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特許7487408超高モード数の合成渦音場の生成方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】超高モード数の合成渦音場の生成方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H04S 7/00 20060101AFI20240513BHJP
   H04R 1/40 20060101ALI20240513BHJP
   H04R 1/44 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
H04S7/00 300
H04R1/40 310
H04R1/44 310
H04R1/40 330
H04R1/44 330
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023507713
(86)(22)【出願日】2021-01-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 CN2021073843
(87)【国際公開番号】W WO2022151525
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】202110065122.9
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522471179
【氏名又は名称】中科星河(山東)智能科技有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】323009081
【氏名又は名称】中国科学院成都生物研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】蒋海波
(72)【発明者】
【氏名】何欣洋
(72)【発明者】
【氏名】▲宮▼玉彬
(72)【発明者】
【氏名】唐▲タン▼
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼▲陽▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼子君
(72)【発明者】
【氏名】付江南
(72)【発明者】
【氏名】高源
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-517220(JP,A)
【文献】特開昭62-269726(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112124975(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111069008(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112113658(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110092439(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111740223(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101602482(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04S 7/00
H04R 1/40, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高モード数の合成渦音場の生成方法であって、
N個のトランスデューサユニットで構成されるトランスデューサアレイを構築し、各前記トランスデューサユニットが音場を出力することで初期音場が生成される第1ステップと、
前記トランスデューサユニットの位置と、各前記トランスデューサユニットが出力する音場の位相を共に変更し、1回変更するごとに音場が1つ生成され、s回変更することでs個の音場が生成され、前記トランスデューサユニットの位置を変更する方式として、前記トランスデューサアレイを全体的に回転させる第2ステップと、
前記第1ステップで生成された前記初期音場と、前記第2ステップで生成されたs個の音場を重畳することで超高モード数の合成渦音場を取得する第3ステップと、を含み、
N及びsは0よりも大きな整数であり、N*sは4以上であり、
前記トランスデューサアレイは、回転前及び回転後を合わせて仮想の合成トランスデューサアレイを構成し、前記合成トランスデューサアレイにおけるアレイ要素の数はNsであり、Ns=(s+1)×Nであり、
