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  • 特許-撥液構造及び容器並びに容器の製造方法 図1
  • 特許-撥液構造及び容器並びに容器の製造方法 図2
  • 特許-撥液構造及び容器並びに容器の製造方法 図3A
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  • 特許-撥液構造及び容器並びに容器の製造方法 図5B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】撥液構造及び容器並びに容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/37 20060101AFI20240513BHJP
【FI】
B29C45/37
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020164054
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022056181
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉野 慶
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/159825(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/146635(WO,A1)
【文献】特開2019-188616(JP,A)
【文献】特開2020-026299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
B29C 59/00-59/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針形状の凸部が分布する微細な凹凸状の樹脂表面を有し、
前記微細な凹凸状の樹脂表面に分布する高さが1μm以上の前記凸部の高さが、10μm未満であり、
高さが1μm以上10μm未満の前記凸部が、100μm2に5個以上分布し、
高さが1μm以上10μm未満の前記凸部のアスペクト比が、0.5以上7.0以下であり、
高さが1μm未満の前記凸部が、100μm 2 に40個以上分布する、撥液構造。
【請求項2】
請求項に記載の撥液構造を有する容器。
【請求項3】
撥液構造を有する容器の製造方法であって、
射出成形用の金型に微細な凹凸状の表面を形成する凹凸加工工程と、
前記金型内で樹脂を射出し、その後の型開き時に前記金型の前記微細な凹凸状の表面によって前記樹脂を引き延ばすことにより、針形状の凸部が分布する微細な凹凸状の樹脂表面で構成される前記撥液構造を形成し、前記撥液構造は、前記微細な凹凸状の樹脂表面に分布する高さが1μm以上の前記凸部の高さが10μm未満であり、高さが1μm以上10μm未満の前記凸部が100μm 2 に5個以上分布し、高さが1μm以上10μm未満の前記凸部のアスペクト比が0.5以上7.0以下であり、高さが1μm未満の前記凸部が100μm 2 に40個以上分布する、射出成形工程と、を有する、容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥液構造及び容器並びに容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水、醤油、ソースなどの液状食品を収容する容器などにおいて、液状食品をはじく撥液構造を有するものが知られている。撥液構造は、容器の内面に設けた場合には例えば液状食品の使い残しを低減することができ、容器の外面に設けた場合には例えば、吐出部からの液垂れなどによる容器の外面への液状食品の付着を抑制することができる。
【0003】
液状食品をはじく撥液構造として、例えば特許文献1に記載されるように、柱形状の凸部が分布する微細な凹凸状の樹脂表面を有する撥液構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-188616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される撥液構造は高い撥液性を有するが、これと同等以上の高い撥液性を発揮できる新たな撥液構造が望まれていた。
【0006】
本発明は、高い撥液性を有する新規の撥液構造及び容器並びにそのような容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る撥液構造は、針形状の凸部が分布する微細な凹凸状の樹脂表面を有し、前記微細な凹凸状の樹脂表面に分布する高さが1μm以上の前記凸部の高さが、10μm未満であり、高さが1μm以上10μm未満の前記凸部が、100μm2に5個以上分布し、高さが1μm以上10μm未満の前記凸部のアスペクト比が、0.5以上7.0以下であり、高さが1μm未満の前記凸部が、100μm 2 に40個以上分布する
【0009】
本発明の一態様に係る容器は、前記撥液構造を有する。
【0010】
本発明の一態様に係る容器の製造方法は、撥液構造を有する容器の製造方法であって、射出成形用の金型に微細な凹凸状の表面を形成する凹凸加工工程と、前記金型内で樹脂を射出し、その後の型開き時に前記金型の前記微細な凹凸状の表面によって前記樹脂を引き延ばすことにより、針形状の凸部が分布する微細な凹凸状の樹脂表面で構成される前記撥液構造を形成し、前記撥液構造は、前記微細な凹凸状の樹脂表面に分布する高さが1μm以上の前記凸部の高さが10μm未満であり、高さが1μm以上10μm未満の前記凸部が100μm 2 に5個以上分布し、高さが1μm以上10μm未満の前記凸部のアスペクト比が0.5以上7.0以下であり、高さが1μm未満の前記凸部が100μm 2 に40個以上分布する、射出成形工程と、を有する
