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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】湿式摩擦締結装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/62 20060101AFI20240513BHJP
   F16D 25/064 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
F16D13/62 A
F16D25/064
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020008742
(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公開番号】P2021116827
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004141
【氏名又は名称】弁理士法人紀尾井坂テーミス
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】松尾 道憲
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-030663(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178058(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/033861(WO,A1)
【文献】特表2018-522176(JP,A)
【文献】実開昭60-045930(JP,U)
【文献】実開平05-034323(JP,U)
【文献】特開2005-308183(JP,A)
【文献】実開平1-140028(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に周方向に所定間隔で複数配置された摩擦フェーシング材が設けられた第1摩擦部材と、
第2摩擦部材と、を有し、
前記第2摩擦部材、前記第1摩擦部材の前記摩擦フェーシング材と対向する基部を有し、
前記基部の外径側には、前記第1摩擦部材と前記第2摩擦部材の締結時に前記摩擦フェーシング材と接触する対向部が設けられ、
前記基部の表面には、当該基部の内径側から外径側の前記対向部まで連続する複数の溝部が形成され、
前記基部の、前記複数の溝部により囲まれる領域の面積は、前記第1摩擦部材の前記摩擦フェーシング材の面積よりも小さいことを特徴とする湿式摩擦締結装置。
【請求項2】
前記基部は、前記第2摩擦部材の内径側に設けられ、
前記第2摩擦部材の外径側の表面には、前記基部の表面に形成された溝部と連通する溝部が設けられることを特徴とする請求項1記載の湿式摩擦締結装置。
【請求項3】
前記外径側の表面に形成された溝部は、前記基部の表面に形成された溝部よりも幅が広いことを特徴とする請求項2記載の湿式摩擦締結装置。
【請求項4】
前記溝部は、複数の角部を有する多角形の溝から形成されることを特徴とする請求項1記載の湿式摩擦締結装置。
【請求項5】
前記多角形の溝は、前記第2摩擦部材の前記基部の表面に連続して形成され、各多角形の溝の角部は隣接する他の多角形の溝の角部と共有されていることを特徴とする請求項記載の湿式摩擦締結装置。
【請求項6】
前記多角形は、前記第2摩擦部材の内径側よりも外径側の方が大きいことを特徴とする請求項記載の湿式摩擦締結装置。
【請求項7】
前記多角形は、前記内径側から前記外径側に向かうにつれて徐々に大きくなることを特徴とする請求項に記載の湿式摩擦締結装置。
【請求項8】
前記多角形は、前記内径側から前記外径側に向かうにつれて、回転軸周りの周方向幅が広くなることを特徴とする請求項に記載の湿式摩擦締結装置。
【請求項9】
前記多角形の溝は、六角形の溝であることを特徴とする請求項記載の湿式摩擦締結装置。
【請求項10】
前記六角形の溝は、回転軸周りの周方向に延び、前記回転軸の径方向において隣り合う一対の周方向溝と、前記一対の周方向溝の、前記径方向において対向する端部同士を接続する複数の径方向溝とから構成されることを特徴とする請求項記載の湿式摩擦締結装置。
【請求項11】
前記溝部は、回転軸方向から見て円形の溝から形成されることを特徴とする請求項1記載の湿式摩擦締結装置。
【請求項12】
前記円形の溝は、前記第2摩擦部材の前記基部の表面に連続して形成され、各円形の溝の一部が隣り合う円形の溝と連通していることを特徴とする請求項11記載の湿式摩擦締結装置。
【請求項13】
前記基部の表面に形成された溝部は、前記基部の全面に形成されたことを特徴とする請
求項1~12のいずれか一項に記載の湿式摩擦締結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式摩擦締結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に設けられた自動変速機の湿式摩擦締結装置は、回転軸方向に交互に配置されたドライブプレートとドリブンプレートとを備える。ドライブプレートは回転軸の内径側回転体の外周に嵌合し、ドリブンプレートは外径側回転体の内周に嵌合する。
【0003】
湿式摩擦締結装置は、油圧で作動するピストンを備え、このピストンがドライブプレートとドリブンプレートとを回転軸方向に押圧して、ドライブプレートとドリブンプレートとを相対回転不能に締結することで、内径側回転体と外径側回転体との間で回転力が伝達される。
【0004】
ドライブプレートのドリブンプレートとの対向面には、摩擦フェーシング材が取り付けられている。この摩擦フェーシング材が、ピストンの押圧によってドリブンプレートの対向面と接触して摩擦力が発生することで、ドライブプレートとドリブンプレートが締結する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-96366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ドライブプレートとドリブンプレートの締結と開放を切り換える際には、ドライブプレートとドリブンプレートとが、一時的にスリップ状態となって発熱する。そのため、ドライブプレートとドリブンプレートの間には、摩擦調整機能と冷却機能を備えた油が供給されるが、油の冷却性を向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の湿式摩擦締結装置は、
