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特許7487225心臓活動を検出するためのプロセッサデバイスを有する植込み型医療デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】心臓活動を検出するためのプロセッサデバイスを有する植込み型医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/283 20210101AFI20240513BHJP
   A61B 5/363 20210101ALI20240513BHJP
   A61B 5/366 20210101ALI20240513BHJP
【FI】
A61B5/283
A61B5/363
A61B5/366
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021556218
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2020051940
(87)【国際公開番号】W WO2020224813
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】62/844,765
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512158181
【氏名又は名称】バイオトロニック エスエー アンド カンパニー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】BIOTRONIK SE & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Woermannkehre 1 12359 Berlin Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンネラガンティ、スウェザ
(72)【発明者】
【氏名】ガーナー、ガース
(72)【発明者】
【氏名】ウィッティントン、アール. ホリス
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0236034(US,A1)
【文献】特開2013-184062(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0237868(US,A1)
【文献】特表2015-519087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者(P)内の心臓活動を示す信号(E)を取得するためのセンサデバイス(12)と、
前記センサデバイス(12)を使用して得られた前記信号(E)を処理するように構成されたプロセッサデバイス(11)であって、前記信号を感知閾値(ST、ST1、ST2)と比較することによって、前記信号(E)における心臓イベントを示すピークを検出するように構成されているプロセッサデバイス(11)と
を有する、植込み型医療デバイス(1)であって、
前記プロセッサデバイス(11)は、少なくとも1つの期間(TPR、TPR1、TPR2)における前記感知閾値(ST、ST1、ST2)が、前記少なくとも1つの期間(TPR、TPR1、TPR2)に亘って一定である値をとり、また前記感知閾値(ST、ST1、ST2)が、前記少なくとも1つの期間(TPR、TPR1、TPR2)の経過後に減少するように、前記感知閾値(ST、ST1、ST2)を適応的に制御するように構成され
前記プロセッサデバイス(11)は、前記信号(E)が前記感知閾値(ST、ST1、ST2)を超えた後に続くピーク検出ウィンドウ(PW)内の最大ピーク値(MA)を識別するように構成され、
前記プロセッサデバイス(11)は、前記最大ピーク値(MA)から導出される閾値基準(TR)に基づいて後続のピークを検出するための前記感知閾値(ST、ST1、ST2)の開始値(SV、SV1、SV2)を設定するように構成され、また
前記プロセッサデバイス(11)は、前記閾値基準(TR)を前記最大ピーク値(MA)に応じた値に設定するように、又は、前記最大ピークに応じた前記値が基準絶対閾値(RAT)を超える場合は前記閾値基準(TR)を前記基準絶対閾値(RAT)に設定するように構成されている、植込み型医療デバイス(1)。
【請求項2】
前記最大ピークに応じた前記値が基準絶対閾値(RAT)を超える場合において、前記基準絶対閾値(RAT)が固定値であり、又は少なくとも2つの以前のピークのピーク振幅値に基づいて適応的に決定されることを特徴とする、請求項に記載の植込み型医療デバイス(1)。
【請求項3】
前記プロセッサデバイス(11)は、前記信号(E)が前記感知閾値(ST、ST1、ST2)を超えた後、検出ホールドオフ期間(DHP)が経過したら、後続のピークの検出を開始するように構成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の植込み型医療デバイス(1)。
【請求項4】
前記プロセッサデバイス(11)は、前記感知閾値(ST、ST1、ST2)が、前記検出ホールドオフ期間(DHP)に続く所定の期間(TPR、TPR1、TPR2)に亘って一定に保たれるように、前記感知閾値(ST、ST1、ST2)を制御するように構成されていることを特徴とする、請求項に記載の植込み型医療デバイス(1)。
【請求項5】
