(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】果汁の凍結時物性変質抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23L 29/00 20160101AFI20240513BHJP
A23L 3/37 20060101ALI20240513BHJP
A23L 2/42 20060101ALI20240513BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
A23L29/00
A23L3/37 A
A23L2/00 N
A23L2/02 A
(21)【出願番号】P 2020034693
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】和久田 道代
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-069603(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026339(WO,A1)
【文献】特開2019-050735(JP,A)
【文献】特開昭62-294067(JP,A)
【文献】特開2019-195310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/00
A23L 3/37
A23L 2/02
A23L 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖度が5~80°Bxの果汁又は濃度調整果汁に添加するための凍結時物性変質抑制剤であって、
前記凍結時物性変質抑制剤は、氷再結晶化阻害活性(RI)値が
0.60~0.95の範囲にあり、水溶性溶媒抽出物であるエノキタケ抽出物を乾燥重量で
0.1~1.0重量%含む、凍結時物性変質抑制剤。
【請求項2】
前記水溶性溶媒が水である、請求項1に記載の凍結時物性変質抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の凍結時物性変質抑制剤、及び、糖度が5~80°Bxの果汁又は濃度調整果汁を含み、
前記凍結時物性変質抑制剤の含有量が、果汁入り組成物全体中、0.01~2.5重量%である、果汁入り組成物。
【請求項4】
凍結されている、請求項3に記載の果汁入り組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の果汁入り組成物が解凍された果汁入り組成物を1~100重量%含む飲料又は食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果汁又は濃度調整果汁に対して添加するための凍結時物性変質抑制剤、及び、該物性変質抑制剤を含有する果汁入り組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
果物や野菜等を圧搾や粉砕して得られるストレートの果汁や、それらを濃縮や希釈することで得られる濃度調整果汁は、日持延長のために凍結保管した状態で流通することが多い。しかし、これら果汁又は濃度調整果汁を凍結すると、凍結保管中に水分昇華に伴う風味成分の飛散や、含有成分が酸化されることによる風味成分の変質や異味の発生、凍結濃縮相で進行する褐変反応による異味の発生などが起こることが知られている。それらの結果、凍結保管期間が長くなればなるほど風味が変質してしまい、とりわけトップのフレッシュな風味が損なわれやすい。
【0003】
特許文献1には、混濁果汁にアスコルビン酸系酸化防止剤を配合することで、香味および外観の経時安定性にも優れた混濁果汁飲料を提供することが開示されている。しかし、アスコルビン酸は酸味を呈するため、添加すると風味が変化し不自然になってしまう。加えて、アスコルビン酸は酸化されやすい性質があり、その結果生じる酸化生成物は凍結果汁の凍結濃縮相で起こる褐変反応を促進して異味を発生させてしまうため、凍結保管期間が長くなるにつれて異味が強くなり、フレッシュな風味が損なわれ風味が変質してしまう。また、該酸化生成物は褐色であるため、色調の薄い果汁にアスコルビン酸系酸化防止剤を添加すると、凍結保管期間が長くなるにつれて該酸化生成物と前記褐変反応との影響で果汁の色調にも変化が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、果汁本来の風味や色調を損なうこと無く、果汁又は濃度調整果汁を凍結することにより生じる物性の変質を抑制する凍結時物性変質抑制剤、及び、該物性変質抑制剤を含有する果汁入り組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の氷再結晶化阻害活性(RI)値を示し、かつ水溶性溶媒抽出物であるエノキタケ抽出物を乾燥重量で特定量含む添加物を、特定糖度の果汁又は濃度調整果汁に特定量添加すると、果汁本来の風味や色調を損なうこと無く、果汁を凍結することにより生じる物性の変質を抑制出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の第一は、糖度が5~80°Bxの果汁又は濃度調整果汁に添加するための凍結時物性変質抑制剤であって、前記凍結時物性変質抑制剤は、氷再結晶化阻害活性(RI)値が0.45~0.97の範囲にあり、水溶性溶媒抽出物であるエノキタケ抽出物を乾燥重量で0.005~1.5重量%含む、凍結時物性変質抑制剤に関する。
