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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物、及び、熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/02 20060101AFI20240513BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20240513BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20240513BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20240513BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
C08L63/02
C08G59/24
C08G59/62
C08K3/38
C08J5/18 CFC
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019222828
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021091787
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000190611
【氏名又は名称】日東シンコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田渕 聡寛
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-016669(JP,A)
【文献】特開2017-203132(JP,A)
【文献】特開2018-172545(JP,A)
【文献】特開2017-082091(JP,A)
【文献】特開2008-189818(JP,A)
【文献】特開2015-082651(JP,A)
【文献】特開平11-209729(JP,A)
【文献】特開2017-095570(JP,A)
【文献】特開2011-231143(JP,A)
【文献】特開2012-092158(JP,A)
【文献】特開2014-005345(JP,A)
【文献】特開平11-001544(JP,A)
【文献】特開2017-186453(JP,A)
【文献】特開2016-138194(JP,A)
【文献】特開2014-148579(JP,A)
【文献】特開平08-070185(JP,A)
【文献】特開2003-261647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08G 59/00- 59/72
C08K 3/00- 13/08
C08J 5/00- 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機フィラーとを含有し、前記無機フィラーが前記エポキシ樹脂中に分散されている樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂は、下記式(1’)で表される3,3’,5,5’-テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂であり、
前記硬化剤は、下記式(2’)で表されるトリスフェノール型フェノール樹脂を含み、
前記無機フィラーは、窒化ホウ素粒子であり、
前記樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、その固形分を100体積部としたときに、前記無機フィラーを50体積部以上60体積部以下含有する
樹脂組成物。
【化1】

【化2】

ただし、Rは、H、CH (メチル基)、C (エチル基)のいずれかである。
【請求項2】
樹脂成分として重合性成分のみを含み、
前記重合性成分は、前記エポキシ樹脂と前記硬化剤とを含んでいる
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機フィラーとを含有し、前記無機フィラーが前記エポキシ樹脂中に分散されている樹脂組成物で構成された樹脂層を備えた熱伝導性シートであって、
前記エポキシ樹脂は、下記式(1’)で表される3,3’,5,5’-テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂であり、
前記硬化剤は、下記式(2’)で表されるトリスフェノール型フェノール樹脂を含み、
前記無機フィラーは、窒化ホウ素粒子であり、
前記樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、その固形分を100体積部としたときに、前記無機フィラーを50体積部以上60体積部以下含有する
熱伝導性シート。
【化3】
【化4】
ただし、Rは、H、CH (メチル基)、C (エチル基)のいずれかである。
【請求項4】
樹脂成分として重合性成分のみを含み、
前記重合性成分は、前記エポキシ樹脂と前記硬化剤とを含んでいる
請求項3に記載の熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、及び、熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレクトロニクス分野において、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機フィラーとを含有する樹脂組成物が用いられている。
【0003】
下記特許文献1には、エポキシ樹脂と硬化剤と無機フィラーとを含有する樹脂組成物が硬化した硬化物を放熱シートとして使用することが開示されている。