表面に周方向に所定間隔で複数配置された摩擦フェーシング材が設けられた第1摩擦部材と、
第2摩擦部材と、を有し、
前記第2摩擦部材、前記第1摩擦部材の前記摩擦フェーシング材と対向する基部を有し、
前記基部の外径側には、前記第1摩擦部材と前記第2摩擦部材の締結時に前記摩擦フェーシング材と接触する対向部が設けられ、
前記基部の表面には、当該基部の内径側から外径側の前記対向部まで連続する複数の溝部が形成され、
前記基部の、前記複数の溝部により囲まれる領域の面積は、前記第1摩擦部材の前記摩擦フェーシング材の面積よりも小さい
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1摩擦部材と対向する第2摩擦部材に設けられた溝部により、第1摩擦部材と第2摩擦部材の間に供給された油の冷却性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】前後進切替機構の構成を説明する図である。
図2】前進クラッチの分解斜視図である。
図3】前進クラッチのドライブプレートを回転軸方向から見た図である。
図4】(a)は、前進クラッチのドリブンプレートを回転軸方向から見た図であり、(b)は溝部の拡大図の一例であり、(c)は溝部の拡大図の別の例である。
図5図1の領域Aの拡大図である。
図6】溝部の詳細を示す図である。
図7】ドリブンプレートのμV特性を示すグラフである。
図8】変形例1にかかる溝部の構成を説明する図である。
図9】変形例2にかかる溝部の構成を説明する図である。
図10】トルクコンバータの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る湿式摩擦締結装置を、図面を参照しながら説明する。実施の形態では、湿式摩擦締結装置の一例として、車両の前後進切替機構が備える前進クラッチの例を説明する。
【0011】
図1は、前後進切替機構の構成を示す図である。
図2は、前進クラッチの分解斜視図である。
図1に示すように、前後進切替機構5は、遊星歯車組4のサンギヤ41とキャリア44との間を直結する前進クラッチ2と、クラッチドラム25を固定する後進ブレーキ3を備える。前後進切替機構5は、前進クラッチ2の締結時には、図示しないエンジンから入力される回転駆動力をそのまま出力し、後進ブレーキ3の締結時には、回転駆動力を逆転して出力する。
【0012】
前進クラッチ2と、後進ブレーキ3は、変速機ケース10の内部において、変速機ケース10の前カバー部11と遊星歯車組4との間に位置している。
後進ブレーキ3は、前進クラッチ2の外径側に位置しており、変速機ケース10の内周にスプライン嵌合した環状のドリブンプレート32と、クラッチドラム25の外周にスプライン嵌合した環状のドライブプレート31と、油圧により回転軸Xの軸方向(以下、回転軸X方向)にストロークするピストン33と、を有している。
【0013】
クラッチドラム25は、筒状の周壁部251と、周壁部251の一端から内径側に延びる底部250と、を有しており、断面視においてクラッチドラム25は、有底円筒形状を成している。
【0014】
図2に示すように、回転軸X方向から見て周壁部251は、外径側に位置するスプライン山部251aとスプライン谷部251bとが、回転軸X周りの周方向に交互に連なって形成されており、周壁部251の内周と外周には、回転軸X方向に沿ってスプラインが形成されている。
【0015】
図1に示すように、周壁部251の外周には、複数のドライブプレート31がスプライン嵌合して設けられており、ドライブプレート31の各々は、回転軸X周りの周方向における周壁部251との相対回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
【0016】
周壁部251の径方向外側に位置するドリブンプレート32もまた、回転軸X周りの周方向における変速機ケース10との相対回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
【0017】
後進ブレーキ3のドリブンプレート32とドライブプレート31は、回転軸X方向で交互に配置されていると共に、回転軸X方向から見て、ドライブプレート31の外径側とドリブンプレート32の内径側とが重なるように配置されている。
【0018】
これらドライブプレート31とドリブンプレート32との重なる部分は、前記した前カバー部11とは反対側に設けられたピストン33により、回転軸X方向に押圧されるようになっている。
このピストン33は、図示しない油室への作動油圧の供給により、前カバー部11側に変位して、ドライブプレート31とドリブンプレート32とを押圧するようになっている。
【0019】
後進ブレーキ3では、ドライブプレート31とドリブンプレート32との相対回転が、ピストン33の押圧によるドライブプレート31とドリブンプレート32の締結状態に応じて規制されるようになっている。
【0020】
そのため、ドライブプレート31とドリブンプレート32とが相対回転不能に締結された状態になると、ドリブンプレート32が変速機ケース10の内周にスプライン嵌合しているので、ドライブプレート31がスプライン嵌合したクラッチドラム25は、回転軸X周りの回転が阻止されるようになっている。
【0021】
後進ブレーキ3の内径側に位置する前進クラッチ2は、クラッチドラム25の周壁部251の内周にスプライン嵌合したドリブンプレート22と、クラッチハブ24の円筒状の周壁部241の外周にスプライン嵌合したドライブプレート21と、油圧により回転軸X方向にストロークするピストン23と、を有している。
【0022】
図1に示すように、クラッチハブ24は、筒状の周壁部241と、周壁部241の一端から内径側に延びる底部240とを有しており、断面視においてクラッチハブ24は、有底円筒形状を成している。
【0023】
変速機ケース10内においてクラッチハブ24と、クラッチドラム25は、互いの開口を対向させた向きで、回転軸X方向から組み付けられており、この状態においてクラッチハブ24は、クラッチドラム25の周壁部251の内側に収容されている(図1および図2参照)。
【0024】