好ましくは、前記水溶性溶媒が水である。
本発明の第二は、前記凍結時物性変質抑制剤、及び、糖度が5~80°Bxの果汁又は濃度調整果汁を含み、前記凍結時物性変質抑制剤の含有量が、果汁入り組成物全体中、0.01~2.5重量%である、果汁入り組成物に関する。
好ましくは、前記果汁入り組成物が凍結されている。
本発明の第三は、前記果汁入り組成物が解凍された果汁入り組成物を1~100重量%含む飲料又は食品に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、果汁本来の風味や色調を損なうこと無く、果汁又は濃度調整果汁を凍結することにより生じる物性の変質を抑制する凍結時物性変質抑制剤、及び、該物性変質抑制剤を含有する果汁入り組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】エノキタケ抽出物の抽出時における抽出溶媒の温度及び抽出時間の好適な範囲を示すグラフ(縦軸は抽出時間(分)を示し、横軸は大気圧下での抽出溶媒の沸点(℃)を0に設定した時の抽出溶媒の温度(℃)を示す)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の凍結時物性変質抑制剤は、特定範囲の氷再結晶化阻害活性(RI)値を示し、水溶性溶媒抽出物であるエノキタケ抽出物を乾燥重量で特定量含む。本発明の凍結時物性変質抑制剤は、果汁又は濃度調整果汁を凍結する前に果汁又は濃度調整果汁に添加するために用いられる。
【0011】
前記エノキタケ抽出物は、エノキタケを水溶性溶媒で抽出することにより得られるものである。特に限定されないが、例えば、エノキタケの子実体を熱水及び/又はアルコール等の水溶性の抽出溶媒で抽出した抽出物、酵素やアルカリ性の溶媒でエノキタケの子実体を分解してから熱水及び/又はアルコール等の水溶性抽出溶媒で抽出した抽出物、更にはこれら抽出物を濃縮した濃縮液、前記抽出物または前記濃縮液を乾燥して得られた粉末等が挙げられる。前記水溶性溶媒としては、消費者の安心安全志向から、水、及び/又は、天然由来エタノールを用いることが好ましく、コスト面や果汁物性の変質への影響を考えると、水がより好ましい。
【0012】
前記エノキタケ抽出物の抽出時における抽出溶媒の温度及び抽出時間は、抽出溶媒の種類によって好適な温度幅及び時間幅が変動し得るが、
図1の実線で囲まれた範囲内で設定することが好ましく、
図1の点線で囲まれた範囲内で設定することがより好ましい。
図1の実線で囲まれた範囲とは、A(抽出溶媒の沸点-50℃、360分)、B(抽出溶媒の沸点+30℃、360分)、C(抽出溶媒の沸点-50℃、135分)、D(抽出溶媒の沸点+30℃、15分)の四点を結んだ範囲である。また、
図1の点線で囲まれた範囲とは、A’(抽出溶媒の沸点-20℃、240分)、B’(抽出溶媒の沸点+20℃、120分)、C’(抽出溶媒の沸点-20℃、90分)、D’(抽出溶媒の沸点+20℃、30分)の四点を結んだ範囲である。なお、前記抽出溶媒の沸点は、大気圧下での沸点である。
【0013】
抽出時の抽出溶媒の温度が、該抽出溶媒の沸点(℃)-50℃より低いと、抽出効率が悪くなったり、凍結時物性変質抑制効果が十分に得られない場合があり、前記抽出溶媒の沸点(℃)+30℃より高くなると、特殊な加圧設備が必要となるため、抽出方法が複雑になる場合がある。また、抽出時間が実線で囲まれた範囲より短いと、抽出が不十分になり、凍結時物性変質抑制効果が十分に得られない場合があり、実線で囲まれた範囲より長くしても、凍結時物性変質抑制効果が頭打ちになる場合がある。
【0014】
エノキタケ抽出物の製造例を以下に例示する。市販のエノキタケを、温度が(水溶性溶媒の大気圧下での沸点(℃)-50℃)~(水溶性溶媒の大気圧下での沸点(℃)+30℃)の範囲にある水溶性溶媒に浸漬し、
図1に示した実線で囲まれた範囲に入る様に抽出時間を適宜設定して成分を溶出させた後、固形分を濾別して、エノキタケ抽出液を得ることができる。また、得られたエノキタケ抽出液を適宜、濃縮又は希釈してもよい。
【0015】
前記エノキタケは、タマバリタケ科のキノコの一種であるFlammulina velutipes種のことをいう。特に限定されないが、人工的に栽培した白色かつもやし状の市販エノキタケ、野生種と栽培種の白色エノキタケをかけあわせたブラウン系エノキタケ、野生種等を使用することができる。かかる市販エノキタケは、一般に食用とされており、容易に入手可能である。
【0016】
前記凍結時物性変質抑制剤の氷再結晶化阻害活性(RI)値は、0.45~0.97が好ましく、0.55~0.94がより好ましく、0.65~0.91が更に好ましい。該RI値は、抽出溶媒の種類、抽出溶媒の温度及び抽出時間等の抽出条件を調整したり、また、エノキタケを抽出して得られたエノキタケ抽出物を濃縮したり、該抽出物に水やその他成分を混合して希釈することにより適宜調整することができる。RI値が0.45より小さいと抽出方法が複雑になったり果汁本来の物性を損なう場合があり、0.97より大きいと凍結時物性変質抑制効果を発揮できない場合がある。
