(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】ターボ機械の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 1/06 20060101AFI20240513BHJP
F01D 25/16 20060101ALI20240513BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20240513BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
F16H1/06
F01D25/16 A
F01D25/00 F
F01D25/00 X
F16C17/02 Z
(21)【出願番号】P 2021063105
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】馬場 利秋
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-096301(JP,A)
【文献】実開昭56-119044(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/06
F01D 25/16
F01D 25/00
F16C 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機により回転駆動すると共に駆動ギアが取り付けられた駆動軸と、前記駆動ギアと噛み合う従動ギアを有する従動軸と、前記従動軸に取り付けられるインペラと、前記インペラを収容するインペラケーシングと、前記従動軸を支持する軸支持部が形成されると共に前記駆動ギア及び前記従動ギアを収容するギアケーシングとを備えたターボ機械の製造方法であって、
中空部が形成された筒形状を有すると共に外周面の中心と内周面の中心との間のずれ量がそれぞれ異なる複数のアダプタのうち、前記従動軸の軸心を設計軸心に近づけるために最適と想定される前記アダプタを、前記軸支持部の加工状態に合わせて選定する選定工程と、
前記選定工程の後、上下に分割された前記アダプタを前記軸支持部に配置し、前記中空部に前記従動軸が配置された前記ターボ機械を組み立てる組立工程と、を備えた、ターボ機械の製造方法。
【請求項2】
前記アダプタは、上部と下部とを組み合わせた状態において、円筒面である前記外周面及び前記内周面を構成する、請求項1に記載のターボ機械の製造方法。
【請求項3】
前記複数のアダプタを準備するアダプタ準備工程をさらに備え、
前記アダプタ準備工程は、
前記複数のアダプタのそれぞれの元部材を荒加工する荒加工工程と、
荒加工された前記元部材を、前記ずれ量がそれぞれ異なるように仕上げ加工する仕上げ工程と、を含む、請求項1又は2に記載のターボ機械の製造方法。
【請求項4】
前記荒加工工程では、前記アダプタの上部の前記元部材及び前記アダプタの下部の前記元部材をそれぞれ荒加工し、
前記アダプタ準備工程は、前記荒加工工程の後、前記アダプタの上部の前記元部材及び前記アダプタの下部の前記元部材をピンで仮固定する仮固定工程をさらに含み、
前記仕上げ工程では、仮固定された状態の前記元部材を仕上げ加工する、請求項3に記載のターボ機械の製造方法。
【請求項5】
前記ギアケーシングは、上下に分割されたものであり、
前記ギアケーシングに対する前記アダプタの回転を防止する回転防止ピンを、前記ギアケーシングの下部に配置するピン配置工程をさらに備えた、請求項1~4のいずれか1項に記載のターボ機械の製造方法。
【請求項6】
1本の前記回転防止ピンを、前記ギアケーシングと前記アダプタと前記従動軸を回転可能に支持する軸受とに挿通する、請求項5に記載のターボ機械の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ機械の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、互いに噛み合うギアシャフトを備えた歯車変速機等の歯車伝動機構が知られている。
【0003】
