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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】ノンアルコールビールテイスト飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20240513BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240513BHJP
   A23L 2/68 20060101ALI20240513BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240513BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/52
A23L2/68
A23L2/38 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022579477
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2022002822
(87)【国際公開番号】W WO2022168691
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2021016095
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悠一
(72)【発明者】
【氏名】北元 健志
(72)【発明者】
【氏名】滝井 陽子
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-62056(JP,A)
【文献】特開2020-188753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸の含有量が30~550質量ppmであり、D-グルタミン酸とD-アスパラギン酸の合計量が0.7~4.5質量ppmである、ノンアルコールビールテイスト飲料。
【請求項2】
D-グルタミン酸とD-アスパラギン酸の合計量に対する乳酸の含有量の質量比(乳酸/(D-Glu+D-Asp))が25~600である、請求項1に記載のノンアルコールビールテイスト飲料。
【請求項3】
乳酸を30~550質量ppm含有させ、D-グルタミン酸とD-アスパラギン酸を合計で0.7~4.5質量ppm含有させる、ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
ノンアルコールビールテイスト飲料にスムース感を付与する方法であって、乳酸を30~550質量ppm、D-グルタミン酸とD-アスパラギン酸を合計0.7~4.5質量ppm含有させる、スムース感付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンアルコールビールテイスト飲料及びその製造方法、並びにノンアルコールビールテイスト飲料にスムース感を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者の嗜好の多様化にともなって、様々な香味特徴をもつノンアルコールビールテイスト飲料の開発が望まれている。例えば、特許文献1には、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-アロ-イソロイシンを含有する飲料風味改善剤の添加により、飲料のボディ感、苦味、味のバランスを向上させ、飲みごたえのある飲料とすることができることが開示されている。また、特許文献2には、リナロールの含有量を25.0ppb以上とすることで、ガス圧2.7kg/cm以上のビールテイスト飲料の口内に広がる刺激を低減させるとともにスムース感を増強させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-188753号公報
【文献】特開2020-36553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、スムース感に優れる新たなノンアルコールビールテイスト飲料及びその製造方法、並びにノンアルコールビールテイスト飲料にスムース感を付与する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記[1]~[3]に関する。
[1]乳酸の含有量が30~550質量ppmであり、D-グルタミン酸とD-アスパラギン酸の合計量が0.7~4.5質量ppmである、ノンアルコールビールテイスト飲料。
[2]乳酸を30~550質量ppm含有させ、D-グルタミン酸とD-アスパラギン酸を合計で0.7~4.5質量ppm含有させる、ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法。
