(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】検査薬、検査キットおよび検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20240513BHJP
【FI】
G01N33/543 581D
(21)【出願番号】P 2020033560
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】杉田 賢
(72)【発明者】
【氏名】八島 正孝
(72)【発明者】
【氏名】和田 恭平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公一
(72)【発明者】
【氏名】坪山 明
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-020719(JP,A)
【文献】特開2012-141310(JP,A)
【文献】国際公開第2010/137532(WO,A1)
【文献】特開2006-070249(JP,A)
【文献】特表平09-502253(JP,A)
【文献】米国特許第05340716(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0175696(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0149128(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/483,
G01N 33/543,33/545
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の標的物質を検出するために使用する検査薬であって、
光
が照射
されることによって一重項酸素を生成する光増感剤を含有する光増感粒子と、
前記一重項酸素による酸化反応によって発光特性が変化する蛍光色素を含有する蛍光色素粒子と、
前記標的物質と結合する性質を有し、かつ該光増感粒子
と該蛍光色素粒子
との凝集を抑制する凝集抑制剤と、
の混合物を含み、
前記光増感粒子および前記蛍光色素粒子の少なくともいずれか一方は前記標的物質と結合する性質を有し、
前記光増感粒子の表面および前記蛍光色素粒子の表面が、刺激応答性ポリマーを有
し、
前記刺激応答性ポリマーは、刺激に応じて性質が変化して前記光増感粒子および前記蛍光色素粒子が互いに凝集あるいは結合するように構成されていることを特徴とする検査薬。
【請求項2】
前記光増感粒子と前記蛍光色素粒子との凝集を促進する凝集促進剤をさらに有する請求項1に記載の検査薬。
【請求項3】
前記刺激応答性ポリマーが、温度応答性ポリマーである請求項1または2に記載の検査薬。
【請求項4】
前記光増感剤が、置換基を有してもよいポルフィリン、置換基を有してもよいフタロシアニン、置換基を有してもよいフルオレセイン、および、メチレンブルーからなる群より選ばれる少なくとも一つであり、前記ポルフィリンおよび前記フタロシアニンは、それぞれ中心金属を有していてもよく、
前記ポルフィリン、前記フタロシアニンおよび前記フルオレセインが有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、
または置換基を有してもよい複素環基であり、
前記アリール基が有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、または複素環基であり、
前記複素環基が有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、またはアリール基であり、
前記ポルフィリン、前記フタロシアニンおよび前記フルオレセインが有してもよい複素環基、および、前記アリール基が有してもよい複素環基は、それぞれ独立に、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基およびフェナントロリル基からなる群より選ばれるいずれかの基である請求項1~3のいずれか1項に記載の検査薬。
【請求項5】
前記蛍光色素が、置換基を有してもよいアントラセンまたは置換基を有してもよいベンゾフランであり、
前記アントラセンおよび前記ベンゾフランが有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、
または置換基を有してもよい複素環基であり、
前記アリール基が有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、または複素環基であり、
前記複素環基が有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、またはアリール基であり、
前記アントラセンおよび前記ベンゾフランが有してもよい複素環基、および、前記アリール基が有してもよい複素環基は、それぞれ独立に、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基およびフェナントロリル基からなる群より選ばれるいずれかの基である請求項1~4のいずれか1項に記載の検査薬。
【請求項6】
前記刺激応答性ポリマーが、ポリ(N-アルキルアクリルアミド)、ポリ(N-ビニルアルキルアミド)およびポリビニルアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つである請求項1~5のいずれか1項に記載の検査薬。
【請求項7】
前記刺激応答性ポリマーが、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の検査薬。
【請求項8】
前記凝集抑制剤が親水性部位を有し、
