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特許7487287一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート及びその製造方法
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  • 特許-一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/10 20060101AFI20240513BHJP
   B29B 15/12 20060101ALI20240513BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20240513BHJP
【FI】
B32B5/10
B29B15/12
B29K105:10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022505171
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007317
(87)【国際公開番号】W WO2021177158
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2020034968
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一色 実
(72)【発明者】
【氏名】宮田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】中山 健太郎
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-072963(JP,A)
【文献】特開平07-149919(JP,A)
【文献】国際公開第99/032278(WO,A1)
【文献】特開2019-072859(JP,A)
【文献】国際公開第2018/203552(WO,A1)
【文献】特開平10-278184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 5/10
B29B 15/12
B29K 105/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と強化繊維とを含み、前記強化繊維が長手方向に引き揃えられている一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートであって、
前記強化繊維の繊維体積分率が40%以上である繊維強化層と、
前記強化繊維の繊維体積分率が0%以上5%未満である樹脂層と、
を含み、
前記一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート全体の繊維体積分率が40%以上60%以下であり、
前記繊維強化層と前記樹脂層が、一体的に形成されており
前記繊維強化層の厚み(t1)に対する前記樹脂層の厚み(t2)の割合(t2/t1)が、0.05以上0.5以下である、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【請求項2】
前記樹脂層が、前記一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚み方向において対向する2つの表面の少なくとも一方の面を形成している請求項1に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【請求項3】
前記樹脂層の厚みが10μm以上である請求項1に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【請求項4】
前記繊維強化層の厚みが60μm以上300μm以下である請求項1に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【請求項5】
前記強化繊維が炭素繊維を含む請求項1に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【請求項6】
前記繊維強化層中の熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂を含む請求項1に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【請求項7】
前記樹脂層中の熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂を含む請求項1に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【請求項8】
前記繊維強化層中の熱可塑性樹脂と、前記樹脂層中の熱可塑性樹脂が相溶可能である請求項1に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【請求項9】
前記繊維強化層中の熱可塑性樹脂と、前記樹脂層中の熱可塑性樹脂が同一である請求項1に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【請求項10】
請求項1に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを複数含む積層パネル。
【請求項11】
請求項1に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを含む構造材。
【請求項12】
溶融した熱可塑性樹脂を含む含浸ローラ上にて強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させる、請求項1に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する為の方法において、
前記強化繊維の張力が800cN~2000cNとなる範囲で前記熱可塑性樹脂を含浸させる一方向繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項13】
前記熱可塑性樹脂は、ASTM D1238に準じて230℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレイト(MFR)が10~1000g/10分のプロピレン系樹脂を含む請求項12に記載の一方向性繊維硬化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート、この一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを含む積層パネル及び構造材、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチックは強度と軽さを合わせもつため、鉄やアルミニウムといった金属からなる部材の代替素材として注目されている。その一形態として、繊維を一方向に引き揃えた一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートが知られている。
【0003】
繊維強化プラスチックは、引張強度や弾性率においては金属を凌駕する性能を発揮する一方、衝撃強度においては金属より低い値を示すことが多い。そこで、繊維強化プラスチックにおける衝撃強度の改善が望まれている。
【0004】
一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの衝撃強度を改善する方策として、特許文献1には、炭素繊維、熱硬化性樹脂の硬化物及びコアシェルポリマー粒子を含む層と、熱硬化性樹脂の硬化物、コアシェルポリマー粒子及び非晶性熱可塑性樹脂とを含む層と、を交互に積層した構造を有する繊維強化複合材料が開示されている。特許文献1には、かかる繊維強化複合材料は、外部からの衝撃に強く、さらには使用環境の変化、具体的には温度変化や繰り返し負荷などの疲労特性に優れるとの記載がある。
【0005】
特許文献2には、特定の変性ポリオレフィンと特定のアミン化合物を含むエマルションで処理された強化繊維束を含む一方向材が、より少ない繊維量であっても十分な補強効果を発現することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-189561号公報