前記プロセッサデバイス(11)は、前記感知閾値(ST、ST1、ST2)が、前記検出ホールドオフ期間(DHP)の直後の遅延期間(ULD、LULD)において一定に保たれるように、前記感知閾値(ST、ST1、ST2)を制御するように構成されていることを特徴とする、請求項又はに記載の植込み型医療デバイス(1)。
【請求項6】
前記プロセッサデバイス(11)は、検出されたピークに基づいて前記遅延期間(ULD、LULD)の時間長を適応的に設定するように構成されていることを特徴とする、請求項に記載の植込み型医療デバイス(1)。
【請求項7】
前記プロセッサデバイス(11)は、前記遅延時間(ULD、LULD)を、前記検出されたピークが低信号閾値(LST)を超える最大ピーク値(MA)を有する場合は第1の値に設定するように、また前記検出されたピークが前記低信号閾値(LST)を下回る最大ピーク値(MA)を有する場合は第2の値に設定するように構成されていることを特徴とする、請求項に記載の植込み型医療デバイス(1)。
【請求項8】
前記第2の値が前記第1の値よりも大きいことを特徴とする、請求項に記載の植込み型医療デバイス(1)。
【請求項9】
前記プロセッサデバイス(11)は、前記感知閾値(ST、ST1、ST2)が、所定の目標閾値(M、M1、M2)に達するまで、一連の複数の期間(TPR、TPR1、TPR2)に亘って段階的に減少するように、前記感知閾値(ST、ST1、ST2)を制御するように構成されていることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか一項に記載の植込み型医療デバイス(1)。
【請求項10】
前記一連の複数の期間(TPR、TPR1、TPR2)のうちの少なくともいくつかの期間(TPR、TPR1、TPR2)は、等しい時間長を有することを特徴とする、請求項に記載の植込み型医療デバイス(1)。
【請求項11】
前記プロセッサデバイス(11)は、ある期間の前記感知閾値(ST、ST1、ST2)が、前の期間(TPR、TPR1、TPR2)の前記感知閾値(ST、ST1、ST2)の所定の割合値として設定されるように、前記感知閾値(ST、ST1、ST2)を制御するように構成されていることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか一項に記載の植込み型医療デバイス(1)。
【請求項12】
植込み型医療デバイス(1)を操作するための方法であって、
前記植込み型医療デバイス(1)のプロセッサデバイス(11)を使用して、患者(P)内の心臓活動を示す信号(E)を処理するステップであって、前記信号(E)は、前記信号(E)を感知閾値(ST、ST1、ST2)と比較することによって前記信号(E)における心臓イベントを示すピークを検出するためにセンサデバイス(12)によって取得される、ステップを含む、方法において、
前記感知閾値(ST、ST1、ST2)は、少なくとも1つの期間(TPR、TPR1、TPR2)における前記感知閾値(ST、ST1、ST2)が、前記期間(TPR、TPR1、TPR2)に亘って一定である値をとるように、また前記感知閾値(ST、ST1、ST2)が、前記少なくとも1つの期間(TPR、TPR1、TPR2)の後に減少するように、適応的に制御され
前記信号(E)が前記感知閾値(ST、ST1、ST2)を超えた後にピーク検出ウィンドウ(PW)内の最大ピーク値(MA)が識別され、
前記最大ピーク値(MA)から導出される閾値基準(TR)に基づいて後続のピークを検出するために、前記感知閾値(ST、ST1、ST2)の開始値(SV、SV1、SV2)が設定され、また
前記閾値基準(TR)は、前記最大ピーク値(MA)に応じた値に設定され、又は、前記閾値基準(TR)は、前記最大ピークに応じた前記値が基準絶対閾値(RAT)を超える場合には、前記基準絶対閾値(RAT)に設定される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載の植込み型医療デバイス、及び植込み型医療デバイスを操作するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の植込み型医療デバイスは、患者内の心臓活動を示す信号を取得するためのセンサデバイスを有している。植込み型医療デバイスは更に、センサデバイスを使用して得られた上記信号を処理するように構成されたプロセッサデバイスを含み、プロセッサデバイスは、上記信号を感知閾値(sense threshold)と比較することによって、信号内の心臓イベントを示すピークを検出する。
【0003】
この種の植込み型医療デバイスは、例えば心臓活動を監視するために、特に心電図の形状の心臓信号を検出することができるように、患者に植え込まれる監視デバイスであり得る。そのような監視デバイスは、例えば患者の皮下に植え込まれてもよく、従って、心臓内ではなく、心臓の外側の近くの皮下に配置され得る。この種の監視デバイスは、患者の心臓の健康の継続的な監視が達成され得るように、長期間、例えば数ヶ月又は数年に亘って患者内に留まるのに適していてもよい。
【0004】
監視デバイスは、例えば、植え込まれた状態で繰り返し測定(いわゆるスナップショット)を行い、そのような測定を記録するために以前の測定を上書きする、いわゆるループレコーダとして構成され得る。そのような監視デバイスはエネルギー効率が良く、例えば適切な通信技術を採用することにより、記録されたデータを患者の外部の外部デバイスに送信するように構成することができる。本明細書では、エネルギー効率の高い動作の場合、監視デバイスは、有益にはデータを継続的に記録せず、異常な挙動、例えば徐脈を示す心臓活動のスナップショットのみを記録する。