特許文献1の歯車伝動機構は、ギアシャフトと、当該ギアシャフトを支持する軸受と、当該軸受を収容する軸受ハウジングとを備えている。この軸受の外輪と軸受ハウジングの内面との間には、偏心リングが挿入されている。この歯車伝動機構では、組立後に偏心リングを周方向に回転させることにより、ギアシャフト同士の歯当りが最適な状態に調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、偏心リングを回転させる作業が大掛かりであるため、ギアシャフトの歯当りの調整における作業負担が大きいという課題がある。またこの文献には、偏心リングを排除し、軸受に当該偏心リングの機能を持たせることも記載されているが、この場合には軸受の加工が難しく、偏心リングを回転させる場合と同様に作業負担の増加は避けられない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業負担の増加を抑制しつつ、ギアの高い噛み合い精度を実現可能なターボ機械の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電動機により回転駆動すると共に駆動ギアが取り付けられた駆動軸と、前記駆動ギアと噛み合う従動ギアを有する従動軸と、前記従動軸に取り付けられるインペラと、前記インペラを収容するインペラケーシングと、前記従動軸を支持する軸支持部が形成されると共に前記駆動ギア及び前記従動ギアを収容するギアケーシングとを備えたターボ機械の製造方法であって、中空部が形成された筒形状を有すると共に外周面の中心と内周面の中心との間のずれ量がそれぞれ異なる複数のアダプタのうち、前記従動軸の軸心を設計軸心に近づけるために最適と想定される前記アダプタを、前記軸支持部の加工状態に合わせて選定する選定工程と、前記選定工程の後、上下に分割された前記アダプタを前記軸支持部に配置し、前記中空部に前記従動軸が配置された前記ターボ機械を組み立てる組立工程と、を備えている。
【0008】
この方法によれば、ターボ機械の組立工程の前に複数のアダプタのうち最適と想定されるアダプタを選定し、これをギアケーシングの軸支持部に配置することにより、従動軸の軸心を設計軸心に近づける(又は設計軸心に一致させる)ことができる。これにより、駆動ギアと従動ギアとが良好な状態で噛み合ったターボ機械を製造することができる。本製造方法によれば、従来のように偏心リングを回転させてギアシャフトの軸心を調整する場合と異なり、偏心リングを回転させるための治具も不要となり、従動軸の軸心を容易に調整することができる。このため、ギアの噛み合い精度が高いターボ機械を少ない作業負担で製造することが可能である。
【0009】
前記アダプタは、上部と下部とを組み合わせた状態において、円筒面である前記外周面及び前記内周面を構成してもよい。
【0010】
この方法によれば、アダプタの外周面及び内周面が滑らかになるため、アダプタをギアケーシングに取り付け易く、またアダプタ内に軸受や従動軸を配置し易くなる。
【0011】
前記製造方法は、前記複数のアダプタを準備するアダプタ準備工程をさらに備えてもよい。この場合、前記アダプタ準備工程は、前記複数のアダプタのそれぞれの元部材を荒加工する荒加工工程と、荒加工された前記元部材を、前記ずれ量がそれぞれ異なるように仕上げ加工する仕上げ工程と、を含んでもよい。
【0012】
前記荒加工工程では、前記アダプタの上部の前記元部材及び前記アダプタの下部の前記元部材をそれぞれ荒加工してもよい。前記アダプタ準備工程は、前記荒加工工程の後、前記アダプタの上部の前記元部材及び前記アダプタの下部の前記元部材をピンで仮固定する仮固定工程をさらに含んでもよい。前記仕上げ工程では、仮固定された状態の前記元部材を仕上げ加工してもよい。
【0013】
この方法によれば、仕上げ加工後にアダプタを上下に分割する必要がない。このため、仕上げ後にアダプタを分割する際にアダプタが変形し、当該アダプタの外周面の中心と内周面の中心との間のずれ量が分割前の状態からずれるのを防ぐことができる。
【0014】
前記ギアケーシングは、上下に分割されたものであってもよい。この場合、前記製造方法は、前記ギアケーシングに対する前記アダプタの回転を防止する回転防止ピンを、前記ギアケーシングの下部に配置するピン配置工程をさらに備えてもよい。
【0015】
この方法によれば、ギアケーシングの上部に回転防止ピンを配置する場合に比べて、ピンの配置作業が容易になる。
【0016】
前記製造方法において、1本の前記回転防止ピンを、前記ギアケーシングと前記アダプタと前記従動軸を回転可能に支持する軸受とに挿通してもよい。
【0017】
この方法によれば、複数のピンを用いる場合に比べて部品点数を削減し、製造工程をより簡素化することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、作業負担の増加を抑制しつつ、ギアの高い噛み合い精度を実現可能なターボ機械の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態1におけるターボ機械の構成を簡易的に示す斜視図である。
