(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】バリア性積層フィルムおよびバリア性包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20240513BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240513BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240513BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240513BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B32B27/30 C
B32B27/30 102
B32B27/32 Z
B32B27/00 102
B32B27/20 Z
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020094482
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】三井化学東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】中村 修
(72)【発明者】
【氏名】湊 翔太郎
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-142652(JP,A)
【文献】特開2015-036215(JP,A)
【文献】特開2004-106441(JP,A)
【文献】特開2004-106440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム層と、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層と、ポリビニルアルコール系樹脂層と、を備え、
高湿度環境側から、前記基材フィルム層と、前記ポリ塩化ビニリデン系樹脂層と、前記ポリビニルアルコール系樹脂層と、がこの順番に積層されて
おり、
前記ポリ塩化ビニリデン系樹脂層の厚み(X
1
)と前記ポリビニルアルコール系樹脂層の厚み(X
2
)との合計の厚みが0.5μm以上10.0μm以下であり、
前記基材フィルム層がプロピレン系重合体を含むプロピレン重合体組成物により構成された一軸または二軸延伸プロピレン系重合体フィルムを含む、バリア性積層フィルム。
【請求項2】
請求項
1に記載のバリア性積層フィルムにおいて、
前記プロピレン重合体組成物が粘着付与剤をさらに含むバリア性積層フィルム。
【請求項3】
請求項
2に記載のバリア性積層フィルムにおいて、
前記粘着付与剤が石油系炭化水素樹脂および水素添加石油系炭化水素樹脂から選択される少なくとも一種を含むバリア性積層フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載のバリア性積層フィルムにおいて、
前記ポリビニルアルコール系樹脂層がポリビニルアルコール系重合体と無機膨潤性層状化合物を含むバリア性積層フィルム。
【請求項5】
請求項
4に記載のバリア性積層フィルムにおいて、
前記ポリビニルアルコール系樹脂層に含まれる前記ポリビニルアルコール系重合体の含有量(A)と前記無機膨潤性層状化合物の含有量(B)との質量比が(A/B)が50/50以上99/1以下であるバリア性積層フィルム。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか一項に記載のバリア性積層フィルムにおいて、
少なくとも一方の最外面に熱融着層をさらに有するバリア性積層フィルム。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載のバリア性積層フィルムにおいて、
前記ポリ塩化ビニリデン系樹脂層の厚みをX
1とし、前記ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みをX
2としたとき、X
1/X
2が0.02以上10.0以下であるバリア性積層フィルム。
【請求項8】
請求項1乃至
7のいずれか一項に記載のバリア性積層フィルムを備える、バリア性包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性積層フィルムおよびバリア性包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
バリア性フィルムとして、基材フィルム層の表面にポリ塩化ビニリデン系樹脂層を設けた積層フィルムが知られている。
このような積層フィルムに関する技術としては、例えば、特許文献1(特開平08-39718号公報)に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、高分子フィルム基材(A)の少なくとも片面に、無機材料の蒸着膜(B)が形成され、さらに、該蒸着膜(B)の上に、ポリ塩化ビニリデンの塗膜(C)が積層されていることを特徴とする複合蒸着フィルムが記載されている。
特許文献1には、このような複合蒸着フィルムはガスバリア性および耐屈曲疲労性が優れると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、基材フィルム層の表面にポリ塩化ビニリデン系樹脂層を設けた積層フィルムは、高湿度下での水蒸気バリア性に劣る場合があることが明らかになった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高湿度下での水蒸気バリア性に優れたバリア性積層フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示すバリア性積層フィルムおよびバリア性包装体が提供される。
【0008】
[1]
基材フィルム層と、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層と、ポリビニルアルコール系樹脂層と、を備え、
上記基材フィルム層と、前記ポリ塩化ビニリデン系樹脂層と、前記ポリビニルアルコール系樹脂層と、がこの順番に積層されているバリア性積層フィルム。
[2]
上記[1]に記載のバリア性積層フィルムにおいて、
上記基材フィルム層がプロピレン系重合体を含むプロピレン重合体組成物により構成された一軸または二軸延伸プロピレン系重合体フィルムを含むバリア性積層フィルム。
[3]
上記[2]に記載のバリア性積層フィルムにおいて、
上記プロピレン重合体組成物が粘着付与剤をさらに含むバリア性積層フィルム。
[4]
上記[3]に記載のバリア性積層フィルムにおいて、
上記粘着付与剤が石油系炭化水素樹脂および水素添加石油系炭化水素樹脂から選択される少なくとも一種を含むバリア性積層フィルム。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載のバリア性積層フィルムにおいて、
