(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】弦楽器励振装置及び、振動伝達部、弦楽器励振システム、並びに弦楽器励振装置の取り付け方法
(51)【国際特許分類】
G10D 3/00 20200101AFI20240513BHJP
G10F 1/16 20060101ALI20240513BHJP
G10D 1/02 20060101ALN20240513BHJP
【FI】
G10D3/00
G10F1/16
G10D1/02
(21)【出願番号】P 2023150892
(22)【出願日】2023-09-19
【審査請求日】2023-09-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】323002266
【氏名又は名称】Strings Audio Lab合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093067
【氏名又は名称】二瓶 正敬
(72)【発明者】
【氏名】大島 英男
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-098306(JP,A)
【文献】特開2023-061702(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100754(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/199613(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 1/00-3/22
G10F 1/16-1/20
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弦楽器の複数の弦に取り付けられる弦楽器励振装置であって、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、
入力信号を受けて振動する振動装置と、
前記振動装置が接続されて、前記弦に前記振動装置からの振動を伝達する振動伝達部とを有し、
前記振動伝達部は、前記複数の弦に取り付けられたとき、
前記複数の弦の少なくとも1つの弦の上側に位置して、前記少なくとも1つの弦を下方に押し下げる部分と、
前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の下側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を上方に引き上げる部分と、
を有しているか、あるいは、
前記複数の弦の少なくとも1つの弦の下側に位置して、前記少なくとも1つの弦を上方に引き上げる部分と、
前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の上側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を下方に押し下げる部分と、
を有していて、前記振動伝達部は、その長手方向に伸長する板状、棒状、柱状のいずれかであるか、あるいは前記弦楽器本体に対向する下面が
その長手方向に直線的に伸長し、反対側の上面に両端部あるいは両端部からそれぞれ他端へ向かって所定距離の位置から前記長手方向の中心に位置する凹みの前記長手方向の両端までそれぞれ上昇する傾斜部がある柱状である弦楽器励振装置。
【請求項2】
弦楽器の複数の弦に取り付けられる弦楽器励振装置であって、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、
入力信号を受けて振動する振動装置と、
前記振動装置が接続されて、前記弦に前記振動装置からの振動を伝達する振動伝達部とを有し、
前記振動伝達部は、前記複数の弦に取り付けられたとき、
前記複数の弦の少なくとも1つの弦の上側に位置して、前記少なくとも1つの弦を下方に押し下げる部分と、
前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の下側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を上方に引き上げる部分と、
を有しているか、あるいは、
前記複数の弦の少なくとも1つの弦の下側に位置して、前記少なくとも1つの弦を上方に引き上げる部分と、
前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の上側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を下方に押し下げる部分と、
を有していて、前記振動伝達部は、前記複数の弦の少なくとも1つを保持するための切り込みを有し、前記切り込みは前記振動伝達部の上側又は下側に開口部を有し、前記開口部から前記振動伝達部
の長手方向に伸長するものである弦楽器励振装置。
【請求項3】
前記板状あるいは棒状である前記振動伝達部は、前記弦楽器の駒の上面部の曲面に略沿って予め湾曲しているか、あるいは、前記弦楽器への装着により、前記駒の前記上面部の前記曲面に略沿って湾曲するものである請求項1に記載の弦楽器励振装置。
【請求項4】
前記振動伝達部は、前記複数の弦の少なくとも1つを保持するための切り込みを有し、前記切り込みは前記振動伝達部の上側又は下側に開口部を有し、前記開口部から前記振動伝達部の前記長手方向に伸長するものである請求項1に記載の弦楽器励振装置。
【請求項5】
前記開口部が前記振動伝達部の前記下側に2つ設けられ、前記弦楽器励振装置が前記弦楽器に取り付けられたとき、前記振動伝達部の下側が前記複数の弦中の2本の弦を下方に押し下げ、それぞれの前記2つの開口部につながる前記2つの切り込みの下面が前記複数の弦の他の2本の弦を上方に引き上げるように作用する請求項2又は4に記載の弦楽器励振装置。
【請求項6】
前記振動伝達部の前記下側で前記2本の弦に接触する部分に断面略半円形の凹みを設けた請求項5記載の弦楽器励振装置。
【請求項7】
前記開口部が前記振動伝達部の前記上側に2つ設けられ、前記弦楽器励振装置が前記弦楽器に取り付けられたとき、前記振動伝達部の上側が前記複数の弦中の2本の弦を上方に引き上げ、それぞれの前記2つの開口部につながる前記2つの切り込みの上面が前記複数の弦の他の2本の弦を下方に押し下げるように作用する請求項2又は4に記載の弦楽器励振装置。
【請求項8】
前記振動装置が2つ設けられ、前記振動伝達部の前記長手方向の両端部にそれぞれ取り付けられているか、あるいは前記振動伝達部の上面部に前記長手方向に間隔を以て取り付けられている請求項1又は2に記載の弦楽器励振装置。
【請求項9】
前記振動伝達部が前記長手方向の略中央で2つに分割され、前記分割された2つの部分が弾性部材で相互に接続されている請求項8記載の弦楽器励振装置。
【請求項10】
前記振動伝達部の前記下側であって、前記2本の弦に接触する部分を、前記弦楽器励振装置が前記弦楽器に取り付けられた状態で、前記弦楽器の駒の側面から見た断面形状において、前記振動伝達部の前記下側の前記駒側の角部に丸みがあり、かつ前記振動伝達部の前記2本の弦に接触する前記部分のそれぞれに弾性部材が配された請求項5記載の弦楽器励振装置。
【請求項11】
前記振動伝達部の前記下側であって、前記2本の弦に接触する部分を、前記弦楽器励振装置が前記弦楽器に取り付けられた状態で、前記弦楽器の駒の側面側から見た断面形状において、前記振動伝達部の前記下側の前記駒側の角部に丸みがあり、前記振動伝達部の前記下側が前記弦の長手方向に沿って略中央が下方に突出しつつ湾曲し、かつ前記振動伝達部の前記2本の弦に接触する前記部分のそれぞれに弾性部材が配された請求項5に記載の弦楽器励振装置。
【請求項12】
前記弦楽器励振装置が前記弦楽器に取り付けられた状態で、前記弦楽器の駒の側面から見た前記切り込みの断面形状において、前記切り込みの前記下面が前記弦の長手方向に沿って略中央が上方に突出しつつ湾曲している請求項5に記載の弦楽器励振装置。
【請求項13】
前記振動伝達部の前記弦楽器の駒側の部分の少なくとも一部に、弾性部材を配した請求項1又は2に記載の弦楽器励振装置。
【請求項14】
前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の下側に位置する部分が、前記振動伝達部の下側に開口部をそれぞれ有する2つの切り込みの下面である請求項1又は2に記載の弦楽器励振装置。
【請求項15】
前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の下側に位置する部分が、前記振動伝達部の長手方向の両端部にそれぞれ開口部を有する2つの切り込みの下面である請求項1又は2に記載の弦楽器励振装置。
【請求項16】
前記振動伝達部がその長手方向の略中央で2つに分割され、前記分割されたそれぞれの振動伝達部に前記振動装置がそれぞれ接続され、前記分割された2つの部分が弾性部材で相互に接続されている請求項1又は2に記載の弦楽器励振装置。
【請求項17】
前記切り込みの下面に弾性部材を配した請求項2又は4に記載の弦楽器励振装置。
【請求項18】
前記振動伝達部の前記弦と接触する部分に、弾性部材を配した請求項1又は2に記載の弦楽器励振装置。
【請求項19】
入力信号を受けて振動する振動装置が接続可能であり、弦楽器の複数の弦に取り付けられる振動伝達部であって、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記複数の弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、
前記複数の弦に取り付けられたとき、 前記複数の弦の少なくとも1つの弦の上側に位置して、前記少なくとも1つの弦を下方に押し下げる部分と、
前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の下側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を上方に引き上げる部分と、
を有しているか、あるいは、
前記複数の弦の少なくとも1つの弦の下側に位置して、前記少なくとも1つの弦を上方に引き上げる部分と、
前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の上側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を下方に押し下げる部分と、
を有していて、前記振動伝達部は、その長手方向に伸長する板状、棒状、柱状のいずれかであるか、あるいは前記弦楽器本体に対向する下面が
その長手方向に直線的に伸長し、反対側の上面に両端部あるいは両端部からそれぞれ他端へ向かって所定距離の位置から前記長手方向の中心に位置する凹みの前記長手方向の両端までそれぞれ上昇する傾斜部がある柱状であるか、あるいは、
前記振動伝達部は、前記複数の弦の少なくとも1つを保持するための切り込みを有し、前記切り込みは前記振動伝達部の上側又は下側に開口部を有し、前記開口部から前記振動伝達部
