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特許7487195ハイドロクロロフルオロオレフィンを含む粗製ストリームからHFを中和及び除去する方法
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  • 特許-ハイドロクロロフルオロオレフィンを含む粗製ストリームからHFを中和及び除去する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】ハイドロクロロフルオロオレフィンを含む粗製ストリームからHFを中和及び除去する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/395 20060101AFI20240513BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20240513BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
C07C17/395
C07C21/18
B01D53/14 210
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021526696
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 US2019055546
(87)【国際公開番号】W WO2020101824
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】62/767,528
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アンヌ・マリー・ピガモ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイ・フィンジェレット・ミラー
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル・ダニエル・ブサレ
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・イスレ
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510817(JP,A)
【文献】特表2018-508550(JP,A)
【文献】特開2014-024821(JP,A)
【文献】国際公開第2018/134607(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の条件下で塩基にさらされたときにトリフルオロプロピン副生成物を形成する可能性のある粗製HFCOストリームから、HF、HCl又はそれらの混合物を含む酸を除去する方法であって、前記方法は、ステップb):前記粗製HFCOストリームと、10を超えるpHを有する水性塩基性ストリームとを40℃未満の温度で接触させることを含み
それにより、前記塩基は、前記と反応して塩を形成し、それにより、前記の除去前記塩の除去によって達成して、3000μmol/mol未満のトリフルオロプロピンを含む還元された酸性粗製HFCOストリームと、前記塩を含む塩基性水性微量粗製HFCOストリームを生成する、方法。
【請求項2】
さらに、ステップb)の前に行われるステップa)を含み、ステップa)は、前記粗製HFCOストリームを水ストリームと接触させ、それにより、前記水ストリームは、前記の少なくとも一部を溶解し、それにより、前記粗製HFCOストリームからの前記酸の部分的な除去達成して、水/微量粗製HFCOストリーム及び部分的に還元された酸性粗製HFCOストリームを生成し、
前記部分的に還元された酸性粗製HFCOストリーム粗製HFCOストリームとしてステップb)に供給
ステップa)洗浄温度で行、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、ステップb)の後に行われるステップc)を含み、前記ステップc)は、ステップb)から出現する塩基性水性微量粗製HFCOストリームから微量粗製HFCOを除去するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップc)は、ストリッピング剤を使用するストリッピングを含み、前記ストリッピング剤が、空気、窒素、及びスチームからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ストリッピング剤がスチームを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
さらに、ステップb)の後に行われるステップd)を含み、ステップd)は、
i)ステップb)から生じる前記塩基性水性微量粗製HFCOストリームをステップa)から生じる水性/微量粗製HFCOストリームと組み合わせて、組み合わされた水性微量粗製HFCOストリームを生成すること、及び
