(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体吐出モジュール
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240513BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/14 201
B41J2/14 607
B41J2/18
(21)【出願番号】P 2020011241
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】中川 喜幸
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/193446(WO,A1)
【文献】特開平6-305143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の表面上に設けられた、第1の液体と第2の液体が流動する複数の圧力室と、前記第1の液体を加圧する圧力発生素子と、前記圧力室と連通し前記第2の液体を吐出する吐出口と、
を有する液体吐出ヘッドにおいて、
前記複数の圧力室は、前記圧力室が複数個配列された第1の圧力室列と、前記第1の圧力室列と隣接して配置される、前記圧力室が複数個配列された第2の圧力室列と、を構成しており、
前記基板上に、
前記第1の圧力室列を構成する第1の圧力室と連通する流路であって、該第1の圧力室に前記第1の液体を供給する第1の供給流路と、該第1の圧力室に前記第2の液体を供給する第2の供給流路と、該第1の圧力室から前記第1の液体を回収する第1の回収流路と、該第1の圧力室から前記第2の液体を回収する第2の回収流路と、
前記第2の圧力室列を構成する第2の圧力室と連通する流路であって、該第2の圧力室に前記第1の液体を供給する第3の供給流路と、該第2の圧力室に前記第2の液体を供給する第4の供給流路と、該第2の圧力室から前記第1の液体を回収する第3の回収流路と、該第2の圧力室から前記第2の液体を回収する第4の回収流路と、
が形成されており、
前記基板の表面と対向する側からみたとき、前記基板の、前記第1の圧力室列と前記第2の圧力室列との間には、共通流路が形成されており、
前記共通流路は、前記第1の供給流路および前記第3の供給流路と連通している、または前記第2の供給流路および前記第4の供給流路と連通している、または前記第1の回収流路および前記第3の回収流路と連通している、または前記第2の回収流路および前記第4の回収流路と連通している、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1の圧力室と前記第2の圧力室は、前記複数個の吐出口が配列する方向に交差する方向において、互いに隣接している請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記共通流路は、前記第2の供給流路および前記第4の供給流路と連通している請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記共通流路は、前記第2の回収流路および前記第4の回収流路と連通している請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1の供給流路、前記第2の供給流路、第3の供給流路、前記第4の供給流路、前記第1の回収流路、前記第2の回収流路、前記第3の回収流路、および前記第4の回収流路のうち、前記共通流路と連通している流路と、前記共通流路との間には、前記共通流路と連通している流路と前記共通流路とを連通させる連通流路が形成されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記連通流路は、屈曲しながら前記共通流路と連通しているクランク流路である請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記共通流路が前記第2の回収流路および前記第4の回収流路と連通しており、
前記連通流路は、前記第2の回収流路と前記共通流路とを連通させる流出連通流路および前記第4の回収流路と前記共通流路とを連通させる流出連通流路である請求項5または6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記共通流路が前記第2の供給流路および前記第4の供給流路と連通しており、
前記連通流路は、前記第2の供給流路と前記共通流路とを連通させる流入連通流路および前記第4の供給流路と前記共通流路とを連通させる流入連通流路である請求項5ないし7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
第1の液体と第2の液体が流動する圧力室と、
前記第1の液体を加圧する圧力発生素子と、
前記第2の液体を吐出する吐出口が複数個配列された吐出口列と、
前記第1の液体を前記圧力室に供給する流路であって、前記吐出口列を構成する複数の前記吐出口と連通する第1の共通供給流路と、
前記第1の液体を前記圧力室から回収する流路であって、前記吐出口列を構成する複数の前記吐出口と連通する第1の共通回収流路と、
前記第2の液体を前記圧力室に供給する流路であって、前記吐出口列を構成する複数の前記吐出口と連通する第2の共通供給流路と、
前記第2の液体を前記圧力室から回収する流路であって、前記吐出口列を構成する複数の前記吐出口と連通する第2の共通回収流路と、
を有する液体吐出ヘッドにおいて、
前記第1の共通供給流路、前記第1の共通回収流路、前記第2の共通供給流路および前記第2の共通回収流路の少なくともいずれか1つの数が、前記吐出口列の数よりも少ないことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第2の液体の粘度は、前記第1の液体の粘度よりも大きい請求項1ないし9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記圧力室において、前記第1の液体と前記第2の液体は、前記第2の液体が吐出される方向に並んで流動している請求項1ないし10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記圧力室において、前記第2の液体の流量は前記第1の液体の流量よりも大きい請求項1ないし11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記吐出口から吐出される液体に前記第1の液体は含まれない請求項1ないし12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記第2の液体は、前記圧力発生素子が駆動されることにより、前記第1の液体との液液界面を介して受けた圧力によって前記吐出口より吐出される請求項1ないし13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記圧力発生素子は、電圧が印加されることによって発熱して前記第1の液体に膜沸騰を生じさせる請求項1ないし14のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
前記第1の液体は、水または2MPa以上の臨界圧力を有する水性の液体である請求項15に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項17】
前記第2の液体は、
顔料を含む水性インクである請求項15または16に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項18】
前記第1の液体と前記第2の液体との液液界面の位置は、前記吐出口と前記圧力発生素子との間に形成されている請求項1ないし17のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを構成するための液体吐出モジュールであって、
