(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】モータステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20240513BHJP
H02K 1/16 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K1/16 A
(21)【出願番号】P 2020124420
(22)【出願日】2020-07-21
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】森口 達朗
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-004609(JP,A)
【文献】特開2020-141536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 1/16
H02K 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端面に開口した放射状のスロットを有する環状のステータコアと、
前記スロット内に前記ステータコアの径方向に沿って一列に配置された複数のコイル用線材と、
前記ステータコアと前記複数のコイル用線材の電気的絶縁性を確保した状態で両者を接着した絶縁接着層と、を備え、
各コイル用線材が、横断面形状の角部にアール部が設けられた皮膜付平角線からなるモータステータにおいて、
前記スロットの内壁面に凹部と凸部を径方向に交互に配置してなる凹凸形状部が設けられていることにより、前記絶縁接着層のうち複数の皮膜付平角線と対向する面が凹凸面に形成されると共に、該凹凸面を構成する凸部が径方向で隣り合う2つの皮膜付平角線のアール部で画成される窪み部に充填されて
おり、
かつ、前記凹凸形状部を構成する凸部は、その径方向の中央部を通って周方向に延びる中央線が、径方向で隣り合う2つの皮膜付平角線の当接部と一致するように設けられていることを特徴とするモータステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの静止側を構成するモータステータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コンパクトでありながら高出力であることが求められる電動車両(ハイブリッド車や電気自動車等)の駆動用モータにおいては、ステータコイルを形成するためのコイル用線材に、コイルの占積率を高めることができる平角線(詳細には、横断面形状が略矩形状をなす導線と、この導線の周囲を被覆する絶縁皮膜とからなる皮膜付平角線)を用いることが主流になりつつある。このようなモータにおいては、環状のステータコアとこれに保持されるステータコイル(を構成するコイル用線材)との間に、両者間での電気的絶縁性を確保した状態で両者を接着固定した絶縁接着層が設けられる。
【0003】
上記の絶縁接着層は、例えば、電気的絶縁性を有するシート状基材を二つの発泡接着層で挟み込んだ絶縁シートを用いて形成される(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、皮膜付平角線を構成する導線としては、通常、その横断面形状の角部にアール部(R部)が形成されたものが使用される。このような導線の周囲を絶縁皮膜で被覆する場合、皮膜形成材料が導線のR部に付着し難く、その結果、絶縁皮膜のうち導線のR部を被覆する部分の膜厚が、導線の平坦部を被覆する部分の膜厚よりも小さくなり易い。この場合、絶縁皮膜のうち導線のR部を被覆する部分での絶縁性能が不足気味になるため、ステータコアの径方向で隣り合う2つのコイル用線材(皮膜付平角線)の間で必要とされる電気的絶縁性を確保することができず、いわゆる層間短絡(レイヤーショート)が発生するおそれがある。
【0006】
このような問題は、例えば、上記の特許文献1にも記載されているように、絶縁接着層の形成に際して、電気的絶縁性および接着性を併せ持つワニス等の樹脂組成物を皮膜付平角線に塗布し、皮膜付平角線の一部(特にアール部)を上記樹脂組成物でコーティングすることで解消できると考えられる。しかしながら、この場合、モータステータを製造する度に上記樹脂組成物を皮膜付平角線に塗布する作業を追加的に実施する必要が生じるため、モータステータの製造効率の低下、およびモータステータの製造コスト増が不可避となる。
【0007】