ii)前記組み合わされた水性微量粗製HFCOストリームから微量粗製HFCOを除去することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
ii)が、ストリッピング剤を使用するストリッピングを含み、前記ストリッピング剤が、空気、窒素、及びスチームからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ストリッピング剤がスチームを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記HFCOがモノクロロトリフルオロプロピレンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記HFCOが、1,1,1-トリフルオロ-3-クロロプロペン及び1,1,1-トリフルオロ-2-クロロプロペンからなる群から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記HFCOがトランス-1,1,1-トリフルオロ-3-クロロプロペンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記水性塩基が、水酸化カリウム水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液からなる群から選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記水性塩基が、1~25重量%の水酸化カリウムからなる水溶液である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水性塩基のpHが少なくとも13.5である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記反応温度は30℃未満である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出発物質がHFと反応するプロセスから製造されるヒドロクロロフルオロオレフィン又はヒドロクロロフルオロアルカン冷媒の精製プロセスのステップに関する。この方法でそのような化合物を製造する場合、有機物に富むプロセスストリームから少量のHF及び/又はHClを除去する必要があり、このプロセスストリームは、所望の冷媒に加えて、合成反応中の副反応として生成される少量ではあるが望ましくない量の他の有機生成物を含み得る。本発明のプロセスは、アンモニア又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩基性塩(例えば、NaOH、KOH)と、亜硫酸水素塩、亜硫酸塩又はそれらの混合物などの任意の還元剤を利用する低温反応システムを使用して、HF及びHClを除去する。所望のヒドロクロロフルオロオレフィン又はヒドロクロロフルオロアルカン生成物の損失が減少し、同時に他の望ましくない生成物、特にトリフルオロプロピン(TFP)の増加が最小限に抑えられる。本発明のプロセスはまた、冷媒及び副反応として生成される他の有機物で飽和された結果として生じる水性プロセスストリームから冷媒が除去される任意のステップを含む。
【背景技術】
【0002】
オゾン層破壊係数が低いだけでなく、地球温暖化にも影響しない、より環境に優しい形態の冷媒、伝熱流体、発泡剤、溶剤などを製造するという継続的な要求がある。これらの用途に広く使用されているクロロフルオロカーボン(CFC)とヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)はオゾン層破壊物質であり、モントリオール議定書のガイドラインに従って段階的に廃止されている。ヒドロフルオロカーボン(HFC)は、多くの用途でCFC及びHCFCの主要な代替品である。これはオゾン層に対して安全であるが、それでも一般的に高い地球温暖化ポテンシャルを持っており、そのため、それらの使用も最小限に抑える必要性が高まっている。
【0003】
オゾン層破壊物質や地球温暖化の激しい物質に取って代わることが確認されている化合物の1つのクラスは、ヒドロフルオロオレフィン(HFO)やヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)などのハロゲン化オレフィンである。HFOとHCFOは、地球温暖化ポテンシャルが低く、要望に応じてゼロ又はほぼゼロのオゾン層破壊特性を提供する。例示的なそのようなHCFOは、R1233zd-E、トランス(E)1-クロロ-3,3,3,トリフルオロプロペンである。
【0004】
R1233zd-Eを生成するための典型的なプロセスは、1,1,3,3テトラクロロプロペン(R1230za)又は1,1,1,3,3ペンタクロロプロパン(R240fa)とHFとの反応である。そのようなプロセスの例は、米国特許第9,061,958号に記載されており、すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0005】
本発明は、R1233zdだけでなく、通常の沸点が0℃を超える、好ましくは10℃を超える、最も好ましくは15℃を超える任意のHCFO又はヒドロクロロフルオロアルカンに関する。例えば、R1233zd-E、R1233zd-Z及びR1233xfなどのR1233のすべての異性体は、本明細書に開示されるプロセスに従って処理され得る。