複数配列されることによって前記液体吐出ヘッドが構成されることを特徴とする液体吐出モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよび液体吐出モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、吐出媒体となる液体と発泡媒体となる液体を界面で接触させ、熱エネルギの付与によって発泡媒体内に生成させた泡の成長に伴って吐出媒体を吐出させる液体吐出ユニットが開示されている。特許文献1によれば、吐出媒体を吐出した後に、吐出媒体と発泡媒体を加圧して流れを形成することにより、吐出媒体と発泡媒体の界面を液流路内で安定させる方法が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、吐出媒体と発泡媒体を加圧して流れを形成するためには、吐出媒体を圧力室に供給する流路と、発泡媒体を圧力室に供給する流路と、の2つの流路を素子基板に形成することが必要となる。さらに、吐出媒体と発泡媒体の界面を安定させるために、吐出媒体および発泡媒体を流し続けて圧力室の内部と外部とで循環させようとすると、圧力室から吐出媒体を回収する流路および発泡媒体を回収する2つの流路を基板に形成することが必要になる。
【0005】
したがって、吐出媒体と発泡媒体の界面を安定させるためには、1つの圧力室に対して少なくとも4つの流路を基板に形成することが必要となるため、基板が大型化してしまう恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、吐出媒体と発泡媒体の界面を安定させつつ、基板が大型化してしまうことを抑制することができる液体吐出ヘッドを提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。即ち本発明は、基板と、前記基板の表面上に設けられた、第1の液体と第2の液体が流動する複数の圧力室と、前記第1の液体を加圧する圧力発生素子と、前記圧力室と連通し前記第2の液体を吐出する吐出口と、を有する液体吐出ヘッドにおいて、前記複数の圧力室は、前記圧力室が複数個配列された第1の圧力室列と、前記第1の圧力室列と隣接して配置される、前記圧力室が複数個配列された第2の圧力室列と、を構成しており、前記基板上に、前記第1の圧力室列を構成する第1の圧力室と連通する流路であって、該第1の圧力室に前記第1の液体を供給する第1の供給流路と、該第1の圧力室に前記第2の液体を供給する第2の供給流路と、該第1の圧力室から前記第1の液体を回収する第1の回収流路と、該第1の圧力室から前記第2の液体を回収する第2の回収流路と、前記第2の圧力室列を構成する第2の圧力室と連通する流路であって、該第2の圧力室に前記第1の液体を供給する第3の供給流路と、該第2の圧力室に前記第2の液体を供給する第4の供給流路と、該第2の圧力室から前記第1の液体を回収する第3の回収流路と、該第2の圧力室から前記第2の液体を回収する第4の回収流路と、が形成されており、前記基板の表面と対向する側からみたとき、前記基板の、前記第1の圧力室列と前記第2の圧力室列との間には、共通流路が形成されており、前記共通流路は、前記第1の供給流路および前記第3の供給流路と連通している、または前記第2の供給流路および前記第4の供給流路と連通している、または前記第1の回収流路および前記第3の回収流路と連通している、または前記第2の回収流路および前記第4の回収流路と連通している、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吐出媒体と発泡媒体の界面を安定させつつ、基板の大型化を抑制することができる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】液体吐出装置の制御構成を説明するためのブロック図である。
【
図3】液体吐出モジュールにおける素子基板の断面斜視図である。
【
図4】第1の実施形態における液流路及び圧力室の拡大詳細図である。
【
図5】粘度比と水相厚比の関係、及び圧力室の高さと流速の関係を示す図である。
【
図7】吐出動作の過渡状態を模式的に示す図である。
【
図8】水相厚比を変化させた場合の吐出液滴を示す図である。
【
図9】水相厚比を変化させた場合の吐出液滴を示す図である。
【
図10】水相厚比を変化させた場合の吐出液滴を示す図である。
【
図11】流路(圧力室)の高さと水相厚比の関係を示す図である。
【
図12】比較例の液流路の上面図と断面図を示す図である。
【
図13】第1の実施形態の液流路の上面図と断面図を示す図である。
【
図14】第2の実施形態の液流路の上面図と断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(液体吐出ヘッドの構成)
図1は、本発明で使用可能な液体吐出ヘッド1の斜視図である。本実施形態の液体吐出ヘッド1は、複数の液体吐出モジュール100がx方向に配列されて構成される。個々の液体吐出モジュール100は、複数の圧力発生素子12(
図4参照)が配列された素子基板10と、個々の吐出素子に電力と吐出信号を供給するためのフレキシブル配線基板40とを有している。フレキシブル配線基板40のそれぞれは、電力供給端子と吐出信号入力端子が配された電気配線基板90に共通して接続されている。液体吐出モジュール100は、液体吐出ヘッド1に対し簡易的に着脱することができる。よって、液体吐出ヘッド1には、これを分解することなく、任意の液体吐出モジュール100を外部から容易に取りつけたり取り外したりすることができる。
【0011】
このように、液体吐出モジュール100を長手方向に複数配列(複数個が配列)させて構成される液体吐出ヘッド1であれば、何れかの圧力発生素子12等に吐出不良が生じた場合であっても、吐出不良が生じた液体吐出モジュール100のみを交換すればよい。よって、液体吐出ヘッド1の製造工程における歩留まりを向上させるとともに、ヘッド交換時のコストを抑えることができる。
【0012】
(液体吐出装置の構成)
図2は、本発明に使用可能な液体吐出装置2の制御構成を示すブロック図である。CPU500は、ROM501に記憶されているプログラムに従いRAM502をワークエリアとして使用しながら、液体吐出装置2の全体を制御する。CPU500は、例えば、外部に接続されたホスト装置600より受信した吐出データに、ROM501に記憶されているプログラムおよびパラメータに従って所定のデータ処理を施し、液体吐出ヘッド1が吐出可能な吐出信号を生成する。そして、この吐出信号に従って液体吐出ヘッド1を駆動しながら、搬送モータ503を駆動して液体の付与対象媒体を所定の方向に搬送することにより、液体吐出ヘッド1から吐出された液体を付与対象媒体に付着させる。
【0013】
液体循環ユニット504は、液体吐出ヘッド1に液体を循環させながら供給し、液体吐出ヘッド1における液体の流動制御を行うためのユニットである。液体循環ユニット504は、液体を貯留するサブタンク、サブタンクと液体吐出ヘッド1の間で液体を循環させる流路や、複数のポンプ、液体吐出ヘッド1内を流れる液体の流量を調整するための流量調整ユニットなどを備えている。そして、CPU500の指示の下、液体吐出ヘッド1において液体が所定の流量で流れるように、上記複数の機構を制御する。
【0014】
(素子基板の構成)
図3は、個々の液体吐出モジュール100に備えられた素子基板10の断面斜視図である。素子基板10は、シリコン(Si)基板15上にオリフィスプレート14(吐出口形成部材)が積層されて構成されている。
図3では、x方向に配列された吐出口11は、同種類の液体(例えば共通のサブタンクや供給口から供給される液体)を吐出する。ここではオリフィスプレート14が液流路13も形成した例を示しているが、液流路13は別の部材(流路壁部材)で形成し、その上に吐出口11が形成されたオリフィスプレート14が設けられた構成であってもよい。
