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特許74872645-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又は薬学的に許容される塩及び少なくとも1種の環状オリゴ糖を含む組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又は薬学的に許容される塩及び少なくとも1種の環状オリゴ糖を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/575 20060101AFI20240513BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240513BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240513BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
A61K31/575
A61K9/08
A61K47/40
A61P1/16
A61P3/00
A61P3/06
A61P9/00
A61P9/10
A61P11/00
A61P13/12
A61P17/00
A61P17/06
A61P29/00
A61P31/04
A61P37/08
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022122494
(22)【出願日】2022-08-01
(62)【分割の表示】P 2019505229の分割
【原出願日】2017-08-01
(65)【公開番号】P2022169550
(43)【公開日】2022-11-09
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】62/470,578
(32)【優先日】2017-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/370,024
(32)【優先日】2016-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502066627
【氏名又は名称】ヴァージニア コモンウェルス ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】519160624
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ ガバメント アズ レプリゼンテッド バイ ザ デパートメント オブ ベテランズ アフェアーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】508027589
【氏名又は名称】デュレクト コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レン,シュンリン
(72)【発明者】
【氏名】スー,レユアン
(72)【発明者】
【氏名】ニン,ヤンシア
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジン,コウン
(72)【発明者】
【氏名】リン,ウェイチー
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミー ジーン
(72)【発明者】
【氏名】ミクスズタル,アンドリュー,アール.
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ホンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ミン,エル.
(72)【発明者】
【氏名】タムラズ,ウィルマ
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/100312(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0273761(US,A1)
【文献】特表2015-529646(JP,A)
【文献】特表平09-506091(JP,A)
【文献】Drug Discovery Today,2016年02月,Vol.21, No.2,p.363-368
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/575
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性組成物であって、
5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容される塩を、0.01% (w/w)~20% (w/w)の濃度にて該水性組成物中に含み、並びに
なくとも1種の環状オリゴ糖を0.1% (w/w)~80% (w/w)の濃度にて該水性組成物中に含み、該環状オリゴ糖は、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン、及びスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンのうち少なくとも1種を含み、及び、
少なくとも1種の緩衝剤を含む生理学的に許容される担体を0.1 mM~200 mMの濃度にて該水性組成物中に含む、
前記水性組成物。
【請求項2】
環状オリゴ糖が、(a)ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンまたはスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンからなる、または(b) ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
環状オリゴ糖が、(a)0.1%(重量/重量)~50%(重量/重量)、又は、(b) 2%(重量/重量)~50%(重量/重量)、又は、(c)0.1%(重量/重量)~40%(重量/重量)、又は、(d) 3% (w/w)~40% (w/w)、又は、(e) 4% (w/w)~30% (w/w)の範囲の濃度で組成物中に存在する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
環状オリゴ糖が、1%(重量/重量)~40%(重量/重量)の範囲の濃度で組成物中に存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
25HC3S又はその薬学的に許容される塩が、組成物中に(a) 2% (w/w)~20% (w/w)、又は、(b) 2% (w/w)~10% (w/w)、又は、(c) 0.01% (w/w)~10% (w/w)、又は、(d) 3% (w/w)~10% (w/w)、又は、(e) 0.01% (w/w)~3% (w/w)という量にて存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
25HC3S又はその薬学的に許容される塩が、(a) 25HC3Sの塩、又は(b)25HC3Sのナトリウム塩を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種の緩衝剤が(a) 0.1 mM~50 mM、又は(b) 2 mM~50 mMの濃度にて組成物中に存在する、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1種の緩衝剤が(a)リン酸緩衝剤、又は、(b)リン酸ナトリウムを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
組成物が、(a) 270 mmol/kg~432 mmol/kg、又は、(b) 270 mmol/kg~340 mmol/kgの重量モル浸透圧濃度を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
組成物が、20 mg/mL~40 mg/mLの25HC3S又はその薬学的に許容される塩、及び、200 mg/mL~350 mg/mLのヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(5-cholesten-3, 25-diol, 3-sulfate)(25HC3S)又は薬学的に許容される塩、並びに少なくとも1種の環状オリゴ糖、例えば、少なくとも1種のシクロデキストリン(CD)及び/又はその誘導体を含む組成物に関する。組成物は、多種多様な疾患及び症状、例えば、炎症によって引き起こされるか又は炎症に関連する症状の処置及び/又は予防的処置のために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容される塩は、多種多様な疾患及び症状を予防及び処置することが知られている。例えば、25HC3S又はその薬学的に許容される塩は、炎症の強力なメディエーターであることが知られており、炎症によって引き起こされるか又は炎症によって悪化する疾患を予防及び処置するために問題なく使用されている。これらの疾患には、広範囲の疾病、例えば、心疾患及び器官不全が含まれる。
【0003】
例えば治療効果を最大にすることを目的として、薬物を製剤するための広範囲の方略が知られている。しかし、新規薬物化合物に適用するための最適な方略を非経験的に予測することは簡単でない。
【0004】
25HC3S又はその薬学的に許容される塩の送達を改善するための組成物が必要とされている。特に、高い有効性、低い毒性、保存安定性、高溶解性及び等張性のうち1つ以上、好ましくは複数、最も好ましくは全てを有する組成物が有益であろう。
【発明の概要】
【0005】
本開示はこれらの必要性に取り組み、i) 5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容される塩、並びにii) 少なくとも1種の環状オリゴ糖、例えば、少なくとも1種のシクロデキストリン及び/又はその誘導体を含む組成物を提供する。本開示は、i) 5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容される塩、ii) プロピレングリコール、並びにiii) 少なくとも1種の環状オリゴ糖、例えば、少なくとも1種のシクロデキストリン及び/又はその誘導体を含む組成物も提供する。他の指標の中では、組成物は急性肝不全を予防及び処置するために問題なく使用されてきた。ただし、組成物の使用が急性肝不全(ALF)の処置に限定されるわけではない;本明細書に記載の組成物及び方法により、他の各種疾患及び症状も予防及び/又は処置することができ、例えば高コレステロール/高脂質、各種炎症性疾患及び症状、並びに他の種類の器官不全(例えば腎臓)も予防及び/又は処置することができる。
【0006】
本開示の態様は以下を含む。
態様1
5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容される塩、及び
少なくとも1種の環状オリゴ糖
を含む組成物。
態様2. 環状オリゴ糖が、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体を含む、態様1に記載の組成物。
態様3. シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体が、シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むアルキル置換シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むヒドロキシアルキル置換シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むスルホアルキルエーテル置換シクロデキストリン、及びアルキル基が1~8個の炭素を含むアルキルエーテル置換シクロデキストリンのうち少なくとも1種を含む、態様2に記載の組成物。
態様4. シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体が、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンのうち少なくとも1種を含む、態様2に記載の組成物。 態様5. シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体が、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン又はスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンからなる、態様2に記載の組成物。
態様6. 組成物が、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを含まない、態様1~5のいずれか一項に記載の組成物。
態様7. 環状オリゴ糖が、約0.1%(重量/重量)~約99%(重量/重量)の範囲の濃度で組成物中に存在する、態様1~6のいずれか一項に記載の組成物。
態様8. 環状オリゴ糖が、約0.1%(重量/重量)~約90%(重量/重量)の範囲の濃度で組成物中に存在する、態様1~7のいずれか一項に記載の組成物。
態様9. 環状オリゴ糖が、約1%(重量/重量)~約40%(重量/重量)の範囲の濃度で組成物中に存在する、態様1~8のいずれか一項に記載の組成物。
態様10. 組成物が、少なくとも1種のアルコールをさらに含む、態様1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【0007】
態様11. 少なくとも1種のアルコールが、少なくとも1種のジオールを含む、態様10に記載の組成物。
態様12. 少なくとも1種のジオールが、α-プロピレングリコールを含む、態様11に記載の組成物。
態様13. α-プロピレングリコールが、約10%(体積/体積)~約40%(体積/体積)の範囲の濃度で組成物中に存在する、態様12に記載の組成物。
態様14. α-プロピレングリコールが、約15%(体積/体積)~約25%(体積/体積)の範囲の濃度で組成物中に存在する、態様13に記載の組成物。
態様15. 25HC3S又はその薬学的に許容される塩が、25HC3Sからなる、態様1~14のいずれか一項に記載の組成物。
態様16. 25HC3S又はその薬学的に許容される塩が、25HC3Sの薬学的に許容される塩からなる、態様1~14のいずれか一項に記載の組成物。
態様17. 組成物が、局所又は全身投与用に製剤化されている、態様1~16のいずれか一項に記載の組成物。
態様18. 組成物が、経口、局所、静脈内又は注射可能製剤として製剤化されている、態様1~17のいずれか一項に記載の組成物。
態様19. 組成物が、ローション又はクリームを含む、態様1~18のいずれか一項に記載の組成物。
態様20. 組成物が、制御放出製剤を含む、態様1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【0008】
態様21. 組成物が、懸濁液を含む、態様1~20のいずれか一項に記載の組成物。
態様22. 組成物が、生理学的に許容される担体を含む、態様1~21のいずれか一項に記載の組成物。
態様23. 生理学的に許容される担体が、少なくとも1種の緩衝剤を含む、態様22に記載の組成物。
態様24. 少なくとも1種の緩衝剤が、約1~約200mMの範囲の濃度で組成物中に存在する、態様23に記載の組成物。
態様25. 少なくとも1種の緩衝剤が、約2~約50mMの範囲の濃度で組成物中に存在する、態様23に記載の組成物。
態様26. 少なくとも1種の緩衝剤が、リン酸ナトリウムを含む、態様23~25のいずれか一項に記載の組成物。
態様27. 組成物が、少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤を含む、態様1~26のいずれか一項に記載の組成物。
態様28. 少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤が、少なくとも1種の塩を含む、態様27に記載の組成物。
態様29. 少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤が、少なくとも1種のポリエチレングリコールを含む、態様27又は28のいずれか一項に記載の組成物。
態様30. 少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤が、少なくとも1種のポリソルベートを含む、態様27~29のいずれか一項に記載の組成物。
【0009】
態様31. 少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤が、少なくとも1種の環状オリゴ糖以外の、少なくとも1種の糖を含む、態様27~30のいずれか一項に記載の組成物。
態様32. 少なくとも1種の糖が、ブドウ糖を含む、態様31に記載の組成物。
態様33. 少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤が、少なくとも1種の防腐剤を含む、態様27~32のいずれか一項に記載の組成物。
態様34. 組成物が、約270mmol/kg~約340mmol/kgの範囲の重量モル浸透圧濃度を有する、態様1-33のいずれか一項に記載の組成物。
態様35. 組成物が、約20mg/mL~約40mg/mLの25HC3S及び約200mg/mL~約350mg/mLのヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを含む、態様1~34のいずれか一項に記載の組成物。
さらなる態様は以下の通りである。
態様36.
酸素化コレステロールサルフェート(OCS)、
少なくとも1種の環状オリゴ糖、及び
増粘剤
を含む組成物。
態様37. OCSが、5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容される塩を含む、態様36に記載の組成物。
態様38. OCSが、5-コレステン-3,25-ジオール,ジサルフェート(5-cholesten-3, 25-diol, disulfate)(25HCDS)又はその薬学的に許容される塩を含む、態様36に記載の組成物。
態様39. OCSが、組成物の重量に対して、約0.5重量%~約10重量%の範囲の量で存在する、態様36~38のいずれか一項に記載の組成物。
態様40. 環状オリゴ糖が、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体を含む、態様36~39のいずれか一項に記載の組成物。
【0010】
態様41. シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体が、シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むアルキル置換シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むヒドロキシアルキル置換シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むスルホアルキルエーテル置換シクロデキストリン、及びアルキル基が1~8個の炭素を含むアルキルエーテル置換シクロデキストリンのうち少なくとも1種を含む、態様40に記載の組成物。
態様42. シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体が、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンのうち少なくとも1種を含む、態様40に記載の組成物。
態様43. シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体が、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン又はスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンからなる、態様40に記載の組成物。
態様44. 環状オリゴ糖が、組成物の重量に対して、約5重量%~約50重量%の範囲の量で、組成物中に存在する、態様36~43のいずれか一項に記載の組成物。
態様45. 環状オリゴ糖が、組成物の重量に対して、約7重量%~約20重量%の範囲の量で、組成物中に存在する、態様36~44のいずれか一項に記載の組成物。
態様46. 増粘剤が、界面活性剤を含む、態様36~45のいずれか一項に記載の組成物。 態様47. 増粘剤が、非イオン性界面活性剤を含む、態様36~46のいずれか一項に記載の組成物。
態様48. 増粘剤が、両親媒性界面活性剤を含む、態様36~47のいずれか一項に記載の組成物。
態様49. 増粘剤が、ポリアクリル酸、アリルショ糖(allyl sucrose)により架橋されたポリアクリル酸、アリルペンタエリスリトールにより架橋されたポリアクリル酸、アリルペンタエリスリトールにより架橋されたポリアクリル酸及びC10~C30アクリル酸アルキル、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)、ポロキサマー、セルロース誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、並びにカルボマーから選択される少なくとも1つの構成要素を含む、態様36~48のいずれか一項に記載の組成物。
態様50. 増粘剤が、1500~5000g/molの分子量及び70~90重量%のポリ(エチレングリコール)重量分率を有するポリ(プロピレングリコール)ブロックを有するポロキサマー、例えば、ポロキサマー188及び407を含む、態様36~49のいずれか一項に記載の組成物。
【0011】
態様51. 増粘剤が、1,700~1,900g/molの分子量及び70~90重量%のポリ(エチレングリコール)重量分率を有するポリ(プロピレングリコール)ブロックを有するポロキサマー、好ましくはポロキサマー188を含む、態様36~50のいずれか一項に記載の組成物。
態様52. 増粘剤が、組成物の重量に対して、約0.2重量%~約40重量%の範囲の量で組成物中に存在する、態様36~51のいずれか一項に記載の組成物。
態様53. 増粘剤が、組成物の重量に対して、約0.2重量%~約2重量%の範囲の量で組成物中に存在する、態様36~52のいずれか一項に記載の組成物。
態様54. 増粘剤が、組成物の重量に対して、約10重量%~約40重量%の範囲の量で組成物中に存在する、態様36~52のいずれか一項に記載の組成物。
態様55. 皮膚軟化剤をさらに含む、態様36~54のいずれか一項に記載の組成物。
態様56. ポリソルベート及びソルビタンラウレートから選択される少なくとも1種の皮膚軟化剤をさらに含む、態様36~55のいずれか一項に記載の組成物。
態様57. 皮膚軟化剤が、組成物の重量に対して、約2重量%~約10重量%の範囲の量で組成物中に存在する、態様55又は56に記載の組成物。
態様58. pH調整剤をさらに含む、態様36~57のいずれか一項に記載の組成物。
態様59. トロラミン、クエン酸、リン酸、水酸化ナトリウム、及び一塩基性ナトリウムから選択される少なくとも1つの構成要素を含むpH調整剤をさらに含む、態様36~58のいずれか一項に記載の組成物。
態様60. トロラミンを含むpH調整剤をさらに含む、態様36~59のいずれか一項に記載の組成物。
【0012】
態様61. pH調整剤が、組成物の重量に対して、約0.5重量%~約4重量%の範囲の量で組成物中に存在する、態様58~60のいずれか一項に記載の組成物。
態様62. 防腐剤をさらに含む、態様36~61のいずれか一項に記載の組成物。
態様63. 防腐剤としてパラベンをさらに含む、態様36~62のいずれか一項に記載の組成物。
態様64. 防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、及びブチルパラベンから選択される少なくとも1つの構成要素をさらに含む、態様36~63のいずれか一項に記載の組成物。
態様65. メチルパラベンを含む防腐剤をさらに含む、態様36~64のいずれか一項に記載の組成物。
態様66. 防腐剤が、組成物の重量に対して、約0.1重量%~約1重量%の範囲の量で組成物中に存在する、態様62~65のいずれか一項に記載の組成物。
態様67. 水をさらに含む、態様36~66のいずれか一項に記載の組成物。
態様68. 水が、組成物の重量に対して、約0.5重量%~約90重量%の範囲の量で存在する、態様67に記載の組成物。
態様69. 水が、組成物の重量に対して、約1重量%~約10重量%の範囲の量で存在する、態様67に記載の組成物。
態様70. 水が、組成物の重量に対して、約50重量%~約90重量%の範囲の量で存在する、態様67に記載の組成物。
【0013】
態様71. 組成物が、エマルションである、態様36~70のいずれか一項に記載の組成物。
態様72. 組成物が、マイクロエマルションを含む、態様36~71のいずれか一項に記載の組成物。
態様73. 組成物が、溶液を含む、態様36~72のいずれか一項に記載の組成物。
態様74. 溶液が、ローションである、態様73に記載の組成物。
態様75. 組成物が、クリームである、態様36~72のいずれか一項に記載の組成物。
態様76. 組成物が、懸濁液を含む、態様36~75のいずれか一項に記載の組成物。
態様77. 懸濁液が、OCSを含む粒子を含む、態様76に記載の組成物。
態様78. 粒子が、約1μm~約10μmの範囲の平均粒径を有する、態様77に記載の組成物。
態様79. 組成物が、pH4~8、例えばpH4~7を有する、態様36~78のいずれか一項に記載の組成物。
態様80. 組成物が、pH7~8を有する、態様36~79のいずれか一項に記載の組成物。
【0014】
態様81. 組成物が、pH5~6を有する、態様36~79のいずれか一項に記載の組成物。
さらなる態様として、以下のものが挙げられる。
態様82. それを必要とする対象において、高脂血症又は高脂血症によって引き起こされる疾患又は症状; 少なくとも1つの器官の機能異常又は不全; 脂質代謝障害; 代謝障害; アテローム性動脈硬化症; 虚血により引き起こされた傷害; 望ましくない細胞死; 敗血症; 急性放射線症候群; 肝障害; 脂質蓄積障害; 及び炎症性皮膚疾患又は皮膚病変のうち少なくとも1つを処置する方法であって、態様1~81のいずれか一項に記載の、治療有効量の組成物を対象に投与することを含む方法。
態様83. 腎臓、肝臓、膵臓、心臓、肺及び脳から選択される少なくとも1つの器官の機能異常又は不全を処置することを含む、態様82に記載の方法。
態様84. アセトアミノフェンによって引き起こされた肝臓の機能異常又は不全を処置することを含む、態様82に記載の方法。
態様85. 虚血により引き起こされた傷害を処置することを含む、態様82に記載の方法。
態様86. 虚血/再灌流傷害により引き起こされた虚血により引き起こされた傷害を処置することを含む、態様82に記載の方法。
態様87. 肝障害を処置することを含む、態様82に記載の方法。
態様88. 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である肝障害を処置することを含む、態様82に記載の方法。
態様89. 炎症性皮膚疾患又は皮膚病変を処置することを含む、態様82に記載の方法。
態様90. アトピー性皮膚炎又は乾癬である炎症性皮膚疾患を処置することを含む、態様82に記載の方法。
【0015】
態様91. 投与が、注射により行われる、態様82~90のいずれか一項に記載の方法。
態様92. 投与が、静脈注射により行われる、態様82~91のいずれか一項に記載の方法。
態様93. 投与が、局所的に行われる、態様82~90のいずれか一項に記載の方法。
態様94. 投与が、経口により行われる、態様82~90のいずれか一項に記載の方法。
さらなる追加的態様として、以下のものが挙げられる。
態様95. それを必要とする対象において、本明細書に開示された任意の疾患又は症状を処置する方法であって、態様1~81のいずれか一項に記載の、治療有効量の組成物を対象に投与することを含む方法。
態様96. 医薬として使用するための、態様1~81のいずれか一項に記載の組成物。
態様97. 本明細書に開示された任意の疾患又は症状の処置に使用するための、態様1~81のいずれか一項に記載の組成物。
態様98. 疾患又は症状が、高脂血症又は高脂血症によって引き起こされる疾患又は症状; 少なくとも1つの器官の機能異常又は不全; 脂質代謝障害; 代謝障害; アテローム性動脈硬化症; 虚血により引き起こされた傷害; 望ましくない細胞死; 敗血症; 急性放射線症候群; 肝障害; 脂質蓄積障害; 及び炎症性皮膚疾患又は皮膚病変から選択される、態様97の使用のための組成物。
態様99. 本明細書に開示された任意の疾患又は症状の処置に使用するための医薬の製造における、態様1~81のいずれか一項に記載の組成物の使用。
態様100. 疾患又は症状が、高脂血症又は高脂血症によって引き起こされる疾患又は症状; 少なくとも1つの器官の機能異常又は不全; 脂質代謝障害; 代謝障害; アテローム性動脈硬化症; 虚血により引き起こされた傷害; 望ましくない細胞死; 敗血症; 急性放射線症候群; 肝障害; 脂質蓄積障害; 及び炎症性皮膚疾患又は皮膚病変から選択される、態様99に記載の使用。