【0017】
前記RI値は、以下の方法で算出することができる。即ち、凍結時物性変質抑制剤にショ糖を添加して調製した30%ショ糖溶液を-40℃に冷却後、-6℃まで100℃/分で昇温して30分保存した際に形成される氷結晶の平均面積(A)、および、凍結時物性変質抑制剤を含まない30w/v%ショ糖溶液を-40℃に冷却後、-6℃まで100℃/分で昇温して30分保存した際に形成される氷結晶の平均面積(B)をそれぞれ、冷却調節機能が付いたステージを有する顕微鏡により測定し、前記平均面積(A)を前記平均面積(B)で除して得られた値がRI値である。前記平均面積は、画像解析処理ソフト(株式会社ニレコ製、ルーゼックスAP)を用いて得られた顕微鏡画像を解析することで測定することができる。具体的には、顕微鏡画像を輝度により二値化処理して得られた氷結晶粒子の画像から、総面積及び個数を自動で測定し、総面積を個数で除して平均面積値を得ることができる。
【0018】
なお、前記算出方法で得られたRI値が0.90以上になる場合は、該測定値がばらつきやすく精度が劣るため、例えば、凍結時物性変質抑制剤をX倍(2倍、5倍、10倍など)に濃縮した試料を準備し、最低3種の濃縮試料のRI値を前記方法に従い測定し、検量線の近似式を得る。続いて、該近似式のXに1を代入することで、ばらつきの少ないRI値を算出することができる。
【0019】
前記凍結時物性変質抑制剤は、前記エノキタケ抽出物を乾燥重量で、凍結時物性変質抑制剤全体中に0.005~1.5重量%含むことが好ましく、0.05~1重量%がより好ましく、0.15~0.5重量%が更に好ましい。0.005重量%よりも少ないと凍結時物性変質抑制効果を発揮できない場合があり、1.5重量%を超えると果汁本来の物性を損なう場合がある。
【0020】
本発明の果汁の凍結時物性変質抑制剤の形状は特に限定されず、水溶液やアルコール溶液等の液体の形状であってもよいし、粉末状、顆粒状、ブロック状等の固形の形状であってもよい。
【0021】
前記凍結時物性変質抑制剤に含まれ得る前記エノキタケ抽出物以外の成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲においては特に限定されず、例えば、水、エタノール、酒類、動植物由来の抽出物(エノキタケ抽出物を除く)、糖類、油脂類、塩類、調味料、香辛料、香料、着色料、酸化防止剤等、食品に用いることができる食品素材や食品添加物を適宜含有していてもよい。
【0022】
本発明の凍結時物性変質抑制剤を、好適には糖度(Brix値)が5~80°Bxの果汁又は濃度調整果汁に対して添加することで、果汁入り組成物を得ることができる。該果汁入り組成物を、凍結・解凍した後に見られる、果汁本来の風味や色調の変質を抑制することができる。
前記果汁又は濃度調整果汁の糖度は、5~80°Bxが好ましく、20~70°Bxがより好ましく、30~60°Bxがさらに好ましい。5°Bxより低いと凍結時物性変質抑制効果を発揮できない場合があり、80°Bxを超えると果汁本来の物性を損なう場合がある。また、濃度調整果汁である場合には、該濃度調整果汁の濃縮度は0.5~8が好ましく、1~8がより好ましく、3~8が更に好ましい。なお、ここで果汁又は濃度調整果汁とは、絞ったそのままのもの(ストレート果汁)、該ストレート果汁を濃縮したもの(濃縮果汁)、該濃縮果汁に水又は水溶性溶媒を加えて濃縮還元したもの、前記ストレート果汁又は前記濃縮果汁を希釈したものを含み得る。
【0023】
前記果汁又は濃度調整果汁の糖度は、前記ストレート果汁を蒸発法や減圧濃縮法、凍結濃縮法、膜濃縮法などで濃縮したり、水又は水溶性溶媒を加えて希釈したり、複数種の果汁をブレンドしたり、糖類等を添加することで調整することができる。本発明における糖度は試料を糖用屈折計で測定したときの示度であり、果汁又は濃度調整果汁中の可溶性固形分の含有量を表す数値である。単位は「°Bx」で示される。
【0024】
前記濃度調整果汁とは、前記ストレート果汁と異なる糖度に調整された果汁のことをいい、前記一種または複数種のストレート果汁をブレンドした後、蒸発法や減圧濃縮法、凍結濃縮法、膜濃縮法などで濃縮したり、一種または複数種のストレート果汁や濃縮果汁をブレンドした後、水及び/又は水溶性溶媒を加えて希釈することで得ることができる。前記濃縮度は、ストレート果汁の糖度と濃度調整果汁の糖度の比で表すことができる。
【0025】
前記濃縮果汁とは、果実のすり潰し液、搾汁液や、果実を破砕して搾汁又は裏ごし等をし、皮や種子等を除去した液、それらの液を加熱濃縮、真空濃縮、凍結濃縮などの方法で濃縮した液などをいう。
【0026】
