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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】歯車製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20240513BHJP
   F16H 55/17 20060101ALI20240513BHJP
   F16H 55/22 20060101ALI20240513BHJP
   B23F 19/06 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
F16H57/04 L
F16H55/17 Z
F16H55/22
B23F19/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020190771
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079904
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】303025663
【氏名又は名称】株式会社日立ニコトランスミッション
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】津野田 亘
(72)【発明者】
【氏名】小山田 具永
(72)【発明者】
【氏名】安村 光正
(72)【発明者】
【氏名】岩本 安弘
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-341648(JP,A)
【文献】実開昭55-130957(JP,U)
【文献】特開2001-170818(JP,A)
【文献】特開2016-005855(JP,A)
【文献】特開2003-266241(JP,A)
【文献】特開平11-264453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 55/17
F16H 55/22
B23F 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具を歯車に接触させながら歯面の進行方向に走査することで前記歯面に進行方向溝を加工形成する第一ステップと、
前記回転工具を前記歯車と接触させずに前記進行方向の直交方向に走査することで前記進行方向溝のない領域に前記回転工具を移動させる第二ステップと、
を繰り返すことで、前記歯面に複数の前記進行方向溝を加工形成する歯車製造方法であって、
前記第一ステップでは、前記回転工具が前記進行方向溝を加工形成する際に、前記進行方向溝と直交する直交方向溝が加工形成されることを特徴とする歯車製造方法。
【請求項2】
請求項に記載の歯車製造方法において、
前記直交方向溝は、前記回転工具を前記進行方向に走査する際に、前記回転工具の芯ブレ、アンバランス振動、または、外形誤差の影響で加工形成される周期的な溝であることを特徴とする歯車製造方法。
【請求項3】
請求項に記載の歯車製造方法において、
前記進行方向溝は前記直交方向溝より溝が深いことを特徴とする歯車製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯面に溝を形成した歯車、その歯車を用いた歯車装置、および、歯車の歯面に溝を形成する歯車製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用歯車装置においては、歯車の小型化による歯車装置の小型化や低コスト化が望まれている。しかし、歯車を単に小型化しただけでは、動力伝達時に歯面にかかる接触応力が増加してしまい、歯面が損傷し、歯車装置の振動や騒音が発生したり、歯車装置の機能が喪失したりするおそれがある。
【0003】
歯車に許容される接触応力は、材料条件(硬度分布や材料の清浄度など)に加えて、歯面同士の潤滑条件によっても律速される。前者の材料条件については、材料の選定や焼入れ条件により決定される。本発明では、後者の潤滑条件に着目する。
【0004】