【0016】
態様101. 態様1~81のいずれか一項に記載の組成物を対象に注射することを含む方法。
【0017】
本発明の諸態様は、5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容される塩; 及び少なくとも1種の環状オリゴ糖を含む組成物を提供する。いくつかの態様において、環状オリゴ糖は、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体を含む。いくつかの態様において、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むアルキル置換シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むヒドロキシアルキル置換シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むスルホアルキルエーテル置換シクロデキストリン、及びアルキル基が1~8個の炭素を含むアルキルエーテル置換シクロデキストリンのうち少なくとも1種を含む。いくつかの態様において、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体は、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンのうち少なくとも1種を含む。いくつかの態様において、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体は、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン又はスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンからなる。他の態様において、組成物は、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを含まない。さらなる態様において、環状オリゴ糖は、約0.1%(重量/重量)~約90%(重量/重量)の範囲の濃度で組成物中に存在する。さらに別の態様において、環状オリゴ糖は、約1%(重量/重量)~約40%(重量/重量)の範囲の濃度で組成物中に存在する。さらなる態様において、組成物は、少なくとも1種のアルコールをさらに含む。さらなる態様において、少なくとも1種のアルコールは、少なくとも1種のジオールを含む。さらなる態様において、少なくとも1種のジオールは、α-プロピレングリコールを含む。さらなる態様において、α-プロピレングリコールは、約10%(体積/体積)~約40%(体積/体積)の範囲の濃度で組成物中に存在する。さらなる態様において、α-プロピレングリコールは、約15%(体積/体積)~約25%(体積/体積)の範囲の濃度で組成物中に存在する。追加の態様において、25HC3S又はその薬学的に許容される塩は、25HC3Sからなる。追加の態様において、25HC3S又はその薬学的に許容される塩は、25HC3Sの薬学的に許容される塩からなる。いくつかの態様において、組成物は、局所又は全身投与用に製剤化されている。追加の態様において、組成物は、経口、局所、静脈内又は注射可能製剤として製剤化されている。追加の態様において、組成物は、ローション又はクリームを含む。
【0018】
追加の態様において、組成物は、制御放出製剤を含む。追加の態様において、組成物は、懸濁液を含む。さらなる態様において、組成物は、生理学的に許容される担体を含む。さらなる態様において、生理学的に許容される担体は、少なくとも1種の緩衝剤を含む。さらなる態様において、少なくとも1種の緩衝剤は、約1~約200mMの範囲の濃度で組成物中に存在する。さらなる態様において、少なくとも1種の緩衝剤は、約2~約50mMの範囲の濃度で組成物中に存在する。さらなる態様において、少なくとも1種の緩衝剤は、リン酸ナトリウムを含む。さらに別の態様において、組成物は、少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤を含む。さらなる態様において、少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤は、少なくとも1種の塩を含む。さらなる態様において、少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤は、少なくとも1種のポリエチレングリコールを含む。
【0019】
さらなる態様において、少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤は、少なくとも1種のポリソルベートを含む。他の態様において、少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤は、少なくとも1種の環状オリゴ糖以外の、少なくとも1種の糖を含む。他の態様において、少なくとも1種の糖は、ブドウ糖を含む。他の態様において、少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤は、少なくとも1種の防腐剤を含む。他の態様において、組成物は、約270mmol/kg~約340mmol/kgの範囲の重量モル浸透圧濃度を有する。追加の態様において、組成物が、約20mg/mL~約40mg/mLの25HC3S及び約200mg/mL~約350mg/mLのヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを含む。
【0020】
さらなる態様は、それを必要とする対象において、高脂血症又は高脂血症によって引き起こされる疾患又は症状; 少なくとも1つの器官の機能異常又は不全; 脂質代謝障害; 代謝障害; アテローム性動脈硬化症; 虚血により引き起こされた傷害; 望ましくない細胞死; 敗血症; 急性放射線症候群; 肝障害; 脂質蓄積障害; 及び炎症性皮膚疾患又は皮膚病変のうち少なくとも1つを処置する方法であって、本明細書に記載の、治療有効量の組成物を対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、腎臓、肝臓、膵臓、心臓、肺及び脳から選択される少なくとも1つの器官の機能異常又は不全を処置することを含む。他の態様において、方法は、アセトアミノフェンによって引き起こされた肝臓の機能異常又は不全を処置することを含む。さらなる態様において、方法は、虚血により引き起こされた傷害を処置することを含む。さらに別の態様において、方法は、虚血/再灌流傷害により引き起こされた虚血により引き起こされた傷害を処置することを含む。さらに別の態様において、方法は、肝障害を処置することを含む。さらに別の態様において、方法は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である肝障害を処置することを含む。さらに別の態様において、方法は、炎症性皮膚疾患又は皮膚病変を処置することを含む。さらに別の態様において、方法は、アトピー性皮膚炎又は乾癬である炎症性皮膚疾患を処置することを含む。いくつかの態様において、投与は、注射によりを行われる。いくつかの態様において、投与は、静脈注射により行われる。いくつかの態様において、投与は、局所的に行われる。いくつかの態様において、投与は、経口により行われる。
【0021】
追加の態様は、それを必要とする対象において、本明細書に開示された任意の疾患又は症状を処置する方法であって、本明細書に記載の、治療有効量の組成物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0022】
さらなる態様は、医薬として使用するための、本明細書に記載の組成物を提供する。
【0023】
さらに別の態様は、本明細書に開示された任意の疾患又は症状の処置に使用するための、本明細書に記載の組成物を提供する。いくつかの態様において、疾患又は症状は、高脂血症又は高脂血症によって引き起こされる疾患又は症状; 少なくとも1つの器官の機能異常又は不全; 脂質代謝障害; 代謝障害; アテローム性動脈硬化症; 虚血により引き起こされた傷害; 望ましくない細胞死; 敗血症; 急性放射線症候群; 肝障害; 脂質蓄積障害; 及び炎症性皮膚疾患又は皮膚病変から選択される。
【0024】
さらなる態様は、本明細書に開示された任意の疾患又は症状の処置に使用するための医薬の製造における、本明細書に記載の組成物の使用を提供する。いくつかの態様において、疾患又は症状は、高脂血症又は高脂血症によって引き起こされる疾患又は症状; 少なくとも1つの器官の機能異常又は不全; 脂質代謝障害; 代謝障害; アテローム性動脈硬化症; 虚血により引き起こされた傷害; 望ましくない細胞死; 敗血症; 急性放射線症候群; 肝障害; 脂質蓄積障害; 及び炎症性皮膚疾患又は皮膚病変から選択される。
【0025】
さらなる態様として、本明細書に記載の組成物を対象に注射することを含む方法が挙げられる。
【0026】
以下の発明の記載において、言及される複数の非限定的な図面を参照しながら、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】水中のヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HPbCD)及びスルホブチルエーテルβシクロデキストリン(SBECD)濃度(mg/mL)の関数としての、25HC3Sの最大平衡溶解度(mg/mL)のプロットである、溶解度相図を示す。
図2】HPbCD及びSBECD(モル)の関数としての25HC3S(モル)の溶解度を示す。
図3】APAP(600mg/kg)を過剰摂取したマウスの死亡率に対する25HC3Sの効果。
図4】APAP(350mg/kg)を過剰摂取したマウスの肝機能に対する25HC3Sの効果を示す。A、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT); B、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST); C、アルカリホスファターゼ(ALK); 及びD、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)。CNT=対照; PG=ビヒクル投与マウス、PC+3S=25HC3S投与マウス。
図5A-B】25HC3S処置は、APAP過剰摂取マウスにおける肝アポトーシス関連遺伝子のmRNA発現を調節する。A、JC-1 /フローサイトメトリー実験からのデータのクラスターグラム分析; B~D、散布図データ。B、P(ビヒクル)対C(対照); C、25HC3S対C(対照); D、25HC3S対P(ビヒクル); 2倍を超える変化を有する遺伝子が示されている。
図5C-D】25HC3S処置は、APAP過剰摂取マウスにおける肝アポトーシス関連遺伝子のmRNA発現を調節する。A、JC-1 /フローサイトメトリー実験からのデータのクラスターグラム分析; B~D、散布図データ。B、P(ビヒクル)対C(対照); C、25HC3S対C(対照); D、25HC3S対P(ビヒクル); 2倍を超える変化を有する遺伝子が示されている。
図6A】ミトコンドリア膜電位色素(JC-1)による染色及びフローサイトメトリーにより測定した、APAPで処置したHuh7細胞におけるミトコンドリア膜電位に対する25HC3Sの効果を示す。A、APAP濃度の点での結果; B、25HC3S濃度の点での結果。データは、3つの独立した実験についての平均±SDを表し、そして対照(CNT)の百分率として表される。CNT/DMSO: ビヒクルを有する対照群; APAP/DMSO: 10mMのAPAPのみで細胞を処理した。APAP/12.5: 細胞を12.5μMの25HC3Sで2時間前処理し、次に、アッセイ前に10mMのAPAPでインキュベートした。APAP/25: 細胞を25μMの25HC3Sで2時間前処理し、次に、アッセイ前に10mMのAPAPでインキュベートした。APAP/50: 細胞を50μMの25HC3Sで2時間前処理し、次に、アッセイ前に10mMのAPAPでインキュベートした。APAP/100: 細胞を100μMの25HC3Sで2時間前処理し、次に、アッセイ前に10mMのAPAPでインキュベートした。**、P<0.01対APAP/DMSO群。
図6B】ミトコンドリア膜電位色素(JC-1)による染色及びフローサイトメトリーにより測定した、APAPで処置したHuh7細胞におけるミトコンドリア膜電位に対する25HC3Sの効果を示す。A、APAP濃度の点での結果; B、25HC3S濃度の点での結果。データは、3つの独立した実験についての平均±SDを表し、そして対照(CNT)の百分率として表される。CNT/DMSO: ビヒクルを有する対照群; APAP/DMSO: 10mMのAPAPのみで細胞を処理した。APAP/12.5: 細胞を12.5μMの25HC3Sで2時間前処理し、次に、アッセイ前に10mMのAPAPでインキュベートした。APAP/25: 細胞を25μMの25HC3Sで2時間前処理し、次に、アッセイ前に10mMのAPAPでインキュベートした。APAP/50: 細胞を50μMの25HC3Sで2時間前処理し、次に、アッセイ前に10mMのAPAPでインキュベートした。APAP/100: 細胞を100μMの25HC3Sで2時間前処理し、次に、アッセイ前に10mMのAPAPでインキュベートした。**、P<0.01対APAP/DMSO群。
図7】25HC3S溶液、溶液ビヒクル、25HC3S懸濁液、又は懸濁液ビヒクルで処置したマウスの背部皮膚の紅斑(発赤)を示す。
図8A】ELISAアッセイで測定した、乾癬皮膚/病変におけるIL-17A及びTNFαBタンパク質レベルを示す。
図8B】ELISAアッセイで測定した、乾癬皮膚/病変におけるIL-17A及びTNFαBタンパク質レベルを示す。
図9】半致死用量のLPS(5mg/kg)を与えられたマウスの死亡率に対する25HC3Sの効果を示す。
図10】実験1: GI-ARSの齧歯類モデルにおける臨床徴候に対する25HC3Sの効果(p<0.05、スチューデントの独立t検定)。(放射線量: 15.78Gy)。
図11】実験2: GI-ARSの齧歯類モデルにおける25HC3Sの死亡率への影響(放射線量: 15.16Gy)。
図12】CLP手術誘発敗血症を起こしたラットの死亡率に対する25HC3Sの効果(p=0.0975、ログランク/マンテル・コックス検定)。
図13】30、90、150及び300mgの25HC3Sを注射した後の血液試料中の濃度(ng/ml)を示す。
図14】1日目と5日目の血液試料中の25HC3Sの濃度(ng/ml)を示す。
図15】一次崩壊にフィットした、80℃での時間の関数としての、各種緩衝液中の%残留25HC3Sのプロットを示す。
図16】80℃におけるリン酸緩衝剤の重量モル浸透圧濃度の変化を示す。
図17】80℃におけるホウ酸緩衝剤の重量モル浸透圧濃度の変化を示す。
図18】80℃における製剤のpHを示す。
図19】80℃におけるリン酸緩衝剤のpHの変化を示す。
図20】80℃におけるホウ酸緩衝剤のpHの変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容される塩、並びに少なくとも1種の環状オリゴ糖、例えば、シクロデキストリン(CD)及び/又はその誘導体を含む組成物が提供される。25HC3S又はその薬学的に許容される塩、プロピレングリコール(PG)、及び少なくとも1種の環状オリゴ糖、例えば、少なくとも1種のシクロデキストリン(CD)を含む組成物も提供される。組成物は、高脂血症、虚血、敗血症、心疾患、及び器官不全などの多種多様な疾患及び症状を予防及び/又は処置するために使用される。
【0029】
定義
以下の定義は、(本明細書の)全体を通して使用されている。
【0030】
本明細書で使用するとき、「少なくとも1つ」は、1、2、3、4又はそれ以上を意味する。
【0031】
本明細書に記載の組成物は、5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容される塩を含む。25HC3S又はその薬学的に許容される塩の開示は、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,399,441号に見出される。
【0032】
25HC3S又はその薬学的に許容される塩は、典型的に、体内で自然に発生する25HC3Sの合成変種である。25HC3S又はその薬学的に許容される塩は、体内において自然には見られない形態で、自然に発生するものよりも著しく高い濃度で、投与してよい。自然レベルは、典型的に、血液又は血漿中で、例えば約2ng/ml以下から最大約5ng/mlの範囲である。25HC3S又はその薬学的に許容される塩で処置される患者の血液又は血漿中の25HC3S又はその薬学的に許容される塩の濃度は、一般に約5ng/mlより大きく、一般に約50ng/ml~約5000ng/ml、例えば約80ng/ml~約3000ng/mlの範囲であり、例えば約100ng/ml~約2000ng/ml、又は約200~約1000ng/mlの範囲である。
【0033】
一態様では、25HC3Sは、下記式
【0034】
【化1】
のもの及び/又はその薬学的に許容される塩(製薬上許容される塩)である。
【0035】
一態様において、25HC3Sは、下記式
【0036】
【化2】
の5-コレステン-β,25-ジオール,3-サルフェート及び/又はその薬学的に許容される塩である。
【0037】
オリゴ糖は、2個以上の糖分子(モノマー)、例えば、2~200個の糖分子、例えば3~100個の糖分子又は3~10個の糖分子を含有する糖鎖ポリマーである。「環状オリゴ糖」とは、環状のオリゴ糖を指す。典型的に、環状オリゴ糖は、一緒に環を形成する5個以上の糖分子、例えば、5~200個の糖分子、例えば5~100個の糖分子又は5~10個の糖分子を含む。環状オリゴ糖には、環状オリゴ糖の塩が含まれる。
【0038】
「シクロデキストリン」(「CD」)とは、環内に一緒に結合した糖分子を含む一群の合成化合物(環状オリゴ糖)を指す。シクロデキストリンは、外表面にヒドロキシル基を有し中央に空隙を有する環状オリゴ糖である。シクロデキストリンの外表面は親水性であり、したがって、シクロデキストリンは通常、水に可溶であるが、空洞は親油性の性質を有する。
【0039】
最も一般的なシクロデキストリンは、それぞれ6、7及び8個のα-1,4-結合グルコース単位からなる、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンである。これらの単位の数がキャビティのサイズを決定する。シクロデキストリンは、典型的には、アミロースの場合のように、1→4で連結した5個以上のα-D-グルコピラノシド単位を含む。典型的なシクロデキストリンは、環内に6~8個の単位を含み、円錐形を作り出し、6員環である、α(アルファ)-シクロデキストリン、7員環である、β(ベータ)-シクロデキストリン、8員環である、γ(ガンマ)-シクロデキストリンを含む。例えば、100個を超えるα- D-グルコピラノシド単位を含む、はるかに大きなシクロデキストリン環も知られている。医療目的に適したシクロデキストリンは市販されており容易に入手可能である。シクロデキストリンには、シクロデキストリンの塩が含まれる。
【0040】
限定されないが、クロラムフェニコール/メチル-β-CD; β-及びγ-DCの高水溶性ランダムに置換されたヒドロキシアルキル誘導体、例えば、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン及び2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン;スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンなどのスルホアルキルエーテルCD;脂質置換CD;ジメチル-β-CD、ランダムにメチル化されたβ-CDなどを含む、CDの各種誘導体を使用してもよい。いくつかの態様において、シクロデキストリンは、β-シクロデキストリン又はスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンである。
【0041】
一般的なシクロデキストリン誘導体は、ヒドロキシル基のアルキル化(例えば、メチル-及びエチル-β-シクロデキストリン)若しくはヒドロキシアルキル化(例えば、α-、β-及びγ-シクロデキストリンのヒドロキシプロピル-及びヒドロキシエチル-誘導体)によって、又は糖類を有する一級ヒドロキシル基(例えば、グルコシル-及びマルトシル-β-シクロデキストリン)を置換することによって形成される。例えば、シクロデキストリン誘導体としては、アルキル置換、ヒドロキシアルキル置換、スルホアルキルエーテル置換、又はアルキルエーテル置換されたシクロデキストリン、例えばアルキル基が1~約8個の炭素、例えば約2~約5個の炭素を含むものが挙げられる。そのような誘導体において、シクロデキストリンは、完全に又は部分的に、アルキル置換、ヒドロキシアルキル置換、スルホアルキルエーテル置換、又はアルキルエーテル置換される(すなわち、シクロデキストリンの天然ヒドロキシル基の全部又は一部のみがアルキル置換基、ヒドロキシアルキル置換基、スルホアルキルエーテル置換基、又はアルキルエーテル置換基で置き換えられる)。シクロデキストリン誘導体としては、シクロデキストリンエーテルも挙げられる。ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン及びβ-シクロデキストリンへのプロピレンオキシド付加によるヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの調製、並びにヒドロキシエチルβ-シクロデキストリン及びβ-シクロデキストリンへのエチレンオキシド付加によるヒドロキシエチルβ-シクロデキストリンの調製は、20年以上前のGrameraらの特許(1969年8月発行の米国特許第3,459,731号)に記載されている。シクロデキストリンの包括的評価については、Cyclodextrins and their industrial uses, editor Dominique Duchene, Editions Sante, Paris, 1987を参照されたい。最近の概説については、J. Szejtli: Cyclodextrins in drug formulations: Part 1, Pharm. Techn. Int. 3(2), 15~22頁(1991); 及びJ. Szejtli: Cyclodextrins in drug formulations: Part II, Pharm. Techn. Int. 3(3), 16~24頁(1991)を参照されたい。
【0042】
非経口用途について承認されているシクロデキストリンとしては、2種のβ-シクロデキストリン(ヒドロキシプロピルベータデクスとしても知られるヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン「HPbCD」、及びスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン「SBECD」)、α-シクロデキストリン、並びにγ-シクロデキストリンが挙げられる。HPbCD及び他のシクロデキストリンはまた、経口、局所、経皮、舌下、頬側、点眼薬、及び経鼻経路についても承認されている。
【0043】
理論に拘束されることを望むものではないが、得られる複合体の安定性は、ゲスト分子がシクロデキストリンの空洞(cavity)にどれだけ良く適合するかに依存する。シクロデキストリンは、以前は、いくつかの化合物の溶解度、溶解速度及び/又は安定性を高めるために使用されてきた。しかし、シクロデキストリン複合体化が不可能であるか、あるいは有益な特性を付与する能力がない薬物も多くある。他の製剤方略と同様に、シクロデキストリンが特定の薬物に有益な特性を付与する能力を最初から(ab initio)予測することは難しい。
【0044】
「プロピレングリコール」、「α-プロピレングリコール」、「プロパン-1,2-ジオール」又は単に「PG」は、化学式C 3H8O2を有する有機化合物を指す。医療目的に適したプロピレングリコールは市販されており容易に入手可能である。
【0045】
予防及び処置
本明細書中で使用するとき、「予防的に処置する」(「予防的処置」、「予防的に処置すること」など)及び「予防する」(「予防」、「予防すること」など)は、25HC3S又はその薬学的に許容される塩、及び少なくとも1種の環状オリゴ糖、例えば、少なくとも1種のCDを、それを必要とする対象に予防的に投与することにより、疾患又は望ましくない症状(ALF又は本明細書に記載された他の疾患又は症状など)の少なくとも1つの症状の発生を防ぐ又は避けることを指す。一般に、「予防的」又は「予防」は、患者が障害を発現する可能性の低下に関する。典型的に、対象は、当業者によって、少なくとも1種の疾患若しくは望ましくない症状の症候を発現する危険があるか、若しくは発現しやすいと考えられるか、又は少なくとも1種の疾患/症状の症候を発現する可能性が高いと考えられる。ただし、一般に、「予防」又は「予防的処置」については、投与は、対象が疾患の症候(症状、障害、症候群など。特に指示がない限り、これらの用語は本明細書において互換的に用いられる。)を有するか、又は有することが知られるか若しくは確認される前に行われる。換言すれば、症候は、まだ明白ではないか又は観察可能ではない場合がある。対象は、限定されないが、遺伝的素質; 切迫した内科的又は外科的手技(例えば、外科手術、イメージングにおける造影剤の使用、化学療法など); 最近の特定の有毒作用因子、又は疑わしい若しくは避けられない将来的な有毒作用因子への曝露(例えば、有毒化学物質又は薬物治療、放射線などへの曝露); 又は予防している疾患/症状の発現に連鎖若しくは関係している、別のストレッサー又はストレッサーの組み合わせにさらされているか若しくはそれらを経験していることを含む、種々の要因により危険にさらされていると考えられる。例えば、いくつかの態様において、予防されるのは器官機能異常/不全(例えばALF)であり、対象は、器官機能異常/不全、例えば、虚血、敗血症、有害又は不適切なレベルの炎症、有害性の細胞死、壊死などの潜在的前兆の症候を既に示している可能性がある。そのような態様では、対象を処置することにより、前兆的症状の有毒又は有害な効果又は帰結(結果)を予防することができ、例えば、処置により死を予防することができる。疾患又は症状の「予防」又は「予防的処置」は、検知可能な症候の発生を完全に予防することを含み得るか、あるいは、本明細書に記載された医療的介入がなければ発生するであろう疾患の少なくとも1つの症候の程度、重症度又は持続期間を軽減又は減衰させることを含み得る。あるいは、対象は初期段階の症候を経験している場合があり、予防されるのは、より重度の疾患又は末期的疾患への進行である。
【0046】
本明細書で使用する「処置する(治療する)」(「処置」、「処置すること」など)は、25HC3S又はその薬学的に許容される塩及び少なくとも1種の環状オリゴ糖を含む少なくとも1種の組成物を、疾患の少なくとも1つの症候を既に示している対象に、投与することを指す。換言すれば、疾患に関係していることが知られている少なくとも1つのパラメーターが、対象において測定、検知、又は観察されている。例えば、本明細書に記載されているように処置されるいくつかの器官機能異常/不全及び/若しくはその前兆は、ある程度予測可能な因子(例えば、APAP過剰摂取)、又は事故(娯楽活動及び娯楽活動以外での事故)、戦争傷害、診断未確定のアレルギー、若しくはその他の危険因子による外傷などの、予期しない原因によって引き起こされる。疾患の「処置」は、組成物の投与前又は投与時に存在していた疾患の少なくとも1つの症候の軽減又は減衰、又は場合によっては完全な根絶を含む。したがって、例えば、ALFの処置は、ALFに関連する(関係する)傷害を処置することを含む。
【0047】
APAP過剰摂取(過剰投与): 一般に、Rumack-Matthewのノモグラムにおいて、摂取4時間後にAPAPの血清血漿中濃度が140~150マイクログラム/mL(又はミリグラム/L)であることは、APAP過剰摂取処置の必要性を示す。Rumack-Matthewのノモグラムは、摂取直後ではなく摂取の4時間後から開始し、吸収後に完了する可能性が高いと考えられる、対数グラフである。ただし、ノモグラムは、患者が異常な精神状態である(例えば自殺の可能性がある)場合、又は病歴が信頼できない場合、単独では使用されない。むしろ、線の傾きがノモグラムと同じであるかそれより上であるかどうかを確認するために、第2のレベルが描画されプロットされる。例えば、時間(t=0)(患者の入院時)及び時間(t=4時間)においてAPAP血中レベルを測定することにより、正規の半減期を決定することもできる。半減期が4時間を超える場合、肝毒性及び肝不全を予防するために処置がおそらく必要である。ただし、APAPに特に敏感である人もいるため、例えば小児又は高齢者において、根拠があると判断される場合、より低い血漿レベルで処置が行われてもよい。一般に、24時間以内に4000mgを超えるAPAPが摂取されると、過剰摂取が疑われることがある。7000mg以上の摂取は、処置しない場合に重度の過剰摂取を招くおそれがある。過剰摂取の症候としては、腹痛、食欲不振、昏睡、痙攣、下痢、過敏症、黄疸、吐き気、発汗、胃のむかつき、及び嘔吐が挙げられ、これらはそれぞれ、本明細書に記載の組成物の投与によって予防又は処置することができる。