このような放熱シートは、窒化ホウ素フィラーなどの無機フィラーを比較的多量に含有することから、放熱性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-94887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物は、上記のように比較的多量の無機フィラーを含有するものの、硬化物となったときの放熱性は必ずしも十分ではないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、硬化物となったときに、十分な放熱性を示すことができる樹脂組成物、及び、該樹脂組成物で構成された樹脂層を備えた熱伝導性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討したところ、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機フィラーとを含有し、前記無機フィラーが前記エポキシ樹脂中に分散されている樹脂組成物において、特定のエポキシ樹脂及び特定の硬化剤を用いることによって、硬化物となったときに、該硬化物の放熱性が十分に高くなることを見出して、本発明を想到するに至った。
【0008】
即ち、本発明に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機フィラーとを含有し、前記無機フィラーが前記エポキシ樹脂中に分散されている樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂は、下記式(1)で表されるテトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂を含み、
前記硬化剤は、下記式(2)で表されるトリスフェノール型フェノール樹脂を含む。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
ただし、Rは、HまたはC2n+1(nは1以上の整数)である。
【0011】
本発明に係る熱伝導性シートは、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機フィラーとを含有し、前記無機フィラーが前記エポキシ樹脂中に分散されている樹脂組成物で構成された樹脂層を備えた熱伝導性シートであって、
前記エポキシ樹脂は、下記式(1)で表されるテトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂を含み、
前記硬化剤は、下記式(2)で表されるトリスフェノール型フェノール樹脂を含む。
【0012】
【化3】
【0013】
【化4】
ただし、Rは、HまたはC2n+1(nは1以上の整数)である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、硬化物となったときに、十分な放熱性を示すことができる樹脂組成物、及び、該樹脂組成物で構成された樹脂層を備えた熱伝導性シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
(樹脂組成物)
本実施形態に係る樹脂組成物は、最終的に硬化物を構成することとなる成分を含む。すなわち、本実施形態に係る樹脂組成物は、重合によって硬化樹脂となる重合性成分を含有する。
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、硬化後の硬化物が良好な熱伝導性を有するように、無機フィラーを含有する。
なお、本実施形態に係る樹脂組成物は、プラスチック配合薬品として一般に用いられる添加剤を本発明の効果を損なわない範囲において含有してもよい。
【0017】
本実施形態に係る樹脂組成物では、硬化後の硬化物の100質量部に占める前記重合性成分の含有割合は、好ましくは10質量部以上70質量部以下、より好ましくは30質量部以上40質量部以下である。
【0018】
本実施形態に係る樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、その固形分を100体積部としたときに、無機フィラーを、好ましくは10体積部以上60体積部以下含有することが好ましく、30体積部以上60体積部以下含有することがより好ましく、50体積部以上60体積部以下含有することがさらに好ましい。
また、前記硬化物における前記無機フィラーの含有割合が上記のような範囲内となり易くなるという観点から、本実施形態に係る樹脂組成物は、前記重合性成分100質量部に対して、前記無機フィラーを、30質量部以上90質量部以下含有することが好ましく、60質量部以上70質量部以下含有することがより好ましい。
【0019】
さらに、本実施形態に係る樹脂組成物は、無機フィラー100質量部に対して、前記添加剤を、0.005質量部以上0.05質量部以下含有することが好ましく、0.01質量部以上0.03質量部以下含有することがより好ましい。
【0020】
本実施形態に係る樹脂組成物は、前記重合性成分として、エポキシ樹脂と、硬化剤とを含有する。本実施形態では、エポキシ樹脂が硬化剤とともに硬化することにより、硬化樹脂となる。
【0021】
エポキシ樹脂は、下記式(1)で表されるテトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂を含む。下記式(1)で表されるテトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂は、常温(例えば、23℃)で固体状である固体エポキシ樹脂である。