【0015】
シリコン基板(以下、単に基板と称す)15上の、個々の吐出口11に対応する位置には圧力発生素子12(
図3では不図示)が配されている。吐出口11と圧力発生素子12とは、対向する位置に設けられている。吐出信号に応じて電圧が印加されると、圧力発生素子12は、液体を流動方向(y方向)と交差するz方向へ加圧し、圧力発生素子12と対向する吐出口11から、液体が液滴として吐出される。圧力発生素子12への電力や駆動信号は、基板15上に配された端子17を介して、フレキシブル配線基板40(
図1参照)より供給される。
【0016】
オリフィスプレート14には、y方向に延在し、吐出口11の夫々に個別に接続する複数の液流路13が形成されている。また、x方向に配列する複数の液流路13は、第1の共通供給流路23、第1の共通回収流路24、第2の共通供給流路28及び第2の共通回収流路29と、共通して接続されている。第1の共通供給流路23、第1の共通回収流路24、第2の共通供給流路28及び第2の共通回収流路29における液体の流れは、
図2で説明した液体循環ユニット504によって制御されている。具体的には、第1の共通供給流路23から液流路13に流入した第1の液体が第1の共通回収流路24に向かい、第2の共通供給流路28から液流路13に流入した第2の液体が第2の共通回収流路29に向かうように制御されている。第1の共通供給流路23、第1の共通回収流路24、第2の共通供給流路28及び第2の共通回収流路29は、x方向に配列する複数の液流路13と接続されている。
【0017】
図3では、このようなx方向に配列する吐出口11および液流路13の組が、y方向に2列配置された例を示している。なお、
図3においては、圧力発生素子12と対向する位置、すなわち気泡の成長方向に吐出口が配置される構成を示したが、本実施形態はこれに限られることはない。例えば、気泡の成長方向と直交するような位置に吐出口を設けてもよい。
【0018】
(液流路及びの構成)
図4(a)~(d)は、基板15の表面上に形成された1つの液流路13及び圧力室18の構成を詳しく説明するための図である。
図4(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、
図4(b)は
図4(a)に示すIVb-IVbの断面図である。また、
図4(c)は
図3で示した素子基板10における1つの液流路13近傍の拡大図である。更に、
図4(d)は、
図4(b)における吐出口近傍の拡大図である。
【0019】
液流路13の底部に相当する基板15には、第2の流入連通流路21、第1の流入連通流路20、第1の流出連通流路25、第2の流出連通流路26が、y方向においてこの順に形成されている。そして、吐出口11と連通し、圧力発生素子12を含む圧力室18は、液流路13中で第1の流入連通流路20と第1の流出連通流路25のほぼ中央に配されている。ここで、圧力室18とは、圧力発生素子12を内部に備え、圧力発生素子12によって発生した圧力が作用する液体を格納している空間のことである。または、圧力室18とは、圧力発生素子12から吐出口11までの長さをaとしたときに、圧力発生素子12の中心を中心する半径aの円の内側にある空間のことである。第2の流入連通流路21は第2の共通供給流路28に、第1の流入連通流路20は第1の共通供給流路23に、第1の流出連通流路25は第1の共通回収流路24に、第2の流出連通流路26は第2の共通回収流路29に、それぞれ接続している(
図3参照)。以下、第1の流入連通流路20、第2の流入連通流路21、第1の流出連通流路25、第2の流出連通流路26をまとめて表すときは、連通流路と称する。なお、本実施形態においては、連通流路を有する素子基板10を用いて説明を行っているが、本発明はこれに限られない。即ち、連通流路を有さない素子基板10であってもよい。具体的には、第1の共通供給流路23、第1の共通回収流路24、第2の共通供給流路28および第2の共通回収流路29が、第1の供給流路3、第1の回収流路5、第2の供給流路4および第2の回収流路6のそれぞれと直接連通していてもよい。
【0020】
以上の構成のもと、第1の共通供給流路23より第1の流入連通流路20を介して液流路13に供給された第1の液体31は、y方向(矢印で示す方向)に流動し、圧力室18を経由した後、第1の流出連通流路25を介して第1の共通回収流路24に回収される。また、第2の共通供給流路28より第2の流入連通流路21を介して液流路13に供給された第2の液体32は、y方向(矢印で示す方向)に流動し、圧力室18を経由した後、第2の流出連通流路26を介して第2の共通回収流路29に回収される。即ち、液流路13のうち、第1の流入連通流路20と第1の流出連通流路25の間では第1の液体と第2の液体の両方が共にy方向に流動する。
【0021】
圧力室18の中では、圧力発生素子12は第1の液体31と接触し、吐出口11の近傍では大気に曝された第2の液体32がメニスカスを形成している。圧力室18の中では、圧力発生素子12と、第1の液体31と、第2の液体32と、吐出口11とが、この順で並ぶように、第1の液体31と第2の液体32とが流れている。即ち、圧力発生素子12がある側が下方、吐出口11がある側が上方とすると、第1の液体31上に第2の液体32が流れている。そして、第1の液体31及び第2の液体32は、下方の圧力発生素子12によって加圧され、下方から上方に向けて吐出される。尚、この上下の方向が、圧力室18及び液流路13の高さ方向である。
【0022】
本実施形態では、第1の液体31と第2の液体32が、
図4(d)に示すように、圧力室18の中で互いに接触しながら沿うように流れるように、第1の液体31の流量と第2の液体の流量を、第1の液体31の物性および第2の液体32の物性に応じて調整する。なお、第1の実施形態及び第2の実施形態において、第1の液体31及び第2の液体32は同じ方向にそれぞれ流動させているが、本発明はこれに限られることはない。すなわち、第1の液体31の流動方向に対して第2の液体32が反対向きに流動してもよい。また、第1の液体31の流れと第2の液体32の流れが直交するように、流路を設けてもよい。また、液流路(圧力室)の高さ方向において、第1の液体31の上に第2の液体32が流動するように液体吐出ヘッド1を構成したが、本発明はこれに限られることはない。すなわち、液流路(圧力室)の底面に第1の液体31及び第2の液体32が共に接するように流動してもよい。
【0023】
このような2つの液体の流れとしては、
図4(d)に示すような2つの液体が同じ方向に流動する平行流だけでなく、第1の液体の流動方向に対して第2の液体が反対向きに流動する対向流、第1の液体の流れと第2の液体の流れが交差する液体の流れがある。以下、この中で平行流を例にとって説明する。
【0024】
平行流の場合、第1の液体31と第2の液体32の界面が乱れないこと、すなわち第1の液体31と第2の液体32が流動する圧力室18内の流れが層流状態であること、が好ましい。特に、所定の吐出量を維持するなど、吐出性能を制御しようとする場合には、界面が安定している状態で圧力発生素子12を駆動することが好ましい。但し、本発明はこれに限定されるものではない。圧力室18内の流れが乱流状態となって2つの液体の界面が多少乱れたとしても、少なくとも圧力発生素子12の側を主として第1の液体が流動し、吐出口11の側を主として第2の液体が流動している状態であれば、圧力発生素子12を駆動してもよい。以下では、圧力室内の流れが平行流であって、かつ、層流状態となっている例を中心に説明する。
【0025】
(層流となっている平行流の形成条件)
まず、管内において液体が層流となる条件について説明する。一般に、流れを評価する指標として、粘性力と界面張力の比を表すレイノルズ数Reが知られている。
