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特許7487040骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異評価用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異評価用キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20240513BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20240513BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6827 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020133602
(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公開番号】P2021052738
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2019176891
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高光 恵美
(72)【発明者】
【氏名】吉村 翠
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-024247(JP,A)
【文献】特表2000-511434(JP,A)
【文献】KEANEY, Thomas et al.,A novel molecular assay using hybridisation probes and melt curve analysis for CALR exon 9 mutation detection in myeloproliferative neoplasms,J. Clin. Pathol.,2017年,Vol. 70,pp. 662-668
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68ー1/6897
C12N 15/00-15/90
G01N 37/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CALRにおける骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異であって、
配列番号10に示した野生型CARL遺伝子の
塩基配列における506番目から557番目の52塩基が欠損する52塩基欠損のタイプ1変異、
同塩基配列における509番目から554番目の46塩基が欠損する46塩基欠損のタイプ3変異、
同塩基配列において516番目から549番目の34塩基が欠損する34塩基欠損のタイプ4変異及び
同塩基配列において505番目から556番目の52塩基が欠損する52塩基欠損のタイプ5変異
からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子変異に対応するCALR変異型プローブを含む、骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異評価用キットであって、
上記CALR変異型プローブは、人為的欠損によるミスマッチを有することを特徴とし、ここで、
上記タイプ1変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号90~91、及び93~95に示した塩基配列からなる群から選択されるいずれか一の塩基配列、又はその相補的塩基配列を含み、
上記タイプ3変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号53、及び67~69に示した塩基配列からなる群から選択されるいずれか一の塩基配列、又はその相補的塩基配列を含み、
上記タイプ4変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号54、及び73~81に示した塩基配列からなる群から選択されるいずれか一の塩基配列、又はその相補的塩基配列を含み、
上記タイプ5変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号55、及び85~88に示した塩基配列からなる群から選択されるいずれか一の塩基配列、又はその相補的塩基配列を含む
ことを特徴とする伝子変異評価用キット。
【請求項2】
配列番号10に示した野生型CARL遺伝子の塩基配列における568番目と569番目の間にTTGTCが挿入されたタイプ2変異に対応するCALR変異型プローブを更に有することを特徴とする請求項1記載の遺伝子変異評価用キット。
【請求項3】
JAK2における骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異に対応するJAK2変異型プローブ及び/又はMPLにおける骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異に対応するMPL変異型プローブを更に有することを特徴とする請求項1記載の遺伝子変異評価用キット。
【請求項4】
請求項1~いずれか一項記載の遺伝子変異評価用キットを用い、診断対象者について、CARLにおける骨髄増殖性腫瘍に関連するタイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子変異を同定する、骨髄増殖性腫瘍の診断に関するデータ分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄増殖性腫瘍の診断項目として有用な遺伝子変異を評価できるプローブセット、当該プローブセットを備えるマイクロアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄増殖性腫瘍(MPN:Myeloproliferative neoplasms)は、骨髄系細胞の腫瘍化によって発症する疾患である。MPNは、骨髄系細胞(顆粒球、芽球、骨髄巨核球及び肥満細胞等)の著しい増殖を特徴としている。MPNには、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia:CML)、慢性好中球性白血病(chronic neutrophilic leukemia:CNL)、真性赤血球増加症又は真性多血症(polycythemia vera:PV)、原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)、本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)、慢性好酸球性白血病(chronic eosinophilic leukemia:CEL)、好酸球増加症候群(hypereosinophilic syndrome:HES)、肥満細胞症(mastocytosis)及び分類不能骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms,unclassifiable:MPN, U)が含まれる。
【0003】
MPNの診断については、非特許文献1に記載されるように、臨床的パラメータ、骨髄形態及び遺伝子変異データを指標としている。フィラデルフィア染色体陰性の患者に対して、これらを組み合わせて診断することでCMLを除くMPNを診断することができる。遺伝子変異データとしては、具体的に3つの遺伝子:JAK2、CALR及びMPLに関する変異情報、更には追加的に、ASXL1、EZH2、TET2、IDH1/IDH2、SRSF2及びSF3B1に関する変異情報が利用される。特に、JAK2、CALR及びMPLは、MPN発症の分子基盤であると考えられることから当該遺伝子群における変異の有無がMPNの確定診断における重要な要素となっている。
【0004】
また、非特許文献2には、JAK2に関してJAK2V617F変異(617番目のバリンがフェニルアラニンへ置換変異)がPV、ET及びPMFにおいて多く見られること、また少数のPVにおいては上記変異に加えてエクソン12への挿入/欠損型変異が見られることが開示されている。JAK2(Janus activating kinase 2)は、エリスロポエチン受容体のシグナルをつかさどるタンパク質をコードする遺伝子である。これに加えて、非特許文献3には、JAK2に関してエクソン12に存在する変異が真性多血症(polycythemia vera:PV)や特発性赤血球増加症(idiopathic erythrocytosis:IE)に関連していることが開示されている。さらに、特許文献5には、骨髄増殖性疾患を示す変異として、JAK2遺伝子のエクソン12に存在する変異のうちc2035t変異(T514M変異)を検出することが開示されている。
【0005】
非特許文献2には、更にMPLに関してMPLW515L/K変異PMFがPMF及びETにおいて見られたことが開示されている。MPLは、トロンボポイエチン受容体をコードする遺伝子である。
【0006】
非特許文献2には、更にまたCALRに関して、52塩基欠損のタイプ1と5塩基挿入のタイプ2の変異が最も頻度が高く、ET及びPMFにおいてこれら変異が見られることが開示されている。タイプ1変異は、PMFにおいてより高頻度であり、ETにおける骨髄線維症への変換に関連していることが開示されている。CALRは小胞体の分子シャペロンの1つであるcalreticulinをコードする遺伝子である。
【0007】
さらに、特許文献1には、JAK2遺伝子の変異解析方法として、JAK2V617F部位特異的な蛍光標識プローブが開示されている。特許文献2には、JAK2V617F変異が陰性であって骨髄増殖性腫瘍を示す患者において見いだされた、JAK2V617F変異とは異なる変異を検出する技術が開示されている。
【0008】
さらにまた、特許文献3には、MPL遺伝子多型検出用プローブとして、MPLにおけるW515K変異及びW515L変異を検出するためのプローブセットが開示されている。
【0009】
さらにまた、特許文献4には、CALRにおける変異を同定するための技術が開示されている。
【0010】
さらにまた、特許文献5には、JAK2核酸中の変異検出が開示され、JAK2におけるエクソン12に存在する遺伝子変異が開示されている。さらにまた、特許文献6には、上述した実情に鑑みて、骨髄増殖性腫瘍に関連する複数の遺伝子変異について同時に簡便に検出する手段として、各遺伝子変異についてプライマーやプローブを設計したことが開示され、JAK2におけるV617F変異、CALRにおけるタイプ1変異及びタイプ2変異、MPLにおけるW515L変異及びW515K変異が検出対象の遺伝子変異として開示されている(3遺伝子における5つの遺伝子変異)。