上記ポリビニルアルコール系樹脂層がポリビニルアルコール系重合体と無機膨潤性層状化合物を含むバリア性積層フィルム。
[6]
上記[5]に記載のバリア性積層フィルムにおいて、
上記ポリビニルアルコール系樹脂層に含まれる上記ポリビニルアルコール系重合体の含有量(A)と上記無機膨潤性層状化合物の含有量(B)との質量比が(A/B)が50/50以上99/1以下であるバリア性積層フィルム。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載のバリア性積層フィルムにおいて、
少なくとも一方の最外面に熱融着層をさらに有するバリア性積層フィルム。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載のバリア性積層フィルムにおいて、
上記ポリ塩化ビニリデン系樹脂層の厚みをX1とし、上記ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みをX2としたとき、X1/X2が0.02以上10.0以下であるバリア性積層フィルム。
[9]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載のバリア性積層フィルムにおいて、
上記ポリ塩化ビニリデン系樹脂層の厚み(X1)と上記ポリビニルアルコール系樹脂層の厚み(X2)との合計の厚みが0.5μm以上10.0μm以下であるバリア性積層フィルム。
[10]
上記[1]乃至[9]のいずれか一つに記載のバリア性積層フィルムを備える、バリア性包装体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高湿度下での水蒸気バリア性に優れたバリア性積層フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る実施形態のバリア性積層フィルムの構造の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。文中の数字の間にある「~」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0012】
[バリア性積層フィルム]
図1は、本発明に係る実施形態のバリア性積層フィルム100の構造の一例を模式的に示した断面図である。
バリア性積層フィルム100は、基材フィルム層101と、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102と、ポリビニルアルコール系樹脂層103と、を備え、基材フィルム層101と、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102と、ポリビニルアルコール系樹脂層103と、がこの順番に積層されている。
【0013】
本発明者らの検討によれば、基材フィルム層の表面にポリ塩化ビニリデン系樹脂層を設けた積層フィルムは、高湿度下での水蒸気バリア性に劣る場合があることが明らかになった。
そこで、本発明者らはさらに鋭意検討した結果、基材フィルム層101と、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102と、ポリビニルアルコール系樹脂層103と、がこの順番に積層した積層構造とすることにより、高湿度下での水蒸気バリア性に優れた積層フィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本実施形態によれば、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102と、ポリビニルアルコール系樹脂層103とをこの順番で基材フィルム層101上に形成することにより、高湿度下での水蒸気バリア性に優れたバリア性積層フィルム100を実現できる。
【0014】
バリア性積層フィルム100において、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102の厚みをX1とし、ポリビニルアルコール系樹脂層103の厚みをX2としたとき、X1/X2は、好ましくは0.02以上10.0以下であり、より好ましくは0.1以上8.0以下、さらに好ましくは0.4以上6.0以下である。X1/X2が上記範囲内とすることにより、バリア性能、取り扱い性、生産性および製造コスト等の性能バランスがより一層良好となる。
【0015】
また、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102の厚み(X1)とポリビニルアルコール系樹脂層103の厚み(X2)との合計の厚み(X1+X2)は、好ましくは0.5μm以上10.0μm以下、より好ましくは0.8μm以上6.0μm以下、さらに好ましくは1.0μm以上4.0μm以下である。バリア性積層フィルム100はバリア性能に優れるため、合計の厚み(X1+X2)を上記上限値以下と薄くすることが可能である。また、合計の厚み(X1+X2)を上記範囲内とすると、バリア性能、取り扱い性、生産性、密着性、取扱い性、生産性および製造コスト等のバランスにより優れるため好ましい。
【0016】
以下、バリア性積層フィルム100を構成する各部材について説明する。
【0017】
(基材フィルム層)
本実施形態の基材フィルム層101は、好ましくは熱可塑性樹脂を含むものであり、より好ましくは熱可塑性樹脂により形成されたシート状またはフィルム状の基材により構成される。上記熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等のポリアミド;ポリ塩化ビニル;ポリイミド;エチレン・酢酸ビニル共重合体;ポリアクリロニトリル;ポリカーボネート;ポリスチレン;アイオノマー;等から選択される一種または二種以上を挙げることができる。
これらの中でも、延伸性、透明性が良好な点から、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
【0018】
また、熱可塑性樹脂により形成されたフィルム状の基材は、無延伸フィルムであっても、延伸フィルムであってもよい。
また、基材フィルム層101の片面または両面に、他の層との接着性を改良するために、例えば、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、プライマーコート処理等の表面活性化処理を行っておいてもよい。
基材フィルム層101の厚さは、特に限定はされないが好ましくは1μm以上60μm以下、より好ましくは5μm以上40μm以下である。
【0019】
また、本実施形態の基材フィルム層101としては、バリア性積層フィルム100の高湿度下での水蒸気バリア性をより一層向上させる観点から、プロピレン系重合体を含むプロピレン重合体組成物により構成された一軸または二軸延伸プロピレン系重合体フィルムを含むことが好ましい。また、ポリ塩化ビニリデン等のバリア性樹脂がコートされたプロピレン系重合体フィルムを使用してもよい。
