(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】転がり軸受の予圧部材を有する回転電気機械
(51)【国際特許分類】
H02K 5/173 20060101AFI20240513BHJP
F16C 25/08 20060101ALI20240513BHJP
F16C 35/07 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
H02K5/173 Z
F16C25/08
F16C35/07
(21)【出願番号】P 2021576508
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 EP2020067561
(87)【国際公開番号】W WO2020260320
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-12-22
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】508075579
【氏名又は名称】ヴァレオ エキプマン エレクトリク モトゥール
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100158964
【氏名又は名称】岡村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】アレクシ、リバル
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-クロード、ラブロス
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-055257(JP,U)
【文献】特開2001-304254(JP,A)
【文献】国際公開第2015/136022(WO,A1)
【文献】特開2014-234920(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0270615(US,A1)
【文献】特開平08-149741(JP,A)
【文献】特開2019-027523(JP,A)
【文献】特開2007-189793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/173
F16C 25/08
F16C 35/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電気機械(10)用のアセンブリであって、
-転がり軸受(24)用の凹部(23)を有するブラケット(22)と、
-前記転がり軸受(24)に予圧を与えるための予圧部材(32)であって、軸方向において前記凹部(23)の底壁と前記転がり軸受(24)との間に配置されることが意図された予圧部材(32)と、
-前記転がり軸受(24)を保持するための保持部材(33)であって、径方向において前記転がり軸受(24)と前記凹部(23)の側壁との間に配置されることが意図された保持部材(33)と、
を備え、
前記転がり軸受(24)を保持するための前記保持部材(33)は、前記回転電気機械(10)の組立段階において、前記転がり軸受(24)が前記凹部(23)に挿入される前に、前記予圧部材(32)を前記ブラケット(22)の前記凹部(23)内で軸方向に保持することができるように構成されており、
前記保持部材(33)は、前記転がり軸受(24)が前記ブラケット(22)の前記凹部(23)に挿入される際に、前記予圧部材(32)に接触しないように構成されており、
前記保持部材(33)の外径(D3)は、前記凹部(23)の内径に実質的に等しい、
アセンブリ。
【請求項2】
前記転がり軸受(24)は、内輪(24.1)と、外輪(24.2)と、前記内輪(24.1)と前記外輪(24.2)との間に配置されたシール(24.4)と、を有し、
前記予圧部材(32)は、前記転がり軸受(24)の前記外輪(24.2)に、前記シール(24.4)に接触することなく、軸方向の力を加えるように構成されている、
請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記ブラケット(22)の高温での膨張時に前記転がり軸受(24)と前記ブラケット(22)との間で生じやすい隙間を補償するように、前記保持部材(33)は、前記転がり軸受(24)の熱膨張力よりも大きい熱膨張力を有する材料から構成されている、
請求項1又は2に記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記保持部材(33)は、プラスチック材料から構成されている、
