2A】SiGeラインがSiO
2のマトリックスで繰り返されるサンプルの横断面図を例示する。
【
図2B】
図2Aに示されたサンプルにおいてSiGeラインを示すAFMトポグラフィーを例示する。
【
図2C】金属コーティングされたプローブチップで測定された、
図2Aに示されたサンプルのPiFMを例示する。
【
図2D】
図2Aに示されたサンプルのSiGeラインを横切るPiFMスペクトルを例示する。
【
図2E】本発明の実施例により
図2Aに示されたサンプルのSiGeライン上にチップがある時、1100cm
-1近傍のSi-O振動を示すセンサ分子材料の薄いコーティングがある金属プローブチップを用いて測定された、
図2Aに示されたサンプルのPiFMを例示する。
【
図2F】本発明の実施例により
図2Aに示されたサンプルのSiGeライン上にチップがある時、1266cm
-1で非常に大きいPiF信号を示すセンサ分子材料の薄いコーティングがある金属プローブチップを用いたPiFMスペクトルを例示する。
【
図2G】本発明の実施例によりSiGeが1270cm
-1でIR活性的振動モードを有しなくても、1270cm
-1でのPiFMイメージが実際にSiGeラインを明確に強調することを示すセンサ分子材料の薄いコーティングがある金属プローブチップを用いて測定された、
図2Aに示されたサンプルのPiFMを例示する。
【
図3】プローブチップが異なる誘電定数を有する材料上にある時、異なる電場を概略的に示す。
【
図4】本発明の実施例によりプローブチップが多様な誘電定数を有する材料上にある時、センサ材料のIRスペクトルおよびPiFMスペクトルが報告されることを示す。
【
図5A】本発明の実施例によりトポグラフィーによって生成されたポリマー内に埋め込まれた銀ナノワイヤ(silver nanowire)のイメージを示す。
【
図5B】本発明の実施例によりPiFMによって生成されたポリマー内に埋め込まれた銀ナノワイヤのイメージを示す。
【
図6】本発明の実施例によりスキャニングプローブ顕微鏡を動作する方法のプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述のように、光誘起力顕微鏡(PiFM)信号の強度を制御するパラメータの一つは、金属原子間力顕微鏡(AFM)プローブチップの頂点の下にある局所的なフィールドエンハンスメントである。電場強度の大きさは、金属プローブチップがサンプル/基質構造に電磁的にどれだけ良く結合されるかによって異なる。例えば、これはすべての近接場イメージングツール(PTIR、s-SNOMおよびPiFM)によく知られており、サンプルが金属基質に蒸着されると薄いサンプルの応答は向上し;これは、金属の非常に高い誘電定数によってギャップフィールド(プローブチップとサンプルの表面との間)が増加し、サンプルの見る有効フィールドが非金属基質よりはるかに高いからである。ギャップフィールドエンハンスメントの程度は基質の誘電定数に応じて異なり;誘電定数が高いほどフィールドエンハンスメントが大きくなる。したがって、誘電定数(εB>εC)が異なる2つの材料(BおよびC)上にf1で固有の振動共鳴を有する薄い均一な材料Aがある場合、f1でのPiFM信号は、B上にある時により強くなる。このような結果は、2つの材料BおよびCがIR活性的でなくても同一になる。したがって、材料BおよびCは、レーザソースによってアクセス可能な振動共鳴を有する均一な膜でこれを覆うことにより区別できる。誘電定数の異なる材料が区別できるものの、化学的識別は全体PiFMスペクトルが取得されたように明確でない。それにもかかわらず、正常なIR質疑(interrogation)下で多くの情報をレンダリング(rendering)しない時、異なる誘電定数に基づいて異なる材料を強調する能力は有用な能力である。材料Aは、材料BおよびCからなる実際のサンプルの情報を推測するのに使用できるので、センサ分子材料と見なされる。サンプル表面を均一なセンサ分子層でコーティングするより、プローブチップが代わりにセンサ分子でコーティングされ、BおよびCの露出したサンプル表面を残すことができる。サンプルがセンサ分子材料Aでコーティングされたチップでイメージングされる時、効果は同一になり、すなわち、チップがより高い誘電定数によって、材料B上にある時、PiFM信号はf1でより強い応答を示す。
