(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】酸性シリカコロイド注入材
(51)【国際特許分類】
C09K 17/12 20060101AFI20240513BHJP
C09K 17/46 20060101ALI20240513BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
C09K17/12 P
C09K17/46 P
E02D3/12 101
(21)【出願番号】P 2020121529
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000115463
【氏名又は名称】ライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 高明
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-136908(JP,A)
【文献】特開昭52-126912(JP,A)
【文献】特開2020-060072(JP,A)
【文献】特開昭55-012105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K17/00-17/52
C04B2/00-32/02;40/00-40/06
E02D3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ケイ酸塩化合物及び希釈用の液Aを含むA液と、
酸及び希釈用の液Bを含むB液と、を有し、
前記希釈用の液Bが2価陽イオン含有水であ
り、
前記希釈用の液Aが2価陽イオン含有水にアルカリ金属水酸化物を添加した処理液であり、前記処理液のpHが10以上となるように前記アルカリ金属水酸化物を添加している、
ことを特徴とする酸性シリカコロイド注入材。
【請求項2】
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムである、
請求項
1に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【請求項3】
前記2価陽イオン含有水が海水である、
請求項1
又は請求項2に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【請求項4】
前記B液の酸として、リン酸及びクエン酸の少なくともいずれか一方を含む、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【請求項5】
前記A液が、金属イオン封鎖剤及びリン酸系化合物の少なくともいずれか一方を含む、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【請求項6】
前記水溶性ケイ酸塩化合物が、モル比2以上の水ガラスである、
請求項1~
5のいずれか1項に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性シリカコロイド注入材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水ガラス等の水溶性ケイ酸塩化合物と硫酸等の酸とを混合することで使用する酸性シリカコロイド注入材は、例えば、河川や海岸付近での液状化対策や、堤防等の護岸工事における止水対策、吸出し防止、地盤改良等の様々な用途で利用されている。特に酸性シリカコロイド注入材は、アルカリを酸等で完全中和しているため、ゲル化時間が長く、浸透性に優れ、アルカリ性の注入材では得られない特質を有している。また、酸性シリカコロイド注入材は、海水を含む地盤に注入しても白濁し難く、均質なゲルを形成する。
【0003】
もっとも、酸性シリカコロイド注入材は、水溶性ケイ酸塩化合物に酸をそのまま添加すると高濃度であるシリカの高反応性により瞬時に不均一にゲル化してしまうため、地盤に注入することができなくなる。そこで、水溶性ケイ酸塩化合物及び酸それぞれを、水道水や工業用水、河川水等の清水で希釈している。希釈することで瞬時の反応が抑えられ、均一なゲルが形成されるようになる。また、pH調整やシリカ濃度の調整が容易になり、所望のゲル化時間及び強度を得ることができるようになる。
【0004】
一方、従来から、特に海岸地域等においては、清水の利用に代わり海水の利用が望まれている。しかしながら、海水を利用すると、水溶性ケイ酸塩化合物と海水とが反応してしまう(例えば、ゲル化し、白濁する。)。したがって、従来は、水溶性ケイ酸塩化合物及び酸を清水で希釈せざるを得なかった。そこで、水溶性ケイ酸塩化合物に添加する海水の量を、水溶性ケイ酸塩化合物に含まれるNa2Oの量と海水に含まれる塩分の量とに応じて調整する提案がなされている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、この提案によると、使用できる海水の量が水溶性ケイ酸塩化合物に含まれるNa2Oの量に依存してしまう。また、同文献においては、「シリカ系(水溶性ケイ酸塩)化合物溶液に含まれるNa2Oの量は、水ガラスの場合JIS規格水ガラスによって規定される」とし、「安定性を高める為に水酸化ナトリウムを添加してもよい」としている(段落0040)。しかしながら、同文献における水酸化ナトリウムの添加は水ガラスに対するもので、水ガラスのモル比を落とすためのものであり、アルカリが増えてしまう。したがって、使用する酸の量も増え、副生成物である塩が溶解度を越えて析出してしまうという問題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする主たる課題は、海水等の使用が可能な酸性シリカコロイド注入材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、酸性シリカコロイド注入材が水溶性ケイ酸塩化合物及び希釈用の液Aを含むA液と、 酸及び希釈用の液Bを含むB液とを有するものとし、前記希釈用の液Bが2価陽イオン含有水であり、前記希釈用の液Aが2価陽イオン含有水にアルカリ金属水酸化物を添加した処理液であり、前記処理液のpHが10以上となるように前記アルカリ金属水酸化物を添加していることで解決することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、海水等の使用が可能な酸性シリカコロイド注入材となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0011】