【0026】
ここで、液体の密度をρ、流速をu、代表長さをd、粘度をηとすると、レイノルズ数Reは(式1)で表すことができる。
Re=ρud/η・・・(式1)
【0027】
ここで、レイノルズ数Reが小さいほど、層流が形成されやすいことが知られている。具体的には、例えばレイノルズ数Reが2200程度より小さいと円管内の流れは層流となり、レイノルズ数Reが2200程度より大きいと円管内の流れは乱流となることが知られている。
【0028】
流れが層流になるということは、流線が流れの進行方向に対して互いに平行となり交わらないことになる。従って、接触する2つの液体がそれぞれ層流であれば、2つの液体の界面が安定している平行流を形成することができる。ここで、一般的なインクジェット記録ヘッドについて考えると、液流路(圧力室)における吐出口近傍の流路高さ(圧力室の高さ)H[μm]は10~100μm程度である。よって、インクジェット記録ヘッドの液流路に水(密度ρ=1.0×103kg/m3、粘度η=1.0cP)を流速100mm/sで流した場合、レイノルズ数はRe=ρud/η≒0.1~1.0<<2200となり、層流が形成されるとみなすことができる。
【0029】
尚、
図4に示すように、液流路13や圧力室18の断面が矩形であったとしても、液流路13や圧力室18は円管と同等に、即ち液流路13や圧力室18の有効形を円管の直径としてみなすことができる。
【0030】
(層流状態の平行流の理論的な形成条件)
次に、
図4(d)を参照しながら、液流路13及び圧力室18の中で2種類の液体の界面が安定している平行流を形成する条件について説明する。まず、基板15からオリフィスプレート14の吐出口面までの距離をH[μm]とする。そして、吐出口面から第1の液体31と第2の液体32との液液界面までの距離(第2の液体の相厚)をh
2[μm]、液液界面から基板15までの距離(第1の液体の相厚)をh
1[μm]とする。即ち、H=h
1+h
2となる。
【0031】
ここで、液流路13及び圧力室18内の境界条件として、液流路13及び圧力室18の壁面における液体の速度はゼロとする。また、第1の液体31と第2の液体32との液液界面の速度とせん弾応力は、連続性を有するものと仮定する。この仮定において、第1の液体31と第2の液体32とが2層の平行な定常流を形成しているとすると、平行流区間では(式2)に示す4次方程式が成立する。
【0032】
【0033】
尚、(式2)において、η1は第1の液体31の粘度、η2は第2の液体32の粘度、Q1は第1の液体31の流量、Q2は第2の液体32の流量をそれぞれ示す。すなわち、上記の4次方程式(式2)の成立範囲において、第1の液体と第2の液体は、それぞれの流量と粘度に応じた位置関係となるように流動し、界面が安定した平行流が形成される。本実施形態では、この第1の液体と第2の液体の平行流を、液流路13内、少なくとも圧力室18内で形成することが好ましい。このような平行流が形成された場合、第1の液体と第2の液体は、その液液界面において分子拡散による混合が起こるのみであり、実質的に交じり合うことなくy方向に平行に流れる。なお、本実施形態は、圧力室18内の一部の領域における液体の流れが層流状態となっていなくてもよい。少なくとも圧力発生素子上の領域を流れる液体の流れが層流状態となっていることが好ましい。
【0034】
例えば、水と油のような不混和性溶媒を第1の液体と第2の液体として用いる場合であっても、(式2)が満足されれば、互いに不混和であることとは関係なく安定した平行流が形成される。また、水と油の場合であっても、前述したように、圧力室内の流れが多少乱流状態であって界面が乱れたとしても、少なくとも圧力発生素子上を主に第1の液体が流動し、吐出口内を主に第2の液体が流動していることが好ましい。
【0035】
図5(a)は、(式2)に基づいて、粘度比η
r=η
2/η
1と第1の液体の相厚比h
r=h
1/(h
1+h
2)との関係を、流量比Q
r=Q
2/Q
1を複数段階に異ならせた場合について示した図である。尚、第1の液体は水に限定されないが、「第1の液体の相厚比」を以下「水相厚比」と称する。横軸は粘度比η
r=η
2/η
1、縦軸は水相厚比h
r=h
1/(h
1+h
2)をそれぞれ示している。流量比Q
rが大きくなるほど、水相厚比h
rは小さくなっている。また、いずれの流量比Q
rについても、粘度比η
rが大きくなるほど水相厚比h
rは小さくなっている。即ち、液流路13(圧力室)における水相厚比h
r(第1の液体と第2の液体との界面位置)は、第1の液体と第2の液体との粘度比η
r及び流量比Q
rを制御することによって所定の値に調整することができる。その上で、
図5(a)によれば、粘度比η
rと流量比Q
rとを比較した場合、流量比Q
rの方が粘度比η
rよりも水相厚比h
rに大きく影響することがわかる。
【0036】
尚、水相厚比hr=h1/(h1+h2)については、0<hr<1(条件1)が満たされていれば、液流路(圧力室)の中において第1の液体と第2の液体との平行流は形成されていることになる。但し、後述するように、本実施形態では第1の液体を主に発泡媒体として機能させ、第2の液体を主に吐出媒体として機能させるようにし、吐出液滴に含まれる第1の液体と第2の液体とを所望の割合に安定させるようにしている。このような状況を考慮すると、水相厚比hrは、0.8以下(条件2)であることが好ましく、0.5以下(条件3)であることがさらに好ましい。
【0037】
ここで、
図5(a)に示す状態A、状態B、状態Cは、それぞれ以下の状態を示す。
状態A)粘度比η
r=1及び流量比Q
r=1の場合で水相厚比h
r=0.50
状態B)粘度比η
r=10及び流量比Q
r=1の場合で水相厚比h
r=0.39
状態C)粘度比η
r=10及び流量比Q
r=10の場合で水相厚比h
r=0.12
【0038】
図5(b)は、液流路13(圧力室)の高さ方向(z方向)における流速分布を上記状態A、B、Cのそれぞれについて示した図である。横軸は状態Aの流速最大値を1(基準)として規格化した規格化値Uxを示している。縦軸は、液流路13(圧力室)の高さHを1(基準)とした場合の底面からの高さを示している。夫々の状態を示す曲線においては、第1の液体と第2の液体との界面位置をマーカーで示している。状態Aの界面位置が状態Bや状態Cの界面位置よりも高いなど、界面位置が状態によって変化することがわかる。これは、異なる粘度を有する2種類の液体がそれぞれ層流となって(全体としても層流で)管内を平行に流れる場合、これら2つの液体の界面は、これら液体の粘度差に起因する圧力差と界面張力とに起因するラプラス圧が釣り合う位置に形成されるためである。
【0039】
(流量比と水相厚比の関係)
図6は、(式2)のもと、流量比Q
rと水相厚比h
rの関係を、粘度比がη
r=1の場合とη
r=10の場合について示す図である。横軸は流量比Q
r=Q
2/Q
1を示し、縦軸は水相厚比h
r=h
1/(h
1+h
2)を示している。流量比Q
r=0とはQ
2=0の場合に相当し、液流路は第1の液体のみで満たされ第2の液体が存在せず、水相厚比はh
r=1となる。図のP点がこの状態を示している。
【0040】
P点の位置よりQrを大きく(即ち第2の液体の流量Q2を0よりも大きく)すると、水相厚比hr即ち第1の液体の水相厚h1は小さくなり、第2の液体の水相厚h2は大きくなる。つまり、第1の液体のみが流れる状態から、第1の液体と第2の液体とが界面を介して平行に流れる状態に移行する。そしてこのような傾向は、第1の液体と第2の液体の粘度比がηr=1の場合であってもηr=10の場合であっても、同様に確認することができる。
【0041】
すなわち、液流路13において第1の液体と第2の液体が界面を介して沿うように流れる状態となるためには、Qr=Q2/Q1>0であること、つまり Q1>0 且つ Q2>0が成立していることが求められる。これは、第1の液体と第2の液体が共にy方向へ同一方向に流動していることを意味している。