【0010】
図1は、金属AFMプローブチップ102がセンサ材料104の層でコーティングされるスキャニングプローブ顕微鏡100の実施例を示す。スキャニングプローブ顕微鏡100は、光誘起力顕微鏡(PiFM)として作動し、ここで、カンチレバー106の1つの機械的共鳴はトポグラフィーを追跡(track)するのに用いられ、他の機械的共鳴は光誘起力または力の勾配を測定するのに用いられる。カンチレバー106は、振動駆動装置108、例えば、圧電変換器によって駆動され、周波数fjで金属プローブチップ102でカンチレバーを振動させ、励起光源110、例えば、調整可能なレーザ(tunable laser)110は、周波数fmで変調またはパルス化され、ここで、fm=fi+fjまたはfm=fj-fiであり、ここで、fiおよびfjは、カンチレバー106の第iおよび第j機械的共鳴である。
図1は、fj=j1およびfi=foである1つの組み合わせを示す。ディザ運動(dither motion)と光誘起力との間の非線形相互作用は、fiでカンチレバーの振動を生成する周波数混合をもたらす。周波数fiおよびfjの選択は、検出システム112の帯域幅に基づいて行われるが、1つの方法は、fiが第1屈曲モード(flexural mode)であり、fjがカンチレバーの第2屈曲モードであることを利用し;この設定において、Van der Waals相互作用は、第2屈曲モードでトポグラフィー測定のために測定され、Van der Waals相互作用に対する光誘起力の混合から生成されたサイドバンド(side band)は、カンチレバーの第1共鳴モードで測定される。
【0011】
図1に示されるように、調整可能なレーザ110からの電磁放射は、金属プローブチップ102とサンプル114との間のインターフェースに指向され、サンプル114は、誘電定数εを有する少なくとも1つの材料と、インターフェースに電磁放射を集中させるための放物面鏡(parabolic mirror)を含み得る1つ以上の光学要素116を用いて異なる誘電定数を有する少なくとも1つの他の材料とを含む。金属プローブチップ102は、固体金属チップまたは金属コーティングされたチップであってもよい。サンプル114は、X、YおよびZ方向にサンプルを移動可能なXYZサンプルスキャナの基質118上に配置される。
【0012】
検出システム112は、すべてよく知られた構成要素であるAFMフィードバック光源122、例えば、レーザと、光検出器124と、PiFMコントローラ126とを含む。AFMフィードバック光源122および光検出器124は、光誘起力および/またはプローブチップ102とサンプル114との間に作用する力の勾配とVan der Waals相互作用によってカンチレバー106の振動を光学的に検出するように動作する。PiFMコントローラ126は、カンチレバー106で反射したAFMフィードバック光源から受信された光に応答して、光検出器124によって生成された信号を処理するための電子装置を含む。PiFMコントローラ126は、サンプル内の材料の誘電定数に依存する共鳴センサ材料104によって光源110からの電磁放射の吸収を検出することができる。一実施例において、PiFMコントローラ126は、サンプル104とインターフェースされる時、プローブチップ102に作用する光誘起力または力の勾配を測定することによって、共鳴センサ材料104による電磁放射の吸収を検出する。一実施例において、PiFMコントローラ126はさらに、プローブチップ、共鳴センサ材料、およびプローブチップとサンプルのインターフェースでのサンプルの組み合わせによって散乱した電磁放射を検出することにより、共鳴センサ材料104による電磁放射の吸収を検出することができる。スキャニングプローブ顕微鏡100の詳細事項は、本明細書において参照として組み込まれる米国特許第8,739,311B2号に記載されている。
【0013】
