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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】ブラケット付き防振装置とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20240513BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20240513BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20240513BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
F16F13/10 L
B60K5/12 F
F16F15/08 W
F16F15/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021047685
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146626
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】大木 健司
(72)【発明者】
【氏名】田中 信伍
(72)【発明者】
【氏名】近藤 弘基
(72)【発明者】
【氏名】新井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】久保田 貢造
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-040405(JP,A)
【文献】特開2020-159446(JP,A)
【文献】特開2019-190600(JP,A)
【文献】特開2017-214968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
B60K 5/12
F16F 15/08
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振装置本体をブラケットの装着スペースへ側方から挿し入れて、該ブラケットにおける該装着スペースの対向内面間に該防振装置本体の固定用部材を配置して固定的に支持させたブラケット付き防振装置において、
前記ブラケットには前記装着スペースの対向内面に係合片が設けられており、前記防振装置本体の前記固定用部材に形成された抜止係合面に対する該係合片の係合作用によって、該ブラケットの該装着スペースからの該防振装置本体の抜け出しが阻止されている一方、
該ブラケットにおける該装着スペースの対向壁部には開口窓が貫通形成されており、該開口窓を通じて外部から見える該係合片の外側面と、該開口窓を外れた該ブラケットの外部側面とにおいて、互いに平行な検査用平坦面が設けられているブラケット付き防振装置。
【請求項2】
前記係合片の内側面と前記固定用部材との重ね合わせ面間に隙間が設けられている請求項1に記載のブラケット付き防振装置。
【請求項3】
前記ブラケットの外部側面に設けられた前記検査用平坦面は、該ブラケットの外部側面を成形する金型の型割方向において前記開口窓と隣接して設けられている請求項1又は2に記載のブラケット付き防振装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載のブラケット付き防振装置の製造方法であって、
前記係合片の外側面と前記ブラケットの外部側面とに設けられた前記検査用平坦面の相対位置を測定して、該係合片と前記抜止係合面との係合不良を検出する非破壊検査工程を含むブラケット付き防振装置の製造方法。
【請求項5】
前記検査用平坦面の相対位置を該検査用平坦面と直交する方向において測定する請求項4に記載のブラケット付き防振装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウント等に用いられるブラケット付き防振装置とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、防振装置本体にブラケットが取り付けられた構造を有するブラケット付き防振装置が、例えば自動車用のエンジンマウント等に用いられている。特開2018-162824号公報(特許文献1)に示されているように、ブラケットは、防振装置本体が側方から挿し入れられる装着スペースを備えており、ブラケット付き防振装置は、ブラケットにおける装着スペースの対向内面間に防振装置本体の固定用部材を配置して固定的に支持させた構造を有している。
【0003】
ところで、特許文献1では、ブラケットの装着スペースからの防振装置本体の抜け出しを阻止するために、防振装置本体の固定用部材に設けられた係合部と、ブラケットの対向内面に設けられた係合部との係合による抜止構造が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-162824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のように、防振装置本体のブラケットからの抜け出しを阻止する抜止構造が、ブラケットの装着スペース内に設けられていると、例えば、防振装置本体をブラケットの装着スペースへ挿し入れて組み付ける際に、係合部が適切な状態で係合されていない係合の不良を正確に把握することが難しかった。なお、特許文献1では、ブラケットにおいて防振装置本体の挿し入れ方向の奥側に位置する背壁部に対して貫通孔を設け、かかる貫通孔を通じて係合部を目視で確認可能とした構造が開示されている。しかし、ブラケットの背壁部に設けた貫通孔では、係合面が爪状の係合部に隠れてしまい、係合状態の確認が困難であり、貫通孔の内方の暗くて狭い係合部分を目視で確認すること自体が困難であって、例えば目視可能な面以外に発生した亀裂等の不具合を発見することは実質的に不可能であった。
【0006】
本発明の解決課題は、防振装置本体がブラケットからの抜け出しを適切に阻止されていることを容易に且つ精度よく確認することができる、新規な構造のブラケット付き防振装置を提供することにある。
【0007】
