(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】織編物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/263 20060101AFI20240513BHJP
D06M 15/277 20060101ALI20240513BHJP
D06M 15/71 20060101ALI20240513BHJP
D06M 15/423 20060101ALI20240513BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20240513BHJP
【FI】
D06M15/263
D06M15/277
D06M15/71
D06M15/423
D06M101:32
(21)【出願番号】P 2020043195
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019046111
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】樋口 眞矢
(72)【発明者】
【氏名】高月 珠里
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-003054(JP,A)
【文献】特開2006-233339(JP,A)
【文献】特開2007-146329(JP,A)
【文献】特開2014-198913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/00
D06B 1/00 - 23/00
D06C 3/00 - 29/00
D06G 1/00 - 5/00
D06H 1/00 - 7/00
D06J 1/00
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系繊維布帛の少なくとも一方の表面に、
下記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーからなる被膜Aと、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーおよび架橋剤を含有する被膜Bとが、この順に積層されてなる織編物であって、
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は同一又は異なる水素原子又はメチル基を示し、R
3は炭素数2~5のアルキレン基を示し、nは10以上の整数を示す。]
下記(I)~(III)を満足する、織編物。
(I)JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、JIS L1092スプレー法にて測定された撥水性が2級以上である。
(II)JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、AATCC118法に従って測定された撥油性が2.5級以上である。
(III)JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、JIS L1094摩擦帯電圧法に従って測定された制電性が、タテ方向およびヨコ方向の何れについても2000V以下である。
【請求項2】
前記ビニル系化合物の分子量が600以上である、請求項1に記載の織編物。
【請求項3】
織編物の構成繊維の質量に対して、前記ビニル系ポリマーが0.5~5質量%含まれる、請求項1または2に記載の織編物。
【請求項4】
織編物の構成繊維の質量に対して、前記炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーが0.2~2.0質量%含まれる、請求項1~3の何れか1項に記載の織編物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の織編物の製造方法であって、ポリエステル系繊維布帛の少なくとも一方の表面に、上記一般式(1)に示すビニル系化合物、および重合開始剤を含む水溶液を接触させ、次いで蒸気加熱処理を行い、
炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーおよび架橋剤を含む水溶液を浸漬させる、織編物の製造方法。
【請求項6】
前記蒸気加熱処理を行った後、かつ炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーおよび架橋剤を含む水溶液を浸漬させる前に、高速液流処理を行う、請求項5に記載の織編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性と撥水撥油性とに優れる織編物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系繊維は、強度、イージーケア性、乾燥速度、染色堅牢度などに優れており、加えて加工性に優れるため、ユニフォームやスポーツ用途などの幅広い分野の用途において利用されている。
【0003】
ポリエステル繊維において防汚性などを向上させることを目的として、撥水撥油性を付与するための手法が様々に検討されている。例えば、特許文献1には、繊維表面にトリアジン環を含有する樹脂被膜が形成されるか、あるいはフッ素系撥水撥油樹脂およびトリアジン環を含有する樹脂被膜が形成され、この被膜表面を、親水性成分を有するフッ素系撥水撥油樹脂および非親水性のフッ素系撥水撥油樹脂からなる樹脂で被覆してなる繊維構造物が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、合成繊維布帛上に、親水性セグメントを有するフッ素系撥水撥油剤、非親水性のフッ素系撥水撥油剤および架橋剤を含む防汚性被覆層が形成されてなる防汚性合成繊維布帛が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-303511号公報
【文献】特開平10-317281号公報