PiFMは、励起波長がサンプルの振動または他の共鳴を励起できる時、サンプルによる励起光の吸収から発生する光誘起力を測定するのに用いられる。しかし、励起波長が正しい波長(right wavelength)を有するソースがなかったり、振動モードが「IR活性的」でないという事実によって、サンプルの特定の振動共鳴を励起できない場合、PiFMは波長におけるすべての信号を検出することができない。例えば、サンプルがSiO2およびSiGeからなる場合、標準PiFMは、~1100cm-1での吸収を使用することによりSiO2部分を識別できるのに対し、SiGeはPiFMとともに使用される通常のレーザソースの範囲でIR活性的振動モードがないため検出することができない。
【0014】
図2Aは、SiGeラインがSiO
2のマトリックスで繰り返されるサンプルの横断面図を示す。
図2Aに示されるように、隣接したSiGeラインは209nm離隔し、それぞれのSiGeラインの幅は24nmである。SiGeラインがSiO
2マトリックスよりもやや長いため、AFMトポグラフィーは、
図2Bに示されるように、SiGeラインを明確に示す。このようなサンプルがPiFMにおいて金属コーティングされたプローブチップで測定される時、SiO
2マトリックスは、
図2Cに示されるように、1120cm
-1で非常に明確に示され、SiGeラインは暗いラインとして示される。残念ながら、SiGeラインを検出するための量子カスケードレーザ(quantum cascade laser;QCL)で利用可能な波長はない。このように、PiFMスペクトルが、
図2Dに示されるように、SiGeラインを横切る時、Si-O振動から約1100cm
-1程度のPiF信号があることが分かる。しかし、1266cm
-1でIR活性的振動ピークを有するセンサ分子材料の薄いコーティングがある金属プローブチップが用いられる時、PiFMスペクトルは、
図2Eおよび2Fに示されるように、チップがSiGeライン上にある時、1100cm
-1近傍のSi-O振動に付加して、1266cm
-1で非常に大きいPiF信号を示す。このようなプローブチップで、
図2Gに例示されるように、1270cm
-1でのPiFMイメージは、SiGeが1270cm
-1でのIR活性的振動モードを有しなくても、SiGeラインを明確に強調する。このような付加的なコーティングがセンサ分子材料と呼ばれるのは、IR励起には見えない材料をマッピングする、かかるコーティング能力のためである。
【0015】
このような結果は、サンプルの誘電定数に応じてプローブチップにおける異なるフィールドエンハンスメントから生成される。誘電定数が高いほど、センサ分子材料の見るフィールドエンハンスメントは大きくなる。結果として、プローブチップが誘電定数のより高い材料上にある時、励起光の強度は、プローブチップが誘電定数のより低い材料上にある時よりも効果的にさらに高くなる。
【0016】
図3は、プローブチップが異なる誘電定数を有する材料上にある時、異なる電場を概略的に示す。プローブチップが白金(Pt)上にある時、最大フィールドエンハンスメントはM=232である。しかし、プローブチップがSiO
2上にある時、最大フィールドエンハンスメントはM=68である。したがって、自己IR活性的振動モードにおけるセンサ分子材料の反応は、誘電定数のより高い材料上にある時、より強く反応する。これは、サンプルがIR活性的でない構成要素を含む場合にも、PiFMが材料依存的コントラスト(material dependent contrast)を生成できるようにする。
図4は、プローブチップが多様な誘電定数を有する材料上にある時、センサ材料のIRスペクトルおよびPiFMスペクトルが報告されることを示す。
【0017】
光が非金属材料を大幅に透過できるので、非金属内に埋め込まれた金属の存在はフィールドエンハンスメントにも影響しうることが明らかになった。したがって、センサ分子の振動モードを用いることにより、埋め込まれた構造をさらにイメージ化できなければならない。
図5Aおよび5Bは、ポリマー内に埋め込まれた銀ナノワイヤがセンサ材料の振動モードのうちの1つで効果的にイメージ化されるイメージを示す。
図5Aは、トポグラフィーによって生成されたイメージを示す。
図5Bは、PiFMによって生成されたイメージを示す。
【0018】
