IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

特許7487412プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム
<>
  • 特許-プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム 図1
  • 特許-プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム 図2
  • 特許-プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム 図3
  • 特許-プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム 図4A
  • 特許-プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム 図4B
  • 特許-プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム 図5
  • 特許-プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム 図6
  • 特許-プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム 図7
  • 特許-プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム 図8
  • 特許-プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム 図9
  • 特許-プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240513BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023520943
(86)(22)【出願日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2022018157
(87)【国際公開番号】W WO2022239612
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2021082212
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】永野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真由美
(72)【発明者】
【氏名】青山 邦明
(72)【発明者】
【氏名】江口 慶治
【審査官】田中 成彦
(56)【参考文献】
【文献】特許第5031088(JP,B2)
【文献】特開2015-001823(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0370996(US,A1)
【文献】特開2015-088078(JP,A)
【文献】特開2014-010482(JP,A)
【文献】特開2010-181188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視方法であって、
現時点に至るまでの過去の第1期間の前記データである第1データを取得するステップと、
現時点以後の第2期間の前記データである第2データを予測する予測ステップと、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間を作成する単位空間作成ステップと、を備え、
前記予測ステップでは、前記第1期間を規定長さの時間分過去にシフトさせた第3期間の前記データである第3データ、前記第2期間を前記規定長さの時間分過去にシフトさせた第4期間の前記データである第4データ、及び、前記第1データに基づいて、前記第2データを予測する
プラント監視方法。
【請求項2】
前記第3データは、前記複数の変数の各々についてそれぞれ定められた前記規定長さの時間分前記第1期間をそれぞれ過去にシフトさせた前記第3期間の前記変数のデータの集合であり、
前記第4データは、前記複数の変数の各々についてそれぞれ定められた前記規定長さの時間分前記第2期間をそれぞれ過去にシフトさせた前記第4期間の前記変数のデータの集合である
請求項1に記載のプラント監視方法。
【請求項3】
前記複数の変数のうち少なくとも1つの変数について定められた前記規定長さの時間は1年である
請求項1又は2に記載のプラント監視方法。
【請求項4】
前記複数の変数のうち少なくとも他の1つの変数について定められた前記規定長さの時間は、前記他の1つの変数に関連するプラント構成機器の部品交換周期である
請求項3に記載のプラント監視方法。
【請求項5】
前記予測ステップでは、前記第3期間と前記第4期間との間での前記データの変化、又は、前記第3期間と前記第1期間との間での前記データの変化を示す値を用いて、前記第2データを予測する
請求項1又は2に記載のプラント監視方法。
【請求項6】
前記予測ステップでは、前記複数の変数のうちの一の変数について、前記第4データの平均と前記第3データの平均との差分に基づく値を、前記第1データに加算して前記第2データを得る
請求項1又は2に記載のプラント監視方法。
【請求項7】
前記差分を前記第3データの標準偏差で除した値に前記第1データの標準偏差を乗じた値を、前記第1データに加算して前記第2データを得る
請求項6に記載のプラント監視方法。
【請求項8】
前記予測ステップでは、前記複数の変数のうちの一の変数について、前記第1データの平均と、前記第3データの平均との差分に基づく値を、前記第4データに加算して前記第2データを得る
請求項1又は2に記載のプラント監視方法。
【請求項9】
前記差分を前記第3データの標準偏差で除した値に前記第4データの標準偏差を乗じた値を、前記第4データに加算して前記第2データを得る
請求項8に記載のプラント監視方法。
【請求項10】
前記単位空間を構成する前記第1データの数は、前記単位空間を構成する前記第2データの数よりも多い
請求項1又は2に記載のプラント監視方法。
【請求項11】
前記第2データのうち、前記単位空間の作成に用いるデータをランダムに選択するステップを備え、
前記単位空間作成ステップでは、前記選択するステップで選択されたデータと、前記第1データの少なくとも一部とを用いて前記単位空間を作成する
請求項1又は2に記載のプラント監視方法。
【請求項12】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視装置であって、
現時点に至るまでの過去の第1期間の前記データである第1データを取得するように構成された取得部と、
現時点以後の第2期間の前記データである第2データを予測するように構成された予測部と、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間を作成するように構成された単位空間作成部と、を備え、
前記予測部は、前記第1期間を規定長さの時間分過去にシフトさせた第3期間の前記データである第3データ、前記第2期間を前記規定長さの時間分過去にシフトさせた第4期間の前記データである第4データ、及び、前記第1データに基づいて、前記第2データを予測するように構成された
を備えるプラント監視装置。