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い撥液性を有する新規の撥液構造及び容器並びにそのような容器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る撥液構造における微細な凹凸状の樹脂表面を構成する針形状の凸部のアスペクト比を説明するための説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る撥液構造を形成するための金型の表面形状を模式的に示す断面図である。
図3A】実施例2の樹脂表面のSEM画像である。
図3B】実施例2の樹脂表面について非接触レーザー共焦点顕微鏡によって取得した表面形状データの一例である。
図4A】実施例3の樹脂表面のSEM画像である。
図4B】実施例3の樹脂表面について非接触レーザー共焦点顕微鏡によって取得した表面形状データの一例である。
図5A】実施例4の樹脂表面のSEM画像である。
図5B】実施例4の樹脂表面について非接触レーザー共焦点顕微鏡によって取得した表面形状データの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る撥液構造及び容器について詳細に例示説明する。
【0014】
本実施形態に係る撥液構造は、針形状の凸部(以下、針状凸部とも呼ぶ)が分布する微細な凹凸状の樹脂表面(以下、微細凹凸面とも呼ぶ)を有し、高さが1μm以上10μm未満の針状凸部が、100μm2に5個以上分布し、高さが1μm以上10μm未満の針状凸部のアスペクト比が、0.5以上7.0以下である。
【0015】
ここで、アスペクト比とは、図1に示すように針状凸部の下端の幅をa、高さ(つまり、針状凸部の下端から針状凸部の上端までの高さ)をbとしたときの、b/aで表される指標であり(つまり、アスペクト比c=b/a)、アスペクト比が大きいほど針状凸部が上方に向けて細長い形状を有していることを意味している。
【0016】
なお、本実施形態において上方とは、微細凹凸面に対して垂直に離れる方向を意味し、下方とはその反対方向を意味している。
【0017】
本実施形態に係る撥液構造は、上記のように、微細凹凸面を針状凸部で構成するとともにその針状凸部の高さ、密度及びアスペクト比を所定範囲に限定したことにより、後述する試験結果が示すように水、醤油、ソースなどの液状食品に対する高い撥液性を発揮することができる。
【0018】
すなわち、高さが1μm以上10μm未満の針状凸部が100μm2に5個未満分布する場合には、高い撥液性を得ることはできない。また、高さが1μm以上10μm未満の針状凸部のアスペクト比が、0.5未満であり又は7.0を超える場合にも、高い撥液性を得ることはできない。
【0019】
また、本実施形態に係る撥液構造は、高い撥液性をより確実に得るために、高さが1μm未満の針状凸部が、100μm2に40個以上分布するのが好ましい。
【0020】
本実施形態の微細凹凸面は、金型を用いた射出成形による樹脂成形面で構成することができる。より具体的に、微細凹凸面は、レーザーなどで凹凸加工を施すことで形成される微細な凹凸状の表面(以下、金型凹凸面とも呼ぶ)を有する金型を用いる射出成形によって形成することができる。金型凹凸面は、図2に示すように、先端が概ね球形状をなす凸部(以下、球状凸部とも呼ぶ)が分布する微細な凹凸状の表面である。
【0021】
このような球状凸部が分布する金型凹凸面により、型開き時に樹脂を引き延ばしながら針状凸部を形成することができる。つまり、この金型表面形状により、射出成形によって射出された樹脂が、金型から抜けなくなり、型開き時に金型から無理抜きされる際に金型に引っ張られ、針のような形に形成される。球状凸部の高さ、幅及び密度などを調節することで、形成される針状凸部の高さ、密度及びアスペクト比を調節することができる。
【0022】
本実施形態に係る撥液構造を形成する樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シリコーン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等であっても液状食品に対する高い撥液性は得られるが、撥液性をより高める観点からは、表面自由エネルギーがPE以下(PEの表面自由エネルギーは32mN/m)であることが好ましく、PE以下の表面自由エネルギーを有する樹脂は、例えば、PP、シリコーン樹脂、PTFE等があげられる。また、見掛け上の表面自由エネルギーを小さくするために、金型凹凸面にフッ素含有コーティングや、シリコーンコーティングを施して当該コーティングを樹脂成形面に転写させたり、樹脂としてシリコン含有PP、シリコン含有PEを使用することもできる。
【0023】
本実施形態に係る撥液構造を容器に設けてもよい。例えば、本実施形態に係る撥液構造を、例えば、ボトル状等の容器本体の口部に装着されるキャップや、カップ状などの容器に設けてもよい。本実施形態に係る撥液構造を容器の内面に設けることにより、例えば液状食品の使い残しを低減することができる。また、本実施形態に係る撥液構造を容器の外面に設けることにより、例えば、吐出部からの液垂れなどによる容器の外面への液状食品の付着を抑制することができる。
【0024】