[3]ノンアルコールビールテイスト飲料にスムース感を付与する方法であって、乳酸を30~550質量ppm、D-グルタミン酸とD-アスパラギン酸を合計0.7~4.5質量ppm含有させる、スムース感付与方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、スムース感に優れる新たなノンアルコールビールテイスト飲料及びその製造方法、並びにノンアルコールビールテイスト飲料にスムース感を付与する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明者らが、前記課題について鋭意検討したところ、乳酸を特定の範囲内の量とし、D-グルタミン酸とDアスパラギン酸の合計量を特定の範囲内の量としたノンアルコールビールテイスト飲料が、スムース感に優れることを新たに見出した。このメカニズムは定かではないが、乳酸のまろやかな酸味とD-アスパラギン酸やD-グルタミン酸がもつ味との相乗効果により、ビールテイスト飲料の香味バランスを整えるためと推定される。なお、本明細書における「スムース感」とは、良好な口当たりで、滑らかな味わいのことを指す。
【0008】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、乳酸、D-グルタミン酸、及びD-アスパラギン酸を含有する。ここで、本明細書における「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料をいう。つまり、本明細書のビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、ビール風味の炭酸飲料を全て包含する。本発明はこのうち、「ノンアルコールビールテイスト飲料」に関する。本明細書において「ノンアルコールビールテイスト飲料」とは、アルコール度数が1v/v%未満のビールテイスト飲料であり、例えば、0.9v/v%以下、0.8v/v%以下、0.7v/v%以下、0.6v/v%以下、0.5v/v%以下、0.4v/v%以下、0.3v/v%以下、0.2v/v%以下、0.1v/v%以下、0.05v/v%以下、0.01v/v%以下、0.0050v/v%以下、0.0025v/v%以下のビールテイスト飲料が挙げられる。このうち、好ましくは0.005v/v%未満であり、より好ましくはアルコールを実質的に含まない。本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、特に断りがない場合、酵母による発酵工程の有無に拘わらず、ビール風味を有するいずれのノンアルコールの炭酸飲料をも包含する。即ち、本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、最終製品中のエタノール含有量が1v/v%未満であれば発酵ノンアルコールビールテイスト飲料であってもよいし、非発酵ノンアルコールビールテイスト飲料であってもよい。発酵ノンアルコールビールテイスト飲料の場合は、酵母を添加し1v/v%未満になるように発酵を停止させる方法や、発酵後に脱アルコール工程を経て1v/v%未満になるような方法で製造してもよい。ここで、アルコールを実質的に含まない態様の飲料は、検出できない程度の極微量のアルコールを含有する飲料を除くものではない。アルコール度数が四捨五入により0v/v%となる飲料、0.0v/v%となる飲料、中でも、アルコール度数が四捨五入により0.00v/v%となる飲料は、ノンアルコールビールテイスト飲料に包含される。本発明のノンアルコールビールテイスト飲料の種類としては、例えば、ノンアルコールのビールテイスト飲料、ビールテイストの清涼飲料などが含まれる。なお、ここでの「アルコール度数(アルコール含有量)」はエタノールの含有量を意味し、脂肪族アルコールは含まれない。本明細書において、アルコール度数は、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、飲料から濾過又は超音波によって炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。アルコール度が1.0v/v%未満の低濃度の場合は、市販のアルコール測定装置や、ガスクロマトグラフィーを用いても良い。
【0009】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料中の乳酸の含有量は、スムース感を良好にする観点から、30質量ppm以上、好ましくは40質量ppm以上、より好ましくは50質量ppm以上、更に好ましくは75質量ppm以上、更に好ましくは100質量ppm以上、更に好ましくは150質量ppm以上、更に好ましくは175質量ppm以上であり、また、乳酸とのバランスにより適度なスムース感を付与する観点から、550質量ppm以下、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは450質量ppm以下、更に好ましくは400質量ppm以下、更に好ましくは350質量ppm以下、更に好ましくは300質量ppm以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。本明細書において、ノンアルコールビールテイスト飲料中の乳酸の定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析して算出する。