【請求項13】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視プログラムであって、
コンピュータに、
現時点に至るまでの過去の第1期間の前記データである第1データを取得する手順と、
現時点以後の第2期間の前記データである第2データを予測する手順と、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間を作成する手順と、を実行させ、
前記第2データを予測する手順では、前記第1期間を規定長さの時間分過去にシフトさせた第3期間の前記データである第3データ、前記第2期間を前記規定長さの時間分過去にシフトさせた第4期間の前記データである第4データ、及び、前記第1データに基づいて、前記第2データを予測する
プラント監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラムに関する。
本願は、2021年5月14日に日本国特許庁に出願された特願2021-082212号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
プラントの状態を示す変数(センサで取得可能な状態量等)の基準的なデータ集合と、該変数についての計測データとの乖離を示すマハラノビス距離を用いてプラントを監視することがある。
【0003】
特許文献1には、マハラノビス距離を用いたプラント監視方法において、運転期間に応じて設定される複数の単位空間を用いてマハラノビス距離を算出することが記載されている。ここで、上述の単位空間は、プラントの運転状態が正常であるか否かを判定する際の基準となるデータの集合体である。より具体的には、特許文献1では、プラントの起動運転期間におけるプラントの状態量に基づいて作成される単位空間を用いてプラントの起動運転期間に取得されるデータについてのマハラノビス距離を算出するとともに、プラントの負荷運転期間におけるプラントの状態量に基づいて作成される単位空間を用いてプラントの負荷運転期間に取得されるデータについてのマハラノビス距離を算出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5031088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、マハラノビス距離の算出の基礎となる単位空間は、通常、過去の期間にセンサによって取得されたデータ(基準データ)から構成される。このような単位空間を用いて、上述の過去の期間(基準データが取得された期間)よりも後の期間における時点(例えば現時点や近い未来の時点)での計測データ(評価対象データ)についてのマハラノビス距離を算出する場合、基準データが取得された過去の期間におけるデータのトレンドと、評価対象データが取得された期間におけるデータのトレンドとが一致しないことがある。この場合、評価対象データについて算出されるマハラノビス距離に基づくプラントの異常検知の精度が良好でない場合がある。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、プラントの異常を精度良く検知可能なプラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント監視方法は、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視方法であって、
現時点に至るまでの過去の第1期間の前記データである第1データを取得するステップと、
現時点以後の第2期間の前記データである第2データを予測する予測ステップと、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間を作成する単位空間作成ステップと、を備え、
前記予測ステップでは、前記第1期間を規定長さの時間分過去にシフトさせた第3期間の前記データである第3データ、前記第2期間を前記規定長さの時間分過去にシフトさせた第4期間の前記データである第4データ、及び、前記第1データに基づいて、前記第2データを予測する。
【0008】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント監視装置は、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視装置であって、
現時点に至るまでの過去の第1期間の前記データである第1データを取得するように構成された取得部と、
現時点以後の第2期間の前記データである第2データを予測するように構成された予測部と、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間を作成するように構成された単位空間作成部と、を備え、
前記予測部は、前記第1期間を規定長さの時間分過去にシフトさせた第3期間の前記データである第3データ、前記第2期間を前記規定長さの時間分過去にシフトさせた第4期間の前記データである第4データ、及び、前記第1データに基づいて、前記第2データを予測するように構成される。
【0009】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント監視プログラムは、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視プログラムであって、
コンピュータに、
現時点に至るまでの過去の第1期間の前記データである第1データを取得する手順と、
現時点以後の第2期間の前記データである第2データを予測する手順と、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間を作成する手順と、を実行させ、
前記第2データを予測する手順では、前記第1期間を規定長さの時間分過去にシフトさせた第3期間の前記データである第3データ、前記第2期間を前記規定長さの時間分過去にシフトさせた第4期間の前記データである第4データ、及び、前記第1データに基づいて、前記第2データを予測する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、本発明の少なくとも一実施形態は、プラントの異常を精度良く検知可能なプラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】幾つかの実施形態に係る監視方法が適用されるプラントに含まれるガスタービンの概略構成図である。
図2】一実施形態に係るプラント監視装置の概略構成図である。
図3】一実施形態に係るプラントの監視方法のフローチャートである。
図4A】一実施形態に係るプラントの監視方法を説明するための図である。
図4B】一実施形態に係るプラントの監視方法を説明するための図である。
図5】プラントの状態を示す複数の変数に基づき作成される単位空間の一例を模式的に示す図である。
図6】プラントの状態を示す変数についての計測データの一例を示す模式的なグラフである。
図7】プラントの状態を示す変数についての計測データの一例を示す模式的なグラフである。
図8】プラントの状態を示す変数についての計測データの一例を示す模式的なグラフである。
図9】プラントの状態を示す変数についての計測データの一例を示す模式的なグラフである。
図10】プラントの状態を示す複数の変数と規定長さの時間(計測データの変動周期)との対応関係の一例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0013】