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に開示された布帛においては、繊維表面に対する親水基および非親水性を有する撥水撥油層の固着が不十分であり、撥水撥油性の洗濯耐久性に劣るという問題がある。また、撥水撥油性が付与された繊維表面においては、制電性に劣るという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、洗濯がほどこされた後の撥水撥油性と制電性との何れにも優れる織編物を得ようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。
即ち、本発明は、下記に掲げる(i)~(vi)を要旨とするものである。
(i)ポリエステル系繊維布帛の少なくとも一方の表面に、下記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーからなる被膜Aと、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーおよび架橋剤を含有する被膜Bとが、この順に積層されてなる織編物であって、
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は同一又は異なる水素原子又はメチル基を示し、R
3は 炭素数2~5のアルキレン基を示し、nは10以上の整数を示す。]
下記(I)~(III)を満足する、織編物。
(I)JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、JIS L1092スプレー法にて測定された撥水性が2級以上である。
(II)JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、AATCC118法に 従って測定された撥油性が2.5級以上である。
(III)JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、JIS L1094 摩擦帯電圧法に従って測定された制電性が、タテ方向およびヨコ方向の何れについても2 000V以下である。
(ii)前記ビニル系化合物の分子量が600以上である、(i)の織編物。
(iii)織編物の構成繊維の質量に対して、前記ビニル系ポリマーが0.5~5質量% 含まれる、(i)または(ii)の織編物。
(iv)織編物の構成繊維の質量に対して、前記炭素数が6以下のパーフルオロアルキル 基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーが0.2~2.0質量%含まれる、(i)~( iii)の何れかの織編物。
(v)(i)~(iv)の何れかの織編物の製造方法であって、ポリエステル系繊維布帛の少なくとも一方の表面に、上記一般式(1)に示すビニル系 化合物、および重合開始剤を含む水溶液を接触させ、次いで蒸気加熱処理を行い、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーおよ び架橋剤を含む水溶液を浸漬させる、織編物の製造方法。
(vi)前記蒸気加熱処理を行った後、かつ炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を 含む共重合体および架橋剤を含む水溶液を浸漬させる前に、高速液流処理を行う、(v)の織編物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の織編物は、被膜Bにおいて、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーおよび架橋剤による架橋構造を呈するとともに、さらに、被膜A中のビニル系化合物がラジカル重合したビニル系ポリマーが被膜B中の架橋剤と強固に結びついた架橋構造を呈することで、被膜Bに取り込まれた構成となるために、洗濯耐久性に顕著に優れた撥水撥油性と制電性とを達成することができる。そのため、本発明の織編物は、撥水撥油性に優れることによる防汚性、および制電性が要望される用途、例えば、病院の白衣、ドクターコート、食品工場ユニフォームに代表される工場作業服や厨房服、オフィスシャツ・ブラウスなどの女性用ブラウス、清掃員などの作業服、ゴルフシャツ、スポーツシャツ、ウインドブレーカーなどのスポーツウエア全般等の分野において好適に使用することができる
【0010】
そして、本発明の織編物の製造方法によれば、上記一般式(1)に示すビニル系化合物を重合させた後に蒸気加熱処理を行うことで、上記のように、被膜Bが架橋構造を呈し、さらに、被膜A中のビニル系化合物がラジカル重合したビニル系ポリマーが被膜B中の架橋剤と強固に結びついた架橋構造を呈することで、被膜Bに取り込まれた構成となるために、洗濯耐久性に顕著に優れた撥水撥油性と制電性とを達成することができる。また、上記加熱処理後に高速液流処理を施した場合は、ビニル系ポリマーの加工ムラを抑制することができる。これにより、ビニル系ポリマーによる過度な親水化を抑制できるとともに、被膜Bが均一に形成されることで、撥水撥油性をいっそう向上させることができる。さらに風合いと堅牢度に優れた織編物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。
本発明の織編物は、ポリエステル系繊維からなる布帛(本明細書においては、「ポリエステル系繊維布帛」と称する)の少なくとも一方の表面に、下記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーからなる被膜Aと、炭素数が6以下のパーフルオ ロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーおよび架橋剤を含有する被膜Bとが、この順に積層されてなる。
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は同一又は異なる水素原子又はメチル基を示し、R
3は 炭素数2~5のアルキレン基を示し、nは10以上の整数を示す。]
このような構成を有することにより、本発明の織編物は、洗濯耐久性に優れた撥水撥油性 、制電性を満足するものとなる。
【0012】
(ポリエステル系繊維布帛)