前記親水性部位がポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンイミン、およびこれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくともいずれか1つから水素原子を1つ除いた構造を有する請求項1~7のいずれか1項に記載の検査薬。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の検査薬の製造に用いられる検査キットであって、
前記光増感粒子、前記蛍光色素粒子および前記凝集抑制剤を有し、
前記光増感粒子、前記蛍光色素粒子および前記凝集抑制剤のうち少なくともいずれか1つが分離して収納されていることを特徴とする検査キット。
【請求項10】
前記光増感粒子、前記蛍光色素粒子および前記凝集抑制剤がすべて互いに分離して収納されている請求項9に記載の検査キット。
【請求項11】
検体中の標的物質を検出する検査方法であって、
前記検体と、光
が照射
されることによって一重項酸素を生成する光増感剤を含有する光増感粒子と、前記一重項酸素による酸化反応によって発光特性が変化する蛍光色素を含有する蛍光色素粒子と、
前記標的物質と結合する性質を有し、かつ該光増感粒子および該蛍光色素粒子の凝集を抑制する凝集抑制剤と、を混合して検査用混合物を得る工程であって、前記光増感粒子および前記蛍光色素粒子の少なくともいずれか一方は前記標的物質と結合する性質を有し、前記光増感粒子の表面および前記蛍光色素粒子の表面が、刺激応答性ポリマーを有
し、前記刺激応答性ポリマーは、刺激に応じて性質が変化して前記光増感粒子および前記蛍光色素粒子が互いに凝集あるいは結合するように構成されている、工程と、
前記検査用混合物の環境条件を変化させて前記刺激応答性ポリマーの性質を変化させる工程と、
前記検査用混合物に第一の励起光を照射する工程と、
前記検査用混合物に第二の励起光を照射し、前記検査用混合物から射出する光を検出する工程と、
を含むことを特徴とする検査方法。
【請求項12】
前記刺激応答性ポリマーが、温度応答性ポリマーである請求項11に記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的物質の検出に用いる検査薬、検査キットおよび検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から化学分野、生物医学分野、環境分野において物質を定量検出することが必要とされてきており、中でも低濃度の標的物質を検出する方法として、ラテックス凝集法が利用されてきた。
【0003】
ラテックス凝集法は、試料中におけるラテックス粒子の凝集の程度を評価することで試料に含まれる標的物質を検出または定量する方法である。ラテックス粒子には標的物質と特異的に結合する物質が担持されており、これにより標的物質を検出することができる。
【0004】
近年各技術分野においてより微量な標的物質の検出が求められてきている。しかしラテックス凝集法においては、標的物質が微量になると、標的物質とラテックスに担持された特異的に結合する物質との結合を介したラテックス同士の架橋が生じにくい。そのため、検出に十分な凝集が得られない場合がある。
【0005】
また、ラテックス粒子は検出対象試料に含まれる種々の標的物質でない微量物質に対して非特異的に結合して凝集が誘起される場合がある。そのため、検出対象試料の種類によっては、検出の精度を高くするためにラテックス粒子と標的物質でない物質との非特異的結合を回避する手立てを講じる必要がある。
【0006】
そこで生物医学分野などでは、酵素基質反応を利用する方法も広く採用されている。酵素基質反応を利用する方法としては、例えばEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)法やChemiluminescent Enzyme Immunoassay (CLEIA)法が挙げられる。これらの方法においては、例えば、まず標的物質に特異的に結合する物質を標的物質に結合させる。続いて、標的物質に特異的に結合する物質に酵素を結合させる。ここで、酵素には、標的物質に特異的に結合する物質にさらに特異的に結合する別の物質が担持されている。これにより、酵素を標的物質に特異的に結合する物質に特異的に結合させることができる。その後、酵素の基質を添加し、酵素が触媒する反応の程度を測定することで標的物質を検出する。酵素基質反応を利用する方法では、基質として蛍光色素等の発光物質を使用することで検出感度を高くすることができ、微量の標的物質を検出することが可能となる場合がある。一方で、酵素基質反応を利用する方法は洗浄工程を要することが一般的であり、操作の迅速性や簡便性が優れているとは言えない。
【0007】
特許文献1には、洗浄工程を要しない簡便な微量の標的物質の検出方法として、刺激に応答して凝集する磁性粒子を使用する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されているような磁性粒子を使用する方法では、磁場による粒子の作動を必要とすることから、外部磁場の制御のため装置の使用が煩雑となる場合がある。また、磁性粒子そのものの製造に手間がかかる場合がある。
【0010】
