(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】非水系カーボンナノチューブ分散液
(51)【国際特許分類】
C01B 32/174 20170101AFI20240513BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240513BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20240513BHJP
C08L 39/06 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
C01B32/174
C08K3/04
C08K7/06
C08L39/06
(21)【出願番号】P 2023214428
(22)【出願日】2023-12-20
【審査請求日】2024-01-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】小川 歩
(72)【発明者】
【氏名】飯田 薫
(72)【発明者】
【氏名】安間 祐人
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-534747(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175319(WO,A1)
【文献】特開2011-006511(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106976868(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0020466(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
H01M 4/00-4/62
H01M 10/00-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長が100μm以上のカーボンナノチューブと、
非水系溶媒と、
前記非水系溶媒に可溶であり、かつ重量平均分子量が7万以上の分散剤と、
を含み、
前記分散剤は、繰返し単位としてのビニルピロリドン単位が全繰返し単位の50モル%以上を占めているビニルピロリドン系ポリマーを含み、
前記分散剤の含有量が、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して、10質量部以上500質量部以下である、非水系カーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの前記平均繊維長が、500μm以下である、
請求項1に記載の非水系カーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの前記平均繊維長が、125μm以上375μm以下である、
請求項2に記載の非水系カーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
前記分散剤の前記重量平均分子量が、10万以下である、
請求項1に記載の非水系カーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
前記非水系溶媒が、非プロトン性極性溶媒である、
請求項1~4のいずれか1つに記載の非水系カーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
前記分散剤が、ポリビニルピロリドンを含む、
請求項1~4のいずれか1つに記載の非水系カーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブの濃度が、0.01質量%以上10質量%以下である、
請求項1~4のいずれか1つに記載の非水系カーボンナノチューブ分散液。
【請求項8】
前記分散剤の濃度が、0.01質量%以上10質量%以下である、
請求項1~4のいずれか1つに記載の非水系カーボンナノチューブ分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系カーボンナノチューブ分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば二次電池の導電助剤等として、カーボンナノチューブ(以下「CNT」ともいう。)を所定の溶媒に分散させてなるCNT分散液が汎用されている。これに関連する従来技術文献として、特許文献1~4が挙げられる。例えば特許文献1には、CNTと、重量平均分子量が0.1万~40万の分散剤と、揮発性塩と、水系溶媒と、を含む水系CNT分散液が記載されている。特許文献1には、上記CNTとして、平均繊維長が10μm以下のものが好適である旨が記載されている。
【0003】