前記トランスデューサアレイにおいて、前記トランスデューサユニットは1つの円環上に配列され、前記トランスデューサアレイが回転する際の回転軸は円環の軸線であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記合成トランスデューサアレイのアレイ要素は、1つの円環上又は少なくとも2つの円環で形成される同心円環上に配列されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
各円環上のアレイ要素は均一に配列されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記合成トランスデューサアレイのアレイ要素は1つの円環上に配列され、前記合成トランスデューサアレイのm番目のアレイ要素が生成する音場の位相はα´*{2π(m-1)/Ns}であり、そのうち、1≦m≦Nsであり、mは整数であり、α´は前記合成渦音場のモード数であり、-Ns/2<α´<Ns/2であることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項5】
n番目のトランスデューサユニットが初期位置で生成する音場の位相はα´*{2π(n-1)/N}であり、そのうち、1≦n≦Nであり、nは整数であり、α´は合成される渦音場のモード数であり、-Ns/2<α´<Ns/2であり、
及び/又は、前記トランスデューサアレイの毎回の回転角度は2π/Nsであり、n番目のトランスデューサユニットのi回目の回転後に生成される音場の位相はα´*{2π(n-1)/N}+α´*(2π/Ns)*iであり、そのうち、1≦i≦s、1≦n≦Nであり、i及びnは整数であり、α´は合成される渦音場のモード数であり、-Ns/2<α´<Ns/2であることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項6】
水中通信又はアコースティックイメージングに応用されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法を実施するための超高モード数の合成渦音場の生成装置であって、
回転装置と、少なくとも1つのトランスデューサユニットで構成されるトランスデューサアレイを含み、前記回転装置は前記トランスデューサアレイを回転させるために用いられることを特徴とする生成装置。
【請求項8】
前記トランスデューサアレイにおいて、トランスデューサユニットの配列方式は、1つの円環上における等距離の配列とし、前記回転装置が前記トランスデューサアレイを回転させる際の回転軸は、トランスデューサユニットを配列して形成される円環の円心であり、前記回転装置は、前記トランスデューサアレイの各回転角度を正確に制御するために用いられる精密ロータリーテーブルであることを特徴とする請求項に記載の生成装置。
【請求項9】
水中通信又はアコースティックイメージングデバイスに応用されることを特徴とする請求項又はに記載の生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アコースティックイメージング及び水中通信の技術分野に属し、具体的には、超高モード数の合成渦音場の生成方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、渦音場(vortex sound field)の研究は、主として、理論的探究段階と予備的な実験室実験段階に留まっている。音波には偏波やスピン効果が存在しないため、渦音場はスピン角運動量を有さず、軌道角運動量のみを持ち得る。新たな音波制御における自由度として、音響軌道角運動量(acoustic orbital angular momentum)は重要な科学的意義及び応用価値を有している。理論的に言えば、音響軌道角運動量の多重化技術を利用することで、水中音響信号の伝送チャネル容量を増大させて、水中での高速通信において極めて高い伝送精度を保証可能となる。また、音響軌道角運動量のモード数(以下ではモード数と略称する)を増加させれば方位分解能を向上させられるため、工業、医療等の分野における非破壊検査にとって重要な意味を有する。
【0003】
