(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】二重ラッチング・バルブの準安定状態
(51)【国際特許分類】
F16K 11/02 20060101AFI20240513BHJP
A61M 39/28 20060101ALI20240513BHJP
F16K 7/06 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
F16K11/02 Z
A61M39/28
F16K7/06 B
(21)【出願番号】P 2021510915
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 US2019048777
(87)【国際公開番号】W WO2020047235
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-06-03
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515056037
【氏名又は名称】エスエフシー フルーイディクス、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペイン、フォレスト、ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】レッデン、ブラッドリー
(72)【発明者】
【氏名】カン、ジル
(72)【発明者】
【氏名】ランプス、グレッグ
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-529966(JP,A)
【文献】特開2013-231482(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104160(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047481(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 7/00- 7/20
F16K 11/00-11/24
A61M 39/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブであって、
a)第1の圧縮可能チューブ及び第2の圧縮可能チューブであって、前記第1の圧縮可能チューブは、流路の中の第1の位置に位置付けられており、前記第2の圧縮可能チューブは、同じ前記流路の中の第2の位置に位置付けられている、第1の圧縮可能チューブ及び第2の圧縮可能チューブと、
b)前記第1のチューブ及び前記第2のチューブにそれぞれ隣接して位置付けられ、それによって、第1のバルブ及び第2のバルブを形成する、第1のバルブ・アーム及び第2のバルブ・アームと、
c)前記第1のバルブ・アーム及び前記第2のバルブ・アームと選択的に係合することによって、前記第1のバルブ及び前記第2のバルブを選択的に開閉するように動作可能なバルブ機構であって、前記第1のバルブ及び前記第2のバルブのうちの1つのみ、一度に開いている、バルブ機構と、
d)前記第1のバルブ・アーム及び前記第2のバルブ・アームのうちの少なくとも1つに係合するように位置付けられ、それによって、前記二重ラッチング・バルブが、前記第1のバルブ及び前記第2のバルブを同時に通る流体流れを可能にする準安定状態に入る、干渉機構と
を備える、準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項2】
前記準安定状態を作成するために、前記バルブ機構が、前記干渉機構を形成する少なくとも前記第1のバルブ・アーム又は前記第2のバルブ・アームを受けるように適合されている、請求項1に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項3】
前記第1のバルブ・アーム及び前記第2のバルブ・アームのうちの少なくとも1つが、弾性材料を備え、又は、弾性材料の作用を受ける、請求項2に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項4】
前記干渉機構が、前記準安定状態の維持を支援するために、リップ、縁、又は溝を備える、請求項2に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項5】
前記干渉機構が、前記準安定状態の終了を支援する勾配又はテーパを備える、請求項2に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項6】
前記二重ラッチング・バルブの安定動作が、前記バルブ・アームより広い隙間を作成するために、前記干渉機構を移動させる、請求項2に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項7】
