(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール用電極材料及びそれを用いた熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
H10N 10/17 20230101AFI20240513BHJP
H10N 10/852 20230101ALI20240513BHJP
【FI】
H10N10/17 A
H10N10/852
(21)【出願番号】P 2019506039
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2018009680
(87)【国際公開番号】W WO2018168837
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-01-27
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2017051635
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦久
(72)【発明者】
【氏名】森田 亘
(72)【発明者】
【氏名】武藤 豪志
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐馬
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】棚田 一也
【審判官】中野 浩昌
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/199541(WO,A1)
【文献】特開2004-214279(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147809(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038988(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/101938(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/00-857
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1の基板及び第2の基板と、前記第1の基板及び第2の基板との間に形成される熱電素子と、前記第1の基板及び第2の基板の、少なくとも一方の基板に形成される電極と、を含む熱電変換モジュールであって、前記基板がプラスチックフィルム、前記熱電素子がビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、又はビスマスセレナイド系熱電半導体材料を含み、前記熱電素子と接する前記電極が金属材料の層からなり、該金属材料の層が
、金層、ニッケル層、アルミニウム層、ロジウム層、白金層、クロム層、パラジウム層、ステンレス鋼層、及びモリブデン層から選ばれる2層以上含む積層体である、熱電変換モジュール。
(ただし、前記金属材料の層が、ニッケル層と金層との積層体、及び、モリブデン層と金層との積層体である場合を除く。)
【請求項2】
前記金属材料の層の厚さが、10nm~200μmである、請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記ビスマス-テルル系熱電半導体材料が、p型ビスマステルライド、n型ビスマステルライド、又はBi
2Te
3である、請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記プラスチックフィルムが、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム及びポリアミドイミドフィルムから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記熱電素子が、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂及びイオン液体を含む熱電半導体組成物からなる薄膜からなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱と電気との相互エネルギー変換を行う熱電素子を用いた熱電変換モジュール用電極材料及びそれを用いた熱電変換モジュール(熱電発電モジュール、ペルチェ冷却モジュール)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エネルギーの有効利用手段の一つとして、ゼーベック効果やペルチェ効果などの熱電効果を有する熱電変換モジュールにより、熱エネルギーと電気エネルギーとを直接相互変換するようにした装置がある。
前記熱電変換モジュールとして、いわゆるπ型の熱電変換素子の使用が知られている。π型は、互いに離間するー対の電極を基板上に設け、例えば、―方の電極の上にp型熱電素子を、他方の電極の上にn型熱電素子を、同じく互いに離間して設け、両方の熱電材料の上面を対向する基板の電極に接続することで構成されている。また、いわゆるインプレーン型の熱電変換素子の使用が知られている。インプレーン型は、n型熱電素子とp型熱電素子とが交互に配置されるように、複数の熱電素子を配列して、例えば、熱電素子の下部の電極を直列に接続することで構成されている。
このような中、熱電変換モジュールの屈曲性向上、薄型化及び熱電性能の向上等の要求がある。これらの要求を満足するために、例えば、熱電変換モジュールに用いる基板として、ポリイミド等の樹脂基板が耐熱性及び屈曲性の観点から使用されている。また、n型の熱電半導体材料、p型の熱電半導体材料としては、熱電性能の観点から、ビスマステルライド系材料の薄膜が用いられ、前記電極としては、熱伝導率が高く、低抵抗のCu電極が用いられている。(特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-186255号公報