従来技術において、渦音場(渦超音波場を含む)は、通常、複数のトランスデューサユニットを配列してなるトランスデューサアレイ(例えば、円形アレイ)により生成される。このような方法で生成される渦音場のモード数は、トランスデューサアレイのトランスデューサユニット数によって制限される。即ち、N個のユニットで構成されるトランスデューサアレイが生成する音場のモード数はN/2よりも小さくなる。そのため、より高いモード数の渦音場を取得したければ、トランスデューサアレイのトランスデューサユニット数を増やすしかない。これにより、機器の複雑度が上昇するほか、より多くのトランスデューサユニットを収容するスペースを提供するために、機器の体積も増加してしまう。このことは、渦音場の応用にとって不利である。また、これは、小さな半径の平面内に高モード数の渦音場を構築できないことを意味する。しかし、現時点では、渦音場の軌道角運動量のモード数増加に関するその他の研究が不足している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、渦音場の音響軌道角運動量のモード数増加に関する研究が不足しているとの課題に対し、本発明は、有限数のトランスデューサユニットを利用して、アレイにおける各トランスデューサの位置及び位相を調整することで無限のモード数を生成することを目的とする超高モード数の合成渦音場の生成方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
超高モード数の合成渦音場の生成方法は、以下のステップを含む。
【0006】
(1)N個のトランスデューサユニットで構成されるトランスデューサアレイを構築し、各トランスデューサユニットが音場を出力することで初期音場が生成される。
【0007】
(2)トランスデューサユニットの位置と、各トランスデューサユニットが出力する音場の位相を共に変更する。1回変更するごとに音場が1つ生成され、s回変更することでs個の音場が生成される。トランスデューサユニットの位置を変更する方式としては、トランスデューサアレイを全体的に回転させる。
【0008】
(3)ステップ(1)で生成された初期音場と、ステップ(2)で生成されたs個の音場を重畳することで超高モード数の合成渦音場を取得する。
【0009】
N及びsは0よりも大きな整数であり、N*sは4以上である。
【0010】
好ましくは、トランスデューサアレイは、回転前及び回転後を合わせて仮想の合成トランスデューサアレイを構成する。合成トランスデューサアレイにおけるアレイ要素の数はNであり、N=(s+1)×Nである。
【0011】
好ましくは、合成トランスデューサアレイのアレイ要素は、1つの円環上又は少なくとも2つの円環で形成される同心円環上に配列され、好ましくは、各円環上のアレイ要素は均一に配列される。
【0012】
好ましくは、前記合成トランスデューサアレイのアレイ要素は1つの円環上に配列される。合成トランスデューサアレイのm番目のアレイ要素が生成する音場の位相はα´*{2π(m-1)/N}である。そのうち、1≦m≦Nであり、mは整数である。α´は前記合成渦音場のモード数であり、-N/2<α´<N/2である。
【0013】
好ましくは、トランスデューサアレイにおいて、トランスデューサユニットは1つの円環上に配列される。前記トランスデューサアレイは、前記円環の円心を通る回転軸周りに回転する。好ましくは、前記トランスデューサアレイは円環上に均一に配列される。
【0014】
好ましくは、n番目のトランスデューサユニットが生成する初期位相を有する音場の位相はα´*{2π(n-1)/N}である。そのうち、1≦n≦Nであり、nは整数である。α´は合成モード数であり、-N/2<α´<N/2である。
【0015】
及び/又は、トランスデューサアレイの毎回の回転角度は2π/Nであり、n番目のトランスデューサユニットのi回目の回転後に生成される音場の位相はα´*{2π(n-1)/N}+α´*(2π/N)*iである。そのうち、1≦i≦s、1≦n≦Nであり、i及びnは整数である。α´は合成モード数であり、-N/2<α´<N/2である。
【0016】
本発明は、更に、上記方法で生成される渦音場を提供する。
【0017】
本発明は、更に、上記渦音場の、水中通信又はアコースティックイメージングにおける応用を提供する。
【0018】
本発明は、更に、超高モード数の合成渦音場の生成装置を提供する。当該装置は、回転装置と、少なくとも1つのトランスデューサユニットで構成されるトランスデューサアレイを含む。前記回転装置はトランスデューサアレイを回転させるために用いられる。
【0019】
好ましくは、前記トランスデューサアレイにおいて、トランスデューサユニットの配列方式は、1つの円環上における等距離の配列とする。前記回転装置がトランスデューサアレイを回転させる際の回転軸は、トランスデューサユニットを配列して形成される円環の円心である。好ましくは、前記回転装置は精密ロータリーテーブルである。
【0020】
本発明は、更に、上記装置を含む水中通信又はアコースティックイメージングデバイスを提供する。
【0021】