請求項3に記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記保持部材(33)は、環状の本体(33.1)を有し、前記本体(33.1)には、当該保持部材(33)を前記凹部(23)に対して軸方向に保持するための軸方向保持手段(33.2)が設けられている、
請求項1~4のいずれか一項に記載のアセンブリ。
【請求項6】
前記保持部材(33)は、トレランスリングからなる、
請求項1~4のいずれか一項に記載のアセンブリ。
【請求項7】
前記保持部材(33)は、前記凹部(23)の底壁の側部を軸方向または径方向に超えることなく、前記凹部(23)の内側に全体的に包囲されている、
請求項1~6のいずれか一項に記載のアセンブリ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のアセンブリを有する回転電気機械(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の予圧部材を有する回転電気機械に関する。本発明は、自動車に装備される回転電気機械に特に有利に適用されるが、これに限定されない。
【背景技術】
【0002】
既知の態様で、回転電気機械は、ステータと、シャフトに固定されたロータとを有している。ロータは、駆動シャフトおよび/または従動シャフトに固定され得るとともに、オルタネータ、電気モータ、または両モードで動作可能な可逆装置の形態にある回転電気機械に属し得る。
【0003】
ロータは、リベット等の適切な締結システムによってパック状に保持された層の積層体で形成された本体を有している。ロータは、例えば文書EP0803962に記載されているように、ロータの磁気質量体に設けられたキャビティに収容された永久磁石により形成される極を有している。あるいは、「突出極」設計として知られるものでは、極は、ロータのアームに巻回されたコイルにより形成されている。
【0004】
さらに、ステータは、リングを形成する薄い層の積層体により形成された本体を有し、その内面には、巻線を受容するように内側に向かって開口するスロットが設けられている。巻線は、例えば、エナメルで被覆された連続ワイヤ、または互いに溶接されたピンから得られる。巻線は、星状またはデルタ状に接続された多相巻線を有し得る。それらの出力は、整流器モードでも動作可能な電力インバータを有する電子制御モジュールに接続される。
【0005】
ステータは、転がり軸受によりシャフトを回転可能に支持するように構成されたブラケットを有するケースに装着されている。回転するシャフトをガイドする回転電気機械の転がり軸受は、その耐用年数を最適化するために、軸方向および/または径方向の機械的な負荷を受けながら動作する必要がある。オルタネータを構成する電気機械の場合、機械的負荷は、内燃機関の付属面におけるプーリと、電気機械のシャフトに装着されたプーリとの間に配置されたベルト式運動伝達システムにより加えられる。
【0006】
しかしながら、ギア機構、特にギアボックスのギア機構に係合された電気機械を備える特定の駆動設計の場合、回転電気機械にトルクが加えられないことにより、転がり軸受が機械的負荷を受けない生活状況が多く観察されている。
【0007】
したがって、本件出願人は、予圧部材を転がり軸受の凹部の内部に配置した。しかしながら、このことにより、組立に関する問題が生じた。すなわち、シャフトとブラケットの対応する転がり軸受とが協働するように、全ての能動部品(ロータおよびステータ)をブラケットに対して移動させる必要があった。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、回転電気機械用のアセンブリであって、
-転がり軸受用の凹部を有するブラケットと、
-前記転がり軸受に予圧を与えるための予圧部材であって、軸方向において前記凹部の底壁と前記転がり軸受との間に配置されることが意図された予圧部材と、
-前記転がり軸受を保持するための保持部材であって、径方向において前記転がり軸受と前記凹部の側壁との間に配置されることが意図された保持部材と、
を備え、
前記転がり軸受を保持するための前記保持部材は、前記回転電気機械の組立段階において、前記転がり軸受が前記凹部に挿入される前に、前記予圧部材を前記ブラケットの前記凹部内で軸方向に保持することができるように構成されている、
アセンブリを提供することにより、この欠点を効果的に改善することを目的としている。
【0009】
したがって、本発明によれば、回転電気機械のブラケットの嵌め込み時に、その転がり軸受を有するシャフト、および能動部品(ロータおよびステータ)を静止した状態に維持すると同時に、「ブラケット、転がり軸受を保持するための保持部材、および予圧部材」により形成されるアセンブリを、操作中に予圧部材が落下する危険なく操作できることにより、電気機械の組立が容易になる。