【0020】
本実施形態に係るプロピレン系重合体組成物はプロピレン系重合体を含む。
本実施形態に係るプロピレン系重合体組成物すなわち一軸または二軸延伸プロピレン系重合体フィルムに含まれるプロピレン系重合体の含有量は、プロピレン系重合体組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下、特に好ましくは95質量%以上100質量%以下である。これにより、フィルムのコシ、水蒸気バリア性、機械的特性、取扱い性、外観、成形性等のバランスをより良好にすることができる。
【0021】
本実施形態に係るプロピレン系重合体としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンまたは炭素数が4~20のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。上記炭素数が4~20のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらの中でもエチレンまたは炭素数が4~10のα-オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。これらのα-オレフィンは、プロピレンとランダム共重合体を形成してもよく、またブロック共重合体を形成してもよい。エチレンまたは炭素数が4~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量は、プロピレン系重合体の全体を100モル%としたとき、5モル%以下であることが好ましく、2モル%以下であることがより好ましい。基材フィルム層101中のプロピレン系重合体は、1種類単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、耐熱性、水蒸気バリア性、機械的特性および剛性等の性能バランスにより一層優れたバリア性積層フィルム100を得る観点から、プロピレン系重合体としてはプロピレン単独重合体が好ましい。
【0022】
本実施形態に係るプロピレン系重合体は種々の方法により製造することができる。例えばチーグラー・ナッタ系触媒やメタロセン系触媒等の公知の触媒を用いて製造することができる。
【0023】
ASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定される本実施形態に係るプロピレン系重合体のメルトフローレート(MFR)は、流動性および成形性の観点から、好ましくは0.5g/10分以上、より好ましくは1g/10分以上、さらに好ましくは2g/10分以上であり、成形性をより安定化させる観点から、好ましくは20g/10分以下、より好ましくは10g/10分以下、さらに好ましくは7g/10分以下である。
【0024】
本実施形態に係るプロピレン系重合体組成物は、バリア性積層フィルム100高湿度下での水蒸気バリア性をより一層向上させる観点から、粘着付与剤をさらに含むことが好ましい。
本実施形態に係る粘着付与剤としては、一般的に粘着付与剤として製造・販売されている粘着性を付与する性質を有する樹脂状物質を用いることができる。
このような粘着付与剤としては、例えば、クロマン・インデン樹脂等のクロマン系樹脂;フェノール・ホルムアルデヒド樹脂およびキシレン・ホルムアルデヒド樹脂等のフェノール系樹脂;テルペン・フェノール樹脂、テルペン樹脂(α,β-ピネン樹脂)、芳香族変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂等のテルペン系樹脂;合成ポリテルペン樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、脂肪族・脂環族系石油樹脂、脂肪族・芳香族系石油樹脂、不飽和炭化水素重合体および炭化水素系粘着化樹脂等の石油系炭化水素樹脂;上記石油系炭化水素樹脂の水素添加物(水素添加石油系炭化水素樹脂とも呼ぶ。);ロジンのペンタエリスリトール・エステル、ロジンのグリセリン・エステル、水素添加ロジン、水素添加ロジン・エステル、特殊ロジン・エステルおよびロジン系粘着付与剤等のロジン系樹脂等を挙げることができる。
これらの中でも、プロピレン系重合体との相性がよく、バリア性積層フィルム100の厚みムラをより一層抑制しながら、水蒸気バリア性をより効果的に向上させることができる観点から、石油系炭化水素樹脂および水素添加石油系炭化水素樹脂から選択される少なくとも一種が好ましく、水素添加石油系炭化水素樹脂がより好ましい。
ここで、水素添加石油系炭化水素樹脂の水素添加率は特に限定されないが、プロピレン系重合体との相性性により優れる点から、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である。
【0025】
JIS K2207に準拠して測定される、本実施形態に係る粘着付与剤の軟化温度の下限値は特に限定されないが、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは110℃以上であり、さらに好ましくは125℃以上であり、特に好ましくは130℃以上である。軟化温度が上記下限値以上であると、基材フィルム層101の成形時に発煙等が発生することを抑制でき、その結果、成形機の汚れ等を抑制することができる。さらに、軟化温度が上記下限値以上であると、基材フィルム層101におけるプロピレン系重合体の配向を向上できるため、バリア性積層フィルム100の水蒸気バリア性をより一層良好にすることができるとともに基材フィルム層101の厚みムラをより一層抑制することができる。
また、上記軟化温度の上限値は特に限定されないが、好ましくは150℃以下であり、より好ましくは145℃以下であり、さらに好ましくは140℃以下である。軟化温度が上記上限値以下であると、プロピレン系重合体との相性性がより良好になるとともに基材フィルム層101におけるプロピレン系重合体の配向を向上できるため、基材フィルム層101の厚みムラをより一層抑制することができる。
【0026】
本実施形態に係るプロピレン系重合体組成物に含まれる粘着付与剤の含有量の下限値は、バリア性積層フィルム100の水蒸気バリア性をより一層向上させ、さらに厚みムラをより一層抑制する観点から、プロピレン系重合体組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上であり、特に好ましくは5質量%以上である。
また、本実施形態に係るプロピレン系重合体組成物に含まれる粘着付与剤の含有量の上限値は、バリア性積層フィルム100の加工性、寸法安定性および透明性等を向上させる観点から、プロピレン系重合体組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。また、粘着付与剤の含有量が上記上限値以下であると、フィルム表面への粘着付与剤のブリードアウトが抑制されるため、耐ブロッキング性およびバリア性積層フィルム100のラミネート強度を向上できたり、成形機の汚染を抑制できたりする。
