(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】シールド構造
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240513BHJP
H05K 5/06 20060101ALI20240513BHJP
H02G 3/08 20060101ALI20240513BHJP
G21F 9/36 20060101ALI20240513BHJP
G21F 5/12 20060101ALI20240513BHJP
H01L 23/00 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
H05K9/00 Q
H05K5/06 D
H02G3/08 080
G21F9/36 501C
G21F5/12 D
H01L23/00 C
(21)【出願番号】P 2022090942
(22)【出願日】2022-06-03
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】花崎 宏一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】臼井 智紀
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-108661(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H05K 5/06
H02G 3/08
G21F 9/36
G21F 5/12
H01L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1構造体に設けられた収納溝に導電性弾性体からなるシールド部材を収納し、前記第1構造体に第2構造体を当接させて前記シールド部材を前記収納溝に押し込み、前記第1構造体と前記第2構造体の内部を外界に対してシールドするシールド構造において、
前記収納溝は、前記収納溝の長手方向と交差する切断面が、底面にある凸部の両側に相対的な凹部を有する形状であ
り、
前記シールド部材は、
前記収納溝に収納した状態では、頂部が前記収納溝の外に突出しており、かつ前記凹部には押し込まれておらず、
前記第2構造体によって押圧された状態では、全体が前記収納溝の内部に押し込まれ、かつ少なくとも一部が前記凹部に押し込まれていることを特徴とするシールド構造。
【請求項2】
前記凸部は、矩形状と周状と三角形状を含む形状群から任意に選択された一以上の形状を有することを特徴とする請求項1に記載のシールド構造。
【請求項3】
第1構造体に設けられた収納溝に導電性弾性体からなるシールド部材を収納し、前記第1構造体に第2構造体を当接させて前記シールド部材を前記収納溝に押し込み、前記第1構造体と前記第2構造体の内部を外界に対してシールドするシールド構造において、
前記収納溝は、前記収納溝の長手方向と交差する切断面が、底面にある凸部の両側に相対的な凹部を有する形状であり、
前記シールド部材は、
前記収納溝に収納した状態では、頂部が前記収納溝の外に突出しており、かつ前記凹部には押し込まれておらず、
前記第2構造体によって押圧された状態では、全体が前記収納溝の内部に押し込まれ、かつ
前記凹部に押し込まれることなく、前記凹部を除く前記収納溝の内面と前記凸部の上面に接していることを特徴とす
るシールド構造。
【請求項4】
前記シールド部
材は、中空構造であることを特徴とする請求項1又は3に記載のシールド構造
。
【請求項5】
前記第1構造体は、中空の内部空間を有し、前記内部空間を開放する開口の端面に前記収納溝が形成されたケースであり、前記第2構造体は、前記第1構造体の前記開口に設けられる蓋体であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載のシールド構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド部材を介して2つの構造体を組み合わせることにより、両構造体の内部を外部からの電磁波に対して遮蔽し、また両構造体の内部で発生する電磁波を外部に対して遮蔽する電磁波のシールド構造に係り、特に、シールド部材の外径に若干の誤差があったとしても適切な遮蔽状態を得ることができ、またシールド部材の経年変化による遮蔽状態の劣化が生じにくいシールド構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願発明と同一技術分野に属するシールド構造の発明の一例を示すため、下記特許文献1を提示する。この発明のシールド構造は、筐体12と、筐体12の所定位置に下方部分が埋め込まれる弾性体を材質とした密閉用ガスケット14と、この密閉用ガスケット14の上方部分14aおよび該筐体12を被覆するプライマ層18と、このプライマ層18の表面に析出させた金属メッキ層20を有している。この発明によれば、高い気密性および導電性を併有する電磁波シールド用筐体を提供できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図9は、本願発明者が過去に提案した電子機器用筐体のシールド構造を模式的に示す断面図である。
