(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置、及び、その制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240513BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
A61B5/055 370
G01N24/08 520Y
(21)【出願番号】P 2020140321
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西原 崇
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-099449(JP,A)
【文献】特開平03-258244(JP,A)
【文献】特開2016-010670(JP,A)
【文献】特開2012-161354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の撮像シーケンスに従ってNMR信号を取得する撮像部と、前記撮像部が取得したNMR信号を処理する処理部と、前記撮像部及び前記処理部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、1ないし複数種の撮像タスクを受け付ける受け付け部と、前記受け付け部が受け付けた撮像タスクを実行するために必要な調整項目を判定する調整項目判定部と、前記調整項目判定部の結果に基づき、プリスキャンの実行・不実行を含めたプリスキャン条件を設定するプリスキャン条件設定部と、を備え、
前記調整項目判定部は、前記1ないし複数種の撮像タスクを実行するために必要な調整項目について、その許容値と予め登録されている基準状態とを比較し、プリスキャンの対象となる調整項目を判定し、
前記制御部は、前記プリスキャン条件設定部が決定したプリスキャン条件に従って、プリスキャン及び前記撮像タスクを実施するように前記撮像部を制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記調整項目判定部は、前記1ないし複数種の撮像タスクに含まれる画像種のFOVをもとに、プリスキャンのFOVを設定するFOV設定部を有し、前記FOV設定部が設定したFOVに対して、プリスキャンの対象となる調整項目を判定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記受け付け部は、複数種の撮像タスクを受け付け、
前記FOV設定部は、前記複数種の撮像タスクに含まれる全ての画像種のFOVを包括する範囲を、前記プリスキャンのFOVとして決定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記受け付け部は、複数種の撮像タスクを受け付け、
前記FOV設定部は、前記複数種の撮像タスクを画像種のFOVに基づき、複数のグループに分割し、分割した各グループについて、それぞれ、前記プリスキャンのFOVを設定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記FOV設定部は、画像種のFOVが、全ての画像種のFOVを包括する範囲に対し所定の割合以下である画像種のグループについて、当該グループに属する画像種のうち最もFOVが小さい画像種のFOVを、そのグループに対するプリスキャンのFOVとすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記調整項目は、静磁場不均一及び照射磁場不均一のいずれか1以上を含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記調整項目について、
前記基準状態の値を格納する記憶装置をさらに備
えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
所定の撮像シーケンスに従ってNMR信号を取得する撮像部と、前記撮像部が取得したNMR信号を処理する処理部と、前記撮像部及び前記処理部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、1ないし複数種の撮像タスクを受け付ける受け付け部と、前記受け付け部が受け付けた撮像タスクを実行するために必要な調整項目を判定する調整項目判定部と、前記調整項目判定部の結果に基づき、プリスキャンの実行・不実行を含めたプリスキャン条件を設定するプリスキャン条件設定部と、
前記撮像部が取得した画像のうち、ユーザーが成功画像と判定した画像を蓄積する画像分類・蓄積部とを備え、
