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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】Vリブドベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/20 20060101AFI20240513BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20240513BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
F16G5/20 A
D03D1/00 A
F16G5/06 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021061066
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157057
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2022-12-09
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 正吾
(72)【発明者】
【氏名】真銅 友哉
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】尾崎 和寛
【審判官】内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-95452(JP,A)
【文献】特開2013-213576(JP,A)
【文献】特開2004-169883(JP,A)
【文献】特開平5-222667(JP,A)
【文献】特開2002-235805(JP,A)
【文献】実開昭58-133638(JP,U)
【文献】国際公開第2019/193881(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のVリブを有するVリブドベルトであって、
前記複数のVリブは、ベルト幅方向に並設されており、
前記複数のVリブのそれぞれは、ゴム組成物からなるVリブ本体と、前記Vリブ本体のベルト内周側の表面を被覆するリブ側補強布とを有し、
前記リブ側補強布は、ベルト幅方向に並ぶ複数の前記Vリブ本体のベルト内周側の表面を、ベルト幅方向に連続して被覆し、
前記リブ側補強布は、第1繊維及び第2繊維を有する織物であり、
前記第1繊維は、前記第2繊維よりも伸長し難く、
前記織物は、少なくとも前記第1繊維が、ベルトの長さ方向に対して傾いており、
前記第1繊維の向きは、前記ベルトの長さ方向とのなす角度が10°以上25°以下である、
Vリブドベルト。
【請求項2】
前記リブ側補強布の厚さは、0.1mm以上0.8mm以下である、請求項1に記載のVリブドベルト。
【請求項3】
前記織物は、主な繊維として、セルロース系繊維を含む請求項1又は2に記載のVリブドベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vリブドベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン、モーター等の回転動力を伝達する手段として、駆動側及び従動側のそれぞれの回転軸にプーリを固定させて設けると共に、それぞれのプーリにVリブドベルト等の伝動ベルトを掛け渡す方法が広く用いられている。
【0003】
Vリブドベルトでは、Vリブ表面を補強布で被覆することが行われている。
Vリブ表面が補強布で被覆されたVリブドベルトとして、例えば、特許文献1には、リブ表面が帆布により被覆され、前記帆布が所定の2方向に伸縮自在であり、Vリブドベルトのベルトマトリクスが前記帆布の布目を透過し、前記Vリブドベルトがモールデッド製法を用いて製造され、前記モールデッド製法において、前記リブ表面がベルトマトリクスの外周に配置した前記帆布を、前記ベルトマトリクスとともにシェルの内周面に設けられたマルチリブ形状の型に押圧するとともに前記ベルトマトリクスを加硫することにより成型され、前記帆布が、前記マルチリブド形状に合わせて伸張可能であることを特徴とするVリブドベルト、が提案されている。
この特許文献1は、帆布として織布を採用できることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2010-539394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明において、帆布として織物を選択し、特許文献1の方法を用いてVリブドベルトを製造した場合、Vリブ表面に沿うように織物が成形されず、Vリブ表面に設けられた織物にシワが発生することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、Vリブ本体を被覆する織物がシワを生じることなく成形されているVリブドベルトを提供することを目的とする。