本発明におけるポリエステル系繊維布帛とは、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂から得られる繊維(ポリエステル系繊維)を含む布帛である。ポリエステル系繊維布帛は、洗濯耐久性の観点から、該布帛中にポリエステル系繊維を50質量%以上含有するものであることが好ましく、より好ましくは80質量%以上含有するものである。また、ポリエステル系繊維の繊度、フィラメント数、断面形状等は、特に限定されるものではなく、用途等に応じて適宜に選択することができる。
【0013】
本発明においては、上記の布帛中に、ポリエステル系繊維以外の繊維が含有されていてもよい。例えば、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維;アクリル系繊維;ポリウレタン系繊維;綿、獣毛繊維、絹、麻、竹などの天然繊維;ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維;アセテートなどの半合成繊維が含有されていてもよい。
【0014】
これらのポリエステル系繊維以外の繊維は、ポリエステル系繊維と交撚、混紡、混繊、交織または交編されて布帛に含有される。また、ポリエステル系繊維布帛の形態は、特に限定されず、織物、編物などが挙げられ、それらの組織、織密度、編密度等についても特に限定されないが、好ましくは織物であり、中でも綾織物が好ましい。
【0015】
また、構成繊維であるポリエステル系繊維の表面には、必要に応じて、後述のビニル系ポリマー以外の樹脂または架橋剤などで表面処理が行われていてもよい。このような樹脂や架橋剤としては、例えば、メラミン系樹脂、グリオキザール系樹脂、エポキシ系樹脂等の反応性官能基を有する樹脂;イミン系架橋剤等の架橋剤が挙げられる。
【0016】
(被膜A)
被膜Aはビニル系ポリマーからなるものであり、ビニル系ポリマーは上記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合してなるものである。ビニル系ポリマーからなる被膜Aが積層されていることにより、布帛表面が親水化されて本発明の織編物に制電性を付与することができる。
【0017】
一般式(1)において、R1及びR2は同一又は異なる水素原子又はメチル基である。R1及びR2として、好ましくはメチル基が挙げられる。
【0018】
一般式(1)において、R3は炭素数2~5のアルキレン基である。R3として、好ましくは炭素数2又は3のアルキレン基(即ち、メチレン基又はプロピレン基)、更に好ましくは炭素数2アルキレン基(即ち、メチレン基)が挙げられる。R3のアルキレン基は、炭素数が3~5の場合には、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
【0019】
一般式(1)において、nはアルキレンオキサイドの付加モル数であり、10以上の整数である。このように、アルキレンオキサイドの付加モル数が大きいビニル系化合物がラジカル重合したビニル系ポリマーを使用することによって、撥水撥油性を維持することと、優れた制電性を備えることができ、かつ、繰り返し洗濯しても撥水撥油性および制電性の低下を抑制することが可能になる。一般式(1)においてnが10よりも小さいビニル系化合物がラジカル重合したビニル系ポリマーを使用すると、形成される被膜が前記したような特性値を有するものとならないため、撥水撥油性および制電性が低下する。さらには、繰り返し洗濯すると撥水撥油性および制電性が低下する傾向が現れる。撥水撥油性および制電性を更に向上させつつ、洗濯後の撥水撥油性および制電性の低下をより一層効果的に抑制させるという観点から、一般式(1)において、nは好ましくは10~30、さらに好ましくは12~24が挙げられる。
【0020】
ビニル系化合物の分子量は600以上であることが好ましい。ビニル系化合物の分子量が600以上であると、撥水撥油性を維持しながら優れた制電性を備えさせつつ、繰り返し洗濯しても撥水撥油性および制電性の低下を抑制することが可能になる。撥水撥油性および制電性を更に向上させつつ、洗濯後の撥水撥油性および制電性の低下をより一層効果的に抑制させるという観点から、700~1200がより好ましい。
【0021】
ポリエステル系繊維布帛の表面に、前記ビニル系ポリマーからなる被膜Aを積層するには、後述するように、ポリエステル系繊維布帛の表面に、一般式(1)に示すビニル系化合物、および重合開始剤を含む水溶液を接触させてラジカル重合させることにより行われる。そのため、本発明の織編物における、ポリエステル系繊維布帛の表面に対する前記ビニル系ポリマーの積層態様としては、(i)ポリエステル系繊維布帛の表面全体に前記ビニル系ポリマーが化学的に結合して付着している態様、(ii)ポリエステル系繊維布帛の表面全体に化学的結合を介することなく前記ビニル系ポリマーが付着している態様の内、いずれか一方の態様又は双方の態様の組みあわせが想定される。
【0022】
本発明の織編物における、ビニル系ポリマーの付着量については、付与すべき撥水撥油性および制電性等に応じて適宜設定すればよいが、織編物の構成繊維の質量に対して好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは0.5~4.5質量%、さらに好ましくは0.5~3質量%が挙げられる。0.5質量%未満であると制電性に劣る場合があり、一方5質量%を超えると撥水撥油性に劣る場合がある。ここで、ビニル系ポリマーの付着量は、ビニル系ポリマー付着前の構成繊維100質量%に対して付着しているビニル系ポリマーの割合である。
【0023】
本発明の織編物における、ビニル系ポリマーからなる被膜Aの膜厚としては、特に限定されるものではないが、例えば、50~200nm、好ましくは70~180nmが挙げられる。本発明において、膜厚は、例えば電界放射型走査電子顕微鏡を用いて測定される値である。
【0024】
(被膜B-1)
被膜Bは、上記したように炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体と架橋剤とを含有する。
【0025】
炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体としては、具体的には、下記一般式(2)に示したような共重合体が好ましい。
【化2】
【0026】