の長手方向に伸長するものである前記振動伝達部。
【請求項20】
請求項1から4のいずれか1つに記載の弦楽器励振装置と、前記弦楽器励振装置の前記振動装置に音源信号を供給する音源信号供給手段とを有する弦楽器励振システム。
【請求項21】
前記音源信号供給手段が、記憶手段に予め記憶されている音源データを読み出して前記音源信号を供給するか、あるいは外部から供給される音源データを用いて前記音源信号を供給する構成の請求項20に記載の弦楽器励振システム。
【請求項22】
弦楽器励振装置を弦楽器の複数の弦に取り付ける方法であって、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記複数の弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、前記弦楽器励振装置は入力信号を受けて振動する振動装置と、前記振動装置に接続されて、前記弦に前記振動装置からの振動を伝達する振動伝達部とを有し、前記振動伝達部は、その長手方向に伸長する板状あるいは棒状であって、
前記振動伝達部を少なくとも1つの前記弦の上側に配し、他の少なくとも2つの前記弦の下側に配するか、あるいは少なくとも2つの前記弦の上側に配し、他の少なくとも1つの前記弦の下側に配することにより前記弦楽器励振装置を前記弦楽器に取り付ける方法。
【請求項23】
入力信号を受けて振動する振動装置と前記振動装置が接続されて弦楽器の複数の弦に振動を伝達する振動伝達部とを有する弦楽器励振装置の前記弦楽器への取り付け方法であって、前記振動伝達部は、その下側に2つの開口部と前記2つの開口部にそれぞれつながる2つの切り込みを有し、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記複数の弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、
前記振動伝達部を並んでいる前記複数の弦の上方に配し、並んでいる前記複数の前記弦のうち両端の弦の間隔を狭めて前記2つの開口部をそれぞれ介して前記2つの切り込み内に誘導し、その後、前記両端の弦の間隔を元の間隔に戻し、前記振動伝達部の前記下側が前記両端の弦以外の弦を下方に押し下げるよう前記振動伝達部を配することにより前記弦楽器励振装置を前記弦楽器に取り付ける方法。
【請求項24】
入力信号を受けて振動する振動装置と前記振動装置が接続されて弦楽器の複数の弦に振動を伝達する振動伝達部とを有する弦楽器励振装置の前記弦楽器への取り付け方法であって、前記振動伝達部は、その上側に2つの開口部と前記2つの開口部にそれぞれつながる2つの切り込みを有し、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記複数の弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、
前記振動伝達部を並んでいる前記複数の弦の下方に挿入し、並んでいる前記複数の弦のうち両端の弦の間隔を広めて前記2つの開口部をそれぞれ介して前記2つの切り込み内に誘導し、その後、前記両端の弦の間隔を元の間隔に戻し、前記振動伝達部の前記上側が前記
両端の弦
以外の弦を上方に引き上げるよう前記振動伝達部を配することにより前記弦楽器励振装置を前記弦楽器に取り付ける方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器励振装置及びその一部である振動伝達部、それらを含む弦楽器励振システム、並びに弦楽器励振装置の取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、弦楽器は、表板(胴板)と裏板及び側板とによって構成された響鳴胴を有し、表板には響穴(サウンドホール)が形成されている。また、弦楽器は、表板に板状のブリッジベース部材が接着剤によって固定されており、ブリッジベース部材上には弦を支持するために弦の長手方向と直交する方向に延在する駒(ブリッジ)が取り付けられている。
【0003】
各弦は、ブリッジの上部を越えて一端部をブリッジベース部材に取り付けられたブリッジピンに係止されている。この弦のそれぞれは、他端部をヘッド側(テール側)に設けられている張力調整機構によって張力を与えられることにより、ブリッジの上面に押し付けられ、ブリッジによって有効な位置に規定される。 このような弦楽器を用いて、弦楽器のブリッジを介して、あるいは弦楽器の各弦に直接外部から、例えば圧電振動子やスピーカのような振動手段により振動を伝達し、弦楽器を演奏したのと同様に発音させる弦楽器励振装置及び弦楽器励振装置を含む弦楽器励振システムが提案されている。
【0004】
本発明者は、下記の特許文献1に示されるように、本発明に先だって弦楽器励振装置及び弦楽器励振システムを開発した。特許文献1の
図1から
図11及び
図14から
図23には、各弦の長手方向に直交する方向(便宜上この方向を左右方向と言う)から各弦を挟み込む構造の振動伝達部を有する弦楽器励振装置が開示されている。また、特許文献1の
図24から
図26には、各弦の長手方向及び左右方向に直交する方向(便宜上この方向を上下方向と言う)から各弦を挟み込む構造の振動伝達部を有する弦楽器励振装置が開示されている。
【0005】
また、下記の特許文献2には、弦楽器の弦を2枚の板状部材で上下方向から挟み込む加振装置及び加振システムが開示されている。
【0006】
特許文献1の
図1から
図11及び
図14から
図23に記載の、各弦の左右方向から各弦を挟み込む構造の振動伝達部を有する弦楽器励振装置を用いて弦を励振した場合、各弦の左右方向から各弦に振動が伝達されるため、通常の演奏時に例えば、バイオリンやビオラなどの場合、弦の上部を弓で摩擦することにより、各弦を振動させる態様とは異なる態様となってしまい、通常の演奏による発音と同様に再現することはできなかった。
【0007】
特許文献1の
図24から
図26に記載の、各弦の上下方向から各弦を挟み込む構造の振動伝達部を用いると、各弦の上下方向から振動が各弦に伝達されるので、実際の演奏に近い状態で励振することができる。しかし、この構成の場合、各弦を上下から挟み込む構造が本体基板の取付面から水平方向に溝堀されたS字形状の弦取り付け溝であるため、次の問題がある。すなわち、本体基板にS字形状の弦取り付け溝を設ける工程において、この溝の上下方向の寸法の設定が容易ではない。例えば、バイオリンのG弦の場合、その太さ(直径)は0.78~0.90mm程度であり、E弦の場合、その太さは0.26mm度であるが、これらの太さより溝の上下方向寸法が小さいと、弦を溝内に保持することができないので、必然的に弦の太さと同程度とするか、それ以上にする必要がある。しかし弦の太さは、弦のメーカーごとに微妙に異なり、また同一メーカーであっても、一定のバラツキがある。そのため、弦の太さが溝の上下方向の寸法より小さいと、弦が溝の中で遊んでしまい、その結果、弦楽器励振装置を弦に確実に固定することがむずかしいのみならず、振動が効果的に弦に伝達されないことがある。
【0008】
また、特許文献2に記載の構成では、2枚の板状部材がねじで結合されて、2枚の板状部材の間隔が調整される構成となっている。したがって、この構成を弦に取り付けるためには、まずねじを緩めて、2枚の板状部材の間隔を弦の太さより大きくした状態で弦に係合させ、その状態でねじを締めて2枚の板状部材の間隔を狭める必要がある。またこの構成において弦との係合を解くためには、ねじを緩める必要がる。このように、特許文献2に記載の構成は、弦に対する着脱時にねじを締めたり緩めたりする必要があり、面倒でありまた時間を要するものであった。さらに特許文献2の構成は、各弦毎に用意する必要があり、複数の弦を有する弦楽器の全ての弦に適用する場合、部品点数が多くなるという問題もあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
弦楽器の弦に取り付けられる振動伝達部の作製が容易でかつ振動伝達部を弦に取り付けて確実に固定することが容易であり、さらに弦に対する着脱が容易である振動伝達部及び、かかる振動伝達部を有する弦楽器励振装置及びかかる弦楽器励振装置を含む弦楽器励振システム並びに弦楽器励振装置の取り付け方法が求められていた。
また、かかる弦楽器励振装置及びかかる弦楽器励振装置を含む弦楽器励振システムであって、1つの弦楽器励振装置で全ての弦を同時に励振可能なものが求められていた。
【0011】
本発明者は、本発明に先立って、弦楽器に取り付けたり、取り外したりすることが簡単でかつ音響性能のよい弦楽器励振装置を開発し、すでに特許出願(特願2023-073267)している。なお、この特許出願に係る弦楽器励振装置は、未公開であり、本発明の従来技術ではない。この先願に係る発明では、弦の上側に配される上板と、弦の下側に配される下板が所定間隔で配されることにより、上板と下板の間の空間に弦を挟み込む形で弦楽器励振装置が弦に取り付けられる。この先願に係る弦楽器励振装置は、上板と下板の間の空間に各弦を挟み込む形で弦楽器に取り付けられるため、従来のものと比較すると取り付けと取り外しの時間は短いものの、さらに簡易かつ短時間で取り付け、取り外しが可能でかつ音響性能の高いものが求められていた。また、この先願に係る弦楽器励振装置は、上板と下板の間の空間に各弦を挟み込む形なので、製造段階で上板と下板の間隔を弦の太さとの関係で精密に制御する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決し、かつ上記先願に係る弦楽器励振装置をさらに改良するため、本発明者は、上記先願の出願後も鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。本発明では、特許文献1のように、弦の両側や上下から弦を挟み込むものではなく、特許文献2のように、ねじで締め付けて弦楽器励振装置を弦に取り付けるものでもなく、また上記先願の発明のように上板と下板の間の空間に弦を挟み込むものはなく、弦楽器が有する3本以上の複数の弦の張力を利用し、弦楽器励振装置の振動伝達部が複数の弦の間に支持されるようにしたものである。
【0013】
すなわち、本発明によれば、弦楽器の複数の弦に取り付けられる弦楽器励振装置であって、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、入力信号を受けて振動する振動装置と、前記振動装置が接続されて、前記弦に前記振動装置からの振動を伝達する振動伝達部とを有し、前記振動伝達部は、前記複数の弦に取り付けられたとき、前記複数の弦の少なくとも1つの弦の上側に位置して、前記少なくとも1つの弦を下方に押し下げる部分と、前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の下側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を上方に引き上げる部分と、を有しているか、あるいは、前記複数の弦の少なくとも1つの弦の下側に位置して、前記少なくとも1つの弦を上方に引き上げる部分と、前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の上側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を下方に押し下げる部分と、を有していて、前記振動伝達部は、その長手方向に伸長する板状、棒状、柱状のいずれかであるか、あるいは前記弦楽器本体に対向する下面がその長手方向に直線的に伸長し、反対側の上面に両端部あるいは両端部からそれぞれ他端へ向かって所定距離の位置から前記長手方向の中心に位置する凹みの前記長手方向の両端までそれぞれ上昇する傾斜部がある柱状である弦楽器励振装置が提供される。