クラッチハブ24の底部240の内径側の端部240aは、サンギヤ41の基部410に溶接されており、サンギヤ41とクラッチハブ24とは、回転軸X周りの周方向の相対回転が規制された状態で、互いに連結されている。
【0025】
図2に示すように、回転軸X方向から見て、クラッチハブ24の周壁部241は、外径側に位置するスプライン山部241aとスプライン谷部241bとが、回転軸X周りの周方向に交互に連なって形成されており、周壁部241の内周と外周には、回転軸X方向に沿ってスプラインが形成されている。
【0026】
周壁部241の外周には、複数のドライブプレート21がスプライン嵌合して設けられており、ドライブプレート21の各々は、回転軸X周りの周方向における周壁部241との相対回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
【0027】
図1に示すように、周壁部241の径方向外側に位置するドリブンプレート22もまた、回転軸X周りの周方向におけるクラッチドラム25との相対回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
【0028】
前進クラッチ2のドリブンプレート22とドライブプレート21は、回転軸X方向で交互に配置されていると共に、回転軸X方向から見て、ドライブプレート21の外径側とドリブンプレート22の内径側とが重なるように配置されている。
【0029】
これらドライブプレート21とドリブンプレート22との重なる部分は、前記した前カバー部11側(図中右側)に設けられたピストン23により、回転軸X方向に押圧されるようになっている。
【0030】
このピストン23は、クラッチドラム25の底部250との間に形成された油室Rへ供給される作動油圧の調整によって、回転軸X方向に変位する。ピストン23が、前カバー部11から離れる方向に変位すると、ドライブプレート21とドリブンプレート22を押圧して締結する。ピストン23が、前カバー部11側に変位すると、ドライブプレート21とドリブンプレート22の締結を開放する。
【0031】
前進クラッチ2では、ドライブプレート21とドリブンプレート22との相対回転が、ドライブプレート21とドリブンプレート22の押圧による締結状態に応じて規制されるようになっている。
【0032】
そのため、ドライブプレート21とドリブンプレート22とが相対回転不能に締結された状態になると、ドリブンプレート22がスプライン嵌合するクラッチドラム25が、遊星歯車組4のキャリア44に連結されていると共に、ドライブプレート21がスプライン嵌合するクラッチハブ24が、サンギヤ41に連結されているので、遊星歯車組4のサンギヤ41とキャリア44とが一体回転可能に連結されるようになっている。
【0033】
クラッチハブ24の周壁部241では、外径側に位置するスプライン山部241aに、変速機ケース10の内径側から供給される潤滑油OLを、周壁部241の外径側に誘導するための油孔242が、スプライン山部241aを径方向に貫通して形成されている。
なお、図2に示すように、クラッチハブ24の周壁部241では、油孔242が設けられていないスプライン山部241aが、回転軸X周りの周方向に所定間隔で位置している。
【0034】
クラッチドラム25の周壁部251にも、潤滑油OLを、周壁部251の外径側に誘導するための油孔252が、スプライン山部251aを径方向に貫通して形成されている。
【0035】
次に、湿式摩擦締結装置である前進クラッチ2のドライブプレート21およびドリブンプレート22の詳細な構成について説明する。
図3は、前進クラッチ2のドライブプレート21を回転軸X方向から見た図である。
図4の(a)は、前進クラッチ2のドリブンプレート22を回転軸X方向から見た図である。図4の(b)は、溝部の拡大図の一例である。図4の(c)は、溝部の拡大図の別の例である。
図5は、図1の領域Aの拡大図である。
なお、図3では、回転軸X方向で交互に配置されるドライブプレート21とドリブンプレート22との位置関係を説明するために、回転軸X方向においてドライブプレート21に隣接して配置されるドリブンプレート22を仮想線で示している。
【0036】
図3に示すように、ドライブプレート21は、回転軸Xに対して外径側に設けられた基部210と、内径側に設けられた歯211を有する。ドリブンプレート22は、回転軸Xに対して内径側に設けられた基部220と、外径側に設けられた歯221を有する。ドライブプレート21の基部210と、ドリブンプレート22の基部220とは、回転軸X方向から見て重なり合っている。
ドライブプレート21の基部210は、回転軸X方向から見てリング状を成し、この基部210の内周縁210aに沿って、歯211が回転軸X周りの周方向の全周に所定間隔で複数設けられている。歯211は、前記したクラッチハブ24の周壁部241(図2参照)の外周にスプライン嵌合する。
【0037】
ドライブプレート21の基部210には、フェーシング材213が固定されている。フェーシング材213は、例えば、合成樹脂等を含浸させた繊維等から構成される摩擦材である。
【0038】
フェーシング材213は回転軸X周りの周方向に沿う弧状であり、回転軸X周りの周方向に、等間隔で複数配置されている。また、フェーシング材213は、基部210の内周縁210aから外径側にオフセットした位置に配置されている。
【0039】
図5に示すように、フェーシング材213は、ドライブプレート21の回転軸X方向の一方の面21aと他方の面21bのそれぞれに固定されている。
【0040】
図4の(a)に示すように、ドリブンプレート22の基部220は、回転軸X方向から見てリング状を成し、基部220の外周縁220aに沿って、歯221が回転軸X周りの周方向の全周に所定間隔で複数設けられている。歯221は、前記したクラッチドラム25の周壁部251(図1参照)の内周にスプライン嵌合する。
【0041】
図5に示すように、前進クラッチ2では、径方向から見て、複数のドライブプレート21とドリブンプレート22とが回転軸X方向で交互に配置されており、各々のドライブプレート21とドリブンプレート22とは回転軸X方向で対向配置されている。
【0042】
具体的には、ドリブンプレート22の回転軸X方向の一方の面22aが、ドライブプレート21の他方の面21bと対向している。また、一方の面22aの基部220においては、他方の面21bに固定されたフェーシング材213に対向している。
【0043】