【0005】
心臓活動を検出するために、通常、信号が処理されて心電図が導出される。心電図は、いわゆるQRS波形やT波などの心臓イベントを示す波形で構成される。一連のQRS波形を監視することにより、心拍数と潜在的な不整脈とに関する結論を導き出すことができる。
【0006】
この点での1つの問題は、心電図の波形の振幅が変動し得ることである。例えば、大きな振幅のピークを有するQRS波形の後に、実質的に小さな振幅のピークによって形成されるQRS群が続く可能性がある。更に、通常のQRS波形のリズミカルなパターンから外れた、心筋の電気的過敏性に関連する異所性(エクトピー)が発生する可能性がある。心臓イベント、すなわちQRS波形又は異所性の過小感知は、誤った心臓活動スナップショットの記録、及び徐脈と心静止の誤った検出を引き起こし得るが、これは回避する必要がある。
【0007】
米国特許出願公開第2013/0237868号は、生理学的信号のピークを検出するための閾値を制御する方法を開示している。この方法では、人から測定された生理学的信号が取得され、生理学的信号を閾値と比較した結果に基づいて、生理学的信号のピークが検出されるかどうかが判定される。この文献の閾値は、最小値に向かって連続的に減少するように制御され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2013/0237868号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、心臓イベントに関連する絶対的若しくは相対的に小さい信号振幅の場合、又は心臓イベントに関連する絶対的若しくは相対的に大きい信号振幅の場合でさえ、心臓イベントの信頼できる検出を可能にする植込み型医療デバイス、及び植込み型医療デバイスを操作するための方法を提供することである。例えば、心室性期外収縮(Premature Ventricular Contractions:PVC)としての心臓の異所性は、イベントの伝導の方向に基づいて、ECGの周囲の高さに比べて振幅が大きくなったり小さくなったりする可能性がある。本発明の実施例によれば、提案された解決策は両方の場合に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1の構成を有する植込み型医療デバイスによって達成される。
【0011】
従って、プロセッサデバイスは、少なくとも1つの期間における感知閾値が、上記少なくとも1つの期間に亘って一定である値をとり、感知閾値が、上記少なくとも1つの期間の経過後に減少するように、上記感知閾値を適応的に制御するように構成される。
【0012】
プロセッサデバイスは、信号が感知閾値を超えるかどうかを観察することによって、センサデバイスから得られる信号、特に心電図信号のピークを検出するように構成される。信号が上記感知閾値を超える場合、これは、心臓イベント、例えば、信号内のQRS波形又はいわゆる心臓異所性を示し、これらは、検出され、潜在的に記録されなければならない。
【0013】
本明細書では、心臓イベントの過小感知を回避するために、感知閾値は、感知閾値の初期開始値に関して有利に低減され、その結果、感知閾値は、低振幅の心臓イベントの検出を可能にするように適合される。但し、前のピークに続いて、少なくとも1つの期間、感知閾値は一定に保たれる。例えば、検出されたピークに続く暫くの間、その期間に続く感知閾値を低下させるために、感知閾値はかなり高い値で一定に保たれ得る。これにより、前のピークに続く期間に、ピークに続く短い時間範囲内の別のピークが検出される可能性は低く、ピークは感知閾値を超えた場合にのみ検出され、感知閾値は、前のピークの近くで、前のピークに対してある時間的距離よりも高くなっている。
【0014】
一般に、イベントの過小評価を引き起こし、徐脈と心静止の誤検出を引き起こし得る様々なシナリオが存在し得る。例えば、大振幅の心臓異所性が発生した後、過小感知が発生する可能性がある。別の実例では、振幅が小さい異所性の過小感知が発生し得る。更に別の実例では、以前の心臓イベントに関連する以前のピークに関して、近い時間範囲での異所性の過小感知が発生する可能性がある。心臓イベントが、絶対的に又は前の波形と比較して、心臓信号の小さな振幅波形にのみ関連付けられている場合であっても、心臓イベントの信頼できる検出を提供するために、通常、そのような過小感知イベントは回避されなければならない。
【0015】
一実施例では、プロセッサデバイスは、上記信号による感知閾値の超過に続くピーク検出ウィンドウ内の最大ピーク値を識別するように構成される。信号が特定の時点で感知閾値を超えると、心臓イベントが識別され、ピーク検出ウィンドウが開始される。ピーク検出ウィンドウ内で信号が追跡され、ピーク検出ウィンドウ内の信号の最大振幅が最大ピーク値としてレジスタに格納される。
【0016】
一実施例では、最大ピーク値に基づいて、その後、後続のピークを検出するための感知閾値の開始値を設定することができる。すなわち、一実施例における感知閾値の開始値は、前のピークの最大ピーク値から導出される基準閾値を利用して設定される。例えば、閾値基準は、少なくとも初期期間において、最大ピーク値に対応するように設定され得る。或いは、基準閾値は、最大ピーク値よりも低い値、例えば、最大ピーク値の特定の割合に対応する値に設定され得る。本明細書の異なる設定は、前のピーク検出ウィンドウで検出されたピークの最大ピーク値に異なる方法で関連する異なる開始値を使用することができる。