本形態の酸性シリカコロイド注入材は、水溶性ケイ酸塩化合物及び希釈用の液Aを含むA液と、酸及び希釈用の液Bを含むB液とで構成される。そして、希釈用の液Bは、海水等の2価陽イオン含有水である。好ましくは、希釈用の液Aは、海水等の2価陽イオン含有水にアルカリ金属水酸化物を添加した処理液である。以下、順に説明する。
【0012】
(水溶性ケイ酸塩化合物)
水溶性ケイ酸塩化合物としては、例えば、水ガラス、シリカコロイド(コロイダルシリカ)、活性シリカ、活性シリカコロイド等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0013】
ただし、水溶性ケイ酸塩化合物として水ガラスを使用する場合は、モル比2以上の水ガラスを使用するのが好ましく、モル比3~4の水ガラスを使用するのがより好ましい。水ガラスのモル比が3以上であると、副生成物である塩の生成量を抑えられる利点がある。
【0014】
(酸)
酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、アミド硫酸、クエン酸等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好ましくは、硫酸、リン酸、クエン酸であり、これらの酸を単独で又は混合して使用することができる。硫酸は、安価な酸であり、また、常温で液体のため、保管時に有害ガスを出すことがなく、安全に作業をできる利点がある。リン酸、クエン酸を用いると、例えば、地盤中に存在するコンクリート構造物やセメント硬化物等の表面に防護被膜が形成される。したがって、本形態の注入材に含まれる塩分や他の成分がコンクリート構造物やセメント構造物等に浸入するのが防止され、また、コンクリート構造物やセメント構造物等から地盤にアルカリが溶出するのが防止される。結果、コンクリート構造物やセメント構造物等の劣化や中性化が防止され、また、本形態の注入材に対するアルカリの影響も防止される。したがって、クエン酸やリン酸を含む注入材は、コンクリート構造物やセメント構造物の腐食対策薬液と言うことができる。
【0015】
酸の量は、酸性シリカ注入材のpHを調整するという観点から、適宜決定することができる。pHは、好ましくは1~5、より好ましくは1.5~4である。なお、本形態は、先行文献におけるのと異なり、水ガラスに水酸化ナトリウムを添加するものではないため、酸の使用量を減らすことができ、酸の副生成物の析出を抑えることができる。
【0016】
(2価陽イオン含有水)
2価陽イオン含有水とは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン等の2価の陽イオンを含む水を意味する。2価陽イオン含有水としては、海水を使用することができる。
【0017】
海水等の2価陽イオン含有水を希釈用の液Bとして使用する場合、つまり酸の希釈に利用する場合は、そのまま使用することができる。一方、2価陽イオン含有水を希釈用の液Aとして使用する場合、つまり水溶性ケイ酸塩化合物の希釈に利用する場合は、アルカリ金属水酸化物を添加してなる処理液(例えば、処理海水。)にする必要がある。アルカリ金属水酸化物を添加しておくと、水溶性ケイ酸塩化合物の活性シラノールがアルカリ金属でブロックされ、水溶性ケイ酸塩化合物と海水とが反応しなくなる。
【0018】
なお、例えば、海水に苛性ソーダを混ぜると、海水中のカルシウムやマグネシウムが水酸化物となって析出し、若干白濁する。しかしながら、B液(希釈酸)と混ぜて注入材(薬液)にすると、この白濁は酸によって溶解し、無視することができる程度のものになる。
【0019】
(アルカリ金属水酸化物)
アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0020】
なお、アルカリ金属水酸化物の添加は、海水のpHを上げるのが目的であり、水酸化カルシウム(アルカリ土類金属の水酸化物)の使用も考えられる。しかしながら、水酸化カルシウムを添加すると、水溶性ケイ酸塩化合物と反応し、ゲル化するおそれがある。したがって、添加するのは、アルカリ金属の水酸化物であるのが好ましい。
【0021】
アルカリ金属水酸化物の添加は、処理液のpHが10以上となるように行うのが好ましく、11~13となるように行うのがより好ましい。処理液のpHが10.8以上であれば、ケイ酸の酸解離定数のp値がpKa1=9.8であることから、水溶性ケイ酸塩化合物を希釈した際に水溶性ケイ酸塩化合物と海水等とが反応してしまうのが確実に抑えられる。
【0022】
(その他)
A液は、金属イオン封鎖剤及びリン酸系化合物の少なくともいずれか一方を含むのが好ましい。A液がこれらの添加物を含むと、例えば、地盤中に存在するコンクリート構造物やセメント硬化物等の表面に防護被膜が形成される。したがって、本形態の注入材を構成する塩分や他の成分がコンクリート構造物やセメント構造物等に浸入するのが防止され、また、コンクリート構造物やセメント構造物等から地盤にアルカリが溶出するのが防止される。結果、コンクリート構造物やセメント構造物等の劣化や中性化が防止され、また、本形態の注入材に対するアルカリの影響も防止される。したがって、金属イオン封鎖剤やリン酸系化合物を含む注入材は、コンクリート構造物やセメント構造物の腐食対策薬液と言うことができる。
【0023】
