(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】ブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20240513BHJP
G01L 1/18 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
G01B7/16 R
G01L1/18 Z
(21)【出願番号】P 2020183431
(22)【出願日】2020-11-02
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 功
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 淳
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-049252(JP,A)
【文献】特表2002-504675(JP,A)
【文献】特開2019-128183(JP,A)
【文献】特開2003-083820(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/159245(JP,A1)
【文献】特開2005-106775(JP,A)
【文献】特開2011-013210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/16
G01L 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された電極と、
前記電極と電気的に接続された抵抗膜を備え、
前記抵抗膜のうち少なくとも一つは機械的な歪変形に応じて抵抗値が変化する感歪抵抗膜であり、
前記抵抗膜のうち前記感歪抵抗膜を除く抵抗膜は低感歪抵抗膜であり、
前記抵抗膜は前記基板の同一面上においてホイートストンブリッジ回路を形成する抵抗膜であることを特徴とするブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子。
【請求項2】
前記低感歪抵抗膜は、金属的な挙動を示す金属相と半導体的な挙動を示す半導体相が混在した組織を有するサーメット抵抗材料からなる
請求項1に記載のブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子。
【請求項3】
前記低感歪抵抗膜は、クロムシリコンの結晶と、非晶質な窒化シリコン又は非晶質な酸化シリコンを含有する
請求項1又は2に記載のブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子。
【請求項4】
基板の同一面上においてホイートストンブリッジ回路を形成する
感歪抵抗膜及び低感歪抵抗膜を形成する工程を含むブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の製造方法であって、
基板の一面に
前記低感歪抵抗膜を形成し、第1の熱処理を行う工程と、
前記基板の一面に
前記感歪抵抗膜を形成し、前記第1の熱処理よりも低い温度で第2の熱処理を行う工程と
を有するブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の製造方法。
【請求項5】
前記低感歪抵抗膜は、クロムシリコンの結晶と、非晶質な窒化シリコン又は非晶質な酸化シリコンを含有するサーメット抵抗材料からなり、
前記第1の熱処理の温度が前記クロムシリコンの結晶ネットワークを形成し始める温度範囲である
請求項4に記載のブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体に生じる歪の測定技術として、歪変形を電気信号に変換する(歪量に応じて抵抗値変化する)感歪抵抗膜を有する歪抵抗素子やひずみゲージを、対象の物体に実装または貼着すると共に、この歪抵抗素子と複数の抵抗素子や抵抗膜とによりホイートストンブリッジ回路を構成し、このブリッジ回路を用いて歪測定を行うものが一般に知られている。
また、このような測定方法に用いる歪変形を検知する素子として、
図10に示すようなひずみゲージXが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ひずみゲージXは、グリッドパターン部102とゲージタブパターン部103と接続パターン部105が可撓性を有するゲージベース101上に貼着されている。