【0048】
組成物
本明細書に記載の組成物は一般に、25HC3S又はその薬学的に許容される塩、少なくとも1種の環状オリゴ糖、例えば、CD、及びいくつかの態様において、PGを含む。いくつかの態様において、25HC3S又はその薬学的に許容される塩は、約0.01~約75%(重量/重量)、例えば、約0.1~約50%(重量/重量)、約1~約25%(重量/重量)、約2~約20%(重量/重量)、又は約3~約10%(重量/重量)の範囲の量で、組成物中に存在する。
【0049】
25HC3S又はその薬学的に許容される塩が、液体、ローション、又はクリーム状組成物(液体溶液、懸濁液、例えば液体懸濁液、ローション、クリームなどを含む。)中に存在する場合、25HC3S又はその薬学的に許容される塩の濃度は一般に、約0.01~約200mg/ml又は約0.1~100mg/ml、一般には約1~約50mg/mlの範囲にあり、例えば、約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50mg/mlである。
【0050】
25HC3S又はその薬学的に許容される塩が、固体又は半固体組成物(例えば、ゲル又はその他の固形化調製物)中に存在する場合、25HC3S又はその薬学的に許容される塩の濃度は一般に、約0.01~約75%(重量/重量)、又は約0.1~約50%(重量/重量)の範囲にあり、一般に、約1~約25%(重量/重量)、例えば、約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50%(重量/重量)である。
【0051】
25HC3S又はその薬学的に許容される塩が、凍結乾燥固体組成物中に存在する場合、25HC3S又はその薬学的に許容される塩の濃度は一般に、約0.01~約75%(重量/重量)、約0.1~約50%(重量/重量)の範囲にあり、一般に、約1~約15%(重量/重量)、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15%(重量/重量)である。
【0052】
いくつかの態様において、少なくとも1種の環状オリゴ糖は、約0.1%(重量/重量)~約99%(重量/重量)、例えば、約0.1~約90%(重量/重量)、約1~約90%(重量/重量)、約1~約80%(重量/重量)、約1~約40%(重量/重量)、約2~約50%(重量/重量)、 約3~約40%(重量/重量)、又は約4~約30%(重量/重量)の範囲の量で、組成物中に存在する。いくつかの態様において、少なくとも1種の環状オリゴ糖は、約1~約65%(重量/体積)、例えば、約1、2、3、4、5、10、20、30又は40%(重量/体積)の範囲で、溶液製品中に存在する。いくつかの態様において、量は25%(重量/体積)である。いくつかの態様において、少なくとも1種の環状オリゴ糖は、約1~約90%(重量/重量)、例えば、約1、5、10、40、50、60、70、80又は90%(重量/重量)の範囲で、(例えば、再形成用の)凍結乾燥固体製品中に存在する。いくつかの態様において、量は89%(重量/重量)である。いくつかの態様において、少なくとも1種の環状オリゴ糖は、約1~約90%(重量/重量)、例えば、約1、5、10、40、50、60、70、80又は90%(重量/重量)の範囲で、投与用個体製品中に存在する。いくつかの態様において、量は89%(重量/重量)である。
【0053】
いくつかの態様において、CDは、約0.1%(重量/重量)~約99%(重量/重量)、例えば、約0.1~約90%(重量/重量)、約1~約90%(重量/重量)、約1~約80%(重量/重量)、約1~約40%(重量/重量)、約2~約50%(重量/重量)、約3~約40%(重量/重量)、又は約4~約30%(重量/重量)の範囲の量で、組成物中に存在する。いくつかの態様において、CDは、約1~約65%(重量/体積)、例えば、約1、2、3、4、5、10、20、30又は40%(重量/体積)の範囲で、溶液製品中に存在する。いくつかの態様において、量は25%(重量/体積)である。いくつかの態様において、CDは、約1~約90%(重量/重量)、例えば、約1、5、10、40、50、60、70、80又は90%(重量/重量)の範囲で、(例えば、再形成用の)凍結乾燥固体製品中に存在する。いくつかの態様において、量は89%(重量/重量)である。いくつかの態様において、CDは、約1~約90%(重量/重量)、例えば、約1、5、10、40、50、60、70、80又は90%(重量/重量)の範囲で、投与用個体製品中に存在する。いくつかの態様において、量は89%(重量/重量)である。
【0054】
いくつかの態様において、PGは、約10~約40%(体積/体積)、例えば、約10、15、20、25、30、35又は40%(体積/体積)の範囲で、組成物中に存在する。いくつかの態様において、量は20%(体積/体積)である。
【0055】
組成物は一般に、薬学的に許容され活性成分に対して適合性があり、適切な賦形剤、エリキシル剤、結合剤などを含む、(一般に「薬学的及び生理学的に許容される担体」と称される)薬学的に許容される製剤で投与される。
【0056】
薬物担体はまた、低い水溶性及び/又は膜透過性を有する多くの薬物の薬物動態学的特性、特に生物学的利用能性を改善するために使用され得る。
【0057】
いくつかの態様において、組成物は、薬学的に許容される緩衝剤、又は、リン酸塩、酢酸塩、アンモニア、ホウ酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、グリシン、乳酸塩、リジン、マレイン酸、コハク酸塩、酒石酸塩又はトロメタミンなどの緩衝剤を含有する。いくつかの態様において、組成物中の緩衝剤濃度は、約0.1~約200mMの範囲であり、いくつかの態様では、約1~約50mMの範囲であり、いくつかの態様では、約5~約15mMの範囲である。
【0058】
いくつかの態様において、組成物は、1種以上の増粘剤を含む。例示的な増粘剤としては、限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、合成ポリマー及び植物ゴム; セルロース誘導体(メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、カルボマー(Carbopol(登録商標)910、Carbopol(登録商標)941などのポリアクリル酸)、セテアリルアルコール、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、タウリン酸アクリロイルジメチル(acryloyldimethyl taurate)コポリマー、各種マルチブロックコポリマー、ポロキサマー(Pluronic(登録商標))、各種カルボン酸ポリマー(例えばアクリル酸塩)、スルホン化ポリマー(例えばタウリン酸ナトリウムポリアクリロイルジメチル(sodium polyacryloyldimethyl taurate))、粘土、二酸化ケイ素、及びコポリマー、疎水変性誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。天然ゴムを含むゴムとしては、アラビアゴム、寒天、アルギン、アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アミロペクチン、アルギン酸カルシウム、カルシウムカラギーナン(calcium carrageenan)、カルニチン、カラギーナン、デキストリン、ゼラチン、ゲランガム、グアーガム、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、ヘクトライト、ヒアルロイン酸(hyaluroinic acid)、含水シリカ、ヒュームドシリカ、ヒドロキシプロピルキトサン、ヒドロキシプロピルグアー、カラヤゴム、ケルプ、ローカストビーンガム、ナットウガム、アルギン酸カリウム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンカリウム、アルギン酸プロピレングリコール、スクレロチウムガム、カルボキシメチルデキストランナトリウム、カラギーナンナトリウム、トラガントガム、キサンタンガム、これらの誘導体及びこれらの混合物が挙げられる。いくつかの態様において、増粘剤は、ポリアクリル酸、アリルショ糖により架橋されたポリアクリル酸(Carbopol(登録商標))、アリルペンタエリスリトールにより架橋されたポリアクリル酸(Carbopol(登録商標))、アリルペンタエリスリトールにより架橋されたポリアクリル酸及びC10~C30アクリル酸アルキル(Carbopol(登録商標))、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)(Lutrol(登録商標)F127) 、又はポロキサマー188 (Pluronic(登録商標)F68)のうち1種以上である。いくつかの態様において、増粘剤は、非イオン性界面活性剤及び/又は両親媒性界面活性剤などの界面活性剤を含む。いくつかの態様において、増粘剤は、ポリアクリル酸、アリルショ糖により架橋されたポリアクリル酸、アリルペンタエリスリトールにより架橋されたポリアクリル酸、アリルペンタエリスリトールにより架橋されたポリアクリル酸及びC10~C30アクリル酸アルキル、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)、ポロキサマー、セルロース誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、並びにカルボマーを含む。増粘剤は、ポロキサマー、例えば、1,700~1,900g/molの分子量及び70~90重量%のポリ(エチレングリコール)重量分率を有するポリ(プロピレングリコール)ブロックを有するポロキサマーを含む。いくつかの態様では、ポロキサマーは、ポロキサマー188である。
【0059】
いくつかの態様において、本明細書に記載の組成物は、例えば、組成物の重量に対して、約0.5~4重量%である、1種以上のpH調整剤を含む。pH調整剤の例としては、限定されないが、アジピン酸、脂肪族アミン中和剤(エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン)、α-ケトグルタル酸、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、1-アミノ-2-プロパノール、重炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アスコルビン酸、安息香酸、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、クエン酸、リン酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、リン酸塩、一塩基性リン酸ナトリウム、炭酸塩、酢酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トロラミンなどが挙げられる。いくつかの態様において、トロラミンはpHを調整するために使用される。
【0060】
いくつかの態様において、本明細書に記載の組成物は、1種以上の皮膚軟化剤を含む。皮膚軟化剤は、水分の損失を防ぎ、皮膚を柔らかくし鎮静させる効果を有し、蝋に似ており、柔軟で、皮膚を滑らかにする増粘剤である。皮膚軟化剤の例は、植物油、鉱物油、シアバター、カカオバター、ワセリン、及び脂肪酸(エミュー、ミンクからのもの、及びラノリンを含む動物油。後者はおそらくヒトの皮膚の油に最も似ている1種の成分である。)のような成分である。トリグリセリド、安息香酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、及びステアリン酸塩などの、専門用語的な印象のある皮膚軟化剤成分は、一般に、質感及び外観が蝋に似ているが、ほとんどの保湿剤に上品な質感及び感触を与える。
【0061】
低pH並びに増大した広がり特性及び滑り特性を有する水性ローション組成物に使用するための例示的な皮膚軟化剤としては、限定されないが、大豆レシチン、C12~C15アルキルベンゾエート、ステアリン酸、ホワイトワックス(white wax)、イエローワックス(yellow wax)、カルナバワックス、セチルエステルワックス、ミクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、グリセリン、ステアリン酸グリセリル、PEG-10ヒマワリ油グリセリド; ヒマワリ油、パーム油、オリーブ油、エミュー油、ババス油、月見草油、パーム核油、綿実油、ホホバ油、メドウフォーム種子油、アーモンド油、キャノーラ油、大豆油、アボカド油、ベニバナ油、ヤシ油、ゴマ油、米ぬか油、及びブドウ種子油のような植物油; 鉱物油; ステアリン酸イソプロピル、イソノナン酸イソステアリル、フマル酸ジエチルヘキシル、リンゴ酸ジイソステアリル、クエン酸トリイソセチル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ジグリコール、パルミチン酸メチル、及びイソステアリン酸メチルヘプチルのようなエステル; ワセリン; 加水ラノリン、ラノリン油、ラノリンアルコール、及びラノリンワックス; セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、イソステアリルアルコール、2-ヘキシルデカノール及びミリスチルアルコールのような長鎖アルコール; 種々の分子量のジメチコン流体及びこれらの混合物; PG-15ステアリルエーテル(Arlatone Eとしても知られる。); シアバター; オリーブバター; ヒマワリバター; ココナッツバター; ホホババター; カカオバター; スクアラン及びスクアレン; イソパラフィン; 種々の分子量のポリエチレングリコール; 種々の分子量のポリプロピレングリコール; 並びにこれらの混合物が挙げられる。いくつかの態様において、皮膚軟化剤は、ポリソルベート(例えば、Tween(登録商標))、及び/又はSpan(登録商標)(例えば、モノラウリン酸ソルビタン、Span(登録商標)20)などのソルビタンエステルである。いくつかの態様において、皮膚軟化剤は、例えば、約2重量%~約10重量%の範囲の量で組成物中に存在する。
【0062】
追加の態様において、本明細書に記載の組成物は、1種以上の保存剤を含む。例示的な防腐剤としては、限定されないが、イミド尿素、酸、例えば、安息香酸、ソルビン酸、ホウ酸など;メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウムなどのエステル; クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールなどのアルコール類; フェノール、クロロクレゾール、o-フェニルフェノール、フェノキシエタノールなどのフェノール類; チオメルサール、ニトロメルソール、硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀などの水銀化合物; 及び塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウムなどの四級アンモニウム化合物、並びにこれらの組み合わせ、例えば、メチルパラベンとプロピルパラベンの組み合わせが挙げられる。
【0063】
25HC3S及び環状オリゴ糖、例えば、CDは、薬学的に許容される塩(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム若しくはリチウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウムなど)又は他の錯体として、製剤中に存在し得る。薬学的に許容される製剤は、錠剤、カプセル、クリーム、ローション、軟膏、ゲル、フォーム、ペースト、エアロゾル化剤形、及び各種注射可能形態(例えば、静脈内投与用形態)などの、固体、半固体、及び液体剤形を調製するために従来的に利用されている、固体、半固体、及び液体材料を含むと理解すべきである。
【0064】
好適な薬学的担体としては、限定されないが、不活性固体希釈剤又は充填剤、滅菌水溶液及び非経口使用のための各種有機溶媒、例えば、ポリエチレングリコール(300及びPEG 400などのPEG)、エタノール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、植物油(ゴマ、大豆、トウモロコシ、ヒマシ、綿実、及びピーナッツ)並びにグリセリンが挙げられる。固体担体(希釈剤、賦形剤)の例としては、ラクトース、デンプン、従来的崩壊剤、被覆剤、ラクトース、白土、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸及びセルロースの低級アルキルエーテルが挙げられる。液体担体の例としては、限定されないが、各種水性又は油性ビヒクル、食塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノール、イソプロパノール、リン酸緩衝液、シロップ、ピーナッツ油、オリーブ油、リン脂質、脂肪酸、脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン、ミリスチン酸イソプロピル、エチルココエート、オクチルココエート、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、パラフィン、流動パラフィン、プロピレングリコール、セルロース、パラベン、ステアリルアルコール、ポリエチレングリコール、ミリスチン酸イソプロピル、フェノキシエタノールなど、又はこれらの組み合わせが挙げられる。水は、組成物を等張にするための従来的緩衝液及び薬剤も含み得る組成物を調製するための担体として使用され得る。経口剤形としては、各種増粘剤、香味料、希釈剤、乳化剤、分散助剤、結合剤、被覆剤などを挙げることができる。本開示の組成物は、意図された投与経路に適した形態で組成物を供給するように任意の追加成分を含有してよい。加えて、組成物は、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝液などの、少量の補助物質を含有してよい。同様に、担体又は希釈剤は、モノステアリン酸グリセロール又はジステアリン酸グリセロールなどの、当技術分野で公知の任意の徐放性材料を、単独で又はワックスと混合して、含むことができる。他の潜在的な添加剤及び他の材料(好ましくは、一般に安全と認められる[GRAS]材料)としては、着色剤; 香味料; 界面活性剤(例えば、ポリソルベート(TWEEN(登録商標)20、40、60、及び80ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなど)を含む非イオン性界面活性剤)、ソルビタンエステル(Span 20、40、60、及び85など)、並びにポロキサマー(Pluronic(登録商標)L44、Pluronic(登録商標)F68、Pluronic(登録商標) F87、Pluronic(登録商標)F108及びPluronic(登録商標)F127など); レシチンなどの両性イオン界面活性剤; ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び硫酸化ヒマシ油などのアニオン性界面活性剤; 並びに塩化ベンザルコニウム及びセトリミドなどのカチオン性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、ポリオキシル35ヒマシ油(Cremophor(登録商標)EL)、ポリオキシル40硬化ヒマシ油(Cremophor(登録商標)RH 40)、ポリオキシル60硬化ヒマシ油(Cremophor(登録商標)RH 60)、D-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート(TPGS)、12-ヒドロキシステアリン酸のポリオキシエチレンエステル(Solutol(登録商標)HS-15)、PEG 300カプリル酸/カプリン酸グリセリド(Softigen(登録商標)767)、PEG 400カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド(Labrafil(登録商標)M-1944CS)、PEG 300リノール酸グリセリド(Labrafil(登録商標)M-2125CS)、ポリオキシル8ステアレート(PEG400モノステアレート)、ポリオキシル40ステアレート(PEG1750モノステアレート)、ハッカ油、オレイン酸など; 並びに溶媒、安定化剤、結合剤又は封入剤(ラクトース、リポソームなど)が挙げられる。 防腐剤、例えば、ベンジルアルコール、フェノール、クロロブタノール、2-エトキシエタノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、クロルヘキシジン、3-クレゾール、チメロサール、フェニル第2水銀塩(phenylmercurate salt)、安息香酸ナトリウム、臭化セトリモニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、セチルアルコール、ステリルアルコール、クロロアセトアミド(chloroactamide)、トリクロロカルバン、ブロノポール、4-クロロクレゾール、4-クロロキシレノール、ヘキサクロロフェレン、ジクロロフェン、又は塩化ベンザルキウムも使用することができる。製剤に応じて、活性成分(例えば、25HC3S又はその薬学的に許容される塩)はそれぞれ組成物の約1~約99%(重量/重量)で存在し、「担体」ビヒクルは組成物の約1~約99%(重量/重量)を構成すると予想される。本開示の薬学的組成物は、それらが組成物の治療効果を妨げない又は妨害しない限りにおいて、任意の好適な薬学的に許容される添加剤又は補助剤を含んでよい。本開示の使用のためのさらに他の好適な製剤は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences 22nd edition, Allen, Loyd V., Jr editor (Sept 2012); 及びAkers, Michael J. Sterile Drug Products: Formulation, Packaging, Manufacturing and Quality; publisher Informa Healthcare (2010)に見出すことができる。
【0065】
組成物は一般に、生理学的に適合性のあるpHを有し、例えば、約4~約8.5の範囲、例えば、約4、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0又は8.5のpHを有する。内部投与又は全身投与の場合、pHは一般に約6~約8の範囲にあり、約7.4~約8の範囲にあってよく、例えば、約7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9又は8.0であってよい。局所投与の場合、pHは、皮膚のpHに近い値(5.5)に対して、より低くてもよく、例えば、約4~7、又は約5~約6の範囲にあってよく、例えば、5.1 、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9又は6.0であってよい。
【0066】
加えて、ALFの処置に使用される製剤としては、例えばアセトアミノフェン毒性を沈静化するために使用される、追加の好適な同時製剤化(若しくは任意選択により同時投与)薬剤も挙げられ、限定されないが、メチオニン及び/若しくはグルタチオン生合成経路の代謝産物、例えば、S-アデノシルホモシステイン(SAH)、S-メチルメチオニン(SMM)、シスチン、ベタインなど、又はそれらの各種形態及び/若しくは塩、例えば、アセチルシステイン(例えば、静脈内N-アセチルシステイン)、並びに各種栄養補助食品、活性炭などが挙げられる。
【0067】
一般に、組成物は、約200~約2000mmol/kg、例えば約270~約340mmol/kgの重量モル浸透圧濃度、例えば、約270、280、290、300、310、320、330又は340mmol/kgの重量モル浸透圧濃度を有し、その結果、組成物(例えば、溶液)は血液と等張(等浸透圧)になり、それにより注射時の疼痛が軽減され、等張剤を添加する必要がなくなる。いくつかの態様において、組成物は、生理学的に許容できる担体、例えば、水中の10mMリン酸ナトリウム緩衝剤中に、約30mg/mLの25HC3S又はその薬学的に許容される塩及び約250mg/mLのHPbCDを含み、等張性は約320mmol/kgである。一般に、HPbCDの濃度が250mg/mLより高く、25HC3S又はその薬学的に許容される塩の濃度が30mg/mLより高い場合、皮下注射及び筋肉内注射の際に疼痛を引き起こし得る、高張溶液がもたらされる。ただし、より高い濃度の薬物及びHPbCDを調製し、IV注入用に滅菌水で希釈することができる。逆に、HPbCDの濃度が約250mg/mL未満であり、25HC3S又はその薬学的に許容される塩の濃度が約30mg/mL未満である場合、非経口剤形での予想範囲に等張性をもたらすために、塩化ナトリウム又はマンニトールなどの等張剤を添加することが有益であり得る。例示的な組成物の製造は、以下の実施例1及び2に記載されている。
【0068】
組成物は、典型的に、液体溶液、懸濁液、エマルションなど又は注射及び/若しくは静脈内投与に適した液体; 各種制御放出製剤; 又はクリーム若しくはローション; などとして投与される。投与に適した固体形態、又は投与前の液体中の溶液若しくは懸濁液も包含される。
【0069】
制御放出は、時間又は刺激に応じた化合物の供給又は送達を指し、一般に経口投薬製剤における時間依存放出を指す。制御放出は、持続性放出( 長期放出が意図されている場合)、パルス放出(破裂した薬物が異なる時間に放出されるもの)、遅延放出(例えば胃腸管の異なる領域を標的とするもの)などの、複数の変種を有する。制御放出製剤は、摂取又は注射後の薬物濃度の潜在的に有害なピークを回避し、治療有効性を最大にするために、薬物作用を延長し、所望の治療可能時間域内に薬物レベルを維持することができる。丸薬、カプセル及び注射可能薬物担体(追加の放出機能を有することが多い。)に加えて、放出制御医薬品の形態として、ゲル、インプラント、デバイス及び経皮パッチが挙げられる。
【0070】
いくつかの態様において、例えば、急性ALFの処置の場合、組成物は、静脈内(IV)投与用に製剤化されている。この場合、投与される容量は一般に、他の投与方式が用いられるときよりも大きく、例えば約50~1000mlである。いくつかの態様において、IV注入投与用の製剤は、より少量の環状オリゴ糖、例えばCDを含有し、例えば約0.25~約25%(重量/体積)、例えば0.2、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3、3.0.5、4.0、4.5、5、10、15、20、25%(重量/体積)含有する。そのような製剤において、25HC3S又はその薬学的に許容される塩及びPGの量は、依然として、本明細書の他の箇所に記載されている範囲内にある。
【0071】
対照的に、筋肉内又は腹腔内注射に使用される組成物の場合、用量を送達するために使用される液体の量は、典型的にはるかに少なく、最大約0.5~約10mlである。そのような製剤では、環状オリゴ糖、例えばCDの量はより多くてよく、例えば、約2~約40%(重量/体積)、例えば、約2、5、10、15、20、25、30、35又は40%(重量/体積)であってよい。
【0072】
予防及び/又は処置される例示的疾患/症状
器官機能異常及び不全
いくつかの態様において、器官又は器官系不全を予防及び/又は処置する方法が提供される。方法は、目的の器官(例えば肝臓)を、本明細書に記載の組成物と接触させることを含む。目的の器官が患者の体内にある場合(in vivo)、接触は一般に、患者における1種以上の器官又は器官系の機能異常及び/又は不全を予防及び/又は処置するのに有効又は十分である量、例えば、患者が示している器官機能異常又は不全の少なくとも1つの症候を予防又は処置するために治療上有効である量の組成物を、患者に投与することを含む。
【0073】
器官機能異常及び不全につながるか、それらを引き起こすか、それらによって引き起こされるか、又はそれらに関連する症状を予防及び/又は処置する方法、例えば、炎症、細胞死(例えば壊死)、虚血の結果、敗血症、及びその他のものの予防及び/又は処置もまた記載されている。方法は、症状を予防及び/又は処置するのに有効又は十分である量の組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0074】
本明細書で使用するとき、「器官(臓器)」とは、生体の体内で何らかの特殊な機能を果たす細胞及び組織を含む、分化した且つ/又は相対的に独立した身体構造を指す。「器官系(臓器系)」とは、身体機能の実行において一緒に働く2つ以上の器官を指す。中空器官は、中空管若しくは嚢を形成するか、又は空洞を含む内臓器官(内臓)である。本開示の組成物の投与又はそれとの接触によってその機能異常又は不全が予防及び/又は処置される例示的な器官としては、限定されないが、心臓、肺(例えば、肺線維症によって損傷した肺、例えば慢性喘息に関連した肺)、肝臓、膵臓、腎臓、脳、腸、結腸、甲状腺などが挙げられる。いくつかの場合において、1種以上の25HC3S又はその薬学的に許容される塩の投与によって予防及び/又は処置される機能異常又は不全は、肝臓以外の器官、例えば、心臓、肺、膵臓、腎臓、脳、腸、結腸などに関連する。一般に、「器官」を指す本明細書に記載の方法及び組成物はまた、他に指示がない限り、「器官系」を含むと理解されるべきである。