本発明は、以上述べてきた問題に鑑みてなされたものであり、標的物質を迅速、安価、簡便に、そして高感度かつ高精度に検出または定量することを可能にする検査薬、検査キットおよび検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る検査薬は、検体中の標的物質を検出するために使用する検査薬であって、光照射時に一重項酸素を生成する光増感剤を含有する光増感粒子と、前記一重項酸素による酸化反応によって発光特性が変化する蛍光色素を含有する蛍光色素粒子と、該光増感粒子および該蛍光色素粒子の凝集を抑制する凝集抑制剤と、の混合物を含み、前記光増感粒子および前記蛍光色素粒子の少なくともいずれか一方は前記標的物質と結合する性質を有し、前記光増感粒子の表面および前記蛍光色素粒子の表面が、刺激応答性ポリマーを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の別の態様に係る検査キットは、上記検査薬の製造に用いられる検査キットであって、前記光増感粒子、前記蛍光色素粒子および前記凝集抑制剤を有し、前記光増感粒子、前記蛍光色素粒子および前記凝集抑制剤のうち少なくともいずれか1つが分離して収納されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のさらに別の態様に係る検査方法は、検体中の標的物質を検出する検査方法であって、前記検体と、光照射時に一重項酸素を生成する光増感剤を含有する光増感粒子と、前記一重項酸素による酸化反応によって発光特性が変化する蛍光色素を含有する蛍光色素粒子と、該光増感粒子および該蛍光色素粒子の凝集を抑制する凝集抑制剤と、を混合して検査用混合物を得る工程であって、前記光増感粒子および前記蛍光色素粒子の少なくともいずれか一方は前記標的物質と結合する性質を有し、前記光増感粒子の表面および前記蛍光色素粒子の表面が、刺激応答性ポリマーを有する、工程と、前記検査用混合物の環境条件を変化させて前記刺激応答性ポリマーの性質を変化させる工程と、前記検査用混合物に第一の励起光を照射する工程と、前記検査用混合物に第二の励起光を照射し、前記検査用混合物から射出する光を検出する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、標的物質を迅速、安価、簡便に、そして高感度かつ高精度に検出または定量することを可能にする検査薬、検査キットおよび検査方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る検査薬は、検体中の標的物質を検出するために使用する検査薬であって、光照射時に一重項酸素を生成する光増感剤を含有する光増感粒子と、前記一重項酸素による酸化反応によって発光特性が変化する蛍光色素を含有する蛍光色素粒子と、該光増感粒子および該蛍光色素粒子の凝集を抑制する凝集抑制剤と、の混合物を含み、前記光増感粒子および前記蛍光色素粒子の少なくともいずれか一方は前記標的物質と結合する性質を有し、前記光増感粒子の表面および前記蛍光色素粒子の表面が、刺激応答性ポリマーを有することを特徴とする。
【0016】
本発明において、光増感粒子の表面および蛍光色素粒子の表面に存在する刺激応答性ポリマーは、刺激に応じてその性質が変化し、これにより光増感粒子および蛍光色素粒子は互いに凝集あるいは結合する。つまり、刺激に応じて刺激応答性ポリマーの性質が変化することで光増感粒子および蛍光色素粒子が互い近接した状態に存在することができるようになる。光照射時に光増感粒子が生成した一重項酸素は、両粒子の近接により蛍光色素粒子が含有する蛍光色素に到達することができるようになり、酸化反応によって蛍光色素の発光特性が変化する。この発光特性の変化を検出信号として使用することができる。
【0017】
また、光増感粒子および蛍光色素粒子の少なくともいずれか一方は、標的物質と結合する性質を有する。すなわち、光増感粒子または蛍光色素粒子の少なくともいずれかの一方の粒子の表面は、標的物質と結合する部位(以下、標的結合部位とも称する)を有する。標的物質を精度よく検出するために、標的結合部位は、標的物質と特異的に結合することが好ましい。
【0018】
光増感粒子または蛍光色素粒子の表面が有する標的結合部位と、標的物質とが結合することにより、粒子の分散性が変化する。これにより、試料に刺激を加えることで光増感粒子および蛍光色素粒子の凝集を誘発した際に、標的物質が結合した粒子の凝集が抑制される。すなわち、試料が標的物質をほとんど含まない、あるいは全く含まない場合には、刺激に応じて光増感粒子および蛍光色素粒子の大部分が凝集するため、刺激を加える前後での光を照射したときの発光特性の変化が大きくなる。一方で試料が標的物質を多く含む場合、光増感粒子または蛍光色素粒子の表面が有する標的結合部位と、標的物質との結合により、刺激を加えた場合においても粒子の凝集が抑制され、刺激を加える前後での光を照射したときの発光特性の変化が小さくなる。以上の原理に基づいて、洗浄工程を用いることなく、迅速、安価、簡便に、そして高感度かつ高精度に試料中の標的物質を検出あるいは定量することが可能となる。
【0019】
本発明において、光増感粒子および蛍光色素粒子を主に構成する高分子化合物に制限はなく、ラテックス凝集法等に用いられる粒子を形成するために通常用いられる高分子化合物を用いることができる。
【0020】
光照射時に一重項酸素を生成する光増感剤を含有する光増感粒子は、無機粒子、有機粒子またはそれらの混合粒子のいずれであってもよい。光増感粒子の平均粒径は5nm以上から100μm以下であることが好ましい。標的物質としては低分子あるいは高分子の化学物質、例えば糖、蛋白、脂質ならびにそれらの複合物質や、細胞および生体組織などが想定される。このことから、光増感粒子の平均粒径は20nm以上10μm以下であることが好ましく、80nm以上1μm以下であることがさらに好ましい。また、光増感粒子中の増感剤から発生した一重項酸素が、拡散現象により蛍光色素粒子中の蛍光色素に十分な濃度で失活せずに到達することで、効率よく蛍光変化を生ずることができる。そのため、光増感粒子の平均粒径は80nm以上500nm以下であることが特に好ましい。
【0021】