被測定対象物(機械や構造物等)の表面の機械的なひずみ量を、抵抗値、電圧などの電気量に変換して検出するため、ゲージリード104を測定回路と接続するとともに、ゲージベース101を被測定対象物の表面に取り付ける。
歪変形による小さな抵抗値変化を正確に検出するため、
図10等に示されるひずみゲージは、
図11に示すように、抵抗変化を電圧変化に変換するホイートストンブリッジ回路Y(以下、ホイートストンブリッジ回路をブリッジ回路と略して記載することがある。)に接続している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6661348号公報
【文献】特許第3015333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、
図11に示すように、ホイートストンブリッジ回路Yには、歪を検出する素子(
図10)に示すようなひずみゲージX、すなわち、感歪抵抗素子201のほかに、3つの固定抵抗器等の抵抗素子205~207が必要となるが、これらの抵抗素子205~207は歪変形の影響を受けないように歪変形する位置から離して接続している。抵抗素子205~207が歪変形の影響により抵抗値変化すると、ホイートストンブリッジ回路Yの抵抗値バランスが崩れる。測定回路はホイートストンブリッジ回路の出力電圧の変化によってひずみ量を検出するため、感歪抵抗素子201以外の抵抗素子205~207の抵抗値変化により出力電圧が変化してしまうと、ひずみ検出の感度と精度が低下してしまう。
従って、従来一般的であった特許文献2に示すホイートストンブリッジ回路Yへの特許文献1に示すひずみゲージXの適用は、全体としての回路面積が大きくなるという問題がある。
さらに、従来技術のひずみゲージXは、測定対象物の表面に接着剤等により貼り付ける必要があり、自動機を用いた実装に適さないという問題がある。
【0006】
本発明は、ブリッジ回路を一素子で実現したモノリシック構成とするブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、基板と、前記基板上に形成された電極と、前記電極と電気的に接続された抵抗膜を備え、前記抵抗膜のうち少なくとも一つは機械的な歪変形に応じて抵抗値が変化する感歪抵抗膜であり、前記抵抗膜のうち前記感歪抵抗膜を除く抵抗膜は低感歪抵抗膜であり、前記抵抗膜は前記基板の同一面上においてホイートストンブリッジ回路を形成する抵抗膜であることを特徴とするブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子が提供される。
前記感歪抵抗膜と前記低感歪抵抗膜との抵抗値は同程度である。より望ましくは、TCRも同程度になる。
【0008】
前記低感歪抵抗膜は、金属的な挙動を示す金属相と半導体的な挙動を示す半導体相が混在した組織を有するサーメット抵抗材料からなるものであることが好ましい。
前記低感歪抵抗膜は、クロムシリコンの結晶と、非晶質な窒化シリコン又は非晶質な酸化シリコンを含有するものであることが好ましい。
【0009】
本発明の他の観点によれば、基板の同一面上においてホイートストンブリッジ回路を形成する抵抗膜を形成する工程を含むブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の製造方法であって、基板の一面に低感歪抵抗膜を形成し、第1の熱処理を行う工程と、前記基板の一面に感歪抵抗膜を形成し、前記第1の熱処理よりも低い温度で第2の熱処理を行う工程と、を有するブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の製造方法が提供される。
【0010】
前記低感歪抵抗膜は、クロムシリコンの結晶と、非晶質な窒化シリコン又は非晶質な酸化シリコンを含有するサーメット抵抗材料からなり、前記第1の熱処理の温度が前記クロムシリコンの結晶ネットワークを形成し始める温度範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブリッジ回路を一素子で実現したモノリシック構成とするブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施の形態によるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の平面図である。
【
図2】
図1のブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の斜視図である。
【
図3】本発明にかかるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の製造工程を示すフローチャート図である。
