(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】摩擦ダンパーおよび免震建物
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240513BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240513BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
F16F15/02 E
E04H9/02 331E
F16F15/02 L
F16F7/08
(21)【出願番号】P 2020170573
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】劉 銘崇
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-042222(JP,A)
【文献】特開2000-179616(JP,A)
【文献】特開平10-037520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
F16F 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と、該下部構造体に対して相対的に移動自在な上部構造体と、に接続され、軸方向を水平方向に向けて配置される軸変位依存型の摩擦ダンパーであって、
前記上部構造体に取り付けられた第1鋼板と、
前記下部構造体に取り付けられ、前記第1鋼板に前記軸方向に直交する板厚方向に重なるように配置された第2鋼板と、
前記第1鋼板および前記第2鋼板のうちいずれか一方
の他方側を向く面に設けられ、前記軸方向に沿って複数の摩擦係数に設定された摩擦材と、
前記他方に設けられ、前記第1鋼板および前記第2鋼板の水平方向の相対変位により前記摩擦材との間で摩擦力を発生させて接触する摺動部と、を備え、
前記第1鋼板と前記第2鋼板とが前記軸方向に軸変位したときの前記摩擦材と前記摺動部との間で生じる摩擦力は、軸変位に概ね比例して増大する第1摩擦力と、一定の軸変位を超えると一定となる第2摩擦力と、を得るように設定されていることを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項2】
前記摩擦材は、前記軸方向の中央部から前記軸方向の両側に離れるに従い、前記摩擦係数が大きくなるように設定され、
地震力が作用しない軸変位が0となるときの前記摺動部は、前記摩擦材の中央部となるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の摩擦ダンパー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の摩擦ダンパーを備えた免震建物であって、
前記摩擦ダンパーに併設され、前記下部構造体に対して相対的に移動自在な前記上部構造体の水平方向の変位量の増加に応じて鉛直方向上方の移動量が増加するように前記上部構造体を支持する傾斜滑り支承を備えていることを特徴とする免震建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦ダンパーおよび免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、
図20に示すような一般的な摩擦ダンパー100は、外筒101から内筒102に締付力(図中の符号T)を加え、外筒101と内筒102との間の相対変位と接触面の摩擦力(図中の符号M)による履歴吸収エネルギーで地震エネルギーを吸収するものである。この場合には、締付力が一定で、内筒と外筒との間の摩擦係数も一定であれば、その復元力特性は、
図21(a)に示すように、変位の増減に依存せず摩擦力が一定の矩形となる。
【0003】
一方、既往技術として、変位依存型の摩擦ダンパーも提案されている(例えば、特許文献1参照)。変位依存型の摩擦ダンパーの復元力特性は、
図21(b)に示すように、変位が増加すると共に摩擦力が増大する特徴があり、変位が小さい中小地震時には小さな摩擦力となり、変位が大きくなると大きな摩擦力を生じることなる。すなわち中小地震時には、変位依存型の摩擦ダンパーを免震層に設置した構造物の応答加速度は、最大摩擦力を同一にした従来の変位依存しない摩擦ダンパーを設置した構造物の応答加速度より小さくなる。一方、大地震時には、変位依存型の摩擦ダンパーを設置した構造物の応答変位や応答加速度は、従来の変位依存しない摩擦ダンパーを設置した構造物の応答変位や応答加速度と同等になる。
このような変位依存型の摩擦ダンパーとして、傾斜滑り支承と
図22に示すような鉛直変位依存型の摩擦ダンパー110を免震層に設置し、免震層変位の大きさに応じて減衰量を変化できる免震システムが提案されている。この免震システムは、傾斜滑り支承の水平方向変位の増加に伴い鉛直方向変位が増加する特性を利用した原理となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の傾斜滑り支承と鉛直変位依存型の摩擦ダンパーを免震層に備えた免震システムでは、以下のような問題があった。
