(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】ミトコンドリアを標的化し癌幹細胞を死滅させるための三剤併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20240513BHJP
A61K 31/65 20060101ALI20240513BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20240513BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240513BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240513BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240513BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61K31/65
A61K31/375
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K47/54
A61P35/04
(21)【出願番号】P 2021534980
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(86)【国際出願番号】 US2019066541
(87)【国際公開番号】W WO2020131696
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-15
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519333480
【氏名又は名称】ルネラ・バイオテック・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】リサンティ,マイケル・ピイ
(72)【発明者】
【氏名】ソッジャ,フェデリカ
(72)【発明者】
【氏名】フィオリロ,マルコ
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/195434(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/213751(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリア生合成を阻害し、大ミトコンドリアリボソームを標的とする第1の治療薬、ミトコンドリア生合成を阻害し、小ミトコンドリアリボソームを標的とする第2の治療薬、およびミトコンドリア酸化ストレスを誘導する第3の治療薬の組合せを含む
、癌細胞の治療および根絶の一方のための組成物
であって、
前記第1の治療薬はアジスロマイシンを含み、前記第2の治療薬はドキシサイクリンを含み、前記第3の治療薬はビタミンCを含む、組成物。
【請求項2】
ミトコンドリア生合成を阻害し、大ミトコンドリアリボソームを標的とする第1の治療薬、ミトコンドリア生合成を阻害し、小ミトコンドリアリボソームを標的とする第2の治療薬、およびミトコンドリア酸化ストレスを誘導する第3の治療薬の組合せを含む、癌細胞の治療および根絶の一方のための組成物であって、
前記第1の治療薬は第1の脂肪酸と複合体を形成した
アジスロマイシンを含み、前記第2の治療薬は第2の脂肪酸と複合体を形成した
ドキシサイクリンを含み、前記第3の治療薬は、ビタミンCおよびパルミチン酸アスコルビルのうち少なくとも一方を含む
、組成物。
【請求項3】
前記第1の脂肪酸および前記第2の脂肪酸のうち少なくとも一方はミリスチン酸を含む、請求項
2に記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも1つの治療薬は脂肪酸部分との複合体を含む、請求項
2に記載の組成物。
【請求項5】
前記第2の治療薬は、
【化1】
式中、nは1~20の整数である;
および
【化2】
式中、nは1~20の整数であ
る、
のうち1つを含む、請求項
2に記載の組成物。
【請求項6】
前記第1の治療薬および前記第2の治療薬のうち少なくとも一方はTPP部分との複合体を含む、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項7】
アジスロマイシンおよびドキシサイクリンのうち少なくとも一方の濃度は抗菌性を示さないものである、請求項
1に記載の組成物。
【請求項8】
アジスロマイシンおよびドキシサイクリンの両方の濃度は抗菌性を示さないものである、請求項
1に記載の組成物。
【請求項9】
前記第3の治療薬は、血液、血清、および血漿のうち少なくとも1つにおいてピークビタミンC濃度が100μM~250μMに達するために十分な濃度で経口投与されるビタミンCを含む、請求項1
又は2に記載の組成物。
【請求項10】
前記第1の治療薬は
アジスロマイシンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記第2の治療薬は
ドキシサイクリンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記第1の治療薬はアジスロマイシンと脂肪酸の複合体である、請求項2に記載の組成物。
【請求項13】
前記第2の治療薬はドキシサイクリンと脂肪酸の複合体である、請求項2に記載の組成物。
【請求項14】
前記第1の治療薬は、
【化3】
式中、nは1~20の整数である;
および
【化4】
式中、nは1~20の整数である
、
のうち1つを含む、請求項
2に記載の組成物。
【請求項15】
前記第3の治療薬は式
【化5】
式中、nは1~20の整数である、
を有する化合物である、請求項
2に記載の組成物。
【請求項16】
前記第1の治療薬はアジスロマイシンとミリスチン酸の複合体であり、前記第2の治療薬はドキシサイクリンとミリスチン酸の複合体であり、前記第3の治療薬はビタミンC
およびパルミチン酸アスコルビ
ルのうち1つである、請求項
2に記載の組成物。
【請求項17】
前記第1の治療薬、第2の治療薬、および第3の治療薬はリポソーム薬物送達システムに封入されている、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも1つの治療薬はTPP;TPP-誘導体;2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-クロロベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPP;1-ナフチルメチル-TPP;p-キシリレンビス-TPP;2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体;2-クロロベンジル-TPPの誘導体;3-メチルベンジル-TPPの誘導体;2,4-ジクロロベンジル-TPPの誘導体;1-ナフチルメチル-TPPの誘導体;p-キシリレンビス-TPPの誘導体;グアニジニウム;グアニジニウム誘導体;キノリニウム;キノリニウムベース部分;コリンエステル;ローダミン;ローダミン誘導体;ピリジニウム;(E)-4-(1H-インドール-3-イルビニル)-N-メチルピリジニウムヨージド(F16);スルホニル尿素誘導体;ジアゾキシド;および10-N-ノニルアクリジンオレンジのうち少なくとも1つで化学的に修飾されている、請求項1
又は2に記載の組成物。
【請求項19】
癌を治療するための医薬組成物であって、ミトコンドリア生合成を阻害し、大ミトコンドリアリボソームを標的とする第1の治療薬、ミトコンドリア生合成を阻害し、小ミトコンドリアリボソームを標的とする第2の治療薬、およびミトコンドリア酸化ストレスを誘導する第3の治療薬の組合せを含
み、
前記第1の治療薬はアジスロマイシンを含み、前記第2の治療薬はドキシサイクリンを含み、前記第3の治療薬はビタミンC、およびパルミチン酸アスコルビルのうち1つを含む、医薬組成物。
【請求項20】
前記アジスロマイシンおよびドキシサイクリンのうち少なくとも1つの濃度は抗菌性を示さないものであり、前記ビタミンCおよび
パルミチン酸アスコルビルのうち少なくとも1つの濃度は、血液、血漿、および血清のうち少なくとも1つにおいてピークビタミンC濃度が100μM~250μMに達するために十分なものである、請求項
19に記載の組成物。
【請求項21】
癌を治療するための医薬組成物であって、ミトコンドリア生合成を阻害し、大ミトコンドリアリボソームを標的とする第1の治療薬、ミトコンドリア生合成を阻害し、小ミトコンドリアリボソームを標的とする第2の治療薬、およびミトコンドリア酸化ストレスを誘導する第3の治療薬の組合せを含み、
前記第1の治療薬は請求項14に記載の化合物のうち1つを含み、前記第2の治療薬はドキシサイクリンと第2の脂肪酸の複合体を含み、前記第3の治療薬はビタミンC
およびパルミチン酸アスコルビ
ルのうち少なくとも1つを含む
、組成物。
【請求項22】
前記第1の脂肪酸および前記第2の脂肪酸のうち少なくとも一方はミリスチン酸である、請求項
21に記載の組成物。
【請求項23】
腫瘍再発、
癌転移、薬剤耐性
癌、
癌悪液質、および放射線療法耐性
癌のうち少なくとも1つを予防するための医薬組成物であって、ミトコンドリア生合成を阻害し、大ミトコンドリアリボソームを標的とする第1の治療薬、ミトコンドリア生合成を阻害し、小ミトコンドリアリボソームを標的とする第2の治療薬、およびミトコンドリア酸化ストレスを誘導する第3の治療薬の組合せを含
み、
前記第1の治療薬はアジスロマイシンまたはアジスロマイシンと第1の脂肪酸の複合体を含み、前記第2の治療薬はドキシサイクリンまたはドキシサイクリンと第2の脂肪酸の複合体を含み、前記第3の治療薬はビタミンCおよびパルミチン酸アスコルビルのうち1つを含む、医薬組成物。
【請求項24】
前記第1の治療薬および前記第2の治療薬のうち少なくとも一方の濃度は抗菌性を示さないものであり、前記第3の治療薬の濃度は、血液、血漿、および血清のうち少なくとも1つにおいてピークビタミンC濃度が100μM~250μMに達するために十分なものである、請求項
23に記載の組成物。
【請求項25】
前記第1の治療薬は請求項14に記載の化合物のうち1つを含む、請求項
23に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、癌、腫瘍再発、転移、および癌細胞における薬剤耐性を治療および/または予防するための組成物および方法、とりわけ、有益な治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
研究者は新たな抗癌治療の開発に苦戦してきた。細胞成長およびDNA複製に関与する細胞機構に干渉することにより成長の速い癌細胞を選択的に検知し根絶するために、従来の癌治療(例えば、放射線照射、シクロホスファミドなどのアルキル化剤、および5-フルオロウラシルなどの代謝拮抗剤)が試みられてきた。他の癌治療は、成長の速い癌細胞上の変異型腫瘍抗原と選択的に結合する免疫療法(例えば、モノクローナル抗体)を使用してきた。残念ながら、腫瘍はこれらの療法の後にしばしば同じまたは異なる部位に再発し、全ての癌細胞が根絶されたわけではないことを示す。癌幹細胞は、特に、様々な理由で生き残り、治療の不成功をもたらす。再発は、不十分な化学療法薬の投与および/または療法に耐性のある癌クローンの出現によるものであり得る。ゆえに、従来の療法の欠点を克服する新規な癌治療戦略が必要とされる。
【0003】
突然変異分析の進展は、癌発生中に起こる遺伝子の突然変異の綿密な研究を可能とした。ゲノムランドスケープの知見があるにも関わらず、現代の腫瘍学は、癌サブタイプ間で主要なドライバー突然変異を同定することに苦慮してきた。厳しい現実は、各患者の腫瘍が独特であり、また、単一の腫瘍が複数の異なるクローン細胞を含有し得ることであると思われる。よって、必要とされるのは、異なる癌タイプ間の共通性を強調する新たなアプローチである。腫瘍細胞と正常細胞の間の代謝の違いを標的とすることが新規な癌治療戦略として期待できる。ヒト乳癌サンプルからの転写プロファイリングデータの分析は、ミトコンドリア生合成および/またはミトコンドリア翻訳に関連する95を超えるmRNA転写産物の上昇を明らかにした。Sotgia et al., Cell Cycle, 11(23):4390-4401 (2012年)(非特許文献1)。加えて、上方調節されていた95のmRNAのうち35を超えるものがミトコンドリアリボゾームタンパク質(MRP)をコードしている。同様に、ヒト乳癌幹細胞のプロテオミクス分析は、いくつかのミトリボゾームタンパク質ならびにミトコンドリア生合成に関連する他のタンパク質の有意な過剰発現を明らかにした。Lamb et al., Oncotarget, 5(22):11029-11037 (2014年)(非特許文献2)。
【0004】
ある種の静菌性抗生物質またはOXPHOS阻害剤の標的外効果を用いるミトコンドリア生合成の機能的阻害は、機能的ミトコンドリアが癌幹細胞の増殖に必要とされるというさらなる証拠を提供する。本発明者らは最近、ミトコンドリア蛍光色素(MitoTracker)がヘテロな生細胞集団から癌幹様細胞の濃縮および精製に有効に使用可能であったことを示した。Farnie et al., Oncotarget, 6:30272-30486 (2015年)(非特許文献3)。最も高いミトコンドリア質量を有する癌細胞は、転移能に通常関連する特徴である足場非依存性成長を受ける最も強い機能的能力を有していた。「ミトハイ(Mito-high)」細胞亜集団はまた、前臨床モデルを用いて示されるように、in vivoにおいて最も高い腫瘍誘発活性を有していた。本発明者らはまた、数種類の非毒性抗生物質が癌幹細胞(CSC)の増殖を停止させるために使用可能であったことを実証した。Lamb et al., Oncotarget, 6:4569-4584 (2015年)(非特許文献4)。好気性細菌とミトコンドリアの間で保存されている進化的類似性のために、ある種の抗生物質または抗生物活性を有する化合物は、標的外副作用としてミトコンドリアタンパク質の翻訳を阻害し得る。現代医学は一般に、抗ミトコンドリア副作用を望ましくないと見て、しばしばこのような標的外結果は、異なる薬物の使用に至る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際特許出願PCT/US2018/033466
【文献】国際特許出願PCT/US2018/062174
【文献】国際特許出願PCT/US2018/062956
【文献】米国仮特許出願第62/686,881号
【文献】米国仮特許出願第62/731,561号
【文献】米国特許第4,761,288号
【文献】国際特許出願PCT/NV98/00172
【文献】国際特許出願公開WO99/26582
【文献】国際特許出願PCT/US2010/031455
【文献】国際特許出願公開WO2010/141177
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sotgia et al., Cell Cycle, 11(23):4390-4401 (2012年)
【文献】Lamb et al., Oncotarget, 5(22):11029-11037 (2014年)
【文献】Farnie et al., Oncotarget, 6:30272-30486 (2015年)
【文献】Lamb et al., Oncotarget, 6:4569-4584 (2015年)
【文献】Barden, Timothy C. et al. “Glycylcyclines”. 3. 9-Aminodoxycyclinecarboxamides. J.Med.Chem. 1994, 37, 3205-3211
【文献】Vujasinovic, Ines et al. Novel tandem Reaction for the Synthesis of N’-Substituted 2-Imino-1,3-oxazolidines from Vicinal (sec-or tert-)Amino Alcohol of Desosamine. Eur. J. Org.Chem. 2011, 2507-2518