【0017】
大振幅の心臓イベント、例えば、大振幅を示す心臓異所性の場合に、感知閾値の開始値が(過度に)大きな値に設定されることを回避するために、開始値を制限することが望ましい場合がある。このため、一実施例では、プロセッサデバイスは、この値が所定の基準絶対閾値を超えない場合に限り、最大ピーク値に依存する値に基準閾値を設定するように構成され得る。最大ピーク値に依存する値が基準絶対閾値を超える場合、基準閾値が、最大ピーク値と基準絶対圧力に依存する値の最小値に対応するように選択されるように、代わりに基準閾値を基準絶対閾値に設定することができる。
【0018】
一実施例によれば、プロセッサは、心臓活動が所定の期間感知されなかった場合に、基準閾値を最小閾値に設定するように構成される。その最小閾値は、絶対最小閾値にすることができる。
【0019】
基準絶対閾値は、例えば、植込み型医療デバイスによってピックアップされた心電図信号について、0から2mVの間、例えば、0.2mVから1mVの間、例えば、0.3mVから0.4mVの間の範囲にあり得る。
【0020】
一実施例では、基準絶対閾値は固定されており、植込み型医療デバイスの動作中に変更されない。この場合、基準絶対閾値は、例えば、プロセッサデバイス内で固定的にプログラムされ得る。
【0021】
代替の実施例では、基準絶対閾値は、それ自体が、いくつかの前のピーク、例えば、少なくとも2つの前のピークに基づいて決定されるという点で適応可能であり得る。例えば、基準絶対閾値は、定義された数の前のピーク、例えば2つ以上の前のピークの最大ピーク値の平均に従って設定され得る。このようにして、任意の患者集団の信号振幅の個々の変動を考慮に入れることができる。
【0022】
例えば、基準絶対閾値は、定義された数の前のピークの最大ピーク値の平均の所定の割合に対応するように設定され得る。
【0023】
一実施例では、プロセッサデバイスは、感知閾値を超えた後、従って前のピークの検出後に、検出ホールドオフ期間が経過すると、後続のピークの検出を開始するように構成される。検出ホールドオフ期間は、ピークの検出直後に別のピークが検出されるのを防ぐ。むしろ、ピークの検出に続いて(感知閾値を超えた場合)、検出ホールドオフ期間が開始され、後続のピークをそれ以上検出することはできない。従って、検出ホールドオフ期間は、ピーク検出が不可能なブランキングウィンドウに似ている。
【0024】
一実施例では、処理デバイスは、感知閾値が、検出ホールドオフ期間に続く所定の期間に亘って一定に保たれるように、感知閾値を制御するように構成される。検出ホールドオフ期間が経過した後、再びピークを検出することができ、このために、感知閾値が適切に設定される。
【0025】
本明細書では、一実施例における感知閾値は、開始値で開始し、目標閾値に近づくために減少する前に、開始値で所定の期間に亘って一定に保たれる。従って、検出ホールドオフ期間の直後に、感知閾値をかなり高い閾値に維持することができ、その後のピークの検出を可能にするために、その後にのみ減少させることができる。
【0026】
一実施例では、プロセッサデバイスは、検出ホールドオフ期間の直後の遅延期間において感知閾値が一定に保たれるように、上記感知閾値を制御するように構成される。遅延期間において、感知閾値は、遅延期間内に別の心臓イベントの検出の可能性が減少するように、増加した値に設定され得る。本明細書の遅延期間は、固定された時間幅を有し得るか、又は例えば、遅延期間の幅が以前に検出されたピークの最大振幅値に基づいて変更されるという点で適応的であり得る。
【0027】
例えば、前のピークが大きな最大振幅値を有する場合、遅延時間は小さな値に設定されてもよく、その結果、感知閾値は、低減された目標閾値に近づくためにより速く低減される。次に、前のピークが小さな振幅を示す場合、より長い遅延期間を使用することができ、その結果、小さな信号振幅に遭遇したときに、感知閾値がより長い時間より高い値に保たれる。これにより、検出閾値のカウントダウンの開始が遅れ、小信号のカウントダウンが遅くなり、これにより、小信号の感知が向上する可能性があり、さもなければ、ノイズが原因で過感知が発生し易くなる。
【0028】
本発明の文脈において、過感知は、検出アルゴリズムを使用してECG内の活動を誤って検出することとして理解される。過感知は、例えば、特定のタイプの心臓イベントを検出するための感知閾値の設定が低すぎる場合に発生し、ECG内の他の心臓活動も対象の心臓イベントとして識別される。他方、過小感知は、ECGにおける心臓イベントの検出漏れとして理解される。例えば、感知閾値の設定が高すぎると、過小感知が発生する可能性があるため、感知閾値よりも振幅が小さい対象の心臓イベントは、アルゴリズムによって監視される。
【0029】
一実施例では、プロセッサデバイスは、遅延期間を、検出されたピークのピーク値(最大振幅値)が低い信号閾値を超えている場合は第1の値に設定し、検出されたピークが上記低信号閾値を下回るピーク値を有する場合は第2の値に設定するように構成される。従って、以前に検出されたピークが低信号閾値を超えている場合、遅延期間はかなり短い可能性がある第1の値に設定され得る。次に、前のピークのピーク値が低信号閾値を下回っている場合、感知閾値を目標閾値に向けて減らすための感知閾値のカウントダウンが遅延するように、遅延時間は、第1の値よりも大きい可能性がある第2の値に設定される。
【0030】