ドリブンプレート22の回転軸X方向の他方の面22bが、ドライブプレート21の一方の面21aと対向している。また、他方の面22bの基部220においては、一方の面21aに固定されたフェーシング材213に対向している。
【0044】
ドリブンプレート22の基部220の内周縁220bは、ドライブプレート21の基部210の内周縁210aと回転軸X方向においてほぼ同じ位置に配置されている。ドライブプレート21の基部210に固定されたフェーシング材213の内周縁213aは、ドリブンプレート22の基部220の内周縁220bに対して、外径側にオフセットして配置されている。
【0045】
すなわち、ドリブンプレート22の基部220において、フェーシング材213との対向部220cは、基部220の内周縁220bより外径側にオフセットした位置に設けられており、基部220の対向部220cと内周縁220bの間の内径部220dでは、フェーシング材213を間に挟まず、ドライブプレート21の基部210と対向している。
【0046】
以降の説明において、ドライブプレート21の回転軸X方向における一方の面21a、他方の面21bは、単に「面21a」、「面21b」ともいう。ドリブンプレート22の回転軸X方向における一方の面22a、他方の面22bは、単に「面22a」、「面22b」ともいう。
【0047】
図4の(a)では、模式的に交差ハッチングで示しているが、ドリブンプレート22には溝部223が形成されている。溝部223は、ドリブンプレート22の面22a、22b(図5参照)の、基部220および歯221を含む全面に形成されている。
【0048】
図4の(b)および(c)は、図4の(a)の領域Aの溝部223の一部を拡大して示したものであるが、溝部223は、ドリブンプレート22の面22a、22bのそれぞれの全面に渡って連続して形成された、微細な六角形溝224から構成される。
【0049】
六角形溝224は、レーザ加工またはプレス加工等の公知の方法によって形成することができる。六角形溝224は環状のドリブンプレート22に形成されているため、例えば、レーザ加工では、図4の(b)に示すように、回転軸Xの内径側から外径側に向かうにつれて、六角形溝224の溝幅GWが徐々に広がっていくようにしても良い。
【0050】
一方、例えばプレス加工では、図4の(c)に示すように、六角形溝224の溝幅は一定にし、六角形のサイズを調整しても良い。六角形のサイズとは、六角形溝224に囲まれた平面部分の面積を意味する。具体的には、六角形のサイズを、回転軸Xの内径側から外径側に向かうにつれて大きくするように調整することができる。その際、六角形の径方向幅RWは一定とし、平面部の周方向幅CWを、内径側から外径側に向かうにつれて大きくすることで、六角形のサイズを大きくするようにしても良い。
【0051】
図6は溝部223の詳細を示す図である。図6の(a)は、溝部223に形成された六角形溝224の拡大図であり、図6の(b)は周方向溝225aの角部226における分岐を示す図であり。図6の(c)は径方向溝225bの角部226における分岐を示す図である。なお、図6において「周方向」および「径方向」とは、回転軸X(図4参照)周りの周方向および径方向を意味する。
【0052】
溝部223を構成する六角形溝224は、図4の(b)および(c)に示したように、内径側から外径側に向かってサイズを変化させても良いが、各六角形溝224は同じ構造を備えている。ここでは、図6の(a)の中心に太線で図示する六角形溝224Aを例に取って、その構造を説明する。六角形溝224Aは、6つの角部226において接続された6本の溝225a~225cから構成される。6本の溝225a~225cは同じ長さを有し、六角形溝224Aの中心Oから6つの角部226までの距離は等距離である。なお、中心Oは、各角部226を接続する対角線の交点であり、ドリブンプレート22の面22a、面22bの表面上に位置する。図6の(a)では、六角形溝224Aを正六角形として図示しているが、厳密に正六角形である必要はなく、寸法の誤差は許容される。また、図4の(b)および(c)のように、内径側から外径側に向かってサイズを調整した場合は、正六角形であるものと正六角形でないもの双方が含んでも良い。
【0053】
六角形溝224Aは、回転軸Xの周方向に沿って延び、回転軸Xの径方向において隣り合う一対の周方向溝225a、225aを備える。一対の周方向溝225a、225aの一方側(図中左側)の端部と、他方側(図中右側)の端部は、それぞれ、径方向に平行な線分に対してジグザグに延びる径方向溝225b、225cによって接続されている。
【0054】
このように、六角形溝224Aは、周方向溝225a、225aと径方向溝225b、225cの端部同士が接続することによって、異なる方向に延びる溝が連通した一つの溝を形成している。
【0055】
六角形溝224Aは、径方向および周方向において6つの他の六角形溝224と隣接しているが、径方向において隣接する六角形溝224とは、周方向溝225aを共有し、周方向に隣接する六角形溝224とは、径方向溝225b、225cのいずれかを共有している。
【0056】
また六角形溝224Aは、径方向または周方向に隣接する2つの六角形溝224と角部226を共有している。これによって、六角形溝224を構成する全ての溝が、角部226において他の溝に分岐して連通するようになっている。
【0057】
例えば、図6の(b)に示すように、周方向溝225aは角部226において径方向溝225b、225cに分岐する。図6の(c)に示すように、径方向溝225bは角部226に到達すると径方向溝225cおよび周方向溝225aに分岐する。図示は省略するが、径方向溝225cは角部226に到達すると径方向溝225bおよび周方向溝225aに分岐する。
【0058】
各六角形溝224の寸法は限定されるものでは無いが、例えば、周方向溝225aおよび径方向溝225b、225cの長さをそれぞれ120μmとし、溝深さを20μm、溝幅を50μmとすることができる。
【0059】
このように、溝225~225cおよび角部226を互いに有する複数の六角形溝224が、図4の(a)に示すようにドリブンプレート22の面22a、22bの全面にわたって連続して形成されることによって、ドリブンプレート22には、径方向および周方向に延びる溝が万遍なく張り巡らされた状態となっている。
【0060】