【0007】
(1)本発明のVリブドベルトは、
複数のVリブを有するVリブドベルトであって、
上記複数のVリブのそれぞれは、ゴム組成物からなるVリブ本体と、上記Vリブ本体の表面を被覆するリブ側補強布とを有し、
上記リブ側補強布は、第1繊維及び第2繊維を有する織物であり、
上記織物は、上記第1繊維及び上記第2繊維の少なくとも一方が、ベルトの長さ方向及び幅方向に対して傾いている。
【0008】
上記Vリブドベルトは、織物製のリブ側補強布を備えており、この織物製のリブ側補強布は、所定の向きでVリブ本体の表面を被覆している。そのため、上記Vリブドベルトでは、リブ側補強布がシワを生じることなくVリブ本体の表面を被覆している。
また、上記Vリブドベルトはリブ側補強布として織物を用いている。そのため、上記Vリブドベルトは、リブ側補強布として編物を採用した場合に比べてリブプーリと接するリブ側表面の耐摩耗性に優れる。
【0009】
(2)上記Vリブドベルトにおいて、上記第1繊維は、上記第2繊維よりも伸長し難く、
少なくとも上記第1繊維が、ベルトの長さ方向に対して傾いている、ことが好ましい。
シワを発生させることなく、Vリブ本体の表面をリブ側補強布で被覆するのが容易になる。
【0010】
ここで、繊維の伸長し難さは、同条件で引張試験を行った際の切断時の伸びによって評価する。本発明では、上記切断時の伸びが小さい繊維ほど、伸張し難い繊維という。
また、本発明において、織物を構成する第1繊維及び第2繊維は、第1繊維が経糸であり、第2繊維が緯糸であることが好ましい。
【0011】
(3)上記Vリブドベルトにおいて、上記第1繊維の向きは、上記ベルトの長さ方向とのなす角度が5°を超え45°以下である、ことが好ましい。
この場合、シワを発生させずに、Vリブ本体の表面を織物製のリブ側補強布で被覆することが更に容易になる。
【0012】
(4)上記Vリブドベルトにおいて、上記リブ側補強布の厚さは、0.1mm以上0.8mm以下が好ましい。
この場合、リブ側補強布の厚みを確保しつつ、リブ側補強布をリブ形状に沿ってシワなく成形するのにより適している。
【0013】
(5)上記Vリブドベルトにおいて、上記織物は、主な繊維として、セルロース系繊維を含むことが好ましい。
セルロース系繊維は給水性能に優れる。そのため、上記Vリブドベルトを被水環境下で使用されるベルトとして好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のVリブドベルトは、織物製のリブ側補強布が設けられている。そのため、リブプーリと接するリブ側表面の耐摩耗性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るVリブドベルトの一部を模式的に示す図である。
図2】リブ側補強布を構成する織物を示す図である。
図3図1に示したVリブドベルトの内周面の一部を示す部分拡大図である。
図4A】架橋装置の断面図である。
図4B図4Aに示した架橋装置の一部分の断面拡大図である。
図5】(a)及び(b)は、筒状に形成されたリブ側補強布を用意する方法を説明するための図である。
図6A図1に示したVリブドベルトの製造方法を説明するための図である。
図6B図1に示したVリブドベルトの製造方法を説明するための図である。
図6C図1に示したVリブドベルトの製造方法を説明するための図である。
図7】耐摩耗性試験におけるベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
(Vリブドベルト)
図1は、本発明の一実施形態に係るVリブドベルトBの一部を模式的に示す図である。
このVリブドベルトBは、例えば、自動車のエンジンルーム内に設けられる補機駆動ベルト伝動装置に用いられるものであり、ベルト周長が700mm以上3000mm以下、ベルト幅が10mm以上36mm以下、及びベルト厚さが3.5mm以上5.0mm以下である。
【0017】
このVリブドベルトBは、ベルト内周側の圧縮ゴム層11と、ベルト外周側の接着ゴム層12との二重層に構成されたベルト本体10を備えている。ベルト本体10のベルト外周側表面には、背面補強布13が貼り付けられている。ベルト本体10のリブ側の表面には、織物からなるリブ側補強布14が設けられている。また、接着ゴム層12には、心線16がベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設されている。
【0018】