また、分散媒としては、乾燥が容易であること等から、水系溶媒にかえて非水系溶媒(水分を含まない有機溶剤系)を使用したい要望がある。特許文献3には、フッ素化処理されていないCNTと、アミド系極性有機溶媒と、ポリビニルピロリドン(PVP)と、からなり、かつ非イオン界面活性剤を含有しない、CNT分散溶液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6274309号公報
【文献】特許第6079138号公報
【文献】特許第4182215号公報
【文献】特許第6531926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
導電性を向上する観点等から、CNT分散液では、より繊維長の長い(例えば平均繊維長が100μm以上の)CNTを使用したい要望がある。しかしながら、本発明者らの検討によれば、繊維長の長いCNTは、非水系溶媒中で絡まって凝集しやすい傾向がある。そのため、分散処理過程で急激な増粘が起こって分散自体が困難になったり、CNT分散液の粘度が過度に高くなって取扱い性が低下したりすることがあった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、平均繊維長が100μm以上のカーボンナノチューブと、非水系溶媒と、を含み、増粘が抑えられた新規な非水系カーボンナノチューブ分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、平均繊維長が100μm以上のカーボンナノチューブと、非水系溶媒と、上記非水系溶媒に可溶であり、かつ重量平均分子量が7万以上の分散剤と、を含み、上記分散剤の含有量が、上記カーボンナノチューブ100質量部に対して、10質量部以上500質量部以下である、非水系カーボンナノチューブ分散液が提供される。
【0008】
平均繊維長が100μm以上のカーボンナノチューブを含むことで、例えば特許文献1に記載されるような繊維長が短いカーボンナノチューブを用いる場合に比べて、相対的に導電ネットワークを形成しやすくなり、導電性を向上できる。また、上記カーボンナノチューブを、非水系溶媒中で、重量平均分子量が7万以上の分散剤と併存させることで、カーボンナノチューブの凝集を抑制でき、カーボンナノチューブの分散性を向上できる。その結果、分散液の増粘を抑えることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平均繊維長が100μm以上のカーボンナノチューブと、非水系溶媒と、を含み、増粘が抑えられた非水系カーボンナノチューブ分散液を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、非水系CNT分散液の模式図である。
【
図2】
図2は、CNT3(平均繊維長が250μmのCNT)を用いた場合の非水系CNT分散液の粘度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化することがある。また、本明細書において範囲を示す「X~Y」(X,Yは任意の数値)の表記は、X以上Y以下の意と共に、「Xより大きい」および「Yより小さい」の意を包含する。
【0012】
<非水系カーボンナノチューブ(CNT)分散液>
本実施形態の非水系CNT分散液は、(A)平均繊維長が100μm以上のCNTと、(B)非水系溶媒と、(C)非水系溶媒に可溶であり、かつ重量平均分子量が7万以上の分散剤と、を含んでいる。本実施形態の非水系CNT分散液は、必要に応じて、その他の任意成分、例えば(D)添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0013】
<(A)CNT>
CNTは、炭素六角網をなすグラファイトが筒状に丸められた構造を有する繊維状の炭素である。CNTは、平均繊維長が100μm以上であること以外は特に限定されず、従来公知のものを1種または2種以上、適宜使用できる。CNTは、1層のグラファイトが筒状に丸められた構造を有する単層カーボンナノチューブであってもよく、2層以上のグラファイトが筒状に丸められた構造を有する多層カーボンナノチューブであってもよい。CNTは、例えば製造プロセスに由来して、不純物(例えば、触媒やアモルファスカーボン)を含んでいてもよい。
【0014】
本実施形態において、CNTの平均繊維長は、100μm以上である。CNTの平均繊維長は、120μm以上が好ましく、125μm以上がより好ましい。平均繊維長が所定値以上であると、導電ネットワークを効果的に形成しやすくなり、導電性を向上できる。また、このように平均繊維長が長い場合、非水系溶媒中でCNT同士が絡まって凝集しやすくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。CNTの平均繊維長は、概ね1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、例えば400μm以下、375μm以下がさらに好ましい。CNTの平均繊維長は、250μm以下であってもよい。平均繊維長が所定値以下であると、非水系溶媒中でCNT同士が絡まりにくくなり、CNTの分散性をより良く向上できる。したがって、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなり、分散性と導電性とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0015】