【発明の概要】
【0007】
以上の背景を鑑みて、本アプローチの目的は、ミトコンドリア酸化ストレス誘導中にミトコンドリア生合成を阻害することによりCSCを根絶するための組成物および方法を提供することである。本アプローチの実施形態は、以下に記載するように、CSCにおけるミトコンドリアの崩壊を誘導する。本アプローチのいくつかの実施形態によれば、大ミトコンドリアリボソームを阻害する第1の抗生物質、および小ミトコンドリアリボソームを阻害する第2の抗生物質は、酸化促進剤またはミトコンドリア酸化ストレスを誘導する薬剤とともに投与され得る。いくつかの実施形態では、1以上のFDA承認抗生物質は、1以上の一般的な栄養補助食品に関連して使用され得る。酸化促進剤は、いくつかの実施形態では、酸化促進効果を有する治療薬であり得る。例えば、酸化促進剤は、治療薬を還元剤として作用させる濃度では治療薬となり得る。いくつかの実施形態では、1以上の治療薬は、標的化シグナルと複合体を形成させ得る。本アプローチの実施形態は、癌、腫瘍再発、転移、化学療法または薬剤耐性、放射線療法耐性、および癌またはその他の原因による悪液質の治療および/または予防のうち1以上、とりわけ、有益な療法のために使用され得る。
【0008】
例証となる実施形態において、ドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびビタミンCの組合せは、ミトコンドリアを効果的に標的とし、CSC増殖を強力に阻害する。癌幹細胞は、少なくとも一部には、癌幹細胞におけるミトコンドリアの量の増加によって正常細胞よりも代謝的に活動亢進状態にあり、従って、このアプローチはCSC集団を選択的に標的とする。アジスロマイシンは、標的外副作用として大ミトコンドリアリボソームを阻害する。加えて、ドキシサイクリンは、標的外副作用として小ミトコンドリアリボソームを阻害する。ビタミンCは弱い酸化促進剤として働き、フリーラジカルを生成することができ、結果として、ミトコンドリア生合成を誘導する。注目すべきは、本アプローチの一実施形態によるドキシサイクリン(1μM)、アジスロマイシン(1μM)およびビタミンC(250μM)の組合せによる治療は、モデル系としてMCF7 ER(+)乳癌細胞株を用い、CSC増殖を約90%と、極めて強力に阻害した。ミトコンドリア酸素消費およびATP生産に対するこの三剤併用療法の強力な阻害効果は、代謝フラックス分析を用いて直接バリデートされた。従って、ミトコンドリア生合成の阻害を伴う軽度のミトコンドリア酸化ストレスの誘導は、有効な治療的抗癌戦略となる。これらの主張と一致して、ビタミンCは、ナトリウム依存性様式で特定の輸送体、すなわち、SCVCT2により、ミトコンドリア内に高度に濃縮されることが知られている。
【0009】
本アプローチの一実施形態による組成物は、予備試験でMCF7 ER(+)細胞株においてCSC増殖を約90%阻害し、ミトコンドリア酸素消費およびATP生産の確実な低下を伴っていた。さらに、いくつかの実施形態は、抗菌性を示さない抗生物質濃度を使用してもよく、それにより、抗生物質耐性の懸念を最小化または回避し、それは医学界にとって大きな利益である。
【0010】
本アプローチは、いくつかの実施形態では、(i)エリスロマイシン系メンバー、(ii)テトラサイクリン系メンバー、および(iii)酸化促進剤を備えた組成物の形態を採り得る。以下に述べられる実施形態のいくつかにおいて、組成物は、治療薬としてアジスロマイシン、ドキシサイクリン、およびビタミンCを含んだ。アジスロマイシンは広く使用されている抗生物質であり、大ミトコンドリアリボソームを阻害するという多くの場合望まれない副作用を有する。ドキシサイクリンは、小ミトコンドリアリボソームを阻害し、これもまた望まれない副作用である。これらの標的外効果はしばしば、医師に種々の適応のために他の薬物を選択させる。しかしながら、本アプローチは、CSCを選択的に標的化および根絶するために、このような標的外ミトコンドリア阻害効果を有利に利用する。ビタミンCは、特定の状況で軽度の酸化促進剤として作用し、酸化促進剤は、フリーラジカルおよび反応性酸素種の生成によってCSCにおいてミトコンドリア酸化ストレスを誘導する。(他のアスコルビン酸誘導体は、特に低濃度では類似の酸化促進効果を有し得ることに留意されたい。)CSCは、ミトコンドリア生合成によってミトコンドリア酸化ストレスに応答する。しかしながら、アジスロマイシンおよびドキシサイクリンなどのミトコンドリア生合成阻害剤の存在下では、CSCは、誘導されたミトコンドリア酸化ストレスに適応できず、生き残ることができない。本アプローチは、正常な健康細胞に対して、あるとしても小さな影響で、選択的にCSCを標的化する。
【0011】
ある実施形態例において、ドキシサイクリン(1μM)、アジスロマイシン(1μM)、およびビタミンC(250μM)の組合せによる治療は、MCF7 ER(+)乳癌細胞におけるCSC増殖を約90%阻害した。ミトコンドリア酸素消費およびATP生産に対するこの三剤併用療法の強力な阻害効果は、代謝フラックス分析を用いて直接バリデートされた。本明細書に記載されるように、ミトコンドリア生合成の阻害と組み合わせた軽度なミトコンドリア酸化ストレスの誘導は、有力な抗癌療法に当たる。また、本明細書に述べられる例において使用される抗菌性を示さない抗生物質濃度は、抗生物質耐性の発生に関連する懸念が生じることが、あるとしても少ないと思われる。よって、いくつかの実施形態において、大ミトコンドリアリボソームを阻害する第1の抗生物質、および/または小ミトコンドリアリボソームを阻害する第2の抗生物質は、抗菌性を示さない濃度で投与され得る。例えば、ドキシサイクリンの一般的な抗菌性を示さない用量は20mgであり、これは本アプローチのいくつかの実施形態において好適なものであり得る。別の例としては、血液、血清、および血漿のうち少なくとも1つにおいて約1μMというピークドキシサイクリン濃度を生じるために十分なドキシサイクリンの量が、いくつかの実施形態において十分なものであり得る。別の例として、アジスロマイシンの一般的な経口で抗菌性を示さない用量は250mgであり、これは本アプローチのいくつかの実施形態において好適なものであり得る。さらに別の例として、血液、血清、および血漿のうち少なくとも1つにおいて約1μMというピークアジスロマイシン濃度を生じるために十分なアジスロマイシンの量は、いくつかの実施形態において十分なものであり得る。当然のことながら、最適化には特定の実施形態ごとにさらなる微調整を必要とする場合があるが、このような微調整は当業者の水準の範囲内にある。
【0012】
FDA承認を受けている抗生物質、および特に、ドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系メンバー、およびアジスロマイシンなどのエリスロマイシン系メンバーは、ミトコンドリア生合成を阻害する標的外効果を有する。このような抗ミトコンドリア特性などのしばしば懸念される副作用は、当技術分野において望ましくないと見られ、現代医学において特定の薬物の使用を避ける根拠となり得る。それに関わらず、これらの化合物はCSCの根絶に関して有効性を持つ。しかしながら、抗ミトコンドリア特性を有する抗生物質を単独で使用する場合には、全てのCSCの根絶を保証できるわけではない。大ミトコンドリアリボソームを標的とする1以上の治療薬と小ミトコンドリアリボソームを標的とする1以上の治療薬の組合せは、本明細書で実証されるように、より有効である。しかしながら、ミトコンドリア生合成阻害剤への曝露の後に生き残っているCSC亜集団において酸化的代謝から解糖代謝への代謝の移行が起こり、代謝の柔軟性がなくなることがある。他方、酸化促進化合物は、CSCをミトコンドリア生合成へと移行するミトコンドリア酸化ストレスを誘導する。ミトコンドリア生合成を阻害しつつミトコンドリア酸化ストレスを誘導する二重のアプローチはCSCを選択的生存機構が無い状態にする。結果として、大ミトコンドリアリボソームを標的とする治療薬と、小ミトコンドリアリボソームを標的とする治療薬、および酸化促進剤との三剤組合せは、極めて有力な抗癌戦略を可能とする。いくつかの好ましい実施形態において、この三剤組合せは、大ミトコンドリアリボソームを阻害する第1の抗生物質、および小ミトコンドリアリボソームを阻害する第2の抗生物質、および酸化促進剤を含む。いくつかの好ましい実施形態において、三剤組合せは、テトラサイクリン系からの少なくとも1つの抗生物質、エリスロマイシン系からの少なくとも1つの抗生物質、およびビタミンCを含む。有利には、本アプローチのいくつかの実施形態は、抗菌性を示さない用量の抗生物質濃度を要する。例えば、ドキシサイクリンおよびアジスロマイシンは、ドキシサイクリンが経口で20mg、およびアジスロマイシンが経口で250mgなど、所与の剤形に関して当技術分野で公知のような抗菌性を示さない用量で投与され得る。別の例として、血液、血清、および血漿のうち少なくとも1つにおいて、いくつかの実施形態では約0.05μM~約5μM、およびいくつかの実施形態では0.5μM~約2.5μM、およびいくつかの実施形態では約1μMのピークドキシサイクリン濃度を生じるために十分なドキシサイクリンおよびアジスロマイシンが投与され得る。種々の実施形態に関して好適な投与のさらなる評価が進行中であり、当然のことながら、他の量および濃度も本アプローチから逸脱することなく使用され得る。
【0013】
本明細書には、他の多くの有益な治療的使用の中でも癌を治療するための化合物および方法の例が記載される。本アプローチは抗癌治療として使用され得、化学療法および/または放射線療法などの他の抗癌治療と併用可能である。例えば、本アプローチは、外科的な腫瘍摘出の前、最中、および/またはその後に、転移の予防またはその可能性の低減のために使用され得る。別の例として、本アプローチは、化学療法の前、最中、またはその後に、成功の可能性を引き上げるために使用され得る。別の例として、本アプローチは、再発および/または転移の予防および/またはその可能性の低減のために定期的に(例えば、毎年)使用され得る。多くの現代医学とは異なり、本アプローチの実施形態は (Unlike many modern Embodiments of the present approach)、癌幹細胞を標的とし、それにより、腫瘍再発、転移、薬剤耐性、および/または放射線療法耐性の可能性に直接取り組むために使用され得る。例えば、標的癌細胞表現型は、CSC、活動的癌幹細胞(eCSC)、循環腫瘍細胞(CTC)、および治療耐性癌細胞(TRCC)のうち少なくとも1つであり得る。
【0014】
さらに、抗生物質の抗ミトコンドリア特性は、抗生物質を1以上の膜標的化シグナルおよび/またはミトコンドリア標的化シグナルで化学的に修飾することによって増強され得る。例えば、脂肪酸標的化シグナルが抗生物質との複合体とされ、本アプローチ下で有効性が改善された化合物が得られる。治療薬は、TPP部分などの親油性陽イオンとの複合体としてもよく、ミトコンドリア取り込みおよびCSC阻害活性が改善されている。例えば、ドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体の実施形態は、ドキシサイクリンよりも良好なCSC阻害特性および低い毒性を示す。同様の結果が脂肪酸と複合体を形成した他のテトラサイクリンおよびエリスロマイシン系メンバーでも、また、TPPと複合体を形成したものでも見られた。例証となる例を以下に述べる。さらなる例としては、2018年5月18日出願の国際特許出願PCT/US2018/033466(特許文献1)、2018年11月21日出願の国際特許出願PCT/US2018/062174(特許文献2)、および2019年11月29日出願の国際特許出願PCT/US2018/062956(特許文献3)に開示されているアプローチを参照。これらはそれぞれその全内容が本明細書の一部として援用される。治療薬に1以上の標的化シグナルを付加すると、場合によっては、標的オルガネラでその薬剤の有効性が100倍を超えるまでに有意に増強し得る。よって、本アプローチのいくつかの実施形態は、標的化シグナルで化学的に修飾された1以上の治療薬を含み得る。このような修飾はより低い濃度または用量を可能とする場合があり、これは本アプローチのもう1つの有利な利点である。
【0015】
膜標的化シグナルの例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、短鎖脂肪酸(すなわち、化学構造中に5個以下の炭素原子を有する)、中鎖脂肪酸(化学構造中に6~12個の炭素原子を有する)、およびその他の長鎖脂肪酸(すなわち、化学構造中に13~21個の炭素原子を有する)などの脂肪酸が含まれる。この開示は、塩またはエステル形態(例えば、ミリスチン酸、ミリスタート、テトラデカノアート)としてのこれらの標的化シグナルを互換的に指し得、および当然のことながら、脂肪酸のカルボアシルはアミド結合によって治療薬に付着させ得る。例えば、本アプローチに従って治療薬を形成するために、ミリストイル化タンパク質の形成に関して当技術分野で公知のミリストイル化プロセスが使用され得る。ミトコンドリア標的化シグナルの例としては、トリ-フェニル-ホスホニウム(TPP)、TPP-誘導体、グアニジニウム、グアニジニウム誘導体、および10-N-ノニルアクリジンオレンジなどの親油性陽イオンが含まれる。ミトコンドリア標的化シグナルを治療薬に連結するために、炭素スペーサーアームおよび/または架橋基が使用され得る。当然のことながら、これらの例は網羅的であることを意図するものではない。
【0016】
本開示は、1以上の医薬組成物の形態を採り得る。組成物は、癌、癌細胞における薬剤耐性、癌細胞における化学療法耐性、腫瘍再発、転移、および放射線療法耐性のうち1以上を治療および/または予防するためのものであり得る。本アプローチの実施形態は、癌の治療、癌の予防、癌における薬剤耐性または治療耐性の克服、ならびに腫瘍再発および/または転移の予防および/またはその可能性の低減のうち1以上のための医薬組成物の製造のために使用され得る。いくつかの実施形態は、抗ウイルス活性、抗菌活性、抗微生物活性、光増感活性、および放射線増感活性のうち1以上を有し得る。いくつかの実施形態は、癌細胞を化学療法薬に対して増感させ得る、癌細胞を天然物質に対して増感させ得る、および/または癌細胞をカロリー制限に対して増感させ得る。
【0017】
本アプローチはまた、加齢の影響を治療および/または軽減するために使用され得る。実施形態は、一例として、健康寿命および寿命を改善するために使用され得る。アジスロマイシンは、老化した線維芽細胞を選択的に死滅させ除去する、老化細胞除去薬として挙動する抗加齢薬である。いくつかの実施形態は、正常な健康細胞よりも老化細胞を有利に標的化し死滅させるために使用され得る。いくつかの実施形態では、この組成物は、老化関連分泌表現型の獲得を妨げる。いくつかの実施形態では、この組成物は、組織修復および再生を促進する。いくつかの実施形態では、この組成物は生物の寿命および健康寿命のうち少なくとも1つを延長する。
【0018】
いくつかの実施形態では、本開示は、必要とする患者に薬学上有効な量の1以上の医薬組成物および薬学上許容される担体を投与することを含む治療方法に関する。いくつかの実施形態では、第3の薬剤は、反応性酸素種の生成および/またはミトコンドリア酸化ストレスを駆動する化学療法薬または放射線療法に置き換えてもよい。このような実施形態において、例えば、ミトコンドリア阻害剤は、ミトコンドリア生合成を阻害しCSC増殖を妨げる能力によって腫瘍再発、転移および治療の不奏効の発生率を低減するために、化学療法または放射線治療と併用可能である。いくつかの実施形態では、例えば、大ミトコンドリアリボソームを阻害する第1の抗生物質と小ミトコンドリアリボソームを阻害する第2の抗生物質の組合せは、再発および/または転移を低減または予防するために従来の化学療法とともに投与してもよい。さらなる例として、本アプローチは、CSCの全集団を根絶し、それにより、元のCSC集団からの転移および再発の可能性をなくすために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】
図1Aは、ドキシサイクリンおよびアジスロマイシンの種々の濃度および組合せの腫瘍様塊形成データをまとめたものである。
【
図1B】
