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特許7487228改質されたデバイス表面に薬物溶出コーティングを有する医療用デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】改質されたデバイス表面に薬物溶出コーティングを有する医療用デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20240513BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20240513BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20240513BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
A61M25/10
A61L31/10
A61L31/16
A61L31/14 400
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021560549
(86)(22)【出願日】2019-04-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 US2019026339
(87)【国際公開番号】W WO2020209828
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-01-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521442637
【氏名又は名称】バード・ペリフェラル・バスキュラー・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】マーテンズ,ジェイコブ
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0371673(US,A1)
【文献】特開平08-317993(JP,A)
【文献】国際公開第2018/213352(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
A61L 31/10
A61L 31/16
A61L 31/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロパターニングされた表面と、マイクロパターニングされた表面を被覆するコーティング層とを含む医療用デバイスであって、
該マイクロパターニングされた表面が、複数の微細構造を含み、
該複数の微細構造が、デバイスの外部表面を被覆する中間層上に直接形成され、
ここで、微細構造は、マイクロパターニングを欠いているがそれ以外は同一の医療用デバイスを用いて罹患した管腔について同一の処置を行った場合と比較して、罹患した管腔内での治療剤の組織保持を増加させ、そして、
該コーティング層が、疎水性治療剤及び少なくとも1つの添加剤を含む、
上記医療用デバイス。
【請求項2】
微細構造が、複数の凹部及び凸部を含む、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項3】
微細構造がデポを含み、及びコーティング層がデポの少なくとも一部分満たす、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項4】
マイクロパターニングされた表面が、外部表面に接着したマイクロパターニングされたフィルムを含む、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項5】
マイクロパターニングされた表面が、マイクロパターニングされたポリマーを含む、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項6】
中間層が、重合アルキルシクロヘキサン、重合トルエン、重合キシレン、パリレンC、パリレンN、パリレンD、パリレンX、パリレンAF-4、パリレンSF、パリレンHT、パリレンVT-4(パリレンF)、パリレンCF、パリレンA、及びパリレンAM、又はその組み合わせから選択される、請求項2~のいずれか1項に記載の医療用デバイス。
【請求項7】
治療剤が、パクリタキセル、パクリタキセルアナログ若しくは誘導体、ラパマイシン、ラパマイシンアナログ若しくは誘導体、又はその組み合わせを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の医療用デバイス。
【請求項8】
少なくとも1つの添加剤が、ポリソルベート及び糖アルコールを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の医療用デバイス。
【請求項9】
バルーンカテーテルである、請求項1~8のいずれか1項に記載の医療用デバイス。
【請求項10】
治療剤を必要としている患者の脈管構造内にある罹患した管腔の標的部位において、治療剤の組織保持量を増加させる医療用デバイスを調製する方法であって、
デバイスの外部表面を被覆する中間層をマイクロパターニングして、マイクロパターニングされた表層を形成するステップと、
マイクロパターニングされた表層上に、疎水性治療剤及び少なくとも1つの添加剤を含むコーティング層を適用するステップと
を含む、上記方法。
【請求項11】
マイクロパターニングするステップが、中間層上に複数の凹部及び凸部を形成するステップを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
マイクロパターニングするステップがデポを形成し、及びコーティング層を適用するステップが、デポの少なくとも一部分を満たす、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
中間層が、重合アルキルシクロヘキサン、重合トルエン、重合キシレン、パリレンC、パリレンN、パリレンD、パリレンX、パリレンAF-4、パリレンSF、パリレンHT、パリレンVT-4(パリレンF)、パリレンCF、パリレンA、及びパリレンAM、又はその組み合わせから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
治療剤が、パクリタキセル、パクリタキセルアナログ若しくは誘導体、ラパマイシン、ラパマイシンアナログ若しくは誘導体、又はその組み合わせを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの添加剤が、ポリソルベート及び糖アルコールを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
医療用デバイスが、バルーンカテーテルである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本開示の実施形態は、コーティングされた医療用デバイス、特にコーティングされたバルーンカテーテル、並びに疾患の処置を目的として、特に体管腔の狭窄及び晩期血管径損失を抑えることを目的として、治療剤を特定の組織又は体管腔に迅速且つ有効/効率的に送達するためのその使用と関連する。また、本開示の実施形態は、この医療用デバイス、この医療用デバイス上に提供されるコーティングを製造する方法、及び体管腔、例えば脈管構造(特に動脈、静脈、又は動静脈の脈管構造を含む)等を、例えばこのコーティングされた医療用デバイスを使用して処置する方法とも関連する。
【背景技術】
【0002】
[0002]ヒト又は獣医学上の患者内の血管系又はその他の管腔、例えば食道、気管、結腸、胆道、気道、副鼻腔通路、鼻道、腎動脈、又は尿道等の中に医療用デバイスを導入することにより、様々な医学的状態を処置することは益々一般的となっている。例えば、血管疾患の処置で使用される医療用デバイスとして、ステント、カテーテル、バルーンカテーテル、ガイドワイヤー、カニューレ等が挙げられる。このような医療用デバイスは、当初成功したかにみえるが、合併症、例えばそのような処置後の遅発性血栓症等、又は疾患再発、例えば狭窄(再狭窄)等の発生により、多くの場合有用性が損なわれる。
【0003】
[0003]薬物と医療用デバイスとの組み合わせは複雑な技術領域である。それは、通常の製剤上の課題、例えば経口又は注射用医薬品の課題等に加えて、医療用デバイスが標的部位に到達するまで、薬物と医療用デバイスとの接着を維持し、その後所望の放出及び吸収動態を有して薬物を標的組織に送達するという課題にも関係する。更に、コーティングは、機能的性能、例えばバルーンのバースト圧力及びコンプライアンス等を損なってはならない。コーティングが厚いと、医療用デバイスのプロファイルを増加させ、また追従性や送達性の劣化を招くので、コーティングの厚さも最低限に保たれなければならない。このようなコーティングは、液体化学物質(一般的に、薬物を安定化するのに多く使用される)を概してほとんど含有しない。従って、ピル又は注射剤では有効である製剤であっても、医療用デバイスのコーティングでは全く機能しないおそれがある。薬物がデバイスから容易に遊離し過ぎる場合、薬物は、デバイスを送達する間、標的部位に留置可能となる前に失われ、又は膨張の初期段階においてデバイスから噴出し、そして圧迫されて体管腔壁の標的組織と接触する前に流出するおそれがある。薬物が過剰に強く接着する場合には、標的組織において薬物が放出され、そして組織により吸収可能となる前に、デバイスが撤去されるおそれがある。
【0004】
[0004]いくつかの事例では、バルーンカテーテルへの薬物含有層の接着を増加させるために、機能層が、医療用デバイス、例えばバルーンカテーテル等に適用され得る。しかしながら、接着力が増加すれば、処置される標的部位への薬物の取り込み、又は処置後少なくとも14日間若しくは少なくとも28日間にわたる、標的部位における薬物の長期有効性に悪影響を及ぼすものと予想され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[0005]従って、血管及び非血管性の疾患、例えば再狭窄等を処置又は予防するために、医療手技の間又はその後において、治療剤、薬物、又は生物学的に活性な物質を、局所的組織エリア内に効果的/効率的、且つ迅速に直接送達することができる、医療用デバイスのためのきわめて特殊なコーティングを開発するニーズがなおも存在する。デバイスは、効果的且つ効率的な方式で所望の目標位置において治療剤を迅速に放出すべきであり、その場合、該治療剤は、疾患を処置し、例えば狭窄を緩和し、また体管腔の再狭窄及び晩期血管径損失を防止するために、標的組織に迅速に浸透すべきである。更に、治療剤の治療効果を維持するために、処置後少なくとも14日間又は少なくとも28日間、標的部位において治療剤の濃度が上昇したまま存続することも望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[0006]別途記載される場合を除き、本明細書における全ての分子量は、ダルトン(g/mol)で報告される。ポリマー材料の分子量は、重量平均分子量として報告される。
[0007]本開示の実施形態は、特にバルーンカテーテル及びステントを含む医療用デバイスと関連し、そのために、医療用デバイスの外部表面は、該外部表面上に薬物放出コーティングが適用される前に、外部表面表面自由エネルギーを低下させるための表面改質が施される。更なる実施形態は、医療用デバイスを調製するための方法を含む。本開示の実施形態の目的は、デバイスを標的部位に一時的に留置する間、標的組織による薬物の迅速且つ効率的な取り込みを促進することにある。本開示の実施形態の更なる目的は、処置後最長14日間又は28日間にわたり、薬物の長期有効性を維持し又は増加させることにある。
【0007】
[0008]本開示の実施形態は、医療用デバイスの改質された外部表面上に適用されたコーティング層を含む医療用デバイスを含む。改質された外部表面として、コーティング層の適用前に、外部表面の表面自由エネルギーを改質する表面改質が施された医療用デバイスの外部表面が挙げられる。コーティング層は、疎水性治療剤と少なくとも1つの添加剤を含む。改質された外部表面は、そのようなプラズマ重合した中間層中にエッチングされた複数のデポを含み得る。デポが存在するとき、コーティング層がデポの少なくとも一部分を充填し得る。
【0008】
[0009]いくつかの非限定的で特別な実施形態では、医療用デバイスは、バルーンの改質された外部表面上に適用されたコーティング層を含む拡張可能なインフレータブルバルーンを有するバルーンカテーテルである。改質された外部表面は、コーティング層の適用前に外部表面の表面自由エネルギーを改質する表面改質が施されたバルーンの外部表面を含む。コーティング層は、疎水性治療剤及び少なくとも1つの添加剤を含む。表面改質は、例えばそのようなプラズマ重合した中間層中にエッチングされた複数のデポを含み得る。デポが存在するとき、コーティング層がデポの少なくとも一部分を充填し得る。薬物含有コーティング層が中間層を被覆し得る。コーティング層は、治療剤及び少なくとも1つの添加剤を含み得る。コーティング層は、治療剤及び2つ又は2つより多くの添加剤を含み得る。いくつかの実施形態では、中間層は少なくとも1つの添加剤を含み得る。治療剤は疎水性薬物であり得る。1つ又は複数の添加剤は、親水性部分と薬物親和性部分の両方を含み得る。薬物親和性部分は疎水性部分であり、並びに/或いは水素結合及び/又はファンデルワールス相互作用により治療剤に対して親和性を有する。
【0009】
[0010]より詳細に議論されるように、改質された外部表面を含む、複数の実施形態に基づく医療用デバイスは、本明細書に記載される表面改質を有さないデバイスの外部表面に適用された薬物含有層を含む医療用デバイスについて、これまでに認識されたものに勝る予期せぬ治療利益を示す。例えば、本明細書の複数の実施形態に基づく被コーティング医療用デバイス、例えばバルーンカテーテル等において、改質された外部表面と薬物含有層とを組み合わせることで、例えば、処理後のデバイス上には類似した量の残留治療剤しか存在しないにもかかわらず、治療剤の初期取り込み量の増加、及び少なくとも14日間又は少なくとも28日間にわたる長期有効性の向上を示し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】[0011]図1は、本開示に基づく医療用デバイス、特にバルーンカテーテルの代表的な実施形態の概略を示す図である。
図2】[0012]図2Aは、バルーンの改質された外部表面上の薬物コーティング層を含む、図1のバルーンカテーテルの遠位部分について、ラインA-Aに沿って取得された、いくつかの実施形態の断面を示す図である。 [0013]図2Bは、バルーンの改質された外部表面と薬物コーティング層の間との中間層を含む、図1のバルーンカテーテルの遠位部分について、ラインA-Aに沿って取得された、いくつかの実施形態の断面を示す図である。
図3】[0014]図3Aは、複数の実施形態に基づくエッチング手順前の、ラインA-Aに沿って取得された、中間層を含む、図1のバルーンカテーテルのバルーン断面を示す図である。 [0015]図3Bは、複数の実施形態に基づくエッチング手順後の、中間層を含む、図3Aの断面を示す図である。 [0016]図3Cは、複数の実施形態に基づくエッチングされた中間層上に薬物コーティング層を適用した後の、図3Bの断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[0017]本明細書で使用される場合、交換可能な用語「コーティング」及び「層」とは、任意の慣習的な適用法又は積層法、例えば蒸着法、スプレーコーティング、ディップコーティング、ラミネーション、ボンディング、マイクロパターニング、モールディング、ペインティング、スピンコーティング、スパッタリング、浸漬式コーティング、プラズマアシスト成膜法、又は真空蒸着法等を使用して、基材の表面又は表面の一部分に適用される又は適用された材料を指す。
【0012】
[0018]動詞としての用語「コーティングされる」及び「適用される」は、本明細書において交換可能に使用され得る。別途記載される場合を除き、「特定の材料でコーティングされた基材」等と記載する場合、それは、任意の慣習的な適用法又は積層法、例えば蒸着法、スプレーコーティング、ディップコーティング、ペインティング、スピンコーティング、スパッタリング、浸漬式コーティング、プラズマアシスト成膜法、又は真空蒸着法等を使用して、基材の表面又は表面の一部分に「特定の材料が適用された基材」と同等である。
【0013】
医療用デバイス
[0019]非限定的な例としてバルーンカテーテル及びステントを含む、医療用デバイスの実施形態がここに記載される。医療用デバイスにおいて、薬物放出コーティングが外部表面上に適用される前に、医療用デバイスの外部表面に、該外部表面の表面自由エネルギーを低下させる表面改質が施される。医療用デバイスを調製するための方法に関する実施形態が引き続き記載される。
【0014】
[0020]いくつかの実施形態では、医療用デバイスはバルーンカテーテルである。図1の事例的実施形態を参照すると、バルーンカテーテル10は、近位端18及び遠位端20を有する。バルーンカテーテル10は、当業者にとって公知の従来型バルーンカテーテルを含む、望ましい用途のための任意の適するカテーテルであり得る。例えば、バルーンカテーテル10は、迅速交換型又はオーバー・ザ・ワイヤーカテーテルであり得る。いくつかの具体例において、バルーンカテーテルは、BD Peripheral Interventionから入手可能なClearStream(商標)末梢カテーテルであり得る。バルーンカテーテル10は、任意の適する生体適合性材料からなり得る。バルーンカテーテルのバルーン12は、当業者にとって明白であるように、ポリマー材料、例えば、例に限定して、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ナイロン、PEBAX(すなわち、ポリエーテルとポリアミドとのコポリマー)、ポリウレタン、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)等、又は様々なその他の好適な材料を含み得る。
【0015】
[0021]図1のバルーンカテーテル10の様々な実施形態が、図2A及び図2Bに示す、図1のラインA-Aに沿った断面を通じて例証される。図1図2A、及び図2Bを共に参照すると、バルーンカテーテル10は、拡張型バルーン12及び伸長メンバー14を含む。伸長メンバー14は、バルーンカテーテル10の近位端18と遠位端20の間に延在する。伸長メンバー14は、少なくとも1つのルーメン26a、26b、及び遠位端20を有する。伸長メンバー14は、好適な生体適合性材料からなるチューブである可撓性のメンバーであり得る。伸長メンバー14は、1つのルーメン、又は図1図2A、及び図2Bに示すように、1より多くのルーメン26a、26bをその中に有し得る。例えば、伸長メンバー14は、バルーンカテーテル10の近位端18側のガイドワイヤーポート15からバルーンカテーテル10の遠位端20まで延在するガイドワイヤールーメン26bを含み得る。伸長メンバー14は、拡張型バルーン12の膨張を可能にするために、バルーンカテーテル10の膨張ポート17から拡張型バルーン12の内側まで延在する膨張ルーメン26aも含み得る。図1図2A、及び図2Bの実施形態において、膨張ルーメン26a及びガイドワイヤールーメン26bは、横並びのルーメンとして示されるが、伸長メンバー14中に存在する1つ又は複数のルーメンは、例えば膨張媒体の導入及び/又はガイドワイヤーの導入を含む、ルーメンの意図した目的に適する任意の方式で構成され得るものと理解されるべきである。多くのそのような構成が当技術分野において周知されている。
【0016】
[0022]拡張型バルーン12は、伸長メンバー14の遠位側アタッチメント端部22に連結している。拡張型バルーン12は外部表面25を有し、膨張可能である。拡張型バルーン12は、伸長メンバー14のルーメンと流体連通している(例えば、膨張ルーメン26と)。伸長メンバー14の少なくとも1つのルーメンは、膨張媒体を受け入れ、そして拡張型バルーン12に、それを拡張させるために、そのような媒体を受け渡すように構成される。膨張媒体の例として、空気、生理食塩水、及び造影剤が挙げられる。
【0017】
[0023]なおも図1を参照すると、1つの実施形態では、バルーンカテーテル10は、ハンドルアセンブリ、例えばハブ16等を含む。ハブ16は、バルーンカテーテル10の近位端18においてバルーンカテーテル10に連結し得る。ハブ16は、1つ又は複数の好適な医療用デバイス、例えば膨張媒体源(例えば空気、生理食塩水、又は造影剤)又はガイドワイヤー等に接続し、及び/又はそれを受け入れることができる。例えば、膨張媒体源(図示せず)は、ハブ16の膨張ポート17に接続し得るが(例えば、膨張ルーメン26aを通じて)、またガイドワイヤー(図示せず)は、ハブ16のガイドワイヤーポート15に導入され得る(例えば、ガイドワイヤールーメン26bを通じて)。
【0018】
[0024]いくつかの事例的実施形態では、図1の断面A-Aは、図2Aに基づき表示される通りであり得るが、そこでは、薬物コーティング層30がバルーン12の改質された外部表面25上に直接適用される。その他の事例的実施形態では、図1の断面A-Aは、図2Bに表示の通りであり得るが、そこでは、薬物コーティング層30が、バルーン12の改質された外部表面25を被覆する中間層40上に適用される。これらの実施形態に基づく一般的な機械的構造がここで記載される。改質された外部表面25、及び外部表面に表面改質を施すステップに関わるプロセスが、後続セクションにおいてより詳細に記載されるが、様々な実施形態に基づく薬物コーティング層30そのものの特別な組成物についても同様である。
【0019】
[0025]図1の断面A-Aが図2Aに基づき表示される通りである複数の実施形態では、バルーンカテーテル10は、バルーン12の改質された外部表面25上に適用される薬物コーティング層30を含む。改質された外部表面25は、薬物コーティング層30の適用前に、外部表面25の表面自由エネルギーを減少させる表面改質が施された表面である。表面改質は、外部表面25中にフッ素含有種を注入するフッ素プラズマ処理を含み得る。こうしたことから、薬物コーティング層30が適用される前にフッ素含有種が注入されたバルーン材料として特徴づけられ得る改質された外部表面25を、薬物コーティング層30は被覆する。薬物コーティング層30そのものは、疎水性治療剤及び添加剤の組み合わせ物を含む。1つの特定の実施形態では、薬物コーティング層30は、疎水性治療剤、及び添加剤の組み合わせ物から実質的に構成される。換言すれば、この特別な実施形態では、薬物コーティング層30は、治療剤及び添加剤の組み合わせ物のみを含み、その他の材料として重要な成分を一切含まない。
【0020】
[0026]図1の断面A-Aが図2Bに基づき表示される通りである複数の実施形態では、バルーンカテーテル10は、バルーン12の改質された外部表面25上に適用された薬物コーティング層30を含む。改質された外部表面25は、薬物コーティング層30の適用前に、外部表面25の総表面自由エネルギー(又はその1つの若しくは複数の成分)を改質する表面改質が施された表面である。表面改質は、薬物コーティング層30が適用される前に、外部表面上に中間層のプラズマ重合を含み得るが、それによってコーティング層が中間層40を被覆する。
【0021】
[0027]いくつかの実施形態では、表面改質は、中間層40が適用される前に、フッ素含有種を外部表面25中に直接注入するフッ素プラズマ処理を任意選択で含み得る。こうしたことから、中間層40及び薬物コーティング層30の両方は、フッ素含有種が注入されたバルーン材料として特徴づけられ得る改質された外部表面25を被覆する。薬物コーティング層30そのものは、疎水性治療剤及び添加剤の組み合わせ物を含む。1つの特定の実施形態では、薬物コーティング層30は、疎水性治療剤及び添加剤の組み合わせ物から実質的に構成される。換言すれば、この特別な実施形態では、薬物コーティング層30は、治療剤及び添加剤の組み合わせ物のみを含み、その他の材料として重要な成分を一切含まない。別の特別な実施形態では、薬物コーティング層30は、厚さ約0.1μm~15μmである。複数の実施形態では、中間層40は、脂環式モノマー又は芳香族モノマーのプラズマ重合により形成されたポリマー材料を含む。脂環式モノマーの例として、アルキルシクロヘキサン、例えばメチルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族モノマーの例として、アルキルベンゼン、例えばトルエン及びキシレン等が挙げられる。いくつかの実施形態では、中間層40は、ポリ(p-キシリレン)を含み、又はそれから構成される。
【0022】
[0028]理論に拘泥するつもりもないが、バルーン12の改質された外部表面、特にコーティング層適用前に、外部表面の表面自由エネルギーを減少させる表面改質を該外部表面に施すことにより形成される改質された外部表面上に薬物コーティング層30を適用すれば、バルーンからのコーティング層に含まれる薬物の放出動態、薬物層の結晶性、コーティングの表面形態及び粒子形状、又はコーティング層内治療層の薬物粒子サイズ、表面における薬物分布に影響を及ぼす可能性があると考えられている。例えば、改質された外部表面により引き起こされた効果は、医療用デバイスが管腔から除去された後、14日間、21日間という期間又はより長い期間にわたって、リテンションタイム及び組織内治療剤の量を増加させる可能性がある。
【0023】