圧縮ゴム層11には、内周側に複数のVリブ本体11aが垂下するように形成されている。複数のVリブ本体11aは、各々がベルト長さ方向に延びる断面略逆三角形状の突条で構成されているとともに、ベルト幅方向に並設されている。圧縮ゴム層11の厚さは、例えば2.2mm以上3.2mm以下である。
【0019】
接着ゴム層12は、断面横長矩形の帯状に形成されている。接着ゴム層12の厚さは、例えば1.0mm以上2.5mm以下である。
【0020】
背面補強布13は、例えば、綿、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の糸を用い、平織、綾織、朱子織等に製織した織物、編物、不織布等により構成される。
【0021】
背面補強布13は、ベルト本体10に対する接着性を付与するために、接着処理が施されていてもよい。上記接着処理としては、例えば、エポキシ樹脂溶液又はイソシアネート樹脂溶液に浸漬して加熱する接着処理、RFL水溶液に浸漬して加熱する接着処理、ゴム糊に浸漬して乾燥させる接着処理、及び接着ゴム層12側となる面にゴム糊をコーティングして乾燥させる接着処理、等が挙げられる。これらの接着処理は、単独で採用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
背面補強布13の厚さは、例えば0.4mm以上1.2mm以下である。
背面補強布13に代えて、厚さが例えば0.4mm以上0.8mm以下の背面ゴム層が設けられていてもよい。背面ゴム層の表面には、背面駆動時の音発生を抑制する観点から、織物の布目が転写されていてもよい。
【0022】
圧縮ゴム層11及び接着ゴム層12は、それぞれ架橋したゴム成分を含むゴム組成物からなる。このゴム組成物は、ゴム成分に架橋剤を含む種々のゴム配合剤が配合され混練された未架橋ゴム組成物(原料組成物)が加熱及び加圧され、ゴム成分が架橋剤によって架橋した架橋物である。
圧縮ゴム層11及び接着ゴム層12は、同一のゴム組成物で構成されていてもよいし、異なるゴム組成物で構成されていてもよい。
【0023】
また、背面ゴム層を設ける場合、当該背面ゴム層は、圧縮ゴム層11及び接着ゴム層12の一方又は両方と同一のゴム組成物で構成されていてもよいし、圧縮ゴム層11及び接着ゴム層12のいずれとも異なるゴム組成物で構成されていてもよい。VリブドベルトBが背面ゴム層を有する場合、当該背面ゴム層は、ベルト背面と平プーリとの接触により粘着が生じるのを抑制する観点から、接着ゴム層12よりもやや硬めのゴム組成物で構成されていることが好ましい。
【0024】
上記原料組成物に含まれるゴム成分としては、例えば、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン-プロピレンコポリマー(EPM)、エチレン-ブテンコポリマー(EDM)、エチレン-オクテンコポリマー(EOM)などのエチレン-α-オレフィンエラストマー;クロロプレンゴム(CR);クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM);水素添加アクリロニトリルゴム(H-NBR)等が挙げられる。上記ゴム成分は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、エチレン-α-オレフィンエラストマーを用いることがより好ましく、EPDMを用いることが更に好ましい。
【0025】
上記原料組成物に含まれる架橋剤としては、硫黄及び有機過酸化物が挙げられる。
架橋剤以外のゴム配合剤としては、例えば、カーボンブラックなどの補強材、充填剤、老化防止剤、軟化剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、共架橋剤等が挙げられる。
また、上記原料組成物には短繊維が含まれていてもよいが、接着ゴム層12を形成する原料組成物には、心線16との接着性の点から短繊維が含まれていないことが好ましい。
【0026】
接着ゴム層12の形成に用いられる原料組成物は、圧縮ゴム層11の形成に用いられる原料組成物と組成が異なっていてよい。
【0027】
圧縮ゴム層11の複数のVリブ本体11aの表面は、リブ側補強布14で被覆されている。そして、リブ側補強布14で被覆されたVリブ本体11aによってVリブ15が構成されている。このリブ側補強布14で被覆されたVリブ15の表面がプーリ接触面となる。各Vリブ15は、例えば、リブ高さが2.0mm以上3.0mm以下、及び基端間の幅が1.0mm以上3.6mm以下である。Vリブ15の個数は、例えば3個以上10個以下である(図1では6個)。
【0028】
リブ側補強布14の厚さは、VリブドベルトBのリブ側表面において、0.1mm以上0.8mm以下が好ましい。