また、本発明は、上述のごときブラケット付き防振装置の製造方法を提供することも、目的とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、防振装置本体をブラケットの装着スペースへ側方から挿し入れて、該ブラケットにおける該装着スペースの対向内面間に該防振装置本体の固定用部材を配置して固定的に支持させたブラケット付き防振装置において、前記ブラケットには前記装着スペースの対向内面に係合片が設けられており、前記防振装置本体の前記固定用部材に形成された抜止係合面に対する該係合片の係合作用によって、該ブラケットの該装着スペースからの該防振装置本体の抜け出しが阻止されている一方、該ブラケットにおける該装着スペースの対向壁部には開口窓が貫通形成されており、該開口窓を通じて外部から見える該係合片の外側面と、該開口窓を外れた該ブラケットの外部側面とにおいて、互いに平行な検査用平坦面が設けられているものである。
【0010】
本態様に従う構造とされたブラケット付き防振装置によれば、係合片の外側面とブラケットの外部側面とに設けられた検査用平坦面の相対的な位置を測定することにより、例えば係合片の損傷等に起因する係合片と抜止係合面の係合不良を、簡単且つ正確に確認することができる。特に、検査用平坦面が互いに平行とされていることにより、検査用平坦面の相対的な位置を機械によって安定して高精度に測定することもできる。
【0011】
第二の態様は、第一の態様に記載されたブラケット付き防振装置において、前記係合片の内側面と前記固定用部材との重ね合わせ面間に隙間が設けられているものである。
【0012】
本態様に従う構造とされたブラケット付き防振装置によれば、係合片が固定用部材に接して変形した状態で抜止係合面と係合されるのを防いで、係合片と抜止係合面との適切な係合状態が安定して実現される。
【0013】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載されたブラケット付き防振装置において、前記ブラケット側の前記検査用平坦面は、該ブラケットの外部側面を成形する金型の型割方向において前記開口窓と隣接して設けられているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされたブラケット付き防振装置によれば、例えば、ブラケットの外部側面を開口窓の開口方向に対する直交方向で型割された簡単な金型構造によって成形することができると共に、金型の型割方向に対して平行な検査用平坦面を開口窓を外れたブラケットの外部側面に形成し易い。
【0015】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載されたブラケット付き防振装置の製造方法であって、前記係合片の外側面と前記ブラケットの外部側面とに設けられた前記検査用平坦面の相対位置を測定して、該係合片と前記抜止係合面との係合不良を検出する非破壊検査工程を含むものである。
【0016】
本態様に従うブラケット付き防振装置の製造方法によれば、検査用平坦面の相対位置に基づいて、例えば係合片の損傷等に起因する係合片と抜止係合面の係合不良を、簡単且つ正確に確認することができる。検査用平坦面は、外部に露出して設けられていると共に、相互に平行な面であることから、相対位置を機械によって簡単に測定することが可能であり、検査に必要な手間や時間を低減することができる。
【0017】
第五の態様は、第四の態様に記載されたブラケット付き防振装置の製造方法において、前記検査用平坦面の相対位置を該検査用平坦面と直交する方向において測定するものである。
【0018】
本態様に従うブラケット付き防振装置の製造方法によれば、検査用平坦面の相対位置の測定方向が検査用平坦面に対して直交する方向とされることにより、例えば検査用平坦面の測定位置に誤差が生じたとしても、測定結果への影響が抑えられて、相対位置を安定して測定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、防振装置本体がブラケットからの抜け出しを適切に阻止されていることを容易に且つ精度よく確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図
図2図1に示すエンジンマウントを別の角度で示す斜視図
図3図1に示すエンジンマウントをまた別の角度で示す斜視図
図4図1に示すエンジンマウントの縦断面図であって、図5のIV-IV断面に相当する図
図5図4のV-V断面図
図6図4のVI-VI断面図
図7図1に示すエンジンマウントを構成するマウント本体の斜視図
図8図1に示すエンジンマウントを構成するアウタブラケットの背面図
図9図8に示すアウタブラケットの断面斜視図であって、図8のIX-IX断面に相当する図
図10図8のX-X断面図
図11図8に示すアウタブラケットの右側面図
図12図11のXII-XII断面図
図13図7に示すマウント本体の図8に示すアウタブラケットへの挿入を説明する斜視図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1図6には、本発明に係るブラケット付き防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、防振装置本体としてのマウント本体12を備えている。マウント本体12は、図7に示すように、第一の取付部材14と第二の取付部材16が本体ゴム弾性体18によって連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とはマウント中心軸方向である図4中の上下方向を、左右方向とは後述するアウタブラケット62の幅方向である図4中の左右方向を、それぞれ言う。また、原則として、前後方向とは図5中の左右方向であって、前方とは図5中の右方を、後方とは図5中の左方を、それぞれ言う。また、複数の同一部材については、一部の部材にのみ符号を付し、他の部材については符号を省略する場合がある。
【0023】
第一の取付部材14は、金属や合成樹脂などで形成された高剛性の部材であって、図4図5に示すように、中実の円形ブロック状とされている。第一の取付部材14は、下方に向けて小径となっている。
【0024】
第二の取付部材16は、第一の取付部材14と同様に高剛性の部材であって、図6に示すように環状とされている。第二の取付部材16の外周部分は、図4図5に示すように、内周部分よりも下方へ突出して上下寸法が大きくされている。第二の取付部材16の左右方向の両端部分は、図4図6図7に示すように、それぞれガイド部22,22とされている。ガイド部22,22は、第二の取付部材16において上下寸法が大きくされた外周部分によって構成されており、左右方向の両面がガイド面24,24とされている。ガイド面24,24は、左右方向に対して略直交して広がる平面とされている。ガイド面24,24は、後述するマウント本体12のアウタブラケット62に対する挿入時の案内作用を有利に得るために、前後方向に延びていることが望ましく、本実施形態では前後寸法が上下寸法よりも大きくされている。