図1Bは、ドキシサイクリンおよびアジスロマイシンの種々の濃度および組合せの腫瘍様塊形成データをまとめたものである。
【
図1C】
図1Cは、ドキシサイクリンおよびアジスロマイシンの種々の濃度および組合せの腫瘍様塊形成データをまとめたものである。
【
図2A】
図2Aは、1μM濃度のドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せで前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータをまとめたものである。
【
図2B】
図2Bは、1μM濃度のドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せで前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータをまとめたものである。
【
図2C】
図2Cは、1μM濃度のドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せで前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータをまとめたものである。
【
図2D】
図2Dは、1μM濃度のドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せで前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータをまとめたものである。
【
図3A】
図3Aは、1μM濃度のドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せで前処理したMCF7細胞に関する、それぞれ細胞外酸性化速度(ECAR)、解糖、解糖予備、および解糖予備能データをまとめたものである。
【
図3B】
図3Bは、1μM濃度のドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せで前処理したMCF7細胞に関する、それぞれ細胞外酸性化速度(ECAR)、解糖、解糖予備、および解糖予備能データをまとめたものである。
【
図3C】
図3Cは、1μM濃度のドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せで前処理したMCF7細胞に関する、それぞれ細胞外酸性化速度(ECAR)、解糖、解糖予備、および解糖予備能データをまとめたものである。
【
図3D】
図3Dは、1μM濃度のドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せで前処理したMCF7細胞に関する、それぞれ細胞外酸性化速度(ECAR)、解糖、解糖予備、および解糖予備能データをまとめたものである。
【
図4A】
図4Aは、1μMドキシサイクリンと1μMアジスロマイシンの組合せのECARデータを対照と比較したものである。
【
図4B】
図4Bは、前記組合せのOCRおよびECAR速度を対照と比較したものである。
【
図5】
図5は、ドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せで処理した正常細胞の毒性データをまとめたものである。
【
図6A】
図6Aは、本アプローチの種々の実施形態による同時治療後の腫瘍様塊形成をまとめたものである。
【
図6B】
図6Bは、本アプローチの種々の実施形態による同時治療後の腫瘍様塊形成をまとめたものである。
【
図7A】
図7Aは、本アプローチの実施形態による酸化ミトコンドリア代謝(
図7A)の阻害を示すSeahorseプロファイルである。
【
図7B】
図7Bは、本アプローチの実施形態による解糖機能(
図7B)の阻害を示すSeahorseプロファイルである。
【
図8A】
図8Aは、本アプローチの一実施形態に従って前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図8B】
図8Bは、本アプローチの一実施形態に従って前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図8C】
図8Cは、本アプローチの一実施形態に従って前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図8D】
図8Dは、本アプローチの一実施形態に従って前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図8E】
図8Eは、本アプローチの一実施形態に従って前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図8F】
図8Fは、本アプローチの一実施形態に従って前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図9A】
図9Aは、250μMのビタミンC単独で処理したMCF7細胞のSeahorseプロファイル(それぞれOCRデータおよびECARデータ)を対照と比較したものをまとめたものである。
【
図9B】
図9Bは、250μMのビタミンC単独で処理したMCF7細胞のSeahorseプロファイル(それぞれOCRデータおよびECARデータ)を対照と比較したものをまとめたものである。
【
図10A】
図10Aは、250μMのビタミンCで3日間前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図10B】
図10Bは、250μMのビタミンCで3日間前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図10C】
図10Cは、250μMのビタミンCで3日間前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図10D】
図10Dは、250μMのビタミンCで3日間前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図10E】
図10Eは、250μMのビタミンCで3日間前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図10F】
図10Fは、250μMのビタミンCで3日間前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。
【
図11A】
図11Aは、低用量ビタミンCおよび本アプローチの実施形態による治療薬の三剤組合せのSeahorseプロファイル(それぞれOCRデータおよびECARデータ)を示す。
【
図11B】
図11Bは、低用量ビタミンCおよび本アプローチの実施形態による治療薬の三剤組合せのSeahorseプロファイル(それぞれOCRデータおよびECARデータ)を示す。
【
図12A】
図12Aは、低用量ビタミンCと本アプローチによる三剤組合せの実施形態を比較した代謝プロファイルデータを並べて示す。
【
図12B】
図12Bは、低用量ビタミンCと本アプローチによる三剤組合せの実施形態を比較した代謝プロファイルデータを並べて示す。
【
図12C】
図12Cは、低用量ビタミンCと本アプローチによる三剤組合せの実施形態を比較した代謝プロファイルデータを並べて示す。
【
図12D】
図12Dは、低用量ビタミンCと本アプローチによる三剤組合せの実施形態を比較した代謝プロファイルデータを並べて示す。
【
図12E】
図12Eは、低用量ビタミンCと本アプローチによる三剤組合せの実施形態を比較した代謝プロファイルデータを並べて示す。
【
図12F】
図12Fは、低用量ビタミンCと本アプローチによる三剤組合せの実施形態を比較した代謝プロファイルデータを並べて示す。
【
図13】
図13は、本アプローチの実施形態による治療機序を示す。
【
図14】
図14は、ドキシサイクリンおよびドキシサイクリン-脂肪酸複合体に関して、MCF7細胞に対する腫瘍様塊アッセイから得られた結果を比較した棒グラフである。
【
図15】
図15は、ドキシサイクリンおよびドキシサイクリン-脂肪酸複合体に関して、ある濃度範囲にわたる腫瘍様塊アッセイ結果を示す線グラフである。
【
図16A】
図16Aは、治療薬と標的化シグナルの複合体の細胞保持を非複合体治療薬と比較した画像である。
【
図16B】
図16Bは、治療薬と標的化シグナルの複合体の細胞保持を非複合体治療薬と比較した画像である。
【
図16C】
図16Cは、治療薬と標的化シグナルの複合体の細胞保持を非複合体治療薬と比較した画像である。
【
図17A】
図17Aは、MCF7およびBJ細胞それぞれにおいて、治療薬と標的化シグナルの複合体の細胞生存率データを非複合体治療薬と比較したものである。
【
図17B】
図17Bは、MCF7およびBJ細胞それぞれにおいて、治療薬と標的化シグナルの複合体の細胞生存率データを非複合体治療薬と比較したものである。
【
図18】
図18は、本アプローチの実施形態による抗加齢キットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の説明は、本アプローチの実施を可能とするために本アプローチの実施形態を十分詳細に示す。本アプローチをこれらの特定の実施形態に関して説明するが、当然のことながら、本アプローチは種々の形態で具現化することができ、この説明は、添付のいずれの特許請求の範囲も本明細書に示される特定の実施形態に限定すると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が綿密かつ完全なものとなり、本アプローチの範囲を当業者に十分に伝えるために示される。
【0021】
本明細書では、当業者に理解されるはずの種々の用語を使用する。疑念を避けるために以下の明確化を行う。本明細書で使用する場合、誘導体という用語は、参照される化学部分から誘導または合成された化学部分である。本明細書で使用する場合、複合体は、2つ以上の化学化合物の連結によって形成される化合物である。例えば、ドキシサイクリンと脂肪酸の複合体は、ドキシサイクリン部分と脂肪酸から誘導された部分を有する化合物を生じる。本明細書で使用する場合、脂肪酸は、飽和または不飽和の、脂肪鎖を有するカルボン酸である。脂肪酸の例としては、短鎖脂肪酸(すなわち、化学構造中に5個以下の炭素原子を有する)、中鎖脂肪酸(化学構造中に6~12個の炭素原子を有する)、およびその他の長鎖脂肪酸(すなわち、化学構造中に13~21個の炭素原子を有する)が含まれる。飽和脂肪酸の例としては、ラウリン酸(CH3(CH2)10COOH)、パルミチン酸(CH3(CH2)14COOH)、ステアリン酸(CH3(CH2)16COOH)、およびミリスチン酸(CH3(CH2)12COOH)が含まれる。オレイン酸(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH)は、天然不飽和脂肪酸の一例である。また、脂肪酸の塩またはエステル、ならびにその脂肪アミド部分も挙げられる。例えば、ミリスチン酸は、ミリスタートと呼ばれることがあり、オレイン酸はオレアートと呼ばれることがある。脂肪酸部分はまた脂肪酸のカルボアシル、すなわち、カルボン酸の水酸基の損失によって生じる基であり得る。いくつかの実施形態では、脂肪酸部分は、アミド結合により治療薬に結合させることができる。一例として、ミリスチン酸複合体は脂肪酸部分CH3(CH2)12CO-NH-を有してよく、ここで、第三級窒素が治療薬:
【0022】
【0023】
に結合され、nは1~20の整数であり、好ましくは、10~20である。これはミリスチン酸部分がミリストイル化によって複合体を形成してテトラデカンアミド(またはミリスタミド)基となる場合に生じ得る。
【0024】
化学分野においては、多くの化学スペーサーアームおよび架橋基が知られ、利用可能である。本明細書で使用する場合、「スペーサーアーム」は、治療薬と架橋基および標的化シグナル部分の一方を接続する直鎖、分岐鎖、および/または環状部分を指す。当技術分野で公知の多くのスペーサーアームが存在し、本開示におけるこの用語の使用は好ましくは、そうではないことが明示されない限り、フレキシブルである。スペーサーアームとしては、置換または非置換C1-C20アルキルおよびアルケニルを含み得る。例証となるスペーサーアームとしては、-(CH2)m-、-(CH2)m-O-(CH2)m-、-(CH2)m-(NRaRb)-(CH2)m-、およびそれらの組合せからなる群から選択される部分が含まれる。所与のスペーサーアームのRaおよびRbは、独立に、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、複素環、ヘテロアリール、もしくはそれらの組合せ;または窒素保護基であり得る。いくつかの実施形態では、RaおよびRbのうち少なくとも1つは存在しなくてもよい。いくつかの変形において、スペーサーアームは、(-(CH2)2-O)m-(CH2)2-などの部分を含み得る。所与のスペーサーアームにおける下付き文字「m」は、1~20の正の整数である。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「架橋基」は、治療薬、スペーサーアーム、および標的化シグナル部分を含む別の部分上の官能基と共有結合的に反応し得る(または反応した)官能基を含む部分を指す。架橋基の例としては、置換または非置換C1-C4アルケン、-O-、-NRc-、-OC(O)-、-S-、-S(O)2-、-S(O)-、-C(O)NRc-、および-S(0)2NRc-が含まれ、ここで、cは1~3の整数である。
【0026】
ミトコンドリアは、癌から細菌および真菌感染、加齢に及ぶ多くの苦悩を治療するための未開発の領域である。癌幹細胞の増殖には機能的ミトコンドリアが必要とされる。癌細胞におけるミトコンドリア生合成および代謝の阻害は、これらの細胞の増殖を妨げる。よって、ミトコンドリア阻害剤は、新たな種類の抗癌治療薬となる。
【0027】
本発明者らは、広範囲の癌種を標的とし得るCSCの表現型の特性を分析し、CSCのクローン増殖および生存に関して、ミトコンドリア生合成へのCSCの厳格な依存を確認した。本発明者らによる従前の研究は、種々のクラスのFDA承認抗生物質、特に、ドキシサイクリンなどのテトラサイクリン、およびエリスロマイシンが、ミトコンドリア生合成を阻害する標的外効果を有することを示した。結果として、このような化合物は、CSCを根絶するための有効性を有した。しかしながら、これらの一般的な抗生物質はミトコンドリアを標的とするように設計されておらず、それらの抗癌有効性の改善に対して大きな余地が残されている。同様に、現代医学はこれらの標的外効果を望ましくないと考えてきた。本アプローチ下で、固有の抗ミトコンドリア特性を有する既存の抗生物質は、ミトコンドリア酸化ストレス下、CSCにおけるミトコンドリア生合成および代謝を阻害するために、1以上の酸化促進剤と併用することができる。いくつかの実施形態では、1以上の治療薬は、CSCのミトコンドリアにおける治療薬の取り込みをさらに増大させるために膜標的化シグナルまたはミトコンドリア標的化シグナルで化学的に修飾してもよい。ミトコンドリア標的化シグナルは、この標的化された取り込み、多くの場合、少なくとも数100倍、有意に増大させ得る。
【0028】
ドキシサイクリンは、2~10μMのIC-50でCSC増殖の阻害を介して癌成長に影響を及ぼす。Antibiotic for Breast Cancer(ABC)治験をピサ大学病院で行った。ABC治験は、初期乳癌患者におけるドキシサイクリンの抗増殖性および抗CSC機械論的作用を評価することをねらいとした。ABC治験の主要評価項目は、病期I~IIIの初期乳癌患者の経口ドキシサイクリンによる短期(例えば2週間)術前治療が、ベースライン(治療前)から外科的切除時における治療後への腫瘍Ki67の低下により決定されるような腫瘍増殖マーカーの阻害をもたらしたかどうかを判定することであった。副次的評価項目は、同じ乳癌患者におけるドキシサイクリンによる術前治療がCSC増殖の阻害およびミトコンドリアマーカーの減少をもたらしたかどうかを判定するために使用した。
【0029】