【0006】
フッ化水素化反応は、当技術分野で知られている任意の反応器、例えば、管状反応器、プラグフロー反応器、撹拌槽型反応器、又は非撹拌槽型反応器を使用して、気相又は液相で行うことができる。反応は、均一系又は不均一系の触媒で触媒することができ、又は反応を無触媒で実施することができる。反応の生成物は、蒸留塔、又は精留塔などの部分塔のいずれかで蒸留して、軽い生成物を除去し、より重い反応物及び中間体を回収して、反応器に再循環させることができる。反応器からの軽質生成物は、有機物、HCl及びHFを含み、これらは、蒸留塔の通常の操作によって蒸留塔の塔頂に運ばれるか、又は有機HF共沸混合物の一部として塔頂に運ばれる。
【0007】
一般的に、次のステップは蒸留によるHClの除去である。微量のHClがボトムストリームに残る場合がある。HClストリームは、HClが任意選択でさらに精製され、及び/又は販売のために水で希釈され得る生成物ストリームと考えられる。
【0008】
次に、ボトムストリームはセパレーターに送られ、有機物からほとんどのHFが除去される。この分離工程は、蒸留、抽出、吸着、又は好ましくはデカンテーション(すなわち、セパレーターはデカンターであり得る)であり得る。デカンターを使用する場合、HFが多い相には20~40重量%の有機物が含まれ得る。このストリームは、任意選択で蒸留塔に送り、有機物、又は有機HF共沸混合物を除去することができる。HFは反応器に送り返され、有機物の多いストリームはデカンターに送り返される。
【0009】
セパレーターからの有機物の多いストリーム、すなわちデカンターからのボトムストリームは、いくらかのHF、典型的には0.1~6重量%のHFを含む。このストリームからHFを除去する必要がある。これは、目的の冷媒と、不要な異性体、不十分フッ素化及び過フッ素化副生成物、及び反応の結果として生成される微量のHClなどの少量の不純物との粗製混合物である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
目的の冷媒を回収して精製し、残りのHFを除去する方法はいくつかある。
【0011】
この粗製冷媒ストリームからHFを除去するために、現在のプロセスの多くは、気化したストリームを、吸収塔内の水性又は水性-塩基性ストリームに通す。通常、この処理は非常に揮発性の高い製品を使用して行われ、不要な副反応が発生しないように温度を十分に低く保つ。最初のステップは、HFの大部分を除去するために、粗製ストリームを水性吸収剤に通すことである。次に、ストリームは、塩基性ストリーム又は塩基性/還元剤ストリームを含む吸収剤を通過する。水性ストリーム中の塩基はHFと反応して塩を形成し、それが水性ストリームとともに流れて塔のテールから出る。塔のヘッドにはHFを含まない冷媒が含まれており、これは、さらに精製するために1つ又は複数の蒸留塔に送られる。ただし、粗製R1233zd-Eを処理する場合、R1233zd-E及びR1233zd-Zは、高温又は真空を使用しない限り、気相に維持できないほど揮発性が低いため、このタイプのプロセスは使用できない。さらに、R1233zd-Zを含む粗製R1233zd-Eが高温で塩基性ストリームに接触すると、望ましくない反応が発生する。高温は真空で下げることができるが、真空はコストがかかる。
【0012】
米国特許第9,221,732号は、HF及びHClを含む粗製R1233zd-Eを分離する方法を開示している。この方法は、混合相が分離するようにHClレベルを下げることを含む。上層にはほとんどのHFが含まれ、下層には主にR1233zd-Eが含まれ、HFとHClのレベルは低くなっている。HF及びHClは、ストリームを水溶液又はアルカリ性水溶液で洗浄することによって除去される。湿ったR1233zd-Eのさらなる精製についても、溶液を塩基で洗浄した結果としての望ましくない生成物を最小限に抑えるための努力についても、開示がない。
【0013】
米国特許第9,272,968号は、R1233zdと塩基性溶液との反応により形成される可能性のある有毒な可燃性物質である3,3,3-トリフルオロプロピン(TFP)の形成を抑制する方法を開示している。開示されたプロセスは、HFが2つの別々の洗浄ステップで水で除去され、次いで、得られた溶液がH2SO4吸収システムによって乾燥される方法を含む。第2の実施形態では、第2の水洗浄ステップは、弱い苛性溶液(pH7~pH10)を用いた洗浄ステップに置き換えられている。次に、得られたストリームをH2SO4で乾燥させることができる。別の実施形態では、H2SO4ではなく、水及び微量HFが固体乾燥剤で除去される。
【0014】