【0025】
第二の取付部材16のガイド部22,22には、図7に示すように、アウタ凹部26,26が形成されている。アウタ凹部26,26は、ガイド部22,22のガイド面24,24に開口して上下方向に貫通する溝状とされている。アウタ凹部26,26は、図6にも示すように、凹状底面28,28の後部が前後方向に対して傾斜しており、凹状底面28,28の後部において前方へ向けて次第に深さ寸法が大きくなっていると共に、前部において略一定の深さ寸法とされている。アウタ凹部26,26の凹状底面28,28は、後述する係合片96,96の左右内側の表面に対応する形状とされている。ガイド部22,22は、アウタ凹部26,26よりも前側が係合壁部30,30とされており、係合壁部30,30によって構成されるアウタ凹部26,26の前方(マウント本体12の挿入方向の奥方)の壁内面が、前後方向に対して略直交して広がる平面である抜止係合面32,32とされている。また、ガイド部22,22は、アウタ凹部26,26よりも後側が嵌合部34,34とされている。
【0026】
第一の取付部材14と第二の取付部材16は、図4図5に示すように、略同一中心軸上で上下に離れて配置されて、本体ゴム弾性体18によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体18は、略円錐台形状とされて、小径側となる上部に第一の取付部材14が固着されていると共に、大径側となる下部の外周面に第二の取付部材16が固着されている。本体ゴム弾性体18は、例えば、成形時に第一の取付部材14と第二の取付部材16とに加硫接着されている。
【0027】
本体ゴム弾性体18は、下方に向けて開口する凹状部36,36を備えている。凹状部36,36は、周壁の上部が上方に向けて小径となるテーパ形状とされている。本体ゴム弾性体18は、凹状部36,36が形成されることによって、下方に向けて外周へ傾斜するテーパ状の断面形状を有している。
【0028】
第二の取付部材16には、仕切部材38が取り付けられている。仕切部材38は、全体として略円板形状とされており、仕切部材本体40と蓋部材42の間に可動部材44が配された構造を有している。
【0029】
仕切部材本体40の外周部分には、一周に満たない長さで周方向に延びる周溝46が、上面に開口して形成されている。仕切部材本体40の内周部分には、環状の収容凹所48が上面に開口して形成されている。収容凹所48の上開口は、蓋部材42によって覆われている。蓋部材42は、薄肉の円板形状とされており、仕切部材本体40の上面に重ね合わされて固定されている。
【0030】
仕切部材本体40の収容凹所48には、可動部材44が収容されている。可動部材44は、略円環板形状のゴム弾性体であって、内周端部と外周端部がそれぞれ上方へ突出して厚肉とされている。そして、可動部材44が収容凹所48に挿し入れられた状態において、蓋部材42が仕切部材本体40に固定されることにより、可動部材44が仕切部材本体40と蓋部材42の間で収容凹所48に収容されている。可動部材44は、例えば、厚肉とされた内周端部と外周端部が、仕切部材本体40と蓋部材42の上下方向間において挟持されており、それら内周端部と外周端部との径方向間において厚さ方向の弾性変形を許容されている。このように、本実施形態の可動部材44は可動膜構造とされているが、可動部材としては、例えば、収容凹所48内で上下方向の移動を許容された可動板構造を採用することもできる。
【0031】
仕切部材38の下方には、薄肉のエラストマで形成された可撓性膜50が設けられている。可撓性膜50は、外周端部が厚肉とされて、仕切部材本体40の下面に重ね合わされている。そして、可撓性膜50の外周端部に対して、環状の支持部材52が下方から重ね合わされており、後述するマウント本体12に対するアウタブラケット62の装着状態において、可撓性膜50の外周端部が仕切部材本体40と支持部材52の間で挟持されている。
【0032】
支持部材52は、第二の取付部材16と同様に高剛性の部材とされている。支持部材52は、後述するマウント本体12に対するアウタブラケット62の装着状態において、外周部分が仕切部材本体40の下面に当接して、第二の取付部材16と仕切部材38と支持部材52とが上下方向において相互に位置決めされる。
【0033】
本体ゴム弾性体18の一体加硫成形品を構成する第二の取付部材16に対して、仕切部材38と可撓性膜50が取り付けられることにより、本体ゴム弾性体18と仕切部材38の間には、壁部の一部が本体ゴム弾性体18で構成された受圧室54が形成されている。また、仕切部材38と可撓性膜50の間には、壁部の一部が可撓性膜50で構成された平衡室56が形成されている。受圧室54と平衡室56には、非圧縮性流体が封入されている。非圧縮性流体は特に限定されるものではないが、例えば水やエチレングリコールなどが採用される。非圧縮性流体は、混合液であっても良い。
【0034】
受圧室54と平衡室56は、仕切部材38の周溝46を含んで構成されるオリフィス通路58によって、相互に連通されている。オリフィス通路58は、仕切部材38の外周部分を周方向に延びており、一方の端部が受圧室54に連通されていると共に、他方の端部が平衡室56に連通されている。そして、第一の取付部材14と第二の取付部材16の間に上下方向の振動が入力されて、受圧室54と平衡室56の間に内圧差が生じると、受圧室54と平衡室56の間でオリフィス通路58を通じた流体流動が生じて、流体の流動作用に基づく高減衰作用などの防振効果が発揮されるようになっている。オリフィス通路58は、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が、通路断面積と通路長さの比によって防振対象振動の周波数に調節されており、例えば、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波に設定される。
【0035】
収容凹所48に配された可動部材44の上下両面には、受圧室54の液圧と平衡室56の液圧との各一方が及ぼされている。そして、第一の取付部材14と第二の取付部材16の間に上下方向の振動が入力されて、受圧室54と平衡室56の間に内圧差が生じると、可動部材44が厚さ方向に弾性変形して、受圧室54の液圧を平衡室56に伝達して逃すようになっている。