前記したように、前進クラッチ2において、図1に示すピストン23が、ドライブプレート21とドリブンプレート22とを回転軸X方向から押圧することで、ドライブプレート21とドリブンプレート22が接触し、発生する摩擦力によって締結される。
【0061】
具体的には、ドライブプレート21の面21a、21b(図5参照)に固定されたフェーシング材213が、ドリブンプレート22の両面22b、22aに圧接して、摩擦によってドライブプレート21とドリブンプレート22がスリップ状態を経て相対回転不能に締結される。
【0062】
ピストン23が、ドライブプレート21とドリブンプレート22から離れる方向に変位することで、ドライブプレート21とドリブンプレート22は開放状態となる。
【0063】
ここで、ドライブプレート21とドリブンプレート22の締結状態と開放状態を切り替える際に、ドライブプレート21とドリブンプレート22が一時的にスリップする状態となり、発熱が生じる。
【0064】
前進クラッチ2には、潤滑油OLの供給構造が設けられている。潤滑油OLは、ドライブプレート21およびドリブンプレート22の摩擦調整と冷却のために供給される。
図5に示すように、前進クラッチ2のクラッチハブ24では、周壁部241の外周にドライブプレート21がスプライン嵌合しており、このクラッチハブ24の周壁部241では、スプライン山部241aを回転軸Xの径方向に貫通する油孔242が設けられている。
【0065】
潤滑油OLは、クラッチハブ24の回転による遠心力によって、回転軸Xの内径側から周壁部241の内周まで到達し、油孔242を通って、周壁部241の外径側のドライブプレート21とドリブンプレート22とが位置する領域Rxに供給される。
【0066】
領域Rxに供給された潤滑油OLは、ドリブンプレート22の基部220の内周縁220bに突き当たり、面22a側と面22b側に分岐し、基部220の内径部220dから対向部220cに流れる。潤滑油OLは、対向部220cにおいて対向するフェーシング材213に供給され、フェーシング材213を冷却する。
【0067】
ここで、前記したように、対向部220cは、基部220の内周縁220bより外径側にオフセットした位置に設けられ、内径部220dでは、フェーシング材213が間に挟まれていないため、潤滑油OLが外径側の対向部220cに流れやすくなり、フェーシング材213に供給されやすい。
【0068】
潤滑油OLは、最終的にはドライブプレート21およびドリブンプレート22の外径側に到達して、ドリブンプレート22が内周にスプライン嵌合する周壁部251の油孔252(図1参照)から、径方向外側に位置する後進ブレーキ3(図1参照)に供給される。
【0069】
ここで、ドライブプレート21とドリブンプレート22の締結時には、フェーシング材213が圧接することによって、ドリブンプレート22の面22a、22bが受ける面圧が高くなり、発熱することがある。
【0070】
ドリブンプレート22の面22a、22bに供給された潤滑油OLは、熱害によって重合体を生成しやすく、生成された重合体等はフェーシング材213の気孔を塞いでしまう。フェーシング材213の気孔を塞がることによって、行き場を失った潤滑油OLはドライブプレート21とドリブンプレート22の間に過多に存在することになる。過多になった潤滑油OLによってフェーシング材213を押し戻そうとする力が働くことで、ハイドロプレーニングに近い現象が起き、ジャダーに繋がる可能性がある。
【0071】
さらに、発熱は湿式摩擦締結装置の耐久性にも影響を及ぼす可能性がある。
図7は、ドリブンプレート22のμV特性を示すグラフである。
μV特性は、ドリブンプレート22とフェーシング材213の間の相対速度(V)に応じた、ドリブンプレート22とフェーシング材213の間の摩擦係数(μ)を示すものである。図7において、実線はμV特性の初期勾配を示し、破線は劣化後の勾配を示している。
【0072】
図7のグラフからわかるように、湿式摩擦締結装置は経時劣化するものであり、この経時劣化は発熱による温度上昇によって促進される。ここで、実施の形態の構成を適用することによって温度上昇が緩和されるので、劣化速度を緩やかにすることができ、湿式摩擦締結装置の耐久性が向上する。
【0073】
実施の形態では、図4に示すように、ドリブンプレート22の面22a、22bの全体に渡って溝部223を形成している。
そのため、ドリブンプレート22の面22a、22bにフェーシング材213が圧接すると、図6(a)の矢印で示すように、ドリブンプレート22の表面に付着した潤滑油OLは、表面から溝部223の中に入り込む。これによって、潤滑油OLがドライブプレート21とドリブンプレート22の間に過多に存在することがなくなる。
【0074】
さらに、溝部223は、ドリブンプレート22の面22a、22bに連続して形成され六角形溝224から構成され、各六角形溝224が他の六角形溝224と周方向溝225aおよび径方向溝225b、225cのいずれかを共有することで、溝部223全体としてドリブンプレート22の径方向および周方向に連通している。
【0075】
これによって、溝部223に入り込んだ潤滑油OLは、クラッチハブ24の回転による遠心力によって、回転軸Xの内径側から外径側に向かって流れ、前進クラッチ2の径方向外側に位置する後進ブレーキ3(図1参照)に排出されやすくなる。
【0076】
潤滑油OLは、クラッチハブ24の回転による遠心力によって、回転軸Xの内径側から外径側に向かって流れるとともに、周方向にも流れている。六角形溝224は周方向に沿って形成された周方向溝225aを有しているため、周方向に流れる潤滑油OLが周方向溝225aに捕捉され、さらに周方向溝225aに連通する径方向溝225bまたは225cを通って、ドリブンプレート22の外径側に流れやすくなる。
【0077】
また、六角形溝224を構成する周方向溝225aおよび径方向溝225b、225cは、角部226において他の溝と連通している。例えば、図6の(b)に示すように、周方向溝225aおよび径方向溝225bを流れる潤滑油OLは、角部226に到達すると、外径側の径方向溝225cに流れる。図6の(c)に示すように、径方向溝225bを流れる潤滑油OLは、角部226に到達すると、角部226に掻き分けられる形で周方向溝225aと径方向溝225cに流れる。このように、各溝を流れる潤滑油OLが角部226において合流したり、角部226に掻き分けられて分岐したりすることで、潤滑油OLの流動性が高くなる。
【0078】