これは、硫化水素とポリエチレングリコールジメタクリレートとが反応して得られる親水性セグメントと、フッ素化された疎水性セグメントとしてのフルオロアルキルアクリレートとが、共重合されてなる共重合体である。こうした共重合体を被膜Bに含むことで、撥水撥油性を発現させることができる。
【0027】
上記式中、nは2~10の整数であることが好ましく、aは1~10の整数であることが好ましく、また、bは1~10の整数であることが好ましい。Rは低級アルキル基を示し、中でも炭素数1~3のアルキル基が好ましい。Rfは炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を示す。こうしたパーフルオロアルキル基を有するものであると、自然環境の観点から好ましい。
【0028】
なお、本発明においては、フッ素化された疎水性セグメントを有する共重合体を用いることで、撥水撥油性の洗濯耐久性に優れるために、洗濯耐久性に優れる撥水撥油性と制電性を発現するという効果を奏することができる。
【0029】
親水性セグメントとは、アクリレート、メタアクリレート、酢酸ビニル、塩化ビニルなどのエチレン系不飽和物を変性し、これらの変性物に対して、エチレンオキサイド、水酸基、カルボキシル基、スルフォン酸基等の親水基を導入したものである。中でも撥水撥油性に優れる観点から、パーフルオロアルキル基を含むフルオロアルキルアクリレートが好ましい。
【0030】
このような共重合体としては、溶媒に溶解された市販品を好適に使用することができ、こうした市販品の具体例としては、大原パラヂウム化学社製、商品名「パラガードSRF6000」(固形分濃度20質量%)、日華化学社製、商品名「NKガードS-09」(固形分濃度20質量%)などが挙げられる。なお、「パラガードSRF6000」は、上記式(2)において、Rfが炭素数6のパーフルオロアルキル基であるフッ素系撥水剤である。
【0031】
上記の共重合体には、その効果を損なわない範囲であれば、親水性セグメントとフッ素化された疎水性セグメントが共重合されてなる共重合体以外の成分が含有されてもよい。
【0032】
(被膜B-2)
被膜Bは、上記したようにアクリル系ポリマーと架橋剤とを含有する。
アクリル系モノマーとしては、パーフルオロアルキル基を含まない非フッ素系のものが好ましく、中でも下記一般式(3)のようなものが挙げられる。
【化3】
A1:H、CH3
A2:炭素数1~30の直鎖状または分岐状のアルキル基で示される非フッ素単量体から誘導される繰り返し単位を含む非フッ素アクリル系セグメント
【0033】
本発明における被膜Bとしては、中でもA2の炭素数が12~24の(メタ)アクリル酸エステルを単量体単位として含む非フッ素系ポリマーからなるものであることが好ましい。
ここで、「(メタ)アクリル酸エステル」とは「アクリル酸エステル」又はそれに対応する「メタクリル酸エステル」を意味し、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリルアミド」等においても同義である。
【0034】
本発明において使用される(メタ)アクリル酸エステル単量体は、上述したように炭素数が12~24のエステル部分を有することが好ましいが、このエステル部分は炭化水素基であることが好ましい。この炭化水素基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和炭化水素であっても不飽和炭化水素であってもよく、更には脂環式又は芳香族の環状を有していてもよい。これらの中でも、直鎖状であるものが好ましく、直鎖状のアルキル基であるものがより好ましい。この場合、撥水性がより優れるものとなる。エステル部分の炭素数は、12~21であることがより好ましい。炭素数がこの範囲である場合は撥水性と風合が特に優れるようになる。エステル部分として特に好ましいのは、炭素数が12~18の直鎖状のアルキル基である。
【0035】
上記したようなアクリル系ポリマーとしては、より具体的には、ダイキン社製のユニダインXFシリーズ(XF-4001、XF-5001、XF-5003、XF-5005)や、日華化学社製のNR-7080、NR-7400、NR-7500等を用いることができる。
【0036】
被膜Bにおいては、織編物の構成繊維の質量に対して、前記炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーが0.2~2.0質量%含まれることが好ましく、0.5~1.5質量%含まれることがより好ましい。0.2質量%未満であると撥水撥油性が十分に発現されない場合があり、一方2.0質量%を超えると制電性に劣る場合がある。炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーの量は、溶媒中のこれらの固形分(質量%)と、加工使用量(g/L)と、マングル絞り率(%)とを用いて算出される。例えば、溶媒中の共重合体の固形分20質量%、加工使用量50g/L、マングル絞り率60%の場合は、0.2×0.05×0.6×100=0.6(質量%)となる。
【0037】
また、本発明では、被膜Bに架橋剤が含有されている。被膜Bにおいて架橋剤を用いることにより、ビニル系ポリマーが架橋剤と強固に結びつくことで、被膜Bに取り込まれる構造となり、このような構造に由来して、最外層である被膜Bが撥水撥油性を発現させるとともに、被膜Bに取り込まれたビニル系ポリマーが制電性を発現させることができ、洗濯耐久性に顕著に優れた撥水撥油性と制電性とを達成することができる。
【0038】
架橋剤としては、メラミン樹脂が好ましい。メラミン樹脂は、トリアジン環を含有し重合性官能基を少なくとも2個有する化合物が縮合して得られる熱硬化性樹脂であればよく、具体的にはトリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等が挙げられる。当該メラミン樹脂としては、例えば、「リケンレジンMM-3C」、「リケンレジンMM-35」(以上、三木理研工業社製)、「ベッカミンM-3」(DIC北日本ポリマ社製)等のトリメチロールメラミン;「リケンレジンMM-601」、「リケンレジンMM-630」(以上、三木理研工業社製)(以上、三木理研工業社製)等のヘキサメチロールメラミン等の市販品を使用することができる。
【0039】