【0027】
本実施形態に係るプロピレン系重合体組成物には、必要に応じて、耐熱安定剤、耐候安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、スリップ剤、核剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機または有機の充填剤等の各種添加剤を本実施形態の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
【0028】
本実施形態に係るプロピレン系重合体組成物は、各成分をドライブレンド、タンブラーミキサー、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、高速二軸押出機、熱ロール等により混合または溶融・混練することにより調製することができる。
【0029】
(ポリ塩化ビニリデン系樹脂層)
ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102はポリ塩化ビニリデン系樹脂を主成分として含む層である。
【0030】
ここで、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を主成分として含むとは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102がポリ塩化ビニリデン系樹脂を50質量%以上含むことを意味する。ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102はポリ塩化ビニリデン系樹脂を好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上含む。
ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102に含まれるポリ塩化ビニリデン系樹脂の含有量が上記範囲内であると、バリア性がより一層優れることになるため好ましい。
また、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102は、1層のポリ塩化ビニリデン系樹脂層により構成されていてもよいし、2層以上のポリ塩化ビニリデン系樹脂層により構成されていてもよい。このとき、2層以上のポリ塩化ビニリデン系樹脂層はそれぞれ同じ種類のポリ塩化ビニリデン系樹脂層であってもよいし、異なる種類のポリ塩化ビニリデン系樹脂層であってもよい。
【0031】
本実施形態のポリ塩化ビニリデン系樹脂は、構成単位として、塩化ビニリデンモノマーを主に含有するものであれば特に限定されず、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)であってもよいし、塩化ビニリデンと、塩化ビニリデンと共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。
【0032】
上記共重合体としては、塩化ビニリデンの含有割合が60質量%以上100質量%未満であり、塩化ビニリデンと共重合可能な単量体の含有割合が0質量%を超えて40質量%以下である共重合体を例示することができる。
塩化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-n-オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1~18のアルキルエステルまたはシクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸の炭素数2~18のアルコキシアルキルエステルのような(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等のカルボキシル基を有するエチレン系α、β-不飽和カルボン酸およびその塩;(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等の不飽和アミド化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有単量体;(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等のアクリル酸または(メタ)アクリル酸の炭素数2~8のヒドロキシアルキルエステル;ポリオキシエチレンモノアクリレート、ポリオキシエチレンモノメタアクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアルコール等の水酸基含有単量体;スチレン、α-メチルスチレン、塩化ビニル、ブタジエン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、イタコン酸アルキルエステル、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のその他の重合性不飽和単量体等から選択される一種または二種以上を挙げることができる。
【0033】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102に使用するポリ塩化ビニリデン系樹脂は、従来公知の方法で製造することもできるが、種々の市販品を用いることもできる。市販品としては、旭化成社製のサランレジンシリーズ等を好ましく使用することができる。
【0034】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂を溶解させる有機溶媒としては、使用するポリ塩化ビニリデン系樹脂の種類に応じて適宜選択されるため特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;これらの混合溶媒;等が挙げられる。これらの有機溶媒は一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でもテトラヒドロフランとトルエンとの混合溶媒、メチルエチルケトンとトルエンとの混合溶媒およびテトラヒドロフランとトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒が好ましい。
【0035】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102はシランカップリング剤を含んでもよい。