図9(a)に示すように、この電子機器用筐体は、箱型のケース100と板状の蓋体101から構成されている。ケースの図示しない開口部の端面には収納溝102が形成されている。導電弾性材料からなるシールド部材103を収納溝102内に配置し、その上から蓋体101を載せて図示しない固定手段でケース100に固定することにより、ケース100内の空間(図示せず)を外界に対して遮蔽することができる。
【0005】
シールド部材103は断面が円形である紐状の長手部材であるが、
図9(a)は、シールド部材103の外径が製造上のばらつきにより規定寸法よりも大きい場合を示しており、溝内に押し込んだ状態では、断面が楕円形に変形しており、一部分が収納溝102の外に突出した状態となっている。
図9(a)に示す状態で、蓋体101をシールド部材103の上に載せてケース100に固定し、シールド部材103を収納溝102内に押し込むと、
図9(b)に示すように、シールド部材103が収納溝102の外はみ出してしまい、蓋体101の下面がケース100の端面に当接せず、蓋体101とケース100の間に隙間が生じ、蓋体101が閉まらなくなってしまうことがあった。また、シールド部材103が収納溝102からはみ出した際、はみ出したシールド部材103が、蓋体101とケース100の間に挟み込まれてしまうこともあり、その場合には、仮に初期状態で必要なシールド性能が得られていたとしても、挟まれることによって部分的に過重な圧力を受けているシールド部材103が経年により劣化して十分なシールド性能が得られなくなることがあった。
【0006】
図9(c)は、
図9(a)及び(b)の場合とは逆に、シールド部材103の外径が製造上のばらつきにより規定寸法よりも小さい場合を示している。この場合には、収納溝102内にシールド部材103を押し込んだ状態では、シールド部材103と蓋体101が接触しないため、期待したシールドが得られない場合があった。
【0007】
本発明は、以上説明した従来の技術における課題を解決するためになされたものであって、シールド部材の寸法が規定より大きい場合でも、シールド部材が溝内に確実に収納されて蓋体を適切に閉止することができ、逆にシールド部材の寸法が規定より小さい場合でも、シールド部材が蓋体に確実に接触することにより導通を得ることができ、何れの場合であっても確実なシールド効果を得ることができるとともに、シールド部材が溝からはみ出さないために経年変化によるシールド部材の劣化を防止することができるシールド構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載されたシールド構造は、
第1構造体に設けられた収納溝に導電性弾性体からなるシールド部材を収納し、前記第1構造体に第2構造体を当接させて前記シールド部材を前記収納溝に押し込み、前記第1構造体と前記第2構造体の内部を外界に対してシールドするシールド構造において、
前記収納溝は、前記収納溝の長手方向と交差する切断面が、底面にある凸部の両側に相対的な凹部を有する形状であり、
前記シールド部材は、
前記収納溝に収納した状態では、頂部が前記収納溝の外に突出しており、かつ前記凹部には押し込まれておらず、
前記第2構造体によって押圧された状態では、全体が前記収納溝の内部に押し込まれ、かつ少なくとも一部が前記凹部に押し込まれていることを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載されたシールド構造は、請求項1に記載のシールド構造において、
前記凸部は、矩形状と周状と三角形状を含む形状群から任意に選択された一以上の形状を有することを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載されたシールド構造は、
第1構造体に設けられた収納溝に導電性弾性体からなるシールド部材を収納し、前記第1構造体に第2構造体を当接させて前記シールド部材を前記収納溝に押し込み、前記第1構造体と前記第2構造体の内部を外界に対してシールドするシールド構造において、