リブ側補強布14の厚さが0.1mm未満では、強度不足により早期に摩耗する場合がある。一方、上記厚さが0.8mmを超えると、リブ側補強布の成形性が悪くなりリブ形状が歪む場合がある。
Vリブ本体11aの表面におけるリブ側補強布14の厚さは、切断面において、表層からの繊維部分の厚みを顕微鏡を用いて測定する。
【0029】
リブ側補強布14は、織物で構成されている。
図2は、リブ側補強布14を構成する織物114を示す図である。
図3は、VリブドベルトBの内周面の一部を示す部分拡大図である。
なお、図2図3、及び図5は、織物の構成(経糸及び緯糸の構成)をわかり易くするために誇張して記載している。
図2に示す織物114の組織は平織であり、114aが経糸で、114bが緯糸である。経糸114aは、緯糸114bに比べて伸長し難い糸である。
【0030】
VリブドベルトBでは、図3に示すように織物114からなるリブ側補強布14が、VリブドベルトBの長さ方向LDに対して傾いて設けられている。
具体的には、経糸14aの向きAとVリブドベルトBの長さ方向LD(図3中、上下方向)との角度θが、0°<θ<90°となるようにリブ側補強布14がVリブ本体11aの表面を被覆している。このようにリブ側補強布14の経糸14aの向きAを傾けることにより、リブ側補強布14は、VリブドベルトBの長さ方向LD及び幅方向WD(図3中、左右方向)のそれぞれの方向に柔軟性を有し、伸びることができる。
【0031】
上記θは、5°を超え45°以下が好ましい。θがこの範囲を外れると、製造工程において、シワのないリブ側補強布14が形成されるように、当該リブ側補強布を取り扱うことが難しくなる。
上記θは、10°以上45°以下がより好ましく、10°以上35°以下が更に好ましく、10°以上25°以下が特に好ましい。
【0032】
なお、リブ側補強布14において、経糸14aと緯糸14bとの角度は、90°である。従って、緯糸14bの向きは、VリブドベルトBの幅方向WDとの角度が5°を超え45°以下になる向きが好ましい。
そして、リブ側補強布14は、経糸14aと緯糸14bとの角度が90°であるため、経糸14aがベルトの長さ方向LD及び幅方向WDに対して傾いており、緯糸14bもベルトの長さ方向LD及び幅方向WDに対して傾いている。
【0033】
本発明の実施形態において、リブ側補強布14に使用する織物は、経糸の向き及び緯糸の向きのうちの伸びやすい向き(通常は、緯糸の向き)に沿って、引張り速度200mm/分で伸長させた時の20N/inch時の伸びが60%より大きいことが好ましい。上記の条件で引っ張った場合の伸びは、70%より大きいことより好ましく、80%より大きいことが更に好ましい。
【0034】
本発明の実施形態において、リブ側補強布(織物)の経糸と緯糸との角度は90°でなくてもよい。
経糸と緯糸との角度が非90°の織物をリブ側補強布として使用する場合も、経糸の向きと、VリブドベルトBの長さ方向との角度θが5°を超え以上45°以下であることが好ましい。この場合、緯糸は、ベルトの長さ方向及び幅方向の両方に対して傾いていてもよいし、ベルトの長さ方向及び幅方向の一方に対してのみ傾いていてもよい。
【0035】
本発明において、繊維(経糸及び緯糸)が、ベルトの長さ方向に対して傾いているとは、当該繊維の向きがベルトの長さ方向と一致していないことを意味し、繊維(経糸及び緯糸)が、ベルト幅方向に対して傾いているとは、当該繊維の向きがベルト幅方向と一致していないことを意味する。
【0036】
上記織物の組織としては、例えば、平織、斜文織、朱子織、及びこれらの変化組織等が挙げられる。
【0037】
リブ側補強布14は、セルロース系繊維を含んでいる。つまり、リブ側補強布14は、織物の経糸及び/又は緯糸としてセルロース系繊維が用いられている。
上記セルロース系繊維としては、例えば、針葉樹や広葉樹の木材パルプ、竹繊維、サトウキビ繊維、綿繊維やカポックの種子毛繊維、麻やコウゾやミツマタのジン皮繊維、マニラ麻やニュージーランド麻の葉繊維などの天然植物由来のセルロース繊維;ホヤセルロースなどの動物由来のセルロース繊維;バクテリアセルロース繊維;藻類のセルロース繊維;セルロースエステル繊維;レーヨンやキュプラやリヨセルなどの再生セルロース繊維等が挙げられる。
【0038】
また、上記セルロース系繊維を含む繊維は、弾性糸にセルロース系繊維を巻き付けたカバーリング糸であってもよい。
上記セルロース系繊維を含む繊維としては、入手が容易で実用性が高い点から綿繊維を含む繊維が好ましい。
【0039】
リブ側補強布14を構成する織物は、主な繊維として、セルロース系繊維を含むことが好ましい。
上記織物を構成する繊維に占めるセルロース系繊維の割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0040】
