(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】顆粒及びそれを用いた製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/16 20060101AFI20240513BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240513BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240513BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240513BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240513BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
A61K9/16
A61K45/00
A61K47/12
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/38
(21)【出願番号】P 2022507218
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009284
(87)【国際公開番号】W WO2021182467
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-09
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000209049
【氏名又は名称】沢井製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】吉原 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】橋本 翔太
(72)【発明者】
【氏名】木全 崚太
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-116138(JP,A)
【文献】特表2016-511223(JP,A)
【文献】特開平05-194193(JP,A)
【文献】国際公開第2005/117845(WO,A1)
【文献】特表2019-514993(JP,A)
【文献】PAWAR Ashok Harshal et al.,Development and Evaluation of Taste Masked Granular Formulation of Satranidazole by Melt Granulation,Journal of Pharmaceutics,2014年,Volume 2014, Article ID 789676,p.1-7,Abstract, Conclusion
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 45/00-45/08
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原薬と、溶融成分と、ポリマーと、を含み、
前記原薬と、前記溶融成分と、前記ポリマーとの一部が溶融して互いに結着しており、
前記溶融成分がステアリン酸又はラウロマクロゴールであり、前記ポリマーは、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、及びポリビニルピロリドンからなる群から選択され
、
前記溶融成分と前記ポリマーとの質量比は、4:1~1:1である、顆粒。
【請求項2】
前記原薬、前記溶融成分及び前記ポリマーの質量の合計に対して、50質量%以上の前記原薬が含まれる、請求項1に記載の顆粒。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の顆粒と、
医薬的に許容された1つ以上の添加剤と、を含む、製剤。
【請求項4】
前記添加剤は、崩壊剤である、請求項
3に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高含有量で原薬を含み、粒子径が均一である顆粒及びそれを用いた製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品製剤の製造性を向上させるために、原薬は種々の添加剤と造粒される。造粒法は溶剤の有無によって湿式造粒と乾式造粒に区別される。水に不安定な原薬を造粒する場合には、溶剤を用いない乾式造粒法が選択され、乾式造粒法の中でも添加剤を熱で融かし、バインダーとして用いる溶融造粒法が知られている。
【0003】
一方で、溶融造粒法は溶融成分の物性に大きく影響されるため、造粒物の粒子径のコントロールが難しい。また、溶融造粒法は溶剤の代わりに溶融成分を使用するため、造粒物における原薬の含有率を高くすることが難しく、その結果、製剤が必然的に大型化し服薬アドヒアランスが低下するという問題が生じる。例えば、特許文献1には、溶融造粒法で製造された薬物含有粒子が記載されている。しかし、特許文献1に記載されている粒子は造粒粒子のコントロールについて一切検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一つの目的は、粒子径が均一な溶融造粒物を提供することである。また、その溶融造粒物を用いた医薬組成物を提供することである。
【0006】
または、本発明の一つの目的は、薬物含有量の高い溶融造粒物を提供することである。また、その溶融造粒物を用いた医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によると、原薬と、溶融成分と、ポリマーと、を含み、原薬と、溶融成分と、ポリマーとが結着している、顆粒が提供される。
【0008】
溶融成分は、常温で固体であり、且つ100℃以下の融点を有してもよい。
【0009】
ポリマーは、常温で固体であり、且つ100℃以下のガラス転移点を有してもよい。