【0011】
なお、目的とする遺伝子変異を検出するためのプローブの設計方法としては、当該遺伝子変異を含む周辺領域の塩基配列に基づいてプローブを設計する。このとき、プローブとしては、特許文献7に開示されるように、遺伝子変異を含む周辺領域の塩基配列に完全に一致する配列、或いは、1又は数個の非天然ヌクレオチドを含む塩基配列として設計される。1又は数個の非天然ヌクレオチドを含むプローブは、当該非天然ヌクレオチドの箇所において、遺伝子変異を含む周辺領域との間でハイブリダイズを形成しない(ミスマッチ)。特許文献7によれば、このミスマッチにより、サンプル中の標的核酸が遺伝子変異を有するかどうかを高精度に検出できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2012-034580
【文献】WO2009/060804
【文献】WO2011/052755
【文献】特表2016-537012
【文献】特許第6017136号
【文献】WO2019/004334
【文献】特表2000-511434
【非特許文献】
【0013】
【文献】Francesco Passamonti and Margherita Maffioli, Hematology 2016, p. 534-542
【文献】NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines), Myeloproliferative Neoplasms, Version 2.2017, October 19, 2016
【文献】Linda M. Scott et al., N Engl J Med. 2007 Feb 1;356(5):459-68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異のうちCARLに存する複数タイプの遺伝子変異の有無を正確に判定できるとともに、骨髄増殖性腫瘍の有無をより高精度に判定することができる遺伝子変異評価用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下を包含する。
(1)CALRにおける骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異であって、配列番号10に示した野生型CARL遺伝子の塩基配列における506番目から557番目の52塩基が欠損する52塩基欠損のタイプ1変異、同塩基配列における509番目から554番目の46塩基が欠損する46塩基欠損のタイプ3変異、同塩基配列において516番目から549番目の34塩基が欠損する34塩基欠損のタイプ4変異及び同塩基配列において505番目から556番目の52塩基が欠損する52塩基欠損のタイプ5変異からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子変異に対応するCALR変異型プローブを含む、骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異評価用キットであって、 上記CALR変異型プローブは、人為的欠損によるミスマッチを有することを特徴とする遺伝子変異評価用キット。
(2)上記タイプ1変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号10における558番目から564番目の範囲から選ばれる1又は複数塩基が欠損した塩基配列又はその相補的塩基配列を有し、
上記タイプ3変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号10における555番目から559番目の範囲から選ばれる1又は複数塩基が欠損した塩基配列又はその相補的塩基配列を有し、
上記タイプ4変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号10における550番目から558番目の範囲から選ばれる1又は複数塩基が欠損した塩基配列又はその相補的塩基配列を有し、
上記タイプ5変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号10における558番目から564番目の範囲から選ばれる1又は複数塩基が欠損した塩基配列又はその相補的塩基配列を有することを特徴とする(1)記載の遺伝子変異評価用キット。
(3)上記タイプ1変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号95に示した塩基配列又はその相補的塩基配列を含み、上記タイプ3変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号53に示した塩基配列又はその相補的塩基配列を含み、上記タイプ4変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号54に示した塩基配列又はその相補的塩基配列を含み、上記タイプ5変異に対するCALR変異型プローブは、配列番号55に示した塩基配列又はその相補的塩基配列を含むことを特徴とする(1)記載の遺伝子変異評価用キット。
(4) 配列番号10に示した野生型CARL遺伝子の塩基配列における568番目と569番目の間にTTGTCが挿入されたタイプ2変異に対応するCALR変異型プローブを更に有することを特徴とする(1)記載の遺伝子変異評価用キット。
(5)JAK2における骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異に対応するJAK2変異型プローブ及び/又はMPLにおける骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異に対応するMPL変異型プローブを更に有することを特徴とする(1)記載の遺伝子変異評価用キット。
(6)上記(1)~(5)いずれか記載の遺伝子変異評価用キットを用い、診断対象者について、CARLにおける骨髄増殖性腫瘍に関連するタイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子変異を同定する、骨髄増殖性腫瘍の診断に関するデータ分析方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異のうち特にCARLに存する複数の遺伝子変異(タイプ1変異、タイプ3変異~タイプ5変異)を正確に判定することができる。したがって、本発明によれば、診断対象者の上記遺伝子変異の情報を利用した骨髄増殖性腫瘍の診断精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】CARLにおけるタイプ1遺伝子変異、タイプ3遺伝子変異、タイプ4遺伝子変異及びタイプ5遺伝子変異における欠損領域を説明するための構成図である。
図2】実施例で設計したtype3変異プローブ5、type4変異プローブ5及びtype5変異プローブ4を用いて各変異サンプル及び野生型サンプルを測定した結果を示す特性図である。
図3】JAK2のエクソン12に含まれる複数の遺伝子変異を含む領域を増幅するために設計したプライマーを説明する構成図である。
図4】実施例1で設計したプライマーセットを用いて得られた、4つの増幅断片に由来する蛍光強度を測定した結果を示す特性図である。
図5】V617F変異部位を含む領域を増幅するプライマーセットのうち標識したプライマー(フォワードプライマー)の濃度を横軸とし、増幅した4つの領域に由来する蛍光強度を縦軸とした特性図である。
図6】V617F変異部位を含む領域を増幅するプライマーセットのうち標識したプライマー(フォワードプライマー)の濃度を横軸とし、増幅した4つの領域に由来する蛍光強度を縦軸とした特性図である
図7】JAK2 エクソン12を増幅するプライマーセットのうち標識したプライマー(リバースプライマー)の濃度を横軸とし、増幅した4つの領域に由来する蛍光強度を縦軸とした特性図である。
図8】JAK2 エクソン12を増幅するプライマーセットのうち標識したプライマー(リバースプライマー)の濃度を横軸とし、増幅した4つの領域に由来する蛍光強度を縦軸とした特性図である。
図9】エクソン12を増幅するプライマーセットのうち標識したプライマー(リバースプライマー)とV617F変異部位を含む領域を増幅するプライマーセットのうち標識されたプライマー(フォワードプライマー)との濃度比を横軸とし、増幅した4つの領域に由来する蛍光強度を縦軸とした特性図である。
図10】変異モデル検体を使用して、JAK2のV617F変異及びエクソン12に存在する遺伝子変異等を検出した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異評価用キットは、CARLにおける骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異として、いわゆるタイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子変異を同定するCALR変異型プローブを備える。
【0019】
なお、CALRの遺伝子変異としては、52塩基欠損のタイプ1変異と、5塩基挿入のタイプ2変異と、46塩基欠損のタイプ3変異、34塩基欠損のタイプ4変異及びタイプ1変異とは異なる52塩基が欠損する52塩基欠損のタイプ5変異が主として知られている。これらタイプ1変異からタイプ5変異は、CALRタンパク質のC末端に位置している。原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)患者或いは本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)患者において、これらいずれかの変異が20~25%の頻度で見られる。主として、タイプ2の変異が本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)に関連し、タイプ1の変異が原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)に関与している。また、CALRの遺伝子変異は、詳細を後述するJAK2における遺伝子変異を有さない骨髄増殖性腫瘍において見られる変異でもある。
【0020】