【0010】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料中のD-グルタミン酸とD-アスパラギン酸の合計量は、スムース感を良好にする観点から、0.7質量ppm以上、好ましくは0.8質量ppm以上、より好ましくは0.9質量ppm以上、更に好ましくは1.0質量ppm以上、更に好ましくは1.1質量ppm以上、更に好ましくは1.2質量ppm以上であり、また、乳酸とのバランスにより適度なスムース感を付与する観点から、4.5質量ppm以下、好ましくは4.3質量ppm以下、より好ましくは4.2質量ppm以下、更に好ましくは4.1質量ppm以下、更に好ましくは4.0質量ppm以下、更に好ましくは3.9質量ppm以下、更に好ましくは3.7質量ppm以下、更に好ましくは3.5質量ppm以下、更に好ましくは3.3質量ppm以下、更に好ましくは3.1質量ppm以下、更に好ましくは2.9質量ppm以下、更に好ましくは2.7質量ppm以下、更に好ましくは2.5質量ppm以下、更に好ましくは2.3質量ppm以下、更に好ましくは2.1質量ppm以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0011】
また、本発明のノンアルコールビールテイスト飲料中のD-グルタミン酸やD-アスパラギン酸の含有量は特に限定されないが、例えば、D-アスパラギン酸の含有量は0.1質量ppm以上、0.2質量ppm以上、0.3質量ppm以上、0.4質量ppm以上、1.9質量ppm以下、1.8質量ppm以下、1.7質量ppm以下、1.6質量ppm以下、1.5質量ppm以下、1.4質量ppm以下、1.3質量ppm以下、1.2質量ppm以下、1.1質量ppm以下、1.0質量ppm以下、0.9質量ppm以下、0.8質量ppm以下、0.7質量ppm以下、0.6質量ppm以下、0.5質量ppm以下などとすることができ、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。D-グルタミン酸の含有量は0.3質量ppm以上、0.4質量ppm以上、0.5質量ppm以上、0.6質量ppm以上、0.7質量ppm以上、0.8質量ppm以上、0.9質量ppm以上、4.5質量ppm以下、4.0質量ppm以下、3.5pp、以下、3.2質量ppm以下、3.0質量ppm以下、2.9質量ppm以下、2.8質量ppm以下、2.5質量ppm以下、2.2質量ppm以下、2.0質量ppm以下、1.5質量ppm以下などとすることができ、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0012】
本明細書において、ノンアルコールビールテイスト飲料中のアミノ酸の定量は、5倍希釈実試料にIS溶液とアセトニトリルを加えて混和した後、遠心分離した上清を回収し(除タンパク処理)、除タンパク処理した試料について、アミノ酸誘導体化試薬(R)-BiACを用いて塩基性条件下で誘導体化反応を行った後、0.1%ぎ酸を加えたものをLC-MS/MS解析(島津LCMS8060)に供する。
【0013】
上記特定量の乳酸、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸を含有する場合において、D-グルタミン酸とD-アスパラギン酸の合計量(質量ppm)に対する乳酸(質量ppm)の含有量の質量比(乳酸/(D-Glu+D-Asp))は、スムース感を良好にする観点から、好ましくは25以上であり、より好ましくは30以上、更に好ましくは40以上、更に好ましくは50以上、更に好ましくは75以上、更に好ましくは100以上、更に好ましくは120以上、更に好ましくは130以上、更に好ましくは140以上、更に好ましくは150以上であり、また、同様の観点から、好ましくは600以下、より好ましくは590以下、更に好ましくは550以下、更に好ましくは500以下、更に好ましくは450以下、更に好ましくは400以下、更に好ましくは375以下、更に好ましくは350以下、更に好ましくは325以下、更に好ましくは300以下、更に好ましくは275以下、更に好ましくは250以下、更に好ましくは245以下、更に好ましくは240以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0014】
(カロリー)
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料については、近年の低カロリー嗜好に合わせて、低カロリーであることが望ましい。従って、本発明にかかるノンアルコールビールテイスト飲料のカロリー数は、好ましくは5kcal/100mL未満、より好ましくは4kcal/100mL未満、更に好ましくは3kcal/100mL未満である。
【0015】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料に含まれるカロリー数は、基本的に健康増進法に関連して公表されている「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」に従って算出する。すなわち、原則として、定量した各種栄養成分の量に、それぞれの成分のエネルギー換算係数(タンパク質:4kcal/g、脂質:9kcal/g、糖質:4kcal/g、食物繊維:2kcal/g、アルコール:7kcal/g、有機酸:3kcal/g)を乗じたものの総和として算出することができる。詳細は、「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」を参照されたい。