弾性部材が、前記干渉機構の移動によって作成された隙間に、前記第1のバルブ・アーム又は前記第2のバルブ・アームを押し込み、それによって、前記準安定状態を終了させる、請求項3に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項8】
前記バルブ機構が、邪魔にならないように移動可能であり、それによって、前記準安定状態を終了させるように構成される、請求項2に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項9】
前記バルブ機構が、最初に1つのバルブを閉じ、次いで、前記第2のバルブ・アームを解放して、前記準安定状態を終了させるように構成される、請求項8に記載の準安定状態の二重ラッチング・バルブ。
【請求項10】
前記バルブ機構が、カムを備える、請求項9に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項11】
前記干渉機構が、前記二重ラッチング・バルブを準安定状態にするように構成された取り外し可能な閉塞物を備える、請求項1に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項12】
前記取り外し可能な閉塞物が、前記二重ラッチング・バルブから取り外されたときに、前記準安定状態を終了させるようにさらに構成される、請求項11に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項13】
前記干渉機構は、少なくとも前記第1のチューブ又は前記第2のチューブの圧縮を解放するように構成された移動可能なバルブ・シートを備える、請求項1に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項14】
バルブ・シートをさらに備え、前記バルブ・シートを適切な位置に摺動させ、又は、前記バルブ・シートを係止機構で適切な位置にはめ込むことにより、前記準安定状態を終わらせる、請求項13に記載の準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブ。
【請求項15】
準安定状態で動作可能な二重ラッチング・バルブを使用して単一の流路を通る流れを提供するための方法であって、前記二重ラッチング・バルブが、第1のバルブを形成する、第1のチューブ及び隣接する第1のアームと、第2のバルブを形成する、第2のチューブ及び隣接する第2のアームとを備え、前記方法は、
a)前記第1のアーム又は前記第2のアームのいずれかに第1の力を加えるステップであって、前記二重ラッチング・バルブが、流体が前記第1のバルブ及び前記第2のバルブの両方を通過し得る準安定状態に置かれる、加えるステップと、
b)前記第1のアーム又は前記第2のアームのいずれかに第2の力を加えるステップであって、前記二重ラッチング・バルブが、前記準安定状態から取り外され、前記第1のバルブ及び前記第2のバルブのうちの少なくとも1つが閉じられる、加えるステップと
を含む、方法。
【請求項16】
前記第1の力が、外部源によって加えられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のアーム又は前記第2のアームのいずれかに第1の力を加える前記ステップが、干渉機構上の休止位置に前記第1のアーム又は前記第2のアームを配置するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記干渉機構が、リップ、縁、又は溝を備え、前記第1のアーム又は前記第2のアームのいずれかに第1の力を加える前記ステップが、前記干渉機構の前記リップ、前記縁、又は前記溝に前記第1のアーム又は前記第2のアームを位置付けるステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記干渉機構が、勾配又はテーパを備え、前記第1のアーム又は前記第2のアームのうちの同じアームに第2の力を加える前記ステップが、前記干渉
機構を使用して、前記第1のアーム又は前記第2のアームのうちの前記同じアームを前記干渉機構から引き離すステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1のアーム又は前記第2のアームのうちの一方に第2の力を加える前記ステップが、干渉機能を取り除くステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記第1のアーム又は前記第2のアームのいずれかに第1の力を加える前記ステップが、取り外し可能な閉塞物を前記二重ラッチング・バルブに配置するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記第1のアーム又は前記第2のアームのうちの同じアームに第2の力を加える前記ステップが、前記二重ラッチング・バルブから前記取り外し可能な閉塞物を取り外すステップを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1のアーム又は前記第2のアームのいずれかに第1の力を加える前記ステップが、前記第1のアーム又は前記第2のアームのバルブ・シートを、前記第1のアーム又は前記第2のアームのうちの対応する1つから移動させるステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記二重ラッチング・バルブが、バルブ・シートをさらに備え、前記第1のアーム又は前記第2のアームのうちの同じアームに第2の力を加える前記ステップが、前記バルブ・シートを適切な位置に摺動させ、又ははめ込むステップを含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年8月30日に出願された、「Cam