光増感粒子は、できるだけ均一な粒径を有する球形の粒子であることが好ましいことから、主な構造が有機高分子化合物からなる粒子であることが好ましい。有機高分子化合物としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレンなどの高分子化合物やそれら高分子化合物の共重合体を用いることが好ましい。また、光増感粒子には、無機物などのフィラーが含有されていてもよい。光増感粒子の造粒方法としては従来知られている乳化法、懸濁法、乳化重合法、懸濁重合法などが用いられるがその方法は特に限定されるものではない。
【0022】
光増感剤が光増感粒子に含有される態様は、特に限定されず、試料中に光増感粒子を分散した際に、光増感粒子から光増感剤が分散および/または溶出しない限りにおいては、いかなる態様であってもよい。具体的には、例えば、共有結合、疎水結合、イオン結合、水素結合、分子間力等により、光増感粒子の主な構造となる高分子化合物に対して光増感剤を化学的に結合もしくは吸着させることが挙げられる。
【0023】
光照射時に一重項酸素を生成する光増感剤とは、光を吸収して励起状態となり、該励起状態が三重項酸素を一重項酸素に変換することができる色素を指す(有機合成化学第26巻第3号217頁等を参照)。光増感剤としては、無機色素、有機色素あるいは両要素を含む有機無機複合色素が使用され得る。例えば、光増感剤は、置換基を有してもよいポルフィリン、置換基を有してもよいフタロシアニン、置換基を有してもよいフルオレセイン、および、メチレンブルーからなる群より選ばれる少なくとも一つであり、ポルフィリンおよびフタロシアニンは、それぞれ中心金属を有していてもよい。ここで、ポルフィリン、フタロシアニンおよびフルオレセインが有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基である。アリール基が有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、アリール基または複素環基である。また、複素環基が有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基またはアリール基である。ポルフィリン、フタロシアニンおよびフルオレセインが有してもよい複素環基、および、アリール基が有してもよい複素環基は、それぞれ独立に、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基およびフェナントロリル基からなる群より選ばれるいずれかの基である。上記における直鎖または分岐鎖のアルキル基の炭素数は、1以上20以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
【0024】
光増感剤としては、具体的には下記式(1)~(5)で示される化合物が例として挙げられる。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【0025】
一重項酸素による酸化反応によって発光特性が変化する蛍光色素を含有する蛍光色素粒子は、無機粒子、有機粒子またはその混合粒子のいずれであってもよい。蛍光色素粒子の平均粒径は5nm以上100μm以下であることが好ましい。先に述べた想定される標的物質との相互作用の観点から、蛍光色素粒子の平均粒径は20nm以上10μm以下であることがより好ましく、80nm以上1μm以下であることがさらに好ましい。また、先にも述べた、一重項酸素を十分な濃度で蛍光色素に失活せずに到達させる観点から、蛍光色素粒子の平均粒径は80nm以上500nm以下であることが特に好ましい。
【0026】
蛍光色素粒子は、できるだけ均一な粒径を有する球形粒子であることが好ましいことから、有機高分子化合物をバインダーとした粒子であることが好ましい。有機高分子化合物としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレンなどの高分子化合物やそれら高分子化合物の共重合体を用いることが好ましい。また、蛍光色素粒子には、無機物などのフィラーが含有されていてもよい。蛍光色素粒子の造粒方法としては従来知られている乳化法、懸濁法、乳化重合法、懸濁重合法などが用いられるがその方法は特に限定されるものではない。
【0027】
蛍光色素が蛍光色素粒子に含有される態様は、特に限定されず、試料中に光増感粒子を分散した際に、光増感粒子から光増感剤が分散および/または溶出しない限りにおいては、いかなる態様であってもよい。具体的には、例えば、共有結合、疎水結合、イオン結合、水素結合、分子間力等により、光増感粒子の主な構造となる高分子化合物に対して光増感剤を化学的に結合もしくは吸着させることが挙げられる。
【0028】
蛍光色素粒子が含有する蛍光色素について、一重項酸素による酸化反応によって「発光特性が変化する」とは、具体的には蛍光色素の蛍光波長がシフトする、蛍光が消える、または、蛍光を発することを指す。また本発明において「蛍光」は「燐光」も含んで指す語として用いる。蛍光色素としては、無機色素、有機色素あるいは両要素を含む有機無機複合色素が使用され得る。例えば、蛍光色素は、置換基を有してもよいアントラセンまたは置換基を有してもよいベンゾフランである。ここで、アントラセンおよびベンゾフランが有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基である。アリール基が有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、アリール基または複素環基である。また、複素環基が有してもよい置換基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基またはアリール基である。アントラセンおよびベンゾフランが有してもよい複素環基、および、アリール基が有してもよい複素環基は、それぞれ独立に、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基およびフェナントロリル基からなる群より選ばれるいずれかの基である。上記における直鎖または分岐鎖のアルキル基の炭素数は、1以上20以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