【
図4A】
図3の各工程を行った後の状態を示す斜視図である。
【
図4B】
図3の各工程を行った後の状態を示す斜視図である。
【
図4C】
図3の各工程を行った後の状態を示す斜視図である。
【
図4D】
図3の各工程を行った後の状態を示す斜視図である。
【
図5】サーメット抵抗材の熱処理後のTEM画像である。熱処理後の組織写真である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態によるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の斜視図であり、
図1の変形例を示す図である。
【
図8】本発明の第3の実施の形態によるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の斜視図であり、
図1,
図7の変形例を示す図である。
【
図9】第4の実施の形態によるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の図であり、
図1,
図7,
図8の変形例を示す図である。
図9(a)は表面から見た図、
図9(b)は裏面から見た図である。
【
図10】特許文献1に開示されているひずみゲージの上面図である。
【
図11】特許文献2に開示されているホイートストンブリッジ回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。 本明細書において、全体を通じて、同一の要素には同一の符号を付する。
本明細書において、スパッタ等による成膜後の、まだパターンが形成される前の状態を「低感歪抵抗層」、「感歪抵抗層」、「表面電極層」と称する。
また、フォトリソグラフィー等によりパターンが形成された状態を、「低感歪抵抗膜」、「感歪抵抗膜」、「表面電極」と称する。
【0014】
(発明の概要)
本発明では、高密度実装のため小型化や低背化といった要求に応えるため、チップ状歪抵抗素子のような一素子で、ホイートストンブリッジ回路(以下、ブリッジ回路)と称する。)を構成することに想到した。
感歪抵抗膜は、機械的な歪変形に応じて抵抗値が変化することにより測定対象物の歪変形を検出するため、感歪抵抗膜に測定対象物の歪変形が伝わる必要がある。従って、感歪抵抗膜とその他のブリッジ回路を構成する抵抗膜を同一基板上(チップ状)に形成してモノリシック化した場合に、感歪抵抗膜以外の抵抗膜にも歪変形が加わることになる。
【0015】
そこで、歪抵抗素子(感歪抵抗膜)と同一基板上に形成しても、測定対象物である物体の歪による影響を受けにくい抵抗素子(低感歪抵抗膜)を見出し、この低感歪抵抗膜を利用することを思いついた。
より詳細には、本発明において、感歪抵抗膜とともにブリッジ回路を構成する抵抗膜は、基材(基板や基板が搭載された回路基板等)の変形に伴う抵抗値の変化を抵抗膜の相反する抵抗値変化挙動により打ち消す低感歪抵抗膜により形成する。
低感歪抵抗膜は、金属成分(金属相)と半導体成分(半導体相)が含まれる抵抗膜である。特に、クロムシリコンの結晶(金属相)と不規則(非晶質)な窒化シリコン又は酸化シリコンなどにより形成されている。
【0016】
結晶性の金属相(クロムシリコン)と非晶質な半導体相(窒化シリコン、酸化シリコン)は、歪変形に対して反対の抵抗値変化挙動を示す。従って、機械的な変形に伴う抵抗値の変化が抵抗膜内部で打ち消されることにより、低感歪抵抗膜として機能する。
【0017】
本発明の低感歪抵抗膜を用いることにより、感歪抵抗膜とその他のブリッジ回路を構成する抵抗膜(低感歪抵抗膜)を同一基板上に形成しても、正確に測定対象物の歪を検出することが可能である。
これにより、一素子でブリッジ回路を構成したモノリシックブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子を提供することができる。
従って、モノリシックなチップ状歪抵抗素子を提供することができ、高密度実装のため小型化や低背化に寄与する。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態によるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Aの平面図である。
図2は、