【文献】国際公開2016/039022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述したように、熱電変換モジュールの屈曲性向上、薄型化及び熱電性能の向上等の要求の中で、熱電半導体材料として、ビスマステルライド系の材料を用い、電極としてCu電極、基板としてポリイミド等の樹脂を用いた場合、例えば、300℃等の高温で熱電変換モジュールをアニール処理する工程で、熱電半導体材料とCu電極との接合部において、合金相が形成され、結果的に電極に割れや剥がれが生じ、熱電半導体材料とCu電極間の電気抵抗値が増大してしまい、熱電性能が低下する等の新たな問題が、本発明者らの検討により見出された。
【0005】
本発明は、高温度条件下での、熱電素子と電極との接合部で生じる電極の割れ、剥がれを抑制し、接合部間の低抵抗が維持できる、熱電変換モジュール用電極材料及びそれを用いた熱電変換モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アニール処理時の高温度下で、基板上の電極材料として、電極とビスマス-テルル系熱電半導体材料を含む熱電素子との接合部で合金相の形成が抑制される金属材料を用いることにより、前記アニール処理時に発生する熱電素子と電極との接合部での電極の割れ、剥がれを抑制し、低抵抗が維持でき、結果として熱電性能の高い熱電変換モジュールが得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の(1)~(7)を提供するものである。
(1)互いに対向する第1の基板及び第2の基板と、前記第1の基板及び第2の基板との間に形成される熱電素子と、前記第1の基板及び第2の基板の、少なくとも一方の基板に形成される電極と、を含む熱電変換モジュール用電極材料であって、前記基板がプラスチックフィルム、前記熱電素子がビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、又はビスマスセレナイド系熱電半導体材料を含み、前記熱電素子と接する前記電極が金属材料からなり、該金属材料が、金、ニッケル、アルミニウム、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、ステンレス鋼、モリブデン又はこれらのいずれかの金属を含む合金である、熱電変換モジュール用電極材料。
(2)前記金属材料の層の厚さが、10nm~200μmである、上記(1)に記載の熱電変換モジュール用電極材料。
(3)前記金属材料の層が、金層、ニッケル層、アルミニウム層、ロジウム層、ステンレス鋼層、白金層、クロム層、パラジウム層、モリブデン層又はこれらいずれかの層を2層以上含む積層体である、上記(1)又は(2)に記載の熱電変換モジュール用電極材料。(4)前記ビスマス-テルル系熱電半導体材料が、p型ビスマステルライド、n型ビスマステルライド、又はBi2Te3である、上記(1)に記載の熱電変換モジュール用電極材料。
(5)前記プラスチックフィルムが、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム及びポリアミドイミドフィルムから選ばれる少なくとも1種である、上記(1)に記載の熱電変換モジュール用電極材料。
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載された熱電変換モジュール用電極材料からなる電極と、前記熱電素子とが接触するように設けた、熱電変換モジュール。
(7)前記熱電素子が、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂及びイオン液体を含む熱電半導体組成物からなる薄膜からなる、上記(6)に記載の熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温度条件下での、熱電素子と電極との接合部で生じる電極の割れ、剥がれを抑制し、接合部間の低抵抗が維持できる、熱電変換モジュール用電極材料及びそれを用いた熱電変換モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の電極材料からなる電極を含む熱電変換モジュールの構成の一例を説明するための断面図である。
【
図2】本発明の電極材料からなる電極を含む熱電変換モジュールの構成の他の一例を説明するための断面図である。
【
図3】実施例及び比較例で作製した熱電変換材料(試験片)の電極、及び熱電素子-電極間の各電気抵抗値の測定位置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱電変換モジュール用電極材料]
本発明の熱電変換モジュール用電極材料は、互いに対向する第1の基板及び第2の基板と、前記第1の基板及び第2の基板との間に形成される熱電素子と、前記第1の基板及び第2の基板の、少なくとも一方の基板に形成される電極と、を含む熱電変換モジュール用電極材料であって、前記基板がプラスチックフィルム、前記熱電素子がビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、又はビスマスセレナイド系熱電半導体材料を含み、前記熱電素子と接する前記電極が金属材料からなり、該金属材料が、金、ニッケル、アルミニウム、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、ステンレス鋼、モリブデン又はこれらのいずれかの金属を含む合金である、熱電変換モジュール用電極材料である。
【0010】
本発明の電極材料からなる電極を含む熱電変換モジュールは、例えば、第1及び/又は第2の基板上の電極が、熱電素子との合金相の形成が抑制される金、ニッケル及びアルミニウム等から形成されているため、熱電変換モジュール作製時の高いアニール処理温度においても、電極と熱電素子との接合部での電極の割れや剥がれが抑制でき、結果として接合部での電極材料が有する低抵抗値が維持され、熱電性能を向上させることができる。