被膜Bにおいて、織編物の構成繊維の質量に対して、架橋剤が0.05~1.0質量%含まれることが好ましく、0.1~0.5質量%含まれることがより好ましい。0.05質量%未満であると(洗濯による耐久性)が十分に発現されない場合があり、一方、1.0質量%を超えると(衣料としての風合い)に劣る場合がある。架橋剤の量は、架橋剤の固形分(質量%)と、加工使用量(g/L)と、マングル絞り率(%)とを用いて算出される。
例えば、架橋剤の固形分80質量%、加工使用量0.3g/L、マングル絞り率60%の場合は、0.8×0.003×0.6×100=0.14(質量%)となる。
【0040】
本発明の織編物は、下記(I)~(III)を満足する。
(I)JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、JIS L1092スプレー法にて評価された撥水性が2級以上であり、3級以上であることが好ましい。これにより、撥水性の洗濯耐久性に優れることの指標となる。
(II)JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、AATCC118法に従って評価された撥油性が2.5級以上であり、3級以上であることが好ましい。これにより、撥油性の洗濯耐久性に優れることの指標となる。
(III)JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、JIS L1094摩擦帯電圧法に従って評価された制電性が2000V以下であり、1000V以下であることが好ましい。これにより、制電性の洗濯耐久性に優れることの指標となる。
【0041】
本発明の織編物の製造方法について、以下に説明する。
本発明の製造方法は、ポリエステル系繊維布帛の少なくとも一方の表面に、上記一般式(1)に示すビニル系化合物、および重合開始剤を含む水溶液を接触させ、
次いで蒸気加熱処理を行い、
炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーおよび架橋剤を含む水溶液を浸漬させるものである。
【0042】
ポリエステル系繊維か布帛は上記の水溶液を接触させる前に、必要に応じて、糊抜き精練、プレセット、染色等の加工に供されていてもよい。
【0043】
上記一般式(1)に示すビニル系化合物、および重合開始剤を溶解させる水性媒体は、水、あるいは水と公知の有機溶媒との混合物などが挙げられる。
【0044】
本発明ではビニル系化合物のラジカル重合を促進させるために、重合開始剤を用いる。重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、硝酸セリウムアンモニウム、過酸化水素等の無機系重合開始剤;2,2′-アゾビス(2-アミディノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2′-アゾビス(N,N′-ジメチレンイソブチラミディン)ジハイドロクロライド、2-(カルバモイラゾ)イソブチロニトリル等の有機系ラジカル開始剤等のラジカル開始剤等が挙げられる。
【0045】
これらの重合開始剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記水溶液における重合開始剤の濃度については、特に限定されず、使用する重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、ビニル系化合物100質量部当たり、重合開始剤が0.1~20質量部、好ましくは0.3~15質量部、更に好ましくは0.5~10質量部が挙げられる。
【0046】
また、前記水溶液には、重合効率を高めるために、必要に応じて、過酸化物と還元性物質とからなるレドックス系開始剤が含まれていてもよい。レドックス系開始剤に使用される過酸化物としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられ、レドックス系開始剤に使用される還元性物質として、スルホキシル酸ナトリウムとホルマリンとの反応物、ハイドロサルファイト等が挙げられる。
【0047】
さらに、また、前記水溶液には重合抑制剤が含まれていてもよい。重合抑制剤が含まれている場合には、低温域での重合を抑制することができ、所望の重合度を有するビニル系ポリマーを得ることが容易になる。重合抑制剤としては、例えば、ベンゾキノン、ハイドロキノン、メトキシフェノール等のキノン類;第三ブチルカテコール等のポリオキ化合物;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルヒドロキシルアミン等の有機硫黄化合物;ニトロ化合物;ジエチルヒドロキシルアミン、イソプロピルヒドロキシルアミン等のアミノ化合物等が挙げられる。これらの重合抑制剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記水溶液における重合抑制剤の濃度については、特に限定されず、使用する重合抑制剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、ビニル系化合物100質量部当たり、重合抑制剤が0.01~2質量部、好ましくは0.015~1.5質量部、更に好ましくは0.02~1質量部が挙げられる。
【0048】
ポリエステル系繊維布帛に水溶液を接触させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、以下のような方法が挙げられる。つまり、パッディング法、スプレー法、キスロール法、スリットコータ法などの公知の方法で該水溶液をポリエステル系繊維布帛に塗布することが挙げられる。
【0049】
