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  • 特許-血液循環発生装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】血液循環発生装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/196 20210101AFI20240513BHJP
   A61M 60/268 20210101ALI20240513BHJP
   A61M 60/435 20210101ALI20240513BHJP
   A61M 60/546 20210101ALI20240513BHJP
   A61M 60/837 20210101ALI20240513BHJP
   A61M 60/894 20210101ALI20240513BHJP
【FI】
A61M60/196
A61M60/268
A61M60/435
A61M60/546
A61M60/837
A61M60/894
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021513257
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2019072277
(87)【国際公開番号】W WO2020048768
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】1857952
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】521093130
【氏名又は名称】プロコプ メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】シャバヌ,サイド
(72)【発明者】
【氏名】プリュムジョ,サミュエル
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特公平04-067990(JP,B2)
【文献】特開昭63-288162(JP,A)
【文献】特開平02-213354(JP,A)
【文献】特表平04-504673(JP,A)
【文献】米国特許第03755825(US,A)
【文献】米国特許第04381567(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/196
A61M 60/268
A61M 60/435
A61M 60/546
A61M 60/837
A61M 60/894
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物の臓器の少なくとも一部における血液循環発生装置(1)であって、第一の人工キャビティ(11)と第二の人工キャビティ(12)とを含み、前記キャビティがそれぞれ、ガスの作用によって鼓動することができる柔軟な膜(21)、(22)を含み、前記膜のそれぞれが、血液循環室(31)、(32)と前記ガスを含む室(41)、(42)とを密閉して分ける血液循環発生装置であって、該装置が、
-第一の圧力、いわゆる低圧力にほぼ至らせることを目的とした第一のガスバッファタンク(51)および、前記第一の圧力を超える第二の圧力いわゆる高圧力にほぼ至らせることを目的とした第二のガスバッファタンク(52)、
-前記第一および第二の人工キャビティの前記ガスを含む室に単一のパイプを介して結ばれ、かつ前記第一および第二のガスバッファタンクに結ばれるガス分配手段(6)であって、前記第一の人工キャビティおよび前記第二の人工キャビティの血液循環室内の予め決定される血液流量値を同期して確保するために、前記第一および第二の人工キャビティの前記ガスを含む両方の室内への同時でのガスの注入と前記第一および第二の人工キャビティの前記ガスを含む両方の室からの同時でのガスの排出とを交互に行うように案配されるガス分配手段、
-前記第一のガスバッファタンクと前記第二のガスバッファタンクとの間に取り付けられる電力供給される空圧ポンプ(7)であって、前記第一のガスバッファタンク内のガスを吸引して前記第二のガスバッファタンク内にそれを注入することを目的とした空圧ポンプ、
を含むことを特徴とする血液循環発生装置。
【請求項2】
前記第一および第二の人工キャビティと、前記第一および第二のガスバッファタンクと、前記ガス分配手段と、前記空圧ポンプとが、一体型ユニットを形成することを特徴とし、また血液循環発生装置がさらに前記ポンプ(7)と前記ガス分配手段(6)との電力供給用バッテリーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の血液循環発生装置(1)。