【0036】
低周波大振幅振動が入力される場合には、オリフィス通路58を通じた流体流動が共振状態で積極的に生じて、高減衰による防振効果が発揮される。低周波大振幅振動が入力される場合には、可動部材44の変形が入力振動に追従しきれず、可動部材44の変形による液圧を逃す作用が低減されることから、オリフィス通路58を通じた流体の流動が効率的に生じる。一方、中乃至高周波の小振幅振動が入力される場合には、オリフィス通路58が反共振によって実質的な目詰まり状態になるが、可動部材44が共振状態で積極的に弾性変形して液圧を逃すことにより、低動ばね化による防振効果が発揮される。
【0037】
マウント本体12には、図1図6に示すように、インナブラケット60とブラケットとしてのアウタブラケット62が取り付けられている。
【0038】
インナブラケット60は、板状の部材であって、第一の取付部材14の上面に重ね合わされて前方(図5中の右方)へ延び出す連結部64と、連結部64の前方に一体形成された取付部66とを、備えている。取付部66は、連結部64に対して左右両側へ突出しており、上下方向に貫通するボルト孔70,70を備えている。そして、インナブラケット60は、第一の取付部材14に対して連結ボルト72によってボルト固定されることにより、マウント本体12に取り付けられている。なお、インナブラケット60は、後述するマウント本体12がアウタブラケット62に装着された状態において、取付部66がアウタブラケット62よりも前方に突出しており、連結部64がアウタブラケット62の挿通孔86(後述)に挿通されて第一の取付部材14に固定される。
【0039】
アウタブラケット62は、図8に示すように、一対の対向壁部74,74を備えている。対向壁部74,74は、それぞれ上下方向に延びており、左右方向で相互に対向して設けられている。対向壁部74,74の上端部は、一体形成された天壁部76によって相互に連結されている。対向壁部74,74の下端部は、一体形成された底壁部78によって相互に連結されている。対向壁部74,74の下端部には、左右方向の外側へ向けて突出する取付片80,80がそれぞれ設けられており、各取付片80には上下方向に貫通するボルト孔82が形成されている(図1図2参照)。
【0040】
アウタブラケット62は、図1図5に示すように、対向壁部74,74の前端部分が一体形成された奥壁部84によって相互に連結されている。奥壁部84は、前後方向に対する交差方向に広がる板状とされており、左右両端部が対向壁部74,74につながっている。奥壁部84は天壁部76に対して下方へ離れており、奥壁部84と天壁部76の間には前後方向に貫通する挿通孔86が形成されている。
【0041】
アウタブラケット62において、対向壁部74,74と天壁部76と底壁部78と奥壁部84とによって囲まれた空間は、マウント本体12が収容される装着スペース88とされている。装着スペース88は後方へ向けて開放された凹所状とされており、装着スペース88の後方への開口が挿入開口部90とされている(図2図6参照)。また、装着スペース88は、上部において挿通孔86を通じて前方へ向けて開放されている。
【0042】
一対の対向壁部74,74によって構成された装着スペース88の壁内面である対向内面92,92には、図8図9に示すように、嵌着溝94,94が開口している。嵌着溝94,94は、前後方向へ直線的に延びており、後端部が対向壁部74,74の後端まで達して挿入開口部90においてアウタブラケット62の後面に開口している。換言すれば、嵌着溝94,94は、挿入開口部90から装着スペース88の奥方である前方へ向けて直線的に延びている。嵌着溝94,94は、対向内面92,92の下部に設けられており、対向内面92,92は、上部よりも下部において左右方向の対向面間距離が大きくされている。
【0043】
アウタブラケット62の対向壁部74,74には、対向内面92,92から延び出す係合片96,96が一体形成されている。係合片96,96は、板状とされており、板厚方向の可撓性及び弾性を有している。係合片96,96の左右内側の表面は、アウタ凹部26,26の凹状底面28,28と対応する形状とされている。係合片96,96は、図10に示すように、基端部分98,98が前方に向けて左右方向の内側へ傾斜して延びる傾斜部分とされている。
【0044】
係合片96,96は、先端部分100,100が略前後方向で前方へ向けて延びている。係合片96,96の左右方向の外側面101,101は、先端部分100,100において左右方向に対して直交して広がる第一の検査用平坦面102,102とされている。また、係合片96,96の先端面104,104は、前後方向に対して略直交して広がる平面とされている。
【0045】
アウタブラケット62の一対の対向壁部74,74には、開口窓106がそれぞれ貫通形成されている。開口窓106,106は、図10図12に示すように、略四角形断面で左右方向に貫通する孔とされている。開口窓106,106は、一方の端部がアウタブラケット62における対向壁部74,74の外部側面107,107に開口して外部に連通されていると共に、他方の端部が対向壁部74,74の内部側面に開口して装着スペース88を構成する嵌着溝94,94に連通されている。開口窓106,106は係合片96,96の左右外側に位置しており、図11に示すように、係合片96,96の第一の検査用平坦面102,102が開口窓106,106を通じて左右方向で外部に露出している。これにより、係合片96,96の第一の検査用平坦面102,102は、左右方向において開口窓106,106を通じて外部から見ることが可能とされている。本実施形態の開口窓106,106は、第一の検査用平坦面102,102だけでなく、係合片96,96の外側面101,101の全体が露出する大きさ、位置、形状とされている。もっとも、例えば、第一の検査用平坦面102,102の少なくとも一部を含む係合片96,96の外側面101,101の一部だけが、開口窓106,106を通じて左右方向で外部に露出していてもよい。
【0046】
本実施形態では、略四角形とされた各開口窓106の後端側内面の内側(対向内面92側)端部から前方に向かって突出して、係合片96がそれぞれ形成されている。そして、かかる係合片96は、開口窓106の内側開口部上に位置しており、少なくとも先端部分100の内側面が、開口窓106の内側開口面よりも装着スペース88内に突出して位置している。