ABC治験の予備試験で、ドキシサイクリン治療が乳癌腫瘍サンプルにおけるCSCマーカーの発現を首尾良く低下させることが確認された。ドキシサイクリン後腫瘍サンプルは、ドキシサイクリン前の腫瘍サンプルに比べて幹細胞性マーカーCD44に統計的に有意な40%の低下を示した。CD44レベルは、ドキシサイクリンで処置した9人のうち8人の患者で17.65%~66.67%低下した。これに対して、一人の患者だけがCD44に15%の上昇を示した。これは90%の陽性応答率に相当する。同様の結果が、特にHER2(+)患者において、幹細胞性の別のマーカーであるALDH1でも得られた。これに対して、ミトコンドリア、増殖、アポトーシスおよび新血管新生のマーカーは全て、これらの2群間で同等であった。これらの結果は、ドキシサイクリンがin vivoで乳癌患者において、CSCを選択的に根絶し得ることを示唆する。
【0030】
本アプローチは、ドキシサイクリンの影響を、大ミトコンドリアリボソームを標的とする第2の抗ミトコンドリア生合成治療薬、およびCSCにおいてミトコンドリア酸化ストレスを誘導する酸化促進剤で増幅することにより、ABC治験に拡大する。本アプローチの実施形態は、大ミトコンドリアリボソームを阻害する少なくとも1つの抗生物質、小ミトコンドリアリボソームを阻害する少なくとも1つの抗生物質、および少なくとも1つの酸化促進剤を有する三剤併用療法によって、ドキシサイクリンなどのミトコンドリア生合成を阻害する抗生物質のCSC増殖阻害効果を有意に増強する。以下に述べられる例証となる実施形態において、治療薬としては、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、およびビタミンCが含まれる。当然のことながら、他のミトコンドリア生合成阻害剤およびミトコンドリア酸化ストレス源も使用され得る。
【0031】
以下の段落に本アプローチの選択実施形態の実験データおよび分析について述べる。ドキシサイクリンおよびアジスロマイシンは、腫瘍様塊形成に対して生じた阻害効果を評価するために、低濃度で単独でおよび組み合わせて試験した。
図1A~1Cは、種々の濃度および組合せについての腫瘍様塊形成データをまとめたものである。
図1Aは、0.1μM~100μM濃度のアジスロマイシンの腫瘍様塊形成アッセイ結果を示す。
図1Bは、匹敵する濃度のアジスロマイシン(「azi」)およびドキシサイクリン(「dox」)の腫瘍様塊形成アッセイ結果を比較したものである。
図1Cは、腫瘍様塊形成アッセイにおけるアジスロマイシンおよびドキシサイクリンの組合せ効果を示す。見て取れるように、低濃度(0.1μMおよび1μM)のドキシサイクリンおよびアジスロマイシン単独は、腫瘍様塊形成の阻害にほとんどまたは全く効果がなかった。しかしながら、
図1Cは、1μMドキシサイクリンと1μMアジスロマイシンの組合せが腫瘍様塊形成に対して極めて有意な阻害効果を発揮したことを示す。
【0032】
ドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せは、腫瘍様塊形成の阻害において、これらの薬物が単独で使用される場合に比べて顕著に高い有効性を有する。例えば、この組合せのIC-50は、アジスロマイシン単独の約50倍未満、ドキシサイクリン単独の2~5倍未満である。これらの結果は、ドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せは、単独で使用されるいずれかの治療薬よりも高い治療効力を有することを示す。
【0033】
腫瘍様塊形成に対するこの組合せの阻害効果は、ミトコンドリア機能に関するものである。この関係を確認するために、1μMドキシサイクリンと1μMアジスロマイシンの組合せまたは同じ薬物単独で前処理したMCF7細胞単層の、3日間の代謝プロファイルを調べた。
図2A~2Dは、1μM濃度のドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せで前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータをまとめたものである。
図2Aは、酸素消費速度推移を示し、
図2B~2Dは、それぞれ基礎呼吸、最大呼吸、およびATP生産を示す。興味深いことに、酸化ミトコンドリア代謝および解糖の両方の速度は、Seahorse XFe96アナライザーを用いて評価した場合、この組合せ前処理によって有意に低下した。これは呼吸(基礎および最大)の有意な低下ならびにATPレベルの低下をもたらした。
図3A~3Dは、1μM濃度のドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せで前処理したMCF7細胞の、それぞれ細胞外酸性化速度(ECAR)、解糖、解糖予備、および解糖予備能データをまとめたものである。解糖および解糖予備は両方ともドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せにより低下した。この低下は、ミトコンドリア生合成阻害剤による処理の急性効果であると理解される。時間が経つととともに、生存しているCSC集団は解糖代謝プロファイルを有すると思われた。
図4Aは、この組合せのECARを対照と比較したものであり、
図4Bは、この組合せのOCR速度およびECAR速度を対照と比較したものである。
図4Aおよび4Bのデータは、MCF7癌細胞が組合せ処理の後に活性の高いプロファイルから代謝休止状態へ移行したことを示す。
【0034】
毒性に関して、本アプローチの実施形態は、正常な健康細胞に対しては非毒性である。
図5は、例証となる毒性データを、1μMのドキシサイクリン、1μMのアジスロマイシン、および1μMのドキシサイクリンと1μMのアジスロマイシンの組合せで処理したサンプルにおいて、足場非依存性成長条件下で残っている生細胞のパーセンテージの形でまとめたものである。ドキシサイクリン単独、アジスロマイシン単独、または組合せのいずれかで48時間単層処理した後、CSC集団を低接着プレートに播種することによって濃縮した。これらの条件下で、非CSC集団はアノイキス(細胞-基質接着の欠如によって誘導されるアポトーシスの一形態)を受け、CSCは生存すると考えられる。次に、生存しているCSC画分をFACS分析によって決定した。簡単に述べれば、1×10
4個のMCF7単層細胞を6ウェルプレートにて48時間抗生物質またはビヒクル単独で処理した。次に、細胞をトリプシンで処理し、低接着プレートの腫瘍様塊培地に播種した。12時間後、MCF7細胞を回転沈降させた。細胞を2回すすぎ、LIVE/DEAD色素(Fixable Dead Violet反応性色素;Invitrogen)とともに10分間インキュベートした。次に、サンプルをFACS(Fortessa、BD Bioscence)により分析した。その後、生存集団を当技術分野で公知のようにLIVE/DEAD色素染色アッセイを用いることによって同定した。FlowJoソフトウエアを用いてデータを分析した。
図5は、供試した治療薬の最小の細胞死を示す。見て取れるように、1μMドキシサイクリンと1μMアジスロマイシンの組合せは、足場非依存性成長条件下で非毒性である。考え合わせると、これらの実験結果は、特に低用量のドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せは、CSC根絶に関してドキシサイクリン単独よりも有効であることを示す。
【0035】
この組合せへの酸化促進剤の導入は、ドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せよりもはるかに強い抗癌効果をもたらす。様々な試験結果から、大ミトコンドリアリボソームを阻害する第1の抗生物質、および小ミトコンドリアリボソームを阻害する第2の抗生物質、および酸化促進剤の三剤組合せは有力な抗癌特性を有することが確認される。3種類の治療薬の組合せは、抗癌活性に関して、それらの個々または二剤のいずれよりも有意に有効である。例証となる例において、ドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびビタミンCの組合せを有する実施形態は、CSC増殖を効果的に阻害することが確認された。
図6Aは、1μMドキシサイクリン、1μMアジスロマイシン、および250μMビタミンCを有する組成物で同時に処理した後のMCF7細胞の腫瘍様塊形成をまとめたものである。
図6Bは、あるデータセットでは、5μMドキシサイクリン、5μMアジスロマイシン、および250μMビタミンCを有する第1の組成物、また、別のデータセットでは、10μMドキシサイクリン、10μMアジスロマイシン、および250μMビタミンCを有する第2の組成物で同時に処理した後のMDA-MB-468細胞(トリプルネガティブヒト乳癌細胞株)における腫瘍様塊形成を比較したものである。このデータは、本アプローチの三剤組合せ実施形態は、対照に比べてCSC増殖を約90%も阻害したことを示す。よって、極めて低い治療薬濃度で3次元腫瘍スフェア形成力のほぼ完全な除去が達成され、CSCは本アプローチの実施形態の影響を受けやすいことを示す。当然のことながら、本明細書に記載の治療薬濃度は例示であり、治療薬の他の濃度も薬学上有効であり得る。本アプローチの実施形態は、微生物に影響を及ぼさない抗生物質濃度であってもなお有効であることが有利である。
【0036】
さらなるデータから、CSCミトコンドリア機能に対する、大ミトコンドリアリボソームを阻害する第1の抗生物質、および小ミトコンドリアリボソームを阻害する第2の抗生物質、および酸化促進剤の三剤組合せの阻害効果が確認される。
図7A~7Bおよび8A~8Fは、1μMドキシサイクリン、1μMアジスロマイシン、および250μMビタミンCの組合せで3日間前処理したMCF7細胞単層の、酸素消費速度推移、基礎呼吸、最大呼吸、ATP生産、および予備呼吸能それぞれを含む代謝プロファイルを示す。
図7Aおよび7Bは、本アプローチの実施形態による酸化ミトコンドリア代謝の阻害(
図7A)および解糖機能の阻害(
図7B)を示すSeahorseプロファイルである。見て取れるように、三剤組合せは、酸化ミトコンドリア代謝(OCRにより測定)および誘導解糖機能(ECARにより測定)を阻害した。
図8A~8Fは、1μM濃度のドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せ、および250μMビタミンCで前処理したMCF7細胞の代謝データをまとめたものである。酸化ミトコンドリア代謝および解糖の両方の速度は、Seahorse XFe96アナライザーを用いて評価した場合、この組合せ前処理によって有意に低下した。注目すべきは、酸化ミトコンドリア代謝速度には50%を超える低下があり、ATPレベルは、Seahorse XFe96アナライザーを用いて評価した場合、劇的に低下していた。全体的に見れば、これは基礎呼吸および最大呼吸の両方に有意な低下をもたらした。これに対し、供試した三剤組合せ実施形態で前処理した細胞単層において、解糖は増加したが、解糖予備は低下した。
【0037】
酸化促進剤の包含は、本アプローチの実施形態に有用な効果を有する。
図9Aおよび9Bは、250μMビタミンC単独で処理したMCF7細胞のOCRおよびECARデータを対照と比較してまとめたものである。このデータに見られるように、250μMビタミンC(単独)による処理は、MCF7癌細胞においてミトコンドリア代謝および解糖の両方を有意に増大させた。
図10A~10Fは、250μMビタミンCで3日間前処理したMCF7細胞の代謝プロファイルデータを示す。250μMビタミンCによる処理は、基礎呼吸、ATP生産および最大呼吸を有意に増大させた。250μMビタミンCによる処理は、解糖予備能を低下させつつ解糖および解糖予備を有意に増大させた。これらの所見は、ビタミンC単独は軽度の酸化促進剤として作用し、ミトコンドリア酸化ストレスを介して、治療薬は癌細胞のミトコンドリア生合成を刺激してミトコンドリア代謝を増大させる(例えば、ミトコンドリアタンパク質合成およびATP生産を増大させる)ことを示す。その細胞では核ミトコンドリアタンパク質およびmt-DNAによりコードされるタンパク質生産が増大する。この解釈は、大ミトコンドリアリボソームを阻害する1以上の抗生物質および小ミトコンドリアリボソームを阻害する1以上の抗生物質、および酸化促進剤を有する実施形態が癌細胞を効果的に根絶することを直接示す試験データと一致している。特に、ミトコンドリア生合成阻害剤は、ビタミンCにより誘導されるミトコンドリア代謝の増大を妨げる。この組合せは、ミトコンドリアDNA(mt-DNA)によりコードされるタンパク質の合成を阻害して、CSCにおけるOXPHOSに不可欠な必須タンパク質成分の枯渇をもたらす。これらのタンパク質が無ければ、CSCは異常なミトコンドリア生合成および深刻なATP枯渇を受ける。
【0038】
図11Aおよび11Bは、低用量ビタミンCおよび本アプローチの実施形態による三剤組合せのSeahorseプロファイル(それぞれOCRデータおよびECARデータ)を示す。これらの並列代謝比較は、低用量(例えば、血液、血清、および血漿のうち少なくとも1つにおけるピークビタミンC濃度を達成するために十分な約500μM以下)のビタミンCは酸化ミトコンドリア代謝を増大させ、一方、三剤組合せは深刻なATP枯渇をもたらしたことを示す。低用量ビタミンCおよび三剤組合せは両方とも解糖を増大させた。
図12A~12Fは、
図11Aおよび11Bにおける比較のための代謝データを示す。低用量ビタミンCは、基礎呼吸、ATP生産および最大呼吸を増大させたが、三剤組合せはこれらのパラメーターの3つ全てを低下させた。また、低用量ビタミンCおよび三剤組合せは両方とも、解糖予備能を低下させつつ解糖を増大させた。これらの結果は、一方は大ミトコンドリアリボソームを阻害し、他方は小ミトコンドリアリボソームを阻害する2種類のミトコンドリア生合成阻害剤をビタミンCとともに包含させると、ビタミンCにより誘導されるミトコンドリアの酸化的代謝の増大が遮断および逆転されることを示す。3種類の治療薬全ての組合せは、抗癌活性の著しい向上をもたらす。本アプローチのいくつかの実施形態では、ビタミンC(還元剤として挙動するアスコルビン酸誘導体を含む)は、特定の化学療法薬および放射線治療などの、ミトコンドリア酸化ストレスを誘導する別の薬剤に置き換えてもよい。
【0039】
本アプローチの有効性に対する前処理の時間的な効果を、CSC増殖を指標として用いて前臨床現場で評価した。これらの評価は、一部に、3次元腫瘍様塊幹細胞アッセイを開始する前の前処理アッセイによる3種類の治療薬(例えば、大ミトコンドリアリボソームを阻害する抗生物質、および小ミトコンドリアリボソームを阻害する抗生物質、および本実施形態ではビタミンC)の同時投与の有効性を考慮した。MCF7細胞は単層培養物として成長させ、まず、ビタミンC単独(「Vit C」、250μM)、またはドキシサイクリンおよびアジスロマイシン(「D+A」、各1μM)のいずれかで7日間前処理した。次に、MCF7細胞を、トリプシンを用いて採取し、ビタミンC、ドキシサイクリンおよびアジスロマイシンの種々の組合せが存在する足場非依存性成長条件下に再播種した。以下の表1は、ビタミンC単独またはドキシサイクリンとアジスロマイシンの組合せ(D+A)のいずれかによる7日間の前処理は、その後の三剤組合せの投与を著しく低い効果とすることを示す。機構的には、この前処理はドキシサイクリン、アジスロマイシン、およびビタミンCの三剤組合せの効果に対してMCF7細胞を効果的に予め馴化したと思われる。これはMCF7細胞の、酸化ストレスを誘導して抗酸化応答を駆動する能力によるものであり得る。これらの臨床結果を考えれば、3種類の治療薬の全てを同時に投与する本アプローチの実施形態はCSC集団に最も大きな影響を有すると思われ、好ましい。例えば、一実施形態では、ドキシサイクリン(1μM)、アジスロマイシン(1μM)およびビタミンC(250μM)の同時投与は、これらの成分を逐次投与するよりも有効であろう。しかしながら、いくつかの実施形態は、複数日(例えば、いくつかの実施形態では3~7日、いくつかの実施形態では4~14日)にわたって、1~3時間などの狭い枠内で複数の治療薬を投与するこが求められる場合もある。いくつかの実施形態では、これらの抗生物質は経口剤形(例えば、丸剤または錠剤)で投与され得、ビタミンCは静脈内に投与される。他の場合では、3種類の治療薬は全て、個別の丸剤もしくは錠剤として、または各治療薬を含有する単一の調合剤として経口投与され得る。
【0040】
【0041】