前記果汁又は濃度調整果汁の原料としては特に限定はされないが、例えば、レモン果汁、グレープフルーツ果汁、オレンジ果汁、ウンシュウミカン果汁等の柑橘系果汁;リンゴ果汁、モモ果汁、イチゴ果汁等のバラ科果実の果汁;ブドウ果汁等のブドウ科果実の果汁;パインアップル果汁等のパインアップル科果実の果汁;アセロラ果汁等のキントラノオ科果実の果汁;グァバ果汁等のフトモモ科果実の果汁;キウイフルーツ果汁等のマタタビ科果実の果汁;ブルーベリー果汁等のツツジ科果実の果汁;メロン果汁等のウリ科果実の果汁等のフルーツ果汁;トマト果汁等のナス科野菜の果汁;ニンジン果汁等のセリ科野菜の果汁等の野菜系果汁などが挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を混合した混合果汁を使用しても良い。果汁の原料としては、柑橘系果汁、リンゴ果汁、モモ果汁、イチゴ果汁、ブドウ果汁、パインアップル果汁、アセロラ果汁、グァバ果汁、キウイフルーツ果汁、トマト果汁がより好ましく、柑橘系果汁、イチゴ果汁、パインアップル果汁、アセロラ果汁、グァバ果汁、キウイフルーツ果汁が更に好ましい。
【0027】
前記凍結時物性変質抑制剤の含有量は、果汁入り組成物全体中、0.01~2.5重量%であることが好ましく、0.02~2.0重量%であることがより好ましく、0.05~0.5重量%であることがさらに好ましい。0.01重量%より少ないと、凍結時物性変質抑制効果を発揮できない場合があり、2.5重量%より多いと、果汁本来の物性を損なう場合がある。
【0028】
本発明の果汁入り組成物には、前記糖度が5~80°Bxの果汁又は濃度調整果汁及び前記凍結時物性変質抑制剤のほかに、本発明の効果を阻害しない限り、例えば、動植物由来の抽出物(エノキタケ抽出物を除く)、糖類、乳製品、油脂類、塩類、酸味料、調味料、香辛料、香料、着色料、乳化剤、酸化防止剤、増粘剤などを適宜配合しても良い。
【0029】
本発明の凍結時物性変質抑制剤を含む果汁入り組成物は、凍結後に解凍してから飲食しても、凍結保管することにより生じ得る果汁の物性の変質、即ち、果汁の風味及び色調の変化が抑制されている。
【0030】
前記凍結の方法は特に限定されないが、例えば、エアブラスト冷凍機による凍結、ブライン冷凍機による凍結、液化ガス冷凍機凍結、コンタクト冷凍機による凍結等が挙げられる。
【0031】
凍結した前記果汁入り組成物の保存条件は、果汁入り組成物が凍結されており、かつ密封された状態で保存されていればよい。凍結保存の期間は特に限定されないが、2年以内であることが好ましく、1年以内であることがより好ましく、1か月以内であることがさらに好ましい。また、凍結保存時の温度も特に限定されないが、-15℃以下であることが好ましく、-20℃以下であることがより好ましい。
【0032】
前記果汁入り組成物は、凍結・解凍した後に、そのまま飲用しても良いし、前記果汁入り組成物を他の飲料や食品に加えて、果汁入り組成物を含む食品又は飲料として飲食しても良い。果汁入り組成物を含む食品又は飲料としては、特に制限は無いが、飲料、生菓子、焼き菓子、パン、チョコレート、キャンディー、グミ、ガム、冷菓、ジャム、ドライフルーツ、ソース、ヨーグルト、その他調味料等が挙げられる。このうち、飲料、生菓子、焼き菓子、パン、キャンディー、グミ、冷菓、ジャム、ヨーグルト、ソースが好ましく、飲料、生菓子、グミ、冷菓、ジャム、ヨーグルト、ソースがより好ましい。
【0033】
本発明の食品又は飲料は、本発明の果汁入り組成物を1~100重量%含むことが好ましく、10~100重量%がより好ましく、30~100重量%が更に好ましい。1重量%より少ないと果汁の風味及び色調が前記食品又は飲料にほとんど影響しないため、凍結物性変質抑制効果が前記飲料又は食品に及ばない場合がある。
【0034】
前記食品又は飲料は、前記果汁入り組成物の他、食品に用いることができる食品素材や食品添加物を含有してもよい。該食品素材や食品添加物としては特に限定されないが、例えば、穀類、でん粉類、糖類、豆類、種実類、野菜類、果実類、きのこ類、藻類、魚介類、肉類、卵類、乳類、油脂類、香辛料類、調理加工食品類等の食品素材や、甘味料、着色料、保存料、増粘剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、酵素、香料、酸味料、調味料、乳化剤、pH調整剤、膨張剤、栄養強化剤等の食品添加物が挙げられる。これらは1種類のみ使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0036】
<凍結時物性変質抑制剤の氷再結晶化阻害活性(RI)値の測定方法>
各製造例で得られた凍結時物性変質抑制剤の氷再結晶化阻害活性(RI)値は、以下の方法により算出した。冷却調節機能が付いたステージを有する顕微鏡(リンカム社製「顕微鏡用冷却加熱ステージ」、キーエンス社製「デジタルマイクロスコープVHX」)下で、凍結時物性変質抑制剤にショ糖を添加して調製した30%ショ糖溶液を-40℃に冷却した後に-6℃まで100℃/分で昇温して氷結晶を溶かし、-6℃を保った状態で30分経過後に観察した時に認められる氷結晶の平均面積(A)を測定した。また、凍結時物性変質抑制剤を含まない30%ショ糖溶液について、同様に氷結晶の平均面積(B)を測定した。これら平均面積の値を用いて、次の計算式1によりRI値を算出した。
式1:氷再結晶化阻害活性(RI)値=(凍結時物性変質抑制剤含有時の氷結晶の平均面積(A)/凍結時物性変質抑制剤を含有しない時の氷結晶の平均面積(B))
【0037】
尚、前記計算式1により得られたRI値が0.90以上になる場合には、該凍結時物性変質抑制剤を適宜X倍(2倍、5倍、10倍など)に濃縮した試料を準備し、最低3種の濃縮試料のRI値を前記方法に従い測定し、検量線の近似式を得、該近似式のXに1を代入することでRI値を算出した。
