(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】学習モデルを構築する方法、波の振幅を推定する方法、水面の鉛直方向の位置の経時変化を推定する方法、波の振幅を推定する装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 13/00 20060101AFI20240513BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240513BHJP
【FI】
G01C13/00 E
G06N20/00 130
(21)【出願番号】P 2021023610
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】琴浦 毅
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-079762(JP,A)
【文献】特開2003-302221(JP,A)
【文献】特開2008-117381(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0275313(US,A1)
【文献】特開2021-165752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 13/00
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波が生じている水面の鉛直方向の位置を継続的に測定して得られる、水位の経時変化を示す水位時系列データを繰り返し取得する水位取得工程と、
前記水位取得工程において取得された水位時系列データの各々に関し、当該水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量を時間軸において2階微分して加速度の経時変化を算出し、算出した加速度の経時変化を示す加速度時系列データを生成する加速度算出工程と、
前記水位取得工程において取得された水位時系列データの各々に関し、当該水位時系列データが示す経時変化する波の振幅を目的変数とし、前記加速度算出工程において当該水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量から算出された経時変化する加速度を説明変数とする機械学習用の教師データを生成する教師データ生成工程と、
前記教師データ生成工程において生成された複数の教師データを用いた機械学習により学習モデルを構築する学習モデル構築工程と、
を備える波の振幅の推定に用いる学習モデルを構築する方法。
【請求項2】
前記水位取得工程において取得された水位時系列データの各々に関し、当該水位時系列データに対しノイズの除去及び平滑化の少なくとも一方を施すフィルタ処理を行う水位フィルタ処理工程
を備え、
前記加速度算出工程において、前記水位フィルタ処理工程においてフィルタ処理の行われた水位時系列データを用いる
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加速度算出工程において生成された加速度時系列データの各々に関し、当該加速度時系列データに対しノイズの除去及び平滑化の少なくとも一方を施すフィルタ処理を行う加速度フィルタ処理工程
を備え、
前記教師データ生成工程において、前記加速度フィルタ処理工程においてフィルタ処理の行われた加速度時系列データを用いる
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
波が生じている水面に浮かぶ浮遊物に取り付けられた受信手段により受信された航法信号に基づき算出された前記水面の鉛直方向の位置の経時変化を示す位置時系列データを取得する位置取得工程と、
前記位置時系列データが示す経時変化する位置による変位量を時間軸において2階微分して加速度の経時変化を算出し、算出した加速度の経時変化を示す加速度時系列データを生成する加速度算出工程と、
前記位置取得工程において取得された位置時系列データの各々に関し、当該位置時系列データが示す経時変化する前記位置を目的変数とし、前記加速度算出工程において当該位置時系列データが示す経時変化する位置から算出された経時変化する加速度を説明変数とする機械学習用の教師データを生成する教師データ生成工程と、
前記教師データ生成工程において生成された複数の教師データを用いた機械学習により学習モデルを構築する学習モデル構築工程と、
を備える水面の鉛直方向の位置の経時変化の推定に用いる学習モデルを構築する方法。
【請求項5】
水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得工程と、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法により構築された前記学習モデルに対し、前記加速度取得工程において取得された加速度時系列データを説明変数として入力し、前記学習モデルから目的変数として出力される波の振幅の経時変化を示す振幅時系列データを取得する振幅取得工程と、
を備える波の振幅を推定する方法。
【請求項6】
水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得工程と、
請求項4に記載の方法により構築された前記学習モデルに対し、前記加速度取得工程において取得された加速度時系列データを説明変数として入力し、前記学習モデルから目的変数として出力される水面の鉛直方向の位置の経時変化を示す水面位置時系列データを取得する水面位置取得工程と、
を備える水面の鉛直方向の位置の経時変化を推定する方法。
【請求項7】
水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得手段と、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法により構築された学習モデルに対し、前記加速度取得手段が取得した加速度時系列データを説明変数として入力し、該学習モデルから目的変数として出力される波の振幅の経時変化を示す振幅時系列データを取得する振幅取得手段と、
を備える波の振幅を推定する装置。
【請求項8】
コンピュータに、
波が生じている水面の鉛直方向の位置を継続的に測定して得られる、水位の経時変化を示す水位時系列データを繰り返し取得する処理と、
前記水位時系列データを取得する処理において取得した水位時系列データの各々に関し、当該水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量を時間軸において2階微分して加速度の経時変化を算出し、算出した加速度の経時変化を示す加速度時系列データを生成する処理と、