センサ材料を有するAFMプローブチップは多様な方法で用意される。1つの接近方式は、センサ材料が蒸気として存在する環境にプローブチップを配置し、蒸気からの凝縮に依存してプローブチップをコーティングすることである。これに関する実際的な例は、高分子エラストマー材料(polymeric elastomer material)PDMS(ポリジメチルシロキサン)を含有する小さいエンクロージャ(enclosure)にプローブチップを配置することである。通常、このような環境に数日間露出した後、ナノスコピック(nanoscopic)のシロキサン含有材料層はプローブチップ上に形成されてセンサ材料として機能することができる。このような技術の変形は、プローブチップを蒸発器(センサ材料のバイアル(vial)がこれを蒸発させるために加熱される真空エンクロージャ)に配置することであり;蒸発した材料は真空を通過してプローブチップに蒸着される。他の接近方式は、ターゲットセンサ材料の単分子膜の自己集合(self-assembly)に必要な適切な種(species)を含む液体にプローブチップを配置することにより、チップに材料の自己組織化単分子膜を生成させることである。自己組織化有機層を生成する方法は科学文献に広く報告されている。センサ材料の薄い層を生成する他の接近方式は、プローブチップが溶媒に特定の濃度のセンサ材料が含まれた溶液に浸漬されるディップコーティングである。溶液からチップを除去すれば、溶媒は蒸発してセンサ材料コーティングが残る。
【0019】
一実施例において、金属プローブチップ102に用いられるセンサ材料104は、調整可能なレーザ110の波長範囲内で吸収共鳴を有する。センサ材料104の吸収共鳴は、赤外線または可視光波長範囲内にあってもよい。一実施例において、センサ材料104は、金属プローブチップ102の少なくとも頂点に付着する材料の自己組織化単分子膜である材料の薄膜であってもよい。一部の実施例において、センサ材料104は、チップの軸に平行な方向に50nmより厚くない分子のクラスター(cluster)の粒子であってもよい。本明細書で用いられたように、「粒子」は、単に単一分子から肉眼で見られる粒子(mmの分率(fraction))までの少量の材料を意味する。また、本明細書で用いられたように、「チップの軸に平行な方向」は、一般的にプローブチップの長さに沿った垂直方向、すなわち、プローブチップに向かうXYZサンプルスキャナ120の表面に垂直な方向を指す。さらに、本明細書で用いられたように、「チップの頂点近傍(near the apex of the tip)」は、チップとサンプルとの間にPiFM力を生成する範囲内にあることを意味し、これは、一般的に最大数十nmおよび最大100nmである。上述のように、金属プローブチップ102上で用いられるセンサ材料104は、調整可能なレーザ110によって生成された電磁放射によって生成可能な少なくとも1つの吸収共鳴を有するシロキサン含有材料であってもよい。
【0020】
本発明の実施例によりスキャニングプローブ顕微鏡100のようなスキャニングプローブ顕微鏡を動作させる方法は、
図6のフロー図を参照して説明される。ブロック602において、スキャニングプローブ顕微鏡の金属プローブチップを有するカンチレバーは振動するように駆動されることにより、金属プローブチップが誘電定数εを有する少なくとも1つの材料
を含むサンプル
とインターフェースするようにする。ブロック604において、電磁放射でプローブチップとサンプルとの間のインターフェースを照射する光源は変調され、ここで、共鳴センサ材料は金属プローブチップとサンプルの表面との間に位置する。ブロック606において、共鳴センサ材料による電磁放射の吸収が検出され、共鳴センサ材料による電磁放射の吸収はサンプルの少なくとも1つの材料の誘電定数εに依存する。
【0021】
一般的に、本明細書に説明され添付した図面に例示されるような実施例の構成要素は、非常に多様な異なる構成で配置され設計されうることを容易に理解できる。したがって、図示のように、多様な実施例に関する詳細な説明は本開示の範囲を制限しようとするものではなく、単に多様な実施例を代表するものである。実施例の多様な態様が図面に提示されているが、図面は特に示さない限り、必ずしも一定比率で描かれることはない。
【0022】