【0038】
<果汁風味の変質度合いの評価>
各実施例および比較例において得た果汁入り組成物の風味は、訓練された10名(男性5人、女性5人)のパネラーが該果汁入り組成物を飲用して、以下の基準に基づき評価した。10人の各評価点の平均値を評価値として各表に記載した。なお、該基準における「果汁原料」とは、各実施例および比較例で使用した果汁又は濃度調整果汁を指す。ただし、該果汁又は濃度調整果汁の糖度が10°Bx以上の場合は、ストレート果汁相当である糖度10°Bxまで水で希釈したものを前記「果汁原料」とする。
5点:各実施例および比較例において用いた果汁原料本来の風味であり、風味の変質は感じられない。
4点:各実施例および比較例において用いた果汁原料本来の風味から変質は殆ど感じられない。
3点:各実施例および比較例において用いた果汁原料本来の風味から変質がやや感じられ、わずかに風味は異なる。
2点:各実施例および比較例において用いた果汁原料本来の風味から変質が感じられ、風味が異なり、好ましくない。
1点:各実施例および比較例において用いた果汁原料本来の風味から変質が顕著に感じられ、明らかに風味が異なり、好ましくない。
【0039】
<色調変化の評価>
各実施例および比較例において得た果汁入り組成物の色調は、訓練された10名(男性5人、女性5人)のパネラーが目視により、以下の基準に基づき評価した。10人の各評価点の平均値を評価値として各表に記載した。なお、該基準における「果汁原料」とは上記と同様である。
5点:各実施例および比較例において用いた果汁原料本来の色調であり、全く変化が無い。
4点:各実施例および比較例において用いた果汁原料本来の色調からわずかな変化がある。
3点:各実施例および比較例において用いた果汁原料本来の色調からやや変化がある。
2点:各実施例および比較例において用いた果汁原料本来の色調から変化があり、好ましくない。
1点:各実施例および比較例において用いた果汁原料本来の色調から顕著な変化があり、好ましくない。
【0040】
<総合評価>
果汁風味の変質度合い、及び、色調変化の各評価結果を基に、総合評価を行った。その際の評価基準は以下の通りである。
A:果汁風味の変質度合い、及び、色調変化の評価が全て4.0点以上5.0点以下を満たしているもの。
B:果汁風味の変質度合い、及び、色調変化の評価が全て3.5点以上5.0点以下であって、且つ3.5以上4.0未満が少なくとも一つあるもの。
C:果汁風味の変質度合い、及び、色調変化の評価が全て3.0点以上5.0点以下であって、且つ3.0以上3.5未満が少なくとも一つあるもの。
D:果汁風味の変質度合い、及び、色調変化の評価が全て2.0点以上5.0点以下であって、且つ2.0以上3.0未満が少なくとも一つあるもの。
E:果汁風味の変質度合い、及び、色調変化の評価において、2.0未満が少なくとも一つあるもの。
【0041】
<実施例および比較例で使用した原料>
1)扶桑化学工業(株)製「ビタミンC」
2)日本果実加工(株)製「400GPLレモン混濁果汁冷凍」(47°Bx)
3)(株)ビオカ製「有機レモンストレート果汁100%」(10°Bx)
4)(株)カネカ製「精製ナタネ油」
5)日本果実加工(株)製「58°BXグレープフルーツ果汁冷凍」
6)日本果実加工(株)製「64°BXオレンジ混濁果汁冷凍」
7)日本果実加工(株)製「55°BXパイン混濁果汁」
8)日本果実加工(株)製「55°BX赤ぶどう透明果汁」
9)日本果実加工(株)製「50°BXりんご透明果汁」
10)カゴメ(株)製「トマトジュースプレミアム」(6°Bx)
【0042】
(製造例1) 凍結時物性変質抑制剤1の作製
市販のエノキタケを、pH10に調整した水酸化カリウム水溶液(大気圧下での沸点:100℃)で100℃、2時間加熱した後、固形分を濾別して、エノキタケ抽出物を含有する凍結時物性変質抑制剤1を得た。得られた抑制剤中のエノキタケ抽出物の乾燥重量は0.2重量%であった。該抑制剤をロータリーエバポレーターで2倍、5倍、又は10倍に濃縮した試料を作製し、上述のように検量線の近似式を用いて算出したところ、該抑制剤のRI値は0.91であった。
【0043】
(製造例2) 凍結時物性変質抑制剤2の作製
製造例1で得られた凍結時物性変質抑制剤1に等量の水を加えて2倍希釈し、エノキタケ抽出物を含有する凍結時物性変質抑制剤2を得た。得られた抑制剤中のエノキタケ抽出物の乾燥重量は0.1重量%であった。該抑制剤をロータリーエバポレーターで5倍、10倍、又は15倍に濃縮した試料を作製し、上述のように検量線の近似式を用いて算出したところ、該抑制剤のRI値は0.95であった。
【0044】
(製造例3) 凍結時物性変質抑制剤3の作製
製造例1で得られた凍結時物性変質抑制剤1をロータリーエバポレーターで2倍濃度になるまで濃縮し、エノキタケ抽出物を含有する凍結時物性変質抑制剤3を得た。得られた抑制剤中のエノキタケ抽出物の乾燥重量は0.4重量%であり、該抑制剤のRI値は0.83であった。
【0045】
(製造例4) 凍結時物性変質抑制剤4の作製
製造例1で得られた凍結時物性変質抑制剤1をロータリーエバポレーターで5倍濃度になるまで濃縮し、エノキタケ抽出物を含有する凍結時物性変質抑制剤4を得た。得られた抑制剤中のエノキタケ抽出物の乾燥重量は1.0重量%であり、該抑制剤のRI値は0.60であった。