【0029】
蛍光色素としては、具体的には下記式(6)および(7)で示される化合物が例として挙げられる。
【化6】
【化7】
【0030】
光増感粒子の表面および蛍光色素粒子の表面が有する刺激応答性ポリマーは、粒子表面に対してグラフト状に結合している、すなわち、各粒子を主に構成する高分子化合物の粒子表面に存在する部分に対してグラフト状に結合していることが好ましい。また、標的物質は、通常水あるいは水性溶媒中に含まれていることから、標的物質を含む試料中に分散される光増感粒子および蛍光色素粒子それぞれの表面に対してグラフト状に結合している刺激応答性ポリマーは、親水性を有していることが好ましい。
【0031】
刺激応答性ポリマーとしては、例えば温度応答性ポリマーやpH応答性ポリマー等が挙げられる。また、温度応答性ポリマーとしては、下限臨界溶液温度を有するポリマーおよび上限臨界溶液温度を有するポリマーが挙げられる。
【0032】
下限臨界溶液温度を有するポリマーの例としては、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N、N-ジメチルアクリルアミド、N-アクリロイルピロリジン、N-アクリロイルピペリジン、N-アクリロイルモルホリン、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-メタクリロイルピロリジン、N-メタクリロイルピペリジン、N-メタクリロイルモルホリン等のN置換(メタ)アクリルアミド誘導体からなるポリマー;ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール部分酢化物、ポリビニルメチルエーテル、(ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン)ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンラウリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン誘導体;ポリオキシエチレンソルビタンラウレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル誘導体;(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)アクリレート、(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)メタクリレート等の(ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)(メタ)アクリレート類;および(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)アクリレート、(ポリオキシエチレンオレイルエーテル)メタクリレート等の(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)(メタ)アクリレート類等のポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸エステル誘導体等が挙げられる。さらに、これらのポリマーおよびこれらの少なくとも2種のモノマーからなるコポリマーも利用できる。さらに、これらのポリマーおよびコポリマーにその他の共重合可能なモノマーを、下限臨界溶液温度を有する範囲で共重合してもよい。本発明においては、なかでも、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-アクリロイルピロリジン、N-アクリロイルピペリジン、N-アクリロイルモルホリン、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-メタクリロイルピロリジン、N-メタクリロイルピペリジン、N-メタクリロイルモルホリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーからなるポリマー、またはN-イソプロピルアクリルアミドとN-t-ブチルアクリルアミドのコポリマーが好ましく利用できる。
【0033】
上限臨界溶液温度を有するポリマーの例としては、アクリロイルグリシンアミド、アクリロイルニペコタミド、アクリロイルアスパラギンアミドおよびアクリロイルグルタミンアミド等からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーからなるポリマーが利用できる。また、これらの少なくとも2種のモノマーからなるコポリマーであってもよい。これらのポリマーまたはコポリマーには、その他の共重合可能なモノマーを、上限臨界溶液温度を有する範囲で共重合してもよい。共重合可能なモノマーとしては、アクリルアミド、アセチルアクリルアミド、ビオチノールアクリレート、N-ビオチニル-N’-メタクリロイルトリメチレンアミド、アクリロイルザルコシンアミド、メタクリルザルコシンアミド、アクリロイルメチルウラシル等が挙げられる。
【0034】
これら下限臨界溶液温度を有するポリマーや上限臨界溶液温度を有するポリマーは、温度を変えるという刺激に対して応答して親溶媒性、疎溶媒性あるいは親水性、疎水性が変化し、これにより光増感粒子および蛍光色素粒子は互いに凝集または結合する。
【0035】