また、本発明によれ、弦楽器の複数の弦に取り付けられる弦楽器励振装置であって、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、入力信号を受けて振動する振動装置と、前記振動装置が接続されて、前記弦に前記振動装置からの振動を伝達する振動伝達部とを有し、前記振動伝達部は、前記複数の弦に取り付けられたとき、前記複数の弦の少なくとも1つの弦の上側に位置して、前記少なくとも1つの弦を下方に押し下げる部分と、前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の下側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を上方に引き上げる部分と、を有しているか、あるいは、前記複数の弦の少なくとも1つの弦の下側に位置して、前記少なくとも1つの弦を上方に引き上げる部分と、前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の上側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を下方に押し下げる部分と、を有していて、前記振動伝達部は、前記複数の弦の少なくとも1つを保持するための切り込みを有し、前記切り込みは前記振動伝達部の上側又は下側に開口部を有し、前記開口部から前記振動伝達部の長手方向に伸長するものである弦楽器励振装置が提供される。
【0014】
また本発明によれば、入力信号を受けて振動する振動装置が接続可能であり、弦楽器の複数の弦に取り付けられる振動伝達部であって、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記複数の弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、前記複数の弦に取り付けられたとき、前記複数の弦の少なくとも1つの弦の上側に位置して、前記少なくとも1つの弦を下方に押し下げる部分と、前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の下側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を上方に引き上げる部分と、を有しているか、あるいは、前記複数の弦の少なくとも1つの弦の下側に位置して、前記少なくとも1つの弦を上方に引き上げる部分と、前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の上側に位置して、前記他の少なくとも2つの弦を下方に押し下げる部分と、を有していて、前記振動伝達部は、その長手方向に伸長する板状、棒状、柱状のいずれかであるか、あるいは前記弦楽器本体に対向する下面がその長手方向に直線的に伸長し、反対側の上面に両端部あるいは両端部からそれぞれ他端へ向かって所定距離の位置から前記長手方向の中心に位置する凹みの前記長手方向の両端までそれぞれ上昇する傾斜部がある柱状であるか、あるいは、前記振動伝達部は、前記複数の弦の少なくとも1つを保持するための切り込みを有し、前記切り込みは前記振動伝達部の上側又は下側に開口部を有し、前記開口部から前記振動伝達部の長手方向に伸長するものである前記振動伝達が提供される。
【0015】
また本発明によれば、前記弦楽器励振装置と、前記弦楽器励振装置の前記振動装置に音源信号を供給する音源信号供給手段とを有する弦楽器励振システムが提供される。
【0016】
また本発明によれば、弦楽器励振装置を弦楽器の複数の弦に取り付ける方法であって、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記複数の弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、前記弦楽器励振装置は入力信号を受けて振動する振動装置と、前記振動装置に接続されて、前記弦に前記振動装置からの振動を伝達する振動伝達部とを有し、前記振動伝達部は、その長手方向に伸長する板状あるいは棒状であって、前記振動伝達部を少なくとも1つの前記弦の上側に配し、他の少なくとも2つの前記弦の下側に配するか、あるいは少なくとも2つの前記弦の上側に配し、他の少なくとも1つの前記弦の下側に配することにより前記弦楽器励振装置を前記弦楽器に取り付ける方法が提供される。
【0017】
また本発明によれば、入力信号を受けて振動する振動装置と前記振動装置が接続されて弦楽器の複数の弦に振動を伝達する振動伝達部とを有する弦楽器励振装置の前記弦楽器への取り付け方法であって、前記振動伝達部は、その下側に2つの開口部と前記2つの開口部にそれぞれつながる2つの切り込みを有し、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記複数の弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、前記振動伝達部を並んでいる前記複数の弦の上方に配し、並んでいる前記複数の前記弦のうち両端の弦の間隔を狭めて前記2つの開口部をそれぞれ介して前記2つの切り込み内に誘導し、その後、前記両端の弦の間隔を元の間隔に戻し、前記振動伝達部の前記下側が前記両端の弦以外の弦を下方に押し下げるよう前記振動伝達部を配することにより前記弦楽器励振装置を前記弦楽器に取り付ける方法が提供される。
【0018】
また本発明によれば、入力信号を受けて振動する振動装置と前記振動装置が接続されて弦楽器の複数の弦に振動を伝達する振動伝達部とを有する弦楽器励振装置の前記弦楽器への取り付け方法であって、前記振動伝達部は、その上側に2つの開口部と前記2つの開口部にそれぞれつながる2つの切り込みを有し、前記弦楽器の本体から所定間隔離れて張られた前記複数の弦の前記弦楽器本体側を下側とし、その反対側を上側とするとき、前記振動伝達部を並んでいる前記複数の弦の下方に挿入し、並んでいる前記複数の弦のうち両端の弦の間隔を広めて前記2つの開口部をそれぞれ介して前記2つの切り込み内に誘導し、その後、前記両端の弦の間隔を元の間隔に戻し、前記振動伝達部の前記上側が前記両端の弦以外の弦を上方に引き上げるよう前記振動伝達部を配することにより前記弦楽器励振装置を前記弦楽器に取り付ける方法が提供される。
【0020】
前記板状あるいは棒状である前記振動伝達部は、前記弦楽器の駒の上面部の曲面に略沿って予め湾曲しているか、あるいは、前記弦楽器への装着により、前記駒の前記上面部の前記曲面に略沿って湾曲するものであることは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0022】
前記開口部が前記振動伝達部の前記下側に2つ設けられ、前記弦楽器励振装置が前記弦楽器に取り付けられたとき、前記振動伝達部の下側が前記複数の弦中の2本の弦を下方に押し下げ、それぞれの前記2つの開口部につながる前記2つの切り込みの下面が前記複数の弦の他の2本の弦を上方に引き上げるように作用することは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0023】
前記振動伝達部の前記下側で前記2本の弦に接触する部分に断面略半円形の凹みを設けたことは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0024】
前記開口部が前記振動伝達部の前記上側に2つ設けられ、前記弦楽器励振装置が前記弦楽器に取り付けられたとき、前記振動伝達部の上側が前記複数の弦中の2本の弦を上方に引き上げ、それぞれの前記2つの開口部につながる前記2つの切り込みの上面が前記複数の弦の他の2本の弦を下方に押し下げるように作用することは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0025】
前記振動装置が2つ設けられ、前記振動伝達部の前記長手方向の両端部にそれぞれ取り付けられているか、あるいは前記振動伝達部の上面部に前記長手方向に間隔を以て取り付けられていることは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0026】
前記振動伝達部が前記長手方向の略中央で2つに分割され、前記分割された2つの部分が弾性部材で相互に接続されていることは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0027】
前記振動伝達部の前記下側であって、前記2本の弦に接触する部分を、前記弦楽器励振装置が前記弦楽器に取り付けられた状態で、前記弦楽器の駒の側面から見た断面形状において、前記振動伝達部の前記下側の前記駒側の角部に丸みがあり、かつ前記振動伝達部の前記2本の弦に接触する前記部分のそれぞれに弾性部材が配されたことは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0028】
前記振動伝達部の前記下側であって、前記2本の弦に接触する部分を、前記弦楽器励振装置が前記弦楽器に取り付けられた状態で、前記弦楽器の駒の側面側から見た断面形状において、前記振動伝達部の前記下側の前記駒側の角部に丸みがあり、前記振動伝達部の前記下側が前記弦の長手方向に沿って略中央が下方に突出しつつ湾曲し、かつ前記振動伝達部の前記2本の弦に接触する前記部分のそれぞれに弾性部材が配されたことは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0029】
前記弦楽器励振装置が前記弦楽器に取り付けられた状態で、前記弦楽器の駒の側面から見た前記切り込みの断面形状において、前記切り込みの前記下面が前記弦の長手方向に沿って略中央が上方に突出しつつ湾曲していることは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0030】
前記振動伝達部の前記弦楽器の駒側の部分の少なくとも一部に、弾性部材を配したことは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0031】
前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の下側に位置する部分が、前記振動伝達部の下側に開口部をそれぞれ有する2つの切り込みの下面であることは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0032】