すなわち、例えば、傾斜滑り支承の傾斜勾配が約0.026(=tan1.5°)で、水平変位が500mm時の鉛直方向変位は、僅か13mmしかなく、僅かな鉛直変位(0mm~13mm)の変化の間に減衰力の高い追従性が求められる。そのため、鉛直変位依存型の摩擦ダンパーの製造にあたっては、高精度で材料のばらつきを抑制することと、施工にあたっては高精度に水平設置することが求められており、その点で改善の余地があった。
【0006】
また、鉛直変位依存型の摩擦ダンパーの設置位置について、免震構造の上部と非免震構造との間に設置する場合には、ダンパーを設置する上部構造体と下部構造体には十分な水平剛性が必要となる。この水平剛性が不足すると、免震層の水平変位に比例した鉛直変位が得られず、変位依存型の摩擦ダンパーの効果を発揮できなくなるという問題があった。
また、免震構造の下部に設置する場合には、構造体から片持ち形式で延伸した部材で摩擦ダンパーを支持することになるため、免震構造の上部に設置した場合よりも免震構造体による鉛直剛性が不足し、設置位置部材の弾性変位もあるため、鉛直変位依存型の摩擦ダンパーの効果が発揮しにくい。そのため、免震クリアランスも水平移動に必要なクリアランスの倍程度を設ける必要があった。
【0007】
また、上述した特許文献1に記載される変位依存型の摩擦ダンパーは、シリンダーの内面において、摩擦材を取り付けることで中立軸からの距離に応じて摩擦抵抗力を変化させようとするものである。しかし、接触板が円筒状の場合には、くさびによってシリンダーの内面に接触板を押し付けることができないことから、接触板は円周方向に分割することになる。ところが、分割されると接触板には摩擦力により回転が生じるため、シリンダーの内面との接触面圧が一定に保持されなくなる。そのため、摩擦抵抗力も計画通りに発揮されず、面圧が過大になった場所では摩擦材が損傷してしまう可能性もある。
また、特許文献1では、くさびをばねで押し付ける形態としているため、ばねにダンパーの摩擦力以上のプレロードをかけておく必要がある。すなわち、ばねにダンパーの摩擦力以上のプレロードを付与することができない場合には、摩擦ダンパーのロッドに引張力が作用した場合と圧縮力が作用した場合とでくさびに作用する力が変わり、摩擦材の面圧が変化して摩擦力も正負軸力で異なってしまう。プレロードは、ばねを予め圧縮して与えることになるので組立後には調整できず、くさびや接触板を含めて高い寸法精度が要求されシリンダーの内面に取り付ける摩擦材の内径も高精度に管理する必要がある。そのためこの形態ではコストが増大することから、採用しにくいという問題があった。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、高い製造精度が不要で製作や設置施工が容易であり、かつ中小地震から大地震まで変位に追従する摩擦力にて揺れを効果的に低減し、中小地震時には免震建物の加速度増加を抑制しつつ、大地震時には過大変位に対して一定の抵抗力による抑制を図ることができる摩擦ダンパーおよび免震建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る摩擦ダンパーは、下部構造体と、該下部構造体に対して相対的に移動自在な上部構造体と、に接続され、軸方向を水平方向に向けて配置される軸変位依存型の摩擦ダンパーであって、前記上部構造体に取り付けられた第1鋼板と、前記下部構造体に取り付けられ、前記第1鋼板に前記軸方向に直交する板厚方向に重なるように配置された第2鋼板と、前記第1鋼板および前記第2鋼板のうちいずれか一方の他方側を向く面に設けられ、前記軸方向に沿って複数の摩擦係数に設定された摩擦材と、前記他方に設けられ、前記第1鋼板および前記第2鋼板の水平方向の相対変位により前記摩擦材との間で摩擦力を発生させて接触する摺動部と、を備え、前記第1鋼板と前記第2鋼板とが前記軸方向に軸変位したときの前記摩擦材と前記摺動部との間で生じる摩擦力は、軸変位に概ね比例して増大する第1摩擦力と、一定の軸変位を超えると一定となる第2摩擦力と、を得るように設定されていることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る免震建物は、上述した摩擦ダンパーを備えた免震建物であって、前記摩擦ダンパーに併設され、前記下部構造体に対して相対的に移動自在な前記上部構造体の水平方向の変位量の増加に応じて鉛直方向上方の移動量が増加するように前記上部構造体を支持する傾斜滑り支承を備えていることを特徴としている。
【0011】
本発明では、第1鋼板と第2鋼板とが軸方向(水平方向)に軸変位したときの摩擦材と摺動部との間で生じる摩擦力が、軸変位に概ね比例して増大する第1摩擦力と、一定の軸変位を超えると一定となる第2摩擦力と、を得るように設定されているので、軸変位が増加すると摩擦力が増大する軸変位依存型の摩擦ダンパーを実現することができる。すなわち、本発明の摩擦ダンパーでは、物理的な勾配等ではなく、複数の摩擦係数が組み合わせされた摩擦材とすることによって変位依存型の履歴特性をもたせることができる。