【請求項3】
前記ポンプ(7)がベーンポンプ(70)であることを特徴とする、請求項1または2に記載の血液循環発生装置(1)。
【請求項4】
前記ガス分配手段(6)が、少なくとも1つの圧電スイッチ、および/または少なくとも1つの形状記憶スイッチ、および/または少なくとも1つの電磁スイッチを含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載の血液循環発生装置(1)。
【請求項5】
前記ガスが空気であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一つに記載の血液循環発生装置(1)。
【請求項6】
前記ガス分配手段(6)が、4つの経路と2つのポジションとを有する分配器(60)を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一つに記載の血液循環発生装置(1)。
【請求項7】
前記分配器(60)が、弁付き分配器および/またはパイロット操作スライド弁付き分配器であることを特徴とする、請求項6に記載の血液循環発生装置(1)。
【請求項8】
血液循環発生装置が、患者の心膜腔内に植え込まれることを目的としまた前記患者の左心室および右心室の切除後にそれらに代わることができる完全人工心臓を形成し、第一および第二の人工キャビティ(11)、(12)が、二心室ユニットを形成し、第一の人工キャビティ(11)の血液循環室(31)が、前記患者の左心房と大動脈とに結ばれることを目的とし、また第二の人工キャビティ(12)の血液循環室(32)が、前記患者の右心房と肺動脈とに結ばれることを目的としていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一つに記載の血液循環発生装置(1)。
【請求項9】
血液循環発生装置が、前記臓器の体外灌流デバイスを形成し、移植のために前記臓器の生存の維持を可能にすることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一つに記載の血液循環発生装置(1)。
【請求項10】
血液循環発生装置が、ただ一つだけの空圧ポンプ(7)を含むことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一つに記載の血液循環発生装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、医療装置および医療機器の設計および製造の分野である。
【0002】
本発明はより詳細には、脊椎動物の心臓によって従来確保される血液流量を人工的に作り出すことを可能にする機器に関するものである。本発明は特に、脊椎動物の心膜腔内に植え込み可能な医療機器に関しているが、しかし他を排除するものではない。
【背景技術】
【0003】
本発明の分野において、空圧ポンプの概念を活用する機器および油圧ポンプの概念を活用する機器が知られている。
【0004】
歴史的に、最初の人工心臓は、空圧ポンプの概念を利用するものであった。これらの人工心臓は、患者の胸郭内に植え込まれるべきものであり、また空気の流れを使って人工心臓を動かすために、空気圧を発生させることができる外部機器が人工心臓に連結される。
【0005】
この科学技術において、人工心臓は、人工キャビティを含み、それらの内部には柔軟な膜が位置する。膜はその場合、キャビティの中で、血液循環室とガスを含むことを目的とした室とを密閉して分ける。押し出される圧縮空気は、外部機器を人工心臓につなぐ連結用チューブを介して、人工キャビティのそれぞれの中のガスを含むことを目的とした室に供給され、膜ポンプの原理のおかげで血液の流れを発生させる。
【0006】
このタイプの解決案は、頑丈でありかつ信頼度が高い。
【0007】
この概念はしかしながら、とりわけ重い外部機器を必要とし、また人工心臓までの体内への空気の配送管の挿入を前提とする。この人工心臓を装着した患者はしたがって、大きな自律性は得られない。
【0008】
第二のタイプの科学技術によると、油圧駆動装置を組み込む人工心臓が提案された。
【0009】
この油圧心臓は、擬人化設計を有するものであり、空圧科学技術を活用する先に記述された人工心臓と比べて高い自律性を得ることを可能にする。
【0010】
このタイプの油圧人工心臓は実際に、膜ポンプの着想を再び取り入れるものであり、拍動圧を発生させることを可能にする駆動装置を、人工心臓内に直接組み込む。