図1に示すブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Aの斜視図である。ブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Aは、基板の一面側にブリッジ回路が形成される。そして、ブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Aは、通常のチップ状電子部品と同じように、基板の他面側をガラエポ基板などの測定対象物の一面に密着させて搭載する。例えば、電子回路基板の製造では、生産効率を上げるため、大きなシート基板に複数の製品基板を配列し、同時に多数の基板を作製することがあるが、完成した基板を分割する際、機械的なストレスにより、基板に実装した部品の接合等に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、本発明のブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Aを実装部品と同様に基板に実装することにより、基板への機械的なストレスをひずみ量として測定することができ、分割条件の検証に用いることができる。
以下に、
図1及び
図2を参照して、各構成要素について説明を行う。また、以下において、矢印は、歪み変形方向を示す。なお、
図1および
図2では、保護膜(
図4C~
図4D参照)は図示を省略している。
【0019】
1)基板
ブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Aのブリッジ回路を形成する基板1は、平面視で矩形状をした、直方体形状をしている。尚、基板1平面の形状は、長方形、正方形のいずれでも良いが、測定対象物の歪変形方向が不明の場合には、歪変形方向が短辺方向にならないように、基板1平面の形状を正方形にすることが好ましい。
基板1の材質は、セラミック基板または金属表面に絶縁処理を施した硬質の基板(基板表面に絶縁膜を形成する等によるもの)である。セラミック基板としては、例えば、アルミナやジルコニアを主成分とするセラミック基板を用いることができる。
基板1の裏面に密着させて歪みを測定する対象物に生じる歪変形を基板1の表面に形成されている感歪抵抗膜に伝達しやすくするため、基板1の材料として、樹脂等の柔らかい材料で基板表面をコーティングしたものを用いても良い。
【0020】
2)表面電極・裏面電極
基板1の一面(表面)にはブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Aを形成する。基板1の一面には、抵抗膜に電気的に接続される略矩形の金属膜(金属膜の材質は、Cu、Ag、Au等)からなる4つの表面電極7a~7dが形成されている。
基板1の他面(裏面)には、歪みを測定する対象物(実装基板等)に実装するための裏面電極9a~9dが形成されている。表面電極7a~7dおよび裏面電極9a~9dは、スパッタリングまたは蒸着により、金属膜(Cu、Ag、Au等)を成膜することで形成する。尚、電極の材料によってはスクリーン印刷で形成しても良い。
【0021】
また、基板1には、表面電極7a~7dと裏面電極9a~9dを接続する端面電極10a~10dが形成されている。端面電極10a~10dは、NiCr系の金属材料をターゲットとしたスパッタリング法により形成することができる。
表面電極、裏面電極、端面電極は、表面にNi,Snからなるめっき皮膜11(11a~11d)を形成すると良い。めっき皮膜11は、実装基板等とのはんだ接合状態を良好にするために用いることができる。
【0022】
3)感歪抵抗膜(RST)
感歪抵抗膜3aは、測定対象物の機械的な歪変形に応じて抵抗値が変化する抵抗膜である。スパッタリングまたは蒸着により、基板1上に成膜することができる。
感歪抵抗膜3aの材料は、求められる特性によって適宜選択される。例えば、CuNi系合金、NiCr系合金、Cr系合金、CrN系合金、CrAlN系合金からなる薄膜抵抗、その他シリコン等からなる半導体膜を用いることができる。
【0023】
感歪抵抗膜3aは、低感度の歪抵抗素子が求められる場合は、CuNi系合金、NiCr系合金(ゲージ率が1.5~3.0)を用いる。金属抵抗材料は、外部からの引っ張り力(圧縮力)を加えられると延び(縮み)、その抵抗率は増加(減少)する。ゲージ率は歪みゲージの感度を表す係数であり、一般的な金属抵抗膜はゲージ率2程度である。
また、高感度の歪抵抗素子が求められる場合は、Cr系合金、CrN系合金、CrAlN系合金(ゲージ率が5.0~20.0)や、半導体膜(ゲージ率が±100程度)を選択すれば良い。
【0024】