【0010】
溶融成分がステアリン酸又はラウロマクロゴールである場合に、ポリマーは、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、及びポリビニルピロリドンからなる群から選択されてもよい。
【0011】
原薬と、溶融成分と、ポリマーとが溶融して互いに混合した構造を有してもよい。
【0012】
原薬と、溶融成分と、ポリマーとの一部が溶融して互いに結着した構造を有してもよい。
【0013】
原薬、溶融成分及びポリマーの質量の合計に対して、50質量%以上の原薬が含まれてもよい。
【0014】
本発明の一実施形態によると、上記何れかの顆粒と、医薬的に許容された1つ以上の添加剤と、を含む、製剤が提供される。
【0015】
添加剤は、崩壊剤であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によると、原薬の含有率が高く、粒子径が均一な顆粒が提供される。または、本発明の一実施形態によると、原薬の含有率が高く、粒子径が均一な顆粒を含む製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る顆粒を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る顆粒の製造方法を説明するフロー図である。
【
図3】実施例1の顆粒の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明に係る顆粒及びそれを用いた製剤について説明する。なお、本発明の顆粒及びそれを用いた製剤は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る顆粒10を示す模式図(断面図)である。顆粒10は、原薬11と、溶融成分13と、ポリマー15と、を含む。顆粒10は、原薬11と、溶融成分13と、ポリマー15とが、溶融造粒により結着して構成された粒子である。顆粒10において、原薬11は特には限定されない。顆粒10の製造方法においては、溶剤、特に水を用いないことから、水に不安定な原薬を好適に用いることができる。
【0020】
顆粒10を構成する溶融成分13は、溶融造粒に適用可能な油性の添加剤から選択される。また、溶融成分13は、原薬11との接触により原薬11が変性したり類縁物質の顕著な増加が認められたりしない添加剤から選択されることが好ましい。溶融造粒法により顆粒10を形成するため、溶融成分13は、常温で固体の添加剤から選択される。溶融造粒法に一般に用いられる温度範囲を考慮すると、溶融成分13は100℃以下の融点を有する添加剤から選択されることが好ましく、原薬11が変性したり類縁物質の顕著な増加が認められたりしない温度範囲に融点を有する添加剤から選択されることが好ましい。また、溶融成分13はポリマー15との組合せを考慮して選択される。
【0021】
ポリマー15は、溶融成分に対して相溶性を有し、溶融造粒に適用可能な添加剤から選択される。溶融成分に対してポリマーが「相溶性を有する」とは、溶融成分とポリマーとが分離しない状態を示す。または、ポリマーが溶融成分に分散した状態、若しくは溶融成分がポリマーに分散した状態を示す。一実施形態において、溶融成分とポリマーとが分離しない状態は、溶融成分とポリマーと混合して、溶融成分を溶融させた際の混合物(液体又は流動性を有する半固体)の粘度の上昇により確認することができる。また、ポリマー15は、原薬11との接触により原薬11が変性したり類縁物質の顕著な増加が認められたりしない添加剤から選択されることが好ましい。溶融造粒法により顆粒10を形成するため、ポリマー15は、常温で固体の添加剤から選択される。溶融造粒法に一般に用いられる温度範囲を考慮すると、ポリマー15は100℃以下のガラス転移点を有する添加剤から選択されることが好ましく、原薬11が変性したり類縁物質の顕著な増加が認められたりしない温度範囲にガラス転移点を有する添加剤から選択されることが好ましい。また、ポリマー15は溶融成分13との組合せを考慮して選択される。
【0022】
このような溶融成分13とポリマー15の組合せとしては、溶融成分13がステアリン酸、又はラウロマクロゴールである場合に、ポリマー15として、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、又はポリビニルピロリドンを組合せることができる。より好ましくは、溶融成分13としてステアリン酸と、ポリマー15としてアミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、若しくはポリビニルピロリドンを組合せることができる。または、溶融成分13としてラウロマクロゴールと、ポリマー15としてアミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、若しくはヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルを組合せることができる。
【0023】
顆粒10において、原薬11と、溶融成分13と、ポリマー15とは、顆粒を形成していればよく、原薬11と、溶融成分13と、ポリマー15とが溶融して互いに混合した構造であってもよく、原薬11と、溶融成分13と、ポリマー15との一部が溶融して互いに結着した構造であってもよい。
【0024】
顆粒10は、主成分として、原薬11を含むことが好ましい。顆粒10には、原薬11、溶融成分13及びポリマー15の質量の合計に対して、50質量%以上の原薬11が含まれることが好ましい。換言すれば、顆粒10は形成可能な範囲で溶融成分13及びポリマー15を少なく含有することが好ましい。これにより、顆粒10における原薬11の含有量を効果的に高めることができる。また、顆粒10は、造粒物の粒子径の均一性が高い。
【0025】
[顆粒の製造方法]