リブ側補強布14は、接着処理が施されていてもよい。
上記接着処理としては、例えば、エポキシ樹脂溶液又はイソシアネート樹脂溶液に浸漬して加熱する接着処理、RFL水溶液に浸漬して加熱する接着処理、ゴム糊に浸漬して乾燥させる接着処理、及び圧縮ゴム層11側となる面にゴム糊をコーティングして乾燥させる接着処理、等が挙げられる。これらの接着処理は、単独で採用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
接着ゴム層12のベルト厚さ方向の中間部には、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配された心線16が埋設されている。
心線16は、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の撚り糸で構成されている。心線16の直径は例えば0.5mm以上2.5mm以下であり、断面における相互に隣接する心線16の中心間の寸法は例えば0.05mm以上0.20mm以下である。
心線16には、エポキシ樹脂溶液又はイソシアネート樹脂溶液に浸漬して加熱する接着処理、RFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理、及びゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理のうちの1種又は2種以上の接着処理が施されていることが好ましい。
【0042】
次に、VリブドベルトBの製造方法について、図面を参照して説明する。
図4A及び図4Bは、本実施形態に係るVリブドベルトBの製造で用いる架橋装置40を示す図である。図5(a)及び(b)は、筒状に形成されたリブ側補強布を用意する方法を説明するための図である。図6A図6Cは、本実施形態に係るVリブドベルトBの製造方法を説明するための図である。
【0043】
この架橋装置40は、基台41と、その上に立設された円柱状の膨張ドラム42と、その外側に設けられた円筒状の円筒金型43とを備えている。
【0044】
膨張ドラム42は、中空円柱状に形成されたドラム本体42aと、その外周に外嵌めされた円筒状のゴム製の膨張スリーブ42bとを有する。ドラム本体42aの外周部には、各々、内部に連通した多数の通気孔42cが形成されている。膨張スリーブ42bの両端部は、それぞれドラム本体42aとの間で固定リング44、45によって封止されている。架橋装置40には、ドラム本体42aの内部に高圧空気を導入して加圧する加圧手段(図示せず)が設けられている。架橋装置40は、上記加圧手段によりドラム本体42aの内部に高圧空気が導入されると、高圧空気が通気孔42cを通ってドラム本体42aと膨張スリーブ42bとの間に入って膨張スリーブ42bを径方向外向きに膨張させるように構成されている。
【0045】
円筒金型43は、基台41に脱着可能に構成されている。基台41に取り付けられた円筒金型43は、膨張ドラム42との間に間隔をおいて同心状に設けられる。円筒金型43は、内周面に、各々、周方向に延びる複数のVリブ形成溝43aが軸方向(溝幅方向)に連設されている。各Vリブ形成溝43aは、溝底側に向かうに従って幅狭に形成されており、具体的には、断面形状が、製造するVリブドベルトBのVリブ15と同一形状に形成されている。架橋装置40には、円筒金型43の加熱手段及び冷却手段(いずれも図示せず)が設けられており、これらの加熱手段及び冷却手段により円筒金型43の温度制御が可能となるように構成されている。
【0046】
実施形態に係るVリブドベルトBの製造方法では、まず、ゴム成分に、架橋剤を含む各ゴム配合剤を配合し、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で混練し、得られた未架橋ゴム組成物をカレンダー成形等によってシート状に成形して圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシートを作製する。同様に、接着ゴム層12用の未架橋ゴムシートも作製する。また、織物からなるリブ側補強布14と、織物または編物等からなる背面補強布13を準備し、必要に応じて接着処理を施す。リブ側補強布14は、予め筒状に形成しておくことが好ましい。また、背面補強布13も予め筒状に形成しておいてもよい。さらに、心線16を準備し、必要に応じて心線16に接着処理を施す。
【0047】
筒状に形成されたリブ側補強布は、例えば、下記の方法で作製することができる。
図5(a)及び(b)は、筒状に形成されたリブ側補強布を用意する方法を説明するための図である。
まず、織物114を長方形に裁断し、帯状のリブ側補強布14’とする。このとき、経糸の向きが長辺方向(完成したVリブドベルトにおける長さ方向LD)に対して、所定の角度、例えば、5°を超え45°以下、傾くように裁断する(図5(a)参照)。