【文献】国際公報第2016/114352号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載された繊維強化複合材料は、脆性破壊により破壊される熱硬化性樹脂の硬化物自体の衝撃強度を改良するのではなく、コアシェルポリマー粒子あるいは非晶性熱可塑性樹脂により衝撃エネルギーを吸収する構造を有するが、これらの成分の添加量には上限があるため、衝撃吸収性能が限られており、さらなる改良が必要である場合があることが分かった。
【0008】
本発明者らが検討したところ、特許文献2に記載された一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートでは、衝撃吸収性能が十分でない場合があり、さらに衝撃吸収性能を改善する余地があることが分かった。
【0009】
そこで本発明では、衝撃強度が向上した一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、熱可塑性樹脂と強化繊維とを含み、強化繊維が長手方向に引き揃えられている一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートが、強化繊維の繊維体積分率が40%以上である繊維強化層と、強化繊維の繊維体積分率が0%以上5%未満である樹脂層と、を含むことによって衝撃強度が向上することを見出し、本発明を完成した。本発明は以下の事項により特定される。
【0011】
[1]熱可塑性樹脂と強化繊維とを含み、前記強化繊維が長手方向に引き揃えられている一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートであって、
前記強化繊維の繊維体積分率が40%以上である繊維強化層と、
前記強化繊維の繊維体積分率が0%以上5%未満である樹脂層と、
を含む、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0012】
[2]前記樹脂層が、前記一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚み方向において対向する2つの表面の少なくとも一方の面を形成している[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0013】
[3]前記繊維強化層の厚み(t1)に対する前記樹脂層の厚み(t2)の割合(t2/t1)が、0.05以上0.5以下である[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0014】
[4]前記樹脂層の厚みが10μm以上である[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0015】
[5]前記繊維強化層の厚みが60μm以上300μm以下である[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0016】
[6]前記強化繊維が炭素繊維を含む[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0017】
[7]前記繊維強化層中の熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂を含む[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0018】
[8]前記樹脂層中の熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂を含む[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0019】
[9]前記一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート全体の繊維体積分率が40%以上60%以下である[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0020】
[10]前記繊維強化層中の熱可塑性樹脂と、前記樹脂層中の熱可塑性樹脂が相溶可能である[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0021】
[11]前記繊維強化層中の熱可塑性樹脂と、前記樹脂層中の熱可塑性樹脂が同一である[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0022】
[12]前記繊維強化層と前記樹脂層が、一体的に形成されている、[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート。
【0023】
[13][1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを複数含む積層パネル。
【0024】
[14][1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを含む構造材。
【0025】
[15]溶融した熱可塑性樹脂を含む含浸ローラ上にて強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させる、[1]に記載の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する為の方法において、
前記強化繊維の張力が800cN~2000cNとなる範囲で前記熱可塑性樹脂を含浸させる一方向繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【0026】
[16]前記熱可塑性樹脂は、ASTM D1238に準じて230℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレイト(MFR)が10~1000g/10分のプロピレン系樹脂を含む[15]に記載の一方向性繊維硬化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、衝撃強度が向上した一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート及びその製造方法を提供することができる。
【0028】
本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの衝撃強度が向上する理由を、本発明者らは、以下のように推測している。
【0029】
熱可塑性樹脂を含む従来の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートに衝撃を加えると、熱可塑性樹脂と強化繊維との界面における破断が生じる場合がある。この破断は、周囲の熱可塑性樹脂と強化繊維の界面へと伝播していき内部に亀裂が生じ、各界面を介して亀裂が両表面に到達して一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート全体に割れが生じると考えられる。これに対し、本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートでは、樹脂層における強化繊維の密度が十分に低い。これにより、繊維強化層の内部に亀裂が生じても、亀裂の伸長を介在する界面が十分に少ない樹脂層によって亀裂がブロックされるため、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート全体としての割れが生じ難くなるものと考えられる。その結果、本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートは、衝撃強度に優れると考えられる。
【0030】
また、熱硬化性樹脂を含む従来の一方向性繊維強化熱硬化性樹脂シートにおいては、熱硬化性樹脂が脆性破壊により破壊されるため、上記の亀裂の伝播の有無に加え、脆性破壊という破壊モードに起因して、衝撃吸収特性が十分ではないものと推測している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】(a)及び(b)は、本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの構造の実施形態を示す模式的断面図である。