米国特許第9,540,296号は、R1233zdの粗製ストリームが低レベルのHFに加えてHClを含むプロセスを開示している。このストリームを水溶液又は塩基性溶液で洗浄すると、湿った蒸気が凝縮する。得られた液体混合物は、HCFO-1233zd、その他の有機物、及び水を含み、これを沈降させ、その後、より軽い水層を混合物の上部からデカントして取り除く。次に、より重いHCFO-1233zd層が、デカンターの底部から引き出されて乾燥剤(例えば、モレキュラーシーブ、活性アルミナ、シリカゲルなど)に供され、HCFO-1233zdから残留可溶性水分を約80ppm以下のレベルにさらに除去する。この開示は、望ましくない有機物又はTFPのレベルを、洗浄工程を実施する方法によって制御することができる方法を記載していない。
【0015】
米国特許出願公開第2013/0158305号は、フッ素含有化合物から水分を除去する方法を開示している。この方法は、水分で汚染されたフッ素含有化合物を金属塩を含む水溶液と接触させることを含む。開示された方法は、ヒドロフルオロオレフィンなどの様々なフッ素含有化合物から水分を連続的かつ効率的に除去することができる。この開示は、粗製冷媒ストリームから低レベルのHFを除去するための特定の方法について論じていない。
【0016】
米国特許出願公開第2017/0081265号は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)の共沸又は共沸類似組成物を使用する分離プロセスを開示している。この分離プロセスは、組成物の共沸又は共沸類似の特性を、分離技術(例えば、蒸留及びデカンテーション)の様々な組み合わせで利用して、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを精製する。
【0017】
したがって、所望のR1233zd-Eの量を減らしたり、3,3,3-トリフルオロプロピン(TFP)及び他の望ましくないものを生成したりすることなく、望ましくない有機物を含む粗製R1233zd-Eを含むプロセスストリームからHFを除去できるプロセスが必要である。さらに、排水から微量の冷媒を経済的及び生態学的に除去する必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
驚くべきことに、通常0.1~6.0重量%のHFを含むR1233zdE粗製ストリームを、50℃未満、好ましくは40℃未満、最も好ましくは20℃未満の温度で10を超えるpHの苛性ストリームと混合すると、HFとHClが塩に変換されるが、粗製R1233zd-E有機成分の組成は大きく変わらないことが分かった。次に、ストリームは、粗製R1233zd-Eを含む有機相と、HF及び未反応の塩基性種の塩を含む水相に分離される。粗製R1233zd-Eは、従来の手段、例えばモレキュラーシーブによって乾燥し、次いで蒸留することで、精製R1233zd-Eを生成するために軽質及び重質の副産物を除去することができる。
【0019】
水性ストリームは、必要に応じてストリッパーに送って、微量の粗製R1233zd-Eを除去することができる。ストリッピング剤は、スチーム、空気、窒素などであり得る。好ましくは、それはスチームである。ストリッピング塔相からの塔頂物は、2つの液相(粗製R1233zd-E相と水相)に分離される。粗製R1233zd-Eストリームは精製に送られ、精製R1233zd-Eが生成される。水相はストリッピング塔に戻されるか、廃棄物処理に送られる。このように、水性ストリームには微量の有機物しか含まれていないため、簡単に廃棄できる。
【0020】
本明細書において、実施形態は、明確で簡潔な明細書を書くことを可能にする方法で説明されるが、実施形態は、本発明から離れることなく、様々な組み合わせ又は分離が意図され、理解される。例えば、本明細書に記載のすべての好ましい特徴は、本明細書に記載の本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されよう。
【0021】
いくつかの実施形態では、本明細書の本発明は、方法の基本的かつ新規の特性に実質的に影響を及ぼさない任意の要素又はプロセスステップを除外すると解釈することができる。さらに、いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書で指定されていない任意の要素又はプロセスステップを除外すると解釈することができる。
【0022】
本発明は、特定の実施形態を参照して本明細書に例示及び説明されているが、本発明は、示されている詳細に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明から逸脱することなく、特許請求の範囲の同等物の範囲及び範囲内で詳細に様々な修正を行うことができる。
【0023】
本発明の様々な非限定的な態様は、以下のように要約することができる。
態様1:粗製HCFOストリームから酸を除去する方法であって、前記酸は、HF又はHClのうちの少なくとも1つを含み、前記方法は、ステップb):前記粗製HFCOストリームを水性塩基性ストリームと接触させることを含み、ステップb)は、反応温度で行われ、
それにより、前記塩基は、前記HF又はHClの少なくとも1つと反応して塩を形成し、それにより、前記HF又はHClの少なくとも1つの除去は前記塩の除去によって達成され、
ステップb)は、3000μmol/mol未満のトリフルオロプロピンを含む還元された酸性粗製HFCOストリームと、前記塩を含む塩基性水性微量粗製HFCOストリームを生成し、