Valve Mechanism」と題する米国仮特許出願第62/724,933号の利益を主張する。当該出願は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究又は開発についての記載
本発明は、米国国立衛生研究所の国立薬物濫用研究所によって与えられた認可番号2R44DA041173-02の下で政府の支援を受けて行われた。
【0003】
本発明は、流体装置のためのバルブに関し、特に、流体経路上の1つの入口バルブ又は出口バルブのみ一度に開いていることを可能にする安定状態への切替え前に、1つ又は複数の完全な流体経路が開いている準安定状態にあるバルブに関する。
【背景技術】
【0004】
流体マイクロバルブは、圧縮可能チューブを圧搾する片持ちばねアームから構築することができる。米国特許第3,335,753号は、ソフト・チューブを締め付ける、好ましくは、ソレノイドによって、或いは、カムによって作動するレバー・アームからなるピンチ・バルブを教示している。米国特許第9,067,051号は、圧縮力がアクチュエータによって提供される圧縮可能チューブを圧搾する片持ちアームからなるマイクロ流体ピンチ・バルブを教示している。磁気アクチュエータ、圧電アクチュエータ、空気圧式アクチュエータ、機械的アクチュエータなどのアクチュエータ機構が言及されている。しかしながら、この特許は、1つの流体経路を閉じると、別の流路を開くことができるように同期されたバルブに言及していない。国際特許出願PCT/US2015/045251は、1つのバルブが開く前に両方のバルブが瞬間的に閉じる二重ラッチング・マイクロバルブを教示している。この出願は、流体ネットワークの一杯及びプライミングを可能とするために、入口流体経路及び出口流体経路の両方が開いていることを可能とする準安定状態の二重ラッチング・バルブの初期位置決めに言及していない。米国特許出願第16/436,627号は、回転したときに、バルブ・アームに圧縮可能チューブを締め付けさせる又は締め付けさせないカムからなる二重ラッチング・カム・マイクロバルブを教示している。カム形状は指定されておらず、両方の流体経路を通る流れを可能にする準安定状態への言及もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第3,335,753号
【文献】米国特許第9,067,051号
【文献】国際特許出願PCT/US2015/045251
【文献】米国特許出願第16/436,627号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、流体経路上の1つの入口バルブ又は出口バルブのみ一度に開いていることを可能にする安定状態への切替え前に、1つ又は複数の完全な流体経路が開いている準安定状態が可能である二重ラッチング・マイクロバルブに関する。本発明の1つの実施例が、二重ラッチング・バルブの新しい特徴を含むので、最初に、これらのバルブの通常動作が説明され、続いて、本発明の差異が説明される。二重ラッチング・バルブの通常動作は、安定状態である。二重ラッチング・マイクロバルブの1つの重要な用途は、大きな容器から、より小さな容器へ、そして、出口への流体流れの計量制御である。二重ラッチング・バルブのセットの1つのバルブ(入口バルブ)は、大きな容器と小さな計量容器との間にあり、セットの第2のバルブ(出口バルブ)は、計量容器と出口との間にある。二重ラッチング・マイクロバルブのセットは、他方のバルブが開いているとき、一方のバルブは常にラッチされて閉じられているように協働し、それにより、容器から出口までの経路が開いていることを防止する。バルブ機構は、2つのバルブの動作を制御し、2つのバルブが同時に開いていることを物理的に阻止する。このような構成の利点は、身体上の薬物送達ポッドで使用されるときに明らかになる。ある実例は、容器の内容物が、偶発的に一度に送達された場合に、致命的となる可能性があるインスリン送達である。この危険性は、二重ラッチング・マイクロバルブのセットと、非常に小さい中間計量チャンバとを使用することで軽減することができる。
【0007】