車両の運転開始直後等では、潤滑油OLは低温であるため流動性が悪い傾向があるが、このように六角形溝224において流動性が高められるため、潤滑油OLがドライブプレート21とドリブンプレート22の間に過多に存在しにくくなる。
【0079】
また、図4の(a)に示すように、溝部223は、ドリブンプレート22の面22a、22bの全面に形成されており、フェーシング材213と対向する基部220の対向部220cのみならず、歯221を含む対向部220cの外径側にも連続して形成されている。これによって、対向部220cに供給された潤滑油OLが外径側に排出されやすくなるとともに、前進クラッチ2の外径側にある後進ブレーキ3に供給されやすくなる。
【0080】
図4の(b)に示すように、六角形溝224を、回転軸Xの内径側から外径側に向かうにつれて、溝幅GWが広がるように形成した場合、歯221に形成した六角形溝224は基部220に形成した六角形溝224よりも幅広となり、潤滑油OLがより排出されやすくなる。
【0081】
図4の(c)に示すように、六角形のサイズ調整において、径方向幅RWは一定とし、周方向幅CWを、内径側から外径側に向かうにつれて大きくなるように調整した場合、周方向の角部226は、外径側においても広がることが無い。そのため、ドライブプレート21とドリブンプレート22の締結時に、周方向の角部226が外径側においても潤滑油OLをかき分けて排出する効果を保つことができる。
【0082】
また、図5に示すように、潤滑油OLは、ドリブンプレート22の内径部220dからフェーシング材213と対向する対向部220cに流れるが、溝部223はこの内径部220dから対向部220cにかけて連続して形成されている。そのため、内径部220dの溝部223に入り込んだ潤滑油OLが外径側の対向部220cに流動しやすくなり、対向部220cのフェーシング材213に潤滑油OLを供給しやすくなる。
【0083】
以上のように、実施の形態の前進クラッチ2(湿式摩擦締結装置)は、
(1)ドライブプレート21(第1摩擦部材)と、ドリブンプレート22(第2摩擦部材)と、を有し、
ドリブンプレート22における、ドライブプレート21と対向する基部220の面22a、22b(表面)に形成された溝部223を有する。
この溝部223により、ドライブプレート21(第1摩擦部材)とドリブンプレート22(第2摩擦部材)の間に供給された潤滑油OLの冷却性が向上する。
【0084】
一例として、前進クラッチ2においては、ピストン23がドライブプレート21とドリブンプレート22を押圧することによって、摩擦が発生し、ドライブプレート21とドリブンプレート22が締結して回転駆動力が伝達される。
【0085】
ドライブプレート21とドリブンプレート22との間に潤滑油OLが過多に存在すると、ハイドロプレーニングに近い現象が起き、ジャダーに繋がる可能性がある。
【0086】
また、ドライブプレート21にフェーシング材213を設けた場合、フェーシング材213とドリブンプレート22の対向面22a、22bとの間の面圧が高くなると、発熱し、潤滑油OLが熱害によって重合体を生成しやすい。重合体等はフェーシング材213の気孔を塞いでしまう。もしくは、フェーシング材213が新品の状態では、フェーシング材213の気孔率が十分ではなく、気孔が十分でない場合もある。
気孔が塞がれた、もしくは十分な気孔率を有しないことにより行き場を失った潤滑油OLがドライブプレート21とドリブンプレート22の間に過多に存在することになり、フェーシング材213を押し戻そうとする力が働くことで、ハイドロプレーニングに近い現象が起き、ジャダーに繋がる可能性がある。
【0087】
実施の形態では、ドリブンプレート22の基部220の表面に溝部223を形成しているため、ドリブンプレート22とドライブプレート21の間に存在する潤滑油OLが溝部223に入り込むことで、相対回転を持った状態でも排油性が向上する。これによって、潤滑油OLがドライブプレート21とドリブンプレート22の間に過多に存在することがなくなり、ハイドロプレーニングに近い現象を抑制できるため、ジャダーを抑制することができる。
【0088】
また、ドリブンプレート22の基部220の表面に形成された溝部223に潤滑油OLが流れることでドリブンプレート22の発熱を抑制でき、熱害による重合体の生成を根本から抑制することができるので、重合体がフェーシング材213の気孔を塞ぐことを抑制できる。フェーシング材213の気孔が塞がりにくくなることで、ドライブプレート21とドリブンプレート22の間の潤滑油OLが過多になりにくくなり、フェーシング材213を押し戻そうとする力を抑制できる。
【0089】
このように、ドリブンプレート22の基部220の表面に形成された溝部223により、摩擦面の冷却性と摩擦部位の排油性を高めることができるので、ジャダー要因を抑制することができ、またドライブプレート21およびドリブンプレート22の耐久性を向上させることができる。
【0090】
なお、前記した実施の形態では、ドリブンプレート22の一方の面22aおよび他方の面22bの全体に溝部223を形成したが、これに限定されず、例えば、ドライブプレート21の基部210と対向するドリブンプレート22の基部220にのみ溝部223を形成するようにしても良い。
【0091】
また、実施の形態では、第1摩擦部材がドライブプレート21に対応し、第2摩擦部材がドリブンプレート22に対応する例を説明したが、反対に、第1摩擦部材をドリブンプレート22とし、第2摩擦部材をドライブプレート21としても良い。その場合は、ドリブンプレート22側にフェーシング材を設け、ドライブプレート21側に溝部を設けても良い。
【0092】
(2)基部220は、ドリブンプレート22の内径側に設けられ、ドリブンプレート22の外径側の表面には、基部220の表面に形成された溝部223と連通する溝部223が設けられる。
【0093】
基部220の外径側の歯221にも、連続して溝部223が形成されていることによって、潤滑油OLが遠心力により外径側に排出されやすくなる。
【0094】
(3)外径側の表面に形成された溝部223は、基部220の表面に形成された溝部223よりも幅が広い。
【0095】
外径側の歯221に設けた溝部223の溝幅GWを、内径側の基部220の溝部223よりも広くすることによって、潤滑油OLが外径側に排出されやすくなる。
【0096】