したがって、巨大地震が生じた際には、一定変位を超えたら抵抗力を一定にしているのでフェイルセーフになり、過大変位だけでなく加速度による損害も抑制することができる。そして、長周期地震動であっても傾斜滑り支承の残留変位はほぼ生じないことから、地震後であっても直ぐに継続使用することができる。
【0012】
また、本発明では、摩擦ダンパーが水平軸変位抵抗型のダンパー部材であるため、鉛直変位依存型の摩擦ダンパーのような高い製造精度や製造材料のばらつきの抑制が必要なく、製作しやすいという効果がある。摩擦材に圧縮力を付与するボルトが鋼板の外側から締め付けられるので、摩擦ダンパーの組立後に摩擦力を調整することも容易である。
【0013】
本発明による摩擦ダンパーは、軸抵抗型のダンパーであるため、滑り支承と異なり自重により摩擦抵抗力が変化しない構造となる。そのため、水平方向の軸方向とこの軸方向に直交する方向の二方向それぞれに摩擦抵抗力を任意に設定することができる。
さらに、摩擦ダンパーが水平軸変位抵抗型のダンパーであるため、免震構造体下部の免震層に設置することができ、免震構造体の上部への設置の必要がなく、簡単な構造にできる。
【0014】
また、本発明では、上部構造体の上下変位に依存しない摩擦ダンパーと傾斜滑り支承とを組み合わせることにより、地震波の種類による影響がなく、高い免震効果が得られる免震建物を実現できる。とくに、長周期地震動に対して、応答加速度も応答変位も従来の天然ゴム(積層ゴム)支承よりも低減することができ、従来の免震よりも効果的である。
【0015】
また、本発明に係る免震建物は、前記摩擦材は、前記軸方向の中央部から前記軸方向の両側に離れるに従い、前記摩擦係数が大きくなるように設定され、地震力が作用しない軸変位が0となるときの前記摺動部は、前記摩擦材の中央部となるように配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の摩擦ダンパーおよび免震建物によれば、高い製造精度が不要で製作や設置施工が容易であり、かつ中小地震から大地震まで変位に追従する摩擦力にて揺れを効果的に低減し、中小地震時には免震建物の加速度増加を抑制しつつ、大地震時には過大変位に対して一定の抵抗力による抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態による摩擦ダンパーと傾斜滑り支承を建物に備えた免震建物の構成を示す概略図である。
【
図2】傾斜滑り支承の構成を示す図であって、(a)は
図1に示す傾斜滑り支承を拡大した図、(b)は軸方向から見た図である。
【
図3】
図1に示す摩擦ダンパーの構成を示す側面図である。
【
図5】
図3に示すA-A線矢視図であって、摩擦ダンパーを摩擦材側から見た平面図である。
【
図6】摩擦ダンパーの端部処理状態を示す図であって、(a)は摩擦板の図、(b)は中板の摺動部の図である。
【
図7】(a)~(f)は、摩擦ダンパーの各段階を示す側面図である。
【
図8】摩擦ダンパーの復元力特性を示す図であって、締付力と軸変位の関係を示す図である。
【
図9】摩擦ダンパーの復元力特性を示す図であって、摩擦係数と軸変位の関係を示す図である。
【
図10】摩擦ダンパーの復元力特性を示す図であって、締付力と軸変位の関係を示す図である(各段階を示す)。
【
図11】(a)、(b)は、実施例による解析モデルを示す図である。
【
図12】実施例による摩擦ダンパーの復元力図である。
【
図13】(a)~(c)は、実施例による地震波図を示す図である。
【
図14】(a)~(c)は、告示神戸波で実施例ケースの解析結果を示す図である。
【
図15】(a)~(c)は、告示神戸波で比較例ケースの解析結果を示す図である。
【
図16】(a)~(c)は、告示関東波で実施例ケースの解析結果を示す図である。
【
図17】(a)~(c)は、告示関東波で比較例ケースの解析結果を示す図である。
【
図18】(a)~(c)は、告示八戸波で実施例ケースの解析結果を示す図である。
【
図19】(a)~(c)は、告示八戸波で比較例ケースの解析結果を示す図である。
【
図20】従来の摩擦ダンパーの構成を示す図である。
【
図21】従来の復元力特性を示す図であって、(a)は摩擦ダンパーの図、(b)は変位依存性ダンパーの図である。
【
図22】従来の鉛直方向変位依存型の摩擦ダンパーの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態による摩擦ダンパーおよび免震建物について、図面に基づいて説明する。
【0019】
本実施形態による免震建物1は、
図1に示すように、免震対象の建物20(上部構造体)と、建物20を免震する免震システム3と、を備えている。
建物20は、免震対象となる構造体と、構造体を支持する基礎21(下部構造体)と、を備える。免震システム3は、建物20の下部を支持する傾斜滑り支承4と軸変位型の摩擦ダンパー5とを備えている。
【0020】
建物20は、箱状に形成されている。建物20は、下部構造体となる基礎21と別体に形成されている上部構造体である。建物20は、1階分のフロアであってもよいし、内部に複数のフロアを有していてもよい。建物20は、傾斜滑り支承4及び軸変位型の摩擦ダンパー5を介して基礎21に対して移動自在に支持されている。