これらの結果は、CSC集団に対するドキシサイクリンの阻害効果が別のFDA承認抗生物質、すなわち、アジスロマイシン、および機能性食品、ビタミンC(軽度の酸化促進剤)との組合せにより増強され得ることを示す。よって、本アプローチは、大ミトコンドリアリボソームを阻害する1以上の抗生物質、小ミトコンドリアリボソームを阻害する1以上の抗生物質、および1以上の酸化促進剤を有する医薬組成物を提供する。実施形態には、例えば、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、およびビタミンCが含まれ得る。本明細書に開示および示唆される実施形態に対してさらなるデータを得るためのさらなる臨床試験およびさらなる評価が計画されている。
【0042】
いくつかの実施形態は、薬学上有効な量の各治療薬を有する組成物、例えば、医薬組成物の形態を採り得る。この組成物は、例えば、活動的癌幹細胞、循環腫瘍細胞、および治療耐性癌細胞を含む癌幹細胞の根絶によって癌を治療するためのものであり得る。この組成物は、癌幹細胞を放射線療法、光線療法、および/または化学療法に対して増感させるためのものであり得る。この組成物は、腫瘍再発、転移、薬剤耐性、放射線療法耐性、および悪液質を治療および/または予防するためのものであり得る。この組成物の実施形態は、有効成分として、ミトコンドリア生合成を阻害し、大ミトコンドリアリボソームを標的とする第1の治療薬、ミトコンドリア生合成を阻害し、小ミトコンドリアリボソームを標的とする第2の治療薬、およびミトコンドリア酸化ストレスを誘導する第3の治療薬を含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、第1の治療薬はアジスロマイシンであり、第2の治療薬はドキシサイクリンであり、第3の治療薬はビタミンC(またはアスコルビン酸誘導体)である。第1および第2の治療薬のうち少なくとも一方、いくつかの実施形態では両方の濃度は抗菌性を示さないものであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、アジスロマイシンおよびドキシサイクリンの両方の濃度は抗菌性を示さないものであり得る。いくつかの実施形態では、第3の治療薬は、血液、血清、および血漿のうち少なくとも1つにおいてピークビタミンC濃度が100μM~250μMに達するために十分な濃度のビタミンCである。
【0043】
本アプローチの下、大ミトコンドリアリボソームを阻害する1以上の抗生物質および小ミトコンドリアリボソームを阻害する1以上の抗生物質が使用され得る。エリスロマイシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、およびクラリスロマイシンを含むエリスロマイシン(またはマクロライド)系の抗生物質は、大ミトコンドリアリボソームを阻害する。大ミトコンドリアリボソームを阻害するその他の治療薬としては、マクロライド系の他のメンバー、ケトライド系のメンバー、アンフェニコール系のメンバー、リンコサミド系のメンバー、プレウロムチリン系のメンバー、ならびにこれらの化合物の誘導体が含まれる。当然のことながら、誘導体としては、本明細書に述べられるように、1以上の膜標的化シグナルおよび/またはミトコンドリア標的化シグナルを含み得る。テトラサイクリン、ドキシサイクリン、チゲサイクリン、エラバサイクリン、およびミノサイクリンを含むテトラサイクリン系の抗生物質は、小ミトコンドリアリボソームを阻害する。小ミトコンドリアリボソームを阻害する他の治療薬としては、テトラサイクリン系の他のメンバー、グリシルサイクリン系のメンバー、フルオロサイクリン系のメンバー、アミノグリコシド系のメンバー、オキサゾリジノン系のメンバー、ならびにこれらの化合物の誘導体が含まれる。当然のことながら、誘導体には、1以上の膜標的化シグナルおよび/またはミトコンドリア標的化シグナルを含み得る。本アプローチの好ましい実施形態としては、当然のことながら、他の抗生物質も使用され得るとしても、アジスロマイシンおよびドキシサイクリンが含まれる。さらに、いくつかの実施形態において、これらの抗生物質のうち1以上は、以下に述べられるように、少なくとも1つの膜標的化シグナルおよび/またはミトコンドリア標的化シグナルで化学的に修飾され得る。
【0044】
上記で述べたように、本アプローチの実施形態は、1以上の酸化促進剤を含み得る。酸化促進剤は、抗酸化系の阻害および/または反応性酸素種の生成によって生物に酸化ストレスを誘導する化合物である。ミトコンドリア酸化ストレスは細胞を損傷することがあり、CSCにおいては、ミトコンドリア生合成へと移行させる。いくつかのビタミンは、それらが還元剤として機能する場合には酸化促進剤となる。ビタミンCは、例えば、脂質および他の高分子に酸化損傷を防止する有力な抗酸化剤であり、様々な条件で酸化促進剤として挙動する。例えば、低濃度のビタミンC(例えば、経口投与用医薬組成物では、ビタミンCは、血液、血清、および血漿のうち少なくとも1つにおいて約500μM~約100μM、いくつかの実施形態では約400μM~約150μM、いくつかの実施形態では約300μM~約200μM、いくつかの実施形態では約250μMというピークビタミンC濃度を達成するための十分な量または濃度で投与され得る)は、金属イオンの存在下でミトコンドリア酸化ストレスを誘導する。経口投与からの血液/血清/血漿におけるピークビタミンC濃度は約250μMであるが、このピーク濃度は静脈内投与によれば有意に高くなり得ると理解される。よって、本アプローチの別の例として、ビタミンCが経口投与されるいくつかの実施形態は、血液、血清、および/または血漿において約100μM~約250μMというビタミンC濃度を達成するために十分なビタミンCを使用することができる。この文脈において、用語「約」は、±10μMの近似と理解されるべきであるが、血液、血清、および/または血漿濃度を測定するために使用される方法の精度および正確性によって異なり得る。いくつかの実施形態は、血液、血清、および/または血漿において100μM~250μMというビタミンC濃度を達成するために十分なビタミンCを含み得る。当然のことながら、ビタミンCの好適な用量は、本アプローチにおいて使用される他の成分によって異なる場合があり、従って、当業者は当技術分野で公知の方法を用いて所与の実施形態に関して適当な用量を評価することができる。ビタミンCの他、いくつかのアスコルビン酸誘導体も特定の条件で酸化促進剤挙動を示し得る。例えば、アスコルビン酸塩は、金属イオンを低減し、フェントン反応によってフリーラジカルを生成することができる。アスコルビン酸ラジカルは通常、極めて安定であるが、特に鉄(Fe)を含む金属イオンの存在下で反応性が高くなり、アスコルビン酸ラジカルをいっそうより強力な酸化促進剤とすることを可能とする。ミトコンドリアはイオンが特に豊富であるので、ビタミンCの酸化促進効果の重要な標的となり得る。ビタミンCはミトコンドリア内に著しく濃縮される。例えば、U937細胞(ヒト白血病細胞株)を、3μMビタミンCを含有する培地でわずか15分インキュベートしただけで、ミトコンドリアへ効率的に輸送されて、5mMのレベルに達した(その用量に対しておよそ1,700倍の増大に相当する)。ビタミンCのミトコンドリア輸送は、他の新規なミトコンドリア輸送体も示唆されているが、SLC23A2としても知られるナトリウム依存性ビタミンC輸送体2(SCVCT2)により達成される。
【0045】
ビタミンCとともにまたはその代わりに他の酸化促進治療薬も使用され得る。現行の多くの化学療法薬ならびに標的化放射線は全て、それらの酸化促進作用によって癌細胞を死滅させるので、ミトコンドリア生合成阻害の組合せは従来療法への追加として使用可能であり、それらの有効性を向上させると予想される。癌細胞において酸化促進剤として挙動して反応性酸素種を生成することが知られる他の治療薬も存在する。酸化ストレスに関連する9種類の化学療法薬が存在する:アントラサイクリン、プラチナ/パラジウム錯体、アルキル化剤、エピポドフィロトキシン、カンプトテシン、プリン/ピリミジン類似体、代謝拮抗剤、タキサン、およびビンカアルカロイド。例えば、抗癌治療薬アドリアマイシン(およびその他のアントラサイクリン類)、ブレオマイシン、およびシスプラチンは、癌細胞に対する特異的毒性が実証されている。よって、いくつかの実施形態では、薬剤は、大ミトコンドリアリボソームを阻害する抗生物質および小ミトコンドリアリボソームを阻害する抗生物質と組み合わせてミトコンドリア酸化ストレスを誘導するために使用される。酸化促進効果を有するさらなる治療薬、ならびにミトコンドリア酸化ストレスを誘導する選択的薬剤を投与する時機を特定するためのさらなる検討が計画されている。しかしながら、ビタミンCは明らかに副作用が少なく、一般に化学療法薬よりも良好な安全性プロファイルを有する。当然のことながら、酸化促進剤は、本アプローチから逸脱することなく使用され得る。
【0046】
CSCは、有意に増大したミトコンドリア質量を有し、これが足場非依存性成長を受けるそれらの能力に寄与する。従って、ミトコンドリア生合成の阻害剤をビタミンCとともに使用すると、最終的に、CSCミトコンドリアがビタミンCの酸化促進剤の作用から完全に回復することを妨げ、それはこれらの標的細胞が新たなミトコンドリアを再合成することができないからである。代謝が制限された条件下で、癌細胞は「十分でない」または「不完全な」ミトコンドリア生合成を受ける。この主張は、i)ミトコンドリア代謝の低下、ii)補償的解糖機能の増大、およびiii)深刻なATP枯渇を明らかにする
図11A、11B、および12A~12Fに示されるSeahorseフラックス分析データにより直接裏付けられる。従前の研究は、低酸素条件下のラット心臓においてビタミンC単独がミトコンドリアATP生産を最大1.5倍増大させたことを示した。加えて、ビタミンCは、ミトコンドリアβ酸化に必要とされる必須微量栄養素である内因性L-カルニチン生合成の正のレギュレーターである。従って、これらの所見は、MCF7細胞においてミトコンドリアATP生産を最大2倍増大させるためにはビタミンCだけで実際に十分であることを示す今回の結果と一致している。
【0047】
図13は、本アプローチの実施形態による治療機序を示す。このプロセスは、例として、サンプルまたは生物においてCSCを根絶するため、抗癌治療のため、再発および転移を予防および/または排除するため、老化を治療するため、ならびにサンプルまたは生物において老化細胞を根絶するために使用され得る。この機序の下、ビタミンCは、酸化促進剤挙動を促進するS1301条件下に存在する。投与されるビタミンCの濃度は比較的低濃度であると考えることができる。例えば、100μM~250μMの血液/血漿/血清レベルを達成するために十分な経口ビタミンCが適当であり得る。ミトコンドリアは鉄が豊富であり、CSCは高いミトコンドリア濃度を有する。高い鉄含量のために、酸化促進剤としてのビタミンCは、CSCにおいてミトコンドリア酸化ストレスを誘導し1303、反応性アスコルビン酸ラジカルを生成する。このミトコンドリア酸化ストレスに応答して、CSCは、ミトコンドリア生合成へと移行する1305。しかしながら、大ミトコンドリアリボソームを阻害する抗生物質および小ミトコンドリアリボソームを阻害する抗生物質、例えば、アジスロマイシンおよびドキシサイクリンの存在1307は、CSCがミトコンドリア酸化ストレスから回復するために十分なミトコンドリア生合成を行わないようにする。これがCSCにおけるミトコンドリア破綻1309をもたらす。その後、CSCはATP枯渇1311を受け、やがて死滅する(例えば、アポトーシスによる)1313。
【0048】
本アプローチの実施形態における治療薬は、1以上の既知の方法を用いて調製され得る通常の医薬組成物の形態で使用され得る。例えば、医薬組成物は、当技術分野で知られているような、例えば、1以上の増量剤、充填剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤などの希釈剤または賦形剤を使用することにより調製され得る。治療目的によって種々のタイプの単位剤形を選択することができる。医薬組成物の形態の例としては、限定されるものではないが、錠剤、丸剤、散剤、液体、懸濁液、エマルション、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射製剤(溶液および懸濁液)、局所用クリーム、ナノ粒子、リポソーム製剤、および当技術分野で知ることのできるような他の形態が含まれる。いくつかの実施形態では、治療薬は、一緒に封入されてよい。さらなる例として、脂肪酸、コレステロール、リン脂質(例えば、ホスファチジル(phosphatidly)-セリン、ホスファチジル-コリン)、メゾポーラスシリカ、およびヘリセン-スクアレンナノアセンブリを含有するリポソームなど、ナノ粒子またはナノ担体の形態中の用量が本アプローチ下で使用され得る。医薬組成物を錠剤の形態に成形する目的で、例えば、ラクトース、グラニュー糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、シクロデキストリン、結晶セルロース、ケイ酸などの担体;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース溶液、デンプン溶液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドンなど結合剤など、知られているいずれの賦形剤も使用され得る。加えて、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、寒天粉末、コンブ粉末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタンの脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸のモノグリセリド、デンプン、ラクトースなどの崩壊剤も使用され得る。グラニュー糖、ステアリン、カカオ脂、硬化油などの崩壊阻害剤;四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤も使用され得る。グリセリン、デンプン、および当技術分野で知られている他のものなどの湿潤剤も使用され得る。例えば、デンプン、ラクトース、カオリン、ベントナイト、コロイドケイ酸などの吸着剤も使用され得る。精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸粉末、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤も使用され得る。錠剤が望まれる場合には、それらは、錠剤を糖衣錠、ゼラチンフィルムコーティング錠、腸溶コーティング錠、フィルムコーティング錠、二層錠、および多層錠として作製するための通常のコーティング材料でさらにコーティングすることができる。局所投与に適合した医薬組成物は、軟膏、クリーム、懸濁液、ローション、散剤、溶液、ペースト、ゲル、フォーム、スプレー、エアロゾルまたはオイルとして調剤され得る。このような医薬組成物は従来の添加剤を含んでもよく、添加剤としては、限定されるものではないが、保存剤、薬物の浸透を助けるための溶媒、補助溶媒、皮膚軟化剤、噴射剤、粘度調整剤(ゲル化剤)、界面活性剤、および担体が含まれる。当然のことながら、ビタミンC、または別のアスコルビン酸化合物は、当技術分野で公知のように、シリンジまたは静脈内カテーテルを介して静脈循環へ直接投与される溶液によって投与され得る。
【0049】
本アプローチは、腫瘍再発、転移、薬剤耐性、悪液質、および/または放射線療法耐性を治療および/または予防するために使用され得る。抗癌治療は、特に手術後に腫瘍が再発または転移するので不奏効であることが多い。また、薬剤耐性および放射線療法耐性も癌治療の不奏効の一般的な理由である。CSCのミトコンドリア活性は、少なくとも一部には、これらの治療の不奏効の原因を担うと考えられる。本アプローチの実施形態は、従来の癌治療が不奏効である場合に、および/または腫瘍再発、転移、化学療法耐性、薬剤耐性、および/または放射線療法耐性による不奏効を防ぐために抗癌治療とともに使用することができる。
【0050】