【0042】
(吐出動作の過渡状態)
次に、平行流が形成された液流路13及び圧力室18における吐出動作の過渡状態について説明する。
図7(a)~(e)は、粘度比がη
r=4の第1の液体と第2の液体で平行流を形成した状態で吐出動作を行った場合の過渡状態を模式的に示す図である。なお、
図7(a)~(e)に示す液流路13(圧力室)の高さHは、H[μm]=20μm、オリフィスプレートの厚みTは、T[μm]=6μmである。
【0043】
図7(a)は、圧力発生素子12に電圧が印加される前の状態を示している。ここでは、共に流動する第1の液体のQ
1と第2の液体のQ
2を調整することにより、水相厚比がη
r=0.57(即ち第1の液体の水相厚がh
1[μm]=6μm)となる位置で界面位置が安定した状態を示している。
【0044】
図7(b)は、圧力発生素子12に電圧が印加され始めた状態を示している。本実施形態の圧力発生素子12は電気熱変換体(ヒータ)である。即ち、圧力発生素子12は、吐出信号に応じて電圧パルスが印加されることにより急激に発熱し、接触する第1の液体中に膜沸騰を生じさせる。図では、膜沸騰によって泡16が生成された状態を示している。泡16が生成された分、第1の液体31と第2の液体32の界面はz方向(圧力室の高さ方向)に移動し、第2の液体32は吐出口11よりz方向に押し出されている。
【0045】
図7(c)は、膜沸騰によって発生した泡16の体積が増大し、第2の液体32は吐出口11より更にz方向に押し出された状態となっている。
【0046】
図7(d)は、泡16が大気に連通した状態を示している。本実施形態においては泡16が最大に成長した後の収縮段階において、吐出口11から圧力発生素子12側に移動した気液界面と泡16とが連通する。
【0047】
図7(e)は、液滴30が吐出された状態を示している。
図7(d)のように泡16が大気に連通したタイミングにおいて既に吐出口11より突出している液体は、その慣性力によって液流路13から離脱し、液滴30となってz方向へ飛翔する。一方、液流路13においては、吐出によって消費された分の液体が、液流路13の毛細管力によって吐出口11の両側から供給され、吐出口11には再びメニスカスが形成される。そして、再び
図7(a)に示すような、y方向に流動する第1の液体と第2の液体の平行流が形成される。
【0048】
このように、本実施形態においては、第1の液体と第2の液体が平行流として流動している状態で、
図7(a)~(e)に示す吐出動作を行う。再度
図2を参照しながら具体的に説明すると、CPU500は、液体循環ユニット504を用いて、第1の液体の流量および第2の液体の流量を一定に保ちつつこれら液体を吐出ヘッド1内で循環させる。そして、そのような制御を持続しながら、CPU500は、吐出データに従って吐出ヘッド1に配された個々の圧力発生素子12に電圧を印加する。なお、吐出される液体の量によっては、第1の液体の流量および第2の液体の流量は常に一定とは限られない場合もある。
【0049】
なお、液体が流動している状態で吐出動作を行う場合、液体の流動が吐出性能に影響を与えることが懸念される場合がある。しかし、一般的なインクジェット記録ヘッドにおいて、液滴の吐出速度は数m/s~十数m/sのオーダーであり、数mm/s~数m/sのオーダーである液流路内の流動速度に比べて遥かに大きい。よって、第1の液体と第2の液体が数mm/s~数m/sで流動した状態で吐出動作が行われても、吐出性能が影響を受けるおそれは少ない。
【0050】
本実施形態では泡16と大気とが圧力室18内で連通する構成を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、泡16が吐出口11の外側(大気側)で大気と連通してもよく、また、泡16が大気と連通することなく消泡する形態であってもよい。
【0051】
(吐出液滴に含まれる液体の割合)
図8(a)~(g)は、流路(圧力室)高さがH[μm]=20μmの液流路13(圧力室)において、水相厚比h
rを段階的に変化させた場合の吐出液滴を比較する図である。
図8(a)~(f)は水相厚比h
rを0.10ずつ増大させ、
図8(f)から(g)においては水相厚比h
rを0.50増大させている。なお、
図8における吐出液滴は、第1の液体の粘度を1cP、第2の液体の粘度を8cP、液滴の吐出速度を11m/sとして、シミュレーションを行った際に得られた結果をもとに示したものである。
【0052】
図4(d)で示す水相厚比h
r(=h
1/(h
1+h
2))が0に近いほど第1の液体31の水相厚h
1は小さく、水相厚比h
rが1に近いほど第1の液体31の水相厚h
1は大きい。このため、吐出液滴30に主として含まれるのは、吐出口11に近い第2の液体32であるが、水相厚比h
rが1に近づくほど、吐出液滴30に含まれる第1の液体31の割合も増加する。
【0053】
流路(圧力室)高さがH[μm]=20μmである
図8(a)~(g)の場合、水相厚比がh
r=0.00、0.10、0.20では第2の液体32のみが吐出液滴30に含まれ、第1の液体31は吐出液滴30に含まれない。しかし、水相厚比がh
r=0.30以降では第2の液体32とともに第1の液体31も吐出液滴30に含まれ、水相厚比がh
r=1.00(即ち第2の液体が存在しない状態)では第1の液体31のみが吐出液滴30に含まれる状態となる。このように、吐出液滴30に含まれる第1の液体31と第2の液体32の割合は、液流路13における水相厚比h
rによって変化する。
【0054】
一方、
図9(a)~(e)は、流路(圧力室)高さがH[μm]=33μmの液流路13において、水相厚比h
rを段階的に変化させた場合の吐出液滴30を比較する図である。この場合、水相厚比がh
r=0.36までは第2の液体32のみが吐出液滴30に含まれ、水相厚比がh
r=0.48以降では第2の液体32とともに第1の液体31も吐出液滴30に含まれている。
【0055】
また、
図10(a)~(c)は、流路(圧力室)高さがH[μm]=10μmの液流路13において、水相厚比h
rを段階的に変化させた場合の吐出液滴30を比較する図である。この場合、水相厚比がh
r=0.10であっても、第1の液体31が吐出液滴30に含まれてしまっている。
【0056】
図11は、吐出液滴30に第1の液体31が含まれる割合Rを固定した場合の流路(圧力室)高さHと水相厚比h
rの関係を、上記割合Rを0%、20%、40%とした場合について示す図である。いずれの割合Rにおいても、流路(圧力室)高さHが大きいほど求められる水相厚比h
rも大きくなる。なお、ここで言う第1の液体31が含まれる割合Rとは、吐出液滴のうち、液流路13(圧力室)において第1の液体31として流れていた液体が含まれる割合を示す。よって、第1の液体と第2の液体のそれぞれが例えば水のような同じ成分を含んでいたとしても、第2の液体に含まれていた水については上記割合に無論含まれない。
【0057】
吐出液滴30に第2の液体32のみを含ませ第1の液体を含ませないようにする場合(R=0%)、流路(圧力室)高さH[μm]と水相厚比hrの関係は図の実線で示す軌跡となる。本発明者らの検討によれば、水相厚比hrは、(式3)に示す流路(圧力室)高さH[μm]の一次関数で近似することができる。
hr=-0.1390+0.0155H・・・(式3)
【0058】
また、吐出液滴30に第1の液体を20%含ませようとする場合(R≦20%)、水相厚比hrは、(式4)に示す流路(圧力室)高さH[μm]の一次関数で近似することができる。
hr=+0.0982+0.0128H・・・(式4)
【0059】
更に、吐出液滴30に第1の液体を40%含ませようとする場合(R=40%)、本発明者らの検討によれば、水相厚比hrは、(式5)に示す流路(圧力室)高さH[μm]の一次関数で近似することができる。