[0029]複数の実施形態では、薬物コーティング層30内の少なくとも1つの治療剤の濃度密度は、約1~20μg/mm、又はより好ましくは約2~6μg/mmであり得る。コーティング層内の添加剤に対する治療剤の重量比は、約0.5~100、例えば約0.1~5、0.5~3、及び更に例えば約0.8~1.2であり得る。添加剤に対する治療剤の比(重量)が過剰に低い場合、薬物は時期尚早に遊離する可能性があり、また比が過剰に高い場合には、薬物は、標的部位に留置されたときに、十分迅速に溶出しない、又は組織により吸収されない可能性がある。例えば、比が高ければ、より迅速な放出を引き起こす可能性があり、また比が低ければ、より低速な放出を引き起こす可能性がある。理論に拘泥しなければ、添加剤が水溶性である場合、より多量の添加剤と共に、治療剤は医療用デバイスの表面から遊離し得ると考えられている。
【0024】
[0030]事例的実施形態では、薬物コーティング層30は治療剤及び添加剤を含み、該治療剤は、パクリタキセルとその類似体、又はラパマイシンとその類似体であり、また添加剤は、ソルビトール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、キシリトール、2-エトキシエタノール、糖、ガラクトース、グルコース、マンノース、キシロース、スクロース、ラクトース、マルトース、ツイーン20、ツイーン40、ツイーン60、及びその誘導体から選択され、添加剤に対する治療剤の重量比は0.5~3である。添加剤に対する薬物の比が0.5未満である場合、薬物は時期尚早に遊離する可能性があり、また比が3を超える場合には、標的部位に留置されたときに薬物が十分迅速に溶出しない、又は組織により吸収されない可能性がある。その他の実施形態では、薬物コーティング層は、治療剤及び1より多くの添加剤を含み得る。例えば、1つの添加剤は、別の1つ又は複数の添加剤(薬物の放出又は薬物の組織による取り込みを促進するのに優れている)とバルーンとの接着を改善する役目を果たし得る。
【0025】
[0031]その他の実施形態では、2つ又はそれより多くの治療剤が、薬物コーティング層内で併用される。その他の実施形態では、デバイスは、薬物コーティング層30を被覆するトップ層(図示せず)を含み得る。
【0026】
[0032]本開示の多くの実施形態は、血管疾患を処置し、及び狭窄や晩期血管径損失を低下させるのに特に有用であり、又はそのような目的のための、若しくはそのような疾患を処置する方法におけるデバイスの製造において有用である。実施形態はバルーンカテーテルに関してのみ記載されているが、バルーンカテーテルに加えて、その他の医療用デバイス、特にその他の拡張型医療用デバイスも、改質された外部表面上に適用される薬物含有コーティング層、例えばバルーンカテーテルに関してこれまでに記載されたもの等でコーティングされ得るものと理解されるべきである。そのようなその他の医療用デバイスとして、非限定的にステント、スコアリングバルーンカテーテル、及び再開通カテーテルが挙げられる。
【0027】
マイクロパターニングによる表面改質
[0033]これまでに記載したように、医療用デバイス、例えばバルーンカテーテル10等は、例えば改質された外部表面25、すなわち薬物コーティング層30の適用前に、外部表面25の表面自由エネルギーを減少させる表面改質が施された表面を含む。
【0028】
[0034]いくつかの実施形態では、バルーン12の外部表面は、改質された外部表面25を形成するために、複数のデポ又は表面特性を含むように改質され得る。その他の実施形態では、表面改質は、薬物コーティング層30が適用される前に、外部表面25にマイクロパターニングされた構造を埋め込むマイクロパターニング法により生成され得る。薬物コーティング層30は、デポ又は表面特性の少なくとも一部分を満たすことができる。理論に拘泥するものではないが、マイクロパターニング法は、バルーン表面上で乾燥する間に、薬物コーティングの組織に影響を及ぼすことによって、薬物結晶の形成が上部に向かうように導き得る。
【0029】
[0035]マイクロパターニング法の実施形態は、特別な微細構造(ミクロンレベルの構造)を有するように製造(例えば、スタンプ、粉砕、押出成形)された多種多様なポリマーのフィルムを利用することを含み得る。更なる実施形態では、フィルムは、薬物コーティング層30が適用される前に、外部表面25上に接着され得る。いくつかの実施形態では、マイクロパターニング法は、マイクロパターニングされた構造を外部表面25上に埋め込むステップを含み得る。いくつかの実施形態では、方法は、物理的構造、例えばポケット又はディボットを形成するステップを含み得る。理論に拘泥するものではないが、特定サイズのポケット又はディボットは、薬物コーティング層30内の賦形剤が、薬物コーティング層30の非結晶領域に広く分布するよりはむしろ集合するのを促進し得る。いくつかの実施形態では、物理的構造は、薬物コーティング層30が適用される前に、外部表面25に接着し得るポリマー表面のマイクロパターニングを通じて創出され得る。いくつかの実施形態では、マイクロパターニングされた構造は、例えば、パターニングされたポリアクリルアミド又はポリジメチルシロキサンを含み得る。
【0030】
[0036]その他の実施形態では、マイクロパターニングの方法は、バルーン12を組み立てる間に、バルーン12の表面にマイクロパターニングされた構造を吹き込むステップを含み得る。いくつかの実施形態では、バルーン12の表面上の構造は、フィン、ウェーブ、ピラミッド、円筒形、四角形、又は複数形状のいくつかの組み合わせとして出現し得る。
【0031】
[0037]代表的な使用では、マイクロパターニングされた構造は、外部表面25の表面エリア全体をカバーし得る。その他の実施形態では、外部表面25のいくつかの部分のみが、マイクロパターニングされた構造によりカバーされ得る。複数の実施形態では、マイクロパターニングされた構造によりカバーされる外部表面25のいくつかの部分は、外部表面25の表面積全体の約10%~約100%、約10%~約95%、約10%~約90%、約10%~約80%、約10%~約70%、約10%~約60%、約10%~約50%、約10%~約40%、約10%~約30%、約10%~約20%、約20%~約100%、約20%~約80%、約20%~約60%、約20%~約40%、又は約50%~約100%を占め得る。更なる実施形態では、マイクロパターニングされた構造によりカバーされる外部表面25のいくつかの部分は、連続的であり得る。その他の実施形態では、マイクロパターニングされた構造によりカバーされる外部表面25のいくつかの部分は、非連続的であり得る。
【0032】
[0038]図3A図3Cを参照すると、バルーン12の外部表面25は、マイクロパターニングによる中間層40の適用に加えて、例えば、薬物コーティング層30を適用する前に、中間層40内に複数のデポ又は表面特性を含めることにより更に改質され得る。中間層40は、本開示において以後記載されるようなプラズマ重合層であり得る。
【0033】
[0039]マイクロパターニングによる改質された外部表面25の実施形態を実現するために、中間層40の表面は、エッチャント80に曝露され得る。エッチャントは、例えば、化学エッチャント又はプラズマ直射であり得る。いくつかの実施形態では、エッチングは、最初にフォトレジスト材料を外部表面25に適用し、該フォトレジスト材料の部分を選択的に硬化させるために、フォトマスクを通じて該フォトレジスト材料をUV照射に曝露し、未硬化のフォトレジスト材料を除去し、バルーンをエッチングし、次に残存するフォトレジストを除去することにより実施され得る。更なる例として、複数の凹部21及び凸部23、又は任意のその他の適するパターンを形成するために、中間層40の外部表面に沿って、被加圧媒体をその上に適用することにより、中間層40はエッチングされ得る。例えば、被加圧媒体は、当業者にとって明白であるように、酸素、ハロゲンプラズマ、流体、又はその他の様々なインプリンティング手段であり得る。
【0034】
[0040]エッチング手順の後、中間層40は、デポ又はその他の表面特性を含み得る。非限定的な例証的実施形態において、デポ又はその他の表面特性は、例えば、凹部21及び凸部23を含み得る。いくつかの実施形態では、凹部21及び凸部23は、バルーンカテーテルの縦軸に対して実質的に平行なチャンネルとして例証される。特に、複数の凹部21及び凸部23は、バルーン12の縦の長さ方向に対して平行に延在するように、バルーン12の外部表面25(すなわち、外部周囲)においてある角度の配列をなして配置される。複数の凹部21の各凹部21は、中間層40に沿って一対の凸部23の間に配置される。しかしながら、デポ又はその他の表面特性は、任意の望ましい形状又はコンフィギュレーション(フォトリソグラフィを用いて又は用いないで、通常のエッチング技術を使用して、バルーン表面上に生成され得る)を有し得るものと理解されるべきである。
【0035】
[0041]エッチング後の中間層40の外部表面はもはや平面ではない。非平面は、薬物送達及び取り込み特性に利益をもたらすことによって、バルーンカテーテル10の性能を改善するように、薬物コーティング層30の受け入れと保持を促進し得る。本実施例では、中間層40の外部表面は、その上に配置される複数の凹部21及び複数の凸部23のパターンを含むプロファイルを形成するためにエッチングされる。
【0036】
[0042]図3Cを参照すると、薬物コーティング層30が中間層40上に適用されるとき、複数の凹部21は、薬物コーティング層30の一部分をその中に受け入れるようなサイズ、形状を有し、またそのように構成される。薬物コーティング層30で中間層40をコーティングするのに呼応して、薬物コーティング層30の相対的により少ない部分が複数の凸部23上において同様に受け取られる。バルーンカテーテル10のバルーン12が患者の身体に挿入される際に、複数の凹部21内に薬物コーティング層30を保持するように、複数の凸部23も類似したサイズ、形状を有し、またそのように構成される。この事例において、複数の凸部23が、複数の凹部21内に配置された薬物コーティング層30の一部分が中間層40の最外周部からオフセットするように、複数の凹部21に対して隆起した表面を中間層40に提供する。
【0037】
[0043]薬物コーティング層30のかなりの部分が中間層40の最外部表面からオフセットすることで、薬物コーティング層30のかなりの部分が、表面剪断力(バルーンカテーテル10が患者身体内の管腔を通じて前進する際に最外部表面に沿って生み出される)への曝露から遮蔽される。特に、複数の凹部21は、バルーンカテーテル10がバルーン12を標的処置部位に配置するために身体の管腔(例えば、血管)を通過する際に、くぼんだ表面エリアを、薬物コーティング層30がそこに残留するように提供することができ、これにより、中間層40の最外周部に沿ってバルーン12が被る剪断応力に起因してバルーン12から脱落する薬物コーティング層30の量を最低限に抑えることができる。
【0038】
[0044]以下により詳細に記載されるように、複数の凹部21及びその中に配置された薬物コーティング層30は、外側に向かって放射状に拡張するので、薬物コーティング層30は、バルーンカテーテル10の膨張に呼応して複数の凹部21から放出され得る。この事例において、複数の凹部21の形状及び寸法は変更(例えば、拡大)され、これにより複数の凹部21内に配置された薬物コーティング層30の部分が外側に向かって放射状に広がり、そしてバルーン12に隣接して位置する組織に薬物を曝露する。
【0039】
[0045]本実施例では、中間層40は複数の凹部21及び凸部23を備えるものとして表わされるものの、様々なその他のパターンが、薬物コーティング層30をその上に保持できるようにするために、中間層40の外部表面に沿って形成され得るものと理解されるべきである。複数の凹部21及び複数の凸部23は、サイズ及び形状において、中間層40の外部表面に沿って隣接する凹部21及び凸部23とはそれぞれ相違し得るものと更に理解されるべきである。
【0040】
[0046]単なる例証的事例として、中間層40は、ポリマー材料、例えばポリ芳香族化合物又はポリ(p-キシリレン)、例えばパリレン化合物等を含み得る。例えば、中間層40がパリレン材料である場合、表面改質として中間層40が存在すると、中間層40の外部表面からの薬物コーティング層30の蒸発速度を強化するような様式で、治療剤、例えばパクリタキセル等の結晶化度に影響を及ぼす可能性がある。ひとたび薬物コーティング層30が中間層40上に積層されると、中間層40のパリレン組成物は、薬物コーティング層30内に治療剤のより小さな結晶を生成する可能性があり、これにより薬物コーティング層30が中間層40及びバルーン12から放出されるとき、標的処置部位において、近傍組織上での薬物コーティング層30の保持及び/又はそれとの接着が強化される。更なる例として、中間層40は、被加圧媒体をその上に適用することによりエッチングされ、中間層40の外部表面に沿って複数の凹部21及び凸部23、又は任意のその他の適するパターンを形成し得る。例えば、被加圧媒体は、酸素、ハロゲンプラズマ、流体、又は当業者にとって明白であるようなその他の様々なインプリンティング手段であり得る。
【0041】
[0047]代表的な用途において、中間層40がバルーン12の外部表面25に沿って均等に適用され得るように、中間層40は、バルーン12が膨張している間にバルーン12上に均一にコーティングされる。バルーン12に沿って中間層40を均一に分布させると共に、薬物コーティング層30を適用する前に中間層40を被加圧媒体に曝露することにより、複数の凹部21及び凸部23がその上に一体的に形成され得る。様々なその他の形状、プロファイル、及びパターンが、中間層40の外部表面に沿って形成され得るものと理解されるべきである。
【0042】
[0048]複数の凹部21及び凸部23が中間層40の外部表面に沿って形成された状態で、薬物コーティング層30が適用され得る。この事例において、薬物コーティング層30の適用期間中にバルーン12を膨張状態に維持することで、複数の凹部21は放射状に拡張し、そして薬物コーティング層30をその中に受け入れるのを促進する。図3Cに例示するように、薬物コーティング層30の適用後、複数の凸部23は、複数の凹部21内に受け取られた薬物コーティング層30の一部分を包含し得る。
【0043】
[0049]理論に拘泥するつもりもないが、薬物コーティング層30が、凹部21及び凸部23を含むバルーン12の改質された外部表面25上に適用された後、乾燥する際に、より均一な薬物コーティング層30が形成され得ると考えられている。この事例において、バルーンカテーテル10が、標的処置部位、例えば血管(図示せず)を処置するために利用され得る。バルーンカテーテル10が血管を通過する際に、バルーン12は血管を通じて血流に曝露され、その結果、血管を通じて移動する血流に呼応して被コーティングバルーンが外部表面に沿って剪断力を被る。バルーン12の外部表面25に沿って薬物コーティング層30が積層されることで、薬物コーティング層30の一部分は、バルーン12上を移動する血液により生み出される剪断力によって洗い流され得る。
【0044】
[0050]特に、バルーンカテーテル10が標的処置部位(治療剤が送達されるように意図される)に配置される前に、薬物コーティング層30に含まれる可変量の治療剤が失われ又は溶解する。しかしながら、複数の凹部21内に薬物コーティング層30のかなりの部分を保持することにより、薬物コーティング層30の喪失量は低下し得る。複数の凸部23は、最少量の薬物コーティング層30がバルーン12上を流れる血液の剪断力に曝露されるように、複数の凹部21内に配置された薬物コーティング層30の部分を取り巻く隆起した障壁を提供する。対照的に、複数の凸部23上で受け取られた薬物コーティング層30の部分は血管を通じて流れる血液に実質的に曝露される(薬物コーティング層30のこの部分が、バルーンカテーテル10が血管を通じて標的処置部位に向かって前進する際に洗い流され得るように)。
【0045】
[0051]ひとたび、バルーンカテーテル10が標的処置部位近傍に配置されると、バルーンカテーテル10は膨張する。膨張すると、バルーン12の改質された外部表面25を被覆する中間層40が拡張する。中間層40が拡張すると、複数の凹部21及び凸部23の形状及び寸法が増加するように(すなわち、中間層40の表面積が増加するように)、複数の凹部21及び凸部23も同様に外側的に広がり、これにより複数の凹部21内に配置された薬物コーティング層30の部分が標的処置部位に曝露される。特に、標的処置部位において近傍組織と物理的に遭遇するまで、複数の凹部21内に、及び複数の凸部23に沿って保持された薬物コーティング層30の残存部分が、バルーン12が膨張するにつれて放射状に外側に向かって広がる。
【0046】
中間層
[0052]医療用デバイスの外部表面が、中間層40を含むように、複数の実施形態に基づき改質されるとき、中間層40は医療用デバイスの外部表面25を被覆する。いくつかの実施形態では、中間層40は、医療用デバイスの外部表面25と直接接触した状態にあり、又は医療用デバイスの外部表面25に直接コーティング若しくは適用される。いくつかの実施形態では、中間層40は、医療用デバイスの外部表面25に適用される界面化学により形成され、これにより医療用デバイスの材料の必須成分として機能する。いくつかの実施形態では、医療用デバイスはバルーンカテーテル10であり、また中間層40はバルーンカテーテル10のバルーン12の外部表面を被覆する。いくつかの実施形態では、医療用デバイスはバルーンカテーテル10であり、また中間層40は、バルーンカテーテル10のバルーンの外部表面25と直接接触した状態にあり、又はそれに直接適用される。いくつかの実施形態では、バルーンの外部表面に適用される界面化学により、中間層40がバルーンの外部表面25に形成され、これによりバルーン材料の必須成分として機能する。
【0047】
[0053]中間層40は薬物コーティング層30の下部に位置する。いくつかの実施形態では、中間層40は、完全に組み立てられたバルーンカテーテル10のバルーンの外部表面に直接適用され得る。いくつかの実施形態では、中間層40は、バルーン材料又はバルーン材料を含む成分に適用することができ、従って中間層40をその上に有するバルーン材料又はバルーン材料を含む成分は、バルーンカテーテル10を組み立てる際に使用され得る。医療用デバイスがバルーンカテーテルであるいくつかの実施形態では、中間層40は、バルーンカテーテルのバルーンの外部表面全体をカバーし得る。いくつかの実施形態では、中間層40は、例えば厚さ0.001μm~2μm、又は厚さ0.01μm~1μm、又は0.02μm~0.25μm、又は厚さ0.05μm~0.5μm、又は厚さ約0.1μm~約0.2μmであり得る。
【0048】
[0054]これまでに記載したように、中間層40は、ポリマー又は添加剤又は両者の混合物を含み得る。中間層40の特に好適なポリマーとして、身体組織の忌避すべき炎症を回避する生体適合性ポリマーが挙げられる。事例的ポリマーとして、脂環式モノマー又は芳香族モノマーから形成されるポリマーが挙げられる。脂環式モノマーの例として、アルキルシクロヘキサン、例えばメチルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族モノマーの例として、アルキルベンゼン、例えばトルエンやキシレン等が挙げられる。いくつかの実施形態では、中間層は、例えば、ポリ(p-キシリレン)、例えばパリレンC、パリレンN、パリレンD、パリレンX、パリレンAF-4、パリレンSF、パリレンHT、パリレンVT-4(パリレンF)、パリレンCF、パリレンA、又はパリレンAM等であり得る。選択されたパリレンの構造を以下に提示する:
【0049】
【化1】
【0050】
[0055]追加的ポリマーが中間層40内に存在し得る。そのような追加的ポリマーの例として、例えばポリオレフィン、ポリイソブチレン、エチレン-α-オレフィンコポリマー、アクリルポリマー及びコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリビニルメチルエーテル、ポリフッ化ビニリデン及びポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリビニルアセテート、エチレン-メチルメタクリレートコポリマー、アクリロニトリル-スチレンコポリマー、ABS樹脂、ナイロン12及びそのブロックコポリマー、ポリカプロラクトン、ポリオキシメチレン、ポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、レーヨン-トリアセテート、セルロース、セルロースアセテート、セルロースブチレート、セロハン、ニトロセルロース、セルロースプロピオネート、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、キチン質、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-ポリエチレンオキサイドコポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、並びにその混合物及びブロックコポリマーが挙げられる。複数の実施形態では、追加的ポリマーは、低表面自由エネルギーを有するポリマーから選択され得る。
【0051】
[0056]理論に拘泥するつもりもないが、特定のポリマー材料、例えばパリレン等を含む中間層は、バルーンの外部表面の表面自由エネルギーを減少させるが、これによって薬物コーティング層を適用する前に、医療用デバイスの外部表面を改質するという、本明細書に記載の利益に寄与すると考えられている。
【0052】
[0057]複数の実施形態に基づく医療用デバイス、特に例えばバルーンカテーテル及びステントは、機械的操作、すなわち延伸や圧縮が施されるので、中間層において有用であるポリマーの更なる例として、エラストマーポリマー、例えばシリコーン(例えば、ポリシロキサン及び置換型ポリシロキサン)、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、エチレンビニルアセテートコポリマー、ポリオレフィンエラストマー、及びEPDMゴム等が挙げられる。これらのポリマーが中間層として含まれるとき、これらのポリマーの弾性特性を理由として、中間層の表面、最終的には医療用デバイスに対する薬物含有コーティング層の接着力は、医療用デバイスが力又はストレスに曝されるとき、増加する可能性がある。
【0053】
[0058]1つ又は複数の薬物含有コーティング層の完全性及び医療用デバイスに対する接着性を維持し、移動中の薬物及び添加剤成分の接着性、並びに治療介入部位留置期間中の迅速な溶出の両方を促進し、組織内治療剤保持を増加させるために、又はこれら利益の組み合わせのために、中間層は、これまでに記載した添加剤のうちの1つ若しくは複数、又はその他の成分も含み得る。
【0054】
[0059]中間層40は、バルーン12の製造を促進し得る。例えば、中間層40の適用は、より一定した共形層(薬物コーティング層30がその上に適用され得る)を提供することにより、露出したバルーン表面の表面エネルギーを変化させる可能性がある。より一定になるほど、製造期間中に共形表面が外来物質を取り込む可能性が低くなる。
薬物コーティング層治療剤
[0060]複数の実施形態に基づく医療用デバイスの薬物コーティング層30は、治療剤及び少なくとも1つの添加剤を含む。
【0055】
[0061]本開示の実施形態では、治療剤又は物質は、薬物又は生物学的に活性な材料を含み得る。薬物は、様々な物理的状態、例えば分子分布、結晶形態、又はクラスター形態の薬物であり得る。本開示の実施形態において特に有用である薬物の例は、親油性、疎水性、及び実質的に水不溶性の薬物である。薬物の更なる例として、パクリタキセル、ラパマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ラパコン、ビタミンD2とD3、並びにその類似体及び誘導体を挙げることができる。これらの薬物は、脈管構造の組織を処置するのに使用されるバルーンカテーテル上のコーティングで使用するのに特に適する。
【0056】
[0062]本開示の実施形態において有用であり得るその他の薬物として、非限定的にグルココルチコイド(例えば、コルチゾール、ベタメタゾン)、ヒルジン、アンジオペプチン、アスピリン、増殖因子、アンチセンス剤、抗がん剤、抗増殖剤、オリゴヌクレオチド、及びより一般的には、抗血小板剤、抗凝固剤、抗有糸分裂剤、酸化防止剤、代謝拮抗剤、抗走化性剤、及び抗炎症剤が挙げられる。
【0057】
[0063]炎症、及び/又は平滑筋細胞若しくは線維芽細胞の増殖性、収縮性、若しくは運動性を阻害する、例えばポリヌクレオチド、アンチセンス、RNAi、又はsiRNAもまた、本開示の実施形態において有用である。
【0058】
[0064]抗血小板剤として、アスピリンやジピリダモール等の薬物を挙げることができる。アスピリンは、鎮痛剤、解熱剤、抗炎症薬、及び抗血小板薬として分類される。ジピリダモールは、抗血小板特性を有するという点においてアスピリンと類似した薬物である。ジピリダモールは、冠動脈血管拡張薬としても分類される。本開示の実施形態で使用される抗凝固剤として、ヘパリン、プロタミン、ヒルジン、及びダニ抗凝固タンパク質等の薬物を挙げることができる。酸化防止剤として、プロブコールを挙げることができる。抗増殖剤として、アムロジピンやドキサゾシン等の薬物を挙げることができる。本開示の実施形態において使用可能である抗有糸分裂剤及び代謝拮抗剤として、メトトレキサート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、5-フルオロウラシル、アドリアマイシン、及びムタマイシン等の薬物が挙げられる。本開示の実施形態で使用される抗生物質製剤として、ペニシリン、セフォキシチン、オキサシリン、トブラマイシン、及びゲンタマイシンが挙げられる。本開示の実施形態で使用される好適な酸化防止剤として、プロブコールが挙げられる。それに加えて、遺伝子若しくは核酸、又はその一部分が、本開示の実施形態において、治療剤として使用可能である。更に、トラニラスト等のコラーゲン合成インヒビターが、本開示の実施形態において治療剤として使用可能である。