前記反応温度が50℃未満である、方法。
態様2:さらに、ステップb)の前に行われるステップa)を含み、ステップa)は、前記粗製HFCOストリームを水ストリームと接触させるステップを含み、
それにより、前記水ストリームは、前記HF又はHClの少なくとも1つの少なくとも一部を溶解し、それにより、前記粗製HFCOストリームからのHF又はHClの少なくとも1つの部分的な除去が達成され、
ステップa)は、水性HF/HCl/微量粗製HFCOストリーム及び部分的に還元された酸性粗製HFCOストリームを生成し、
前記部分的に還元された酸性粗製HFCOストリームは、粗製HCFOストリームとしてステップb)に供給され、
ステップa)は、洗浄温度で行われる、請求項1に記載の方法。
態様3:さらに、ステップb)の後に行われるステップc)を含み、前記ステップc)は、ステップb)から出現する塩基性水性微量粗製HFCOストリームから微量粗製HFCOを除去するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
態様4:前記ステップc)は、ストリッピング剤を使用するストリッピングを含み、前記ストリッピング剤が、空気、窒素、及びスチームからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
態様5:前記ストリッピング剤がスチームを含む、請求項4に記載の方法。
態様6:さらに、ステップb)の後に行われるステップd)を含み、ステップd)は、
i)ステップb)から生じる前記塩基性水性微量粗製HFCOストリームをステップa)から生じる水性HF/HCl/微量粗製HFCOストリームと組み合わせて、組み合わされた水性微量粗製HFCOストリームを生成すること、及び
ii)前記組み合わされた水性微量粗製HFCOストリームから微量粗製HFCOを除去することを含む、請求項2に記載の方法。
態様7:ii)が、ストリッピング剤を使用するストリッピングを含み、前記ストリッピング剤が、空気、窒素、及びスチームからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
態様8:前記ストリッピング剤がスチームを含む、請求項7に記載の方法。
態様9:前記HCFOがモノクロロトリフルオロプロピレンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
態様10:前記HCFOが、1,1,1-トリフルオロ-3-クロロプロペン及び1,1,1-トリフルオロ-2-クロロプロペンからなる群から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
態様11:前記HCFOがトランス-1,1,1-トリフルオロ-3-クロロプロペンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
態様12:前記水性塩基が、水酸化カリウム水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液からなる群から選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
態様13:前記水性塩基が、1~25重量%の水酸化カリウムからなる水溶液である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
態様14:前記水性塩基のpHが少なくとも13.5である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
態様15:前記反応温度は30℃未満である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明によるプロセスの実施形態を示す。
図2図2は、本発明によるプロセスの追加のステップを示す。
図3図3は、本発明の第2の実施形態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書で説明するさまざまなストリーム又は化合物(冷媒を含む)を指すために使用される命名法は次のとおりである。
【0026】
「R1233zd-E粗製ストリーム」とは、主にR1233zd-Eを含むストリームを意味するが、完全に精製されていない名前付きや名前なしの汚染物質を含む、純粋な製品の仕様を満たしていないストリームをも意味する。「R1233zd-E粗製ストリーム」は、「R1233zd」又は「1233zd」と呼ばれることもある。これらの用語はすべて、主に目的のE異性体を含むが、不要なZ異性体や他の可能な副産物で汚染されている混合物を指す。
R1233zd-E:トランス-1,1,1-トリフルオロ-3-クロロプロペン
R1233zd-Z:シス-1,1,1-トリフルオロ-3-クロロプロペン
TFP:3,3,3-トリフルオロ-1-プロピン
R1234ze-E:トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン
R1243zf:3,3,3-トリフルオロプロペン