以上の実情に鑑み、本発明の目的は、ステータコアのスロット内に複数の皮膜付平角線が一列に配置されるモータステータにおいて、隣り合う2つの皮膜付平角線の間で必要とされる電気的絶縁性を低コストに確保することを可能とし、もって、低コストでありながら、耐久性および信頼性に富む電動モータを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、両端面に開口した放射状のスロットを有する環状のステータコアと、スロット内にステータコアの径方向に沿って一列に配置された複数のコイル用線材と、ステータコアと複数のコイル用線材の間の電気的絶縁性を確保した状態で両者を接着した絶縁接着層と、を備え、各コイル用線材が、横断面形状の角部にアール部が設けられた皮膜付平角線からなるモータステータにおいて、スロットの内壁面に凹部と凸部を径方向に交互に配置してなる凹凸形状部が設けられていることにより、絶縁接着層のうち複数の皮膜付平角線と対向する面が凹凸面に形成されると共に、この凹凸面を構成する凸部が径方向で隣り合う2つの皮膜付平角線のアール部で画成される窪み部に充填されていることを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、ステータコアと複数のコイル用線材(皮膜付平角線)の間に設けられる絶縁接着層の一部(絶縁接着層の凹凸面を構成する凸部)により、径方向で隣り合う2つの皮膜付平角線の間の電気的絶縁性が補完される。本発明の構成上、スロットの内壁面に所定形状の凹凸形状部が設けられたステータコアを用いる必要はあるが、絶縁接着層の形成段階でワニス等の樹脂組成物を皮膜付平角線に塗布する作業を実施する必要はなくなるので、隣り合う2つの皮膜付平角線の間の電気的絶縁性を確実に確保するために必要となる手間とコストは、ワニス等の樹脂組成物を皮膜付平角線に塗布する場合に比べて格段に少なくて済む。
【0010】
なお、上記の凹凸面を有する絶縁接着層は、例えば、所定の電気的絶縁性および接着性を併せ持ち、加熱に伴って膨張(厚さが増加)する発泡樹脂層を有する絶縁シートを用いることで容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上より、本発明によれば、角部にアール部が設けられた皮膜付平角線がステータコアのスロット内に径方向に沿って一列に配置されるモータステータにおいて、径方向で隣り合う2つの皮膜付平角線の間で必要とされる電気的絶縁性を低コストに確保することができる。これにより、耐久性および信頼性に富む電動モータを低コストに実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るモータステータの部分概略斜視図である。
【
図2】(a)図は、コイル用線材の平面図、(b)図は、(a)図のP-P線矢視拡大断面図である。
【
図3】
図1に示すモータステータに設けられる絶縁接着層の形成工程の初期段階を示す部分平面図である。
【
図5】
図1に示すモータステータの部分拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を
図1~
図5に基づいて説明する。なお、以下の説明で方向性を示すために使用する「軸方向」、「径方向」および「周方向」とは、それぞれ、環状のステータコアの軸方向、径方向および周方向である。
図1および
図3~
図5には、「軸方向」、「径方向」および「周方向」を、それぞれ矢印X、矢印Yおよび矢印Zで示している。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るモータステータ1を径方向内側から見たときの部分概略斜視図である。同図に示すモータステータ1は、例えば、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)などといった電動車両の駆動用モータ(U相、V相およびW相を有する三相交流モータ)の静止側を構成するものであり、環状のステータコア2と、ステータコア2に装着され、ステータコイル(U相、V相およびW相のステータコイル)を構成する複数のコイル用線材3と、絶縁接着層10とを備える。図示例のモータステータ1は、ステータコア2の径方向内側にロータが配置される、いわゆるインナーロータ型モータのステータである。
【0015】
ステータコア2は、例えば、環状の電磁鋼板を軸方向Xに複数枚積層することにより、あるいは、磁性粉末の圧粉体を焼成することにより環状(短筒状)に形成される。ステータコア2は、その径方向外側の端部に設けられた環状部から周方向Zに間隔をおいて径方向内側に突出する複数のティース部21と、周方向Zで隣り合う2つのティース部21の間に形成された複数のスロット22とを有する。各スロット22は、径方向Yに延びる放射状をなし、その径方向内側の端部はステータコア2の内周面に、また、軸方向一方側および他方側の端部はステータコア2の一端面および他端面にそれぞれ開口している。