【0059】
[0065]様々なポルフィリン化合物、例えばポルフィマー等を含む、光力学的療法又は放射線療法のための光感作性薬剤も、本開示の実施形態において薬物として有用である。
[0066]本開示の実施形態で使用される薬物として、エベロリムス、ソマトスタチン、タクロリムス、ロキシスロマイシン、ズナイマイシン、アスコマイシン、バフィロマイシン、エリスロマイシン、ミデカマイシン、ジョサマイシン、コンカナマイシン、クラリスロマイシン、トロレアンドマイシン、ホリマイシン、セリバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン、アトロバスタチン、プラバスタチン、ピタバスタチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、エトポシド、テニポシド、ニムスチン、カルムスチン、ロムスチン、シクロホスファミド、4-ヒドロキシシクロホスファミド、エストラムスチン、メルファラン、イホスファミド、トロホスファミド、クロラムブシル、ベンダムスチン、ダカルバジン、ブスルファン、プロカルバジン、トレオスルファン、テモゾロミド、チオテパ、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン、イダルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、ダクチノマイシン、メトトレキサート、フルダラビン、フルダラビン-5’-ジヒドロゲンホスフェート、クラドリビン、メルカプトプリン、チオグアニン、シタラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、カペシタビン、ドセタキセル、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、アムサクリン、イリノテカン、トポテカン、ヒドロキシカルバミド、ミルテホシン、ペントスタチン、アルデスロイキン、トレチノイン、アスパラギナーゼ、ペガスパルガーゼ、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、ホルメスタン、アミノグルテチミド、アドリアマイシン、アジスロマイシン、スピラマイシン、セファランチン、smc増殖インヒビター-2w、エポチロンA及びB、ミトキサントロン、アザチオプリン、ミコフェノールアトモフェチル、c-myc-アンチセンス、b-myc-アンチセンス、ベツリン酸、カンプトテシン、ラパコール、β-ラパコン、ポドフィロトキシン、ベツリン、ポドフィリン酸-2-エチルヒドラジド、モルグラモスチム(rhuGM-CSF)、ペグインターフェロンa-2b、レノグラスチム(r-HuG-CSF)、フィルグラスチム、マクロゴール、ダカルバジン、バシリキシマブ、ダクリズマブ、セレクチン(サイトカインアンタゴニスト)、CETPインヒビター、カドヘリン、サイトカイニンインヒビター、COX-2インヒビター、NFkB、アンジオペプチン、シプロフロキサシン、カンプトテシン、フルロブラスチン、筋肉細胞増殖を阻害するモノクロナール抗体、bFGFアンタゴニスト、プロブコール、プロスタグランジン、1,11-ジメトキシカンチン-6-オン、1-ヒドロキシ-11-メトキシカンチン-6-オン、スコポレチン、コルヒチン、NOドナー、例えばペンタエリトリトール四硝酸塩及びシンドノエイミン、S-ニトロソ誘導体等、タモキシフェン、スタウロスポリン、β-エストラジオール、a-エストラジオール、エストリオール、エストロン、エチニルエストラジオール、ホスフェストロール、メドロキシプロゲステロン、エストラジオールシピオネート、エストラジオールベンゾエート、トラニラスト、カメバカウリン及びがんの療法に適用されるその他のテルペノイド、ベラパミル、チロシンキナーゼインヒビター(チルホスチン)、シクロスポリンA、6-a-ヒドロキシ-パクリタキセル、バッカチン、タキソテール及び亜酸化炭素のその他の大環状オリゴマー(MCS)及びその誘導体、モフェブタゾン、アセメタシン、ジクロフェナク、ロナゾラク、ダプソーン、o-カルバモイルフェノキシ酢酸、リドカイン、ケトプロフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、メロキシカム、クロロキンホスフェート、ペニシラミン、ヒドロキシクロロキン、オーラノフィン、金チオリンゴ酸ナトリウム、オキサセプロール、セレコキシブ、β-シトステリン、アデメチオニン、ミルテカイン、ポリドカノール、ノニバミド、レボメントール、ベンゾカイン、エスシン(aescin)、エリプチシン、D-24851(Calbiochem)、コルセミド、サイトカラシンA~E、インダノシン、ノコダゾール、S100タンパク質、バシトラシン、ビトロネクチン受容体アンタゴニスト、アゼラスチン、メタルプロテイナーゼ-1及び-2のグアニジルシクラーゼスティミュレターテッシュインヒビター、遊離核酸、ウイルストランスミッターに組み込まれた核酸、DNA、tRNA、及びRNA断片、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター-1、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター-2、アンチセンスオリゴヌクレオチド、VEGF、VEGFインヒビター、IGF-1、IGF-2、成長ホルモン(GF)、抗生物質、例えばセファドロキシル、セファゾリン、セファクロル、セフォタキシム、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ペニシリン等の群に由来する活性な薬剤、例えばジクロキサシリン、オキサシリン、スルホンアミド、メトロニダゾール等、抗血栓薬、例えばアルガトロバン、アスピリン、アブシキシマブ、合成抗トロンビン、ビバリルジン、クマジン、エノキサパリン、脱硫酸化され、N-再アセチル化されたヘパリン、組織プラスミノーゲンアクチベーター、GpIIb/IIIa血小板膜受容体、第Xa因子インヒビター抗体、ヘパリン、ヒルジン、r-ヒルジン、PPACK、プロタミン、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ワルファリン、ウロキナーゼ等、血管拡張薬、例えばジピラミドール、トラピジル、ニトロプルシド、PDGFアンタゴニスト、例えばトリアゾロピリミジン及びセラミン等、ACEインヒビター、例えばカプトプリル、シラザプリル、リシノプリル、エナラプリル、ロサルタン等、チオールプロテアーゼインヒビター、プロスタサイクリン、バピプロスト、インターフェロンa、β、及びy、ヒスタミンアンタゴニスト、セロトニン遮断薬、アポトーシスインヒビター、アポトーシス制御因子、例えばp65NF-kB又はBcl-xLアンチセンスオリゴヌクレオチド等、ハロフジノン、ニフェジピン、トラニラスト、モルシドミン、ティーポリフェノール、エピカテキンガラート、エピガロカテキンガラート、ボスウェリン酸及びその誘導体、レフルノミド、アナキンラ、エタネルセプト、スルファサラジン、エトポシド、ジクロキサシリン、テトラサイクリン、トリアムシノロン、ムタマイシン、プロカインアミド、レチノイン酸、キニジン、ジソピラミド、フレカイニド、プロパフェノン、ソタロール、アミドロン、天然及び合成的に取得されたステロイド、例えばブリオフィリンA、イノトジオール、マキロシド(maquiroside)A、グハラキノシド(ghalakinoside)、マンソニン、ストレブロシド(strebloside)、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン等、非ステロイド系物質(NSAIDS)、例えばフェノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン等、フェニルブタゾン及びその他の抗ウイルス剤、例えばアシクロビル、ガンシクロビル、及びジドブジン等、抗真菌薬、例えばクロトリマゾール、フルシトシン、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナイスタチン、テルビナフィン等、抗原虫剤、例えばクロロキン、メフロキン、キニーネ等、更なる天然のテルペノイド、例えばヒポカエスクリン(hippocaesculin)、バリングトゲノール-C21-アンジェレート、14-デヒドロアグロスチスタチン、アグロスケリン、アグロスチスタチン、17-ヒドロキシアグロスチスタチン、オバトジオリド、4,7-オキシシクロアニソメル酸、バッカリノイドB1、B2、B3、及びB7、ツベイモシド、ブルセアノールA、B、及びC、ブルセアンチノシドC、ヤダンジオシドN及びP、イソデオキシエレファントピン、トメンファトピンAとB、コロナリンA、B、C、及びD、ウルソル酸、ヒプタチン酸A、ゼオリン、イソイリドゲルマナール、マイテンフォリオール(maytenfoliol)、エフサンチンA、エクスシサニンA及びB、ロンギカウリンB、スクルポネアチンC、カメバウニン、ロイカメニンA及びB、13、18-デヒドロ-6-a-セネシオイルオキシシャパリン、タクサマイリンA及びB、レジェニロール、トリプトリド等、更にシマリン、アポシマリン、アリストロキア酸、アノプテリン、ヒドロキシアノプテリン、アネモニン、プロトアネモニン、ベルベリン、塩化チェリブリン、シクトキシン、シノコクリン、ボムブレスタチンA及びB、クドライソフラボンA、クルクミン、ジヒドロニチジン、ニチジンクロリド、12-β-ヒドロキシプレグナジエン-3、20-ジオン、ビロボール、ギンゴール、ギンコール酸、ヘレナリン、インジシン、インジシン-N-オキシド、ラシオカルピン、イノトジオール、グリコシド1a、ポドフィロトキシン、ジュスチシジンA及びB、ラレアチン、マロテリン、マロトクロマノール、イソブチリルマロトクロマノール、マキロシド(maquiroside)A、マルカンチンA、マイタンシン、リコリジシン、マルゲチン、パンクラチスタチン、リリオデニン、ビスパルテノリジン、オキソウシンスニン、アリストラクタム-AII、ビスパルテノリジン、ペリプロコシドA、グハラキノシド、ウルソル酸、デオキシプソロスペルミン、サイコルビン、リシンA、サンギナリン、マヌー小麦酸(manwu wheat acid)、メチルソルビホリン、スファテリアクロメン、スチゾフィリン、マンソニン、ストレブロシド(strebloside)、アカゲリン、ジヒドロウサンバレンシン、ヒドロキシウサンバリン、ストリクノペンタミン、ストリクノフィリン、ウサムバリン、ウサンバレンシン、ベルベリン、リリオデニン、オキソウシンスニン、ダフノレチン、ラリシレシノール、メトキシラリシレシノール、シリンガレシノール、ウンベリフェロン、アフロモソン、アセチルビスミオンB、デスアセチルビスミオンA、並びにビスミオンA及びBも挙げられる。
【0060】
[0067]薬物の組み合わせ物も、本開示の実施形態において使用可能である。組み合わせ物のうちのいくつか、例えばパクリタキセルとラパマイシン、パクリタキセルと活性ビタミンD、パクリタキセルとラパコン、ラパマイシンと活性ビタミンD、ラパマイシンとラパコン等は、異なる機構を有するので相加的効果を有する。相加的効果を理由として、薬物の用量も減ずることができる。これらの組み合わせ物は、高用量薬物使用に起因する合併症を低下させ得る。
【0061】
[0068]本明細書で使用される場合、「誘導体」とは、親化合物(例えば、デキサメタゾン)と構造的に類似しており、また当該親化合物から誘導可能な(現実的又は理論的に)化学物質の化学的又は生物学的に改変されたバージョンを指す。誘導体は、親化合物の化学的又は物理的特性と異なる場合もあれば、異ならない場合もある。例えば、誘導体は、親化合物と比較して、それより親水性であり得る、又は異なる反応性を有し得る。誘導体化(すなわち、改変)は、分子内の1つ又は複数の部分の置換(例えば、官能基の交換)と関係し得る。例えば、水素は、ハロゲン、例えばフッ素若しくは塩素等と置換し得る、又はヒドロキシル基(-OH)はカルボン酸部分(-COOH)で置き換え得る。用語「誘導体」には、親化合物のコンジュゲート及びプロドラッグ(すなわち、生理的条件下で原化合物に変換され得る化学的に改変された誘導体)も含まれる。例えば、プロドラッグは、活性な薬剤の不活性形態であり得る。生理的条件下で、プロドラッグは、活性形態の化合物に変換され得る。プロドラッグは、例えば、窒素原子上の1つ又は2つの水素原子をアシル基(アシルプロドラッグ)又はカルバメート基(カルバメートプロドラッグ)で置き換えることにより形成され得る。プロドラッグに関係するより詳細な情報は、例えば、Fleisherら、Advanced Drug Delivery Reviews 19(1996)115;Design of Prodrugs,H.Bundgaard(ed.),Elsevier,1985;又はH.Bundgaard,Drugs of the Future 16(1991)443.に見出される。用語「誘導体」は、全ての溶媒和化合物、例えば水和物又は付加体(例えば、アルコールを含む付加体)、活性な代謝物、及び親化合物の塩を記載するのにも使用される。調製され得る塩の種類は、化合物内の部分の性質に依存する。例えば酸性基、例えばカルボン酸基は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩、並びに生理学的に許容される四級アンモニウムイオンとの塩、及びアンモニアや生理学的に許容される有機アミン、例えばトリエチルアミン、エタノールアミン、又はトリス-(2-ヒドロキシエチル)アミン等との酸付加塩)を形成することができる。塩基性基は、例えば、無機酸、例えば塩酸、硫酸、若しくはリン酸等と、又は有機のカルボン酸やスルホン酸、例えば酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、若しくはp-トルエンスルホン酸等と酸付加塩を形成することができる。塩基性基と酸性基、例えば、塩基性の窒素原子に加えてカルボキシル基を同時に含有する化合物は、両性イオンとして存在することができる。塩は、当業者にとって公知の常套法により、例えば溶媒若しくは希釈剤中で化合物を無機若しくは有機の酸若しくは塩基と混ぜ合わせることにより、又は陽イオン交換若しくは陰イオン交換によりその他の塩から取得可能である。
【0062】
[0069]本明細書で使用される場合、「アナログ(analog)」又は「類似体(analogue)」とは、親化合物から誘導可能である場合もあれば、可能でない場合もあるが、組成においてわずかに異なる(1つの原子が異なる元素の原子により置き換えられている、又は特定の官能基が存在するなどのように)、別のものに構造的に類似している化学物質を指す。親化合物は、「誘導体」を生成するための出発物質となる場合がある一方、親化合物は、「アナログ」を生成するための出発物質として必ずしも使用されない場合があるという点において、「誘導体」は「アナログ」又は「類似体」と異なる。
【0063】
[0070]非常に多くのパクリタキセルアナログが当技術分野において公知である。パクリタキセルの例として、ドセタキソール(TAXOTERE、メルクインデックス・エントリー番号3458)、及び3’-デスフェニル-3’-(4-ニトロフェニル)-N-デベンゾイル-N-(t-ブトキシカルボニル)-10-デアセチルタキソールが挙げられる。治療剤として使用可能であるパクリタキセルアナログの更なる代表的な例として、7-デオキシ-ドセタキソール、7,8-シクロプロパタキサン、N置換型2-アゼチドン、6,7-エポキシパクリタキセル、6,7-修飾型パクリタキセル、10-デスアセトキシタキソール(desacetoxytaxol)、10-デアセチルタキソール(10-デアセチルバッカチンIII由来)、タキソールのホスホノオキシ及びカルボネート誘導体、タキソール-2’,7-ジ(ナトリウム-1,2-ベンゼンジカルボキシレート)、10-デスアセトキシ-11,12-ジヒドロタキソール-10,12(18)-ジエン誘導体、10-デスアセトキシタキソール、プロタキソール(2’-及び/又は7-O-エステル誘導体)、(2’-及び/又は7-O-カルボネート誘導体)、タキソール側鎖の不整合成、フルオロタキソール、9-デオクソタキサン(deoxotaxane)、(13-アセチル-9-デオクソバッカチン(deoxobaccatine)III、9-デオクソタキソール(deoxotaxol)、7-デオキシ-9-デオクソタキソール、10-デスアセトキシ-7-デオキシ-9-デオクソタキソール)、水素又はアセチル基、及びヒドロキシ及びtert-ブトキシカルボニルアミノを含有する誘導体、スルホン化2’-アクリロイルタキソール(acryloyltaxol)及びスルホン化2’-O-アシル酸タキソール誘導体、スクシニルタキソール、2’-γ-アミノブチリルタキソールホルマート、2’-アセチルタキソール、7-アセチルタキソール、7-グリシンカルバメートタキソール、2’-OH-7-PEG(5000)カルバメートタキソール、2’-ベンゾイル及び2’,7-ジベンゾイルタキソール誘導体、その他のプロドラッグ(2’-アセチルタキソール;2’,7-ジアセチルタキソール;2’スクシニルタキソール;2’-(β-アラニル)-タキソール);2’γ-アミノブチリルタキソールホルマート;2’-スクシニルタキソールのエチレングリコール誘導体;2’-グルタリルタキソール;2’-(N,N-ジメチルグリシル)タキソール;2’-(2-(N,N-ジメチルアミノ)プロピオニル)タキソール;2’オルトカルボキシベンゾイルタキソール;タキソールの2’脂肪族カルボン酸誘導体、プロドラッグ{2’(N,N-ジエチルアミノプロピオニル)タキソール、2’(N,N-ジメチルグリシル)タキソール、7(N,N-ジメチルグリシル)タキソール、2’,7-ジ-(N,N-ジメチルグリシル)タキソール、7(N,N-ジエチルアミノプロピオニル)タキソール、2’,7-ジ(N,N-ジエチルアミノプロピオニル)タキソール、2’-(L-グリシル)タキソール、7-(L-グリシル)タキソール、2’,7-ジ(L-グリシル)タキソール、2’-(L-アラニル)タキソール、7-(L-アラニル)タキソール、2’,7-ジ(L-アラニル)タキソール、2’-(L-ロイシル)タキソール、7-(L-ロイシル)タキソール、2’,7-ジ(L-ロイシル)タキソール、2’-(L-イソロイシル)タキソール、7-(L-イソロイシル)タキソール、2’,7-ジ(L-イソロイシル)タキソール、2’-(L-バリル)タキソール、7-(L-バリル)タキソール、2’7-ジ(L-バリル)タキソール、2’-(L-フェニルアラニル)タキソール、7-(L-フェニルアラニル)タキソール、2’,7-ジ(L-フェニルアラニル)タキソール、2’-(L-プロリル)タキソール、7-(L-プロリル)タキソール、2’,7-ジ(L-プロリル)タキソール、2’-(L-リシル)タキソール、7-(L-リシル)タキソール、2’,7-ジ(L-リシル)タキソール、2’-(L-グルタミル)タキソール、7-(L-グルタミル)タキソール、2’,7-ジ(L-グルタミル)タキソール、2’-(L-アルギニル)タキソール、7-(L-アルギニル)タキソール、2’,7-ジ(L-アルギニル)タキソール、修飾されたフェニルイソセリン側鎖を有するタキソール類似体、TAXOTERE、(N-デベンゾイル-N-tert-(ブトキシカロニル)-10-デアセチルタキソール、及びタキサン(例えば、バッカチンIII、セファロマンニン、10-デアセチルバッカチンIII、ブレビホリオール、ユナンタクスシン及びタクスシン);並びに14-β-ヒドロキシ-10デアセチバッカチンIII、デベンゾイル-2-アシルパクリタキセル誘導体、ベンゾエートパクリタキセル誘導体、ホスホノオキシ及びカーボネートパクリタキセル誘導体、スルホン化2’-アクリロイルタキソール)を含むその他のタキサン類似体及び誘導体;スルホン化2’-O-アシル酸パクリタキセル誘導体、18-部位-置換型パクリタキセル誘導体、塩素化パクリタキセル類似体、C4メトキシエーテルパクリタキセル誘導体、スルフェンアミドタキサン誘導体、ブロム化パクリタキセル類似体、Girardタキサン誘導体、ニトロフェニルパクリタキセル、10-脱アセチル化置換型パクリタキセル誘導体、14-β-ヒドロキシ-10デアセチルバッカチンIIIタキサン誘導体、C7タキサン誘導体、C10タキサン誘導体、2-デベンゾイル-2-アシルタキサン誘導体、2-デベンゾイル及び-2-アシルパクリタキセル誘導体、新しいC2及びC4官能基を担持するタキサン及びバッカチンIII類似体、n-アシルパクリタキセル類似体、10-デアセチルバッカチンIII及び10-デアセチルタキソールA、10-デアセチルタキソールB、及び10-デアセチルタキソール由来の7-保護型-10-デアセチルバッカチンIII誘導体、タキソールのベンゾエート誘導体、2-アロイル-4-アシルパクリタキセル類似体、オルト(orthro)-エステルパクリタキセル類似体、2-アロイル-4-アシルパクリタキセル類似体及び1-デオキシパクリタキセル及び1-デオキシパクリタキセル類似体が挙げられる。
【0064】
[0071]本明細書における使用に適するパクリタキセルアナログのその他の例として、米国特許出願公開第2007/0212394号、及び米国特許第5,440,056号に掲載されているものが挙げられ、そのそれぞれは本明細書において参照により組み込まれている。
【0065】
[0072]多くのラパマイシンアナログが当技術分野において公知である。ラパマイシンのアナログの非限定的な例として、エベロリムス、タクロリムス、CCI-779、ABT-578、AP-23675、AP-23573、AP-23841、7-エピ-ラパマイシン、7-チオメチル-ラパマイシン、7-エピ-トリメトキシフェニル-ラパマイシン、7-エピ-チオメチル-ラパマイシン、7-デメトキシ-ラパマイシン、32-デメトキシ-ラパマイシン、2-デスメチル-ラパマイシン、プレラパマイシン、テムシロリムス、及び42-O-(2-ヒドロキシ)エチルラパマイシンが挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0066】
[0073]ラパマイシンのその他のアナログとして、ラパマイシンオキシム(米国特許第5,446,048号);ラパマイシンアミノエステル(米国特許第5,130,307号);ラパマイシンジアルデヒド(米国特許第6,680,330号);ラパマイシン29-エノール(米国特許第6,677,357号);O-アルキル化ラパマイシン誘導体(米国特許第6,440,990号);水溶性ラパマイシンエステル(米国特許第5,955,457号);アルキル化ラパマイシン誘導体(米国特許第5,922,730号);ラパマイシンアミジノカルバメート(米国特許第5,637,590号);ラパマイシンのビオチンエステル(米国特許第5,504,091号);ラパマイシンのカルバメート(米国特許第5,567,709号);ラパマイシンヒドロキシエステル(米国特許第5,362,718号);ラパマイシン42-スルホネート及び42-(N-アルコキシカルボニル)スルファメート(米国特許第5,346,893号);ラパマイシンオキセパンアイソマー(米国特許第5,344,833号);イミダゾリジルラパマイシン誘導体(米国特許第5,310,903号);ラパマイシンアルコキシエステル(米国特許第5,233,036号);ラパマイシンピラゾール(米国特許第5,164,399号);ラパマイシンのアシル誘導体(米国特許第4,316,885号);ラパマイシンの還元生成物(米国特許第5,102,876号及び同第5,138,051号);ラパマイシンアミドエステル(米国特許第5,118,677号);ラパマイシンフッ素化エステル(米国特許第5,100,883号);ラパマイシンアセタール(米国特許第5,151,413号);オキソラパマイシン(米国特許第6,399,625号);及びラパマイシンシリルエーテル(米国特許第5,120,842号)が挙げられ、そのそれぞれは参照により特別に組み込まれている。
【0067】