【0011】
図1は、本発明の電極材料からなる電極を含む熱電変換モジュールの構成の一例を説明するための断面図である。熱電変換モジュール1は、いわゆるπ型の熱電変換素子から構成され、互いに対向する第1の基板2a及び第2の基板2bと、前記第1の基板2a及び第2の基板2bとの間に形成されるp型熱電素子4a、n型熱電素子4bと、前記第1の基板2aに形成される電極3a、前記第2の基板2bに形成される電極3bを含む。本発明では、熱電素子と電極との接合部5において、熱電変換モジュール作製時の高温度でのアニール処理を経ても、電極の割れや剥がれの発生を抑制することができる。
同様に
図2は、本発明の電極材料からなる電極を含む熱電変換モジュールの構成の他の一例を説明するための断面図である。熱電変換モジュール11は、いわゆるインプレーン型の熱電変換素子から構成され、互いに対向する第1の基板12a及び第2の基板12bと、前記第1の基板12a及び第2の基板12bとの間に形成されるp型熱電素子14a、n型熱電素子14bと、前記第1の基板12a上に形成される電極を含む。本発明では、熱電素子と電極との接合部15において、熱電変換モジュール作製時に高温度でのアニール処理を経ても、電極13の割れや剥がれの発生を抑制することができる。
アニール処理温度は、用いる基板、熱電半導体材料により、適宜調整されるが、熱電性能の安定化、また、薄膜中の、熱電半導体材料を微粒子化した熱電半導体微粒子を結晶成長させ、熱電性能をより向上させる観点から、通常、200~350℃である。
【0012】
(基板)
本発明に用いる熱電変換モジュールの基板としては、すなわち、第1の基板及び第2の基板としては、熱電素子の電気伝導率の低下、熱伝導率の増加に影響を及ぼさないプラスチックフィルムを用いる。なかでも、屈曲性に優れ、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、基板が熱変形することなく、熱電素子の性能を維持することができ、耐熱性及び寸法安定性が高いという点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムが好ましく、さらに、汎用性が高いという点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0013】
前記基板の厚さは、屈曲性、耐熱性及び寸法安定性の観点から、1~1000μmが好ましく、10~500μmがより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。
また、上記プラスチックフィルムは、熱重量分析で測定される5%重量減少温度が300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。JIS K7133(1999)に準拠して200℃で測定した加熱寸法変化率が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。JIS K7197(2012)に準拠して測定した平面方向の線膨脹係数が0.1ppm・℃-1~50ppm・℃-1であり、0.1ppm・℃-1~30ppm・℃-1であることがより好ましい。
【0014】
(電極)
本発明に用いる熱電変換モジュールの第1及び/又は第2の基板上の電極の金属材料は、金、ニッケル、アルミニウム、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、ステンレス鋼、モリブデン又はこれらのいずれかの金属を含む合金からなるものである。
この中で、後述する熱電半導体材料を含む熱電素子との接合部で合金相の形成を抑制する観点から、好ましくは金層、ニッケル層、アルミニウム層、ロジウム層、白金層、クロム層、パラジウム層、ステンレス鋼層、モリブデン層又はこれらいずれかの層を2層以上含む積層体であり、さらに好ましくは金層、ニッケル層、アルミニウム層、金とニッケルの積層体、ロジウムとニッケルの積層体、白金層、クロムとニッケルの積層体、金とパラジウムとニッケルの積層体、ステンレス鋼層、金とステンレスの積層体であり、特に好ましくは金層、又は金とニッケルの積層体である。
【0015】
ステンレス鋼とは、FeおよびCrを含む合金であり、さらにNi、C、Si、Mn、Mo、Cu、Nb等を含んでいてもよい。本発明に用いられるステンレス鋼としては、SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316、SUS317、等のオーステナイト系ステンレス、SUS403、SUS420、SUS630等のマルテンサイト系ステンレス、SUS405、SUS430、SUS430LX等のフェライト系ステンレス等が挙げられる。
【0016】
ニッケルを含む合金としては、リン、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、銅、タングステン等から1~2種選択したものとニッケルとの合金が挙げられ、工業的には、INCONEL(登録商標)、ハステロイ(登録商標)等が挙げられる。
【0017】
前記金属材料の層の厚さは、好ましくは10nm~200μm、より好ましくは30nm~150μm、さらに好ましくは50nm~120μmである。金属材料の層の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり、電極として十分な強度が得られる。
【0018】
電極の形成は、前述した金属材料を用いて行う。
電極を形成する方法としては、基板上にパターンが形成されていない電極層を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法、または、スクリーン印刷法、インクジェット法等により直接電極層のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていない電極層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等のドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、電極層の材料に応じて適宜選択される。