【0021】
基礎21は、地盤側に構築されている例えば鉄筋コンクリート製の下部構造体である。基礎21は、地震時に地盤と連動して変位する。基礎21は、建物20を下方より支持する土台が形成されたものである。
【0022】
次に、免震システム3の傾斜滑り支承4の構成について説明する。
図1に示すように、傾斜滑り支承4は、建物20を鉛直方向に支持しつつも水平方向に柔軟に変位させることができる免震機構である。傾斜滑り支承4は、地盤に設けられた基礎21に対して相対的に移動自在な建物20の水平方向の移動量の増加に応じて鉛直方向上方の移動量が増加するように建物20を支持する。
傾斜滑り支承4は、基礎21と建物20との間に設けられている。基礎21と建物20との間には、例えば、建物20の四隅を支持するために4個(
図1では1個のみが示されている)の傾斜滑り支承4が設けられている。なお、傾斜滑り支承4は、4個以上設けられていてもよい。
【0023】
図1及び
図2(a)、(b)に示すように、傾斜滑り支承4は、例えば、基礎21上に支持部24を介して設けられた下側傾斜支持部材4Aと、建物20の底面20aに固定された上側傾斜支持部材4Bと、下側傾斜支持部材4Aおよび上側傾斜支持部材4Bの間に設けられた移動部材4Cと、を備えている。
下側傾斜支持部材4Aと上側傾斜支持部材4Bとは、それぞれ矩形断面の棒状に形成され、平面視して長手方向が直交するように配置されている。基礎21と建物20とは、傾斜滑り支承4を介して水平方向に相対的に移動自在に構築されている。基礎21と建物20の底面20aとは、水平方向の相対変位の変位量に応じて鉛直方向上方に相対変位が生じる。
【0024】
下側傾斜支持部材4Aは、長手方向が建物20の一辺に沿った方向に配置されている。下側傾斜支持部材4Aは、長手方向に直交する方向から側面視して上面の中央部から両端部に向かうほど上方に跳ね上がるように傾斜するV字状の第1傾斜面4a、4aが形成されている。第1傾斜面4aの水平面に対する傾斜角θは、絶対値がそれぞれ所定値になるように形成されている。第1傾斜面4aの表面には、摩擦係数を低減させるためのポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene:PTFE)、いわゆるテフロン(登録商標)等の樹脂製の滑り材がコーティング加工されている。第1傾斜面4aの表面は、ステンレス製の鋼板等の滑り材が貼り付けられていてもよい。
【0025】
第1傾斜面4aには、移動部材4Cが載置されている。移動部材4Cは、ブロック状に形成されている。移動部材4Cは、
図2(a)に示すように、下側傾斜支持部材4Aの短手方向から見て下側傾斜支持部材4Aより幅が広くなるように形成されている。移動部材4Cの下方には、下側傾斜支持部材4Aの短手方向から見て下側傾斜支持部材4Aが幅方向に挟持されて嵌るように段差が形成されている。
【0026】
移動部材4Cは、
図2(b)に示すように、段差内に中央部に向かうほど下方に突出するようにV字形の第3傾斜面4c、4cが形成されている。第3傾斜面4cの表面には、摩擦係数を低減させるためのテフロンなどの滑り材が貼り付けられている。第3傾斜面4cの水平面に対する傾斜角θは、絶対値がそれぞれ所定値になるように形成されている。第3傾斜面4cは、第1傾斜面4aに当接している。
【0027】
移動部材4Cは、上側傾斜支持部材4Bの短手方向から見て上側傾斜支持部材4Bより幅が広くなるように形成されている。移動部材4Cの上方には、上側傾斜支持部材4Bの短手方向から見て上側傾斜支持部材4Bが幅方向に挟持されて嵌るように段差が形成されている。
移動部材4Cは、
図2(a)に示すように、段差内に中央部に向かうほど上方に突出するように逆V字形の第4傾斜面4d、4dが形成されている。第4傾斜面4dの表面には、摩擦係数を低減させるためのテフロンなどの滑り材が貼り付けられている。第4傾斜面4dの水平面に対する傾斜角θは、絶対値がそれぞれ所定値になるように形成されている。第4傾斜面4dは、第2傾斜面4bに当接している。
【0028】
上側傾斜支持部材4Bは、
図2(a)に示すように、長手方向に直交する方向から側面視して下面の中央部から両端部に向かうほど下方に下がるように傾斜する逆V字状の第2傾斜面4b、4bが形成されている。第2傾斜面4b及び第4傾斜面4dの水平面に対する傾斜角θは、絶対値がそれぞれ所定値になるように形成されている。
【0029】
第2傾斜面4bの表面には、摩擦係数を低減させるためのテフロンなどの滑り材がコーティング加工されている。第2傾斜面4bの表面には、コーティング加工の他に、ステンレス製の鋼板等の滑り材が貼り付けられていてもよい。第2傾斜面4bの下方には、移動部材4Cが配置されており、第2傾斜面4bに移動部材4Cが当接している。
【0030】
次に、軸変位型の摩擦ダンパー5の構成について図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、摩擦ダンパー5は、建物20と軸方向Xに複数の摩擦係数を設定することで、変位に概ね比例して増大する摩擦力、および一定変位を超えると一定の摩擦力を得る機能を有し、後述する