[0074]ラパマイシンのその他のアナログとして、米国特許第7,560,457号;同第7,538,119号;同第7,476,678号;同第7,470,682号;同第7,455,853号;同第7,446,111号;同第7,445,916号;同第7,282,505号;同第7,279,562号;同第7,273,874号;同第7,268,144号;同第7,241,771号;同第7,220,755号;同第7,160,867号;同第6,329,386号;同第RE37,421号;同第6,200,985号;同第6,015,809号;同第6,004,973号;同第5,985,890号;同第5,955,457号;同第5,922,730号;同第5,912,253号;同第5,780,462号;同第5,665,772号;同第5,637,590号;同第5,567,709号;同第5,563,145号;同第5,559,122号;同第5,559,120号;同第5,559,119号;同第5,559,112号;同第5,550,133号;同第5,541,192号;同第5,541,191号;同第5,532,355号;同第5,530,121号;同第5,530,007号;同第5,525,610号;同第5,521,194号;同第5,519,031号;同第5,516,780号;同第5,508,399号;同第5,508,290号;同第5,508,286号;同第5,508,285号;同第5,504,291号;同第5,504,204号;同第5,491,231号;同第5,489,680号;同第5,489,595号;同第5,488,054号;同第5,486,524号;同第5,486,523号;同第5,486,522号;同第5,484,791号;同第5,484,790号;同第5,480,989号;同第5,480,988号;同第5,463,048号;同第5,446,048号;同第5,434,260号;同第5,411,967号;同第5,391,730号;同第5,389,639号;同第5,385,910号;同第5,385,909号;同第5,385,908号;同第5,378,836号;同第5,378,696号;同第5,373,014号;同第5,362,718号;同第5,358,944号;同第5,346,893号;同第5,344,833号;同第5,302,584号;同第5,262,424号;同第5,262,423号;同第5,260,300号;同第5,260,299号;同第5,233,036号;同第5,221,740号;同第5,221,670号;同第5,202,332号;同第5,194,447号;同第5,177,203号;同第5,169,851号;同第5,164,399号;同第5,162,333号;同第5,151,413号;同第5,138,051号;同第5,130,307号;同第5,120,842号;同第5,120,727号;同第5,120,726号;同第5,120,725号;同第5,118,678号;同第5,118,677号;同第5,100,883号;同第5,023,264号;同第5,023,263号;同第5,023,262号に記載されているものが挙げられ、その全ては本明細書において参照により組み込まれている。追加のラパマイシンアナログ及び誘導体は、米国特許出願公開第20080249123号、同第20080188511号;同第20080182867号;同第20080091008号;同第20080085880号;同第20080069797号;同第20070280992号;同第20070225313号;同第20070203172号;同第20070203171号;同第20070203170号;同第20070203169号;同第20070203168号;同第20070142423号;同第20060264453号;及び同第20040010002号に見出すことができ、その全ては本明細書において参照により特別に組み込まれている。
【0068】
[0075]別の実施形態では、疎水性治療剤が、全薬物負荷として薬物コーティング層30内に提供される。薬物コーティング層30内の疎水性治療剤の全薬物負荷は、拡張型バルーン12の単位面積(mm)当たりの質量(μg)の単位として、1μg/mm~20μg/mm、或いは2μg/mm~10μg/mm、或いは2μg/mm~6μg/mm、或いは2.5μg/mm~6μg/mmであり得る。疎水性治療剤は、コーティング層中に均一に分布させることもできる。それに加えて、疎水性治療剤は様々な物理状態で提供され得る。例えば、疎水性治療剤は、分子状分布、結晶形態、又はクラスター形態であり得る。
【0069】
薬物コーティング層添加剤
[0076]治療剤又は治療剤の組み合わせ物に加えて、複数の実施形態に基づくは医療用デバイスの薬物コーティング層30は、少なくとも1つの添加剤を含む。
【0070】
[0077]本開示の実施形態の添加剤は2つの部分を有する。一方の部分は親水性であり、また他方の部分は薬物親和性部分である。薬物親和性部分は疎水性部分であり、並びに/或いは水素結合及び/又はファンデルワールス相互作用により、治療剤に対して親和性を有する。添加剤の薬物親和性部分は、親油性薬物、例えばラパマイシン又はパクリタキセル等に結合し得る。親水性部分は、組織中への薬物の拡散を促進し、その浸透を増加させる。疎水性薬物分子が互いに凝集し、またデバイスに付着するのを防止すること、間質腔における薬物溶解度を増加させること、及び/又は薬物が極性頭部基を通じて標的組織の細胞膜の脂質二重層まで通過するのを加速させることにより、標的部位に留置されている間に薬物が医療用デバイスから迅速に移動するのを促進し得る。本開示の実施形態の添加剤は、デバイスを標的部位に留置する前に、薬物がデバイス表面から時期尚早に放出されるのを防止しながら、留置期間中のデバイス表面からの薬物の迅速放出、及び標的組織による取り込みを促進するように(薬物が高親和性を有する組織と薬物が接触するのを加速させることにより)、共に機能する2つの部分を有する。
【0071】
[0078]本開示の実施形態では、治療剤は、医療用デバイスが組織と接触することとなった後、迅速に放出され、そして容易に吸収される。例えば、本開示のデバイスの特定の実施形態は、バルーン血管形成期間中に高薬物濃度において短時間、直接圧接することにより親油性抗増殖医薬品(例えば、パクリタキセル又はラパマイシン等)を血管組織に送達する薬物コーティングバルーンカテーテルを含む。親油性薬物は、送達部位の標的組織内に優先的に保持され、そこで過形成及び再狭窄を阻害するが、なおも内皮化を可能にする。これらの実施形態では、本開示のコーティング製剤は、留置期間中に薬物がバルーン表面から迅速に放出され、そして薬物が標的組織内に移動するのを促進するだけでなく、標的部位に到達する前に曲がりくねった動脈の解剖学的構造を通じてデバイスを輸送する間、薬物が拡散していくのを防止し、そしてバルーン膨張の初期段階において、薬物コーティングが押し付けられて血管壁の表面と直接接触する前に、薬物がデバイスから流出するのも防止する。
【0072】
[0079]特定の実施形態に基づく添加剤は、薬物親和性部分及び親水性部分を有する。薬物親和性部分は疎水性部分であり、並びに/或いは水素結合及び/又はファンデルワールス相互作用により治療剤に対して親和性を有する。薬物親和性部分として、脂肪族及び芳香族有機炭化水素化合物、例えばとりわけベンゼン、トルエン、及びアルカン等を挙げることができる。これらの部分は非水溶性ではある。これらは、構造的類似性を共有する疎水性薬物及び細胞膜の脂質の両方と結合し得る。これらは、共有結合したヨウ素を有さない。薬物親和性部分は、薬物及び該親和性部分そのものと水素結合を形成することができる官能基を含み得る。親水性部分として、とりわけヒドロキシル基、アミン基、アミド基、カルボニル基、カルボン酸及び無水物、エチルオキシド、エチルグリコール、ポリエチレングリコール、アスコルビン酸、アミノ酸、アミノアルコール、グルコース、スクロース、ソルビタン、グリセロール、多価アルコール、リン酸塩、硫酸塩、有機の塩、及びその置換型分子を挙げることができる。例えば、1つ又は複数のヒドロキシル基、カルボキシル基、酸、アミド又はアミン基は、極性の頭部基や細胞膜の表面タンパク質と水素結合している水分子と容易に置換し、疎水性薬物と細胞膜脂質との間のこの障壁を取り除くように機能し得るので有利であり得る。これらの部分は、水及び極性の溶媒に溶解することができる。これらの添加剤は、オイル、脂質、又はポリマーではない。治療剤は、ミセル若しくはリポソームに封入されない、又はポリマー粒子内にカプセル化されない。本開示の実施形態の添加剤は、薬物と結合すると共に、留置期間中に該薬剤が医療用デバイスから標的組織中に迅速に移動するのを促進するための成分を有する。
【0073】
[0080]本開示の実施形態における添加剤は、1つ又は複数のヒドロキシル、アミノ、カルボニル、カルボキシル、酸、アミド、又はエステルの部分を有する界面活性剤及び化学物質である。界面活性剤として、イオン性、ノニオン性、脂肪族、及び芳香族界面活性剤が挙げられる。1つ又は複数のヒドロキシル、アミノ、カルボニル、カルボキシル、酸、アミド、又はエステルの部分を有する化学物質は、アミノアルコール、ヒドロキシルカルボン酸及び無水物、エチルオキシド、エチルグリコール、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖、グルコース、スクロース、ソルビタン、グリセロール、多価アルコール、リン酸塩、硫酸塩、有機の酸、エステル、塩、ビタミン、及びその置換型分子から選択される。
【0074】
[0081]当技術分野において周知されているように、用語「親水性」及び「疎水性」は、相対的な用語である。本開示の代表的な実施形態における添加剤として機能するために、化合物は、極性又は荷電性の親水性部分並びに非極性疎水性(親油性)部分を含む。
【0075】
[0082]医薬化合物の相対的な親水性及び疎水性を特徴づける、医薬品化学で一般的に使用される実験的パラメーターは、2つの非混合性溶媒からなる混合物(通常オクタノールと水)の2相内非イオン化化合物の濃度比である分配係数Pである(P=([溶質]オクタノール/[溶質]))。Log(P)が大きい化合物ほど疎水的である一方、Log(P)が小さい化合物ほど親水性である。リピンスキーの法則は、Log(P)<5を有する医薬化合物は、一般的により膜透過性であることを示唆する。本開示の特定の実施形態の目的に照らせば、添加剤は、製剤化される薬物のLog(P)よりも小さいLog(P)を有することが好ましい(例えば、パクリタキセルのLog(P)は7.4である)。薬物と添加剤の間のLog(P)の差異がより大きいほど、薬物の相分離を促進することができる。例えば、添加剤のLog(P)が薬物のLog(P)よりもかなり低い場合、添加剤は、デバイス表面から水性環境内への薬物の放出を加速させ得る(さもなければ薬物はデバイス表面に密着し得る)が、これにより介入部位に短時間留置する間の組織への薬物送達を加速させる。本開示の特定の実施形態では、添加剤のLog(P)は負である。その他の実施形態では、添加剤のLog(P)は、薬物のLog(P)よりも小さい。化合物のオクタノール-水間の分配係数P又はLog(P)は、相対的な親水性及び疎水性の指標として有用であるものの、本開示の実施形態で使用される好適な添加剤を規定する際に有用であり得る、単なる大雑把な目安である。
【0076】
[0083]本開示の実施形態において使用可能である好適な添加剤として、非限定的に、有機及び無機の薬学的賦形剤、天然物及びその誘導体(例えば、糖、ビタミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、及び脂肪酸等)、低分子量オリゴマー、界面活性剤(アニオン性、カチオン性、ノニオン性、及びイオン性)、及びその混合物が挙げられる。本開示において有用である添加剤の下記詳細リストは、例示目的に限定して提供され、また網羅的であるようには意図されない。多くのその他の添加剤が、本開示の目的において有用であり得る。
【0077】
界面活性剤
[0084]界面活性剤は、医薬組成物での使用に適する任意の界面活性剤であり得る。そのような界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、双性イオン性、又はノニオン性であり得る。界面活性剤の混合物もまた、界面活性剤とその他の添加剤との組み合わせ物と同様に、本開示の範囲内にある。界面活性剤は、1つ又は複数の長鎖脂肪族鎖、例えば細胞膜の脂質二重層中に直接入り込んで脂質構造の一部分を形成し得る一方、界面活性剤のその他の成分は脂質構造を緩め、そして薬物の侵入及び吸収を強化する脂肪酸等を多くの場合有する。造影剤のイオプロミドはこのような特性を有さない。
【0078】
[0085]界面活性剤の相対的な親水性及び疎水性を特徴づけるのに一般的に使用される実験的パラメーターは、親水性-親油性バランス(「HLB」値)である。HLB値が低い界面活性剤はより疎水的であり、より高い油中溶解度を有する一方、HLB値がより高い界面活性剤はより親水性であり、より高い水溶液中溶解度を有する。大雑把な目安としてHLB値を使用すると、親水性界面活性剤は、約10を上回るHLB値を有する化合物、並びにHLBスケールが一般的に適用されないようなアニオン性、カチオン性、又は双性イオン性化合物であると一般的に考えられている。同様に、疎水性界面活性剤は、約10未満のHLB値を有する化合物である。本開示の特定の実施形態では、親水性が増加すればデバイスの表面からの疎水性薬物の放出を促進し得るので、より高いHLB値が好ましい。1つの実施形態では、界面活性剤添加剤のHLBは10よりも高い。別の実施形態では、添加剤のHLBは14よりも高い。或いは、例えば非常に親水性の添加剤を有する薬物層上のトップコートにおいて、デバイスを標的部位に留置する前に薬物が失われるのを防止するのに使用される場合、低めのHLBを有する界面活性剤が好ましい場合もある。特定の実施形態における界面活性剤添加剤のHLB値は0.0~40の範囲である。
【0079】
[0086]界面活性剤のHLB値は、例えば、工業用、医薬用、及び化粧品用エマルジョンの製剤化を可能にするのに一般的に使用される、単に大雑把な目安であると理解されるべきである。いくつかのポリエトキシル化界面活性剤を含む多くの重要な界面活性剤では、HLB値は、HLB値を決定するために選択された実験方法に依存して、約8HLB単位ほど異なる可能性があることが報告されている(Schott,J.Pharm.Sciences,79(1),87-88(1990))。このような本質的な難点を念頭に置きつつ、HLB値を目安として使用すれば、本明細書に記載されるように、本開示の実施形態での使用において、好適な親水性又は疎水性を有する界面活性剤を特定することができる。
【0080】
PEG-脂肪酸及びPEG-脂肪酸モノ及びジエステル
[0087]ポリエチレングリコール(PEG)そのものは、界面活性剤として機能しないものの、様々なPEG-脂肪酸エステルが有用な界面活性剤特性を有する。PEG-脂肪酸モノエステルの中でも、ラウリン酸、オレイン酸、及びステアリン酸、ミリストレイン酸、パルミトオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、エルシン酸、リシノール酸、及びドコサヘキサエン酸のエステルは、本開示の実施形態において最も有用である。好ましい親水性界面活性剤として、PEG-8ラウレート、PEG-8オレエート、PEG-8ステアレート、PEG-9オレエート、PEG-10ラウレート、PEG-10オレエート、PEG-12ラウレート、PEG-12オレエート、PEG-15オレエート、PEG-20ラウレート、及びPEG-20オレエートが挙げられる。PEG-15 12-ヒドロキシステアレート(Solutol HS15)は、注射溶液で使用されるノニオン性界面活性剤である。Solutol HS15は、室温で白色ペーストであり、室温より高く体温より低い約30℃において液体となるので、本開示の特定の実施形態において好ましい添加剤である。HLB値は、4~20の範囲である。
【0081】
[0088]添加剤(例えばSolutol HS15等)は、室温でペースト状、固体、又は結晶状態にあり、体温で液体となる。室温で液体である特定の添加剤は、均一にコーティングされた医療用デバイスの製造を困難にし得る。特定の液体添加剤は、溶媒の蒸発を阻害するおそれがあり、又は室温で、デバイス、例えばバルーンカテーテルのバルーン部分等をコーティングするプロセスの期間中に、医療用デバイス表面上においてその場にとどまらない可能性がある。本開示の特定の実施形態において、ペースト及び固体の添加剤は、室温で乾燥し得る均一なコーティングとして医療用デバイス上に限局してとどまることができるので、そのような添加剤が好ましい。いくつかの実施形態では、医療用デバイス上の固体コーティングが人体内に留置される間により高い生理的温度(約37℃)に曝露されるとき、該固体コーティングは液体となる。これらの実施形態では、液体コーティングは、医療用デバイスの表面からきわめて容易に遊離し、そして罹患した組織中に容易に移動する。生理的条件の下で、温度に誘発されて状態が変化する添加剤は、本開示の特定の実施形態、特に特定の薬物コーティングされたバルーンカテーテルにおいて非常に重要である。特定の実施形態では、固体添加剤及び液体添加剤の両方が、本開示の薬物コーティングにおいて併用される。併用することで、医療用デバイスのためのコーティングの完全性が向上する。本開示の特定の実施形態では、少なくとも1つの固体添加剤が、薬物コーティングで使用される。
【0082】
[0089]ポリエチレングリコール脂肪酸ジエステルも、本開示の実施形態の組成物における界面活性剤として使用に適する。最も好ましい親水性界面活性剤として、PEG-20ジラウレート、PEG-20ジオレエート、PEG-20ジステアレート、PEG-32ジラウレート、及びPEG-32ジオレエートが挙げられる。HLB値は5~15の範囲である。
【0083】
[0090]一般的に、界面活性剤の混合物も、2つ又はそれより多くの市販の界面活性剤の混合物、並びに界面活性剤と別の1つ又は複数の添加剤との混合物を含め、本開示の実施形態において有用である。いくつかのPEG-脂肪酸エステルは、モノエステル及びジエステルの混合物として市販されている。
【0084】
ポリエチレングリコールグリセロール脂肪酸エステル
[0091]好ましい親水性界面活性剤は、PEG-20グリセリルラウレート、PEG-30グリセリルラウレート、PEG-40グリセリルラウレート、PEG-20グリセリルオレエート、及びPEG-30グリセリルオレエートである。
【0085】
アルコール-オイルエステル交換製品
[0092]疎水性又は親水性の程度の異なる多数の界面活性剤が、アルコール又は多価アルコールと様々な天然オイル及び/又は水素化オイルとの反応により調製され得る。最も一般的には、使用されるオイルは、ひまし油若しくは水素化ひまし油、又は食用植物油、例えばコーンオイル、オリーブオイル、ピーナッツオイル、パームカーネルオイル、アプリコットカーネルオイル、若しくはアーモンドオイル等である。好ましいアルコールとして、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、及びペンタエリトリトールが挙げられる。これらのアルコール-オイルエステル交換型界面活性剤のなかでも、好ましい親水性界面活性剤は、PEG-35ひまし油、ポリエチレングリコール-グリセロールリシノレエート(Incrocas-35、及びCremophor EL&ELP)、PEG-40水素化ひまし油(Cremophor RH40)、PEG-15水素化ひまし油(Solutol HS15)、PEG-25トリオレエート(TAGAT.RTM.TO)、PEG-60コーングリセリド(Crovol M70)、PEG-60アーモンドオイル(Crovol A70)、PEG-40パームカーネルオイル(Crovol PK70)、PEG-50ひまし油(Emalex C-50)、PEG-50水素化ひまし油(Emalex HC-50)、PEG-8カプリリック/カプリックグリセリド(Labrasol)、及びPEG-6カプリリック/カプリックグリセリド(Softigen767)である。このクラスに含まれる好ましい疎水性界面活性剤として、PEG-5水素化ひまし油、PEG-7水素化ひまし油、PEG-9水素化ひまし油、PEG-6コーンオイル(Labrafil.RTM.M2125CS)、PEG-6アーモンドオイル(Labrafil.RTM.M1966CS)、PEG-6アプリコットカーネルオイル(Labrafil.RTM.M1944CS)、PEG-6オリーブオイル(Labrafil.RTM.M1980CS)、PEG-6ピーナッツオイル(Labrafil.RTM.M1969CS)、PEG-6水素化パームカーネルオイル(Labrafil.RTM.M2130BS)、PEG-6パームカーネルオイル(Labrafil.RTM.M2130CS)、PEG-6トリオレイン(Labrafil.RTM.bM2735CS)、PEG-8コーンオイル(Labrafil.RTM.WL2609BS)、PEG-20コーングリセリド(Crovol M40)、及びPEG-20アーモンドグリセリド(Crovol A40)が挙げられる。
【0086】
ポリグリセリル脂肪酸
[0093]脂肪酸のポリグリセロールエステルも、本開示の実施形態での使用にとって好適な界面活性剤である。ポリグリセリル脂肪酸エステルの中でも、好ましい疎水性界面活性剤として、ポリグリセリルオレエート(Plurol Oleique)、ポリグリセリル-2ジオレエート(Nikkol DGDO)、ポリグリセリル-10トリオレエート、ポリグリセリルステアレート、ポリグリセリルラウレート、ポリグリセリルミリステート、ポリグリセリルパルミテート、及びポリグリセリルリノレートが挙げられる。好ましい親水性界面活性剤として、ポリグリセリル-10ラウレート(Nikkol Decaglyn 1-L)、ポリグリセリル-10オレエート(Nikkol Decaglyn 1-O)、及びポリグリセリル-10モノ、ジオレエート(Caprol.RTM.PEG860)、ポリグリセリル-10ステアレート、ポリグリセリル-10ラウレート、ポリグリセリル-10ミリステート、ポリグリセリル-10パルミテート、ポリグリセリル-10リノレート、ポリグリセリル-6ステアレート、ポリグリセリル-6ラウレート、ポリグリセリル-6ミリステート、ポリグリセリル-6パルミテート、及びポリグリセリル-6リノレートが挙げられる。ポリグリセリルポリリシノールエート(Polymuls)も好ましい界面活性剤である。
【0087】
プロピレングリコール脂肪酸エステル
[0094]プロピレングリコールと脂肪酸のエステルが、本開示の実施形態での使用にとって好適な界面活性剤である。この界面活性剤クラスにおいて、好ましい疎水性界面活性剤として、プロピレングリコールモノラウレート(Lauroglycol FCC)、プロピレングリコールリシノレエート(Propymuls)、プロピレングリコールモノオレエート(Myverol P-O6)、プロピレングリコールジカプリレート/ジカプレート(Captex.RTM.200)、及びプロピレングリコールジオクタノエート(Captex.RTM.800)が挙げられる。
【0088】
ステロール及びステロール誘導体
[0095]ステロール及びステロールの誘導体が、本開示の実施形態での使用にとって好適な界面活性剤である。好ましい誘導体として、ポリエチレングリコール誘導体が挙げられる。このクラスに含まれる好ましい界面活性剤は、PEG-24コレステロールエーテル(Solulan C-24)である。
【0089】
ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル
[0096]様々なPEG-ソルビタン脂肪酸エステルが利用可能であり、また本開示の実施形態において、界面活性剤として使用するのに適する。PEG-ソルビタン脂肪酸エステルの中でも、好ましい界面活性剤として、PEG-20ソルビタンモノラウレート(ツイーン20)、PEG-4ソルビタンモノラウレート(ツイーン21)、PEG-20ソルビタンモノパルミテート(ツイーン40)、PEG-20ソルビタンモノステアレート(ツイーン60)、PEG-4ソルビタンモノステアレート(ツイーン61)、PEG-20ソルビタンモノオレエート(ツイーン80)、PEG-4ソルビタンモノオレエート(ツイーン81)、PEG-20ソルビタントリオレエート(ツイーン85)が挙げられる。オレイン酸エステルと比較して短い脂質鎖を有し、薬物吸収が増加するので、ラウリン酸エステルが好ましい。
【0090】
ポリエチレングリコールアルキルエーテル
[0097]ポリエチレングリコールとアルキルアルコールのエーテルが、本開示の実施形態での使用にとって好適な界面活性剤である。好ましいエーテルとして、ラネス(ラネス-5、ラネス-10、ラネス-15、ラネス-20、ラネス-25、及びラネス-40)、ラウレス(ラウレス-5、ラウレス-10、ラウレス-15、ラウレス-20、ラウレス-25、及びラウレス-40)、オレス(オレス-2、オレス-5、オレス-10、オレス-12、オレス-16、オレス-20、及びオレス-25)、ステアレス(ステアレス-2、ステアレス-7、ステアレス-8、ステアレス-10、ステアレス-16、ステアレス-20、ステアレス-25、及びステアレス-80)、セテス(セテス-5、セテス-10、セテス-15、セテス-20、セテス-25、セテス-30、及びセテス-40)、PEG-3オレイルエーテル(Volpo3)、及びPEG-4ラウリルエーテル(Brij30)が挙げられる。
【0091】
糖及び糖誘導体
[0098]糖誘導体が、本開示の実施形態での使用にとって好適な界面活性剤である。このクラスに含まれる好ましい界面活性剤として、スクロースモノパルミテート、スクロースモノラウレート、デカノイル-N-メチルグルカミド、n-デシル-β-D-グルコピラノシド、n-デシル-β-D-マルトピラノシド、n-ドデシル-β-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトシド、ヘプタノイル-N-メチルグルカミド、n-ヘプチル-β-D-グルコピラノシド、n-ヘプチル-β-D-チオグルコシド、n-ヘキシル-β-D-グルコピラノシド、ノナノイル-N-メチルグルカミド、n-ノニル-β-D-グルコピラノシド、オクタノイル-N-メチルグルカミド、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、及びオクチル-β-D-チオグルコピラノシドが挙げられる。
ポリエチレングリコールアルキルフェノール
[0099]いくつかのPEG-アルキルフェノール界面活性剤、例えばPEG-10-100ノニルフェノール及びPEG-15-100オクチルフェノールエーテル、チロキサポール、オクトキシノール、ノノキシノール等が利用可能であり、また本開示の実施形態での使用に適する。
【0092】
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン(POE-POP)ブロックコポリマー
[0100]POE-POPブロックコポリマーは、ポリマー界面活性剤のユニークなクラスである。比及び位置が十分に定義された親水性POE部分と疎水性POP部分とを有する界面活性剤のユニークな構造が、本開示の実施形態での使用に適する多種多様な界面活性剤を提供する。このような界面活性剤は、Synperonic PEシリーズ(ICI);Pluronic.RTM.シリーズ(BASF)、Emkalyx、Lutrol(BASF)、Supronic、Monolan、Pluracare、及びPlurodacを含め、様々な商標名で入手可能である。これらのポリマーに対する一般的な用語は、「ポロキサマー」(CAS9003-11-6)である。これらのポリマーは、式:HO(CO)(CO)(CO)Hを有し、式中、「a」及び「b」は、それぞれポリオキシエチレンユニット及びポリオキシプロピレンユニットの数を表す。