一実施例では、プロセッサデバイスは、所定の目標閾値に到達するまで、一連の複数の期間に亘って感知閾値が段階的に減少するように、感知閾値を制御するように構成される。従って、感知閾値は段階的に減少し、一部又は全ての期間は等しい時間長を有し得、従って、感知閾値は、一定の幅を有する段階的に減少され得る。削減は、所定の目標閾値に達するまで行われ、感知閾値が目標閾値を下回らないようにするが、目標閾値に達すると目標閾値の値を想定する。
【0031】
期間の長さは、ユーザ定義の設定に従って設定できる。例えば、時間の長さは、50ミリ秒から500ミリ秒の間、例えば、100ミリ秒から300ミリ秒の間の値をとることができ、異なる設定では、異なる値を選択することができ、時間長の値が小さいほど、目標閾値に向かってより速い減少率が生じる。
【0032】
段階的な削減は、期間の終わりに達した後、感知閾値を特定のマージンだけ削減することによって行うことができる。本明細書では、感知閾値は、前の期間の感知閾値の割合値として、次の期間に設定することができる。
【0033】
例えば、初期設定では、ある期間の感知閾値は、前の時間ウィンドウの感知閾値の50%から95%の間、例えば、60%から90%の間の値に設定され得る。本明細書では、特定の設定に応じて、割合を適合させることができる。一実例では、1つの設定において、初期設定の減少率は、75%の割合値によって定義され得る。削減率を遅くする場合は、例えば87.5%に設定され得る。減少率を増加させる場合、割合は62.5%に設定することができ、減少率は、例えば、ユーザ定義の設定によって定義及び選択することができる。
【0034】
設定を適切に選択することにより、心臓イベントの過小感知を防ぐことができる。例えば、大きな前の心臓イベント、例えば、大きな異所性の後の過小感知は、例えば、感知閾値に対してより低い開始値を選択することによって回避され得る。
【0035】
小さな心臓イベント、例えば、小さな早期の現在の心室収縮の過小感知、及び/又は前の心臓イベントに近い時間的距離内に続く心臓イベントの過小感知は、例えば、時間ウィンドウの時間長を適切に設定することによって、及び/又は感知閾値を減らすための割合を増やすことによって、より速い削減を選択することによって回避され得る。
【0036】
上記目的はまた、植込み型医療デバイスを操作するための方法であって、上記植込み型医療デバイスのプロセッサデバイスを使用して、患者内の心臓活動を示す信号であって、上記信号における心臓イベントを示すピークを検出するためのセンサデバイスによって取得される信号を感知閾値と比較することによって処理するステップを含み、上記感知閾値は、少なくとも1つの期間における上記感知閾値が、上記期間に亘って一定である値をとり、上記感知閾値が、上記少なくとも1つの期間の後に減少するように、適応的に制御される、方法、によって達成される。
【0037】
植込み型医療機器に関する上記の利点及び有利な実施例は、この点に関して上記を参照するように、方法にも同様に適用される。
【0038】
続いて、本発明の根底にある目的は、図面に示されている実施例を参照してより詳細に説明されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】患者に植え込まれた状態の監視デバイスの形をした医療デバイスの概略図を示す。
図2】監視デバイスの形をした植込み型医療デバイスの概略図を示す。
図3A】心臓イベントに関連する様々な波形を示す様々な心電図信号を示す。
図3B】心臓イベントに関連する様々な波形を示す様々な心電図信号を示す。
図3C】心臓イベントに関連する様々な波形を示す様々な心電図信号を示す。
図3D】心臓イベントに関連する様々な波形を示す様々な心電図信号を示す。
図3E】心臓イベントに関連する様々な波形を示す様々な心電図信号を示す。
図4】感知閾値を使用した心電図信号における心臓イベントの感知の図を示す。
図5】感知閾値の開始値を設定するための基準絶対閾値の適用を示す。
図6】検出されたピークのピーク値に基づく時間ウィンドウの適応を示す。
図7】様々な設定の感知閾値を示す。
図8】様々な設定の別の実例の感知閾値を示す。
図9】様々な設定の更に別の実例の感知閾値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、患者P内に植え込まれた状態の植込み型医療デバイス1を示している。植込み型医療デバイス1は、監視デバイスとして機能し、患者Pの心臓Hの近くに植え込まれ、植込み型医療機器1は、外部機器2と通信して、測定データを外部機器2に転送することができる。
【0041】
例えば、植込み型医療デバイス1は、データを記録するように構成されたループレコーダの形状を有し得、実際のデータは、ループ方式で以前のデータを上書きし得る。
【0042】
監視装置の形をした医療デバイス1は、長期間、例えば数ヶ月又は数年に亘って患者P内に留まらなければならない。このため、医療デバイス1は、徐脈又は心静止などの異常な行動が検出された場合にのみデータが記録され、外部デバイス2に転送されるという点で、エネルギー効率の良い方法で動作しなければならない。スナップショットとしても示される測定スニペットの形でのデータの誤った記録は、ここでは回避されなければならない。
【0043】
ここで図2を参照すると、植込み型医療デバイス1は、患者の心臓Hの活動に関連する感知信号を感知するためにセンサデバイス12と協働するプロセッサデバイス11を有している。センサデバイス12は、医療デバイス1によって、心電図の形の信号を記録することができるように、例えば、心臓Hから発生し、特に心臓Hの心室収縮に対応する電気信号を電気的に感知するための電極を含み得る。