【0016】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料に含まれる各栄養成分量の具体的な測定手法は、健康増進法「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」に記載の各種分析法に従えばよい。または、財団法人 日本食品分析センターに依頼すれば、このような熱量及び/又は各栄養成分量を知ることができる。
【0017】
(糖質)
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料に含まれる糖質とは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に基づく糖質をいう。具体的には、糖質は、食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、アルコール分及び水分を除いたものをいう。また、食品中の糖質の量は、当該食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除することにより算定される。この場合に、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量は、栄養表示基準に掲げる方法により測定する。具体的には、タンパク質の量は窒素定量換算法で測定し、脂質の量はエーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法またはレーゼゴットリーブ法で測定し、食物繊維の量は高速液体クロマトグラフ法またはプロスキー法で測定し、灰分の量は酢酸マグネシウム添加灰化法、直接灰化法または硫酸添加灰化法で測定し、水分の量はカールフィッシャー法、乾燥助剤法、減圧過熱乾燥法、常圧加熱乾燥法またはプラスチックフィルム法で測定する。
【0018】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、近年の低糖質嗜好に合わせて、低糖質であることが望ましい。従って、本発明のノンアルコールビールテイスト飲料の糖質の含有量は、好ましくは0.5g/100mL未満、より好ましくは0.4g/100mL以下、更に好ましくは0.3g/100mL以下である。また、下限は特に設定されないが、通常、0.1g/100mL程度であり、例えば、0.15g/100mL以上であっても、0.2g/100mL以上であってもよい。
【0019】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料のpHは、飲料の風味を良好にする観点から、好ましくは2.5以上、より好ましくは3.0以上、更に好ましくは3.2以上、更に好ましくは3.3以上、更に好ましくは3.4以上であり、また、同様の観点から、好ましくは4.6以下、より好ましくは4.5以下、更に好ましくは4.3以下、更に好ましくは4.0以下、更に好ましくは3.9以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0020】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、スムース感に優れる新たなテイストのノンアルコールビールテイスト飲料である。従って、本発明においては、上記各成分を特定量含有させることでノンアルコールビールテイスト飲料にスムース感を付与する方法についても提供するものである。
【0021】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、乳酸の含有量及びD-グルタミン酸とD-アスパラギン酸の合計量を特定範囲内で含有させる以外は、いずれも一般的なノンアルコールビールテイスト飲料と同様にして製造できる。これらの成分の含有量は、各成分を含有する原料の使用、発酵、各成分の添加、およびこれらの組み合わせなどにより調整することができる。例えば、乳酸の含有量を高めるには合成乳酸、発酵乳酸、乳酸菌発酵した原料液の添加、乳酸含有量の高い麦芽や乳酸菌発酵した麦芽などの原料の使用やこれらの発酵が好ましい。D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸の含有量の合計量を高めるにはこれらの成分が含まれている原料、たとえば麦芽(大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦を加工して麦芽にしたもの)や加工前の麦、とうもろこし、コーングリッツ、大豆、大豆分解物、脱脂大豆、脱脂大豆分解物、大豆抽出物、酵母エキス、エンドウ豆、米、モルトエキス、こうりゃん、ばれいしょ、粟、ひえ、そば、人工的に合成したアミノ酸などの使用やこれらの発酵が好ましい。以下に、一般的なノンアルコールビールテイスト飲料の製造工程を示す。一般的なノンアルコールビールテイスト飲料は麦芽を原料として使用するものとしないものとがあり、以下のように製造することができる。
【0022】