pH応答性ポリマーとしては、カルボキシル、リン酸、スルホニル、アミノ等の基を官能基として含有するポリマーが例示できる。より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、ホスホリルエチル(メタ)アクリレート、アミノエチルメタクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドまたはこれらの塩を共重合成分として含むポリマーが挙げられる。これらpH応答性ポリマーは、pHを変えるという刺激に対して応答して光増感粒子および蛍光色素粒子が凝集または結合する。
【0036】
本発明においては、刺激応答性ポリマーが、ポリ(N-アルキルアクリルアミド)、ポリ(N-ビニルアルキルアミド)およびポリビニルアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つであることが好ましい。また、刺激応答性ポリマーが、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)であることがより好ましい。
【0037】
本発明に係る検査薬が含む混合物は、光増感粒子および蛍光色素粒子の凝集を抑制する凝集抑制剤を含有する。凝集抑制剤は、光増感粒子の表面または蛍光色素粒子の表面と同様に、標的結合部位を有することが好ましい。これにより、試料が標的物質を含む場合において、光増感粒子および蛍光色素粒子の凝集をより効果的に抑制することが可能となる。凝集抑制剤が有する標的結合部位と、標的物質との結合もまた、特異的であることが好ましい。
【0038】
本発明において、光増感粒子および蛍光色素粒子の凝集を誘発する際に、凝集を促進する材料を添加しても良い。凝集を促進する材料としては、具体的にはポリアクリルアミド、ポリアリルアミンなどの高分子化合物型の凝集促進剤を例示できる。
【0039】
光増感粒子の表面または蛍光色素粒子の表面、あるいは凝集抑制剤が有する標的結合部位としては、対象とする標的物質に応じて任意に選択することが可能である。標的結合部位は、例えば共有結合、イオン結合、水素結合または分子間力等により標的物質と結合あるいは吸着してもよい。また、例えば、生体分子、糖、タンパク質、脂質ならびにそれらの複合物質や細胞および生体組織などを標的物質とする場合は、抗体、DNAアプタマー等の核酸、糖タンパク、プロテインAやプロテインG等のタンパク質、糖脂質、リポ蛋白等を標的結合部位に用いることができる。
【0040】
刺激応答性ポリマーと標的結合部位との関係に特別な制限はないが、刺激応答性ポリマーが親溶媒性もしくは親水性であって、刺激応答性ポリマーが溶媒和している部分の近傍に、標的結合部位に用いられる物質が存在していることが好ましい。例えば、光増感粒子および蛍光色素粒子それぞれの表面が有する刺激応答性ポリマーがN-イソプロピルアクリルアミドである場合、アミド構造のNHおよびCOが水和している。一方で、光増感粒子または蛍光色素粒子を主に構成する高分子化合物にカルボキシ基を導入し、標的結合部位に用いる物質が有するアミノ基等を該カルボキシ基と反応させて粒子に固定化する。これにより、標的結合部位を、N-イソプロピルアクリルアミド中のアミド構造、すなわち溶媒和している部分の近傍に存在させることができる。
【0041】
特には、標的結合部位に用いられる物質は、刺激応答性ポリマーが有する2つの端部のうち、光増感粒子または蛍光色素粒子を主に構成する高分子化合物と結合していない側の端部もしくはその端部に近い部分に結合していることがさらに好ましい。この場合、刺激応答性ポリマーの先端部にある標的結合部位は、溶液中で活発にブラウン運動しており、標的物質との結合反応活性が高い状態にある。そのため、溶媒中に分散している標的物質と、標的結合部位とが迅速に結合することが可能となる。従来のラテックス凝集法では、ラテックス粒子の表面直上に標的結合部位を有する場合が多く、それらに比べると、本発明における、光増感粒子または蛍光色素粒子が刺激応答性ポリマーを介して標的結合部位を有する態様の優位性は明らかである。
【0042】
また、この場合、刺激応答性ポリマーが親溶媒性もしくは親水性を有するため、標的物質と標的結合部位とが結合する際に、検体中に存在し得る、標的物質と標的結合部位との結合を阻害する夾雑物の粒子への吸着もしくは結合を抑制できるという利点もある。
【0043】
以上述べてきた標的物質は種々様々なものが想定され、本発明では何ら制限されるものではないが、多くの場合、水あるいは水性溶媒中に存在するものが多い。現実には河川や海などにおける環境測定や医療における診断等が当てはまる。このような場合、凝集阻害剤は親水性部位を有し、水あるいは水性溶媒に対して高い溶解性や高い分散性を有することが好ましい。凝集阻害剤が有する親水性部位は、好ましくは、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンイミン、およびこれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくともいずれか1つから水素原子を1つ除いた構造を有する。
【0044】
本発明に係る検査キットは、これまで説明してきた検査薬の製造に用いられる検査キットであって、前記光増感粒子、前記蛍光色素粒子および前記凝集抑制剤を有し、前記光増感粒子、前記蛍光色素粒子および前記凝集抑制剤のうち少なくともいずれか1つが分離して収納されていることを特徴とする。
【0045】
本発明に係る検査キットにおいて、前記光増感粒子、前記蛍光色素粒子および前記凝集抑制剤はすべて互いに分離して収納されていることが好ましい。これにより光増感粒子、蛍光色素粒子および凝集抑制剤が、検査キットを検体の検査に供する前に互いに相互作用して検査に影響を及ぼす可能性を無くすことができる。
【0046】