本発明において、記号「*」は乗算を表す。また、「超高モード数」とは非常に高いモード数を意味する。本発明の方法において、有限数のトランスデューサユニットを用いて生成される合成渦超音波場は、従来技術の方法で生成される渦超音波場と比較して著しく高いモード数を有する(即ち、最大合成モード数がより高くなる)。
【0022】
「音場を重畳する」方法は、次の通りである。即ち、ステップ(1)で生成された初期音場とステップ(2)で生成されたs個の音場を表す式(又は測定値)をベクトル加算して、新たな式(測定値)を取得する。新たな式(測定値)で表される音場が重畳後の音場となる。前記式とは、
の音圧を表す式である。
【0023】
「円環の軸線」とは、円環の中心線を意味する。当該中心線は、円環の円心を通っており、且つ円環が存在する平面と垂直である。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以下の利点を有する。
【0025】
(1)簡単且つ効果的に音響軌道角運動量のモード数を向上させて、より高モードの渦超音波場を取得可能である。また、これにより、渦音場の指向性及び方位分解能が向上する。
【0026】
(2)本発明の技術方案によれば、有限数のトランスデューサユニットによって音響軌道角運動量のモード数を向上させて、より高モードの渦音場を生成することが可能である。よって、音響軌道角運動量のモード数を向上させるためにはトランスデューサユニットの数を増やさねばならないという従来技術の制約が解消される。これにより、高モードの渦音場を生成するための装置構造をよりシンプル且つより小体積とすることができるため、音波を利用して高分解能イメージングを実現するために技術的道筋が提供される。
【0027】
(3)より高モードの渦音場を構築することで、システムの情報取得容量を増加させられる。
【0028】
従って、本願における渦音場を生成する方法及び装置は、水中通信又はアコースティックイメージングに用いられ、チャネル容量の増大及び/又は分解能の向上との効果も達成可能なため、良好な応用の可能性を有する。
【0029】
言うまでもなく、本発明の上記内容に基づき、当該分野における一般的な技術と知識及び慣用の手段に従って、本発明における上記の基本的技術思想を逸脱しないことを前提に、その他様々な形式の修正、置換又は変更を実施してもよい。
【0030】
以下に、実施例形式の具体的実施形態によって、本発明の上記内容につき更に詳細に説明する。ただし、この点について、本発明の上記主題の範囲が以下の事例にのみ限られると解釈すべきではない。本発明の上記内容に基づき実現される技術は、いずれも本発明の範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、均一円形トランスデューサアレイの概略図である。
図2図2は、従来技術における8つのトランスデューサユニットが円環上に均一に分布されてなるトランスデューサアレイにより取得したモード数1(a)、モード数2(b)、モード数3(c)の渦超音波場と、8つのトランスデューサユニットでは生成できなかったモード数4の渦音場(e)の概略図である。
図3図3は、トランスデューサユニットで形成されるベースアレイの回転前及び2回の回転後の状態と、それらで形成される合成トランスデューサアレイの概略図である。
図4図4は、実施形態において、N=8のトランスデューサベースアレイを用いて1回回転させ、N=16のトランスデューサアレイを模倣して生成したモード数4の渦音場の概略図である。
図5図5は、実施形態において、N=8のトランスデューサベースアレイを用いて2回回転させ、N=24のトランスデューサアレイを模倣して生成したモード数8の渦音場の概略図である。
図6図6は、実施形態において、N=8のトランスデューサベースアレイを用いて直接生成したモード数3の渦音場の指向性である。
図7図7は、実施形態において、N=8のトランスデューサベースアレイが本方法を用いて合成したモード数3の渦音場の指向性である。
図8図8は、実施形態において、N=8のトランスデューサベースアレイを用いて生成したモード数4の渦音場の指向性である。
図9図9は、実施形態において、N=8のトランスデューサベースアレイを用いて1回回転させ、本方法により合成したモード数4の渦音場の指向性である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、具体的実施形態によって、本願の技術方案について更に説明する。
【0033】
従来技術における均一円形トランスデューサアレイで渦音場を生成する方法は、以下の通りである。
【0034】
図1に示すように、N個の円形トランスデューサで構成される均一円形アレイがXOY平面内に位置すると仮定する。アレイの半径をRとし、n番目のトランスデューサの調整方位角(即ち、生成される音場の位相)をφ={2π(n-1)α}/Nとする。αはトポロジカル量子数(即ち、モード数)である。各トランスデューサには、下記のように励起信号が付与される。