二重ラッチング・マイクロバルブのカムの実施例は、バルブ機構としてカムを使用して構築され、単一のカムの回転が、バルブのうちの1つが開けられる前に、両方のバルブが一時的に閉じられるように、入口バルブ及び出口バルブの開閉のタイミングを制御する。ある実施態様では、バルブ機構は、形状記憶合金(SMA:Shape Memory Alloy)ワイヤに電流を流して、ワイヤを加熱及び収縮させることによって作動する。ワイヤは、弾力性圧縮可能チューブを締め付けて流れを止める、又は、チューブを解放して流れることを可能にするカムを回転させる。これは、直接カムで実現することができる、又は、弾力性チューブを圧縮及び解放する、バルブ端部などのカム・フォロアを使用して実現することができる。
【0008】
二重ラッチング・マイクロバルブのカムの実施例の1つの非限定的な用途は、組込計量チャンバとともに電気化学浸透圧性(electrochemiosmotic)往復動ポンプを使用する、薬物送達(たとえば、インスリン)である。ポンプの入口バルブ及び出口バルブの調整された動作が、容器と患者との間のラインが開くことを防止するので、カム制御された二重ラッチング・マイクロバルブは、重要な安全機能を提供する。
【0009】
本発明は、1つのバルブのみが一度に開いている安定動作状態に直接的に反する、二重ラッチング・マイクロバルブのための準安定状態を提供する。準安定状態は、両方のバルブが同時に開くことを意図的に可能にするために、干渉機構を使用し、流体経路全体を安定動作の前に溶液で簡単にプライミングできるように、容器から出口までの直接的な流体経路を提供する(すなわち、両方のバルブが同時に開いている)。準安定状態により、流体システムを簡単に満たすことができる。
【0010】
バルブ・シートの平面からの準安定状態を可能にする標準的な二重ラッチング・カム・マイクロバルブに対する変更は、準安定状態に保持された後に、安定状態に戻るバルブ・アーム端部を備えるバルブ・アームと、自らの弾力性の下で通常動作のための位置へ移動するために、バルブ・アーム端部のための空間を作るカムの成形と、バルブ・アーム端部が通常動作のための位置に簡単に摺動することを可能にする、カム及び/又はバルブ・アーム端部への勾配と、保管中、バルブ・アーム端部を準安定状態に保持することを支援する、カム又はバルブ・アーム端部の表面上の隆起縁とを含むことができる。カム以外の他の干渉機構は、準安定状態を作り出すために、これらの特徴を保有することもできる。
【0011】
他の実施例は、バルブ・アーム端部を準安定状態に保持するピン又は他の取り外し可能な構造を含み得る。或いは、準安定状態は、バルブ・アーム端部がバルブ・シートに対してチューブを圧縮することを防止する、圧縮可能チューブの両側の隙間を一時的に作ることによって、バルブ・シートの平面におけるバルブ・アームで得ることができる。この場合、一時的な隙間は、流体ラインのプライミング及びフラッシュ後に閉じられる。本発明のこれら及び他の特徴、並びに利点は、以下の詳細な説明及び図面を検討すれば、よりよく理解されるものになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】安定動作による第1の向きの二重ラッチング・カム・バルブを示す図である(先行技術)。
【
図2】安定動作による第2の向きの二重ラッチング・カム・バルブを示す図である(先行技術)。
【
図3】圧縮可能チューブ及びバルブ・アームを使用する、1つの種類の二重ラッチング・カム・バルブを示し、1つの流体経路のみが開いている安定動作を示す図である(先行技術)。
【
図4】
図3の二重ラッチング・カム・バルブの1つの実施例を示し、準安定状態のバルブ・アームが、両方の流体経路を通る流れを可能にしている状態の図である。
【
図5】準安定状態の二重ラッチング・カム・バルブの別の実施例を示し、取り外し可能なピンが、バルブをその状態に保持している状態の図である。
【
図6】準安定状態の二重ラッチング・カム・バルブの別の実施例を示し、1つのバルブが閉じることを防止する摺動可能な壁を有する図である。
【
図7】実験的な実行における、二重ラッチング・カム・バルブの開閉結果を示すグラフである。0~1分の時間では、グラフは、両方の流体経路が開いているときの準安定状態を示す。
【
図8】A)試薬投入、それに続く、通常動作のためのバルブの稼働のための準安定状態にあり、B)流体は計量チャンバに投入され、C)計量チャンバからの流体が患者に送達される、二重ラッチング・マイクロバルブの動作の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明をさらに詳細に説明する前に、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本発明は、説明される特定の実施例に限定されず、特定の実施例を説明する際に使用される用語は、それらの特定の実施例のみを説明するためのものであり、限定を意図しないことは理解されるべきである。
【0014】
発明の概要のように、最初に、二重ラッチング・バルブの安定動作が説明され(
図1~
図3)、続いて、本発明の説明である、二重ラッチング・バルブの準安定状態(
図4~
図8)が説明される。この説明の焦点は、二重ラッチング・カム・マイクロバルブの準安定状態にあるが、実施例は、他の種類の二重ラッチング・バルブを想定することができる。