ポリエステル系布帛に前記水溶液を接触させた後に、蒸気加熱処理をおこないビニル系化合物を重合させる。すなわち、いわゆる、ラジカル重合が進行する。蒸気加熱処理の温度は80~180℃、好ましくは98~150℃のスチームの存在下で1~30分間、好ましくは3~15分間処理すればよい。なお、重合効率にいっそう優れるために、蒸気加熱処理の前に乾燥工程を実行しないことが好ましい。また、重合の手法としては、蒸気加熱処理の他、吸尽処理、電子線処理、紫外線処理、マイクロ波処理等の手法があるが、本発明においては、設備の汎用性、生産効率(重合効率)の観点から、蒸気加熱処理を行うことを必須とする。本発明においては、こうした処理により、上述のように、被膜Bにおいて、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系モノマーおよび架橋剤による架橋構造を呈するとともに、さらに、被膜A中のビニル系化合物がラジカル重合したビニル系ポリマーが被膜B中の架橋剤と強固に結びついた架橋構造を呈することで、被膜Bに取り込まれた構成となるために、洗濯耐久性に顕著に優れた撥水撥油性と制電性とを達成することができると推測される。
【0050】
本発明ではビニル系化合物のラジカル重合の後に、得られた布帛(ポリエステル系繊維布帛の表面にビニル系ポリマーからなる被膜Aが積層している)を高速液流処理による洗浄に供することが好ましい。このように高速液流処理に供することによって、残存するモノマー(ビニル系化合物)及び繊維間に付着した余剰のビニル系ポリマーなどが適切に除去され、ビニル系ポリマーがポリエステル系繊維の表面において構成繊維の各々の表面に均一に形成された状態になる。これによって、本発明の織編物では、いっそう優れた撥水撥油性および制電性を備えつつ、加工ムラを抑制することが可能になる。また、このような高速液流処理によって、織編物が硬い風合いになるのを抑制し、更に残存するモノマーの溶出によって変色が発現したり、染色堅牢度が低下したりするのを抑制することも可能になる。
【0051】
本発明において、高速液流処理とは、高速で噴射されている洗浄液に布帛を晒す洗浄処理である。
【0052】
好適な高速液流処理として、高速で噴射されている洗浄液に布帛を通過させることによって液流洗浄する処理が挙げられる。以下、かかる態様の高速液流処理について詳述する。
【0053】
高速液流処理は、通過している布帛に対して一方向から洗浄液を噴射してもよいが、液流染色等に使用されているフィラメントノズルやスパンノズル等を使用して、通過している布帛に対して全方向から洗浄液を噴射することが好ましい。このように通過している布帛に対して全方向から洗浄液を噴射することによって、残存するモノマーまたは繊維間に付着した余剰のポリマーをより効率的に除去することが可能になる。フィラメントノズルは、ノズルパイプと外輪(ノズルボス)とを組み合わせることによって構成されており、フィラメントノズルの内部空間を通過する布帛に対して、当該ノズルパイプとノズルボスとの間の隙間から洗浄液を噴射できるように構成されている。また、スパンノズルは、中空状の円錐台形の部材を1~3段に組み合わせることによって構成されており、スパンノズルの内部空間を通過する布帛に対して、当該部材の隙間から洗浄液を噴射できるように構成されている。
【0054】
また、高速液流処理において、布帛に対して洗浄液を噴射する角度については、高速液流処理の時間、洗浄液の温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常、通過している布帛の進行方向に対して10°以上の角度で洗浄液を噴射することが重要になる。このような角度で洗浄液を噴射することによって、布帛に十分な押圧を付与し、残存するモノマー及び繊維間に付着した余剰のポリマーを所望の程度にまで除去して、工業洗濯耐久性に優れた撥水撥油性、制電性、加工ムラの抑制、及び良好な風合いを実現することが可能になる。洗浄液を噴射する角度としては、通過している布帛の進行方向に対して、好ましくは10~40°、更に好ましくは15~40°が挙げられる。
【0055】
高速液流処理において、高速で噴射されている洗浄液に対して、布帛を通過させる速度については、特に限定されないが、例えば、50~600m/分、好ましくは100~500m/分、更に好ましくは200~400m/分が挙げられる。なお、高速液流処理において、布帛は噴射される洗浄液の押圧によって一方向に移動するので、高速で噴射されている洗浄液に布帛を通過させる手段は特段設けなくてもよい。
【0056】
高速液流処理において、洗浄液の噴射条件については、特に限定されないが、例えば、フィラメントノズルを使用する場合であれば、ノズル径(フィラメントノズルの内部空間の直径;布帛の通過方向に対する垂直方向の断面の直径)が70~130mm且つ洗浄液を噴射する隙間が2~6mmであるフィラメントノズルを使用し、洗浄液を噴霧する際のノズル圧が0.15~0.5Mpa、好ましくは0.15~0.4Mpa、更に好ましくは0.15~0.3Mpaに設定し、更に洗浄液の噴射時の流量を800~1500L/分、好ましくは900~1400L/分、更に好ましくは1000~1300L/分となるように設定すればよい。
【0057】
また、高速液流処理において、噴射されている洗浄液に布帛を通過させる回数については、残存するモノマーを所望の程度にまで除去できる範囲で適宜設定すればよいが、例えば3~60回、好ましくは5~50回、更に好ましくは10~40回が挙げられる。ここで、噴射されている洗浄液に布帛を通過させる回数とは、高速液流処理によって布帛1カ所当たり、噴射されている洗浄液を通過する回数である。
【0058】
布帛に対する高速液流処理は、布帛の端部同士を繋いだロープ状にして、噴射されている洗浄液に布帛が繰り返し通過するように、ロープ状の布帛を循環させることによって行うことが望ましい。
【0059】
高速液流処理に使用される洗浄液は、水であればよいが、残存するモノマーの除去効率を高めるために、必要に応じて界面活性剤が添加された水溶液であってもよい。
【0060】
高速液流処理において、洗浄液の温度については、特に限定されないが、例えば、40~100℃、好ましくは50~90℃、更に好ましくは60~80℃が挙げられる。このような温度の洗浄液を使用することによって、残存するモノマー及び繊維間に付着した余剰のポリマーを効率的に除去することができる。
【0061】
高速液流処理を行う装置については、特に限定されないが、布帛の染色に使用されている液流染色機を好適に使用することができる。液流染色機は、布帛を滞留させる染色槽と、当該染色槽の両端部を連結している移送管と、移送管の先端に設けられ、処理液(本発明の場合は洗浄液)を噴射する噴射ノズルとを有し、無端ループ状に連結された布帛が、当該染色槽の出口部から移送管に移動し、当該移送管内を処理液と共に移送され、再び染色槽に戻るように循環するように構成されている装置である。噴射ノズルの角度等の条件を前記範囲に調整した液流染色機を使用することによって、本発明における高速液流処理を効率的に行うことができる。液流染色機に設けられる噴射ノズルは、前述の通り、フィラメントノズルやスパンノズル等を使用すればよいが、好ましくはフィラメントノズルである。