述べたように、本アプローチの実施形態はまた、癌細胞における薬剤耐性を予防、治療および/または逆転するためにも使用され得る。薬剤耐性は、少なくとも一部には、癌細胞においてミトコンドリア機能の増大に基づくと思われる。特に、タモキシフェンなどの内分泌療法に耐性を示す癌細胞は、ミトコンドリア機能が増大していると予想される。本アプローチの実施形態はミトコンドリア機能を阻害するので、癌細胞における薬剤耐性を軽減、場合によっては、逆転させるのに有用である。よって、薬剤耐性が適応となる場合には、本アプローチの実施形態が投与可能である。本明細書に述べられるような医薬組成物は、従来の化学療法処置の前、および/または前記処置とともに、および/または前記処置の後に投与され得る。加えて、ミトコンドリアリボソームを標的とするミトコンドリア機能阻害剤はまた、細菌および病原性酵母を標的とし、老化細胞を標的とし(従って、抗加齢利益を提供し)、放射線増感剤および/または光増感剤として機能し、塊状癌細胞および癌幹細胞を化学療法薬、医薬、および/またはその他の天然物質、例えば、栄養補助食品およびカロリー制限に対して増感させ得る。
【0051】
抗加齢利益に関して、老化細胞は、身体の正常、健康なエコシステムに有毒である。本アプローチは、いくつかの実施形態において、正常な組織細胞を温存しつつ老化細胞を選択的に死滅させ得る。老化細胞の選択的死滅は、1)老化関連分泌表現型(SASP)の獲得(これは老化線維芽細胞を、腫瘍進行促進能を有する炎症誘発細胞に変える)を妨げることによって加齢に関連する炎症を防ぎ;2)組織修復および再生を促進し;かつ/または3)生物の寿命および健康寿命を延長し得る。複数の実施形態はまた、発癌ストレスの誘導のために癌遺伝子により誘発される老化を受ける老化癌細胞を選択的に死滅させるためにも使用され得る。
【0052】
いくつかの実施形態は、抗癌キットの形態を採り得る。抗癌キットは本アプローチによる1以上の成分を含み得る。例えば、抗癌キットは、大ミトコンドリアリボソームを阻害する第1の抗生物質、小ミトコンドリアリボソームを阻害する第2の抗生物質、および酸化促進剤またはミトコンドリア酸化ストレスを有する薬剤を含有し得る。抗癌キットは、特定の治療期間または所定の期間、例えば、1週間もしくは1か月間の十分な用量の各成分を含有し得る。
図18は、一実施形態による抗癌キット例1401を示す。この実施形態では、抗癌キット1801は、1週間の用量、すなわち、2個のアジスロマイシン錠剤(「Azith」)、14個のドキシサイクリン錠剤(「Doxy」)、および7個のビタミンC錠剤(「Vit C」)を含む。各成分の量は本明細書に記載の通りであり得る。抗癌キット1401は、各成分が服用されるべき時を確認するための日時または日のインジケーター、ならびに適当であり得る他の備忘を含み得る。当然のことながら、抗癌キットは、2週間治療または1か月治療などの短期間または長期間に十分な用量を含み得る。
【0053】
本アプローチは有利には、正常な健康細胞のCSC表現型を標的とする。標的癌細胞は、CSC、活動的癌幹細胞(e-CSC)、循環腫瘍細胞(CTC、その後に、癌関連死の大部分を担う機序である、遠位器官におけるさらなる腫瘍の成長をもたらすシード細胞)、および治療耐性癌細胞(TRCC、化学療法、放射性療法、および他の一般的な癌治療のうち1以上に対して耐性を発達させた細胞)のうち少なくとも1つであり得る。全内容が本明細書の一部として援用される出願者の2018年6月19日出願の同時係属米国仮特許出願第62/686,881号(特許文献4)、および2018年9月14日出願の同第62/731,561号(特許文献5)に記載されるように、e-CSCは増殖に関連するCSC表現型を表す。当然のことながら、本アプローチは、塊状癌細胞およびCSCに加えて、本発明者らがe-CSCと呼称する、幹細胞性マーカー(ALDH活性および腫瘍様塊形成活性)の段階的増大、極めて高いミトコンドリア質量、および解糖活性およびミトコンドリア活性の増大を示す超増殖性細胞亜集団を標的とするために使用され得る。大ミトコンドリアリボソームを阻害する第1の抗生物質、および小ミトコンドリアリボソームを阻害する第2の抗生物質を有する組成物は、このような癌細胞表現型を標的とし、有益には、腫瘍再発、転移、薬剤耐性、放射線療法耐性、および/または悪液質を予防、治療および/または軽減するために、酸化促進剤とともに投与され得る。このような治療薬のうち1以上を膜標的化シグナルおよび/またはミトコンドリア標的化シグナルで化学的に修飾すると、ミトコンドリアにおける修飾された治療薬の取り込み、結果として、その薬剤の効力が増強される。
【0054】
よって、本アプローチのいくつかの実施形態は、膜標的化シグナルおよび/またはミトコンドリア標的化シグナルで化学的に修飾された1以上の治療薬を含み得る。膜標的化シグナルは、脂肪酸、好ましい実施形態では、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸のうち1つであり得る。ミトコンドリア標的化シグナルの例としては、TPPおよびTPP誘導体などの親油性陽イオンが含まれる。2018年11月21日出願の出願者の同時係属国際特許出願第PCT/US2018/062174号(特許文献2)は、その全内容が本明細書の一部として援用される。トリ-フェニル-ホスホニウムおよびその誘導体は、正常な健康細胞を死滅させずに「塊状」癌細胞、癌幹細胞および「正常」老化細胞(線維芽細胞)を標的とするために有効なミトコンドリア標的化シグナルである。TPP誘導体の例としては、(1)2-ブテン-1,4-ビス-TPP;(2)2-クロロベンジル-TPP;(3)3-メチルベンジル-TPP;(4)2,4-ジクロロベンジル-TPP;(5)1-ナフチルメチル-TPPが含まれる。また、TPP誘導体は誘導体も有し得ることにも留意されたい。例えば、ミトコンドリア標的化化合物は、TPP誘導体、すなわち、2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-クロロベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPP;1-ナフチルメチル-TPP;p-キシリレンビス-TPP;2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体;2-クロロベンジル-TPPの誘導体;3-メチルベンジル-TPPの誘導体;2,4-ジクロロベンジル-TPPの誘導体;1-ナフチルメチル-TPPの誘導体;およびp-キシリレンビス-TPPの誘導体のうち少なくとも1つであり得る。いくつかの実施形態では、親油性陽イオン10-N-ノニルアクリジンオレンジもまた、ミトコンドリア標的化シグナルとして使用され得る。当然のことながら、これらの標的化シグナル例は非網羅的なものである。
【0055】
以下の段落は、膜標的化シグナルと複合体を形成した治療薬に関する。膜標的化シグナルの例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、およびオレイン酸などの脂肪酸が含まれる、短鎖脂肪酸、すなわち、6個未満の炭素原子を有する脂肪酸もまた、膜標的化シグナルとして使用され得る。短鎖脂肪酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、およびイソ吉草酸が含まれる。膜標的化シグナルはまた、6~12個の炭素原子を有する1以上の中鎖脂肪酸でもあってもよい。複合体を形成した治療薬の好ましい実施形態は、少なくとも11個の炭素、最大21個の炭素を有する脂肪酸部分を有する。
【0056】
いくつかの実施形態では、複合体化合物の脂肪酸部分は、一般式
【0057】
【0058】
を含んでよく、ここで、Xは、脂肪酸部分が結合されている治療薬の置換場所を表し、「n」は1~20、好ましくは10~20の整数である。本明細書に記載されるように、用語「脂肪酸部分」の本出願の使用が示されれば、本アプローチのいくつかの実施形態は、一般式
【0059】
【0060】
を有する脂肪酸部分を含む複合体化合物を含み得、ここで、Xは、脂肪酸部分が結合されている治療薬の置換場所を表し、「n」は1~20、好ましくは10~20の整数である。
【0061】
脂肪酸部分を有する複合体は、当技術分野で利用可能な技術を用いて合成され得る。例えば、ドキシサイクリンとミリスチン酸の複合体は、ミリストイル化により合成され得る。当技術分野で公知のような複合体を合成するための他の技術も使用され得る。当然のことながら、これは膜標的化シグナルの総覧ではなく、挙げられていない膜標的化シグナルも本アプローチから逸脱することなく使用され得る。脂肪酸標的化シグナルは、薬物送達に関して付加的利益を提供する。脂肪酸は、複合体形成化合物の、脂質に基づくナノ粒子または1以上の同心のリン脂質二重層から構成される小胞への組み込みを促進する。例えば、1988年8月2日発行の米国特許第4,761,288号(特許文献6)は、いくつかの実施形態において使用され得るリポソーム薬物送達システムを記載し、その全内容が本明細書の一部として援用される。これらのリポソーム薬物送達の実施形態は送達中および初期代謝中に消費する有効成分が少ないので、より有効な薬物を提供する。
【0062】
脂肪酸部分などの膜標的化シグナルと複合体を形成した1以上の治療薬は、本アプローチの実施形態において使用され得る。短鎖および中鎖脂肪酸は標的化シグナルとして使用され得るが、少なくとも11個の炭素、最大21個の炭素を有する脂肪酸は、治療薬のCSC阻害に最も良い改善をもたらす。ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、およびステアリン酸との複合体は、治療薬の阻害および有利な保持特性の著しい改善を示す。例証となる例として、ドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体の実施形態は、ドキシサイクリン単独よりも高い効力を示した。
図14は、ドキシサイクリン(「Dox」)および以下化合物[1]として示されるドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体(「Dox-M」)(本開示は化合物[1]をドキシサイクリンおよびミリスチン酸の複合体としても表すことに留意されたい)についての、MCF7細胞に対する腫瘍様塊アッセイからの結果を比較したものである。このデータは、化合物に曝した後の腫瘍様塊数を対照に対するパーセンテージとして表す。これらの化合物は1.5μM、3μM、6μM、および12μMの濃度で試験した。各濃度で、ドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体は複合体を形成していないドキシサイクリンよりも有力であったことが見て取れる。この効力は3μMを超える濃度で有意に著明であった。同様の挙動が、脂肪酸、特に、11~21個の総炭素を有する脂肪酸部分と複合体を形成したその他のテトラサイクリン系メンバー、およびエリスロマイシン系メンバーでも見られる。
【0063】
図15は、ドキシサイクリンおよび化合物[1]として示されるドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体の、広範囲の化合物濃度にわたる腫瘍様塊アッセイ結果を示す線グラフである。上の曲線は、ドキシサイクリンに曝したMCF7細胞の腫瘍様塊数(対照と比較したパーセンテージとして)を表す。下の曲線は、ドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体に曝したMCF7細胞の腫瘍様塊数を表す。2.5μMで、ドキシサイクリン単独は、MCF7細胞に対する腫瘍様塊アッセイにおいてほとんどまたは全く効果を示さなかった。これに対して、2.5μMのドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体は、対照に対して40~60%MCF7腫瘍様塊形成を阻害した。これらのデータに基づくと、ドキシサイクリンの50%阻害濃度(IC
50)は18.1μMであり、ドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体のIC50は3.46μMである。ドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体はCSC増殖の阻害に関してドキシサイクリンの5倍有効である。
【0064】
【0065】
図16A~16Cは、ドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体と複合体を形成していないドキシサイクリンの細胞保持を比較した画像である。MCF7細胞を、組織培養培地中、10μM濃度のいずれかの治療薬(すなわち、ドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体または複合体を形成していないドキシサイクリン)の存在下で72時間培養した。次に、これらの細胞をPBSで洗浄し、細胞内に保持されている治療薬をテトラサイクリン環構造の励起からの緑色自家蛍光によって可視化した。対照細胞はビヒクル単独とともにインキュベートした。
図16Aは非処理対照であり、
図16Bはドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体化合物[1]の保持を示し、
図16Cはドキシサイクリンの保持を示す。これらの画像において元の色は再現性をよくするために反転してあり、
図16Bのより濃い領域は、複合体を形成した治療薬の細胞保持の増大を示す。
図16A~16Cの比較から見て取れるように、
図16Bの暗さと強度は、ドキシサイクリン単独に比べてドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体の細胞保持が有意に向上していることを示す。他の標的化シグナルと複合体を形成した他の治療薬でも匹敵する結果が予想される。
【0066】
標的化シグナルと複合体を形成した治療薬の実施形態は、複合体を形成していない治療薬に比べて、塊状癌細胞および正常な線維芽細胞において低い毒性を示した。例えば、
図17Aおよび17Bは、それぞれ塊状MCF7細胞および塊状BJ細胞に関する、ドキシサイクリンおよび化合物[1]として示されるドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体の細胞生存率データを示す。このデータは、対照に対するパーセンテージとして表した細胞生存率を表す。
図17Aおよび17Bの両方に見て取れるように、ドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体は、供試した濃度範囲では、20μM濃度であっても、ドキシサイクリンよりも毒性が低い。標的化シグナルと複合体を形成した他の治療薬でも同様の挙動が見られた。
【0067】
当然のことながら、化合物[1]のドキシサイクリン-ミリスチン酸複合体は、本アプローチによる複合体を形成した治療薬の一例であり、他の多くの複合体を形成した化合物も企図される。以下に示す化合物[2]は、脂肪酸部分と複合体を形成したドキシサイクリンの一般構造を表す。「n」は1~20の整数、好ましくは10~20である。例えば、「n」が12であれば、ミリスチン酸部分を有する複合体となる。この例ではドキシサイクリンが使用されるが、当然のことながら、例えば、限定されるものではないが、チゲサイクリン、ミノサイクリンを含め、テトラサイクリン系(すなわち、小ミトコンドリアリボソームを標的とするナフタセンコアを有する抗生物質)の他のメンバーも治療薬として使用され得る。化合物[3]は、テトラサイクリン誘導体の一般化学構造であり、本明細書で使用するためのナフタセンコア環に表示が付いている。テトラサイクリン誘導体はナフタセンコアと結合した種々の官能基を有し、化合物[3]は、主として置換場所を示し、表示体系を提供するために使用されると理解されるべきである。化合物[3]に示される表示を使用すると、化合物[2]に示される脂肪酸部分は、ナフタセンコアのD環上のR9位と呼ばれる位置で置換される。当然のことながら、他の置換場所も同様に使用され得る。化合物[3]の一般構造に示されるように、例えば、D環のR7およびR8位がさらなる置換位置である。しかしながら、一般に、A環のジメチルアミノ基およびアミド(amid)基は抗生物活性に重要であり、これはまたB環およびC環の立体化学配置によっても決まり得る。