前記調整項目判定部は、前記画像分類・蓄積部に蓄積された成功画像の撮像条件をもとに、プリスキャンの対象となる調整項目を判定
し、
前記制御部は、前記プリスキャン条件設定部が決定したプリスキャン条件に従って、プリスキャン及び前記撮像タスクを実施するように前記撮像部を制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記調整項目判定部は、成功画像を学習用データとして学習した機械学習モデルを用いて、プリスキャンの対象となる調整項目を判定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項8に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像分類・蓄積部は、前記撮像部が取得した画像のうち、ユーザーによって外部装置に転送された画像を前記成功画像として蓄積することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
プリスキャンにより調整すべき項目について、ユーザーの指示を受け付けるUI部をさらに備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
撮像前調整のプリスキャンを自動または半自動で実施するための磁気共鳴イメージング装置の制御方法であって、
複数の撮像タスクの画像種について、各画像種のFOVを包括する包括FOVを設定し、
包括FOVについて、プリスキャンで調整される項目が画像種毎に許容される条件を満たしているか否かを判断し、
許容される条件を満たしていない項目について、最も条件が厳しい画像種に合わせて調整するプリスキャンを実施するように制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載の磁気共鳴イメージング装置の制御方法であって、
プリスキャンを含む全撮像タスクの実行が、最短時間となるようにプリスキャンを設定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御方法。
【請求項14】
コンピュータに、
複数の撮像タスクの画像種について、各画像種のFOVを包括する包括FOVを設定するステップと、
包括FOVについて、プリスキャンで調整される項目が画像種毎に許容される条件を満たしているか否かを判断するステップと、
許容される条件を満たしていない項目をリストアップするステップと、
リストアップされた項目について、最も条件が厳しい画像種に合わせて調整するプリスキャン条件を設定するステップと、を実行させることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御プログラム。
【請求項15】
請求項14に記載の制御プログラムであって、
前記判断するステップは、画像種毎に許容される条件を、機械学習によって習得するステップを含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)に係り、特にMRI装置による撮像において事前調整のために行うプリスキャンの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置では、被検体の画像を取得するための撮像(本撮像)を始める前に、システムの設定を撮像の目的に適合するように調整(校正)する必要がある。この設定の校正は、プリスキャンとよばれる。プリスキャンは、撮像方法毎に或いは画像種毎に最適な画質が得られるように行う必要があり、このため、ユーザーは校正すべき内容に応じてプリスキャンを設定し、実行する。調整目的に応じた種々のプリスキャンが提案されている(特許文献1、2等)。
【0003】
例えば、特許文献1には、プリスキャンによって、コイルの感度分布を求める技術が開示されている。また特許文献2には、プリスキャンで得た核磁気共鳴信号から、高周波(RF)コイルによる高周波磁場の分布を取得し、照射ゲイン調整を調整することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-236987号公報