野生型CALRをコードする塩基配列を配列番号10に示す。タイプ1変異を有する場合、配列番号10に示した塩基配列において506番目から557番目の52塩基が欠損することとなる。タイプ2変異を有する場合、配列番号10に示した塩基配列において568番目と569番目の間にTTGTCが挿入されることとなる。タイプ3変異を有する場合、配列番号10に示した塩基配列において509番目から554番目の46塩基が欠損することとなる。タイプ4変異を有する場合、配列番号10に示した塩基配列において516番目から549番目の34塩基が欠損することとなる。タイプ5変異を有する場合、配列番号10に示した塩基配列において505番目から556番目の52塩基が欠損することとなる。
【0021】
欠損型の遺伝子変異であるタイプ1変異、タイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異について、野生型CALRをコードする塩基配列の一部(配列番号56)を基準として欠損する領域を図1に模式的に示した。図1に示すように、野生型CALRの52塩基が欠損したタイプ1変異(配列番号57)、野生型CALRの46塩基が欠損したタイプ3変異(配列番号58)、野生型CALRの34塩基が欠損したタイプ4変異(配列番号59)、野生型CALRの52塩基が欠損したタイプ5変異(配列番号60)は、それぞれ欠損位置(図中矢印)より3’側において欠損前後で非常に類似した配列を有している。なお、図1に示したタイプ1変異、タイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異の各塩基配列において、欠損前後で一致する配列に下線を付した。
【0022】
本発明に係る遺伝子変異評価用キットは、CALR変異型プローブとして、タイプ1変異を検出するためのタイプ1変異プローブ、タイプ3変異を検出するためのタイプ3変異プローブ、タイプ4変異を検出するためのタイプ4変異プローブ及びタイプ5変異を検出するためのタイプ5変異プローブからなる群から選ばれる少なくとも1つのプローブを含む。すなわち、本発明に係る遺伝子変異評価用キットは、タイプ3変異プローブ、タイプ4変異プローブ及びタイプ5変異プローブの全てを含んでいても良いし、タイプ3変異プローブ、タイプ4変異プローブ及びタイプ5変異プローブのうち1つ又は任意の2つのプローブを含んでいても良い。
【0023】
これらCALR変異型プローブは、人為的欠損によるミスマッチを有している。すなわち、CARL変異型プローブは、図1に示したタイプ1変異、タイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異の欠損変異後の配列に対して、少なくとも1塩基(1~数塩基、例えば1~5塩基、好ましくは1~3塩基、より好ましくは1塩基)を欠損(すなわち人為的欠損)した相補鎖として設計する。ここで、人為的に欠損させる塩基としては、図1に示したように、タイプ1変異、タイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異それぞれの欠損後の配列において、野生型の配列と一致する領域(図1の下線部)から選ばれることが好ましい。なお、CALR変異型プローブは、所定の塩基配列に対する相補鎖として設計することができるが、当該塩基配列と同じ鎖として設計しても良い。
【0024】
すなわち、これらタイプ1変異、タイプ3変異、タイプ4変異又はタイプ5変異に対応するCALR変異型プローブは、欠損位置(図1の矢印)よりも3’末端側の10塩基以内、好ましくは8塩基以内、より好ましくは5塩基以内の領域に少なくとも1塩基が欠損した相補鎖として設計することができる。
【0025】
より具体的に、タイプ1変異に対応するCALR変異型プローブは、欠損位置(図1の矢印)から数えて3’末端側の7塩基の範囲(図1の下線部)から少なくとも1塩基を欠損させた相補鎖として設計することができる。配列番号10に示した塩基配列を基準とすると、タイプ1変異に対応するCALR変異型プローブは558番目~564番目の7塩基の範囲から少なくとも1塩基を欠損させた相補鎖として設計することができる。特に、タイプ1変異に対応するCALR変異型プローブは、配列番号10に示した塩基配列における560番目~562番目のAGAを欠損したGACGAGGAGCGGACAAGGAG(配列番号95)の相補鎖として設計することが好ましい(配列番号95の塩基配列でもよい)。
【0026】
タイプ3変異に対応するCALR変異型プローブは、欠損位置(図1の矢印)よりも3’末端側の5塩基の範囲(図1の下線部)から少なくとも1塩基を欠損させた相補鎖として設計することができる。配列番号10に示した塩基配列を基準とすると、タイプ3変異に対応するCALR変異型プローブは555番目~559番目の5塩基の範囲から少なくとも1塩基を欠損させた相補鎖として設計することができる。特に、タイプ3変異に対応するCALR変異型プローブは、配列番号10に示した塩基配列における558番目のGを欠損したGAGGAGCAGAGCAGAGGACAA(配列番号53)の相補鎖として設計することが好ましい(配列番号53の塩基配列でもよい)。
【0027】
タイプ4変異に対応するCALR変異型プローブは、欠損位置(図1の矢印)から数えて3’末端側の9塩基の範囲(図1の下線部)から少なくとも1塩基を欠損させた相補鎖として設計することができる。配列番号10に示した塩基配列を基準とすると、タイプ4変異に対応するCALR変異型プローブは550番目~558番目の9塩基の範囲から少なくとも1塩基を欠損させた相補鎖として設計することができる。特に、タイプ4変異に対応するCALR変異型プローブは、配列番号10に示した塩基配列における552番目のGを欠損したCAGAGGCTTAGAGGAGGCAGAG(配列番号54)の相補鎖として設計することが好ましい(配列番号54の塩基配列でもよい)。
【0028】
タイプ5変異に対応するCALR変異型プローブは、欠損位置(図1の矢印)から数えて3’末端側の2~8番目の7塩基の範囲(図1の下線部)から少なくとも1塩基を欠損させた相補鎖として設計することができる。配列番号10に示した塩基配列を基準とすると、タイプ5変異に対応するCALR変異型プローブは558番目~564番目の7塩基の範囲から少なくとも1塩基を欠損させた相補鎖として設計することができる。特に、タイプ5変異に対応するCALR変異型プローブは、配列番号10に示した塩基配列における560~562番目のAGAを欠損したGACGAGGGGCGGACAAGGAG(配列番号55)の相補鎖として設計することが好ましい(配列番号55の塩基配列でもよい)。
【0029】
ところで、本発明に係る遺伝子変異評価用キットは、以上のCARL遺伝子における遺伝子変異に加えてJAK2及びMPLに存在する遺伝子変異を同時に同定するものであっても良い。これらJAK2及びMPLにおける遺伝子変異は、CARLにおける遺伝子変異と同様に、世界保健機関(WHO)による分類(例えば、2016年度バージョン)において骨髄増殖性腫瘍の診断に利用されている遺伝子変異である。
【0030】
JAK2における骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異としては、V617F変異及びエクソン12に存在する遺伝子変異を挙げることができる。すなわち、遺伝子変異評価用キットは、JAK2における骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異であるV617F変異に対応するV617F変異型プローブと、JAK2における骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異であるエクソン12に存在する遺伝子変異に対応するエクソン12変異型プローブとをJAK2変異型プローブとして含んでいてもよい。また、遺伝子変異評価用キットは、JAK2におけるV617F変異を含む領域を増幅するV617F変異用プライマーセットと、JAK2遺伝子のエクソン12に存在する遺伝子変異を含む領域を増幅するエクソン12用プライマーセットとを含んでいてもよい。
【0031】
具体的に、JAK2の遺伝子変異におけるV617F変異は、617番目のバリンがフェニルアラニンへ置換変異することを意味する。この変異は、JAK-STATパスウェイの活性化に寄与し、真性多血症(polycythemia vera:PV)における顕著な特徴である。また、原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)患者或いは本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)患者においても、当該V617F変異は50~60%の頻度で見られる。なお、野生型JAK2遺伝子のうち617番目のバリンを含むエクソン14の塩基配列を配列番号11に示す。V617F変異を有する場合、配列番号11に示した塩基配列において351番目のGがTへ置換変異することとなる。
【0032】
また、エクソン12に存在する遺伝子変異は、世界保健機関(WHO)が示すMPNの診断基準として知られており、特に真性多血症(polycythemia vera:PV)において検出される遺伝子変異である。JAK2遺伝子のエクソン12に存在する遺伝子変異としては、特に限定されないが、例えば、542番目のアスパラギンと543番目のグルタミン酸が欠損する変異(N542_E543del変異と呼称する)、543番目のグルタミン酸と544番目のアスパラギン酸とが欠損する変異(E543_D544del変異と呼称する)、541番目のアルギニンから543番目のグルタミン酸までがリシンとなる変異(R541_E543>K変異と呼称する)、537番目のフェニルアラニンから539番目のリシンまでがロイシンとなる変異(F537_K539>L変異と呼称する)、539番目のリシンがロイシンとなる変異(K539L(TT)変異又はK539L(CT)変異と呼称する)。なお、K539L(TT)変異とは、539番目のリシンをコードするコドン(AAA)がロイシンをコードするコドン(TTA)となる変異である。K539L(CT)変異とは、539番目のリシンをコードするコドン(AAA)がロイシンをコードするコドン(CTA)となる変異である。
【0033】
ここで、野生型JAK2遺伝子のうちエクソン12をコードする塩基配列を配列番号12に示す。N542_E543del変異を有する場合、配列番号12に示した塩基配列において250番目から255番目の6塩基が欠損することとなる。E543_D544del変異を有する場合、配列番号12に示した塩基配列において253番目から258番目の6塩基が欠損することとなる。R541_E543>K変異を有する場合、配列番号12に示した塩基配列において248番目から253番目の6塩基が欠損することとなる。F537_K539>L変異を有する場合、配列番号12に示した塩基配列において237番目から242番目の6塩基が欠損することとなる。K539L(TT)変異を有する場合、配列番号12に示した塩基配列において241番目と242番目のAAがTTに置換変異することとなる。K539L(CT)変異を有する場合、配列番号12に示した塩基配列において241番目と242番目のAAがCTに置換変異することとなる。