【0046】
(製造例5) 凍結時物性変質抑制剤5の作製
市販のエノキタケを水(大気圧下での沸点:100℃)で100℃、2時間加熱した後、固形分を濾別して、エノキタケ抽出物を含有する凍結時物性変質抑制剤5を得た。得られた抑制剤中のエノキタケ抽出物の乾燥重量は0.95重量%であった。該抑制剤をロータリーエバポレーターで5倍、10倍、又は15倍に濃縮した試料を作製し、上述のように検量線の近似式を用いて作成して算出したところ、該抑制剤のRI値は0.93であった。
【0047】
(製造例6) 凍結時物性変質抑制剤6の作製
製造例1で得られた凍結時物性変質抑制剤1をロータリーエバポレーターで8倍濃度になるまで濃縮し、エノキタケ抽出物を含有する凍結時物性変質抑制剤6を得た。得られた抑制剤中のエノキタケ抽出物の乾燥重量は1.6重量%であり、該抑制剤のRI値は0.36であった。
【0048】
(製造例7) 凍結時物性変質抑制剤7の作製
製造例1で得られた凍結時物性変質抑制剤1に9倍量の水を加えて10倍希釈し、エノキタケ抽出物を含有する凍結時物性変質抑制剤7を得た。得られた抑制剤中のエノキタケ抽出物の乾燥重量は0.02重量%であった。該抑制剤をロータリーエバポレーターで5倍、10倍、又は15倍に濃縮した試料を作製し、上述のように検量線の近似式を用いて算出したところ、該抑制剤のRI値は0.98であった。
【0049】
(製造例8) 凍結時物性変質抑制剤8の作製
製造例1で得られた凍結時物性変質抑制剤1に99倍量の水を加えて100倍希釈し、エノキタケ抽出物を含有する凍結時物性変質抑制剤8を得た。得られた抑制剤中のエノキタケ抽出物の乾燥重量は0.002重量%であった。該抑制剤をロータリーエバポレーターで5倍、10倍、又は15倍に濃縮した試料を作製し、上述のように検量線の近似式を用いて算出したところ、該抑制剤のRI値は0.99であった。
【0050】
(製造例9) 凍結時物性変質抑制剤9の作製
市販のエノキタケを60%エタノール水溶液(大気圧下での沸点:81.2℃)で50℃、2時間加熱した後、固形分を濾別して、エノキタケ抽出物を含有する凍結時物性変質抑制剤9を得た。得られた抑制剤中のエノキタケ抽出物の乾燥重量は0.4重量%であり、該抑制剤のRI値は0.89であった。
【0051】
(製造例10) 凍結時物性変質抑制剤10の作製
市販のエノキタケを精製ナタネ油(カネカ製「精製ナタネ油」)で100℃、2時間加熱した後、固形分を濾別して、さらに遠心分離して水分を除去した後、エノキタケ抽出物を含有する凍結時物性変質抑制剤10を得た。得られた抑制剤中のエノキタケ抽出物の乾燥重量は100重量%であり、該抑制剤のRI値は測定することができなかった。
【0052】
以上の製造例1~10について、使用した抽出溶媒、凍結時物性変質抑制剤中のエノキタケ抽出物の含有量(乾燥重量%)、凍結時物性変質抑制剤のRI値をそれぞれ表1に纏めた。
【0053】
【0054】
(実施例1)
表2の配合に従い、製造例1で得られた凍結時物性変質抑制剤1を0.3重量%配合したレモン濃度調整果汁(糖度47°Bx)500gを調製し、果汁入り組成物を得た。該組成物をレトルト袋に封入し、-20℃で1ヶ月間凍結保管し、凍結保管済の果汁入り組成物を得た。得られた凍結保管済の果汁入り組成物を、4℃の冷蔵庫に移して解凍した。該解凍済の果汁入り組成物を水でストレート果汁相当である糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表2に示した。また、解凍後の果汁入り組成物に含まれる沈殿物の重量(解凍後の沈殿重量)を測定し、表2に示した。
【0055】
【0056】
(実施例2)
表2の配合に従い、前記凍結時物性変質抑制剤1の代わりに、製造例2で得られた凍結時物性変質抑制剤2を配合した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表2に示した。また、解凍後の沈殿重量を測定し、表2に示した。
【0057】
(実施例3)
表2の配合に従い、前記凍結時物性変質抑制剤1の代わりに、製造例3で得られた凍結時物性変質抑制剤3を配合した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表2に示した。また、解凍後の沈殿重量を測定し、表2に示した。
【0058】
(実施例4)
表2の配合に従い、前記凍結時物性変質抑制剤1の代わりに、製造例4で得られた凍結時物性変質抑制剤4を配合した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表2に示した。また、解凍後の沈殿重量を測定し、表2に示した。
【0059】
(実施例5)
表2の配合に従い、前記凍結時物性変質抑制剤1の代わりに、製造例5で得られた凍結時物性変質抑制剤5を配合した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表2に示した。また、解凍後の沈殿重量を測定し、表2に示した。
【0060】
(比較例1)