R245fa:1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン
R1234ze-Z:トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン
R243:トリフルオロジクロロプロパンのすべての異性体
R1223:ジクロロトリフルオロプロピレンのすべての異性体
R1230za:1,1,3,3-テトラクロロプロペン
R240fa:1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン
【0027】
本明細書に開示される実施例は、粗製R1233zd-Eの例示的な精製を記載しているが、他のハロゲン化プロペン化合物又はヒドロクロロフルオロアルカンも同様に同じ方法で処理するのに適していることを理解されたい。本発明のプロセスを使用して精製することができる化合物の非限定的な例は、以下のものである:トランス-1,1,1-トリフルオロ-3-クロロプロペンなどのモノクロロ-トリフルオロプロペン;シス-1,1,1-トリフルオロ-3-クロロプロペン;1,1,1-トリフルオロ-クロロプロペン。
【0028】
冷媒R1233zd-Eが生成される場合、考えられる1つの製造ルートは、HFとの反応によってR240fa又はR1230zaのいずれかをR1233zd-Eに変換することである。遊離したHClを除去し、得られたストリームをデカンターに送る。デカンター操作は、米国特許第8,735,636号に記載されており、その開示は、すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。デカンターからの上部のHFが多い相は、直接、又は任意選択で共沸混合物塔を介して送られ、過剰なHFをR1233zd-Eを生成する反応器に戻ってリサイクルする。デカンターからの下部の有機物が多い相は、主に粗製R1233zd-Eを含み、HFが約0.1~6.0重量%であり、さらなる精製に供される。
【0029】
上記のように、粗製R1233zd-Eを精製するには、HFと残留HClを除去する必要がある。これは、塩基と反応させることによって最良に行われ、米国特許第9,061,958号で議論されており、その開示は、すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第9,061,958号は、「水、NaOH水溶液、KOH水溶液及びそれらの混合物」によるR1233zd溶液からのHFの除去に言及している。
【0030】
1233zd-E(1.01325MPaで沸点19℃)及び任意選択で1233zd-Z(1.01325MPaで沸点38℃)などの種が気相に留まることができる条件下で塩基を使用してこの中和反応を実行する場合、R1233zdの一部が不要な種に変換される。不要な種は収量の損失であり、それらの除去にはより多くのコストが必要である。さらに、塩基との中和反応を50℃で行うと、トリフルオロプロピン(TFP)の濃度が検出可能なレベルまで上昇する。TFPの生成は、たとえ非常に低いレベルであっても、潜在的に高い毒性があり、可燃性の製品であるため、深刻な問題である。さらに、反応の他の望ましくないいくつかの副産物のレベルもこの温度で増加する。
【0031】
逆に、中和反応は、50℃未満、好ましくは45℃未満又は40℃未満又は35℃又は30℃の温度下で行うことができる。驚くべきことに、これらの低温で中和反応を行うと、TFP副生成物の量は減少したが、HF及びHClの除去は依然として効果的であった。
【0032】
以下の説明では、図1のブロック図を使用する。粗製R1233zd-Eストリームは、通常0.2~6重量%のHFと、場合によってはHClを含み、ストリーム101の精製トレインに入る。熱交換器301は、必要に応じて、蒸気から液体への、又はその逆への相変化を含む、ストリーム101の温度を制御するのに役立つ。この例では、ストリーム101は、熱交換器301を出るときに液体であると想定されているが、当業者は、ストリーム101が蒸気である可能性があることを理解できる。この代替の実施形態は、以下で扱われる。
【0033】
図1は、0.2~6重量%のHF及び/又はHClを含む粗製R1233zd-Eストリーム101を示している。ストリーム101の温度及びストリーム101内のHFの量は、前のステップに依存する。上記のように、ストリーム101の温度は-60℃~50℃の範囲であり得、ストリーム101は液体である。ストリーム101は、任意選択の水吸収塔201に運ばれ、そこで、ストリーム101からHF及びHClの>90%を除去するために、水であるストリーム104が使用される。したがって、塔201は、HF及び/又はHClの多くを除去するための液-液吸収塔として操作される。除去されたHF及び/又はHClを含む水は、ストリーム107として塔201を出る。粗製R1233zd-Eを洗浄した有機ストリームは、ストリーム105として塔201からこの水吸収ステップを出る。この時点で、ストリーム105は、依然として、少量ではあるが許容できない量のHF及び/又はHClを含む。
【0034】