次に本発明に係る検査方法について説明する。本発明に係る検査方法は、検体中の標的物質を検出する検査方法であって、前記検体と、光照射時に一重項酸素を生成する光増感剤を含有する光増感粒子と、前記一重項酸素による酸化反応によって発光特性が変化する蛍光色素を含有する蛍光色素粒子と、該光増感粒子および該蛍光色素粒子の凝集を抑制する凝集抑制剤と、を混合して検査用混合物を得る工程であって、前記光増感粒子および前記蛍光色素粒子の少なくともいずれか一方は前記標的物質と結合する性質を有し、前記光増感粒子の表面および前記蛍光色素粒子の表面が、刺激応答性ポリマーを有する、工程と、前記検査用混合物の環境条件を変化させて前記刺激応答性ポリマーの性質を変化させる工程と、前記検査用混合物に第一の励起光を照射する工程と、前記検査用混合物に第二の励起光を照射し、前記検査用混合物から射出する光を検出する工程と、を含むことを特徴とする。前記刺激応答性ポリマーは、温度応答性ポリマーであることが好ましい。
【0047】
本発明に係る検査方法においては、まず検体と、光増感粒子と、蛍光色素粒子と、凝集抑制剤と、を混合して検査用混合物を得る。得られた検査用混合物に対し、刺激を加えることで検査用混合物の環境条件を変化させ、刺激応答性ポリマーの性質の変化に起因する凝集を誘発する。続いて、検査用混合物に対して第一の励起光を照射することで、光増感粒子が含有する光増感剤から、一重項酸素を発生させる。これにより、光増感粒子と蛍光色素粒子とが凝集により互いに近接している場合には、一重項酸素による酸化反応によって蛍光色素粒子が含有する蛍光色素の蛍光特性が変化する。その後さらに検査用混合物に対して第二の励起光を照射することで、蛍光色素からの蛍光を誘起する。
【0048】
光増感粒子および蛍光色素粒子の少なくともいずれか一方は標的物質と結合する性質を有する。すなわち、光増感粒子および蛍光色素粒子の少なくともいずれか一方は標的結合部位を有する。検出結合部位は、光増感粒子および蛍光色素粒子のいずれの粒子が有していてもよく、また両方の粒子とも有していてもよいが、例えば、蛍光色素による蛍光量を定量手段とするため、蛍光色素粒子のみが標的結合部位を有していても良い。
【0049】
本発明においては、標的物質の種類によって光増感粒子、蛍光色素粒子および凝集促進剤の量を任意に設定して最適な検査条件を設定することができる。例えば、極微量の物質を標的物質とする場合は、光増感粒子の量を蛍光色素粒子よりも多くし、光増感粒子が標的結合部位を有するようにして用いてもよい。また、存在量が多い物質を標的物質とする場合には、蛍光色素粒子の量を光増感粒子よりも少なくし、蛍光色素粒子が標的結合部位を有するようにして用いてもよい。この場合、光増感粒子の量を大きく変えることなく検査することができる。
【0050】
検体と、光増感粒子、蛍光色素粒子あるいは凝集促進剤とを混合する順序に特に制限はなく、標的物質や標的結合部位に用いる物質等の種類に応じて任意に定めることができる。
【0051】
標的物質が光増感粒子および蛍光色素粒子の分散性を低下させる場合は、凝集抑制剤が標的結合部位を有することが好ましい。これにより標的物質が結合した光増感粒子または蛍光色素粒子が凝集することを抑制することができる。
【0052】
昨今様々な分野において、pM単位の濃度における物質の定量が求められているが、従来の方法では実現することが難しいという問題があった。本発明に係る検査方法によれば、pM単位の濃度の標的物質に対し、数pMから100pM程度の光増感粒子および蛍光色素粒子を用いることで、定量を実現することができる。このとき、光増感剤および蛍光色素は、それぞれ光増感粒子および蛍光色素粒子中に、0.01質量%から80質量%程度の範囲で含有させることができる。
【0053】
仮に蛍光色素粒子が10質量%の色素を含有し、色素の分子量を典型的に300、蛍光色素粒子の粒径を300nm、蛍光色素粒子の比重を1、試料中の蛍光色素粒子の濃度を10pMと仮定する。このとき、色素の試料中の濃度は28μMとなり、通常比較的安価に入手可能な励起光デバイスを用いることで容易に蛍光を検出できる濃度であることがわかる。つまり、本発明では、検査において標的物質と同等の濃度の粒子を用いるが、検出においては粒子中に潤沢に存在する色素を利用し、さらに検出が容易な蛍光を利用することが本発明の一つの特徴である。これにより微量の標的物質を高感度に検出することが可能となっている。例えば、上述の検査薬や検査キット、そして検査方法を、血液、尿などの成分を分析する自動分析装置において用いることができる。さらに本発明は、従来の磁性粒子を利用した方法における磁場の制御を必要とせず、また、検体中に存在し得る夾雑物の非特異吸着による検出信号の乱れを抑制できるという利点も有する。
【実施例】
【0054】
[刺激応答性ポリマーをグラフト結合させた粒子の合成]
ラテックスゴム粒子(商品名:LX111A2、日本ゼオン株式会社製、粒径300nm)18.5質量部(粒子成分10質量部)を水82質量部に分散してラテックス粒子分散液を得た。
次に、以下の材料を用意した。
・エチレンジアミン四酢酸(EDTA):0.0019質量部
・FeSO4:0.0005質量部
・HOCH2SOONa:0.096質量部
・N-イソプロピルアクリルアミド:7質量部
・コハク酸モノ-2-メタクリロイルエチルエステル:0.07質量部
・クメンヒドロペルオキシド:0.024質量部
これらを酢酸エチルとイソプロパノールとの混合溶液に溶解した。なお、HOCH2SOONaは窒素気流下で混合溶液に添加した。得られた溶液を、上記で調製したラテックス粒子分散液中に2時間かけて滴下した。さらに反応を2時間継続した後、過剰のアセトン中に反応液を入れ、遠心分離を行い、再度アセトン中に分散した後、再び遠心分離を行って、グラフト結合処理後の粒子を得た。得られた粒子を赤外吸収スペクトルにより分析したところ、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)がラテックスゴム粒子に対して12.4質量%グラフトしていることを確認した。