(プラント監視装置の構成)
図1は、幾つかの実施形態に係る監視方法が適用されるプラントに含まれる機器の一例であるガスタービンの概略構成図である。図2は、一実施形態に係るプラント監視装置の概略構成図である。
【0014】
図1に示すガスタービン10は、空気を圧縮するための圧縮機12と、圧縮機12からの圧縮空気とともに燃料を燃焼させるための燃焼器14と、燃焼器14で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービン16と、を備える。ガスタービン10のロータ15に発電機18が連結され、ガスタービン10によって発電機18が回転駆動されるようになっている。
【0015】
幾つかの実施形態では、監視対象のプラントは、上述のガスタービン10を含む。幾つかの実施形態では、監視対象のプラントは、他の機器(例えば蒸気タービン)を含んでもよい。
【0016】
図2に示すプラント監視装置40は、計測部30によって計測されるプラントの状態を示す複数の変数の計測値に基づいて、プラントの監視をするように構成される。
【0017】
計測部30は、プラントの状態を示す複数の変数を計測するように構成される。計測部30は、プラントの状態を示す複数の変数をそれぞれ計測するように構成された複数のセンサを含んでもよい。
【0018】
ガスタービン10を含むプラントの場合、計測部30は、プラントの状態を示す変数として、ガスタービン10のロータ回転数、各段ブレードパス温度、ブレードパス平均温度、タービン入口圧力、タービン出口圧力、発電機出力、吸気フィルタ入口圧力又は吸気フィルタ出口圧力の何れかを計測するように構成されたセンサを含んでもよい。
【0019】
プラント監視装置40は、計測部30から、プラントの状態を示す変数の計測値を示す信号を受け取るように構成される。プラント監視装置40は、計測部30からの計測値を示す信号を、規定のサンプリング周期毎に受け取るように構成されていてもよい。また、また、プラント監視装置40は、計測部30から受け取った信号を処理して、プラントの異常の有無を判定するように構成される。プラント監視装置40による判定結果は、表示部60(ディスプレイ等)に表示されるようになっていてもよい。
【0020】
図2に示すように、一実施形態に係るプラント監視装置40は、データ取得部(取得部)42と、予測部44と、単位空間作成部46と、マハラノビス距離算出部48と、異常判定部50と、を含む。
【0021】
プラント監視装置40は、プロセッサ(CPU等)、主記憶装置(メモリデバイス;RAM等)、補助記憶装置及びインターフェース等を備えた計算機を含む。プラント監視装置40は、インターフェースを介して、計測部30から、プラントの状態を示す変数の計測値を示す信号を受け取るようになっている。プロセッサは、このようにして受け取った信号を処理するように構成される。また、プロセッサは、記憶装置に展開されるプログラムを処理するように構成される。これにより、上述の各機能部(データ取得部42等)の機能が実現される。
【0022】
プラント監視装置40での処理内容は、プロセッサにより実行されるプログラムとして実装される。プログラムは、補助記憶部に記憶されていてもよい。プログラム実行時には、これらのプログラムは記憶装置に展開される。プロセッサは、記憶装置からプログラムを読み出し、プログラムに含まれる命令を実行するようになっている。
【0023】
データ取得部42は、現時点以前の規定期間(後述する第1期間、第3期間及び第4期間)内の複数の時刻t(t1,t2,…)の各々におけるプラントの状態を示す複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータ(第1データ、第3データ及び第4データ)を取得するように構成される。ガスタービン10を含むプラントの場合、プラントの状態を示す変数(V1,V2,…,Vn)は、ガスタービン10のロータ回転数、各段ブレードパス温度、ブレードパス平均温度、タービン入口圧力、タービン出口圧力、発電機出力、吸気フィルタ入口圧力、又は吸気フィルタ出口圧力の何れかを含んでもよい。なお、時刻tにおける上述の変数のデータは、時刻tを基準とする規定期間における上述の変数の計測値の代表値(例えば平均値)であってもよい。
【0024】
データ取得部42は、計測部30により計測される複数の変数の計測値に基づき上述のデータを取得するように構成されてもよい。複数の変数の計測値又は該計測値に基づくデータは、記憶部32に記憶されるようになっていてもよい。データ取得部42は、上述の計測値又は該計測値に基づくデータを、記憶部32から取得するように構成されていてもよい。
【0025】
なお、記憶部32は、プラント監視装置40を構成する計算機の主記憶装置又は補助記憶装置を含んでもよい。あるいは、記憶部32は、該計算機とネットワークを介して接続される遠隔記憶装置を含んでもよい。
【0026】
予測部44は、データ取得部42で取得される現時点以前の規定期間における複数の変数のデータに基づいて、現時点以後の規定期間(後述する第2期間)における該複数の変数のデータ(第2データ)を予測するように構成される。
【0027】
単位空間作成部46は、データ取得部42で取得された第1データ、及び、予測部44で取得された第2データに基づいて、マハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間を作成するように構成される。
【0028】
上述の単位空間は、目的に対して均質な集団(正常データの集合)であり、評価対象(診断対象)となるデータの単位空間の中心からの距離がマハラノビス距離として算出される。マハラノビス距離が小さければ評価対象のデータは正常である可能性が大きく、マハラノビス距離が大きければ評価対象のデータは異常である可能性が大きい。
【0029】
マハラノビス距離算出部48は、単位空間作成部46により作成された単位空間を用いて、評価対象のデータについてマハラノビス距離を計算するように構成される。
【0030】
異常判定部50は、マハラノビス距離算出部48により算出されたマハラノビス距離に基づいて、プラントの異常の有無を判定するように構成される。
【0031】
(プラント監視のフロー)
以下、幾つかの実施形態に係るプラント監視方法についてより具体的に説明する。なお、以下において、上述のプラント監視装置40を用いて一実施形態に係るプラント監視方法を実行する場合について説明するが、幾つかの実施形態では、他の装置を用いてプラントの監視方法を実行するようにしてもよい。
【0032】
図3は、幾つかの実施形態に係るプラントの監視方法のフローチャートである。図4A及び図4Bは、幾つかの実施形態に係るプラントの監視方法を説明するための図である。
【0033】
図3に示すように、幾つかの実施形態では、まず、データ取得部42は、現時点に至るまでの過去の第1期間T1(図4A参照)内の複数の時刻におけるプラントの状態を示す複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータである第1データを取得する(S2)。すなわち、第1データは、第1期間T1内の複数の時刻の各々における複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータの組(データセット)を含む。
【0034】
なお、本明細書において、「現時点」は、特定の時点(基準時点)の意味であり、今現在とは限らず、今現在よりも前の時点であってもよい。
【0035】