感歪抵抗膜3aは歪み方向(測定したい歪変形の方向)Dである一方向の長さが長くなるような蛇行パターンを有している。蛇行パターンの長手方向が、測定対象となる物体の検出しようとする歪変形に対して平行な方向(歪み方向Dと同じ方向)になるように配置する。これにより、歪変形の検出感度が向上する。また、感歪抵抗膜3aの全長を長くすることで、基板1における感歪抵抗膜3aの単位占有面積当たりの抵抗値変化を大きくすることがきる。
【0025】
4)低感歪抵抗膜(R
1~R
3)
低感歪抵抗膜(R
1~R
3)5a~5cは、抵抗率が高く(CrSi-Nの抵抗率範囲:1mΩcm以上)なることが特徴である。
低感歪抵抗膜(R
1~R
3)5a~5cは、金属的な挙動を示す結晶性の金属相と半導体的な挙動を示す非晶質の半導体相が混在した組織を有するサーメット抵抗材料からなる抵抗膜である。サーメット抵抗材料は、例えばクロムシリコンの酸化物またはクロムシリコンの窒化物を主成分として形成されている。サーメット抵抗材料は、例えばターゲットをCrSi合金とし、不活性ガスであるアルゴンと窒素または酸素の混合ガスによるスパッタリングにより成膜される薄膜抵抗である。
これらの製造方法については、
図3および
図4を参照して後述する。
【0026】
図5及び
図6は、サーメット抵抗材の熱処理後の断面を観察したTEM画像である。
図5は熱処理後の組織写真であり、
図6は、
図5の一部拡大写真である。
図5及び
図6に示すように、低感歪抵抗膜(R
1~R
3)5a~5cは、黒い部分と白い部分とが混在している。黒い部分は、クロムシリコンの結晶である。白い部分は、不規則(非晶質)なSiN(半導体相)である。
低感歪抵抗膜は、金属相と半導体相が混合した膜で、機械的な歪変形による抵抗値変化を結晶性の金属相と非晶質な半導体相が打ち消し合うことにより、低感歪抵抗膜として機能する。そのため、抵抗率が低い=金属相が支配的である場合には、低感歪抵抗膜として機能しない。抵抗率が高い=金属相と半導体相が混在していることで、抵抗膜が低感歪抵抗膜として機能する。
尚、低感歪抵抗膜は、クロムシリコンの酸化物またはクロムシリコンの窒化物を主成分とする抵抗膜であれば、その他に金属元素を含んでいても良い。
【0027】
低感歪抵抗膜は蛇行パターンを有し、蛇行パターンの長手方向が、測定対象となる物体の検出しようとする歪変形の方向(歪み方向D)に対して垂直な方向になるように配置する。
その理由は、感歪抵抗膜の蛇行パターンの長手方向を測定対象となる物体の検出しようとする歪変形に対して水平な方向にすることで歪みの検出精度が向上するからである。基板に歪変形が生じるとき、歪変形の方向Dに対して垂直な方向にも基板の変形が生じる(歪変形が引張のとき垂直方向は縮み、変形が圧縮のとき垂直方向は伸びる)。しかし、基板の歪変形の方向Dに対して垂直な方向の変形量は、歪み方向Dの変形量と比べて歪変形の影響が非常に小さい。すなわち、低感歪抵抗膜は歪方向Dに対して垂直にパターン長手方向を配置することで、歪変形の影響を低減し、より検出精度を向上できる。
また、感歪抵抗膜(RST)3と低感歪抵抗膜(R1~R3)5a~5cはブリッジ回路を構成するため、それらの抵抗値は略同等になるように形成する。抵抗値を略同等にするための調整が可能なように、各抵抗膜にはレーザーによるトリミング溝形成用の抵抗値調整領域を設けておくと良い。
【0028】
<本発明の製造方法>
本発明にかかるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子は、以下の工程により製造することができる。
【0029】
図3は、本発明にかかるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Aの製造工程を示すフローチャート図である。
図4は、各工程を行った後の状態を示す斜視図である。
製造工程を開始するためには(STRAT)、まず、ステップS1において、アルミナまたはジルコニア等からなる多数個取り用の大判基板Zを準備する。
ステップS2において、基板分割用の溝L1,L2、…を形成する(
図4A(a))。
ステップS3において、基板1上に低感歪抵抗層5を形成する(
図4A(b))。低感歪抵抗層5は、スパッタリングによりゲージ率が小さい薄膜抵抗材料(CrSi-O,CrSi-N等)からなるサーメット系抵抗材料により形成する。尚、熱処理温度が高い方を先に形成するが、熱処理の温度によっては、低感歪抵抗層5と感歪抵抗層3とのどちらの抵抗を先に形成しても良い。
【0030】
ステップS4において、フォトリソグラフィーにより低感歪抵抗膜(R
1~R
3)5a~5cを形成する(
図4A(c))。
ステップS5において、低感歪抵抗膜(R
1~R