【0015】
二重ラッチング・バルブは、さまざまな方法で設計することができる。
図1は、2つのフレキシブル・チューブ102、103を交互に締め付けるために働く回転半円ディスク101であるカムとして、バルブ機構を示す。カム・バルブ・ホイールは、カムに取り付けられた一端と、ベースに取り付けられた他端とを有する形状記憶合金(SMA)ワイヤ104、105の作動によって回転する。
図1は、安定動作状態のカムを示し、左側チューブ102は開いており、右側チューブ103は締め付けられて閉じられている。バルブは、いつまでもこの状態にとどまることができ、電力を必要としない。電流が右SMAワイヤ104を流れると、ワイヤは収縮し、カムは時計回りに回転する。時計回りに回転する間、カムの形状は、右チューブ103を締め付け続け、左チューブ102を締め付け始める。カムが時計回りに回転し続けると、両方の流体経路102、103が、
図2に示されるように閉じられる。時計回りの回転が完了すると、右流体経路103は開いており、左流体経路102は閉じられている。バルブは、いつまでもこの状態で安定しており、電力を必要としない。反時計回り方向のカムの回転は、組立体の摩擦によって防止される。バルブを状態1に戻すために、左SMAワイヤ105は、電気の流れによって加熱される。左SMAワイヤ105が収縮すると、左SMAワイヤ105は反時計回りにカム101を回転させて、右SMAワイヤ104を伸ばす。反時計回りの後、左流体経路102は開いており、右流体経路103は閉じられており、バルブは、
図1の元の状態に戻る。カムは、右SMAワイヤ104に電流が流されるまで、この位置で安定している。要約すると、1つのチューブのみが一度に開いており、容器と患者との間の経路が開くことを防止する。この重要な安全機能は、患者のための薬物送達装置として使用されるときに、装置が故障した場合でさえ、偶発的な過剰投与を防止する。
【0016】
前述の二重ラッチング・カム・バルブでは、チューブ接触断面は、半円ディスク101の円周上にあった。
図3に示される別の種類の二重ラッチング・カム・バルブは、カム従動バルブ・アーム302、303を移動させる、変化する半径を有するカム301を使用する。カム301は、SMAワイヤ304,307によって作動されてもよく、チューブを圧縮するために、フレキシブル・ビームに取り付けられた又は一体化されたカム・フォロアを使用してもよい。電流が右SMAワイヤ304を流れると、ワイヤは収縮し、カム301は時計回りに回転する。時計回りの回転は、右バルブ・アーム303を右の方に押し、右チューブ305を締め付けて、流体が流れることを防止する。一方、左バルブ・アーム302は、その弛緩した位置へと右に自由に移動して、左チューブ306が開くことを可能にし、流体が流れることを可能にする。
図3では、両方のバルブ・アーム302、303は、スプリング・ワイヤから作られているが、プラスチック又はその他の材料が使用され得る。ビームは、フレキシブル・チューブを圧縮するための平坦な平滑面を作成するために、プラスチック・バルブ・ヘッドで覆われる。バルブ・アームに対するチューブの向きは、バルブ・アームのヘッドが流れを止めるためにチューブを圧縮することができる限り、さまざまな向きとすることができる。
【0017】
左SMAワイヤ307に電流が流されると、左SMAワイヤ307は収縮し、カム301を反時計回りに回転させる。管305及び306が
図2の状態と同様に締め付けられて閉じられている中間位置を通過した後、カムは、左チューブ306が圧縮されて閉じられた状態になり、右チューブ305は開いている。
図3に示されるように、カム回転は、SMAワイヤによって実現することができるが、それは、この種類の作動に限定されず、モータ、歯車、磁石、又は他の方法などの、カムを回転させる任意のアクチュエータによって実現することができる。
【0018】
図4は、両方のバルブが開いた準安定状態の1つのバルブ・アームを示す本発明の1つの実施例を示す。
図4では、カム301は、その反時計回りの位置に回転し、左弾力性バルブ・アーム401はカム301上に置かれ、左弾力性バルブ・アーム401は自らの弾性力下のままであり、両側とも流れるように開いたままである。流れるように開いた両面を有することは、システムの流体ローディング及びプライミングの間、好ましい。準安定状態のままとするために、電力は必要ではない。本実施例において、右SMAワイヤ304が稼働されると、最初、カム301は時計回りに回転して、右チューブ305を圧縮し、バルブを閉じる。さらなる時計回りの回転により、左弾力性バルブ・アーム401の下からカムが移動し、自らの弾力性の下で、左弾力性バルブ・アーム401が安定動作位置に移行することが可能になる。この非限定的な実施例では、カム301の11°の時計回りの回転により、右チューブ305が締め付けられて閉じられ、14°の時計回りの回転で、弾力性バルブ・アーム401は自由になり、安定動作位置に入る。
【0019】