また、データ取得部42は、過去の第3期間T3(図4A参照)内の複数の時刻におけるプラントの状態を示す複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータである第3データを取得するとともに、過去の第4期間T4(図4A参照)内の複数の時刻におけるプラントの状態を示す複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータである第4データを取得する(S4)。
【0036】
図4Aに示すように、上述の第3期間T3は、第1期間T1を規定長さの時間分過去にシフトさせた期間である。すなわち、第3期間T3は、現時点から規定長さの時間分前における第1期間T1に対応する期間である。第3期間T3の開始時点は、第1期間T1の開始時点から規定長さの時間分前の時点であり、第3期間T3の終了時点は、第1期間T1から規定長さの時間分前の時点である。また、第3期間T3の長さは、第1期間T1の長さと等しい。
【0037】
図4Aに示すように、上述の第4期間T4は、現時点以後の第2期間T2を規定長さの時間分過去にシフトさせた期間である。すなわち、第4期間T4は、現時点から規定長さの時間分前における第2期間T2に対応する期間である。第4期間T4の開始時点は、第2期間T2の開始時点から規定長さの時間分前の時点であり、第4期間T4の終了時点は、第2期間T2の終了時点から規定長さの時間分前の時点である。また、第4期間T4の長さは、第2期間T2の長さと等しい。
【0038】
上述の第3データ(複数の変数についての第3データ)は、複数の変数の各々についてそれぞれ定められた規定長さの時間分第1期間T1をそれぞれ過去にシフトさせた第3期間T3の各変数のデータの集合であるとともに、上述の第4データ(複数の変数についての第4データ)は、複数の変数の各々についてそれぞれ定められた規定長さの時間分第2期間T2をそれぞれ過去にシフトさせた第4期間T4の各変数のデータの集合であってもよい。すなわち、複数の変数の各々について、第1期間T1及び第2期間T2から第3期間T3及び第4期間T4までの時間のシフト量(遡る時間の長さ;即ち、上述の規定長さの時間)がそれぞれ定義されていてもよい。
【0039】
例えば、図4Bに示すように、複数の変数(Va,Vbを含む)についての第3データは、変数Vaについては第1期間T1から規定長さの時間Ta(例えば1年)分過去にシフトした第3期間T3(Va)の変数Vaのデータ、及び、変数Vbについては第1期間T1から規定長さの時間Tb(例えば1.5年)分過去にシフトした第3期間T3(Vb)の変数Vbのデータを含み、かつ、複数の変数についての第4データは、変数Vaについては第2期間T2から規定長さの時間Ta分過去にシフトした第4期間T4(Va)の変数Vaのデータ、及び、変数Vbについては第2期間T2から規定長さの時間Tb分過去にシフトした第4期間T4(Vb)の変数Vbのデータを含んでもよい。
【0040】
すなわち、複数の変数(V1,V2,…,Vn)の第3データは、複数の変数(V1,V2,…,Vn)の各々についての第3期間T3内の複数の時刻の各々におけるデータの組(データセット)を含む。また、複数の変数(V1,V2,…,Vn)の第4データは、複数の変数(V1,V2,…,Vn)の各々についての第4期間T4内の複数の時刻の各々におけるデータの組(データセット)を含む。
【0041】
以下、本明細書において、複数の変数の第3データに含まれる特定の変数についてのデータを、該変数についての第3データという場合がある。また、複数の変数の第4データに含まれる特定の変数についてのデータを、該変数についての第4データという場合がある。
【0042】
次に、予測部44は、ステップS2で取得した第1期間T1の第1データ、及び、ステップS4で取得した第3期間T3の第3データ及び第4期間T4の第4データに基づいて、現時点以後の第2期間T2(図4A,4B参照)におけるプラントの状態を示す複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータである第2データを予測する(S6)。ここで、第2データは、第2期間T2における複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータの組(データセット)を複数含む。典型的には、第2期間T2の長さは、第1期間T1の長さと等しい。なお、ステップS6において第2データを予測する手順については後述する。
【0043】
次に、単位空間作成部46は、ステップS2で取得される第1データ、及び、ステップS6で予測される第2データに基づいて、後続のステップS10でのマハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間を作成する(S8)。即ち、ステップS8では、第1データ及び第2データの中から、単位空間を構成するデータを選択する。
【0044】
ステップS8では、ステップS2で取得される第1データの少なくとも一部、及び、ステップS6で取得される第2データの少なくとも一部を用いて、上述の単位空間を作成してもよい。また、ステップS8では、第1データの少なくとも一部、及び、第2データの少なくとも一部に加え、第1データが取得される第1期間に至るまでの、第1期間よりも前の期間T0(図4A,4B参照)に取得された複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータを用いて、上述の単位空間を作成してもよい。
【0045】
そして、マハラノビス距離算出部48は、単位空間作成部46により作成された単位空間を用いて、評価対象(診断対象)のデータ(信号空間データ)についてマハラノビス距離を計算する(S10)。典型的には、ステップS10では、現時点以後の期間内に取得される複数の変数(V1,V2,…,Vn)の計測値(Y1,Y2,…,Yn)を評価対象のデータ(信号空間データ)とし、これについてマハラノビス距離を算出する。
【0046】
評価対象のデータについてのマハラノビス距離は、特許文献1に記載される方法で算出することができるが、マハラノビス距離の算出方法について、概略的には以下のように説明することができる。まず、単位空間を構成するデータ(n個の変数(V1,V2,…,Vn)についてのデータセット(X,X,…,X))を用いて、下記式(A)より各項目(変数)毎の平均を求める。なお、下記式において、kは単位空間を構成するn個の変数の各々のデータ数(データセット数)である。
【数1】
次に、上記式(A)で算出した各項目(変数)毎の平均を用いて、下記式(B)により単位空間を構成するデータについて共分散行列COV(n×n行列)を求める。
【数2】
そして、評価対象のデータY~Yと、上記式(A)により求めた平均及び上記式(B)により求めた共分散行列の逆行列を用いて、下記式(C)によりマハラノビス距離Dの2乗値Dが算出される。なお、下記式において、lはn個の変数についての評価対象のデータ(信号空間データ)Y~Yのデータ数(データセット数)である。
【数3】
【0047】
次に、異常判定部50は、ステップS10で算出されたマハラノビス距離Dに基づいて、プラントの異常の有無を判定する(S12)。ステップS12では、上述のマハラノビス距離Dと閾値との比較に基づき、プラントの異常の有無を判定してもよい。例えば、ステップS10で算出されたマハラノビス距離Dが閾値以下であるときにプラントは正常であると判定するとともに、マハラノビス距離Dが閾値より大きいときにプラントに異常が生じていると判定するようにしてもよい。