【0062】
上述したような蒸気加熱処理、または高速液流処理を行った後に、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーおよび架橋剤を含有する水溶液を浸漬させる。浸漬方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、以下のような方法が挙げられる。つまり、パッディング法、スプレー法、キスロール法、スリットコータ法などの公知の方法で該水溶液をポリエステル系繊維布帛に塗布することが挙げられる。この時、織編物の構成繊維の質量に対して、共重合体の質量が0.2~1質量%となるようにマングル等の絞りローラーを調整することが好ましい。0.2質量%未満であると撥水撥油性に劣る場合がある。1質量%を超えると制電性能に劣る場合がある。
【0063】
炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含む共重合体および架橋剤又はアクリル系ポリマーおよび架橋剤を含有する水溶液を浸漬した後に、乾熱処理を行うことが好ましい。乾熱処理は、100~190℃の温度でおこなうことが好ましく、150~170℃でおこなうことが好ましい。100℃未満であると、パーフルオロアルキル基などの疎水基を、上記のように繊維垂直方向に十分に配することができず、その結果、撥水性の向上が不十分となる場合がある。一方、温度が190℃を超えると、熱により被膜(上記の被膜B)が劣化してしまい、撥水撥油性に劣るものとなる場合がある。
【0064】
本発明の織編物は、例えば、病院の白衣、ドクターコート、食品工場ユニフォームに代表される工場作業服や厨房服、オフィスシャツ・ブラウスなどの女性用ブラウス、清掃員などの作業服、ゴルフシャツ、スポーツシャツ、ウインドブレーカーなどのスポーツウエア全般等の分野において、特に好適に使用することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明する。但し、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0066】
以下の実施例及び比較例における測定及び評価は下記の方法に従って行った。
1.試料
測定に供すべき試料として、JIS L 1096のG法に従って、30回洗濯をしたもの(以下、「HL30」と称する場合がある)と、当該洗濯前のもの(以下、「初期」と称する場合がある)との2種を用意した。これら2種類の試料について、評価を行った。
【0067】
2.撥水性
JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、JIS L1092スプレー法に従って評価した。
【0068】
3.撥油性
JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、AATCC118法に従って評価した。
【0069】
4.制電性
JIS L 1096のG法に従って30回洗濯を行い、JIS L1094摩擦帯電圧法に従って評価した。
【0070】
5.ビニル系ポリマーの付着量
ビニル系ポリマーの付着量(質量%)={(W1-W0)/W0}×100
W0:ポリエステル系繊維布帛の単位面積当たりの質量
W1:ビニル系ポリマーが付着したポリエステル系繊維布帛の単位面積当たりの質量
6.パーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーの付着量
パーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーの付着量(質量%)={(W2-W0)/W0}×100×(W3/1000)×(W4/100)
W0:ポリエステル系繊維布帛の単位面積当たりの質量
W2:パーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーが付着したポリエステル系繊維布帛の単位面積当たりの質量
W3:パーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーの使用量
W4:パーフルオロアルキル基を含む共重合体又はアクリル系ポリマーの固形分
【0071】
実施例1
経糸としてポリエステルマルチフィラメント加工糸(167dtex/48f)を用い、緯糸としてポリエステルマルチフィラメント加工糸(334dtex/96f)を用いて、綾織物(経糸密度:128本/2.54cm、緯糸密度:58本/2.54cm、目付:180g/cm2)を製織した。この綾織物に対して通常の方法で精練し、テンター(市金工業社製)にて190℃で30秒間プレセットを行った。次いで、液流染色機(「サーキュラーMF」、日阪製作所製)を用いて、下記染色処方で、温度130℃、時間30分の条件で染色し、目付220g/m2の白色の綾織物を得た。
<染色処方>
・蛍光染料 1%o.m.f
・酢酸(48%) 0.2cc/l
・水 残部
なお、蛍光染料は、「Hakkol STR」(昭和化学工業社製)を使用した。
【0072】
次に、この綾織物を処方1に示す組成の水溶液に浸漬した後、マングルで70質量%の絞り率で絞り、乾燥することなく、Jボックススチーマー(京都機械株社製)にて103℃の飽和蒸気処理を5分間行い、ビニル系化合物のラジカル重合を行った。
<処方1>
NKエステル14G(新中村化学工業社製、上記一般式(1)にて示すビニル系化合物、n=14、分子量736、R1=CH3、R2=CH3、R3=CH2CH2):10g/L
重合開始剤(過硫酸アンモニウム):0.5g/L
水:残部
【0073】