図2】本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0033】
本発明において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する該複数の物質の合計量を意味する。本発明において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0034】
本発明において、「プロピレン系重合体」及び「プロピレン系樹脂」なる語は、構成単位としてプロピレンを50質量%以上含む、重合体または樹脂を指す語である。
【0035】
以下、本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの実施の形態について、適宜図面を用いて説明する。
【0036】
<繊維強化層>
本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートは、強化繊維の繊維体積分率が40%以上である繊維強化層を含む。この繊維強化層は、具体的には、熱可塑性樹脂と強化繊維とを含み、強化繊維は長手方向に引き揃えられている。強化繊維は主として強化材として機能し、熱可塑性樹脂は主としてマトリクス樹脂として機能する。
【0037】
繊維強化層における強化繊維の繊維体積分率は40%以上であり、好ましくは50%以上80%以下である。この繊維体積分率を40%以上とすることにより、強化繊維の強化材としての機能が十分発現する傾向にある。この繊維体積分率が80%以下であることにより、衝撃強度がより向上する傾向にある。
【0038】
繊維強化層における熱可塑性樹脂の含有率は、曲げ強度と衝撃耐性をより向上させる観点から、10質量%~55質量%が好ましく、10質量%~45質量%がより好ましい。
【0039】
(繊維強化層中の強化繊維)
繊維強化層中の強化繊維の種類は特に限定されず、公知の種々の繊維の少なくとも1種を使用できる。中でも、力学特性の向上、成形品の軽量化効果の点から、PAN系、ピッチ系又はレーヨン系の炭素繊維が好ましい。さらに、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの点から、PAN系炭素繊維がより好ましい。
【0040】
繊維強化層中の強化繊維の長さは特に限定されず、長手方向に引き揃えられた状態で一方向繊維強化熱可塑性樹脂シート中に配置可能であり、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの用途において必要とされるサイズに応じた長さであれば良い。また、強化繊維のアスペクト比は、通常は500を超える。
【0041】
繊維強化層中の強化繊維の平均繊維径は特に制限されないが、得られる成形品の力学特性と表面外観の点から、好ましくは1~20μm、より好ましく3~15μmである。
【0042】
繊維強化層中の強化繊維は、集束剤(サイズ剤)を用いて束ねられた繊維束が開繊されたものであることが好ましい。繊維束の単糸数は特に制限されないが、通常は100~350,000本、好ましくは1,000~250,000本、より好ましくは5,000~220,000本である。繊維束を構成する集束剤は、例えば、オレフィン系エマルション
、ウレタン系エマルション、エポキシ系エマルション、ナイロン系エマルションであり、好ましくはオレフィン系エマルション、より好ましくはプロピレン系エマルションである。強化繊維束とマトリックス樹脂との接着性を向上させる場合は、強化繊維束に使用されるエマルションの樹脂種とマトリックスの樹脂種が同種であることが好ましい。例えばマトリックス樹脂をナイロンとした場合にはナイロン系エマルションを集束剤として使用することが好ましく、ポリプロピレンとした場合はオレフィン系エマルションを集束剤として使用することが好ましい。特に、マトリックス樹脂がポリプロピレン系の場合には、未変性プロピレン系樹脂と変性プロピレン系樹脂を含むプロピレン系エマルションが集束剤として好ましい。この集束剤に用いる未変性プロピレン系樹脂及び変性プロピレン系樹脂は、後述する熱可塑性樹脂に用いる未変性プロピレン系樹脂(P1)と変性プロピレン系樹脂(P2)と同様のものを好適に使用できる。
【0043】
(繊維強化層中の熱可塑性樹脂)
繊維強化層中の熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、公知の種々の熱可塑性樹脂の少なくとも1種を使用できる。
【0044】
繊維強化層中の熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、液晶ポリエステル、ポリアリーレート、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂、塩化ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂が挙げられる。これらは2種以上を併用しても良い。中でも、極性を有する樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、極性の低い樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。特にコストや成形品の軽量化の点から、熱可塑性樹脂はプロピレン系樹脂及び/又はポリアミド系樹脂を含むことが好ましく、プロピレン系樹脂を含むことがより好ましい。中でも、衝撃特性をより向上させる観点から、ASTM D1238に準じて230℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレイト(MFR)が10~1000g/10分のプロピレン系樹脂が好ましく、15~500g/10分のプロピレン系樹脂がより好ましい。このMFRを適度に高くする(例えば10g/10分以上にする)ことにより樹脂が繊維に均一に含侵し易くなり、含侵不良部分の発生が抑制され、耐衝撃性などの特性が安定する傾向にある。また、このMFRを適度に低くする(例えば1000g/10分以下にする)ことにより樹脂自体の強度が向上し、耐衝撃性などの特性が向上する傾向にある。
【0045】
プロピレン系樹脂の種類は特に制限されず、プロピレン単独重合体、プロピレン系共重合体の何れであっても良く、それらを併用しても良い。その立体規則性はイソタクチックであっても、シンジオタクチックであっても、アタクチックであっても良い。特に、イソタクチック又はシンジオタクチックであることが好ましい。
【0046】
繊維強化層中の熱可塑性樹脂は、未変性プロピレン系樹脂(P1)、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含む変性プロピレン系樹脂(P2)の何れであっても良く、それらを併用しても良い。特に、未変性プロピレン系樹脂(P1)及び変性プロピレン系樹脂(P2)の両方を含むことが好ましい。この場合、両者の質量比[(P1)/(P2)]は、好ましくは99/1~80/20、より好ましくは98/2~85/15、特に好ましくは97/3~90/10である。
【0047】
未変性プロピレン系樹脂(P1)のASTM D1238に準じて230℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレイト(MFR)は、好ましくは100g/10分以上、より好ましくは130~500g/10分である。MFRがこの範囲内であると、熱可塑性樹脂が強化繊維束に十分含浸する傾向にある。
【0048】
未変性プロピレン系樹脂(P1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5万~30万、より好ましくは5万~20万である。
【0049】
未変性プロピレン系樹脂(P1)はプロピレン由来の構造単位を有する樹脂であり、プロピレン由来の構造単位の量は好ましくは50モル%以上である。プロピレン由来の構造単位と共に、α-オレフィン、共役ジエン及び非共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも一種のオレフィン(プロピレンを除く)やポリエン由来の構造単位が含まれる共重合体であっても良い。