表2の配合に従い、凍結時物性変質抑制剤1を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表2に示した。また、解凍後の沈殿重量を測定し、表2に示した。
【0061】
(比較例2)
表2の配合に従い、前記凍結時物性変質抑制剤1の代わりに、製造例6で得られた凍結時物性変質抑制剤6を配合した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表2に示した。また、解凍後の沈殿重量を測定し、表2に示した。
【0062】
(比較例3)
表2の配合に従い、前記凍結時物性変質抑制剤1の代わりに、製造例7で得られた凍結時物性変質抑制剤7を配合した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表2に示した。また、解凍後の沈殿重量を測定し、表2に示した。
【0063】
(比較例4)
表2の配合に従い、前記凍結時物性変質抑制剤1の代わりに、製造例8で得られた凍結時物性変質抑制剤8を配合した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表2に示した。また、解凍後の沈殿重量を測定し、表2に示した。
【0064】
(比較例5)
表2の配合に従い、凍結時物性変質抑制剤1を配合せず、L-アスコルビン酸ナトリウムを0.2重量%配合した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表2に示した。また、解凍後の沈殿重量を測定し、表2に示した。
【0065】
表2から明らかなように、RI値が0.60~0.95の範囲にあり、水で抽出したエノキタケ抽出物を乾燥重量で0.1~1.0重量%含む凍結時物性変質抑制剤を0.3重量%含むレモン果汁入り組成物(実施例1~5)は、凍結時物性変質抑制剤を添加しなかったレモン果汁入り組成物(比較例1)と比べて、いずれも果汁風味の変質度合い及び色調変化が少なく、レモン果汁本来のフレッシュ感を維持していた。また、凍結時物性変質抑制剤を含まない比較例1と比べて、解凍後の沈殿量がわずかながら減少する傾向がみられた。特にRI値が0.91又は0.83の凍結時物性変質抑制剤を含むレモン果汁入り組成物(実施例1及び3)は、果汁風味の変質がほとんどなく、レモン果汁本来のフレッシュ感を強く感じ、色調もわずかにしか変化がなく、総合すると極めて変化が少なく良好であった。
【0066】
一方、凍結時物性変質抑制剤を含まないレモン果汁入り組成物(比較例1)、並びに、RI値が0.98又は0.99の凍結時物性変質抑制剤を含むレモン果汁入り組成物(比較例3及び4)は、果汁風味の変質が顕著に感じられた。また、RI値が0.36の凍結時物性変質抑制剤を含むレモン果汁入り組成物(比較例2)は、エノキタケ由来の異味を強く感じ、レモン果汁本来のフレッシュな風味を感じ難かった。さらに、凍結時物性変質抑制剤の代わりにL-アスコルビン酸ナトリウムを含むレモン果汁入り組成物(比較例5)は、果汁風味、色調がともに顕著に変化していた。
【0067】
(実施例6~10、比較例6)
表3の配合に従い、47°Bxのレモン濃度調整果汁を、75°Bxのレモン濃度調整果汁(実施例6)、35°Bxのレモン濃度調整果汁(実施例7)、25°Bxのレモン濃度調整果汁(実施例8)、10°Bxのレモン濃度調整果汁(実施例9)、10°Bxのレモンストレート果汁(実施例10)、又は、3°Bxのレモン濃度調整果汁(比較例6)に代えた以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物のうち、実施例6~8では水で糖度10°Bxまで希釈し、実施例9及び10並びに比較例6では希釈せずに、変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表3に示した。
尚、前記75°Bxのレモン濃度調整果汁(実施例6)は、47°Bxのレモン濃度調整果汁を凍結乾燥させた後、75°Bxとなるように加水調整したものである。前記35°Bxのレモン濃度調整果汁(実施例7)、25°Bxのレモン濃度調整果汁(実施例8)、及び10°Bxのレモン濃度調整果汁(実施例9)は、47°Bxのレモン濃度調整果汁にそれぞれ加水し、所定の糖度になるよう調整したものである。3°Bxのレモン濃度調整果汁(比較例6)は、10°Bxのレモンストレート果汁に加水し、3°Bxになるよう調整したものである。
【0068】
【0069】
(比較例7及び8)
表3の配合に従い、凍結時物性変質抑制剤1を配合しなかった以外は、実施例9又は実施例10と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物は希釈せずに、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表3に示した。
【0070】
表3から明らかなように、10~75°Bxのレモン果汁入り組成物(実施例1、6~10)は、いずれも果汁風味の変質度合い及び色調変化が少なく、レモン果汁本来のフレッシュ感を維持していた。特に35~75°Bxのレモン果汁入り組成物(実施例1、6及び7)は、果汁風味の変質がほとんどなく、レモン果汁本来のフレッシュ感を強く感じ、色調もわずかにしか変化がなく、総合すると極めて変化が少なく良好であった。一方、3°Bxのレモン果汁入り組成物(比較例6)、凍結時物性変質抑制剤を含まない10°Bxのレモン果汁入り組成物(比較例7及び8)は、いずれも果汁風味の変質が顕著に感じられ、レモン果汁本来のフレッシュな風味を感じ難かった。