その後、高速液流処理を行った。高速液流処理は、具体的には、液流染色機(「サーキュラーMF」、日阪製作所製)を用いて、洗浄液の噴射角度(織物の進行方向に対する洗浄水の噴射角度)が40°であるフィラメントノズル(ノズル径90mm、洗浄液を噴射する隙間4mm)を装着し、洗浄水として水を使用して、ノズル圧0.2Mpa、洗浄液の噴射時の流量1200l/分、布速300m/分、浴比1:10、温度60℃で5分間の条件で、織物(長さ(50m/反×6反=300m)をエンドレスのロープ状にして循環させることにより行った。
【0074】
さらに、下記処方2に示す組成の水溶液にパディング手法を用いてマングル絞り率70%の浸漬処理を行った。
<処方2>
上記一般式(2)にて示す炭素数6のパーフルオロアルキル基を有する共重合体を含む水溶液:NKガードS-09(日華化学社製、固形分濃度20質量%)50g/L
架橋剤:ベッカミンM-3(大日本インキ社製、N-メチロールメラミン:有効成分濃度(固形分濃度)80質量%)0.3g/L
触媒:キャタリストACX(大日本インキ社製、アミノアルコール塩酸塩:有効成分濃度35質量%)0.1g/L
水:残部
【0075】
次いで、ドラム乾燥機にて120℃、2分間の条件で乾燥を行い、テンターにて170℃、1分間のセット(乾熱処理)を行い、実施例1の織編物を得た。
【0076】
実施例2
実施例1の処方1の水溶液を、下記処方3の組成に変えた以外は、実施例1と同様におこなった。
<処方3>
NKエステル14G(新中村化学工業社製、上記一般式(1)にて示すビニル系化合物、n=14、分子量736):20g/L
重合開始剤(過硫酸アンモニウム):1.0g/L
水:残部
【0077】
実施例3
実施例1の処方1の水溶液を、下記処方4の組成に変えた以外は、実施例1と同様におこなった。
<処方4>
NKエステル23G(新中村化学工業社製、上記一般式(1)にて示すビニル系化合物、n=23、分子量1136、R1=CH3、R2=CH3、R3=CH2CH2):10g/L
重合開始剤(過硫酸アンモニウム):0.5g/L
水:残部
【0078】
実施例4
実施例1の処方1の水溶液を、下記処方5の組成に変え、処方2の水溶液を下記処方6に変えた以外は、実施例1と同様におこなった。
<処方5>
NKエステル14G(新中村化学工業社製、上記一般式(1)にて示すビニル系化合物、n=14、分子量736):40g/L
重合開始剤(過硫酸アンモニウム):2.0g/L
水:残部
<処方6>
上記一般式(2)にて示す炭素数6のパーフルオロアルキル基を有する共重合体を含む水溶液:NKガードS-09(日華化学社製、固形分濃度20質量%)60g/L
架橋剤:ベッカミンM-3(大日本インキ社製、N-メチロールメラミン:有効成分濃度(固形分濃度)80質量%)0.3g/L
触媒:キャタリストACX(大日本インキ社製、アミノアルコール塩酸塩:有効成分濃度35質量%)0.1g/L
水:残部
【0079】
実施例5
実施例1の処方2の水溶液を、下記処方7の組成に変えた以外は、実施例1と同様におこなった。
<処方7>
上記一般式(2)にて示す炭素数6のパーフルオロアルキル基を有する共重合体を含む水溶液:NKガードS-09(日華化学社製、固形分濃度20質量%)70g/L
架橋剤:ベッカミンM-3(大日本インキ社製、N-メチロールメラミン:有効成分濃度(固形分濃度)80質量%)0.4g/L
触媒:キャタリストACX(大日本インキ社製、アミノアルコール塩酸塩:有効成分濃度35質量%)0.1g/L
水:残部
【0080】
実施例6
実施例1の処方1の水溶液をラジカル重合させた後、高速液流処理に代えてロープ洗浄機(木村鉄工所社製)を用いた洗浄とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0081】
実施例7
実施例1の処方2の水溶液を、下記処方8の組成に変えた以外は、実施例1と同様におこなった。
<処方8>
アクリル系ポリマーを含む水溶液:ユニダインXF-5003(ダイキン社製、固形分濃度30質量%)50g/L
架橋剤:ベッカミンM-3(大日本インキ社製、N-メチロールメラミン:有効成分濃度(固形分濃度)80質量%)0.3g/L
触媒:キャタリストACX(大日本インキ社製、アミノアルコール塩酸塩:有効成分濃度35質量%)0.1g/L
水:残部
【0082】
実施例8
実施例2の処方2の水溶液を、下記処方9の組成に変えた以外は、実施例2と同様におこなった。
<処方9>
アクリル系ポリマーを含む水溶液:ユニダインXF-5003(ダイキン社製、固形分濃度30質量%)70g/L
架橋剤:ベッカミンM-3(大日本インキ社製、N-メチロールメラミン:有効成分濃度(固形分濃度)80質量%)0.3g/L
触媒:キャタリストACX(大日本インキ社製、アミノアルコール塩酸塩:有効成分濃度35質量%)0.1g/L
水:残部
【0083】
比較例1
実施例1の処方1の水溶液を、下記処方10の組成に変えた以外は、実施例1と同様におこなった。
<処方10>
NKエステル9G(新中村化学工業社製、上記一般式(1)にて示すビニル系化合物、n=9、分子量536、R1=CH3、R2=CH3、R3=CH2CH2):10g/L
重合開始剤(過硫酸アンモニウム):0.5g/L
水:残部
【0084】
比較例2
実施例1の処方2の水溶液を、下記処方11の組成に変えた以外は、実施例1と同様におこなった。
<処方11>
上記一般式(2)にて示す炭素数6のパーフルオロアルキル基を有する共重合体を含む水溶液:NKガードS-09(日華化学社製、固形分濃度20質量%)50g/L
水:残部
【0085】
比較例3
実施例1の処方1の水溶液をラジカル重合させた後、蒸気加熱処理を行わない以外は、実施例1と同様におこなった。
【0086】
実施例および比較例の評価結果を、表1~表3にまとめて示す。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表1~3から明らかなように、実施例1~8の織編物においては、洗濯がほどこされた後における撥水撥油性と制電性の何れにも優れていた。さらに風合いも良好であった。
これに対して、比較例1の織編物においては、上記一般式(1)にて示すビニル系化合物としてn=9であるものを用いたために、撥水撥油性と制電性との何れにも劣るものであった。
比較例2の織編物においては、被膜Bにおいて架橋剤を用いていないために、撥水撥油性に劣るものであった。
比較例3の織編物においては、ビニル系化合物をラジカル重合させた後に、蒸気加熱処理を行わなかったために制電性に劣っていた。