hr=+0.3180+0.0087H・・・(式5)
【0060】
例えば、吐出液滴30に第1の液体が含まれないようにする場合、流路(圧力室)高さH[μm]が20μmであれば水相厚比hrは0.20以下に調整することが求められる。また、流路(圧力室)高さH[μm]が33μmであれば水相厚比hrは0.36以下に調整することが求められる。更に、流路(圧力室)高さH[μm]が10μmであれば水相厚比hrはほぼゼロ(0.00)に調整することが求められる。
【0061】
但し、水相厚比h
rをあまり小さくすると、第1の液体に対する第2の液体の粘度η
2や流量Q
2を増大させる必要が生じ、圧力損失の増大に伴う弊害が懸念される。例えば、再度
図5(a)を参照すると、水相厚比h
r=0.20を実現する場合、粘度比η
r=10では流量比はQ
r=5となる。また、同じインク(即ち同じ粘度比η
r)を用いつつ、第1の液体を吐出させないことの確実性を得るために、水相厚比を仮にh
r=0.10に設定すると、流量比はQ
r=15となる。即ち、水相厚比h
rを0.10に調整する場合は、水相厚比h
rを0.20に調整する場合に比べて流量比Q
rを3倍にすることが必要となり、圧力損失の増加およびこれに伴う弊害が懸念される。
【0062】
以上のことより、圧力損失をなるべく小さく抑えながら、第2の液体32のみを吐出させようとする場合、水相厚比h
rは上記条件の下、なるべく大きな値に調整することが好ましい。再度
図11を参照して具体的に説明すると、例えば流路(圧力室)高さがH[μm]=20μmの場合、水相厚比h
rは0.20よりも小さく、且つなるべく0.20に近い値に調整することが好ましい。また、流路(圧力室)高さがH[μm]=33μmの場合、水相厚比h
rは0.36よりも小さく、且つなるべく0.36に近い値に調整することが好ましい。
【0063】
尚、上記(式3)、(式4)、(式5)は、一般的な液体吐出ヘッド、即ち吐出液滴の吐出速度が10m/s~18m/sの範囲である液体吐出ヘッドにおける数値である。また、圧力発生素子と吐出口とが対向する位置にあり、圧力室の中で、圧力発生素子と第1の液体と第2の液体と吐出口とがこの順で並ぶように、第1の液体と第2の液体とが流れていることを前提とした数値である。
【0064】
このように、本実施形態によれば、液流路13(圧力室)における水相厚比hrを所定の値に設定し界面を安定させることにより、第1の液体と第2の液体が一定の割合で含まれる液滴の吐出動作を安定して行うことが可能となる。
【0065】
ところで、以上のような吐出動作を安定した状態で繰り返し行うためには、目的の水相厚比hrを実現しつつ、この界面位置を吐出動作の頻度に関わらず安定させておくことが求められる。
【0066】
ここで、再度
図4(a)~(c)を参照しながら、このような状態を実現するための具体的方法を説明する。例えば、液流路13(圧力室)における第1の液体の流量Q
1を調整するためには、第1の流出連通流路25の圧力が第1の流入連通流路20の圧力よりも低くなるような第1の圧力差生成機構を用意すればよい。このようにすれば、第1の流入連通流路20から第1の流出連通流路25に(y方向)に向かう第1の液体31の流れを生成することができる。また、第2の流出連通流路26の圧力が第2の流入連通流路21の圧力よりも低くなるような第2の圧力差生成機構を用意すればよい。このようにすれば、第2の流入連通流路21から第2の流出連通流路26に(y方向)に向かう第2の液体32の流れを生成することができる。
【0067】
そして、液路内で逆流を生じさせないために(式6)の関係を維持した状態で、第1の圧力差生成機構と第2の圧力差生成機構を制御すれば、液流路13において所望の水相厚比hrでy方向に流動する第1の液体と第2の液体の平行流を形成することができる。
P2in≧P1in>P1out≧P2out・・・(式6)
【0068】
ここで、P1inは第1の流入連通流路20の圧力、P1outは第1の流出連通流路25の圧力、P2inは第2の流入連通流路21の圧力、P2outは第2の流出連通流路26の圧力、をそれぞれ示している。このように、第1及び第2の圧力差生成機構を制御することにより液流路(圧力室)において所定の水相厚比hrを維持することができれば、吐出動作に伴って界面位置が乱れても、短時間で好適な平行流を復元し次の吐出動作を即座に開始することが可能となる。
【0069】
(第1の液体と第2の液体の具体例)
以上説明した本実施形態の構成では、第1の液体は膜沸騰を生じさせるための発泡媒体、第2の液体は吐出口から外部に吐出するための吐出媒体、というようにそれぞれに求められる機能が明確になる。本実施形態の構成によれば、第1の液体および第2の液体に含有させる成分の自由度を従来よりも高めることができる。以下、このような構成における発泡媒体(第1の液体)と吐出媒体(第2の液体)について、具体例を挙げて詳しく説明する。
【0070】
本実施形態の発泡媒体(第1の液体)としては、電気熱変換体が発熱した際に発泡媒体中に膜沸騰が生じ、生成された気泡が急激に増大すること、即ち熱エネルギを効率的に発泡エネルギに変換可能な高い臨界圧力を有することが求められる。このような媒体としては、特に水が好適である。水は、分子量が18と小さいにも関わらず高い沸点(100℃)と高い表面張力(100℃で58.85dyne/cm)を有し、約22MPaと大きな臨界圧力を有する。即ち、膜沸騰時における発泡圧力も非常に大きい。一般に、膜沸騰を利用してインクを吐出する方式のインクジェット記録装置においても、染料や顔料のような色材を水に含有させたインクを好適に用いている。
【0071】
但し、発泡媒体は水に限定されるものではない。臨界圧力が2MPa以上であれば(好ましくは5MPa以上であれば)、発泡媒体としての機能を果すことはできる。水以外の発泡媒体の例としては、例えばメチルアルコールやエチルアルコールが挙げられ、水にこれら液体を混合させたものを発泡媒体として用いることもできる。また、上述のように染料や顔料などの色材や、その他の添加剤などを水に含有させたものも用いることができる。
【0072】
一方、本実施形態の吐出媒体(第2の液体)については、発泡媒体のように膜沸騰を生じさせるための物性は要求されない。また、電気熱変換体(ヒータ)上にコゲが付着すると、ヒータ表面の平滑性が損なわれたり熱伝導率が低下したりして発泡効率の低下が懸念されるが、吐出媒体はヒータに直に接触しないので、含有する成分が焦げるおそれも少ない。即ち、本実施形態の吐出媒体においては、従来のサーマルヘッドのインクに比べ膜沸騰を生じさせたりコゲを回避したりするための物性条件が緩和され、含有成分の自由度が増し、結果として吐出後の用途に適した成分をより積極的に含有させることが可能となる。
【0073】
例えば、ヒータ上で焦げ易いことを理由に従来は使用されていなかった顔料を、本実施形態では吐出媒体に積極的に含有させることができる。また、臨界圧力が非常に小さな水性インク以外の液体も、本実施形態では吐出媒体として使用することができる。更に、紫外線硬化型インク、導電性インク、EB(電子線)硬化型インク、磁性インク、ソリッド型インクなど、従来のサーマルヘッドでは対応困難であった特別な機能を有する様々なインクを、吐出媒体として用いることが可能となる。また、吐出媒体として血液や培養液中の細胞などを用いれば、本実施形態の液体吐出ヘッドを画像形成以外の様々な用途に利用することもできる。バイオチップ作製や電子回路印刷などの用途にも有効である。
【0074】
特に、第1の液体(発泡媒体)を水又は水に類似した液体、第2の液体(吐出媒体)を水よりも粘度の高い顔料インクとして第2の液体のみを吐出させる形態は、本実施形態の有効な用途の1つである。このような場合も、
図5(a)で示したように、流量比Q
r=Q
2/Q
1をなるべく小さくして水相厚比h