【0035】
【数1】
【0036】
Aは音波の振幅、fは信号周波数、tは時間、jは虚数単位である。
【0037】
直交座標系における観測点Tの座標が(x,y,z)であり、球面座標系における観測点Tの座標が
であると仮定する。rは観測点と座標原点との距離であり、
は、観測点と座標軸原点を結ぶ線とX軸との夾角であり、θは観測点と座標軸原点を結ぶ線とZ軸との夾角である。この場合、観測点で検出される音圧は下記の通りとなる。
【0038】
【数2】
【0039】
kは波数である。また、
は球面座標系におけるトランスデューサの空間方位角であり、
となる。Rは、任意のトランスデューサから観測点Tまでの距離である。Rは下記で表すことができる。
【0040】
【数3】
【0041】
N個のトランスデューサが重畳作用した場合、
の音圧は下記で表すことができる。
【0042】
【数4】
【0043】
式(1-4)の複素指数形式を三角関数形式に展開すると、下記のようになる。
【0044】
【数5】
【0045】
複数のトランスデューサが重畳されたあと、形成される音場の振幅を表す式は下記の通りとなる。
【0046】
【数6】
【0047】
形成される音場の位相を表す式は下記の通りとなる。
【0048】
【数7】
【0049】
採用する実験パラメータを、周波数f=1000Hz、音速c=340m/s、音波の振幅A=1、アレイ要素数N=8、モード数α=1、2、3、4、アレイ半径R=0.2mとして、式(1-6)及び式(1-7)を用いて取得した渦音場は図2に示す通りとなった。図2から明らかなように、α=4の場合には渦音場を形成不可能であった。渦音場の特性は、中心の音の強さが0となり、伝搬方向における波面が螺旋形をなすことである。この特性は、波面の線形変化の位相分布に由来する。
【0050】
実施形態:本発明における超高モード数である合成軌道角運動量モード数の渦音場
本実施例では、各パラメータを以下のように定義した。
【0051】
元のトランスデューサユニットの数をNとする。
【0052】
合成トランスデューサアレイにおけるトランスデューサユニットの数をNとする。また、N=(s+1)×Nとする。
【0053】
合成するモード数をα´とする。α´は整数とし、且つ、-N/2<α´<N/2を満たすものとする。
【0054】
本来、N個である元のトランスデューサユニットが形成可能な渦音場のモード数をαとする。αは整数とし、且つ、-N/2<α<N/2を満たすものとする。
【0055】
合成するモード数をα´とした場合、合成トランスデューサアレイにおける隣接する2つのトランスデューサユニット間の調整位相差はΔφ=2π(α´/N)となる。
【0056】
トランスデューサアレイの回転回数をsと記載する。
【0057】
合成トランスデューサアレイとは、渦音場を合成するための各トランスデューサユニットが音場を生成する際に、それらが存在する位置を1つのアレイ要素として形成されるアレイのことである。例えば、従来技術において、トランスデューサアレイが回転しない場合、合成トランスデューサアレイは元のトランスデューサアレイとなる。仮に、トランスデューサアレイが1回回転した場合(図3参照)、合成トランスデューサアレイは、元のトランスデューサアレイと回転後のトランスデューサアレイの組み合わせとなる(図3の右図参照)。
【0058】
そのため、大きなα´を取得したければ、合成トランスデューサアレイにおけるトランスデューサユニットの数Nを増やす必要がある。従来の方法では、元のトランスデューサユニットの数Nを増さねばならなかったが、本方法の場合には、元のトランスデューサアレイの回転回数sを増やすだけでよい。
【0059】
具体的に、本実施形態の操作方法は以下の通りである。
【0060】
(1)N個のトランスデューサユニットを半径Rの円環上に均一に分布させ、取得した円環状のトランスデューサアレイを精密ロータリーテーブルで制御する。精密ロータリーテーブルは、円環状のトランスデューサアレイを所定の方向(時計回り又は反時計回り)に回転可能とする。
【0061】
(2)モード数がα´の仮想渦音場を合成したい場合、初期位置において、n番目のトランスデューサユニットが生成する音場の位相はα´*{2π(n―1)/N}となり、そのうち、-N/2<α´<N/2となる。
【0062】
(3)アレイ要素数がNの合成トランスデューサアレイを合成したい場合には、前記円環状のトランスデューサアレイをk-1回回転させることで、N=kNとする必要がある。円環は精密ロータリーテーブルで制御される。精密ロータリーテーブルは、トランスデューサアレイを所定の方向(時計回り又は反時計回り)に回転させる。円環状のトランスデューサアレイの毎回の回転角度は2π/Nとなる。トランスデューサアレイのi回目の回転のあと(1≦i≦s)、n番目のトランスデューサが順次出力する音場の位相はα´*{2π(n-1)/N}+α´*(2π/N)*iとなり、そのうち、-N/2<α´<N/2となる。