【文献】特開2018-202137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、被検体の撮像は、検査対象となる部位や疾患などに応じて複数の画像種の撮像の組み合わせを予め決めた検査プロトコルに沿って行われる。検査プロトコルでは、例えば、検査対象の位置決めを行うためのスキャンノグラムを取得した後、静磁場不均一を補正するためのシミングや、受信コイルの感度情報を取得するための事前計測(プリスキャン)を行った後、組織のコントラストを異ならせた種々の画像種、例えばT2強調画像、T1強調画像、拡散強調画像などを取得するように、撮像タスクの順序が定められている。画像種によって最適な条件は異なるため、プリスキャンは画像種毎に行うことも多く、検査時間が長時間化するという問題がある。
【0006】
またプリスキャンのシーケンスやパラメータは、操作者が設定するので、熟練度によっては設定があっていない場合もあり、その場合は良好な画像を得られず、再撮像が必要となり検査効率が低下する。操作者の熟練度に依存するのは、検査において取得する画像種、撮像部位、病変の位置、アーチファクト発生源などの判断が難解なためである。
【0007】
本発明は、プリスキャンを可能な限り自動化し、操作者の熟練度によらずに良好な画像を取得可能にするとともに、プリスキャンに係る時間を最短にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、システムに登録されたプロトコル全体から、プロトコルに含まれる撮像タスクの各撮像条件について、システムが備えている基準状態に照らし調整が必須となる条件を判定し、事前計測(プリスキャン)の実施の要否及び実施内容を自動又は半自動で判断する。
【0009】
すなわち、本発明のMRI装置は、所定の撮像シーケンスに従ってNMR信号を取得する撮像部と、撮像部が取得したNMR信号を処理する処理部と、撮像部及び前記処理部の動作を制御する制御部と、を備える。制御部は、1ないし複数種の撮像タスクを受け付ける受け付け部と、受け付け部が受け付けた撮像タスクを実行するために必要な調整項目を判定する調整項目判定部と、調整項目判定部の結果に基づき、プリスキャンの実行・不実行を含めたプリスキャン条件を設定するプリスキャン条件設定部と、を備え、プリスキャン条件設定部が決定したプリスキャン条件に従って、プリスキャン及び撮像タスクを実施するように撮像部を制御する。
【0010】
また本発明のMRI装置の制御方法は、撮像前調整のプリスキャンを自動または半自動で実施するためのMRI装置の制御方法であって、複数の撮像タスクの画像種について、各画像種のFOVを包括する包括FOVを設定し、包括FOVについて、プリスキャンで調整される項目が画像種毎に許容される条件を満たしているか否かを判断し、許容される条件を満たしていない項目について、最も条件が厳しい画像種に合わせて調整するプリスキャンを実施するように制御するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、調整項目を自動又は半自動で判定することにより、プリスキャンの重複した実施を不要とすることができ、最小限の数のプリスキャンを効率的に実施することができる。これにより全検査時間の短縮を図ることができる。またプリスキャンの失敗による再撮像をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明が適用されるMRI装置の全体構成を示すブロック図。
【
図3】実施形態1のMRI装置の撮像の流れを示すフロー図。
【
図4】本発明のMRI装置の実施形態2の機能ブロック図。
【
図5】
図3のフローのステップS303の詳細を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のMRI装置とその制御方法の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
図1に、本発明が適用される典型的なMRI装置の構成を示す。このMRI装置10は、大きく分けて撮像部100、撮像部が取得したNMR信号を処理する処理部110(信号処理部120及び画像処理部130)、及び制御部150を有し、撮像部100は、被検者101が配置される撮像空間に均一な静磁場を発生する磁石102と、撮像空間に傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル103と、被検者101の組織を構成する原子の原子核に核磁気共鳴(NMR)を生じさせる高周波磁場を発生するRFコイル(送信コイル)104と、被検者101から発生するNMR信号を検出するRFプローブ(受信コイル)105とを備えている。被検者101は、通常、ベッド109に横たわった状態で撮像空間に配置される。
【0015】