【0016】
各コイル用線材3としては、
図2(a)(b)に示すように、横断面形状が略矩形状をなした導線4と、導線4の周囲を被覆する絶縁皮膜5とからなる一本の皮膜付平角線を、互いに平行な一対の脚部3a,3aと、両脚部3aを繋ぐ山部3bとからなる略U字状に曲げ加工したものが使用される。このような構成を有するコイル用線材3は、セグメントコイルとも称される。コイル用線材3としての皮膜付平角線(を構成する導線4)は、横断面形状の角部にアール部(R部)6を有する。
【0017】
ステータコア2の各スロット22内には、同数かつ偶数本(図示例では8本)のコイル用線材3(コイル用線材3を構成する一対の脚部3a,3aのうちの一方)が径方向Yに沿って一列に整列配置される。図示は省略しているが、コイル用線材3を構成する一対の脚部3a,3aのうちの他方は、一方の脚部3aが配置されたスロット22とは異なるスロット22内に配置される。スロット22内には、コイル用線材3のうちの脚部3aの長手方向一部領域が配置され、両脚部3aの自由端[
図2(a)の紙面上側の導線4が露出した部分]はステータコア2の軸方向一方外側に、また、山部3bはステータコア2の軸方向他方外側に配置される。
【0018】
図1および
図5に示す絶縁接着層10は、ステータコア2と、スロット22内に一列に整列配置された8本のコイル用線材3(の脚部3a)との間の電気的絶縁性を確保した状態で両者を接着した層である。本実施形態の絶縁接着層10は、
図3に示すような絶縁シート14、具体的には、電気的絶縁性を有する樹脂材料からなるシート状基材11を、二つの発泡接着層12,13で挟み込んだ絶縁シート14を用いて形成される。発泡接着層12,13は、加熱することによって膨張(厚さが増加)・硬化する発泡樹脂からなる層であり、それ自体が電気的絶縁性および接着性を有する。
図5に示すように、加熱後(膨張後)の発泡接着層12,13の厚さは、
図3に示す加熱前の発泡接着層12,13の厚さの数倍程度になる。
【0019】
図3~
図5に示すように、スロット22の内壁面23(詳細には、内壁面23のうち、スロット22内に整列配置された8本のコイル用線材3と周方向Zで対向する面)には、軸方向Xに延びる凸部24と凹部25を径方向Yに交互に配置することで形成された凹凸形状部26が設けられている。
図4に拡大して示すように、凹凸形状部26を構成する凸部24は、その径方向Yの中央部を通って周方向Zに延びる中央線Cが、コイル用線材3同士の当接部8と略一致するように設けられる。上記の凹凸形状部26は、ステータコア2が電磁鋼板の積層体からなる場合には、それぞれに凹凸形状部26がプレス成形された電磁鋼板を軸方向Xに積層することにより形成され、また、ステータコア2が磁性粉末の焼成体からなる場合には、磁性粉末の圧粉体を成形するのと同時に型成形される。
【0020】
図1および
図5に示す絶縁接着層10は、以下のようにして形成される。
【0021】
まず、
図3に示すように、ステータコア2に設けられた各スロット22内に、8本のコイル用線材3(の脚部3a)を径方向Yに沿って一列に整列配置すると共に、この整列配置したコイル用線材3とスロット22の内壁面23との間に絶縁シート14を配置してなるアセンブリを作製する。次いで、このアセンブリを加熱炉に投入して所定時間加熱することにより、絶縁シート14を構成する発泡接着層12,13を膨張・硬化させる。これにより、一方の発泡接着層12がコイル用線材3に接着すると共に、他方の発泡接着層13がスロット22の内壁面23に接着した絶縁接着層10が形成される。
【0022】
前述したように、本実施形態のステータコア2に設けられたスロット22の内壁面23(内壁面23のうちスロット22内に整列配置された8本のコイル用線材3と周方向Zで対向する面)には、凸部24と凹部25を径方向Yに交互に配置することで形成された凹凸形状部26が設けられている。そのため、
図5に示すように、絶縁シート14を構成する発泡接着層12,13が膨張して絶縁接着層10が形成されると、この絶縁接着層10は、発泡接着層13のうち凹凸形状部26と対向して接着する面が凹凸形状部26に押し付けられて凹凸面(凹凸形状部26とは凹部と凸部の配置態様が逆になった凹凸面)となることにより、シート状基材11および発泡接着層12も凹凸形状となる。これに伴い、発泡接着層12のうちコイル用線材3と対向して接着する面が、凹凸形状部26と凸部と凹部の配置態様を同じくした凹凸面27に形成される。