その後、帯状のリブ側補強布14’の2つの短辺を突き合わせて縫製し、筒状のリブ側補強布14とする(図5(b)参照)。
このような筒状のリブ側補強布14は、架橋装置40を用いたVリブドベルトBの製造に好適に用いることができる。
【0048】
次に、図6Aに示すように、表面が平滑な円筒ドラム46上にゴムスリーブ47を被せ、その上に、背面補強布13、及び接着ゴム層12用の未架橋ゴムシート12’を順に巻き付けて積層し、その上から心線16を螺旋状に巻き付け、更にその上から接着ゴム層12用の未架橋ゴムシート12’、及び圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11’を順に巻き付ける。最後に、未架橋ゴムシート11’の上に、上述した方法で筒状に形成しておいたリブ側補強布14を被せて未架橋スラブS’を成形する。
【0049】
このとき、筒状のリブ側補強布14は、張り状態が均一になるように調整しながら、未架橋ゴムシート11’上に被せることで、成型後のベルトスラブSにおいてリブ側補強布にシワが発生することを抑制する。
【0050】
本実施形態の製造方法では、帯状のリブ側補強布14’を圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11’に巻き付けてもよい。
また、リブ側補強布を巻き付ける際には、Vリブ形成溝43aの形状に沿いやすいように、予め、リブ側補強布を蛇腹状に成形しておき、このリブ側補強布を未架橋ゴムシート11’の上に巻き付けてもよい。この場合、成形されたベルトスラブSにおいて、リブ側補強布におけるシワの発生の回避がより容易になる。
【0051】
次いで、円筒ドラム46から未架橋スラブS’を設けたゴムスリーブ47を外し、図6Bに示すように、円筒金型43の内周面側に内嵌めした後、その未架橋スラブS’を設けた円筒金型43を、膨張ドラム42を覆うように設けて基台41に取り付ける。
【0052】
続いて、円筒金型43を加熱すると共に、図6Cに示すように、膨張ドラム42のドラム本体42aと膨張スリーブ42bとの間に通気孔42cを介して高圧空気を注入して膨張スリーブ42bを膨張させる。このとき、未架橋スラブS’が円筒金型43に対して押し付けられ、未架橋ゴムシート11’、12’がリブ側補強布14を押圧して伸張させながらVリブ形成溝43aに流入するとともに、それらのゴム成分の架橋が進行して一体化し、かつリブ側補強布14、心線16、及び背面補強布13と複合し、最終的に、円筒状のベルトスラブSが成型される。このベルトスラブSの成型温度は例えば100℃以上180℃以下、成型圧力は例えば0.5MPa以上2.0MPa以下、成型時間は例えば10分以上60分以下である。
【0053】
そして、膨張ドラム42のドラム本体42aと膨張スリーブ42bとの間から高圧空気を抜いた後、円筒金型43の内周面上に成型されたベルトスラブSを取り出し、ベルトスラブSを所定のVリブ15の個数に輪切りして表裏を裏返すことによりVリブドベルトBが得られる。
【実施例
【0054】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
ここでは、下記のリブ側補強布を用いて、実施例1~4及び比較例1、2のVリブドベルトを作製した。得られたVリブドベルトを評価した。
【0055】
<リブ側補強布として用いる織物A>
リブ側補強布として用いる織物として、綿の紡績糸を経糸、弾性糸に綿を巻き付けたカバーリング糸を緯糸に用いた平織の織物Aを用意した。
織物Aは、引張り速度200mm/分で伸長させた時の20N/inch時の緯糸の向きに沿った伸びが77%、経糸の向きに沿った伸びが6パーセントであった。
【0056】
<リブ側補強布として用いる編物B>
綿の紡績糸を編糸として形成された編物であって、接着剤に浸漬する接着処理が施されていないものを用意した。
編物Bは、引張り速度200mm/分で伸長させた時の20N/inch時のウェール方向の伸びが183%、コース方向の伸びが191%であった。
【0057】
<圧縮ゴム材料/接着ゴム材料>
EPDMと、硫黄とを含むゴム配合剤を配合した未架橋ゴム組成物を混練後、カレンダーロールで圧延し、圧縮ゴム用の未架橋ゴムシートと、接着ゴム用の未架橋ゴムシートを作製した。
【0058】
<心線>
心線としては、ポリエステル繊維の撚り糸を準備し、これをRFL水溶液に浸漬し、その後、加熱乾燥する接着処理を行ったものを用意した。
【0059】
<背面補強布>
リブ側補強布として用意した編物Bに、RFL処理を施して背面補強布とした。
【0060】
(実施例1)