上記シランカップリング剤としては特に限定されないが、例えば、2-クロロエチルトリメトキシシラン、2-クロロエチルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のハロゲン含有シランカップリング剤;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤;2-アミノエチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-[N-(2-アミノエチル)アミノ]エチルトリメトキシシラン、3-[N-(2-アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3-[N-(2-アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基含有シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤;2-メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2-メタクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、2-アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
上記シランカップリング剤としては、得られるポリ塩化ビニリデン系樹脂層102の外観をより良好にする観点から、エポキシ基含有シランカップリング剤およびアミノ基含有シランカップリング剤の少なくとも一方を含むことが好ましく、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、2-アミノエチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-[N-(2-アミノエチル)アミノ]エチルトリメトキシシラン、3-[N-(2-アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、および3-[N-(2-アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシランからなる群から選択される一種または二種以上を含むことがより好ましく、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、2-アミノエチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、および3-アミノプロピルトリエトキシシランからなる群から選択される少なくとも一種を含むことがさらに好ましい。
【0037】
またポリ塩化ビニリデン系樹脂層102の全体を100質量%としたとき、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102中のシランカップリング剤の含有量は0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102は、基材フィルム層101やポリビニルアルコール系樹脂層103、無機物層等の他の層との接着性を向上させる観点から、さらにアンカーコート剤を含んでいてもよい。特に無機物層として、酸化ケイ素により形成された層を用いる場合、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102と無機物層との接着性が劣るため、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102はさらにアンカーコート剤を含むことが好ましい。
上記アンカーコート剤としては、例えば、イソシアネート系アンカーコート剤、ウレタン系アンカーコート剤、ポリエチレンイミン、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂およびエチレン酢酸ビニル樹脂からなる群から選択される一種または二種以上が挙げられる。
【0039】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102に用いられるアンカーコート剤の配合量は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂とアンカーコート剤との合計を100質量%としたとき、好ましくは1質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上20質量%以下であり、特に好ましくは3質量%以上10質量%以下である。
アンカーコート剤の配合量が上記範囲内であると、接着性とバリア性の性能バランスに特に優れているため好ましい。
【0040】
例えば、ポリ塩化ビニリデン系樹脂とともにアンカーコート剤を有機溶媒に溶解して得られるポリ塩化ビニリデン系樹脂溶液を用いることにより、アンカーコート剤を含むポリ塩化ビニリデン系樹脂層102を形成することができる。
【0041】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102の形成方法としては、例えば、ポリ塩化ビニリデン系樹脂溶液により形成されたポリ塩化ビニリデン系樹脂フィルムを基材フィルム層101または無機物層上に積層させることによりポリ塩化ビニリデン系樹脂層102を形成する方法、ポリ塩化ビニリデン系樹脂溶液を基材フィルム層101または無機物層上に塗布し、乾燥させることによりポリ塩化ビニリデン系樹脂層102を形成する方法等が挙げられる。これらの中でも、バリア性、密着性、生産性等の観点から、ポリ塩化ビニリデン系樹脂溶液を基材フィルム層101または無機物層上に塗布し、乾燥させることによりポリ塩化ビニリデン系樹脂層102を形成する方法が好ましい。
【0042】
また、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102の形成方法としては、ポリ塩化ビニリデン系樹脂の微粒子を含むラテックスにより形成されたポリ塩化ビニリデン系樹脂フィルムを基材フィルム層101または無機物層上に積層させることによりポリ塩化ビニリデン系樹脂層102を形成する方法、ポリ塩化ビニリデン系樹脂の微粒子を含むラテックスを基材フィルム層101または無機物層上に塗布し、乾燥させることによりポリ塩化ビニリデン系樹脂層102を形成する方法等が挙げられる。これらの中でも、バリア性、密着性、生産性の観点から、ポリ塩化ビニリデン系樹脂の微粒子を含むラテックスを基材フィルム層101または無機物層上に塗布し、乾燥させることによりポリ塩化ビニリデン系樹脂層102を形成する方法が好ましい。
【0043】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102に使用するポリ塩化ビニリデン系樹脂の微粒子を含むラテックスは、従来公知の方法で製造することもできるが、種々の市販品を用いることもできる。市販品としては、旭化成社製のサランラテックスシリーズ等を好ましく使用することができる。