【
図2】
図1中の領域IIにおける構成を模式的に示す拡大図である。
【
図3】上記ターボ機械におけるインペラ及びそのケーシングの構成を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係るターボ機械の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図5】上記ターボ機械の製造方法に用いられるアダプタ群の構成を模式的に示す図である。
【
図6】ターボ機械の他の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態2に係るターボ機械の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施形態2に係るターボ機械の製造方法における仮固定工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。
【0021】
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1におけるターボ機械1の構成を、
図1~
図3に基づいて説明する。本実施形態におけるターボ機械1は、大型のターボ圧縮機である。
図1に示すように、ターボ機械1は、駆動軸10と、一対の従動軸20と、ギアケーシング40とを主に備えている。
【0022】
駆動軸10は、電動機(モータ)により回転駆動すると共に、ブルギア11(駆動ギア)が取り付けられている。駆動軸10は、
図1中のY方向に延びており、同図の紙面手前側に位置する先端10Aを含む。電動機は、当該先端10A側に取り付けられる。ブルギア11は、円板形状を有しており、その中心に駆動軸10が挿入されている。ブルギア11の外周面11Aには、周方向の全体に亘って多数の歯(図示しない)が形成されている。
【0023】
従動軸20は、ブルギア11と噛み合うピニオンギア21(従動ギア)を有しており、駆動軸10と略平行に配置されている。
図1に示すように、X方向において駆動軸10の両側に従動軸20がそれぞれ配置されている。各従動軸20は、駆動軸10と略同じ高さ位置に配置されている。従動軸20は、
図1の紙面手前側に位置する先端20Aを含む。
【0024】
ピニオンギア21は、ブルギア11よりも小径であり、従動軸20に取り付けられている。ピニオンギア21の外周面には、周方向の全体に亘って多数の歯(図示しない)が形成されている。
【0025】
ギアケーシング40は、駆動軸10を支持する駆動軸支持部44及び従動軸20を支持する従動軸支持部45がそれぞれ形成されると共に、ブルギア11及びピニオンギア21を収容する。なお、実際には、従動軸20は、後述の軸受及びアダプタを介して従動軸支持部45に配置される。本実施形態におけるギアケーシング40は、上下に分割されており、ケーシング下部46と、当該ケーシング下部46に組み合わされるケーシング上部47とを含む。
【0026】
図1に示すように、ケーシング下部46は、ベース板41と、当該ベース板41の上面から垂直方向(
図1中のZ方向)に延びる第1軸支持板42及び第2軸支持板43とを含む。ベース板41は、X方向に長い長方形状を有している。第1軸支持板42及び第2軸支持板43は、ベース板41と略同じ幅の長方形状を有する。第1軸支持板42及び第2軸支持板43は、ベース板41に垂直で且つ、Y方向に所定の間隔を空けて配置されている。
【0027】
第1軸支持板42は、第2軸支持板43と略平行で且つ、
図1中において第2軸支持板43よりも紙面手前側に配置されている。
図1に示すように、第1軸支持板42の上端には、X方向の略中央に駆動軸支持部44が形成されていると共に、当該上端のうちX方向における駆動軸支持部44の両側に従動軸支持部45がそれぞれ形成されている。
【0028】
駆動軸10及び従動軸20は、第1軸支持板42と第2軸支持板43との間に跨るように、これらの支持板の上端に架け渡されている。駆動軸10の先端10A及び従動軸20の先端20Aは、第1軸支持板42の外面よりも外側(
図1中の紙面手前側)に位置する。ブルギア11の下部及びピニオンギア21は、第1軸支持板42と第2軸支持板43との間に収容されている。
【0029】
ケーシング上部47は、上側が塞がると共に下側が開放された形状を有し、第1軸支持板42及び第2軸支持板43上に配置されている。ケーシング上部47は、ケーシング下部46と共にブルギア11及びピニオンギア21を収容する。