【0075】
「器官機能異常」は、器官がその期待される機能を果たさない症状又は健康状態を意味する。器官機能は、生理学的範囲内でそれぞれの器官の期待される機能を呈する。当業者は、診察中に器官のそれぞれの機能を認識する。器官機能異常は、典型的に、任意選択で解剖学的傷害の非存在下で、器官における進行性で潜在的に可逆的な生理学的機能異常の発現を伴う臨床的症候群を含む。
【0076】
「器官不全」は、通常の恒常性が外部の臨床的介入なしには維持できない程度の器官機能異常を意味する。
【0077】
「急性器官機能異常」とは、通常、既往症のない人において、急速に、すなわち、数日又は数週間内(例えば、26週以内、13週以内、10週以内、5週以内、4週以内、3週以内、2週以内、1週以内、5日以内、4日以内、3日以内、又は2日以内)に、発生する器官機能の低下を指す。
【0078】
「急性器官不全」とは、通常、既往症のない人において、急速に、すなわち、数日又は数週間内(例えば、26週以内、13週以内、10週以内、5週以内、4週以内、3週以内、2週以内、1週以内、5日以内、4日以内、3日以内、又は2日以内)に、発生する器官機能の喪失を指す。例えば、「急性腎不全」という用語は、体内での老廃物の蓄積をもたらすのに十分な腎機能の急速な悪化を意味する。急性肝不全は、以下で詳細に論じられている。
【0079】
本明細書で使用するとき、「虚血」とは、器官への血流の減少を指す。
【0080】
用語「敗血症(sepsis)」及び「菌血症(septicemia)」とは、微生物及びそれらに関連する内毒素が血流に侵入することから生じる病的症状を指す。
【0081】
「内毒素」とは、グラム陰性菌細胞壁由来のリポ多糖類、グラム陽性菌由来のペプチドグリカン、及び真菌細胞壁由来のマンナンなどの、微生物細胞のあらゆる有害構成成分を指す。
【0082】
当業者は、1種以上の器官機能異常、器官不全、及び/又は器官機能異常若しくは不全の前兆である又はそれらと関連する1種以上の症状が、共存症であり得る、すなわち、対象又は個体に同時に存在し得ることを理解するであろう。例えば、対象は、器官不全をもたらす活発な敗血症を有することがある。したがって、敗血症を処置することは同時に器官不全の発生を予防することができ、又は虚血を処置することにより、本組成物の投与がなかったなら器官不全につながるであろう虚血事象の後に起こる炎症を予防若しくは処置することができるという点で、予防及び/若しくは処置が重複することがある。
【0083】
したがって、いくつかの態様において、本開示は、組成物を提供し、本明細書に記載の治療有効量の組成物を投与することによる、それを必要とする対象における1種以上の器官又は器官系の機能異常及び/又は不全の予防及び/又は処置方法を提供する。いくつかの態様において、器官及び/又は器官系の機能異常及び/又は不全は、急性のものであり、例えば急性肝不全である。
【0084】
方法は、治療上有効又は十分な量の、本明細書に記載の少なくとも1種の組成物対象に投与することを含み得る。その量は、処置される器官の機能異常を予防及び/若しくは処置するために、又は処置される器官の不全を予防及び/若しくは処置するために十分なものである。いくつかの態様において、処置される器官不全は多器官機能異常症候群(MODS)である。方法は一般に、そのような処置を必要とする対象を特定又は診断することを含み、例えば、器官機能異常若しくは不全の影響を受けやすいか、又は器官機能異常若しくは不全の少なくとも1種の徴候若しくは症候をすでに示していることなどのため、そのような処置から利益を得るであろう対象を特定又は診断することを含む。例えば、対象は、特定の患者群の成員であってよく、例えば、急性発作(細菌感染、重度の火傷、外傷などに起因する急性器官傷害)に起因する疾患、又は慢性的症状(器官損傷を引き起こす薬物治療への長期間の曝露)、及び/又は以下でより詳細に論じる他の原因による疾患を有する患者であってよい。
【0085】
本開示によって対処される患者群はまた、以下のように定義することもできる。SOFAシステムは、1994年に欧州集中治療医学会議の合意会議で作成され、1996年にさらに改訂された。SOFAは、毎日多器官不全を測定する6器官機能異常/不全スコアである。各器官は0(正常)~4(最も異常な)に格付けされ、0~24点の毎日のスコアを得る。SOFAの目的は、臨床スタッフのために単純で信頼性が高く継続的なスコアを作成することである。集中治療室(ICU)入室又は入院の最初の数日間の器官機能異常の逐次評価は、予後の良い指標である。平均及び最高のSOFAスコアの両方は、転帰についての特に有用な予測因子である。
【0086】
一態様において、本開示に従う患者群は、下限閾値として少なくとも1つのSOFAスコアを有し、SOFAスコアは、入院日又は集中治療室(ICU)への入室日において、呼吸、肝臓、凝固、心血管系、CNS、又は腎臓の臨床基準のうちの少なくとも1つについて1である。ただし、患者は、臨床基準のうち少なくとも1つについて、1若しくは2、又はそれ超(例えば、3又は4)のスコアを有し得る。したがって、前記患者群は、本開示に従う治療的介入を必要としており、したがって、器官機能異常又は器官不全、例えば、腎臓、肝臓、心臓及び/又は肺の機能異常又は器官不全の予防又は低減を必要としている。
【0087】
初期スコアとは無関係に、一般に、ICU又は病院における最初の48時間の間のSOFAスコアの増加から、少なくとも50%の死亡率が予測される。したがって、別の態様において、本開示に従う器官機能異常/不全に対する治療的介入を必要とする患者群は、入院又はICU入室後の最初の48時間以内に少なくとも1つのSOFAスコアが増加することを特徴とする。いくつかの態様において、不全が生じる器官(複数可)又は器官系は、心血管系、呼吸器系、腎臓、血液系、神経系、消化器系、肝臓系、心臓、肝臓、肺、腸、結腸、腎臓、脾臓、及び脳のうちの少なくとも1つの部分を含む。
【0088】
本開示は、根底をなす又はそれと合併している疾患、例えばそれぞれの器官にある感染、癌、又は腫瘍を治癒/回復させる治療を提供しうるが必ずしも提供するものではなく、むしろ、生理的機能に向けてそれぞれの器官を蘇生するためのものであることを意味する。したがって、本開示の範囲内での患者の慢性若しくは急性疾患又は急性症状の治療は、例えば急性事象としての、あらゆる種類の器官機能不全、又は器官機能低下を含む。
【0089】
腎機能異常及び/又は不全
腎臓疾患は、以下に論じる、急性若しくは慢性腎不全、又はさらには慢性腎不全の急性増悪であり得る。
【0090】
急性腎傷害(AKI、以前は急性腎不全(ARF)と呼ばれていた)とは、例えば約7日以内に発現する、腎臓機能の突然の喪失を指す。AKIは一般に、何らかの原因、例えば、低血圧、腎臓に有害な物質への曝露、腎臓の炎症過程、又は尿の流れを妨げる尿路閉塞による腎血流の減少(腎虚血)によって引き起こされる、腎組織への損傷のために起こる。急性腎傷害の原因としては、腎臓が長期間にわたって正常な血流を奪われる、事故、傷害、又は手術による合併症が挙げられる。心臓バイパス手術はそのような手技の一例である。偶発的な薬物過剰投与又は抗生物質若しくは化学療法などの薬物の化学的過負荷による薬物過剰投与も、急性腎傷害の発症を引き起こし得る。AKIは、血液尿素窒素(BUN)及びクレアチニンの上昇、又は腎臓が十分な量の尿(例えば、成人では1日当たり400mL未満、小児では0.5mL/kg/時未満、又は幼児では1mL/kg/時未満)を産生できないことなどの、特徴的臨床検査結果に基づいて診断される。したがって、本方法は、対象におけるこれらのパラメーターのうち1つ以上を測定又は検知し、測定パラメーターのうち1つ以上が陽性であり、したがって、約7日以内に発現する腎機能不全の存在を示している場合、急性腎傷害を診断し、本明細書に記載の通り、本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含み得る。
【0091】
慢性腎臓疾患(CKD)は通常ゆっくりと発現し、初期には患者は症候をほとんど示さない場合がある。CKDは、不可逆的急性疾患の長期的な結果又は疾患進行の一部であり得る。CKDは、真性糖尿病、長期の非管理高血圧、多嚢胞性腎臓疾患、ハンタウイルスなどの感染症、及び特定の遺伝的素因、例えば、APOL1遺伝子変異体を含む、多数の原因を有する。本方法は、CKDを有する対象に、本明細書に記載の組成物を投与することを含む。
【0092】
いくつかの場合において、腎臓機能異常/不全の患者群を指示する臨床基準は以下の通りである。
腎臓機能異常/不全の危険がある患者:GFR減少>25%、6時間で血清クレアチニン1.5倍増加、又は尿産生量<0.5ml/kg/時
現在、腎傷害を有する患者:GFR減少>50%、12時間でクレアチニン倍増又は尿産生量<0.5ml/kg/時
腎不全を有する患者:GFR減少>75%、24時間でクレアチニン3倍増若しくはクレアチニン>355μmol/l(>44の上昇)(>4mg/dl)又は尿排出量0.3ml/kg/hr未満
腎機能喪失患者:持続性急性腎傷害(AKI)又は4週間超にわたる腎機能の完全喪失
末期腎疾患:3カ月超にわたる腎機能の完全喪失。
【0093】
各種イメージングに使用される造影及び増強染料、特にヨウ素含有染料も、特に高齢者、糖尿病患者、すでに何らかの形態の腎臓機能障害を有する人々などの、罹患しやすい集団において、腎臓損傷を引き起こすことが知られている。造影剤誘発腎症は、例えばX線又はコンピュータ断層撮影(CT)スキャンのための染料投与後における、血清クレアチニンの25%超の増加、又は0.5mg/dLの血清クレアチニンの絶対増加のいずれかとして定義される。ヨウ素含有染料としては、限定されないが、イオヘキソール、イオジキサノール及びイオベルソール、並びに他のイオン性ヨウ素染料、例えば、ジアトリゾエート(Hypaque 50)、メトリゾエート(Isopaque 370)、及びイオキサグレート(Hexabrix);並びに非イオン性造影剤、例えば、イオパミドール(Isovue (登録商標)370)、イオヘキソール(Omnipaque 350)、イオキシラン(Oxilan(登録商標) 350)、イオプロミド(Ultravist(登録商標) 370)、及びイオジキサノール(Visipaque 320)が挙げられる。本明細書に記載の組成物は、例えば、染料への曝露にもかかわらず腎臓値を正常レベルに維持するために、又は染料投与後にこれらの値を安全で正常な範囲に戻すことを促進するか若しくは速めるために、染料の投与前、染料と同時に、及び/又は染料投与後に投与した場合に、そのような染料の影響を防止又は軽減することができる。
【0094】
肝機能異常及び/又は不全
本開示の例示的な態様は、急性肝不全、特に壊死によって引き起こされる急性肝不全の処置を含む。急性肝不全は、肝細胞機能異常、特に既知の以前の肝疾患のない患者における凝固障害及び精神状態の変化(脳症)の急速な発現を伴う。この疾病は、その一般的な特徴(thread)が肝細胞の重度傷害及び/又は大量壊死、例えば、肝細胞の80~90%の機能喪失である、多くの症状を包含する。肝細胞機能の喪失は、(黄疸などの)肝疾患の最初の徴候の直後に重度の合併症が急速に出現することを特徴とする、多器官反応を引き起こす。合併症としては、例えば血清アルブミンのレベル及び血中のプロトロンビン時間によって測定される、肝性脳症及びタンパク質合成障害が挙げられる。これまで、急性肝不全に対する処置の選択肢は限られており、肝臓が元の損傷から回復し始めた後でも、しばしば突然死が起こることがある。
【0095】
急性肝不全の診断(すなわち、急性肝不全を経験しており、本方法の実施から利益を得ることができる対象の特定)は、一般に、例えば、精神状態の変化、凝固障害、発症の迅速性、及び既知の以前の肝疾患がないことを証明するための、健康診断、臨床検査結果、患者の病歴、及び過去の病歴に基づく。「急速」の正確な定義は、用いられる特定の慣習によって異なる。最初の肝症候の発症から脳症の発症までの時間に基づく、様々な細分化が存在する。あるスキームは、「急性肝不全」を、何らかの肝臓症候の発症から26週以内の脳症の発現として定義する。「急性肝不全」は、8週以内に脳症の発症を必要とする「劇症肝不全」と、8週間後だが26週間より前の脳症の発症を記述する「亜劇症」に細分化される。別のスキームは、「超急性」肝不全を、7日以内の発症として定義し、「急性」肝不全を、7~28日での発症として定義し、及び「亜急性」肝不全を、28日~24週での発症として定義する。これらの基準のいずれかによって急性肝不全を経験していると特定された対象は、本明細書に記載の方法によって処置することができる。
【0096】
いくつかの場合において、肝機能異常/不全の患者群は、>1.2mg/dL、例えば、>1.9mg/dL、又は>5.9mg/dLという、ビリルビンのより低い閾値を特徴とする。急性肝不全は、多くの潜在的な原因を有し、何らかの理由で急性肝不全を経験していると特定された対象は、本明細書に記載の方法によって処置され得る。考えられる原因としては以下のものが挙げられる。
【0097】
アセトアミノフェン(APAP)。米国における急性肝不全の最も一般的な原因はアセトアミノフェン(パラセタモール、Tylenol(登録商標)、等)を服用しすぎること(過剰摂取)である。非常に大量の単回用量のAPAPを一度に服用すると急性肝不全が発生することがあり、又は推奨値より高い用量を数日間にわたり毎日服用すると急性肝不全が発生することがある。慢性肝疾患の人々は、高齢者、非常に若年の者などと同様に、特に罹患しやすい。そのような対象において、APAP「過剰投与」は、慢性肝疾患を有さない人又は高齢者若しくは非常に若年の者ではない人にとっては、安全な又は通常の用量である場合がある。本開示のこの態様は、以下で詳細に論じられている。
【0098】
処方箋による薬物治療。抗生物質、非ステロイド系抗炎症薬、及び抗痙攣剤を含むいくつかの処方箋による薬物治療は、急性肝不全を引き起こすおそれがある。ハーブサプリメント。カバ、エフェドラ、スカルキャップ、及びペニーロイヤルを含む、生薬及びハーブサプリメントは、急性肝不全に関連している。
【0099】
肝炎及び他のウイルス。A型肝炎、B型肝炎及びE型肝炎は急性肝不全を引き起こすおそれがある。急性肝不全を引き起こす可能性がある他のウイルスとしては、エプスタインバールウイルス、サイトメガロウイルス及び単純ヘルペスウイルスが挙げられる。
【0100】
毒素。急性肝不全を引き起こすおそれがある毒素としては、食用種に間違われることがある野生の毒キノコ、タマゴテングタケ(Amanita phalloides)が挙げられる。
【0101】
自己免疫疾患。肝不全は、免疫系が肝細胞を攻撃して炎症及び傷害を引き起こす疾患である自己免疫性肝炎によって引き起こされる場合がある。
【0102】
肝臓内静脈の疾患。バッド・キアリ症候群などの血管疾患は、肝臓の静脈に閉塞を引き起こし、急性肝不全を引き起こすおそれがある。
【0103】
代謝性疾患。ウィルソン病及び妊娠中の急性脂肪肝などの、稀な代謝性疾患は、急性肝不全を引き起こすおそれがある。
【0104】
癌。肝臓に発生する癌、又は体内の他の場所から肝臓に拡がった癌は、急性肝不全を引き起こすおそれがある。
【0105】
その他。他の原因としては、薬物治療(例えばテトラサイクリン、トログリタゾン)に対する特異体質性反応、過剰なアルコール摂取(重度のアルコール性肝炎)、ライ症候群(ウイルス感染による小児の急性肝不全、例えば、アスピリンが特定の役割を果たすことがある水痘)、及びその他のものなどが挙げられる。急性肝不全の多くの症例は明らかな原因がない。
【0106】
加えて、末期的ALFの発現の前に、本開示の方法及び組成物によって、肝臓毒性の各種症候を予防及び/又は処置することができる。例示的な症候としては、限定されないが、脳浮腫及び脳症(これらは肝性脳症、昏睡、脳ヘルニアなどを引き起こし得る);凝固障害(例えば、プロトロンビン時間の長期化、血小板機能異常、血小板減少症、脳内出血など);腎不全(例えば、急性尿細管壊死をもたらすAPAP過剰投与などの元々の発作によるか、又は肝腎症候群若しくは機能的腎不全をもたらす収縮過多性循環に起因する);炎症及び感染症(例えば、感染の有無にかかわらず、敗血症及び多器官不全を引き起こし得る、全身性炎症症候群);低ナトリウム血症、低血糖症、低カリウム血症、低リン酸血症、代謝性アルカローシス、及び乳酸アシドーシス(主にアセトアミノフェン過剰投与で起こる)などの各種代謝障害;血行動態及び心臓呼吸性障害(例えば、低血圧、組織内酸素摂取量の減少、組織低酸素症及び乳酸アシドーシス);肺合併症(例えば、敗血症、肺出血、胸水、無気肺、及び肺内シャントなどを伴うか又は伴わない、急性呼吸窮迫症候群(ARDS));ALFの初期の臨床的発現として、活力減退、食欲減退、濃い琥珀色の尿、深部の黄疸、吐き気、嘔吐、及び腹部膨満などが挙げられる、妊娠後期の合併症が挙げられる。これらの症候又は症状のうち1つ以上を示す対象は、少なくとも1種の25HC3S又はその薬学的に許容される塩の投与から利益を得ることができる。
【0107】
APAP毒性による急性肝不全
いくつかの態様において、本開示は、APAP関連の毒性及びそれに関連する症候又はその特徴、特に上述の肝傷害又はALFを予防及び/又は処置するための、方法及び組成物を提供する。APAP毒性は世界中で中毒の最も一般的な原因の1つであり、そしてアメリカ合衆国及び英国では急性肝不全の最も一般的な原因である。APAP毒性を有する多くの個体は、過剰投与後の最初の24時間以内に全く症候を示さないことがある。他の人は当初、あいまいな腹痛や吐き気などの非特異的な病訴を有する場合がある。進行性疾患では、通常、肝不全の徴候が発現する。肝不全の徴候としては、低血糖、低血中pH、出血しやすいこと、及び肝性脳症が挙げられる。肝臓への損傷、又は肝毒性は、APAP自体からではなく、その代謝産物の1種であるN-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)(N-アセチルイミドキノンとしても知られている)からもたらされる。NAPQIは、肝臓の天然の抗酸化物質であるグルタチオンを枯渇させ、肝臓内の細胞を直接傷つけ、肝不全につながる。APAP毒性の危険因子としては、過度の慢性的アルコール摂取、絶食又は神経性食欲不振、及びイソニアジドなどの特定の薬物の使用が挙げられる。
【0108】
それを必要とする対象において、ALF、特にAPAP毒性に関連する肝機能異常及び/又は急性肝不全を予防又は処置するための方法が本開示に記載されている。方法は、APAP毒性を予防及び/又は処置するために、APAPの投与前に、APAPの投与と同時に、及び/又はAPAPの投与後に、本明細書に記載の組成物を投与することを含み得る。APAP及び25HC3S又はその薬学的に許容される塩を含む組成物も包含される。
【0109】
膵機能異常及び不全
膵臓は脊椎動物の消化器系及び内分泌系で機能する腺器官である。膵臓は、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドを含むいくつかの重要なホルモンを産生し、また、小腸における栄養素の消化及び吸収を助ける消化酵素を含有する膵液を分泌する。膵臓の炎症(膵炎)には複数の原因があり、典型的に即時処置が必要である。膵炎は急性である場合があり、突然始まり数日続くか、又は慢性である場合があり、何年にもわたって発症する。膵炎の症例の80%はアルコール又は胆石によって引き起こされ、胆石は急性膵炎の単一の最も一般的な病因であり、アルコールは慢性膵炎の単一の最も一般的な病因である。重度の膵炎は、器官不全、壊死、感染壊死、偽嚢胞及び膿瘍に関連し、死亡率は、約2~9%であり、壊死が起こった場合はそれより高くなる。以下のうち少なくとも3つの項目が当てはまる場合、重度膵炎と診断される。患者の年齢が55歳を超えていること;血中PO2酸素が60mm Hg又は7.9kP未満であること;白血球数1マイクロリットル(mcL)当たり>15,000WBC;カルシウム<2mmol/L;尿素>16mmol/L;乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)>600iu/L;アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)>200iu/L;アルブミン<32g/L;及びグルコース>10mmol/L。
【0110】
本開示の一態様は、本明細書に記載の組成物を、それを必要とする患者に投与することによる膵機能異常及び/又は不全の処置である。適切な患者又は患者群は、熟練医師によって、上に列挙された症候又は基準のうち少なくとも1つを示すものとして特定される。
【0111】
心機能異常及び/又は不全
慢性心不全(CHF)を意味するためにしばしば使用される心不全(HF)は、心臓が身体の要求を満たすために血流を維持するのに十分な程度にポンピングすることができないときに起こる。鬱血性心不全(CHF又はCCF)という用語は、しばしば慢性心不全と互換的に使用される。症候としては一般に、息切れ(特に運動時、横になったとき、及び夜間睡眠中)、過度の疲労感、及び脚の腫れが挙げられる。心不全の一般的な原因としては、以前の心筋梗塞(心臓発作)を含む冠状動脈疾患、高血圧、心房細動、心臓弁膜症、及び心筋症が挙げられる。心不全は、心臓の筋肉の一部が死滅する心筋梗塞、及び血流が完全に停止する心停止とは異なる。
【0112】
心不全は典型的に、症候の履歴、並びに心臓超音波検査、血液検査、及び/又は胸部X線撮影による確証を伴う身体検査に基づいて診断される。心臓超音波検査では、超音波を使用して1回拍出量(SV、1拍動ごとに心室を出る心臓の血液量)、拡張終期量(EDV、拡張終期の総血液量)、及びEDVに対するSVの比率(駆出率(EF)として知られる値)を決定する。これらのうち1つ以上の異常は、心機能異常及び/又は不全を示すか又は確証し得る。心電図(ECG/EKG)は、不整脈、虚血性心疾患、左右の心室肥大、及び伝導遅延又は異常の存在(例えば、左脚ブロック)を特定するために使用される。これらのうち1つ以上の異常もまた、心機能異常及び/又は不全を示すか又は確証し得る。心機能異常/不全を診断又は確認するために日常的に行われる血液検査としては、電解質(ナトリウム、カリウム)、腎機能測定、肝機能検査、甲状腺機能検査、全血球計算、及びしばしば、感染が疑われる場合のC反応性タンパク質が挙げられる。これらのうち1つ以上の異常もまた、心機能異常及び/又は不全の存在を示すか又は確証し得る。B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の増加は、心不全を示す特定の検査項目である。心筋梗塞が疑われる場合、限定されないが、トロポニンクレアチンキナーゼ(CK)-MB(クレアチンキナーゼのイソ型)、乳酸デヒドロゲナーゼ、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼとも呼ばれる)、ミオグロビン、虚血変性アルブミン(IMA)、プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド、グリコーゲンホスホリラーゼアイソザイムBBなどを含む各種心臓マーカーを検査することができる。これらのうち1つ以上の異常レベル(通常、異常に高いレベル)は、心機能異常又は心不全の処置を必要とする対象を特定していると考えられる。
【0113】
心不全はまた、化学療法、例えば、乳癌などの癌に対する処置として受けた化学療法の副作用として及び/又はその化学療法の余波において起こり得る。化学療法を受けているか又はすでに化学療法を受けている患者に対する、本明細書に記載の組成物の投与は、癌化学療法の最中又は後に、心臓(並びに他の器官、器官系、組織及び細胞)への望ましくない損傷を防ぐことができる。換言すれば、本明細書に記載の組成物は、化学療法の有害な影響に対する保護剤として使用される。
【0114】
心機能異常又は不全を有することが確証されているか又は疑われる対象は、治療有効量の本明細書に記載の組成物の投与によって処置される。その量は、心機能異常若しくは不全の症候を予防するか、又は心機能異常若しくは不全の症候を緩和するために、例えば、心臓機能を少なくとも部分的に正常若しくはほぼ正常に回復させ、且つ/又は心臓機能及び患者の健康がさらに悪化することを防ぐために、十分なものである。
【0115】
脳機能異常及び/又は不全
脳機能異常及び/又は不全(すなわち器質性脳症候群「OBS」)は、精神疾患以外の医学的疾患による精神機能の低下を表す一般用語である。原因としては、限定されないが、外傷による脳傷害;脳内への出血(脳内出血);脳周囲の空間への出血(くも膜下出血);脳に圧力をかけている頭蓋骨内部の血餅(硬膜下血腫);震盪;体内の低酸素(低酸素症)及び体内の高二酸化炭素レベル(高炭酸血症)などの各種呼吸症状;各種心血管障害、例えば、多発性脳卒中による認知症又は多発性梗塞性認知症、心臓感染症(心内膜炎、心筋炎)、脳卒中(例えば、自発性脳卒中)及び一過性脳虚血発作(TIA)又はいわゆる「ミニ脳卒中」;或いはアルツハイマー病、クロイツフェルト・ヤコブ病、びまん性レビー小体病、ハンチントン病、多発性硬化症、正常圧水頭症、パーキンソン病及びピック病などの各種変性障害によるもの;腎臓、肝臓、若しくは甲状腺疾患及び/又はビタミン欠乏(B1、B12、又は葉酸)などの代謝性の原因による認知症;並びに薬物及びアルコール関連の症状、例えば、アルコール禁断症状、薬物又はアルコール使用による中毒、ウェルニッケ・コルサコフ症候群(過度のアルコール摂取又は栄養不良の長期的影響)、及び薬物からの離脱(特に催眠鎮静薬及びコルチコステロイド);並びに突然発症(急性)又は長期(慢性)感染、例えば、敗血症、脳炎、髄膜炎、プリオン感染症、及び晩期梅毒;並びに癌又は癌処置の合併症が挙げられる。OBSの症候としては、動揺、混乱;脳機能の長期的喪失(認知症)、及び重度の短期的脳機能喪失(せん妄)、並びに、例えば呼吸を制御する自律神経系への影響が挙げられる。OBSの存在の診断又は確認は、血液検査、脳波図(EEG)、頭部CTスキャン、頭部MRI、及び/又は腰椎穿刺などの各種方法論を検知又は測定することによって決定され、正常値は典型的に以下の通りである。圧力:70~180mm Hg;脳脊髄液(CSF)の外観:透明無色;CSF総タンパク質:15~60mg/100mL;γグロブリン:総タンパク質の3~12%;CSFグルコース:50~80mg/100mL(又は血糖値の2/3超);CSF細胞数:0~5個の白血球(全て単核性)、及び赤血球なし;並びにCSFクロリド:110~125mEq/L。
【0116】
これらの検査若しくは分析又は指標のうち1つ以上が異常である場合、対象は一般に、OBSの影響を受けやすいか又はすでに罹患していると考えられる。OBS(初期段階又は進行段階のいずれか)を有することが確認されているか又は疑われている対象は、本明細書に記載の25HC3Sを含む治療有効量の組成物の投与によって処置され、その量は、OBSの症候を予防するか、又はOBSの症候を緩和するために、例えば、脳機能を少なくとも部分的に正常若しくはほぼ正常に回復させ、且つ/又は脳機能及び患者の健康がさらに悪化することを防ぐために十分なものである。
【0117】
外傷による器官機能異常及び/又は不全
いくつかの態様において、器官機能異常/不全は外傷によるものである。外傷の例としては、限定されないが、車両事故による創傷;射創(狩猟に関連した活動中の偶発的な射創及び犯罪活動又は戦争に関連した射創などの故意に加えられた射創の両方);鈍的外傷又は鈍的傷害、例えば、衝撃、傷害、又は身体的攻撃による、身体部分への身体的外傷などの非穿通性鈍的外傷などが挙げられる。鈍的外傷の例としては、限定されないが、震盪、例えば、運動選手又は事故、転倒などに巻き込まれた人が被る震盪、及び落下物などの投射物との接触の結果被った鈍的外傷、及び他のものが挙げられる。
【0118】
このような鈍的外傷を受けやすい個体(例えば、運動選手、高齢者)は、本明細書に記載の組成物の予防的投与から利益を得ることができ、対象において震盪などの鈍的外傷が診断された場合、対象は、傷害が疑われるか又は確認された後、可能な限り早く投与から利益を得ることができる。
【0119】
虚血によって引き起こされる症状の予防及び/又は処置
虚血とは、組織又は器官への血液供給が不十分であり、細胞代謝及び組織の生存の維持に必要な酸素及びグルコースの不足を引き起こすことを指す。低酸素症(無酸素症としても知られている)とは、虚血によって引き起こされ、身体又は身体の一部位に十分な酸素供給が行われていない症状を指す。虚血は、虚血のカスケードとして知られる過程において組織損傷をもたらす。損傷は主に、代謝老廃物の蓄積、細胞膜を維持できないこと、ミトコンドリアの損傷、そして最終的に自己分解タンパク質分解酵素の細胞及び周辺組織への漏出の結果である。炎症の結果、細胞及び組織も損傷を受ける。即時の介入なしでは、虚血は組織壊死まで急速に進行し、最終的には例えば器官機能異常又は不全に至ることがある。
【0120】
加えて、虚血組織への血液供給の回復は、再灌流傷害として知られる追加の損傷の原因となり得る。再灌流傷害は、初期の虚血よりも有害である場合がある。血流の再導入は酸素を組織に戻し、細胞を損傷するフリーラジカル及び活性酸素種のより多くの産生を引き起こす。血流の再導入はまた、より多くのカルシウムイオンを組織にもたらし、カルシウム過負荷を引き起こし得、潜在的に致命的な心不整脈をもたらすおそれがあり、細胞の自己破壊を加速し得る。回復した血流はまた、損傷組織の炎症反応を悪化させ、損傷を受けたがまだ生存可能である細胞を白血球が破壊する原因となり得る。