前記複数の弦の他の少なくとも2つの弦の下側に位置する部分が、前記振動伝達部の長手方向の両端部にそれぞれ開口部を有する2つの切り込みの下面であることは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0033】
前記振動伝達部がその長手方向の略中央で2つに分割され、前記分割されたそれぞれの振動伝達部に前記振動装置がそれぞれ接続され、前記分割された2つの部分が弾性部材で相互に接続されていることは、本発明の好ましい態様の1つである。
【0034】
前記振動伝達部の前記弦と接触する部分に、弾性部材を配したことは、本発明の好ましい態様の1つである。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、振動伝達部の一部で一部の弦を押し下げつつ、振動伝達部の他の部分で他の一部の弦を引き上げる構成となっているので、弦楽器励振装置を弦楽器の複数の弦に容易に取り付けることができるとともに、その振動伝達部が安定的に保持される。
【0036】
また本発明によれば、弦楽器励振装置の弦楽器からの取り外しも容易である。
【0037】
さらに、本発明の弦楽器励振装置の振動伝達部を駒の上面部の曲面に略沿って製造時に予め湾曲させさせておくか、あるいは振動伝達部の弦楽器への装着により、駒の上面部の曲面に略沿って湾曲するよう構成することにより、振動伝達部が各弦に接する角度が、実演奏において弓で弦を引く角度に近似させることができ、実演奏に近い音の再生が可能である。
【0038】
さらに、本発明の一部の実施の形態及びその変形例にあるように、振動伝達部をその長手方向に2分割し、相互を弾性部材を介して接合した構成では、振動伝達部の製造過程における微妙な加工サイズ誤差を吸収したり、収録時のバイオリン演奏者の好みによって特注されて製造された駒の上面部の曲面形状に対する弓の角度の差を吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の第1の実施の形態の弦楽器励振装置を取り付けた弦楽器の全体構成を音源装置などともに示す斜視図である。
【
図2】第1の実施形態の第1変形例に係る弦楽器励振装置が弦に取り付けられた構成を示す部分斜視図である。
【
図3】第1の実施形態の第1変形例に係る弦楽器励振装置が
図2とは異なる位置で弦に取り付けられた構成を示す部分斜視図である。
【
図4】
図2に示す第1の実施形態の第1変形例に係る弦楽器励振装置を構成する振動伝達部と4本の弦の位置関係を示す正面図である。
【
図5】第1の実施形態の第2変形例に係る弦楽器励振装置を構成する振動伝達部と4本の弦の位置関係を示す正面図である。
【
図6】第1の実施形態の第3変形例に係る弦楽器励振装置を構成する振動伝達部と4本の弦の位置関係を示す正面図である。
【
図7】第1の実施形態の第4変形例に係る弦楽器励振装置を構成する振動伝達部と4本の弦の位置関係を示す正面図である。
【
図8】第1の実施形態の第5変形例に係る弦楽器励振装置を構成する振動伝達部と4本の弦の位置関係を示す正面図である。。
【
図9】第1の実施形態の第6変形例に係る弦楽器励振装置を構成する振動伝達部と4本の弦の位置関係を示す正面図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る弦楽器励振装置が弦に取り付けられた構成を示す部分斜視図である。
【
図11】
図10に示す第2の実施の形態に係る弦楽器励振装置の正面図である。
【
図12】
図10、
図11に示す本発明の第2の実施形態に係る弦楽器励振装置の変形例を示す正面図である。
【
図13】本発明の第3の実施形態に係る弦楽器励振装置を示す正面図である。
【
図17】
図13に示した第2の実施の形態の第2変形例をさらに変形した第3変形例における、
図14と同様の断面図である。
【
図19】本発明の弦楽器励振装置の第3の実施の形態を示す部分斜視図である。
【
図21】本発明の弦楽器励振装置の第4の実施の形態~第6の実施の形態とそれらの変形例を説明するためのギターのブリッジと6本の弦の位置関係を示す正面図である。
【
図22】本発明の弦楽器励振装置の第4の実施の形態を示す正面図である。
【
図23】
図22に示した第4の実施の形態の変形例を示す正面図である。
【
図24】本発明の弦楽器励振装置の第5の実施の形態を示す正面図である。
【
図25】
図24に示した第5の実施の形態の変形例を示す正面図である。
【
図26】本発明の弦楽器励振装置の第6の実施の形態の基本形の正面図である。
【
図27】
図26に示した第6の実施の形態の変形例を示す正面図である。
【0040】
以下、図面を参照して第1の実施の形態~第5の実施の形態とそれらの変形例について説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。また、第1の実施の形態~第5の実施の形態とそれらの変形例の弦楽器励振装置は、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、ギター、アコースティックギター、ウクレレ、マンドリン、バンジョー、ハープ、三味線、箏、琵琶など、3本以上の弦を有するあらゆる弦楽器に適用可能であるが、好ましい実施の形態はバイオリンに適用した例並びにギターに適用した例として説明する。
図1は、第1の実施の形態の弦楽器励振装置を取り付けた弦楽器としてのバイオリンの全体構成を示す斜視図である。なお、本発明の弦楽器励振装置、あるいはその振動伝達部が取り付けられる前の弦楽器の全体を弦楽器の本体と称する。なお本明細書及び図面では、弦楽器のネック側からテールピースを見た図を正面図としている。
【0041】
第1の実施の形態~第5の実施の形態の弦楽器励振装置とそれらの変形例は、外部から供給される入力信号により駆動されるが、
図1には、かかる入力信号を供給する音源装置50と、音源装置からの信号を増幅、反転させる移送反転回路60が示され、位相反転回路60の出力信号が弦楽器励振装置100の振動装置30に供給される。なお、音源装置としては、
図1に示す構成以外にも、予め録音された弦楽器の演奏を再生した音源データや、放送で受信した同様の音源データを供給する構成とすることもできる。
【0042】
本発明の弦楽器励振装置は、駒20のネック側(図中右側)の弦に取り付けることも、駒20のテール側(図中左側)に取り付けることもできる。
図1の第1の実施の形態は、駒20のネック側の弦に取り付けた場合を示していて、4本の弦15(G弦15g、D弦15d、A弦15a、E弦15e)に取り付けられた弦楽器励振装置100の構成を示している。
【0043】
図1に示すように、弦楽器励振システムSは、音源装置50と、音源装置50からの音源信号に基づいて弦楽器1の弦15を振動(励振)させる弦楽器励振装置100とを有し、弦楽器励振装置100は、音源装置50から供給される音源信号により、振動する振動装置30と振動装置30から受けた振動を弦15に伝達する振動伝達部40とを有する。本発明の弦楽器励振装置100は、振動装置30からの振動をバイオリン1(弦楽器)に伝えてバイオリン1(弦楽器)を高音質で鳴らすものである。音源装置50は、音源信号を再生する音源であり、出力された音源信号は、振動装置30に入力される。
【0044】
バイオリン1は、一般的なものである。なお、本発明の弦楽器励振装置の対象とする弦楽器は、バイオリンに限定されるものではなく、前述のように各種弦楽器に適用可能である。バイオリン1は、表板2、裏板3及び側板4からなる胴体5と、表板2上からヘッド側に延びる指板6と、胴体5のヘッド側頂部及び指板6の背面に固定されたネック7と、を備える。ネック7のヘッド8は、渦巻き9を形成し、糸巻き(ペグ)10を備える。表板2のテール側には、テールピース11が固定されテールピース11にはアジャスタ12が取り付けられる。表板2には、胴体5内部に開口する一対のf字孔13が形成される。そして、胴体5は、ヘルムホルツ共鳴器を構成している。
【0045】
表板2の裏面にあるバスバー(図示省略)は、表板2を補強するとともに低音の響きを強め安定させる役割を有する。胴体5内には、魂柱(図示省略)と呼ばれる円柱が立てられており、駒(ブリッジ)20を通って表板2に達した振動を裏板3に伝える。バイオリン1の場合4本の弦15があり、これらはテール側(
図2の左側)から見て左が低音、右が高音の弦であり、高音の弦から順にE弦15e、A弦15a、D弦15d。G弦15gである。これら4本の弦15e、15a、15d、15gは、胴体5に固定されたテールピース11から駒20の上を通り、指板6の先にある上駒(ナット)16に引っ掛けてその先の糸巻き10に巻き取られる。なお、本明細書では、任意の弦あるいは弦全体を符号15で示すことがある。
【0046】
<駒20>
バイオリン1の表板2(
図1参照)に設置される駒20は次の構成を有する。
図2に示すように、駒20は、弦15を支持する上面部20aと、上面部20a上に所定間隔で形成された弦溝20bと、を有する。上面部20aは、上に凸となる緩やかな曲面で形成されている。駒20は、4本の弦15e、15a、15d、15gを弦溝20bによって所定の位置に支え、弦15e、15a、15d、15gの振動を表板2(
図2参照)に伝える。駒20は、指板6とテールピース11(
図1参照)の間の表板2上に、表板2に対してほぼ垂直となるように設置され、取り外し可能である。
【0047】
駒20は、左右対称ではなく、G弦(音の低い弦15g)側とE弦(音の高い弦15e)側で高さが異なる。高さを左右非対称にすることで、ボウイング(弓遣い)と構えで4本の弦15e、15a、15d、15gが扱いやすい位置になるようにしている。
【0048】
駒20は、その中央部で厚み方向に渦巻き形状の開口部20fが開口し、さらに開口部20f下方には側端面に渦巻き形状の一端が連通する開口部20g(駒左右の円形の切れ込み)が左右2箇所に形成される。駒20は、2つの足部20hと、足部20hと開口部20gの側端面との間に形成された円形窪み部20iと、足部20hと足部20hとの間の平坦底部20jとを有する。
【0049】
また、駒20は、上面部20aの厚みよりも足部20hの厚みが大きくなるように、駒20の厚さが徐々に変化している。さらに、駒20は、一方の面が平面であり、対向する他方の面が凸状に形成されている。駒20は、一例として楓材が用いられる。楓材は、有効に音を伝達できるよう密度が高く、木の繊維も規則正しく詰まっている。
【0050】
<音源装置50>
音源装置50は、音源信号を再生する音源である。音源装置50は、振動装置30に音源信号を出力するものであればどのような電子機器でもよい。音源装置50は、バイオリンなどの弦楽器の音を音源として出力している。弦楽器の音を音源として出力した場合、実演奏に近く、リアリティ度の高い楽音を再生することができる。
【0051】
音源装置50は、CPU51、メモリ52、入力回路53、及び、出力回路54を備える。CPU51は、ROM又は電気的に書換可能な不揮発性メモリであるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)に記憶された弦加振音プログラム52aを読み出してRAMに展開し、弦加振制御を行う。CPU51は、入力回路53を介して入力される入力信号に基づいて、各部を制御するための制御信号を、出力回路54を介して出力する。