【0030】
図2は、
図1中の領域IIの構成を拡大して示している。
図2に示すように、第1軸支持板42の上端面42Aは、水平方向に広がっており、一部が下側に向かって半円状に切り欠いた溝部48となっている。この溝部48内に、アダプタ50の下部(アダプタ下部51)及び軸受60の下部(軸受下部61)を介して従動軸20が配置されている。軸受60は、従動軸20をギアケーシング40に対して回転可能に支持するものであり、例えば滑り軸受やティルティングパッド軸受等である。
【0031】
ケーシング上部47の下端面47Aは水平方向に広がり、一部に上側に向かって半円状に切り欠かれた溝部48Aが形成されている。この溝部48A内に、アダプタ50の上部(アダプタ上部52)及び軸受60の上部(軸受上部62)を介して従動軸20が配置されている。
【0032】
ターボ機械1では、
図2に示すように、ケーシング上部47の溝部48Aとケーシング下部46の溝部48とが組み合わされた状態で、従動軸20、軸受60及びアダプタ50が収容される真円孔状の従動軸支持部45が形成される。
【0033】
図3に示すように、ターボ機械1は、インペラ56と、当該インペラ56を収容するインペラケーシング57とをさらに備える。インペラ56は、従動軸20の先端20Aに取り付けられると共に当該従動軸20と共に回転する略円錐台形状の基部56Aと、当該基部56Aの周面において周方向に間隔を空けて設けられた複数の羽根56Bとを含む。これにより、インペラケーシング57内に取り込まれたガスが、インペラ56の回転によって所定の圧力まで昇圧される。
【0034】
次に、上記ターボ機械1の製造方法を、
図4のフローチャートに従って説明する。
【0035】
まず、複数のアダプタ50を準備するアダプタ準備工程S10が実施される。この工程S10は、荒加工工程S11と、仕上げ工程S12とを含む。
図5は、この工程S10において準備される複数のアダプタ50(アダプタ群80)を示している。
図5に示すように、複数のアダプタ50のそれぞれは、中空部が形成された筒形状を有しており、外周面53の中心C1と内周面54の中心C2との間のずれ量がそれぞれ異なっている。すなわち、
図5の例では、中心C1と中心C2との間のx方向のずれ量x1,x2,x3がそれぞれ異なっており、また中心C1と中心C2との間のy方向のずれ量y1,y2,y3もそれぞれ異なっている。
【0036】
アダプタ50の外周面53及び内周面54は、いずれも真円である。またアダプタ50は、例えばアルミニウムや鉛等の軟質の金属材料からなるが、これに限定されない。荒加工工程S11では、複数のアダプタ50のそれぞれの元部材(図示しない)を準備し、これらを荒加工する。具体的には、円柱状の金属部材を準備し、その径方向中央部を軸方向全体に亘って切削加工する。その後、仕上げ工程S12において、荒加工された元部材を、xy各方向のずれ量がそれぞれ異なるように仕上げ加工する。具体的には、荒加工後の円筒部材の外周面及び内周面がそれぞれ切削され、中心C1と中心C2との間のxy各方向のずれ量が定められる。このようにして、
図5のアダプタ群80が準備される。
【0037】
次に、アダプタ選定工程S20が実施される。この工程S20では、上記の工程S10において準備された複数のアダプタ50のうち、従動軸20の軸心を設計軸心に近づけるために最適と想定される1つのアダプタ50を、従動軸支持部45(
図2)の加工状態に合わせて選定する。
【0038】
従動軸支持部45の溝加工の精度が悪い場合には、従動軸20を溝内に配置したときに、従動軸20の軸心がその設計軸心に対して大きくずれる場合がある。この場合、ブルギア11とピニオンギア21との噛み合い精度が悪化する。本工程S20では、従動軸支持部45及び溝48の加工状態を目視により確認し、従動軸20を溝内に配置したときに従動軸20の軸心とその設計軸心との間のずれ量が最小になると予想される1つのアダプタ50を選定する。別の観点から説明すると、アダプタ50を介さずに従動軸20が配置された場合における従動軸20の軸心とその設計軸心との間のずれ量が、本工程S20において選定される1つのアダプタ50における中心C1と中心C2との間のずれ量に相当する。
【0039】
次に、上記の工程S20において選定されたアダプタ50を上下に分割する(工程S30)。本実施形態では、アダプタ上部52及びアダプタ下部51がそれぞれ半円筒状になるようにアダプタ50が分割されるが、これに限定されない。
図5に示すように、アダプタ50は、上部と下部とを組み合わせた状態において、円筒面である外周面53及び内周面54をそれぞれ構成する。