なお、CNTの平均繊維長は、電子顕微鏡によって複数のCNTを観察し、各CNTの長軸方向の長さを計測し、その数平均値により算出することができる。より具体的には、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて、例えば倍率1万倍で観察を行い、視野中から任意に抽出した50本のCNTについて長軸方向の長さを計測し、その数平均値により算出することができる。
【0016】
CNTの平均外径(平均直径)は特に限定されないが、5nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、8nm以上であることがさらに好ましい。CNTの平均外径が所定値以上であると、本実施形態のように重量平均分子量が大きい分散剤であってもCNTのバンドル間に容易に侵入できるため、CNT同士の凝集が抑制されやすくなり、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなる。ひいては、分散時にCNTに過剰な応力がかかりにくくなり、CNTが切断されにくくなるため、上記平均繊維長を保持しやすくなる。
【0017】
また、CNTの平均外径は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。CNTの平均外径が所定値以下であると、単位質量あたりのCNTの本数が増え、効率的に導電ネットワークを形成できる。したがって導電性をより良く向上できる。なお、CNTの平均外径は、電子顕微鏡によって複数のCNTを観察し、各CNTの短軸方向の長さを計測し、その数平均値により算出することができる。より具体的には、例えば透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いて、例えば倍率40万倍で観察を行い、視野中から任意に抽出した50本のCNTについて短軸方向の長さを計測し、その数平均値により算出することができる。
【0018】
CNTのアスペクト比(平均繊維長/平均外径)は特に限定されないが、100~100000が好ましく、1000~50000がより好ましく、5000~25000がさらに好ましい。アスペクト比が上記範囲であると、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなり、分散性と導電性とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0019】
CNTは、半導体レーザーを用いたレーザーラマン分光法で測定されるラマンスペクトルにおいて、1350cm-1付近に現れるDバンドの強度IDに対する1580cm-1付近に現れるGバンドの強度IGの比(IG/ID)が、概ね10以下であることが好ましく、例えば1~8であることがより好ましく、いくつかの実施形態において1~2であることがさらに好ましい。Gバンドは、CNTの結晶構造に由来するピークであり、Dバンドは、CNTの欠陥構造に由来するピークである。そのため、上記比(IG/ID)が大きいほど、結晶性が高く、より高い導電性を実現できる。また、上記比(IG/ID)が所定値以下であると、CNTの分散性をより良く向上できる。
【0020】
特に限定されるものではないが、非水系CNT分散液の全体を100質量%としたときに、CNTの濃度は、概ね0.01~10質量%が好ましい。CNTの濃度は、0.1質量%以上がより好ましく、例えば0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上がさらに好ましい。CNTの濃度が所定値以上であると、導電ネットワークを効果的に形成しやすくなり、導電性を向上できる。一方で、非水系溶媒中でCNT同士が絡まって凝集しやすくなるため、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。また、CNTの濃度は、5質量%以下がより好ましく、例えば2質量%以下、1質量%以下がさらに好ましい。CNTの濃度が所定値以下であると、CNT同士が近接しにくくなり、またここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなるので、CNTの分散性をより良く向上できる。
【0021】
<(B)非水系溶媒>
