(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】発光性の計時器用コンポーネントを製造する方法および発光性の計時器用コンポーネント
(51)【国際特許分類】
G04B 19/32 20060101AFI20240513BHJP
G04B 19/04 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
G04B19/32 Z
G04B19/04 B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022068016
(22)【出願日】2022-04-18
【審査請求日】2022-04-18
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ソフィ・ナーポリ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・フランソワ
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-281764(JP,A)
【文献】特開2018-059933(JP,A)
【文献】特開2021-017518(JP,A)
【文献】特開2008-164401(JP,A)
【文献】特開2018-040698(JP,A)
【文献】特開2005-227046(JP,A)
【文献】特開2003-185764(JP,A)
【文献】特表2010-518355(JP,A)
【文献】特表2007-511085(JP,A)
【文献】特表2019-536051(JP,A)
【文献】特開2001-159875(JP,A)
【文献】特開2017-211385(JP,A)
【文献】登録実用新案第3185348(JP,U)
【文献】特開2018-146478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
G09F 13/20
C09K 11/00
G01D 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
携行可能な物のための発光性の計時器用コンポーネントを製造する方法であって、
樹脂と40重量%のリン光顔料を混合するステップと、
混合物に3重量%の蛍光顔料を加えるステップと、
任意で、混合物に10重量%のシランを加えるステップと、
硬化剤を加え、すべてを機械的に混合して均質な溶液を得るステップと、
得られた溶液を真空下で少なくとも0.4mmの厚みまで型内に注入し、架橋して発光性の成型部品を得るステップと、及び
硬化の後に、成型部品を型から取り外し、レーザーでブランク形成して、発光性の計時器用コンポーネントを得るステップと
を備え、
計時器用コンポーネントが、針であり、
前記樹脂は、ポリエポキシ系又はポリウレタン系の樹脂から選択し、
前記リン光顔料が、青色発光リン光顔料であり、
前記蛍光顔料が、ピンク色の蛍光顔
料である
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
最後に、前記計時器用コンポーネントを印刷又はエッチングによって装飾するステップ
を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記樹脂が、エポキシ樹脂である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
得られた溶液を80℃において4時間架橋する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記硬化剤は、酸無水物、フェノール、アミン、ジイソシアネート、又はポリオールが
少なくとも2つのヒドロキシル基を含むトリイソシアネートを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法を行って得られた
ことを特徴とする発光性の計時器用コンポーネント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光性の計時器用コンポーネントを製造する方法に関する。本発明は、さらに、このような製造方法を用いて得られる計時器用コンポーネントに関する。
【背景技術】
【0002】
針やインデックスのような様々な用途のためにフォトルミネッセンス材料を使用することが市場においてかなり広く行われている。
【0003】
針、表盤、その他のコンポーネントを明るくするために、リン光の技術が様々な装飾方法を用いて計時器の分野において日常的に用いられている。
【0004】
また、携行型時計(例、腕時計、懐中時計)をいくつかの色で装飾するために、蛍光の技術が、内部ケーシングコンポーネントの装飾に、蛍光顔料を用いたパッド印刷やスプレーによって用いられている。
【0005】
また、表盤と針は、通常は金属材料によって作られ、いくつかの仕上げ工程の後に、リン光性又は蛍光性のインクで装飾される。
【0006】
この設計には、以下のようないくつかの課題がある。
- 発光性能が制限される。リン光及び蛍光インクの厚みは、現在の装飾方法では約100μmまでに制限される。
- 装飾方法が複雑である。不透明な装飾を得てパフォーマンスを最大化するためにはリン光装飾の前に白いサブレイヤーが実際に必要である。
- 完全に不透明なコンポーネントによって設計が制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の短所に悩まされない発光性の計時器用コンポーネントを製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、携行可能な物のための発光性の計時器用コンポーネントを製造する方法に関し、
エポキシ樹脂と40重量%のリン光顔料を混合するステップと、
混合物に3重量%の蛍光顔料を加えるステップと、
加える場合、混合物に10重量%のシランを加えるステップと、
硬化剤を加え、すべてを機械的に混合して均質な溶液を得るステップと、
得られた溶液を真空下で型内に注入し、架橋して発光性の成型部品を得るステップと、及び
硬化の後に、成型部品を型から取り外し、機械加工して、発光性の計時器用コンポーネントを得るステップと
を行う。
【0009】
本発明の他の有利な代替形態は、以下の特徴を有する。
- この方法は、最後に、前記計時器用コンポーネントを印刷又はエッチングによって装飾する随意的なステップを行う。
- 得られた溶液を少なくとも0.4mmの厚みまで型内に注入する。
- 用いる樹脂は、ポリエポキシ系又はポリウレタン系の樹脂から選択する。
- 得られた溶液を80℃において4時間架橋する。
- 前記硬化剤は、酸無水物、フェノール、アミン、ジイソシアネート、又はポリオールが少なくとも2つのヒドロキシル基を含むトリイソシアネートを含む。