rを抑えることが有効である。尚、第2の液体については制限がないので、第1の液体で挙げたような液体と同じ液体を用いることもできる。例えば2つの液体がいずれも水を多く含有したインクであっても、例えば使用の形態といった状況に応じて、一方のインクを第1の液体、他方のインクを第2の液体として用いることができる。
【0075】
(吐出媒体の一例としての紫外線硬化型インク)
一例として、本実施形態の吐出媒体として使用可能な紫外線硬化型インクの好ましい成分構成について説明する。紫外線硬化型インクは100%ソリッド型である、溶剤を含まず重合性反応成分からなるインクと、溶剤型である水または溶剤を希釈剤として含むインクに分類することができる。近年多く用いられている紫外線硬化型インクは、溶剤を含まず非水系の光重合性反応成分(モノマーもしくはオリゴマー)からなる100%ソリッド型紫外線硬化型インクである。構成はモノマーを主要成分として含有し、これに光重合開始剤、色材、分散剤、界面活性剤などのその他添加剤を少量含む。その比率は概ねモノマーが80~90wt%、光重合開始剤が5~10wt%、色材が2~5wt%、残りがその他添加剤という構成である。このように、従来のサーマルヘッドでは対応困難であった紫外線硬化型インクであっても、本実施形態の吐出媒体として用いれば、安定した吐出動作によって液体吐出ヘッドから吐出させることができる。これにより、従来よりも画像の堅牢性や耐擦過性に優れた画像を印刷することが可能となる。
【0076】
(吐出液滴を混合液とする例)
次に、吐出液滴30に、第1の液体31と第2の液体32を所定の割合で混合した状態で吐出する場合について説明する。例えば、第1の液体31と第2の液体32を異なる色のインクとした場合、双方の液体の粘度及び流量に基づいて算出したレイノルズ数が所定の値より小さい関係を満たしていれば、これらインクは液流路13及び圧力室18の中で混色することなく層流となる。即ち、液流路及び圧力室の中における第1の液体31と第2の液体32の流量比Qrを制御することにより、水相厚比hrひいては吐出液滴における第1の液体31と第2の液体32の混合比を所望の割合に調整することができる。
【0077】
例えば、第1の液体をクリアインク、第2の液体をシアンインク(或はマゼンタインク)とすれば、流量比Qrを制御することにより様々な色材濃度のライトシアンインク(或はライトマゼンタインク)を吐出することができる。また、第1の液体をイエローインク、第2の液体をマゼンタインクとすれば、流量比Qrを制御することにより、色相が段階的に異なる複数種類のレッドインクを吐出することができる。即ち、第1の液体と第2の液体が所望の割合で混合された液滴を吐出することができれば、その混合比を調整することにより、印刷媒体で表現される色再現範囲を従来よりも拡大することができる。
【0078】
また、吐出直前まで混合させず吐出直後より混合させることが好ましい2種類の液体を用いる場合にも、本実施形態の構成は有効である。例えば、画像印刷においては、発色性に優れた高濃度顔料インクと、耐擦過性のような堅牢性に優れた樹脂EM(樹脂エマルジョン)を印刷媒体に同時に付与することが好ましい場合がある。しかしながら、顔料インクに含まれる顔料成分と樹脂EMに含まれる固形分は粒子間距離が近接すると凝集しやすく分散性が損なわれる傾向がある。よって、本実施形態の第1の液体を高濃度樹脂EM(エマルジョン)とし、第2の液体を高濃度顔料インクとしながら、これら液体の流速を制御することによって平行流を形成すれば、2つの液体は吐出後の印刷媒体上で混合し凝集する。即ち、高い分散性の下で好適な吐出状態を維持しながら、着弾後においては高い発色性と高い堅牢性を有する画像を得ることが可能となる。
【0079】
なお、このような吐出後の混合を目的とする場合には、圧力発生素子の形態によらず、圧力室内において2つの液体を流動させることの有効性が発揮されることになる。即ち、例えば圧力発生素子としてピエゾ素子を用いる構成のように、臨界圧力の制限やコゲの問題がそもそも提起されないような構成であっても、本発明は有効に機能する。
【0080】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1の液体と第2の液体を液流路(圧力室)において所定の水相厚比hrを保ちながら定常的に流動させる状態において、圧力発生素子12を駆動することにより、良好な吐出動作を安定して行うことが可能となる。
【0081】
液体を定常的に流動させている状態で圧力発生素子12を駆動することにより、液体の吐出の際には安定した界面を形成することができる。液体の吐出動作の際に液体が流動していないと、気泡の発生により界面が乱れやすく、記録品位にも影響が及ぶ。本実施形態のように、液体を流動させながら圧力発生素子12を駆動することにより、気泡の発生による界面の乱れを抑制することできる。安定した界面が形成されることにより、例えば、吐出液体に含まれる各種液体の含有割合が安定し、記録品位も良好となる。また、圧力発生素子12の駆動前から液体を流動させ、吐出の際においても液体を流動させているため、液体を吐出した後に液流路(圧力室)に再びメニスカスを形成するための時間を短縮することができる。また、液体の流動は、圧力発生素子12の駆動信号が入力される前に、液体循環ユニット504に搭載されているポンプなどにより行う。したがって、少なくとも液体の吐出直前には液体は流動している。
【0082】
圧力室の中を流れる第1の液体や第2の液体は、圧力室の外部との間で循環してもよい。循環を行わない場合には、液流路及び圧力室の中で平行流を形成した第1の液体及び第2の液体のうち、吐出されなかった液体が多く発生してしまう。この為、第1の液体や第2の液体を外部との間で循環させると、吐出されなかった液体を再び平行流を形成する為に使用することができる。
【0083】
(共通裏面流路の共通化)
図12および
図13を参照しながら、基板15に形成された流路の構成について説明する。
図12(a)は、本発明に係る比較例の流路の構成を示す上面図である。
図12(b)は、
図12(a)に示すA-A´断面を示す断面図である。
図13(a)は、本実施形態に係る流路の構成を示す上面図である。
図13(b)は、
図13(a)に示すB-B´断面を示す断面図である。なお、
図3においては、各吐出口11に対してそれぞれ一つずつ第1の流入連通流路20、第2の流入連通流路21、第1の流出連通流路25、第2の流出連通流路26が形成されている。しかしながら、
図12~
図14においては、複数の吐出口に対して1つの第1の流入連通流路20、第2の流入連通流路21、第1の流出連通流路25、第2の流出連通流路26が形成されているが、本発明はどちらの形態であってもよい。
【0084】
圧力室18はx方向に複数個配列されており、
図12中の左、
図13中の真ん中にx方向に配列されている複数の圧力室18を第1の圧力室列7と称し、
図12中の右、
図13中の右にx方向に配列されている複数の圧力室18を第2の圧力室列8と称する。また、第1の圧力室列7を構成する圧力室を第1の圧力室45と称し、第2の圧力室列8を構成する圧力室を第2の圧力室46と称する。なお、
図12または
図13に示すように、第1の圧力室45と第2の圧力室46は、吐出口11が配列する方向(x方向)に交差する方向(y方向)において、互いに隣接している。基板上には、第1の圧力室45に連通する液流路13が形成されている。液流路13内において、第1の圧力室45に第1の液体31を供給する領域を第1の供給流路3と称し、第1の圧力室45に第2の液体32を供給する領域を第2の供給流路4と称する。また、第1の圧力室45に連通する液流路13内において、第1の圧力室45から第1の液体31を回収する領域を第1の回収流路5と称し、第1の圧力室45から第2の液体32を回収する領域を第2の回収流路6と称する。第2の圧力室46に連通する液流路13内において、第2の圧力室46に第1の液体31を供給する領域を第3の供給流路41と称し、第2の圧力室46に第2の液体32を供給する領域を第2の供給流路42と称する。また、第2の圧力室46に連通する液流路13内において、第2の圧力室46から第1の液体31を回収する領域を第3の回収流路43と称し、第2の圧力室46から第2の液体32を回収する領域を第4の回収流路44と称する。