【0048】
図5は、プラントの状態を示す複数の変数に基づき作成される単位空間の一例を模式的に示す図である。図6及び図7、並びに、図8及び図9は、プラントの状態を示す変数についての計測データの一例を示す模式的なグラフである。図6及び図7、並びに、図8及び図9において、実線はプラントの状態を示す変数についての計測データ(センサ値)を示し、一対の曲線U1,U2(破線)の間の領域は、マハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間に相当する。
【0049】
プラントの状態を示す複数の変数についての計測データ(例えば温度や圧力等)には、図6及び図7、並びに、図8及び図9に示すように、周期的に変動するものが含まれる。図6及び図7に示す変数の計測データは1年周期での季節変動を伴うものであり、例えば、温度センサによる計測データ等が含まれる。図8及び図9に示す変数の計測データはプラント構成機器の部品交換周期での変動を伴うものであり、例えば、吸気フィルタ(プラント構成機器の部品)の出口圧力を計測するセンサによる計測データが含まれる。部品交換周期での変動を伴う計測データとは、部品交換時点からの経過時間によって計測データの変動の仕方が影響を受けるものである。
【0050】
ここで、現時点(又は現時点から近い未来の時点、例えば上述の第2期間T2内の時点等)に取得される計測データについて、マハラノビス距離を算出することを考える。
【0051】
この場合において、直近の過去の期間(例えば上述の第1期間)に取得された複数の変数のデータのみを用いて単位空間を作成すると、図7又は図9に示すように、計測データ(実線)の周期的変動と、単位空間(曲線U1と曲線U2の間の領域)の周期的変動との間で時間差が生じる。その結果、計測データの単位空間の中心からの距離が大きくなる期間(図中の領域A)が発生し、このような期間において、マハラノビス距離が大きく算出されやすくなり、プラントの異常について誤判定されやすくなる等、異常検知の精度が良好でない場合がある。
【0052】
これに対し、上述の実施形態では、第1期間T1及びこれに続く第2期間T2にそれぞれ対応する規定長さの時間分前の過去の期間(第3期間T3及び第4期間T4)に取得された第3データ及び第4データ、並びに、第1期間T1に取得された第1データに基づいて、複数の変数のデータの周期的な変動を加味して第2データを予測することができる。これは、例えば図5に示すように、ある変数のデータについて、第1期間T1とこれに続く第2期間T2との間でのデータの変動は、第1期間T1に対応する規定長さの時間(例えば、1年又は部品交換周期)分前の第3期間T3及び第2期間T2に対応する規定長さの時間分前の第4期間T4との間でのデータの変動に対応するためである。そして、上述の実施形態では、このように予測された第2データ、及び、実測値に基づく第1データを併せて用いることで季節変動を加味した単位空間を作成することができる。
【0053】
このように単位空間を作成すると、図6又は図8に示すように、計測データ(実線)の周期的変動のトレンドと、単位空間(曲線U1と曲線U2の間の領域)の周期的変動のトレンドとが一致しやすくなる。その結果、算出されるマハラノビス距離は、計測データの周期的変動の影響を受けにくくなる。例えば、図6又は図8において、領域A(図7又は図9中の領域Aに対応する領域)に対応する期間において、計測データの単位空間の中心からの距離は、他の期間と同等である。
【0054】
よって、このように作成された単位空間に基づき算出されるマハラノビス距離を用いることで、精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0055】
なお、図5において、楕円Q1~Q4は、それぞれ、第1データ~第4データのそれぞれに基づき作成される単位空間の一例を模式的に示す図である。それぞれの楕円は、各単位空間から計算されるマハラノビス距離が等しい点の集合である。図5では、簡略化のため、2つの変数V1,V2に基づく単位空間が概略的に示されている。図5に示すように、第1データに基づく単位空間Q1に対する、第2データに基づく単位空間Q2の位置の変化は、第3データに基づく単位空間Q3に対する、第4データに基づく単位空間Q4の位置の変化に対応している。すなわち、単位空間Q1の中心に対するに対する単位空間Q2の中心の変動ベクトルv12の向きと、単位空間Q3の中心に対するに対する単位空間Q4の中心の変動ベクトルv34の向きとがほぼ同じである。なお、これらの変動ベクトルの長さは、単位空間を構成するデータのばらつき具合(楕円の大きさ)にも影響を受ける。図5においては、単位空間Q3及び単位空間Q4を構成するデータのばらつきは、単位空間Q1及び単位空間Q2を構成するデータのばらつきよりも小さい。よって、変動ベクトルv34の長さは、変動ベクトルv12の長さよりも短い。したがって、ステップS6において、各期間におけるデータのばらつき具合の差を考慮することによって、より適切に第2データを予測することができる。
【0056】
幾つかの実施形態では、複数の変数(V1,V2,…,Vn)のうち少なくとも1つの変数(例えばVa)について定められた上述の規定長さの時間(第1期間T1及び第2期間T2から第3期間T3及び第4期間T4までの時間のシフト量)は1年である。
【0057】
プラントの状態を示す複数の変数のデータには、通常、季節に応じて1年周期で変動するものが含まれる。この点上述の実施形態によれば、第1期間T1及び第2期間T2に対応する1年前の期間(第3期間T3及び第4期間T4)に取得された上述の少なくとも1つの変数(Va)のついてのデータを含む第3データ及び第4データを用いて、第2データを予測するようにしたので、該変数(Va)のデータの季節変動を加味して第2データを精度良く予測することができる。
【0058】
幾つかの実施形態では、複数の変数(V1,V2,…,Vn)のうち少なくとも他の1つの変数(例えばVb)について定められた上述の規定長さの時間(第1期間T1及び第2期間T2から第3期間T3及び第4期間T4までの時間のシフト量)は、該他の1つの変数(Vb)に関連するプラント構成機器の部品交換周期である。例えば、該プラント構成機器は、ガスタービンの吸気フィルタであってもよい。
【0059】
ここで、図10は、プラントの状態を示す複数の変数(V1,V2,…,V150)にそれぞれ対応するセンサの番号(センサNo.)と、該複数の変数(センサ)の各々について定められた上述の規定長さの時間(第1期間T1及び第2期間T2から第3期間T3及び第4期間T4までの時間のシフト量)との対応関係の一例を示す表である。
【0060】
図10に示すように、上述の規定長さの時間(第1期間T1及び第2期間T2から第3期間T3及び第4期間T4までの時間のシフト量)は、複数の変数の各々について個別に設定することができる。なお、図10に示すように、複数の変数について、プラント構成機器の部品交換周期に基づいて上述の規定長さの時間を設定する場合、部品交換周期(即ち上述の規定長さの時間)は、部品の種類等に応じて異なっていてもよい。
【0061】