【0121】
本開示は、それを必要とする対象における、虚血/再灌流傷害を含む、虚血の有害な影響又は転帰を予防及び/又は処置する方法及び組成物を提供する。方法は一般に、虚血及び/又は虚血/再灌流の症候を予防又は処置するのに十分である治療有効量の、本明細書に記載の組成物を投与することを含む。方法はまた、虚血及び/又は虚血/再灌流を経験する、又は経験している、又は経験したことがある対象を特定又は診断することを含んでよい。虚血及び/又は虚血/再灌流は、疾患過程(例えば、アテローム性動脈硬化症、血栓など)に起因するか、若しくは事故(例えば、動脈又は他の血液導管の切断)に起因することがあり、又は例えば、身体の画定若しくは限局された領域への血流を一時的に止めるために、いくつかの心臓手術若しくは他の手術中に起こるように、意図的に(計画的に)行われることもある。
【0122】
本明細書に記載の方法に関連する虚血の種類としては、限定されないが、以下のものが挙げられる。
【0123】
心臓虚血、例えば心筋虚血は、心臓の筋肉又は心筋が不十分な血流を受け取るときに発生する。心臓虚血は、冠状動脈におけるコレステロールに富むプラークの長期的蓄積であるアテローム性動脈硬化症から最も頻繁に生じる。
【0124】
腸虚血:大腸及び小腸の両方が虚血性傷害によって影響を受ける可能性がある。大腸の虚血性傷害は、虚血性大腸炎として知られる炎症過程をもたらし、また手術及び癒着成長の結果としても起こり得る。小腸の虚血は腸間膜虚血と呼ばれる。
【0125】
脳虚血は、脳への不十分な血流であり、急性(すなわち、急速)又は慢性(すなわち、長期的)であり得る。急性虚血性脳卒中は、迅速に処置すれば可逆的になり得る神経学的な救急事態である。脳の慢性虚血は血管性認知症と呼ばれる認知症の一形態をもたらすことがある。脳に影響を与える虚血の短い発症は一過性虚血発作(TIA)と呼ばれ、しばしば誤って「ミニ脳卒中」と呼ばれる。
【0126】
四肢虚血:四肢への血流の欠如は急性四肢虚血をもたらす。
【0127】
皮膚虚血とは、皮膚層への血流の減少を指し、皮膚の斑点形成又は不均一な斑状の変色をもたらすことがあり、チアノーゼの発現、又は褥瘡(例えば、褥瘡性潰瘍、とこずれなど)などの他の症状をもたらすことがある。
【0128】
可逆性虚血とは、特定の器官への血流の欠如をもたらす症状を指し、これは薬物治療又は手術を介して逆進させ得る。可逆性虚血とは、最も多くの場合、心臓の筋肉への妨げられた血流を指すが、脳を含む身体の任意の器官の閉塞を指すこともある。虚血の症例を逆進させ得るかどうかは、根本的な原因に依存する。動脈内でのプラーク蓄積、動脈の衰弱、低血圧、血栓、及び異常な心臓律動は全て、可逆性虚血の原因となるおそれがある。
【0129】
心尖部の虚血とは、心臓の頂端部又は底部先端部への血流の欠如を指す。
【0130】
腸間膜虚血とは、不十分な血液供給のために起こる炎症及び小腸損傷を指す。血流減少の原因としては、体循環の変化(例えば、低血圧)、又は血管の狭窄若しくは血栓などの局所的要因を含み得る。
【0131】
各種器官の虚血。肝臓(肝虚血)、腎臓、腸などの虚血を含むがこれに限定されない。
【0132】
虚血、虚血/再灌流もまた、因果的に炎症及び器官機能異常/不全に関連し得る。例えば、大脳(脳)虚血は、典型的に、サイトカイン、接着分子、並びにプロスタノイド及び一酸化窒素を含む他の炎症のメディエーターの虚血誘発性発現によって開始される、顕著な炎症反応を伴う。そのような炎症を減弱することを目的とした介入は、例えば大脳虚血の後期段階で起こる脳損傷の進行を減少させることが知られている。加えて、腎臓内(腎臓)不全(ARF)の最も頻繁な原因は、一過性又は長期的腎臓低灌流(虚血)である。
【0133】
その影響が本明細書に記載のように処置又は予防され得る、他の種類の虚血としては、限定されないが、虚血性脳卒中、小血管虚血、虚血/再灌流傷害などが挙げられる。
【0134】
虚血の診断は一般に、影響を受ける特定の器官若しくは器官系又は組織若しくは細胞における機能不全の1つ以上の症候を特定することによって行われる。したがって、症候としては、個々の器官の機能異常/不全について本明細書に列挙されたもの、さらに患者の病歴を記録することによる虚血それ自体の記録(例えば、器官又は組織に血液を供給する動脈の既知の閉塞、遮断又は切断など、そのような観察を示すか又はそれと整合しているイメージングなど)が挙げられる。
【0135】
1つ以上の適切な検査若しくは分析又は指標が異常である場合、対象は一般に、虚血の影響を受けやすいか又はすでに罹患していると考えられる。虚血を有することが確認されているか又は疑われている(又は、例えば外科的処置中に将来予定された虚血を経験することが判明している)対象は、本明細書に記載の治療有効量の組成物の投与によって処置することができ、その量は、虚血及び/若しくは虚血/再灌流傷害の症候を予防するか、又は、虚血及び/若しくは虚血/再灌流傷害の症候を緩和するために、例えば、血流が再確立したとき器官若しくは組織機能を少なくとも部分的に正常若しくはほぼ正常に回復させ、且つ/又は器官若しくは組織機能及び患者の健康がさらに悪化することを防ぐために十分なものである。
【0136】
望ましくない細胞死の影響の予防及び/又は処置
能動的な調節された細胞死は、「プログラム細胞死」又は「PCD」と呼ばれ、これは細胞内経路によって媒介される調節された過程である。PCDは一般に生体にとって有益であるが、シグナル伝達の異常又は細胞に対する圧倒的なストレスの存在は、望ましくないPCDを引き起こすことがある。PCDの形態としては、アポトーシス、すなわち、細胞の自殺を引き起こす、ストレスに応答した制御された細胞内シグナル伝達の開始;及びネクロプトーシス、すなわち、例えばアポトーシスシグナル伝達がウイルス又は突然変異などの内因性又は外因性因子によって遮断されたときに、アポトーシスのバックアップとしての役割を果たすPCDの一形態が挙げられる。
【0137】
PCDとは対照的に、壊死とは、生体組織中の細胞の有害で早熟な死をもたらす、調節されない受動的な細胞死を指す。壊死は、典型的に、例えば感染、毒素、外傷、虚血などの細胞又は組織外部の因子によって引き起こされる。理論に拘束されることなく、壊死は細胞膜の完全性の喪失及び細胞死の産生物の細胞内空間への制御されない放出を含み、それにより、近傍の食細胞が死細胞を探し出して排除することを妨げる周囲の組織において炎症反応を開始させると考えられている。壊死組織の外科的除去は壊死の拡大を止めることができるが、例えば内部組織又は器官が関与している場合などの、いくつかの場合において、外科的介入は不可能であるか又は実際的ではない。したがって、内部器官の壊死は、多くの場合、危険でしばしば致命的な器官機能異常及び/又は不全を招く。
【0138】
本開示は、それを必要とする対象における、望ましくない細胞死、特に器官機能異常及び/又は器官不全に関連する望ましくないアポトーシス及び壊死の影響を予防及び/又は処置する方法及び組成物を提供する。細胞死は、望ましくないPCD(例えば、望ましくない又は有害なアポトーシス、自食作用、又は壊死)、若しくは壊死(これは定義上望ましくない)、及び/又はこれらの組合せから生じるか、又はそれと関連し得る。方法は、本明細書に記載の治療有効量の組成物を投与することを含み、その量は、望ましくない細胞死の発生を予防するか、又は対象においてすでに起きている望ましくない細胞死の影響を処置するために十分なものである。
【0139】
アポトーシスによる望ましくない又は有害な細胞死は、例えば、虚血の余波及びアルツハイマー病において起こる。望ましくないアポトーシスは非常に有害であり、広範囲の組織損傷を引き起こす。
【0140】
本明細書に記載の方法によって予防及び/又は処置され得る壊死の種類としては、限定されないが、以下のものを含む。
【0141】
無菌性壊死は、感染を伴わない壊死であり、通常、外傷性股関節脱臼後の大腿骨頭に発生する。
【0142】
急性尿細管壊死とは、通常、腎毒性、大手術後の虚血、外傷(圧挫症候群)、重度の血液量減少、敗血症、又は火傷のいずれかに対して二次的に発生する、軽度から重度の損傷又は尿細管細胞の壊死を伴う急性腎不全を指す。
【0143】
無血管性壊死は、骨への血流の一時的又は永久的な停止の結果である。血液が存在しないと、骨組織が死に、骨全体の骨折又は圧潰をもたらす。
【0144】
バルザー脂肪性壊死は、大網滑液包炎及び脂肪組織の壊死の散在性斑点を伴う壊疽性膵炎である。
【0145】
架橋壊死は、肝小葉の隣接した中心静脈と亜急性肝壊死に特徴的な門脈三管とを架橋する、癒合性壊死の隔壁の壊死である。
【0146】
乾酪様又は「チーズ状」壊死は、組織が柔らかく、乾いて、カッテージチーズ様になる壊死であり、結核及び梅毒に最も多く見られ、死んだ組織が湿って柔らかくなる湿潤壊死とは対照的である。
【0147】
中心壊死は、影響を受ける骨、肝臓の細胞又は小葉の中心部分に影響を及ぼす壊死である。
【0148】
凝固壊死とは、線維性梗塞の形成を伴う、器官又は組織の一部の壊死を指し、細胞の原形質は、タンパク質成分の凝固により固定され不透明になり、細胞の外形は長い間存続する。
【0149】
液化壊死又は融解壊死は、壊死物質が軟化して液化する壊死である。
【0150】
収縮性帯壊死とは、過剰収縮した筋原線維及び収縮性帯、並びに死滅しつつある細胞へのカルシウム流入によって引き起こされるミトコンドリア損傷を特徴とする心臓病変を指し、これは、結果として細胞を収縮状態に留める。
【0151】
脂肪壊死は、脂肪組織中の中性脂肪が脂肪酸とグリセロールに分解される壊死であり、通常、急性出血性膵炎において膵臓及び脾臓周囲脂肪に影響を及ぼす。
【0152】
壊疽性壊死は、細菌作用と組み合わされた虚血が腐敗を引き起こす壊死である。「壊疽」は、乾性壊疽、湿性壊疽、ガス壊疽、内部壊疽、及び壊疽性筋膜炎を包む。
【0153】
歯肉壊死とは、歯肉の細胞及び他の構成要素の死又は変性を指す(例えば、壊死性潰瘍性歯肉炎)。
【0154】
歯間壊死は、乳頭の組織を破壊し、歯間クレーターを生じさせる進行性の疾患である。進行した歯間壊死は、歯周アタッチメントの喪失につながる。
【0155】
虚血性壊死とは、血液供給による干渉の結果として組織の死及び崩壊が生じ、したがって、組織が代謝維持に必要な物質に接触できなくなることを指す。
【0156】
黄斑変性:黄斑変性(湿潤形態及び乾燥形態の両方)は、黄斑として知られる、網膜の小さい中心部分が悪化する場合に生じる。この疾患は人が歳をとるのに伴って発現するため、しばしば、加齢黄斑変性症(AMD)と呼ばれる。
【0157】
急性黄色肝萎縮症とは、広範囲の、通常は致命的な、肝臓の壊死を指し、肝臓毒への曝露によって又は薬物アレルギーから生じ得るウイルス性肝炎(激症肝炎)の稀な合併症である。
【0158】
リン壊死は、リンへの曝露による顎骨の壊死である。
【0159】
分娩後下垂体壊死とは、産後期の下垂体の壊死を指し、多くの場合、分娩の際のショック及び過度の子宮出血に関連しており、各種パターンの下垂体機能不全につながる。
【0160】
放射線壊死は、放射線によって引き起こされる組織の死である。
【0161】
選択的心筋細胞壊死とは、筋原線維変性を指す。
【0162】
ゼンカー壊死とは、横紋筋のヒアリン変性及び壊死を指し、ゼンカー変性とも呼ばれる。
【0163】
そのような望ましくない又は病理学的な細胞死は、細胞死を予防若しくは処置し且つ/又は隣接細胞への細胞死シグナル伝達の広がりを防ぐのに十分な量で、影響を受ける細胞を、本明細書に記載の組成物と接触させることによって、予防又は処置することができる。処置の候補細胞、又は処置の候補細胞を含有する器官は、複数の公知技術のいずれかによって、例えば、細胞死の明白な影響(組織破壊、液状化、臭いなど)を観察し、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を検知することによって、各種スキャン、例えば、断層撮影又は核磁気共鳴によって、抗体などを使用して原因菌の存在を(例えば、PCRを使用して)検知することによって、特定される。
【0164】
敗血症(炎症反応症候群、又はSIRS)に関連するか又はそれによって引き起こされる症候の予防及び/又は処置
敗血症は、免疫反応の引き金となる重篤な感染症によって引き起こされる、潜在的に生命に危険を及ぼす全身性の炎症である。感染症は、典型的に、細菌によって引き起こされるが、血液、尿管、肺、皮膚、又は他の組織中の菌類、ウイルス、又は寄生生物にも起因し得る。残念ながら、症候は、感染症が消失した後でも継続し得る。重症敗血症は、例えば、低血圧、高血中乳酸、及び/又は低尿排出量などによって証明される、器官機能不良又は不十分な血流を引き起こす敗血症である。実際に、敗血症は、感染症から多器官機能異常症候群(MODS)までの範囲内に入ると考えられている。敗血症ショックは、十分な量の点滴液を与えた後にも改善しない敗血症に起因する低血圧である。
【0165】
これまで、敗血症は典型的に、しばしば集中治療室において、点滴液及び抗生物質によって処置されていた。各種薬物治療及び他の介入を使用することができ、例えば、機械的人工呼吸、透析、及び酸素飽和も使用することができる。転帰は疾患の重症度に依存し、死亡の危険性は、敗血症で30%、重症敗血症では50%、敗血症ショックでは80%にもなる。本明細書では、本明細書に記載の治療有効量の組成物を、それを必要とする対象又は患者に投与することによって敗血症を予防又は処置する方法が提供される。例えば、本開示は、哺乳動物のエンドトキシン血症及び敗血症、並びにエンドトキシン血症及び敗血症ショックを処置するために使用されるカテコールアミンによって誘発される腎血管収縮及び腸間膜血管収縮の処置を含む。用語「エンドトキシン血症」とは、血流中の微生物性内毒素の存在を指す。エンドトキシン血症に罹っている対象は、通常、敗血症も有している。本開示は、敗血症/エンドトキシン血症を処置する方法を含む。本開示はさらに、本明細書に記載の有効量の組成物を投与することにより、敗血症/エンドトキシン血症によって引き起こされる急性腎不全を処置する方法をも含む。
【0166】
さらに、本開示は、敗血症/エンドトキシン血症によって引き起こされる腎血管収縮を処置する方法を含む。さらに、本開示は、カテコールアミン誘発腎血管収縮及び腸間膜血管収縮を減少させる方法を提供する。さらにまた、本開示は、内毒素及び/又は血圧上昇薬の作用に起因する、患者の腸及び腎臓への損傷を予防する方法も含む。敗血症は、ミトコンドリア機能異常に関連し、ミトコンドリア機能異常は、酸素消費障害につながり、敗血症誘発多器官不全につながり得る。このことは、特に、敗血症患者における組織酸素圧力の上昇に当てはまり、これは、酸素を使用する器官の能力低下を示唆する。ミトコンドリア酸化作用リン酸化によるATP産生は総酸素消費の90%超を占めるため、ミトコンドリア機能異常は、おそらくin vitroでのミトコンドリア呼吸を阻害することが知られ敗血症において過剰に産生される一酸化窒素により、直接的に器官不全をもたらし得る。したがって、本開示の特定の実施形態において、本明細書に記載の組成物は、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重症敗血症、及び敗血症ショックの患者のための器官機能異常及び不全の予防方法において使用される。
【0167】
方法は、例えば、敗血症の少なくとも1つの症候、例えば、異常温度(101°F(38.3℃、「発熱」)超又は96.8°F(36℃)未満の体温)、心拍数の増加、呼吸数の増加、予想又は確認された感染症、及び場合により精神錯乱を検知又は測定することによって、そのような処置を必要とする適切な患者を特定することを含んでよい。重症敗血症の患者は、器官が不全に陥っている可能性があることを示す以下の徴候及び症候:尿排出量の著しい減少、精神状態の突然の変化、血小板数の減少、呼吸困難、心ポンプ機能異常、及び腹痛のうち少なくとも1つを示す。敗血症ショックの診断は一般に、重症敗血症の徴候及び症候の観察、並びに単純な補液に適切に反応しない極度に低い血圧の測定に基づく。いくつかの場合において、対象は、咳嗽/痰/胸痛;腹痛/膨満/下痢;線感染(line infection);心内膜炎;排尿障害;頚部硬直を伴う頭痛;蜂巣炎/創傷/関節感染;及び/又は任意の感染に関する陽性微生物学に基づく敗血症の予防的処置又は治療的処置の候補になり得る。他の場合において、対象は、敗血症の診断、並びに心収縮期血圧<90/平均;<65mm HG;乳酸>2mmol/L;ビリルビン>34μmol/L;2時間での尿排出量<0.5mL/kg/時;クレアチニン>177μmol/L;血小板<100×109/L;及びSpO2>90%(O2が与えられるまで)から選択される任意の器官機能異常に対する少なくとも1つの臨床上の疑いに基づき、重症敗血症の25HC3S又はその薬学的に許容される塩による予防又は治療的処置の候補になり得る。いくつかの場合において、対象は、処置に応答しない難治性低血圧があり、静脈内輸液全身投与だけでは患者の血圧が低血圧にならないように維持するのに不十分である場合に、敗血症ショックの予防又は治療的処置の候補になり得る。早期敗血症、重症敗血症、又は敗血症ショックの(徴候が見られるという)診断を伴う患者は、例えば治療有効量の組成物の投与による、本明細書に記載の組成物を用いた処置の候補である。投与量は、敗血症の症候が発現若しくは継続することを防ぐか、又は敗血症の症候の影響を少なくとも減少させるのに十分な量であってよい。
【0168】
高脂血症
いくつかの態様において、本明細書に記載の組成物及び方法によって処置される対象は、高レベルの脂質の症候、すなわち高脂血症を有し、且つ/又はそのように診断されている。高脂血症は、どの種類の脂質が上昇しているかによっても分類され、すなわち、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、又はその両方の複合高脂血症に分類される。高レベルのリポタンパク質(a)も含まれる。高コレステロール血症とは一般に、血清中のコレステロールレベルが約200mg/dL以上の範囲であることを指す。高トリグリセリド血症は、例えば、境界線(1dL当たり150~199mg)、又は高い値(1dL当たり200~499mg)又は非常に高い値(1dL当たり500mg以上)として特徴付けられる。これらの症状は、それに関連する疾患又は症状、例えば、アテローム性動脈硬化症、心疾患、脳卒中、アルツハイマー病、胆石症、胆汁鬱滞性肝疾患、膵炎などと同様に、本明細書に記載の組成物によって処置される。本明細書に開示の組成物は、対象におけるコレステロール及び/又は脂質レベルを低下させるために使用される。「コレステロールレベルを低下させること」とは、患者における遊離血清コレステロールのレベルが、組成物投与前の対象におけるコレステロールのレベルと比較して、少なくとも約10%~30%、好ましくは少なくとも約30~50%、より好ましくは少なくとも約50~70%、最も好ましくは少なくとも約70~約100%又はそれを超えて減少することを意味する。或いは、減少の程度は、化合物が投与されていない類似の未処置対照群と比較することによって決定することができる。当業者はそのような決定に精通しており、例えば、対照の使用、又はコレステロール及び/若しくは脂質を低下させる薬剤の投与前後の血中コレステロールレベルの測定に精通している。
【0169】
いくつかの態様において、予防又は処置される疾患又は症状は、高脂血症であるか、高脂血症によって引き起こされる。「高脂血症」とは、血中のいずれか又は全ての脂質及び/又はリポタンパク質の異常に上昇したレベルの症状を意味する。高脂血症としては、一次サブタイプ及び二次サブタイプの両方が含まれ、一次高脂血症は通常、遺伝的原因(受容体タンパク質の突然変異など)に起因するものであり、二次高脂血症は、糖尿病などの他の根本的原因から生じるものである。対象において上昇し、本明細書に記載の処置によって低下し得る、脂質及び脂質複合体としては、限定されないが、カイロミクロン、超低密度リポタンパク質、中密度リポタンパク質、低密度リポタンパク質(LDL)及び高密度リポタンパク質が挙げられる。特に、高コレステロール(高コレステロール血症)及びトリグリセリド(高トリグリセリド血症)は、アテローム性動脈硬化症に対する影響により、血管及び心血管疾患の危険因子であることが知られている。脂質上昇はまた、対象において急性膵炎などの他の症状の素因にもなることがある。したがって、本開示の方法はまた、高脂質であるか又は高脂質に関連する症状の処置又は予防(例えば予防的処置)においても使用され得る。そのような症状としては、例えば、限定されないが、高脂血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、脂肪肝(肝脂肪症)、メタボリックシンドローム心血管疾患、冠状動脈性心疾患、アテローム性動脈硬化症(すなわち、動脈硬化性血管疾患又はASVD)及び関連する疾病、急性膵炎、各種代謝障害、例えば、インスリン抵抗性症候群、糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群、脂肪肝疾患、悪液質、肥満、動脈硬化、脳卒中、胆石、炎症性腸疾患、遺伝性代謝障害、例えば脂質蓄積障害などが挙げられる。加えて、高脂血症に関連する各種症状としては、発行された米国特許第8,003,795号(Liuら)及び第8,044,243号(Sharmaら)に記載されているものが挙げられ、その両方の全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0170】
いくつかの態様において、予防又は処置される疾患及び症状としては、炎症、並びに/又は炎症に関連するか、炎症を特徴とするか、若しくは炎症によって引き起こされる疾患及び症状が挙げられる。これらの疾患及び症状としては、多数のヒト疾患の基礎にある多数の群の障害が挙げられる。いくつかの実施形態において、炎症は急性であり、例えば、感染症、傷害などからもたらされる。他の実施形態において、炎症は慢性である。いくつかの実施形態において、免疫系は、アレルギー反応及びいくつかの筋疾患の両方に見られる炎症性障害に関与している。ただし、癌、アテローム性動脈硬化症、及び虚血性心疾患、並びに下記に列挙された他の疾患を含む、炎症過程に病因学的原因を有する各種非免疫疾患もまた処置され得る。
【0171】
少なくとも1種のOCSを使用して予防又は処置することができる、異常な炎症に関連する障害の例としては、限定されないが、尋常性座瘡、喘息、各種自己免疫疾患、セリアック病、慢性前立腺炎、糸球体腎炎、各種過敏症、炎症性腸疾患、骨盤内炎症性疾患、再灌流傷害、関節リウマチ、サルコイドーシス、移植拒絶、脈管炎、及び間質性膀胱炎が挙げられる。法的に処方された薬物及び違法薬物の両方の使用の結果として生じる炎症障害、並びに否定的認知又はその結果として引き起こされる炎症、例えばストレス、暴力、又は剥奪によって引き起こされる炎症もまた含まれる。
【0172】
一態様において、予防又は処置される炎症性障害は、アレルギー反応(1型過敏症)であり、炎症を引き起こす不適当な免疫反応の結果である。一般的な例は花粉症であり、花粉症はアレルゲンに対する皮膚肥満細胞の過敏反応によって引き起こされる。重症の炎症反応は、アナフィラキシーとして知られる全身性反応に移行する場合がある。他の過敏症反応(2型及び3型)は抗体反応によって媒介され、周囲の組織を損傷させる白血球を引き付けることによって炎症を誘発し、さらに本明細書に記載されるように処置され得る。
【0173】
他の態様において、炎症性筋疾患が予防又は処置される。このような筋疾患は、免疫系が筋肉の構成要素を不適切に攻撃して筋肉炎症の徴候をもたらすことによって引き起こされる。筋疾患は、全身性硬化症などの他の免疫障害に付随して起こることがあり、皮膚筋炎、多発性筋炎、及び封入体筋炎を含む。
【0174】
一態様において、本開示の方法及び組成物は、全身性炎症、例えば、メタボリックシンドローム及び糖尿病(例えば2型成人発症型糖尿病)に関連する炎症などの、肥満に関連する炎症を予防又は処置するために使用される。そのような炎症において、関与する過程は組織の炎症と同一であるが、全身性炎症は特定の組織に限定されず、内皮及び他の器官系を含む。全身性炎症は慢性である場合があり、肥満において広く観察されており、IL-6(インターロイキン-6)、IL-8(インターロイキン-8)、IL-18(インターロイキン-18)、TNF-α(腫瘍壊死因子-α)、CRP(C反応性タンパク質)、インスリン、血糖、及びレプチンを含む、炎症マーカーの上昇が多く観察される。これらのマーカーの高いレベルに関連する症状又は疾患は、本明細書に記載されるように予防又は処置することができる。いくつかの実施形態において、炎症は、TNF-α、IL-6、及びCRPなどのサイトカインの全身濃度の2~3倍の増加が観察される「低悪性度慢性炎症」として分類され得る。胴囲も全身性炎症反応と有意に相関し、この相関における主要因子は、脂肪過多によって引き起こされた自己免疫反応に起因し、これによって免疫細胞は脂肪沈着物を細菌や真菌などの感染体と「間違える」。全身性炎症は過食によっても引き起こされる場合がある。飽和脂肪を多く含む食事、及びカロリーを多く含む食事は炎症マーカーの増加と関連しており、過食が慢性的である場合、反応は慢性的になることがある。
【0175】
本開示の方法の実施は、一般に、高コレステロール及び/又は脂質に関連する症状に罹患しているか又はそれを発現する危険がある患者を特定すること、並びに、本開示の組成物を、適切な経路によって許容される形態で投与することを含む。投与される正確な投薬量は、個々の患者の年齢、性別、体重及び全体的な健康状態、並びに疾患の正確な病因論に応じて変わり得る。ただし、一般に哺乳動物(例えばヒト)への投与の場合、体重1kg・24時間当たり約0.1~約100mg以上の化合物、好ましくは体重1kg・24時間当たり約0.1~約50mgの化合物、より好ましくは体重1kg・24時間当たり約0.1~約10mgの化合物の範囲の(25HC3S又はその薬学的に許容される塩に関しての)投薬量が有効である。
【0176】
肝障害
肝臓は体内の脂質恒常性を維持する役割を担っており、本明細書に記載の組成物は、肝疾患及び肝臓自体の損傷(例えば、NAFLD)を予防及び処置するために使用されてよく、過度に高いレベルの循環脂質に関連する疾患を予防及び処置するために、すなわち高脂血症及びアテローム性動脈硬化症などの関連する障害を予防又は処置するために使用されてよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の組成物及び方法によって処置される対象は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)及び/又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の少なくとも1つの症候を有するか、又はそれを有すると診断されている。
【0177】
さらなる態様において、本明細書に記載の組成物及び方法によって処置される対象は、主に各種ウイルスによって引き起こされるがいくつかの毒(例えばアルコール)によっても引き起こされる、肝炎、肝臓の炎症などの肝障害;自己免疫(自己免疫性肝炎)又は遺伝性の症状;肝炎、すなわち脂肪性肝炎及び/又は肝硬変につながるおそれがある、非アルコール性脂肪性肝疾患、肥満に関連し肝臓中に豊富な脂肪があることを特徴とする疾患のスペクトラム;肝硬変、すなわち、死んだ肝細胞の置き換えによる肝臓内での線維性瘢痕組織の形成(肝細胞の死は、例えばウイルス性肝炎、アルコール依存症又は他の肝毒性化学物質との接触によって引き起こされることがある);ヘモクロマトーシス、体内での鉄の蓄積を引き起こし最終的には肝損傷につながる遺伝性疾患;肝臓癌(例えば、原発性肝細胞癌又は胆管癌、及び通常は胃腸管の他の部分からの転移性癌);ウィルソン病、身体が銅を保持するようになる遺伝性疾患;原発性硬化性胆管炎、おそらく本質的に自己免疫性である胆管の炎症性疾患;原発性胆汁性肝硬変、小胆管の自己免疫疾患;バッド・キアリ症候群(肝静脈閉塞);ギルバート症候群、人口の約5%に見出される、ビリルビン代謝の遺伝的障害;糖原病II型;並びに、各種小児肝疾患、例えば、胆道閉鎖症、α-1アンチトリプシン欠乏症、アラギル症候群、及び進行性家族性肝内胆汁鬱滞などの少なくとも1種の症候を有し、且つ/又はそれを有すると診断されている。加えて、外傷による肝損傷、例えば事故、射創などによる損傷も処置され得る。さらに、特定の薬物治療によって引き起こされる肝損傷を予防又は処置することができ、例えば、抗不整脈薬アミオダロン、各種抗ウイルス薬(例えばヌクレオシド類似体)、アスピリン(稀に小児のライ症候群の一部として)、コルチコステロイド、メトトレキセート、タモキシフェン、テトラサイクリンなどの薬物は、肝損傷を引き起こすことが知られている。
【0178】
他の態様において、本開示は、対象において肝細胞の増殖又は肝組織の再生を促進するために、肝細胞増殖及び肝組織再生のうち少なくとも一方を必要とする対象に対して、本明細書に記載の組成物を投与することを含む、対象における肝細胞増殖又は肝組織再生を促進する方法を含む。いくつかの態様において、投与は、対象における肝臓手術、例えば肝移植手術の前、最中又は後に行われる。対象はまた、肝硬変、肝傷害、及び肝炎のうち少なくとも1つを有していてもよい。
【0179】
レプチン欠乏症、レプチン耐性及び脂質蓄積症