【0011】
このような人工心臓は、脊椎動物の体内に植え込まれる一時的なバッテリーを利用するものであり、また心臓に電気を供給するために体内に無理に入ることを目的とした侵略的な接続器具を前提としないバッテリー再充電用外部装置しか必要としない。
【0012】
このような装置はしかしながら、空圧科学技術を活用する心臓と比べて、頑丈さおよび信頼度がより低い。
【0013】
米国特許第4516567号明細書において記述される解決案がさらに知られており、それは、ただ一つのポンプを用いて作動する完全空圧人工心臓を開示している。該ポンプは、膜のところに空気を注入または吸引し、血液の流れを発生させる。
【0014】
このような心臓は、心臓の作動サイクルの各サブ周期の際に強く応力を受けることができる高性能のポンプを必要とするという不都合を有し、ポンプは、膜の方へ移動するまたは膜から移動する流体量を、直接、注入/吸引する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許第4516567号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はとりわけ、先行技術のこれらの不都合を解決することを目的とする。
【0017】
本発明はとりわけ、油圧心臓の概念を活用する先行技術の解決案よりも頑丈でかつより信頼度が高い血液循環発生装置を提案することを目的とする。
【0018】
本発明はまた、エネルギーをあまり消費しない、そのような血液循環発生装置を提供することも目的とする。
【0019】
本発明はまた、空圧ポンプの概念を活用する先行技術による解決案よりも嵩張らない、そのような装置を提供することも目的とする。
【0020】
本発明はより具体的には、非常に小さいので、脊椎動物の胸郭内に植え込まれることを目的とした完全人工心臓の中に容易に組み入れられることのできる、そのような解決案を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
これらの目的、ならびに後で明らかになるであろう他の目的は、脊椎動物の臓器の少なくとも一部における血液循環発生装置であって、第一の人工キャビティと第二の人工キャビティとを含み、前記キャビティがそれぞれ、ガスの作用によって鼓動することができる柔軟な膜を含み、前記膜のそれぞれが、血液循環室と前記ガスを含む室とを密閉して分ける血液循環発生装置であって、該装置が、
-第一の圧力、いわゆる低圧力にほぼ至らせることを目的とした第一のガスバッファタンクおよび、前記第一の圧力を超える第二の圧力いわゆる高圧力にほぼ至らせることを目的とした第二のガスバッファタンク、
-前記第一および第二の人工キャビティの前記ガスを含む室と前記第一および第二のバッファタンクとに結ばれるガス分配手段であって、前記第一のキャビティおよび前記第二のキャビティの血液循環室内の予め決定される血液流量値を確保するために、前記ガスを含む前記室内へのガスの注入と前記ガスを含む前記室からのガスの排出とを交互に行うように案配されるガス分配手段、
-前記第一のバッファタンクと前記第二のバッファタンクとの間に取り付けられる電力供給される空圧ポンプであって、前記第一のタンク内のガスを吸引して前記第二のタンク内にそれを注入することを目的とした空圧ポンプ、
を含むことを特徴とする血液循環発生装置を対象とする本発明のおかげで達成される。
【0022】
本発明による発生装置のおかげで、血液循環は、外部機器を使用する先行技術による空圧装置ほど装置が嵩張ることなく、人工的に生成されることができる。本発明による発生装置はまた、先行技術による空圧装置のエネルギー消費量よりもずっと少ないエネルギー消費量を呈することを可能にする。
【0023】
本発明の原理によると、空圧ポンプは実際に、第一のガスバッファタンクと第二のガスバッファタンクとの間の圧力差を維持することを唯一の役割とする。
【0024】
このポンプは、先行技術とは違って、各人工キャビティの前記ガスを含む室のところに駆動流体(ここではガス)を直接、注入および吸引することを用途としない。
【0025】
本発明によると、第一のガスバッファタンクおよび第二のガスバッファタンクが、前記ガスを含む室のところに駆動流体を供給しまたは抜き取り、柔軟な膜を鼓動させて血液循環を作り出すことを可能にする。
【0026】
したがって、第一のガスバッファタンクと第二のガスバッファタンクとの間の圧力差を発生させるためにただ一つのポンプだけを利用することは、装置が低い総エネルギー消費量、またとりわけ先行技術による空圧装置よりも低い総エネルギー消費量を呈することを可能にする。