傾斜磁場コイル103は、X、Y、Zの3方向の傾斜磁場コイルで構成され、傾斜磁場電源108からの信号に応じてそれぞれ傾斜磁場を発生する。RFコイル104はRF送信部106の信号に応じて高周波磁場を発生する。RFプローブ105で受信した信号は、信号検出部107で検出され、信号処理部120で信号処理される。
【0016】
信号処理部120で信号処理された計測データは、計算により画像信号に変換され、画像処理部130で撮像画像に対する演算処理がされ、画像はMRI装置に接続された表示装置に表示される。
【0017】
信号処理部120、画像処理部130及び制御部150の機能の一部または全部は、CPUやGPU及びメモリを備えた計算機あるいはワークステーションで構成することができ、ユーザーとのやり取りを行うための入力装置や表示装置などを備えたUI部170及び計算途中のデータや計算結果である画像などを格納する記憶装置190が備えられている。
【0018】
制御部150は、撮像部100、処理部110(信号処理部120、画像処理部130)、UI部170などを含む装置全体の制御を行う。制御部150が行う制御のうち、撮像部100(傾斜磁場電源
108、RF送信部
106、及び信号検出部
107)の制御は、パルスシーケンスと呼ばれる制御のタイムチャートに従って行われる。パルスシーケンスは、撮像方法に応じて予め基本となるシーケンスが設定されている。撮像方法は、ユーザーが所望の撮像方法を、UI部170(
図2:入力装置171)を介して選択することもできるし、予め検査部位や検査対象疾患などに応じて、一連の撮像方法の実施順序を定めた検査プロトコルを選択することで、複数の撮像方法を設定する場合もある。撮像方法が決まり、ユーザーが、入力装置を介して、パルスシーケンスの生成に必要な撮像条件、一般に撮像パラメータと呼ばれるパラメータの値などを入力すると、制御部150は、パラメータ値と撮像方法によって決まる基本のパルスシーケンスとから撮像に用いるパルスシーケンスを算出し、シーケンサ(不図示)を介して撮像部100の動作を制御する。
【0019】
<実施形態1>
本実施形態のMRI装置10の構成は、上述した典型的なMRI装置の構成を基本として、制御部150が、被検体101の画像を取得する撮像(以下、本スキャンという)の制御に加えて、本スキャンに先立って行うプリスキャンの制御を行うことが特徴である。
【0020】
このような制御部150の機能ブロック図の一例を
図2に示す。図示するように、制御部150は、検査プロトコルを登録するプロトコル登録部151、登録された検査プロトコルに従って撮像部100が撮像を行うように制御する撮像制御部152、及び、プリスキャン設定部155を備える。また図示していないが、制御部150には、画像処理部130が行う画像データのための演算やUI部170の表示装置
172に表示される表示画像を制御する機能なども含まれる。
【0021】
検査プロトコルは、撮像タスクの種類と順序を決めたものであり、プロトコル登録部151は、検査プロトコルを受け付けることにより、1ないし複数種の撮像タスクを受け付ける受け付け部として機能する。
【0022】
プリスキャン設定部155は、撮像制御部152のうち特にプリスキャンを制御する機能であり、撮像タスク毎のプリスキャンの要否の設定、プリスキャンが「要」の場合の条件の設定などを自動的に行う。また必要に応じて、UI部170(入力装置171)を介してユーザーの条件設定を受け付け、半自動的にプリスキャンの条件を設定する。撮像制御部152は、プリスキャン設定部155が設定した条件に従って撮像部100がプリスキャンを実行するように制御する。
【0023】
上述したプリスキャン設定部155を含む制御部150の機能は、制御部150として機能する計算機の記憶装置あるいは外部記憶装置190に、予めプログラムとして格納しておき、それをCPUが読み込むことで実行することができる。機能の一部は、ASICやFPGAなどのハードウェアで実現することも可能である。
【0024】
なお、MRI装置のシステムとしての機能(性能)や特性は、上述したMRI装置を構成する各要素の性能や特性によって決まり制限を受ける。以下の説明では、MRI装置の機能あるいは特性を決定する各要素を総合して「システム」ともいう。
【0025】
次に本実施形態のMRI装置における撮像の概略を、
図3を参照して説明する。
【0026】
まず被検者をMRI装置の検査空間にセッティングし(S300)、被検者情報や検査オーダーを受け付ける(S301)。検査オーダーには、検査部位や疾患に関する情報が含まれ、プロトコル登録部151は、これらの情報から対応する検査プロトコルを選択し、処理すべき撮像タスクを登録する。なお検査プロトコルの選択は自動的に行ってもよいし、ユーザーが入力装置171を介して設定したり編集することも可能である。次いで入力装置171を介して、ユーザーから撮像毎に撮像条件(FOVや撮像パラメータ)を受け付ける(S302)。