本発明では、電極には高い導電性が求められ、めっき法や真空成膜法で成膜した電極は、高い導電性を容易に実現できることから、真空蒸着法、スパッタリング法等の真空成膜法、および電解めっき法、無電解めっき法が好ましい。形成パターンの寸法、寸法精度の要求にもよるが、メタルマスク等のハードマスクを介し、容易にパターンを形成することもできる。また、真空成膜法で成膜を行う場合は、用いる基板との密着性の向上、水分除去等の目的で、用いる基板を、基板の特性が損なわれない範囲で、加熱しながら行ってもよい。めっき法で成膜する場合は、無電解めっき法で成膜した膜上に電解めっき法で成膜してもよい。
【0019】
(熱電半導体材料)
本発明に用いられる熱電素子に含まれる熱電半導体材料としては、ビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、ビスマスセレナイド系熱電半導体材料である。これら熱電半導体材料は、優れた熱電性能を有するものの、電極としてCuを用いた時に、アニール処理等の高温条件下で、Cuと合金相を形成し、電極の割れや剥がれを発生させ、電極材料が有する本来の低抵抗値が維持できず、結果として熱電性能を低下させてしまう。より優れた熱電性能を有する観点から、好ましくはビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料である。ビスマス-テルル系熱電半導体材料としては、好ましくはp型ビスマステルライド、n型ビスマステルライド、Bi2Te3である。テルライド系熱電半導体材料としては、好ましくはGeTe、PbTeである。
【0020】
前記p型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiXTe3Sb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、p型熱電素子としての特性が維持されるので好ましい。
また、前記n型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、Bi2Te3-YSeYで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3であり、より好ましくは0≦Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、n型熱電素子としての特性が維持されるので好ましい。
【0021】
(熱電素子)
本発明に用いる熱電素子は、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂、並びに、イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方を含む熱電半導体組成物からなるものが好ましい。
【0022】
(熱電半導体微粒子)
熱電素子に用いる熱電半導体微粒子は、前述した熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕することが好ましい。
【0023】
熱電半導体微粒子の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~96質量%であり、さらに好ましくは、70~95質量%である。熱電半導体微粒子の配合量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0024】
熱電半導体微粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
前記熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体微粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体微粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(CILAS社製、1064型)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0025】
また、熱電半導体微粒子は、アニール処理(以下、「アニール処理A」ということがある。)されたものであることが好ましい。アニール処理Aを行うことにより、熱電半導体微粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体微粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数又はペルチェ係数が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。アニール処理Aは、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体微粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体微粒子に依存するが、通常、微粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0026】
(耐熱性樹脂)
本発明に用いる耐熱性樹脂は、熱電半導体微粒子間のバインダーとして働き、熱電変換素子の屈曲性を高めるためのものである。該耐熱性樹脂は、特に制限されるものではないが、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体微粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される耐熱性樹脂を用いる。