本開示はまた、異常な脂質蓄積(LA)を特徴とする障害を処置する組成物及び方法を提供する。既存の異常で有害な脂質沈着物(例えば、沈着が不適切である肝臓又は他の器官若しくは組織中の脂質小球)を有する哺乳動物に対して、本明細書に記載の組成物を投与することは、脂質沈着物の減少又は排除及び追加的な脂質蓄積の防止をもたらす。したがって、投与は異常な脂質沈着を防止し、処置開始時に現存している脂質沈着(蓄積)を好転させる。
【0180】
そのように処置される障害は、本明細書において例えば「脂質蓄積障害」、「脂質沈着障害」などの語句によって言及され、限定されないが、以下のものを含む。
I.例えば、以下の原因に起因する、レプチン活性の欠如又は減弱から生じる障害、
i)例えばレプチン欠乏症(LD)において生じる、低レベルのレプチン産生、又は機能不全若しくは機能不良レプチン分子の産生を引き起こす遺伝子変異、或いは
ii)例えばレプチン受容体の機能の先天的又は後天的な異常又は欠損によって引き起こされ、例えば、レプチン受容体の遺伝子変異、又は例えばレプチン耐性(LR)において生じる、レプチン結合に対する受容体感受性の後天的喪失に起因する、レプチンシグナル伝達の欠陥、及び
II.一般に先天性である脂質蓄積障害。
【0181】
したがって、本明細書で使用する用語「減弱化レプチン活性(attenuated leptin activity)」は、上記のi)及びii)で特徴付けられるレプチン欠乏症(LD)及びレプチン耐性(LR)を包含する。同様に、本明細書で使用する用語「レプチン欠乏症関連脂質蓄積」は、上記のi)及びii)で特徴付けられる、レプチン欠乏症(LD)及びレプチン耐性(LR)に関連する脂質蓄積を包含する。
【0182】
したがって、本明細書に記載の組成物及び方法によって処置される対象は、レプチン欠乏症及び/若しくはレプチン耐性並びに/又は脂質蓄積症の少なくとも1種の症候を有し得る。これらの対象は、i)例えばレプチン欠乏症(LD)において生じる、低レベルのレプチン産生、又は機能不全若しくは機能不良レプチン分子の産生を引き起こす遺伝子変異(例えば、レプチンをコードするLEP遺伝子における突然変異);或いはii)例えばレプチン受容体の機能の先天的又は後天的な異常又は欠損によって引き起こされ、例えば、レプチン受容体の遺伝子変異(例えば、レプチン受容体をコード化するOb(lep)遺伝子の突然変異)に起因し、又は例えばレプチン耐性(LR)において生じる、レプチン結合に対する受容体感受性の後天的喪失に起因する、レプチンシグナル伝達の欠陥;或いはiii)先天性であり得る脂質蓄積障害を有していても有していなくてもよい。脂質蓄積障害としては、例えば、中性脂質蓄積症、ゴーシェ病、ニーマンピック病、ファブリー病、ファーバー病、GM1ガングリオシド症及びGM2ガングリオシド症などのガングリオシド症(例えば、テイ・サックス病及びサンドホッフ病)、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー(MLD、乳児期後期、若年及び成人MLDを含む)、並びに酸リパーゼ欠乏障害、例えばウォルマン病及びコレステリルエステル蓄積症が挙げられる。
【0183】
方法は、疾患又は症状を予防及び/又は処置するのに治療上有効である量の、本明細書に記載の組成物を投与することを含む。
【0184】
皮膚炎症
なおさらなる態様において、本明細書に記載の組成物及び方法で処置される対象は、「炎症性皮膚疾患」若しくは「炎症性皮膚障害」と診断され、且つ/又は1種以上の皮膚病変に罹患している。炎症性皮膚疾患は、典型的に、例えば、発赤、かゆみ、乾燥、肌荒れ、薄片状、炎症、及び刺激を伴う皮膚を特徴とし、皮膚はまた、水疱、鱗状斑などを示すこともある。いくつかの態様において、炎症性皮膚疾患は急性であり、処置しなくても一般に数日又は数週間以内に治癒し、本開示の組成物及び方法は、疾患の治癒中に症候を緩和し(例えば、かゆみ、発赤などを軽減し)、且つ/又は症候の消失を早める。或いは、いくつかの態様において、皮膚の炎症性疾患/障害は慢性的であり、例えば、処置しない場合、或いは従来的処置をしても、症候は数週間、数カ月、若しくは数年間、又はさらには無期限に持続する。いくつかの態様において、本開示の組成物及び方法は、疾患が持続する間、慢性的皮膚炎症の症候を緩和(軽減)し(例えば、かゆみ、発赤、皮膚のひび割れ及び剥がれなどを軽減し)、且つ/又は処置しなければ存在するであろう症候をさらに部分的若しくは完全に治癒する(完全に又はほぼ完全に消失させる)。
【0185】
「炎症性皮膚疾患」は、特定の、既知の又は特定可能な病原体への曝露によって引き起こされる疾患及び症状、さらに原因が明確にされていない疾患/症状を包含することを意図しており、例えば、これらの疾患/症状は、免疫障害又は機能不全(例えば、自己免疫反応)、ストレス、未確認のアレルギー、遺伝的素因などに起因し、且つ/又は2つ以上の要因に起因する。
【0186】
本明細書で使用する「皮膚病変」とは、最も一般的に、その周囲の皮膚と比較して異常な成長又は外観を有する皮膚の領域を指す。例えば、皮膚の領域は、1つ以上の外皮層(少なくとも表皮)の破れ、場合によっては下層組織を露出させる真皮及び/又は皮下組織(下皮)の破れを示す領域であり得る。皮膚病変としては、例えば、皮膚潰瘍、すなわち壊死性炎症組織の脱落によって生じた皮膚表面の局所的欠損、破壊又は削掘が挙げられる。潰瘍は、例えば、本質的に神経栄養性又は虚血性であり得、褥瘡性潰瘍、糖尿病性潰瘍(これらはしばしば足部潰瘍である)などを含む。静脈性及び動脈性潰瘍、典型的には脚又は足の潰瘍の処置も包含される。皮膚病変としては、故意又は偶発的な破れ、例えば、炎症又は感染を伴うか又は伴わない、切り傷、かき傷、切開などによるものも含まれる。皮膚病変はまた、赤膚、開放創などと呼ばれることもある。皮膚病変の根本的な原因は、炎症、感染症(例えば、ウイルス感染症又は細菌感染症)、神経障害、虚血、壊死(例えば、糖尿病性潰瘍において生じる壊死)、又はこれらのうち1つ以上の組合せであり得る。加えて、多くの皮膚疾患は、炎症及び1つ以上の皮膚病変の両方によって引き起こされ、且つ/又はそれを特徴とし、全てのそのような皮膚疾患及び/若しくは病変、又はそれらの症候は、本明細書に開示の組成物及び方法によって処置することができる。
【0187】
疑義を回避するために言うと、皮膚病変は皮膚壊死を含む。したがって、本明細書に記載の方法及び技術は、皮膚壊死の処置又は予防処置に適している。
【0188】
炎症性皮膚疾患/障害(特に慢性炎症性皮膚疾患)としては、限定されないが、例えば、アトピー性皮膚炎、全ての種類の乾癬、座瘡、魚鱗癬、接触性皮膚炎、湿疹、光線皮膚症、乾燥肌障害、単純ヘルペス、帯状疱疹(帯状ヘルペス)、日焼け(例えば重症の日焼け)などが挙げられる。本明細書における乾癬への言及は、特に指示のない限り、全ての種類の乾癬を指す。
【0189】
いくつかの態様において、処置される疾患/症状は乾癬であり、斑状屈曲性(plaque flexural)、滴粒状、膿疱性、爪型、感光性、及び紅皮性乾癬などの全ての種類の乾癬を含む。乾癬は一般に免疫障害として認識されており、感染(例えば扁桃炎又は口腔カンジダ症)、ストレス、皮膚への傷害(切り傷、擦り傷、虫刺され、重症の日焼け)、特定の薬物治療(リチウム、抗マラリア剤、キニジン、インドメタシン)などの因子によって引き起こされるか、又はそれらに関連することがあり、クローン病、2型糖尿病、心血管疾患、高血圧、高コレステロール、鬱病、潰瘍性大腸炎などの他の免疫症状を併発することがある。これらの原因のいずれか、又は任意の他の原因若しくは未知の原因による乾癬は、本明細書に記載の製剤及び方法によって処置することができる。
【0190】
いくつかの態様において、処置される疾患/症状は湿疹である。湿疹は、かゆみがあり炎症を起こした皮膚の発疹を引き起こす各種症状を表すのに使用される一般的な用語であり、早期に発赤、かゆみ、微小丘疹及び小胞、滲出、漏出、及び痂皮化(crusting)、並びにその後の鱗屑化(scaling)、苔蘚化、及びしばしば色素沈着によって特徴付けられる、主に表皮を含む任意の表面炎症過程を指す。皮脂欠乏性湿疹、カポジ水痘様発疹、貨幣状湿疹、神経性皮膚炎、乾燥症湿疹紅斑(主に暖房した室内の低湿度が角質層の過度の水分不足を引き起こす冬に起こる、乾性鱗屑化、細かいひび割れ、皮膚の掻痒)、及びアトピー性皮膚炎を含む様々な種類の湿疹が知られている。
【0191】
アトピー性皮膚炎、湿疹の一種は、非伝染性障害であり、慢性的に炎症を起こす皮膚、及び場合により耐えられないかゆみを特徴とする。アトピー性皮膚炎とは、喘息や花粉症のような呼吸器系を含むストレス及びアレルギー性障害にしばしば関連する広範囲の疾患を指す。アトピー性皮膚炎はどの年齢でも起こり得るが、子供及び若年成人に最も一般的に見られ、例えば乳児湿疹が見られる。分泌物が滲出して(ooze)外殻を形成する肌を特徴とする乳児湿疹は、ほとんどの場合、顔面と頭皮に発生する。一態様において、アトピー性皮膚炎は、例えばアレルギー反応を引き起こす薬剤への曝露によって引き起こされる接触アレルギー性皮膚炎である。アトピー性皮膚炎の一般的な誘因としては、例えば、石鹸及び家庭用洗剤(例えば、汎用洗浄剤、食器用洗剤、洗濯用洗剤、窓用洗浄剤、家具用磨き粉、排水口用洗浄剤、トイレ用消毒剤など);衣類(例えば、ウールのような粗い布地);熱;ラテックスとの接触;化粧品及び化粧品の成分(例えば、アスコルビン酸、パラバン保存料、並びにグリコール酸、リンゴ酸、及び乳酸などのα-ヒドロキシ酸);ツタウルシ、ポイズンオーク、及びドクウルシなどの植物由来油;食品、特に酸性食品又は香辛料との接触;ニッケル、コスチュームジュエリー、時計バンド、ジッパーなどの日用部品(common component);日焼け止め剤及びその成分、例えば、パラアミノ安息香酸(PABA)系化学物質などが挙げられる。
【0192】
本明細書に記載の方法は、疾患又は症状を予防又は処置するのに治療上有効である量の、本明細書に記載の組成物を投与することを含む。
【0193】
2つ以上の疾患/症状の予防/処置
いくつかの態様において、本明細書に記載の組成物及び方法によって処置される対象は、2つ以上の別個の組成物による処置を受け、それらの組成物のそれぞれは、25HC3S又はその薬学的に許容される塩を含み、それらの組成物のそれぞれは、異なる疾患又は症状に対して処方又は使用される。例えば、高コレステロールの処置のために、25HC3S又はその薬学的に許容される塩(例えば、米国特許第8,399,441号に記載のもの)の経口剤形又は本明細書に記載の組成物を服用している対象は、本明細書に記載の異なる組成のIV製剤により、又はさらには例えば接触性皮膚炎の処置のための局所製剤などの第3の組成物により、異なる障害、例えばAPAP過剰投与による急性肝不全についても処置され得る。異なる組成は異なる性質を有していてよく、例えば、特定の疾患又は症状に適合するように、形態が異なっていてよく(例えば、錠剤、液体、クリーム)、方式又は送達が異なっていてもよく(例えば、経口、静脈内、局所)、組成物中の25HC3S又はその薬学的に許容される塩及び他の成分の濃度が異なっていてもよい。推奨される投与計画及び処置期間もまた異なり得るが、重複してもよく、例えば、高コレステロールのための経口調製物(例えばカプセル)を服用している間、及び/又はAPAP過剰投与によるALFの処置を受けている間に、患者は局所用クリームにより皮膚炎について処置され得る。高コレステロールの処置は、比較的低い投薬量の25HC3S又はその薬学的に許容される塩と共に1日1錠の錠剤を何年にもわたって投与する治療方式を含む場合があり、皮膚炎の処置は、症候が消えるまで1日2回クリームを塗ることを含み、APAP過剰投与による急性肝不全の処置は、1つ又は2つの巨丸剤により、非常に高い25HC3S又はその薬学的に許容される塩濃度及びより低い量(例えば5%以下)で、本明細書に記載の大量の組成物を投与することを含み得る。
【0194】
組成物の投与の説明
方法の実施は一般に、本明細書に記載の疾患又は症状に罹患しているか又はそれを発現する危険がある患者を特定することを含み、適切な経路により、本明細書に記載の組成物を投与することを含む。投与される正確な投薬量は、個々の患者の年齢、性別、体重及び全体的な健康状態、又は患者が受けている他の処置、並びに処置されている疾患症状の程度又は進行度、及び疾患の正確な病因に応じて変わり得る。ただし、一般に哺乳動物(例えばヒト)への投与の場合、体重1kg・24時間当たり約0.001~約100mg以上、好ましくは体重1kg・24時間当たり約0.01~約50mgの化合物、より好ましくは体重1kg・24時間当たり約0.1~約10mgの化合物の範囲の25HC3S又はその薬学的に許容される塩投薬量を達成するのに十分な組成物を投与することが有効である。(25HC3S又はその薬学的に許容される塩に関して)1日当たりの用量は一般に、1人1日当たり約0.1ミリグラム~約5000ミリグラムの範囲である。いくつかの態様において、用量は、1人1日当たり約10ミリグラム~約2000ミリグラム、又は1人1日当たり約100ミリグラム~約1000ミリグラムである。用量は、投与経路、生物学的利用能、及び投与される特定の製剤、並びに予防又は処置されている疾病の性質に応じて変わる。
【0195】
投与は、経口又は非経口であってもよく、静脈内、筋肉内、皮下、皮内注射、腹腔内注射などを含み、又は他の経路、例えば、経皮、舌下、直腸、及び口腔内送達、エアロゾル吸入、膣内、鼻腔内、局所、点眼剤としての投与、スプレーを介した投与、イオン導入、光音響誘導薬物送達、マイクロニードル送達などによるものであってもよい。投与経路は、典型的に、処置される症状の性質、及び例えば処置が予防的であるか又は存在する疾患の治癒をもたらすことを意図しているかどうかに応じて変わる。例えば、器官機能異常が起こる前に予防的効果を達成するには、特に経口投与された25HC3S又はその薬学的に許容される塩の優れた生物学的利用能の観点から、経口投与で十分であり得る。さらに、任意の手段による化合物の投与は、単回方式の治療として、又は他の治療及び処置様式、例えば手術、他の医薬(例えば鎮痛剤など)、栄養補助食品、食事療法、運動などと組み合わせて、実施することができる。いくつかの態様において、製品は、静脈内巨丸剤、静脈内注射(薬学的に適切な希釈剤で希釈したもの)、筋肉内、皮下、又は経口経路で投与することができる即時使用(ready to use)の製品溶液を含む。別の態様では、製品は、投与の前に再構成される固体(凍結乾燥された固体)を含む。
【0196】
組成物が投与される対象は一般に、哺乳動物、多くの場合、ヒトであるが、これは常にそうであるとは限らない。この技術の獣医学的用途も考えられ、例えば、コンパニオンペット(猫、犬など)、又は家畜及び牧畜動物、馬、さらに特別な価値を有するか若しくは獣医師の保護下にある「野生」動物、例えば、保護区若しくは動物園内の動物、更生中の負傷した動物などのための用途も考えられる。
【0197】
いくつかの態様において、組成物は、対象が罹患している疾病に応じて、各種鎮痛薬、抗関節炎薬、各種化学療法薬、抗生物質、各種点滴液(例えば、生理食塩水、グルコースなど)などの、他の処置様式と組み合わせて投与される。「と組み合わせて(と併用して)」とは、1種以上の追加の薬剤の別々の調製物を投与すること、及び本開示の組成物中に1種以上の追加の薬剤を含めることの両方を指す。例えば、アスピリン、イブプロフェン、及びアセトアミノフェンは全て、長期間服用したり、又は特定の脆弱な集団(例えば非常に若年の者、高齢者など)が服用したり、又は過量が摂取されたりすると、潜在的に重篤な器官損傷を引き起こす副作用があり、本明細書に記載の組成物中の含有物によって投与することができる。したがって、25HC3S又はその薬学的に許容される塩、及び少なくとも1つの環状オリゴサッカリド、例えばCD、並びにそのような薬剤のうち1種以上を含む剤形が考えられている。
【0198】
本開示の化合物の投与は、断続的であってよく、又は段階的若しくは連続的、一定若しくは制御された速度によるものであってよい。さらに、医薬製剤が投与される時刻及び1日当たりの回数は様々であり得、医師などの熟練した開業医によって最も適切に決定される。例えば、APAP過剰投与の処置の場合、化合物は、例えば器官損傷を引き起こす薬剤の過剰投与から1週以内、例えば1日以内、12時間以内、4時間以内、1時間以内、又は10分以内に投与してよい。化合物は、少なくとも1カ月若しくは少なくとも1週間にわたり、手術前に少なくとも1日1回(例えば、毎日2回)又は手術の少なくとも1日前に、或いはさらには手術中に、例えば、器官不全に関連若しくは付随する手術、又は器官不全を引き起こす可能性のある手術(例えば、意図的な虚血/再灌流を含む手術)の中に、投与することができる。化合物はまた、少なくとも1日、少なくとも1週間、又は少なくとも1カ月にわたり、手術後に少なくとも毎日(例えば、毎日2回)投与されてよい。例えば、手術は心臓手術(例えば冠状動脈バイパス移植術(CABG))、心臓血管手術、心肺移植、肺手術(例えば肺塞栓症手術)、深部静脈血栓症(DVT)手術、脳外科手術、肝臓手術、胆管手術、腎臓手術(例えば、腎臓結石手術)、胃腸手術(例えば、腸、腸閉塞、憩室炎、又は腸管捻転手術)、又は動脈瘤手術であってよい。いくつかの場合において、例えば処置される1種以上の器官が肝臓を含む場合、投与は14日以内、例えば、10日以内、8日以内、5日以内、又は1日以内の間行われてよい。
【0199】
本開示の組成物(調製物)は、限定されないが、経口投与、注射による投与、直腸投与、吸入による投与、膣内投与、鼻腔内投与、局所投与、点眼剤としての投与、スプレーを介した投与などを含む、当業者に公知の多くの適切な手段のいずれかによる投与用に製剤化されてよい。いくつかの態様において、投与方式は経口、注射又は静脈内投与である。典型的に、経口投与は、器官損傷(壊死及び/又はアポトーシスによるものなど)、及び急性的に又は長期間、例えば数週間、数カ月若しくは数年にわたり、例えば、処置しなければ、器官損傷を引き起こす薬剤を服用しており且つ/又は放射線などの毒性物質にさらされている患者に起こっていた器官損傷を予防するために、予防的に使用されるときに特に有効である。損傷がすでに起こっている場合、及び特に疾患の症候がすでに明らかになっている場合、投与経路は一般に、組成物中の活性剤の送達を速めるために、非経口又は静脈内である。
【0200】
本開示は、以下の実施例を通じて、さらに説明される。これらの実施例は非限定的であり、本開示の範囲を限定しない。
【0201】
(実施例)
[実施例1]
溶解度実験
本実施例は、25HC3S及び各種シクロデキストリンを含む、薬学的に適切な水性溶液組成物を記載している。
【0202】
本実施例は、25HC3Sの溶解度がシクロデキストリンとの間で安定な包接複合体を形成し、そのような包接複合体は非複合体化薬物と比較して高水溶性であるという決定を記載したものである。
【0203】
シクロデキストリン中での溶解度
0、50、100、200、250及び400mg/mLのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPbCD、ヒドロキシプロピルベータデクス)又はスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBECD、Captisol(登録商標))を含有する水中において、合計6つの25HC3Sナトリウム塩懸濁液を調製した。両方のシクロデキストリンは、承認済み医薬品中で使用されており、適正製造基準(GMP)賦形剤として製造さたものである。各懸濁液を室温で撹拌し、アリコートを遠心分離し、逆相HPLC法により上清溶液の25HC3S濃度についてアッセイした。HPbCD濃度の関数としての25HC3Sの溶解度データを表1に示し、SBECD濃度の関数としての25HC3Sの溶解度データを表2に示した。
【0204】
【表1】
【0205】
【表2】
【0206】
図1は、水中のHPbCD及びSBECD濃度の関数としての25HC3Sナトリウム塩の最大平衡溶解度のプロットである溶解度相図を示す。縦座標(Y軸)は薬物溶解度(単位: mg/mL)であり、横座標(X軸)はHPbCD及びSBECD濃度(同じく単位: mg/mL)である。図1のデータは、HPbCD濃度が増加するほど、より大量の25HC3Sが可溶化されることを示している。25HC3Sを可溶化するために必要なHPbCDの相対量は、mg/mL基準で約6対1の比である。例えば、400mg/mLのHPbCD溶液は、66mg/mLの25HC3Sを可溶化する。この比は、25HC3Sの低溶解度から高溶解度まで一定である。30mgの25HC3Sの皮下組織内(SC)投与を目的とし、臨床投薬量が1mL以下である場合、250mg/mLのHPbCDで可溶化した30mg/mLの25HC3S溶液を投与することができる。30mgの25HC3Sの静脈内ボーラス注射を目的とし、ボーラス注射投薬量が6mL以下である場合、42mg/mLのHPbCDで可溶化した5mg/mLの25HC3S溶液を投与することができる。
【0207】
図2は、水中のHPbCD及びSBECD濃度の関数としての25HC3Sナトリウム塩の最大平衡溶解度のプロットである溶解度相図である。縦座標(Y軸)は薬物溶解度(単位: モル)であり、横座標(X軸)はHPbCD及びSBECD濃度(同じく単位: モル)である。図2に示した通り、両方のシクロデキストリンは、モル基準で、水中で25HC3Sを同程度に可溶化することが等しく可能である。
【0208】
複数の温度におけるHPbCDによる水中での25HC3Sの溶解度
大量の25HC3Sを可溶化し、安定性に対するpH変化を最小にするために少量の緩衝剤(10nMリン酸緩衝剤)を含有するための最適濃度のHPbCDは、250mg/mLのHPbCDである。水中の30mg/mLの25HC3Sナトリウム塩、250mg/mLのHPbCD及び10mMリン酸ナトリウム緩衝剤の溶液は、約320mmol/kgの重量モル浸透圧濃度を有する。等張溶液は、270~340mmol/kgの範囲である。250mg/mLを超える、より高濃度のHPbCDと、30mg/mLを超える濃度の25HC3Sは、高張液をもたらす。高張液は、皮下注射及び筋肉内注射の際に疼痛を引き起こすことがある。逆に、250mg/mLをはるかに下回る濃度のHPbCDと、30mg/mLをはるかに下回る濃度の25HC3Sは、非経口剤形での予想範囲に等張性をもたらすために、塩化ナトリウム又はマンニトールなどの等張剤を添加することを必要とする。
【0209】
30mg/mLの25HC3Sナトリウム塩と、250mg/mLのHPbCDと、10mMのリン酸緩衝液とを含有する最適な製剤は製造及び保存の温度において十分な溶解度を有することを確認するために、溶解度実験を5℃、15℃及び25℃で行った。0、50、100、250及び400mg/mLのHPbCDを含有する、pH7.6の10mMリン酸ナトリウム緩衝液中において、合計5つの25HC3S懸濁液を調製した。懸濁液を最初に超音波処理し、次に撹拌した。次に、各懸濁液(HPbCDを含まない懸濁液については40mL、残りの懸濁液については20mL)を3つのバイアルに均等に分け、5℃、15℃及び25℃/60%相対湿度(RH)で安定チャンバー内に保存した。
【0210】
各懸濁液を安定チャンバー内で小型スピンバー及び電子スターラーによって撹拌し続けた。1日目及び3日目に、各懸濁液の半分(HPbCDを含有しない試料については約6mL、HPbCDを含有する残りの懸濁液については3mL)を、3又は5mLの使い捨て注射器によりバイアルから抜き取った。次に、懸濁液を濾過するために、注射器フィルターを注射器に取り付けた。濾過中の試料の温度変化を最小限に抑えるために、注射器及びフィルターを、使用前に、それぞれの安定チャンバー温度で平衡化した。濾過膜が25HC3Sで十分に飽和されるようにして残りの濾液からの薬物の吸収を防ぐため、HPbCDを含有しない試料については約3mLの濾液、HPbCD中の残りの懸濁液については1mLの濾液を廃棄した。次に、HPLC分析のために約0.5mL~1.5mLの濾液を収集した。3日目に、残りの濾過部分のpHを測定した。逆相HPLCを使用して溶解度試料中の25HC3Sの濃度を測定した。
【0211】
3日目の溶解度の結果を表3に示す。結果は、HPbCDの存在下での25HC3Sの溶解度は5℃~25℃において温度依存性ではないことを示している。これにより、25HC3S溶液製剤を複数の異なる長期保存条件で保存し、25HC3Sの物理的及び化学的安定性を最大にすることが可能になる。
【0212】
【表3】
【0213】
水中での25HC3Sと他のシクロデキストリンの溶解度
それぞれpH7.4の10mMリン酸緩衝液を含有する、5及び10%(重量/体積)のα-シクロデキストリン(α-CD)、1%(重量/体積)のβ-シクロデキストリン(β-CD)、並びに5及び10%(重量/体積)のγ-シクロデキストリン(γ- CD)における、1日目の周囲室温での25HC3Sの溶解度を、HPLC法により決定した。
【0214】
方法
α- CD、β- CD及びγ- CDを実験に使用した。リン酸一ナトリウム一水和物及びリン酸二ナトリウム(無水)を使用して、pH7.4の10mMリン酸緩衝液を調製した。
【0215】
溶解度実験用の試料調製:
約30~50mgの25HC3Sを20mLバイアル(合計5つのバイアル、各ビヒクルにつき1バイアル)に量り取った。pH7.4の10mMリン酸緩衝液を含有する、5及び10%(重量/体積)のα-CD、1%(重量/体積)のβ-CD、並びに5及び10%(重量/体積)のγ-CDのそれぞれ約8mLを、各バイアルにそれぞれ添加した。試料を超音波処理し、ボルテックスして薬物を分散させた。これら5つのバイアル中の薬物懸濁液を周囲室温(20.0~22.2℃)にて500rpmで撹拌した。1日目に、各懸濁液のそれぞれ約1.2mLを、2mLコニカルバイアル(各懸濁液につき合計5つのバイアル)に移し、12,000rpmで10分間遠心分離した。(濾過前の)各懸濁液からの上清約1mLをHPLC分析に使用した。同じ懸濁液から得たバイアルの残りの上清を一緒に混合し、ナイロンメンブレンを有する直径13mmの0.45μmアクロディスク注射器フィルターを通して濾過した。濾液の最初の2mLを廃棄した。次の2つの連続した濾液0.5~0.7mLをそれぞれ、分析のためにHPLCバイアルに収集した。
【0216】
水中でのα、β及びγCDの溶解度は、それぞれ12.9、1.8及び24.9%(重量/体積)である(25℃で50%(重量/体積)という、水中でのHP-β-CDの溶解度と比較すると比較的低い)。したがって、pH7.4の10mMリン酸緩衝液中の5及び10%(重量/体積)のα-CD、1%(重量/体積)のβ- CD、並びに5及び10%(重量/体積)のγ-CDという、それらの溶解度限界内にある合計5つのビヒクルを調製した。これら5つのビヒクル中の25HC3Sの溶解度を決定し表4にまとめた。25HC3Sは、1%(重量/体積)のβ-CDにおいて、最も高い溶解度(2177.4 Hg/mL)を示している。5及び10%(重量/体積)のα-CD中での25HC3Sの溶解度は非常に低く、それぞれ32.9及び45μg/mLである。5及び10%(重量/体積)のγ-CD中での25HC3Sの溶解度は、それぞれ564.4及び152.1μg/mLである。実験を繰り返して、5%(重量/体積)γ-CD中での25HC3Sの溶解度は、実際には10%(重量/体積)γ-CD中での溶解度より大きいことを確認した。繰り返した実験から得た、5及び10%(重量/体積)のγ-CD中での25HC3Sの溶解度は、それぞれ292.4及び98.2μg/mLであった。繰り返した実験から得た溶解度は、最初の実験と比較してわずかに低かった(おそらく溶解度が平衡溶解度でないことによる)。ただし、溶解度の傾向(5%(重量/体積)γ-CD中での溶解度がより大きいという傾向)が確認された。
【0217】
【表4】
【0218】
[実施例2]
25HC3Sシクロデキストリン製剤の製造
I. 注射用25HC3Sナトリウム塩の製造(構成後30mg/mL)
滅菌ビヒクルの調製(250mg/mLのHPbCDと水中での10mMリン酸緩衝液)
注射用滅菌水(USP)(6.14kg)を10Lステンレス鋼容器に添加した。リン酸ナトリウム一塩基性一水和物(USP)(2.05g)及びリン酸二ナトリウム(無水)(USP)(8.42 g)を、オーバーヘッドミキサーにより100~200rpmで最短5分間ゆっくりと撹拌しながら、水に添加して透明な溶液を生成した。HPbCD(NF)(1851.85g)をゆっくりと撹拌しながら15分かけて少しずつビーカーに添加した。速度を250~350rpmに上げて撹拌をさらに最低30分間行い、透明な溶液を形成した。溶液を0.22ミクロンフィルターに通して濾過した。濾過したビヒクル(7mL)を10mLガラスバイアルに充填し、これを20mmの栓で密封し、クリンプシールした。ビヒクルバイアルを約28~32 kGyのガンマ線照射で滅菌した。
【0219】
注射用25HC3Sの調製(186mg/バイアル)
25HC3Sナトリウム塩を、Fluid Energy Model 00 Jet-O-Mizerジェットミルに通すことによって微粉化した。微粉化した原薬(186mg)を10mLガラスバイアルに添加し、20mmの栓で密封し、クリンプシールした。25HC3S粉末バイアルを約28~32kGyのガンマ線照射で滅菌した。
【0220】
注射用25HC3Sナトリウム塩の構成(構成後30mg/mL)
250mg/mLのHPbCD及び10mMのリン酸緩衝液からなる滅菌ビヒクル(6.0mL)を、25HC3S微粉化粉末のバイアルに添加した。混合物を15分間振盪して溶液を調製し、30mg/mLの25HC3Sナトリウム塩濃度を得た(薬物の溶解時に3%の希釈が可能である)。構成された生成溶液は、静脈内ボーラス、静脈内注入(薬学的に適切な希釈剤で希釈する場合)、筋肉内経路、皮下経路、又は経口経路で投与することができる。HPbCDと同じモル比でSBECDを用いて、同様の製剤を調製することができる。