【0027】
撮像制御部152は、受け付けた撮像条件をもとに、パルスシーケンスを生成する。このパルスシーケンスの生成に必要な情報を得るために、必要に応じて、事前計測(プリスキャン)を実施する。プリスキャンで得られた情報を元に好適な画像を得られるようにパルスシーケンスを生成する。そこで、まず、プリスキャン設定部155が、撮像毎にプリスキャンの要否及びその条件を自動又は半自動で判断する(S303)。
【0028】
プリスキャン設定部155による判断は、プロトコル全体の撮像条件をもとにして、プリスキャンの時間が再短になるよう行われる。これにより全体としての撮像時間の短縮を図ることができる。ただし、画質が不十分で再撮像とする場合の方が検査効率が悪いので、時間より画質を優先するように判断を行う。或いはユーザーが判断の優先度を明示的に設定可能としても良く、その場合はユーザー設定の優先度に従って判断する。ユーザー設定は、UI部170を介して、ユーザーとの対話形式で選択肢を提示しても良い。
【0029】
またプリスキャンの条件については、撮像部位、画像種、断面などから良好な画質を得るのに必要な調整項目をシステムが自動又は半自動で判断する。良好な画質が得られるか否かの判断基準は、システムが機械学習で変更してもよい。判断の具体的な手法については、後述の実施形態で詳述する。
【0030】
制御部150は設定したプリスキャンを表示装置172に表示し、ユーザーによる確認あるいは変更を受け付けてもよい。
【0031】
ステップS302で、ユーザーにより撮像開始の「START」ボタンが押下されていれば、S303で決定したプリスキャン及びパルスシーケンスで、検査プロトコルに沿って撮像を実行する(S304)。すなわちプリスキャンにより調整項目の調整を行い、調整された条件でパルスシーケンスに従った撮像を行う。
【0032】
撮像完了次第、画像処理部130が画像を生成し、表示装置172に表示したり、記憶装置に格納する(S305)。またユーザーは必要に応じて、画像をレビューした上で所望の画像を、読影システムや医療用画像管理システムPACS(Picture Archiving and Communication Systems)に転送する。撮像が失敗している画像があれば、撮り直しを実施する。
【0033】
さらに転送された画像と転送されずに削除された画像とを用いて、撮像の成功・失敗のユーザー判断を学習させてもよい(S306)。これによりユーザーが許容する画質に関する条件、例えばアーチファクトの程度、分解能、などの条件を蓄積することができ、ステップS303において、プリスキャン設定部155がそれらの条件を調整するためのプリスキャンが必要か否かを判断したり、プリスキャンの条件を設定したりする際に蓄積データを利用することができる。
【0034】
次に、プリスキャン設定部155によるプリスキャン制御の、さらに具体的な実施形態を説明する。
【0035】
<実施形態2>
本実施形態では、複数の画像種のFOVを統合したFOV(iFOV)を設定し、統合FOVにおいて、画像種毎に要求される調整項目が、システムの基準状態に照らしてプリスキャンによる調整が必要か否かを判断する。
【0036】
本実施形態の装置の構成は、上述した実施形態1と同様であるが、
図4に示すように、プリスキャン設定部155は、プロトコル登録部151に登録された検査プロトコルに含まれる撮像タスクで得られる画像種について、それぞれのFOVを包括するFOV(iFOV)を設定するFOV設定部156と、各撮像タスクにおいて調整すべき項目を判定する調整項目判定部157と、調整項目判定部157が判定した調整項目をもとにプリスキャンの条件を設定するプリスキャン条件設定部158とを備えている。調整項目判定部157は、システムの基準的な状態を参照して、調整が必須となる調整項目を判断する。さらに、MRI装置がPACS20等の外部装置に接続されている場合には、PACS20等に転送された画像や転送されなかった画像を分類し、蓄積する画像分類・蓄積部159を備える場合もある。
【0037】
以下、本実施形態の、主として、プリスキャン設定部155の動作(
図3:ステップS303)の流れを説明する(
図5)。なお、撮像のフローは、
図3と同様であり、以下、適宜、
図3を参照する。
【0038】
[S301、S302]