【0027】
言葉を換えれば、第一のガスバッファタンクと第二のガスバッファタンクは、エネルギー貯蔵用の蓄えの役目を果たす。このエネルギーの分配は、前記ガスを含む室を第一のガスバッファタンクと第二のガスバッファタンクとに結ぶガス分配手段によって許可および制御される。
【0028】
好ましくは、前記第一および第二の人工キャビティと、前記第一および第二のガスバッファタンクと、前記ガス分配手段と、前記空圧ポンプとは、一体型ユニットを形成し、また血液循環発生装置はさらに、前記ポンプと前記ガス分配手段との電力供給用バッテリーを含む。
【0029】
そうすれば、本発明による発生装置は、少なくとも一時的にそれだけで十分であることができ、装置に連結された単数または複数の臓器に血液を供給するのに有利な自律性を有する。
【0030】
好ましい一特徴によると、前記ポンプは、ベーンポンプである。
【0031】
ベーンポンプは、第二のガスバッファタンク内に高圧力を、また第一のガスバッファタンク内においてより低い圧力を発生させるために利用されるものであり、本発明による発生装置が、低い総エネルギー消費量を呈することを可能にするのにとりわけ適合している。
【0032】
このベーンポンプは、心臓ポンプの運転操作によって消費される流量と内部漏れとの釣り合いをとる。
【0033】
有利な別の特徴によると、前記ガス分配手段は、少なくとも1つの圧電スイッチ、および/または少なくとも1つの形状記憶スイッチ、および/または少なくとも1つの電磁スイッチを含む。
【0034】
そのようなガス分配手段は、これらの分配手段を小型化するのにとりわけ適合した解決案を作り上げる。
【0035】
好ましくは、前記ガスは、空気である。
【0036】
そのようなガスは、費用がかかるであろうしまた手に入れるのが困難な可能性のある特定のガスの供給を必要とすることなく、装置が正常にかつ単純に作動することを可能にする。
【0037】
第一の圧力の値と第二の圧力の値とが、患者に応じて調整されることに注目する必要がある。
【0038】
バッファタンク内の圧力は、患者の要求に対応する血液流量を確保するために、心律動に応じて調節される。
【0039】
この自動制御は、装置に組み込まれるセンサ経由で電子的に行われる。
【0040】
前記ガス分配手段は有利には、4つの経路と2つのポジションとを有する分配器を含む。
【0041】
これらのガス分配手段は、人工キャビティの前記ガスを含む室との、第一のガスバッファタンクと第二のガスバッファタンクとの間のガスの交換を確保することを可能にする。
【0042】
前記分配器はこの場合好ましくは、弁付き分配器および/またはパイロット操作スライド弁付き分配器である。
【0043】
第一の好ましい解決案によると、血液循環発生装置は、患者の心膜腔内に植え込まれることを目的としまた前記患者の左心室および右心室の切除後にそれらに代わることができる完全人工心臓を形成し、第一および第二のキャビティは、二心室ユニットを形成し、第一の人工キャビティの血液循環室は、前記患者の左心房と大動脈とに結ばれることを目的とし、また第二の人工キャビティの血液循環室は、前記患者の右心房と肺動脈とに結ばれることを目的としている。
【0044】
このような完全人工心臓はその場合、先行技術による油圧駆動流体を利用する完全人工臓器の小さい寸法に、空圧インプラントの頑丈さおよび信頼性を兼ね備えることを可能にする。さらに、本発明による完全発生装置の完全人工心臓は、完全に自律的であり得、またガス分配手段と空圧ポンプとを作動させるために少ない電力供給量しか必要としないことが可能である。
【0045】
第二の好ましい解決案によると、血液循環発生装置は、前記臓器の体外灌流回路を形成し、移植のために前記臓器の生存の維持を可能にする。
【0046】
本発明による発生装置はその場合実際に、非常に低いエネルギー供給量(およそ15W~20W)しか必要としない、先行技術において知られている人工器具より嵩張らない、とりわけ小型の人工器具のおかげで、体外血液循環を確保することを可能にする。
【0047】
上に記述されてきたような血液循環発生装置は好ましくは、ただ一つだけの空圧ポンプを含む。
【0048】
本発明の他の特徴および利点は、説明に役立つ非制限例として与えられる本発明の好ましい一実施形態の後続の説明および以下のような付属の図面を読むことにより、よりはっきりと明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明による血液循環発生装置の概略図であって、該図において、前記ガスを含む室は第二のガスバッファタンク(高圧力)に結ばれており、血液循環室の体積はそのとき小さい。