【0052】
メモリ52は、各種処理のプログラムを収めたROM、RAM、EEPROM等から構成される。メモリ52は、ハードディスクドライブ(HDD)等の外部記憶装置を含む。メモリ52には、弦加振音プログラム52aを含む制御プログラムが記憶されている。
【0053】
入力回路53には、キーボードやマウス等の入力装置55からの入力信号が入力される。出力回路54は、音源信号出力結果等を出力するための信号(例えば表示部56に表示するための表示信号)を出力する。また、出力回路54は、振動装置30を駆動するためのドライバを有していてもよく、この場合は、音源装置50の音源信号を直接振動装置30に出力することも可能である。
【0054】
<位相反転回路60>
・増幅機能
位相反転回路60は、音源装置50から出力された音源信号を、スピーカ20を駆動する音源信号に増幅する。
・位相反転機能
位相反転回路60は、上記音源装置50から出力された音源信号のうち一方の極性の信号を反転させて、振動装置30に出力する。
・プロセス回路機能
本発明者の実験によれば、音響測定では各弦加振の特性に大きな差はない知見を得ている。しかし、実際の演奏では、各弦が受け持つ音階がある。そこで、位相反転回路60は、プロセス回路機能を備える。プロセス回路機能は、各弦が受け持つ音階に合わせて弦ごとに音源信号をイコライズする。プロセス回路機能は、2弦以上の同時加振ではどのような特性にするかを調整する。また、プロセス回路機能では、イコライズに加えて左右の極性を反転する処理も行う。なお、
図1に示した音源装置50は、記憶手段として機能するメモリ52に予め格納された音源データである、上記弦加振音プログラム52aを読み出す構成となっているが、外部から供給される音源データを適宜処理して音源信号を出力する構成とすることもできる。
【0055】
<振動装置30>
振動装置30は、音源装置50から出力され、位相反転回路60により増幅された音源信号によりその振動板が振動する。振動装置30としては、小型スピーカを使用することができる。小型スピーカとしては、超磁歪スピーカを利用することができ。一般に、スピーカは、電気信号を前後方向に振動するボイスコイルと、ボイスコイルに直結された振動板(いずれも図示省略)とを備え、この振動板が振動することで音源信号と等しい波形の音が空気中に放射される。振動装置30の振動板である円形のコーン紙に、振動伝達部40の一部を接着剤により直付する。これにより、振動装置30の振動板(コーン紙)の振動は、振動伝達部40に直接伝わる。なお、振動装置30としては、スピーカーに限らず、電気信号を振動に変換するあるゆるトランスデューサーを用いることができる。
【0056】
最近、IC技術でピエゾ素子を薄膜上に数百~1千素子並べたピエゾ薄膜スピーカが実用化されている。ピエゾ薄膜スピーカは、バルクでは困難だった低域の再生が可能になるなど性能向上が図られている。ピエゾ薄膜スピーカは、例えば20mm×30mmのフィルム状であるため、振動伝達部40の一部に直接接着することができる。
【0057】
超磁歪スピーカは、超磁歪材料の振動子を用いたフラットパネルスピーカである。超磁歪材料の振動子は、円柱状の超磁歪素子にコイルを巻いた構造であり、コイルに音電流が流れると、超磁歪素子が伸縮し、その力によって厚いアクリル板を振動させて音を再生する。
【0058】
以上、弦楽器励振装置100をネック側の弦15に取り付けた例について説明したが、後述する第1の実施の形態の第1変形例を示す
図3のように、弦楽器励振装置100’をテール側の弦15に取り付けてもよい。弦楽器励振装置100’をテール側の弦15に取り付けることにより、駒20のネック側を弓で弾く(ボーイング)することができ、弦楽器励振装置100による弦の励振と実演奏を組み合わせることができる。この組み合わせとは、励振と実演奏を時間差をもって行ったり、同時に行って2つの方法による弦15の振動音の重畳を行うことを含む。なお、後述する各実施の形態及びそれら変形例は、ネック側の弦15に取り付けた例について説明する。
【0059】
[弦楽器励振装置構成]
図1に示す第1の実施の形態にかかる弦楽器励振装置100の振動伝達部40は、その長手方向に直線的に伸長するものであって、4本の弦15に取り付けられた状態でもその直線的形状を維持している。
図2は
図1に示す第1の実施の形態の第1変形例を示す部分斜視図である。第1変形例の弦楽器励振装置は符号100’で示される。
図1の第1の実施の形態とその第1変形例(
図2)の違いは、第1の実施の形態では振動伝達部40が弦に取り付けられた後も直線的に伸長しているのに対し、第1の変形例では、振動伝達部40’が駒20の上面部20aの曲線に沿って湾曲していることである。なお、第1の変形例における振動伝達部40’の湾曲は、振動伝達部40’が弦15に取り付けられた後に、弦15からの応力を受けて湾曲するものであってもよいし、弦15に取り付けられる前から湾曲しているものであってもよい。
図3は
図2と同様に
図1に示す第1の実施の形態の第1変形例を示す部分斜視図である。
図2に示す弦楽器励振装置100’と
図3に示す弦楽器励振装置100’とは、その弦への取り付け位置が異なるものであり、弦楽器励振装置100’自体は同一構成である。
【0060】
図1~
図3に示すように、弦楽器励振装置100、100’は、駒20に近い位置で4本の弦15に取り付けられる。
図1~
図3に示す弦楽器励振装置100,100’を構成する振動装置30と振動伝達部40、40’のうち、板状の振動伝達部40、40’は弦15が並ぶ方向、すなわち、
図2、
図3中のY方向に伸長している。弦楽器励振装置100、100’を弦楽器1に取り付ける際には、板状の振動伝達部40、40’の図中左端をG弦15g側から差し込み、弦15gの上を通り、弦15d、弦15aの下を通り、かつ弦15eの上を通るように差し込む。なお、
図1~
図3及び後述する
図4~
図9の例では、板状の振動伝達部40、40’が示されているが、棒状であってもよい。
【0061】
弦楽器励振装置100、100’を弦楽器1に取り付ける前は、4本の弦15は、駒20の上面部20aの曲面に沿って位置しているため、弦15の並ぶ方向(Y方向)には等間隔で、また高さ方向(Z方向)には、それぞれ異なる高さで配されている。すなわち、4本の弦15は高さ方向で見ると、隣り合う弦15同士に所定の間隔がある。弦楽器励振装置100、100’を弦楽器1に取り付ける前の隣り合う弦15同士の上下間隔を便宜上通常間隔という。バイオリン1のG弦15gとD弦15dでは、この高さ方向の間隔(通常間隔)は5mmであり、A弦15aとE弦15eでは、この高さ方向の間隔は4.5mmである。このように4本の弦15は、高さ位置が異なるので、挿入される板状の振動伝達部40、40’の高さ方向(Z方向)の寸法、すなわち厚さは、上記弦15の通常間隔より大きく設定されている。1つの例として、振動伝達部40、40’の厚さを5.5mmに設定することができる。
【0062】
これら4本の弦15は所定の張力で張られているので、振動伝達部40、40’は2本の弦15d、15aにより下方(
図2中Z方向の逆方向)へ押し下げる力を受け、同時に他の2本の弦15g、15eから上方(
図2中Z方向)の力、すなわち引き上げる力を受ける。すなわち、振動伝達部40、40’が挿入された状態では、その挿入前の隣り合う弦15同士の上下間隔が広げられ、各弦15の張力により復元力を受ける。したがって、振動伝達部40、40’は、これら4本の弦15に挟まれて保持力を受けて、
図1~
図3に示す位置に安定的に支持される。本発明者が種々実験したところ、振動伝達部40、40’の厚さを隣り合う弦15同士の上下間隔(通常間隔)より、0.5mm~1.00mm程度大きい値に設定したとき、振動伝達部40、40’は良好に支持されるとともに、良好な再生特性が得られた。なお、
図3の場合は、弦楽器励振装置100が
図2と異なり、駒20の図中後方に位置することのみが
図2の構成と異なり、振動伝達部40’の取付手法は
図2の場合と同様である。
【0063】
弦15は、上述のようにY方向に挿入された振動伝達部40、40’により、押し下げられたり、引き上げられたりするが、駒20の近傍では駒20の上面部20aとの関係で、各弦は次のように部分的に変形する。すなわち、弦15が振動伝達部40、40’により押し下げられる場合は、後述する他の実施の形態で説明する
図14に示すように、弦15は駒20の振動伝達部40、40’側近傍で下方に部分的に凹み、一方、弦15が振動伝達部40、40’により引き上げられる場合は、後述する他の実施の形態で説明する
図15に示すように、弦15は駒20の振動伝達部40、40’側近傍で上方に部分的に盛り上がることとなる。すなわち、各弦15は、振動伝達部40、40’による押し下げ力や引き上げ力を受けて、駒20の近傍で部分的に変形を生じる。
【0064】
図4は、
図2に示す本発明の弦楽器励振装置の第1の実施の形態の第1変形例中の振動伝達部、40’と4本の弦15との位置関係を示す正面図であり、
図2に示している振動装置30は省略している。
図5~
図9は、
図2、
図4とは異なる態様での振動伝達部40’と4本の弦との位置関係を示す正面図である。
図5に示すものを第1の実施の形態の第2変形例という。以下、
図6~
図9を第1の実施の形態の第3変形例~第6変形例とする。
図4~
図9からわかるように、振動伝達部40’は、複数の弦15の少なくとも1つの弦の上側に位置する部分と、複数の弦15の他の少なくとも2つの弦の下側に位置する部分とを有しているか、あるいは、複数の弦15の少なくとも1つの弦の下側に位置する部分と、複数の弦15の他の少なくとも2つの弦の上側に位置する部分とを有している。
【0065】
図4の構成では、振動伝達部40’の挿入後は、挿入前の隣り合う弦15同士の上下間隔が広げられることとなる。逆に
図5の構成では、振動伝達部40’の挿入後は、挿入前の隣り合う弦15同士の上下間隔が狭められることとなる。
図6~
図9の構成でも同様に、隣り合う弦15同士の上下間隔は広げられ場合と、狭められる場合がある。なお、振動伝達部40’は、一体構造である必要はなく、複数の部材を角度を付けて連結し、駒20の上面部20aの曲線に沿って予め段階的に折れ曲がる構成とすることもできる。振動伝達部40’は木材や合成樹脂により構成することができ、必要に応じて曲げ特性を有するものを使用することができる。すなわち、振動伝達部40’は接触する各弦15に対し、各弦15の有する張力を利用して、適度な係合圧力をかけるものであるべきであり、そのために最適な形状、材質、曲げ特性などが設定される。
【0066】
第1の実施の形態における弦楽器励振装置100、100’の弦楽器1への取り付けは、振動伝達部40の