【0093】
[0101]このクラスの好ましい親水性界面活性剤として、ポロキサマー108、188、217、238、288、338、及び407が挙げられる。このクラスの好ましい疎水性界面活性剤として、ポロキサマー124、182、183、212、331、及び335が挙げられる。
【0094】
ポリエステル-ポリエチレングリコールブロックコポリマー
[0102]ポリエチレングリコール-ポリエステルブロックコポリマーは、ポリマー界面活性剤のユニークなクラスである。比及び位置が十分に定義された親水性ポリエチレングリコール(PEG)部分及び疎水性ポリエステル部分を有する界面活性剤のユニークな構造は、本開示の実施形態での使用にとって好適である多種多様な界面活性剤を提供する。ブロックポリマー内のポリエステルとして、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリ(DL-ラクチド)(PDLLA)、ポリ(D-ラクチド)(PDLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエステルアミド(PEA)、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート(PHBHx)、ポリアミノ酸、ポリグリコリド又はポリグリコール酸(PGA)、ポリグリコリド及びそのコポリマー(乳酸とのポリ(乳酸-co-グリコール酸)、ε-カプロラクトンとのポリ(グリコリド-co-カプロラクトン)、及びトリメチレンカーボネートとのポリ(グリコリド-co-トリメチレンカーボネート))、及びそのコポリエステルが挙げられる。例は、PLA-b-PEG、PLLA-b-PEG、PLA-co-PGA-b-PEG、PCL-co-PLLA-b-PEG、PCL-co-PLLA-b-PEG、PEG-b-PLLA-b-PEG、PLLA-b-PEG-b-PLLA、PEG-b-PCL-b-PEG、並びにその他のジ、トリ、及び複数のブロックコポリマーである。親水性ブロックは、その他の親水性又は水溶性ポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、及びポリアクリル酸等であり得る。
【0095】
ポリエチレングリコールグラフトコポリマー
[0103]グラフトコポリマーの1例は、Soluplus(BASF、German)である。Soluplusは、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニルアセテート-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーである。コポリマーは、両親媒性化学構造を有する可溶化剤であり、水性媒体中で難溶性薬物、例えばパクリタキセル、ラパマイシン、及びその誘導体等を可溶化する能力を有する。コポリマーの分子量は、90,000~140000g/molの範囲である。
【0096】
[0104]両親媒性の化学構造を有するポリマー、コポリマー、ブロックコポリマー、及びグラフトコポリマーは、複数の実施形態において添加剤として用いられる。両親媒性の化学構造を有するポリマーは、ブロックコポリマー又はグラフトコポリマーである。コポリマーには、異なる反復したユニットからなる複数のセグメント(少なくとも2つのセグメント)が存在する。いくつかの実施形態では、セグメントの1つは、コポリマー中のその他のセグメントよりも親水性である。同様に、セグメントの1つは、コポリマー中のその他のセグメントよりも疎水性である。例えば、Soluplus(BASF、German)において、ポリエチレングリコールセグメントは、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニルアセテートセグメントよりも親水性である。ポリエチレングリコール-ポリエステルブロックコポリマーにおいて、ポリエステルセグメントは、ポリエチレングリコールセグメントよりも疎水性である。PEG-PLLAにおいて、PEGはPLLAよりも親水性である。PCLは、PEG-b-PCL-b-PEGにおいて、PEGよりも疎水性である。親水性セグメントは、ポリエチレングリコールに限定されない。その他の水溶性のポリマー、例えば可溶性ポリビニルピロリドンやポリビニルアルコール等は、両親媒性構造を有するポリマーにおいて、親水性セグメントを形成することができる。複数の実施形態において、コポリマーがその他の添加剤と組み合わせて使用可能である。
【0097】
ソルビタン脂肪酸エステル
[0105]脂肪酸のソルビタンエステルが、本開示の実施形態での使用にとって好適な界面活性剤である。このエステルの中でも、好ましい疎水性界面活性剤として、ソルビタンモノラウレート(Arlacel20)、ソルビタンモノパルミテート(Span-40)、及びソルビタンモノオレエート(Span-80)、ソルビタンモノステアレートが挙げられる。
【0098】
[0106]ビタミンCの両親媒性誘導体であるソルビタンモノパルミテート(ビタミンC活性を有する)は、可溶化系において2つの重要な機能を果たすことができる。第1に、微環境を調節することができる有効な極性基を有する。この極性基は、入手可能な最も水溶性の有機性固体化合物の1つであるビタミンCそのもの(アスコルビン酸)をなす基と同一である:アスコルビン酸は、約30wt/wt%まで水に可溶である(例えば、塩化ナトリウムの溶解度に非常に近い)。そして第2に、pHが増加すると、パルミチン酸アスコルビルの部分がより可溶性の塩、例えばパルミチン酸アスコルビルナトリウム等に変換する。
【0099】
イオン性界面活性剤
[0107]イオン性界面活性剤(カチオン性、アニオン性、及び双性イオン性界面活性剤を含む)が、本開示の実施形態での使用にとって好適な親水性界面活性剤である。
【0100】
[0108]アニオン性界面活性剤は、親水性の部分に負電荷を担持する界面活性剤である。本開示の実施形態で添加剤として使用されるアニオン性界面活性剤の主要なクラスは、カルボン酸イオン、硫酸イオン、及びスルホン酸イオンを含有する界面活性剤である。本開示の実施形態で使用される好ましいカチオンは、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及び亜鉛である。直鎖は、一般的に飽和又は不飽和のC8~C18脂肪族基である。カルボン酸イオンを有するアニオン性界面活性剤として、アルミニウムステアレート、ナトリウムステアレート、カルシウムステアレート、マグネシウムステアレート、亜鉛ステアレート、ナトリウム、亜鉛、及びカリウムオレエート、ナトリウムステアリルフマレート、ナトリウムラウロイルサルコシネート、及びナトリウムミリストイルサルコシネートが挙げられる。硫酸基を有するアニオン性界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸モノ、ジ、及びトリエタノールアミン、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、セトステアリル硫酸ナトリウム、セテアリル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、硫酸化ひまし油、コレステリル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、その他の中間鎖分岐型又は非分岐型アルキル硫酸、及びラウリル硫酸アンモニウムが挙げられる。スルホン酸基を有するアニオン性界面活性剤として、ドクサートナトリウム(sodium docusate)、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジイソブチルナトリウム、スルホコハク酸ジアミルナトリウム、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸、及びスルホコハク酸ビス(1-メチルアミル)ナトリウムが挙げられる。
【0101】
[0109]本開示の実施形態で使用される最も一般的なカチオン性界面活性剤は、一般式Rを有する四級アンモニウム化合物であり、式中Xは通常塩化物又は臭化物イオンであり、及び各Rは、炭素原子8~18個を含有するアルキル基から独立に選択される。この種の界面活性剤は、その殺菌特性を理由として薬学的に重要である。本開示内の医薬及び医療用デバイスの調製で使用される主要なカチオン性界面活性剤は、四級アンモニウム塩である。界面活性剤として、セトリミド、臭化セトリモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアラルコニウムクロリド、ラウラルコニウムクロリド、テトラドデシルアンモニウムクロリド、ミリスチルピコリニウムクロリド、及びドデシルピコリニウムクロリドが挙げられる。これらの界面活性剤は、製剤又はコーティングに含まれる治療薬のいくつかと反応する可能性がある。治療薬と反応しない場合、そのような界面活性剤が好まれ得る。
【0102】
[0110]双性イオン性又は両性の界面活性剤として、とりわけドデシルベタイン、コカミドプロピルベタイン、ココアンホクリシネートが挙げられる。
[0111]好ましいイオン性界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、セトステアリル硫酸ナトリウム、セテアリル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、硫酸化ひまし油、コレステリル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、その他の中間鎖分岐型又は非分岐型アルキル硫酸、ドクサートナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、ドセシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドセシル硫酸ナトリウム(Sodium docecylsulfate)、ジアルキルメチルベンジルアンモニウムクロリド、エドロホニウムクロリド、ドミフェンブロミド、スルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、及びタウロコール酸ナトリウムのジアルキルエステルが挙げられる。これら四級アンモニウム塩が好ましい添加剤である。これらは、有機溶媒(例えばエタノール、アセトン、及びトルエン等)及び水の両方に溶解し得る。これは、調製及びコーティングプロセスを簡素化し、また良好な接着特性を有するので、医療用デバイスコーティングに特に有用である。水不溶性薬物は有機溶媒に一般的に溶解する。これら界面活性剤のHLB値は、一般的に20~40の範囲であり、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は38~40のHLB値を有する。
【0103】
[0112]本明細書に記載される界面活性剤のいくつかは、加熱下で非常に安定である。該界面活性剤は酸化エチレン滅菌処理プロセスに耐える。該界面活性剤は、滅菌処理プロセスの下、薬物、例えばパクリタキセル又はラパマイシン等と反応しない。薬物と反応する可能性はほとんどない一方、アミン基及び酸基は、多くの場合滅菌処理期間中にパクリタキセル又はラパマイシンと反応するので、ヒドロキシル基、エステル基、アミド基が好ましい。更に、界面活性剤添加剤は、ハンドリング中に粒子が脱落しないようにコーティング層の完全性及び品質を改善する。本明細書に記載される界面活性剤が、パクリタキセルと共に実験的に製剤化されるとき、デバイス送達プロセス期間中に薬物が時期尚早に放出されることから保護する一方、標的部位において0.2~2分というごく短い留置期間にパクリタキセルの迅速な放出及び溶出を円滑化する。実験的には、標的部位における組織による薬物吸収は予想外に高い。
【0104】
1つ又は複数のヒドロキシル、アミノ、カルボニル、カルボキシル、酸、アミド、又はエステル部分を有する化学物質
[0113]1つ又は複数のヒドロキシル、アミノ、カルボニル、カルボキシル、酸、アミド、又はエステル部分を有する化学物質として、アミノアルコール、ヒドロキシルカルボン酸、エステル、及び無水物、ヒドロキシルケトン、ヒドロキシルラクトン、ヒドロキシルエステル、糖リン酸、糖硫酸、糖アルコール、エチルオキシド、エチルグリコール、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ソルビタン、グリセロール、多価アルコール、リン酸塩、硫酸塩、有機酸、エステル、塩、ビタミン、アミノアルコールと有機酸との組み合わせ、及びその置換型分子が挙げられる。1つ又は複数のヒドロキシル、アミノ、カルボニル、カルボキシル、酸、アミド、又はエステル部分を有する、分子量が5,000~10,000未満の親水性化学物質が、特定の実施形態において好ましい。その他の実施形態では、1つ又は複数のヒドロキシル、アミノ、カルボニル、カルボキシル、酸、アミド、又はエステル部分を有する添加剤の分子量は、好ましくは1000~5,000未満、又はより好ましくは750~1,000未満、又は最も好ましくは750未満である。これらの実施形態では、添加剤の分子量は、送達される薬物の分子量未満であるのが好ましい。
【0105】
[0114]更に、分子量が80未満の分子であると、非常に容易に蒸発し、また医療用デバイスのコーティング内にとどまらないので、添加剤の分子量は80よりも高いのが好ましい。添加剤が室温で揮発性又は液体状態である場合には、コーティングプロセスにおいて溶媒の蒸発期間中に添加剤が失われないように、その分子量は80を上回ることが重要である。しかしながら、アルコール、エステル、アミド、酸、アミン、及びその誘導体の固体添加剤等のように、添加剤が揮発性ではない特定の実施形態では、添加剤はコーティングから容易に蒸発しないので、添加剤の分子量は、80未満、60未満、及び20未満であってもよい。固体添加剤は、結晶性、半結晶性、及び非結晶性であり得る。小分子は迅速に拡散することができる。小分子は、それ自体を送達バルーンから容易に放出することができ、薬物の放出を加速させるが、また薬物が体管腔の組織と結合するとき、薬物から遠ざかるように拡散することができる。
【0106】
[0115]特定の実施形態では、例えば高分子量添加剤の場合、4つを超えるヒドロキシル基が好ましい。大型の分子は低速で拡散する。添加剤又は化学物質の分子量が高い場合、例えば分子量が、800を上回る、1000を上回る、1200を上回る、1500を上回る、又は2000を上回る場合には;大型の分子は、医療用デバイスの表面から溶出するのが遅すぎるので、薬物を2分以内に放出できない可能性がある。このような大型の分子が、4つを超えるヒドロキシル基を含有する場合には、その親水性特性(比較的大型の分子が薬物を迅速に放出するのに必要)が高まる。親水性が高まれば、バルーンからのコーティングの溶出に役立ち、薬物の放出を促進し、また水バリアを通じて薬物が移動し、そして脂質二重層の極性頭部基が組織を貫通するのを改善又は容易にする。水不溶性薬物、例えばパクリタキセル又はラパマイシン等と反応する可能性はほとんどないので、ヒドロキシル基が親水性部分として好ましい。
【0107】
[0116]いくつかの実施形態では、4つを超えるヒドロキシル基を有する化学物質は、120℃又はそれより低い融点を有する。いくつかの実施形態では、4つを超えるヒドロキシル基を有する化学物質は、立体配置において、全てが分子の一方の側にある3つの隣接したヒドロキシル基を有する。例えば、ソルビトール及びキシリトールは、立体配置において、全てが分子の一方の側にある3つの隣接したヒドロキシル基を有する一方、ガラクチトールは有さない。差異は、異性体の物理特性、例えば融解温度等に影響を及ぼす。3つの隣接したヒドロキシル基の立体配置は薬物結合を増強し得る。これは、水不溶性薬物及び親水性添加剤の適合性の改善、並びに組織の取り込み及び薬物の吸収の改善をもたらす。
【0108】
[0117]アミド部分を有する化学物質は、本開示の特定の実施形態におけるコーティング製剤にとって重要である。尿素は、アミド基を有する化学物質の1つである。その他として、ビウレット、アセトアミド、乳酸アミド、アミノ酸アミド、アセトアミノフェン、尿酸、ポリ尿素、ウレタン、尿素誘導体、ナイアシンアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、スルファセタミドナトリウム、ベルセタミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ミリスチン酸ジエタノールアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチルステアルアミド)、コカミドMEA、コカミドDEA、アルギニン、並びにその他の有機酸のアミド及びその誘導体が挙げられる。アミド基を有する化学物質のいくつかは、1つ又は複数のヒドロキシル、アミノ、カルボニル、カルボキシル、酸、又はエステル部分も有する。
【0109】
[0118]アミド基を有する化学物質の1つは、可溶性の低分子量ポビドンである。ポビドンとして、コリドン12PF、コリドン17PF、コリドン17、コリドン25、及びコリドン30が挙げられる。コリドン製品は、様々な分子量及び粒子サイズのポリビニルピロリドンの可溶性及び不溶性グレード、ビニルピロリドン/ビニルアセテートコポリマー、及びポリビニルアセテートとポリビニルピロリドンのブレンド品から構成される。ファミリー製品は、ポビドン、クロスポビドン、及びコポビドンと称される。低分子量及び可溶性ポビドン及びコポビドンは、複数の実施形態において特に重要な添加剤である。例えば、コリドン12PF、コリドン17PF、及びコリドン17は、非常に重要である。固体ポビドンは、医療用デバイス上のコーティングの完全性を保持することができる。低分子量ポビドンは、罹患した組織に吸収又は浸透可能である。ポビドンの分子量の好ましい範囲は、54000ダルトン未満、11000ダルトン未満、7000ダルトン未満、4000未満である。ポビドンは、水不溶性治療剤を可溶化することができる。固体、低分子量、及び組織吸収性/浸透性というこれらの特性に起因して、ポビドン及びコポビドンは、特に有用である。ポビドンは、その他の添加剤と併用可能である。1つの実施形態では、ポビドン及びノニオン性界面活性剤(例えば、PEG-15 12-ヒドロキシステアレート(Solutol HS15)、ツイーン20、ツイーン80、Cremophor RH40、Cremophor EL&ELP等)は、医療用デバイス(例えばバルーンカテーテル等)のためのコーティングとして、パクリタキセル若しくはラパマイシン又はその類似体と共に製剤化され得る。
【0110】
[0119]エステル部分を有する化学物質は、特定の実施形態におけるコーティング製剤にとって特に重要である。有機酸とアルコールとの生成物は、エステル基を有する化学物質である。エステル基を有する化学物質は、ポリマー材料用の可塑剤として多くの場合使用される。多種多様なエステル化学物質として、セベート(sebates)、アジペート、グルテレート(gluterates)、及びフタレートが挙げられる。これらの化学物質の例は、ビス(2-エチルヘキシル)フタレート、ジ-n-ヘキシルフタレート、ジエチルフタレート、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジメチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジブチルマレート、トリエチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、トリオクチルシトレート、トリヘキシルシトレート、ブチリルトリヘキシルシトレート、及びトリメチルシトレートである。
【0111】
[0120]本明細書に記載される1つ又は複数のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド、又はエステル部分を有する化学物質のいくつかは、加熱下で非常に安定である。該化学物質は、酸化エチレン滅菌処理プロセスに耐え、また滅菌処理中に、水不溶性薬物のパクリタキセル又はラパマイシンと反応しない。一方、L-アスコルビン酸とその塩及びジエタノールアミンは、そのような滅菌処理プロセスに必ずしも耐えられず、またパクリタキセルと反応する。従って、L-アスコルビン酸及びジエタノールアミンには、異なる滅菌処理方法が好ましい。治療剤、例えばパクリタキセル又はラパマイシン等と反応する可能性はほとんどないので、ヒドロキシル、エステル、及びアミド基が好ましい。時に、アミン基及び酸基はパクリタキセルと反応し、例えば、実験的には、安息香酸、ゲンチジン酸、ジエタノールアミン、及びアスコルビン酸は、酸化エチレン滅菌処理、加熱、及びエージングプロセスの下で安定性を欠き、そしてパクリタキセルと反応した。
【0112】
[0121]本明細書に記載される化学物質がパクリタキセルと共に製剤化されるとき、親水性小分子は容易に薬物を放出し過ぎるきらいがあるので、標的部位に留置する前のデバイス送達プロセス期間中に薬物が時期尚早に失われるのを防止するのに、トップコート層が有利であり得る。本明細書における化学物質は、標的部位への留置期間中に、バルーンから薬物を迅速に溶出する。驚くべきことに、コーティングがこれらの添加剤を含有するとき、デバイスを標的部位に移動させる期間中に一部の薬物が失われるものの、実験的には、例えば添加剤ヒドロキシルラクトン、例えばリボン酸ラクトン及びグルコノラクトン等を用いたとき、組織による薬物吸収は留置からわずか0.2~2分後において予想外に高い。
【0113】
酸化防止剤
[0122]酸化防止剤は、その他の分子に対して酸化遅延又は防止能力を有する分子である。酸化反応は、連鎖反応を開始するフリーラジカルを生成し得るが、また敏感な治療剤、例えばラパマイシン及びその誘導体の分解を引き起こすおそれがある。酸化防止剤は、フリーラジカルを除去することによりこの連鎖反応を終了させ、また更に、それ自体が酸化されることにより活性な薬剤の酸化を阻害する。酸化防止剤は、特定の実施形態において、医療用デバイスのためのコーティングに含まれる治療剤の酸化を防止し又は低速化させるための添加剤として用いられる。酸化防止剤は、フリーラジカルスカベンジャーの類である。酸化防止剤は、単独で、又は特定の実施形態ではその他の添加剤と組み合わせて使用され、また滅菌処理中、又は使用前の保管中に活性な治療剤が分解するのを防止し得る。
【0114】
[0123]本開示の方法で使用され得る酸化防止剤のいくつかの代表的な例として、非限定的に、オリゴマー性又はポリマー性のプロアントシアニジン、ポリフェノール、ポリホスフェート、ポリアゾメチン、高硫酸塩アガーオリゴマー、部分的なキトサンの加水分解により取得されるキトオリゴ糖、立体障害型フェノール、立体障害型アミン、例えば、非限定的にp-フェニレンジアミン、トリメチルジヒドロキノロン、及びアルキル化ジフェニルアミン等を有する多官能性オリゴマーチオエーテル、1つ又は複数のバルキーな官能基(ヒンダードフェノール)、例えば第三級ブチル、アリールアミン、ホスファイト、ヒドロキシルアミン、及びベンゾフラノン等を有する置換型フェノール化合物が挙げられる。また、芳香族アミン、例えばp-フェニレンジアミン、ジフェニルアミン、及びN,N’二置換型p-フェニレンジアミン等も、フリーラジカルスカベンジャーとして利用され得る。
【0115】
[0124]その他の例として、非限定的に、ブチル化ヒドロキシトルエン(「BHT」)、ブチル化ヒドロキシアニソール(「BHA」)、L-アスコルビン酸(ビタミンC)、ビタミンE、ハーブのローズマリー、セージ抽出物、グルタチオン、レスベラトロール、エトキシキン、ロスマノール、イソロスマノール、ロスマリジフェノール、没食子酸プロピル、没食子酸、コーヒー酸、p-クメル酸(coumeric acid)、p-ヒドロキシ安息香酸、アスタキサンチン、フェルラ酸、デヒドロジンゲロン、クロロゲン酸、エラグ酸、プロピルパラベン、シナピン酸、ダイジン、グリシチン、ゲニスチン、ダイゼイン、グリシテイン、ゲニステイン、イソフラボン、及びtert-ブチルヒドロキノンが挙げられる。いくつかのホスファイトの例として、ジ(ステアリル)ペンタエリトリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジラウリルチオジプロピオネート、及びビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイトが挙げられる。ヒンダードフェノールのいくつかの例として、非限定的に、オクタデシル-3,5,ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ桂皮酸、テトラキス-メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メタン-2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、イオノール、ピロガロール、レチノール、及びオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸が挙げられる。酸化防止剤として、グルタチオン、リポ酸、メラトニン、トコフェロール、トコトリエノール、チオール、β-カロテン、レチノイン酸、クリプトキサンチン、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、没食子酸プロピル、カテキン、カテキンガラート、及びケルセチンを挙げることができる。好ましい酸化防止剤は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)及びブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)である。