【0055】
[光増感粒子の調製]
テトラターシャルブチル亜鉛フタロシアニン0.4質量部を、酢酸エチルとアセトンとの混合溶液に溶解して光増感剤溶液を得た。続いて、上記で得たグラフト結合処理後の粒子8質量部を水中に分散して得た分散液に、光増感剤溶液を添加して撹拌した。窒素気流下に1時間置き、溶媒を留去して光増感剤を含有する光増感粒子を調製した。
【0056】
[蛍光色素粒子の調製]
光増感粒子の調製において、テトラターシャルブチル亜鉛フタロシアニンの代わりにジフェニルイソベンゾフランを用いた。それ以外は光増感粒子の調製と同様にして蛍光色素を含有する蛍光色素粒子を調製した。
【0057】
[凝集抑制剤の評価]
凝集抑制剤の評価においては、アビジンを有する磁気粒子を「標的物質」、ビオチン化ポリエチレングリコールを「標的物質を捕捉する物質」として評価を行った。
標的結合部位としてアビジンを有する磁気粒子(商品名:サーママックス(登録商標)LAアビジン、和光純薬製) を水中に懸濁して1mg/mLの濃度に調整した。得られた懸濁液について、波長570nmにおける吸光度を測定したところ、0.3であった。
続いて、ポリエチレングリコール(分子量:4万)を公知の方法でビオチン化し、凝集抑制剤としてのビオチン化ポリエチレングリコールを調製した。上記で調製した磁気粒子の懸濁液に、ビオチン化ポリエチレングリコールを2.5ng/mgの濃度となるように添加した。ビオチン化ポリエチレングリコール添加後の磁気粒子懸濁液について、波長570nmにおける吸光度を測定したところ、0.15であった。吸光度の上昇は粒子の凝集を示す指標となることから、凝集抑制剤としてビオチン化ポリエチレングリコールを添加することで、磁気粒子の凝集が抑制されたことが確認できた。すなわち、凝集抑制剤であるビオチン化ポリエチレングリコールが標的物質であるアビジンを有する磁気粒子に結合することで、凝集を抑制できた。
【0058】
<実施例1>
上記で調製した光増感粒子および上記で調製した蛍光色素粒子をそれぞれ粒子数濃度で10pMの濃度となるように水中に懸濁した。この懸濁液に、凝集促進剤としてポリアリルアミンを0.01質量%の濃度となるように添加し、25℃で混合した。この状態でそれぞれの粒子は安定に分散している。
【0059】
得られた分散液を石英製キュベットに移し、キュベット中の分散液に対してまず増感剤を励起するための第一の励起光として波長685nmの半導体レーザー(出力7.5mW)を照射した。続いて、キュベット中の分散液に対して蛍光色素を励起するための第二の励起光として波長405nmの半導体レーザー(出力1.0mW)を照射した。その後、分散液から発せられた蛍光をフォトマルチプライヤーで検出したところ、1秒後10(任意単位)の出力を得た。なお、出力の値が大きいほど、蛍光が強いことを示す。
【0060】
続いて、キュベット中の分散液を43℃にまで昇温した後、上記と同様にして第一の励起光および第二の励起光を照射した。その後、分散液から発せられた蛍光をフォトマルチプライヤーで検出したところ 1.5(任意単位)の出力を得た。
【0061】
以上により、それぞれ10pMの光増感粒子と蛍光色素粒子とが温度を刺激として凝集したことを蛍光検出により明確に確認できた。
【0062】
<実施例2>
上記の蛍光色素粒子を主に構成する高分子化合物が有するカルボン酸にビオチン化処理をすることで、標的結合部位としてビオチン由来の構造を有する蛍光色素粒子を得た。得られたビオチン化処理した蛍光色素粒子を「標的物質を捕捉する物質」、ストレプトアビジンを「標的物質」として評価を行った。
【0063】
得られた蛍光色素粒子、ビオチン化ポリエチレングリコール(分子量:4万)および上記の光増感粒子をそれぞれ10pM、20pM、10pMの濃度となるように水中に懸濁あるいは溶解させた溶液を調製した。さらに、得られた溶液に凝集促進剤としてポリアリルアミンを0.01質量%の濃度となるように添加し、25℃で混合した。
【0064】
この状態の溶液について、実施例1と同様にして第一の励起光および第二の励起光を照射した後、溶液から発せられた蛍光をフォトマルチプライヤーで検出したところ、1秒後10(任意単位)の出力を得た。
【0065】
続いて、溶液を43℃にまで昇温し、実施例1と同様にして第一の励起光および第二の励起光を照射し、 溶液から発せられた蛍光をフォトマルチプライヤーで検出したところ1秒後に1(任意単位)の出力を得た。
【0066】
新たに、上記と同様にしてビオチン由来の構造を有する蛍光色素粒子、ビオチン化ポリエチレングリコール(分子量:4万)、光増感粒子をそれぞれ10pM、20pM、10pMの濃度で水中に懸濁あるいは溶解させた溶液を調製した。さらに、得られた溶液に凝集促進剤としてポリアリルアミンを0.01質量%の濃度となるように添加し、25℃で混合した。
【0067】
その後、得られた溶液にさらに標的物質としてストレプトアビジンを5pMの濃度となるように混合した後、溶液を43℃にまで昇温した。続いて、実施例1と同様にして第一の励起光および第二の励起光を照射し、溶液から発せられた蛍光をフォトマルチプライヤーで検出したところ1秒後に7(任意単位)の出力を得た。
【0068】
以上より、試料が標的物質であるストレプトアビジンを含まない場合と、5pMの濃度で含む場合とで、得られる蛍光出力に明確な差があることが確認でき、5pMの標的物質(ストレプトアビジン)を蛍光により検出できた。これは、凝集抑制剤や蛍光色素粒子に含まれるビオチンに由来する構造が、標的物質であるストレプトアビジンに結合することで、蛍光色素粒子や光増感粒子の凝集が抑制できていることを示している。