非水系溶媒は、少なくともCNTを分散させるための分散媒である。非水系溶媒は、実質的に水分を含まない。非水系溶媒中の水分量は、1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましく、100ppm以下が特に好ましい。なお、非水系溶媒中の水分量は、例えばカールフィッシャー滴定法(JIS K0068:2001)により測定することができる。
【0022】
非水系溶媒の種類は、特に限定されず、例えば非水系CNT分散液の用途等に応じて、1種の有機溶剤、または2種以上の有機溶剤を組み合わせて、適宜使用できる。有機溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ―ブチロラクトン等のエステル系溶剤;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶剤;等が挙げられる。なかでも、非プロトン性極性溶媒が好ましく、NMPが特に好ましい。
【0023】
非水系溶媒は、非プロトン性極性溶媒(例えばNMP)を主体(50質量%以上を占める成分。)とすることが好ましく、80質量%以上が非プロトン性極性溶媒(例えばNMP)であることがより好ましく、95質量%以上が非プロトン性極性溶媒(例えばNMP)であることがさらに好ましく、実質的に非プロトン性極性溶媒(例えばNMP)からなる(98質量%以上が非プロトン性極性溶媒(例えばNMP)である)ことが特に好ましい。非プロトン性極性溶媒(例えばNMP)は、多くの種類の有機物、特に、後述する(C)分散剤を溶解することができる。そのため、所定値以上の非プロトン性極性溶媒(例えばNMP)を用いることで分散剤の選択の幅を広げることができる。
【0024】
<(C)分散剤>
分散剤は、非水系溶媒中でCNTを分散させるための成分である。本実施形態において、分散剤は、使用する非水系溶媒に可溶な化合物である。分散剤としては、非水系溶媒に可溶で、かつ後述する重量平均分子量を満たすもの(重量平均分子量が7万以上のもの)であれば特に限定されず、例えば非水系CNT分散液の用途や非水系溶媒の種類等に応じて、従来公知の化合物を1種または2種以上、適宜使用できる。分散剤は、典型的には、カチオン性基、アニオン性基およびノニオン性基から選ばれる少なくとも一種の官能基を分子中に有する高分子化合物でありうる。なお、本明細書において、「可溶」とは、25℃の環境下において、使用する非水系溶媒に対する溶解度が1質量%以上であることをいう。
【0025】
この高分子化合物は、単独重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体、またはグラフト共重合体のいずれであってもよい。高分子化合物の分子構造は、(1)線状の直鎖型、(2)線状の主骨格(炭素数が最大となる炭素鎖。以下同じ。)に1つまたは複数の側鎖(主鎖から枝分かれしている炭素鎖。以下同じ。例えばグラフト鎖。)が結合した分岐鎖状型、または(3)主骨格に沿って複数の側鎖が規則的に配置された櫛型のいずれであってもよいが、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しうることから、直鎖型が好ましい。高分子化合物の具体例としては、例えば、ビニルピロリドン系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、スチレンーマレイン酸系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマー等が挙げられる。なかでも、ビニルピロリドン系ポリマーが好ましい。ビニルピロリドン系ポリマーは、CNTの表面に吸着してCNTを包む、所謂、ラッピング効果を好適に発揮することが知られていることから、ビニルピロリドン系ポリマーを含むことで、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなる。
【0026】
ビニルピロリドン系ポリマーは、典型的には、主たる繰返し単位としてビニルピロリドン単位(VP単位)を含むポリマー(PVP)およびその誘導体である。ビニルピロリドン系ポリマーは、典型的には直鎖型である。ビニルピロリドン系ポリマーは、全繰返し単位に占めるVP単位の割合が50モル%以上であることが好ましく、全繰返し単位が実質的にVP単位から構成されていてもよい。ビニルピロリドン系ポリマーの具体例としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体、ビニルピロリドンとジメチルアミノエチル・メタクリル酸の共重合体、ビニルピロリドンとジメチルアミノエチル・メタクリル酸の共重合体、ビニルピロリドンとビニルアルコールの共重合体、およびそれらの変性物等が挙げられる。なかでも、入手容易性の観点等から、PVPが好ましい。
【0027】