前記水位時系列データを取得する処理において取得した水位時系列データの各々に関し、当該水位時系列データが示す経時変化する波の振幅を目的変数とし、前記加速度時系列データを生成する処理において当該水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量から算出した経時変化する加速度を説明変数とする機械学習用の教師データを生成する処理と、
前記教師データを生成する処理において生成した複数の教師データを用いた機械学習により学習モデルを構築する処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習モデルを構築する方法、波の振幅を推定する方法、水面の鉛直方向の位置の経時変化を推定する方法、波の振幅を推定する装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
波高計は、施工現場の海域でリアルタイムに水位変動を把握するために利用される。波高計には、海底設置型、空中放射型、ブイ型等、各種の型式が存在する。
【0003】
海底設置型の波高計は、海底から超音波照射装置や水圧センサ等を使って水面変動を捉える方式の波高計である。海底設置型の波高計は、設置するために潜水士が必要となるため、大水深になると設置することが難しい。また、超音波照射装置や水圧センサ等が海底にあるため、洋上の作業船に観測データを伝達するにはケーブルで接続されている必要がある。
【0004】
空中放射型の波高計は、空中から水面に向かって超音波を放射し、その反射から水面変動を捉えるものである。しかし、作業船が動揺する場合は、その動揺を考慮する必要がある。また、水面に向かって直角に放射する必要があるため、船舶の動揺により超音波の放射角度を直角に保つことが難しい。
【0005】
ブイ式の波高計は、水面に浮遊させたブイ(浮標ともいう)を使って水面変動を捉える方式の波高計である。ブイ式の波高計は、全地球航法衛星システム(GNSS: Global Navigation Satellite System)を用いるものや、加速度センサを用いるもの等がある。
【0006】
GNSSを用いるブイ式の波高計は、GNSSによる標高情報を取得することができるものの、要求される精度によっては資機材が大きくなりやすい。
【0007】
加速度センサを用いるブイ式の波高計は、ブイに取り付けられた加速度センサにより、上下方向の加速度を計測し、この加速度を時間で二重積分することで水位変動を推定するものである。
【0008】
例えば、特許文献1には、加速度センサの出力を積分して速度成分を得、又はその速度成分を更に積分することによって変位成分を得るように構成した波浪観測装置等に於いて、抽出した速度成分又は変位成分を所要の通過域を有する高域ろ波器に通すことにより、その成分に重畳するトレンド成分を除去するようにしたことを特徴とする加速度センサを用いた波浪観測装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、加速度を時間で二重積分する手法で水位変動を推定するためには、比較的高精度な加速度センサが必要である。
【0011】
本願の発明の目的の一つは、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データに対して積分をすることなく、波高いわゆる波の振幅を推定することである。また、本願の発明の目的の、他の一つは、加速度時系列データに対して積分が不要な波の振幅推定に用いる学習モデルを構築することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に係る方法は、波が生じている水面の鉛直方向の位置を継続的に測定して得られる、水位の経時変化を示す水位時系列データを繰り返し取得する水位取得工程と、前記水位取得工程において取得された水位時系列データの各々に関し、当該水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量を時間軸において2階微分して加速度の経時変化を算出し、算出した加速度の経時変化を示す加速度時系列データを生成する加速度算出工程と、前記水位取得工程において取得された水位時系列データの各々に関し、当該水位時系列データが示す経時変化する波の振幅を目的変数とし、前記加速度算出工程において当該水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量から算出された経時変化する加速度を説明変数とする機械学習用の教師データを生成する教師データ生成工程と、前記教師データ生成工程において生成された複数の教師データを用いた機械学習により学習モデルを構築する学習モデル構築工程と、を備える波の振幅の推定に用いる学習モデルを構築する方法である。
【0013】
本発明の請求項2に係る方法は、請求項1に記載の態様において、前記水位取得工程において取得された水位時系列データの各々に関し、当該水位時系列データに対しノイズの除去及び平滑化の少なくとも一方を施すフィルタ処理を行う水位フィルタ処理工程を備え、前記加速度算出工程において、前記水位フィルタ処理工程においてフィルタ処理の行われた水位時系列データを用いる方法である。
【0014】
本発明の請求項3に係る方法は、請求項1又は2に記載の態様において、前記加速度算出工程において生成された加速度時系列データの各々に関し、当該加速度時系列データに対しノイズの除去及び平滑化の少なくとも一方を施すフィルタ処理を行う加速度フィルタ処理工程を備え、前記教師データ生成工程において、前記加速度フィルタ処理工程においてフィルタ処理の行われた加速度時系列データを用いる方法である。
【0015】
本発明の請求項4に係る方法は、波が生じている水面に浮かぶ浮遊物に取り付けられた受信手段により受信された航法信号に基づき算出された前記水面の鉛直方向の位置の経時変化を示す位置時系列データを取得する位置取得工程と、前記位置時系列データが示す経時変化する位置による変位量を時間軸において2階微分して加速度の経時変化を算出し、算出した加速度の経時変化を示す加速度時系列データを生成する加速度算出工程と、前記位置取得工程において取得された位置時系列データの各々に関し、当該位置時系列データが示す経時変化する前記位置を目的変数とし、前記加速度算出工程において当該位置時系列データが示す経時変化する位置から算出された経時変化する加速度を説明変数とする機械学習用の教師データを生成する教師データ生成工程と、前記教師データ生成工程において生成された複数の教師データを用いた機械学習により学習モデルを構築する学習モデル構築工程と、を備える水面の鉛直方向の位置の経時変化の推定に用いる学習モデルを構築する方法である。