【0047】
これにより、係合片96,96の第一の検査用平坦面102,102は、左右方向において開口窓106,106を通じて外部から見ることが可能とされている。本実施形態の開口窓106,106は、第一の検査用平坦面102,102だけでなく、係合片96,96の外側面101,101の全体が露出する大きさ、位置、形状とされている。もっとも、例えば、第一の検査用平坦面102,102の少なくとも一部を含む係合片96,96の外側面101,101の一部だけが、開口窓106,106を通じて左右方向で外部に露出していてもよい。好適には、各係合片96の先端縁を含む先端部分100が、上下方向及び前後方向の少なくとも一部において、各開口窓106を通じて外部に露出される位置と形状をもって、開口窓106が形成される。
【0048】
開口窓106,106の上方には、第二の検査用平坦面108,108が設けられている。第二の検査用平坦面108,108は、対向壁部74,74の外部側面107,107に設けられており、左右方向に対して略直交して広がっている。第二の検査用平坦面108,108は、開口窓106,106の上方に隣接して設けられており、開口窓106,106の上縁部から上方へ向けて延びるように広がっている。本実施形態では、第二の検査用平坦面108,108の前後方向の幅寸法が、開口窓106,106の前後方向の幅寸法と略同じとされている。開口窓106,106は、対向壁部74,74の外部側面107,107が下方へ向けて傾斜する部分に開口していることから、第二の検査用平坦面108,108が対向壁部74,74の外部側面107,107において溝状に設けられている。
【0049】
アウタブラケット62の外面を成形する金型は上下方向に型割されており、図12に破線のハッチングを付して示す対向壁部74,74の外部側面107,107を成形する金型110は、上方へ脱型される。それゆえ、対向壁部74,74の外部側面107,107において上下に延びる溝底面のごとき第二の検査用平坦面108,108を、開口窓106,106に対して上方に隣接する位置に容易に形成することができる。
【0050】
第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108は、図12に示すように、それぞれ左右方向に対して直交して広がっており、互いに平行とされている。もっとも、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108が互いに平行とは、数学的に厳密に平行であることを必ずしも意味するものではない。具体的には、例えば、金型110の脱型を容易にするための僅かな傾斜(抜きテーパ)が第二の検査用平坦面108,108に設定されるなどして、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108が僅かに傾斜している程度は許容される。例えば、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108の相対的な傾斜角度が1度以下である場合に、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108を互いに平行であるとみなすことができる。
【0051】
奥壁部84には、図1に示すように、一対の孔112,112が形成されている。孔112,112は、奥壁部84を前後方向に貫通しており、図8図10に示すように、嵌着溝94,94の延長上に配置されている。孔112,112の上下両側の壁内面は、開口窓106,106の上下両側の壁内面に対して、上下方向において同じ位置とされている。孔112,112は、左右方向の外側の壁内面が係合片96,96の左右方向の外面よりも外側に位置していると共に、左右方向の内側の壁内面が係合片96,96の左右方向の内面よりも内側に位置している。従って、アウタブラケット62の成形時に、孔112,112を形成する図示しない金型によって、係合片96,96の先端面104,104を含む前面を成形することができる。
【0052】
アウタブラケット62は、図1図6に示すように、マウント本体12に取り付けられている。即ち、マウント本体12は、図13に示すように、アウタブラケット62の装着スペース88に対して、挿入開口部90から組付方向である前方へ向けて挿し入れられる。その際に、図4に示すように、マウント本体12の左右両側の端部を構成する嵌着部114,114が、アウタブラケット62の一対の対向壁部74,74に設けられた嵌着溝94,94に対して、挿入開口部90側から前方へ向けて挿入されて、第二の取付部材16を含む嵌着部114,114が嵌着溝94,94の上下側壁部間に挟持される。これにより、対向内面92,92間に配置された第二の取付部材16がアウタブラケット62に固定的に支持されて、マウント本体12がアウタブラケット62に上下方向と略直交する側方(後方)から組み付けられている。なお、本実施形態の嵌着部114,114は、第二の取付部材16と仕切部材38と支持部材52とによって構成されている。また、支持部材52は、左右方向の両側部分だけでなく、前後方向の両側部分を含む全周にわたってアウタブラケット62の底壁部78の上面に重ね合わされている。
【0053】
マウント本体12の嵌着部114,114が嵌着溝94,94に嵌め合わされることにより、第二の取付部材16と支持部材52の間には、上下方向において接近方向の力が作用する。これにより、第二の取付部材16と仕切部材38の間において本体ゴム弾性体18の下端部が上下方向に圧縮されると共に、仕切部材38と支持部材52の間において可撓性膜50の外周端部が上下方向に圧縮される。その結果、受圧室54及び平衡室56の壁部における流体密性が高められて、液漏れなどの不具合が回避される。
【0054】
マウント本体12の嵌着部114,114がアウタブラケット62の嵌着溝94,94に嵌め合わされることにより、第二の取付部材16のガイド面24,24が嵌着溝94,94の各溝底面に重ね合わされている。これにより、第二の取付部材16とアウタブラケット62が左右方向において相互に位置決めされている。
【0055】
アウタブラケット62の対向内面92,92から突出する係合片96,96は、図7に示すように、マウント本体12がアウタブラケット62に組み付けられることによって、第二の取付部材16のアウタ凹部26,26に挿し入れられる。なお、以下に説明する係合片96,96のアウタ凹部26,26への挿入過程とそれによって構成される係合構造(抜止構造)については、左右両側で略対称に同様であることから、片側について説明する。