まず撮像開始に際し、被検者情報や検査オーダーを受け付けるステップS301では、入力装置171を介して入力された情報から、頭部、腹部、膝などの検査部位情報を判断する。検査部位情報の判断は、ユーザーによる入力情報の代わりに、MRI装置で事前に取得した画像や、プロファイル画像から判断する技術(例えば、本出願人による特願2019-185131号)や、カメラなど別の装置で取得した情報から判断する技術(例えば、特開2009-398号公報)などのより簡便なシステムで行ってもよい。
【0039】
プロトコル登録部151は、検査オーダーとして入力された情報から、複数画像種の撮像条件が組み合わされている検査プロトコルを予め登録されているリストから選択する。この際、被検者の体型や撮像目的に合わせて修正してもよい。検査プロトコルの選択や修正は、ユーザーがUI部170を介して行ってもよいし(S302)、制御部150が自動的に行ってもよい。
【0040】
腹部検査の検査プロトコルの一例を
図6に示す。この例では、10の撮像タスクが含まれ、そのうち2つは、静磁場不均一調整のプリスキャン(#2)、照射感度調整のプリスキャン(#3)である。本撮像としてはT2強調撮像、MRCP(胆管膵管撮像)、T1強調撮像、DWI(拡散強調撮像)などが含まれている。
【0041】
[S303]
ユーザーがSTARTボタンを押下したタイミングで、プリスキャン設定部155は、上記ステップS301で設定された検査プロトコルの中から、必要なプリスキャンを自動または半自動で選択する。本ステップの詳細を、
図5に示す。
【0042】
[S303-1]
まずFOV設定部156が、検査プロトコルに含まれる本撮像の画像種における撮像範囲を確認し、すべての画像種の撮像範囲を含む範囲をiFOVとして登録する。検査プロトコルに含まれる画像種のうち本撮像の画像種であるか否かの判断は、ステップS301で、事前に設定された撮像条件から自動で判断する。判断基準は脂肪抑制パルス、IRパルスなどプリパルスの有無と種類、ベースになるシーケンス種、TR、TE、FAなどの撮像パラメータ、撮像断面、撮像位置などで判断する。
【0043】
[S303-2]
次に調整項目判定部157が、検査プロトコルに含まれる全ての撮像条件(プリパルスなどの撮像条件を含む)の中で、静磁場不均一、照射不均一などそれぞれの項目(調整項目)に対して最も高い精度が必要とされる条件を抽出し、調整項目毎に静磁場不均一(ΔB0max)、照射不均一(ΔB1max)などとして登録する。
【0044】
このため、各画像種に許容される静磁場均一度、照射均一度、感度分布範囲、分解能などの条件を、予め登録(例えば、記憶装置190に格納)しておき、条件毎に許容される値が最も厳しい値となる画像種の許容値を上述の「ΔB0max」や「ΔB1max」として登録する。これらの許容値は、定数として登録してもよいし、FOVやその他の撮像条件から求めるための計算式として、登録してもよい。計算式として、例えば、静磁場不均一は磁場中心からの距離rに対して2次、または4次の関数となるので、r=(FOV+オフセンター量)とした場合、ΔB1max=Ar4+Br3+Cr2+Dr+Eとする。
【0045】
また、許容される閾値(例えば静磁場均一度や照射均一度の閾値)やアーチファクトの程度は、病院や検査者によって異なる可能性があるため、過去の実績からデータを蓄積し、学習することも可能である。例えば、ステップS305で、ユーザーが取得した画像をPACSや読影システムに転送する場合は、位置決め画像やプリスキャン画像などを除外して残った画像のうち、撮像に失敗した画像は削除し、成功した画像のみを転送する。この際、画像分類・蓄積部159は、転送された画像を成功した画像(学習用画像)として蓄積する(ステップS306)。調整項目判定部157は、画像分類・蓄積部159に蓄積した成功画像から、許容される閾値やアーチファクトの程度を画像の特徴量として抽出し、調整すべき項目の判断に用いる。例えば、脂肪抑制不良の失敗画像が発生した場合、当該画像の実測のΔB1とΔB0の値を、転送された画像と比較し、転送された正解画像に対して差分がある場合、その差をプリスキャンで許容する制限値に反映させる。このように成功画像を用いた学習結果を利用することにより、MRI装置のユーザーが求める画質に合わせた調整が可能となる。なお、成功画像を用いて許容値を判断する学習は、公知のCNN等を用いて行うことができ、MRI装置のシステム内で行ってもよいし、MRI装置とは別のシステムで行い、学習結果をMRI装置に戻してもよい。
【0046】
[S303-3、S303-4]