【0068】
【0069】
上記に示す化合物[4]は、本アプローチによる、ドキシサイクリンと脂肪酸部分を有する複合体形成治療薬のもう1つの例である。この実施形態では、脂肪酸部分はD環のR8位において置換されている。「n」は1~20の整数であり、好ましくは、10~20である。以下に示す化合物[5A]は、本アプローチの別の実施形態によるテトラサイクリン-脂肪酸複合体の例を示す。この例において、脂肪酸部分は、D環のR9位において置換されるが、すでに記載したように、脂肪酸部分は他の場所において置換されてもよいと理解されるべきである。以下の化合物[5B]は、膜標的化シグナルと複合体を形成したテトラサイクリン系メンバーのもう1つの実施形態を示す。化合物[5B]において、ミノサイクリン構造は、D環のR9位において置換された脂肪酸部分を有する。当然、脂肪酸部分は、上記で述べたように他所で置換されてもよい。[5A]および[5B]の両化合物に関して、「n」は1~20の整数であり、好ましくは、10~20である。
【0070】
【0071】
治療薬複合体の従前の例は、テトラサイクリン系メンバーに関与するものであった。当然のことながら、エリスロマイシン系メンバーと膜標的化シグナルの複合体も本アプローチにより企図される。以下の化合物[6]、[7]、および[8]は、当技術分野で公知のエリスロマイシン系のFDA承認抗生物質の例としてのアジスロマイシン、ロキシスロマイシン、およびテリスロマイシンの構造を示す。
【0072】
【0073】
マクロライド構造はいくつかの潜在的置換場所を提供する。本明細書は、エリスロマイシン系複合体の2系列の式に取り組む。以下の化合物[9A]、[9B]、[10A]、[10B]、[11A]および[11B]はそれぞれ、アジスロマイシン複合体、ロキシスロマイシン複合体、およびテリスロマイシン複合体の一般構造を示す。各一般構造は、潜在的置換場所を表す複数のR基とともに示される。本アプローチのいくつかの実施形態では、1つのR基は膜標的化シグナルまたはミトコンドリア標的化シグナルなどの標的化シグナルであってよく、残りのR基はその構造中に本来存在する部分である(例えば、化合物[6]~[8]に示されるとおり)。いくつかの場合では、NH-R基は、以下に述べるようにN(CH3)2であり得る。
【0074】
【0075】
エリスロマイシン系複合体の第1系列の一般式は、化合物[9A]、[10A]、および[11A]により表される。化合物[9A]で始まり、アジスロマイシン複合体である化合物[9A]のR2は脂肪酸部分であり得、R1、R3、R4、およびR5のそれぞれは化合物[6]に示されるように、アジスロマイシンに本来存在する部分であり得、すなわち、それぞれH、H、デオキシ糖(デソサミン)、およびデオキシ糖(クラジノース)であり得る。当然のことながら、標的化シグナル部分は、この例で用いられているようなR2の代わりに別の場所において置換されていてもよい。化合物[10A]は、ロキシスロマイシン複合体の第1の一般式を示す。化合物[10A]のR1は脂肪酸部分であり得、R2~R6のそれぞれは、化合物[7]に示されるように、ロキシスロマイシンに本来存在する部分であり得る。別の例として、化合物[11A]のテリスロマイシン複合体では、R3は標的化シグナルを含んでよく、R1およびR2は、化合物[8]に示されるように、ロキシスロマイシンに本来存在する部分であり得る(例えば、R1は、カルバミン酸環のアリール-アルキル部分であり、-NHR2は-N(CH3)2、すなわち、デソサミン糖環となる)。
【0076】
上記に示される第2系列の一般式は、本アプローチのさらなる実施形態による複合体を示す。化合物[9B]は、いくつかの実施形態によるアジスロマイシン複合体の第2の一般式を示し、ここで、官能基R1およびR2は同じであっても異なっていてもよく、一方または両方が標的化シグナルである。例えば、R1および/またはR2が標的化シグナルであり得、同じでは無い場合、他方のRは化合物[6]に示されるものと同じままである。例えば、R1はメチルであり得、R2は脂肪酸部分などの標的化シグナルであり得る。別の例として、R1は標的化シグナルであり得、NH-R2は-N(CH3)2であり得る。
【0077】
化合物[10B]は、いくつかの実施形態によるロキシスロマイシン複合体の第2の一般式を示し、ここで、官能基R1およびR2は同じであっても異なっていてもよく、一方または両方が標的化シグナルであり得る。例えば、R1および/またはR2は上記で述べたように脂肪酸部分であり得、他方は化合物[7]に示されるものと同じであり得る。化合物[10B]を使用する別の例として、R1はロキシスロマイシンに存在するO-CH2-O-(CH2)2-OCH3などのメトキシであり得、R2は脂肪酸部分などの標的化シグナルであり得る。別の例として、R1は標的化シグナルであり得、NH-R2はN(CH3)2であり得る。
【0078】
化合物[11B]は、テリスロマイシン複合体の第2の一般式を示し、官能基R1およびR2は同じであっても異なっていてもよく、一方または両方が標的化シグナルであり得る。例えば、R1および/またはR2は、上記で述べたように、膜標的化シグナルまたはミトコンドリア標的化シグナルであり得る。例えば、R1はアルキル-アリール基、例えば、テリスロマイシンカルバミン酸環に存在する
【0079】
【0080】
であり得、R2は標的化シグナルであり得る。別の例として、R1は標的化シグナルであり得、-NH-R2は-N(CH3)2であり得る。
【0081】
以下の化合物[12A]、[13A]、および[14A]は、上記の複合体に第1系列の一般構造を用いる、本アプローチによるエリスロマイシン系メンバー複合体の特定の例を示す。化合物[12]において、R5は、脂肪酸部分の一般構造で置換されており、他の置換場所は、アジスロマイシン構造に見られる通常の構成要素を有する。化合物[13]において、R5は脂肪酸部分の一般構造で置換されており、他の置換場所はロキシスロマイシン構造に見られる通常の構成要素を有する。化合物[14]において、R3は脂肪酸部分の一般構造で置換されており、他の置換場所は、テリスロマイシン構造に見られる通常の構成要素を有する。これらの例において、「n」は1~20の整数であり、好ましくは、10~20である。例えば、脂肪酸部分がミリスチン酸である化合物[12A]、[13A]、および[14A]の実施形態は、CSC阻害活性および細胞保持に、複合体を形成していない抗生物質よりも改善を示していた。当然のことながら、このアプローチは、エリスロマイシン系メンバーと標的化シグナル部分の多くの複合体を形成するために使用され得る。
【0082】
【0083】
以下の化合物[12B]、[13B]、および[14B]は、本アプローチによる、上記に示される第2系列の一般構造を用いたエリスロマイシン系メンバー複合体の特定の例を示す。化合物[12B]において、R1は脂肪酸部分の一般構造
【0084】
【0085】
で置換されており、ここで、「n」は1~20の整数であり、好ましくは、10~20であり、他の置換場所はアジスロマイシン構造に見られる通常の構成要素を有する。化合物[13B]において、R2は化合物[12B]と同じ脂肪酸部分の一般構造で置換されており、他の置換場所R1はロキシスロマイシン構造に見られる通常の構成要素を有する。第2のテリスロマイシン複合体の一般式に基づく例として、化合物[14B]は、R1において同じ脂肪酸の一般構造を有し、NH-R2がテリスロマイシン構造に見られるようなN(CH3)2に代わる。これらの例において、「n」は1~20の整数であり、好ましくは、10~20である。例えば、脂肪酸部分がミリスチン酸である、化合物[12A]、[12B]、[13A]、[13B]、[14A]、および[14B]に示されるものなどのエリスロマイシンと脂肪酸の複合体の実施形態は、CSC阻害活性および細胞保持に、複合体を形成していない抗生物質よりも改善を示していた。当然のことながら、このアプローチは、エリスロマイシン系メンバーと標的化シグナル部分の多くの複合体を形成するために使用され得る。
【0086】
【0087】
以下は、上記に式[11B]として示される一般構造を用いた、テリスロマイシンと脂肪酸部分の複合体の特定の例の実施形態である。式[14C]として示されるこの例では、R1は複合体を形成していないテリスロマイシンと同じままであり、脂肪酸部分はR2にあり、ここで、nは1~20の整数であり、好ましくは、10~20である。式[14C]の好ましい実施形態では、nは12であり、得られた複合体は、CSC阻害活性および細胞保持に複合体を形成していない抗生物質よりも有意な改善を示していた。
【0088】
【0089】
以下に示される化合物[15]は、ミリスチン酸と複合体を形成したエリスロマイシン系メンバーのアジスロマイシンの一実施形態を示す。脂肪酸部分は化合物[9B]のR2位において置換され、R1はメチル基のままである。化合物[15]として示される複合体は、CSCに対して、アジスロマイシン単独に比べて改善された効力および選択性を示しており、本アプローチの実施形態において治療薬として使用され得る。
【0090】
【0091】
親油性陽イオンとの複合体を見ていく前に、アスコルビン酸(ビタミンC)の脂肪酸との複合体の簡単な考察を続ける。いくつかの実施形態は、膜標的化シグナルと複合体を形成した酸化促進剤治療薬を使用し得る。他の治療薬も同様に膜標的化シグナルと複合体を形成させ得る。特に、ビタミンCの誘導体(例えば、アスコルビン酸)を脂肪酸部分と複合体を形成させ得る。例えば、パルミチン酸アスコルビルは、脂肪可溶性ビタミンC源および抗酸化剤食品添加物として大用量で慣用されるアスコルビン酸とパルミチン酸のエステルである。本アプローチの実施形態は、酸化促進剤としてパルミチン酸アスコルビルを使用し得る。本アプローチのいくつかの実施形態は、標的化シグナルと複合体を形成したビタミンCの誘導体を、標的化シグナル部分も有する治療薬とともにまたは伴わずに使用し得る。治療用化合物がリポソーム薬物送達のために脂肪酸と複合体を形成している実施形態は、この実施形態における各治療薬のパッケージングおよび送達における総体的改善のために、パルミチン酸アスコルビル、または脂肪酸とのその他の複合体を含み得る。以下の化合物[S]は、脂肪酸と複合体を形成したビタミンC誘導体の一般構造であり、ここで、nは1~20の整数であり、好ましくは、10~20である。
【0092】
【0093】
上記で述べたように、1以上の治療用化合物は、ミトコンドリア標的化シグナルと複合体を形成した抗生物質の形態を採り得る。以下の段落は、治療薬が、多くの場合、スペーサーアームおよび/または架橋基の使用によってミトコンドリア標的化シグナルと複合体を形成している実施形態を記載する。ミトコンドリア標的化シグナルの例としては、TPP、TPP誘導体、グアニジニウムに基づく部分、キノリニウムに基づく部分、および10-N-ノニルアクリジンオレンジなどの親油性陽イオンが含まれる。いくつかの実施形態では、コリンエステル、ローダミン誘導体、ピリジニウム、(E)-4-(1H-インドール-3-イルビニル)-N-メチルピリジニウムヨージド(F16)、およびスルホニル-尿素誘導体、例えば、ジアゾキシドもミトコンドリア標的化シグナルとして使用され得る。TPP誘導体の例としては、例えば、2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-クロロベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPP;1-ナフチルメチル-TPP;またはp-キシリレンビス-TPPが含まれる。いくつかの優先的実施形態では、TPP誘導体化合物2-ブテン-1,4-ビス-TPPが使用され得る。当然のことながら、これはミトコンドリア標的化シグナルの総覧ではなく、挙げられていないミトコンドリア標的化シグナルも本アプローチから逸脱することなく使用され得る。
【0094】
以下の例は、テトラサイクリン化合物とミトコンドリア標的化シグナルの複合体を示すために使用される。潜在的置換場所の従前の説明(例えば、化合物[3]および[9A]~[11B]に関する)は、ミトコンドリア標的化シグナルとの複合体に当てはまる。いくつかの実施形態では、治療薬は、上記のように架橋基および/または化学的スペーサーアームを用いてTPPと複合体を形成させ得る。加えて、当然のことながら、多くの架橋基が当技術分野で知られ、本明細書に記載されるように、ミトコンドリア標的化シグナルと複合体を形成させるために使用され得る。例えば、全内容が本明細書の一部として援用される1998年11月25日出願の国際特許出願PCT/NV98/00172(特許文献7)に当たる国際特許出願公開WO99/26582(特許文献8)は、式TPP-X-R Z--の使用を記載し、ここで、Zは陰イオンであり、Xは架橋基であり、Rは治療薬である。いくつかの実施形態では、XはC1-6アルキルであり得る。別の例として、全内容が本明細書の一部として援用される2010年4月16日出願の国際特許出願PCT/US2010/031455(特許文献9)に当たる国際特許出願公開WO2010/141177(特許文献10)は、本アプローチにおいて使用され得る様々な「架橋部分」例を記載している。
【0095】
化合物[16A]は、D環のR9位と呼ばれる位置の架橋基-NHC(O)-、およびスペーサーアーム(CH2)n(ここで、「n」は1~20の整数である)を介してミトコンドリア標的化シグナル(この場合、TPP)と複合体を形成したテトラサイクリン誘導体(この場合、テトラサイクリン)の一般式を示す。以下の化合物[16A]は、R9位において例証となる5-炭素スペーサーアームおよびアミド架橋基を介して連結されたTPP陽イオンと複合体を形成したドキシサイクリンの例を示す。
【0096】
【0097】
エリスロマイシン系メンバーとミトコンドリア標的化シグナルの複合体も同様に、化合物[9A]~[11B]に示される置換場所を用いて形成され得る。簡略化のために、それらの構造は繰り返さず、1つの例証となる実施形態のみを示す。以下に示す化合物[17]は、例証となる4-炭素スペーサーアームおよびアミド架橋基を介してTPPと複合体を形成したエリスロマイシン系メンバー、アジスロマイシンを示す。当然のことながら、エリスロマイシン系メンバーとミトコンドリア標的化シグナルの他の多くの複合体も上記のように形成され得る。
【0098】
【0099】
以下の段落は、本アプローチによる複合体を合成するための方法の例を記載する。まず、分取HPLC(高速液体クロマトグラフィー)には2つの方法が利用可能である。方法Aは、Phenomenex KinetexからのLCカラム 5μm EVO C18 100 250×21.2mmを含んだ。勾配溶離液:0.1%ギ酸を含有する20~80%アセトニトリル/水。時間:0~25分。波長:246nm。方法BもまたPhenomenex KinetexからのLCカラム 5μm EVO C18 100 250×21.2mmを含んだ。勾配溶離液:0.015M NaH2PO4および0.015Mシュウ酸を含有する20~80%アセトニトリル/水(pH7)。時間:0~25分。波長:254nm。分析的液体クロマトグラフィーをLCカラム Waters Sunfire C18 30×4.6mmにより行った。勾配溶離液:0.05%ギ酸を含有する3~97%アセトニトリル/水。時間:0~6分。
【実施例】
【0100】
実施例では以下の略語を使用する:N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、N-メチルモルホリン(NMM)、ジクロロメタン(DCM)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HCTU)、メタノール(MeOH)、アンモニア(NH3)。
【0101】