前記耐熱性樹脂としては、耐熱性がより高く、且つ薄膜中の熱電半導体微粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、屈曲性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。前述の基板として、ポリイミドフィルムを用いた場合、該ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本発明においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。
【0027】
前記耐熱性樹脂は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電素子の屈曲性を維持することができる。
【0028】
また、前記耐熱性樹脂は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電素子の屈曲性を維持することができる。
【0029】
前記耐熱性樹脂の前記熱電半導体組成物中の配合量は、0.1~40質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは、1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。前記耐熱性樹脂の配合量が、上記範囲内であれば、高い熱電性能と皮膜強度が両立した膜が得られる。
【0030】
(イオン液体)
本発明で用いるイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50~500℃の幅広い温度領域において液体で存在し得る塩をいう。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、耐熱性樹脂との相溶性に優れるため、熱電素子の電気伝導率を均一にすることができる。
【0031】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウムのアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、ClO4
-等の塩化物イオン、Br-等の臭化物イオン、I-等のヨウ化物イオン、BF4
-、PF6
-等のフッ化物イオン、F(HF)n
-等のハロゲン化物アニオン、NO3
-、CH3COO-、CF3COO-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6
-、SbF6
-、NbF6
-、TaF6
-、F(HF)n-、(CN)2N-、C4F9SO3
-、(C2F5SO2)2N-、C3F7COO-、(CF3SO2)(CF3CO)N-等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0032】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。イオン液体のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl-、Br-及びI-から選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0033】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3、4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3、5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージド等が挙げられる。この中で、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージドが好ましい。
【0034】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。この中で、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0035】
上記のイオン液体は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記の範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0036】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0037】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0038】
前記イオン液体の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~20質量%である。前記イオン液体の配合量が、上記の範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0039】
(無機イオン性化合物)
本発明で用いる無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は400~900℃の幅広い温度領域において固体で存在し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0040】
カチオンとしては、金属カチオンを用いる。
金属カチオンとしては、例えば、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、典型金属カチオン及び遷移金属カチオンが挙げられ、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンがより好ましい。
アルカリ金属カチオンとしては、例えば、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+及びFr+等が挙げられる。
アルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+等が挙げられる。