次いで、調整項目判定部157は、ステップS303-2で登録したiFOVの静磁場不均一(ΔB0max)、照射不均一(ΔB1max)などが、システムの基準状態を超えているか確認し(S303-3)、超えている項目をリストアップする(S303-4)。静磁場不均一や照射不均一などの特性は、プリスキャン後の調整によって調整可能な特性であるが、基本的にはMRI装置の静磁場発生磁石102や、RFコイル104及びやRF送信部106などシステム側の特性によって決まり、システムの基準状態として予めシステム内に保持しておく。保持する値は、据付調整時の値を反映しても良いし、内部的な固定値としても良い。
【0047】
またユーザー側の判断で左右される調整項目については、学習によって正解画像が得られるものとして抽出された調整項目の値を登録しておき、それを基準としてもよい。
【0048】
[S303-5]
プリスキャン条件設定部158は、ステップS303-4でリストアップされた基準値を超えている項目のプリスキャンを、実施すべきプリスキャンとし、それ以外の調整項目についてのプリスキャンは不実施とする。また実施すべきプリスキャンについて、その撮像条件として、撮像範囲をiFOVとし、分解能を設定する。分解能は、撮像部位毎に要求される分解能を内部的な値として保持しておき、ステップS301で入力された撮像条件等で決まる撮像部位をもとに、その撮像部位の内部的な値を適用する。
【0049】
[S304]
撮像制御部152は、ステップS303で決定したプリスキャンを実行し、続いて、検査プロトコルで決まる各画像種の撮像を順次実行する。プリスキャンでは、検査プロトコルに含まれる画像種のFOVを全てカバーするiFOVを撮像範囲として、画像種中、最も厳しい条件を調整するプリスキャンが実行される。例えば、調整項目が照射不均一であれば、前掲の特許文献2に開示されるような技術を用いて、RF分布の計測と照射ゲイン調整を行うことができる。
【0050】
またリストアップされなかった項目については、全ての画像種について、システムの基準状態が許容される範囲を満たしているので、プリスキャンを行うことなく本撮像を実行する。
【0051】
本実施形態によれば、調整が不要な項目についてのプリスキャンを実施しないことで、検査時間を短縮することができる。また検査プロトコルに含まれる全画像種のFOVをカバーするiFOVでプリスキャンを実施することで、画像種毎にプリスキャンする必要がなく、検査時間を短縮することができる。
【0052】
従来技術と本実施形態とを比較した場合の本実施形態の効果を、
図7を参照して説明する。
図7(b)に示すように、従来技術では、プリスキャンとして、静磁場不均一調整(B0シミング)と照射感度調整(S-Map設定)を行った後、撮像タスクごとに設定されたFOVの撮像を行う。B0シミングやS-Map設定では、各設定や部位毎に制限があるので、調整された領域が一致しない場合には、エラーで検査中断になったり画質不良で再撮像になったりする。これに対し、本実施形態では
図7(a)に示すように、包括的なiFOVを設定し、これについて、B0シミングやS-Map設定等の自動プリスキャンによる設定を行うので、エラーの発生や再撮像の可能性を低減することができる。
【0053】
なお
図5に示す例では、ステップS303-2で、調整項目毎にプリスキャンをリストアップ(要否判断)することとしたが、調整項目によっては、プリスキャンの時間が極めて短いものもあり、その項目については、本ステップによる判断不要としても良い。
【0054】
また本実施形態では、プリスキャンを実施するか否かを、システムの基準状態が画像種に許容される条件を満たしているか否かで自動的に判断する場合を説明したが、ユーザーによる指定を受け付ける機能を追加してもよい。例えば、上述した各ステップで、予め装置内に保持しているとした固定値や内部的な値などをユーザーが変更したり、入力したりする構成としてもよい。またステップS303-5で実行するプリスキャンとその条件を設定した後に、それを表示装置172に表示させて、条件の変更を受け付けてもよい。
【0055】
さらに検査プロトコルの修正や撮像パラメータ等の設定を受け付けるステップS301において、
図6に示したような、撮像タスクをリストした検査プロトコルを表示し、検査において重要な画像種を得る撮像についてユーザーの指定を受け付けて、その撮像に特化したプリスキャンを実施するようにしてもよい。このようなユーザー設定を受け付けることで、半自動的なプリスキャン設定となるが、ユーザーの自由度を高めることができる。
【0056】
<実施形態3>