【0050】
未変性プロピレン系樹脂(P1)が共重合体である場合、共重合成分であるα-オレフィンの具体例としては、エチレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、1-ノネン、1-オクテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等のプロピレンを除く炭素原子数2~20のα-オレフィンが挙げられる。中でも、1-ブテン、エチレン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセンが好ましく、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンがより好ましい。
【0051】
共重合成分である共役ジエン及び非共役ジエンの具体例としては、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエンが挙げられる。
【0052】
以上のα-オレフィン、共役ジエン及び非共役ジエンの2種以上を併用しても良い。
【0053】
変性プロピレン系樹脂(P2)は、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含むプロピレン系樹脂である。この変性プロピレン系樹脂(P2)のカルボン酸塩は、強化繊維と熱可塑性樹脂の界面接着強度を高める作用を奏する。
【0054】
変性プロピレン系樹脂(P2)の原料のうち、プロピレン系重合体としては、例えば、プロピレン単独重合体;エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体で代表される、プロピレンとα-オレフィンの単独又は2種類以上との共重合体が挙げられる。原料のうち、カルボン酸構造を有する単量体としては、例えば、中和されている又は中和されていないカルボン酸基を有する単量体、ケン化されている又はケン化されていないカルボン酸エステルを有する単量体が挙げられる。このようなプロピレン系重合体とカルボン酸構造を有する単量体とをラジカルグラフト重合する方法が、変性プロピレン系樹脂(P2)を製造する代表的な方法である。プロピレン系重合体に用いられるオレフィンの具体例は、未変性プロピレン系樹脂(P1)に用いられるオレフィンと同様である。
【0055】
変性プロピレン系樹脂(P2)は、特殊な触媒を用いることにより、プロピレンとカルボン酸エステルを有する単量体とを直接重合することにより得たり、エチレンが多く含まれる重合体であればエチレン及びプロピレンとカルボン酸構造を有する単量体とを高圧ラジカル重合することにより得ることが出来る可能性もある。
【0056】
中和されている又は中和されていないカルボン酸基を有する単量体、及び、ケン化されている又はケン化されていないカルボン酸エステルを有する単量体としては、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物、そのエステル;オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する化合物が挙げられる。
【0057】
エチレン系不飽和カルボン酸の具体例としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸が挙げられる。酸無水物の具体例としては、ナジック酸TM(エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸が挙げられる。
【0058】
オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する化合物の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有ビニル類;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル類;ビニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート等のイソシアナート基含有ビニル類;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン等の芳香族ビニル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;N、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N、N-ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N-ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N-ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類;スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類;モノ(2-メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2-アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類;が挙げられる。
【0059】
以上のカルボン酸構造を有する単量体の2種類以上を併用しても良い。カルボン酸構造を有する単量体としては、中でも、酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0060】
変性プロピレン系樹脂(P2)は、国際公開第2017/183672号に開示されている方法等の公知の方法により製造することができる。
【0061】
中和度又はケン化度、すなわち変性プロピレン系樹脂(P2)の原料が有するカルボン酸基の金属塩又はアンモニウム塩等のカルボン酸塩への転化率は、水分散体の安定性と繊維との接着性の点から、通常50~100%、好ましくは70~100%、より好ましくは85~100%である。変性プロピレン系樹脂(P2)におけるカルボン酸基は、塩基物質により全て中和又はケン化されていることが好ましいが、カルボン酸基の一部が中和又はケン化されず残存していても良い。
【0062】
カルボン酸基の塩成分を分析する方法としては、例えば、ICP発光分析で塩を形成している金属種の検出を行う方法、IR、NMR、質量分析又は元素分析を用いて酸基の塩の構造を同定する方法がある。
【0063】
変性プロピレン系樹脂(P2)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは0.1万~10万、より好ましくは0.2万~8万である。
【0064】
熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂を含む場合は、特に金属に対する接着性が向上する傾向にある。ポリアミド系樹脂の種類は特に限定されず、公知の種々のポリアミド系樹脂を使用できる。具体例としては、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド11、芳香族系ポリアミドが挙げられる。中でも、ポリアミド6、ポリアミド12が好ましい。
【0065】
ポリアミド系樹脂の80℃、5時間乾燥後ASTM D1238に準じて230℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレイト(MFR)は、好ましくは40g/10分以上、より好ましくは40~400g/10分である。MFRがこの範囲内であると、熱可塑性樹脂が強化繊維に十分含浸する傾向にある。ポリアミド系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは0.5万~5万、より好ましくは0.5万~3万である。
【0066】
熱可塑性樹脂には、本発明の目的効果を損なわない範囲で添加剤を含有しても良い。添加剤の具体例としては、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、制泡剤等が挙げられる。
【0067】
<樹脂層>