【0034】
さらに、MPLにおける骨髄増殖性腫瘍に関連する遺伝子変異としては、W515K変異(515番目のトリプトファンがリシンへ置換変異)又はW515L変異(515番目のトリプトファンがロイシンへ置換変異)を挙げることができる。このMPLの遺伝子変異は、本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)患者の3~5%において見られ、原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)の6~10%において見られる。なお、野生型MPLをコードする塩基配列を配列番号13に示す。W515K変異を有する場合、配列番号13に示した塩基配列において305番目と306番目のTGがAAへと置換変異することとなる。W515L変異を有する場合、配列番号13に示した塩基配列において306番目のGがTへと置換変異することとなる。
【0035】
本発明に係る遺伝子変異評価用キットは、これらJAK2、CALR及びMPLのそれぞれに存在する遺伝子変異を同定するためのプローブセットを含んでいる。
【0036】
より具体的に、JAK2のV617F変異については、配列番号11における上記置換変異に対応する、例えば、CTCCACAGAaACATACTCC(配列番号14)を含むオリゴヌクレオチドを変異型プローブとして使用することができる。なお、上記配列において小文字のaが配列番号11に示した塩基配列における351番目のGからTへの置換変異に対応している。また、JAK2のV617F変異を同定する際、野生型のJAK2に対応する野生型プローブ(上記配列における小文字のaをcとした配列)を使用することもできる。すなわち、JAK2のV617F変異を同定するには、配列番号14の塩基配列を含む変異型プローブを使用すれば良く、また、当該変異型プローブと野生型プローブとからなるプローブセットを使用しても良い。
【0037】
また、JAK2のN542_E543del変異については、CACAAAATCAGA-GATTTGATATTTG(配列番号15)を含むオリゴヌクレオチドを変異型プローブとして使用することができる。なお、上記配列においてハイフンの位置が、配列番号12に示した塩基配列における250番目から255番目の6塩基欠損に対応している。JAK2のE543_D544del変異については、CACAAAATCAGAAAT-TTGATATTTGT(配列番号16)を含むオリゴヌクレオチドを変異型プローブとして使用することができる。なお、上記配列においてハイフンの位置が、配列番号12に示した塩基配列における253番目から258番目の6塩基欠損に対応している。JAK2のR541_E543>K変異については、CACAAAATCA-AAGATTTGATATTTGT(配列番号17)を含むオリゴヌクレオチドを変異型プローブとして使用することができる。なお、上記配列においてハイフンの位置が、配列番号12に示した塩基配列における248番目から253番目の6塩基欠損に対応している。JAK2のF537_K539>L変異については、CCAAATGGTG-TTAATCAGAAATGAA(配列番号18)を含むオリゴヌクレオチドを変異型プローブとして使用することができる。なお、上記配列においてハイフンの位置が、配列番号12に示した塩基配列における237番目から242番目の6塩基欠損に対応している。JAK2のK539L(TT)変異については、GGTGTTTCACttAATCAGAAATGA(配列番号19)を含むオリゴヌクレオチドを変異型プローブとして使用することができる。なお、上記配列における小文字のttが、配列番号12に示した塩基配列における241番目と242番目のAAに対応している。JAK2のK539L(CT)変異については、GTGTTTCACctAATCAGAAATGA(配列番号20)を含むオリゴヌクレオチドを変異型プローブとして使用することができる。なお、上記配列における小文字のctが、配列番号12に示した塩基配列における241番目と242番目のAAに対応している。
【0038】
また、上記のJAK2のエクソン12における各変異を同定する際、各変異の野生型に対応する野生型プローブを使用することもできる。ここで、上記の各変異は互いにごく近いか一部重複しているため、ひとつの野生型プローブで代表させることもできるし、いくつかの野生型プローブを組み合わせて使用することもできる。後述する実施例では、N542_E543del変異、E543_D544del変異およびR541_E543>K変異を中心になるようにした野生型プローブと、F537_K539>L変異を中心になるようにした野生型プローブの二つを使用した。
【0039】
さらに、CALRのタイプ1の変異については、配列番号10における上記52塩基欠損に対応する、例えば、CTCCTTGT-CCGCTCCTCGTC(配列番号21)を含むオリゴヌクレオチドをプローブとして使用することができる。なお、上記配列においてハイフンの位置が、配列番号10に示した塩基配列における506番目から557番目の52塩基欠損に対応している。また、CALRのタイプ1変異を同定する際、野生型のCALRに対応する野生型プローブを使用することもできる。すなわち、CALRのタイプ1変異を同定するには、配列番号21の塩基配列を含む変異型プローブを使用すれば良く、また、当該変異型プローブと野生型プローブとからなるプローブセットを使用しても良い。
【0040】
さらに、CALRのタイプ2変異については、配列番号10における上記5塩基挿入に対応する、例えば、ATCCTCCgacaaTTGTCCT(配列番号22)を含むオリゴヌクレオチドをプローブとして使用することができる。なお、上記配列において小文字のgacaaが5塩基挿入である。また、CALRのタイプ2変異を同定する際、野生型のCALRに対応する野生型プローブを使用することもできる。すなわち、CALRのタイプ2の変異を同定するには、配列番号22の塩基配列を含む変異型プローブを使用すれば良く、また、当該変異型プローブと野生型プローブとからなるプローブセットを使用しても良い。
【0041】
さらにまた、MPLのW515K変異については、配列番号13における上記置換変異に対応する、例えば、GAAACTGCttCCTCAGCA(配列番号23)を含むオリゴヌクレオチドを変異型プローブとして使用することができる。なお、上記配列において小文字のttが配列番号13に示した塩基配列における305番目と306番目のTGのAAへの置換変異に対応している。また、MPLのW515K変異を同定する際、野生型のMPLに対応する野生型プローブ(上記配列における小文字のttをcaとした配列)を使用することもできる。すなわち、MPLのW515K変異を同定するには、配列番号23の塩基配列を含む変異型プローブを使用すれば良く、また、当該変異型プローブと野生型プローブとからなるプローブセットを使用しても良い。
【0042】
さらにまた、MPLのW515L変異については、配列番号13における上記置換変異に対応する、例えば、GGAAACTGCAaCCTCAG(配列番号24)を含むオリゴヌクレオチドを変異型プローブとして使用することができる。なお、上記配列において小文字のaが配列番号13に示した塩基配列における306番目のGのTへの置換変異に対応している。また、MPLのW515L変異を同定する際、野生型のMPLに対応する野生型プローブ(上記配列における小文字のaをcとした配列)を使用することもできる。すなわち、MPLのW515L変異を同定するには、配列番号24の塩基配列を含む変異型プローブを使用すれば良く、また、当該変異型プローブと野生型プローブとからなるプローブセットを使用しても良い。
【0043】
以上のように、CALRに存在するタイプ1変異、タイプ3変異、タイプ4変異及び/又はタイプ5変異を同定するための、ミスマッチを有するCARL変異型プローブとして配列番号95、53、54及び55をそれぞれ例示したが、CARL変異型プローブの塩基配列は配列番号95、53、54及び55に限定されず、配列番号57に示したタイプ1変異の塩基配列、配列番号58に示したタイプ3変異の塩基配列、配列番号59に示したタイプ4変異の塩基配列及び配列番号60に示したタイプ5変異の塩基配列に基づいて適宜設計することができる。
【0044】
さらに、JAK2に存在する遺伝子変異を同定するための変異型プローブを例示したが、変異型プローブの塩基配列は配列番号14~20に限定されず、配列番号11及び12に示したJAK2の塩基配列に基づいて適宜設計することができる。CALRに存在するタイプ1変異及びタイプ2変異を同定するための変異型プローブとして配列番号21及び22をそれぞれ例示したが、変異型プローブの塩基配列は配列番号21及び22に限定されず、配列番号10に示したCALRの塩基配列に基づいて適宜設計することができる。MPLに存在する遺伝子変異を同定するための変異型プローブとして配列番号23及び24を例示したが、変異型プローブの塩基配列は配列番号23及び24に限定されず、配列番号13に示したMPLの塩基配列に基づいて適宜設計することができる。
【0045】
これらプローブの塩基長としては、特に限定しないが、例えば10~30塩基長とすることができ、15~25塩基長とすることが好ましい。なお、プローブは、上述のように、配列番号10~13の塩基配列における遺伝子変異を含む領域に基づいて設計した塩基配列と、当該塩基配列における一方又は両方の末端に付加した塩基配列とを合計して、例えば10~30塩基長とすることができ、15~25塩基長とすることが好ましい。
【0046】
また、上述のように設計したプローブは、好ましくは核酸であり、より好ましくはDNAである。DNAには二本鎖も一本鎖も含まれるが、好ましくは一本鎖DNAである。プローブは、例えば、核酸合成装置によって化学的に合成することで取得することができる。核酸合成装置としては、DNAシンセサイザー、全自動核酸合成装置、核酸自動合成装置等と呼ばれる装置を使用することができる。
【0047】
上述のように設計したプローブは、その5’末端を担体上に固定化することにより、マイクロアレイ(一例としてDNAチップ)の形態で用いるのが好ましい。このとき、マイクロアレイは、上述した各遺伝子変異について、変異型プローブ及び野生型プローブを有することが好ましい。各遺伝子変異について、変異型プローブと野生型プローブとを利用することによって、変異の有無のみならず変異の割合を正確に判定することができる。ここで、変異型プローブと野生型プローブとは、長さが2塩基以内の差であることが好ましく、長さが同じであることがより好ましい。