前記収納溝は、前記収納溝の長手方向と交差する切断面が、底面にある凸部の両側に相対的な凹部を有する形状であり、
前記シールド部材は、
前記収納溝に収納した状態では、頂部が前記収納溝の外に突出しており、かつ前記凹部には押し込まれておらず、
前記第2構造体によって押圧された状態では、全体が前記収納溝の内部に押し込まれ、かつ前記凹部に押し込まれることなく、前記凹部を除く前記収納溝の内面と前記凸部の上面に接していることを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載されたシールド構造は、請求項1又は3に記載のシールド構造において、
前記シールド部材が、中空構造であることを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載されたシールド構造は、請求項1乃至3の何れか一つに記載のシールド構造において、
前記第1構造体が、中空の内部空間を有し、前記内部空間を開放する開口の端面に前記収納溝が形成されたケースであり、前記第2構造体が、前記第1構造体の前記開口に設けられる蓋体であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載されたシールド構造によれば、シールド部材を収納溝に収納して第1構造体と第2構造体を組み立てる際、シールド部材が規定寸法より大きい場合であっても、第2構造体に押されたシールド部材は、収納溝内に押し込まれて凸部の両側にある凹部に入り込むことができるため、収納溝の外にはみ出すことがなく、収納溝の内面と第2構造体に確実に密着するので高いシールド性能が得られる。また、シールド部材を収納溝に収納して第1構造体と第2構造体をシールド状態に組み立てる際、第2構造体に押されたシールド部材は、突出した頂部が収納溝内に押し込まれるとともに、下方の部分が凸部の両側にある凹部に入り込むため、収納溝の内面と第2構造体に確実に密着して高いシールド性能を発揮することができる。
【0015】
請求項2に記載されたシールド構造によれば、シールド部材の弾性に応じて形状を選択することにより、収納溝の内面や第2構造体に対するシールド部材の密着状態を適宜に設定することができる。
【0016】
請求項3に記載されたシールド構造によれば、シールド部材を収納溝に収納して第1構造体と第2構造体を組み立てる際、シールド部材が規定寸法より大きい場合であっても、第2構造体に押されたシールド部材は、収納溝内に押し込まれて凸部の両側にある凹部に入り込むことができるため、収納溝の外にはみ出すことがなく、収納溝の内面と第2構造体に確実に密着するので高いシールド性能が得られる。また、シールド部材を収納溝に収納して第1構造体と第2構造体をシールド状態に組み立てる際、第2構造体に押されたシールド部材は、突出した頂部は収納溝内に押し込まれるが、その他の部分が凹部に入り込むことはなく、凹部以外の溝部の内面と、凸部の上面とに接した状態となるため、収納溝の内面と第2構造体に確実に密着して高いシールド性能を発揮することができる。
【0017】
請求項4に記載されたシールド構造によれば、製造誤差によって外径寸法が規定寸法より大きくても、中空構造であるため第2構造体を押し付ける組立時の力が小さくて済む。また、柔軟性があるため第2構造体に押されて変形しやすく、収納溝内に収まりやすいので、収納溝内における凹部や凸部との密着性に優れており、収納溝の内面と第2構造体に確実に密着して高いシールド性能を確実に発揮することができる。
【0019】
請求項5に記載されたシールド構造によれば、ケースの内部空間又は蓋体の内面に電子機器等を配置することによって内部空間に電子機器等を設置することができ、この電子機器等を確実なシールド状態に置くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態のシールド構造を有するケースの斜視図である。
【
図2】規定寸法のシールド部材を用いた実施形態のシールド構造を示す模式的断面図であって、分図(a)は組立途中を示す図であり、分図(b)は組立後を示す図である。
【
図3】規定寸法よりも小さいシールド部材を用いた実施形態のシールド構造を示す模式的断面図であって、分図(a)は組立途中を示す図であり、分図(b)は組立後を示す図である。
【
図4】規定寸法よりも大きいシールド部材を用いた実施形態のシールド構造を示す模式的断面図であって、分図(a)は組立途中を示す図であり、分図(b)は組立後を示す図である。
【
図5】中空構造のシールド部材を用いた実施形態のシールド構造を示す模式的断面図であって、分図(a)は組立途中を示す図であり、分図(b)は組立後を示す図である。
【