プラントの状態を示す複数の変数のデータには、該変数に関連するプラント構成機器の部品交換周期で変動するものが含まれる場合がある。この点、上述の実施形態によれば、によれば、第1期間T1及び第2期間T2に対応する1年前の期間(第3期間T3及び第4期間T3)に取得された上述の少なくとも1つの変数(Va)についてのデータ、及び、第1期間T1及び第2期間T2に対応する部品交換周期分前の期間(第3期間T3及び第4期間T4)に取得された上述の少なくとも他の1つの変数(Vb)についてのデータを含む第3データ及び第4データを用いて、第2データを予測する。したがって、複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータについて、各変数(Va及びVb)それぞれの特性に応じた周期(季節的な周期(即ち1年周期)又は部品交換周期)での変動を加味して第2データをより精度良く予測することができる。
【0062】
幾つかの実施形態では、ステップS6において、第3期間T3と第4期間T4との間での複数の変数のデータの変化、又は、第3期間T3と第1期間T1との間での複数の変数のデータの変化を示す値を用いて、上述の第2データを予測する。ここで、2つの期間の間での複数の変数のデータの変化を示す値は、例えば、該2つの期間のデータのそれぞれの代表値(平均値等)の差分等であってもよい。
【0063】
第3期間T3と第4期間T4との間のデータの変化は、第1期間T1と第2期間T2との間のデータの変化に対応する。この点、上述の実施形態では、第3期間T3と第4期間T4との間でのデータの変化を示す値を用いて、第1期間T1における第1データに基づいて第2期間T2における第2データを適切に予測することができる。あるいは、第3期間T3と第1期間T1との間のデータの変化は、第4期間T4と第2期間T2との間のデータの変化に対応する。この点、上述の実施形態では、第3期間T3と第1期間T1との間でのデータの変化を示す値を用いて、第4期間T4における第4データに基づいて第2期間T2における第2データを適切に予測することができる。
【0064】
幾つかの実施形態では、ステップS6において、複数の変数(V1,V2,…,Vn)のうちの一の変数(ここではVaとする)について、変数Vaについての第4データの平均mと第3データの平均mとの差分(m-m)に基づく値を、変数Vaについての第1データに加算して変数Vaについての第2データを得る。
【0065】
このように、第3期間T3と第4期間T4との間でのデータの変化を示す値として、第4データの平均mと第3データの平均mとの差分(m-m)に基づく値を用い、該値を第1期間T1における第1データに加算することで、第2データを適切に予測することができる。
【0066】
なお、変数Vaについての第1データをdとし、変数Vaについての第2データをdとすると、第2データdは、例えば下記式(a)で表したものであってもよい。
=d+(m-m) …(a)
【0067】
幾つかの実施形態では、上述の差分(m-m)を変数Vaについての第3データの標準偏差σで除した値に、変数Vaについての第1データの標準偏差σを乗じた値を、変数Vaについての第1データに加算して、変数Vaについての第2データを得る。この場合、変数Vaについての第1データをdとし、変数Vaについての第2データをdとすると、第2データdは、下記式(A)で表すことができる。
=d+(m-m)/σ×σ …(A)
【0068】
このように、第4データの平均mと第3データの平均mとの差分(m-m)を、第3データの標準偏差σで除するとともに第1データの標準偏差σを乗じることで補正したもの(即ち、上記差分(m-m)を、第1データの標準偏差σと第3データの標準偏差σとの比で補正したもの)を第1データdに加算することにより、規定長さの時間(例えば、1年又は部品交換周期)分前からのデータの分布の変化を加味して第2データdを得ることができる。よって、このように得られる第2データdを用いて作成された単位空間に基づき算出されるマハラノビス距離を用いることで、より精度良くプラントの異常検知をすることができる。また、σ≒σと仮定して、計算を簡略化しても良い。
【0069】
幾つかの実施形態では、ステップS6において、複数の変数(V1,V2,…,Vn)のうちの一の変数(ここではVaとする)について、変数Vaについての第1データの平均mと第3データの平均mとの差分(m-m)に基づく値を、変数Vaについての第4データに加算して変数Vaについての第2データを得る。
【0070】
このように、第3期間T3と第1期間T1との間でのデータの変化を示す値として、第1データの平均mと第3データの平均mとの差分(m-m)に基づく値を用い、該値を第4期間T4における第4データに加算することで、第2データを適切に予測することができる。
【0071】
なお、変数Vaについての第4データをdとし、変数Vaについての第2データをdとすると、第2データdは、例えば下記式(b)で表したものであってもよい。
=d+(m-m) …(b)
【0072】
幾つかの実施形態では、上述の差分(m-m)を、変数Vaについての第3データの標準偏差σで除した値に変数Vaについての第4データの標準偏差σを乗じた値を、変数Vaについての第4データに加算して、変数Vaについての第2データを得る。この場合、変数Vaについての第4データをdとし、変数Vaについての第2データをdとすると、第2データdは、下記式(B)で表すことができる。
=d+(m-m)/σ×σ …(B)
【0073】
このように、第1データの平均mと第3データの平均mとの差分(m-m)を、第3データの標準偏差σで除するとともに第4データの標準偏差σを乗じることで補正したもの(即ち、上記差分(m-m)を、第4データの標準偏差σと第3データの標準偏差σとの比で補正したもの)を第4データdに加算することにより、直前の期間からのデータの分布の変化を加味して第2データdを得ることができる。よって、このように得られる第2データdを用いて作成された単位空間に基づき算出されるマハラノビス距離を用いることで、より精度良くプラントの異常検知をすることができる。また、σ≒σと仮定して、計算を簡略化しても良い。
【0074】
幾つかの実施形態では、ステップS8で作成される単位空間を構成する第1データの数は、該単位空間を構成する第2データの数よりも多い。すなわち、ステップS8において、単位空間を構成する第1データの数が、該単位空間を構成する第2データの数よりも多くなるように、第1データ及び第2データの中から、単位空間を構成するデータを選択する。
【0075】
上述の実施形態では、単位空間を構成するデータのうち、実測データに基づく第1データの数が、予測データである第2データの数よりも多いので、該単位空間に基づき算出されるマハラノビス距離に基づく異常検知の信頼性が良好となる。
【0076】
幾つかの実施形態では、ステップS8において、第2データのうち、単位空間の作成に用いるデータを、例えば乱数を用いて、ランダムに選択する。そして、ランダムに選択された第2データと、第1データの少なくとも一部とを用いて単位空間を作成する。
【0077】
上述の実施形態によれば、ステップS6で予測された第2データのうち、ランダムに選択された一部のデータと、第1データの少なくとも一部とを用いて、単位空間を適切に作成することができる。
【0078】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0079】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント監視方法は、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視方法であって、
現時点に至るまでの過去の第1期間(T1)の前記データである第1データを取得するステップ(S2)と、