【0041】
アニオンとしては、例えば、F-、Cl-、Br-、I-、OH-、CN-、NO3-、NO2-、ClO-、ClO2-、ClO3-、ClO4-、CrO4
2-、HSO4
-、SCN-、BF4
-、PF6
-等が挙げられる。
【0042】
無機イオン性化合物は、公知または市販のものが使用できる。例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はリチウムカチオン等のカチオン成分と、Cl-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、ClO4
-等の塩化物イオン、Br-等の臭化物イオン、I-等のヨウ化物イオン、BF4
-、PF6
-等のフッ化物イオン、F(HF)n
-等のハロゲン化物アニオン、NO3
-、OH-、CN-等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0043】
上記の無機イオン性化合物の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、無機イオン性化合物のカチオン成分が、カリウム、ナトリウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、無機イオン性化合物のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl-、Br-、及びI-から選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0044】
カチオン成分が、カリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、KBr、KI、KCl、KF、KOH、K2CO3等が挙げられる。この中で、KBr、KIが好ましい。
カチオン成分が、ナトリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、NaBr、NaI、NaOH、NaF、Na2CO3等が挙げられる。この中で、NaBr、NaIが好ましい。
カチオン成分が、リチウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、LiF、LiOH、LiNO3等が挙げられる。この中で、LiF、LiOHが好ましい。
【0045】
上記の無機イオン性化合物は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0046】
また、上記の無機イオン性化合物は、分解温度が400℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0047】
また、上記の無機イオン性化合物は、熱重量測定(TG)による400℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0048】
前記無機イオン性化合物の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。前記無機イオン性化合物の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、前記熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0049】
(熱電半導体組成物の調製方法)
本発明で用いる熱電半導体組成物の調製方法は、特に制限はなく、超音波ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリッドミキサー等の公知の方法により、前記熱電半導体微粒子と前記イオン液体及び前記耐熱性樹脂、必要に応じて前記その他の添加剤、さらに溶媒を加えて、混合分散させ、当該熱電半導体組成物を調製すればよい。
前記溶媒としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アルコール、テトラヒドロフラン、メチルピロリドン、エチルセロソルブ等の溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。熱電半導体組成物の固形分濃度としては、該組成物が塗工に適した粘度であればよく、特に制限はない。
【0050】
前記熱電半導体組成物からなる薄膜は、基板上に、前記熱電半導体組成物を塗布し、乾燥することで形成することができる。このように、形成することで、簡便に低コストで大面積の熱電素子を得ることができる。
【0051】
前記熱電半導体組成物からなる薄膜の厚さは、特に制限はないが、熱電性能と皮膜強度の点から、好ましくは100nm~200μm、より好ましくは300nm~150μm、さらに好ましくは5~150μmである。
【0052】
本発明に用いる熱電素子は、単独で用いることもできるが、例えば、複数を、電気的には電極を介して直列に、熱的には絶縁性を有するフレキシブルなシート等を介して並列に接続して、熱電変換素子として、発電用及び冷却用として使用することができる。
【0053】
(熱電変換モジュール)
熱電変換モジュールは、熱電変換モジュール用電極材料からなる電極と、前記熱電素子とが接触するように設けることが好ましい。
本発明の熱電変換モジュールは、電極の電極材料として本発明の金属材料を用いてなるものである。また、前述したように、熱電素子として、ビスマス-テルル系熱電半導体材料等の特定の材料を含むものである。さらに、熱電性能が優れることから、熱電素子は、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂、並びに、イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方を含む熱電半導体組成物からなる薄膜として用いる。
熱電変換モジュールの熱電素子の構成は、特に制限はないが、例えば、前述したように、π型、インプレーン型等があるが、発電、冷却にかかる用途によって、適宜使用することができる。