【0056】
すなわち、係合片96,96は、基端部分98,98が傾斜部分とされていることによって、嵌着溝94,94の底面よりも左右方向の内側に位置している。それゆえ、マウント本体12がアウタブラケット62の装着スペース88に対して後方から前方へ向けて挿し入れられることにより、第二の取付部材16の係合壁部30,30が係合片96,96の基端部分98,98に当接する。
【0057】
マウント本体12がアウタブラケット62に対して更に前進することにより、係合壁部30,30は、係合片96,96を弾性的に変形させて左右方向の外側へ押し退けながら、係合片96,96を乗り越える。本実施形態では、係合片96,96が開口窓106,106の延長上に位置していることから、係合壁部30,30が係合片96,96を乗り越える際に、係合片96,96の左右方向の外側へ向けた変形及び変位が十分に許容される。
【0058】
係合壁部30,30が係合片96,96よりも前方まで移動すると、係合壁部30,30の当接によって係合片96,96に及ぼされていた左右外向きの力が解除されて、係合片96,96が元の形状に弾性的に復元し、係合片96,96がアウタ凹部26,26へ挿し入れられる。係合片96,96は、基端部分98,98が左右方向の内側へ向けて傾斜して延びていることにより、マウント本体12をアウタブラケット62に対して前方へ移動させるだけで、アウタ凹部26,26へ挿し入れられる。
【0059】
アウタ凹部26,26へ挿し入れられた係合片96,96の先端面104,104は、アウタ凹部26,26の抜止係合面32,32に重ね合わされる。係合片96,96は、係合片96,96の各中心軸L上に位置する先端面104,104の左右方向の中央がアウタ凹部26,26内に位置しており、先端面104,104の左右方向の中央がアウタ凹部26,26の抜止係合面32,32に重ね合わされている。本実施形態では、先端面104,104の全体がアウタ凹部26,26に収容されて、抜止係合面32,32に重ね合わされている。
【0060】
係合片96,96の先端面104,104は、後述する抜け抗力が速やかに発揮されるように、抜止係合面32,32に当接していることが望ましいが、隙間をもって対向するように重ね合わされていてもよく、これによって、係合片96,96の先端面104,104と抜止係合面32,32との引っ掛かりによる係合不良が生じ難くなる。また、係合片96,96の左右方向の内面はアウタ凹部26,26の凹状底面28,28に接触していてもよいが、係合片96,96の左右方向の内面と凹状底面28,28の重ね合わせ面間には、隙間116,116が設けられていることが望ましい。
【0061】
マウント本体12がアウタブラケット62に対して挿入方向と反対の後方へ挿入開口部90を通じて抜け出そうとする際に、マウント本体12のアウタブラケット62に対する後方(抜け方向)への移動が、係合片96,96とアウタ凹部26,26の抜止係合面32,32との係止によって制限される。
【0062】
マウント本体12がアウタブラケット62に対して後方へ相対移動しようとして、係合片96,96の先端面104,104がアウタ凹部26,26の抜止係合面32,32に係合されると、係合片96,96に対して当接反力が及ぼされる。係合片96,96は、当接反力の作用によって、傾斜部分である基端部分98,98の傾斜角度が変化して、先端部分100,100が左右方向の内側へ移動し、左右方向の内側へ移動した係合片96,96の先端部分100,100は、アウタ凹部26,26の凹状底面28,28に当接する。これにより、係合片96,96は、ストッパ面である凹状底面28,28によって先端部分100,100の左右内側への移動が制限されて、基端部分98,98の更なる傾斜角度の変化が制限される。基端部分98,98の傾動が制限されることにより、係合片96,96に入力される当接反力は、主として各中心軸Lの延伸方向の圧縮力として作用する。そして、中心軸Lの延伸方向の圧縮に対する係合片96,96の優れた耐荷重性能によって、第二の取付部材16のアウタブラケット62に対する後方への移動が制限されて、マウント本体12のアウタブラケット62に対する後方への抜け出しが防止される。このように、エンジンマウント10では、係合片96,96の中心軸方向の圧縮に対する優れた耐荷重性を巧く利用して、マウント本体12のアウタブラケット62に対する後方への抜けを防ぐ抜け抗力をより大きく得ることができる。
【0063】
係合片96,96の先端面104,104とアウタ凹部26,26の抜止係合面32,32は、何れも前後方向に対して直交して広がることから、先端面104,104と抜止係合面32,32の係止に際して、先端面104,104と抜止係合面32,32の間に左右方向や上下方向の力が作用し難い。それゆえ、係合片96,96の先端面104,104に対して直交方向の力が効率的に作用し、前後方向の抜け抗力を効率的に得ることができる。
【0064】
係合片96,96の先端部分100,100が前後方向に延びていると共に、係合片96,96の先端面104,104とアウタ凹部26,26の抜止係合面32,32が、何れも前後方向に対して略直交して広がっている。これにより、先端面104,104の抜止係合面32,32に対する当接係止によって係合片96,96に及ぼされる力の向きが、係合片96,96の先端部分100,100における各中心軸Lの延伸方向と略一致する。それゆえ、係合片96,96と抜止係合面32,32の係止による力が、係合片96,96に対して、より効率的に中心軸Lの延伸方向の圧縮力として及ぼされる。
【0065】
係合片96,96の先端面104,104において各中心軸Lがアウタ凹部26,26内に位置している。これにより、係合片96,96に作用する当接反力によるモーメントが低減されて、当接反力が係合片96,96に対してより効率的に圧縮力として及ぼされることから、抜け抗力が効率的に発揮される。本実施形態では、係合片96,96の先端面104,104における左右方向の両端が何れもアウタ凹部26,26内に位置しており、先端面104,104の全体がアウタ凹部26,26に収容されている。これにより、係合片96,96の先端面104,104が広い範囲にわたってアウタ凹部26,26の抜止係合面32,32に当接係止されて、抜け抗力を効率的に得ることができる。
【0066】