【0023】
そして、
図4を参照して説明したように、ステータコア2の凹凸形状部26を構成する凸部24は、その径方向Yの中央部を通って周方向Zに延びる中央線Cが、コイル用線材3同士の当接部8と略一致するように設けられていることから、発泡接着層12に形成された凹凸面27を構成する凸部28は、隣り合う2つのコイル用線材3のアール部6で画成される窪み部7に充填される(
図5中の拡大図を参照)。なお、図示例では、窪み部7の全域に凸部28(発泡接着層12)が充填されていないが、凹凸形状部26の凸部24の形状や大きさ等によっては、窪み部7の全域に凸部28が充填される場合もある。
【0024】
以上を小括すると、本実施形態のモータステータ1は、ステータコア2に形成されたスロット22の内壁面23に凸部24と凹部25を径方向Yに交互に配置することで形成された凹凸形状部26が設けられていることにより、全体が電気的絶縁性を有する絶縁接着層10のうち複数のコイル用線材3との接着面が凹凸面27に形成されると共に、この凹凸面27を構成する凸部28が径方向Yで隣り合う2つの皮膜付平角線のアール部6で画成される窪み部7に充填されている。
【0025】
このような構成によれば、仮に、コイル用線材3を構成する絶縁皮膜5のうちアール部6を被覆する部分の膜厚が不十分であることに由来して、隣り合う2つのコイル用線材3の間での電気的絶縁性が十分に確保されていない場合でも、ステータコア2とコイル用線材3の間に設けられる絶縁接着層10の一部により、隣り合う2つのコイル用線材3の間の電気的絶縁性が補完される。
【0026】
本発明の構成上、スロット22の内壁面23に所定形状の凹凸形状部26が設けられたステータコア2を用いる必要はあるが、
・ステータコア2が電磁鋼板の積層体又は磁性粉末の焼成体からなる関係上、ステータコア2には所定形状の凹凸形状部26を容易に設け得ること、および、
・絶縁接着層10の形成段階でワニス等の樹脂組成物をコイル用線材3としての皮膜付平角線に塗布する作業を実施する必要はないこと、
などにより、径方向Yで隣り合う2つのコイル用線材3の間の電気的絶縁性を確実に確保するために必要となる手間とコストは、ワニス等の樹脂組成物をコイル用線材3に塗布する場合に比べて格段に少なくて済む。
【0027】
従って、本発明によれば、ステータコア2のスロット22内に複数のコイル用線材3としての皮膜付平角線が径方向Yに沿って一列に配置されるモータステータ1において、隣り合う2つのコイル用線材3の間で必要とされる電気的絶縁性を低コストに確保することができる。これにより、耐久性および信頼性に富む電動モータを低コストに実現することが可能となる。
【0028】
以上、本発明の一実施形態に係るモータステータ1について説明を行ったが、本発明は、以上で説明した実施形態に限定適用されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことができる。
【0029】
例えば、以上で説明した実施形態では、絶縁接着層10を形成するための絶縁シート14として、電気的絶縁性を有するシート状基材11を、それぞれが電気的絶縁性を有する2つの発泡接着層12,13で挟み込んだものを採用したが、絶縁シート14は、ステータコア2とスロット22内に配置される複数のコイル用線材3との電気的絶縁性を確保した状態で両者を接着することができ、かつ、絶縁接着層10の形成時にスロット22の内壁面23に設けられる凹凸形状部26に倣って変形可能であれば、その他の構成を有するものを採用しても構わない。具体的には、例えば、全体が電気的絶縁性および接着性を有する発泡接着層のみからなる絶縁シート14を用いて絶縁接着層10を形成することも可能である。
【0030】
また、以上では、インナーロータ型モータのモータステータ1に本発明を適用した場合について説明したが、モータステータの径方向外側にロータが配置される、いわゆるアウターロータ型モータのモータステータに本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 モータステータ
2 ステータコア
3 コイル用線材
4 導線
5 絶縁皮膜
6 アール部
7 窪み部
10 絶縁接着層
12,13 発泡接着層
14 絶縁シート
21 ティース部
22 スロット
23 内壁面
24 凸部
25 凹部
26 凹凸形状部
27 凹凸面
28 凸部