ビニルアルコール系ポリマーは、典型的には、主たる繰返し単位としてビニルアルコール単位(VA単位)を含むポリマー(PVA)およびその誘導体である。ビニルアルコール系ポリマーは、典型的には直鎖型である。全繰返し単位に占めるVA単位の割合が50モル%以上であることが好ましく、全繰返し単位が実質的にVA単位から構成されていてもよい。ビニルアルコール系ポリマーの具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、およびそれらの変性物等が挙げられる。
【0028】
マレイン酸系ポリマーは、主たる繰返し単位としてマレイン酸単位を含むポリマーおよびその誘導体である。マレイン酸系ポリマーは、マレイン酸系(開環状態)のポリマーと、無水マレイン酸系(閉環状態)のポリマーと、を包含する。マレイン酸系ポリマーの具体例としては、例えば、ポリ(エチレンマレイン酸)、ポリ(イソブチレンマレイン酸)、ポリ(スチレンマレイン酸)、ポリ(メチルビニルエーテル無水マレイン酸)、およびそれらの変性物等が挙げられる。
【0029】
分散剤は、ビニルピロリドン系ポリマー(例えばPVP)を主体(50質量%以上を占める成分。)とすることが好ましく、80質量%以上がビニルピロリドン系ポリマー(例えばPVP)であることがより好ましく、95質量%以上がビニルピロリドン系ポリマー(例えばPVP)であることがさらに好ましく、実質的にビニルピロリドン系ポリマー(例えばPVP)からなる(98質量%以上がビニルピロリドン系ポリマー(例えばPVP)である)ことが特に好ましい。
【0030】
本実施形態において、分散剤の重量平均分子量(Mw)は、7万以上である。分散剤の重量平均分子量は、7.2万以上がより好ましく、7.4万以上がさらに好ましい。いくつかの実施形態において、分散剤の重量平均分子量は、8.1万以上がより好ましく、例えば8.2万以上がさらに好ましい。詳しくは後述するが、重量平均分子量が所定値以上であると、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなる。また、分散剤の重量平均分子量は、10万以下が好ましく、9.5万以下がより好ましく、9万以下がさらに好ましい。重量平均分子量が所定値以下であると、CNTのバンドル間に分散剤が侵入しやすくなり、CNTの分散性をより良く向上できる。さらに、CNTの導電性が阻害されにくくなり、高い導電性を発揮しやすくなる。なお、分散剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)による測定値を、標準試料(PEO/PEG)による校正曲線と対比させることで算出できる。重量平均分子量としては、複数回(例えば2回)測定したときの平均値を採用することがより好ましい。詳しい測定条件は、後述する実施例に記載する。
【0031】
分散剤は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比である分子量分布(Mw/Mn)が、概ね3~6であることが好ましく、4~5であることがより好ましく、例えば4.0~4.5であることがさらに好ましい。また、特に限定されるものではないが、分散剤の数平均分子量(Mn)は、概ね0.1万以上であることが好ましく、0.2万~3万であることがより好ましく、例えば0.3万~2万であることがさらに好ましい。なお、本明細書において「数平均分子量」としては、重量平均分子量と同様の測定条件で測定した値を採用するものとする。
【0032】
本実施形態において、非水系CNT分散液に含まれる分散剤の含有量は、CNT100質量部に対して、10~500質量部である。これにより、ここに開示される技術の効果を適切に発揮できる。分散剤の含有量は、CNTの表面に吸着される量よりも多いことが好ましい。分散剤の含有量は、CNT100質量部に対して、50質量部以上がより好ましく、80質量部以上がさらに好ましく、100質量部以上が特に好ましい。分散剤の含有量は、質量基準で、CNTの含有量と同じかそれよりも多いことが特に好ましい。これにより、ここに開示される技術の効果を高いレベルで安定して発揮しやすくなる。
【0033】
また、特に限定されるものではないが、分散剤の含有量は、CNT100質量部に対して、300質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、例えば150質量部以下であってもよい。ここに開示される技術では、用いる分散剤が比較的少量であっても非水系溶媒中にCNTを高度に分散することができるので、CNTの導電性が阻害されにくく、高い導電性を実現しやすくなる。
【0034】