現時点以後の第2期間(T2)の前記データである第2データを予測する予測ステップ(S6)と、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間を作成する単位空間作成ステップ(S8)と、を備え、
前記予測ステップでは、前記第1期間を規定長さの時間分過去にシフトさせた第3期間(T3)の前記データである第3データ、前記第2期間を前記規定長さの時間分過去にシフトさせた第4期間(T4)の前記データである第4データ、及び、前記第1データに基づいて、前記第2データを予測する。
【0080】
プラントの状態を示す複数の変数についての計測データ(例えば温度や圧力等)には、規定長さの時間毎に周期的に変動するものが含まれる。また、第1期間とこれに続く第2期間との間でのデータの変動は、規定長さの時間分前の過去の期間であって第1期間に対応する第3期間と、第2期間に対応する第4期間との間でのデータの変動に対応する。この点、上記(1)の方法では、第1期間及びこれに続く第2期間にそれぞれ対応する規定長さの時間分前の過去の期間(第3期間及び第4期間)に取得された第3データ及び第4データ、並びに、第1期間に取得された第1データに基づいて、複数の変数のデータの周期的な変動を加味して第2データを予測することができる。そして、このように予測された第2データ、及び、実測値に基づく第1データを併せて用いることで、複数の変数のデータの周期的な変動を加味した単位空間を作成することができる。よって、このように作成された単位空間に基づき算出されるマハラノビス距離を用いることで、精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0081】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記第3データは、前記複数の変数の各々についてそれぞれ定められた前記規定長さの時間分前記第1期間をそれぞれ過去にシフトさせた前記第3期間の前記変数のデータの集合であり、
前記第4データは、前記複数の変数の各々についてそれぞれ定められた前記規定長さの時間分前記第2期間をそれぞれ過去にシフトさせた前記第4期間の前記変数のデータの集合である。
【0082】
プラントの状態を示す複数の変数のデータは、その変数の特性に応じてそれぞれ異なる変動周期を有する場合がある。上記(2)の方法によれば、複数の変数の各々について、第1期間及び第2期間から第3期間及び第4期間までの時間のシフト量(即ち、規定長さの時間)が定められる。すなわち、複数の変数の各々について、該変数のデータの変動周期に応じた規定長さの時間をそれぞれ定義することができるので、各変数の特性に応じた規定長さの時間分前の過去データの集合である第3データ及び第4データを使用することで、第2データの予測精度を向上させることができる。
【0083】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の方法において、
前記複数の変数のうち少なくとも1つの変数について定められた前記規定長さの時間は1年である。
【0084】
プラントの状態を示す複数の変数のデータには、通常、季節に応じて1年周期で変動するものが含まれる。上記(3)の方法によれば、第1期間及び第2期間に対応する1年前の期間(第3期間及び第4期間)に取得された上述の少なくとも1つの変数のついてのデータを含む第3データ及び第4データを用いて、第2データを予測するようにしたので、該変数のデータの季節変動を加味して第2データを精度良く予測することができる。
【0085】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の方法において、
前記複数の変数のうち少なくとも他の1つの変数について定められた前記規定長さの時間は、前記他の1つの変数に関連するプラント構成機器の部品交換周期である。
【0086】
プラントの状態を示す複数の変数のデータには、該変数に関連するプラント構成機器の部品交換周期で変動するものが含まれる場合がある。上記(4)の方法によれば、第1期間及び第2期間に対応する1年前の期間(第3期間及び第4期間)に取得された上述の少なくとも1つの変数についてのデータ、及び、第1期間及び第2期間に対応する部品交換周期分前の期間(第3期間及び第4期間)に取得された上述の少なくとも他の1つの変数についてのデータを含む第3データ及び第4データを用いて、第2データを予測する。したがって、複数の変数のデータについて、各変数それぞれの特性に応じた周期(季節的な周期(即ち1年周期)又は部品交換周期)での変動を加味して第2データをより精度良く予測することができる。
【0087】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかの方法において、
前記予測ステップでは、前記第3期間と前記第4期間との間での前記データの変化、又は、前記第3期間と前記第1期間との間での前記データの変化を示す値を用いて、前記第2データを予測する。
【0088】
第3期間と第4期間との間のデータの変化は、第1期間と第2期間との間のデータの変化に対応する。また、第3期間と第1期間との間のデータの変化は、第4期間と第2期間との間のデータの変化に対応する。上記(5)の方法によれば、第3期間と第4期間との間でのデータの変化を示す値を用いて、第1期間における第1データに基づいて第2期間における第2データを適切に予測することができる。あるいは、上記(5)の方法によれば、第3期間と第1期間との間での前記データの変化を示す値を用いて、第4期間における第4データに基づいて第2期間における第2データを適切に予測することができる。
【0089】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかの方法において、
前記予測ステップでは、前記複数の変数のうちの一の変数について、前記第4データの平均と前記第3データの平均との差分に基づく値を、前記第1データに加算して前記第2データを得る。
【0090】
上記(6)の方法によれば、第3期間と第4期間との間でのデータの変化を示す値として、第4データの平均と第3データの平均との差分に基づく値を用い、該値を第1期間における第1データに加算することで、第2データを適切に取得することができる。
【0091】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)の方法において、
前記差分を前記第3データの標準偏差で除した値に前記第1データの標準偏差を乗じた値を、前記第1データに加算して前記第2データを得る。
【0092】
上記(7)の方法によれば、第4データの平均と第3データの平均との差分を、第3データの標準偏差で除するとともに第1データの標準偏差を乗じることで補正したものを第1データに加算することにより、1年前からのデータの分布の変化を加味して第2データを得ることができる。よって、このように得られる第2データを用いて作成された単位空間に基づき算出されるマハラノビス距離を用いることで、より精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0093】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかの方法において、
前記予測ステップでは、前記複数の変数のうちの一の変数について、前記第1データの平均と、前記第3データの平均との差分に基づく値を、前記第4データに加算して前記第2データを得る。