【0016】
本発明の請求項5に係る方法は、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得工程と、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の態様により構築された前記学習モデルに対し、前記加速度取得工程において取得された加速度時系列データを説明変数として入力し、前記学習モデルから目的変数として出力される波の振幅の経時変化を示す振幅時系列データを取得する振幅取得工程と、を備える波の振幅を推定する方法である。
【0017】
本発明の請求項6に係る方法は、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得工程と、請求項4に記載の方法により構築された前記学習モデルに対し、前記加速度取得工程において取得された加速度時系列データを説明変数として入力し、前記学習モデルから目的変数として出力される水面の鉛直方向の位置の経時変化を示す水面位置時系列データを取得する水面位置取得工程と、を備える水面の鉛直方向の位置の経時変化を推定する方法である。
【0018】
本発明の請求項7に係る装置は、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得手段と、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法により構築された学習モデルに対し、前記加速度取得手段が取得した加速度時系列データを説明変数として入力し、該学習モデルから目的変数として出力される波の振幅の経時変化を示す振幅時系列データを取得する振幅取得手段と、を備える波の振幅を推定する装置である。
【0019】
本発明の請求項8に係るプログラムは、コンピュータに、波が生じている水面の鉛直方向の位置を継続的に測定して得られる、水位の経時変化を示す水位時系列データを繰り返し取得する処理と、前記水位時系列データを取得する処理において取得した水位時系列データの各々に関し、当該水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量を時間軸において2階微分して加速度の経時変化を算出し、算出した加速度の経時変化を示す加速度時系列データを生成する処理と、前記水位時系列データを取得する処理において取得した水位時系列データの各々に関し、当該水位時系列データが示す経時変化する波の振幅を目的変数とし、前記加速度時系列データを生成する処理において当該水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量から算出した経時変化する加速度を説明変数とする機械学習用の教師データを生成する処理と、前記教師データを生成する処理において生成した複数の教師データを用いた機械学習による学習モデルを構築する処理と、を実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データに対して積分をすることなく、波の振幅を推定することができる。また、本発明によれば、加速度時系列データに対して積分が不要な波の振幅推定に用いる学習モデルを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】振幅推定システム9の全体構成の例を示す概略図。
【
図2】学習モデル構築装置4が学習モデルを構築する状況の例を示す図。
【
図5】学習モデル構築装置4の機能的構成の例を示す図。
【
図9】教師データ421を生成する動作の流れの例を示すフロー図。
【
図10】学習モデル422を構築する動作の流れの例を示すフロー図。
【
図11】波の振幅を推定する動作の流れの例を示すフロー図。
【
図12】GNSSを用いた振幅推定システム9の全体構成の例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<振幅推定システムの全体構成>
図1は、振幅推定システム9の全体構成の例を示す概略図である。振幅推定システム9は、振幅推定装置1、端末2、及び学習モデル構築装置4を有する。また、
図1に示す振幅推定システム9は、通信回線3を有する。
【0023】
水面Lvは、海や湖の水面であり、波の作用により鉛直方向に上下動する。浮遊物Jは、水上に浮かぶブイ等の構造物である。浮遊物Jは、水面Lvの上下動に伴って鉛直方向に移動する。
【0024】
端末2は、浮遊物Jに取り付けられている。そのため、端末2は、浮遊物Jとともに水面Lvの上下動による鉛直方向の力を受ける。端末2は、少なくとも鉛直方向の加速度を測定する機能を有しており、この加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを生成して、これを振幅推定装置1に供給する。
【0025】
学習モデル構築装置4は、予め収集した水位時系列データと、そこから導き出した加速度時系列データとを用いて教師データを生成し、その教師データから学習モデルを構築する装置である。この学習モデル構築装置4は、構築した学習モデルを振幅推定装置1に提供する装置であり、例えば、コンピュータである。なお、学習モデル構築装置4は振幅推定装置1に内蔵されていてもよく、浮遊物Jの端末2に内蔵されていてもよい。
【0026】
振幅推定装置1は、水面Lvに生じる波の振幅を推定する情報処理装置であり、例えば、コンピュータである。振幅推定装置1は、学習モデル構築装置4から学習モデルを取得する。また、振幅推定装置1は、端末2から、上述した加速度時系列データを取得する。そして、振幅推定装置1は、学習モデル構築装置4から取得した学習モデルに対し、端末2から取得した加速度時系列データが示す加速度の経時変化を説明変数として入力し、目的変数として波の振幅を示す振幅時系列データを推定する。
【0027】
また、
図1に示す振幅推定装置1は、端末2から位置時系列データを取得し、これが示す位置に基づき鉛直方向における水面の基準位置を特定する。そして、振幅推定装置1は、推定した振幅を特定した基準位置に加算して、鉛直方向における水面の位置を特定する。
【0028】