図8に示す復元力を構成するものである。
【0031】
図3乃至
図5に示すように、摩擦ダンパー5は、中間鋼板51(第1鋼板)と、中間鋼板51を両側から挟むように設けられた一対の外鋼板52、52(第2鋼板)と、一対の外鋼板52、52の中間鋼板51側を向く内面52aに設けられた摩擦板53(摩擦材)と、を備えている。一対の外鋼板52、52及び中間鋼板51は、それぞれ軸方向Xに厚さが変化しない鋼板であり、それぞれの板面を水平方向に向けて平行にした状態で配置されている。
図1に示すように、中間鋼板51は、第1支持部22を介して建物20の底面20aに固定されている。一対の外鋼板52、52は、第2支持部23を介して基礎21に固定されている。
【0032】
図3に示すように、外鋼板52の外周部のうち幅方向Y両側および軸方向Xの一方には、板厚方向Zに貫通する複数のボルト孔52c(
図4参照)が設けられている。一対の外鋼板52、52は、複数の高力ボルト54によって固定されている。一対の外鋼板52の各ボルト孔52cを一方から貫通させて他方をナットを螺合させて締め付けられている。また、高力ボルト54には、ボルト軸と同軸になるように複数の皿ばね56を挿通させている。この皿ばね56によって、摩擦板53と中間鋼板51の摺動部51B(後述する)とが所定の摩擦力となるように設定することができる。高力ボルト54と皿ばね56は、摩擦ダンパー5における板厚方向Zに締め付け荷重を与えることができる。
一対の外鋼板52、52は、それぞれの内面52aに複数の摩擦係数を有する摩擦板53を設置している。
【0033】
中間鋼板51は、一対の外鋼板52、52同士の間の隙間Sで軸方向X(水平方向)に摺動可能に設けられている。中間鋼板51は、軸方向Xに延びる鋼板部51Aと、鋼板部51Aの長さ方向の一端に設けられた摺動部51Bと、を有している。
鋼板部51Aの厚みは、鋼板部51Aと上下の摩擦板53との間に隙間が形成されるように、隙間Sの高さ寸法より小さく設定されている。中間鋼板51は、建物20の水平方向の移動に連動して一対の外鋼板52、52に対して相対的に水平方向に摺動する。
【0034】
摺動部51Bは、鋼板部51Aから板厚方向Zで外方に突出した突起状に形成され、中間鋼板51と外鋼板52との接触箇所であり、摩擦力を発生する箇所となる。
隙間Sにおいて、摺動部51Bは、外鋼板52に設けられる摩擦板53に接触した状態で設けられている。すなわち、中間鋼板51が一対の外鋼板52、52に対して軸方向Xに相対的に平行に摺動することで、摺動部51Bの上下の摩擦面51aが摩擦板53に接触した状態で摺動する。
【0035】
なお、中間鋼板51における各高力ボルト54の貫通箇所に長穴(図示省略)を形成するようにより、中間鋼板51が長穴の範囲内で摺動するようにしてもよい。
【0036】
図6(b)に示すように、中間鋼板51の摺動部51Bは、側方から見た4つの角部51bに面取りでR加工が施されている。すなわち、面取りされる角部51bは、上方から見て摺動方向(軸方向X)に直交する位置の角部である。このように、摺動部51Bの角部51bを面取り加工した断面形状にすることにより、摩擦板53の摩擦面53a(
図6(a)参照)との摩擦によって摺動部51Bが変位しても面圧が変化しないようにすることができる。
【0037】
図3に示すように、一対の外鋼板52、52同士の間には、軸方向Xの一端を固定する高力ボルト54(この高力ボルトを軸移動規制ボルト54Aとする)に挿通され、外鋼板52、52の軸方向Xへの移動を規制する拘束鋼板55が固定されている。拘束鋼板55は、板状に形成され、一対の外鋼板52、52同士の間の隙間Sに配置されている。
図1に示すように、拘束鋼板55の一端55aは軸移動規制ボルト54Aに固定され、他端55bが第2支持部23に固定されている。
【0038】
摩擦板53の材料としては、例えばステンレス製の鋼板を採用することができる。
【0039】
図6(a)に示すように、摩擦板53は、側方から見て摩擦面53aの軸方向Xに直交する角部53bに面取りでR加工が施されている。このように、摩擦板53の角部53bを面取り加工した断面形状にすることにより、中間鋼板51の摺動部51Bとの摩擦によって摩擦板53が変位しても面圧が変化しないように設定されている。
【0040】
図5に示すように、摩擦板53は、軸方向Xに沿って摩擦係数を変えた複数(本実施形態では11枚)の摩擦板53A~53Fが配列されている。これら摩擦板53A~53Fは、異なる表面処理方法によって所定の摩擦係数μ(μ0、μ1、μ2、μ3、μ4、μm)となるように製作されている。例えば表面処理により摩擦係数μの一例として、鏡面仕上げによる加工では0.2(μ1)となり、小球によるブラスト加工では0.3(μ2)となり、中球によるブラスト加工では0.4(μ3)となり、大球によるブラスト加工では0.5(μ4)となり、アルミ溶射による加工では0.6(μm)となる。なお、摩擦係数μ0は、表面処理がされていない状態のものである。
【0041】