【0221】
注射用25HC3Sナトリウム塩(構成後30mg/mL)の安定度実験
2から8℃~40℃/75%RHにおける注射用25HC3S(構成後30mg/mL)について、6カ月間の安定度データを表5に示す。このロットの25HC3S粉末、及びそれを構成するために使用したビヒクルを、約28~32kGyでガンマ線滅菌した。データは、2~8℃で保存したときの12カ月の再試験日に対応する。
【0222】
【表5-1】
【0223】
【表5-2】
【0224】
II. 注射用25HC3Sナトリウム塩(30mg/mL、即時使用溶液)の製造
注射用滅菌水(USP)(331.426 g)を500mLガラス容器に添加した。リン酸ナトリウム一塩基性一水和物(USP)(110.50mg)及びリン酸二ナトリウム(無水)(USP)(453.87mg)を、スピンバーを用いて最短5分間ゆっくりと撹拌しながら、水に添加して透明な溶液を生成した。HPbCD(NF)(100.036g)を撹拌しながらゆっくりと添加した。混合物を最短30分間撹拌して透明な溶液を形成した。溶液を0.2ミクロンフィルターに通して濾過した。ビヒクル濾液(270.096g)をガラス容器に移した。25HC3S原薬(8.116g;微粉化されていない)を、撹拌しながらビヒクルと共にガラス容器に5分かけて添加した。透明な溶液を0.22ミクロンフィルターに通して滅菌濾過した。滅菌濾過溶液(1.8mL)を2mLガラスバイアルに充填し、13mmの栓で密封し、クリンプシールした。あるいは、より大量の製剤を、より大きなサイズのガラスバイアルに充填し、栓をして密封することができる。即時使用生成溶液は、静脈内ボーラス、静脈内注入(薬学的に適切な希釈剤で希釈する場合)、筋肉内経路、皮下経路、又は経口経路で投与することができる。HPbCDと同じモル比でSBECDを用いて、同様の製剤を調製することができる。
【0225】
注射用25HC3Sナトリウム塩(30mg/mL、即時使用溶液)の安定度試験
30mg/mLの公称濃度で調製した25HC3Sナトリウム塩の溶液と、250mg/mLのHPbCD及び水中での10mMリン酸ナトリウム緩衝液とを、-20℃~60℃の安定状態(栓及びクリンプシールを取り付けた2mLガラスバイアル中の1.8mL)に置いた。種々の時点で、試料を逆相HPLC法によりアッセイし、25HC3S濃度を決定した。各保存条件でT=0に比較した場合の残存25HC3Sの百分率を表6に示す。データは、25HC3Sが、-20℃~25℃/60%RHで、2年間にわたり、許容できる安定度を有し得ることを示している。
【0226】
【表6】
【0227】
III. 注射用25HC3Sナトリウム塩(30mg/mL、水を用いて構成するための凍結乾燥粉末)の製造
10mMリン酸ナトリウム緩衝液を用いて又は用いずに、20mg/mLマンニトールを用いて又は用いずに、250mg/mLのHPbCD中の30mg/mLの25HC3Sナトリウム塩溶液を、水中で調製した。これらの溶液を0.1~0.2ミクロン膜に通して無菌状態で滅菌濾過した。製剤(1mL)を2mLガラスバイアルに充填した。バイアルを凍結乾燥機に入れ、種々の冷却/凍結速度(0.3~2℃/分)及び温度(5℃~-45℃)、乾燥速度(0.2~1℃/分)及び温度(-30℃~20℃)、時間(1500~1800分)、並びに真空(75~200mtorr)サイクルを用いて、凍結乾燥ケーキを調製した。次に、1mLの注射用水の添加により、凍結乾燥ケーキを復元した。5%ブドウ糖、0.9%塩化ナトリウム、及び乳酸リンゲル液などの、他の薬学的に許容される滅菌水溶液も、注射用製品を復元するために使用することができる。手動での振盪により、復元時間を2~4分の間で変化させた。復元製品溶液は、静脈内ボーラス、静脈内注入(薬学的に適切な希釈剤で希釈する場合)、筋肉内経路、皮下経路、又は経口経路で投与することができる。HPbCDと同じモル比でSBECDを用いて、同様の製剤を調製することができる。
【0228】
[実施例3]
アセトアミノフェン(APAP)過剰摂取に対する25HC3S投与の効果
材料及び方法
APAP過剰摂取の症候を処置するための25HC3Sの能力を検査した。12週齢のオスのC57BL/6Jマウスを一晩絶食させ、APAP: 死亡率実験用に600mg/kg(高用量)又は肝機能及び遺伝子実験用に350mg/kg(低用量)を(腹腔内)注射した。対照マウスには、ビヒクル(20%(体積/体積)のα-プロピレングリコール、4%(重量/体積)のシクロデキストリン(滅菌10%(重量/体積)グルコース中の粉末化ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン)のみを与えた。
【0229】
ビヒクル中に25mg/kgの25HC3Sナトリウム塩を含む組成物を、APAP投与の0.5時間後に実験マウスに静脈内投与した。高用量マウスの死亡率をモニタした。低用量マウスにおいて、肝機能マーカーのアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(ALK)及び乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を血清中で測定した。遺伝子発現に対する影響を、定量的リアルタイムPCRによって決定した。JC1染色及びフローサイトメトリーを用いて膜電位を測定した。
【0230】
結果
死亡率実験
死亡率の結果を図3に示す。図示の通り、600mg/kgのAPAP過量摂取の5日後に、25HC3Sによる処置を受けなかった全てのマウスが死亡した。著しく対照的に、25HC3S処置を受けたマウスのうちの1匹だけが死亡した。
【0231】
肝機能
低用量マウスの1つの群に、過量摂取の0.5時間後にビヒクル中の25HC3Sによる処置を与えた。この群において、処置の24時間後に肝機能マーカーを評価した。肝機能マーカー、ALT、AST及びLDHは、典型的に、肝機能異常又は不全時に上昇し、図4A~4Dに示されているように、これら3つのマーカーは、350mg/kgのAPAPを与えて処置を与えなかった対照マウスにおいて有意に上昇した。しかし、ビヒクルのみで処置したマウスでは値が低下し、ビヒクル+25mg/kgの25HC3Sで処置したマウスでは値はほぼ正常であった。測定値の差は統計的に有意なものであった。
【0232】
遺伝子発現の変化
ビヒクル及びビヒクル+25HC3S投与の24時間後の低用量マウスにおける遺伝子調節の変化を調査した。12週齢のオスのC57BL/6Jマウスに、腹腔内注射により350mg/kgのAPAPを与え、30分後に7.6%グルコース/H2O(C)又はビヒクル(20%PG/4%HCD/7.6%グルコース、P)若しくは25HC3S(3S)を受けた。APAP注射の24時間後、肝臓組織を採取し、全mRNAを抽出し、RT2Profiler(商標)PCRアレイアッセイを用いて分析した。結果を図5A~Dに示し、最も高度に調節されている遺伝子の発現レベルを表7及び表8に示す。列挙された遺伝子はアポトーシス及び/又は免疫系調節に関与している。
【0233】
【表7】
【0234】
【表8】
【0235】
これらの結果は、25HC3Sの投与がアポトーシス及び免疫系調節に関与する遺伝子の発現に影響を与えることを示している。特に、抗アポトーシス遺伝子は上方制御(上方調節)されており、アポトーシス促進遺伝子は下方制御(下方調節)されている。
【0236】
[実施例4]
マウスのイミキモド(IMQ)誘発乾癬モデルにおける、皮内投与された25HC3Sの抗炎症活性の評価
材料及び方法
動物
実験の対象は40匹のオスのBALB/cマウス(18~22g)であった。72時間の検疫期間中に臨床的苦痛、疾患又は損傷の徴候を示さなかった動物を実験のために受け入れ、全体を通して日常的な動物の世話を行った。全てのマウスの背中の約1.5cm×2cmの面積を剃毛した。
【0237】
製剤
25HC3Sの2つの製剤、製剤A及び製剤Bを実験に使用した。
【0238】
製剤Aは、溶液ビヒクル(250mg/mLのヒドロキシプロピルベータデクス(β-シクロデキストリン,2-ヒドロキシプロピルエーテル、β-シクロデキストリンの部分置換ポリ(ヒドロキシプロピル)エーテル)及び滅菌水中の10mMリン酸ナトリウム緩衝液)中の25HC3Sナトリウム塩(30mg/mL)の透明溶液であった。ビヒクルを2~8℃の倉庫に保存し、使用直前に25HC3Sと混合する前に室温に30分間置いた。ビヒクルA中の25HC3Sの溶解は迅速であり、混合時に完了したように見えた。溶液中の25HC3Sナトリウム塩の濃度は30mg/mlであった。
【0239】
製剤Bは、懸濁液ビヒクル(30mg/mLのポリエチレングリコール3350、3mg/mLのポリソルベート80、7.5mg/mLのNaCl、及び滅菌水中の10mMリン酸ナトリウム緩衝液)中の25HC3Sナトリウム塩(25mg/mL)の乳白色懸濁液であった。Fluid Energy Model 00 Jet-O-Mizer(商標)を使用して、25HC3Sを約5ミクロンの平均粒径(Hydro 2000S分散セルを備えたMalvern Mastersizer 2000により測定)に粉砕した。ビヒクルを2~8℃の倉庫に保存し、使用直前に25HC3Sと混合する前に室温に30分間置いた。製剤Bは懸濁液であるので、以下の混合プロトコールを使用した。予め量り取った粉末化25HC3Sを含有するバイアルに3.0mLの懸濁液ビヒクルを添加した。バイアルをフラットベッドシェーカーで15分間振盪して均質に白色の懸濁液を作り、次に手動で5~10回倒立させ、さらに5分間振盪した。さらに、投与直前に、バイアルを手動で5~10回倒立させ、懸濁液の均一性を確保した。
【0240】
IMQ、ビヒクル及び25HC3Sの投与
乾癬様の症状を誘発するために、IMQを、各マウスの剃毛した背中の皮膚(50mg)及び右耳(12.5mg)に、1日1回朝に局所適用した。
【0241】
ビヒクル中の25HC3S又はビヒクル単独を、皮内注射により、0日目及び1日目に1回投与し、3日目及び4日目に1回投与した。注射はその日のIMQ適用の約6時間後に行われた。皮内注射(50μL/注射/マウス)を背部皮膚病変部位に与えた。
【0242】
モニタリング及び測定パラメーター
マウスを苦痛の徴候についてモニタし、背部病変の毎日の写真を撮った。背部皮膚の紅斑、鱗屑化、及び厚さを、独立した採点者(盲目的)によって0~4の尺度で毎日採点した。ここで、0=なし; 1=わずか; 2=中程度; 3=顕著; 及び4=極めて顕著である。累積スコア(紅斑+鱗屑化+肥厚)を、炎症の重症度の指標として計算した(0~12の尺度)。浮腫の指標として耳及び背中の皮膚厚を電子ノギスで測定した。
【0243】
終了(6日目)
実験における全てのマウスを麻酔し瀉血した。血液を採取し、血清に処置し、分析に使用するために-80℃で保存した。
【0244】
組織病理学
終了時に、剃毛した背中の皮膚を各動物から採取し、秤量し、切断して2等分にした(脊椎に沿って中央から半分に切った)。組織病理学のために、一方の半分を10%の中性緩衝ホルマリン中に保存した。サイトカインTNFα及びIL-17の測定のために、背部皮膚の他方の半分を均質化した。
【0245】
結果
この実験の結果を図7並びに図8A及び図8Bに示す。図7に示した通り、製剤B懸濁液で処置したマウスでは、背部皮膚の紅斑(発赤)が有意に減少した。背部皮膚の紅斑は製剤Aで処置したマウスでは有意には減少せず、右耳の紅斑は製剤A又はBで処置したマウスでは有意には減少しなかった。
【0246】
図8A及び図8Bは、それぞれ、ELISAによって測定した乾癬皮膚/病変におけるIL-17及びTNFαタンパク質レベルを示す。図示の通り、IL-17は、製剤B群ではそれぞれのビヒクル群と比較して、より低い傾向を示したが、製剤A及びそのビヒクル群では大きな違いは観察されなかった。対照的に、TNFαタンパク質レベルは、ビヒクルと比較して製剤A処置マウスの皮膚組織において適度に減少したが、製剤B処置マウスではその各ビヒクルと比較して増加した。これらの結果は矛盾するように思われるが、この実験の1つの注意点は、組織が採取された場所(病変の小さい領域に含まれる皮内注射の部位か、乾癬病変の非露出領域か)に応じて、処置群の中でタンパク質レベルは大きく変わり得るということである。全体として、本発明者らは、25HC3Sが乾癬の齧歯類モデルにおいて紅斑の減少を促進することを見出した。
【0247】
[実施例5]
LPSエンドトキシンショックの齧歯類モデルにおける生存に関する25HC3Sの評価
材料及び方法
動物
実験の対象は、20匹のオスのC57BL/6Jマウス(20~22週齢、27~35g)であった。72時間の検疫期間中に臨床的苦痛、疾患又は損傷の徴候を示さなかった動物を実験のために受け入れ、全体を通して日常的な動物の世話を行った。
【0248】
製剤
25HC3S及びその各ビヒクルの懸濁液製剤を実験に使用した。ビヒクルは、4%(重量/体積)のヒドロキシプロピルベータデクス、10%(重量/体積)のブドウ糖、及び滅菌水中の10mMリン酸ナトリウム緩衝液の溶液であった。ビヒクルを2~8℃の倉庫に保存し、投薬前に室温で30分間置いた。
【0249】
25HC3Sナトリウム塩をビヒクル溶液中に予め溶解させて5mg/mLの薬物濃度を得た。25HC3S溶液は、投薬開始時に即時使用ができるものであった。さらに25HC3S溶液を2~8℃の倉庫に保存し、マウスに投薬する前に室温で30分間置いた。
【0250】
25HC3S及びLPSエンドトキシの投与
ビヒクル中50mg/kgの25HC3S又はビヒクル単独(N=10/群)を、LPS送達の2時間前に、腹腔内注射によりマウスに1回投与した。全身性敗血症様症状を模倣する急性炎症反応を誘発するために、半致死量のLPS(5mg/kg)を、尾部静脈への静脈内注射により投与した。
【0251】
モニタリング及び測定パラメーター
25HC3S及びLPS処置後の6日間の生存についてマウスをモニタした。6日間の観察期間中、動物の死亡率のチェックを1日2回行った。粗大運動及び行動活動、並びに外観の観察可能な変化を含む、変化した臨床徴候について動物を検査した。瀕死の動物及び過度の疼痛及び苦痛を経験している動物は、実験責任者、担当獣医師、又は他の有資格者の裁量により安楽死させた。
【0252】
結果
死亡率の結果を図9に示す。5mg/kgのLPS送達の6日後には、ビヒクル処置対象の70%(N=7)が死亡した。著しく対照的に、25HC3S処置を受けたマウスの40%(N=4)のみが死亡した。要約すると、25HC3Sにより、LPS誘発エンドトキシン曝露による敗血症の動物モデルにおける生存率が改善した。
【0253】
[実施例6]
追加の例示的製剤及び代表的実験の説明
表9は実施例6A~6Dを要約したものであり、これらの実施例について以下で詳細に検討する。
【表9】
【0254】
[実施例6A]
胃腸管急性放射線症候群(gastrointestinal acute radiation syndrome)(GI-ARS)の齧歯類モデルにおける臨床徴候及び生存率に対する25HC3Sの評価
材料及び方法
動物
以下で概説する2つの実験の対象は、(A)実験1: 20匹のオスのC57BL/6Jマウス(8週齢、23~28g)、及び(B)実験2: 16匹のオスのC57BL/6Jマウス(8週齢、23~28g)であった。到着後、全ての動物を健康評価に供し、標準的操作手順に従い、臨床獣医師の監督下で作業する技術スタッフにより、評定を行った。動物を実験環境に慣れさせるため、動物の受け入れと照射との間に、少なくとも11日間の順応期間を設けた。
【0255】
製剤
25HC3Sナトリウム塩及びその各ビヒクルの懸濁液製剤を実験に使用した。ビヒクルは、75%(体積/体積)の0.9%(重量/体積)塩化ナトリウム及び25%(体積/体積)の滅菌水中の、4%(重量/体積)のヒドロキシプロピルベータデクスの溶液であった。25HC3Sナトリウム塩をビヒクル溶液中に予め溶解させて、5mg/mLの薬物濃度を得た。25HC3S溶液は、投薬開始時に即時使用ができるものであった。実験1では、ビヒクルを2~8℃で保存し、25HC3S溶液を実験前及び実験期間全体を通じて室温で保存した。実験2では、ビヒクルと25HC3S溶液の両方を2~8℃で保存した。
【0256】
部分遮蔽を伴う全身照射及び25HC3S投与
高放射線量(>10Gy)での部分遮蔽照射(PSI)曝露は、マウスにおいてGI-ARSを模倣するための確立された手法である。専用設計された係留具内で、部分遮蔽しながら動物を全身照射に曝露し(0日目)、マウスの左骨盤肢を伸ばし、弾性バンドで定位置に維持した。左骨盤肢を低融点鉛構造体(cerrobend structure)で遮蔽した。実験1では、部分遮蔽と共に15.78Gy(LD50/22)の全身照射線量を動物に与えたのに対して、実験2では、15.16Gy(LD25/22)にマウスを曝露した。60Coガンマ線源の線量率を、毎分約60cGyに固定した。PSI後の両実験のin-life部分は22日間であった。
【0257】
実験1: マウス(N=20/群)に対し、注射器に取り付けた27G針を使用して肩甲骨間に皮下注射を行うことにより、照射翌日(1日目)から7日間連続して、25HC3S(又はビヒクル)を1日1回投与した。用量体積は全ての投薬経路で10mL/kgであり、用量は最新の体重に基づいて調節した。
【0258】
実験2: マウス(N=16/群)に25HC3S(又はビヒクル)を合計250mg/kgの用量で投与した。注射器に取り付けた27G針を使用して肩甲骨間に皮下注射することにより、照射の1日後に1回、及び4日目に1回、動物に薬物(又はビヒクル)を与えた。用量体積は全ての投薬経路で10mL/kgであり、用量は最新の体重に基づいて調節した。
【0259】
in-lifeモニタリング及び測定パラメーター
実験の全段階において、ケージ側の観察と同時に死亡率チェックの結果を記録した。5日目から8日目最後までの夜間に少なくとも1回、全ての動物の死亡率チェックの結果も記録した。臨床徴候(健康障害、行動の変化、毛皮の色/むらの変化など)もまた、全ての生存動物に関して、観察期間全体を通じて1日2回記録した(表10に記載)。必要と思われる場合には追加の臨床観察を行った。可能であれば、全ての観察結果をケージ側の臨床徴候又は詳細な臨床検査として記録した。各動物について、少なくとも以下のように詳細な臨床検査を行い、動物の割り当ての前、照射の1日前(1日目)、次に観察期間全体を通じて3日ごとに詳細な臨床検査を行った。
【0260】
終了
治癒できない疼痛又は苦痛のある動物は、実験責任者の裁量で、又は可能であれば実験責任者及び実験依頼者と相談した上で臨床獣医師の臨床的判断に基づいて、安楽死させた。末期前に安楽死させた動物又は死亡した動物は、さらに検査することなく適切に処分した。安楽死のエンドポイントは以下の通りである。
【0261】
安楽死の基準
・以下の症候のいずれか1つの観察が安楽死の正当理由であった。
・不活動性: ケージ内に横たわり、接触に対して反応が低下又は消失している状態。
・24時間以内に消化管又は他の開口部から重度の出血があったこと。
・進行性感染症
・以下の症候のうち2つの組み合わせが観察されたこと。
・呼吸困難: 喘ぎながらの呼吸
・異常な活動: 歩行困難、食物及び水の摂取量の減少、自傷、24時間以上にわたり動きが鈍くなった状態
・異常な外観: 荒れた毛皮、頭を下げた状態、腹部を曲げ込んだ姿勢、目及び/又は鼻の周囲の滲出物
・神経障害の証拠(例: 頭の傾き又は回転などの重度の前庭症候群)
・重度傷害又は症状、例えば、限定されないが、骨折、進行性の組織壊死又は重度の内出血が観察されることも安楽死の正当理由となっていたが、2つの実験のいずれにおいても観察されなかった。
【0262】
実験の完了/最後の観察(22日目)の際に、全ての生存動物を標準的操作手順に従って安楽死させ、死骸を適切に処分した。
【0263】
結果
実験1では、処置群とビヒクル群との間で死亡率に有意差はなかった(データ示さず)。生存率は、両群とも7日目までに45%(N=9/20)であった。ただし、25HC3S処置動物においてin-life部分の5~22日目を通じて観察された臨床徴候/マウスの平均数は、ビヒクル処置群の値よりも統計的に低かった。結果を図10に示す。
【0264】
次の実験(実験2)では、前回の実験1での用量が死亡率に対する25HC3Sの影響を評価するには厳しすぎると判断されたため、PSI用量をLD25/22に下げた。投薬計画についても、in-life部分の1日目及び4日目における2回の投薬に減らした。図11に示すように、生存率は、ビヒクル(68.75%)と比較して、25HC3S処置群(81.25%)において18.75%改善した。
【0265】
要約すると、PBI(15.16~15.78Gy)に曝露させたオスC57BL/6Jマウスに50mg/kg/用量の用量レベルで25HC3Sの溶液製剤を皮下投与した場合、2つの独立した実験において、それぞれのビヒクル群と比較して、臨床徴候の減少又は生存率の改善が見られた。このことはGI-ARS処置の有効性を支持するものである。
【0266】
【表10】
【0267】
[実施例6B]
外科的に誘発された敗血症の齧歯類モデルにおける生存に対する25HC3Sの評価(1つの代表的PD実験)
材料及び方法
動物
実験の対象は、10匹のオスのCDラット(12~13週齢、400~450g)であった。順応期間後に臨床的苦痛、疾患又は傷害の徴候を示さなかった動物を実験のために受け入れ、全体を通して日常的な動物の世話を行った。
【0268】
製剤
25HC3Sナトリウム塩及びその各ビヒクルの懸濁液製剤を実験に使用した。ビヒクルは、70%(体積/体積)の0.9%(重量/体積)塩化ナトリウム及び30%(体積/体積)滅菌水中の、40mg/mLのヒドロキシプロピルベータデクスと10mMのリン酸ナトリウム緩衝液との溶液であった。25HC3Sナトリウム塩をビヒクル溶液中に予め溶解させて、5mg/mLの薬物濃度を得た。25HC3S溶液は、投薬開始時に即時使用ができるものであった。ビヒクルと25HC3S溶液の両方を室温で保存した。投薬前に、25HC3S溶液が透明であり沈殿がないことを確認した。あるいは、沈殿が観察された場合、溶液を室温で10分間超音波処理して粒子を溶解させた。
【0269】
盲腸結紮穿刺(Cecum Ligation Puncture)(CLP)手術及び25HC3S投与
CLP手順は、臨床的敗血症の進行及び特徴を調べるための、確立され広く使用されている手法である。手術日に、動物の体重を量り、それらの動物のベースライン温度をモニタした。動物をイソフルランで麻酔し、足指をつまんで麻酔深度を確認した。手術前にジピロン(鎮痛薬)を皮下投与した。2cmの正中切開を行い、盲腸を体外に出した。盲腸を回盲接合部の遠位側において、盲腸の長さの10%の位置で緩く結紮した。次いで、14G針を使用して盲腸を穿刺し、その後、対腸間膜側に沿って1.3mmメス刃で切込みを入れ、直径3mmの穴を開けた。最初の穿刺部位から約2~3cm離れたところで手技を繰り返した。穿孔部位の開存性を確保するために、盲腸の糞便物の半分を穏やかに絞り出した。盲腸を腹腔に戻し、腹部切開部を筋肉層用Vicryl 4-0で閉じ、皮膚をステープルで閉じた。回復のために動物を加温パッドの上に置いた。手術後30分以内に、背中の肩甲骨領域に皮下投与することにより、5mL/kgの注射量で30mg/kgの25HC3S(又はビヒクル)を動物(N=5/群)に与えた。意識が十分に回復した後、動物をケージに戻した。25HC3S(又はビヒクル)の処置は手術日にのみ行い、実験の残り期間では繰り返さなかった。
【0270】
モニタリング及び測定パラメーター
CLP手術及び25HC3S処置後3日間の生存についてラットをモニタした。観察期間中、動物の死亡率の確認を1日2回行った。粗大運動及び行動活動、並びに外観の観察可能な変化を含む、変化した臨床徴候について動物を検査した。体重、体温及び動物の全体的外観を24時間ごとに等級付けして、以下の項目からなる累積疾患スコアを得た。
【0271】
【表11】
【0272】
終了
死亡率、「臨床徴候」及び疼痛レベルについて動物をモニタした。表11の「臨床徴候」のカテゴリーのいずれかにおいてスコア「3」に到達したと思われる場合、又は任意の2つのカテゴリーの徴候の「4つ」の組み合わせに到達したと思われる場合、それらの動物は臨床エンドポイントに到達したと考え、生存曲線分析について「死亡」と考え、人道的に安楽死させた。さらに、CLP手術の3日後に、残りの全てのラットの体重を量り、CO2吸入によりラットを人道的に安楽死させた。結紮部位を確認するために一般的な剖検を行った。
【0273】
結果
死亡率の結果を図12に示す。CLP手術及び投薬の2日(48時間)後に、ビヒクル処置ラットの100%(N=5/5)が死亡した。著しく対照的に、25HC3S処置を受けたラットの60%(N=3/5)のみが実験期間(3日間又は72日間)の最後に死亡した(p値=0.0975、ログランク/マンテル・コックス検定)。要約すると、25HC3Sの単回投与は、外科的に誘発されたエンドトキシン曝露によるラット敗血症モデルにおける生存率を改善した。
【0274】
[実施例6C~6D]
前臨床薬物動態注射実験
上記の表9に要約したように、25HC3S製剤を用いて、ハノーバーウィスターラット及びビーグル犬において、複数のPK注射実験を行った。使用した注射投与経路は、筋肉内、静脈内又は皮下であった。以下の実施例は代表的な注射実験である。
【0275】
ビーグル犬(n=5/投薬群)に、単回静脈内ボーラス注射又は単回皮下注射を与えた。実験した非経口溶液は、ビヒクル中25mg/mLの25HC3Sナトリウム塩(水中の、200mg/mLヒドロキシプロピルベータデクスと10mMリン酸ナトリウム緩衝液)を含んでいた。2.5mg/kgの静脈内用量レベルを0.1mL/kgの用量体積で投与したのに対し、20mg/kgの皮下注射用量レベルを0.8mL/kgの用量体積で投与した。投与前、投与後0.5、1、2、4、8、12、24、32及び48時間(h)の時点で、全血試料を採取し、得られた血漿試料を分析して25HC3Sレベルを定量した。in-life期間中、動物の死亡率及び瀕死状態を毎日観察し、臨床検査を毎日行った。両群に観察可能な臨床徴候はなかった。
【0276】
脈内投与では、第1の時点である0.5時間(Cmax=439ng/mL)の時点で最大濃度を観察し、平均AUClastは478ng*時/mLであり、8時間の時点ではほとんどの動物(n=4)において観察可能なレベルはなかった。皮下投与後、0.5時間の時点で、急速な吸収が観察され、12時間の時点で、全ての動物において、低いが検出可能なレベルの25HC3Sが観察された。最大観察濃度(Cmax=3936ng/mL)は、1.8時間の最大濃度まで、平均時間において観察され、AUClastは19503ng*hr/mLであった(表12)。観察した生物学的利用能は、皮下投与により0.7であると計算した。
【0277】
【表12】
【0278】
[実施例7]
ビーグル犬における25HC3Sの14日間皮下注射実験
本実験の目的は、ビーグル犬に皮下注射により1日1回14日連続で投与した場合の25HC3Sの潜在的毒性を評価することであった。ビヒクル中の25HC3Sナトリウム塩(250mg/mLのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンと洗浄用滅菌水中の10mMリン酸ナトリウム緩衝液[約pH7.6])を、ビーグル犬の3つの群(群2~4)において、1日1回14回連続して背肩甲骨(dorsoscapular)領域に皮下注射により投与した。用量レベルは、それぞれ群2、3、及び4で、3、10、及び30mg/kg/日であった。同時対照群(群1)に、同等の計画でビヒクルを与えた。用量体積は、群1、2、3、及び4について、それぞれ1、0.1、0.33、及び1mL/kgであった。各群は、オス4匹及びメス4匹から構成された。動物の死亡率及び瀕死状態を1日2回観察した。臨床検査(注射部位の観察を含む。)を、無作為抽出の日、無作為抽出の前、用量投与の前、用量投与の直後、及び用量投与の約2時間後の時点を含めて、少なくとも6日間にわたり1日1回行った。毒物動態学的評価のための血液試料を、投薬前(実験0日目のみ)、並びに実験0日目及び13日目の投与後0.5、1、2、4、8、及び24時間の時点で、全ての動物から採取した。
【0279】
全ての動物は予定された剖検まで生存した。薬物関連の臨床所見、又は体重、食物摂取、血液学、凝固、血清化学、尿検査、眼科学、又は心電図への効果はなかった。予定された剖検において薬物関連の肉眼的又は顕微鏡的所見又は器官重量の変化はなかった。
【0280】
この実験の結果に基づいて、14日連続でのビーグル犬への背肩甲骨領域の皮下注射による1日1回の25HC3S投与は、3、10、及び30mg/kg/日の用量レベルにおいて十分な許容性を示した。注射部位で認められた肉眼的及び顕微鏡的所見(線維組織形成、出血、炎症、及び壊死)は、シクロデキストリンビヒクルを投与された対照動物に特有のものであるか、又はより高頻度及び/若しくは重度のものであったが、25HC3S投与に直接的に起因する注射部位の変化は見られなかった。したがって、無毒性量 (no-observed-adverse-effect level)(NOAEL)は30mg/kg/日と考えられた。この用量レベルは、平均AUClast19,877ng*hr/mL及び平均Cmax7,753ng/mLに相当するものだった。
【0281】
[実施例8]
筋肉内臨床実験