図2中左端、すなわち振動発生装置30が接続されていない側の端部をG弦15g側から挿入し、振動伝達部40、40’を少なくとも1つの弦の下側に配し、他の少なくとも2つの弦の上側に配するか、あるいは少なくとも2つの弦の下側に配し、他の少なくとも1つの弦15の上側に配することにより弦楽器励振装置100、100’を弦楽器1に取り付けるものである。弦楽器励振装置100、100’弦楽器1に取り付ける際には、駒20から弦の長手方向(X方向)に少し離れた位置で振動伝達部40、40’の端部を上記のように弦間に挿入し、挿入完了後に駒20に近づくよう押し込むことができる。
【0067】
上述のように弦楽器1に取り付けられた弦楽器励振装置100、100’は、可能な限り、駒20に近接して配されることが好ましい。その理由は2つある。1つは、駒20に近づくほど、周波数特性が良好であることであり、2つ目は、駒20に近い位置ほど弦15から弦楽器励振装置100、100’の振動伝達部40、40’が受ける接触圧力が強いためである。接触圧力は、弦15の張力により発生するものであり、接触圧力が強いほど振動伝達部40、40’は安定的に保持される。なお、本発明の発明者が種々実験したところ、弦楽器励振装置100、100’の振動伝達部40、40’の駒20側の面と駒20の間隔が3mm以下であるとき、良好な周波数特性が得られた。なお、振動伝達部40、40’を駒20に近づけすぎて両者が接触すると、振動伝達部40、40’からの振動が直接駒20に伝播してしまい好ましくない。かかる接触を防止するため、後述の第2実施の形態の第2変形例で説明するように、振動伝達部40、40’の駒20側の一部に弾性部材などを設けることができる(
図13、16参照)。なお、駒20に可能な限り近接して振動伝達部40、40’を配することは、
図2の場合も
図3の場合も同様である。振動伝達部40、40’を
図2のように駒20よりネック側に配した場合と、
図3のように駒20のテール側に配した場合とでは、再生音の音色に差異があるが、この差異は優劣ではなく、リスナーの個人的好みに係るものであって、リスナーは好みの音色となる位置を選ぶことができる。
【0068】
本発明では、上記第1の実施の形態とその変形例と後述する第2~第5の実施の形態とそれらの変形例を通じて、励振装置を構成する振動伝達部の所定部分が、少なくとも1つの弦の上方に配されて、その弦を押し下げ、振動伝達部の他の所定部分が少なくとも他の2つの弦の下方に配されて、それらの弦を引き上げるか、あるいは、振動伝達部の所定部分が、少なくとも1つの弦の下方に配されて、その弦を引き上げ、振動伝達部の他の所定部分が少なくとも他の2つの弦の上方に配されて、それらの弦を押し下げるよう構成されているので、振動伝達部は、各弦15に対して駒20の上面部20aの曲線の接線方向に近似した方向で接することとなる。したがって、各弦15への振動の伝達が、実際の演奏において弓で弦をボーイングするときと同様にとなり、実演奏に近似した励振を行うことができる。
【0069】
図10は、本発明の弦楽器励振装置の第2の実施の形態を示す部分斜視図であり、
図11は、
図10中の弦楽器励振装置のみを示す正面図である。第2の実施の形態では、弦楽器励振装置100aは振動伝達部40aとその両端部40a-3、40a-4にそれぞれ取り付けられた2つの振動装置30a、30bを有している。振動伝達部40aは、駒20の上面部20aの湾曲と同様に湾曲する上部40a-1と上部40a-1に略平行に湾曲する下部40a-2を有し、さらに、下部40a-2の両端部近傍には、弦15の並ぶ方向(Y方向)に伸長する2つの切り込み40a-5、40a-6が設けられてる。これらの切り込み40a-5、40a-6は、振動伝達部40aの下部40a-2側に開口部を有している。すなわち、各開口部が各切り込み40a-5、40a-6につながっている。なお、第2の実施の形態において、切り込みとは、単なる凹みではなく、振動伝達部40aの長手方向に伸長する溝であって、開口部と上面と下面と奥壁により画定されるものである。なお、これらの切り込み40a-5、40a-6は、振動伝達部40aを木製とする場合、木工機械加工により精度よく大量生産することができる。このことは、後述する第3~第5の実施の形態にも共通するのである。
【0070】
第2の実施の形態では、弦楽器励振装置が弦楽器に取り付けられた状態では、A弦15aとD弦15dが振動伝達部40aの下部40a-2により押し下げられ、同時にG弦15g、E弦15eが切り込み40a-5、40a-6のそれぞれの下面により引き上げられる状態となる。この構成により、A弦15aとD弦15dのZ方向の高さと、G弦15g、E弦15eのZ方向の高さの差異、すなわちZ方向(上下方向)の間隔が通常間隔より狭められることとなる。
図10、
図11には図示されていないが、各弦15が振動伝達部40aと接触する部分に後述する弾性シートを配することができる。この弾性シートは、例えばシリコンラバー製の薄膜とすることができる。係る弾性シートを設けない場合、振動伝達部40aの弦15と接触する部分は経年変化により、鏡面化することがある。かかる鏡面化により、振動伝達部40aの弦15と接触する部分と弦15との間の摩擦係数が極端に低下し、滑り易くなり、また、振動伝達効率が悪くなる場合があるが、弾性シートを配することにより、これらを改善することができる。
【0071】
上述のように弾性シートを配することにより、経年変化によるかかる不具合の発生を防止することができるが、かかる弾性シートを配することにより、振動伝達部40aの弦15との接触部は弾性シートを介して弦15に圧力をかけるとき、弾性シートが変形して密着性を高めることとなる。さらに、弾性シートに粘着性がある場合には、滑り止めの効果もある。また、弦15はメーカーにより、あるいは同一メーカーであってもその太さにバラツキがあるが、弾性シートを配することにより、かかる弦15の太さのバラツキを吸収することができ、さらに振動伝達部40aの製造過程における微妙な加工サイズ誤差を吸収することができる。
【0072】
図12は、第2の実施の形態の第1変形例を
図11同様に示す正面図である。以下、
図11と異なる部分についてのみ説明する。
図12中の2つの切り込み40b-5、40b-6は、
図11中の2つの切り込み40a-5、40a-6にそれぞれ対応する。
図12の変形例では、振動伝達部40bの下部40b-2のA弦15a、D弦15dと接触する部分に断面が略半円形状の凹み40b-7、40b-8が設けられ、さらに、これらの凹み40b-7、40b-8が直接A弦15a、D弦15dと接触せず、かつ密着性を高めるために、凹み40b-7、40b-8の表面(図中下部)に弾性部材でできた弾性シート42-3、42-4が設けられている。同様に、2つの切り込み40b-5、40b-6の下面、すなわちG弦15g、E弦15eと接触する部分にも弾性シート42-1、42-2が設けられている。断面が略半円形状の凹み40b-7、40b-8が設けられているため、弦15との接触部分が
図10、
図11の第2の実施の形態と比較すると、広がり、弦15との接触位置が安定する。弾性シート42-1~42-4としては、例えば厚さ0.2mm程度のシリコンラバーシートを用いることができる。他の実施の形態やそれらの変形例においても同様である。
【0073】
図13は、第2の実施の形態の第2変形例を
図11、
図12同様に示す正面図である。以下、
図11と異なる部分についてのみ説明する。
図13の変形例では、振動伝達部40cが、その長手方向略中央で2つに分割され、分割された2つの部分が弾性部材でできた接合部43により接合されている。すなわち、
図11の振動伝達部40aを左右で分割して得られた部分同士を接合部43を介して接着剤で相互に接続した構成となっている。接合部43の弾性部材としては、例えばシリコンラバーを用いることができ、他の実施の形態やそれらの変形例においても同様である。この構成により、振動装置30aからの振動は振動伝達部40cの図中右半分40c-1に伝達され、結果として弦15g、15dに伝達され、一方振動装置30bからの振動は振動伝達部40cの図中左半分40c-2に伝達され、結果として弦15e、15aに伝達される。
【0074】
このように分割して得られた部分同士を接合部43を介して接着剤で相互に接続した構成は、左右の振動伝達を遮断するのみならず、接合部43は伸縮性を有するので、接触する各弦15に対し各弦15の有する張力を利用して適度な係合圧力を安定してかけることにも役立つ。さらに、この伸縮性により、振動伝達部40cの製造過程における微妙な加工サイズ誤差を吸収したり、収録時のバイオリン演奏者の好みによって特注されて製造された駒20の上面部20aの曲面形状に対する弓の角度の差を吸収することができる。また、4本の弦15には、振動伝達部40cから与えられる係合圧力が程よく、かつ均等であることが求められ、そのために
図10、
図11の第2の実施の形態や、
図12の第2の実施の形態の第1変形例では、振動伝達部40a、40bを曲げ特性を有する木材などで構成することができるが、
図13の第2変形例では、伸縮性を有する接合部43で2つの振動伝達部40c-1、40c-2が相互接続されているので、曲げ特性を有する木材などで構成しなくてもよい。
【0075】
なお、
図11の第2の実施の形態では、振動伝達部40aから各弦15に直接振動が伝達される構成であったが、
図13の第2の実施の形態の第2の変形例では、左右の振動伝達部40c-1、40c-2のそれぞれの下側40c-3、40c-4の表面に貼り付けられた弾性シート42-5、42-6を介して弦15d、15aに伝達するようになっている。同様に、2つの切り込み40c-5、40c-6の下面には弾性シート42-1、42-2が設けられている。
【0076】
図14は、
図13中のA―A線での断面図である。
図13では駒20は省略して図示されていないが、振動伝達部40c-1は、取り付けられた状態では、駒20に近接している。そこで、
図14では、駒20を含めた
図13中のA―A線での断面図、すなわち弦15の並ぶ方向(
図13中のY方向)から見た断面図、を示している。なお、
図14並びに後述する
図15~
図18において、Y方向は、紙面上方から裏面に向かう方向である。
図14に示す振動伝達部40c-1の下部40c-3、すなわち弦15d側、には緩衝材として機能する弾性シート42-5が配されている。
図14に示す振動伝達部40c-1の断面形状において、振動伝達部40c-1の駒20側で、かつ弦15dの近傍側の角部に丸み40c-6が設けられている。この丸み40c-6の存在により、振動伝達部40c-1が弦15dを図中下方に押圧しても、駒20近傍で弦15dを不必要に強く押圧することがない。その結果、振動伝達部40c-1が取り付けられた状態で弦15dが駒20近傍で強い圧力を受けて不規則に変形することが防止できる。なお、
図14は
図13中の弦15dにおける断面図であるが、同様の構成は
図13中の弦15aにも適用される。
【0077】
図15は、
図14と同様な
図13中のB―B線での断面図である。振動伝達部40c-1のこの部分には、切り込み40c-5が設けられ、切り込み40c-5は、それを画定する上面と下面の間に存在する空間(溝)として存在する。この切り込み40c-5を画定する下面、すなわち弦15gに接触する面には、弾性シート42-1が配されている。なお、
図15は
図13中の弦15gにおける断面図であるが、同様の構成は