次いで、バルブは、通常動作状態にあり、1つのバルブのみ、流れるように開いている。その後、動作は、通常通り、単一のバルブが開くことを可能とする前に、カム・バルブ機構が両方のバルブを閉じるように進む。稼働後、弾力性バルブ・アーム401が安定位置に入るとき、バルブは、バルブの移動方向に対して垂直な外力なしに、準安定状態に入ることができない。左バルブ・アームの弾性力は、バルブ端部をバルブ・ベース402上に押し下げる。カムは、時計回りの回転時に安定動作位置に戻るために、左弾力性バルブ・アーム401に空間を提供するように形づくられることにどうか留意されたい。本実施例では、弾力性バルブ・アームのヘッドの幅は1.0mmであり、カムのノッチは1.15mmのバルブ・ヘッドを収めることができ、準安定状態が終了するときに、弾力性バルブ・アームが安定動作を開始するのに十分な空間を有すること保証する。いずれかのアームを、準安定状態のために使用することができ、実際、準安定状態は、選択されたカム及びバルブ・アーム形状に基づいて、さまざまなカム位置で選択され得る。
【0020】
非限定的な実例では、この二重ラッチング・バルブによる薬物送達装置は、組立中、準安定状態に置かれ得る。バルブは、この状態で保管され、空気又は流体が充填中に漏れることを防止する閉塞物がないので、ユーザはポッドを簡単に満たすことができる。充填後、バルブの稼働により、容器と患者との間の開いた経路を妨げる安全な状態に、ポッドを移行する。
【0021】
たとえば輸送中に、準安定状態が終了することを防止する、カム又はバルブ・アーム端部上のリップ又は溝などの、準安定状態をより保証するような
図4の図面に対する改良を行うことができる。さらに、準安定状態が終了したときの適切な配置を保証するために、カム又はバルブ・アーム端部にテーパが加えられ得る。
【0022】
他の実施例では、バルブ・アームは、バルブの平面に対して垂直に移動してもよく、カムではない、バルブの稼働時に邪魔にならないようにさらに移動する干渉機構上に置かれてもよい。この場合、干渉機構がバルブの最初の稼働により移動されると、バルブ・アームの弾性により、バルブ・アームはバルブの平面内に移動し、準安定状態を終了させる。
【0023】
別の実施例では、干渉機構は、
図5に示されるような、準安定状態を作成するのに使用され得る取り外し可能なピン又は他の閉塞物であってもよい。この図では、
図3及び
図4に示されるバルブとは対照的に、カム・ローブがバルブ・アームを開位置に押し込むようにカム501は設計されている。
図5では、左バルブ・アーム502が開位置であり、右バルブ・アーム503が安定動作の下で閉位置であるように、カムは位置付けられている。復元ばね504は通常、右チューブ505を圧縮するために、右バルブ・アーム503を押す、しかしながら、その作用は、準安定状態を維持する取り外し可能なピン506の存在によって阻止される。ピンが物理的に取り外されると、右復元ばね504は、チューブ505を圧縮するために、右バルブ・アーム503を押す。その時点以降、右SMAワイヤ507及び左SMAワイヤ508の調整された稼働により、二重ラッチング・バルブの安定動作のために、カムが回転する。右バルブ・アーム503を準安定状態に戻すことが望ましい場合、ピン506は、適切な位置に戻され得る。
【0024】
バルブ・シートが、双安定性膜、スプリング・ワイヤ、フレキシブル・ビーム上に配置される、又は、別の方法で移動可能である、別の実施態様を示すことができる。この実施例は、同様に実施する。たとえば、準安定状態では、第1のバルブ・シートは、第1のチューブから離れて設置される、そのため、第1のバルブ・アームが通常閉じられた位置にあるとき、第1のチューブはもはや締め付けられない。第1のバルブ・シートがその安定位置に入ると、二重ラッチング・バルブは、その通常動作を開始する。
【0025】
準安定状態のバルブ・シートの実施例が、
図6に示される。この実施例では、最初、二重ラッチング・バルブのセットは準安定状態にあり、カムは時計回りに閉位置に回転するが、右バルブ・アーム303による右チューブ305の締め付けを妨げる隙間601を有する。これにより、流体ネットワークのプライミングのために両方の流体経路を開くことが可能になる。プライミングの後、準安定状態は、係止スライド602に沿って隙間を閉じることによって無効となり、それにより、右チューブ305が締め付けられ、二重ラッチング・カム・バルブは安定動作になる。
【0026】
説明されたカム・バルブのいずれについても、カムを安定位置に保持する摩擦に加えて、ノッチ、ばねフィンガ、戻り止め、又は他の方法を有する機構が、カムを故意に作動させない限り、カムを特定の位置に保持するために利用できることが想定される。
【0027】
プロトタイプのカム・バルブを使用した流体流れの制御の結果が、