図2は、本発明の一実施形態に係る顆粒の製造方法を説明するフロー図である。原薬11、溶融成分13及びポリマー15を混合し、溶融造粒法により、原薬11、溶融成分13及びポリマー15を溶融させて造粒し、顆粒10を形成する(S101)。このとき、これらの添加剤の温度を、溶融成分13の融点以上、且つポリマー15のガラス転移点以上の温度に加熱する。溶融造粒法に一般に用いられる温度範囲を考慮すると、加熱温度は100℃以下である。なお、原薬11が変性したり類縁物質の顕著な増加が認められたりしない温度範囲で溶融造粒することが好ましい。
【0026】
このような温度制御下において顆粒10を製造することにより、原薬11と、溶融成分13と、ポリマー15とが、結着して顆粒10を製造することができる。このように、顆粒10は、溶融造粒法により簡便に製造することができる。
【0027】
[製剤]
顆粒10を用いた製剤を製造することができる。例えば、顆粒10と医薬的に許容された公知の添加剤とを混合して医薬組成物としてもよい。また、医薬組成物を打錠して錠剤としてもよい。また、崩壊剤を添加した医薬組成物を打錠して口腔内崩壊錠としてもよい。また、医薬組成物をカプセルに封入してカプセル錠としてもよい。
【実施例】
【0028】
[試験例]
溶融成分1g、ポリマー1gを混合後、80℃で2時間加熱した。また、溶融成分2gも同様に80℃、2時間加熱し、溶融成分のみとポリマーを混合した溶融成分の粘度の比較を手触りで評価した。溶融成分としてラウロマクロゴール(日本サーファクタント工業株式会社)、ステアリン酸(日油株式会社)又は硬化油(フロイント産業、ラブリワックス)を用いた。また、ポリマーとして、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(エボニック社、オイドラギット(登録商標)EPO)、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマーRL(エボニック社、オイドラギット(登録商標)RLPO)、メタクリル酸コポリマーL(エボニック社、オイドラギット(登録商標)L100-55)、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(信越化学工業株式会社、Shin-Etsu AQOAT(登録商標)HPMC AS LF)、又はポリビニルピロリドン(BASF社、K30)を用いた。
【0029】
【0030】
溶融成分としてラウロマクロゴールを用いた場合、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、又はヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルは粘度が上昇し、相溶性を示すことが明らかとなった。特に、メタクリル酸コポリマーはラウロマクロゴールに対する優れた相溶性を示すことが明らかとなった。また、溶融成分としてステアリン酸を用いた場合、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、又はポリビニルピロリドンは粘度が上昇し、相溶性を示すことが明らかとなった。特に、アミノアルキルメタクリレートコポリマー及びポリビニルピロリドンはステアリン酸に対する優れた相溶性を示すことが明らかとなった。一方、溶融成分として硬化油を用いた場合は、何れのポリマーも相溶性を示さなかった。
【0031】
[実施例1]
原薬としてシタグリプチンリン酸塩310.2gと、溶融成分としてステアリン酸(日油株式会社)37.5g、ポリマーとしてアミノアルキルメタクリレートコポリマーE(エボニック社、オイドラギット(登録商標)EPO)37.5gを転動造粒機(株式会社パウレック、MP-01)に投入し、ロータ回転数400rpm、給気風量 0.24L/min~0.37L/min、給気温度82.9℃~89.6℃で100分間造粒した。このとき、添加剤の温度は55.4℃~68.1℃であった。
【0032】
得られた顆粒の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図3に示す。
【0033】
[比較例1]
原薬としてシタグリプチンリン酸塩310.2gと、溶融成分として硬化油(フロイント産業株式会社、ラブリワックス)37.5g、ポリマーとしてアミノアルキルメタクリレートコポリマーE(エボニック社、オイドラギット(登録商標)EPO)37.5gを転動造粒機(株式会社パウレック、MP-01)に投入し、ロータ回転数400rpm、給気風量 0.24L/min~0.37L/min、給気温度82.9℃~89.6℃で100分間造粒した。このとき、添加剤の温度は55.4℃~68.1℃であった。硬化油とアミノアルキルメタクリレートコポリマーEの相溶性が良くないため、造粒工程後も各成分は造粒されておらず粉末の混合物のままであった。
【0034】
原薬としてシタグリプチンリン酸塩と、溶融成分としてステアリン酸(日油株式会社)、ポリマーとしてアミノアルキルメタクリレートコポリマーE(エボニック社、オイドラギット(登録商標)EPO)を用いて、表2に記載の添加量で転動造粒機(株式会社パウレック、MP-01)に投入し、それぞれの製造条件で顆粒を製造した。また、製造した顆粒の粒子径はレーザー回折・散乱法測定装置(ベックマン・コールター株式会社、LS 13 320)を用いて測定した。
【表2】
【0035】
実施例2~実施例4の結果から、本発明の顆粒は、顆粒全質量に対して原薬を80~90質量%と非常に高比率で含有することができた。また、実施例2~実施例4の顆粒のそれぞれの粒度分布度は0.9~1.4であり、均一な顆粒であることが示された。
【0036】
実施例5~7と比較例2の結果から、ステアリン酸とオイドラギット(登録商標)EPOとの組合せにおいては、顆粒全質量に対して原薬が86質量%となる非常に高比率で含有させる処方条件においては、溶融成分とポリマーの配合比率が重要であり、溶融成分とポリマーの質量比で4:1以上ポリマーが含まれており、且つ、2:3より少なくポリマーが含まれていれば、顆粒の製造が可能であった。
【符号の説明】
【0037】
10 顆粒、11 原薬、13 溶融成分、15 ポリマー