係合片96,96の変形を係合片96,96への当接によって制限するストッパ面が、アウタ凹部26,26の凹状底面28,28によって構成されている。アウタ凹部26,26の凹状底面28,28が係合片96,96の左右内側の表面に対応する形状とされていることにより、アウタ凹部26,26へ挿し入れられた係合片96,96が、凹状底面28,28に広い範囲で当接する。それゆえ、係合片96,96の圧縮荷重に対する応力による抜け抗力が効率的に発現されると共に、係合片96,96の過大な変形による損傷が回避される。
【0067】
係合片96,96において、前後方向に対して非傾斜で延びる先端部分100,100と、前後方向に対して傾斜して延びる基端部分98,98とは、滑らかに連続しており、境界部分の外面に角や凹凸が形成されていない。それゆえ、先端部分100,100から基端部分98,98へ各中心軸Lの延伸方向に力が伝達される際に、局所的な応力集中が回避されて、係合片96,96の損傷等が回避される。
【0068】
係合片96,96は、アウタブラケット62の前後方向の中間に設けられていることから、マウント本体12が組み付けられていないアウタブラケット62の単品状態において、係合片96,96の損傷が防止される。特に、アウタブラケット62の前端部分に奥壁部84が設けられていることにより、係合片96,96の前方が奥壁部84によって覆われて保護されており、係合片96,96の損傷防止がより効果的に実現される。
【0069】
ところで、マウント本体12にアウタブラケット62が装着されたエンジンマウント10において、係合壁部30,30が係合片96,96を乗り越える際に係合片96,96が損傷する等して、係合片96,96の先端面104,104と抜止係合面32,32との係合に不具合が生じていないかを確認する必要がある。そこで、マウント本体12にアウタブラケット62が装着された状態で第一の検査用平坦面102と第二の検査用平坦面108との相対的な位置を左右両側においてそれぞれ測定する工程(非破壊検査工程)を有するエンジンマウント10の製造方法により、係合片96,96と抜止係合面32,32との係合不良を検出することが可能とされている。
【0070】
すなわち、マウント本体12の係合壁部30,30がアウタブラケット62の係合片96,96を乗り越える際に、係合片96,96が弾性変形することから、係合片96,96の第一の検査用平坦面102,102が第二の検査用平坦面108,108に対して相対的に移動する。そして、係合壁部30,30が係合片96,96を乗り越えて、係合片96,96がアウタ凹部26,26へ挿入されると、係合片96,96が初期形状に復元することから、第一の検査用平坦面102,102が第二の検査用平坦面108,108に対する初期の相対位置へ復帰する。従って、マウント本体12にアウタブラケット62が装着されたエンジンマウント10において、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108の左右方向での相対的な位置が初期位置と一致する場合には、第一の検査用平坦面102,102を備える係合片96,96が適切な位置に損傷なく配されており、係合片96,96と抜止係合面32,32とが適切に係合されている。
【0071】
一方、マウント本体12にアウタブラケット62が装着されたエンジンマウント10において、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108との左右方向での相対的な位置が初期の相対位置からずれている場合には、係合片96,96と抜止係合面32,32とが適切に係合されていないと考えられる。即ち、係合片96,96が抜止係合面32,32に引っ掛かる等して係合片96,96がアウタ凹部26,26へ適切に収容されていない場合や、係合片96,96が係合壁部30,30の乗り越え時に損傷した場合など、係合片96,96と抜止係合面32,32とが適切に係合されていない場合には、係合片96,96が初期形状まで復元しない。それゆえ、係合片96,96と抜止係合面32,32との係合が不良の場合には、係合片96,96に設けられた第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108との左右方向の相対位置が初期位置からずれることとなる。したがって、マウント本体12にアウタブラケット62を装着した後で、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108の相対的な位置を左右方向で測定する非破壊検査工程を実施することにより、例えば係合片96,96の損傷等に起因する係合片96,96と抜止係合面32,32との係合不良を、測定結果に基づいて検出することができる。
【0072】
本実施形態では、係合片96,96の左右内面と、アウタ凹部26,26の凹状底面28,28との間に隙間116,116が設定されており、係合片96,96がアウタ凹部26,26に適切に収容されている場合には、係合片96,96が凹状底面28,28によって左右方向の外側へ押し出されることがない。それゆえ、係合片96,96と抜止係合面32,32との適切な係合状態において、係合片96,96の第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108の相対位置が初期の相対位置からずれることはなく、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108の相対位置に基づいて係合状態を正確に把握することができる。
【0073】
図3図11図12に示すように、係合片96,96に設けられた第一の検査用平坦面102,102が、開口窓106,106を通じて左右方向で外部へ露出していると共に、第二の検査用平坦面108,108が左右方向の外部へ露出した対向壁部74,74の外部側面107,107に設けられている。これにより、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108の相対的な位置を外部から容易に測定することができる。
【0074】