【0040】
次に、組立工程S40が実施される。この工程S40では、上下に分割されたアダプタ50を従動軸支持部45に配置し、当該アダプタ50の中空部に従動軸20が配置されたターボ機械1を組み立てる。以下、具体的な手順について説明する。
【0041】
まず、ケーシング下部46が配置される(工程S31)。ここで、ケーシング下部46の第1軸支持板42には、従動軸支持部45が予め溝加工されている(
図2)。次に、ギアケーシング40に対するアダプタ50の回転を防止する回転防止ピン70(
図2)が、ケーシング下部46に配置される(工程S32)。具体的には、
図2に示すように、従動軸支持部45の溝内面における所定の位置(本実施形態では第1軸支持板42の上端面の近傍)に凹部が形成され、当該凹部に回転防止ピン70の一端が挿入される。
【0042】
次に、アダプタ下部51が従動軸支持部45の溝内に配置され(工程S33、
図2)、続いて軸受下部61がアダプタ下部51の上に配置される(工程S34、
図2)。このとき、
図2に示すように、本実施形態では、アダプタ下部51のうち薄肉部が厚肉部に比べてX方向中央側(駆動軸10側であり、
図2における右側)に位置するように、アダプタ下部51が配置される。また回転防止ピン70は、アダプタ下部51を貫通すると共に軸受下部61の外面凹部に係止される。すなわち、本実施形態では、1本の回転防止ピン70を、ケーシング下部46とアダプタ下部51と軸受下部61とにそれぞれ挿通する。
【0043】
次に、軸受下部61の上に従動軸20を配置し(工程S35)、従動軸20の上に軸受上部62及びアダプタ上部52を順に配置する(工程S36,S37)。アダプタ上部52も、アダプタ下部51と同様に、薄肉部が厚肉部に比べてX方向中央側(駆動軸10側)に位置するように配置される。より詳細には、アダプタ50の外周面53の中心C1から内周面54の中心C2に向かうベクトルが、アダプタ50を介さずに従動軸20を配置した場合における設計軸心から従動軸20の軸心に向かうベクトルに対して逆向きとなるように、アダプタ上部52とアダプタ下部51とが組み合わされる。そして、ケーシング上部47がケーシング下部46の上から被せられる(工程S38)。
【0044】
以上の通り、本実施形態に係るターボ機械の製造方法によれば、組立工程S40の前に複数のアダプタ50のうち最適と想定される1つのアダプタ50を選定し、これをケーシング下部46の従動軸支持部45に配置することにより、組立後のターボ機械1において従動軸20の軸心を設計軸心に近づける(又は設計軸心に一致させる)ことができる。これにより、ブルギア11とピニオンギア21とが良好な状態で噛み合ったターボ機械1を製造することができる。この製造方法によれば、偏心リングを回転させてギアシャフトの軸心を調整する場合と異なり、偏心リングを回転させるための治具も不要となり、従動軸20の軸心を容易に調整することができる。したがって、ギアの噛み合い精度が高いターボ機械1を少ない作業負担で製造することができる。なお、本製造方法により製造されたターボ機械1において、従動軸20の軸心がその設計軸心に完全に一致する必要はなく、両者のずれ量が許容範囲内であればよい。
【0045】
図6は、ターボ機械の他の製造方法の流れを示すフローチャート一部を示す図である。
図6では省略しているが、工程S11~工程S38までは実施形態1と同様である。ケーシング上部配置工程S38の完了後、ブルギア11とピニオンギア21との噛み合い状態が許容されるものであるか否かを確認する(工程S39)。具体的には、実際の歯当り状態を目視確認し、両ギアの噛み合い状態を許容できる場合は(工程S39のYES)、ターボ機械1の組立が完了する(工程S43)。
【0046】
一方、ブルギア11とピニオンギア21との噛み合い状態が許容できない場合は(工程S39のNO)、工程S10において準備された複数のアダプタ50のうちから別のアダプタ50を再選定し(工程S41)、これを工程S33,S37において配置されたアダプタ50と交換する(工程S42)。具体的には、ケーシング上部47を取り外し、工程S33,S37において配置されたアダプタ50を、工程S41において再選定された別のアダプタ50に交換する。このように、ブルギア11とピニオンギア21との噛み合い状態が許容できる状態になるまで、噛み合い確認、アダプタ再選定及びアダプタ交換の工程が繰り返される。
【0047】