本実施例は、25HC3Sの非経口製剤の無作為化二重盲検プラセボ対照安全及び薬物動態実験を記載する。実験は、i) 30~300mgの範囲の単回漸増用量(single ascending dose)(SAD)として、及びii)150mgを5日間毎日投与する多回筋肉内注射(IM)用量を用いた多回漸増用量(MAD)実験として、健康な対象に筋肉内注射(IM)を介して25HC3Sナトリウム塩を投与することを含んでいた(表13参照)。対象は全て男性であり、年齢は19~36歳であった。
【0282】
【表13】
【0283】
非経口溶液は、250mg/mLのヒドロキシプロピルベータデクス(NF)のビヒクル溶液で復元した30mg/mLの25HC3Sナトリウム塩; 注射用滅菌水(USP)中の0.276mg/mLのリン酸ナトリウム一塩基性一水和物(USP)及び1.136mg/mLのリン酸二ナトリウム(無水)(USP)であった。
【0284】
実験のパートA(SAD)では、非経口用量の25HC3S又は対応プラセボを、6人の健康な対象のコーホートに筋肉内(IM)投与した(二重盲検法に基づき、25HC3Sに対して4人を無作為抽出し、対応プラセボに対して2人を無作為抽出した)。初期用量は30mgであり、その後の6人の異なる対象のコーホートに90、150、及び300mgの25HC3Sを与えた。パートAでは、合計16人の対象に25HC3Sを与え、8人にプラセボを与えた。パートB(MAD)では、注射部位を変えて、10人の健康な対象の単一コーホート(二重盲検法に基づき、25HC3Sに対して8人を無作為抽出し、対応プラセボに対して2人を無作為抽出した。表14参照)に対して、非経口用量150mgの25HC3S又は対応するプラセボを5日間にわたり1日1回IM投与した。
【0285】
安全性評価は、日常的バイタルサインの定期的モニタリング、安全性ラボ試験及び12誘導心電図収集を含んでいた。対象は、スクリーニング段階、処置及び実験終了時の来院を完了した。本実験のパートI及びパートIIにおける次の用量レベルへの用量漸増は、先行する投薬の結果を検討した後に行われた。
【0286】
結果
IM投与後、全てのコーホートについて、0.5時間の第1の時点で、25HC3Sの急速な吸収が、検出可能な薬物レベルで観察された。Cmax(最大(又はピーク)血清濃度)及びAUC(曲線下面積)は、25HC3S用量の増加に伴い直線的に増加することが観察された(図13)。5回の1日用量の投与後に25HC3Sの蓄積は観察されなかった(図14)。
【0287】
疼痛強度(0~10の数値評価尺度で測定)を各注射後に評価し、注射後の特定の時点での圧痛、発赤、挫傷、腫脹及び硬結について注射部位を検査した。一般に、疼痛強度は注射後5~10分で最大となり、注射後1時間までに消散した。平均疼痛強度は0.8~3.5の範囲であり、用量との関係はほとんどなかった。注射部位の軽度の圧痛は、パートAの24人中7人の対象及びパートBの10人中9人の対象で観察された。注射部位における他の身体所見は稀に見られる程度であった(1つの注射部位が挫傷を伴い、1つの部位が発赤を伴っていた)。
【0288】
まとめ
単回投薬及び多回投薬として筋肉内注射によって与えられた25HC3Sの安全性を実験した。注射部位の軽度の圧痛以外に、単回投薬群又は多回投薬群のいずれにも薬物関連の有害事象はなく、34人の対象全員が計画通りに試験を完了し、有害な事象はなかった。
【0289】
臀部への単回IM注射は、30、90、150、及び300mgの用量で十分な許容性を示し、全身曝露は、投与した25HC3Sの用量に伴って直線的に増加した。しかし、多回投与コーホートにおいて繰り返し投薬を行っても25HC3Sの蓄積は観察されなかった。
【0290】
[実施例9]
静脈内注入適合性
注射用25HC3Sは注射溶液用の滅菌粉末である。10mLガラスバイアル及びFluroTec(登録商標)コーティング栓を使用した場合の25HC3S安定性について、倒立方向で保存したバイアルを使用して、2~8℃で最長12カ月、25℃/60%RHで6カ月、40℃/75%RHで6カ月にわたり実験した。これらの安定性データに基づいて、以下に示す通り、25HC3Sと容器施栓系との間に良好な適合性があると結論付けられた。
【0291】
同様に、10mLガラスバイアル及びFluroTec(登録商標)コーティング栓を使用した場合の注射用25HC3S用ビヒクル(ビヒクル)の安定性について、倒立方向で保存したバイアルを使用して、2~8℃で最長12カ月、25℃/60%RHで6カ月、40℃/75%RHで6カ月にわたり実験した。ビヒクルは、250mg/mLのHPbCDと10mMリン酸緩衝液であった。これらの安定性データに基づいて、以下に示す通り、ビヒクルと容器施栓系との間には良好な適合性があると結論付けられた。
【0292】
静脈内注入のための5%ブドウ糖及び0.9%塩化ナトリウムを含む構成済み25HC3S溶液と、2種類の静脈内注入セットとの間の適合性
ビヒクルで構成した後、30mg/mLの25HC3S生成物を100mLの5%ブドウ糖注射剤(USP)又は0.9%塩化ナトリウム注射剤(USP)に希釈し、30mg~150mgの範囲の25HC3S用量のIV注入として対象に投与した。この投与は、30mL/mLの25HC3S生成物の1.0mL(30mg用量用)若しくは5.0mL(150mg用量用)、又はその間の任意の容量を100mLブドウ糖又は塩化ナトリウム注入バッグに添加することによって行った。注入バッグ中の全混合物を、約2時間かけて50mL/時の速度で対象に注入した。
【0293】
物理的及び化学的適合性実験を、5%ブドウ糖及び0.9%塩化ナトリウム注入バッグ中の30mg、48mg及び300mgの25HC3S用量で行った。注射用に構成した25HC3Sを希釈するために使用した2つの注入溶液の説明を表14に記載する。5%ブドウ糖及び0.9%塩化ナトリウムで希釈した25HC3S生成物を用いて試験した2種類の注入セットの説明を表15に記載する。カタログ番号2H8480注入セットの管は、ポリ塩化ビニル(PVC)からなり、カタログ番号2C8858の管は、PVCからなる短いポンプ区間(約12インチ)を除き、ポリエチレンで裏打ちされたものであった。
【0294】
【表14】
【0295】
【表15】
【0296】
2~8℃で約16カ月間保存した、注射用25HC3S及び注射用25HC3S用ビヒクルを、適合性実験に使用した。構成後、30mg(構成生成物1.0mL)、48mg(構成生成物1.6mL)又は300mg(構成生成物10mL)を5%ブドウ糖及び0.9%塩化ナトリウムの100mL注入バッグに添加し、十分に混合し、室温及び2~8℃で24時間保存した。Hospiraの100mLブドウ糖及び塩化ナトリウム注入バッグは過充填になっていたため、平均充填量は実際には107mLであった。注入バッグごとの過充填、及び構成済み25HC3S生成物を各バッグに添加することによって導入された追加容量を考慮すると、25HC3Sの予想濃度は、注入バッグ中0.28mg/mL、0.44mg/mL、及び2.56mg/mLであった。次に、2種類の注入セットを薬物含有注入バッグに取り付け、内容物全体を室温にて約50mL/時で注入セットを通して溶出させた。T=0及び24時間の時点で、25HC3S調製注入バッグ、及び注入セットを通過した溶出液全体から、試料を採取し、HPLCを使用して25HC3S濃度について試験した。溶液の外観、重量モル浸透圧濃度(方法USP<785>を使用)、及びpH(方法USP<791>を使用)もまた、採取試料について測定した。
【0297】
5%ブドウ糖及び0.9%塩化ナトリウムに対する25HC3Sの適合性、並びに2種類の注入セットに対する25HC3Sの適合性の結果を、それぞれ表16及び表17に示す。
【0298】
【表16】
【0299】
【表17】
【0300】
室温及び2~8℃での、24時間後、及び注入セットを通した溶出後の、5%ブドウ糖中の25HC3S濃度は全て、初期T=0時点の目標濃度の1.4%の範囲内であった。0.9%塩化ナトリウム中でも同様の25HC3S安定性が観察され、室温及び2~8℃での、24時間後、及び注入セットを通した溶出後の、全ての濃度は、初期T=0時点での目標濃度の2.0%以内であった。
【0301】
T=0及び24時間の時点、並びに2種類の注入セットを通した溶出後の、5%ブドウ糖中の25HC3Sについての重量モル浸透圧濃度及びpHデータを表18に示す。T=0及び24時間の時点、並びに2種類の注入セットを通した溶出後の、0.9%塩化ナトリウム中の25HC3Sについての重量モル浸透圧濃度及びpHデータを表19に示す。ブドウ糖及び塩化ナトリウム薬物含有溶液の両方についての重量モル浸透圧濃度データは、注入バッグ中での経時的な一貫した傾向、又は注入セットを通した溶出後の一貫した傾向は示さなかった。ブドウ糖薬物含有溶液のpHもまた、経時的な特定の傾向、又は注入セットを通した溶出後の特定の傾向は示さなかった。約0.28mg/mLの25HC3Sでの塩化ナトリウム薬物含有溶液のpHは、注入バッグ中で24時間にわたる約0.5のpH単位の低下を示し、注入セットを通した溶出後に約10分の1のpH低下を見せた。約0.44mg/mLの25HC3Sでの塩化ナトリウム薬物含有溶液のpHは、注入バッグ中での経時的な一貫した傾向を示さなかったが、注入セットを通した溶出後にpHの数割の低下を見せた。約2.56mg/mLの25HC3Sでの塩化ナトリウム薬物含有溶液のpHは、注入バッグ中で経時的にpHの数割のわずかな減少を示し、注入セットを通した溶出後にpHの数割の低下を見せた。
【0302】
ブドウ糖及び塩化ナトリウム中の25HC3S溶液は、3つ全ての濃度において、注入バッグ中で24時間後、及び注入セットを通した溶出後に、無色透明の溶液として残った。
【0303】
注入バッグ及び注入セットの外観もまた、25HC3S溶液を用いた使用の前後で同じままであった。
【0304】
100mLのブドウ糖及び塩化ナトリウム、及び2種類の注入セットに対する、混合物としての30mg、48mg、及び300mgでの25HC3Sの適合性は、許容される25HC3S濃度、pH、重量モル浸透圧濃度、及び物理的外観安定度データによって実証された。
【0305】
【表18】
【0306】
【表19】
【0307】
[実施例10]
局所製剤
特注組成物を使用して、25HC3Sの局所製剤を調製した。
【0308】
製剤の評価
列挙した組成物を、相分離の徴候をモニタすることによって、室温でのテクスチャ、均質性及び物理的安定度について評価した。
【0309】
特注組成物
材料:
Carbopol(登録商標)971P(NF)及びCarbopol(登録商標)974P(NF)をLubrizol社から入手した。Tween(登録商標)80をCroda社から入手した。他の全ての添加剤をSpectrum社から購入した。
【0310】
製剤の調製:
全ての製剤は水性ゲルであった。Carbopol(登録商標)を増粘剤として使用した。皮膚浸透促進剤として、オレイン酸、HPbCD、及びプロピレングリコール(PG)を使用した。Tween(登録商標)を界面活性剤として使用した。トロラミンを使用して製剤のpHを調整した。
【0311】
25HC3Sを、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HPbCD)の25%溶液に溶解させ、次に、添加剤の残りと混合した。完全にゲル化する前に、薬物混合物を増粘剤(Carbopol(登録商標))に添加した。
【0312】
製剤を表20に示す。表21に製剤の外観及び物理的安定度を示す。各製剤の物理的安定度は調製日からの値である。
【0313】
【表20】
【0314】
【表21】
【0315】
[実施例11]
250mg/mLのHPBCD製剤中30mg/mLの25HC3Sの化学的及び物理的安定度に対する、種々の濃度のリン酸及びホウ酸緩衝液の効果
【0316】
背景
pH7.5~8.1の10、20、50及び100mMリン酸緩衝剤及びpH9.4の10及び50mMホウ酸緩衝剤を含有する、250mg/mLの2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HPBCD)中30mg/mLの合計6つの25HC3S製剤を、安定度実験のために調製した。製剤の化学的安定度(25HC3Sの%残存として測定)及び物理的安定度(重量モル浸透圧濃度、pH及び外観)を、加速条件下で、80℃で7日間まで、及び60℃で29日間までモニタした。
【0317】
材料
25HC3Sを40メッシュスクリーンに通して篩にかけ、製剤調製及びHPLC分析用の較正標準調製に使用した。Kleptose(登録商標)HPB(HPBCD、ヒドロキシプロピルベータデクス、非経口グレード、EP-USP/NFグレード)を、Roquette America, Inc.から入手した。リン酸ナトリウム一塩基性一水和物(NaH2PO4.H2O)(USP、BPグレード)をSpectrum Chemicals社から入手した。リン酸二ナトリウム(無水)(Na2HPO4)(USP、FCCグレード)及び四ホウ酸ナトリウム十水和物(Na2B4O7.10H2O)(ACS試薬グレード)をJ.T Baker社から入手した。注射用滅菌水(USP)をAPP Pharmaceuticals社から入手した。容器施栓系は、2mLガラスバイアル(Afton Scientific社)、Flurotecコーティング栓(West Pharmaceuticals社)及びアルミニウムシールから構成された。
【0318】
実験
(1) 製剤調製及び安定度試料の設定
それぞれpH7.4及び7.3の100及び200mMのリン酸緩衝液の2つの原液、及びpH9.3の100mMの1つのホウ酸緩衝液を調製し(表22A及び22B)、250mg/mLのHPBCDビヒクル調製に使用した(表23)。
【0319】
それぞれ約1200mgの25HC3Sを40mLメスフラスコに量り取り、それぞれ10~100mMリン酸緩衝液又は10及び50mMホウ酸緩衝液を含有する、6つのHPBCDビヒクルで希釈した(表24)。25HC3Sの最終濃度は30mg/mL(重量/容量、API純度調整なし)であった。2mLの各製剤のアリコートを2mLガラスバイアルに充填し、60℃及び80℃での安定度試料設定のために栓をして密封し、種々の緩衝液濃度における、HPBCD製剤の安定度に対するリン酸緩衝液(pH7.5~8.1)及びホウ酸緩衝液(pH9.4)の効果を実験した(表26)。
【0320】
【表22A】
【0321】
【表22B】
【0322】
【表23】
【0323】
【表24】
【0324】
【表25】
【0325】
(2) 分析試験方法
0.5mLの試料溶液を25mLメスフラスコに移し、HPLCによる25HC3S濃度決定のためにメタノール/水=95/5を必要量加えた。25HC3Sの%残存を以下のように計算した。
【0326】
【数1】
【0327】
結果及び考察
(1) 製剤の安定度に対する緩衝液濃度の効果(最大7日間80℃又は最大29日間60℃でストレスをかけた場合)
10、20、50及び100mMリン酸緩衝液及び10又は50mMホウ酸緩衝液を含有する、250mg/mLのHPBCD中30mg/mLの25HC3Sの化学的安定度に対する、緩衝液濃度の有意な効果はなかった。
【0328】
7日間にわたり80℃でストレスをかけたとき、10、20、50及び100mMリン酸緩衝液を含有する製剤については、25HC3Sの残存%は、それぞれ72.3、73.3、72.8及び73.7%であった(表26)。10及び50mMホウ酸緩衝液を含有する製剤については、80℃における7日後の25HC3Sの残存%は、それぞれ71.9及び70.9%であった(表26)。図15に、薬物分解の一次曲線にフィットさせた、各製剤についての25HC3Sの残存%を示す。表27は、80℃において25HC3Sの90%が製剤中に残存する場合の算出時間(t90)を示す。t90値は、10~100mMリン酸緩衝液濃度が25HC3Sの安定度に大きな効果を及ぼさないことを示す。加えて、10及び50mMホウ酸緩衝液は、25HC3Sの安定度に大きな効果を及ぼさない。
【0329】
【表26】
【0330】
【表27】
【0331】
80℃でストレスをかけた製剤の不純物プロファイルを表28に示す。主要分解物は加水分解生成物、25-ヒドロキシコレステロールであり、これは全ての条件で経時的に徐々に増加する。相対保持時間(RRT)2.64で観察された他の分解物は、典型的に、安定度実験時に増加しなかった。
【0332】
【表28】
【0333】
29日間にわたり60℃でストレスをかけた場合、10、20、50及び100mMリン酸緩衝液を含有する製剤については、25HC3Sの残存%は、それぞれ93.7、93.5、93.4及び93.2%であった(表28)。10及び50 mMホウ酸緩衝液を含有する製剤については、25HC3Sの残存率は、それぞれ92.9及び94.8%であった(表29)。
【0334】
【表29】
【0335】
60℃でストレスをかけた製剤についての不純物プロファイルを表30に示す。80℃の場合と同様に、製剤の安定度実験を行ったとき、25-ヒドロキシコレステロールは増加したが、RRT2.64での不純物は典型的に一定であった。
【0336】
【表30】
【0337】
(2) 製剤の重量モル浸透圧濃度に対する緩衝剤濃度の効果、(最大7日間80℃又は最大29日間60℃でストレスをかけた場合)
ストレスをかけた製剤について、重量モル浸透圧濃度に対する有意な緩衝剤濃度の効果はなかった。
【0338】
7日間にわたり80℃でストレスをかけたとき、10、20、50及び100mMリン酸緩衝剤については、25HC3S製剤の重量モル浸透圧濃度は、273、311、415、573mmole/kg(時間0)から、300、354、453及び616mmole/kgへと、それぞれわずかに増加した(表25)。10及び50mMホウ酸緩衝剤を含有する製剤については、25HC3S製剤の重量モル浸透圧濃度は、316及び524mmole/kg(時間0)から、352及び569mmole/kgへと、それぞれわずかに増加した(表26)。
【0339】
図16は、80℃でのリン酸緩衝剤についてのT=0からの重量モル浸透圧濃度の変化を示す。図17は、80℃におけるホウ酸緩衝剤についてのT=0からの重量モル浸透圧濃度の変化を示す。
【0340】
29日間にわたり60℃でストレスをかけたとき、10、20、50及び100mMリン酸緩衝剤を含有する製剤については、重量モル浸透圧濃度は、273、311、415及び573mmole/kg(時間0)から、281、322、430及び592mmole/kgへと増加した(表28)。10及び50mMのホウ酸緩衝剤を含有する製剤については、重量モル浸透圧濃度は、316及び524mmole/kg(時間0)から、326及び541mmole/kgへと、それぞれ増加した(表28)。
【0341】
全製剤についての重量モル浸透圧濃度のわずかな増加(約25~45mmole/kgの範囲)は、おそらく、25-ヒドロキシコレステロール及び硫酸水素ナトリウムを形成する25HC3Sの加水分解(表25及び表28)、又はHPBCDの加水分解によるものであった。
【0342】
(3) 製剤のpH値に対する緩衝液濃度の効果(最大7日間80℃及び最大29日間60℃でストレスをかけた場合)
ストレス条件下で、製剤の酸性度は増加した。より高濃度の緩衝液(リン酸塩又はホウ酸塩)を含む製剤は、より大きな緩衝能を示し、製剤についてのpH値の変化が少なかった。
【0343】
7日間にわたり80℃でストレスをかけたとき、10、20、50及び100mMリン酸緩衝液を含有する製剤については、35HC3S製剤のpH値は、8.09、7.81、7.63、7.53(時間0でのpH)から、2.67、5.75、6.73及び6.93へと、それぞれ低下した(表26)。10及び50mMホウ酸緩衝液を含有する製剤については、35HC3S製剤のpH値は、それぞれ9.36及び9.40(時間0でのpH)から、7.06及び8.92へと、それぞれ低下した(表26)。図18は、80℃での製剤のpHを示す。図19及び20は、それぞれリン酸及びホウ酸緩衝液製剤についてのT=0からのpHの変化を示す。
【0344】
29日間にわたり60℃でストレスをかけたとき、10、20、50及び100mMリン酸緩衝液を含有する製剤については、35HC3S製剤のpH値は、7.04、7.17、7.28及び7.28へと、それぞれ低下した(表28)。10及び50mMホウ酸緩衝液を含有する製剤については、35HC3S製剤のpH値は、8.90及び9.19へと、それぞれ低下した(表28)。
【0345】
(4) 製剤の外観に対する緩衝液濃度の効果(最大7日間80℃及び最大29日間60℃でストレスをかけた場合)
いくつかの場合において、両方の緩衝液の種類及び緩衝液濃度が、35HC3S製剤の外観に対して有意な効果を示した。
【0346】
最大7日間80℃でストレスをかけたとき、10、20及び50mMのリン酸緩衝液を含有する製剤は、無色透明の溶液として変化しないままであった。100mMリン酸塩を含有する製剤は褐色透明の溶液になった。最大7日間80℃でストレスをかけたとき、10又は50mMのホウ酸緩衝液を含有する製剤は、それぞれ淡褐色及び褐色透明の溶液を形成した。これら2つのホウ酸塩製剤を80℃のオーブンから取り出し、室温まで冷却すると、白色の沈殿物が観察された(表25)。
【0347】
29日間60℃でストレスをかけたとき、6つの製剤全てが無色透明の溶液となった(表28)。ストレス持続時間が、緩衝液の種類及び濃度の効果を示すのに十分な長さではなかった可能性がある。
【0348】
結論
緩衝剤濃度は、7日間80℃又は29日間60℃の加速温度下で、6つ全ての製剤の化学的安定度及び重量モル浸透圧濃度(osmolality)に対して、効果を及ぼさなかった。100mMリン酸塩を含有する製剤は、7日間80℃でストレスをかけたとき、最小のpH変化で最良の緩衝能を示したが、褐色に変化した。10及び50mMのホウ酸緩衝剤(buffer)を含有する製剤もまた褐色に変化し、室温に冷却したときに沈殿物が観察された。
【0349】
pH7.63の50mMリン酸緩衝液を含有する250mg/mLのHPBCD中30mg/mLの35HC3Sは、6つの製剤の中で最良の安定度を示した。7日間80℃又は29日間60℃でストレスをかけたとき、製剤は無色透明の溶液のまま変化せず、80℃のオーブンから取り出して周囲室温まで冷却したとき、沈殿物は観察されなかった。
【0350】
[実施例12]
局所製剤の物理的安定度試験
方法
製剤を以下の表31に示す。製剤は以下の工程に従って調製した。
1) 薬物を水中のHPbCDの溶液に溶解させた。
2) パルミチン酸イソプロピル及びTween 60を、60℃で溶融セチルアルコールと混合した。
3) 薬物溶液をセチルアルコール/IPM及びTween 60の混合物に添加し、均一なクリームが形成されるまで混合した。
【0351】
結果
得られた製剤の外観を以下の表31に示す。製剤を室温で2カ月間放置した。製剤の物理的安定度を以下の表31に示す通り記録した。
【0352】
【表31】
【0353】
[実施例13]
注射可能製剤
表32に示した通り製剤を製造する。
【0354】
【表32】
【0355】
特に指示がない限り、化合物又は構成成分への言及は、化合物又は構成成分自体、及び他の化合物又は構成成分と組み合わせ、例えば、化合物の混合物を含む。
【0356】
本明細書で使用するとき、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明白に他の意味を有する場合を除き、複数の指示対象を含む。
【0357】
本明細書に記載した全ての数値範囲については、数値範囲はその範囲の最高値と最低値との間の全ての整数、及びそれらの値の間にある全ての小数、例えば、増分値0.1の少数を含むと理解するべきである。
【0358】
本明細書に記載した全ての数値は、その数値を取り囲む全ての統計的に有意な値を包含することを意図している。
【0359】
本開示はその好ましい実施形態の点から記載されているが、当業者であれば、添付した態様及び特許請求の範囲の精神及びその範囲内において、本開示を改変して実施できることを理解するであろう。したがって、本開示は上記の実施形態に限定されるべきではなく、本明細書の記載内容の精神及び範囲内における、その全ての改変及び均等物をさらに含むべきである。
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] 5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容される塩、及び
少なくとも1種の環状オリゴ糖
を含む組成物。
[2] 環状オリゴ糖が、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体を含む、実施形態1に記載の組成物。
[3] シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体が、シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むアルキル置換シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むヒドロキシアルキル置換シクロデキストリン、アルキル基が1~8個の炭素を含むスルホアルキルエーテル置換シクロデキストリン、及びアルキル基が1~8個の炭素を含むアルキルエーテル置換シクロデキストリンのうち少なくとも1種を含む、実施形態2に記載の組成物。
[4] シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体が、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンのうち少なくとも1種を含む、実施形態2に記載の組成物。
[5] 環状オリゴ糖が、約0.1%(重量/重量)~約99%(重量/重量)の範囲の濃度で組成物中に存在する、実施形態1~4のいずれかに記載の組成物。
[6] 環状オリゴ糖が、約0.1%(重量/重量)~約90%(重量/重量)の範囲の濃度で組成物中に存在する、実施形態1~5のいずれかに記載の組成物。
[7] 組成物が、少なくとも1種のアルコールをさらに含む、実施形態1~6のいずれかに記載の組成物。
[8] 少なくとも1種のアルコールが、少なくとも1種のジオールを含む、実施形態7に記載の組成物。
[9] 少なくとも1種のジオールが、α-プロピレングリコールを含む、実施形態8に記載の組成物。
[10] 組成物が、生理学的に許容される担体を含む、実施形態1~9のいずれかに記載の組成物。
[11] 生理学的に許容される担体が、少なくとも1種の緩衝液を含む、実施形態10に記載の組成物。
[12] 組成物が、少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤を含む、実施形態1~11のいずれかに記載の組成物。
[13] 高脂血症又は高脂血症によって引き起こされる疾患又は症状; 少なくとも1つの器官の機能異常又は不全; 脂質代謝障害; 代謝障害; アテローム性動脈硬化症; 虚血により引き起こされた傷害; 望ましくない細胞死; 敗血症; 急性放射線症候群; 肝障害; 脂質蓄積障害; 及び炎症性皮膚疾患又は皮膚病変のうち少なくとも1つを、それを必要とする対象において、処置する方法であって、治療有効量の、実施形態1~12のいずれかに記載の組成物を、対象に投与することを含む、方法。
[14] 腎臓、肝臓、膵臓、心臓、肺及び脳から選択される少なくとも1つの器官の機能異常又は不全を処置することを含む、実施形態13に記載の方法。
[15] アセトアミノフェンによって引き起こされた肝臓の機能異常又は不全を処置することを含む、実施形態13に記載の方法。
[16] 虚血により引き起こされた傷害を処置することを含む、実施形態13に記載の方法。
[17] 虚血/再灌流傷害により引き起こされた虚血により引き起こされた傷害を処置することを含む、実施形態13に記載の方法。
[18] 肝障害を処置することを含む、実施形態13に記載の方法。
[19] 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である肝障害を処置することを含む、実施形態13に記載の方法。
[20] 炎症性皮膚疾患又は皮膚病変を処置することを含む、実施形態13に記載の方法。
[21] アトピー性皮膚炎又は乾癬である炎症性皮膚疾患を処置することを含む、実施形態13に記載の方法。
[22] 医薬として使用するための、実施形態1~12のいずれかに記載の組成物。
[23] 高脂血症又は高脂血症によって引き起こされる疾患若しくは症状; 少なくとも1つの器官の機能異常又は不全; 脂質代謝障害; 代謝障害; アテローム性動脈硬化症; 虚血により引き起こされた傷害; 望ましくない細胞死; 敗血症; 急性放射線症候群; 肝障害; 脂質蓄積障害; 及び炎症性皮膚疾患又は皮膚病変から選択される少なくとも1つの疾患又は症状の処置に使用するための、実施形態1~12のいずれかに記載の組成物。
[24] 高脂血症又は高脂血症によって引き起こされる疾患若しくは症状; 少なくとも1つの器官の機能異常又は不全; 脂質代謝障害; 代謝障害; アテローム性動脈硬化症; 虚血により引き起こされた傷害; 望ましくない細胞死; 敗血症; 急性放射線症候群; 肝障害; 脂質蓄積障害; 及び炎症性皮膚疾患又は皮膚病変から選択される少なくとも1つの疾患又は症状の処置に使用するための医薬の製造における、実施形態1~12のいずれかに記載の組成物の使用。
図1
図2
図3
図4
図5A-B】
図5C-D】
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20