図6】実施形態のシールド構造における収納溝の他の形状を示す断面図である。
【
図7】実施形態のシールド構造における収納溝の他の形状を示す断面図である。
【
図8】実施形態のシールド構造を有するケースの他の例を示す斜視図である。
【
図9】本願発明者が本発明の以前に発明したシールド構造と、その問題点を示す模式的図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について
図1~
図8を参照して説明する。各図面に示す実施形態の構成要素は、必ずしも実物・現物と同一の構成を忠実に表すものではなく、明細書の記載と整合的に理解されるように模式的に表現している場合もあり、また各構成要素の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致するものではない。
【0022】
図1は、本発明のシールド構造を備えた実施形態の電子機器用筐体1を示す斜視図である。この電子機器用筐体1(以下、単に筐体1とも呼ぶ。)は、第1構造体である箱型のケース2と、第2構造体である板状の蓋体3を備えている。ケース2と蓋体3は、金属又は導体材料からなる。ケース2の上面側には矩形の開口部4が開口して内部空間Sが露出しており、この開口部4を囲む矩形の端面5には収納溝6が形成されている。収納溝6は端面5に沿って矩形状に連続しており、角部は略直角である。蓋体3の外形はケース2の端面5の外形と一致する矩形である。後述するシールド部材7を収納溝6内に押し込み、その上から蓋体3を載せ、図示しない固定手段で蓋体3によってシールド部材7を押圧しながら、ケース2に蓋体3を固定する。固定手段としては、例えばねじとねじ孔や、クランプ式の挟持固定装置、蓋体3をケース2に圧着させる機構等、公知の構造、装置、器具等を用いることができる。これにより、ケース2と蓋体3は一体化され、筐体1の内部空間Sを外界に対して遮蔽することができる。
【0023】
シールド部材7は、所要の硬度及び適度な柔軟性を有し、外部から侵入しようとするガスや水分等に強い材料、例えばシリコーンゴムやウレタン等の弾性材料に、金属の微粒子や粉体等の導電性物質を添加した導電弾性材料から構成されている。シールド部材7は、その断面が円形であり、少なくとも収納溝6と同等の長さを有する紐状の長手部材であり、収納溝6の全長にわたって配置される。
【0024】
前述した通り、シールド部材7は断面が円形の長体部材であるが、「発明が解決しようとする課題」の項で説明したように、その外径は、製造上のばらつきによって規定寸法よりも大きくなり、あるいは小さくなる場合がありうる。具体的な一例を挙げれば、シールド部材7の外径には、その材質と製造技術に起因して、収納溝6の幅の±10%程度の誤差が含まれうる。しかしながら、規定寸法から外れた場合であっても、同じ形状寸法の収納溝6に対して使用し、必要なシールド性能が得られれば好都合であるが、実施形態は、以下に説明するように、まさにそのような効果を有している。
【0025】
図2は、収納溝6の寸法・形状に対して外径が規定値に近い標準品のシールド部材7を用いた場合のシールド構造を示している。
図2(a)に示すように、収納溝6は、その長手方向(
図2において紙面垂直方向)と交差する切断面が、底面にある矩形の凸部8の両側に、相対的な凹部9を有する形状となっている。このような矩形の凸部8は切削等の機械加工で形成しやすい。この収納溝6に、標準品のシールド部材7を押し込むと、シールド部材7は変形して図中縦方向を長径とする楕円形状となり、下方の一部が凸部8の上面に接し、上方の一部分が収納溝6の外に突出した状態となる。この状態において、シールド部材7は収納溝6内の凹部9に入り込んでいない。
【0026】
図2(b)に示すように、蓋体3をケース2に固定すると、シールド部材7は蓋体3に押圧されて全体が収納溝6の内部に押し込まれ、下方の一部分がさらに変形して、2つの凹部9,9の各一部分に均等に進入する。従って、変形したシールド部材7は、その弾性による形状復元性により、収納溝6の内部において、蓋体3の裏面(内面)と、凸部8の上面と、凹部9を除く収納溝6の内面と、凹部9の内面の一部に密着した状態となる。
【0027】
従って、蓋体3とケース2の分割面は、収納溝6内に密着して配置されたシールド部材7で密封され、確実な気密状態、水密状態及び電磁波に関する遮蔽状態が達成されている。
【0028】
図3は、収納溝6の寸法・形状に対して外径が規定値よりも小さい過小品のシールド部材7Sを用いた場合のシールド構造を示している。
図3(a)に示すように、収納溝6は、