本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートは、強化繊維の繊維体積分率が0%以上5%未満である樹脂層を含む。この樹脂層は、具体的には、熱可塑性樹脂を含み、好ましくは強化繊維を含まない。ただし、少量(繊維体積分率5%未満)の強化繊維を含んでいても構わない。本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートは、このような樹脂層を含むので、樹脂層を含まない従来の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートに比べて衝撃強度が優れている。その理由としては、先に述べたように、樹脂層に亀裂の伸長を介在する界面(熱可塑性樹脂と強化繊維の界面)が少ないこと、並びに、樹脂層は繊維強化層に比べて衝撃吸収特性が優れていることが考えられる。
【0068】
樹脂層における強化繊維の繊維体積分率は、0%以上5%未満であり、好ましくは0%以上3%未満である。
【0069】
樹脂層における熱可塑性樹脂の含有率は、衝撃吸収特性をより向上させる観点から、90質量%を超えて100質量%以下が好ましく、94質量%を超えて100質量%以下がより好ましい。
【0070】
(樹脂層中の熱可塑性樹脂)
樹脂層中の熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、公知の種々の熱可塑性樹脂の少なくとも1種を使用できる。樹脂層中の熱可塑性樹脂の好ましい形態は、先に挙げた繊維強化層中の熱可塑性樹脂の好ましい形態と同様である。すなわち樹脂層中の熱可塑性樹脂としては、繊維強化層中の熱可塑性樹脂として挙げた種々の熱可塑性樹脂の少なくとも一種を好適に用いることができる。例えば、繊維強化層中の熱可塑性樹脂はポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましく、これと同様に、樹脂層中の熱可塑性樹脂もポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましい。
【0071】
樹脂層中の熱可塑性樹脂と繊維強化層中の熱可塑性樹脂は、同一でもよいし、異なっていてもよい。ただし、両樹脂は相溶可能であることが好ましい。なお、「相溶可能」とは両樹脂を融点以上に加熱混合して25℃まで冷却した場合に単一相が形成されることを意味する。さらに、両樹脂は同一であることがより好ましい。両樹脂が相溶可能、さらには同一であることにより、繊維強化層と樹脂層の間で意図せぬ剥離がより生じ難くなる傾向があり好ましい。本明細書において、樹脂層中の熱可塑性樹脂と繊維強化層中の熱可塑性樹脂が同一であるとは、樹脂のモノマー組成、ポリスチレン換算値の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)が測定誤差の範囲内で同一であることを指す。
【0072】
(樹脂層中の強化繊維)
繊維強化層が強化繊維を含む場合、その強化繊維の種類は特に限定されず、公知の種々の強化繊維の少なくとも1種を使用できる。樹脂層中の強化繊維の好ましい形態は、先に挙げた繊維強化層中の強化繊維の好ましい形態と同様である。
【0073】
<一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート>
本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートは、熱可塑性樹脂と強化繊維とを含み、強化繊維が長手方向に引き揃えられている一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートであって、先に説明した繊維強化層と樹脂層とを含む。樹脂層は、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚み方向において対向する2つの表面の少なくとも一方の面を形成していることが好ましい。また、樹脂層と繊維強化層は接触していることが好ましい。また、衝撃特性をより向上させる観点から、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートは、繊維強化層と樹脂層が一体的に形成されていることが好ましい。「一体的に形成されている」とは、繊維強化層と樹脂層の境目が強化繊維の量の違いの他には確認できないことをいう。
【0074】
一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートにおいて、繊維強化層の厚みは特に限定されないが、好ましくは60μm以上300μm以下、より好ましくは60μm以上250μm以下である。
【0075】
一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートにおいて、樹脂層の厚みは特に限定されないが、好ましくは10μm以上、より好ましくは10μm以上80μm以下、特に好ましくは20μm以上60μm以下である。
【0076】
一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートにおいて、繊維強化層の厚み(t1)に対する樹脂層の厚み(t2)の割合(t2/t1)は特に限定されないが、好ましくは0.05以上0.5以下、より好ましくは0.1以上0.4以下である。
【0077】
一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートにおいて、熱可塑性樹脂の含有率は、10質量%~60質量%が好ましく、15質量%~50質量%がより好ましい。
【0078】
図1(a)及び(b)は、本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの構造の実施形態を示す模式的断面図である。図1(a)及び(b)は、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1の長手方向に対して垂直な面の模式的断面図であり、強化繊維11は長手方向に引き揃えられている。
【0079】
図1(a)及び(b)に示す一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1は、強化繊維11の繊維体積分率が40%以上である繊維強化層10と、強化繊維11の繊維体積分率が0%以上5%未満(図1(a)及び(b)においては0%)である樹脂層20(又は樹脂層20a及び20b)とを含んでいる。すなわち、繊維強化層10は、強化繊維11と熱可塑性樹脂12(マトリックス樹脂)を含み、樹脂層20(又は樹脂層20a及び20b)は熱可塑性樹脂22を含んでいる。
【0080】
図1(a)に示す一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1は、1つの樹脂層20を含む。樹脂層20は一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1の厚み方向において対向する2つの表面の一方の面を形成し、繊維強化層10は他方の面を形成している。より具体的には、図1(a)に示す一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1は、上記一方の面を含む部分である樹脂層20と、上記他方の面を含む部分である繊維強化層10とから構成されている。
【0081】
図1(a)に示す一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1において、樹脂層20と繊維強化層10との境界線(図中の点線)は、強化繊維11の繊維体積分率の違いによって定められる。樹脂層20中の熱可塑性樹脂22と繊維強化層10中の熱可塑性樹脂12(マトリックス樹脂)は、同一でもよいし、異なっていてもよい。ただし、両樹脂は相溶可能であることが好ましく、同一であることがより好ましい。
【0082】
図1(b)に示す一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1は、2つの樹脂層20a及び20bを含む。樹脂層20aは一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1の厚み方向において対向する2つの表面の一方の面を形成し、樹脂層20bは他方の面を形成している。より具体的には、図1(b)に示す一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1は、上記一方の面を含む部分である樹脂層20aと、上記他方の面を含む部分である樹脂層20bと、これら2つの樹脂層20a及び20bの間に介在する繊維強化層10とから構成されている。