3)5a~5cのゲージ率調整およびTCR調整等のため、第1の熱処理を行う(第2の熱処理で一括できる場合等には第1の熱処理を省略しても良い)。
ステップS6において、低感歪抵抗膜(R
1~R
3)5a~5cを形成した基板1に、スパッタリングまたは蒸着により、ゲージ率が大きい材料(Cr,CrN,NiCr等)からなる感歪抵抗層3を形成する。次いで、ステップS7において、感歪抵抗層3上に重ねて、電極用材料(Cu等)からなる電極層7を形成する(
図4B(d))。尚、
図4B(d)においては、表面には感歪抵抗層3は露出していない。
【0031】
ステップS8,S9において、フォトリソグラフィーにより電極7a~7d及び感歪抵抗膜(R
ST)3aを形成する(
図4B(e))。
ステップS10において、感歪抵抗膜(R
ST)3のTCR調整等のため、第2の熱処理を行う(TCR調整等が必要ない場合には、この熱処理は省略しても良い)。
感歪抵抗膜(R
ST)3を形成する第2の熱処理は、低感歪抵抗膜(R
1~R
3)5a~5cを形成する第1の熱処理よりも低い温度で行なわれる。熱処理の温度範囲は、第1の熱処理が600~800℃(クロムシリコンの結晶がネットワークを形成し始める温度領域)、第2の熱処理が200~500℃、望ましくは300℃程度(材料によって異なる)である。
【0032】
尚、低感歪抵抗膜(R1~R3)5a~5cと感歪抵抗膜(RST)3はブリッジ回路を構成するため抵抗値が同等になるように設計する。より望ましくは、低感歪抵抗膜(R1~R3)5a~5cと感歪抵抗膜(RST)3は抵抗値とTCRがともに同等になるよう設計する。
【0033】
ステップS11において、例えば、メタルマスクを基板1の裏面(抵抗膜等を形成した反対の面)に密着させ、スパッタリングにより裏面電極9a~9dを形成する。この裏面電極の形成は、実装方法によっては省略しても良い(
図4B(f))。
ステップS12において、表面電極7a~7dを露出させ、かつ低感歪抵抗膜(R
1~R
3)5a~5c及び感歪抵抗膜(R
ST)3上を覆うようにエポキシ系樹脂を印刷し、保護膜61を形成する(
図4C(g))。
ステップS13において、ダイシングやブレーク等により、基板1を短冊状の基板1aに分割する(
図4C(h))。
【0034】
ステップS14において、短冊状の基板1aの端面にNiCr系材料をスパッタリングし、端面電極10a~10dを形成する(
図4D(i))。尚、この工程は、実装方法によっては省略しても良い。
ステップS15において、短冊上の基板1aを個片、すなわちチップ状に分割する(個片化基板1b)(
図4D(j))。
ステップS16において、表面電極7a~7d、端面電極10a~10d、裏面電極9a~9d上にめっき皮膜11(11a~11d)を形成する(
図4D(k))。
以上の工程により、本発明のブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子を製造することができる。
尚、上記の工程は例示であり、製造方法は、これらの工程に限定されるものではない。
【0035】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図7は、第2の実施の形態によるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の斜視図であり、
図1の変形例を示す図である。尚、保護膜は省略している。なお、
図3では、保護膜(
図4C~
図4D参照)は図示を省略している。
【0036】
図7に示すように、本実施の形態によるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Bにおいて、抵抗膜である感歪抵抗膜(R
ST)3と低感歪抵抗膜(R
1~R
3)5a~5cとは抵抗値が略同等になるようにパターンを設計する。
しかしながら、実際には抵抗値にばらつきが生じうる。
そこで、本実施の形態では、ブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Bにおいて、抵抗膜の抵抗値をパターン形成後に調整できるようにした。
より具体的には、ブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Bの基板1の表面に形成する抵抗膜のパターンに、予め、抵抗値調整領域を形成しておくと良い。
【0037】
抵抗値調整領域は、基板1に予め形成しておく抵抗膜のパターンである。当該パターンは、例えば蛇行パターンの線幅から膨出した膨出パターン21,23,25,27でも良い。膨出パターンとは、蛇行パターンの長手方向の一部の線幅を広くしたパターンである。また、膨出した部分を略矩形状に除去した粗調整パターン29であっても良い。これらのパターンの中から任意に選択して基板1に形成する。