図2】同じ血液循環発生装置の概略図であって、該図において、前記ガスを含む室は第一のガスバッファタンク(低圧力)に結ばれており、血液循環室の体積はそのとき大きい。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1および図2を参照して、血液循環発生装置1は、脊椎動物の臓器の少なくとも一部において血液の流れを人工的に発生させることを可能にする。装置1はより具体的には、以下のような、血液の流れの2つの循環回路において血液の流れを発生させることを可能にする:
-血液の流れの第一の循環回路C1、
-血液の流れの第二の循環回路C2。
【0051】
後で詳細に説明されるであろうように、血液循環発生装置1は、第一の好ましい解決案によると、完全人工心臓を形成することができる。この場合例えば、血液の流れの第一の循環回路C1は、脊椎動物の体に酸素を含んだ血液を供給する身体構造上の循環回路に相当し、また血液の流れの第二の循環回路C2は、血液に酸素を供給することを目的とした別の身体構造上の循環回路に相当する(この別の循環回路は、脊椎動物の肺をとりわけ組み込んでいる)。
【0052】
第二の好ましい解決案によると、血液循環発生装置1は、臓器の体外血液循環回路を形成することができる。この場合、血液の流れの第一の循環回路C1または血液の流れの第二の循環回路C2のうちの少なくとも1つはそのとき、臓器につながれて臓器に血液を供給する。
【0053】
図1および図2によって示されるように、血液循環発生装置1は、以下を含む:
-第一の人工キャビティ11、
-第二の人工キャビティ12、
-第一のガスバッファタンク51、
-第二のガスバッファタンク52、
-第一の人工キャビティ11と第二の人工キャビティ12とを、第一のガスバッファタンク51と第二のガスバッファタンク52とにつなぐガス分配手段6、
-第一のガスバッファタンク51と第二のガスバッファタンク52とにつながれる空圧ポンプ7。
【0054】
第一の人工キャビティ11および第二の人工キャビティ12はそれぞれが、ガスの作用によって鼓動させることができる柔軟な膜21、22を含む。血液循環発生装置1は実際に、空圧装置であって、血液循環の発生を可能にするための駆動流体としてガスを利用する。このガスは好ましくは空気である。
【0055】
これらの柔軟な膜21、22は、弾性を有し、またそれぞれに第一の人工キャビティ11そして第二の人工キャビティ12を、2つの室に分割する。
【0056】
より具体的には:
-第一の人工キャビティ11の柔軟な膜21は、この第一のキャビティ11の中で、血液循環室31と前記ガスを含む室41とを密閉して分ける、
-第二の人工キャビティ12の柔軟な膜22は、この第二のキャビティ12の中で、血液循環室32と前記ガスを含む室42とを密閉して分ける。
【0057】
第一の人工キャビティ11および第二の人工キャビティ12は以下もまた含む:
-血液循環室31、32の中への血液の注入弁312、321、
-血液循環室31、32からの血液の噴出弁311、322。
【0058】
これらの注入弁312、321およびこれらの噴出弁311、322は、装置における血液の循環方向を確保することを可能にする。各弁311、312、321、322のための特定のセッティングにより、人工キャビティの作動圧力を調節することが可能となる。
【0059】
先に説明されたように、柔軟な膜21、22は、ガスの作用によって鼓動することができる。
【0060】
柔軟な膜21、22はそれぞれ、鼓動することによって、血液循環室31、32の体積を変化させる。
【0061】
血液循環室31、32の体積が増えるとき、前記血液循環室31、32の中の圧力は低下し、そして噴出弁311、322の閉鎖ならびに注入弁312、321の開放を引き起こし、血液循環室31、32を血液で満たすことを可能にする。
【0062】
反対に、血液循環室31、32の体積が減るとき、前記血液循環室31、32の中の圧力は上昇し、そして注入弁312、321の閉鎖ならびに噴出弁311、322の開放を引き起こし、血液循環室の外へ血液を排出することを可能にする。
【0063】
前記ガスを含む室41、42のところでのガスの交換(注入および抽出)は、以下によって確保される:
-ガス分配手段6、
-第一のガスバッファタンク51、
-第二のガスバッファタンク52、
-空圧ポンプ7。
【0064】
第一のガスバッファタンク51は、第一の圧力、いわゆる低圧力にほぼ至らせることを目的としている。