【0094】
上記(8)の方法によれば、
第3期間と第1期間との間でのデータの変化を示す値として、第1データの平均と第3データの平均との差分に基づく値を用い、該値を第4期間における第4データに加算することで、第2データを適切に取得することができる。
【0095】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)の方法において、
前記差分を前記第3データの標準偏差で除した値に前記第4データの標準偏差を乗じた値を、前記第4データに加算して前記第2データを得る。
【0096】
上記(9)の方法によれば、第1データの平均と第3データの平均との差分を、第3データの標準偏差で除するとともに第4データの標準偏差を乗じることで補正したものを第4データに加算することにより、直前の期間からのデータの分布の変化を加味して第2データを得ることができる。よって、このように得られる第2データを用いて作成された単位空間に基づき算出されるマハラノビス距離を用いることで、より精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0097】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)の何れかの方法において、
前記単位空間を構成する前記第1データの数は、前記単位空間を構成する前記第2データの数よりも多い。
【0098】
上記(10)の方法によれば、単位空間を構成するデータのうち、実測データに基づく第1データの数が、予測データである第2データの数よりも多いので、該単位空間に基づき算出されるマハラノビス距離に基づく異常検知の信頼性が良好となる。
【0099】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(10)の何れかの方法において、
前記第2データのうち、前記単位空間の作成に用いるデータをランダムに選択するステップを備え、
前記単位空間作成ステップでは、前記選択するステップで選択されたデータと、前記第1データの少なくとも一部とを用いて前記単位空間を作成する。
【0100】
上記(11)の方法によれば、予測された第2データのうちランダムに選択された一部のデータと、第1データの少なくとも一部とを用いて、単位空間を適切に作成することができる。
【0101】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント監視装置(40)は、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視装置であって、
現時点に至るまでの過去の第1期間(T1)の前記データである第1データを取得するように構成された取得部(42)と、
現時点以後の第2期間(T2)の前記データである第2データを予測するように構成された予測部(44)と、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間を作成するように構成された単位空間作成部(46)と、を備え、
前記予測部は、前記第1期間を規定長さの時間分過去にシフトさせた第3期間(T3)の前記データである第3データ、前記第2期間を前記規定長さの時間分過去にシフトさせた第4期間(T4)の前記データである第4データ、及び、前記第1データに基づいて、前記第2データを予測するように構成される。
【0102】
プラントの状態を示す複数の変数についての計測データ(例えば温度や圧力等)には、規定長さの時間毎に周期的に変動するものが含まれる。また、第1期間とこれに続く第2期間との間でのデータの変動は、規定長さの時間分前の過去の期間であって第1期間に対応する第3期間と、第2期間に対応する第4期間との間でのデータの変動に対応する。この点、上記(12)の構成では、第1期間及びこれに続く第2期間にそれぞれ対応する規定長さの時間分前の過去の期間(第3期間及び第4期間)に取得された第3データ及び第4データ、並びに、第1期間に取得された第1データに基づいて、複数の変数のデータの周期的な変動を加味して第2データを予測することができる。そして、このように予測された第2データ、及び、実測値に基づく第1データを併せて用いることで、複数の変数のデータの周期的な変動を加味した単位空間を作成することができる。よって、このように作成された単位空間に基づき算出されるマハラノビス距離を用いることで、精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0103】
(13)本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント監視プログラムは、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視プログラムであって、
コンピュータに、
現時点に至るまでの過去の第1期間(T1)の前記データである第1データを取得する手順と、
現時点以後の第2期間(T2)の前記データである第2データを予測する手順と、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる単位空間を作成する手順と、を実行させ、
前記第2データを予測する手順では、前記第1期間を規定長さの時間分過去にシフトさせた第3期間(T3)の前記データである第3データ、前記第2期間を前記規定長さの時間分過去にシフトさせた第4期間(T4)の前記データである第4データ、及び、前記第1データに基づいて、前記第2データを予測する。
【0104】
プラントの状態を示す複数の変数についての計測データ(例えば温度や圧力等)には、規定長さの時間毎に周期的に変動するものが含まれる。また、第1期間とこれに続く第2期間との間でのデータの変動は、規定長さの時間分前の過去の期間であって第1期間に対応する第3期間と、第2期間に対応する第4期間との間でのデータの変動に対応する。この点、上記(13)の構成では、第1期間及びこれに続く第2期間にそれぞれ対応する規定長さの時間分前の過去の期間(第3期間及び第4期間)に取得された第3データ及び第4データ、並びに、第1期間に取得された第1データに基づいて、複数の変数のデータの周期的な変動を加味して第2データを予測することができる。そして、このように予測された第2データ、及び、実測値に基づく第1データを併せて用いることで、複数の変数のデータの周期的な変動を加味した単位空間を作成することができる。よって、このように作成された単位空間に基づき算出されるマハラノビス距離を用いることで、精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0105】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0106】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0107】
10 ガスタービン
12 圧縮機
14 燃焼器
15 ロータ
16 タービン
18 発電機
30 計測部
32 記憶部
40 プラント監視装置
42 データ取得部
44 予測部
46 単位空間作成部
48 マハラノビス距離算出部
50 異常判定部
60 表示部
A 領域
T1 第1期間
T2 第2期間
T3 第3期間
T4 第4期間
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10