- 形成する発光性の計時器用コンポーネントは、表盤又は針である。
【0010】
本発明は、さらに、このような方法を用いて得られる発光性の計時器用コンポーネントに関する。
【0011】
本発明は、さらに、このような計時器コンポーネントを少なくとも1つ備える計時器に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、携行可能な物のための発光性の計時器用コンポーネントを製造する方法、そして、得られた発光性の計時器用コンポーネントに関する。
【0013】
発光性とは、コンポーネントがフォトルミネッセンス、蛍光、リン光、又はこれらの組み合わせの性質を有することを意味する。
【0014】
リン光とは、ある要素が、光を吸収し、より長い波長で再放射することができる性質を有することを意味する。その発光は、光の励起が止まってもしばらく持続する。前記インクは、そのインクにフォトルミネッセンスの性質を与えるように少なくとも1つのフォトルミネッセンス剤を含む。好ましくは、このフォトルミネッセンス剤は蛍光剤である。これは、好ましいことに、無機フルオロフォア及び有機ランタニド錯体から選択される。また、別の代替的形態によると、前記蛍光剤は、有機フルオロフォアから選択することもできる。この有機フルオロフォアは、例えば、フルオレセイン、ユーロピウム1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオネート-1,10-フェナントロリン、ドープされたオキシ硫化ガドリニウム、ドープされたアルミン酸バリウムマグネシウム、ドープされたアルミン酸リチウム、ドープされたモリブデン酸ストロンチウムであることができる。
【0015】
蛍光とは、ある要素が、光を吸収し、より長い波長で再放射することができる性質を有することを意味する。光の励起が止まると発光も止まる。
【0016】
そして、本発明に係る製造方法の様々なステップについて説明する。
【0017】
第1のステップにおいて、樹脂と40重量%のリン光顔料を混合して、リン光性能を損うことなく、十分に目立つ昼間の色を得る。発光性の粒子の量は、装飾された計時器用コンポーネントが目立ち、暗闇においても容易かつ即座に見えるように十分であるように選択される。このような顔料は、例えば、Aralon Colors社から得られるDaylight Fluorescent Pigmentsであることができ、当然、他のタイプの顔料も用いることができる。
【0018】
用いる樹脂は、ポリエポキシド又はポリウレタンタイプの樹脂であることができる。日常的に「エポキシ」と呼ばれるポリエポキシド樹脂は、エポキシドモノマーを硬化剤とともに重合することによって製造される樹脂である。
【0019】
そして、3重量%の蛍光顔料を加える。これによって、蛍光顔料が着色されるため、日中に見える色を変えることができる。また、蛍光顔料は、リン光効果を強化し変えることを可能にする。例えば、「ライトブルー色」の青色発光リン光顔料を用い、ピンク色の蛍光顔料を加えると、夜間における発光の最終的な色はピンクがかったバイオレット色になる。したがって、日中に見える色を夜間に見える色に対応させることが可能となる。
【0020】
本発明の代替的実施形態において、最大10重量%のシランを混合物に加えて、樹脂の粘度を調整し、これによって、型内における混合物の堆積を速くし容易にする。
【0021】
次のステップにおいて、硬化剤を加え、Speedmixerタイプの遠心プラネタリーミキサーを介して機械的混合を行って、均質な溶液を得て、発光性の粒子を樹脂に十分に分散させる。これによって、計時器用コンポーネントにおける視覚的仕上げと発光性のインクの性能の両方に悪影響を与える粒子のクラスターを避けることができる。
【0022】
硬化剤は、酸無水物、フェノール、又はアミンを含むことができる。また、ジイソシアナート又はトリイソシアナートを少なくとも2つのヒドロキシル基を含むポリオールと反応させることによって、ポリウレタン樹脂を用いることもできる。
【0023】
そして、得られた均質な溶液を真空下で型内に注入する。得られた溶液は、少なくとも0.4mmの厚みとなるように型内に注がれ、その厚みは、最後に得ることを望む計時器用コンポーネントに応じて変わる。本発明者らは、0.4mmの厚みに満たないと、部品は非常に壊れやすくなり、機械的に保持されない(例えば、針が自重を支えない)ことを記録した。したがって、良好な性能と強度を確実にするために、0.4mm以上の厚みが必要である。
【0024】
厚みの上限はない。部品の厚みを直接作り、部品が平坦な場合に部品をブランク形成することが可能となる。また、より厚みのある部品を成型してから、厚みに関して再加工するように機械加工することも可能である。例えば、針の場合、針の上部を広くし、足部を細くするようにブランク形成することができる。
【0025】
真空下で成型された後に、均質な溶液が架橋されて、発光性の成型部品が得られる。当然、架橋の時間と温度は、選択した樹脂に応じて異なる。前記架橋は、例えば、80℃の温度で4時間行うことができる。
【0026】
当然、架橋の時間と温度は、用いる樹脂の技術仕様によって異なる。この例において、80℃における4時間の架橋時間は、エポキシ樹脂E2830のパラメーターに対応するものである。
【0027】
最後に、架橋が終了した後に、成型された部品を型から取り外してレーザーによるブランク形成を行い、発光性の計時器用コンポーネントを得る。
【0028】
最後に、随意的な最後のステップは、計時器用コンポーネントの発光性の部分のみが見えるように、得られた計時器用コンポーネントを印刷又はエッチングすることによって装飾することを行う。
【0029】
本発明によると、このような方法によって、発光性の表盤又は針を得ることが可能になる。
【0030】
実施形態
The Swatch Group R&D, Polymer Divisionによって製造された「E2830」エポキシ樹脂を用いた。
【0031】
40重量%のフォトルミネッセンス顔料(粒径D50:15~20μm)をE2830樹脂に加えた。
【0032】
そして、蛍光顔料を3重量%加えた。
【0033】
この混合物に、最大10重量%のシラン(Evonik社のDynasylan Glyeo)を加えた。この量は、この混合物の所望の粘度に応じて調整される。この混合物を均質化して、硬化剤を加えた。
【0034】
Speedmixerタイプの遠心プラネタリーミキサーのような機械を用いて、機械的混合を行って、均質な溶液を得た。
【0035】
そして、このようにして得られた混合物を、0.4mmの厚みを有するように型内に注入する。そして、提供者が指定した条件にしたがって樹脂を架橋した(ここでは、E2830樹脂に対して80℃の炉で4時間)。
【0036】
型から成型体を取り外した後で、レーザーでブランク形成して、所望の計時器用部品を得た。