(4)ドライブプレート21の表面にフェーシング材213(摩擦フェーシング材)が設けられ、ドリブンプレート22の基部220における外径側に、フェーシング材213との対向部220cが設けられ、溝部223は、基部220の内径側から外径側に連続して形成される。
【0097】
ドライブプレート21とドリブンプレート22の締結時、ドリブンプレート22は基部220における外径側の対向部220cにおいて、ドライブプレート21の基部210に固定されたフェーシング材213と圧接する。フェーシング材213とドリブンプレート22との間の面圧が高くなって発熱しやすくなる。ドリブンプレート22の基部220の内径部220dから対向部220cに溝部223が連続して形成されることで、内径部220dから供給された潤滑油OLが対向部220cに供給されやすくなり、フェーシング材213が冷却されやすくなる。
【0098】
(5)溝部223は、複数の角部226を有する多角形の溝である六角形溝224から形成される。
【0099】
潤滑油OLは、クラッチハブ24の回転による遠心力を受けてドリブンプレート22の内径側から外径側に径方向に流れるが、ドリブンプレート22が回転しているため、遠心力によって周方向にも流れる。溝部223を多角形である六角形溝224とすることで、異なる方向に延びる溝を設けることができ、径方向および周方向に流れる潤滑油OLを捕捉しやすくなる。また、六角形溝224とすることで、各角部226に潤滑油OLが均等に溝に入り込みやすく排油性を向上させることができる。
【0100】
実施の形態では、多角形の溝として六角形溝224を例に挙げたが、これに限定されない。三角形や四角形等、他の多角形としても良い。
【0101】
(6)六角形溝224は、ドリブンプレート22の基部220の表面に連続して形成され、各六角形溝224の角部226は隣接する他の六角形溝224の角部226と共有されている。
【0102】
六角形溝224をドリブンプレート22の一方の面22aおよび他方の面22bに連続して形成することで、潤滑油OLが入り込む面積を増加させることができる。潤滑油OLは連続して形成された六角形溝224を通ってドリブンプレート22の内径側から外径側に流れるため、潤滑油OLを後進ブレーキ3に排出しやすくなる。
【0103】
さらに、六角形溝224を構成する各溝に入り込んだ潤滑油OLが、角部226に到達すると角部226に掻き分けられて他の溝に分岐したり、角部226において合流したりすることで、潤滑油OLの流動性が高まる。変速機の運転開始時は、潤滑油OLが低温で流動性が低くなりやすいが、角部226を設けることで、運転開始時でも流動性を高めることができる。
【0104】
また、基部220の表面に連続して六角形溝224を形成するためには、例えば、六角形溝224の六角形は、ドリブンプレート22の内径側よりも外径側の方が面積が大きくする。具体的には、六角形は、内径側から外径側に向かうにつれて徐々に大きくする。
【0105】
(7)六角形溝224の六角形は、内径側から外径側に向かうにつれて、回転軸X周りの周方向幅CWが広くなるようにすることができる。
これによって、六角形溝224の周方向の角部226が外径側においても広がることがないため、ドライブプレート21とドリブンプレート22の締結時に、角部226が潤滑油OLをかき分けて排出する効果を保つことができる。
【0106】
(8)実施の形態では、多角形の溝として、六角形溝224を採用している。
【0107】
六角形溝224とすることで、異なる方向に延びる溝をドリブンプレート22の一方の面22aおよび他方の面22bに隙間無く配置することができ、潤滑油OLが溝に入り込みやすく、さらに溝に入った潤滑油OLを後進ブレーキ3に排出しやすくなる。
【0108】
(9)六角形溝224は、回転軸X周りの周方向に延び、回転軸Xの径方向において隣り合う一対の周方向溝225a、225aと、一対の周方向溝225a、225aの、径方向において対向する端部同士を接続する複数の径方向溝225b、225cとから構成される。
【0109】
周方向溝225aを備えることで、ドライブプレート21およびドリブンプレート22の回転による遠心力を受けて周方向に移動する潤滑油OLが入り込みやすく、さらに周方向溝225aが径方向溝225b、225cと接続することで、周方向溝225aで捕捉した潤滑油OLが径方向溝225b、225cを通って外径側に流れ、ドリブンプレート22から排出しやすくなる。
【0110】
(10)ドリブンプレート22の基部220の表面に形成された溝部223は、基部220の全面に形成されている。
【0111】
溝部223を基部220の全面に形成することによって、局所的に形成するよりも容易に加工することができる。
【0112】
<変形例1>
図8は、変形例1にかかる溝部223の構成を説明する図である。
実施の形態で説明した六角形溝224は、周方向に沿った周方向溝225a(図6参照)を有するものを説明したが、これに限定されない。
図8に示すように、変形例1の六角形溝227は、実施の形態の六角形溝224の向きを変えて配置したものである。
六角形溝227は、回転軸Xの径方向に沿って延び、回転軸Xの径方向において隣り合う一対の径方向溝227a、227aを備える。一対の径方向溝227a、227aは、周方向に平行な線分に対してジグザグに延びる周方向溝227b、227cによって接続されている。
【0113】
変形例1にかかる六角形溝227も、異なる方向に延びる溝を有することで、径方向および周方向に流れる潤滑油OLを捕捉しやすい。
【0114】
<変形例2>
図9は、変形例2にかかる溝部223の構成を説明する図である。
図9に示すように、溝部223は、円形溝228で構成しても良い。円形溝228は、回転軸X(図4の(a)参照)方向から見て円形の溝であり、六角形溝224と同様に、ドリブンプレート22の面22aおよび22bの全面に渡って連続して形成される。図9に示すように、円形溝228は、ドリブンプレート22径方向に沿った部分と周方向に沿った部分を有し、径方向および周方向において隣接する他の円形溝228と、溝の一部を共有している。
【0115】
以上のように、変形例1において
(11)溝部223は、回転軸X方向から見て円形の溝である円形溝228から形成される。
【0116】