分散剤の濃度は、例えば使用するCNTの量や性状、使用する非水系溶媒の種類、分散剤の性状等によっても異なりうる。そのため、特に限定されるものではないが、いくつかの実施形態において、非水系CNT分散液の全体を100質量%としたときに、分散剤の濃度は、概ね0.01~10質量%が好ましい。分散剤の濃度は、0.1質量%以上がより好ましく、例えば0.2質量%以上、0.3質量%以上がさらに好ましい。分散剤の濃度が所定値以上であると、CNTの導電ネットワークを効率的に形成でき、高い導電性を実現しやすくなる。一方で、水系溶媒中でCNT同士が絡まって凝集しやすくなるため、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。また、分散剤の濃度は、5質量%以下がより好ましく、例えば2質量%以下、1質量%以下がさらに好ましい。分散剤の濃度が所定値以下であると、分散性をより良く向上でき、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなる。したがって、上記範囲であると、分散性と導電性とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0035】
(D)添加剤としては、例えば非水系CNT分散液の諸特性の向上を目的として、従来この種の用途に使用しうることが知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。添加剤の具体例としては、例えば、重量平均分子量が8万未満の分散剤、有機バインダ、酸化防止剤、消泡剤、防腐剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料等)等の有機添加剤や、カーボンブラック、グラファイト等のCNT以外の(非繊維質な)炭素材料、金属酸化物等が挙げられる。
【0036】
非水系CNT分散液が任意成分を含む場合、非水系CNT分散液に含まれる任意成分(例えば(D)添加剤)の含有量は、典型的にはCNTの含有量および/または分散剤の含有量よりも少ない。一例として、非水系CNT分散液の全体を100質量%としたときに、添加剤の濃度は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、特には2質量%以下、1質量%以下がさらに好ましい。
【0037】
このような非水系CNT分散液は、上記(A)CNTと、上記(B)非水系溶媒と、上記(C)分散剤と、その他の任意成分とを混合して、非水系溶媒中にCNTと分散剤とその他の任意成分とを分散または溶解させることで調製しうる。CNTと分散剤は、一度に非水系溶媒中に全量を投入してもよいし、2回以上に分割して非水系溶媒中に投入してもよい。混合には、例えば、ディスパー、プラネタリーミキサー、ニーダー、プロペラスターラー、超音波ホモジナイザー、マグネティックスターラー、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル等の従来公知の混合装置を適宜用いることができる。なかでも、媒体(メディア)のコンタミネーションを低減する観点等から、媒体を使用しない(媒体レスの)装置が好ましい。また、分散が均質に進行しやすいことや、CNTの短尺化が抑えられ、平均繊維長の長いCNTを維持しやすいこと等から、循環式の分散装置が好ましい。また、処理時間を短縮しうることから、高速撹拌のせん断力を利用した装置が好ましい。このような混合装置の一例として、高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0038】
いくつかの実施形態において、非水系CNT分散液は、固形分全体を100質量%としたときに、(A)CNTが概ね50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上を占めているとよく、実質的にCNTからなる(固形分全体の98質量%以上がCNTである)ことが特に好ましい。このような場合、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。なお、ここでいう「固形分」とは、25℃の環境下で非水系CNT分散液から固液分離によって分離される(例えば、濾別される)固形成分をいう。言い換えれば、固形分は、25℃の環境下で溶媒に分散ないし沈殿している成分であり、溶媒に溶解している成分は含まない。
【0039】
ここに開示される非水系CNT分散液は、各種用途に使用できる。例えば二次電池の電極(正極および/または負極)を作成する用途では、ここに開示される非水系CNT分散液を基材上に付与(典型的には塗布)して乾燥させることにより、基材上に導電膜を形成できる。したがって、ここに開示される技術の他の側面として、非水系CNT分散液を塗布する工程と、上記基材に塗布した上記カーボンナノチューブ分散液を乾燥させることにより、上記非水系溶媒を除去する工程と、を含む導電膜の製造方法が提供される。この場合、非水系CNT分散液は、活物質(正極活物質または負極活物質)と、樹脂バインダと、を含んでいてもよい。活物質ないし樹脂バインダとしては、従来この種の用途で使用しうることが知られている各種の材料を適宜使用しうる。
【0040】
以上のように、本実施形態の非水系CNT分散液は、(A)平均繊維長が100μm以上のCNTと、(B)非水系溶媒と、(C)上記非水系溶媒に可溶であり、かつ重量平均分子量が7万以上の分散剤と、を含み、上記分散剤の含有量が、上記CNT100質量部に対して、10質量部以上500質量部以下であることを特徴とする。