【0010】
一実施形態によれば、前記保持部材は、前記転がり軸受が前記ブラケットの前記凹部に挿入される際に、前記予圧部材に接触しないように構成されている。
【0011】
一実施形態によれば、前記転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置されたシールと、を有し、前記予圧部材は、前記転がり軸受の前記外輪に、前記シールに接触することなく、軸方向の力を加えるように構成されている。これにより、転がり軸受の耐用年数を長くすることができる。
【0012】
一実施形態によれば、前記予圧部材は、波型ワッシャまたはテーパワッシャである。
【0013】
一実施形態によれば、前記ブラケットの高温での膨張時に前記転がり軸受と前記ブラケットとの間で生じやすい隙間を補償するように、前記保持部材は、前記転がり軸受の熱膨張力よりも大きい熱膨張力を有する材料から構成されている。
【0014】
一実施形態によれば、前記保持部材は、プラスチック材料から構成されている。
【0015】
一実施形態によれば、前記保持部材は、環状の本体を有し、前記本体には、当該保持部材を前記凹部に対して軸方向に保持するための軸方向保持手段が設けられている。
【0016】
一実施形態によれば、前記保持部材は、トレランスリングからなる。
【0017】
一実施形態によれば、前記保持部材は、前記凹部の底壁の側部を軸方向または径方向に超えることなく、前記凹部の内側に全体的に包囲されている。
【0018】
また、本発明は、上述のアセンブリを有する回転電気機械に関する。
【0019】
本発明は、以下の説明を読みつつ添付図面を精査することで、より明瞭に理解されるであろう。これらの図面は、本発明の完全に非限定的な説明のためだけに付されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明による回転電気機械の縦断面図である。
【
図2】
図2は、転がり軸受用の凹部であって、内部に本発明による転がり軸受を保持するための保持部材および予圧部材が配置される凹部の詳細な断面図である。
【
図3】転がり軸受を保持するための保持部材であって、本発明に回転電気機械に組み込まれることが意図された保持部材の斜視図である。
【
図4】転がり軸受に予圧を与えるための予圧部材であって、本発明に回転電気機械に組み込まれることが意図された予圧部材の斜視図である。
【
図5】転がり軸受を保持するための保持部材および予圧部材であって、本発明に回転電気機械に組み込まれることが意図された保持部材および予圧部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
同一、類似、または相似の要素には、図面を通して同じ符号が付される。
【0022】
図1は、回転電気機械10を示す。回転電気機械10は、電気機械10の軸に対応する軸Xを有するシャフト13に装着されたロータ12を囲む多相ステータ11を有している。ステータ11は、ステータ11の内周面とロータ12の外周面との間に空隙が存在する状態で、ロータ12を囲んでいる。
【0023】
ロータ12は、既知の態様で、多数の層からなる形状にある本体15を有している。永久磁石16が、本体15のキャビティに設置されている。永久磁石16は、電気機械10の用途や所望の出力に応じて、希土類またはフェライトから構成され得る。
【0024】
さらに、ステータ11は、本体18および巻線19を有している。本体18は、ステータ巻線19を装着するための複数の軸方向および径方向開放スロットを有している。本例において、巻線19は、互いに溶接されたピンにより形成されている。変形例として、巻線は、エナメルで被覆された連続ワイヤから、または本体18の歯に巻回されたコイルから形成され得る。巻線19は、星状またはデルタ状に接続された多相巻線を有し得る。それらの出力は、整流器モードでも動作可能な電力インバータを有する電子制御モジュールに接続される。
【0025】
また、電気機械10は、例えばアルミニウム系の材料から構成された前方ブラケット21および後方ブラケット22を有している。前方ブラケット21および後方ブラケット22のそれぞれには、凹部23が設けられている。凹部23は、回転するシャフトをガイドする転がり軸受24、特に玉軸受を受容することが意図されている。
【0026】
転がり軸受24は、内輪24.1と、外輪24.2と、両輪24.1、24.2間の相対的回転運動を可能にするボール24.3と、内輪24.1と外輪24.2との間に配置されたシール24.4と、を有している。
【0027】