【0054】
(熱電変換モジュールの製造方法)
本発明の電極材料からなる電極を含む熱電変換モジュールは、基板上に、前記電極を形成する工程(以下、電極形成工程ということがある。)、前記熱電半導体組成物を塗布し、乾燥し、薄膜を形成する工程(以下、薄膜形成工程ということがある。)、さらに該薄膜をアニール処理する工程(以下、アニール処理工程ということがある。)、さらにまたアニール処理した基板を他の基板と貼り合わせる工程(以下、貼り合わせ工程ということがある。)を有する方法により製造することができる。
以下、本発明に含まれる工程について、順次説明する。
【0055】
(電極形成工程)
電極形成工程は、例えば、第1の基板上に、前述した金属材料からなるパターンを形成する工程であり、基板上に形成する方法、及びパターンの形成方法については、前述したとおりである。
【0056】
(薄膜形成工程)
薄膜形成工程は、熱電半導体組成物を、例えば、上記で得られた第1の電極を有する第1の基板上に塗布する工程である。熱電半導体組成物を、基板上に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、スプレーコート法、バーコート法、ドクターブレード法等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷法、スロットダイコート法等が好ましく用いられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥することにより、薄膜が形成されるが、乾燥方法としては、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~150℃であり、加熱時間は、加熱方法により異なるが、通常、数秒~数十分である。
また、熱電半導体組成物の調製において溶媒を使用した場合、加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば、特に制限はない。
【0057】
(アニール処理工程)
アニール処理工程は、例えば、上記で得られた第1の電極及び熱電素子を有する第1の基板をアニール処理する工程である。
得られた熱電素子は、薄膜形成後、さらにアニール処理(以下、アニール処理Bということがある。)を行うことが好ましい。該アニール処理Bを行うことで、熱電性能を安定化させるとともに、薄膜中の熱電半導体微粒子を結晶成長させることができ、熱電性能をさらに向上させることができる。アニール処理Bは、特に限定されないが、通常、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行われ、用いる樹脂及びイオン性化合物の耐熱温度等に依存するが、100~500℃で、数分~数十時間行われる。
【0058】
(貼り合わせ工程)
貼り合わせ工程は、例えば、前記アニール処理工程で得られた第1の電極及び熱電素子を有する第1の基板を、第2の電極を有する第2の基板とを貼り合わせ、熱電変換モジュールを作製する工程である。
前記貼り合せに用いる貼り合わせ剤としては、特に制限されないが、導電ペースト等が挙げられる。導電ペーストとしては、銅ペースト、銀ペースト、ニッケルペースト等が挙げられ、バインダーを使用する場合は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
貼り合わせ剤を基板上に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。
【0059】
本発明の電極材料からなる電極を含む熱電変換モジュールの製造方法によれば、簡便な方法で熱電素子と電極との接合部で生じる電極の割れ、剥がれが抑制され、接合部の低抵抗が維持された、熱電性能が高く、低コストの熱電素子を用いた熱電変換モジュールを得ることができる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0061】
実施例及び比較例で作製した熱電変換材料の試験片の抵抗値の評価は、以下の方法で行った。
【0062】
<抵抗値評価>
実施例及び比較例で作製した熱電変換材料(試験片)の、電極層、及び熱電素子-電極間の電気抵抗値を、
図3に示す測定位置において、抵抗測定装置(Agilent社製、型名:Digital Multimeter 34401A)を用いて、25℃60%RHの環境下で測定した。
図3は、実施例及び比較例で作製した熱電変換材料(試験片)の電極、及び熱電素子-電極間の各電気抵抗値の測定位置を説明する図であり、(a)は熱電変換材料(試験片)の平面図、(b)は熱電変換材料(試験片)の断面図である。本発明においては、得られた熱電変換材料(試験片)21の電極23(P-Q間(ポリイミド基板の長辺方向と平行))、及びポリイミド基板22上の熱電素子24-電極23間(R-Q間(ポリイミド基板の長辺方向と平行))の各電気抵抗値を測定した。
【0063】
(熱電半導体微粒子の作製)
ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるp型ビスマステルライドBi0.4Te3Sb1.6(高純度化学研究所製、粒径:180μm)を、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン社製、Premium line P-7)を使用し、窒素ガス雰囲気下で粉砕することで、平均粒径1.2μmの熱電半導体微粒子を作製した。粉砕して得られた熱電半導体微粒子に関して、レーザー回折式粒度分析装置(CILAS社製、1064型)により粒度分布測定を行った。
【0064】
(実施例1)
(1)熱電半導体組成物の作製