【0041】
平均繊維長が100μm以上のカーボンナノチューブを含むことで導電ネットワークを形成しやすくなり、導電性を向上できる。また、上記カーボンナノチューブを、非水系溶媒中で、重量平均分子量が7万以上の分散剤と併存させることで、例えば上記重量平均分子量を満たさない分散剤(具体的には、非水系溶媒に不溶ないし、重量平均分子量が8万未満である分散剤)と併存させる場合に比べて、相対的にCNTの凝集を抑制でき、CNTの分散性を向上できる。その結果、分散液の増粘、特には、分散処理過程の初期における分散液の急激な増粘を好適に抑えることができる。ひいては、効率的な分散処理が可能となることで、分散処理時にCNTに過剰な応力がかかってCNTが短尺化したりCNTの結晶性が低下したりすることを抑制できる。以上のことから、分散安定性に優れ、且つ高い導電性を実現可能である点で、ここに開示される(A)~(C)の組合せはより有利であるといえる。
【0042】
なお、特に限定解釈されることを意図したものではないが、本発明者らは、上記(A)~(C)の組合せによって生ずる効果を、次のように考察している。
図1は、ここに開示される技術の効果を説明するための非水系CNT分散液(CNT10および分散剤20)の模式図である。すなわち、
図1に示すように、非水系CNT分散液において、分散剤20は、CNT10の表面に付着した状態22と、非水系溶媒中に溶解(ないし分散)し、CNT10の間に介在した状態24と、をとりうる。状態22と状態24は、分散剤20の別の高分子がそれぞれ単独でとる可能性もあるし、分散剤20の同一分子中の一部がCNT表面に付着して状態22をとり、それ以外の部分が水系溶媒中に暴露し状態24をとる可能性もある。非水系溶媒中に溶解ないし分散した状態24の分散剤は、重合度が高いほど球体形状になりやすく、立体的なサイズが大きくなることから、重量平均分子量が大きくなる。つまり、重量平均分子量が大きいほど、非水系溶媒中での体積が大きくなりやすい。そして、このように分散剤の立体的なサイズが大きいと、
図1に示すように、CNT10同士の立体反発が生じやすくなる。そのため、CNT10同士が近接しにくくなり、相対的にCNT10の分散性を向上でき、分散液の増粘を抑制できると考えられる。
【0043】
本実施形態の非水系CNT分散液では、上記CNTの上記平均繊維長が、500μm以下である。なかでも、上記CNTの上記平均繊維長が、125μm以上375μm以下であることが好ましい。これにより、CNT同士が絡まりにくくなり、CNTの分散性をより良く向上できる。したがって、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなり、分散性と導電性とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0044】
本実施形態の非水系CNT分散液では、上記分散剤の上記重量平均分子量が、10万以下である。これにより、CNTのバンドル間に分散剤が侵入しやすくなり、CNTの分散性をより良く向上できる。さらに、CNTの導電性が阻害されにくくなり、高い導電性を発揮しやすくなる。
【0045】
本実施形態の非水系CNT分散液では、上記非水系溶媒が、非プロトン性極性溶媒である。これにより、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなる。また、非プロトン性極性溶媒は、多くの種類の有機物、特に(C)分散剤を溶解することができるため、分散剤の選択の幅を広げることができる。
【0046】
本実施形態の非水系CNT分散液では、上記分散剤が、繰返し単位としてビニルピロリドン単位を含むビニルピロリドン系ポリマーを含む。なかでも、上記分散剤が、ポリビニルピロリドンを含むことが好ましい。ビニルピロリドン系ポリマー(例えばポリビニルピロリドン)は、CNTの表面に吸着してCNTを包む、所謂、ラッピング効果を好適に発揮することが知られていることから、ビニルピロリドン系ポリマーを含むことで、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなる。
【0047】
本実施形態の非水系CNT分散液では、上記カーボンナノチューブの濃度が、0.01質量%以上10質量%以下である。CNTの濃度が所定値以上であると、導電ネットワークを効果的に形成しやすくなり、導電性を向上できる。また、非水系溶媒中でCNT同士が絡まって凝集しやすくなるため、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。さらに、CNTの濃度が所定値以下であると、CNT同士が近接しにくくなり、またここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなるので、CNTの分散性をより良く向上できる。
【0048】