図2の場合と同じである。この収納溝6に、過少品のシールド部材7Sを押し込むと、シールド部材7Sは変形し、図中縦方向を長径とする楕円形状となり、下方の一部が凸部8の上面に接し、上方の一部分が収納溝6の外に突出した状態となる。
図3(a)のシールド部材7Sの楕円形における長径に対する短径の比率は、
図2(a)の場合よりも大きく、
図3(a)のシールド部材7Sの楕円形は
図2(a)の場合よりも円に近い。従って、シールド部材7Sが収納溝6から突出している寸法は、
図2(a)に示す場合よりも小さい。この状態において、シールド部材7Sは収納溝6内の凹部9に入り込んでいない。
【0029】
図3(b)に示すように、蓋体3をケース2に固定すると、シールド部材7Sは蓋体3に押圧されて変形し、全体が収納溝6の内部に押し込まれるが、2つの凹部9,9に進入するところまでは変形しない。従って、変形したシールド部材7Sは、その弾性による形状復元性により、収納溝6の内部において、蓋体3の裏面(内面)と、凹部9を除く収納溝6の内面の一部と、凸部8の上面に密着した状態となる。
【0030】
従って、蓋体3とケース2の分割面は、収納溝6内に密着して配置されたシールド部材7Sで密封され、標準品のシールド部材7を用いた場合よりも密着面の面積はやや小さいが、必要な気密状態、水密状態及び電磁波に関する遮蔽状態は問題なく達成されている。
【0031】
図4は、収納溝6の寸法・形状に対して外径が規定値よりも大きい過大品のシールド部材7Lを用いた場合のシールド構造を示している。
図4(a)に示すように、収納溝6は、
図2の場合と同じである。この収納溝6に、過大品のシールド部材7Lを押し込むと、シールド部材7Lは変形し、図中縦方向を長径とする楕円形状となり、下方の一部が凸部8の上面に接し、上方の一部分が収納溝6の外に突出した状態となる。
図4(a)のシールド部材7Lの楕円形における長径に対する短径の比率は、
図2(a)の場合よりも小さく、
図4(a)のシールド部材7Lの楕円形は
図2(a)の場合よりも細長い。従って、シールド部材7Lが収納溝6から突出している寸法は、
図2(a)に示す場合よりも大きい。この状態において、シールド部材7Lは収納溝6内の凹部9に入り込んでいない。
【0032】
図4(b)に示すように、蓋体3をケース2に固定すると、シールド部材7Lは蓋体3に押圧されて全体が収納溝6の内部に押し込まれ、下方の一部分がさらに変形して、2つの凹部9,9の内部に均等に進入し、2つの凹部9,9を概ね充填した状態となる。従って、変形したシールド部材7Lは、その弾性による形状復元性により、収納溝6の内部において、蓋体3の裏面(内面)と、凹部9を含む収納溝6の内面の略全面と、凸部8の上面に密着した状態となる。
【0033】
従って、蓋体3とケース2の分割面は、収納溝6内に密着して配置されたシールド部材7Lで密封され、標準品のシール材7を用いた場合と同等以上の気密状態、水密状態及び電磁波に関する遮蔽状態が達成されている。
【0034】
図5は、収納溝6の寸法・形状に対して外径が規定値よりも大きく、かつ内部に円形の空洞Hを有する中空品のシールド部材7Hを用いた場合のシールド構造を示している。
図5(a)に示すように、収納溝6は、
図2の場合と同じである。この収納溝6に、中空品のシールド部材7Hを押し込むと、シールド部材7Hは変形し、図中縦方向を長径とする楕円形状となり、下方の一部が凸部8の上面に接し、上方の一部分が溝の外に突出した状態となる。シールド部材7Hが収納溝6から突出している寸法は、
図4(a)に示す場合と同等である。この状態において、シールド部材7Hは収納溝6内の凹部9に入り込んではいない。
【0035】
図5(b)に示すように、蓋体3をケース2に固定すると、シールド部材7Hは蓋体3に押圧されて全体が収納溝6の内部に押し込まれ、下方の一部分がさらに変形して、2つの凹部9,9の各一部分に均等に進入する。シールド部材7Hの円形の中空部分Hは潰されて不規則な形状又は図示のような略星型となる。従って、変形したシールド部材7Hは、その弾性による形状復元性により、収納溝6の内部において、蓋体3の裏面(内面)と、凸部8の上面と、凹部9を除く収納溝6の内面と、凹部9の内面の一部に密着した状態となる。
【0036】
従って、蓋体3とケース2の分割面は、収納溝6内に密着して配置されたシールド部材7Hで密封され、標準品のシールド部材7を用いた場合と同様、またはさらに確実な気密状態、水密状態及び電磁波に関する遮蔽状態が達成されている。
【0037】
図5に示した中空品のシールド部材7Hは、中空であるため蓋体3で押し込んだ場合に潰れやすく、収納溝6内に収まりやすく、収納溝6から外にはみ出しにくい。また、潰れやすいため、蓋体3をケース2に取り付ける際に、蓋体3で押し込む力が小さくて済み、筐体1の組み立てが容易である。