上記で得られたp型ビスマステルライドBi0.4Te2.0Sb1.6微粒子92質量部、耐熱性樹脂としてポリイミド前駆体であるポリアミック酸(シグマアルドリッチ社製、ポリ(ピロメリト酸二無水物-co-4,4´-オキシジアニリン)アミド酸溶液、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:15質量%)3質量部、及びイオン液体としてN-ブチルピリジニウム5質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液を調製した。
(2)電極パターンの作製
ポリイミド基板(東レ・デュポン社製、商品名「カプトン200H」、25mm×45mm、厚さ:50μm)上に、メタルマスク(ミタニマイクロニクス社製、25mm×45mm、厚さ:0.7mm、開口部:20mm×40mm)を介して、ニッケル材料(高純度化学研究所社製)を真空蒸着法により100nmの厚さに成膜することで電極パターンを作製した。
(3)熱電素子の作製
上記(1)で調製した塗工液を、(2)で作製した電極パターン上にスピンコート法により塗布し、温度150℃で、10分間アルゴン雰囲気下で乾燥し、厚さが40μmの薄膜を形成した。次いで、得られた薄膜に対し、水素とアルゴンの混合ガス(水素:アルゴン=3体積%:97体積%)雰囲気下で、加温速度5K/minで昇温し、300℃で1時間保持し、薄膜形成後のアニール処理を行うことにより、熱電半導体材料の微粒子を結晶成長させ、熱電素子を作製した。得られた熱電変換材料(試験片)の電極、及び熱電素子-電極間の電気抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2)
電極の金属材料を金(厚さ:100nm)とした以外は、実施例1と同様にして熱電素子を作製した。
【0066】
(実施例3)
電極の金属材料をアルミニウム(厚さ:100nm)とした以外は、実施例1と同様にして熱電素子を作製した。
【0067】
(実施例4)
実施例1のニッケル材料からなる電極上に金(厚さ:100nm)を真空蒸着法により積層し、2層構成とした以外は、実施例1と同様にして熱電素子を作製した。
【0068】
(実施例5)
電極の金属材料にあらかじめ銅箔を貼付したポリイミド基板(宇部エクシモ株式会社製、製品名:ユピセルN、ポリイミド基板厚み:50μm、銅箔:9μm)の銅箔上へ無電解めっきによりニッケル(9μm)層を形成し、次いでニッケル層上に電解めっきでロジウム層(厚さ:300nm)を形成した以外は、実施例1と同様にして熱電素子を作製した。
【0069】
(実施例6)
電極の金属材料にあらかじめ銅箔を貼付したポリイミド基板(宇部エクシモ株式会社製、製品名:ユピセルN、ポリイミド基板厚み:50μm、銅箔:9μm)の銅箔上へ電解めっきにより白金層(300nm)を形成した以外は、実施例1と同様にして熱電素子を作製した。
【0070】
(実施例7)
電極の金属材料にあらかじめ銅箔を貼付したポリイミド基板(宇部エクシモ株式会社製、製品名:ユピセルN、ポリイミド基板厚み:50μm、銅箔:9μm)の銅箔上へ無電解めっきによりニッケル層(9μm)、次いでニッケル層上に電解めっきによりクロム層(300nm)を形成した以外は、実施例1と同様にして熱電素子を作製した。
【0071】
(実施例8)
電極の金属材料にあらかじめ銅箔を貼付したポリイミド基板(宇部エクシモ株式会社製、製品名:ユピセルN、ポリイミド基板厚み:50μm、銅箔:9μm)の銅箔上へ無電解めっきによりニッケル層(9μm)、次いでニッケル層上に無電解めっきによりパラジウム層(500nm)、金層(100nm)を形成した以外は、実施例1と同様にして熱電素子を作製した。
【0072】
(実施例9)
電極の金属材料にあらかじめステンレス鋼箔を貼付したポリイミド基板(宇部エクシモ株式会社製、製品名:ユピセルC、ポリイミド基板厚み:25μm、SUS403箔:20μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして熱電素子を作製した。
【0073】
(実施例10)
電極の金属材料にあらかじめステンレス鋼箔を貼付したポリイミド基板(宇部エクシモ株式会社製、製品名:ユピセルC、ポリイミド基板厚み:25μm、SUS403箔:20μm)のステンレス鋼箔上へ電解めっきにより金層(100nm)を形成した以外は、実施例1と同様にして熱電素子を作製した。
【0074】
(比較例1)
電極の金属材料を銅(100nm)とした以外は、実施例1と同様にして熱電素子を作製した。
【0075】
【0076】
実施例1~10の電極材料を用いると、銅を使用した比較例1に比べて、低い抵抗値を示し、かつ割れや剥がれは生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の熱電変換モジュール用電極材料は、高い熱電性能を有するビスマステルライド系熱電半導体材料等に適用されることにより、高温度の熱処理が可能になり、熱電半導体材料が本来有する熱電性能をさらに向上させ、結果として高い熱電性能を有する熱電変換モジュールを作製することができる。また、製造工程内での歩留まりを向上させる。
本発明の熱電変換モジュール用電極材料を用いた熱電変換素子は、簡便に低コストで製造可能で、熱電性能に優れる熱電変換材料を用い構成されていることから、発電用途としては、工場や廃棄物燃焼炉、セメント燃焼炉等の各種燃焼炉からの排熱、自動車の燃焼ガス排熱及び電子機器の排熱を電気に変換する用途への適用が考えられる。冷却用途としては、エレクトロニクス機器の分野において、例えば、半導体素子である、CCD(Charge Coupled Device)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、受光素子等の各種センサーの温度制御等に用いられる。
【符号の説明】
【0078】
1:熱電変換モジュール
2a:第1の基板
2b:第2の基板
3a:第1の電極
3b:第2の電極
4a:p型熱電素子
4b:n型熱電素子
5:接合部
11:熱電変換モジュール
12a:第1の基板
12b:第2の基板
13:電極
14a:p型熱電素子
14b:n型熱電素子
15:接合部
21:熱電変換材料(試験片)
22:ポリイミド基板
23:電極
24:熱電素子