【0044】
更に、植込み型医療デバイス1は、記録されたデータを格納するのに役立つメモリデバイス13と、バッテリの形をしたエネルギー貯蔵14と、記録されたデータ(スナップショット)を外部デバイス2に転送するため、及び、例えば外部デバイス2からの、例えば、医療デバイス1の特定の設定に関連する制御コマンド又はプログラミングデータ受信するための外部デバイス2への通信接続を確立するための回路の形状の通信デバイス15と、を有している。
【0045】
医療デバイス1は、内部に受け入れられた構成要素を液密にカプセル化するハウジング10を有する。
【0046】
ここで、図3Aから図3Eを参照すると、一般的に、心電図Eにおいて、心臓の活動は、特定の波形、すなわち、周期的にいわゆるT波Cが定期的に続くいわゆるQRS波形Aに従って識別できる。本明細書のQRS波形Aは、かなり大きな振幅のピークを含み、QRS波形Aのピークは、通常、後続のT波Cをはるかに超える。図3Aから分かるように、一般に、QRS波形Aのシーケンスに従って、心拍数を決定できる。
【0047】
健康な心臓であっても、心室伝導系の電気的過敏性によって引き起こされるような、異所性B(略してPVC)が単独で又は繰り返されるパターンで発生することは珍しいことではない。そのような異所性Bは、QRS波形Aの規則的なパターンを中断し、図3Bに示されるように、QRS波形Aよりも実質的に大きい信号振幅、又は図3Cに示されるように、QRS波形Aよりも実質的に小さい信号振幅を有し得る。更に、そのような異所性Bは、図3B及び図3Cの場合のように、前のQRS波形Aに対してかなりの時間的距離で発生する可能性があり、又は、図3Dの場合のように、前のQRS波形Aにかなり近い距離内で発生し得る。
【0048】
更に、T波Cは、図3Aから図3Dのように、小さな信号振幅を有し得るが、図3Eに示されているように、振幅がかなり大きい場合もある。
【0049】
一般に、QRS波形Aと異所性Bの発生を検出できることが望まれる。同時に、QRS波形A及び異所性BはT波Cと区別され、QRSピーク又は異所性として誤って検出及び識別されてはならない。
【0050】
一般に、検出されたQRS波形A及び異所性Bに従って心拍数が決定され、心拍数からの異常なパターンが検出された場合、スナップショットが記録され、潜在的に外部デバイス2に転送されなければならない。ここで、QRS波形A又は異所性Bに関連するピークが見落とされる場合、これは、心拍数の誤った読み取り、従って誤って取られたスナップショット、並びに徐脈及び心静止の潜在的に誤った検出につながる可能性がある。
【0051】
このような誤ったスナップショットと徐脈及び心静止の誤った識別の主な原因は、異所性Bによって引き起こされる過小評価である。本明細書では、3つのタイプの過小感知イベント、即ち、大きな異所性Bの後の過小感知、小さな異所性Bの過小感知、及び前のQRS波形Aに近い時間範囲内で続く異所性Bの過小感知が一般に起こり得る。
【0052】
ここで図4を参照すると、インスタントテキスト内で、QRS波形A及び異所性Bに関連するピークの信頼できる検出を可能にするスキームが提案されている。
【0053】
QRS波形A又は異所性Bに関連するピークの検出は、通常、感知閾値STを使用して行われ、センサデバイス12(図2を参照)によってピックアップされた心電図Eに対応する信号は、感知閾値STと比較され、信号が感知閾値STを超えた場合、QRS波形A又は異所性Bに関連するピークで検出される(QRS波形A又は異所性Bで必ずしも区別されるわけではなく、単にリズムパターンであり、これから心拍数が決定される)。
【0054】
本明細書では、目標閾値Mに向かって連続的に低減される時間可変感知閾値STを使用することが提案され、感知閾値STを低減する方法及びパターンは、例えば、図4に示すように、異所性Bに関連する小さな振幅のピークを検出できるように適応可能であり得る。
【0055】
図4のスキームでは、信号Eが感知閾値STを超えた場合にピークが検出されると想定され、その時点でピーク検出ウィンドウPWが開始され、ピーク検出ウィンドウPW内で、信号振幅が閾値基準レジスタ内で追跡される。このようにして、ピーク検出ウィンドウPW内の最大ピーク値MAが決定されて保存され、それを使用して、後続の検出段階で感知閾値STを設定することができる。
【0056】
また、信号Eが感知閾値STを超えると、検出ホールドオフ期間DHPが開始され、ピークの検出は行われず、その結果、前のピークまでの特定の距離内で追加のピークを検出することができない。
【0057】
検出ホールドオフ期間DHPは、パルス検出ウィンドウPWと長さが等しい場合があるが、図4から明らかなように、パルス検出ウィンドウPWとも長さが異なる場合がある。
【0058】
検出ホールドオフ期間DHPに続いて、新しい感知閾値STが設定され、感知閾値STは、ピーク検出ウィンドウPWで決定された最大ピーク値MAを利用することによって、パルス検出ウィンドウPW内のピーク測定から導出される。特に、感知閾値STの開始値は、パルス検出ウィンドウPWで決定される最大ピーク値MAの特定の割合として設定され得る。
【0059】
本明細書では、図4から明らかなように、一実施例では、新しい検出段階の開始時に、感知閾値STは、遅延時間ULD(上から下への遅延としても示される)内の上限閾値UTPに従って設定される。遅延時間ULD内で、感知閾値STは、UTP×TRに等しい値に設定され、TRは、最大ピーク値MAに等しい閾値基準であり、UTPは、例えば、80から95%の範囲の割合値に対応する。