【0116】
脂溶性のビタミン及びその塩
[0125]ビタミンA、D、E、及びKは、その様々な形態及びプロビタミン形態の多くにおいて、脂溶性ビタミンと考えられており、またこれらに加えて、いくつかのその他のビタミン及びビタミン源又は近縁物も脂溶性であり、また極性基及び比較的高いオクタノール-水分配係数を有する。明らかに、そのような化合物の一般的なクラスは、安全使用の歴史及び高い損益比を有し、本開示の実施形態における添加剤として有用なものとなしている。
【0117】
[0126]下記の例:α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、トコフェロールアセテート、エルゴステロール、1-α-ヒドロキシコレカル(hydroxycholecal)-シフェロール、ビタミンD2、ビタミンD3、α-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、ビタミンA、フルスルチアミン、メチロールリボフラビン、オクトチアミン、プロスルチアミン、リボフラビン、ビンチアモール、ジヒドロビタミンK1、メナジオールジアセテート、メナジオールジブチレート、メナジオールジスルフェート、メナジオール、ビタミンK1、ビタミンK1オキシド、ビタミンK2、及びビタミンK-S(II)は脂溶性ビタミン誘導体及び/又は起源であり、それらも添加剤として有用である。葉酸もこの種に属し、また生理学的pHにおいて水溶性であるものの、遊離酸の形態で製剤化可能である。本開示の実施形態で有用な脂溶性ビタミンのその他の誘導体は、親水性分子との周知の化学反応により容易に取得され得る。
【0118】
水溶性ビタミン及びその両親媒性誘導体
[0127]ビタミンB、C、U、パントテン酸、葉酸、及びメナジオン関連ビタミン/プロビタミンの一部は、その様々な形態の多くにおいて、水溶性ビタミンと考えられる。これらは、疎水性部分又は多価イオンとコンジュゲート又は複合体形成して、比較的高いオクタノール-水分配係数及び極性基を有する両親媒性の形態となり得る。やはり、そのような化合物も低毒性及び高損益比の化合物であり得、本開示の実施形態における添加剤として有用なものとなしている。これらの塩も、本開示における添加剤として有用であり得る。水溶性ビタミン及び誘導体の例として、非限定的に、アセチアミン、ベンフォチアミン、パントテン酸、セトチアミン、シコチアミン、デクスパンテノール、ナイアシンアミド、ニコチン酸、ピリドキサール-5-ホスフェート、ニコチンアミドアスコルベート、リボフラビン、リボフラビンホスフェート、チアミン、葉酸、メナジオールジホスフェート、メナジオン亜硫酸水素ナトリウム、メナドキシム、ビタミンB12、ビタミンK5、ビタミンK6、ビタミンK6、及びビタミンUが挙げられる。上記したように、葉酸もまた、生理学的pHを含む幅広いpH範囲にわたり、水溶性(塩として)である。
【0119】
[0128]アミノ基又はその他の塩基性基が存在する化合物は、疎水基を含有する酸、例えば脂肪酸(特にラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、又は2-エチルヘキサン酸)、低溶解度アミノ酸、安息香酸、サリチル酸、又は酸性の脂溶性ビタミン(例えばリボフラビン等)等との単純な酸-塩基反応により容易に改変可能である。その他の化合物は、エステル結合等の結合を形成するために、そのような酸を、ビタミン上の別の基、例えばヒドロキシル基等と反応させることにより取得され得る。酸性基を含有する水溶性ビタミンの誘導体は、例えば本開示の実施形態において有用な化合物を生み出すために、疎水基を含有する反応物質、例えばステアリルアミン又はリボフラビン等と反応させることで生成可能である。パルミテート鎖をビタミンCに結合させると、アスコルビン酸パルミテートが得られる。
【0120】
アミノ酸及びその塩
[0129]アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シスチン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、プロリン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、及びその誘導体は、本開示の複数の実施形態におけるその他の有用な添加剤である。
【0121】
[0130]特定のアミノ酸は、その双性イオンの形態及び/又は一価若しくは多価イオンを有する塩の形態において、極性基、比較的高いオクタノール-水分配係数を有し、また本開示の実施形態において有用である。本開示の文脈において、「低溶解度アミノ酸」とは、緩衝化されない水において約4%(40mg/ml)未満の溶解度を有するアミノ酸を意味するものとする。これには、シスチン、チロシン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びメチオニンが含まれる。
【0122】
[0131]アミノ酸ダイマー、糖コンジュゲート、及びその他の誘導体も有用である。追加の添加剤を本開示の実施形態において有用なものとなすために、当技術分野において周知の単純な反応を通じて、親水性分子は疎水性アミノ酸に、又は疎水性分子は親水性アミノ酸に結合することができる。
【0123】
[0132]カテコールアミン、例えばドーパミン、レボドパ、カルビドパ、及びDOPA等も、添加剤として有用である。
オリゴペプチド、ペプチド、及びタンパク質
[0133]疎水性アミノ酸及び親水性アミノ酸は容易にカップリングすることができるので、オリゴペプチド及びペプチドは添加剤として有用であり、そして様々な配列のアミノ酸が薬物による組織への浸透を最大限に促進するためにテストされ得る。
【0124】
[0134]タンパク質も、本開示の実施形態における添加剤として有用である。例えば、血清アルブミンは水溶性であり、また薬物と結合するための重要な疎水性部分を含有するので、特に好ましい添加剤である:パクリタキセルは、ヒト静脈内輸液後、89%~98%がタンパク質に結合し、またラパマイシンは、92%がタンパク質、主に(97%)アルブミンに結合する。更に、PBS中のパクリタキセル溶解度は、BSAの添加により20倍以上増加する。アルブミンは、血清中に高濃度で自然に存在し、従ってヒトの血管内使用にとって非常に安全である。
【0125】
[0135]その他の有用なタンパク質として、非限定的に、その他のアルブミン、免疫グロブリン、カゼイン、ヘモグロビン、リゾチーム、免疫グルビン、a-2-マクログロブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、フィブリノゲン、リパーゼ等が挙げられる。
【0126】
有機酸及びそのエステル、アミド、及び無水物
[0136]例は、酢酸と無水物、安息香酸と無水物、ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物、エチレンジアミンテトラ酢酸二無水物、マレイン酸と無水物、コハク酸と無水物、ジグリコール酸無水物、グルタル酸無水物、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、シュウ酸、アスパラギン酸、ニコチン酸、2-ピロリドン-5-カルボン酸、アロイリチン酸、シェロール酸、及び2-ピロリドンである。アロイリチン酸及びシェロール酸は、シェラックと呼ばれる樹脂を形成することができる。パクリタキセル、アロイリチン酸、及びシェロール酸の組み合わせが、バルーンカテーテル用の薬物放出コーティングとして使用可能である。
【0127】
[0137]これらのエステルと無水物は、有機溶媒、例えばエタノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等に可溶性である。水不溶性薬物は、これらのエステル、アミド、及び無水物を含む有機溶媒に溶解し、次に医療用デバイス上に容易に適用され、次に高pH条件下で加水分解され得る。加水分解された無水物又はエステルは、水溶性の酸又はアルコールであり、デバイスから血管壁中に薬物を効率的に運搬することができる。
【0128】
1つ又は複数のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド、又はエステル部分を有するその他の化学物質
[0138]複数の実施形態に基づく添加剤は、環状及び直鎖状の脂肪族基及び芳香族基の両方において、アミノアルコール、アルコール、アミン、酸、アミド、及びヒドロキシル酸を含む。例は、L-アスコルビン酸とその塩、D-グルコアスコルビン酸とその塩、トロメタミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、メグルミン、グルカミン、アミンアルコール、グルコヘプトン酸、グルコム酸、ヒドロキシルケトン、ヒドロキシルラクトン、グルコノラクトン、グルコヘプトノラクトン、グルコオクタン酸ラクトン、グロン酸ラクトン、マンノン酸ラクトン、リボン酸ラクトン、ラクトビオン酸、グルコサミン、グルタミン酸、ベンジルアルコール、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、プロピル-4-ヒドロキシベンゾエート、リジン酢酸塩、ゲンチジン酸、ラクトビオン酸、ラクチトール、ソルビトール、グルシトール、糖ホスフェート、グルコピラノースホスフェート、糖サルフェート、糖アルコール、シナピン酸、バニリン酸、バニリン、メチルパラベン、プロピルパラベン、キシリトール、2-エトキシエタノール、糖、ガラクトース、グルコース、リボース、マンノース、キシロース、スクロース、ラクトース、マルトース、アラビノース、リキソース、フルクトース、シクロデキストリン、(2-ヒドロキシプロピル)-シクロデキストリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、レチノイン酸、リジンアセテート、ゲンチジン酸、カテキン、カテキンガラート、チレタミン、ケタミン、プロポフォール、乳酸、酢酸、任意の有機酸と上記アミンの塩、ポリグリシドール、グリセロール、マルチグリセロール、ガラクチトール、ジ(エチレングリコール)、トリ(エチレングリコール)、テトラ(エチレングリコール)、ペンタ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)オリゴマー、ジ(プロピレングリコール)、トリ(プロピレングリコール)、テトラ(プロピレングリコール)、及びペンタ(プロピレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)オリゴマー、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックコポリマー、並びにその誘導体及び組み合わせである。
【0129】
添加剤の組み合わせ物
[0139]添加剤の組み合わせ物も、本開示の目的にとって有用である。
[0140]1つの実施形態は、2つの添加剤の組み合わせ物又は混合物を含み、例えば第1の添加剤は界面活性剤を含み、そして第2の添加剤は、1つ又は複数のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド、又はエステル部分を有する化学物質を含む。
【0130】
[0141]界面活性剤と小型の水溶性分子(1つ又は複数のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド、又はエステル部分を有する化学物質)の組み合わせ物又は混合物は、複数の長所を有する。2つの添加剤と水不溶性薬物との混合物を含む製剤は、場合によっては、いずれかの添加剤を単独で含む混合物に勝る。疎水性薬物が極めて水溶性の小分子と結合する場合、それが界面活性剤と結合する場合よりも不十分である。疎水性薬物は、多くの場合小型の水溶性分子から相分離し、コーティングにおいて最適とはいえない均一性及び完全性を引き起こすおそれがある。水不溶性薬物は、界面活性剤のLog(P)及び小型の水溶性分子のLog(P)のいずれよりも高いLog(P)を有する。しかしながら、界面活性剤のLog(P)は、1つ又は複数のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド、又はエステル部分を有する化学物質のLog(P)よりも一般的に高い。界面活性剤は、比較的高いLog(P)(通常0を上回る)を有し、また水溶性分子は、低いLog(P)(通常0未満)を有する。
【0131】
[0142]いくつかの界面活性剤は、本開示の実施形態において添加剤として使用されるとき、水不溶性薬物や医療用デバイスの表面に非常に強く接着するので、標的部位において薬物は医療用デバイスの表面から迅速に遊離することができない。一方、いくつかの水溶性小分子(1つ又は複数のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド、又はエステル部分を有する)は、医療用デバイスへの接着があまりに不十分なので、医療用デバイスが標的部位に到達する前、被コーティングバルーンカテーテルを介入目的で標的とされる部位まで移動させる間に、薬物を例えば血清中に放出してしまう。驚くべきことに、製剤中の小型の親水性分子と界面活性剤の濃度比を調整することによって、移動及び薬物の迅速放出期間中のコーティングの安定性は、治療介入の標的部位において膨張し、管腔壁の組織に対して押し付けられるとき、いずれかの添加剤を単独で含む製剤よりも、場合によっては優れることを本発明者らは見出した。更に、水不溶性薬物及びきわめて水溶性の分子の混和性及び適合性が、界面活性剤の存在により改善する。界面活性剤も、薬物及び小分子に対するその良好な接着により、コーティングの均一性及び完全性を改善する。界面活性剤の長鎖疎水性部分は薬物と緊密に結合する一方、界面活性剤の親水性部分は水溶性小分子と結合する。
【0132】
[0143]混合物又は組み合わせ物中の界面活性剤として、本開示の実施形態で使用される本明細書に記載の界面活性剤の全てが挙げられる。混合物中の界面活性剤は、PEG脂肪酸エステル、PEGω-3脂肪酸エステル及びアルコール、グリセロール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、PEGグリセリル脂肪酸エステル、PEGソルビタン脂肪酸エステル、糖脂肪酸エステル、PEG糖エステル、ツイーン20、ツイーン40、ツイーン60、p-イソノニルフェノキシポリグリシドール、PEGラウレート、PEGオレエート、PEGステアレート、PEGグリセリルラウレート、PEGグリセリルオレエート、PEGグリセリルステアレート、ポリグリセリルラウレート、ポリグリセリルオレエート、ポリグリセリルミリステート、ポリグリセリルパルミテート、ポリグリセリル-6ラウレート、ポリグリセリル-6オレエート、ポリグリセリル-6ミリステート、ポリグリセリル-6パルミテート、ポリグリセリル-10ラウレート、ポリグリセリル-10オレエート、ポリグリセリル-10ミリステート、ポリグリセリル-10パルミテート、PEGソルビタンモノラウレート、PEGソルビタンモノラウレート、PEGソルビタンモノオレエート、PEGソルビタンステアレート、PEGオレイルエーテル、PEGラウライルエーテル、ツイーン20、ツイーン40、ツイーン60、ツイーン80、オクトキシノール、モノキシノール、チロキサポール、スクロースモノパルミテート、スクロースモノラウレート、デカノイル-N-メチルグルカミド、n-デシル-β-D-グルコピラノシド、n-デシル-β-D-マルトピラノシド、n-ドデシル-β-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトシド、ヘプタノイル-N-メチルグルカミド、n-ヘプチル-β-D-グルコピラノシド、n-ヘプチル-β-D-チオグルコシド、n-ヘキシル-β-D-グルコピラノシド、ノナノイル-N-メチルグルカミド、n-ノニル-β-D-グルコピラノシド、オクタノイル-N-メチルグルカミド、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、オクチル-β-D-チオグルコピラノシド、及びその誘導体から選択され得る。
【0133】
[0144]混合物又は組み合わせ物内の、1つ又は複数のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、又はエステル部分を有する化学物質として、本開示の実施形態で使用される、本明細書に記載の1つ又は複数のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、又はエステル部分を有する化学物質の全てが挙げられる。混合物内の、1つ又は複数のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド、又はエステル部分を有する化学物質は、本開示の実施形態の1つにおいて、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する。特定の実施形態では、例えば高分子量添加剤の場合、4つを超えるヒドロキシル基が好ましい。いくつかの実施形態では、4つを超えるヒドロキシル基を有する化学物質は、120℃又はそれより低い融点を有する。大型の分子はゆっくり拡散する。
【0134】
[0145]添加剤又は化学物質の分子量が高い場合、例えば、分子量が、800を上回る、1000を上回る、1200を上回る、1500を上回る、2000を上回る場合には、大型の分子は、医療用デバイスの表面から溶出するのが遅すぎるので、薬物を2分以内に放出できない可能性がある。この大型の分子が4つを超えるヒドロキシル基を含有する場合、その親水性特性(比較的大型の分子にとって薬物を迅速に放出するために必要である)が高まる。親水性が増加すれば、コーティングをバルーンから溶出させるのに役立ち、薬物の放出を促進し、そして水バリアを通じて薬物が移動し、そして脂質二重層の極性頭部基が組織を貫通するのを改善又は容易にする。水不溶性薬物、例えばパクリタキセル又はラパマイシン等と反応する可能性はほとんどないので、ヒドロキシル基が親水性部分として好ましい。
【0135】
[0146]混合物内の、1つ又は複数のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド、又はエステル部分を有する化学物質は、L-アスコルビン酸とその塩、D-グルコアスコルビン酸とその塩、トロメタミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、メグルミン、グルカミン、アミンアルコール、グルコヘプトン酸、グルコム酸、ヒドロキシルケトン、ヒドロキシルラクトン、グルコノラクトン、グルコヘプトノラクトン、グルコオクタン酸ラクトン、グロン酸ラクトン、マンノン酸ラクトン、リボン酸ラクトン、ラクトビオン酸、グルコサミン、グルタミン酸、ベンジルアルコール、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、プロピル4-ヒドロキシベンゾエート、リジン酢酸塩、ゲンチジン酸、ラクトビオン酸、ラクチトール、ソルビトール、グルシトール、糖ホスフェート、グルコピラノースホスフェート、糖サルフェート、シナピン酸、バニリン酸、バニリン、メチルパラベン、プロピルパラベン、キシリトール、2-エトキシエタノール、糖、ガラクトース、グルコース、リボース、マンノース、キシロース、スクロース、ラクトース、マルトース、アラビノース、リキソース、フルクトース、シクロデキストリン、(2-ヒドロキシプロピル)-シクロデキストリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、レチノイン酸、リジンアセテート、ゲンチジン酸、カテキン、カテキンガラート、チレタミン、ケタミン、プロポフォール、乳酸、酢酸、任意の有機酸と上記アミンの塩、ポリグリシドール、グリセロール、マルチグリセロール、ガラクチトール、ジ(エチレングリコール)、トリ(エチレングリコール)、テトラ(エチレングリコール)、ペンタ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)オリゴマー、ジ(プロピレングリコール)、トリ(プロピレングリコール)、テトラ(プロピレングリコール)、及びペンタ(プロピレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)オリゴマー、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックコポリマー、並びにその誘導体及び組み合わせから選択される。
【0136】
[0147]界面活性剤及び水溶性小分子の混合物又は組み合わせ物は、両添加剤の長所を付与する。水不溶性薬物は、きわめて水溶性の化学物質との適合性に多くの場合乏しく、界面活性剤が適合性を改善する。界面活性剤もコーティングの品質、均一性、及び完全性を改善し、また粒子はハンドリング中にバルーンから脱落しない。界面活性剤は、標的部位に移動する間に薬物が失われるのを抑える。水溶性化学物質は、バルーンからの薬物の放出、及び組織における薬物の吸収を改善する。実験的には、移動中の薬物の放出を防止し、また0.2~2分という非常に短時間の留置後に、組織において高薬物レベルを実現することにおいて、組み合わせ物が驚くほど有効であった。更に、動物試験において、組み合わせ物は、動脈の狭窄及び晩期血管径損失を効果的に低下させた。
【0137】
[0148]界面活性剤及び水溶性小分子の混合物又は組み合わせ物のいくつかは、加熱下で非常に安定である。組み合わせ物は、酸化エチレン滅菌処理プロセスに耐え、また滅菌処理期間中に水不溶性薬物のパクリタキセル又はラパマイシンと反応しない。治療剤、例えばパクリタキセル又はラパマイシン等と反応する可能性はほとんどないので、ヒドロキシル、エステル、アミド基が好ましい。時に、アミン基及び酸基がパクリタキセルと反応することがあり、また酸化エチレン滅菌処理、加熱、及びエージング下で安定性を欠く。本明細書に記載される混合物又は組み合わせ物が、パクリタキセルと共に製剤化されるとき、トップコート層が、薬物層を保護し、そしてデバイス期間中に薬物が時期尚早に失われることを阻止するのに有利であり得る。
【0138】
液体添加剤
[0149]固体添加剤が、薬物コーティングされた医療用デバイスで多くの場合使用される。イオプロミド(ヨウ素造影剤)が、バルーンカテーテルをコーティングするのにパクリタキセルと共に使用されてきた。この種のコーティングは、液体化学物質を含有しない。コーティングは、バルーンカテーテルの表面上のパクリタキセル固体及びイオプロミド固体からなる凝集物である。コーティングは、医療用デバイスに対する接着性を欠いており、またハンドリング及び介入手技の間にコーティング粒子が脱落する。水不溶性薬物は、多くの場合、固体化学物質、例えばパクリタキセル、ラパマイシン等、及びその類似体である。本開示の実施形態では、液体添加剤が、コーティングの完全性を改善するために医療用デバイスコーティングにおいて使用可能である。固体薬物及び/又はその他の固体添加剤の適合性を改善することができる液体添加剤を有するのが好ましい。2つ又はそれより多くの固体粒子からなる凝集物ではなく、固体コーティング溶液を形成可能な液体添加剤を有するのが好ましい。別の添加剤及び薬物が固体であるとき、少なくとも1つの液体添加剤を有するのが好ましい。
【0139】
[0150]本開示の実施形態で使用される液体添加剤は溶媒ではない。コーティングが乾燥した後、溶媒、例えばエタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド、及びアセトン等はエバポレートされる。換言すれば、溶媒は、コーティングが乾燥した後、コーティング内に留まらない。対照的に、本開示の実施形態における液体添加剤は、コーティングが乾燥した後、コーティング内に留まる。液体添加剤は、室温及び1気圧において液体又は半液体である。液体添加剤は、室温でゲルを形成し得る。液体添加剤は、親水性部分及び薬物親和性部分を含み、該薬物親和性部分は、疎水性部分、水素結合により治療剤に対して親和性を有する部分、及びファンデルワールス相互作用により治療剤に対して親和性を有する部分のうちの少なくとも1つである。液体添加剤はオイルではない。
【0140】
[0151]ノニオン性界面活性剤は、多くの場合液体添加剤である。液体添加剤の例として、上記したように、PEG-脂肪酸及びエステル、PEG-オイルエステル交換製品、ポリグリセリル脂肪酸及びエステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、PEGソルビタン脂肪酸エステル、並びにPEGアルキルエーテルが挙げられる。液体添加剤のいくつかの例は、ツイーン80、ツイーン81、ツイーン20、ツイーン40、ツイーン60、Solutol HS15、Cremophor RH40、及びCremophor EL&ELPである。
【0141】
2つ以上の添加剤