【0083】
図1(b)に示す一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1において、樹脂層20aと繊維強化層10との境界線(図中の下側の点線)及び樹脂層20bと繊維強化層10との境界線(図中の上側の点線)は、強化繊維11の繊維体積分率の違いによって定められる。樹脂層20a中の熱可塑性樹脂22と、樹脂層20b中の熱可塑性樹脂22と、繊維強化層10中の熱可塑性樹脂12(マトリックス樹脂)の3つの樹脂は、同一でもよいし、異なっていてもよい。具体的には、3つの樹脂が全て同一でもよいし、3つの樹脂が各々全て異なっていてもよいし、樹脂層20a中の熱可塑性樹脂22と樹脂層20b中の熱可塑性樹脂22が同一であり且つ繊維強化層10中の熱可塑性樹脂12(マトリックス樹脂)がそれとは異なっていてもよいし、樹脂層20a中の熱可塑性樹脂22と繊維強化層10中の熱可塑性樹脂12(マトリックス樹脂)が同一であり且つ樹脂層20b中の熱可塑性樹脂22がそれとは異なっていてもよい。ただし、樹脂層20a中の熱可塑性樹脂22と繊維強化層10中の熱可塑性樹脂12(マトリックス樹脂)、及び/又は、樹脂層20b中の熱可塑性樹脂22と繊維強化層10中の熱可塑性樹脂12(マトリックス樹脂)は相溶可能であることが好ましい。さらに、樹脂層20a中の熱可塑性樹脂22と繊維強化層10中の熱可塑性樹脂12(マトリックス樹脂)、及び/又は、樹脂層20b中の熱可塑性樹脂22と繊維強化層10中の熱可塑性樹脂12(マトリックス樹脂)は同一であることがより好ましい。
【0084】
<一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法>
本発明の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する為の方法は、特に限定されない。その製造方法としては、例えば以下の方法(1)及び(2)がある。
(1)一方向に引き揃えた繊維束(強化繊維)に溶融したマトリックス樹脂(M)を接触・含浸させる際に、強化繊維の繊維体積分率が0%以上5%未満である樹脂層が形成されるように条件を調整することにより、本発明の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを得る方法(以下、「含浸による製造方法」と称す)。
(2)繊維強化層を構成する為の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の面に樹脂層を積層することにより、本発明の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを得る方法(以下、「積層による製造方法」と称す)。
【0085】
以上の製造方法のうち、特に工程数や製造効率等の点から、含浸による製造方法が好ましい。なお、含浸による製造方法においては、樹脂層中の熱可塑性樹脂と繊維強化層中の熱可塑性樹脂(マトリックス樹脂)は同一である。
【0086】
含浸による製造方法としては、特に、溶融した熱可塑性樹脂を含む含浸ローラ上にて強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させる方法において、前記強化繊維の張力が800cN~2000cNとなる範囲で前記熱可塑性樹脂を含浸させる方法が好ましい。このような製造方法によれば、本発明の一方向繊維強化熱可塑性樹脂シートを比較的容易に得ることができる。
【0087】
以下、含浸による製造方法を、図面を用いて説明する。
【0088】
図2は、含侵法による製造装置の一例を示す図である。この図2においては、製造装置の一例の主要部の構成を、含侵ローラの軸方向に直交する方向での断面図として模式的に示す。
【0089】
図2に示す製造装置は、含侵ローラ7、強化繊維束2を搬送する搬送ローラ6-1、6-2、強化繊維束2の含侵ローラ7の表面への供給方向をガイドするガイドローラ5、樹脂3を含侵ローラ7の周面に供給する材料供給装置4を有する。図2において、含侵ローラ7は、その周面に一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート形成用の面を有する。含侵ローラ7内あるいは含侵ローラ7の近傍に、加熱用のヒータ等の含侵ローラ7の表面温度を制御する温度制御装置(不図示)を設けることができる。製造装置には、加熱された状態で形成された一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1の温度を下げて、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1の構造を固定化するための冷却装置を更に設けてもよい。
【0090】
強化繊維束2は強化繊維を一方向に引き揃えることによって形成され、装置内に供給される。搬送ローラ6-1、6-2、ガイドローラ5、含侵ローラ7、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1を装置内から引き出す搬出装置(不図示)等を有する搬送系を、駆動系(不図示)によって作動させることで、強化繊維束2はその厚みや幅を維持しつつ所定のテンションを伴って製造装置内を矢印方向に搬送される。強化繊維束2の装置内への搬入並びに装置外への搬出には、強化繊維束2巻き付けた繊維束繰り出しローラ等を有する強化繊維束の供給装置や、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1を巻き取る巻き取りローラを用いてもよい。
【0091】
材料供給装置4によって加圧状態で塗布装置内に供給された樹脂3は、含侵ローラ7の周面に押し出しされて樹脂3の塗布層が形成される。そして、この含侵ローラ7上の塗布層は、含侵ローラ7の回転に伴ってガイドローラ5とのニップ部に移動する。一方、強化繊維束2は矢印方向に搬送さ、ガイドローラ5と含侵ローラ7のニップ部から、Aで示される部分までの領域で、強化繊維束2に樹脂3が接触・含浸する。この際の樹脂3の温度は、強化繊維束2に含侵可能となるように制御される。そして、その後冷却して、樹脂層1-1及び繊維強化層1-2を有する一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1が得られる。
【0092】
図2において、強化繊維の繊維体積分率が0%以上5%未満である樹脂層を形成する為には、例えば、樹脂の接触・含浸の際における条件を適宜調整すればよい。より具体的には、例えば、強化繊維束2に印加されるテンション、強化繊維束2の密度や厚み等の条件を調整することによって、強化繊維束2中への樹脂3の含侵状態、並びに、強化繊維束2を通過して含侵ローラ7に対して反対側に滲み出した樹脂3によって形成される樹脂層1-1の厚みを制御することができ、その結果、図1(a)に示した構造の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1を得ることができる。
【0093】
強化繊維束2にかかるテンションは、800cN~2000cNが好ましく、1000cN~1500cNがより好ましい。強化繊維束2にかかるテンションが上述の範囲内であると、繊維強化層1-2と樹脂層1-1とを一体的に形成し易い傾向にある。強化繊維束2にかかるテンションは、含浸ローラ7に接する直前の強化繊維束2のテンションを、テンションメータを使用することに測定する。テンションメータは炭素繊維束のテンションを測定できる装置であれば特に制限されないが、例えば日本電産シンポ株式会社製デジタルテンションメータV字溝型などが挙げられる。
【0094】
樹脂3の種類は特に制限されないが、樹脂層1-1を適切に形成して衝撃特性をより向上させる観点から、ASTM D1238に準じて230℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレイト(MFR)が10~1000g/10分のプロピレン系樹脂が好ましく、15~500g/10分のプロピレン系樹脂がより好ましい。
【0095】