【0063】
(4)アレイが異なる位置で形成した異なるモード数の元の音場を重畳することで、合成軌道角運動量モード数の渦音場を合成可能である。
【0064】
「音場を重畳する」方法は、次の通りである。即ち、ステップ(1)で生成された初期音場とステップ(2)で生成されたs個の音場を表す式(又は測定値)をベクトル加算して、新たな式(測定値)を取得する。新たな式(測定値)で表される音場が重畳後の音場となる。前記式とは、
の音圧を表す式である。
【0065】
上記の方法で操作した結果を図4に示す。N=8のトランスデューサベースアレイを用いて生成したモード数4(N/2に等しい)の音場を図4の(a)に示す。また、当該ベースアレイを用い、1回回転させて生成したモード数4の音場を図4の(b)に示す。また、これら2回で生成された音場を重畳し、N=16のトランスデューサアレイを模倣及び合成して生成したモード数4の渦音場を図4の(c)に示す。一方、図5を参照して、N=24のトランスデューサベースアレイを直接用いて生成したモード数8の音場を図5の(a)に示す。N=8のトランスデューサベースアレイを用いてモード数8の合成渦音場を生成する場合には、アレイを2回回転させる必要がある。また、アレイの空間位置を回転させたあと、位相を変更する必要がある。N=8のトランスデューサベースアレイを用いて生成した初期音場を図5の(b)に示す。また、N=8のトランスデューサベースアレイを用いて1回回転させ、各トランスデューサユニットが音場を出力し、位相が相応に変更されたあと、生成された音場を図5の(c)に示す。また、N=8のトランスデューサベースアレイを再び回転させ、各トランスデューサユニットが音場を出力し、位相が相応に変更されたあと、生成された音場を図5の(d)に示す。また、アレイが3つの異なる空間位置で出力した音場を重畳したあと取得したモード数8の合成渦音場を図5の(e)に示す。上記の方法によって、8つのトランスデューサユニットを用いたモード数8の合成渦音場の生成を完了した。上記から明らかなように、本方法は、少ないトランスデューサユニット数で超高モード数の渦音場の生成を実現可能である。本実施形態におけるその他のパラメータは、上記の均一円形トランスデューサアレイで渦音場を生成する方法で用いられるパラメータと同じである。
【0066】
本願の優位性を説明するために、以下に、本実施形態で生成される音場の指向性について説明する。本実施形態で使用する円形トランスデューサアレイの指向性関数は下記の通りである。
【0067】
【数8】
【0068】
Rはアレイの半径、cは音速、jは虚数単位、aはトランスデューサユニットの半径である。
【0069】
図6は、N=8のトランスデューサベースアレイを用いて直接生成したモード数3の渦音場の指向性である。図7は、実施形態において、N=8のトランスデューサベースアレイが本方法を用いて合成したモード数3の渦音場の指向性である。
【0070】
図8は、N=8のトランスデューサベースアレイを用いて生成したモード数4の渦音場の指向性である。図9は、実施形態において、N=8のトランスデューサベースアレイを用いて1回回転させ、本方法により合成したモード数4の渦音場の指向性である。
【0071】
言うまでもなく、図6図7の比較及び図8図9の比較より、本方法で形成された渦音場の方が良好な指向性を有することがわかる。従って、本方法で形成される渦音場は、イメージング過程やデータの伝送過程においてより良好なイメージング分解能及びより良好な伝送性能を有する。
【0072】
上記の実施形態から明らかなように、本願は、トランスデューサユニット数が少ないトランスデューサアレイを回転させるとともに、各トランスデューサユニットについて相応の位相調整を行い、各回転後に生成される渦音場を回転前の渦音場と重畳することで、マルチモード数の渦音場を合成可能である。且つ、従来技術と比較して、本発明の方法で生成される合成渦超音波場はより良好な指向性を有する。当該方法を水中通信やバイオメディカルイメージング等の機器に応用することで、トランスデューサユニット数を減少させて、機器を簡略化することが可能である。また、渦音場のモード数を増加させることで、情報搭載容量とイメージング分解能を向上させられる。且つ、指向性も強化されるため、イメージング過程やデータの伝送過程においてより良好なイメージング分解能及びより良好な伝送性能を有することになる。従って、本発明の技術は応用の潜在力が極めて大きい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9