【0048】
本発明に係るマイクロアレイは、上述したプローブを担体上に固定することで作製することができる。
【0049】
担体の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されない。例えば、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウム、銀、水銀、タングステンおよびそれらの化合物などの貴金属、およびグラファイト、カ-ボンファイバ-に代表される炭素などの導電体材料;単結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素などに代表されるシリコン材料、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)などに代表されるこれらシリコン材料の複合素材;ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライト、感光性ガラスなどの無機材料;ポリエチレン、エチレン、ポリプロビレン、環状ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、ポリフェニレンオキサイドおよびポリスルホンなどの有機材料等が挙げられる。担体の形状も特に制限されないが、好ましくは平板状である。
【0050】
本発明においては、担体として、好ましくは表面にカーボン層と化学修飾基とを有する担体を用いる。表面にカーボン層と化学修飾基とを有する担体には、基板の表面にカーボン層と化学修飾基とを有するもの、およびカーボン層からなる基板の表面に化学修飾基を有するものが包含される。基板の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されず、上述の担体材料として挙げたものと同様のものを使用できる。
【0051】
本発明に係るマイクロアレイにおいては、微細な平板状の構造を有する担体が好適に用いられる。形状は、長方形、正方形および丸形など限定されないが、通常、1~75mm四方のもの、好ましくは1~10mm四方のもの、より好ましくは3~5mm四方のものを用いる。微細な平板状の構造の担体を製造しやすいことから、シリコン材料や樹脂材料からなる基板を用いるのが好ましく、特に単結晶シリコンからなる基板の表面にカーボン層および化学修飾基を有する担体がより好ましい。単結晶シリコンには、部分部分でごくわずかに結晶軸の向きが変わっているものや(モザイク結晶と称される場合もある)、原子的尺度での乱れ(格子欠陥)が含まれているものも包含される。
【0052】
本発明において基板上に形成させるカーボン層としては、特に制限されないが、合成ダイヤモンド、高圧合成ダイヤモンド、天然ダイヤモンド、軟ダイヤモンド(例えば、ダイヤモンドライクカーボン)、アモルファスカーボン、炭素系物質(例えば、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ)のいずれか、それらの混合物、またはそれらを積層させたものを用いることが好ましい。また、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステン、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化クロム、炭化バナジウム等の炭化物を用いてもよい。ここで、軟ダイヤモンドとは、いわゆるダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond Like Carbon)等の、ダイヤモンドとカーボンとの混合体である不完全ダイヤモンド構造体を総称し、その混合割合は、特に限定されない。カーボン層は、化学的安定性に優れておりその後の化学修飾基の導入や分析対象物質との結合における反応に耐えることができる点、分析対象物質と静電結合によって結合するためその結合が柔軟性を持っている点、UV吸収がないため検出系UVに対して透明性である点、およびエレクトロブロッティングの際に通電可能な点において有利である。また、分析対象物質との結合反応において、非特異的吸着が少ない点においても有利である。前記のとおり基板自体がカーボン層からなる担体を用いてもよい。
【0053】
本発明においてカーボン層の形成は公知の方法で行うことができる。例えば、マイクロ波プラズマCVD(Chemical vapor deposit)法、ECRCVD(Electric cyclotron resonance chemical vapor deposit)法、ICP(Inductive coupled plasma)法、直流スパッタリング法、ECR(Electric cyclotron resonance)スパッタリング法、イオン化蒸着法、アーク式蒸着法、レーザ蒸着法、EB(Electron beam)蒸着法、抵抗加熱蒸着法などが挙げられる。
【0054】
高周波プラズマCVD法では、高周波によって電極間に生じるグロー放電により原料ガス(メタン)を分解し、基板上にカーボン層を合成する。イオン化蒸着法では、タングステンフィラメントで生成される熱電子を利用して、原料ガス(ベンゼン)を分解・イオン化し、バイアス電圧によって基板上にカーボン層を形成する。水素ガス1~99体積%と残りメタンガス99~1体積%からなる混合ガス中で、イオン化蒸着法によりカーボン層を形成してもよい。
【0055】
アーク式蒸着法では、固体のグラファイト材料(陰極蒸発源)と真空容器(陽極)の間に直流電圧を印加することにより真空中でアーク放電を起こして陰極から炭素原子のプラズマを発生させ蒸発源よりもさらに負のバイアス電圧を基板に印加することにより基板に向かってプラズマ中の炭素イオンを加速しカーボン層を形成することができる。
【0056】
レーザ蒸着法では、例えばNd:YAGレーザ(パルス発振)光をグラファイトのターゲット板に照射して溶融させ、ガラス基板上に炭素原子を堆積させることによりカーボン層を形成することができる。
【0057】
基板の表面にカーボン層を形成する場合、カーボン層の厚さは、通常、単分子層~100μm程度であり、薄すぎると下地基板の表面が局部的に露出する可能性があり、逆に厚くなると生産性が悪くなるので、好ましくは2nm~1μm、より好ましくは5nm~500nmである。
【0058】
カーボン層が形成された基板の表面に化学修飾基を導入することにより、オリゴヌクレオチドプローブを担体に強固に固定化できる。導入する化学修飾基は、当業者であれば適宜選択することができ、特に制限されないが、例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基および活性エステル基が挙げられる。
【0059】
アミノ基の導入は、例えば、カーボン層をアンモニアガス中で紫外線照射することによりまたはプラズマ処理することにより実施できる。または、カーボン層を塩素ガス中で紫外線を照射して塩素化し、さらにアンモニアガス中で紫外線照射することにより実施できる。または、メチレンジアミン、エチレンジアミンで等の多価アミン類ガス中を、塩素化したカーボン層と反応させることによって実施することもできる。
【0060】
カルボキシル基の導入は、例えば、前記のようにアミノ化したカーボン層に適当な化合物を反応させることにより実施できる。カルボキシル基を導入するために用いられる化合物としては、例えば、式:X-R1-COOH(式中、Xはハロゲン原子、R1は炭素数10~12の2価の炭化水素基を表す)で示されるハロカルボン酸、例えばクロロ酢酸、フルオロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、3-クロロアクリル酸、4-クロロ安息香酸;式:HOOC-R2-COOH(式中、R2は単結合または炭素数1~12の2価の炭化水素基を表す)で示されるジカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、トリメリット酸、ブタンテトラカルボン酸などの多価カルボン酸;式:R3-CO-R4-COOH(式中、R3は水素原子または炭素数1~12の2価の炭化水素基、R4は炭素数1~12の2価の炭化水素基を表す)で示されるケト酸またはアルデヒド酸;式:X-OC-R5-COOH(式中、Xはハロゲン原子、R5は単結合または炭素数1~12の2価の炭化水素基を表す)で示されるジカルボン酸のモノハライド、例えばコハク酸モノクロリド、マロン酸モノクロリド;無水フタル酸、無水コハク酸、無水シュウ酸、無水マレイン酸、無水ブタンテトラカルボン酸などの酸無水物が挙げられる。
【0061】
エポキシ基の導入は、例えば、前記のようにアミノ化したカーボン層に適当な多価エポキシ化合物を反応させることによって実施できる。あるいは、カーボン層が含有する炭素=炭素2重結合に有機過酸を反応させることにより得ることができる。有機過酸としては、過酢酸、過安息香酸、ジペルオキシフタル酸、過ギ酸、トリフルオロ過酢酸などが挙げられる。
【0062】
ホルミル基の導入は、例えば、前記のようにアミノ化したカーボン層に、グルタルアルデヒドを反応させることにより実施できる。
【0063】
ヒドロキシル基の導入は、例えば、前記のように塩素化したカーボン層に、水を反応させることにより実施できる。
【0064】
活性エステル基は、エステル基のアルコール側に酸性度の高い電子求引性基を有して求核反応を活性化するエステル群、すなわち反応活性の高いエステル基を意味する。エステル基のアルコール側に、電子求引性の基を有し、アルキルエステルよりも活性化されたエステル基である。活性エステル基は、アミノ基、チオール基、水酸基等の基に対する反応性を有する。さらに具体的には、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、シアノメチルエステル、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等がアルキルエステル等に比べてはるかに高い活性を有する活性エステル基として知られている。より具体的には、活性エステル基としては、たとえばp-ニトロフェニル基、N-ヒドロキシスクシンイミド基、コハク酸イミド基、フタル酸イミド基、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド基等が挙げられ、特に、N-ヒドロキシスクシンイミド基が好ましく用いられる。
【0065】
活性エステル基の導入は、例えば、前記のように導入したカルボキシル基を、シアナミドやカルボジイミド(例えば、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド)などの脱水縮合剤とN-ヒドロキシスクシンイミドなどの化合物で活性エステル化することにより実施できる。この処理により、アミド結合を介して炭化水素基の末端に、N-ヒドロキシスクシンイミド基等の活性エステル基が結合した基を形成することができる(特開2001-139532)。