【0071】
(実施例11~13、比較例9及び10)
表4の配合に従い、果汁入り組成物中の凍結時物性変質抑制剤の配合量を、2.0重量%(実施例11)、0.1重量%(実施例12)、0.02重量%(実施例13)、3.0重量%(比較例9)、又は、0.008重量%(比較例10)に変更した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表4に示した。
【0072】
【0073】
(実施例14、比較例11)
表4の配合に従い、前記凍結時物性変質抑制剤1の代わりに、製造例9で得られた凍結時物性変質抑制剤9(実施例14)、又は、製造例10で得られた凍結時物性変質抑制剤10(比較例11)を配合した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表4に示した。
【0074】
表4から明らかなように、RI値が0.91であり、水で抽出したエノキタケ抽出物を乾燥重量で0.2重量%含む凍結時物性変質抑制剤を0.02~2.0重量%含むレモン果汁入り組成物(実施例1、11~13)、及び、RI値が0.89であり、エタノールで抽出したエノキタケ抽出物を乾燥重量で0.4重量%含む凍結時物性変質抑制剤を0.3重量%含むレモン果汁入り組成物(実施例14)は、いずれも果汁風味の変質及び色調変化があまり感じられなかった。一方、凍結時物性変質抑制剤の含有量が0.008又は3.0重量%であるレモン果汁入り組成物(比較例9及び比較例10)は、いずれも果汁風味の変質が感じられた。エノキタケ抽出物の抽出溶媒がナタネ油であるレモン果汁入り組成物(比較例11)は、果汁風味の変質、色調変化が共に顕著に感じられた。
【0075】
(実施例15~18)
表5に従い、果汁入り組成物の保存条件を、-20℃1年間(実施例15)、-20℃2週間(実施例16)、-15℃1ヶ月間(実施例17)、又は、-30℃1ヶ月間(実施例18)に変更した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を水で糖度10°Bxまで希釈し、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表5に示した。
【0076】
【0077】
(実施例19)
表5に従い、果汁入り組成物の保存条件を-10℃1ヶ月間に変更した以外は、実施例9と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物は希釈せずに、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表5に示した。
【0078】
表5から明らかなように、果汁入り組成物の保存期間が2週間~1年間の範囲にあるレモン果汁入り組成物(実施例1、15及び16)、及び、保存温度が-30℃~-10℃の範囲にあるレモン果汁入り組成物(実施例1、17~19)は、いずれも果汁風味の変質、色調変化が少なかった。特に保存期間が2週間のもの(実施例16)、及び、保存温度が-30℃のもの(実施例18)は、果汁風味の変質がほとんどなく、レモン果汁本来のフレッシュ感を強く感じ、色調もわずかにしか変化がなく、総合すると極めて変化が少なく良好であった。
【0079】
(実施例20~25)
表6の配合に従い、レモン濃度調整果汁を、グレープフルーツ濃度調整果汁(実施例20)、オレンジ濃度調整果汁(実施例21)、パインアップル濃度調整果汁(実施例22)、ブドウ濃度調整果汁(実施例23)、リンゴ濃度調整果汁(実施例24)、又は、トマトストレート果汁(実施例25)に変更した以外は、実施例1と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を実施例20~24では水で糖度10°Bxまで希釈し、実施例25では希釈せずに、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表6に示した。
【0080】
【表6】
表6から明らかなように、RI値が0.91であり、水で抽出したエノキタケ抽出物を乾燥重量で0.2重量%含む凍結時物性変質抑制剤を0.3重量%含む種々の果汁入り組成物(実施例20~25)は、いずれも果汁風味の変質及び色調変化が少なかった。特にオレンジ濃度調整果汁(実施例21)は、オレンジ果汁本来のフレッシュ感を強く感じ、色調もわずかにしか変化がなく、総合すると極めて変化が少なく良好であった。
【0081】
(比較例12~17)
表7の配合に従い、凍結時物性変質抑制剤1を配合しなかった以外は、実施例20~25と同様にして解凍済の果汁入り組成物を得た。得られた果汁入り組成物を比較例12~16では水で糖度10°Bxまで希釈し、比較例17では希釈せずに、果汁風味の変質度合い及び色調変化を評価し、それらの結果を表7に示した。
【0082】
【0083】
表7から明らかなように、凍結時物性変質抑制剤を含まない種々の果汁入り組成物(比較例12~17)は、いずれも果汁風味の変質が感じられた。