潤滑油OLは、ドライブプレート21およびドリブンプレート22の内周側から外周側に向かって径方向に流動するが、ドライブプレート21およびドリブンプレート22の回転による遠心力を受けて、周方向にも移動する。ドリブンプレート22の面22a、22bに、円形溝228を設けることにより、径方向および周方向に流動する潤滑油OLが溝に入り込みやすくなる。また、円形溝228は中心Oから等距離に形成されるので、表面に付着した潤滑油OLが均等に円形溝228に入り込みやすい。
【0117】
(12)円形溝228は、ドリブンプレート22の基部220の表面に連続して形成され、各円形の溝の一部が隣り合う円形の溝と連通している。
【0118】
円形溝228をドリブンプレート22の面22a、22bに連続して形成することで、潤滑油OLが入り込む面積を増加させ、さらに溝に入り込んだ潤滑油OLを連通する溝を介してドライブプレート21およびドリブンプレート22の間から排出することができるため、排油性を向上させることができる。なお、実施の形態と同様に、円形溝228を基部220の全面に形成しても良く、これによって加工を容易にすることができる。
【0119】
前記した実施の形態および変形例1、2では、ドライブプレート21が回転軸Xの内径側に設けられたクラッチハブ24に嵌合し、ドリブンプレート22が回転軸Xの外径側に設けられたクラッチドラム25に嵌合する例を説明したが、これに限られない。例えば、ドライブプレート21が回転軸Xの外径側回転体に嵌合し、ドリブンプレート22が回転軸Xの内径側回転体に嵌合しても良い。
【0120】
また、前記した実施の形態および変形例1、2では、本発明の湿式摩擦締結装置を前進クラッチ2に適用する例を説明したが、適用例はこれに限られない。本発明は、例えば後進ブレーキ3や、車両のトルクコンバータのロックアップクラッチに適用しても良い。トルクコンバータのロックアップクラッチは、前進クラッチ2と同様に、多板としても良く、単板としても良い。
【0121】
図10は、トルクコンバータ100の構成を示す図である。図10は、ロックアップクラッチ112が単板の例を示している。
図10に示すように、トルクコンバータ100は、駆動力が入力される入力軸(不図示)にフロントカバー101を介して連結されたポンプ羽根車102と、出力軸103にタービンハブ104を介して連結されたタービン羽根車105と、ワンウエイクラッチ106を介してケース107に固定されたステータ羽根車108と、前記ポンプ羽根車102とタービン羽根車105とが収納されたコンバータ油室109と、ベアリング110と、作動油流入路111aおよび作動油流出路111bとを備えている。
【0122】
ロックアップクラッチ112は、ロックアップピストン112aと、このロックアップピストン112aに円周方向に噛合されるとともにタービンハブ104にスプライン結合されたトーションダンパ112bとを備える。ロックアップピストン112aの外径部の、フロントカバー101との対向面には、フェーシング材117が設けられている。ロックアップクラッチ112が作動すると、フェーシング材117がフロントカバー101に圧接されて締結し、不図示の入力軸から入力される駆動力を出力軸103に直接伝達する。
【0123】
フロントカバー101の、ロックアップクラッチ112と対向する面には、溝部118が設けられている。溝部118は、実施の形態または変形例1で説明した六角形溝や、変形例2で説明した円形溝を連続して形成することで構成することができる。
【0124】
ロックアップクラッチ112には、油路103b等を介して潤滑油OLが供給される。ロックアップクラッチ112も、前進クラッチ2と同様に、締結と開放を切り換える際に、一時的にスリップ状態となって発熱する。潤滑油OLは、ロックアップクラッチ112にリリーフ圧と冷却機能を供給するが、実施の形態と同様に、潤滑油OLの過熱が進むと油が重合し、重合した油がフェーシング材の気孔を塞ぐこと等が原因で、ジャダーの発生につながる可能性がある。
【0125】
そこで、フロントカバー101の、ロックアップクラッチ112のフェーシング材117と対向する面に、実施の形態と同様に、溝部118を設けることで、実施の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、本発明の湿式摩擦締結装置における第1摩擦部材をロックアップクラッチ112とし、第2摩擦部材をフロントカバー101とすることができる。溝部118は、フロントカバー101の、フェーシング材117と対向する部分のみに設けても良く、あるいは全面的に設けても良い。
【0126】
なお、第1摩擦部材をフロントカバー101とし、第2摩擦部材をロックアップクラッチ112としても良い。すなわち、フェーシング材117をフロントカバー101側に設け、対向するロックアップクラッチの面に溝部118を設けても良い。
【符号の説明】
【0127】
2 前進クラッチ
21 ドライブプレート
21a 一方の面
21b 他方の面
210 基部
211 歯
213 フェーシング材
213a 内周縁
22 ドリブンプレート
22a 一方の面
22b 他方の面
220 基部
220a 外周縁
220b 内周縁
220c 対向部
220d 内径部
221 歯
223 溝部
224、224A、227 六角形溝
225a 周方向溝
225b、225c 径方向溝
227a 径方向溝
227b、227c 周方向溝
228 円形溝
23 ピストン
24 クラッチハブ
240 底部
241 周壁部
241a スプライン山部
241b スプライン谷部
242 油孔
25 クラッチドラム
250 底部
251 周壁部
251a スプライン山部
251b スプライン谷部
252 油孔
3 後進ブレーキ
31 ドライブプレート
32 ドリブンプレート
33 ピストン
4 遊星歯車組
41 サンギヤ
42 ピニオンギヤ
43 リングギヤ
44 キャリア
5 前後進切替機構
10 変速機ケース
11 前カバー部
100 トルクコンバータ
101 フロントカバー
102 ポンプ羽根車
103 出力軸
104 タービンハブ
105 タービン羽根車
106 ワンウエイクラッチ
107 ケース
108 ステータ羽根車
109 コンバータ油室
110 ベアリング
111 作動油流入路
111b 作動油流出路
112 ロックアップクラッチ
112a ロックアップピストン
112b トーションダンパ
113b 油路
117 フェーシング材
118 溝部
O 中心
OL 潤滑油
R 油室
X 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10