通信回線3は、無線により振幅推定装置1、端末2、及び学習モデル構築装置4を相互に通信可能に接続する回線である。端末2は、この通信回線3を介して、自身が生成した加速度時系列データを振幅推定装置1へ送信する。学習モデル構築装置4は、この通信回線3を介して、自身が構築した学習モデルを振幅推定装置1へ送信する。通信回線3は、例えば、LPWA(Low Power Wide Area)を用いた回線であってもよい。
【0029】
このLPWAとしては、例えば、「ELTRES(登録商標)」、「LoRa(登録商標)」、「LoRaWAN(登録商標)」、「RPMA(登録商標)」、「SIGFOX(登録商標)」、「EnOcean(登録商標) Long Range」、「NB-IoT」、「NB-Fi Protocol」、「GreenOFDM」、「DASH7」、「Wi-SUN」、「Weightless-P」、「LTE-MTC」、「LTE Cat.0」、「LTE Cat.M1」等が挙げられる。
【0030】
<学習モデル構築装置の構成>
図2は、学習モデル構築装置4が学習モデルを構築する状況の例を示す図である。
図2に示す通り、学習モデル構築装置4は、学習モデルを構築する際に、ケーブル6を介して波高計5と接続している。
【0031】
波高計5は、海や湖等の波が生じている水面の鉛直方向の位置(水位ともいう)の変動に基づいて波高を継続的に測定する測定器である。
図2に示す波高計5は、海底設置型の波高計であり、海底から超音波照射装置や水圧センサ等を使って水位の変動を捉え、これにより、波高を測定する。波高計5は、空中放射型、ブイ型等であってもよい。なお、ブイ型を使用する際には、ケーブル6に代えて無線等他の通信手段を用いることができる。なお、波高計5は定置方式、水圧方式のどちらを用いてもよい。
【0032】
ケーブル6は、波高計5と学習モデル構築装置4とを通信可能に接続する信号線である。このケーブル6は、波高計5が捉えた水位を示す水位時系列データを逐次、学習モデル構築装置4に伝達する。
【0033】
図3は、学習モデル構築装置4の構成の例を示す図である。
図3に示す通り、学習モデル構築装置4は、プロセッサ41、メモリ42、及びインタフェース43を有する。プロセッサ41は、メモリ42に記憶されているコンピュータプログラム(以下、単にプログラムという)を実行することにより学習モデル構築装置4を制御する。プロセッサ41は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。
【0034】
メモリ42は、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等の記憶手段であり、プロセッサ41に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する。また、メモリ42は、教師データ421、及び学習モデル422を記憶する。
【0035】
図4は、教師データ421の例を示す図である。教師データ421は、学習モデル422の構築に用いるデータである。この教師データ421は、波高計5から取得した水位時系列データが示す経時変化する波の振幅を目的変数とし、この水位時系列データが示す経時変化する水位の変位量から算出された経時変化する加速度を説明変数とする。
【0036】
図4に示す教師データ421は、時刻、説明変数、及び目的変数を1行のレコードに対応付けた表である。この説明変数は、水位時系列データから2階微分によって算出された加速度による時系列データを含んでいる。また、この目的変数は、波の振幅である。
【0037】
なお、説明変数は、加速度だけでもよいが、
図4に示す通り、加速度だけではなく、他の変数を含んでもよい。他の変数は、例えば、波高計5の鉛直方向以外の位置である座標(緯度、経度等)、水温等が挙げられる。
【0038】
学習モデル422は、振幅推定装置1が、加速度時系列データから波の振幅を推定するための機械学習モデルである。学習モデル422は、推定に用いられるパラメータ群を含む。
【0039】
学習モデル構築装置4は、上述した教師データ421で対応付けられている説明変数と目的変数との組から、いわゆる教師あり機械学習により学習モデル422を構築する。この学習モデル422の提供を受けた振幅推定装置1は、これを用いて未知の説明変数に対応する目的変数を推定する。
【0040】
インタフェース43は、プロセッサ41が通信回線3、ケーブル6、及びその他の外部の装置等と情報のやり取りをするためのインタフェースである。
【0041】
プロセッサ41は、インタフェース43を介してケーブル6に接続し、ケーブル6から波高計5で測定された教師データとなる水位時系列データを繰り返し取得する。
【0042】
また、プロセッサ41は、インタフェース43を介して通信回線3に接続し、通信回線3から振幅推定装置1へ学習モデル422を提供する。なお、学習モデル構築装置4は振幅推定装置1の一機能として内蔵されているようにしてもよく、浮遊物Jの端末2に内蔵されていてもよい。
【0043】
<学習モデル構築装置の機能的構成>
図5は、学習モデル構築装置4の機能的構成の例を示す図である。学習モデル構築装置4のプロセッサ41は、上述したプログラムを実行することにより、水位取得手段411、水位フィルタ処理手段412、加速度算出手段413、加速度フィルタ処理手段414、教師データ生成手段415、及び学習モデル構築手段416として機能する。
【0044】
水位取得手段411は、インタフェース43、及びケーブル6を介して波高計5から、上述した水位時系列データを繰り返し取得する。すなわち、この水位取得手段411は、波が生じている水面の鉛直方向の位置を継続的に測定して得られる、水位の経時変化を示す水位時系列データを繰り返し取得する水位取得手段の例である。
【0045】
水位フィルタ処理手段412は、水位取得手段411により取得された水位時系列データの各々に関し、それらの水位時系列データに対しノイズの除去及び平滑化の少なくとも一方を施すフィルタ処理を行う。
【0046】
加速度算出手段413は、水位取得手段411が取得した水位時系列データに対して、例えば、中心差分近似公式等に基づき時間軸における2階微分の演算を行う。この演算により、加速度算出手段413は、経時変化する水位の加速度を時刻ごとに算出して、その経時変化を示す加速度時系列データを生成する。
【0047】
すなわち、この加速度算出手段413は、水位取得手段により取得された水位時系列データの各々に関し、それらの水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量(波の振幅)を時間軸において2階微分して加速度の経時変化を算出し、算出した加速度の経時変化を示す加速度時系列データを生成する加速度算出手段の例である。
【0048】
なお、