麦芽を原料として使用して製造されるノンアルコールビールテイスト飲料は、まず、麦芽等の麦の他、必要に応じて他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料及び水を含む混合物に、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせ、ろ過し、糖化液とする。必要に応じてホップや苦味料などを糖化液に加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。この糖化液の代替として、麦芽エキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。煮沸後、冷却し、得られた麦汁に香料、酸味料、カラメル色素などの色素、酸化防止剤、苦味料、甘味料、アミノ酸原料などを添加し、濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のノンアルコールビールテイスト飲料を得る。
【0023】
麦芽を原料として使用しないノンアルコールビールテイスト飲料を製造する場合には、まず、炭素源を含有する液糖、麦又は麦芽以外のアミノ酸含有材料としての窒素源、ホップ、色素等を、温水と共に混合し、液糖溶液とする。該液糖溶液は、煮沸する。原料としてホップを用いる場合、ホップは煮沸開始前ではなく、煮沸中に、該液糖溶液に混合してもよい。煮沸後、冷却し、得られた麦汁に香料、酸味料、カラメル色素などの色素、酸化防止剤、苦味料、甘味料、アミノ酸原料などを添加し、濾過し、得られた液糖溶液に対して、炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のノンアルコールビールテイスト飲料を得る。
【0024】
上記いずれの製造態様においても、炭酸ガスを添加する前まで、濾過工程前まで、又は煮沸工程において乳酸を30~550質量ppm含有させ、D-グルタミン酸とD-アスパラギン酸を合計で0.7~4.5質量ppm含有させることが好ましい。例えば、乳酸、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸を添加して調製する態様において、各成分の添加は充填までのどの工程で行ってもよいが、微生物保証の観点から濾過工程前に添加することが好ましく、濾過工程以降に添加する場合はフィルターを通して微生物が飲料中に入らないようにすることが好ましい。また、香味の観点から、乳酸、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸を炭酸ガス添加前までに添加することが好ましく、濾過工程前に添加することがより好ましく、煮沸工程中に添加することが更に好ましい。特に、濾過工程前に添加することで、ノンアルコールビールテイスト飲料と乳酸、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸がなじみ、よりバランスのとれた状態になる。なお、本段落でいう濾過工程とは、麦汁や液糖溶液を煮沸した後の濾過工程を指す。
【0025】
本発明の製造方法における乳酸、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸の添加態様としては、これらを含有する製剤や飲食品用組成物などを添加する態様が挙げられる。より具体的には、これらを含有する飲食品用組成物として、乳酸発酵エキスを用いることが好的に例示される。乳酸発酵エキスとしては、モルトエキス、米エキス、大麦エキス、コーンスターチなどを乳酸発酵させた乳酸発酵エキスが挙げられ、発酵性や風味の観点から、モルトエキスを乳酸発酵させた乳酸発酵エキスの態様が好ましい。本態様において、モルトエキスは麦芽に対して粉砕、糖化、ろ過、煮沸、ろ過という一連の工程を経ることにより調製することができ、モルトエース20(オリエンタル酵母工業(株)製)などの市販品を用いることもできる。
【0026】
本発明の製造方法では、ノンアルコールビールテイスト飲料に、酒感を付与する観点から、脂肪族アルコールを添加してもよい。脂肪族アルコールとしては、公知のものであれば特に制限されないが、炭素数4~5の脂肪族アルコールが好ましい。本発明において、好ましい脂肪族アルコールとしては、炭素数4のものとして、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール等が、炭素数5のものとして、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール等が挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合せで用いることができる。炭素数4~5の脂肪族アルコールの含有量は好ましくは0.0002~0.0007質量%であり、より好ましくは0.0003~0.0006質量%である。本明細書において、脂肪族アルコールの含有量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法を用いて測定することができる。
【0027】
(酸味料)
本発明の製造方法において使用される酸味料としては、乳酸の他、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、氷酢酸なども用いることができ、リン酸を使用することが好ましい。これらは食品に添加することが認められているものであれば制限なく用いることができ、1種又は2種以上を用いることができる。
【0028】