歯車装置内では、歯面同士の接触部にすべり速度が発生するため、歯面間に油膜を形成するのが一般的である。この油膜が厚いほど、歯面同士の金属接触を回避でき、許容接触応力が向上することが知られている。そして、歯面間に厚い油膜を形成するには、より多くの潤滑油を滞留させる構造を接触部に設ける必要がある。潤滑油を滞留させる構造としては、例えば、接触の進行方向(平歯車の場合、歯丈方向)に油溝を形成した歯車が提案されている(非特許文献1)。しかし、歯車製造時に広く用いられる歯車研削盤では、接触の進行方向に油溝を形成することができず、潤滑油の十分な滞留効果が望めなかった。
【0005】
また、非特許文献1とは目的が異なるが、歯面の進行方向に溝を形成する歯車の加工方法として、特許文献1の製造方法が知られている。この文献の要約書には「本出願は、インボリュート歯車として形成された複数のスパーギアと、前記複数のスパーギアに噛み合い、前記複数のスパーギアを同期回転させるインプットギアと、を備えるギア装置を開示する。前記複数のスパーギアそれぞれは、歯形方向に延びる研磨目が形成された歯面を有する。」との記載があり、また、段落0082、0083には「作業者は、遊離砥粒を、ノズル141から噴射させる。この結果、遊離砥粒は、第1インボリュート歯車150と第2インボリュート歯車160との噛合部分に供給される。」、「遊離砥粒は、第1インボリュート歯車150の歯面と第2インボリュート歯車160の歯面との間に介在するので、第1インボリュート歯車150及び第2インボリュート歯車160の歯面には、歯形方向に延びる研磨目が効率的に形成される。」との記載がある。すなわち、特許文献1によれば、遊離砥粒を歯面に供給し、歯形方向(歯面の進行方向)に延びる研磨目を形成することで、かみ合い部から発生する騒音を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-214941号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本理工学出版会、吉田彰、トライボ設計のための転がり疲れ寿命と面圧強さ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、歯車の歯面強さを向上させるには、歯車装置の歯面間の油膜を厚くすれば良い。このためには、歯車の歯面に潤滑油を滞留させる溝を設けることが有効であるが、非特許文献1や特許文献1の歯車製造方法では、歯面の一方向にしか溝を設けることができず、十分な量の潤滑油を歯面に滞留させることが困難だった。
【0009】
そこで、本発明では、回転工具を歯車の接触進行方向に走査して1方向目の溝を加工形成する際に、その溝と直交する2方向目の溝も同時に加工形成することで、潤滑油を十分に滞留できる数の溝を歯車歯面に加工形成する歯車製造方法、および、この製造方法により製造された歯車を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
回転工具を歯車に接触させながら歯面の進行方向に走査することで前記歯面に進行方向溝を加工形成する第一ステップと、前記回転工具を前記歯車と接触させずに前記進行方向の直交方向に走査することで前記進行方向溝のない領域に前記回転工具を移動させる第二ステップと、を繰り返すことで、前記歯面に複数の前記進行方向溝を加工形成する歯車製造方法であって、前記第一ステップでは、前記回転工具が前記進行方向溝を加工形成する際に、前記進行方向溝と直交する直交方向溝が加工形成されることを特徴とする歯車製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯車製造方法によれば、回転工具を歯車の接触進行方向に走査して1方向目の溝を加工形成する際に、その溝と直交する2方向目の溝も同時に加工形成することで、潤滑油を十分に滞留できる数の溝を歯車歯面に加工形成することができる。
【0012】
そして、本発明の歯車製造方法により製造した歯車によれば、歯車を小型化した場合であっても、十分な潤滑油を歯面に滞留させることができるので、歯面強さを向上させることができ歯車装置の小形化や長寿命化を図ることができる。
【0013】
上記した以外の課題および構成、効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の歯車装置を示す斜視図
図2】実施例1の歯車の歯面を示す斜視図
図3】実施例2の歯車製造方法を示す概念図
図4】実施例2の歯車製造方法を示す補助図
図5】実施例2の油溝加工形成方法を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