【0065】
第二のガスバッファタンク52に関しては、第二の圧力、いわゆる高圧力にほぼ至らせることを目的としており、第二の圧力は第一の圧力を超える。
【0066】
例として、第一の圧力は1.1バールに上げられ得、また第二の圧力は1.15バールに上げられ得る。
【0067】
空圧ポンプの作動は好ましくは、圧力を上記の限度内に保つために、ガス分配手段によって定義される「心律動」に依存する。
【0068】
装置1の自動制御はこの場合、装置に組み込まれるセンサを介して電子的に行われる。
【0069】
図1および図2で示されるように、空圧ポンプ7は、第一のバッファタンク51と第二のバッファタンク52との間に取り付けられる。
【0070】
空圧ポンプ7は、第一のバッファタンク51内のガスを吸引して、第二のバッファタンク52内にそれを注入する。空圧ポンプ7はそのようにして、第一のバッファタンク51をほぼその低圧力に維持すること、また第二のバッファタンク52をほぼその高圧力に維持することを可能にする。
【0071】
この空圧ポンプ7は、作動するために、電力供給される。
【0072】
このポンプは有利には、ベーンポンプ70である。ベーンポンプは、ステータ(固定)とステータに対して接線方向に回転するロータ(可動)とで構成される、容積式移送ポンプである。ベーンは、ロータに固定されており、遠心力によってステータの内壁と接触するようになるように、ロータの回転軸に直角に、ロータハウジングで摺動することができる。ロータは、遠心力に補足して、ベーンの位置をステータの内壁と接触する位置に戻す手段を、場合によっては有することができる。
【0073】
空圧ポンプ7は、好ましくはまた図に示されているように、ただ一つである。
【0074】
ガス分配手段6は、先に説明されたように、第一の人工キャビティ11、第二の人工キャビティ12、ならびにバッファタンクにつながれる。ガス分配手段6は、より具体的には、前記ガスを含む室41、42と、第一のバッファタンク51と、第二のバッファタンク52とに連結される。
【0075】
これらのガス分配手段6は、人工キャビティの血液循環室内の予め決定される血液流量値を確保するために、前記ガスを含む室41、42内へのガスの注入と前記ガスを含む室41、42からのガスの抽出とを交互に行うように案配される。
【0076】
言葉を換えれば、ガス分配手段6(ならびにバッファタンク)は、前記ガスを含む室41、42の圧力を、柔軟な膜21、22の弾性変形のおかげでこれらの室の体積の拡大または減少を引き起こすように修正することを可能にする。
【0077】
前記ガスを含む室の体積の反復的な変化は、血液循環室31、32の体積の反復的な変化を力学的に導く。
【0078】
血液循環室31、32の体積のこの変化はまた、これらの室の中の血液の圧力の変化ともなって現れる。
【0079】
ガス分配手段6はしたがって、ガスの注入および抽出を交互に行いながら、先に記述された注入弁312、321および噴出弁311、322のおかげで血液循環室31、32内に血液を吸い上げまたこれらの血液循環室31、32から血液を排出することによって血液の流れを作り出すことを可能にする。
【0080】
ガス分配手段6は好ましくは、少なくとも1つの圧電スイッチ、および/または少なくとも1つの形状記憶スイッチ、および/または少なくとも1つの電磁スイッチを含む。
【0081】
図1および図2によって示されているように、ガス分配手段6は、4つの経路と2つのポジションとを有する分配器60を含む。分配器60は、パイロット操作スライド弁付き分配器60、あるいはまた弁付き分配器であり得る。
【0082】
図1を参照して、分配器60は実際に第一のポジションを採用しており、該ポジションにおいて、第二のバッファタンク52(高圧力)は、第一の人工キャビティ11の前記ガスを含む室41ならびに第二の人工キャビティ12の前記ガスを含む室42に通じている。第二のバッファタンク52内に位置する高圧下のガスはこの場合、前記ガスを含む室41、42内に注入される。
【0083】
分配器60が図2によって示されているようなその第二のポジションに移った後、第二のバッファタンク52は、もはや前記ガスを含む室41、42に通じていない。前記ガスを含むこれらの室41、42は実際にそのとき、第一のバッファタンク51(低圧力)およびガスに通じている。
【0084】
本実施形態によると、前記ガスを含む室41、42は、第一のバッファタンク51または第二のバッファタンク52に同時に通じている。血液循環室31、32はしたがって、同期して満たされまた血液を排出する。
【0085】