上記実施形態と同様の構成を有し、リブ側補強布として織物Aを使用し、圧縮ゴム材料、接着ゴム材料、心線及び背面補強布として上述したものを使用したVリブドベルトを、図4A図6Cを参照しながら説明した製造方法で作製し、実施例1のVリブドベルトとした。ここでは、Vリブの個数が3個のVリブドベルトを作製した。
本実施例において、リブ側補強布としては、ベルト成型後、経糸の向きとベルトの長さ方向とのなす角度が10°となるように、織物Aを予め筒状に縫製したものを使用した。
【0061】
(実施例2)
リブ側補強布として、ベルト成型後、経糸の向きとベルトの長さ方向とのなす角度が20°となるように、織物Aを予め筒状に縫製したものを使用した以外は、実施例1と同様にしてVリブドベルトを製造した。
【0062】
(実施例3)
リブ側補強布として、ベルト成型後、経糸の向きとベルトの長さ方向とのなす角度が5°となるように、織物Aを予め筒状に縫製したものを使用した以外は、実施例1と同様にしてVリブドベルトを製造した。
【0063】
(実施例4)
リブ側補強布として、ベルト成型後、経糸の向きとベルトの長さ方向とのなす角度が50°となるように、織物Aを予め筒状に縫製したものを使用した以外は、実施例1と同様にしてVリブドベルトを製造した。
【0064】
(比較例1)
リブ側補強布として、ベルト成型後、経糸の向きとベルトの長さ方向とのなす角度が0°となるように(経糸の向きとベルトの長さ方向とが一致するように)、織物Aを予め筒状に縫製したものを使用した以外は、実施例1と同様にしてVリブドベルトを製造した。
【0065】
(比較例2)
リブ側補強布として、編物Bを使用した以外は、実施例1と同様にしてVリブドベルトを製造した。
本比較例では、編物Bのコース方向と、ベルト成型後のベルトの長さ方向とが一致するように、予め筒状に縫製したものをリブ側補強布とした。
【0066】
<リブ側補強布の成形性の評価>
リブ側補強布の成形性について、下記に基準で評価した。結果を表1に示した。
A:作業に必要な柔軟性が確保されており問題なく成形できた
B:柔軟性が小さく、扱いに難しさはあるが成形できた。
C:Vリブ本体に形状に沿わず、シワが発生した。
【0067】
<耐摩耗性試験>
図7は、耐摩耗性試験のベルト走行試験機60のプーリレイアウトを示す。
このベルト走行試験機60は、向かって右側にプーリ径が60mmのリブプーリの駆動プーリ61が設けられ、向かって左側にプーリ径が60mmのリブプーリの従動プーリ62が設けられている。駆動プーリ61は、左右に可動に設けられており、軸荷重を負荷できるように構成されている。従動プーリ62には3.8kW(5.2PS)の回転負荷が与えられている。
実施例1及び比較例2のそれぞれのVリブドベルトBについて、Vリブ側が接触するように、駆動プーリ61及び従動プーリ62に巻き掛けるとともに、駆動プーリ61に右方に1176Nの軸荷重DWをかけてベルト張力を与え、室温下、駆動プーリ61を3500rpmの回転数で回転させて170時間ベルト走行させた。そして、ベルト走行前後の質量変化を求め、それを摩耗減量として摩耗率を算出した。結果を表1に示した。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例及び比較例の結果から、下記事項が明らかとなった。
実施例1、2は、織物がベルトの周方向と幅方向に対して適度な柔軟性を有し、両方向に伸びやすいので成形性に問題は無かった。
実施例3は、織物のベルト周方向に対する柔軟性が小さいので、織物を被せる際の取り回しに難はあったが、織物の張り状態を均一に整えながら被せることでリブ側補強布にシワのないベルトが成形できた。
実施例4は、織物のベルト幅方向の柔軟性が小さいのでリブ形状に対する成型しにくさはあったが、織物の張り状態を均一に整えながら被せることでリブ側補強布にシワのないベルトを作製できた。
比較例1については、織物のベルト周方向に対する柔軟性が極わずかのため、未架橋ゴムシート11’に被せることが非常に困難であった。また、成型した際にベルト周方向に長さが余る部分が発生するためリブ形状に対する織物のフィッティングが悪く、それが成型後にシワとなった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のVリブドベルトは、例えば、自動車の補機構駆動ベルト伝動装置等に有用である。
【符号の説明】
【0071】
10 ベルト本体
11 圧縮ゴム層
11a Vリブ本体
12 接着ゴム層
13 背面補強布
14 リブ側補強布
14a、114a 経糸
14b、114b 緯糸
15 Vリブ
16 心線
40 架橋装置
60 走行試験機
11’、12’ 未架橋ゴムシート
114 織物
B Vリブドベルト
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7