本実施形態に係る撥液構造を有する容器は、射出成形用の金型に金型凹凸面を形成する凹凸加工工程と、金型内で樹脂を射出し、その後の型開き時に金型凹凸面によって樹脂を引き延ばすことにより、針状凸部が分布する微細凹凸面で構成される撥液構造を形成する射出成形工程と、を有する製造方法によって製造してもよい。この場合、凹凸加工工程は、撥液構造に、高さが1μm以上10μm未満の針状凸部が100μm2に5個以上分布し、高さが1μm以上10μm未満の針状凸部のアスペクト比が0.5以上7.0以下となるように行われる。また、凹凸加工工程は、撥液構造に、高さが1μm未満の針状凸部が100μm2に40個以上分布するように行うことが好ましい。また、金型凹凸面は、球状凸部が分布する微細な凹凸状の表面とすることが好ましい。
【0025】
本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【実施例
【0026】
本発明の実施例1~4と比較例1として、針状凸部の高さ、密度及びアスペクト比が異なる微細凹凸面を有する樹脂プレートのサンプルを制作し、水、醤油(キッコーマン社「特選丸大豆しょうゆ」)及びソース(ブルドックソース社「中濃ソース」)の3種類の液体食品に対する撥液性の評価を行った。いずれのサンプルもレーザー加工による金型凹凸面を用いた射出成形によって制作した。
【0027】
実施例1は、微細凹凸面に分布する高さが1μm以上の針状凸部の高さを2.5μm以下とし、高さが1μm以上2.5μm以下の針状凸部を100μm2に5個以上10個以下分布させ、高さが1μm以上2.5μm以下の針状凸部のアスペクト比を0.51以上1.57以下とし、高さが1μm未満の針状凸部を100μm2に48個以上140個以下分布させた。
【0028】
実施例2は、微細凹凸面に分布する高さが1μm以上の針状凸部の高さを6.0μm以下とし、高さが1μm以上6.0μm以下の針状凸部を100μm2に8個以上22個以下分布させ、高さが1μm以上6.0μm以下の針状凸部のアスペクト比を0.53以上3.48以下とし、高さが1μm未満の針状凸部を100μm2に44個以上116個以下分布させた。
【0029】
実施例3は、微細凹凸面に分布する高さが1μm以上の針状凸部の高さを7.5μm以下とし、高さが1μm以上7.5μm以下の針状凸部を100μm2に6個以上30個以下分布させ、高さが1μm以上7.5μm以下の針状凸部のアスペクト比を0.89以上6.68以下とし、高さが1μm未満の針状凸部を100μm2に44個以上408個以下分布させた。
【0030】
実施例4は、微細凹凸面に分布する高さが1μm以上の針状凸部の高さを9.9μm以下とし、高さが1μm以上9.9μm以下の針状凸部を100μm2に8個以上32個以下分布させ、高さが1μm以上9.9μm以下の針状凸部のアスペクト比を0.79以上3.10以下とし、高さが1μm未満の針状凸部を100μm2に116個以上228個以下分布させた。
【0031】
比較例1は、微細凹凸面に分布する高さが1μm以上の針状凸部の高さを1.2μm以下とし、高さが1μm以上1.2μm以下の針状凸部を100μm2に0個以上2個以下分布させ、高さが1μm以上1.2μm以下の針状凸部のアスペクト比を0.13以上0.49以下とし、高さが1μm未満の針状凸部を100μm2に24個以上72個以下分布させた。
【0032】
また、比較例2として、微細凹凸面に分布する高さが1μm以上の針状凸部が10μm以上の高さを有するものを含む微細凹凸面を有するサンプルの制作を試みたが、型開き時に樹脂が金型に張りつき、制作することができなかった。
【0033】
実施例2~4の微細凹凸面の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:XL-30CP、PHILIPS社製)で撮影した。図3Aは実施例2、図4Aは実施例3、図5Aは実施例4のSEM画像である。また、実施例2~4の微細凹凸面について、非接触レーザー共焦点顕微鏡(深さ1nmの解像度、OLS4100、オリンパス社製)を用いて表面形状データを取得した。図3Bは実施例2、図4Bは実施例3、図5Bは実施例4の非接触レーザー共焦点顕微鏡データである。表面形状データは、一例として3箇所の断面それぞれの表面形状を示しており、横軸はプレート幅方向の位置を示し、縦軸はプレート厚さ方向(高さ方向)の位置(ゼロ点未調整)を示している。
【0034】
撥液性の評価は、具体的には、上記液体食品に対する滑落角を測定した。すなわち、上記サンプルの微細凹凸面に各液を一滴付着させて、微細凹凸面を傾け、各液が滑り落ち始める角度を測定した。その結果を表1に示す。表1において、上記液体食品のいずれに対しても滑落角が10°以内であったものを○で示し、上記液体食品のいずれかに対して滑落角が30°を越えたものを×で示し、それ以外のものを△で示している。
【表1】
【0035】
表1に示すように、高さが1μm以上10μm未満の針状凸部が100μm2に5個以上分布し、高さが1μm以上10μm未満の針状凸部のアスペクト比が0.5以上7.0以下である実施例1~4では、表1において〇又は△で示される高い撥液性が得られているのに対し、この条件を満たしていない比較例1では、撥液性が得られていない。
【0036】
なお、各サンプルの材料は、今回はブロックポリプロピレンを使用したが、低密度ポリエチレン(LDPE)などでも同様の結果を得られることを確認済である。
【符号の説明】
【0037】
a 針状凸部の下端の幅
b 針状凸部の高さ
c アスペクト比
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B