【0066】
プローブを、スポッティング用バッファーに溶解してスポッティング用溶液を調製し、これを96穴もしくは384穴プラスチックプレートに分注し、分注した溶液をスポッター装置等によって担体上にスポッティングすることにより、プローブが担体に固定化されたマイクロアレイを製造することができる。または、スポッティング溶液をマイクロピペッターにて手動でスポッティングしてもよい。
【0067】
スポッティング後、プローブが担体に結合する反応を進行させるため、インキュベーションを行うことが好ましい。インキュベーションは、通常-20~100℃、好ましくは0~90℃の温度で、通常0.5~16時間、好ましくは1~2時間にわたって行う。インキュベーションは、高湿度の雰囲気下、例えば、湿度50~90%の条件で行うのが望ましい。インキュベーションに続き、担体に結合していないDNAを除去するため、洗浄液(例えば、50mM TBS/0.05% Tween20、2×SSC/0.2%SDS溶液、超純水など)を用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0068】
以上のように構成されたマイクロアレイを用いることで、診断対象者における、JAK2、CALR及びMPLに存在する上記遺伝子変異について、それぞれの遺伝子変異の有無を同時に判定することができる。
【0069】
具体的に、JAK2、CALR及びMPLに存在する上記遺伝子変異の有無を判定する際には、診断対象者由来の試料からDNAを抽出する工程と、抽出したDNAを鋳型とし、JAK2における上記遺伝子変異を含む領域(JAK2のV617F変異部位を含む領域、エクソン12に含まれる遺伝子変異を含む領域)、CALRにおける上記遺伝子変異を含む領域及びMPLにおける上記遺伝子変異を含む領域をそれぞれ増幅する工程と、上述したマイクロアレイを用いて、増幅された核酸に含まれるJAK2、CALR及びMPLに存在する上記遺伝子変異の有無をそれぞれ検出する工程とを含む。
【0070】
診断対象者は通常ヒトであり、人種等には特に限定されないが、特に、黄色人種、好適には東アジア人種、特に好適には日本人とする。また、診断対象者としては、骨髄増殖性腫瘍が疑われる患者とすることができる。
【0071】
診断対象者由来の試料は特に制限されない。例えば、血液関連試料(血液、血清、血漿など)、リンパ液、糞便、がん細胞、組織または臓器の破砕物および抽出物などが挙げられる。
【0072】
まず、診断対象者から採取した試料からDNAを抽出する。抽出手段としては、特に限定されない。例えばフェノール/クロロホルム、エタノール、水酸化ナトリウム、CTABなどを用いたDNA抽出法を用いることができる。
【0073】
次に、得られたDNAを鋳型として用いて増幅反応を行い、JAK2を含む領域(JAK2のV617F変異部位を含む領域、エクソン12に含まれる遺伝子変異を含む領域)、CALRを含む領域及びMPLを含む領域を増幅する。増幅反応としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法等を適用することができる。増幅反応においては、増幅後の領域を識別できるように標識を付加することが望ましい。このとき、増幅された核酸を標識する方法としては、特に限定されないが、例えば増幅反応に使用するプライマーをあらかじめ標識しておく方法を使用してもよいし、増幅反応に標識ヌクレオチドを基質として使用する方法を使用してもよい。標識物質としては、特に限定されないが、放射性同位元素や蛍光色素、あるいはジゴキシゲニン(DIG)やビオチンなどの有機化合物などを使用することができる。
【0074】
またこの反応系は、核酸増幅・標識に必要な緩衝剤、耐熱性DNAポリメラーゼ、増幅領域に特異的なプライマー、標識ヌクレオチド三リン酸(具体的には蛍光標識等を付加したヌクレオチド三リン酸)、ヌクレオチド三リン酸および塩化マグネシウム等を含む反応系である。
【0075】
本発明に係る遺伝子変異評価用キットは、CALRに存在するタイプ1変異、タイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異を含む領域、すなわち、欠損位置(図1における矢印)を含む領域を増幅するためのプライマーセットを含むことができる。ここで、プライマーセットとは、フォワードプライマーとリバースプライマーとからなる一組のプライマーを意味する。
【0076】
プライマーセットを用いて増幅した欠損位置を含む領域は、上述したミスマッチを有するCARL変異型プローブ(例えば配列番号95、53、54及び55)により検出する。図1に示したように、タイプ1変異、タイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異は、欠損位置の3’側に野生型と同じ配列(図1中下線部)を有している。このため、仮に、タイプ1変異、タイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異について、欠損位置を含んで完全一致となるように設計したプローブを使用した場合、野生型の検体に対しても非特異的にハイブリダイズする可能性がある。
【0077】
これに対して、上述のようにCARL変異型プローブ(例えば配列番号95、53、54及び55)を使用した場合には、当該ミスマッチがあるため野生型との非特異的なハイブリダイズの可能性を低減することができる。したがって、本発明に係る遺伝子変異評価用キットを使用することによって、野生型検体とタイプ1変異を有する検体とを確実に区別して検出することができる。また、本発明に係る遺伝子変異評価用キットを使用することによって、野生型検体とタイプ3変異を有する検体とを確実に区別して検出することができる。また、本発明に係る遺伝子変異評価用キットを使用することによって、野生型検体とタイプ4変異を有する検体とを確実に区別して検出することができる。さらに、本発明に係る遺伝子変異評価用キットを使用することによって、野生型検体とタイプ5変異を有する検体とを確実に区別して検出することができる。
【0078】
以上の説明においては、CALRに存在するタイプ1変異、タイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異を検出するためのミスマッチを有するCARL変異型プローブの設計について説明したが、CALR遺伝子以外の他の変異についても同様に変異型プローブを設計することができる。例えば、所定の長さを超える欠損変異であって、欠損変異後の配列が野生型配列に類似する場合については、同様に変異型プローブを設計することができる。より具体的には、5塩基長以上の欠損変異、好ましくは10塩基以上の欠損変異、プローブとしての好適な塩基長よりも長い欠損変異であって、野生型の塩基配列における欠損位置を含む10塩基以内に、欠損後の配列と2塩基長以上一致する配列がある場合には、一致する配列の一部をミスマッチとするように変異型プローブを設計することができる。
【0079】
なお、CALRに存在するタイプ1変異、タイプ3変異、タイプ4変異及びタイプ5変異を検出するためのミスマッチを有するCARL変異型プローブでは、野生型の塩基配列における欠損位置から5’側に、欠損後の配列と一致する配列があったため、欠損位置の3’側にミスマッチを有するような変異型プローブを設計した、逆に、野生型の塩基配列における欠損位置から3’側に、欠損後の配列と一致する配列がある変異型の場合には、欠損位置の5’側にミスマッチを設定して変異型プローブを設計することができる。
【0080】
ところで、本発明に係る遺伝子変異評価用キットは、JAK2における遺伝子変異を含む領域を増幅するプライマーセットとして、V617F変異を含む領域を増幅するV617F変異用プライマーセットと、JAK2遺伝子のエクソン12に存在する遺伝子変異を含む領域を増幅するエクソン12用プライマーセットを含んでいてもよい。
【0081】
V617F変異用プライマーセットとしては、野生型における617番目のバリンに相当するアミノ酸をコードする領域を特異的に増幅できるものであれば特に制限されず、当業者であれば適宜設計できる。例えば、
フォワードプライマーJAK2-F:5'-GAGCAAGCTTTCTCACAAGCATTTGG-3'(配列番号25)及びリバースプライマーJAK2-R:5'-CTGACACCTAGCTGTGATCCTGAAACTG-3'(配列番号26)からなるセットが挙げられる。
【0082】
ここで、V617F変異用プライマーセットを用いてV617F変異を含む領域を増幅する際には、V617F変異用プライマーセットのうちいずれか一方、例えば蛍光標識を付した方のプライマー(例えばフォワードプライマー)の濃度を1.0μM以上とすることが好ましい。当該プライマーの濃度をこの範囲とすることで、V617F変異を含む領域及びエクソン12に存在する遺伝子変異を含む領域を良好に増幅することができる。なお、当該プライマー濃度の上限としては、特に限定されず、通常の核酸増幅反応におけるプライマー濃度の上限値(例えば10μM)とすることができる。
【0083】
一方、エクソン12用プライマーセットとしては、上述したエクソン12に含まれる複数の遺伝子変異の少なくとも2個、好ましくは3個、より好ましくは4個、更に好ましくは5個、最も好ましくは6個すべてを一括して増幅できるように設計することが好ましい。より具体的に、エクソン12用プライマーセットとしては、図3に示すように、配列番号1に示す塩基配列から選ばれる連続する10塩基以上の長さを有するエクソン12用フォワードプライマーと、配列番号2に示す塩基配列から選ばれる連続する10塩基以上の長さを有するエクソン12用リバースプライマーとすることができる。ここで、配列番号1はエクソン12をコードする塩基配列の178番目から228番目、配列番号2は399番目から435番目であり、いずれも配列番号12の中の部分配列であり、両者の間に上記した6個の遺伝子変異が全て含まれている。
【0084】
さらに具体的に、エクソン12用フォワードプライマーは、配列番号3に示す塩基配列からなるエクソン12用フォワードプライマーF1、配列番号4に示す塩基配列からなるエクソン12用フォワードプライマーF3、配列番号5に示す塩基配列からなるエクソン12用フォワードプライマーF4及び配列番号6に示す塩基配列からなるエクソン12用フォワードプライマーF5からなる群から選ばれる1つのプライマーとすることができる。
【0085】