金属イオン封鎖剤としては、例えば、テトラポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩(好ましくは、ナトリウム塩。)、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、酸性ヘキサメタリン酸塩、酸性ピロリン酸塩等の縮合リン酸塩類、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、及びこれらの塩類等の中から1種又は2種類以上を選択して使用することができる。
【0024】
また、リン酸系化合物としては、例えば、リン酸、酸性リン酸塩、中性リン酸塩、塩基性リン酸塩等の中から1種又は2種類以上を選択して使用することができる。
【0025】
金属イオン封鎖剤及びリン酸系化合物は、いずれか一方を単独で使用することも、両方を一緒に使用することもできる。
【0026】
金属イオン封鎖剤が縮合リン酸塩類の場合、当該縮合リン酸塩類の含有量(合計量)は、シリカ系化合物のNa2O量に対して、リン酸(PO4)として5~30質量%であるのが好ましい。含有量が以上の範囲を超えると、水溶性ケイ酸塩化合物の部分ゲル化が生じたり、シリカ系化合物が白濁状の不安定な状態になったりし、安定な状態を保つのが難しくなるおそれがある。
【0027】
以上で説明した形態例は、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、以下に示す手段に適用することができる。
【0028】
(手段1)
水溶性ケイ酸塩化合物及び希釈用の液Aを含むA液と、
酸及び希釈用の液Bを含むB液と、を有し、
前記希釈用の液Bが2価陽イオン含有水である、
ことを特徴とする酸性シリカコロイド注入材。
【0029】
(手段2)
前記希釈用の液Aが2価陽イオン含有水にアルカリ金属水酸化物を添加した処理液である、
手段1に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【0030】
(手段3)
前記処理液のpHが10以上となるように前記アルカリ金属水酸化物を添加している、
手段2に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【0031】
(手段4)
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムである、
手段2又は手段3に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【0032】
(手段5)
前記2価陽イオン含有水が海水である、
手段1~4のいずれか1項に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【0033】
(手段6)
前記B液の酸として、リン酸及びクエン酸の少なくともいずれか一方を含む、
手段1~5のいずれか1項に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【0034】
(手段7)
前記A液が、金属イオン封鎖剤及びリン酸系化合物の少なくともいずれか一方を含む、
手段1~6のいずれか1項に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【0035】
(手段8)
前記水溶性ケイ酸塩化合物が、モル比2以上の水ガラスである、
手段1~7のいずれか1項に記載の酸性シリカコロイド注入材。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下で示す表中の空欄部分は、配合なし、又は未実施である。
(試験例1~3)
まず、水ガラス及び酸それぞれを、水道水又は海水(pH8.2)で希釈する試験を行った。A液(希釈水ガラス)及びB液(希釈酸)の混合においては、B液を攪拌しながら、A液を少量ずつ添加した。各液の配合量は、表1に示すとおりとした。なお、配合量は、注入材(薬液)のSiO2濃度が6(W/v)%となるように調整した。また、高モル水ガラスは、SiO2が26%、Na2Oが7.1%、比重が1.32であった。さらに、試験例2は、水道水をA液の希釈に、海水をB液の希釈に使用した場合を示している。
【0037】
結果(pH、外観、豊浦砂サンドゲル一軸圧縮強度)を表1及び表2に示した。
【0038】
【0039】
【0040】
(試験例4~15)
次に、水ガラス及び酸それぞれを、水道水、海水、又は処理水で希釈する試験を行った。A液(希釈水ガラス)及びB液(希釈酸)の混合においては、B液を攪拌しながら、A液を少量ずつ添加した。各液の配合量は、表3に示すとおりとした。なお、配合量は、A液のSiO2濃度が17(W/v)%、注入材(薬液)のSiO2濃度が8(W/v)%となるように調整した。また、2号水ガラスは、SiO2が30%、Na2Oが13.5%、比重が1.51であった。3号水ガラスは、SiO2が28.5%、Na2Oが9.4%、比重が1.4であった。高モル水ガラスは、SiO2が26%、Na2Oが7.1%、比重が1.32であった。処理水としては、海水に水酸化ナトリウムを1g/Lの割合で添加したもの(1g/LNaOH海水(pH10.4))、又は5g/Lの割合で添加したもの(5g/LNaOH海水(11.9))を使用した。さらに、表中の3.5%NaCl溶液とは、清水にNaClを溶かした溶液である。
【0041】
結果(濁度、pH、豊浦砂サンドゲル一軸圧縮強度)を表4及び表5に示した。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
なお、試験例14及び試験例15から、海水によるとA液が濁る原因は、ナトリウムイオンではないことが推察された。
【0046】
(試験例16~22)
さらに、前述した腐食対策薬液を評価する試験を行った。各液の配合量は、表6に示すとおりとした。なお、試験の条件、方法等は、試験例4~15と同様とした。ただし、注入材(薬液)のSiO2濃度は、5(W/v)%となるように調整した。
【0047】
結果(濁度、pH、豊浦砂サンドゲル一軸圧縮強度)を表7及び表8に示した。
【0048】
【0049】
【0050】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、酸性シリカコロイド注入材として利用可能である。