これら摩擦板53A~53Kの配列としては、軸方向Xで中央に摩擦係数μ0の第1摩擦板53Aが配置され、その第1摩擦板53Aの軸方向Xの両側のそれぞれから離れるに従い、摩擦係数μ1の第2摩擦板53B、摩擦係数μ2の第3摩擦板53C、摩擦係数μ3の第4摩擦板53D、摩擦係数μ4の第5摩擦板53E、摩擦係数μ5の第6摩擦板53Fがその順で配置されている。
中間鋼板51の摺動部51Bは、地震力が作用しない軸変位が0の位置(
図7(a)に示す初期位置P1)で、第1摩擦板53Aが配置される軸方向Xの中央に位置している。
【0042】
第1摩擦板53Aから第5摩擦板53Eの軸方向Xの幅寸法h0(
図5参照)は、摺動部51Bの軸方向Xに延びる有効幅寸法H0(
図6(b)参照)に一致している。また、第6摩擦板53Fの幅寸法は、摺動部51Bの有効幅寸法H0(幅寸法h0も同じ)以上(≧h0)に設定されている。なお、第2摩擦板53Bから第5摩擦板53Eの幅寸法はh0より小さく設定されていてもよい。
【0043】
図7(a)~(f)は、摩擦力F(摩擦係数μ)の変化を示している。
図7(a)に示すように、摺動部51Bにおける軸変位δが0で初期位置P1となり、
図7(d)に示す摺動部51Bの最大変位となる位置P2は軸変位δがμmとなる。
図7(a)は、摩擦係数μ0で、摩擦力F0=μ0×N(締付力)となる初期変位が無しの段階を示している。
図7(b)は、変位が生じる段階(0<軸変位δ<δd)を示している。
図7(c)は、変位が生じる段階(δd<軸変位δ<δm)を示している。
図7(d)は、大変位が生じた段階(δm<軸変位δ<δu)を示している。
図7(e)は、マイナス側に変位が生じる段階(-δd<軸変位δ<0)を示している。
図7(f)は、マイナス側に最大変位の段階(-δu<軸変位δ<-δm)を示している。
ここで、δdは、設計変位であって軸変位の目標値である。δmは、軸変位の最大応答変位である。δuは、限界変位である。
【0044】
以上のことから、軸変位依存型の摩擦ダンパー5による最適設計方法は以下のようになる。
図8は、上述した構成の軸変位型の摩擦ダンパー5の復元力を示している。
図8は、締付力Nと軸変位δの関係を示している。ここで、締付力Nは、軸変位δの大きさに関係なく一定とする。
図9は、摩擦係数μと軸変位δの関係を示している。軸変位δは、0~δmまでは摩擦係数μと概ね比例関係とする。δmを超えるときには、摩擦係数μを一定とする。
図10は、摩擦力Fと軸変位δの関係を示している。ここで、
図10のグラフで示す(1)~(6)は、
図7(a)~(f)のそれぞれの状態(1)~(6)を示している。
図8に示す締付力Nと軸変位δの関係と、
図9に示す摩擦係数μと軸変位δの関係とにより、軸変位δが0~δmのとき、軸変位δの増加に概ね比例して摩擦力F(以下、第1摩擦力という)が増加する。そして、軸変位がδmを超えると、装置のフェイルセーフとして摩擦力(以下、第2摩擦力という)を一定にする。また、摩擦力が一定値となることで加振力も頭打ちされ、構造物の加速度増加も抑制されることとなる。
【0045】
摩擦力Fは、摩擦力F=摩擦係数μ×締付力Nの式で表わせる。締付力Nが一定であるため、摩擦力Fと軸変位δの関係は、摩擦係数μと軸変位δの関係図と同じ形になる。
図8~
図10において、δdは、設計変位であって軸変位の目標値である。δmは、軸変位の最大応答変位であって、δd×1.1とする。δuは、限界変位であり、設計変位δd×1.2とする。但し、δu≧δm+h0である。F0は、初期摩擦力であって、最大応答変位δmの摩擦力の4~6%とする。そして、初期摩擦力Fiは、軸変位50cmにおける摩擦力F
50の25%とする。
【0046】
次に、上述した免震建物1及び摩擦ダンパー5の動作について、図面を用いて詳細に説明する。
まず、免震建物1の傾斜滑り支承4の動作について説明する。
なお、以下の説明において、
図1に示す軸方向Xに沿う方向をx軸方向、
図1に示す幅方向Yに沿う方向をy軸方向とする。
【0047】
図1に示すように、地震が発生すると、基礎21は水平方向に移動し、建物20は慣性によりその場に留まろうとし、建物20と基礎21との間に、相対的な水平方向の変位が生じる。このとき、建物20のy軸方向の変位に連動して上側傾斜支持部材4Bがy軸方向に変位すると、段差に上側傾斜支持部材4Bが引っ掛けられて上側傾斜支持部材4Bと共に移動部材4Cがy軸方向に移動する。このとき、
図2(b)に示すように、移動部材4Cは、第3傾斜面4cが下側傾斜支持部材4Aの第1傾斜面4aに対して摺動し、登り勾配を上る方向に移動する。
【0048】
水平変位が反対方向の場合、移動部材4Cは、第3傾斜面4cが下側傾斜支持部材4Aの第1傾斜面4aに対して摺動し、登り勾配を上る方向に移動する。それに伴い、移動部材4Cに載置された上側傾斜支持部材4Bは鉛直方向上方に変位する。
【0049】
また、建物20のx軸方向の変位に連動して上側傾斜支持部材4Bがx軸方向に変位すると、
図2(a)に示すように、上側傾斜支持部材4Bの第2傾斜面4bが移動部材4Cの第4傾斜面4dを摺動し、登り勾配を上る方向のx軸方向に移動する。
【0050】