図13中の弦15eにも適用される。
【0078】
図16は、
図14と同様な
図13中のC―C線での断面図である。振動伝達部40c-2のこの部分、すなわち振動伝達部40c-2の駒20の近傍面には、弾性シート44-2が配されている。なお、
図13では、この弾性シート44-2ともう1つの弾性シート44-1が点線のハッチングで示されている。これらの弾性シート44-1、44-2が存在することにより、振動伝達部40c-1、40c-2が駒20に接触しても、振動伝達部40c-1、40c-2の振動が直接駒20に伝播することを防止することができ、振動伝達部40c-1、40c-2の振動は、各弦15を介して駒20に伝播することとなる。
【0079】
図17は、
図13に示した第2の実施の形態の第2変形例をさらに変形した第3変形例における、
図14と同様の断面図である。
図14では、振動伝達部40c-1の下部は角部の丸み40c-6を除いて平坦であったが、
図17の第3変形例では、振動伝達部40dの下面は、振動伝達部40dを複数の弦の並ぶ方向(
図13中のY方向)から見た断面形状において、振動伝達部40dの下側が弦15dの長手方向に沿って略中央が下方に突出しつつ湾曲し、かつ振動伝達部40dの弦15dに接触する部分のそれぞれに弾性シート42-4が配されている。なお、
図15は第2の実施の形態の第2変形例を
図14と同様に示す断面図であるが、同様の構成は
図13中の弦15aにも適用される。
【0080】
図18は、
図17の第3変形例における、
図15と同様の断面図である。
図15では、振動伝達部40c-1の切り込み40c-5の下面は平坦であったが、
図18の第3変形例では、振動伝達部40dの切り込み40d-5の下面は、振動伝達部40dを複数の弦の並ぶ方向(Y方向)から見た断面形状において、弦15gの長手方向に沿って略中央が上方に突出しつつ湾曲し、かつ切り込み40d-5の下面の弦15gに接触する部分に弾性シート42-5が配されている。なお、
図18は第2の実施の形態の第2変形例を
図15と同様に示す断面図であるが、同様の構成は
図13中の弦15eにも適用される。
【0081】
図19は、本発明の弦楽器励振装置の第3の実施の形態を示す部分斜視図であり、
図20は、
図19中の弦楽器励振装置のみを示す正面図である。第3の実施の形態では、弦楽器励振装置100eは振動伝達部40eと、その両端部40e-3、40e-4(
図20参照)にそれぞれ取り付けられた2つの振動装置30a、30bを有している。振動伝達部40eは、駒20の上面部20aの湾曲と同様に湾曲する上部40e-1と上部40e-1に略平行に湾曲する下部40e-2を有し、さらに、下部40e-2の両端部近傍には、弦15の並ぶ方向(Y方向)に伸長する2つの切り込み40e-5、40e-6が設けられている。これらの切り込み40e-5、40e-6は、上部40e-1側に開口部を有している。
【0082】
第3の実施の形態では、弦楽器励振装置100eが弦楽器に取り付けられた状態では、A弦15aとD弦15dが振動伝達部40eの上部40e-1により引き上げられ、同時にG弦15g、E弦15eが切り込み40e-5、40e-6のそれぞれの上面により押し下げられる状態となる。この構成により、A弦15aとD弦15dのZ方向の高さと、G弦15g、E弦15eのZ方向の高さの差異、すなわちZ方向(上下方向)の間隔が広げられることとなる。
図19、
図20には図示されていないが、上述の
図13と同様、各弦15が振動伝達部40dと接触部する部分に弾性シートを配することができる。
【0083】
図10、
図11の第2の実施の形態とその第1変形例(
図12)並びに
図19、
図20の第3の実施の形態では、振動伝達部40a、40b、40eの両端部にそれぞれ振動発生装置30a、30bが取り付けられているが、使用目的との関係で、これらの振動発生装置30a、30bに供給する音源信号を次のように選択的に設定することができる。
(1)振動発生装置30a(G弦側)のみに接続する場合:モノラル信号又はステレオ信号のL/Rミックス信号
(2)振動発生装置30b(E弦側)のみに接続する場合:モノラル信号又はステレオ信号のL/Rミックス信号
(3)振動発生装置30a(G弦側)、30b(E弦側)の双方に接続する場合:振動発生装置30a(G弦側)にステレオ信号のLch、振動発生装置30b(E弦側)にステレオ信号のRch
(4)振動発生装置30a(G弦側)、30b(E弦側)の双方に接続する場合:振動発生装置30a(G弦側)に2Wayの低中ch、振動発生装置30b(E弦側)に2Wayの
中高ch
(5)振動発生装置30a(G弦側)、30b(E弦側)の双方に接続する場合:振動発生装置30a(G弦側)と振動発生装置30b(E弦側)に同一信号
【0084】
図13の第2の実施の形態の第2変形例では、接合部43で接続された2つの振動伝達部40c-1、40-2のそれぞれの端部に振動発生装置30a、30bが取り付けられているが、使用目的との関係で、これらの振動発生装置30a、30bに供給する音源信号を次のように選択的に設定することができる。
(1)振動発生装置30a(G弦側)、30b(E弦側)の双方に接続する場合:振動発生装置30a(G弦側)にステレオ信号のLch、振動発生装置30b(E弦側)にステレオ信号のRch
(2)振動発生装置30a(G弦側)、30b(E弦側)の双方に接続する場合:振動発生装置30a(G弦側)に2Wayの低中ch、振動発生装置30b(E弦側)に2Wayの
中高ch
(3)振動発生装置30a(G弦側)、30b(E弦側)の双方に接続する場合:振動発生装置30a(G弦側)と振動発生装置30b(E弦側)に同一信号
【0085】
なお、本発明の弦楽器励振装置を複数の楽器に次のように接続して弦楽四重奏システムを構成し、ステレオ音源での再生実験を行った。すなわち、再生音源としてモーツアルト弦楽四重奏ステレオレコード盤を使用し、再生現場には、第一バイオリン、第二バイオリン、ビオラ、チェロを再生音源の収録時と同様の位置関係で配置し、これらのそれぞれに本発明の弦楽器励振装置を装着した状態で、各弦楽器励振装置に次のように音源信号を供給した。すなわち、上記ステレオ音源のLチャンネルを第一バイオリンと第二バイオリンに、Rチャンネルをビオラとチェロに供給した。この再生実験は、同音源を通常の再生アンプを介して左右に配されたスピーカーに供給して行った楽器を用いない通常の再生との比較実験として行われた。この比較実験は、複数の弦楽四重奏ファンであって、演奏会場での生演奏の聴取と、通常の再生装置によるステレオ配置のスピーカーからの再生の聴取の経験豊かな複数名のリスナーにより行われた。
【0086】
この比較実験の結果、下記の事項が確認された。
(1)本発明の弦楽器励振装置を用いた再生は、スピーカーによる再生と比較して、本物の楽器があたかも再生現場で演奏者により演奏されているかのように、発音し、本物の楽器のリアル感があった。
(2)本発明の弦楽器励振装置を用いた再生は、スピーカーによる再生と比較して、本物の楽器からの音が周囲360度に放射されるというステージ感があった。
(3)本発明の弦楽器励振装置を用いた再生は、スピーカーによる再生と比較して、ダイナミックレンジが大きく、あたかも生演奏を聴取しているというステージ感があった。
(4)本発明の弦楽器励振装置を用いた再生は、スピーカーによる再生と比較して、低域から高域まで過不足のない周波数特性を得ることができ、あたかも生演奏を聴取しているというステージ感があった。
【0087】
次に本発明の弦楽器励振装置がギターに取り付けられる場合の第4の実施の形態、第5の実施の形態並びにそれらの変形例について説明する。通常ギターは、6本の弦を有し、
図1に示すバイオリン1の表板2に対応する表板(図示省略)に取り付けられたブリッジの一部にこれら6本の弦が固定される。
図21は、本発明の弦楽器励振装置の第4の実施の形態~第6の実施の形態とそれらの変形例を説明するためのギターのブリッジと6本の弦の位置関係を示す正面図である。
図21は、ブリッジ20kを点線で示していて、その上部は平坦であり、
図2などに示したバイオリンの駒20の上面部20aが湾曲しているのと異なる。ギターの6本の弦は、第1弦15E1(通称E弦)、第2弦15B(通称B弦)、第3弦15G(通称G弦)、第4弦15D(通称D弦)、第5弦15A(通称A弦)、第6弦15E2(通称E弦)であり、第1弦15E1から第6弦15E2に向かって太くなっている。なお、第1弦15E1と第6弦15E2の通称はともにE弦であり、これらは、高いE弦、低いE弦などと称されて区別されている。これら6本の弦は、本発明の弦楽器励振装置が取り付けられる前の状態では、
図21中、〇で示す位置にある。すなわち、6本の弦は弦楽器励振装置が取り付けられる前は、ブリッジ20kの上部20mから等距離の位置にあり、すべての弦が同一水平面内にある。
【0088】
本発明の弦楽器励振装置の第4の実施の形態あるいは第5の実施の形態がこれら6本の弦に取り付けられると、
図21中、ハッチング付の丸印で示されるように、各弦の高さが取り付け前より高くなったり、低くなっている。すなわち、一部の弦はZ方向の逆方向に押し下げられ、他の弦はZ方向に引き上げられている。
【0089】
図22は、本発明の弦楽器励振装置の第4の実施の形態を示す正面図である。この弦楽器励振装置100fは、Y方向に略直線的に伸長する柱状の振動伝達部40fと、振動伝達部40fの上部40f-1の略中央部に取り付けられた振動発生装置30とを有する。振動伝達部40fの下部40f-2と略同一高さの2つの部分は、2つの弦15A、15BをそれぞれZ方向の逆方向に押し下げる平坦部40f-21、40f-22を構成し、この平坦部40f-21、40f-22の表面にはそれぞれ弾性シート42-7、42-8が配され、弾性シート42-7、42-8を介して2つの弦15A、15Bにそれぞれ接触することとなる。これら2つの平坦部40f-21、40f-22のそれぞれの左右端から図中、Y方向あるいはその逆方向かつZ方向に伸長する4つの切り込み40f-3~40f-6が存在する。これらの切り込み40f-3~40f-6の下面にはそれぞれ弾性シート42-9~42-12が配され、弾性シート42-9~42-12を介して4つの弦15E1、15D、15G、15E1にそれぞれ接触することとなる。これらの切り込み40f-3~40f-6の下面は、4つの弦15E2、15D、15G、15E1をそれぞれZ方向に引き上げるものである。
【0090】
図23は、
図22に示した第4の実施の形態の変形例を示す正面図である。この弦楽器励振装置100gは、
図22に示す第4の実施の形態と次の点で異なる。すなわち、
図22の弦楽器励振装置の振動伝達部40fがその長手方向の略中央で2分割され、左右略対称の2つの振動伝達部40g-1、40g-2が構成され、左右それぞれの振動伝達部40g-1、40g-2の上部略中央には振動発生装置30a、30bが取り付けられている。
図23中、左右略対称の構成の右側についてのみ説明すると振動伝達部40g-1には