[0152]1つの実施形態では、薬物コーティング層30、及び任意選択で中間層40(存在するとき)は、2つ以上の添加剤、例えば2、3、又は4つの添加剤を含む。1つの実施形態では、薬物コーティング層30は少なくとも1つの添加剤を含み、該少なくとも1つの添加剤は、第1の添加剤と第2の添加剤を含み、及び第1の添加剤は、第2の添加剤よりも親水性である。別の実施形態では、薬物コーティング層30、及び任意選択で中間層40(存在するとき)は、少なくとも1つの添加剤を含み、該少なくとも1つの添加剤は、第1の添加剤と第2の添加剤を含み、及び第1の添加剤は、第2の添加剤の構造とは異なる構造を有する。別の実施形態では、薬物コーティング層30、及び任意選択で中間層40(存在するとき)は、少なくとも1つの添加剤を含み、該少なくとも1つの添加剤は、第1の添加剤と第2の添加剤を含み、及び第1の添加剤のHLB値は、第2の添加剤のHLB値よりも高い。なおも別の実施形態では、薬物コーティング層30、及び任意選択で中間層40(存在するとき)は、少なくとも1つの添加剤を含み、該少なくとも1つの添加剤は、第1の添加剤と第2の添加剤を含み、及び第1の添加剤のlog(P)値は、第2の添加剤のそれよりも低い。例えば、ソルビトール(log(P)は-4.67)は、ツイーン20(log(P)は約3.0)よりも親水性である。PEG脂肪酸エステルは脂肪酸よりも親水性である。ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)(log(P)は1.31)は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)(log(P)は5.32)よりも親水性である。
【0142】
[0153]別の実施形態では、薬物コーティング層30、及び任意選択で中間層40(存在するとき)は、2つ以上の界面活性剤、例えば、2、3、又は4つの界面活性剤を含む。1つの実施形態では、薬物コーティング層30、及び任意選択で中間層40(存在するとき)は、少なくとも1つの界面活性剤を含み、該少なくとも1つの界面活性剤は、第1の界面活性剤と第2の界面活性剤を含み、及び第1の界面活性剤は、第2の界面活性剤よりも親水性である。別の実施形態では、薬物コーティング層30、及び任意選択で中間層40(存在するとき)は、少なくとも1つの界面活性剤を含み、該少なくとも1つの界面活性剤は、第1の界面活性剤と第2の界面活性剤を含み、及び第1の界面活性剤のHLB値は、第2の界面活性剤のHLB値よりも高い。例えば、ツイーン80(HLB 15)は、ツイーン20(HL B16.7)よりも親水性である。ツイーン80(HLB 15)は、ツイーン81(HLB 10)よりも親水性である。プルロニック(登録商標)F68(HLB 29)は、Solutol HS15(HLB 15.2)よりも親水性である。ドセシル硫酸塩ナトリウム(HBL 40)は、ドクサートナトリウム(HLB 10)よりも親水性である。ツイーン80(HBL 15)は、Creamophor EL(HBL 13)よりも親水性である。
【0143】
[0154]好ましい添加剤として、p-イソノニルフェノキシポリグリシドール、PEGグリセリルオレエート、PEGグリセリルステアレート、ポリグリセリルラウレート、ポリグリセリルオレエート、ポリグリセリルミリステート、ポリグリセリルパルミテート、ポリグリセリル-6ラウレート、ポリグリセリル-6オレエート、ポリグリセリル-6ミリステート、ポリグリセリル-6パルミテート、ポリグリセリル-10ラウレート、ポリグリセリル-10オレエート、ポリグリセリル-10ミリステート、ポリグリセリル-10パルミテート、PEGソルビタンモノラウレート、PEGソルビタンモノラウレート、PEGソルビタンモノオレエート、PEGソルビタンステアレート、オクトキシノール、モノキシノール、チロキサポール、スクロースモノパルミテート、スクロースモノラウレート、デカノイル-N-メチルグルカミド、n-デシル-β-D-グルコピラノシド、n-デシル-β-D-マルトピラノシド、n-ドデシル-β-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトシド、ヘプタノイル-N-メチルグルカミド、n-ヘプチル-β-D-グルコピラノシド、n-ヘプチル-β-D-チオグルコシド、n-ヘキシル-β-D-グルコピラノシド、ノナノイル-N-メチルグルカミド、n-ノニル-β-D-グルコピラノシド、オクタノイル-N-メチルグルカミド、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、オクチル-β-D-チオグルコピラノシド;シスチン、チロシン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びメチオニン(アミノ酸);セトチアミン;シコチアミン、デクスパンテノール、ナイアシンアミド、ニコチン酸とその塩、ピリドキサール-5-ホスフェート、ニコチンアミドアスコルベート、リボフラビン、リボフラビンホスフェート、チアミン、葉酸、メナジオールジホスフェート、メナジオン亜硫酸水素ナトリウム、メナドキシム、ビタミンB12、ビタミンK5、ビタミンK6、ビタミンK6、及びビタミンU(ビタミン);アルブミン、免疫グロブリン、カゼイン、ヘモグロビン、リゾチーム、免疫グルビン、a-2-マクログロブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、フィブリノゲン、リパーゼ、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ドセシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドセシル硫酸ナトリウム、ジアルキルメチルベンジルアンモニウムクロリド、及びスルホコハク酸ナトリウムのジアルキルエステル、L-アスコルビン酸とその塩、D-グルコアスコルビン酸とその塩、トロメタミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、メグルミン、グルカミン、アミンアルコール、グルコヘプトン酸、グルコム酸、ヒドロキシルケトン、ヒドロキシルラクトン、グルコノラクトン、グルコヘプトノラクトン、グルコオクタン酸ラクトン、グロン酸ラクトン、マンノン酸ラクトン、リボン酸ラクトン、ラクトビオン酸、グルコサミン、グルタミン酸、ベンジルアルコール、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、プロピル4-ヒドロキシベンゾエート、リジン酢酸塩、ゲンチジン酸、ラクトビオン酸、ラクチトール、シナピン酸、バニリン酸、バニリン、メチルパラベン、プロピルパラベン、ソルビトール、キシリトール、シクロデキストリン、(2-ヒドロキシプロピル)-シクロデキストリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、レチノイン酸、リジンアセテート、ゲンチジン酸、カテキン、カテキンガラート、チレタミン、ケタミン、プロポフォール、乳酸、酢酸、任意の有機酸と有機アミンの塩、ポリグリシドール、グリセロール、マルチグリセロール、ガラクチトール、ジ(エチレングリコール)、トリ(エチレングリコール)、テトラ(エチレングリコール)、ペンタ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)オリゴマー、ジ(プロピレングリコール)、トリ(プロピレングリコール)、テトラ(プロピレングリコール)、及びペンタ(プロピレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)オリゴマー、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのブロックコポリマー、並びにその誘導体及び組み合わせが挙げられる。(1つ又は複数のヒドロキシル、アミノ、カルボニル、カルボキシル、アミド、又はエステル部分を有する化学物質)。これらの添加剤のいくつかは、水溶性及び有機溶媒可溶性の両方に該当する。これらの添加剤は良好な接着特性を有し、ポリアミド医療用デバイス、例えばバルーンカテーテル等の表面に接着する。これらは、従って、接着層、トップ層、及び/又は本開示の実施形態の薬物層で使用され得る。芳香族基及び脂肪族基は、コーティング溶液中の水不溶性薬物の溶解度を増加させ、またアルコール及び酸の極性基は組織の薬物浸透を加速させる。
【0144】
[0155]本開示の実施形態に基づくその他の好ましい添加剤として、アミノアルコールと有機酸からなる組み合わせ物又は混合物又はそのアミド反応生成物が挙げられる。例は、リジン/グルタミン酸、リジンアセテート、ラクトビオン酸/メグルミン、ラクトビオン酸/トロメタネミン(tromethanemine)、ラクトビオン酸/ジエタノールアミン、乳酸/メグルミン、乳酸/トロメタネミン、乳酸/ジエタノールアミン、ゲンチジン酸/メグルミン、ゲンチジン酸/トロメタネミン、ゲンチジン酸/ジエタノールアミン、バニリン酸/メグルミン、バニリン酸/トロメタネミン、バニリン酸/ジエタノールアミン、安息香酸/メグルミン、安息香酸/トロメタネミン、安息香酸/ジエタノールアミン、酢酸/メグルミン、酢酸/トロメタネミン、及び酢酸/ジエタノールアミンである。
【0145】
[0156]本開示の実施形態に基づくその他の好ましい添加剤として、ヒドロキシルケトン、ヒドロキシルラクトン、ヒドロキシル酸、ヒドロキシルエステル、及びヒドロキシルアミドが挙げられる。例は、グルコノラクトン、D-グルコヘプトノ-1,4-ラクトン、グルコオクタン酸ラクトン、グロン酸ラクトン、マンノン酸ラクトン、エリトロン酸ラクトン、リボン酸ラクトン、グルクロン酸、グルコン酸、ゲンチジン酸、ラクトビオン酸、乳酸、アセトアミノフェン、バニリン酸、シナピン酸、ヒドロキシ安息香酸、メチルパラベン、プロピルパラベン、及びその誘導体である。
【0146】
[0157]本開示の実施形態において有用であり得るその他の好ましい添加剤として、リボフラビン、ナトリウムリボフラビンホスフェート、ビタミンD3、葉酸(ビタミンB9)、ビタミン12、ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物、エチレンジアミンテトラ酢酸二無水物、マレイン酸と無水物、コハク酸と無水物、ジグリコール酸無水物、グルタル酸無水物、L-アスコルビン酸、チアミン、ニコチンアミド、ニコチン酸、2-ピロリドン-5-カルボン酸、シスチン、チロシン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びメチオニンが挙げられる。
【0147】
[0158]構造的な観点からすれば、これらの添加剤は構造的類似性を共有し、また水不溶性薬物(例えば、パクリタキセル及びラパマイシン等)と適合性を有する。これらは、二重結合、例えば芳香族構造又は脂肪族構造内のC=C、C=N、C=O等を多くの場合含有する。これらの添加剤も、アミン、アルコール、エステル、アミド、無水物、カルボン酸、及び/又はヒドロキシル基を含有する。これらは、薬物と水素結合及び/又はファンデルワールス相互作用を形成し得る。これらは、コーティング内のトップ層においても有用である。
【0148】
[0159]デバイス表面からの薬物放出を促進し、また細胞膜の極性頭部基及び表面タンパク質に隣接する水と容易に交換し、これにより疎水性薬物の透過性に対するこの障壁を取り除くことができるので、例えば、1つ若しくは複数のヒドロキシル、カルボキシル、又はアミン基を含有する化合物は、添加剤として特に有用である。この化合物は、疎水性薬物が、バルーンから細胞膜の脂質層及び組織(疎水性薬物は非常に高い親和性を有する)に向かって移動するのを加速させる。この化合物は、薬物が、バルーンからより水性の環境、例えばバルーン血管形成又はステント拡張により受傷した血管組織の間質腔等中に向かって移動するのを促進又は加速することができる。
【0149】
[0160]添加剤、例えばポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸のアスコルビン酸エステル、糖エステル、脂肪酸のアルコール及びエーテル等は、標的組織の膜の脂質構造中に組み込み可能である脂肪鎖(fatty chain)を有し、薬物を脂質構造に運ぶ。アミノ酸、ビタミン、及び有機酸のいくつかは、その構造に、芳香族C=N基、並びにアミノ、ヒドロキシル、及びカルボン酸成分を有する。これらは、疎水性薬物、例えばパクリタキセル又はラパマイシン等と結合又は複合体形成することができる構造部分を有し、また疎水性薬物と細胞膜の脂質構造間の障壁を除去することにより組織穿通を促進する構造部分も有する。
【0150】
[0161]例えば、イソノニルフェニルポリグリシドール(Olin-10G及びSurfactant-10G)、PEGグリセリルモノオレエート、ソルビタンモノラウレート(Arlacel20)、ソルビタンモノパルミテート(Span-40)、ソルビタンモノオレエート(Span-80)、ソルビタンモノステアレート、ポリグリセリル-10オレエート、ポリグリセリル-10ラウレート、ポリグリセリル-10パルミテート、及びポリグリセリル-10ステアレートは、いずれもその親水性部分の中に4つを上回るヒドロキシル基を有する。これらのヒドロキシル基は、血管壁に対して非常に良好な親和性を有し、そして水素結合した水分子と交換可能である。同時に、これらは、疎水性薬物と複合体形成すること、及び細胞膜の脂質構造中に組み込まれて脂質構造部分を形成することの両方を可能にする長鎖の脂肪酸、アルコール、エーテル、及びエステルを有する。標的細胞の脂質膜におけるこの変形又はゆるみは、疎水性薬物の組織中への浸透を更に加速させる可能性がある。
【0151】
[0162]別の例では、L-アスコルビン酸、チアミン、マレイン酸、ナイアシンアミド、及び2-ピロリドン-5-カルボン酸は、いずれも非常に高い水及びエタノール溶解度、並びに低分子量及び小型のサイズを有する。これらは、芳香族C=N、アミノ、ヒドロキシル、及びカルボキシル基を含む、構造的成分も有する。これらの構造は、パクリタキセル及びラパマイシンと非常に良好な適合性を有し、また水中でのこれら水不溶性薬物の溶解度を増加させ、また組織中へのその吸収を強化することができる。しかしながら、それらが有する医療用デバイス表面に対する接着性は多くの場合不良である。従って、そのような構造は、薬物層及びトップ層においてその他の添加剤(薬物吸収を強化するのに有用である)と組み合わせて使用されるのが好ましい。ビタミンD2及びD3は、それ自体が再狭窄防止効果を有し、また特にパクリタキセルと組み合わせて使用されるとき血栓症を低下させるので、特に有用である。
【0152】
[0163]本開示の実施形態では、添加剤は、水性溶媒に可溶性であり、また有機溶媒に可溶性である。十分な親水性部分を欠いており、且つ水性溶媒に不溶性の極めて疎水性の化合物、例えばスダンレッド色素等は、これらの実施形態において添加剤として有用ではない。スダンレッドは遺伝毒性も有する。
【0153】
[0164]1つの実施形態では、医療用デバイスの表面に適用される少なくとも1つの治療剤の濃度密度は、約1~20μg/mm、又はより好ましくは約2~6μg/mmである。1つの実施形態では、医療用デバイスの表面に適用される少なくとも1つの添加剤の濃度は、約1~20μg/mmである。本開示の実施形態のコーティング層における薬物に対する添加剤の重量比は、約20~0.05、好ましくは約10~0.5、又はより好ましくは約5~0.8である。
【0154】
[0165]コーティング層内の治療剤と添加剤の相対量は、適用される状況に応じて変化し得る。添加剤の最適量は、例えば具体的な治療剤及び選択された添加剤、表面改質剤がミセルを形成する場合にはその臨界ミセル濃度、界面活性剤の親水性-親油性バランス(HLB)又は添加剤のオクタノール-水分配係数(P)、添加剤の融点、添加剤及び/又は治療剤の水溶解度、表面改質剤の水溶液の表面張力等に依存し得る。
【0155】
[0166]添加剤は、水溶液を用いて希釈した際に、担体が透明な水性分散物若しくはエマルジョン又は溶液を形成し、疎水性治療剤を水性溶液と有機性溶液の中に含有するような量で、本開示の実施形態の代表的なコーティング組成物中に存在する。界面活性剤の相対量が大きすぎると、得られた分散物は目視上「濁っている」。
【0156】
[0167]水性分散物の光学的透明度は、濁度評価のための標準的な定量技術を使用して測定可能である。濁度を測定するための1つの好都合な手順は、例えばUV-可視光分光光度計を使用して、溶液より伝達された所定の波長の光量を測定することである。この測定法を使用すると、より濁った溶液はより多くの入射光を散乱し、低透過率測定値をもたらすので、光学的透明度は高透過率に対応する。
【0157】
[0168]光学的透明度及び水性境界層を通じた担体の拡散性を決定する別の方法は、分散物を構成する粒子サイズを定量的に測定することである。この測定は、市販の粒子サイズアナライザー上で実施可能である。
【0158】
[0169]その他の検討が、異なる添加剤の具体的な割合の選択について更なる情報をもたらす。このような検討には、添加剤の生物学的許容度、及び提供される疎水性治療剤の望ましい投薬量が含まれる。
【0159】
溶媒
[0170]コーティング層を調製するための溶媒として、例として次の(a)水、(b)アルカン、例えばヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、及びヘプタン等、(c)芳香族溶媒、例えばベンゼン、トルエン、及びキシレン等、(d)アルコール、例えばエタノール、プロパノール、及びイソプロパノール、ジエチルアミド、エチレングリコールモノエチルエーテル、Trascutol、及びベンジルアルコール等(e)エーテル、例えばジオキサン、ジメチルエーテル、及びテトラヒドロフラン等、(f)エステル/アセテート、例えば酢酸エチル及び酢酸イソブチル等、(g)ケトン、例えばアセトン、アセトニトリル、ジエチルケトン、及びメチルエチルケトン等、並びに(h)水と有機溶媒の混合物、例えば水/エタノール、水/アセトン、水/メタノール、水/テトラヒドロフラン等のうちの1つ又は複数の任意の組み合わせを挙げることができる。トップコート層において好ましい溶媒はアセトンである。
【0160】
[0171]有機溶媒、例えば短鎖アルコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等は、一般的にコロジアル(collodial)凝集物を破壊し、またコーティング溶液内の全成分を共可溶化するので、これらの有機溶媒は、本開示の実施形態において特に有用であり、また好ましい溶媒である。
【0161】
[0172]治療剤及び1つ又は複数の添加剤は、溶媒中に分散、可溶化、さもなければ混合され得る。溶媒中の薬物及び添加剤の重量パーセントは、0.1~80重量%、好ましくは2~20重量%の範囲であり得る。
【0162】
[0173]本開示の別の実施形態は、医療用デバイス、特に、例えばバルーンカテーテル又はステントを調製する方法に関する。第1に、少なくとも1つの溶媒、少なくとも1つの治療剤、及び少なくとも1つの添加剤を含むコーティング溶液又は懸濁液が調製される。少なくとも1つの実施形態では、コーティング溶液又は懸濁液は、これらの3成分のみを含む。コーティング溶液内の治療剤の含有量は、溶液の総重量に基づき、0.5~50重量%であり得る。コーティング溶液内の添加剤の含有量は、溶液の総重量に基づき、1~45重量%、1~40重量%、又は1~15重量%であり得る。使用される溶媒の量は、コーティングプロセス及び粘度に依存する。溶媒は、薬物-添加剤コーティングの均一性に影響を及ぼすが、しかしエバポレートされる。
【0163】
[0174]その他の実施形態では、2つ若しくはそれより多くの溶媒、2つ若しくはそれより多くの治療剤、及び/又は2つ若しくはそれより多くの添加剤が、コーティング溶液で使用され得る。
【0164】
[0175]その他の実施形態では、治療剤、添加剤、及びポリマー材料が、コーティング溶液、例えばステントコーティングにおいて使用され得る。コーティングでは、治療剤はポリマー粒子内にカプセル化されない。
【0165】
[0176]様々な技術、例えばメータリング、キャスティング、スピニング、スプレーイング、ディッピング(浸漬)、インクジェット印刷、静電技術、プラズマエッチング、蒸着等、及びこれらのプロセスを組み合わせが、コーティング溶液を医療用デバイスに適用するのに使用され得る。適用技術の選択は、溶液の粘度及び表面張力に原理的に依存する。本開示の実施形態では、コーティング層の厚さの均一性、並びに医療用デバイスに適用される治療剤の濃度をより容易に制御できるようにするので、メータリング、ディッピング、及びスプレーイングが好ましい。スプレーイングにより若しくはディッピングにより、又は別の方法若しくは方法の組み合わせによりコーティングが適用されるか、そのいずれを問わず、医療用デバイスに適用される治療物質及び添加剤の均一性及び量を制御するために、各層は複数の適用ステップにおいて医療用デバイスに適用され得る。
【0166】
[0177]適用される各層は、厚さ約0.1μm~15μmである。医療用デバイスに適用される層の合計数は、約2~50の範囲である。コーティングの総厚は、約2μm~200μmである。
【0167】
[0178]上記議論の通り、メータリング、スプレーイング、及びディッピングが、本開示の実施形態での使用にとって特に有用なコーティング技術である。スプレーイング技術では、本開示の実施形態のコーティング溶液又は懸濁液が調製され、次にバルーンカテーテルにコーティング溶液又は懸濁液を適用するための適用デバイスに移される。
【0168】
[0179]使用され得る適用デバイスは、レギュレーター(Norgren、0~160psi)を経由して加圧エア源の供給を受けるエアブラシ、例えばBadger Model 150等に連結したペイントジャーである。そのような適用デバイスを使用するとき、ひとたびレギュレーターの下流でブラシホースが圧縮エア源に連結されたら、エアが適用される。圧力はおよそ15~25psiに調整され、そしてトリガーを押し下げることによりノズル状態をチェックする。
【0169】
[0180]スプレーイング前に、弛緩したバルーンの両端部は、2つの弾力性保持具、すなわち鰐口クリップによって固定具に緊結され、そしてバルーンが、しぼんで折りたたまれた状態、又は膨張若しくは部分的に膨張して折りたたまれない状態のまま留まるようにクリップ間の距離を調節する。次にローターにエネルギーを供給し、そしてスピンスピードを所望のコーティングスピード、約40rpmに調節する。
【0170】
[0181]実質的に水平の面内でバルーンを回転させながら、ノズルからバルーンの距離が約2.54~10.16cm(1~4インチ)であるようにスプレーノズルを調節する。最初に、バルーンの遠位端から近位端に向かって、次に近位端から遠位端に向かってスイープする動作で、バルーンに沿ってブラシの方向を定めながら、バルーンが約3回転する間に1サイクルのスプレーが生ずるようなスピードでコーティング溶液を実質的に水平に噴霧する。有効量の薬物がバルーン上に積層されるまで、バルーンにコーティング溶液を繰り返し噴霧し、その後乾燥させる。
【0171】
[0182]本開示の1つの実施形態では、バルーンを膨張又は部分的に膨張させ、コーティング溶液を膨張したバルーンに、例えばスプレーイングにより適用し、次にバルーンを乾燥させ、その後しぼんだ状態にし、そして折りたたむ。乾燥は減圧下で実施され得る。
【0172】
[0183]適用デバイス、固定具、及びスプレーイング技術についてのこの説明は、代表的なものに過ぎないものと理解されるべきである。任意のその他の適するスプレーイング又はその他の技術が、医療用デバイスをコーティングし、特にバルーンカテーテルのバルーン、又はステント送達システム若しくはステントをコーティングするのに使用され得る。
【0173】
[0184]医療用デバイスを、コーティング溶液で噴霧した後、コーティングされたバルーンを、乾燥ステップ(コーティング溶液内の溶媒がエバポレートされる)に付す。こうして、治療剤を含有するバルーン上にコーティングマトリックスが生成する。乾燥技術の1例は、コーティングされたバルーンを、およそ20℃又はそれより高い温度のオーブン中におよそ24時間配置するステップである。別の例は空気乾燥である。コーティング溶液を乾燥させる任意のその他の適する方法が使用され得る。時間及び温度は、具体的な添加剤及び治療剤によって変化し得る。
【0174】
任意選択の事後処理
[0185]本開示の特定の実施形態のデバイス上に薬物-添加剤含有層を積層した後、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はその他の溶媒が、ディッピング若しくはスプレーイング、又はその他の方法により、コーティングの仕上がり面に適用され得る。DMSOは薬物を容易に溶解し、また膜を容易に貫通し、そして組織吸収を増強し得る。
【0175】
[0186]本開示の実施形態の医療用デバイスは、とりわけ、脈管構造(冠状動脈、末梢、及び大脳の血管系を含む)、胃腸管(食道、胃、小腸、及び結腸を含む)、肺気道(気管、気管支、細気管支を含む)、洞、胆道、尿道、前立腺、及び脳通路を含む、任意の身体通路の遮断及び閉塞の処置に対して適用可能であるか、その可否について検討される。該医療用デバイスは、例えばバルーンカテーテル又はステントを用いて脈管構造の組織を治療するのに特に適する。
【0176】
[0187]本開示のなおも別の実施形態は、血管を処置する方法に関する。方法は、コーティングを含む医療用デバイスを血管に挿入するステップを含む。コーティング層は、治療剤及び添加剤を含む。本実施形態では、医療用デバイスは、少なくとも拡張可能な部分を有するものとして構成され得る。そのようなデバイスのいくつかの例として、バルーンカテーテル、灌流バルーンカテーテル、注入カテーテル、例えば遠位有孔薬物注入カテーテル等、有孔バルーン、離間ダブルバルーン、多孔性バルーン、及びウィーピングバルーン、カッティングバルーンカテーテル、スコアリングバルーンカテーテル、自己拡張型及びバルーン拡張型ステント、ガイドカテーテル、ガイドワイヤー、塞栓保護デバイス、及び様々なイメージングデバイスが挙げられる。
【0177】