乳酸以外の酸味料の含有量は特に限定されない。本発明のノンアルコールビールテイスト飲料中、リン酸の含有量は、好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは60質量ppm以上、更に好ましくは70質量ppm以上、更に好ましくは75質量ppm以上、更に好ましくは80質量ppm以上、更に好ましくは85質量ppm以上、更に好ましくは90質量ppm以上であり、また、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは450質量ppm以下、更に好ましくは400質量ppm以下、更に好ましくは350質量ppm以下、更に好ましくは300質量ppm以下、更に好ましくは275質量ppm以下、更に好ましくは250質量ppm以下、更に好ましくは225質量ppm以下、更に好ましくは200質量ppm以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。本明細書において、酸味料の含有量については、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析して算出されたものを指す。
【0029】
(ホップ)
本発明の製造方法では、原料の一部にホップを用いることができる。香味がビールに類似する傾向にあることから、原料の一部にホップを用いることが望ましい。ホップを使用する際には、ビール等の製造に使用される通常のペレットホップ、粉末ホップ、ホップエキスを、所望の香味に応じて適宜選択して使用することができる。また、イソ化ホップ、還元ホップなどのホップ加工品を用いてもよい。本発明のノンアルコールビールテイスト飲料に使用されるホップには、これらのものが包含される。また、ホップの添加量は特に限定されないが、典型的には、飲料全量に対して0.0001~1質量%程度である。
【0030】
(その他の原料)
本発明の製造方法では、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、その他の原料を用いてもよい。例えば、甘味料(高甘味度甘味料を含む)、苦味料、香料、酵母エキス、カラメル色素などの着色料、保存料、大豆サポニンやキラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、コーンや大豆などの植物タンパク質およびペプチド含有物、乳清などの動物タンパク質、食物繊維やアミノ酸などの調味料、アスコルビン酸等の酸化防止剤を、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて用いることができる。
【0031】
甘味料としては、穀物由来のデンプンを酸又は酵素等で分解した市販の糖化液、市販の水飴等の糖類、三糖類以上の糖、糖アルコール、ステビア等の天然甘味料、人工甘味料等が挙げられる。これらの甘味料は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの糖類の形態は、溶液等の液体であってもよく、粉末等の固体であってもよい。また、デンプンの原料穀物の種類、デンプンの精製方法、及び酵素や酸による加水分解等の処理条件についても特に制限はない。例えば、酵素や酸による加水分解の条件を適宜設定することにより、マルトースの比率を高めた糖類を用いてもよい。その他、スクロース、フルクトース、グルコース、マルトース、トレハロース、マルトトリオース及びこれらの溶液(糖液)等を用いることもできる。また、人工甘味料としては、例えば、アスパルテーム、アセスルファムカリウム(アセスルファムK)、スクラロース、ネオテーム等が挙げられる。
【0032】
苦味料としては、通常のビールや発泡酒に用いられるものが使用でき、例えば、マンネンロウ、ニガヨモギ、レイシ、姫茴香、杜松実、セージ、迷迭香、マンネンタケ、月桂樹、クワシン、カフェイン、アブシンチン、ナリンジン、柑橘抽出物、ニガキ抽出物、コーヒー抽出物、茶抽出物、ゴーヤ抽出物、ハス胚芽抽出物、キダチアロエ抽出物、ニガヨモギ抽出物、マンネンロウ抽出物、レイシ抽出物、ローレル抽出物、セージ抽出物、キャラウェイ抽出物等が挙げられる。これらの苦味料は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
香料としては、一般的なビール香料を用いることができる。ビール香料は、ビール様の風味付けのために用いるものである。ビール香料としては、エステルや高級アルコール、アルデヒド等が挙げられる。具体的には、酢酸エチル、酢酸イソアミル、n-プロパノール、イソブタノール、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、イソアミルプロピオネート、アセトアルデヒド、4-ビニルグアイアコール、n-酪酸エチル、γ-ノナラクトン、2,3-ジエチル5-メチルピラジン、2-メチル-2-ペンテン酸、4-メチル-3-ペンテン酸、1,4-シネオール、リナロール、ゲラニオール、シトロネラール、ノナナール、デカナール、シトラール、リモネン、ミルセン、エチルブチレート、ヘキサン酸エチル、γ-デカノラクトン、2-メチル酪酸エチル、γ-デカノラクトン、γ-ウンデカラクトン、フェルラ酸、マルトール、フェニル酢酸、エチルマルトール、フェネチルアルコールが挙げられる。これらの香料は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