図22と同様の切り込みが設けられている。図中左側の振動伝達部40g-2の説明は省略する。左右の振動伝達部40g-1、40g-2は、弾性部材でできた接合部45を介して相互に接続され、左右の振動伝達部40g-1、40g-2の振動が相互に緩衝しないようにされている。なお、2つの振動伝達部40g-1、40g-2が接合部45で接続されて構成された全体の振動伝達部は、符号40gで示されている。
図22中の切り込み40f-3、40f-4に対応する切り込みの下面にはそれぞれ弾性シート42-9、42-10が配されている点は、
図22の第4の実施の形態と同様である。
【0091】
図24は、本発明の弦楽器励振装置の第5の実施の形態を示す正面図である。この弦楽器励振装置100hは、Y方向に略直線的に伸長する柱状の振動伝達部40hと、振動伝達部40hの上部40h-1の略中央部に取り付けられた振動発生装置30とを有する。振動伝達部40hの下部40h-2に設けられた2つの凹み40h-3、40h-4の下面は、2つの弦15A、15Bをそれぞれ下方(Z方向の逆方向)に押し下げる部分を構成し、この押し下げる部分の凹み40h-3、40h-4は、正面から見た断面形状で略半円形の凹みとなっている。振動伝達部40hの下部40h-2のその長手方向略中央には開口部が設けられ、この開口部につながる2つの切り込み40h5、40h-6が設けられている、これらの切り込み40h-5、40h-6は開口部から振動伝達部40hの右端と左端にそれぞれ向かって伸長している。振動伝達部40hの右端と左端には、それぞれ切り込み40h-7、40h-8が設けられている。
【0092】
振動伝達部40hの右端の切り込み40h-7は、振動伝達部40hの右端に開口部を有し、左端に向かって伸長している。一方、振動伝達部40hの左端の切り込み40h-8は、振動伝達部40hの左端に開口部を有し、右端に向かって伸長している。これら4つの切り込み40h-5、40h-6、40h-7、40h-8の下面は、それぞれ第4弦15D、第3弦15G、第6弦15E2、第1弦15E1を上方(Z方向)へ引き上げる部分を構成している。振動伝達部40hの上記各弦と接触する部分には弾性シート42-13~42-18が配されている。
【0093】
図25は、
図24に示した第5の実施の形態の変形例を示す正面図である。この弦楽器励振装置100iは、
図24に示す第5の実施の形態と次の点で異なる。すなわち、
図24の弦楽器励振装置の振動伝達部40hがその長手方向の略中央で2分割され、左右略対称の2つの振動伝達部40i-1、40i-2が構成され、左右それぞれの振動伝達部40i-1、40i-2には振動発生装置30a、30bが取り付けられている。
図24中の弾性シート42-13~42-18と対応するものは、同一符号を付している。
図25中、
図24と対応する要素は、
図24中の符号に対応する符号を付している(
図24中の40h-1は、
図25では40i-1など)。左右の振動伝達部40i-1、40i-2は、弾性部材でできた接合部46を介して相互に接続され、左右の振動伝達部40i-1、40i-2の振動が相互に緩衝しないようにされている。
【0094】
図26は、第6の実施の形態の基本形の正面図である。第6の実施の形態の基本形は、
図23に示した第4の実施の形態の変形例の更なる変形例である。この弦楽器励振装置100jは、
図23に示す第4の実施の形態の変形例と次の点で異なる。すなわち、柱状の振動伝達部40jの上面側に両端部あるいは両端部からそれぞれ他端へ向かって所定距離の位置から長手方向の中心に向かってそれぞれ上昇する傾斜部を設け、各傾斜部の上面に振動装置30a、30bを設けている。なお、上昇する各傾斜部は、振動伝達部40jの長手方向の中央に設けられた凹み40j-7の図中左右端まで上昇している。換言すると、図中左右の傾斜部のそれぞれの最高点の間に凹み40j-7が設けられている。これらの傾斜部の角度は、例えば25°とすることができる。各傾斜部の上面は平坦となっている。なお、
図26では
図23に示されている弾性部材でできた接合部45は設けられていない。
図26中、
図23の基本形を示す
図22中の要素と対応する要素は同一符号で示されていたり、
図22中の「f」を「j」に変更して示されている(例えば、
図22中の40f-3は
図26では40j-3)。
図26に示した第6の実施の形態の基本形では、
図23の第4の実施の形態の変形例と比較して、再現される音声特性が良質である。これは、2つの傾斜部とそれらの間に設けた凹み40j-7の存在により、各振動装置30a、30bからの振動が良好に各弦15に伝達されるためと考えられる。また、凹み40j-7を振動伝達部40jの長手方向の中央部近傍に設けたことで、振動装置30bの振動が主として弦15E2、15Dに伝達され、振動装置30aの振動が主として弦15E1、15Gに伝達される。
図26の第6の実施の形態では、各傾斜部が両端部からそれぞれ他端へ向かって所定距離の位置から長手方向の中心に向かってそれぞれ上昇しているが、両端部からそれぞれ他端へ向かって上昇するようにしてもよい。
【0095】
図27は、
図26に示した第6の実施の形態の変形例を示す正面図である。この弦楽器励振装置100kは、
図26に示す第6の実施の形態と次の点で異なる。すなわち、
図26の弦楽器励振装置の振動伝達部40jがその長手方向の略中央で2分割され、左右略対称の2つの振動伝達部40k-1、40k-2が構成され、左右それぞれの振動伝達部40k-1、40k-2には振動発生装置30a、30bが取り付けられている。左右の振動伝達部40k-1、40k-2は、弾性部材でできた接合部45を介して相互に接続され、左右の振動伝達部40k-1、40k-2の振動が相互に緩衝しないようにされている。
図26中の2つの傾斜部の間に設けた凹み40j-7は、
図27では40k-7とされている。その他の構成は
図26と同様であるので、説明を省略する。
図27の弦楽器励振装置100kも、
図23の第4の実施の形態の変形例と比較して、再現される音声特性が良質である。なお、
図26の弦楽器励振装置100jと
図27の弦楽器励振装置100kとの比較では、どちらの音声特性が優れているかの判断はリスナーの好みによるところが多く、一概に優劣を判断すべきではない。
【0096】
以上、本発明の各実施の形態とその変形例について説明したが、これらは多岐にわたるので、それらの特徴と対応する図面、請求項の関係を以下に示す(弦楽器励振システムを除く)。
【0097】
【0098】
上記表1の記載内容は、各実施の形態やそれらの変形例の代表的特徴を示しているに過ぎず、本発明の権利範囲の解釈において限定的に捉えるべきではなく、本発明の権利範囲は、各請求項の記載に基づいて解釈されるべきである。
【0099】
弦加振用前置イコライザについて説明する。 弦加振用前置イコライザは、
図1の位相反転回路60に設置される。 弦楽器励振装置100における弦加振では、バイオリンの4弦の各弦ごとを個別に加振できるようになっている。各弦を個別に周波数特性用のスイープ信号で加振し再生音を測定した結果は、G、D、A、E各弦の伝達特性はよく似ており200Hzから20kHz付近までをカバーしている
【0100】
一方、楽器として使用される各弦の周波数範囲は、G、D、A、E弦で演奏される音階(解放弦から始まるScale)の範囲と想定される。音階演奏例から見た各弦の周波数(特徴周波数)判定は次のようになる。
G弦;200Hzから6kHz
D弦;300Hzから12kHz
A弦;400Hzから15kHz
E弦;650Hzから18kHz
以上により、各実施の形態とその変形例の弦楽器励振装置100、100a、100b、100c、100e、100f、 100g、100h、100iにより、バイオリンの生演奏に近い再生音楽を楽しむ目的に照らせば、各弦を加振する信号は、演奏時に各弦を加振する周波数範囲に制限することが好ましい。
まとめると、弦加振用前置イコライザが各弦を加振する組合せは種々あるが、バイオリンの場合は、4弦同時加振であり、ギターの場合は6弦同時加振であり、その再生音は次のようなものであった。
4弦又は6弦の音階再生の最低音から最高音;200Hz~18kHz
【0101】
本発明の弦楽器励振装置を用いて弦楽四重奏を再生した場合について前述したが、本発明の弦楽器励振装置をギターに装着した場合も、収録時の生演奏の臨場感が得られた。すなわち、再生音を聴いたリスナーからは、生演奏に近いステージ感、各楽器の定位感が得られたとの感想を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の弦楽器励振装置、その一部である振動伝達部、それらを含む弦楽器励振システム並びに弦楽器励振装置の取り付け方法は、各種音源により、各種弦楽器をあたかも生演奏のように励振することができるので、弦楽器を用いた演奏を含む各種音楽提供業、弦楽器を用いた映画上映業、弦楽器を用いた演劇、バレー、その他の公演業、並びに弦楽器を用いた音楽再生のための音源装置、弦楽器励振装置、その一部である振動伝達部、それらを含む弦楽器励振システムの設計、製造、販売、取付業を含む各種産業に有用である。
【符号の説明】
【0103】
1 バイオリン(弦楽器/弦楽器本体)
2 (バイオリンの)表板
15、15e、15a、15d、15g、15E1、15B、15G、15D、15A、15E2 弦
20 (バイオリンの)駒
20a (バイオリンの駒の)上面部
20b (バイオリンの駒の)弦溝
20h (バイオリンの駒の)足部
20k (ギターの)駒(ブリッジ)
20m (ギターの駒の)上面部
30、30a、30b 振動装置
40、40’、40a、40b、40c、40c-1、40c-2、40d、40e、40f、40g、40h、40i、40i-1、40i-2、40j、40k、40k-1、40k-2 振動伝達部
40b-7、40b-8、40h-3、40h-4、40i-3、40i-4、40j-7、40k-7 凹み
40a-5、40a-6、40b-5、40b-6、40c-5、40c-6、40d-5、40d-6、40f-3、40f-4、40f-5、40f-6、40h-5、40h-6、40h-7、40h-8、40i-5、40i-6、40i-7、40i-8、40j-3、40j-4、40j-5、40j-6 切り込み
42-1~42-18、42f-21、42f-22、44-1、44-2 弾性シート
43、45、46 接合部
50 音源装置
56 表示部
60 位相反転回路(弦加振用前置イコライザ)
100、100’、100a、100b、100c、100e、 100f、100g、100h、100i、100j、100k 弦楽器励振装置
S 弦楽器励振システム
【要約】
【課題】弦楽器の弦に取り付けられる弦楽器励振装置を構成する振動伝達部の作製が容易でかつ振動伝達部に対する着脱が容易である振動伝達部及び、かかる振動伝達部を有する弦楽器励振装置及びかかる弦楽器励振装置を含む弦楽器励振システム並びに弦楽器励振装置の取り付け方法を提供する。
【解決手段】振動装置30が取り付けられる振動伝達部40の構造として、長手方向に伸長する平板状、棒状、柱状とし、複数の弦15の張力を利用して複数の弦の上又は下に配され、かつ保持されるよう、弦の押し上げ部と弦の引き上げ部を設けた。押し上げ部又は引き上げ部として、振動伝達部に切り込みを設けることもできる。
【選択図】
図2