また、具体的に、エクソン12用リバースプライマーは、配列番号7に示す塩基配列からなるエクソン12用リバースプライマーR1、配列番号8に示す塩基配列からなるエクソン12用リバースプライマーR2及び配列番号9に示す塩基配列からなるエクソン12用リバースプライマーR3からなる群から選ばれる1つのプライマーとすることができる。
【0086】
特に、エクソン12用プライマーセットは、配列番号6に示す塩基配列からなるエクソン12用フォワードプライマーF5と、配列番号8に示す塩基配列からなるエクソン12用リバースプライマーR2の組み合わせとすることがより好ましい。
【0087】
なお、上記したフォワードプライマーF1,F3~F5、およびリバースプライマーR1~R3の塩基配列は、エクソン12をコードする塩基配列上の対応する位置によって表している。そのため、プライマーセットを構成するフォワードあるいはリバースのいずれか一方のプライマーは、配列番号で示した塩基配列の相補鎖となる。後述する実施例においてはすべて、リバース側を相補鎖で作製している。
【0088】
ここで、エクソン12用プライマーセットを用いてエクソン12に含まれる遺伝子変異を含む領域を増幅する際には、エクソン12用プライマーセットのうちいずれか一方、例えば蛍光標識を付した方のプライマー(例えばリバースプライマー)の濃度を2.5μM以上とすることが好ましい。当該プライマーの濃度をこの範囲とすることで、V617F変異を含む領域及びエクソン12に存在する遺伝子変異を含む領域を良好に増幅することができる。なお、当該プライマー濃度の上限としては、特に限定されず、通常の核酸増幅反応におけるプライマー濃度の上限値(例えば10μM)とすることができる。
【0089】
エクソン12用に限らないが、プライマーセットにおけるフォワードの濃度とリバースの濃度は同一でもよいし、異なっていてもよい。異なる場合はいずれか一方が上記濃度条件を満たせばよい。後述する実施例ではJAK2 V617F、エクソン12、CALR、MPLのいずれのプライマーセットにおいても蛍光標識した側のプライマー濃度を高く設定している。
【0090】
また、V617F変異用プライマーセットにおける標識されたプライマーとエクソン12用プライマーセットにおける標識されたプライマーとの濃度比[エクソン12用プライマー濃度]/[V617F変異用プライマー濃度]を1.0~5. 5とすることが好ましい。当該濃度比をこの範囲とすることで、V617F変異を含む領域及びエクソン12に存在する遺伝子変異を含む領域を良好に増幅することができる。
【0091】
CALRにおける上記遺伝子変異を含む領域の増幅反応に用いるプライマーは、上記遺伝子変異を含む領域を特異的に増幅できるものであれば特に制限されず、当業者であれば適宜設計できる。例えば、
プライマーCALR-F:5'-CGTAACAAAGGTGAGGCCTGGT-3'(配列番号27)及びプライマーCALR-R:5'-GGCCTCTCTACAGCTCGTCCTTG-3'(配列番号28)からなるプライマーのセットが挙げられる。
【0092】
MPLにおける上記遺伝子変異を含む領域の増幅反応に用いるプライマーは、上記遺伝子変異を含む領域を特異的に増幅できるものであれば特に制限されず、当業者であれば適宜設計できる。例えば、
プライマーMPL-F:5'-CTCCTAGCCTGGATCTCCTTGG-3'(配列番号29)及びプライマーMPL-R:5'-ACAGAGCGAACCAAGAATGCCTGTTTAC-3'(配列番号30)からなるプライマーのセットが挙げられる。
【0093】
また、プライマーにより増幅される核酸断片は、設計したプローブに対応する領域を含んでいれば特に限定されず、例えば1kbp以下が好ましく、800bp以下がより好ましくは、500bp以下が更に好ましく、350bp以下が特に好ましい。
【0094】
上記のようにして得られた増幅核酸と、担体に固定されたプローブとのハイブリダイゼーション反応を行い、変異型プローブに対する増幅核酸のハイブリダイズを検出することで診断対象者における上記遺伝子変異の有無を評価することができる。すなわち、変異型プローブに対して増幅核酸がハイブリダイズしたことを例えば標識を検出することにより測定できる。
【0095】
標識からのシグナルは、例えば、蛍光標識を用いた場合は、蛍光スキャナを用いて蛍光シグナル検出し、これを画像解析ソフトによって解析することによりシグナル強度を数値化することができる。ハイブリダイゼーション反応は、好ましくはストリンジェントな条件下で実施する。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、50℃で16時間ハイブリダイズ反応させた後、2×SSC/0.2% SDS、25℃、10分および2×SSC、25℃、5分の条件で洗浄する条件をさす。或いは、ハイブリダイズする温度としては、塩濃度が0.5×SSCのとき、45~60℃とすることができ、プローブの鎖長が短い場合にはハイブリダイズ温度をこれより低くすることがより好ましく、鎖長が長い場合にはハイブリダイズ温度をこれより高くとすることがより好ましい。塩濃度が高くなると特異性を有するハイブリダイズ温度は高くなり、逆に塩濃度が低くなると特異性を有するハイブリダイズ温度は低くなることはいうまでもない。
【0096】
また、上述した各遺伝子変異について変異型プローブと野生型プローブとを備えるマイクロアレイを使用した場合、これら変異型プローブ及び野生型プローブからのシグナル強度を用いて上記遺伝子変異の有無を評価することができる。具体的には、野生型プローブにおけるシグナル強度及び変異型プローブにおけるシグナル強度をそれぞれ測定し、変異型プローブに由来するシグナ強度を評価するための判定値を算出する。判定値の算出例としては、例えば、式:[変異型プローブ由来のシグナル強度]/([野生型プローブ由来のシグナル強度]+[変異型プローブ由来シグナル強度])を使用する方法が挙げられる。
【0097】
そして、上記式にて算出される判定値と予め定めた閾値(カットオフ値)とを比較し、判定値が閾値を上回る場合には増幅核酸に上記遺伝子変異が含まれると判断し、判定値が閾値を下回る場合には増幅核酸に上記遺伝子変異が含まれないと判断する。このように判定値を利用することで、上述したJAK2、CALR及びMPLにおける各遺伝子変異の有無を判定することができる。
【0098】
ここで、閾値としては、特に限定されないが、例えば、JAK2、CALR及びMPLに存在する上述した各遺伝子変異が野生型であることが確定している検体を用いて上記式により算出された判定値に基づいて規定することができる。より具体的には、JAK2、CALR及びMPLに存在する上述した各遺伝子変異が野生型であることが確定している複数の検体を用いて複数の判定値を算出し、その平均値+3σ(σ:標準偏差)の値を閾値とすることができる。なお、平均値+2σや平均値+σの値を閾値とすることもできる。
【0099】
以上のように、JAK2、CALR及びMPLに存在する各遺伝子変異を同定するための変異型プローブを備えるマイクロアレイを利用することで、JAK2、CALR及びMPLに存在する各遺伝子変異を同時に同定することができる。JAK2、CALR及びMPLに存在する各遺伝子変異に関する情報は、例えば、WHOによる分類(2016年度バージョン)における骨髄増殖性腫瘍の診断に利用することができる。詳細には、WHOによる分類では、真性赤血球増加症又は真性多血症(polycythemia vera:PV)の診断には、JAK2における上記遺伝子変異が存在することが一つの要件となっている。また、WHOによる分類では、本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)の診断には、JAK2、CALR及びMPLに存在する遺伝子変異のいずれかが存在することが一つの要件となっている。さらに、WHOによる分類では、前線維/早期の原発性骨髄線維症(prefibrotic/early primary myelofibrosis:prefibrotic/early PMF)若しくは原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)の診断には、JAK2、CALR及びMPLに存在する遺伝子変異のいずれかが存在することが一つの要件となっている。
【0100】
このように、例えばWHOによる分類(2016年度バージョン)を利用した骨髄増殖性腫瘍の診断に、JAK2、CALR及びMPLに存在する各遺伝子変異を同定するための変異型プローブを備えるマイクロアレイを利用することができる。
【実施例
【0101】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0102】
[実施例1]
1.サンプル調製
本実施例では、野生型検体として健常人末梢血由来ゲノムDNA(Biochain社製)を用いた。
本実施例では、表1に示した遺伝子変異を検出するため、当該遺伝子変異を含む対象領域(4箇所)をそれぞれ増幅した。
【0103】
【表1】
【0104】
本実施例では、表1に示した4つの対象領域を増幅するため、表2に示したプライマーを設計した。なお、exon12-FはF5であり、exon12-RはR2の相補鎖である。
【0105】
【表2】
【0106】
以上のように調製したDNAサンプルを用いて、JAK2遺伝子、CALR遺伝子及びMPL遺伝子について4つの対象領域をそれぞれPCRにより増幅した。なお、PCRでは鋳型となるゲノムDNAを8又は16ng/μLとした。反応液組成を表3に示した。
【0107】
【表3】
【0108】
そして、PCRのサーマルサイクルを、95℃で5分間の後、95℃で30秒、59℃で30秒及び72℃で45秒を1サイクルとして40サイクル行い、その後、72℃で10分間とし、最終的に4℃を維持した。
【0109】
2.マイクロアレイ
本実施例では、JAK2遺伝子におけるV617F変異並びにエクソン12に含まれる6つの遺伝子変異、CALR遺伝子におけるタイプ1変異~タイプ5変異及びMPL遺伝子におけるW515L/K変異に対応する変異型プローブとこれに対応する野生型プローブを設計した。各プローブの塩基配列を表4にまとめて示した。
【0110】
【表4】
【0111】
3.遺伝子変異の同定
上記プローブを有するチップを用いて以下のようにハイブリダイズを行った。先ず、規定温度(52℃)に設定したチャンバー内に湿箱を載置し、チャンバー及び湿箱を十分予熱しておいた。PCR反応液4μLとハイブリダイズ緩衝液(2.25×SSC/0.23%SDS/0.2 nM IC5標識オリゴDNA(ライフテクノロジーズジャパン社製))2μLを混合し、この溶液を3μLとり、ハイブリカバーの中央凸部の上に滴下して、これをチップに被せ、52℃に設定したハイブリダイズチャンバー装置(東洋鋼鈑社製)で1時間反応させた。ハイブリダイズ反応終了後、ハイブリカバーをはずしたチップをホルダーにセットし、洗浄用ステンレスホルダーを0.1×SSC/0.1% SDS溶液に浸した。上下に数回振動させた後、チップの蛍光強度を検出するまでホルダーを1×SSC溶液(室温)に浸した。