図5に示す例において、加速度算出手段413は、水位取得手段411により取得され、水位フィルタ処理手段412によりフィルタ処理が行われた水位時系列データを用いる。
【0049】
加速度フィルタ処理手段414は、加速度算出手段413により生成された加速度時系列データの各々に関し、それらの加速度時系列データに対しノイズの除去及び平滑化の少なくとも一方を施すフィルタ処理を行う。
【0050】
教師データ生成手段415は、上述した水位時系列データにより示される経時変化する波の振幅を、教師データ421の目的変数の欄に書き込み、その振幅が得られた時刻の情報を、教師データ421の時刻の欄に書き込む。そして、教師データ生成手段415は、加速度算出手段413が水位時系列データを2階微分して得た加速度時系列データを、対応する時刻ごとに教師データ421の説明変数の欄に書き込む。
【0051】
すなわち、この教師データ生成手段415は、水位取得手段により取得された水位時系列データの各々に関し、それらの水位時系列データが示す経時変化する波の振幅を目的変数とし、加速度算出手段により水位時系列データが示す経時変化する水位から算出された経時変化する加速度を説明変数とする機械学習用の教師データを生成する教師データ生成手段の例である。
【0052】
なお、
図5に示す例において、教師データ生成手段415は、加速度算出手段413により生成され、加速度フィルタ処理手段414によりフィルタ処理が行われた加速度時系列データを用いる。
【0053】
学習モデル構築手段416は、教師データ421を用いて機械学習を行うことにより、学習モデル422を構築する。
【0054】
例えば、メモリ42に記憶されている学習モデル422は、パラメータ群であり、初期状態で各種パラメータには予め設定された初期値が記憶されている。学習モデル構築手段416は、学習モデル422のこれらの初期値を読出して、教師データ421の説明変数を入力し、目的変数を推算する。
【0055】
そして、学習モデル構築手段416は、推算した目的変数が、教師データ421に記述された目的変数に近づくように、学習モデル422のパラメータを更新する。推算した目的変数と記述された目的変数の差が所定の闕値内に収まるまでこれを繰り返すことにより、学習モデル構築手段416は、学習モデル422を構築する。
【0056】
すなわち、この学習モデル構築手段416は、教師データ生成手段により生成された複数の教師データを用いた機械学習により学習モデルを構築する学習モデル構築手段の例である。
【0057】
<振幅推定装置の構成>
図6は、振幅推定装置1の構成の例を示す図である。振幅推定装置1は、プロセッサ11、メモリ12、及びインタフェース13を有する。プロセッサ11は、メモリ12に記憶されているプログラムを実行することにより振幅推定装置1を制御する。プロセッサ11は、例えばCPUである。
【0058】
インタフェース13は、プロセッサ11が通信回線3、及びその他の外部の装置等と情報のやり取りをするためのインタフェースである。
【0059】
プロセッサ11は、インタフェース13を介して通信回線3に接続し、通信回線3から端末2で生成された加速度時系列データや、学習モデル構築装置4で構築された学習モデルを取得する。
【0060】
また、振幅推定装置1は、インタフェース13を介して例えば外部の表示装置と接続し、決定した情報をユーザに表示させる。
【0061】
メモリ12は、例えばRAM、ROM、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等の記憶手段であり、プロセッサ11に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する。
【0062】
また、メモリ12は、振幅データ121を記憶する。
【0063】
振幅データ121は、学習モデル構築装置4から取得した学習モデルを用いて、プロセッサ11が、加速度時系列データに対応する波の振幅の経時変化を推定した結果である振幅時系列データである。
【0064】
<端末の構成>
図7は、端末2の構成の例を示す図である。端末2は、プロセッサ21、メモリ22、インタフェース23、及び加速度センサ26を有する。
【0065】
プロセッサ21は、メモリ22に記憶されているプログラムを実行することにより端末2を制御する。プロセッサ21は、例えばCPUである。
【0066】
インタフェース23は、プロセッサ21が通信回線3、及びその他の外部の装置等と情報のやり取りをするためのインタフェースである。
【0067】
プロセッサ21は、インタフェース23を介して通信回線3に接続し、通信回線3を経由して加速度センサ26による加速度時系列データを振幅推定装置1へ送信する。
【0068】
また、端末2は、インタフェース23を介して例えばフラッシュメモリ等の外部の記憶装置と接続し、加速度時系列データ等をこの記憶装置に記憶させてもよい。
【0069】
メモリ22は、例えばRAM、ROM、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等の記憶手段であり、プロセッサ21に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する。
【0070】
加速度センサ26は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)方式で加速度を測定するセンサである。加速度センサ26は、少なくとも自身が受ける鉛直方向の加速度を測定して、順次、メモリ22に記憶する。これによりメモリ22には、測定された鉛直方向の加速度の経時変化を示す加速度時系列データが生成される。生成されたこの加速度時系列データは、上述した通り、振幅推定装置1へ送信される。なお、端末2は、浮遊物Jに取り付けられているので、プロセッサ21が測定する加速度は、端末2が受ける加速度であるとともに、浮遊物Jが受ける加速度でもある。
【0071】
<振幅推定装置の機能的構成>
図8は、振幅推定装置1の機能的構成の例を示す図である。振幅推定装置1のプロセッサ11は、上述したプログラムを実行することにより、加速度取得手段111、加速度フィルタ処理手段112、及び振幅取得手段113として機能する。
【0072】
加速度取得手段111は、インタフェース13を介して端末2から、上述した加速度時系列データを取得する。すなわち、この加速度取得手段111は、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得手段の例である。
【0073】