【0060】
遅延期間ULDの満了時に、感知閾値STは、下限閾値LTPに閾値基準TRを掛けたものに対応する減少した値に設定され、LTPも割合値であるが、遅延期間ULDの割合値UTPよりも小さくなっており、例えば、LTPは60から90%の範囲にある。
【0061】
遅延期間ULD内及び遅延期間ULDに続く期間TPR内の感知閾値STは一定に保たれる。期間TPR(閾値割合削減時間としても示される)の満了時に、感知閾値STは、この閾値基準TRを掛けた値TRRPに削減され、低減値TRRPは、図4に示すように、基準曲線RCが低減され、従って、感知閾値STも低減される割合値に対応する。
【0062】
別の期間TPRの満了後、感知閾値STは再び1ステップ減少し、このステップは、基準曲線RCの前の値にTRRPを乗算することによって基準曲線RCが減少するという点で、割合係数TRRPによる減少に再び対応する。
【0063】
目標閾値M(感知閾値STが下がってはならない閾値の最小値に対応する)に到達した場合、感知閾値STは、目標閾値Mの値を想定し、目標閾値Mに留まる。
【0064】
後続のピーク(図4の実例では異所性B)が感知閾値STの超過を引き起こした場合、ピークが再び検出され、手順が新たに開始される。ここでも、後続の検出段階における感知閾値STは、異なる検出段階における感知閾値STが異なる可能性があるように、現在決定されている最大ピーク値MAに従って設定される。
【0065】
図4のスキームを使用することにより、感知閾値STは段階的に減少し、感知閾値STは、目標閾値Mに向かって段階的に減少させられる。期間TPRの長さ及び減少のためのパーセンテージ値を適切に選択することによって、本明細書では、検出アルゴリズムは、小振幅信号の感知に適合され得る。設定は、異なる状態を有し、従って、異なる心臓活動パターンの発生の異なる可能性を有する異なる患者のために変更され得る。
【0066】
ここで図5を参照すると、一実施例では、基準絶対閾値RATを使用して、検出段階で感知閾値STを設定することができる。基準絶対閾値RATは、基準閾値TR、従って基準曲線RCの上限を提供し、その結果、閾値基準TRは、基準絶対閾値RATを超える値に設定され得ない。特に、図5から分かるように、検出されたピークのピーク検出ウィンドウPWの最大ピーク値MAが、基準絶対閾値RATを上回っている場合、閾値基準TRは、基準絶対閾値RATに設定され、従って、最大ピーク値MAよりも小さい値に設定される。しかしながら、最大ピーク値MAが基準絶対閾値RATを下回る場合、閾値基準TR(基準曲線RCの初期値を提供する)は、最大ピーク値MAに設定される。従って、閾値基準TRは、最初に、最大ピーク値MA及び基準絶対閾値RATの最小値に設定される。
【0067】
基準絶対閾値RATは、例えば、心電図信号Eについて0から2mVの間の範囲にあり得る。
【0068】
基準絶対閾値RATは、固定的にプログラムされ得、従って、監視デバイスの形状の医療デバイス1の寿命を通して一定であり得る。
【0069】
代替の実施例では、基準絶対閾値RATは、その値が、例えば、所定の数の以前のピークの最大ピーク値MAに対応する前のピーク振幅の数(1を超える)に応じて動的に設定され得るという点で、それ自体適応可能であり得る。例えば、基準絶対閾値RATは、所定のピーク値の数の平均の特定の割合として設定され得、従って、任意の患者集団の信号振幅の個々の変動を考慮に入れることができる。
【0070】
ここで図6を参照すると、遅延期間ULDの長さは適応可能であり得る。遅延時間ULDは、遅延時間期間ULD内に、感知閾値STの増加した値がここに設定されるように前のQRS波形Aに続くT波Cの過感知を回避するのに役立ち、心電図信号Eに小振幅QRS波形Aと大振幅QRS波形Aが散在している場合、ノイズが過剰に感知されないように、振幅が小さい信号のカウントダウンを遅くすると有利である。
【0071】
これは、振幅閾値を使用して、検出された各ピークの高速又は低速のカウントダウンを決定することで実現できる。最大ピーク値MAが低信号閾値LSTを上回っている場合、通常の遅延期間ULDが使用される。右側のQRS波形Aの図6のように、最大ピーク値MAが低信号閾値LSTを下回っている場合は、長い遅延時間LULDが使用され、その結果、目標閾値への感知閾値STのカウントダウンが遅延する。従って、より小さな信号に対して、ノイズのために過感知されやすい可能性がある小信号の感知を改善するのに役立ち得るより遅いカウントダウンが得られる。
【0072】
検出アルゴリズムの設定は、特定の種類のイベント及び特定のシナリオの検出を改善するように適合させることができる。
【0073】
ここで図7を参照すると、大振幅の異所性Bの発生後に信頼性の高い感知を提供するのに特に適している可能性のある設定では、感知閾値ST2の開始値SV2は、初期設定における感知閾値ST1の開始値SV1と比較して低減され得、ST1は、初期設定の感知閾値曲線を示し、ST2は、適合された設定に従って、感知閾値曲線を示す。開始値SV2を下げることにより(これは、開始値SV2が設定される割合を調整することによって達成できる)、又は、基準絶対閾値RATを減らすことによって(図5を参照)、感知閾値ST2は低い値で開始するため、目標閾値Mに向かってより速く減少し、図7からわかるように、大振幅の異所性Bに続く低振幅のQRS波形Aに関連する後続のピークの検出が可能になる。
【0074】
適合された開始値SV2は、例えば、0.6から1mVの間の範囲の値を有し得る。
【0075】