【0038】
図6は、収納溝6に設けられる凸部8の他の形状例を示している。この凸部8Rは、長手方向に直交する断面における断面形状が半円周状である。収納溝6内に押し込まれたシールド部材7が半円周状の凸部8Rに当たった場合、矩形の凸部8に当たった場合に較べ、シールド部材7に対する負荷が分散され均一化するので、シールド部材7が損傷しにくく、また変形したシールド部材7の下方部分が凹部9に進入しやすく、収納溝6の内面にシールド部材7がより密着しやすくなる。また、より硬く変形しにくい材質のシールド部材7を用いる場合には、矩形の凸部8よりも、半円周状の凸部8Rを採用した方が、シールド部材7が変形して凹部9に入り込み易いので好ましい。
【0039】
図7は、収納溝6に設けられる凸部8の他の形状例を示している。この凸部8Tは、長手方向に直交する断面における断面形状が三角形状である。収納溝6内に押し込まれたシールド部材7が三角形状の凸部8Tに当たった場合、矩形の凸部8に当たった場合に較べ、変形したシールド部材7の下方部分が凹部9に進入しやすく、収納溝6の内面にシールド部材7がより密着しやすくなる。また、より硬く変形しにくい材質のシールド部材7を用いる場合には、矩形の凸部8よりも、三角形状の凸部8Tを採用した方が、シールド部材7が変形して凹部9に入り込み易いので好ましい。
【0040】
また、図示はしないが、収納溝6の長手方向に直交する断面における凸部の断面形状は、
図2~
図5、
図6及び
図7に示した例の他、上底が短く、下底が長い台形状でもよい。この場合も、矩形の凸部8に較べ、変形したシールド部材7の下方部分が凹部9に進入しやすく、収納溝6の内面にシールド部材7がより密着しやすくなる。また、より硬く変形しにくい材質のシールド部材7を用いる場合には、矩形の凸部8よりも、台形状の凸部を採用した方がシールド部材7が変形して凹部9に入り込み易いので好ましい。
【0041】
なお、
図6の半円周状の凸部8R、
図7の三角形状の凸部8T、また上述した台形状の凸部は、金属又は導体材料のケース2を型で製作するのであれば、これと同時に形成する方が、切削等の機械加工で形成するより製造コストを低くできるので好ましいが、矩形の凸部8は、ケース2を製造した後、機械的な工程、例えば切削によって形成してもよい。
【0042】
図8は、実施形態の電子機器用筐体1aの他の構造例を示す斜視図である。この筐体1では、ケース2aの開口部4の端面5に設けられた矩形状の収納溝6が、その角部において、中心角度で略90度の曲線を描いて屈曲している点が、
図1の構造例の筐体1と異なる。この構造によれば、蓋体3をケース2aに取り付ける際、シールド部材7は収納溝6の角部分に沿って屈曲し易いため、収納溝6内に押し込む作業が容易になる。シールド部材7の曲がりやすさは、その材質にもよるが、相対的に可撓性が高いシールド部材7であれば
図1に示した角部が直角の収納溝6でもよいが、相対的に可撓性が低いシールド部材7の場合には
図8に示した角部が丸い収納溝6の方が好ましい。
【0043】
図1及び
図8には示していないが、これらの筐体1,1aには、電磁波を発生する電子機器又は電子回路等、あるいは外部の電磁波に影響されたくない電子機器又は電子回路等が収納されている。これら電子機器等は、ケース2,2aの底面に設けられて内部空間Sに配置されていてもよいし、蓋体3の裏面に設けられてケース2,2aの内部空間Sに配置されていてもよい。蓋体3の裏面に電子機器が設けられる構造例としては、電子回路を実装した回路基板を蓋体3とし、電子回路を下に向けてケース2の開口に取り付ける場合が想定できる。
【0044】
また、実施形態の筐体1は、ケース2,2aと蓋体3で構成されていたが、開口部4及び開口部4を囲む端面5の形状が同一である2つのケース2,2または2a,2aを、開口部4,4が対応するように組み合わせて一つの筐体1としてもよい。その場合、2つのケース2,2または2a,2aを、回路基板を挟んで組み合わせてもよい。
【0045】
以上説明した実施形態の筐体1,1aが有するシールド構造は、先に説明した通り電磁波を効果的に遮蔽することができるが、弾性を有するシールド部材7,7L,7S,7Hが収納溝6の内面に密着する構造のため、水分やガスについても十分な密封性を有しており、本発明における「シールド」の語は、電磁波の遮蔽の他、水密性及び気密性との意味も有している。
【符号の説明】
【0046】
1,1a…電子機器用筐体(筐体)
2,2a…第1構造体としてのケース 3…第2構造体としての蓋体
6…収納溝
7,7L,7S,7H…シールド部材
8,8R,8T…凸部
9…凹部