まず、図1図2を用いて、本発明の実施例1にかかる歯車装置10と歯車11,12を説明する。
【0017】
図1は、本実施例の歯車装置10の一例を示す斜視図である。ここに示す歯車装置10は、平歯車である歯車11と歯車12をかみ合わせ、一方を駆動歯車、他方を被動歯車とすることで、一方の回転軸から他方の回転軸に動力を伝達する装置である。なお、図1では、説明簡略化のため、必要最低限の構成として単数の歯車対を例示したが、実際の歯車装置10では、複数の歯車対や、別種の歯車を用いても良い。
【0018】
各歯車の歯面1の摺動面1aでは、高い接触応力やすべりが生じており、歯車材料に転がり疲労に伴う損傷が発生する。現在考えられている歯面1の損傷発生メカニズムの1つとして、歯面1の表面粗さ程度のサイズの突起が、相手歯面の突起と接触し、歯面損傷の起点となるという現象が挙げられる。その一方で、歯面のすべりを考慮して、歯面間には油膜を形成しており、これにより歯面同士が直接個体接触することを防いでいる。そのため、歯面間の油膜の厚さを厚くすれば、歯面強さが向上する。
【0019】
歯面間の油膜を厚くするには、潤滑油が歯面同士の接触部から逃げないように、歯面に油溝2を形成すれば良い。本実施例では、図2に示すように、各歯車の歯面に、歯面の接触進行方向(平歯車の場合、歯丈方向)の油溝(以下「進行方向溝2a」)と、それと直交する方向(平歯車の場合、歯筋方向)の油溝(以下「直交方向溝2b」)を形成した。なお、図2では、歯面の全面に進行方向溝2aと直交方向溝2bを形成しているが、これらの溝を全面に形成する必要は無く、例えば、歯車装置10の稼働時に歯車同士が実際に接触する摺動面1aにのみ、進行方向溝2aと直交方向溝2bを形成した構成としても良い。また、図2は平歯車の例であるが、はすば歯車や傘歯車でも同様の構成となる。
【0020】
歯車装置10の稼働時に歯車対の接触部で高圧となった潤滑油は、歯面1の接触進行方向(歯丈方向)やその直交方向(歯筋方向)に逃げようとする。しかし、本実施例の歯面1には進行方向溝2aがあるため、歯車対の回転時には、潤滑油が進行方向溝2a内に滞留し、潤滑油の歯筋方向への移動が抑制される。そして、進行方向溝2a内を歯丈方向に移動した潤滑油は、次回のかみ合い時の油膜形成に再利用される。また、進行方向溝2a内には直交方向溝2bを設けているため、進行方向溝2a内を歯丈方向に移動する潤滑油の量もできるだけ小さくすることができる。
【0021】
なお、各歯車の歯面間の油膜の厚さを適切に維持するには、潤滑油の接触進行方向(歯丈方向)への移動をある程度許容しつつ、その直交方向(歯筋方向)への移動をより厳しく抑制する必要がある。このため、本実施例では、接触進行方向(歯丈方向)に形成した進行方向溝2aの深さを、その直交方向(歯筋方向)に形成した直交方向溝2bの深さよりも深くしている。この構造により、歯車装置10の稼働時には、歯車対の接触部の潤滑油は、接触進行方向(歯丈方向)の直交方向(歯筋方向)への移動が抑制されるため、歯面1の外部に潤滑油が逃げる状況を回避でき、歯面間の油膜の厚さを適切に維持することができる。
【0022】
以上で説明した本実施例によれば、歯車の歯面に、接触進行方向の油溝と、それと直交する方向の油溝を形成することで、十分な量の潤滑油を歯面に滞留させることができ、歯車装置の稼働中に、歯車対の接触部に十分な厚さの油膜を形成することができる。これにより、歯車装置の稼働中の歯面強さを向上させることが可能となる。
【実施例2】
【0023】
次に、図3図4を用いて、実施例1の歯面1の具体的な加工方法を説明する。なお、実施例1との共通点は重複説明を省略する。
【0024】
本実施例では、油溝2の加工形成にマシニングセンタを利用する。マシニングセンタは、高速回転させた回転工具20のツールパスPを自由に制御することで、任意の表面形状を形成加工する工作機械である。本実施例では、歯面1を設計上の表面粗さ(通常、数10μm以下)に加工する切削工程や研削工程の加工跡を油溝2として利用することで、油溝2の加工だけのための加工工程を省略し、加工時間の短縮を図るが、歯面1を設計上の表面粗さに加工した後に、油溝2を加工形成するための工程を別途設けても良い。
【0025】
図3は、マシニングセンタの回転工具20が歯面1の表面を設計上の表面粗さに加工する工程を示す斜視図である。ここに示すように、r方向に高速回転する回転工具20を歯元から歯先に向かうツールパスPに沿って走査することで、回転工具20の円周上に配置されたカッター21が歯面1の表面の余分な金属を除去し、進行方向溝2aを形成加工することができる。