考えられる別の実施形態によると、分配器は、血液循環室31、32の血液の充填および排出を不同期にするように、かつ/または各人工キャビティの間で異なるリズムでこれらの充填または排出を行うように設定され得る。
【0086】
好ましくは、第一および第二の人工キャビティ11、12と、第一および第二のガスバッファタンク51、52と、ガス分配手段6と、空圧ポンプ7とは、一体型ユニットを形成する。
【0087】
血液循環発生装置1はまた、腹腔内に取り付けられることを目的とした、空圧ポンプ7とガス分配手段6との電力供給用バッテリーを含む。このバッテリーの再充電は、経皮的誘導によって行われる。
【0088】
先に言及されたように、血液循環発生装置1は、完全人工心臓を形成し得る。装置1はこの場合、患者の心膜腔内に植え込まれることを目的としている。装置1はその場合、患者の心室(左心室および右心室)に代わることを可能にする。第一の人工キャビティ11および第二の人工キャビティ12はこのように、二心室ユニットを形成し、第一の人工キャビティ11の血液循環室31はその場合、患者の左心房と大動脈とに結ばれ、また第二の人工キャビティ12の血液循環室32はその場合、患者の右心房と肺動脈とに結ばれる。
【0089】
完全人工心臓の作動サイクルの展開例は、以下に詳説される。
【0090】
心収縮は、血液循環回路C1、C2の方への、血液循環室(人工心室)の収容血液の噴出に相当する。
【0091】
心拡張は、血液循環回路C1、C2内の収容血液(左心房および右心房から来る血液)の、血液循環室31、32内への注入(人工心室内への血液の吸引)に相当する。
【0092】
心拡張から心収縮への移行およびその逆は、血液循環室31、32の中の圧力の段階的変化の修正(圧力の上昇および低下)となって現れ、また注入弁312、321の状態と噴出弁311、322の状態の変化となって現れる。
【0093】
心拡張から心収縮への移行の際に、噴出弁311、322(大動脈弁および肺動脈弁)は、閉じた状態から開いた状態となり、また注入弁312、321(房室弁)は、開いた状態から閉じた状態となる。
【0094】
心収縮から心拡張への移行の際に、噴出弁311、322(大動脈弁および肺動脈弁)は、開いた状態から閉じた状態となり、また注入弁312、321(房室弁)は、閉じた状態から開いた状態となる。
【0095】
心収縮の最初の状態で、前記ガスを含む室41、42はそれぞれが、およそ0.107バールの圧力を伴うおよそ5mLの体積を有し、血液循環室31、32(人工心室)は血液で満たされており、分配器60は転換されて、前記ガスを含む室41、42は、第二のバッファタンク52(高圧力)に接続されたばかりである。
【0096】
前記ガスを含む室41、42内の圧力は上昇して、弾性の膜21、22の変形を引き起こす。前記ガスを含む室内の圧力は、とりわけ0.160バールまで上昇する。
【0097】
血液循環室31、32は空になり、そして血液は、血液循環回路C1、C2(臓器および肺)の方へ送られる。
【0098】
心拡張の最初の状態で、前記ガスを含む室はそれぞれが、およそ0.160バールの圧力を伴うおよそ130mLの体積を有し、血液循環室31、32(人工心室)には血液がなく(または最も低い血液レベルであり)、分配器は転換されて、前記ガスを含む室41、42は、第一のバッファタンク51(低圧力)に接続されたばかりである。
【0099】
前記ガスを含む室41、42内の圧力は低下して(その場合0.107バールに戻りつつあり)、弾性の膜21、22の変形を引き起こし、血液循環室31、32の体積の増加を導く。
【0100】
血液循環室31、32(人工心室)は、満たされる。
【0101】
本発明による装置1は、血液循環室(人工心室)が、一定の圧力、すなわち平均して以下の圧力で満たされるように設定される:
-第一の人工キャビティ11(人工左心室)の血液循環室について0.012バール、
-第二の人工キャビティ12(人工右心室)の血液循環室について0.005バール。
【0102】
心拡張が終わると、心収縮と心拡張のサイクルはそのとき、再開することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 血液循環発生装置
6 ガス分配手段
7 空圧ポンプ
11 第一の人工キャビティ
12 第二の人工キャビティ
21、22 膜
31、32 血液循環室
41、42 ガスを含む室
51 第一のガスバッファタンク
52 第二のガスバッファタンク
60 分配器
70 ベーンポンプ
312、321 注入弁
311、322 噴出弁
C1、C2 血液循環回路
図1
図2