本実施形態の非水系CNT分散液では、上記分散剤の濃度が、0.01質量%以上10質量%以下である。分散剤の濃度が所定値以上であると、CNTの分散性をより良く向上でき、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮しやすくなる。また、分散剤の濃度が所定値以下であると、CNTの導電性が阻害されにくくなり、高い導電性を実現しやすくなる。したがって、分散性と導電性とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0049】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0050】
ここでは、まず、表1に示すように平均繊維長Lが異なる4種類のCNT(CNT1~4)と、表2に示すように分子量が異なる3種類の分散剤(分散剤A~C、第一工業製薬株式会社製)と、非水系溶媒としてのNMPと、を用意した。
【0051】
【0052】
【0053】
<分子量の測定>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、下記条件で、分散剤の分子量を測定した。そして、測定値を、標準試料(PEO/PEG)による校正曲線と対比させることで、重量平均分子量および数平均分子量を算出した。結果を表2に示す。なお、標準試料は、PEG(東ソー製)とPEO(和光純薬製)の、構造が同じ2種類を混合して使用した。また、表2には、測定回数2回(N=2)のときの算術平均値を表している。例えば分散剤Cでは、N1=7.4万、N2=9.0万であり、算術平均で、8.2万という結果になっている。
カラム:TSKgel gurdcolumn PWXL (6.0mmI.D.×4cm) + TSKgel GMPWXL (7.8mmI.D.×30cm)×2本
カラム温度:40℃
移動相:0.1M NaNO3
流速:1.0mL/min
試料濃度:0.5mg/mL
検出器:RI(屈折率)検出器 (polarity(+))
【0054】
<分散処理および粘度の測定>
次に、25℃の環境下において、高圧ホモジナイザー(スギノマシン製、スターバーストHJP―25001V2)の原料タンクに、表3、表4に示す組み合わせでCNTと分散剤とを添加し、非水系溶媒中(ここでは、NMP中)で分散処理することにより、非水系CNT分散液を調製した。なお、各非水系CNT分散液につき、分散剤の含有量はCNT100質量部に対して100質量部(等量)とし、CNTと分散剤の濃度は、それぞれ0.4質量%とした。また、分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.15mm、圧力150MPaの条件にて行った。
【0055】
そして、粘度計(東機産業製、TV―200E)を用いて、回転数:1rpmにて、分散処理過程における非水系CNT分散液の粘度をモニタリングし、粘度のピーク値(mPa・s、典型的には初期の粘度)を記録した。結果を表3、表4に示す。なお、表中の「相対値」の欄は、分散剤Aを使用した場合のピーク値(絶対値)を100としたときの相対値を示し、「評価」の欄は、下記基準に従った結果を示している。
・「×」:相対値が、70よりも大きい
・「〇」:相対値が、70以下
【0056】
【0057】
【0058】
表3に示すように、平均繊維長Lが50μmのCNT1を含む試験例では、そもそも重量平均分子量が1.1万の分散剤Aを用いた場合の粘度が低かったこともあり、分散剤の重量平均分子量が大きくなると、かえって分散液が増粘し、ここに開示される技術の効果が認められなかった。
【0059】
表3,4に示すように、平均繊維長Lが100μm以上のCNT2~4を含む試験例では、重量平均分子量が1.1万の分散剤Aを用いた場合、分散液の増粘が顕著だった。また、重量平均分子量が2.8万の分散剤Bを用いても、粘度の変化は殆ど認められなかった。これら比較例に対し、重量平均分子量が7万以上の分散剤Cを用いた場合、相対的に粘度の減少幅が大きくなり、分散液の増粘がよく抑えられていた。
図2には、一例として、CNT3(平均繊維長L=250μmのCNT)を用いた場合の非水系CNT分散液の粘度を表している。なお、横軸のパス数は、高圧ホモジナイザーで非水系CNT分散液を循環処理した回数を表している。以上の結果は、ここに開示される技術の意義を示すものである。
【0060】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 CNT
20 分散剤
【要約】
【課題】増粘が抑えられた非水系カーボンナノチューブ分散液を提供する。
【解決手段】ここに開示される非水系カーボンナノチューブ分散液は、平均繊維長が100μm以上のカーボンナノチューブと、非水系溶媒と、上記非水系溶媒に可溶であり、かつ重量平均分子量が7万以上の分散剤と、を含み、上記分散剤の含有量が、上記カーボンナノチューブ100質量部に対して、10質量部以上500質量部以下である。
【選択図】
図2