開始値SV2を減少させることにより、目標閾値Mへのカウントダウンを加速することができ、例えば、初期設定の2秒と比較して、1秒以内に目標閾値Mへのカウントダウンを可能にする。
【0076】
本明細書では、更に、減少率を適合させることができる。初期設定ではかなり大きなステップX1(割合削減を繰り返し適用することによる削減に関連して、ある期間の感知閾値は、前の期間の感知閾値の特定の割合に設定される)感知閾値を下げるために、ST1を使用することができ、適合設定でのステップサイズX2を小さくすることができる。例えば、初期設定(感知閾値ST1)では、ある期間の感知閾値は、前の期間の感知閾値の75%の値に設定され得る。適合設定(感知閾値ST2)において、ある期間の感知閾値は、前の期間の感知閾値の87.5%に設定され得る。適合設定の目標閾値Mに向けたカウントダウンのこの減速は、ノイズの過剰感知を防ぐのに役立つ。
【0077】
ここで図8を参照すると、小振幅の異所性Bの感知を可能にするように特別に適合された設定では、感知閾値ST1に開始値SV1を使用する初期設定と比較して、感知閾値ST2に小さい開始値SV2を使用することができる。更に、両方の設定に同じステップサイズXを使用しながら、縮小が発生するまでの期間の長さは、初期設定(感知閾値ST1)の長さTPR1と比較して、長さTPR2の期間を使用する適合設定(感知閾値ST2)に短縮され得る。
【0078】
例えば、開始値SV2は、0.3mVから0.6mVの間の値に低減され得る。
【0079】
更に、初期設定では、200から250ミリ秒の各期間に長さTPR1を使用できるが、適合設定では、期間TPR2の長さを100から150ミリ秒の値に減らすことができる。
【0080】
このようにして、目標閾値Mへのカウントダウンを加速することができ、その結果、カウントダウンは、初期設定の2秒と比較して、1秒以内に行われることができる。
【0081】
図8の設定では、図6に示すように、例えば、0.2mVから0.5mgの間の範囲、例えば、0.3mVでの低い信号閾値LSTを仮定して、長い遅延時間LULDを使用することで、ノイズの過感知を回避できる。長い遅延時間LULDは、例えば、300ミリ秒から800ミリ秒の間の値、例えば、500ミリ秒に設定され得る。
【0082】
更に、異なる目標閾値M1、M2が、初期設定(感知閾値ST1)及び適合設定(感知閾値ST2)のために使用され得る。
【0083】
ここで図9を参照すると、前のピークAまでの短い時間範囲内のピークを感知できるようにするために、開始値SV2を制限し、カウントダウンのステップサイズを増やすことによって、目標閾値へのより速いカウントダウンを達成することができる。図9の実例では、適合設定は、初期設定の開始値ST1よりも小さい値である開始値SV2を使用する。更に、デフォルト設定のステップサイズX1と比較してより大きな縮小ステップX2が使用される。特に、適合された設定の場合、ある期間の感知閾値を前の期間の感知閾値のかなり小さな割合に設定することによって、感知閾値ST2の迅速な減少を得ることができ、例えば、前の値の60から70%の値、例えば初期設定の75%と比較して62.5%になる。
【0084】
従って、高速カウントダウンが得られ、期間長TPR2は、例えば、200から250ミリ秒の範囲のデフォルトの期間長TPR1の代わりに、50ミリ秒から100ミリ秒の間の値に減少され得る。
【0085】
また、図9の設定では、例えば、0.2mVから0.5mg、例えば、0.3mVでの範囲の低い信号閾値LSTを仮定すると、図6に示されるように、長い遅延時間LULDを使用することによって、ノイズの過剰感知を回避することができる。長い遅延時間LULDは、例えば、100ミリ秒から300ミリ秒の間の値、例えば、150ミリ秒に設定され得る。
【0086】
本発明のアイデアは、上記の実施例に限定されず、異なる方法で実施することもできる。
【0087】
異なるシナリオのための異なる設定が採用され得、設定は、医療機器内で自動的に適合され得るか、又は特定の心臓の健康状態を示す特定の患者に医療機器の動作を適応させるためにユーザによって適応され得る。
【0088】
提案されたスキームにより、大振幅の異所性に続くピークの信頼性の高い検出、並びに以前のQRS波形が可能になった後の短い時間範囲内の小さな異所性及び異所性の信頼性の高い検出が可能になる。このようにして、徐脈及び心静止のスナップショットの誤検出を回避することができ、従って、医師のレビューの負担を軽減することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 植込み型医療デバイス
10 ハウジング
11 プロセッサデバイス
12 センサデバイス
13 メモリデバイス
14 エネルギー貯蔵
15 通信デバイス
2 外部デバイス
A QRS波形
B 異所性信号
C T波
DHP 検出ホールドオフ期間
E ECG信号
LTP 下限閾値
H 心臓
LST 低信号閾値
LULD 長い遅延時間(長い上から下への遅延)
M、M1、M2 目標閾値(最小)
MA 最大ピーク値
P 患者
PW ピーク検出ウィンドウ
R 基準曲線
RAT 基準絶対閾値
ST、ST1、ST2 感知閾値
SV1、SV2 開始値
TPR 閾値割合削減時間
TPR1、TPR2 閾値率削減時間
TR 閾値基準
TRRP 閾値基準削減率
ULD 遅延時間(上から下への遅延)
UTP 上限閾値
X、X1、X2 ステップサイズ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6
図7
図8
図9