第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108の相対位置の測定方法は、特に限定されるものではない。例えば、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108の相対位置は、電波や光波等の反射を用いた公知の方法で測定可能である。好適には、左右外側へ露出した第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108にレーザーを照射し、反射光に基づいて第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108の相対位置を測定する方法が採用される。このような非破壊検査工程によって、目視による確認よりも高精度且つ素早い検査が可能になると共に、機械による自動的な検査も可能となる。
【0075】
例えば、ベルトコンベア等によって前方又は後方へ送られたエンジンマウント10に対して、左右方向の両側から左右の第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108とにレーザーを照射することで、左右両側において第一の検査用平坦面102と第二の検査用平坦面108の相対距離をそれぞれ測定して検査することもできる。これによれば、検査の自動化が容易であり、検査に要する人員を削減することができる。
【0076】
第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108が互いに平行とされていることにより、ベルトコンベア等によるエンジンマウント10の前方又は後方への送り位置にずれがあったとしても、レーザー等の反射方向が変化し難く、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108の相対的な位置を安定して高精度に測定することができる。なお、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108は、好適には、上述したエンジンマウント10の送り位置のずれ等があってもレーザー等による相対位置の測定が可能となるように、前後方向及び上下方向の大きさが設定されている。
【0077】
非破壊検査工程では、第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108とに対して直交する左右方向において、それら第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108の相対位置を測定することが望ましい。これにより、多数のエンジンマウント10に対して検査工程を行う量産時に、安定した測定が可能になる。蓋し、例えば、測定方向で照射されるレーザーの反射光等を利用して第一の検査用平坦面102,102と第二の検査用平坦面108,108との相対位置を測定する場合に、反射光の受光位置からそれら検査用平坦面102,108までの距離にばらつきがあったとしても、検査用平坦面102,108によって反射された反射光が受光位置を外れにくくなるからである。
【0078】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、係合片の具体的な形状は適宜に変更され得る。具体的には、例えば、前記実施形態では略一定の断面形状で延びる係合片96を例示したが、係合片は、先端から基端へ向けて厚肉にされていたり、先端から基端へ向けて上下方向で幅広とされている等、長さ方向において断面形状が変化していてもよい。
【0079】
例えば、アウタブラケット62の対向内面92,92において左右内側へ向けて開口して前後方向に延びる嵌着溝をそれぞれ形成し、当該嵌着溝に第二の取付部材16の左右両端部分(ガイド部22,22)が嵌合されることによって、アウタブラケット62が第二の取付部材16だけに固定されるようにしてもよい。なお、マウント本体12とアウタブラケット62の取付部分の重ね合わせ面間にゴム弾性体を介在させることにより、寸法誤差の許容などを実現することもできる。
【0080】
係合片96の左右方向の外側面101は、必ずしも全体が開口窓106から露出している必要はなく、第一の検査用平坦面102が開口窓106を通じて露出していればよい。
【0081】
第二の検査用平坦面108は、対向壁部74の外部側面107において開口窓106を外れた位置に設けられていれば、配置を限定されるものではなく、例えば、開口窓106に対して前後方向の外側に隣接して配置されていてもよいし、開口窓106から離れた位置に設けられていてもよい。
【0082】
第一の検査用平坦面102と第二の検査用平坦面108との初期の相対位置からの所定のずれを測定した場合には、係合片96と抜止係合面32との係合状態が適切であると判定し、第一の検査用平坦面102と第二の検査用平坦面108との初期の相対位置からのずれが所定量よりも大きい場合と小さい場合には、係合片96と抜止係合面32との係合状態が不適切であると判定してもよい。このような判定方法は、例えば、係合片96とアウタ凹部26の凹状底面28との間に隙間116が設定されず、係合片96が凹状底面28に対して接触状態で重ね合わされる場合に採用され得る。
【0083】
前記実施形態では、流体封入式の防振装置本体を例示したが、防振装置本体は、例えば流体封入式でないソリッドタイプであってもよい。
【符号の説明】
【0084】
10 エンジンマウント(ブラケット付き防振装置)
12 マウント本体(防振装置本体)
14 第一の取付部材
16 第二の取付部材(固定用部材)
18 本体ゴム弾性体
22 ガイド部
24 ガイド面
26 アウタ凹部
28 凹状底面
30 係合壁部
32 抜止係合面
34 嵌合部
36 凹状部
38 仕切部材
40 仕切部材本体
42 蓋部材
44 可動部材
46 周溝
48 収容凹所
50 可撓性膜
52 支持部材
54 受圧室
56 平衡室
58 オリフィス通路
60 インナブラケット
62 アウタブラケット(ブラケット)
64 連結部
66 取付部
70 ボルト孔
72 連結ボルト
74 対向壁部
76 天壁部
78 底壁部
80 取付片
82 ボルト孔
84 奥壁部
86 挿通孔
88 装着スペース
90 挿入開口部
92 対向内面
94 嵌着溝
96 係合片
98 基端部分
100 先端部分
101 外側面
102 第一の検査用平坦面(係合片の検査用平坦面)
104 先端面
106 開口窓
107 外部側面
108 第二の検査用平坦面(外部側面の検査用平坦面)
110 金型
112 孔
114 嵌着部
116 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
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