図7のグラフに示される。グラフは、試験の初めに両方の流体経路が開いていることを示している。試験構成は、水の入ったフラスコと、それぞれが水に浸された一端を有する2つのチューブとからなり、各チューブが、バルブの流路の1つを通過している。Sensirionフロー・センサーが各流路に取り付けられて、バルブを通る水の流れを測定するように構成されている。約55,000nL/分の測定された流量は、遮るものがない流れを示す。両方の流路が液体で満たされて、フラスコが高くされ、フラスコから、バルブの両方の経路を通し、フロー・センサーを通して、サイホンを確立する。両方の流体経路の流量データは
図7に示され、点線及び実線として表されている。二重ラッチング・バルブは、約1分間、準安定状態のままであり、両方の経路を通る流れを示す。一方のSMAワイヤの稼働により、二重ラッチング・カム・バルブを通常動作に切り替え、第1の流体通路を閉じた(破線)。約20秒後、他方のSMAワイヤが稼働され、第2の経路が閉じられて(実線)、続いて、第1の経路が開けられた(破線)。最初の準安定状態が終了した後、一方の流体経路を開けることには他方の経路を閉じることが伴うことも示されている。
【0028】
二重ラッチング・マイクロバルブを使用する流体送達装置の単純な実施例では、二重ラッチング・マイクロバルブの単一のセットは、容器から往復動容積型ポンプの計量チャンバへ、次いで、ポンプから目標用途(たとえば、患者へのインスリン)への流体の流れを制御するために使用される。これは、
図8に示されている。最初、バルブは準安定貯蔵状態
図8Aであり、注射器800は、インスリン801で容器及び流体経路をプライミングするのに使用される。これは、薬物を注射器800に装填し、次いで、インスリン801を再シール可能なセプタムを通して容器802に注入し、開かれた入口バルブ803、ポンプ計量チャンバ804、及び開かれた出口バルブ805を通すことによって、実現することができる。ユーザは、1滴のインスリン801がシステムを出たときに、システムがプライミングされたことを知る。次いで、バルブが稼働され、準安定状態を終了させ、システムは、患者に取り付けられ得る。次いで、
図8B及び
図8Cは、1つの流体経路のみが一度に開いている、二重ラッチング・バルブの通常動作を示している。
図8Bは、開かれたバルブ803を通して計量チャンバ804に流れる流体を示し、この場合、さらなる流れは、閉じられたバルブ805で止められている。次いで、二重ラッチング・バルブは、
図8Cに示される位置に切り替えられ、投与量は、計量チャンバ804から開かれたバルブ805を通って、安全に送達され、患者に送達される。
【0029】
別のポンピング・スキームでは、SFC Fluidics,Inc.のePumpなどの両側電気化学浸透圧性(electrochemiosmotic)ポンプからの連続流れを可能とするために、又は、ePumpの両側からの流体を独立して制御し、2つの薬物(たとえば、インスリン及びグルカゴン)を送達するために、2つの二重ラッチング・マイクロバルブが採用され得る。2つのセットの二重ラッチング・マイクロバルブを有するこの実施例では、両方のバルブのセットは、患者による簡単な流体プライミング(薬物装填)を可能にする準安定状態で組み立てられる。或いは、両側ePumpを使用して連続流れを可能にするために、単一のカム(又は、他のバルブ機構)が、2つの入口ポート及び2つの出口ポートを通る流体流れを制御し得る。この場合、カムの単一の回転が、2つのバルブのセットの準安定状態を終了させる。この主題のさらなる変形は、同様に複数の入口バルブ及び出口バルブを含むように広げることができる。
【0030】
本明細書の説明の多くの部分は、準安定状態を終了させて、通常バルブを動作させる作動機構として、形状記憶合金(SMA)ワイヤに言及している。カム作動は、モータ、歯車、又はリニア・アクチュエータなどの他の方法によって実現されてもよい。
【0031】
本明細書の説明の多くの部分は、2つ以上のバルブを制御するバルブ機構としてカムに言及している。2つのバルブが通常の動作位置で決して同時に開くことができないように、2つのバルブの間に必要なラッチングも作成できるさまざまな種類のバルブ機構を使用する多くの設計が存在している。
【0032】
他に特に明記していない限り、本明細書で使用される、すべての技術的及び科学的な用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。また、本明細書に述べたものと同様又は均等な任意の方法及び材料を、本発明の実施又は試験において使用することができるが、限られた数の例示的な方法及び材料が、本明細書で述べられている。さらに多くの修正が、本明細書の発明概念から逸脱せずに可能であることが、当業者には明らかであろう。
【0033】
本明細書に使用されるすべての用語は、文脈と一致してもっとも広くて可能なように解釈すべきである。本明細書で引用されるすべての参考文献は、本明細書の開示との不一致がない程度に、参照することにより本明細書に援用される。本明細書で任意の範囲が指定される場合、その意図は、範囲内のすべての部分範囲、及び、範囲内のすべての特定の点を特に開示することである。
【0034】
本発明は、単に例示的なものであり、本発明の全範囲を限定しないものであることが意図される、特定の好ましい代替的な実施例を参照して説明してきた。