【0085】
比較例である
図12においては、各圧力室列のそれぞれに、第1の共通供給流路23、第1の共通回収流路24、第2の共通供給流路28、第2の共通回収流路29(以下、これらの流路をまとめて称する場合には、共通裏面流路と称す。)の4つの流路が設けられている。そのため、これらの各流路を基板15に形成するために、第1の圧力室列7と第2の圧力室列8との間には十分なスペースを確保しなければならず、素子基板10が大型化してしまう恐れがある。
【0086】
そこで、本実施形態においては、基板15の表面と対向する側(+Z方向)からみたときに、基板15の、第1の圧力室列7と第2の圧力室列8との間に共通流路を形成している。共通流路とは、第1の圧力室列7と第2の圧力室列8との間に形成される共通裏面流路のうち、他方の圧力室列により近い方の流路のことを指している。そして、共通流路を、第1の圧力室45および第2の圧力室46のそれぞれの液流路と連通させている。具体的には、
図13においては、共通流路は第2の共通回収流路29であるため、第2の共通回収流路29を、第1の圧力室45の第2の回収流路6および第2の圧力室46の第4の回収流路44のそれぞれと連通させている。これにより、1つの共通流路で2つの圧力室から第2の液体32を回収することができる。換言すれば、第1の圧力室45と第2の圧力室46とで共通流路を共通化している。そのため、
図12に係る比較例の第1の圧力室45および第2の圧力室46に連通している共通裏面流路の数よりも、本実施形態の共通裏面流路の数の方が少なくなる。これにより、共通裏面流路を形成するために第1の圧力室列7と第2の圧力室列8との間に設けなければならなかったスペースが小さくなり、素子基板10の大型化を抑制することができる。具体的には、本実施形態により、
図12中における第1の圧力室列7と連通する第2の共通供給流路28と第2の圧力室列8と連通する第2の共通供給流路28との間にある基板9の分、素子基板10を小さくすることができている。
【0087】
1つの共通流路が2つの圧力室列と連通している。これにより、第1の共通供給流路23、第1の共通回収流路24、第2の共通供給流路28および第2の共通回収流路29のうち、共通流路となって2つの圧力室列と連通している流路の数が、素子基板10に形成されている吐出口列の数よりも少なくなっている。
【0088】
また、一般的に、流路の圧力損失ΔP[kPa]は、流量Q[μm3/μs]と流抵抗R[kPa*μm/μm3]を用いて、(式7)のように示される。
ΔP=Q×R・・・(式7)
【0089】
ここで、流抵抗R[kPa*μm/μm
3]は、断面積S[μm
2]の自乗に影響することが知られている。即ち、
R∝(1/S
2)・・・(式8)
の関係となっている。そのため、共通流路である
図13の第2の共通回収流路29の断面積を、
図12に示す第2の共通回収流路29の2倍ではなく約1.4倍にするだけで、共通流路内の圧力損失を、
図12の構成において生じる圧力損失に抑えることができる。したがって、本実施形態の構成とすることにより、
図12の基板9の分素子基板10を小型化できるだけでなく、第2の共通回収流路29の断面積を2つの流路の断面積の合算値よりも小さくすることができる。このため、素子基板10の小型化により寄与する。
【0090】
なお、比較例である
図12においては、各圧力室内で液体が流動する方向は同一方向(Y方向)である。しかしながら、本実施形態である
図13においては、共通流路で流路を束ねるため、流れる液体の流動方向は圧力室列で異なる。具体的に、第1の圧力室45内を流動する液体の流れは正のY方向であるが、第2の圧力室46内を流動する液体の流れは負のY方向である。したがって、本実施形態における流路の構成においては、各圧力室列で液体の流動方向を適宜変更する必要がある。
【0091】
図13においては、第2の共通回収流路29を第1の圧力室45と第2の圧力室46のそれぞれの液流路に連通させる構成を図示したが、本実施形態はこれに限られない。即ち、第2の共通供給流路28を第1の圧力室45と第2の圧力室46のそれぞれの液流路に連通させてもよい。更には、第1の共通供給流路23、第2の共通供給流路28、第2の共通回収流路29および第1の共通回収流路24の順になるよう流路を構成し、第1の共通供給流路23又は第1の共通回収流路24を第2の圧力室46の液流路と連通させる構成であってもよい。しかしながら、一般的に、第2の液体32の粘度は第1の液体31の粘度よりも大きい。このため、第2の液体32が流動する第2の共通供給流路28および第2の共通回収流路29の方が、第1の共通供給流路23および共通回収流路24よりも圧力損失が大きい。従って、圧力損失を低減するために、第2の共通供給流路28および第2の共通回収流路29の断面積は、第1の共通供給流路23および第1の共通回収流路24の断面積よりも大きい。式(7)および式(8)より、断面積の大きい方の流路を共通化させる方が低減できる流路の幅が大きいことが分かる。そのため、第2の液体32が流動する第2の共通供給流路28または第2の共通回収流路29を共通化させることが、素子基板10の大型化を抑制する観点からより好ましい。
【0092】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について、
図14を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の箇所については同一の符号を付し、説明は省略する。
図14(a)は、本実施形態に係る流路の構成を示す上面図である。
図14(b)は、
図14(a)に示すC-C´断面を示す断面図である。本実施形態は、
図14に示すように、第2の流入連通流路21および第2の流出連通流路26が屈曲した流路(以下、クランク流路と称す。)となっている。即ち、第2の流入連通流路21および第2の流出連通流路26が屈曲しながら共通流路と連通している。クランク流路とすることにより、圧力室18により近い位置に第2の流入連通流路21および第2の流出連通流路26を設けることができる。これにより、液流路13の長さを短くすることできるため、液流路13の流抵抗を小さくすることができる。したがって、より小さい圧力差で液体を流動させることができるようになり、液体の供給および回収が行いやすくなる。
【0093】
なお、
図14では、第2の流入連通流路21および第2の流出連通流路26をクランク流路とする構成を図示したが、本実施形態はこれに限られない。即ち、第2の流入連通流路21または第2の流出連通流路26のどちらか一方のみをクランク流路としてもよい。さらには、第1の共通供給流路23および第1の共通回収流路24が外側に形成されている構成となっている場合には、第1の流入連通流路20、第1の流出連通流路25をクランク流路としてもよい。しかしながら、一般に、第2の液体32は第1の液体31よりも粘度が高いために流動する際の圧力損失が大きくなりやすい。そのため、第2の液体32が流動する第2の流入連通流路21、第2の流出連通流路26をクランク流路とすることが流抵抗の抑制の観点から好ましい。
【符号の説明】
【0094】
1 液体吐出ヘッド
3 第1の供給流路
4 第2の供給流路
5 第1の回収流路
6 第2の回収流路
7 第1の圧力室列
8 第2の圧力室列
11 吐出口
12 圧力発生素子
15 基板
18 圧力室
31 第1の液体
32 第2の液体
41 第3の供給流路
42 第4の供給流路
43 第3の回収流路
44 第4の回収流路
45 第1の圧力室
46 第2の圧力室