下記式(1)で示されるテトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、下記式(1’)で示される、3,3’,5,5’-テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0022】
【化5】
【0023】
【化6】
【0024】
硬化剤は、下記式(2)で表されるトリスフェノール型フェノール樹脂を含む。下記式(2)で示されるトリスフェノール型フェノール樹脂の例としては、下記式(2’)で示されるトリスフェノール型フェノール樹脂が挙げられる。
下記式(2)で表されるトリスフェノール型フェノール樹脂において、Rは、H(水素)であるか、あるいは、C2n+1で表され、かつ、nが1または2である炭化水素基(すなわち、メチル基またはエチル基)であることが好ましい。
【0025】
【化7】
ただし、Rは、HまたはC2n+1(nは1以上の整数)である。
【0026】
【化8】
ただし、Rは、HまたはC2n+1(nは1以上の整数)である。
【0027】
前記重合性成分に占める、エポキシ樹脂と硬化剤との合計量の割合は、80質量%以上100質量%以下であることが好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
前記エポキシ樹脂の当量に対するエポキシ樹脂の硬化剤の当量の比は、1/2以上2/1以下であることが好ましく、2/3以上3/2以下であることがより好ましい。
【0029】
無機フィラーは、エポキシ樹脂中に分散されている。無機フィラーとしては、窒化ホウ素フィラー、窒化アルミニウムフィラー、窒化ケイ素フィラー、窒化ガリウムフィラー、アルミナフィラー、炭化ケイ素フィラー、二酸化ケイ素フィラー、酸化マグネシウムフィラー、ダイヤモンドフィラーなどの無機粒子が挙げられる。これらの中でも、窒化ホウ素フィラー(窒化ホウ素粒子)が好ましい。
【0030】
無機フィラーは、複数の一次粒子が凝集した凝集粒子を含んでいることが好ましい。凝集粒子を含むことにより、上記の無機粒子の粒子径を大きくすることができるので、エポキシ樹脂中での上記の無機粒子間の間隔を小さくすることができる。これにより、本実施形態に係る樹脂組成物が硬化物となったときの放熱性をより向上させることができる。
【0031】
無機フィラーは、ウィスカー状フィラーを含んでいてもよい。「ウィスカー」とは、針状の単結晶を意味し、ウィスカー状フィラーとしては、窒化アルミニウムウィスカー、アルミナウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、メタ珪酸カルシウムウィスカー等を用いることができる。
上記のウィスカー状フィラーは、20℃における熱伝導率が比較的高い繊維状の高熱伝導性無機フィラーである。上記のウィスカー状フィラーは、通常、太さ2~3μmを有し、かつ、長さ数10μm~数1000μmを有する。
そのため、無機フィラーがウィスカー状フィラーを含む場合には、ウィスカー状フィラーとしては、20℃における熱伝導率が特に高い(170W/(m・K)以上)窒化アルミニウムウィスカーを用いることが好ましい。
【0032】
窒化アルミニウムウィスカーは、上記のような高熱伝導性(170W/(m・K)以上)を示し、かつ、上記のような長さ(数10μm~数1000μm)を有することから、上記の無機粒子とともに窒化アルミニウムウィスカーを本実施形態に係る樹脂組成物中に含有させると、該樹脂組成物が硬化物となったときに、上記の無機粒子どうしをつなぐ役割を果たすようになると考えられる。すなわち、樹脂組成物の硬化物中に、上記の無機粒子どうしをつなぐ放熱パスが形成されるようになると考えられるため、この放熱パスを経由して放熱が促進されるようになると考えられる。
これにより、本実施形態に係る樹脂組成物の硬化物の放熱性がより向上するようになると考えられる。
【0033】
無機フィラーが、ウィスカー状フィラーを含む場合、上記のエポキシ樹脂は、常温(23±2℃)で液体状である液状エポキシ樹脂をさらに含むことが好ましい。上記のエポキシ樹脂が液状エポキシ樹脂をさらに含むことにより、ウィスカー状フィラーをエポキシ樹脂中により十分に分散させることができる。
【0034】
液状エポキシ樹脂としては、市販の液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることができる。市販の液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、JER(登録商標)825、JER(登録商標)827、JER(登録商標)828、JER(登録商標)828EL、JER(登録商標)828US、JER(登録商標)828XA、JER(登録商標)824などが挙げられる。これらの中でも、JER(登録商標)828を用いることが好ましい。
【0035】
液状エポキシ樹脂は、本実施形態に係る樹脂組成物中において、ウィスカー状フィラーの1体積部に対して、20体積部以上30体積部以下含まれていることが好ましく、22体積部以上28体積部以上含まれていることがより好ましく、24体積部以上26体積部以下含まれていることがさらに好ましい。
【0036】
上記のごとく、上記の無機粒子間にウィスカー状フィラーによる放熱パスを十分に形成するためには、ウィスカー状フィラーは分散した状態であることが好ましい。一方で、一般に、ウィスカー状フィラーは、綿状に凝集している。そのため、ウィスカー状フィラーは、液体エポキシ樹脂中でほぐされて分散されていることが好ましい。
【0037】
無機フィラーがウィスカー状フィラーを含む場合、本実施形態に係る樹脂組成物を硬化して得られる硬化物において、ウィスカー状フィラーは、無機フィラーの総体積部に対して、0.07体積部以上0.50体積部以下含まれていることが好ましく、0.08体積部以上0.40体積部以下含まれていることがより好ましく、0.08体積部以上0.34体積部以下含まれていることがさらに好ましい。