【0044】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102の厚みは、透明性、コスト、残留有機溶媒量等の観点から、好ましくは6.0μm以下、より好ましくは4.5μm以下、さらに好ましくは3.0μm以下である。バリア性積層フィルム100はバリア性能に優れるため、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102の厚みを上記上限値以下と薄くすることが可能である。
また、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102の厚みは、バリア性、取扱い性等の観点から、0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上である。
【0045】
(ポリビニルアルコール系樹脂層)
ポリビニルアルコール系樹脂層103はポリビニルアルコール系重合体を主成分として含む層である。
ここで、ポリビニルアルコール系重合体を主成分として含むとは、ポリビニルアルコール系樹脂層103がポリビニルアルコール系重合体を50質量%以上含むことを意味する。ポリビニルアルコール系樹脂層103はポリビニルアルコール系重合体を好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上含む。
【0046】
本実施形態に係るポリビニルアルコール系重合体とは、ポリ酢酸ビニル重合体をケン化して得られる分子内に水酸基を持ち、好ましくは水に可溶の重合体である。原料であるポリ酢酸ビニル重合体は酢酸ビニルの単独重合体であってもよいし、他の共重合可能なモノマー、例えばエチレン、プロピレンまたは1-ブテン等のα-オレフィン等が例えば30モル%まで共重合されたものであってもよい。共重合のモノマーが30モル%以下であると、バリア性能がより一層良好になる。
【0047】
本実施形態に係るポリビニルアルコール系重合体のケン化度は、得られるバリア性積層フィルム100の高湿度下での水蒸気バリア性をより一層向上させる観点から、好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上である。
本実施形態に係るポリビニルアルコール系重合体の重合度は特に限定されないが、例えば300~5000、より好ましくは500~2000の範囲である。重合度が上記下限値以上であると、高湿度下での水蒸気バリア性をより一層向上させる。また、重合度が上記上限値以下であると、ポリビニルアルコール系樹脂溶液の塗工性を向上させることができる。
【0048】
ポリビニルアルコール系樹脂層103は、バリア性積層フィルム100の高湿度下での水蒸気バリア性をより一層向上させる観点から、無機膨潤性層状化合物をさらに含むことが好ましい。
本実施形態に係る無機膨潤性層状化合物とは、無機の単位結晶構造を幾枚にも重ねた多層構造をもって板状粒子を形成しており、水及び/または溶媒に対して膨潤性を有する層状粘土鉱物である。
【0049】
本実施形態に係る無機膨潤性層状化合物としては、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト、パイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等のスメクタイト系の層状粘土鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト、テトラシリシックマイカ等のマイカ、これらの弗素化合物等を挙げることができる。
これらは、天然のものでも合成されたものでもよい。特に不純物の少ない合成品が好ましく、その中でも結晶構造が成長し、アスペクト比を大きくできる溶融法で生成したナトリウム型テトラシリシックマイカが特に好ましい。
【0050】
本実施形態における膨潤性とは、無機層状化合物を水及び/または溶媒に浸漬した際、この層間に水分子が配位することにより浸漬前より体積が増加する化合物で、ポリビニルアルコール系重合体も同様にこの無機層状化合物の層間に入り込むと推察される。
【0051】
上記層状化合物の層と層との間には通常陽イオンが保持されている。このような層間イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオンを例示することができる。特に陽イオンが膨潤性を向上させるためにナトリウムで置換されていることが好ましい。
【0052】
無機膨潤性層状化合物の平均粒径は特に限定されないが、透明性および高湿度下での水蒸気バリア性のバランスを向上させる観点から、長さ方向が300Å以上、5μm以下のものが好ましく用いられる。また、アスペクト比(長さ径と厚みの比)は大きいほど透明性、バリア性が良好であるが、他の層との密着性を向上させる観点から、20~2000が好ましい。
【0053】
ポリビニルアルコール系樹脂層103に含まれるポリビニルアルコール系重合体の含有量(A)と無機膨潤性層状化合物の含有量(B)との質量比が(A/B)が、透明性および密着性のバランスを向上させる観点から、好ましくは50/50以上99/1以下であり、より好ましくは70/30以上97/3以下である。
【0054】
本実施形態において、ポリビニルアルコール系樹脂層103と他の層との密着性向上、及び/またはポリビニルアルコール系樹脂層103の強度向上のためにポリビニルアルコール系樹脂層103に架橋剤成分を添加してもよい。
架橋剤成分としては、例えば、シランカップリング剤、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、アミン系化合物等が挙げられる。架橋剤成分としては、高湿度下でも密着性低下しないことからイソシアネート系架橋剤が好ましく、特に水性の自己乳化タイプが水溶液中で安定であるので好ましい。架橋剤成分の含有量は、ポリビニルアルコール系樹脂層103の全体を100質量%としたとき、例えば、1質量%以上10質量%以下である。
【0055】
ポリビニルアルコール系樹脂層103は、本発明の目的を阻害しない範囲で濡れ性向上剤、帯電防止剤、その他各種添加剤を含んでもよい。特に、アンチブロッキング剤として粒径が0.1~10μm程度の酸化珪素、カオリン等の無機系微粒子やポリメチルメタクリレート、メラミン等の有機系微粒子を好ましく用いることができる。
【0056】
本実施形態において、ポリビニルアルコール系樹脂層103は、例えば、ポリビニルアルコール系重合体を分散媒に分散、溶解させた分散液をポリ塩化ビニリデン系樹脂層102上に塗布して形成することができる。分散媒としては、コスト、作業環境面から水が好ましく用いられるが、水以外の溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、或いはその他ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等を必要に応じて、1種または2種以上を組み合わせて加えることも可能である。
【0057】