なお、工程S39の実施タイミングは、工程S38の後に限定されず、例えば工程S35と工程S36との間でもよい。このタイミングは、ケーシング上部47の取り付け前であるため、ブルギア11とピニオンギア21との歯当り状態を目視確認するに際して当該ケーシング上部47を取り外す必要がない。また本実施形態において説明した工程S39,S41~S43が、後述する実施形態2に係るターボ機械の製造方法において適用されてもよい。
【0048】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係るターボ機械の製造方法を、
図7及び
図8に基づいて説明する。実施形態2は、基本的に実施形態1と同様であるが、アダプタの分割タイミングにおいて実施形態1と異なっている。以下、実施形態1と異なる点についてのみ説明する。
【0049】
実施形態2における荒加工工程S11では、アダプタ上部52の元部材及びアダプタ下部51の元部材をそれぞれ準備し、これらを荒加工する。その後、アダプタ上部52の元部材及びアダプタ下部51の元部材をピンで仮固定する(
図7の工程S13)。具体的には、
図8に示すように、上側元部材52Aと下側元部材51Aとが組み合わされた状態において、中空部を避けて仮止めピン90を両部材に貫通させる。
【0050】
その後、上記の仮固定状態を維持したままで仕上げ工程S12が実施される(
図7の工程S12)。以降のフローは基本的に実施形態1と同様であるが、アダプタ分割工程S30(
図4)は省略される。
【0051】
実施形態2に係るターボ機械の製造方法によれば、荒加工の実施前にアダプタ50の元部材が予め上下に分割されているため、仕上げ後のアダプタ50を上下に分割する必要がない。このため、仕上げ後のアダプタ50を分割する際に当該アダプタ50が変形し、中心C1と中心C2との間の距離が仕上げ後の状態からずれるのを防ぐことができる。
【0052】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0053】
例えば、実施形態1では、インペラ56を備えたターボ機械1の製造方法を説明したが、インペラ56に加えてタービンをさらに備えたターボ機械が製造されてもよい。この場合、蒸気等により駆動するタービンの回転動力が、インペラ56を回転駆動させるための補助動力として利用される。
【0054】
実施形態1では、従動軸20の先端20Aのみにインペラ56が取り付けられる場合を一例として説明したが、当該従動軸20の後端にもインペラが取り付けられていてもよい。この場合、第2軸支持板43にも従動軸支持部が形成され、工程S20において選定されたアダプタ50がそこに配置される。
【0055】
実施形態1では、アダプタ下部51のみを径方向に貫通するように回転防止ピン70が取り付けられる場合を説明したが、アダプタ上部52のみを径方向に貫通するように回転防止ピン70が取り付けられてもよいし、回転防止ピン70が両方に貫通していてもよい。若しくは、軸受60の外面に回転防止ピン70が設けられており、これがアダプタ50を貫通すると共に、当該回転防止ピン70の先端がギアケーシング40に形成された凹溝に係止されていてもよい。
【0056】
実施形態1では、従動軸支持部45の加工状態を目視で確認する場合を一例として説明したが、3次元測定機等を用いてずれ量及びずれの向きを確認してもよい。そして、その測定結果に基づいて、最適と想定される1つのアダプタ50が選定されてもよい。
【0057】
実施形態1では、アダプタ下部51及びアダプタ上部52は、薄肉部が厚肉部に比べて駆動軸10側に位置するように配置されたが、これに限定されない。従動軸支持部45及び溝48の加工状態に依存するが、アダプタ下部51及びアダプタ上部52は、厚肉部が薄肉部に比べて駆動軸10側に位置するように配置されてもよい。
【0058】
実施形態1では、2本の従動軸20のそれぞれにアダプタ50が配置されているがこれに限定されず、いずれか1本の従動軸20のみにアダプタ50が配置されていてもよい。
【0059】
実施形態1では、軸受60が上下に分割されている場合を一例として説明したがこれに限定されず、上下分割されていない軸受60が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 ターボ機械
10 駆動軸
11 ブルギア(駆動ギア)
20 従動軸
21 ピニオンギア(従動ギア)
40 ギアケーシング
45 従動軸支持部
50 アダプタ
51A 下側元部材
52A 上側元部材
53 外周面
54 内周面
56 インペラ
57 インペラケーシング
60 軸受
70 回転防止ピン
90 仮止めピン