次に、ストリーム105は、熱交換器302内で50℃未満、好ましくは45℃未満又は40℃未満又は35℃未満又は30℃未満の温度に冷却される。次に、熱交換器302を出て、ストリーム105は、第2の塔、反応-吸収塔202に運ばれ、そこで、水性塩基性ストリームであるストリーム106が、冷却された有機ストリーム105と接触される。苛性(塩基)ストリーム106の非限定的な例は、NaOH、KOH、又はアンモニアなどの塩基の5~10重量%の水溶液を含む。塩基性ストリーム106は、例えば、亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、及びそれらの混合物などの還元剤をさらに含み得るが、還元剤はこれらに限定されない。ストリーム106のpHは、好ましくは、少なくとも10以上、例えば、少なくとも11又は少なくとも12又は少なくとも13又は少なくとも13.5又は少なくとも14である。ストリーム106は、有利には、50℃未満又は45℃未満又は40℃未満又は35℃未満又は30℃未満である。ストリーム109は、反応-分離塔202から出てくる。これは、塩基性ストリーム106を利用して、ストリーム105からHF及び任意のHClを除去する。したがって、ストリーム109は、酸HF及びHClを本質的に含まないHCFO R1233zd-Eであり、一方、反応-分離塔202から出てくるストリーム108は、ストリーム105から除去されたHF及びHClの塩を含む水性塩基性ストリームである。
【0035】
第2の代替の実施形態では、水-吸収塔201は、図3に示されるように気-液吸収器として運転することができる。この実施形態では、熱交換器301を出るストリーム101は蒸気であり、したがって、塔201は気-液吸収器として動作する。熱交換器(HX)301から出るストリーム101は塔201の下部に供給され、水ストリーム104は塔201の上部に供給される。次に、ストリーム105は、塔201を出るときに蒸気になり、熱交換器302は、ストリーム105を50℃未満、好ましくは45℃未満又は40℃未満又は35℃未満又は30℃未満の温度に冷却する。この時点でのストリーム105には、減少してはいるが依然として許容できないレベルのHFとおそらくHClが含まれている。図1に示される第1の実施形態と同様、この第2の実施形態における反応-分離塔202の動作は、塔105から残りのHF及びHClを除去するのに役立つ。
【0036】
第1の実施形態と同様に、この第2の実施形態の水性塩基性ストリーム106は、図3に示されるように、塔202内のストリーム105と接触させられる。したがって、塩基性ストリーム106は、ストリーム105からHF及び任意のHClを除去する。したがって、塔202から出てくるストリーム109は、酸HF及びHClを本質的に含まないHCFO R1233zd-Eであり、一方、反応-分離塔202から出てくるストリーム108は、ストリーム105から除去されたHF及びHClの塩を含む水性塩基性ストリームである。
【0037】
さらに、このステップは任意であるため、水吸収塔201がない場合もあれば、1つ又は2つ以上の水吸収塔201が存在する場合もある。ストリーム105からHF又はHClを除去するために、NaOH、KOHなどの水性塩基のストリーム、又はアンモニアなどの他の塩基のストリームを、単独で、又は亜硫酸水素塩、亜硫酸塩又はそれらの混合物などの還元剤と組み合わせて利用する反応-分離塔202が少なくとも1つあり、複数あり得る。任意選択の水-吸収塔201が使用されない場合、ストリーム101は、上記のように塔202に直接供給される。ストリーム101が液体である場合、塔202の動作は図1に示され、ストリーム101が蒸気である場合、塔202の動作は図3に示される。
【0038】
TFPが形成されず、R1233zd-Eが損失されないため、有機R1233zd粗製ストリームを低温に維持され、すなわち、温度上昇が10℃以下になるように、常に熱交換器が採用されている。
【0039】
反応-分離塔202は、ランダム又は構造化されたパッキングのいずれかでトレー又は充填することができる。有機物の多い相であるストリーム109は、モレキュラーシーブ、例えばゼオライト3Aによって除去され得る少量の水を含む。モレキュラーシーブによる吸着は、液相又は気相で達成することができる。次に、この乾燥ステップ後の有機ストリーム109は、下流の処理に送られ、軽いものと重いもの(すなわち、不要な有機物)を取り除き、すべての仕様を満たす精製されたR1233zd-Eを生成する。
【0040】
塔201及び202からの水性ストリームであるストリーム107及び108は、通常、それぞれ約450~500ppmの有機物を含む。これらの有機物はHFCOを含む。これらのストリーム107及び108は、プラントの廃水浄化セクションに送ることができ、又は再循環(所望のHFCOの収量が増加することになる)のため、及びプラントの環境負荷を低減させるために除去された有機物を有することができる。
【0041】