実施例1-ドキシサイクリンと脂肪酸の複合体。(4S,5S,6R,12aS)-4-(ジメチルアミノ)-3,5,10,12,12a-ペンタヒドロキシ-6-メチル-1,11-ジオキソ-9-(テトラデカノイルアミノ)-4a,5,5a,6-テトラヒドロ-4H-テトラセン-2-カルボキサミド(すなわち、上記および以下に化合物[18]として示されるような、R9においてミリスチン酸と複合体を形成したドキシサイクリン)。DCM(12ml)およびDMF(4ml)の混合物中、9-アミノドキシサイクリン(Barden, Timothy C. et al. “Glycylcyclines”. 3. 9-Aminodoxycyclinecarboxamides. J.Med.Chem. 1994, 37, 3205-3211(非特許文献5)に記載されるように調製)(0.70g、1.5mmol)、テトラデカン酸(0.36g、1.5mmol)、HBTU(0.85g、2.25mmol)およびNMM(0.33ml、3.0mmol)の溶液を、室温、窒素雰囲気下で72時間撹拌した。溶媒を減圧下で蒸発させた。得られた残渣をアセトニトリル(40ml)で摩砕し、沈澱を濾取し、アセトニトリル(10ml)、ジエチルエーテル(20ml)で洗浄し、真空下で乾燥させた。粗生成物をDMSOに溶解させ、分取HPLC(方法A)により精製し、(4S,5S,6R,12aS)-4-(ジメチルアミノ)-3,5,10,12,12a-ペンタヒドロキシ-6-メチル-1,11-ジオキソ-9-(テトラデカノイルアミノ)-4a,5,5a,6-テトラヒドロ-4H-テトラセン-2-カルボキサミド(0.086g)を得た。LC-MS 670.2 [M+H]+、RT 2.78分。
【0102】
【0103】
実施例2-ドキシサイクリンと脂肪酸の複合体。(4S,5S,6R,12aS)-4-(ジメチルアミノ)-9-(ヘキサデカノイルアミノ)-3,5,10,12,12a-ペンタヒドロキシ-6-メチル-1,11-ジオキソ-4a,5,5a,6-テトラヒドロ-4H-テトラセン-2-カルボキサミド。以下に示す化合物[19]は、実施例1の方法に従って製造した。LC-MS 698.2 [M+H]+、RT 3.02分。
【0104】
【0105】
実施例3-ドキシサイクリンと脂肪酸の複合体。(4S,5S,6R,12aS)-4-(ジメチルアミノ)-9-(ドデカノイルアミノ)-3,5,10,12,12a-ペンタヒドロキシ-6-メチル-1,11-ジオキソ-4a,5,5a,6-テトラヒドロ-4H-テトラセン-2-カルボキサミド。以下に示す化合物[20]は、実施例1の方法に従って調整した。LC-MS 642.1 [M+H]+、RT 2.42分。
【0106】
【0107】
実施例4-ドキシサイクリンとTPPの複合体(シュウ酸塩として)。[6-[[(5R,6S,7S,10aS)-9-カルバモイル-7-(ジメチルアミノ)-1,6,8,10a,11-ペンタヒドロキシ-5-メチル-10,12-ジオキソ-5a,6,6a,7-テトラヒドロ-5H-テトラセン-2-イル]アミノ]-6-オキソ-ヘキシル]-トリフェニル-ホスホニウムシュウ酸塩。以下に示す化合物[21]は、分取HPLC(方法B)により精製したこと以外は実施例1の方法に従って製造した。LC-MS 409.7 [M 1/2]+、RT 1.53分。
【0108】
【0109】
実施例5-アジスロマイシン複合体の前駆体。2R,3S,4R,5R,8R,10R,11R、12S,13S,14R)-2-エチル-3,4,10-トリヒドロキシ-13-[(2S,4R,5S,6S)-5-ヒドロキシ-4-メトキシ-4,6-ジメチル-テトラヒドロピラン-2-イル]オキシ-11-[(2S,3R,4S,6R)-3-ヒドロキシ-6-メチル-4-(メチルアミノ)テトラヒドロピラン-2-イル]オキシ-3,5,6,8,10,12,14-ヘプタメチル-1-オキサ-6-アザシクロペンタデカン-15-オン。化合物[22]は、Vujasinovic, Ines et al. Novel tandem Reaction for the Synthesis of N’-Substituted 2-Imino-1,3-oxazolidines from Vicinal (sec-or tert-)Amino Alcohol of Desosamine. Eur. J. Org.Chem. 2011, 2507-2518(非特許文献6)に従って調整した。LC-MS 735.3 [M+H]+、RT 0.97分。
【0110】
【0111】
実施例6-アジスロマイシン-脂肪酸複合体。N-[(2S,3R,4S,6R)-2-[[(2R,3S,4R,5R,8R,10R,11R,12S,13S,14R)-2-エチル-3,4,10-トリヒドロキシ-13-[(2S,4R,5S,6S)-5-ヒドロキシ-4-メトキシ-4,6-ジメチル-テトラヒドロピラン-2-イル]オキシ-3,5,6,8,10,12,14-ヘプタメチル-15-オキソ-1-オキサ-6-アザシクロペンタデカ-11-イル]オキシ]-3-ヒドロキシ-6-メチル-テトラヒドロピラン-4-イル]-N-メチル-テトラデカンアミド。化合物[23]は、2R,3S,4R,5R,8R,10R,11R,12S,13S,14R)-2-エチル-3,4,10-トリヒドロキシ-13-[(2S,4R,5S,6S)-5-ヒドロキシ-4-メトキシ-4,6-ジメチル-テトラヒドロピラン-2-イル]オキシ-11-[(2S,3R,4S,6R)-3-ヒドロキシ-6-メチル-4-(メチルアミノ)テトラヒドロピラン-2-イル]オキシ-3,5,6,8,10,12,14-ヘプタメチル-1-オキサ-6-アザシクロペンタデカン-15-オンから、HBTUの代わりにHCTUを用い、シリカゲルで最終精製を行うこと(MeOH(7M)/DCM中2.5%NH3)以外は実施例1の方法に従って調整した。LC-MS 946.4 [M+H]+、RT 2.48分。
【0112】
【0113】
いくつかの実施形態では、これらの治療薬の1以上は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、およびそれらの誘導体などのシクロデキストリン化合物との包接複合体の一部であり得る。いくつかの実施形態では、シクロデキストリン誘導体は、前段落に記載される標的化シグナルの1以上を含み得る。いくつかの実施形態では、シクロデキストリン包接複合体は、標的組織への治療薬の送達を増大させ得る。
【0114】
当然のことながら、本アプローチの実施形態は、抗癌活性に加えて有利な利益を有し得る。いくつかの実施形態では、例えば、この組成物は、放射線増感活性および光増感活性のうち少なくとも1つを有する。いくつかの実施形態では、この組成物は、癌細胞を化学療法薬、天然物質、およびカロリー制限のうち少なくとも1つに増感させる。いくつかの実施形態では、この組成物は、老化細胞を選択的に死滅させる。加齢は多くのヒト癌タイプの発生に最も重要なリスク因子の1つであるので、本アプローチの実施形態はまた、健康寿命および寿命の向上に密接な関係を持つ。アジスロマイシンはそれ自体、筋繊維芽細胞(myo-fibrobasts)などの老化線維芽細胞を標的とし除去する著明な老化細胞除去活性を有するFDA承認薬である。この老化細胞除去活性は、97%に近づく著しい効率を有する。炎症誘発性老化細胞の蓄積は、例えば、心疾患、糖尿病、認知症および癌などの多くの加齢関連疾患の主要な原因であると思われる。癌関連線維芽細胞(CAF)は、腫瘍促進活性を伴う老化筋線維芽細胞であるので、アジスロマイシンを用いた本アプローチの三剤組合せ実施形態はまた悪性および転移性癌、特に、「逆ワールブルク効果」の代謝特性を有するものの解糖腫瘍間質も効果的に標的とし得る。いくつかの実施形態では、この組成物は、老化関連分泌表現型の獲得を妨げる。いくつかの実施形態では、この組成物は、組織修復および再生を促進する。いくつかの実施形態では、この組成物は、生物の寿命および健康寿命のうち少なくとも一方を延長する。
【0115】
本アプローチの実施形態はまた、腫瘍再発、転移、薬剤耐性、悪液質、および放射線療法耐性のうち少なくとも1つを治療するための方法の形態も採り得る。当然のことながら、本アプローチは、腫瘍再発、転移、薬剤耐性、悪液質、および放射線療法耐性のうち少なくとも1つを治療するための薬剤の調製のための化合物を提供するために使用され得る。いくつかの実施形態では、本アプローチによる方法は、従来の癌治療に従って投与し得る。他の実施形態において、本アプローチは、例えば、再発、転移、および/または耐性を予防するまたはその可能性を低減するためなどの従来の癌治療の前に行うことができる。他の実施形態において、本アプローチは、従来の癌治療とともに使用され得る。
【0116】
以下の段落は、上記に示された検査結果と分析に関して使用される方法および材料を説明する。細胞株および試薬:ER(+)ヒト乳癌細胞株としてのMCF7細胞は、原初は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)からカタログ番号HTB-22として購入した。ドキシサイクリン、アジスロマイシンおよびアスコルビン酸(ビタミンC)は、Sigma-Aldrich,Inc.から商業的に入手した。
【0117】
腫瘍様塊形成アッセイ: 単細胞懸濁液は、酵素的(1×トリプシン-EDTA、Sigma Aldrich、#T3924)、および手動解離(25ゲージニードル)を用いて調製した。細胞を「腫瘍スフェアプレート」と呼称する、(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)(ポリ-HEMA、Sigma、#P3932)でプレコートした培養ディッシュの腫瘍様塊培地(DMEM-F12+B27+20ng/ml EGF+PenStrep)中に、非接着条件下、500細胞/cm2の密度で播種した。ビヒクル単独(DMSO)対照細胞を並行して処理した。細胞を5日間増殖させ、37℃の加湿インキュベーター内で維持した。5日の培養の後、三次元腫瘍様塊>50μmを、接眼レンズ(「目盛り」)を用いて計数し、播種した細胞に対するスフェアを形成した細胞のパーセンテージを計算し、腫瘍様塊形成率%(MFE)として表し、1に対して正規化した(1=100%MSF)。
【0118】
代謝フラックス分析: MCF7細胞におけるリアルタイム酸素消費速度(OCR)および細胞外酸性化速度(ECAR)を、Seahorse細胞外フラックス(XFe96)アナライザー(Seahorse Bioscience、USA)を用いて決定した。簡単に述べれば、ウェル当たり1.5×104細胞をXFe96ウェル細胞培養プレートに播種し、一晩インキュベートして細胞を接着させた。次に、細胞を72時間抗生物質で処理した。ビヒクル単独対照細胞を並行して処理した。72時間のインキュベーションの後、細胞を予温したXFアッセイ培地(またはOCR測定の場合には、10mMグルコース、1mMピルビン酸塩、2mM L-グルタミンを添加し、pH7.4に調整したXFアッセイ培地)で洗浄した。次に、細胞を無CO2インキュベーターにて、175μL/ウェルのXFアッセイ培地中、37℃で1時間維持した。インキュベーションの期間中、本発明らは XFアッセイ培地中、25μLの80mMグルコース、9μMオリゴマイシン、および1M2-デオキシグルコース(ECAR測定の場合)または10μMオリゴマイシン、9μMFCCP、10μMロテノン、10μMアンチマイシンA(OCR測定の場合)を、XFe96センサーカートリッジの注入口に添加した。測定値はタンパク質含量(ブラッドフォードアッセイ)により正規化した。データセットを、XFe96ソフトウエアおよびGraphPad Prismソフトウエアを用い、一元配置ANOVAおよびスチューデントのt検定計算を用いて分析した。試験は全て、5連で独立に3回行った。
【0119】
アノイキス耐性に関する生/死アッセイ: ドキシサイクリン単独、アジスロマイシン単独または組合せのいずれかで48時間、単層処理した後、低接着プレートに播種することによってCSC集団を濃縮した。これらの条件下、アノイキス(細胞基質接着の欠如によって誘導されるアポトーシスの一種)を受けていたCSC集団は無く、CSCは生存していると考えられる。次に、生存しているCSC画分をFACS分析により決定した。簡単に述べれば、1×104個のMCF7単層細胞を6ウェルプレートにて抗生物質またはビヒクル単独で48時間処理した。次に、細胞をトリプシン処理し、低接着プレートの腫瘍様塊培地中に播種した。12時間後、MCF7細胞を回転沈降させた。細胞を2回すすぎ、LIVE/DEAD色素(Fixable Dead Violet反応性色素;Invitrogen)とともに10分間インキュベートした。次に、サンプルをFACS(Fortessa、BD Bioscence)により分析した。その後、生存集団を、LIVE/DEAD色素染色アッセイを使用することにより同定した。データは、FlowJoソフトウエアを用いて分析した。
【0120】
本アプローチの実施形態の記載に使用される用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、限定を意図しない。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明らかにそうではないことを示さない限り、複数形も含むものとする。本アプローチは、以下の詳細な説明の考慮事項から明らかとなるような多くの代替物、改変、および等価物を包含する。
【0121】
本明細書において本アプローチの種々の要素を記載するために「第1」、「第2」、「第3」、「a)」、「b)」および「c)」などの用語が使用される場合があるが、特許請求の範囲はこれらの用語によって限定されるべきではないと理解される。これらの用語は本アプローチのある要素を別の要素と区別するために用いられるにすぎない。よって、以下に述べる第1の要素は、本アプローチの教示から逸脱することなく、要素態様と呼ぶことができ、第3の要素も同様である。よって、「第1」、「第2」、「第3」、「a)」、「b)」および「c)」などの用語は、関連の要素に必ずしも順序または他の階層を示唆することを意図せず、単に特定のために使用される。操作(または工程)の順序は、特許請求の範囲に示される順序に限定されない。
【0122】
特に断りのない限り、本明細書に使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、当業者により一般に理解されているものと同様の意味を有する。さらに、慣用される辞書に定義されるものなどの用語は、本願の文脈および関連分野におけるそれらの意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書において明示的に定義されない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されるべきではないと理解される。本明細書に記述される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参照文献は、それらの全内容が本明細書の一部として援用される。用語に矛盾がある場合には、本明細書が優先する。
【0123】
また、本明細書で使用する場合、「および/または」は、関連の列挙項目のうち1以上の、可能性のあるあらゆる組合せならびに択一的に解釈される場合の組合せの不在(「または」)を包含する。
【0124】
文脈がそうではないことを示さない限り、本明細書に記載される本アプローチの種々の特徴はいずれの組合せで使用することもできることが特に意図される。さらに、本アプローチは、いくつかの実施形態において、例証となる実施形態に関して記載されるいずれかの特徴または特徴の組合せが除外または省略され得ることも企図する。
【0125】
本明細書で使用する場合、移行句「から本質的になる」(および文法的変形)は、列挙された材料または工程および特許請求の範囲の「基本的および新規な特徴」に実質的に影響を及ぼさないものを包含すると解釈されるべきである。よって、本明細書で使用する場合、「から本質的になる」という用語は、「を含む」と等価として解釈されるべきではない。
【0126】
「約」という用語は、例えば、量または濃度などの測定可能な値に関して本明細書で使用する場合、示された値の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、またはさらには±0.1%の変動を包含することを意味する。測定可能な値に関して本明細書で示される範囲は、他のいずれの範囲もおよび/またはその間の個々の値も含み得る。
【0127】
このように本アプローチの特定の実施形態を記載してきたが、添付の特許請求の範囲は、それらの多くの明らかな変形形態が以下に特許請求されるようなその趣旨または範囲から逸脱することなく可能であるので、上記に示される特定の詳細によって限定されないと理解されるべきである。