本発明は、その精神または本質的な特性を逸脱することなく他の特定の形態で実現できる。説明された実施例はあらゆる面で制限的でなく、単に例示的なものと見なされるべきである。したがって、本発明の範囲は、このような詳細な説明よりは、添付した請求範囲によって示される。請求範囲の同等性の意味および範囲内にあるすべての変更はその範囲内に含まれなければならない。
【0023】
本明細書全般にわたる特徴、利点または類似の言語についての言及は、本発明で実現できるすべての特徴および利点が、本発明の任意の単一の実施例であるか、その中にあるべきであることを意味しない。むしろ、特徴および利点を言及する言語は、実施例に関して説明された特定の特徴、利点または特性が本発明の少なくとも1つの実施例に含まれることを意味するものと理解される。したがって、本明細書全般にわたる特徴および利点および類似の言語についての議論は、同じ実施例を参照できるが、必ずしもその限りではない。
【0024】
また、本発明の説明された特徴、利点および特性は、1つ以上の実施例で任意の適切な方式で結合できる。かかる技術分野における熟練者は、本明細書の説明に照らして、本発明が特定の実施例の特定の特徴または利点のうちの1つ以上なしに実施できることを認識するであろう。他の例において、本発明のすべての実施例に存在しない特定の実施例で付加的な特徴および利点が認識できる。
【0025】
本明細書全般にわたる「一実施例」、「実施例」または類似の言語についての言及は、提示された実施例に関して説明された特定の特徴、構造または特性が本発明の少なくとも1つの実施例に含まれることを意味する。したがって、本明細書全般にわたる「一実施例において」、「実施例において」および類似の言語は、すべて同じ実施例を参照できるが、必ずしもその限りではない。
【0026】
上述した説明において、多様な実施例の特定の詳細事項が提供される。しかし、一部の実施例は、このような特定の詳細事項のすべてよりも少なく実施できる。他の例において、特定の方法、手順、構成要素、構造および/または機能は、簡潔性と明確性のために、本発明の多様な実施例を可能にすることよりも詳細に説明されない。
【0027】
本明細書の方法の動作が特定の順序で図示および説明されたが、それぞれの方法の動作の順序は、特定の動作が逆順に行われるか、特定の動作が少なくとも部分的に他の動作と同時に行われるように変更可能である。他の実施例において、別個の動作の命令語または下位動作は間欠的および/または交互に実現できる。
【0028】
また、本明細書に説明された方法に関する動作の少なくとも一部は、コンピュータによる実行のためにコンピュータ使用可能な記憶媒体に記憶されたソフトウェア命令語を用いて実現できることが注目されなければならない。例として、コンピュータプログラム製品の実施例は、コンピュータ読取可能なプログラムを記憶するためのコンピュータ使用可能な記憶媒体を含む。
【0029】
コンピュータ使用可能またはコンピュータ読取可能な記憶媒体は、電子、磁気、光学、電磁気、赤外線または半導体システム(または装置またはデバイス)であってもよい。非一時的(non-transitory)コンピュータ使用可能およびコンピュータ読取可能な記憶媒体の例は、半導体またはソリッドステートメモリ、磁気テープ、移動式コンピュータフロッピーディスク、RAM(random access memory)、ROM(read-only memory)、硬質磁器ディスク(rigid magnetic disk)および光ディスクを含む。現在、光ディスクの例は、CD-ROM(compact disk with read only memory)、CD-R/W(compact disk with read/write)およびデジタルビデオディスク(digital video disk;DVD)を含む。
【0030】
代案として、本発明の実施例は、完全にハードウェアまたはハードウェアおよびソフトウェア要素をすべて含むように実現できる。ソフトウェアを用いる実施例において、ソフトウェアは、ファームウエア、常駐ソフトウェア(resident software)、マイクロコードなどを含むことができるが、これに制限されない。
【0031】
本発明の特定の実施例が説明および例示されたが、本発明はそのように説明され例示された部分の特定の形態または配置に制限されない。本発明の範囲は、本明細書に添付した請求範囲およびその均等物によって定義されなければならない。