【0038】
ところで、本実施形態に係る樹脂組成物が硬化体となったときに十分な放熱性を示す理由は定かではないが、本発明者は、エポキシ樹脂として上記式(1)で表されるテトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂を用い、硬化剤として上記式(2)で表されるトリスフェノール型フェノール樹脂を用いることにより、硬化体となった上記樹脂組成物中において、該硬化体の厚さ方向(発熱体と当接する面と垂直な方向)の放熱パスが効率良く形成されるようになったことによるものと推察している。
【0039】
前記添加剤としては、例えば、前記エポキシ樹脂と前記硬化剤との硬化反応を促進する硬化促進剤が挙げられ、また、分散剤、粘着性付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、安定剤、消泡剤、難燃剤、増粘剤、顔料なども挙げられる。
【0040】
前記硬化促進剤としては、例えば、テトラフェニルホスホニウム テトラフェニルボレート(Tetraphenylphosphonium tetraphenylborate)、イミダゾール類、トリフェニルフォスフェイト(TPP)、アミン系硬化促進剤などが挙げられる。該アミン系硬化促進剤としては、例えば、三フッ化ホウ素モノエチルアミンなどが挙げられる。
【0041】
本実施形態に係る樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂と前記硬化剤との合計100質量部に対して、前記硬化促進剤を、0.5質量部以上1.5質量部以下含有することが好ましく、0.5質量部以上1.0質量部以下含有することがより好ましい。
【0042】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ある程度硬化反応が進んだものの、完全に硬化していない状態であってもよい。換言すると、樹脂組成物中の一部で硬化反応が進行した状態であってもよい。例えば、樹脂組成物は、流動性を有した状態でシート状に塗工され、その後、部分的に硬化された状態であってもよい。一部で硬化反応が進行した状態であっても、本実施形態に係る樹脂組成物は、上記のエポキシ樹脂と、上記の硬化剤と、上記の無機フィラーとを含有する。
【0043】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、上記式(1)のエポキシ樹脂と、上記式(2)の硬化剤と、無機フィラーとを含有する原料を混練し、上記式(1)のエポキシ樹脂中に無機フィラーが分散されている樹脂組成物を調製する混練工程を含む。
無機フィラーは、窒化ホウ素フィラー(窒化ホウ素粒子)を含んでいることが好ましい。
また、無機フィラーは、複数の一次粒子が凝集した凝集粒子を含むことが好ましい。
【0044】
無機フィラーは、ウィスカー状フィラーを含んでいてもよい。無機フィラーがウィスカー状フィラーを含んでいる場合、ウィスカー状フィラーとしては、窒化アルミニウムフィラーを用いることが好ましい。無機フィラーがウィスカー状フィラーを含む場合、エポキシ樹脂は、上記式(1)のエポキシ樹脂に加えて、常温で液体状である液状エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
また、無機フィラーがウィスカー状フィラーを含む場合、本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法では、前記混練工程の前に、ウィスカー状フィラーを液状エポキシ樹脂中に分散させる予備混練工程を実施することが好ましい。
【0045】
上記したように、一般に、ウィスカー状フィラーは綿状に凝集しているものの、上記のように、混練工程の前に、予備混練工程を実施することにより、綿状に凝集したウィスカー状フィラーを液状エポキシ樹脂中で十分にほぐすことができる。本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法では、このように十分に解されたウィスカー状フィラーにて混練工程を実施するので、エポキシ樹脂中において、ウィスカー状フィラーを十分に分散させることができる。これにより、エポキシ樹脂中に分散された無機粒子間をウィスカー状フィラーで十分につなぐことができるので、上記製造方法により得られた樹脂組成物を硬化体としたときの放熱性をより向上させることができる。
【0046】
上記したように、前記無機フィラーがウィスカー状フィラーを含み、かつ、前記エポキシ樹脂が液状エポキシ樹脂を含んでいる場合、混練工程の前に予備混練工程を実施すると、ウィスカー状フィラーが十分にほぐされた状態で混練工程を行うことができる。そのため、混練工程において過度の混練を行わずとも、樹脂組成物中に無機粒子を十分に分散させることができる。
これにより、無機フィラーが凝集粒子を含む場合であっても、該凝集粒子の凝集状態を比較的維持しつつ、エポキシ樹脂中に無機フィラーを十分に分散させることができる。上記したように、凝集粒子を含むことにより、無機粒子間の間隔を小さくすることができるので、樹脂組成物中において、窒化アルミニウムウィスカーによる無機粒子間の放熱パスを形成し易くなる。その結果、樹脂組成物を硬化体としたときの放熱性をより向上させることができる。
【0047】
(熱伝導性シート)
本実施形態に係る熱伝導性シートは、上記した樹脂組成物で構成された樹脂層を備えている。そのため、本実施形態に係る熱伝導性シートは、放熱性が向上されたものとなる。
【0048】
前記熱伝導性シートの被着体の材質としては、金属が好ましい。詳しくは、銅又はアルミニウムを含む金属が好ましい。
【0049】