【0026】
具体的には、まず、高速回転する回転工具20を、歯面1の左端部にて、歯面1と接触させながらツールパスPに沿って走査する。これにより、歯面1の左端部に、接触の進行方向(平歯車の場合は歯丈方向)と平行な、1つ目の進行方向溝2aが加工形成される。ツールパスPの加工後は、高速回転する回転工具20を、歯面1と接触させずにツールパスPから歯筋方向にずれた場所に移動させた後、その場所にて、歯面1と接触させながらツールパスPに沿って走査する。これにより、1つ目の進行方向溝2aの隣に、2つ目の進行方向溝2aが加工形成される。そして、これを繰り返すことで、歯面1の全面にわたり、進行方向溝2aを形成加工することができる。
【0027】
<進行方向溝2aの詳細>
ここで、図4の断面図を用いて、任意のn個目のツールパスPとn+1個目のツールパスPn+1により形成加工される進行方向溝2aの位置関係を説明する。
【0028】
図4は、ツールパスPの法線方向の断面図であり、各々のツールパスPにより形成される進行方向溝2aの位置と大きさを示す図である。この図では、回転工具20のカッター21の外周の直径をD、ツールパス間隔をx、進行方向溝2aの深さをδとしている。これらの関係は次の式1で表される。
【0029】
【数1】
【0030】
回転工具径Dは既知であり、進行方向溝2aの深さδは歯面1の表面粗さの指定値δ以下とすべきであるため、ツールパス間隔xは次の式2で律速される。
【0031】
【数2】
【0032】
歯面1に十分な数の進行方向溝2aを形成加工するため、この工程は、歯車の接触部である歯あたり部全体、もしくは、歯面全体に実施されるべきである。
【0033】
<直交方向溝2bの詳細>
図3図4で示したように、マシニングセンタを用いて進行方向溝2aを加工形成した場合、回転工具20の芯ブレ、アンバランス振動、または、カッター21の外径誤差の影響によって、進行方向溝2aの内部に周期的な溝(直交方向溝2b)ができる。直交方向溝2bが形成される原理を、図5を用いて説明する。
【0034】
図5は、図3に示すツールパスPとツールパスPn+1に沿って回転工具20を走査したときに形成された、進行方向溝2aの一部を示す拡大平面図である。上記の加工方法を適用して進行方向溝2aを形成加工した場合、回転工具20の芯ブレ等によって、進行方向溝2aの内部には、ツールパスPやツールパスPn+1に直交した直交方向溝2bが形成される。
【0035】
この直交方向溝2bは、回転工具20の芯ブレ等によるカッター21の先端の周期的な変動に起因して形成加工されるものであるため、ツールパスPに沿った回転工具20の走査速度が一定であれば、各々の直交方向溝2bの配置は周期的なものとなる。また、回転工具20の芯ブレ等の大きさは、回転工具20の直径Dに比べて小さいため、進行方向溝2aの深さは直交方向溝2bの深さよりも深く、かつ、進行方向溝2aの幅は直交方向溝2bの幅よりも広くなる。
【0036】
本実施例の歯車製造方法により製造した歯車によれば、歯車を小型化した場合であっても、十分な潤滑油を歯面1に滞留させることができるので、歯面強さを向上させることができ歯車装置10の小形化や長寿命化を図ることができる。
【実施例3】
【0037】
次に、本発明の実施例3を説明する。なお、上記実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0038】
上記実施例では歯車の具体例として平歯車を例示したが、本発明を他種の歯車に適用しても良い。例えば、歯車の一種である、ベベルギアやスパイラルベベルギアは、大型船舶などで使用されるため、少量生産のニーズが有る。少量生産の歯車の製造には、マシニングセンタによる加工が用いられることが多いが、通常用いられる接触進行方向と直交するパスに沿って回転工具20を走査すると、歯面1に鱗模様が生成されてしまい、ピッチングの原因となる。そこで、本実施例では、回転工具20の走査方向を、歯車の接触進行方向にすることで、意図的に歯面強さの向上に寄与する油溝を生成する。このように、本提案は、ベベルギアの加工において特に有効である。
【符号の説明】
【0039】
1 歯面
1a 摺動面
2 油溝
2a 進行方向溝
2b 直交方向溝
10 歯車装置
11、12 歯車
20 回転工具
21 カッター
図1
図2
図3
図4
図5