また、要求される抵抗値によって、例えば高い抵抗値が必要な場合には抵抗膜のパターンは長くする(引き回す)必要があり、抵抗膜の占有面積を広くする必要がある。そこで、基板1の中央領域に向けて抵抗膜を形成する領域を広げても良いし、中央領域に抵抗膜を形成しても良い。
本実施の形態によれば、高い抵抗値を得るために細長の蛇行パターンを形成した場合であっても、幅が広い膨出パターンを予め形成しておくことで、抵抗値の調整が容易になる。
【0038】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
図8は、第3の実施の形態によるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の斜視図であり、
図1,
図7の変形例を示す図である。尚、保護膜は省略している。
【0039】
図8に示すように、本実施の形態によるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子Cにおいて、抵抗膜である感歪抵抗膜(R
ST)3と低感歪抵抗膜(R
1~R
3)35a~35cとは抵抗値が略同等になるようにパターンを設計する。
低感歪抵抗膜(R
1~R
3)35a~35cは金属相と半導体相が混在する膜であるため、感歪抵抗膜R
ST3と比較して抵抗率が高い。
【0040】
感歪抵抗膜(RST)3,低感歪抵抗膜(R1~R3)35a~35cの抵抗値の差が大きい場合は、低感歪抵抗膜(R1~R3)35a~35cを蛇行パターンではなく単なる直線状パターンとしても良い。
このようにすると、パターンの設計が簡単であるためパターン異常による不良を低減できること、製造工程を簡略化できること、感歪抵抗膜(RST)3,低感歪抵抗膜(R1~R3)35a~35cとを目視等により見分けることができるため、実装方向の確認が容易であるという利点がある。
【0041】
(第4の実施の形態)
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。
図9は、第4の実施の形態によるブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子の斜視図であり、
図1,
図7,
図8の変形例を示す図である。尚、保護膜は省略している。
図9(a)は表面から見た図、
図9(b)は裏面から見た図である。
【0042】
図9(a)に示すように、基板1表面71においては、実装先である回路基板の配線パターンによっては、4つの表面電極7a~7dを正方形等の一辺に偏在して形成することがある。
このような場合に、
図9(a)、(b)に示すように、基板1の表面71において、感歪抵抗膜(R
ST)43を基板表面の各辺に沿うように引き回した抵抗膜のパターンとし、低感歪抵抗膜(R
1~R
3)41a~41cを基板表面71の中心に近い内部領域、すなわち感歪抵抗膜(R
ST)43のパターンの内側に形成した内部パターン41a~41cとするようにしても良い。
このような内部パターン41a~41cにより、感歪抵抗膜(R
ST)43を形成する領域を広く確保することができること、固定用金属膜51と組み合わせることにより強固な接着となり、安定したひずみ検出や耐久性が向上するという利点がある。
また、
図9(b)に示すように、基板1の裏面72においては、表面電極7e~7hに対応した位置に裏面電極51a~51dが形成されている。また、裏面72には裏面電極51a~51dとは別に、ハンダ付け用の固定用金属膜51を、例えば、めっき、スパッタ、塗布等により形成する。
以上、本実施の形態で説明したように、実装先の回路基板の配線の形状、配置に応じて、表面電極や裏面電極の位置や形状を変更することができる。特に、表面電極や裏面電極を基板の端部近傍に偏在させて配置することで、低感歪抵抗膜(R
1~R
3)41a~41cを基板1の表面の中央部に設けることができ、感歪抵抗膜(R
ST)43を形成する領域を広めに確保することが可能になる。
【0043】
上記の実施の形態において、図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
A,B,C ブリッジ回路内蔵型歪抵抗素子
D 歪み変形の方向
X ひずみケージ
Z 大型基板
1 基板
3a 感歪抵抗膜(RST)
5a~5c 低感歪抵抗膜(R1~R3)
7a~7d 表面電極
9a~9d 裏面電極
10a~10d 端面電極
11 メッキ層(皮膜)