本実施形態に係る熱伝導性シートは、金属ベース回路基板に用いられうる。該金属ベース回路基板は、例えば、熱伝導性シートに回路層が接着されて構成される。斯かる構成からなる金属ベース回路基板は、本実施形態に係る熱伝導性シートを有しているため、この金属ベース回路基板も放熱性が向上されたものとなる。
【0050】
更に、本実施形態に係る熱伝導性シートは、例えばパワーモジュールに用いられる。該パワーモジュールは、例えば、前記金属ベース回路基板の回路層の上に、半導体チップやパワーICなどの発熱素子が実装され、これらの素子が一旦シリコーンゲルにて封止され、さらにシリコーンゲル上に樹脂モールドが実施されて構成される。斯かる構成からなるパワーモジュールは、本実施形態に係る熱伝導性シートを有しているため、このパワーモジュールも放熱性が向上されたものとなる。
【0051】
なお、本発明に係る樹脂組成物、及び、熱伝導性シートは、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係る樹脂組成物、及び、熱伝導性シートは、上記した作用効果によって限定されるものでもない。本発明に係る樹脂組成物、及び、熱伝導性シートは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例
【0052】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0053】
(実施例1)
下記固体エポキシ樹脂、下記硬化剤、下記硬化促進剤、及び、下記無機粒子を混練することによって樹脂組成物を得た。

・固体エポキシ樹脂 : 下記式(1’)の3,3’,5,5’-テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂(YSLV-80XY、日鉄ケミカル&マテリアル社製)
・硬化剤 : 下記式(2’)のトリスフェノール型フェノール樹脂(Tris P-PHBA-S、本州化学社製)。RはH(水素)である。
・硬化促進剤 : テトラフェニルホスホニウム テトラフェニルボレート(Tetraphenylphosphonium tetraphenylborate)(TPP-K(登録商標)、北興化学工業社製)
・無機粒子 : 窒化ホウ素フィラー(BNフィラー)

エポキシ樹脂及び硬化剤は、当量比1:1で樹脂組成物に含有させた。
また、硬化促進剤は、エポキシ樹脂と硬化剤との合計100質量部に対して0.01質量部で樹脂組成物に含有させた。
さらに、樹脂組成物の硬化後において該樹脂組成物の硬化物の固形分を100体積部としたときの無機フィラーの含有割合が59.0体積部となるように、無機フィラーを樹脂組成物に含有させた。
【0054】
【化9】
【0055】
【化10】
は、HまたはC2n+1(nは1以上の整数)である。
【0056】
(実施例2)
硬化剤として、Rがn=1のCH(メチル基)であるトリスフェノール型フェノール樹脂(BIP-PHAP、旭有機材社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る樹脂組成物を得た。
【0057】
(比較例1)
上記式(1)の固体エポキシ樹脂に代えてビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER(登録商標)1009(三菱ケミカルホールディング製))を用い、上記式(2)のエポキシ樹脂の硬化剤に代えてノボラック型フェノール樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0058】
<熱伝導度>
熱伝導度の測定にあたって、以下のようにして絶縁放熱シートを作製した。
まず、基材たる銅箔(面積:2500cm)に、各例に係る樹脂組成物(厚み:約200μm)をそれぞれ塗工した。塗工方法としては、コーター方式、ロール トゥ ロールを採用し、乾燥条件としては、120℃で5分間とした。このようにして各例に係る樹脂組成物について樹脂シートをそれぞれ作製した。
次に、各例に係る樹脂シートのそれぞれについて、基材と接していない面同士が向かい合うように、2枚の同種の樹脂シートを重ね合わせて、温度100℃、圧力8Mpa、時間20分の条件で熱プレスし、金属箔を備えた絶縁放熱シート(絶縁層厚さ0.22±0.04mm)を作製した。
【0059】
上記絶縁放熱シートの両面から金属箔である銅箔をエッチングにより除去し、この絶縁放熱シートから1辺が10mm±0.5mmとなるように樹脂硬化体を矩形状に切り出し、切り出した樹脂硬化体の両面に反射防止剤(ファインケミカルジャパン株式会社製、品番:FC-153)を塗布したものを熱拡散率測定試料とした。
熱伝導度の値は、キセノンフラッシュアナライザー(NETZSCH社製、LFA-447型)を用いて上記熱拡散率測定試料について測定した熱拡散率の値に、JIS 7123:1987に準拠して熱流束DSCにて測定した比熱の値、及び、JIS K 7122:1999に準拠して水中置換法にて測定した密度の値を乗じて算出した。上記熱拡散率の値は、3個の測定試料について測定した熱拡散率の値を算術平均して求めた。また、上記熱拡散率の測定は、測定試料1個について5点行い、各測定試料について、最大値と最小値を除外した3点の値を算術平均したものを測定値とした。
【0060】
上記方法による熱伝導度の測定値を下記表1に示した。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すように、実施例1及び2に係る樹脂組成物では、比較例1に係る樹脂組成物と比べて、硬化物の熱伝導度が顕著に向上していること、すなわち、放熱性が顕著に向上していることが分かった。
このことから、特定の固体エポキシ樹脂(上記式(1’)の固体エポキシ樹脂)及び特定の硬化剤(上記式(2’)の硬化剤)を含む樹脂組成物によって得らえた硬化物の熱伝導度を顕著に向上できることが分かった。