【0112】
検出直前にチップにカバーフィルムを被せ、BIOSHOT(東洋鋼鈑製)でチップの蛍光強度を検出した。以上のように測定した野生型プローブ及び変異型プローブにおける蛍光強度を用い、JAK2の遺伝子変異(V617F変異並びにエクソン12に含まれる6つの遺伝子変異)、CALRの遺伝子変異及びMPLの遺伝子変異について下記式によって判定値を算出した。
判定値=[変異型プローブの蛍光強度]/([野生型プローブの蛍光強度]+[変異型プローブの蛍光強度])
【0113】
[実験例1-1]
本実験例では、CARLに存在する欠損型の遺伝子変異である、タイプ3変異、タイプ4変異又はタイプ5変異を検出するためのCARL変異型プローブを複数設計し、評価した。すなわち、タイプ3変異、タイプ4変異又はタイプ5変異のそれぞれについて、欠損位置(図1中矢印)を含む領域に完全一致する複数のCARL変異型プローブ、当該領域にミスマッチを有する複数のCARL変異型プローブを設計した(表5)。なお、実際に作製したプローブは、設計した配列の相補鎖の5’-側にリンカー(Tの連続部分)を結合したものである。
【0114】
【表5】
【0115】
本実験例では、表5に示した各プローブを用いて、変異モデルサンプル(変異100%プラスミド)に対する蛍光強度及び野生型モデルサンプル(プラスミド)に対する蛍光強度を測定した。その結果を表6に示した。なお、表6中、「特異的蛍光強度*1」が変異モデルサンプルに対する蛍光強度であり、「非特異的蛍光強度*2」が野生型モデルサンプルに対する蛍光強度である。
【0116】
【表6】
【0117】
表6に示したように、欠損型のミスマッチを所定の位置に有するプローブは、特異的蛍光強度*1が高く、非特異的蛍光強度*2が低い、変異型サンプルに対して特異的にハイブリダイズできることが明らかとなった。表6に示したように、特異的蛍光強度*1が10000以上であり、非特異的蛍光強度*2が1000以下となるような変異型サンプルに対して非常に特異的にハイブリダイズできるプローブを設計することができた。さらにまた、設計した変異プローブのうち、特異的蛍光強度*1が15000以上、非特異的蛍光強度*2が500以下となるような、変異型サンプルに対して非常に特異的にハイブリダイズできるプローブを設計することができた(例えばtype3変異プローブ5、type4変異プローブ5、type4変異プローブ7、type5変異プローブ4及びtype5変異プローブ5)。なお、タイプ4変異を同定するためのプローブであるtype4変異プローブ5及びtype4変異プローブ7は、特異的蛍光強度*1の高さからtype4変異プローブ5がより好ましいと言える。また、タイプ5変異を同定するためのプローブであるtype5変異プローブ4及びtype5変異プローブ5は、特異的蛍光強度*1の高さからtype5変異プローブ4がより好ましいと言える。
【0118】
また、表5に示した各プローブを用いて、各変異モデルサンプル(タイプ1変異モデルプラスミド、タイプ2変異モデルプラスミド、タイプ3変異モデルプラスミド、タイプ4変異モデルプラスミド及びタイプ5変異モデルプラスミド)に対する蛍光強度及び野生型モデルサンプル(プラスミド)に対する蛍光強度を測定した。その結果を表7に示した。
【0119】
【表7】
【0120】
表7に示すように、欠損型のミスマッチを所定の位置に有するプローブは、各変異タイプを特異的に検出できることが明らかとなった。表7に示した結果のうち、type3変異プローブ5、type4変異プローブ5及びtype5変異プローブ4を用いて測定した結果をまとめて図2に示した。type3変異プローブ5、type4変異プローブ5及びtype5変異プローブ4の実際に作製したプローブ配列は、表4に示したとおりである。なお、図2には、後述する実験例1-2に示した結果のうち、type1変異プローブ7(実際に作製したプローブ配列は表4)を用いて測定した結果を併せて示した。
【0121】
[実験例1-2]
本実験例では、CARLに存在する欠損型の遺伝子変異であるタイプ1変異を検出するためのCARL変異型プローブを複数設計し、評価した。すなわち、タイプ1変異について、欠損位置(図1中矢印)を含む領域に完全一致する複数のCARL変異型プローブ、当該領域にミスマッチを有する複数のCARL変異型プローブを設計した(表8)。なお、実際に作製したプローブは、設計した配列の相補鎖の5’-側にリンカー(Tの連続部分)を結合したものである。
【0122】
【表8】
【0123】
本実験例では、表8に示した各プローブを用いて、変異モデルサンプル(変異5%プラスミド)に対する蛍光強度及び野生型モデルサンプル(プラスミド)に対する蛍光強度を測定した。その結果を表9に示した。なお、表9中、「特異的蛍光強度*1」が変異モデルサンプルに対する蛍光強度であり、「非特異的蛍光強度*2」が野生型モデルサンプルに対する蛍光強度である。
【0124】
【表9】
【0125】
表9に示したように、欠損型のミスマッチを所定の位置に有するプローブは、特異的蛍光強度*1が高く、非特異的蛍光強度*2が低い、変異型サンプルに対して特異的にハイブリダイズできることが明らかとなった。表9に示したように、特異的蛍光強度*1が15000以上であり、非特異的蛍光強度*2が3000以下となるような変異型サンプルに対して非常に特異的にハイブリダイズできるプローブを設計することができた(type1変異プローブ7)。
【0126】
[実験例2]
本実験例では、JAK2のエクソン12に含まれる6つの遺伝子変異を含む領域を増幅するためのプライマーセットを複数設計し、評価した。設計したプライマーセットは、図3に示した通りである。本実施例では、下記表10に示すプライマーセットについて評価した。表10におけるF1~F5及びR1~R3は図1に対応している。図3に示すように、フォワードプライマーF1、F3~F5は、配列番号1に示した塩基配列の範囲に含まれ、フォワードプライマーF2は当該範囲から外れる位置に設計した(配列番号52)。なお、実験例1及び後述する実験例2では検体として野生型である健常人由来末梢血ゲノムDNAを使用し、野生型プローブの蛍光強度で評価した。
【0127】
【表10】
【0128】
結果を図4に示した。図4から判るように、本実施例で設計したプライマーセットのうち、F2を使用したプライマーセット2以外のプライマーセットを使用した場合に、全ての増幅断片について優れた蛍光強度を達成できることが明らかとなった。これらのセットのうち、全体的に蛍光強度が高いプライマーセット1、4及び5が好ましいと言え、また各解析対象領域間の強度差が比較的小さいプライマーセット1及び5がより好ましいと言える。以下の評価では、表2に示したとおりプライマーセット5(F5とR2の組合せ)を採用した。
【0129】
[実験例3]
図5及び6にPCR反応液に混合したプライマーミックスにおけるプライマーの濃度、V617F変異部位を含む領域を増幅するプライマーセットのうち標識したプライマー(フォワードプライマー)の濃度を横軸とし、増幅した4つの領域に由来する蛍光強度を縦軸とした特性図を示した。また、図7及び8にPCR反応液に混合したプライマーミックスにおけるプライマーの濃度、JAK2 エクソン12を増幅するプライマーセットのうち標識したプライマー(リバースプライマー)の濃度を横軸とし、増幅した4つの領域に由来する蛍光強度を縦軸とした特性図を示した。
【0130】
図5から判るように、V617F変異部位を含む領域を増幅するプライマーセットのうち標識された一方のプライマー濃度0.5μMのとき、蛍光強度12000以上を達成できなかった。また、図6から判るように、V617F変異部位を含む領域を増幅するプライマーセットのうち標識された一方のプライマー濃度が2.5μMであっても、エクソン12を増幅するプライマーセットのうち標識された一方のプライマー濃度が2.0μMのとき、蛍光強度12000以上を達成できなかった。
【0131】
一方、図7から判るように、エクソン12を増幅するプライマーセットのうち標識された一方のプライマー濃度が3.0~4.0μMであっても、V617F変異部位を含む領域を増幅するプライマーセットのうち標識された一方のプライマー濃度が0.5μMのとき、蛍光強度12000以上を達成できなかった。また、図8から判るように、V617F変異部位を含む領域を増幅するプライマーセットのうち標識された一方のプライマー濃度が1.0μM以上であって、エクソン12を増幅するプライマーセットのうち標識された一方のプライマー濃度が2.5μM以上の条件で蛍光強度12000以上を達成できた。
【0132】
図9にPCR反応液に混合したプライマーミックスにおけるプライマーの濃度、エクソン12を増幅するプライマーセットのうち標識したプライマー(リバースプライマー)とV617F変異部位を含む領域を増幅するプライマーセットのうち標識されたプライマー(フォワードプライマー)との濃度比を横軸とし、増幅した4つの領域に由来する蛍光強度を縦軸とした特性図を示した。図9から判るように、上記濃度比が1.0~5.5の範囲にある場合には全ての増幅断片について蛍光強度12000以上を達成できた。
【0133】
[実施例2]
本実施例では、変異モデル検体には、遺伝子解析対象領域の野生型又は変異型配列を搭載した人工遺伝子(プラスミド)を構築し、野生型人工遺伝子と変異型人工遺伝子を任意で混合したものを用い、表11に示した反応液組成で変異検出のためのPCRを行った。
【0134】
【表11】
【0135】
また、本実施例では、PCRの反応液に表12に示したブロッカーオリゴDNAを添加した。ブロッカーは、解析対象遺伝子の変異割合が小さい場合でも十分な検出感度が得られるように、変異検出用プローブの非特異的なハイブリダイズを抑制することを目的として添加されるもので、野生型由来の増幅産物と特異的にハイブリダイズするように設計されている。
【0136】
【表12】
【0137】
なお、本実施例では、全ての解析対象遺伝子領域が野生型である野生型検体(n=9)と、解析対象領域の一部が変異型である変異モデル検体(n=3)を使用し、変異体モデル検体の割合を1%又は5%とした。結果を図10に示した。なお、図10におけるエラーバーは5σである。
【0138】
図10に示したように、1%又は5%の遺伝子変異について全て識別できることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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