ポリビニルアルコール系樹脂層103の厚みは、透明性、コスト、可撓性等の観点から、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは3.0μm以下である。バリア性積層フィルム100はバリア性能に優れるため、ポリビニルアルコール系樹脂層103の厚みを上記上限値以下と薄くすることが可能である。
また、ポリビニルアルコール系樹脂層103の厚みは、バリア性、取扱い性等の観点から、0.2μm以上、より好ましくは0.3μm以上である。
【0058】
(熱融着層)
本実施形態のバリア性積層フィルム100は、ヒートシール性を付与するために、少なくとも一方の最外面に熱融着層をさらに有してもよい。
上記熱融着層としては、熱融着層として公知のものが使用できる。例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチル-ペンテン-1、オクテン-1等のα-オレフィンの単独重合体若しくは共重合体、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体、低結晶性あるいは非晶性のエチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・ブテン-1ランダム共重合体、プロピレン・ブテン-1ランダム共重合体等から選択される一種または二種以上のポリオレフィンを含む樹脂組成物により形成される層、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を含む樹脂組成物により形成される層、EVAおよびポリオレフィンを含む樹脂組成物により形成される層等が挙げられる。
【0059】
(無機物層)
本実施形態のバリア性積層フィルム100は、バリア性能をより一層向上させるために、基材フィルム層101とポリ塩化ビニリデン系樹脂層102との間に、無機物層をさらに有してもよい。
本実施形態の無機物層を構成する無機物は、例えば、バリア性を有する薄膜を形成できる金属、金属酸化物等が挙げられる。
無機物層を構成する無機物としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表2A族元素;チタン、ジルコニウム、ルテニウム、ハフニウム、タンタル等の周期表遷移元素;亜鉛等の周期表2B族元素;アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の周期表3A族元素;ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表4A族元素;セレン、テルル等の周期表6A族元素等の単体または酸化物等から選択される一種または二種以上を挙げることができる。
なお、本実施形態では、周期表の族名は旧CAS式で示している。
【0060】
さらに、上記無機物の中でも、バリア性、コスト等のバランスに優れていることから、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素等のケイ素化合物、酸化アルミニウム、アルミニウムからなる群から選択される一種または二種以上の無機物を含むことが好ましい。
なお、酸化ケイ素には、二酸化ケイ素の他、一酸化ケイ素、亜酸化ケイ素が含有されていてもよい。
【0061】
無機物層は上記無機物により形成されている。無機物層は単層の無機物層から構成されていてもよいし、複数の無機物層から構成されていてもよい。また、無機物層が複数の無機物層から構成されている場合には同一種類の無機物層から構成されていてもよいし、異なった種類の無機物層から構成されていてもよい。
【0062】
無機物層の厚さは、バリア性、密着性、取扱い性等のバランスの観点から、好ましくは1nm以上100nm以下、より好ましくは2nm以上50nm以下、さらに好ましくは5nm以上30nm以下である。
本実施形態において、無機物層の厚さは、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡による観察画像により求めることができる。
【0063】
無機物層の形成方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ気相成長法(CVD法)等の真空プロセスや、ゾルゲルプロセス等により基材フィルム層101の片面または両面に無機物層を形成することができる。
【0064】
(その他の層)
本実施形態のバリア性積層フィルム100には、例えば、滑性層、帯電防止層等の種々のコーティング層やラミネート層をさらに設けてもよい。
【0065】
(用途)
本実施形態のバリア性積層フィルム100は、例えば、バリア性能が要求される、食品、医薬品、日常雑貨等を包装するための包装用フィルム;真空断熱用フィルム;エレクトロルミネセンス素子、太陽電池等を封止するための封止用フィルム;等として好適に使用することができる。
また、本実施形態のバリア性積層フィルム100はバリア性包装体を構成するバリア性フィルムとして好適に用いることもできる。本実施形態に係るバリア性包装体は、例えば、内容物を充填することを目的として使用される本実施形態のバリア性積層フィルム100により構成されたバリア性包装袋自体または当該袋に内容物を充填したものである。また、本実施形態に係るバリア性包装袋は用途に応じその一部にバリア性積層フィルム100を使用してもよいし、バリア性包装袋全体にバリア性積層フィルム100を使用してもよい。
本実施形態のバリア性積層フィルム100は内容物として飲食物が用いられる食品用包装体を構成するバリア性フィルムとして特に好適に用いることもできる。
【0066】
[バリア性積層フィルムの製造方法]
本実施形態に係るバリア性積層フィルム100の製造方法は、基材フィルム層101と、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102と、ポリビニルアルコール系樹脂層103と、がこの順番に積層されてなるバリア性積層フィルム100の製造方法であり、以下の工程を含んでいる。
(1)基材フィルム層101上に、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を有機溶媒に溶解してなるポリ塩化ビニリデン系樹脂溶液あるいはポリ塩化ビニリデン系樹脂の微粒子を含むラテックスを塗布し、乾燥することによりポリ塩化ビニリデン系樹脂層102を形成する工程
(2)ポリ塩化ビニリデン系樹脂層102上に、ポリビニルアルコール系樹脂を含むポリビニルアルコール系樹脂溶液を塗布し、乾燥することによりポリ塩化ビニリデン系樹脂層102を形成する工程
【0067】
上記(1)および(2)の工程において、上記ポリ塩化ビニリデン系樹脂溶液や上記ラテックス、ポリビニルアルコール系樹脂溶液等の溶液を塗布する方法としては、特に限定されず、通常の方法を用いることができる。例えば、エアーナイフコーター、キスロールコーター、メタリングバーコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、ディップコーター、ダイコーター等の公知の塗工機を用いて塗工する方法が挙げられる。