加速度フィルタ処理手段112は、加速度取得手段111により取得された加速度時系列データが示す加速度の、所定の期間の経時変化を平滑化する。この所定の期間は、比較的短い期間であり、例えば、2秒間である。この場合、加速度フィルタ処理手段112は、2秒間の加速度の移動平均値を算出することにより、端末2で実測された加速度のデータを平滑化する。また、加速度時系列データが示す加速度のうち、それらの平均値から、例えば標準偏差等から定まる閾値を超えて離れた実測値があった場合、加速度フィルタ処理手段112は、その加速度をノイズとして無視してもよく、平滑化対象のデータとしなくてもよい。
【0074】
つまり、加速度フィルタ処理手段112は、取得した加速度時系列データに対しノイズの除去及び平滑化の少なくとも一方を施すフィルタ処理を行う。
【0075】
なお、プロセッサ11は、加速度フィルタ処理手段112として機能しなくてもよい。この場合、加速度取得手段111が取得した加速度時系列データは、振幅取得手段113に直接、供給される。
【0076】
振幅取得手段113は、インタフェース13を経由して、学習モデル構築装置4から学習モデル422のパラメータ群を取得する。また、振幅取得手段113は、加速度取得手段111が取得し、加速度フィルタ処理手段112がフィルタ処理を施した加速度時系列データを、上述した学習モデル422に対して説明変数として入力し、目的変数として出力される波の振幅の経時変化を取得して、振幅データ121に記憶する。
【0077】
すなわち、この振幅取得手段113は、構築された学習モデルに対し、加速度取得手段が取得した加速度時系列データを説明変数として入力し、学習モデルから目的変数として出力される波の振幅の経時変化を示す振幅時系列データを取得する振幅取得手段の例である。
【0078】
なお、プロセッサ11は、取得した波の振幅の情報を、インタフェース13経由で、例えば、外部の表示装置に送信し、これを表示させてもよい。
【0079】
<振幅推定装置の動作>
図9は、教師データ421を生成する動作の流れの例を示すフロー図である。
図9(a)には、学習モデル構築装置4のプロセッサ41が、波高計5で測定された水位時系列データを教師データ421の目的変数の欄に記憶する動作が示されている。
図9(b)には、プロセッサ41が、水位時系列データを2階微分して加速度時系列データを算出し、教師データ421の説明変数の欄に記憶することで教師データ421を完成させる動作が示されている。
【0080】
図9(a)に示す通り、プロセッサ41は、ケーブル6、及びインタフェース43を経由して、波高計5から水位時系列データを取得する(ステップS101)。
【0081】
プロセッサ41は、取得した水位時系列データに対しノイズの除去及び平滑化の少なくとも一方を施すフィルタ処理を行い(ステップS102)、得られた水位時系列データを教師データ421の目的変数の欄に入力する(ステップS103)。
【0082】
すなわち、上述したステップS102は、水位取得工程において取得された水位時系列データの各々に関し、その水位時系列データに対しノイズの除去及び平滑化の少なくとも一方を施すフィルタ処理を行う水位フィルタ処理工程の例である。
【0083】
そして、プロセッサ41は、終了条件が満たされているか否かを判断する(ステップS104)。この終了条件は、例えば、教師データ421を完成させるために必要な、予め設定された数の水位時系列データが取得し終わった、といった条件である。この終了条件が満たされている、と判断する場合(ステップS104;YES)、プロセッサ41は、処理を終了する。一方、終了条件が満たされていない、と判断する場合(ステップS104;NO)、プロセッサ41は、処理をステップS101に戻す。これにより、プロセッサ41は、終了条件が満たされるまで、上述した水位時系列データを繰り返し取得する。
【0084】
すなわち、上述したステップS101は、波が生じている水面の鉛直方向の位置を継続的に測定して得られる、水位の経時変化を示す水位時系列データを繰り返し取得する水位取得工程の例である。
【0085】
図9(b)に示す通り、プロセッサ41は、メモリ42に記憶された教師データ421の目的変数の欄から、水位時系列データを取得する(ステップS111)。そして、プロセッサ41は、取得した水位時系列データに対して、例えば、中心差分近似公式により時間軸における2階微分をして、加速度時系列データを算出する(ステップS112)。
【0086】
すなわち、上述したステップS112は、水位取得工程において取得された水位時系列データの各々に関し、この水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量(波の振幅)を時間軸において2階微分して加速度の経時変化を算出し、算出した加速度の経時変化を示す加速度時系列データを生成する加速度算出工程の例である。
【0087】
プロセッサ41は、算出した加速度時系列データに対しノイズの除去及び平滑化の少なくとも一方を施すフィルタ処理を行い(ステップS113)、得られた加速度時系列データを、上述した水位時系列データに紐付ける(ステップS114)。これにより、プロセッサ41は、機械学習用の教師データ421を生成する。
【0088】
すなわち、上述したステップS113は、加速度算出工程において生成された加速度時系列データの各々に関し、この加速度時系列データに対しノイズの除去及び平滑化の少なくとも一方を施すフィルタ処理を行う加速度フィルタ処理工程の例である。
【0089】
また、上述したステップS114は、水位取得工程において取得された水位時系列データの各々に関し、この水位時系列データが示す経時変化する波の振幅を目的変数とし、加速度算出工程においてこの水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量から算出された経時変化する加速度を説明変数とする機械学習用の教師データを生成する教師データ生成工程の例である。
【0090】
そして、プロセッサ41は、水位時系列データに紐付けられた加速度時系列データを、教師データ421の説明変数の欄に入力する(ステップS115)。
【0091】
そして、プロセッサ41は、終了条件が満たされているか否かを判断する(ステップS116)。この終了条件は、教師データ421の目的変数の欄に記述されている、全ての水位時系列データを取得し終えた、といった条件である。この終了条件が満たされている、と判断する場合(ステップS116;YES)、プロセッサ41は、処理を終了する。一方、終了条件が満たされていない、と判断する場合(ステップS116;NO)、プロセッサ41は、処理をステップS111に戻す。これにより、プロセッサ41は、終了条件が満たされるまで、上述した水位時系列データに対応する加速度時系列データを算出し、教師データ421を生成する。