含浸ローラの温度は、樹脂3の融点以上であれば特に制限されない。樹脂層1-1を適切に形成して衝撃特性をより向上させる観点から、200℃~350℃が好ましく、220℃~300℃がより好ましい。
【0096】
以上、含浸による製造方法の一例について説明したが、先に述べたように、積層による製造方法でも本発明の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを得ることができる。積層による製造方法とは、繊維強化層を構成する為の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の面に樹脂層を積層する方法である。その積層方法の具体例としては、バーコータ法、ブレードコータ法、ローラコータ法、ダイコータ法、リップコータ法等の各種の塗布方法や、別途形成した樹脂層(樹脂フィルム)をラミネートする方法が挙げられる。このような積層方法を利用することにより、図1(a)及び(b)に示した構造の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート1を得ることができる。
【0097】
<用途>
一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの用途は限定されないが、他の構造材料の補強材として有用である。特に、瞬間的な衝撃が発生する車両や航空機を構成する部材の補強材として有用である。
【0098】
一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの用途の具体例には、主翼、垂直および水平尾翼などを含む一次構造材、補助翼、方向舵および昇降舵などを含む二次構造材、座席およびテーブルなどを含む内装材、動力装置、油圧シリンダー、ならびにコンポジットブレーキなどを含む、航空機およびヘリコプターなどの一般的な飛行体の部品部材、ノズルコーンおよびモーターケースなどを含むロケット部品部材、アンテナ、構造体、太陽電池パネル、バッテリーケースおよび望遠鏡などを含む人工衛星部品部材、フレーム、シャフト、ローラー、板バネ、工作機械ヘッド、ロボットアーム、搬送ハンドおよび合成繊維ポットなどを含む機械部品部材、遠心分離機ローターおよびウラン濃縮筒などを含む高速回転体部品部材、パラボラアンテナ、電池部材、レーダー、音響スピーカーコーン、コンピューター部品、プリンター部品、パソコン筐体およびタブレット筐体などを含む電子電機部品部材、骨格部品、準構造部品、外板部品、内外装部品、動力装置、他機器-油圧シリンダー、ブレーキ、バッテリーケース、ドライブシャフト、エンジンパーツ、スポイラー、レーシングカーボディー、クラッシュコーン、イス、タブレット、電話カバー、アンダーカバー、サイドカバー、トランスミッションカバー、バッテリートレイ、リアステップ、スペアタイア容器、バス車体壁およびトラック車体壁などを含む自動車・バイク部品部材、内装材、床板パネル、天井パネル、リニアモーターカー車体、新幹線・鉄道車体、窓拭きワイパー、台車および座席などを含む車両部品部材、ヨット、クルーザーおよびボートなどを含む船舶船体、マスト、ラダー、プロペラ、硬帆、スクリュー、軍用艦胴体、潜水艦胴体および深海探査船などを含む船舶部品部材・機体、アクチュエーター、シリンダー、ボンベ、水素タンク、CNGタンクおよび酸素タンクなどを含む圧力容器部品部材、攪拌翼、パイプ、タンク、ピットフロアーおよびプラント配管などを含む科学装置部品・部材、ブレード、スキン、骨格構造および除氷システムなどを含む風力発電部品部材、X線診断装置部品、車椅子、人工骨、義足・義手、松葉杖、介護補助器具・ロボット(パワーアシストスーツ)、歩行機および介護用ベッドなどを含む医療・介護機器部品部材・用品、CFコンポジットケーブル、コンクリート補強部材、ガードレール、橋梁、トンネル壁、フード、ケーブル、テンションロッド、ストランドロッドおよびフレキシブルパイプなどを含む土木建築・インフラ部品部材、マリンライザー、フレキシブルジャンパー、フレキシブルライザーおよびドリリングライザーなどを含む海底油田採掘用部品部材、釣竿、リール、ゴルフクラブ、テニスラケット、バドミントンラケット、スキー板、ストック、スノーボード、アイスホッケースティック、スノーモービル、弓具、剣道竹刀、野球バット、水泳飛び込み台、障害者用スポーツ用品およびスポーツヘルメットなどを含むスポーツ・レジャー用品。)フレーム、ディスクホイール、リム、ハンドルおよびサドルなどを含む自転車部品、メガネ、鞄、洋傘およびボールペンなどを含む生活用品、ならびに、プラスチックパレット、コンテナ、物流資材、樹脂型、家具、洋傘、ヘルメット、パイプ、足場板、安全靴、プロテクター、燃料電池カバー、ドローンブレード、フレーム、ジグおよびジグフレームなどを含むその他産業用途の部品部材・用品などが含まれる。
【0099】
<積層パネル>
本発明の積層パネルは、以上説明した本発明の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを複数含む積層パネルである。この積層パネルは、各種製品の構成部材として有用である。
【0100】
積層パネルにおいて、積層する一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの枚数は特に限定されない。目的とする積層パネルの厚みや物性等に応じて、その積層枚数を適宜決定すればよい。また、積層パネル全体の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.3mm以上10mm以下、より好ましくは0.5mm以上5mm以下である。
【0101】
積層パネルの製造方法は特に限定されない。例えば、複数の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを加熱プレス法等の公知の方法で接合することにより、積層パネルが得られる。
【0102】
<構造材>
本発明の構造材は、以上説明した本発明の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを含む構造材である。この構造材は、以上説明した本発明の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを補強材として含むことが好ましい。この構造材は、車両や航空機などに含まれて用いられることができる。
【0103】
本発明の構造材の具体例としては、ドア、バンパー、座席及び車体などの車両を構成する材料や、ドア、座席、座席用テーブル及び航空機本体などの航空機を構成する材料が挙げられる。また構造材は、これらの構成部材であってもよい。
【実施例
【0104】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートについて更に説明する。本発明は、以下の実施例により限定されない。
【0105】
アイゾット衝撃強度及び繊維体積分率は以下の方法によって測定した。
【0106】
(1)アイゾット(IZOD)衝撃強度
18枚の一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを、各々、繊維強化層と繊維強化層とが接し、且つ樹脂層と樹脂層とが接するように積層し、加熱プレスして試験用積層体を得た。試験用積層体の表面は繊維強化層となるよう積層した。また、積層体の厚みは3.1mmとした。そして、ASTM D256(1993)に準拠し、モールドノッチ付きアイゾット衝撃試験を行い、アイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
【0107】
(2)繊維体積分率(Vf)
一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート全体の繊維体積分率は、JIS K7075(1991)に規定される燃焼法にて測定した。また、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの繊維強化層の繊維体積分率及び樹脂層の繊維体積分率は、X線CTにて撮影した一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの断面における繊維部とマトリックス部の体積を画像解析により算出する方法で算出した。X線CTの撮影条件は、使用装置株式会社リガク製nano3DX、使用ターゲットCu、使用レンズ0540、ビニング1、走査角度数1000点、各角度での積算時間12秒、ピクセル分解能0.650um/ピクセル、測定データ16ビット、で実施した。画像解析による繊維体積分率の導出にはボリュームグラフィックス株式会社製VGSTUDIO MAXを使用し、閾値29900で繊維部とマトリックス部の領域を分離して導出した。