水平変位が反対方向の場合、建物20のx軸方向の変位に連動して上側傾斜支持部材4Bがx軸方向に変位すると、上側傾斜支持部材4Bの第2傾斜面4bが移動部材4Cの第4傾斜面4dを摺動し、登り勾配を上る方向のx軸方向に移動する。移動部材4Cは、段差に下側傾斜支持部材4Aが引っ掛けられて下側傾斜支持部材4Aと共に上側傾斜支持部材4Bに対して相対的に移動する。
【0051】
建物20が水平方向に移動すると、傾斜滑り支承4の動作により、水平方向の移動量に応じて鉛直方向上方に変位が生じる。建物20の鉛直方向上方の変位の量に応じて建物20の位置エネルギーが増加する。鉛直方向上方に変位した建物20には、鉛直方向下方に重力が作用して元の位置に戻ろうとする復元力が働く。
【0052】
そうすると、移動部材4Cには、下側傾斜支持部材4Aの第1傾斜面4aを滑って下側傾斜支持部材4Aの中央部に戻る力が働く。同様に、移動部材4Cには、上側傾斜支持部材4Bの第2傾斜面4bを滑って下側傾斜支持部材4Aの中央部に戻る力が働く。上記の傾斜滑り支承4の動作により、建物20は、水平変位が生じた場合、復元力が生じて元の位置に戻る。
【0053】
次に、摩擦ダンパー5の動作について説明する。
図1、
図3乃至
図5に示されるように、建物20が水平方向に移動した際、摩擦ダンパー5の中間鋼板51が建物20に連動して移動する。建物20の水平方向の移動に連動して中間鋼板51の摺動部51Bが摩擦板53の表面(摩擦面53a)を摺動する。これにより、中間鋼板51は、建物20の水平方向の移動量に応じて摺動部51Bを摩擦板53との間に生じる摩擦抵抗が生じる。
【0054】
このとき、摩擦ダンパー5の摩擦板53は、摺動部51Bの変位量が大きくなる方向に摩擦係数μが大きくなるように複数の摩擦係数μが配置されている。そのため、軸変位が大きくなるほど、摺動部51Bと摩擦板53との間の摩擦抵抗が増大する。これにより摩擦ダンパー5は、建物20と基礎21との間において変位が大きくなるほど減衰力が大きくなる免震用のダンパーとして機能する。
【0055】
次に、上述した摩擦ダンパー5および免震建物1の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態では、
図3及び
図5に示すように、中間鋼板51と一対の外鋼板52、52とが軸方向X(水平方向)に軸変位したときの摩擦板53と摺動部51Bとの間で生じる摩擦力が、軸変位に概ね比例して増大する第1摩擦力と、一定の軸変位を超えると一定となる第2摩擦力と、を得るように設定されているので、軸変位が増加すると摩擦力が増大する軸変位依存型の摩擦ダンパー5を実現することができる。すなわち、本実施形態の摩擦ダンパー5では、物理的な勾配等ではなく、複数の摩擦係数が組み合わせされた摩擦板53とすることによって変位依存型の履歴特性をもたせることができる。
したがって、巨大地震が生じた際には、一定変位を超えたら抵抗力を一定にしているのでフェイルセーフになり、過大変位だけでなく加速度による損害も抑制することができる。そして、長周期地震動であっても傾斜滑り支承の残留変位はほぼ生じないことから、地震後であっても直ぐに継続使用することができる。
【0056】
また、本実施形態では、摩擦ダンパー5が水平軸変位抵抗型のダンパー部材であるため、鉛直変位依存型の摩擦ダンパーのような高い製造精度や製造材料のばらつきの抑制が必要なく、製作しやすいという効果がある。
【0057】
本実施形態による摩擦ダンパー5は、軸抵抗型のダンパーであるため、滑り支承と異なり自重により摩擦抵抗力が変化しない構造となる。そのため、水平方向の軸方向とこの軸方向に直交する方向の二方向それぞれに摩擦抵抗力を任意に設定することができる。
さらに、摩擦ダンパー5が水平軸変位抵抗型のダンパーであるため、免震構造体下部の免震層に設置することができ、免震構造体の上部への設置の必要がなく、簡単な構造にできる。
【0058】
また、本実施形態による免震建物1では、上部構造体(建物20)の上下変位に依存しない摩擦ダンパー5と傾斜滑り支承とを組み合わせることにより、地震波の種類による影響がなく、高い免震効果が得られる免震建物1を実現できる。とくに、長周期地震動に対して、応答加速度も応答変位も従来の天然ゴム(積層ゴム)支承よりも低減することができ、従来の免震よりも効果的である。
【0059】
上述のように本実施形態による摩擦ダンパー5および免震建物1では、高い製造精度が不要で製作や設置施工が容易であり、かつ中小地震から大地震まで変位に追従する摩擦力にて揺れを効果的に低減し、中小地震時には免震建物の加速度増加を抑制しつつ、大地震時には過大変位に対して一定の抵抗力による抑制を図ることができる。
【0060】
(実施例)
次に、本実施の形態による摩擦ダンパー5と免震建物1の効果を検証するために解析した結果について詳しく説明する。
本実施例の地震応答解析では、上述した実施形態の免震建物を模擬し、
図11(a)、(b)に示す1質点系の解析モデルを用いて解析を実施した。解析モデルにおける構造物の条件は、質量Wを4240×10
3 kgとした。
【0061】
解析は、上述した実施形態の変位依存型の摩擦ダンパー5及び傾斜滑り支承4を建物20と基礎21との間に配置した実施例ケースと、摩擦ダンパー5及び滑りゴム支承を建物20と基礎21との間に配置した比較例ケースと、を用いた2つの解析ケースで以下のパラメータを用いて時刻歴応答解析を行った。