実施形態2では、プリスキャンの条件として、全ての画像種のFOVをカバーするiFOVを撮像範囲とし、撮像部位によって決まる分解能をパラメータとして設定したが、本実施形態では、分解能を、広いiFOVで一定とするのではなく、領域によって変更する。分解能を、領域によって異ならせる場合としては、例えば、テーブルを移動させて被検者の体軸方向に沿って複数の画像を取得するような撮像の場合、撮像する位置によって局所的に高分解能の画像を取得する場合がある。このような、局所的に高分解能画像を取得する撮像では、RF照射分布や静磁場分布も細かい調整が必要となる。
【0057】
本実施形態においても制御部150の機能ブロック図は
図4と同様であり、以下、実施形態2と異なる点を中心に、本実施形態におけるプリスキャン条件設定を説明する。
図8は本実施形態によるステップS303の詳細を示すフローである。
図8において、
図5と同じ処理は同じ符号で示し重複する説明は省略する。
【0058】
本実施形態においても、まず設定された検査プロトコルに含まれる全ての画像種のFOVを含む範囲をiFOVとして設定する(S303-11)。次いで、iFOVを撮像範囲としてプリスキャンする場合の分解能とは異なる分解能でプリスキャンする画像種のFOVを設定する(S303-12)。
【0059】
図8に示す例では、個々の画像種のFOVの大きさによって、画像種をグループ分けして、グループ毎に設定したFOV、分解能でプリスキャンを実施する。例えば、ステップS303-12では、各画像種のFOVがステップS303-11で登録したiFOVの所定の割合(α・iFOV)未満か否かを判断し、所定の割合未満であるFOVの最小値を、minFOVとして登録する。割合αは、入力装置171を介してユーザーの指定を受け付けてもよいし、システム内で所定の値を保持していてもよい。
【0060】
次いで検査プロトコルに含まれる画像種を、(α・iFOV)未満のグループG1と、(α・iFOV)以上のグループG2に分けて、登録する(S303-13)。
【0061】
グループ毎に、実施形態2のステップS303-2と同様に、グループ内の全ての撮像条件(プリパルスなどの撮像条件を含む)のうち、最も高い精度が必要とされる条件を抽出し、調整項目毎に静磁場不均一(ΔB0max)、照射不均一(ΔB1max)などとして登録する(S303-2)。
【0062】
その後のステップS303-3~S303-5も実施形態2と同様であるが、グループ毎に、システム基準状態との比較を行い、プリスキャンすべき項目をリストアップし、グループ毎にプリスキャン条件を設定する。FOVが(α・iFOV)以上のグループG2では、プリスキャンの撮像範囲をステップS303-11で登録されたiFOVとし、撮像部位によって予め決められた分解能でプリスキャンを実施する。FOVが(α・iFOV)未満のグループG1では、プリスキャンの撮像範囲をminFOVとし、撮像部位で決まる分解能よりも高い分解能でプリスキャンを実施する。G2よりも高い分解能にするには、マトリクスサイズを固定することでFOVに対応して変化させてもよいし、マトリクスサイズも変化させてもよい。或いはminFOVとなる画像種の分解能を設定してもよい。
【0063】
なお
図8では、グループ分けの基準として、iFOVに対するFOVの大きさを用い、自動的に判断する場合を示したが、例えば、ユーザーによる検査プロトコルの修正や撮像パラメータ設定を受け付けるステップS302において、検査プロトコルに含まれる撮像のうち、重要度の高い1ないし複数の撮像の指定を受け付けて、それを一つのグループとしてプリスキャンの条件を設定してもよい。また実施形態1で説明したユーザーによる固定値の入力或いは変更、プリスキャンの変更は本実施形態でも採用することが可能である。
【0064】
本実施形態によれば、実施形態1、2と同様の効果に加えて、検査プロトコルで取得される画像種に要求される分解能に合わせて、プリスキャンの条件を設定するので、プリスキャンによる適切な調整を行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
10:MRI装置、100:撮像部、101:被検者、102:静磁場発生磁石、103:傾斜磁場コイル、104:RFコイル(送信コイル)、105:RFプローブ(受信コイル)、106:RF送信部、107:信号検出部、108:傾斜磁場電源、109:ベッド、110:処理部、120:信号処理部、130:画像処理部、150:制御部、170:UI部、171:入力装置、172:表示装置、190:記憶装置、151:プロトコル登録部、152:撮像制御部、155:プリスキャン設定部、156:FOV設定部、157:調整条件判定部、158:プリスキャン条件設定部、159:画像分類・蓄積部、20:PACS