前方ブラケット21は、シャフト13の出力部の側に配置されている。この出力部は、ギアボックスのギア機構等の電気機械10の外部要素と協働することが意図されている。一方、後方ブラケット22は、シャフト13の出力部に対して反対側に配置されている。
【0028】
本例において、ブラケット21、22は、転がり軸受24用の凹部23を中心に備えた軸Xに対して横方向に配向された壁26を有している。壁26から、軸線Xに対して軸方向に配向された環状の側壁27が生じている。
【0029】
冷却チャンバ29が、前方ブラケット21の側壁27の外周部と後方ブラケット22の側壁27の内周部との間に画定されている。この冷却チャンバ29は、その軸方向端部を2つのシール30によって気密に閉鎖されている。ステータ11は、好適には、前方ブラケット21の内側に干渉嵌めにより装着され、これにより、ステータ11の本体の外周部と前方ブラケット21の側壁27の内周部との密着が確立されている。
【0030】
図2に示すように、機械的負荷を受けた状態で転がり軸受24が確実に動作するように、予圧部材32が、後方ブラケット22の凹部23の底壁(end wall)と対応する転がり軸受24との間に軸方向に配置されている。これにより、転がり軸受24に軸方向の力が加えられる。また、転がり軸受24を保持するための保持部材33が、転がり軸受24と凹部23の側壁との間に径方向に配置されている。
【0031】
保持部材33は、回転電気機械10の組立段階において、転がり軸受24が凹部23に挿入される前に、予圧部材32を後方ブラケット22の凹部23に軸方向において保持することができるように構成されている。この目的のために、予圧部材32の外径D1は、保持部材33の内径D2よりも大きい、かつ保持部材33の外径D3よりも小さい、またはこれに等しい。保持部材33の外径D3は、凹部23の内径に実質的に等しい。
【0032】
したがって、「ブラケット22、予圧部材32、および保持部材33」からなるアセンブリが垂直方向に配置されてロータ12が装着されたシャフト13の転がり軸受24と協働するとき、予圧部材32は、保持部材33の軸方向端部に載置され得る。
【0033】
予圧部材32は、転がり軸受24の外輪24.2に、シール24.4と接触することなく、軸方向の力を加えるように構成されている。これにより、転がり軸受24の耐用年数を長くすることができる。予圧部材32は、
図2、4および5に示すように、好適には波型ワッシャである。したがって、ワッシャ32は、連続する山36および谷37により形成された複数の起伏35を有している。ワッシャ32の起伏35の数は、用途、および特に転がり軸受24に加えられる力によって異なるが、例えば3~8である。あるいは、ワッシャ32は、テーパワッシャであってもよい。
【0034】
有利には、保持部材33は、転がり軸受24がブラケットの凹部23に挿入される際に、予圧部材32に接触しないように構成される。この目的のために、保持部材33は、
図2に示すように、転がり軸受24の外輪24.2の軸方向長さL2より小さい軸方向長さL1を有している。
【0035】
ブラケット22の高温での膨張時に転がり軸受24とブラケット22との間で生じやすい隙間を補償するように、保持部材33は、転がり軸受24の熱膨張よりも大きい熱膨張を有する材料、特にプラスチック材料で構成される。
【0036】
本例において、
図3および5に示すように、保持部材33は、前記保持部材33を凹部23に対して軸方向に保持するための軸方向保持手段33.2が設けられた、環状の本体33.1を有している。軸方向保持手段33.2は、例えば、凹部23に設けられた対応する形状を有する溝39に挿入されることが意図されたへり(lip)からなり得る(
図2参照)。
【0037】
また、保持部材33は、凹部23に設けられた対応する形状を有する窪みに挿入される突起(lug)からなる回転防止手段33.3を有し得る。ただし、回転防止手段33.3の存在はは必須ではない。
【0038】
保持部材33は、前記凹部23の底壁の側部(side)を軸方向または径方向に超えることなく、凹部23の内側に全体的に包囲されている。
【0039】
変形例として、保持部材33は、トレランスリングからなる。このトレランスリングは、凹部23の膨張時にその寸法変化に適合するように弾性変形可能な環状部、並びに環状部の内周部に設置された複数の要素を有する。これらの内部要素も、転がり軸受24との接触を確実にするように弾性変形可能である。
【0040】
当然ながら、上述の説明は例示のみを目的としてなされ、本発明の範囲を限定するものではない。種々の要素を他の同等物に代えても、当該範囲からの逸脱とはならない。
【0041】
さらに、本発明の種々の特徴、変形例、および/または実施形態は、相互に両立し得ない、または相互に排他的でない限り、様々な組み合わせにおいて互いに組み合わせることができる。