[0188]上記したように、本開示において特に有用な医療用デバイスの1例は、被コーティングバルーンカテーテルである。バルーンカテーテル10は、小型のしぼんだバルーン12でタブ化された長細い中空チューブを一般的に有する。本開示の実施形態では、バルーンは薬物溶液でコーティングされる。次に、バルーンは、心血管系システムを通じて、遮断、閉塞部位、又は治療剤を必要とするその他の組織まで操作される。ひとたび適正位置に至ると、バルーンは膨張し、血管壁及び/又は遮断若しくは閉塞部と接触する。薬物を迅速且つ効率的/有効に標的組織まで送達し、そして標的組織による吸収を促進することが本開示の実施形態の目的である。デバイスが標的部位に留置されている間、できる限り短時間内に、薬物を組織まで有効に送達することが有利である。治療剤が、そのような組織、例えば血管壁中に、例えば約0.1~30分、又は好ましくは約0.1~10分、又はより好ましくは約0.2~2分、又は最も好ましくは約0.1~1分のバルーン膨張時間内(薬物コーティングを圧迫して罹患した血管組織と接触した状態にする)に放出される。
【0178】
[0189]治療有効量の薬物が、本開示の実施形態により、例えば動脈壁中に送達可能であるけれども、場合によってはステントを不要にすることもでき、それと関連する破砕及び血栓症などの合併症を除去する。
【0179】
[0190]ステントの配置がなおも望ましい場合には、例えば、本明細書の実施形態に記載の薬物コーティングバルーン上部にステント、例えばベアメタルステント(BMS)等を取り付ける(crimp)ことが本開示の実施形態の使用において特に好ましい。罹患した脈管構造の部位にステントを留置するためにバルーンが膨張するとき、有効量の薬物が動脈壁内に送達されて、再狭窄若しくはその他の合併症を予防し、又はその重症度を軽減する。或いは、ステント及びバルーンが共にコーティングされ得る、又はステントがコーティングされ、次にバルーン上に取り付けられ(crimped)得る。
【0180】
[0191]更に、バルーンカテーテルは、血管組織/疾患を処置するために単独で、又は脈管構造に対する処置を施すためにその他の方法、例えば光線力学療法又はアテローム切除術と組み合わせて使用され得る。アテローム切除術は、動脈からプラークを取り除く手技である。特に、アテローム切除術は、末梢動脈及び冠動脈からプラークを取り除く。末梢動脈又は冠動脈アテローム切除術で使用される医療用デバイスは、レーザーカテーテル若しくはロータブレーター、又はカテーテル末端部上の直接アテローム切除術デバイスであり得る。カテーテルは身体内に挿入され、そして動脈を通じて狭窄エリアまで前進する。アテローム切除術がプラークの一部を除去した後、本開示の実施形態の被コーティングバルーンを使用するバルーン血管形成術が実施され得る。それに加えて、ステント留置が、その後又は上記したような被コーティングバルーンの拡張と同時に実施され得る。光線力学療法は、光又は照射エネルギーが患者内の標的細胞を殺傷するのに使用される手順である。光活性型光増感剤が、本開示の実施形態により組織の特定エリアに送達され得る。標的となる光又は放射線源が薬物を選択的に活性化させて細胞傷害性の応答を生み出し、そして治療的抗増殖効果を媒介する。
【0181】
[0192]薬物含有コーティング及び本開示に基づく層の実施形態のいくつかにおいて、コーティング又は層は、ポリマー、オイル、又は脂質を含まない。また、更に、治療剤は、ポリマー粒子、ミセル、又はリポソーム中にカプセル化されない。上記したように、そのような製剤は重大な欠点を有し、また意図した効率的迅速放出及び薬剤の組織穿通を、特に脈管構造の罹患した組織の環境において阻害するおそれがある。
【0182】
中間層の適用による表面改質
[0193]これまでに記載したように、医療用デバイス、例えばバルーンカテーテル10等は、例えば、改質された外部表面25、すなわち薬物コーティング層30の適用前に外部表面25の表面自由エネルギーを減少させる表面改質が施された表面を含む。該表面改質は、薬物コーティング層30が適用される前に、外部表面25上への中間層40の適用を含み得る。中間層40の適用は、中間層40を形成するための単量体化合物のプラズマ重合を含み得る。医療用デバイスの外部表面に中間層40が適用されると、医療用デバイスの改質された外部表面25は、中間層40を含み、そして薬物コーティング層30が中間層40を被覆する。
【0183】
[0194]いくつかの実施形態では、医療用デバイスの外部表面は、これまでに記載したように、最初にフッ素プラズマ処理が施され、次に外部表面25上での中間層40のプラズマ重合、及び薬物コーティング層30の適用が後続し得る。いくつかの実施形態では、外部表面は、外部表面25上の中間層40について、最初のフッ素プラズマ処理を経ずにプラズマ重合が施され、次に薬物コーティング層30の適用が後続し得る。
【0184】
[0195]理論に拘泥するつもりもないが、薬物コーティング層中に存在する薬物の粒子サイズ、及び薬物コーティング層内の薬物と医療用デバイスの表面との静電相互作用の両方を改変すれば、標的部位への薬物送達、並びに標的部位における長期取り込み量の増加が促進され得ると考えられている。粒子サイズ分布が、より小さい粒子についてより大きな割合にシフトしたとき、所定の質量の薬物において、標的部位と接触するのに利用可能な総粒子表面積がより多く存在するので、薬物粒子サイズを減少させるだけでも、薬物送達の延長を実現し得る。しかしながら、表面積が増加しても、より小さい粒子と医療用デバイスの表面との静電相互作用の増加により相殺され得る。静電相互作用が増加すれば、薬物粒子が医療用デバイスの表面により強固に保持される傾向を有し得る。結局、薬物コーティング層内の薬物の粒子サイズ分布及び薬物粒子と医療用デバイスの外部表面との静電相互作用の両方を最適化する必要性が存在する。複数の実施形態に基づく外部表面上への中間層の適用を通じた表面改質が、この特別な必要性に対処し得る。
【0185】
[0196]物質の表面エネルギーは、物質内の原子及び分子間における結合性の相互作用に起因する。相互作用には、分散成分、極性成分、及び水素結合成分が含まれる。分散成分は、例えば、ファンデルワールス相互作用を含む、原子又は分子の間の電荷分布における一時的変動に起因する。極性成分は、個々の原子又は分子の永久双極子に起因する。水素結合成分は、その他の原子又は分子との水素結合形成能力を有する物質内の原子又は分子に起因する。物質の総表面エネルギーは、分散成分、極性成分、及び水素結合成分の合計に等しい。
【0186】
[0197]物質間の相互作用又は接着は、個々の物質の表面エネルギーの分散成分及び極性成分と関連する界面張力と関係する。個々の物質として、例えば基材及び基材を被覆するコーティング製剤、又は基材及びコーティング製剤の成分、例えば薬物粒子等を挙げることができる。2物質間の接着は、個々の物質の分散成分と極性成分の比を比較することにより、ある程度予測可能である。比が接近しているほど、個々の物質について物質間相互作用は大きいと予想され、従って物質間の接着力も大きくなると予想される。相互に強く相互作用する物質が有する界面張力は低い。
【0187】
[0198]改質された表面と製剤の間の相互作用は、任意の適する方法により分析され得る。1つの方法では、基材とコーティング製剤の間の相互作用は、方程式1に従い定量可能である:
【0188】
【数1】
【0189】
[0199]方程式1において、σ極性は、表面エネルギーの極性成分を表し、そしてσは、表面エネルギーの水素結合成分を表す。代表的な材料の具体的数値を表1に提示する:
【0190】
【表1】
【0191】
[0200]表1では、サンプル製剤は、本開示の1つ又は複数の実施形態に基づく、パクリタキセル及び2つの添加剤を含有する薬物コーティング層である。表2は、基材とサンプル製剤との予想される相互作用について要約する:
【0192】
【表2】
【0193】
[0201]理論に拘泥するつもりもないが、基材とコーティング製剤との相互作用は、コーティングの形態、コーティング製剤が基材表面に適用されるときのコーティング製剤が基材表面を濡らす能力、及び基材への適用後にコーティング製剤が乾燥するときのコーティング製剤内薬物粒子サイズ分布に影響を及ぼす可能性があると考えられている。また、基材とコーティング製剤との相互作用は、薬物コーティング層内の薬物粒子のサイズ分布、形状、溶解速度、又は横縦比に影響を及ぼす可能性があると、やはり考えられている。例えば、基材相互作用がより大きいということは、薬物コーティング層内の薬物粒子のサイズ分布は、より大きな粒子よりもより小さい粒子にシフトする傾向となり得る。理論に拘泥するものではないが、薬物の所与の質量において、より小さな粒子の割合がより多くなるように粒子サイズ分布がシフトしたとき、標的部位と接触するのに利用可能な総粒子表面積がより多く存在し得るので、薬物粒子サイズを減少させることで、薬物送達の延長を実現し得る。シフトした薬物粒子サイズ分布は、基材と薬物コーティング層との相互作用の増加と共に相乗的に機能して、14日間、28日間、又はそれより長い期間等の後でも、組織の薬物保持を増加させることができる。更に、薬物粒子のサイズ分布がより大きな粒子からより小さな粒子にシフトすると、より大きな粒子が薬物デポ(組織保持を増加させる可能性がある)として作用することが可能になり得る。
【0194】
[0202]1つの具体例では、14日目の組織の保持を、(1)バルーンの外部表面上にサンプル製剤を直接コーティングしたナイロンバルーンカテーテル、及び(2)ナイロンバルーン上にパリレン中間層、及び中間層上にサンプル製剤の薬物コーティングを含む、改質された外部表面を有するナイロンバルーンカテーテルの間で比較した。両バルーンの粒状分析から、バルーン(1)上の薬物コーティング層と比較して、バルーン(2)の薬物コーティング層において、より小さい薬物粒子の割合が増加し、そしてより大きな薬物粒子の割合が減少したことが証明された。14日後の組織薬物濃度は、サンプル製剤が改質された外部表面に適用されたバルーンにおいて、サンプル製剤がナイロンバルーン表面に直接適用されたバルーンよりもおよそ6倍大きいことが確認された。
【0195】
中間層のエッチングによる表面改質
[0203]これまでに記載したように、医療用デバイス、例えばバルーンカテーテル10等は、改質された外部表面25、すなわち薬物コーティング層30の適用前に、外部表面25の表面自由エネルギーを減少させる表面改質が施された表面を含む。表面改質は、薬物コーティング層30が適用される前に、外部表面25上の中間層40のプラズマ重合を含み得る。任意選択で、表面改質は、中間層40及び薬物コーティング層30が適用される前に、外部表面25中にフッ素含有種を注入するフッ素プラズマ処理、例えばプラズマフッ素化等を更に含み得る。複数の実施形態では、改質された外部表面25は、複数のデポ又は表面特性(薬物コーティング層30が適用される前に中間層40をエッチングすることにより形成される)を更に含み得る。薬物コーティング層30は、デポ又は表面特性の少なくとも一部分を充填し得る。
【0196】
[0204]図3A~3Cを参照すると、バルーン12の外部表面25は、プラズマ重合による中間層40の適用に加えて、例えば薬物コーティング層30を適用する前に、中間層40内に複数のデポ又は表面特性を設けることにより更に改変され得る。図3Aにおいて、バルーン12の外部表面25は中間層40の適用により改質されている。中間層40は、これまでに記載したように、プラズマ重合した層であり得る。中間層40の表面は、エッチャント80に曝露される。エッチャントは、例えば化学エッチャント又はプラズマ直射であり得る。いくつかの実施形態では、エッチングは、最初にフォトレジスト材料を外部表面25に適用し、該フォトレジスト材料の部分を選択的に硬化させるために、フォトマスクを通じて該フォトレジスト材料をUV照射に曝露し、未硬化のフォトレジスト材料を除去し、バルーンをエッチングし、次に残存するフォトレジストを除去することにより実施され得る。更なる例として、複数の凹部21及び凸部23、又は任意のその他の適するパターンを形成するために、中間層40の外部表面に沿って、被加圧媒体をその上に適用することにより、中間層40はエッチングされ得る。例えば、被加圧媒体は、当業者にとって明白であるように、酸素、ハロゲンプラズマ、流体、又はその他の様々なインプリンティング手段であり得る。
【0197】
[0205]エッチング手順の後、中間層40はデポ又はその他の表面特性を含み得る。図3Bの非限定的な例証的実施形態において、デポ又はその他の表面特性は、例えば凹部21及び凸部23を含み得る。図3Bの実施形態において、凹部21及び凸部23は、バルーンカテーテルの縦軸に対して実質的に平行のチャンネルとし例証される。特に、複数の凹部21及び凸部23は、バルーン12の縦の長さ方向に対して平行に延在するように、バルーン12の外部表面25(すなわち、外部周囲)においてある角度の配列をなして配置される。複数の凹部21の各凹部21は、中間層40に沿って一対の凸部23の間に配置される。しかしながら、デポ又はその他の表面特性は、任意の望ましい形状又はコンフィギュレーション(フォトリソグラフィを用いて又は用いないで、通常のエッチング技術を使用して、バルーン表面上に生成され得る)を有し得るものと理解されるべきである。
【0198】
[0206]エッチング後の中間層40外部表面はもはや平面ではない。非平面は、薬物送達及び取り込み特性に利益をもたらすことによって、バルーンカテーテル10の性能を改善するように、薬物コーティング層30の受け入れと保持を促進し得る。本実施例では、中間層40の外部表面は、その上に配置される複数の凹部21及び複数の凸部23のパターンを含むプロファイルを形成するためにエッチングされる。
【0199】
[0207]図3Cを参照すると、薬物コーティング層30が中間層40上に適用されるとき、複数の凹部21は、薬物コーティング層30の一部分をその中に受け入れるようなサイズ、形状を有し、またそのように構成される。薬物コーティング層30で中間層40をコーティングするのに呼応して、薬物コーティング層30の相対的により少ない部分が複数の凸部23上において同様に受け取られる。バルーンカテーテル10のバルーン12が患者の身体に挿入される際に、複数の凹部21内に薬物コーティング層30を保持するように、複数の凸部23も類似したサイズ、形状を有し、またそのように構成される。この事例において、複数の凸部23が、複数の凹部21内に配置された薬物コーティング層30の一部分が中間層40の最外周部からオフセットするように、複数の凹部21に対して隆起した表面を中間層40に提供する。
【0200】
[0208]薬物コーティング層30のかなりの部分が中間層40の最外部表面からオフセットすることで、薬物コーティング層30のかなりの部分が、表面剪断力(バルーンカテーテル10が患者身体内の管腔を通じて前進する際に最外部表面に沿って生み出される)への曝露から遮蔽される。特に、複数の凹部21は、バルーンカテーテル10がバルーン12を標的処置部位に配置するために身体の管腔(例えば、血管)を通過する際に、くぼんだ表面エリアを、薬物コーティング層30がそこに残留するように提供することができ、これにより、中間層40の最外周部に沿ってバルーン12が被る剪断応力に起因して、バルーン12から脱落する薬物コーティング層30の量を最低限に抑えることができる。
【0201】
[0209]以下により詳細に記載されるように、複数の凹部21及びその中に配置された薬物コーティング層30は、外側に向かって放射状に拡張するので、薬物コーティング層30は、バルーンカテーテル10の膨張に呼応して複数の凹部21から放出され得る。この事例において、複数の凹部21の形状及び寸法は変更(例えば、拡大)され、これにより複数の凹部21内に配置された薬物コーティング層30の部分が外側に向かって放射状に広がり、そしてバルーン12に隣接して位置する組織に薬物を曝露する。
【0202】
[0210]本実施例では、中間層40は、複数の凹部21及び凸部23を備えるものとして表わされるものの、様々なその他のパターンが、薬物コーティング層30をその上に保持できるようにするために、中間層40の外部表面に沿って形成され得るものと理解されるべきである。複数の凹部21及び複数の凸部23は、サイズ及び形状において、中間層40の外部表面に沿って隣接する凹部21及び凸部23とはそれぞれ相違し得るものと更に理解されるべきである。
【0203】
[0211]単なる例証的事例として、中間層40は、ポリマー材料、例えばポリ芳香族化合物又はポリ(p-キシリレン)、例えばパリレン化合物等を含み得る。例えば、中間層40がパリレン材料である場合、表面改質として中間層40が存在すると、中間層40の外部表面からの薬物コーティング層30の蒸発速度を強化するような様式で、治療剤、例えばパクリタキセル等の結晶化度に影響を及ぼす可能性がある。ひとたび薬物コーティング層30が中間層40上に積層されると、中間層40のパリレン組成物は、薬物コーティング層30内に治療剤のより小さな結晶を生成する可能性があり、これにより薬物コーティング層30が中間層40及びバルーン12から放出されるとき、標的処置部位において、近傍組織上での薬物コーティング層30の保持及び/又はそれとの接着が強化される。更なる例として、中間層40は、被加圧媒体をその上に適用することによりエッチングされ、中間層40の外部表面に沿って複数の凹部21及び凸部23、又は任意のその他の適するパターンを形成し得る。例えば、被加圧媒体は、酸素、ハロゲンプラズマ、流体、又は当業者にとって明白であるようなその他の様々なインプリンティング手段であり得る。
【0204】
[0212]代表的な用途において、中間層40がバルーン12の外部表面25に沿って均等に適用され得るように、中間層40は、バルーン12が膨張している間にバルーン12上に均一にコーティングされる。バルーン12に沿って中間層40を均一に分布させると共に、薬物コーティング層30を適用する前に中間層40を被加圧媒体に曝露することにより、複数の凹部21及び凸部23がその上に一体的に形成され得る。様々なその他の形状、プロファイル、及びパターンが、中間層40の外部表面に沿って形成され得るものと理解されるべきである。
【0205】
[0213]複数の凹部21及び凸部23が中間層40の外部表面に沿って形成された状態で、薬物コーティング層30が適用され得る。この事例において、薬物コーティング層30の適用期間中にバルーン12を膨張状態に維持することで、複数の凹部21は放射状に拡張し、そして薬物コーティング層30をその中に受け入れるのを促進する。図3Cに例示するように、薬物コーティング層30の適用後、複数の凸部23は、複数の凹部21内に受け取られた薬物コーティング層30の一部分を包含し得る。
【0206】
[0214]理論に拘泥するつもりもないが、薬物コーティング層30が、凹部21及び凸部23を含むバルーン12の改質された外部表面25上に適用された後、乾燥する際に、より均一な薬物コーティング層30が形成され得ると考えられている。この事例において、バルーンカテーテル10が、標的処置部位、例えば血管(図示せず)を処置するために利用され得る。バルーンカテーテル10が血管を通過する際に、バルーン12は血管を通じて血流に曝露され、その結果、血管を通じて移動する血流に呼応して被コーティングバルーンが外部表面に沿って剪断力を被る。バルーン12の外部表面25に沿って薬物コーティング層30が積層されることで、薬物コーティング層30の一部分は、バルーン12上を移動する血液により生み出される剪断力によって洗い流され得る。
【0207】
[0215]特に、バルーンカテーテル10が標的処置部位(治療剤が送達されるように意図される)に配置される前に、薬物コーティング層30に含まれる可変量の治療剤が失われ又は溶解する。しかしながら、複数の凹部21内に薬物コーティング層30のかなりの部分を保持することにより、薬物コーティング層30の喪失量は低下し得る。複数の凸部23は、最少量の薬物コーティング層30がバルーン12上を流れる血液の剪断力に曝露されるように、複数の凹部21内に配置された薬物コーティング層30の部分を取り巻く隆起した障壁を提供する。対照的に、複数の凸部23上で受け取られた薬物コーティング層30の部分は血管を通じて流れる血液に実質的に曝露される(薬物コーティング層30のこの部分が、バルーンカテーテル10が血管を通じて標的処置部位に向かって前進する際に洗い流され得るように)。
【0208】
[0216]ひとたび、バルーンカテーテル10が標的処置部位近傍に配置されると、バルーンカテーテル10は膨張する。膨張すると、バルーン12の改質された外部表面25を被覆する中間層40が拡張する。中間層40が拡張すると、複数の凹部21及び凸部23の形状及び寸法が増加するように(すなわち、中間層40の表面積が増加するように)、複数の凹部21及び凸部23も同様に外側的に広がり、これにより複数の凹部21内に配置された薬物コーティング層30の部分が標的処置部位に曝露される。特に、標的処置部位において近傍組織と物理的に遭遇するまで、複数の凹部21内に、及び複数の凸部23に沿って保持された薬物コーティング層30の残存部分が、バルーン12が膨張するにつれて放射状に外側に向かって広がる。
ある態様において、本発明は以下であってもよい。
[態様1]マイクロパターニングされた表面と、マイクロパターニングされた表面を被覆するコーティング層とを含む医療用デバイスであって、
該マイクロパターニングされた表面が、複数の微細構造を含み、
ここで、微細構造は、マイクロパターニングを欠いているがそれ以外は同一の医療用デバイスを用いて罹患した管腔について同一の処置を行った場合と比較して、罹患した管腔内での治療剤の組織保持を増加させ、そして、
該コーティング層が、疎水性治療剤及び少なくとも1つの添加剤を含む、
上記医療用デバイス。
[態様2]複数の微細構造が、デバイスの外部表面上、デバイスの外部表面を被覆する中間層上、又はその両方に直接形成される、態様1に記載の医療用デバイス。
[態様3]微細構造が、複数の凹部及び凸部を含む、態様2に記載の医療用デバイス。
[態様4]微細構造がデポを含み、及びコーティング層がデポの少なくとも一部分満たす、態様1に記載の医療用デバイス。
[態様5]マイクロパターニングされた表面が、外部表面に接着したマイクロパターニングされたフィルムを含む、態様1に記載の医療用デバイス。
[態様6]マイクロパターニングされた表面が、マイクロパターニングされたポリマーを含む、態様1に記載の医療用デバイス。
[態様7]中間層が、重合アルキルシクロヘキサン、重合トルエン、重合キシレン、パリレンC、パリレンN、パリレンD、パリレンX、パリレンAF-4、パリレンSF、パリレンHT、パリレンVT-4(パリレンF)、パリレンCF、パリレンA、及びパリレンAM、又はその組み合わせから選択される、態様3~8のいずれか1に記載の医療用デバイス。
[態様8]治療剤が、パクリタキセル、パクリタキセルアナログ若しくは誘導体、ラパマイシン、ラパマイシンアナログ若しくは誘導体、又はその組み合わせを含む、先行する態様のいずれか1に記載の医療用デバイス。
[態様9]少なくとも1つの添加剤が、ポリソルベート及び糖アルコールを含む、先行する態様のいずれか1に記載の医療用デバイス。
[態様10]バルーンカテーテルである、先行する態様のいずれか1に記載の医療用デバイス。
[態様11]治療剤を必要としている患者の脈管構造内にある罹患した管腔の標的部位において、治療剤の組織保持量を増加させる医療用デバイスを調製する方法であって、
外部表面、中間層、又はその両方をマイクロパターニングして、マイクロパターニングされた表層を形成するステップと、
マイクロパターニングされた表層上に、疎水性治療剤及び少なくとも1つの添加剤を含むコーティング層を適用するステップと
を含む、上記方法。
[態様12]マイクロパターニングするステップが、デバイスの外部表面上に複数の凹部及び凸部を形成するステップを含む、態様13に記載の方法。
[態様13]マイクロパターニングするステップが、中間層上に複数の凹部及び凸部を形成するステップを含む、態様13に記載の方法。
[態様14]マイクロパターニングするステップがデポを形成し、及びコーティング層を適用するステップが、デポの少なくとも一部分を満たす、態様13に記載の方法。
[態様15]中間層が、重合アルキルシクロヘキサン、重合トルエン、重合キシレン、パリレンC、パリレンN、パリレンD、パリレンX、パリレンAF-4、パリレンSF、パリレンHT、パリレンVT-4(パリレンF)、パリレンCF、パリレンA、及びパリレンAM、又はその組み合わせから選択される、態様11に記載の方法。
[態様16]治療剤が、パクリタキセル、パクリタキセルアナログ若しくは誘導体、ラパマイシン、ラパマイシンアナログ若しくは誘導体、又はその組み合わせを含む、態様11に記載の方法。
[態様17]少なくとも1つの添加剤が、ポリソルベート及び糖アルコールを含む、態様11に記載の方法。
[態様18]医療用デバイスが、バルーンカテーテルである、態様11に記載の方法。
[態様19]対象において治療処置を提供する方法であって、
対象の罹患した管腔内に医療用デバイスを挿入するステップであって、
該医療用デバイスが、外部表面、外部表面を被覆する中間層、及び中間層を被覆するコーティング層を備え、中間層がマイクロパターニングを含み、及びコーティング層が疎水性治療剤及び少なくとも1つの添加剤を含むステップと、
医療用デバイスを拡張させて、罹患した管腔の壁中への治療剤の放出を引き起こすステップとを含み、
マイクロパターニングが、マイクロパターニングを欠いている以外は同一である医療用デバイスを用いて罹患した管腔について同一の処置を行った場合と比較して、罹患した管腔内での治療剤のより長期の組織保持を引き起こすのを促進する、
上記方法。
[態様20]医療用デバイスを収縮させるステップと、罹患した管腔から医療用デバイスを除去するステップとを更に含む、態様19に記載の方法。
図1
図2
図3