【0092】
図10は、学習モデル422を構築する動作の流れの例を示すフロー図である。学習モデル構築装置4のプロセッサ41は、上述した動作により生成された教師データ421をメモリ42から読出して取得する(ステップS121)。そして、プロセッサ41は、教師データ421で対応付けられている説明変数と目的変数との組から、機械学習により学習モデル422を構築し(ステップS122)、これをメモリ42に記憶する(ステップS123)。構築されたこの学習モデル422を使用して振幅推定装置1が推算する目的変数は、教師データ421に記述された目的変数との差が所定の闕値内に収まるようになる。
【0093】
すなわち、上述したステップS122は、教師データ生成工程において生成された複数の教師データを用いた機械学習により学習モデルを構築する学習モデル構築工程の例である。また、これらの動作を行う学習モデル構築装置4は、波の振幅の推定に用いる学習モデルを構築する装置の例である。学習モデル構築装置4は、上述した各工程を実行することで、波の振幅の推定に用いる学習モデルを構築する方法を行う。
【0094】
図11は、波の振幅を推定する動作の流れの例を示すフロー図である。振幅推定装置1のプロセッサ11は、通信回線3、及びインタフェース13を介して、学習モデル構築装置4から学習モデル422を取得する(ステップS201)。
【0095】
また、プロセッサ11は、通信回線3、及びインタフェース13を介して、端末2から上述した加速度時系列データを取得する(ステップS202)。
【0096】
すなわち、上述したステップS202は、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得工程の例である。
【0097】
そして、プロセッサ11は、上述した学習モデル422に対し、取得した加速度時系列データを説明変数として入力し(ステップS203)、この学習モデル422から目的変数として出力される波の振幅の経時変化を示す振幅時系列データを取得する(ステップS204)。
【0098】
すなわち、上述したステップS203、及びステップS204は、構築された学習モデルに対し、加速度取得工程において取得された加速度時系列データを説明変数として入力し、学習モデルから目的変数として出力される波の振幅の経時変化を示す振幅時系列データを取得する振幅取得工程の例である。
【0099】
プロセッサ11は、取得した振幅時系列データを、メモリ12の振幅データ121として記憶する(ステップS205)。
【0100】
そして、プロセッサ11は、終了条件が満たされているか否かを判断する(ステップS206)。終了条件が満たされている、と判断する場合(ステップS206;YES)、プロセッサ11は、処理を終了する。一方、終了条件が満たされていない、と判断する場合(ステップS206;NO)、プロセッサ11は、処理をステップS201に戻す。これにより、プロセッサ11は、終了条件が満たされるまで、上述した加速度時系列データを説明変数として学習モデルにより目的変数として推定される振幅時系列データを繰り返し取得する。なお、ステップS206の終了判断に用いられる終了条件は、前述のステップS104に用いられる終了条件と同じ条件である。
【0101】
これらの動作を行う振幅推定装置1は、波の振幅を推定する装置の例である。振幅推定装置1は、上述した各工程を実行することで、波の振幅を推定する方法を行う。
【0102】
以上の動作により、学習モデル構築装置4は、波高計5で測定された、波が生じている水面の鉛直方向の位置と、その2階微分値との組を教師データとする学習モデルを構築する。そして、振幅推定装置1は、構築された学習モデルを利用して、端末2が測定した加速度に対応する波の振幅の経時変化を推定する。この振幅推定システム9によれば、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データに対して積分をすることなく、波の振幅を推定することが可能となる。
【0103】
<変形例>
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組合せてもよい。
【0104】
<1>
上述した実施形態において、学習モデル構築装置4は、学習モデル422を構築し、振幅推定装置1は、その学習モデル422を利用して、端末2から取得した加速度時系列データに応じた波の振幅の経時変化を推定していたが、振幅推定装置1は、学習モデル構築機能を内蔵してもよい。この場合、プロセッサ11は、プロセッサ41の上述した機能も有していればよく、また、振幅推定システム9は、学習モデル構築装置4を個別の装置として有しなくてもよい。
【0105】
<2>
上述した実施形態において、端末2は、加速度センサ26を有していたが、水面Lvの変直方向の加速度が、時間軸に沿って測定できれば、加速度センサ26を有しなくてもよい。また、端末2は、浮遊物Jに取り付けられていたが、端末2そのものが水上に浮遊する構成であってもよい。また、端末2が学習モデル構築機能を有してもよい。
【0106】
<3>
上述した実施形態において、振幅推定装置1と学習モデル構築装置4、及び振幅推定装置1と端末2とは、通信回線3を介して互いに接続し、情報のやり取りをしていたが、通信回線3を介さずに、情報のやり取りをしてもよい。例えば、振幅推定装置1のインタフェース13、学習モデル構築装置4のインタフェース43、及び端末2のインタフェース23は、いずれも近距離無線通信の機能を有しており、この近距離無線通信によって、振幅推定装置1と学習モデル構築装置4、又は振幅推定装置1と端末2とが情報のやり取りをしてもよい。
【0107】
また、振幅推定装置1は、リアルタイムで端末2から加速度時系列データを取得しなくてもよい。例えば、振幅推定装置1は、端末2のメモリ22に記憶された加速度時系列データを、インタフェース23、及びインタフェース13を接続する有線ケーブル経由で取得してもよい。また、端末2は、メモリ22に記憶された加速度時系列データを、インタフェース23経由で外部のフラッシュメモリ等にコピーしてもよい。この場合、振幅推定装置1は、フラッシュメモリ等から上述した加速度時系列データのコピーを取得すればよい。
【0108】
<4>
上述した実施形態において、振幅推定システム9は、海底から超音波照射装置や水圧センサ等を使って水面変動を捉える海底設置型の波高計5を用いていたが、波高計5に変えて、GNSSにより水面変動を捉えてもよい。この場合、端末2が、上述した波高計5の機能を有していればよい。