【0108】
(実施例1)
<炭素繊維束の洗浄>
炭素繊維束(三菱ケミカル株式会社製、商品名パイロフィルTR50S12L、フィラメント数24000本、ストランド強度5000MPa、ストランド弾性率242GPa)をアセトン中に浸漬し、10分間超音波を作用させ、その後炭素繊維束を引き上げさらに3回アセトンで洗浄し、室温で8時間乾燥することにより付着しているサイジング剤が除去された炭素繊維束を得た。
【0109】
<エマルションの製造>
プロピレン系樹脂(A)として、ショアD硬度が52であり、GPCで測定した重量平均分子量が35万であるプロピレン・ブテン共重合体を100質量部、プロピレン系樹脂(B)として、無水マレイン酸変性プロピレン系樹脂(重量平均分子量Mw20,000、酸価45mg-KOH/g、無水マレイン酸含有率4質量%、融点140℃)10質量部、界面活性剤としてオレイン酸カリウム3質量部を混合した。この混合物を2軸スクリュー押出機(池貝鉄工株式会社製、PCM-30、L/D=40)のホッパーより3000g/時間の速度で供給し、押出機のベント部に設けた供給口より20%の水酸化カリウム水溶液を90g/時間の割合で連続的に供給し、加熱温度210℃で連続的に押出した。押出した樹脂混合物を、押出機口に設置したジャケット付きスタティックミキサーで110℃まで冷却し、さらに80℃の温水中に投入して炭素繊維前処理用のエマルションを得た。得られたエマルションの固形分濃度は45%(質量基準)であった。
【0110】
前記の無水マレイン酸変性プロピレン系樹脂は、プロピレン・ブテン共重合体96質量部、無水マレイン酸4質量部、および重合開始剤(日本油脂(株)製、商品名パーヘキシ25B)0.4質量部を混合し、加熱温度160℃、2時間で変性を行って得られた変性樹脂である。
【0111】
<炭素繊維束の製造>
上述の方法で調製した炭素繊維前処理用のエマルションを、ローラ含浸法を用いて、上述の方法で洗浄した炭素繊維束を形成する炭素繊維に付着させた。次いで、オンラインで130℃、2分乾燥して低沸点成分を除去し、炭素繊維束を得た。エマルションの付着量は0.87質量%であった。
【0112】
<一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造>
以上のようにして得た炭素繊維束を引き揃え、図2に示した製造装置を用いて一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造した。
【0113】
具体的には、まずポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製、商品名J108M、MFR(ASTM D 1238、230℃、荷重2.16kg)=45g/10分)及び無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂(三井化学株式会社製、商品名アドマー QE800、MFR(ASTM D 1238、230℃、荷重2.16kg)=9.1g/10分)を90/10の質量比でブレンドして、Tダイを有する押出機中で溶融混合した。そして、この樹脂をTダイから回転する含侵ローラの周面に押出供給した。この押出機及びTダイの温度は260℃、含侵ローラの温度も260℃に調整した。樹脂の供給量は、炭素繊維束と樹脂の質量比が67/33となるように調整した。炭素繊維の張力(CFテンション)は、1200cNに調整した。
【0114】
以上の工程において、炭素繊維束の上面、すなわち、含侵ローラに対して反対側の炭素繊維束の面に樹脂層が形成されている状態となっていることを確認した。そして、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートをローラから離れた位置で冷却し、厚みが40μmである樹脂層と、厚みが128μmである繊維強化層からなる一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを得た。
【0115】
この一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートは、含浸により製造されたため、樹脂層中の熱可塑性樹脂と繊維強化層中の熱可塑性樹脂(マトリックス樹脂)は同一であり、両層が一体的に形成されていた。繊維強化層における熱可塑性樹脂の含有率は21質量%であり、樹脂層における熱可塑性樹脂の含有率は100質量%であり、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート全体における熱可塑性樹脂の含有率は33質量%であり、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートのアイゾット衝撃強度は1916J/mであった。
【0116】
(実施例2)
ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製、商品名J108M)に代えて、ポリプロピレン(SABIC社製、商品名515A、MFR(ASTM D 1238、230℃、荷重2.16kg)=240g/10分)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚みが34μmである樹脂層と、厚みが142μmである一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを得た。
【0117】
この一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートは、含浸により製造されたため、樹脂層中の熱可塑性樹脂と繊維強化層中の熱可塑性樹脂(マトリックス樹脂)は同一であり、両層が一体的に形成されていた。繊維強化層における熱可塑性樹脂の含有率は23質量%であり、樹脂層における熱可塑性樹脂の含有率は98質量%であり、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート全体における熱可塑性樹脂の含有率は33質量%であり、一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートのアイゾット衝撃強度は1841J/mであった。
【0118】
(比較例1)
炭素繊維の張力(CFテンション)を600cNに変更したこと以外は、実施例2と同様にして一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを得た。この一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シーでは樹脂層は形成されなかった。この一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートのアイゾット衝撃強度は1654J/mであった。
【0119】
実施例1、2及び比較例1で得られた一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造条件及び物性を表1に示す。
【0120】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートは、向上した耐衝撃性を有し、熱プレス等による接着も容易であり、各種部材の表面の処理、補強等に有用である。更に、本発明における一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シートを積層した積層パネルは、耐衝撃性が求められるパネル材として有用である。
【符号の説明】
【0122】
1 一方向性繊維強化熱可塑性樹脂シート
1-1 樹脂層
1-2 繊維強化層
2 強化繊維束
3 樹脂
4 材料供給装置
5 ガイドローラ
6-1、6-2 搬送ローラ
7 含侵ローラ
10 繊維強化層
11 強化繊維
12 熱可塑性樹脂
20、20a、20b 樹脂層
22 熱可塑性樹脂
図1
図2