水性ストリーム107及び108から有機物を除去するための好ましい方法は、図2に示されるストリッピング塔203を使用することである。ストリッピング剤であるストリーム114は、スチーム、空気、窒素などであり得、スチームが好ましい。得られる水性ストリームであるストリーム113は、本質的に有機物を含まず、通常な方法で処分することができる。有機物を含む塔203からの塔頂物であるストリーム112は、ストリーム112がほとんど液体であるように約10℃に冷却され、これにより、このストリームは、粗製1233zdEに存在する可能性のあるHF及び任意のHClを含まない有機物リッチストリーム110と、水性リッチストリーム111とに相分離される。水性ストリーム111は、ストリーム113として塔203の底部を出る水が本質的に有機物を含まないように、ストリッピング塔203に送り返され、還流され得る。
【実施例
【0042】
以下のすべての例は、大気圧で0.5Lの温度制御されたガラス反応器の底にガスとして粗製R1233zdを供給することによって実行された。苛性溶液は、反応器の底部からガラス充填物で満たされた塔の上部に再循環された。粗製R1233zdの蒸気は、反応器内の苛性溶液を泡立たせ、次に逆流して塔を通過した。R1233zdを含む流出ガスを塩化カルシウムで乾燥させ、スクラビングの前後にガスクロマトグラフィーで分析した。溶液中のさまざまなタイプの苛性アルカリ(すなわち、KOH又はNaOH)をさまざまな濃度で使用し、さまざまな温度を使用して、粗製R1233zdを苛性アルカリ溶液と接触させるステップ中に生成されるTFPの量に対する温度の影響を判定した。
【0043】
例1a:(比較)
この例では、50℃でpH=13.95の5重量%(0.9M)KOH溶液。R1233zdを7.5g/hrで反応器に供給し、KOH溶液を185mL/minで再循環させた。
【0044】
粗製R1233zdを50℃で5%KOH溶液に吸収すると、表1の実験結果に示すように、かなりの量のTFPが生成され得る。R1233zd-Z濃度は2.4mol%から1.5mol%に減少し、TFP濃度は0から8276μmol/molに増加した。1233zd-E異性体の量は本質的に変化しない。
【0045】
【表1】
【0046】
例1b:(発明)
実施例1bは、反応器を30℃に制御したことを除いて、実施例1a(上記)と同じである。粗製R1233zdの供給速度は6.2g/hrであり、5重量%のKOH溶液を185mL/分で再循環させた。結果を以下の表2に示す。これらの結果は、表2に示すように、30℃の低温で運転すると、反応器が50℃のときに形成された量と比較して、形成されたTFPの量が大幅に減少することを示している。
【0047】
【表2】
【0048】
スクラビングを30℃で実行すると、TFPの濃度は8276μmol/molから約2709μmol/molに大幅に減少する。
【0049】
例2a:(比較)
この例では、5重量%のNaOH、50℃でpH=14が使用されている。粗製R1233zdの供給速度は6.2g/hrであり、NaOH溶液は185mL/分で再循環させた。1233zd-Z濃度は2.5mol%から1.6mol%に減少し、TFPは0から7194ppmmolに増加した。
【0050】
したがって、粗製R1233zdを50℃で5重量%NaOH溶液で処理すると、表3に示す実験結果に示すように、望ましくない量のTFPが生成されたことは明らかである。1233zd-E異性体の量は本質的に変化しない。
【0051】
【表3】
【0052】
例2b(発明):
実施例2bは、反応器を30℃に制御したことを除いて、実施例2a(上記)と同じである。粗製R1233zdの供給速度は4.8g/hrであり、NaOH溶液は185mL/分で再循環させた。表4に示すように、この30℃の低温では、50℃のスクラビング温度で形成された量と比較して、形成されたTFPの量が大幅に減少した。
【0053】
【表4】
【0054】
スクラビングを30℃で実行すると、生成されるTFPの濃度は7194μmol/molから約2411μmol/molに大幅に減少する。
【0055】
いくつかの実施形態では、本明細書の本発明は、方法の基本的かつ新規の特性に実質的に影響を及ぼさない任意の要素又はプロセスステップを除外すると解釈することができる。さらに、いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書で指定されていない任意の要素又はプロセスステップを除外すると解釈することができる。
【0056】
本発明は、特定の実施形態を参照して本明細書に例示及び説明されているが、本発明は、示されている詳細に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明から逸脱することなく、特許請求の範囲の同等物の範囲及び範囲内で詳細に様々な修正を行うことができる。
【0057】
本明細書において、実施形態は、明確で簡潔な明細書を書くことを可能にする方法で説明されたが、実施形態は、本発明から離れることなく、様々な組み合わせ又は分離が意図され、理解される。例えば、本明細書に記載のすべての好ましい特徴は、本明細書に記載の本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されよう。
図1
図2
図3