【0062】
変位依存型の摩擦ダンパー5は、上述した実施形態で
図12に示す復元力図のものである。
軸変位δが50cmにおける摩擦力は、F
50=R
50×W×gで表される。gは重力加速度(9.8m/sec
2)である。ここで、R
50=3%、4%、5%、6%、7%とする。また、初期摩擦力Fiは、F
50の25%、50%、75%とする。
【0063】
時刻歴応答解析を行うための解析パラメータとして、表1および
図13(a)~(c)に示す地震波を使用した。表1に示すように、地震波は、告示神戸、告示関東、告示八戸の3パターンである。表1において、それぞれの告示波は長周期によるものであり、それぞれ強震記録、レベル、最大加速度(cm/sec
2)を示している。レベルのL2は、極めて希に発生する地震動を示している。
図13(a)~(c)に示す地震波図は、横軸に時間(sec)、縦軸に加速度(cm/sec
2)の波形を示したものである。
【0064】
【0065】
実施例ケースは、変位依存型の摩擦ダンパーと傾斜滑り支承との組み合わせである。このときの傾斜滑り支承は、摩擦係数を0.012とし、傾斜角度を1.5°とした。
比較例ケースは、変位依存型の摩擦ダンパーと天然ゴム支承との組み合わせである。このときの天然ゴムは、水平剛性kを5.8×103 kN/mとし、減衰定数hを2%とした。
【0066】
図14~
図19は、解析結果を示している。これらの解析結果、3つの地震波(告示神戸、告示関東、告示八戸)の応答値を解析ケース(実施例ケース、比較例ケース)毎に比較したものである。
図14~
図19に示す応答値は、摩擦力(減衰力)F
50/重量Wgの比率と加速度(cm/sec
2)との関係を示すグラフ、前記比率と免震応答変位(mm)との関係を示すグラフ、前記比率と残留変位(mm)との関係を示すグラフである。
図14(a)~(c)は、告示神戸波で実施例ケースの解析結果である。
図15(a)~(c)は、告示神戸波で比較例ケースの解析結果である。
図16(a)~(c)は、告示関東波で実施例ケースの解析結果である。
図17(a)~(c)は、告示関東波で比較例ケースの解析結果である。
図18(a)~(c)は、告示八戸波で実施例ケースの解析結果である。
図19(a)~(c)は、告示八戸波で比較例ケースの解析結果である。
【0067】
上述した解析結果より、応答加速度は、摩擦力F50/重量Wgの比率が大きくなるほど大きくなる。応答変位は、摩擦力F50/重量Wgの比率が大きくほど小さくなる。
そして、応答加速度について、摩擦力F50/重量Wgの比率が同じであれば、初期摩擦力FiはF50に対する比率が小さい方が応答加速度も小さくなることがわかった。
長周期地震動(告示神戸、告示関東、告示八戸)は、実施例ケース(変位依存型の摩擦ダンパーと傾斜滑り支承の組み合わせ)が比較例ケース(変位依存型の摩擦ダンパーと天然ゴム支承の組み合わせ)よりも応答加速度も応答変位も小さくなることが確認された。
【0068】
また、残留変位について比較すると、地震波の種類、摩擦力F50/重量Wgの比率、初期摩擦力の比率に関係なく、実施例ケースでは僅か5mm以下であり、比較例ケースでは地震波に関係するが数mm~30mmとなる。これにより、実施例ケースでは、比較例ケースに比べて残留変位を小さく留めることができることがわかった。
【0069】
本実施例による解析結果より、変位依存型の摩擦ダンパーは、傾斜滑り支承と組み合わせることにより高い免震効果が得られることを確認することができた。とくに、長周期地震動に対して、応答加速度も応答変位も従来の天然ゴム支承よりも低減することができ、従来の免震よりも効果的であることがわかった。
【0070】
以上、本発明による摩擦ダンパーおよび免震建物の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0071】
例えば、本実施形態では、摩擦ダンパー5の構成として、1枚の中間鋼板51と、その中間鋼板51を挟み込むように一対の外鋼板52、52を設けた構成としているが、これらの数量であることに限定されることはない。例えば、2つの中間鋼板51に対して3枚の鋼板(外鋼板に相当)で挟み込むように設けた構成であってもよい。
【0072】
また、本実施形態では、中間鋼板51を建物20側に取り付け、外鋼板52を基礎21側に取り付けた構成としているが、軸方向Xに反転し、摺動部51Bを有する中間鋼板51を基礎21に取り付け、外鋼板52を建物20側に設けるようにしてもよい。
さらに、摩擦板53における複数の摩擦係数μの設定値は、上述した実施形態に限定されることはなく、異なる摩擦係数μの数量も適宜設定することができる。
【0073】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 免震建物
3 免震システム
4 傾斜滑り支承
5 摩擦ダンパー
20 建物(上部構造体)
21 基礎(下部構造体)
51 中間鋼板(第1鋼板)
51A 鋼板部
51B 摺動部
52 外鋼板(第2鋼板)
53 摩擦板(摩擦材)
52a 内面
54 高力ボルト
55 拘束鋼板