保存料としては、例えば、安息香酸;安息香酸ナトリウム等の安息香酸塩;パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等の安息香酸エステル;二炭酸ジメチル等が挙げられる。また、保存料としては、強力サンプレザー(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、安息香酸ナトリウムと安息香酸ブチルの混合物)等の市販の製剤を用いてもよい。これらの保存料は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
食物繊維としては、水溶性食物繊維を好適に用いることができる。例えば、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、グアーガム分解物、ペクチン、グルコマンナン、アルギン酸、ラミナリン、フコイジン、カラギーナン等が挙げられ、安定性や安全性等の汎用性の観点から、難消化性デキストリン又はポリデキストロースが好ましい。これらの食物繊維は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
(容器詰飲料)
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、容器詰めとすることができる。容器の形態は何ら制限されず、ビン、缶、樽、またはペットボトル等の密封容器に充填して、容器入り飲料とすることができる。
【実施例
【0037】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0038】
<ノンアルコールビールテイスト飲料の調製>
参考例1
水及び麦芽を仕込槽に投入して約50℃のマッシュを調整し、そのマッシュを65~72℃の範囲まで徐々に昇温した後、昇温後の所定の温度で一定時間保持し、糖化処理を行った。糖化処理後に酵素が失活する温度まで昇温した後、麦汁濾過槽に移して濾過を行って麦汁を得た。得られた麦汁に温水を加えて希釈し、ホップ及びリン酸を投入し、煮沸釜を用いて100℃で煮沸処理を行った。煮沸処理後に、ワールプールタンクに移送して、麦汁オリを除去し、約2℃まで冷却し、冷却液を得た。なお、発酵は実施していないため、酵母の添加は行っていない。その後、ビール香料を添加し、濾過工程、炭酸ガス付けを実施し、缶詰を実施してノンアルコールビールテイスト飲料を得た。
【0039】
実施例1~7、比較例1、2
煮沸前の希釈された麦汁に対して表1~4に記載された各成分量となるように、乳酸、D-グルタミン酸(D-Glu)、D-アスパラギン酸(D-Asp)を添加した以外は参考例1と同様にしてノンアルコールビールテイスト飲料を調製した。
【0040】
実施例8、9
麦汁オリを除去、冷却後に酵母を添加して表4のアルコール濃度になるように発酵を行ったこと、及びビール香料を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてノンアルコールビールテイスト飲料を調製した。
【0041】
実施例10
ビール香料を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてノンアルコールビールテイスト飲料を調製した。得られた飲料のアルコール濃度は検出限界以下(0.0001%未満)であった。
【0042】
<スムース感>
各実施例・比較例のノンアルコールビールテイスト飲料を4℃まで冷却した後、「スムース感」について、専門パネリスト6名により、参考例1のスコアを「2点」として、以下の基準で相対的なスコア化を実施した。スコア化は0.5刻みで実施し、専門パネリスト6名のスコアの平均点を算出した。結果を表1~4に示す。
(スムース感の評価基準)
「1」:感じない
「1.5」:あまり感じない
「2」:感じる
「2.5」:明確に感じる
「3」:強く感じる
【0043】
<ビールテイスト飲料に不適な酸味>
各実施例・比較例のノンアルコールビールテイスト飲料を4℃まで冷却した後、「ビールテイスト飲料に不適な酸味」について、専門パネリスト6名により、以下の基準でスコア化を実施した。スコア化は0.5刻みで実施し、専門パネリスト6名のスコアの平均点を算出した。結果を表1~4に示す。
(ビールテイスト飲料に不適な酸味の評価基準)
「1」:強く感じる
「1.5」:明確に感じる
「2」:感じる
「2.5」:あまり感じない
「3」:感じない
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表1~4から分かるように、乳酸の含有量が30~550質量ppmの範囲内であり、D-グルタミン酸とD-アスパラギン酸の合計量が0.7~4.5質量ppmの範囲内である実施例1~10のノンアルコールビールテイスト飲料は、これらの範囲外である参考例1、比較例2のノンアルコールビールテイスト飲料に比べてスムース感に優れるものであった。また、比較例1ではスムース感に優れるものの、ビールテイスト飲料に不適な酸味を強く感じるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、スムース感に優れる新たなテイストのノンアルコールビールテイスト飲料を提供できる。