【0068】
上記(1)および(2)の工程において、塗布後の乾燥方法としては特に限定されず、通常の方法を用いることができる。例えば、アーチドライヤー、ストレートバスドライヤー、タワードライヤー、ドラムドライヤー、フローティングドライヤー等の公知の乾燥機を用いて乾燥する方法が挙げられる。
乾燥温度は、基材の耐熱性により異なるが、例えばOPPの場合、50℃~130℃が好ましく、さらに70℃~120℃が好ましい。乾燥時間は、好ましくは5秒間以上10分間以下、より好ましくは5秒間以上3分間以下、さらに好ましくは5秒間以上1分間以下である。
【0069】
乾燥後、必要によりオーブン等によって熱処理を行うことが好ましい。例えば、上記乾燥後のフィルムを好ましくは35℃以上60℃以下、より好ましくは40℃以上50℃以下のオーブン中で、好ましくは5時間以上70時間以下、より好ましくは10時間以上50時間以下程度熱処理する。このような熱処理によりポリ塩化ビニリデン系樹脂の結晶化が促進され、バリア性積層フィルム100のバリア性能をより一層向上させることができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0071】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0072】
実施例および比較例における各評価は以下の方法で行った。
【0073】
(1)水蒸気透過度の測定
厚さ50μmのLLDPEフィルム(三井化学東セロ社製、商品名:T.U.XFCS)に接着剤(三井化学社製、タケラックA-310(商品名)/タケネートA-3(商品名)=12/1(重量比))を3.0g/m2塗布した。次いで、実施例および比較例で得られたバリア性積層フィルムの基材フィルム層とは反対側の表面とLLDPEフィルムの接着剤塗布面が接するようにして、バリア性積層フィルムとLLDPEフィルムとを積層し、積層体を得た。
次いで得られた積層体を用いて、内表面積が0.01m2になるように製袋し、得られた袋内に内容物として塩化カルシウムを10g入れ、袋の入り口をヒートシールした。
次いで得られた袋を温度40℃、湿度90%RHの環境下に72時間保管した。
保管前後の塩化カルシウムの重量を測定し、その差から水蒸気透過度(g/(m2・24h))を算出した。
【0074】
<実施例1>
基材層1として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製、商品名:エンブレットPET#12)を用いた。この基材層1上に、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層1(PVDC層1)、ポリビニルアルコール系樹脂層1(PVA層1)を順次形成することによりバリア性積層フィルムを得た。
ここで、PVDC層1、PVA層1の形成方法は以下のとおりである。まず、ポリ塩化ビニリデン系樹脂(旭化成社製、商品名:サランレジンF216)をトルエン:MEK=1:2の混合溶媒中で加熱溶解し、ポリ塩化ビニリデン系樹脂溶液(固形分5質量%)を調製した。
次いで、このポリ塩化ビニリデン系樹脂溶液を、乾燥後の厚みが0.4μmになるように基材層1上にアプリケーターで塗工し、乾燥させて溶媒を除去することによりPVDC層1を形成した。
つづいて、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名:PVA-V)を熱水中に溶解させ、ポリビニルアルコール系樹脂溶液(固形分5質量%)を調製した。これに無機層状化合物(トピー工業社製、合成ナトリウムヘクトライト、濃度5質量%水分散液)を固形分比率で100:5(PVA:合成ナトリウムヘクトライト)になるように配合した。
次いで、このポリビニルアルコール系樹脂溶液を、乾燥後の厚みが0.8μmになるようにPVDC層1上にアプリケーターで塗工し、乾燥させて溶媒を除去することによりPVA層1を形成した。
得られたバリア性積層フィルムの評価結果を表1に示す。ここで、表1において、基材フィルム層上に形成された2つの樹脂層は、基材フィルム層側から第一樹脂層、第二樹脂層と呼ぶ。
【0075】
<実施例2>
PVDC層1の代わりにPVDC層2を用いた以外は実施例1と同様にしてバリア性積層フィルムを得た。得られたバリア性積層フィルムの評価結果を表1に示す。
ここで、PVDC層2の形成方法は以下のとおりである。まず、ポリ塩化ビニリデン系樹脂溶液として、PVDCラテックス(旭化成社製、商品名:サランラテックスL536B)(固形分50質量%水分散液)を使用した。
次いで、このPVDCラテックスを、乾燥後の厚みが1.8μmになるように基材層1上にアプリケーターで塗工し、乾燥させて溶媒を除去することによりPVDC層2を形成した。
【0076】
<比較例1>
PVDC層1とPVA層1の形成順序を入れ替えた以外は実施例1と同様にしてバリア性積層フィルムを得た。得られたバリア性積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0077】
<比較例2>
PVDC層2とPVA層1の形成順序を入れ替えた以外は実施例2と同様にしてバリア性積層フィルムを得た。得られたバリア性積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0078】
<実施例3>
基材層1の代わりに基材層2(厚さ20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム、三井化学東セロ社製、商品名:HE-1#20)を用いた以外は実施例1と同様にしてバリア性積層フィルムを得た。得られたバリア性積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0079】
<実施例4>
基材層1の代わりに基材層2を用い、かつ、PVDC層2の厚みを表1に示す値に変更した以外は実施例2と同様にしてバリア性積層フィルムを得た。得られたバリア性積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0080】
<比較例3>
基材層1の代わりに基材層2を用いた以外は比較例1と同様にしてバリア性積層フィルムを得た。得られたバリア性積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0081】
<比較例4>
基材層1の代わりに基材層2を用い、かつ、PVDC層2の厚みを表1に示す値に変更した以外は比較例2と同様にしてバリア性積層フィルムを得た。得られたバリア性積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0082】
【符号の説明】
【0083】
100 バリア性積層フィルム
101 基材フィルム層
102 ポリ塩化ビニリデン系樹脂層
103 ポリビニルアルコール系樹脂層