【0109】
図12は、GNSSを用いた振幅推定システム9の全体構成の例を示す概略図である。この変形例において、端末2は、
図7に破線で示す受信部27を有する。この受信部27は、
図12に示す航法衛星Saが発射した信号(航法信号という)を受信する受信手段である。
【0110】
図7に示すプロセッサ21は、
図12に示す複数の航法衛星Saから受信部27がそれぞれ受信した航法信号に含まれる時刻情報等を用いて、少なくとも自身の標高(水面の鉛直方向の位置)を測定する。そして、プロセッサ21は、測定した標高の経時変化を示す位置時系列データを生成する。なお、端末2は、浮遊物Jに取り付けられているので、プロセッサ21が生成、測定する標高は、端末2の標高であるとともに、浮遊物Jの標高でもあり、浮遊物Jが浮かぶ水面Lvの標高でもある。
【0111】
図12に示す端末2は、生成したこの標高の経時変化を示す位置時系列データを生成して、これを学習モデル構築装置4に供給する。
【0112】
学習モデル構築装置4のプロセッサ41により実現する水位取得手段411(
図5参照)は、インタフェース43を経由して、
図12に示す浮遊物Jに取り付けられた端末2の受信部27により受信された航法信号に基づき算出された、この浮遊物Jの鉛直方向の位置の経時変化を示す位置時系列データを取得する。
【0113】
すなわち、この水位取得手段411は、波が生じている水面に浮かぶ浮遊物に取り付けられた受信手段により受信された航法信号に基づき算出された水面の鉛直方向の位置の経時変化を示す位置時系列データを取得する位置取得工程を行う手段の例である。
【0114】
この変形例において、加速度算出手段413は、位置時系列データが示す経時変化する位置による変位量(波の振幅)を時間軸において2階微分して加速度の経時変化を算出し、算出した加速度の経時変化を示す加速度時系列データを生成する加速度算出工程を行う。
【0115】
この変形例において、教師データ生成手段415は、位置取得工程において取得された位置時系列データの各々に関し、それらが示す経時変化する位置を目的変数とし、加速度算出工程において位置時系列データが示す経時変化する位置による変位量から算出された経時変化する加速度を説明変数とする機械学習用の教師データを生成する教師データ生成工程を行う。
【0116】
この変形例において、学習モデル構築手段416は、生成された複数の教師データを用いた機械学習により学習モデルを構築する学習モデル構築工程を行う。
【0117】
すなわち、この変形例に示した学習モデル構築装置4は、水面の鉛直方向の位置の経時変化の推定に用いる学習モデルを構築する方法を行う。
【0118】
この変形例において、振幅推定装置1は、
図6に破線で示す水面位置データ123を記憶する。
図6に示す水面位置データ123は、学習モデル構築装置4から取得した学習モデルを用いて、プロセッサ11が、加速度時系列データに対応する水面の鉛直方向の位置による変位量(波の振幅)の経時変化を推定した結果である、水面位置時系列データである。
【0119】
この変形例において、振幅推定装置1のプロセッサ11は、
図8に破線で示す水面位置特定手段117として機能する。
【0120】
図8に示す水面位置特定手段117は、インタフェース13を経由して、学習モデル構築装置4から学習モデル422のパラメータ群を取得する。また、水面位置特定手段117は、加速度取得手段111が取得し、加速度フィルタ処理手段112がフィルタ処理を施した加速度時系列データを、上述した学習モデル422に対して説明変数として入力し、目的変数として出力される水面の鉛直方向の位置の経時変化を取得して、水面位置データ123に記憶する。
【0121】
すなわち、この水面位置特定手段117は、学習モデルに対し、加速度取得工程において取得された加速度時系列データを説明変数として入力し、学習モデルから目的変数として出力される水面の鉛直方向の位置の経時変化、つまり波の振幅を示す水面位置時系列データを取得する水面位置取得工程を行う手段の例である。
【0122】
<5>
上述したプロセッサ11、及びプロセッサ41によって実行されるプログラムは、磁気テープ及び磁気ディスク等の磁気記録媒体、光ディスク等の光記録媒体、光磁気記録媒体、半導体メモリ等の、コンピュータ装置が読取り可能な記録媒体に記憶された状態で提供し得る。また、このプログラムは、インターネット等の通信回線経由でダウンロードされてもよい。すなわち、このプログラムは、コンピュータに、波が生じている水面の鉛直方向の位置を継続的に測定して得られる、水位の経時変化を示す水位時系列データを繰り返し取得する処理と、水位時系列データを取得する処理において取得した水位時系列データの各々に関し、この水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量を時間軸において2階微分して加速度の経時変化を算出し、算出した加速度の経時変化を示す加速度時系列データを生成する処理と、水位時系列データを取得する処理において取得した水位時系列データの各々に関し、この水位時系列データが示す経時変化する波の振幅を目的変数とし、加速度時系列データを生成する処理においてこの水位時系列データが示す経時変化する水位による変位量から算出した経時変化する加速度を説明変数とする機械学習用の教師データを生成する処理と、教師データを生成する処理において生成した複数の教師データを用いた機械学習により学習モデルを構築する処理と、を実行させるプログラムである。なお、上述した振幅推定装置1及び学習モデル構築装置4によって例示した制御手段としてはCPU以外にも種々の装置が適用される場合があり、例えば、専用のプロセッサ等が用いられる。
【符号の説明】
【0123】
1…振幅推定装置、11…プロセッサ、111…加速度取得手段、112…加速度フィルタ処理手段、113…振幅取得手段、117…水面位置特定手段、12…メモリ、121…振幅データ、123…水面位置データ、13…インタフェース、2…端末、21…プロセッサ、22…メモリ、23…インタフェース、26…加速度センサ、27…受信部(受信手段)、3…通信回線、4…学習モデル構築装置、41…プロセッサ、411…水位取得手段、412…水位フィルタ処理手段、413…加速度算出手段、414…加速度フィルタ処理手段、415…教師データ生成手段、416…学習モデル構築手段、42…メモリ、421…教師データ、422…学習モデル、43…インタフェース、5…波高計、6…ケーブル、9…振幅推定システム、Lv…水面、J…浮遊物。